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特開2024-45559圧力損失の推定方法、圧力損失を制御するための反応方法、圧力損失推定導出装置、圧力損失推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045559
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】圧力損失の推定方法、圧力損失を制御するための反応方法、圧力損失推定導出装置、圧力損失推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/02 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B01J8/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021295
(22)【出願日】2024-02-15
(62)【分割の表示】P 2019061838の分割
【原出願日】2019-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2018164939
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・第48回石油・石油化学討論会(創立60周年記念東京大会)講演要旨、第129頁、発行日:平成30年10月17日 ・第48回石油・石油化学討論会(創立60周年記念東京大会)、開催日:平成30年10月17日 ・第44回精製パネル討論会、開催日:平成31年2月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 千絵
(72)【発明者】
【氏名】出井 一夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正樹
(57)【要約】
【課題】反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における、反応器内の圧力損失の経時変化を精度よく推定する方法の提供。
【解決手段】任意の反応経過時tx-1から反応経過時Tの間(t-tx-1)に反応器に流入する流体中の不純物総量SIN、及び反応器から流出する生成物中の不純物総量SOUTを取得するステップと、反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率εx-1から、反応経過時tにおける反応器内の固体触媒層の空隙率εを式(1)により導出するステップと、を有し、反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、流体の密度ρ、及びεを圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出し、ΔPcalを式(2)に代入し、反応経過時tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを求める。
[数1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失の推定方法であって、
前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得するステップと、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップと、
取得したSIN及びSOUTを下記式(1)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップと、を有し、
取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出し、
得られたΔPcalを下記式(2)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを求めることを特徴とする反応器内の圧力損失の推定方法であって、
前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式は、前記流体が気体又は液体の1相の場合、Ergun式、Blake・Kozeny式、Burke・Plummer式、Kozeny・Carman式、又はFanning式であり、前記流体が気体及び液体の2相の場合、Ergun・Larkins式である、反応器内の圧力損失の推定方法。
【数1】
(式(1)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。
【数2】
(式(2)中、σはチューニングファクターである。)
α及びσは、任意の反応経過時における前記式(1)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)により導出された圧力損失の推定値と、圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値である、又は
σは、充填時(反応開始時)の固体触媒層の空隙率εを使用して、反応開始初期において、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式及び前記式(2)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、αは、前記設定されたσを使用して、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時において、前記式(1)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、
前記反応開始初期とは、反応開始時~前記反応開始初期の間に前記反応器に流入した流体の総容積(Vflow)と固体触媒層の充填容積(Vcat)との比であるVflow/Vcatが100以下である反応経過時である。
【請求項2】
さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、
前記Tt(x)と、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始める温度であるコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(1)に代えて、下記式(1-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する請求項1に記載の反応器内の圧力損失の推定方法。
【数3】
(式(1-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
【請求項3】
固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失を制御するための反応方法であって、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップと、
取得したSIN及びSOUTを下記式(3)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップと、を有し、
所期の前記反応器内の圧力損失ΔPを下記式(4)に代入し、ΔPcalを導出し、
得られたΔPcal及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、
前記圧力損失を計算する式が成立するように流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを調整して反応を行うことを特徴とする反応器内の圧力損失を制御するための反応方法であって、
前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式は、前記流体が気体又は液体の1相の場合、Ergun式、Blake・Kozeny式、Burke・Plummer式、Kozeny・Carman式、又はFanning式であり、前記流体が気体及び液体の2相の場合、Ergun・Larkins式である、反応器内の圧力損失を制御するための反応方法。
【数4】
(式(3)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。)
【数5】
(式(4)中、σはチューニングファクターである。)
α及びσは、任意の反応経過時における前記式(3)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(4)により導出された圧力損失の推定値と、圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値である、又は
σは、充填時(反応開始時)の固体触媒層の空隙率εを使用して、反応開始初期において、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式及び前記式(4)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、αは、前記設定されたσを使用して、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時において、前記式(3)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(4)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、
前記反応開始初期とは、反応開始時~前記反応開始初期の間に前記反応器に流入した流体の総容積(Vflow)と固体触媒層の充填容積(Vcat)との比であるVflow/Vcatが100以下である反応経過時である。
【請求項4】
さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、
前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(3)に代えて、下記式(3-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する請求項3に記載の反応器内の圧力損失を制御するための反応方法。
【数6】
(式(3-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
【請求項5】
固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失推定導出装置であって、
前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得する流体情報取得部と、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得する不純物情報取得部と、
取得したSIN及びSOUTを下記式(5)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部と、
取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出するΔPcal導出部と、
得られたΔPcalを下記式(6)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する圧力損失の推定値導出部と、
前記圧力損失の推定値ΔPsimを出力する出力部と、
を有することを特徴とする圧力損失推定導出装置であって、
前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式は、前記流体が気体又は液体の1相の場合、Ergun式、Blake・Kozeny式、Burke・Plummer式、Kozeny・Carman式、又はFanning式であり、前記流体が気体及び液体の2相の場合、Ergun・Larkins式である、圧力損失推定導出装置。
【数7】
(式(5)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。)
【数8】
(式(6)中、σはチューニングファクターである。)
α及びσは、任意の反応経過時における前記式(5)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(6)により導出された圧力損失の推定値と、圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値である、又は
σは、充填時(反応開始時)の固体触媒層の空隙率εを使用して、反応開始初期において、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式及び前記式(6)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、αは、前記設定されたσを使用して、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時において、前記式(5)、前記反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(6)により導出された圧力損失の推定値と、前記反応開始初期より後の任意の反応経過時における圧力損失の実測値と、が同じになるように設定された値であり、
前記反応開始初期とは、反応開始時~前記反応開始初期の間に前記反応器に流入した流体の総容積(Vflow)と固体触媒層の充填容積(Vcat)との比であるVflow/Vcatが100以下である反応経過時である。
【請求項6】
さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得する温度情報取得部を有し、
前記Tt(x)と、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始める温度であるコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部において、前記式(5)に代えて、下記式(5-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及びTt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する請求項5に記載の圧力損失推定導出装置。
【数9】
(式(5-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
【請求項7】
コンピュータを、請求項5又は6に記載の圧力損失推定導出装置の前記流体情報取得部における流体情報取得手段、前記不純物情報取得部における不純物情報取得手段、前記空隙率導出部における空隙率導出手段、前記ΔPcal導出部におけるΔPcal導出手段、前記圧力損失の推定値導出部における圧力損失の推定値導出手段、及び前記出力部における出力手段として機能させるための圧力損失推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体及び/又は液体の流体を固体触媒が充填された反応器に流通させて反応を行う固定床流通式反応における、圧力損失の推定方法、圧力損失を制御するための反応方法、圧力損失推定導出装置、圧力損失推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体触媒を充填した反応器に、気体及び/又は液体の反応物を流通させる反応方法は、固定床流通式反応として知られている。固定床流通式反応の反応器において、反応物を含む流体の流れは、固体触媒層からの抵抗により損失する。この損失を圧力の次元で表して圧力損失という。
【0003】
通常、固定床流通式反応に用いられる反応器にはその材質、構造等により、耐圧の上限値が定まっており、前記上限値に達しないように、反応器内の圧力を常にモニタリングする必要がある。すなわち、反応器内の圧力が、反応器の耐圧の上限値に達する前に反応を停止しなくてはならない。特に圧力損失が急上昇した場合などは、緊急に反応を停止しなければならないこともあり、その場合、操業計画等に大きな悪影響を与えることになる。そのため、安定的な操業の観点から、圧力損失の経時変化を推定する方法に対するニーズは高い。
【0004】
流体中に不純物が含まれていると、不純物が固体触媒層へ堆積することがある。また、流体が炭素元素を含む化合物を含む場合には、反応器内でコークが生成し、コークが固体触媒層へ堆積することもある。不純物、コーク等が固体触媒層に堆積すると、固体触媒層の空隙が徐々に閉塞する。このことが、固定床流通式反応における圧力損失の上昇の要因の1つであると考えられている。
【0005】
流体が気体又は液体の1相の場合の圧力損失を計算するための式の一つとしては、Ergun式等がよく知られている。Ergun式は層流域から乱流域までを含めた適用範囲の広い式であり、古くからよく用いられている(非特許文献1)。また、Ergun式を流体が気体及び液体の2相系に拡大した場合の圧力損失を計算する式も数多く提案されており、そのような式の一つとしてErgun・Larkins式が知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ergun, S., Chem. Eng. Prog., 48-2 (1952), 89-94.
【非特許文献2】R. P. LARKINS et al., “Two-Phase Concurrent Flow in Packed Beds”, A. I. Ch. E. Journal, (1961) Vol. 7, No. 2, 231-239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ergun式、Ergun・Larkins式等はともに、反応器内の固体触媒層の空隙率、流体の密度、流体の粘度、流体の線速度等の必要なパラメータを式に代入することにより圧力損失の推定値を導出する式である。
【0008】
しかしながら、Ergun式、Ergun・Larkins式等から圧力損失の推定値を導出するために必要な全パラメータを、反応を行いながら経時的に取得することは困難である。したがって、圧力損失の経時変化の推定を精度よく行うことは実質的に不可能である。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における、反応器内の圧力損失の経時変化を精度よく推定する方法、反応器内の圧力損失を制御するための反応方法、圧力損失推定導出装置、及び圧力損失推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失の推定方法であって、
前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得するステップと、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップと、
取得したSIN及びSOUTを下記式(1)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップと、を有し、
取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出し、
得られたΔPcalを下記式(2)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを求めることを特徴とする反応器内の圧力損失の推定方法。
【0011】
【数1】
(式(1)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。)
【0012】
【数2】
(式(2)中、σはチューニングファクターである。)
[2] さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、
前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(1)に代えて、下記式(1-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する[1]に記載の反応器内の圧力損失の推定方法。
【0013】
【数3】
(式(1-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
[3] 固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失を制御するための反応方法であって、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップと、
取得したSIN及びSOUTを下記式(3)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップと、を有し、
所期の前記反応器内の圧力損失ΔPを下記式(4)に代入し、ΔPcalを導出し、
得られたΔPcal及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、
前記圧力損失を計算する式が成立するように流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを調整して反応を行うことを特徴とする反応器内の圧力損失を制御するための反応方法。
【0014】
【数4】
(式(3)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。)
【0015】
【数5】
(式(4)中、σはチューニングファクターである。)
[4] さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、
前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(3)に代えて、下記式(3-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する[3]に記載の反応器内の圧力損失を制御するための反応方法。
【0016】
【数6】
[5] 固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失推定導出装置であって、
前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得する流体情報取得部と、
前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得する不純物情報取得部と、
取得したSIN及びSOUTを下記式(5)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部と、
取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出するΔPcal導出部と、
得られたΔPcalを下記式(6)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する圧力損失の推定値導出部と、
前記圧力損失の推定値ΔPsimを出力する出力部と、
を有することを特徴とする圧力損失推定導出装置。
【0017】
【数7】
(式(5)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。)
【0018】
【数8】
(式(6)中、σはチューニングファクターである。)
[6] さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得する温度情報取得部を有し、
前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部において、前記式(5)に代えて、下記式(5-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及びTt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する[5]に記載の圧力損失推定導出装置。
【0019】
【数9】
(式(5-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
[7] コンピュータを、[5]又は[6]に記載の圧力損失推定導出装置の各部として機能させるための圧力損失推定プログラム。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る圧力損失の推定方法は、反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における、反応器内の圧力損失の経時変化を精度よく推定する方法、反応器内の圧力損失を制御するための反応方法、圧力損失推定導出装置、及び圧力損失推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る反応器内の圧力損失の推定値を求めるときのフローを示す図である。
図2】一実施形態に係る反応器内の圧力損失の推定値を求めるときのフローを示す図である。
図3】一実施形態に係る圧力損失推定導出装置の構成ブロック図である。
図4】重質炭化水素の水素化処理反応における圧力損失の実測値の経時変化及び一実施形態の圧力損失の推定方法により得られた推定値の経時変化を示す図である。
図5】重質炭化水素の水素化処理反応における圧力損失の実測値の経時変化及び一実施形態の圧力損失の推定方法により得られた推定値の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0023】
<圧力損失の推定方法>
本実施形態の圧力損失の推定方法は、固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失の推定方法であって、前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得するステップ(図1のS1A)と、前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップ(図1のS1B)と、取得したSIN及びSOUTを下記式(1)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップ(図1のS1B-1)と、を有し、取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出し(図1のS2)、得られたΔPcalを下記式(2)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを求める(図1のS3)ことを特徴とする。
【0024】
【数10】
【0025】
前記式(1)中、εx-1は、反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターである。αの設定方法については後述する。
【0026】
【数11】
【0027】
前記式(2)中、σはチューニングファクターである。σの設定方法については後述する。
【0028】
固定床流通式反応においては、反応時間の経過とともに反応器内の固体触媒層にスケールが蓄積し、固体触媒層の空隙率が減少する。主要なスケールの形成要因としては、反応物を含む流体に含まれる金属化合物を代表とする不純物の固体触媒層への堆積が挙げられる。前記式(1)においては、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTの差である(SIN-SOUT)を計算することにより(SIN-SOUT)量の不純物が固体触媒層に堆積し、反応器内の固体触媒層の空隙率を減少させるものと考える。
【0029】
前記SINは、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)における、前記反応器に流入する前の流体中の不純物濃度(単位は例えばppm)を測定し、その間に反応器に流入した流体の総量(単位は例えばkg)との積を計算することにより得ることができる。また、前記SOUTは、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)における、前記反応器から流出した後の流体中の不純物濃度(単位は例えばppm)を測定し、その間に反応器から流出した流体の総量(単位は例えばkg)との積を計算することにより得ることができる。反応器に流入した流体中及び反応器から流出した流体中の不純物濃度は、反応経過時tx-1からtの間(t-tx-1)に1回以上取得すればよく、2回以上取得した場合は、それらの平均値を使用することができる。
【0030】
反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されている場合の前記反応経過時tにおける各固体触媒層の空隙率εx(n)は例えば、下記式(1-A)により導出することができる(εx(n)導出方法(1))。
【0031】
【数12】
【0032】
前記式(1-A)中、nは2以上の整数であり異なる固体触媒層の数を表す。εx(n)は前記反応経過時tにおける反応器入り口側から第n層目の固体触媒層の空隙率、εx-1(n)は、前記反応経過時tx-1における反応器入り口側から第n層目の固体触媒層の空隙率、α(n)は反応器入り口側から第n層目の固体触媒層のチューニングファクター、R(n)は反応器入り口側から第n層目の固体触媒層の固体触媒層比率であり、R(1)~R(n)の和は1となる。SIN及びSOUTは上記と同様である。
【0033】
本発明において、固体触媒層比率R(n)は、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTの差である(SIN-SOUT)のうち、前記複数の異なる固体触媒層それぞれにどれだけの量が堆積したかを按分するための係数である。
【0034】
反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されている場合の前記反応経過時tにおける各固体触媒層の空隙率εx(n)は例えば、下記式(1-B)によっても導出することができる(εx(n)導出方法(2))。
【数13】
【0035】
前記式(1-B)中、nは2以上の整数であり異なる固体触媒層の数を表す。εx(n)は前記反応経過時tにおける反応器入り口側から第n層目の固体触媒層の空隙率、εx-1(n)は、前記反応経過時tx-1における反応器入り口側から第n層目の固体触媒層の空隙率、αconstはチューニングファクターであり、SIN及びSOUTは上記と同様である。εx(n)導出方法(2)においては、n層の固体触媒層の空隙率をそれぞれ導出する上で、同じαconstを使用し、かつ前記固体触媒層比率を使用しないため、εx(n)導出方法(1)よりも簡便に圧力損失を推定することができる。
【0036】
本発明においては、反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されている場合、より簡便に圧力損失を推定できる観点から、前記εx(n)導出方法(2)を採用することが好ましい。
【0037】
本明細書において「不純物」とは、反応器入り口においては目的としている化学反応の反応物以外の物質、反応器出口においては前記反応器入り口における「不純物」由来の物質を意味する。また、窒素ガス等、一般に化学反応において不活性な物質に関しては測定する必要はない。目的とする化学反応に応じて、固体触媒層に堆積する不純物を適宜選定し、前記物質のみを測定すればよい。
流体中の不純物濃度の測定方法は、不純物、及び流体の種類によって本分野で公知の方法を採用することができ、例えば、誘導結合プラズマ質量分析計ICP-MS、ICP-OES、ICP-AES、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、蛍光X線分析等が例として挙げられる。
また、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に反応器に流入した流体の総量、及び反応器から流出した流体の総量は、流量計、原料タンク及び生成物タンクの液面レベル変化等により得ることができる。また、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に反応器に流入した流体の総量、及び反応器から流出した流体の総量はマスフローコントローラー、コントロールバルブ、ポンプ、コンプレッサー等で制御を行い所期の量とすることもできる。
【0038】
前記式(1)中の反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率εx-1は、例えば反応経過時tx-1よりさらに前の別の任意の反応経過時tx-2における反応器内の固体触媒層の空隙率εx-2、及び前記反応経過時tx-2から前記反応経過時tx-1の間に反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを前述の方法で測定し、前記式(1)に代入することにより導出することができる。すなわち、反応開始時の反応器内の固体触媒層の空隙率であるεが既知であれば、その後は、上記式(1)を繰り返し適用することにより、反応器内の固体触媒層の空隙率εの経時変化を取得することができる。
【0039】
反応開始時の反応器内の固体触媒層の空隙率εは、例えば、固体触媒層の充填密度BD(単位は例えば、kg/m)、充填されている固体触媒の真密度ρcat(単位は例えば、kg/m)、及び充填されている固体触媒の細孔容積PV(単位は例えばm/kg)をそれぞれ測定し、ε=1-(BD×(1/ρcat+PV))を計算することにより取得することができる。
また、固体触媒層の充填密度BDは、固体触媒層の充填容積Vcat(単位は例えば、m)、及び固体触媒の充填重量Wcat(単位は例えば、kg)より、BD=Wcat/Vcatを計算することにより取得することができる。
固体触媒層の充填容積Vcatは、固体触媒層の層高(単位は例えば、m)と反応器(例えば、円柱状の管型反応器)の断面積(単位は例えば、m)を乗じることによって得ることができる。固体触媒層の層高の測定方法については後述する。
固体触媒の真密度ρcatは、本分野において公知の方法により測定することができ、例えばピクノメーター法による測定により取得することができる。ピクノメーター法は、アルキメデスの原理に基づく測定方法であり、測定手段として液相法と気相法がある。
固体触媒の細孔容積PVは、水銀圧入法、ガス(窒素ガス等)吸着法により取得することができる。
【0040】
(チューニングファクターα(αconst)、σの設定方法1)
反応器内に単一の固体触媒層が形成されている場合、前記式(1)におけるチューニングファクターα及び前記式(2)におけるチューニングファクターσは、例えば以下の方法により設定することができる(α、σの設定方法1)。
任意の反応経過時tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。このとき、α、σが定まっていないため、ΔPsimはα及びσの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにα、σの値を設定することができる。
【0041】
反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されており、各固体触媒層の空隙率εx(n)を前記εx(n)導出方法(2)により導出する場合、前記式(1-B)におけるチューニングファクターαconst及び前記式(2)におけるチューニングファクターσは、例えば以下の方法により設定することができる(αconst、σの設定方法1)。
任意の反応経過時tにおける反応器内の各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を前記式(1-B)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式より導出する(nは2以上の整数であり異なる固体触媒層の数を表す。以下同様である)。このとき、ΔPcal(n)はαconstの関数となる。続いて、各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalをαconstの関数として得る。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する。このとき、αconst、σが定まっていないため、ΔPsimはαconst及びσの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにαconst、σの値を設定することができる。
【0042】
前記圧力損失の推定値ΔPsimと前記圧力損失の実測値ΔPとの比較は複数の反応経過時において行い、チューニングファクターα(αconst)及びσを決定することが好ましい。例えば、前記ΔPsimと前記ΔPを任意の15点以上の反応経過時において取得し、それぞれの平均値であるΔPsim(ave)、ΔP(ave)の比率ΔP(ave)/ΔPsim(ave)の値が1に最も近づくようにα(αconst)、σを設定することができる。
【0043】
(チューニングファクターα(αconst)、σの設定方法2)
反応器内に単一の固体触媒層が形成されている場合、チューニングファクターα、σは以下の方法により設定してもよい(α、σの設定方法2)。
反応開始初期tintにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。この際、反応器内の固体触媒層の空隙率として、上述した反応開始時の反応器内の固体触媒層の空隙率εを使用する。この場合、ΔPsimはσの関数となる。
前記反応開始初期tintにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係がΔP=ΔPsimとなるようにσの値を設定することができる。
【0044】
上述の反応開始初期tintにおける反応器内の固体触媒層の空隙率をεとして前記反応開始初期tintよりも後の任意の反応経過時tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。このとき、σはすでに定まっているため、ΔPsimはαの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにαの値を設定することができる。
【0045】
反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されており、各固体触媒層の空隙率εx(n)を前記εx(n)導出方法(2)により導出する場合、前記式(1-B)におけるチューニングファクターαconst及び前記式(2)におけるチューニングファクターσは、以下の方法により設定してもよい(αconst、σの設定方法2)。
反応開始初期tintにおける反応器内の各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式より導出する。この際、反応器内の各固体触媒層の空隙率として、上述した反応開始時の反応器内の各固体触媒層の空隙率ε0(n)を使用する。続いて、各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを得る。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する。この場合、ΔPsimはσの関数となる。
前記反応開始初期tintにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係がΔP=ΔPsimとなるようにσの値を設定することができる。
【0046】
上述の反応開始初期tintにおける反応器内の各固体触媒層の空隙率をε0(n)として前記反応開始初期tintよりも後の任意の反応経過時tにおける反応器内の各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を前記式(1-B)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式より導出する。このとき、ΔPcal(n)はαconstの関数となる。続いて、各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalをαconstの関数として得る。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する。このとき、σはすでに定まっているため、ΔPsimはαconstの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにαconstの値を設定することができる。
【0047】
本明細書において、α(αconst)、σの設定方法2における反応開始初期とは、反応開始~前記反応開始初期の間に反応器に流入した流体の総容積(Vflow)と固体触媒層の充填容積(Vcat)との比であるVflow/Vcatが100以下となるような反応経過時を意味する。上述の関係が成り立つような反応開始初期においては、固体触媒層に不純物はほとんど堆積していないことから、反応器内の固体触媒層の空隙率としてεを近似的に使用することにより、σとα(αconst)を段階的に、かつ一義的に決定することができる。
【0048】
なお、反応器を複数備える多管式反応器で反応行う場合は、各反応器ごとにチューニングファクターα(αconst)及びσを設定することが好ましい。
【0049】
<流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式>
流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式としては、本分野において公知の式を使用することができ、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失を計算する式としてはErgun式、Blake・Kozeny式、Burke・Plummer式、Kozeny・Carman式、Fanning式等が例として挙げられ、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失を計算する式としてはErgun・Larkins式、Lockhart・Martinelli式等が例として挙げられるがこれらに限定されない。
以下、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失を計算する式としてErgun式を、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失を計算する式としてErgun・Larkins式を説明するが、本発明はこれらの式に限定されるものではない。
【0050】
<Ergun式>
固定床流通式反応において、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失の計算値は、下記式(7)で表わされるErgun式により導出することができる。本実施形態においてはErgun式により求められる反応器内の圧力損失の計算値をΔP1calとする。
【0051】
【数14】
【0052】
前記式(7)中、a、b、mはErgun式における定数、εは反応器内の固体触媒層の空隙率、μは流体の粘度[kg/ms]、uは流体の線速度[m/s]、ρは流体の密度[kg/m]、dpは固体触媒を球と仮定した場合の球径[m]、Hは固体触媒の層高[m]である。
【0053】
前記式(7)中のa、b、mは定数であり、経験的に求められている値である。例えば固体触媒が球状の場合a=150、b=1.75、m=3.0とすることができる。例えば、固体触媒が球状でない場合、a=180、b=1.80、m=3.6とすることができる。
【0054】
本実施形態においては、前記式(7)中のεとして、前記式(1)又は後述する式(1-1)により導出したεを使用する。μは反応温度における流体の粘度[kg/ms]であり、流体が気体の場合は、例えばガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果をプロセスシミュレーターに導入し、算出した結果により、流体が液体の場合は、例えばJIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」より得られた結果とJIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により得られた15℃換算の密度を乗じて、温度換算することにより取得することができる。なお、一般的な固定床流通式反応の反応温度においては、気体、液体ともに流体の粘度は反応器内の圧力損失に影響を及ぼすほど変わらないため、一度取得した値を固定値として継続的に使用することができる。ρは反応温度における流体の密度[kg/m]であり、流体が気体の場合は、例えばガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果をプロセスシミュレーターに導入し、算出した結果、組成を一定とみなし、前記組成に相当する密度を温度、圧力補正することにより、流体が液体の場合は、例えばJIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により得られた15℃換算の密度を温度で補正することにより取得することができる。uは反応温度における流体の線速度[m/s]であり、流体の流量[m/s]を反応器(例えば、円柱状の管型反応器)の断面積[m]で除することにより取得することができる。流体の流量は、SIN及びSOUTを取得するステップで説明した方法と同様の方法により取得することができる。
【0055】
dpは固体触媒を球と仮定した場合の球径[m]である。固定床流通式反応に用いられる固体触媒の形状は、その用途に応じ選択されるものであるが、リング形状、円柱形状、タブレット形状、ハニカム形状、三つ葉型、四つ葉型、さらには球状の触媒の形状がよく使用されている。
本実施形態においては、充填されている固体触媒が球状であれば、その球径をdpとすることができる。一方、固体触媒が球状でない場合は、固体触媒を球と仮定した場合の球径を求めることができ、当該径をdpとすることができる。既知文献(Ind.Eng.Chem.Des.Dev.1986,25,1034-1036)に記載のように、例えば円柱であれば式(8-1)、三つ葉型であれば式(8-2)、四つ葉型であれば式(8-3)で求めることができる。
【0056】
【数15】
【0057】
前記式(8-1)~(8-3)中、Lは固体触媒の平均長径[m]、Dは固体触媒の平均短径[m]である。固体触媒の平均長径及び平均短径は例えば50個以上の固体触媒の長径及び短径を測定し、その平均値を採用することができる。
本発明においては、固体触媒のdpは反応開始前に測定し、反応中にdpの値は変化しないものとする。
【0058】
Hは固体触媒の層高[m]である。固体触媒の層高は反応開始前に固体触媒を充填した際に、本分野において公知の方法により測定することができる。固体触媒の層高は、例えば触媒充填時の検尺により測定することができる。
本発明においては、反応中に固体触媒の層高の値は変化しないものとする。
【0059】
以上のパラメータを前記式(7)に代入し、ΔP1calを導出する。そして、得られたΔP1calを前記式(2)のΔPcalに代入することにより、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsim(以下、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失の推定値をΔP1simと表記することがある)を求めることができる。
【0060】
<Ergun・Larkins式>
固定床流通式反応において、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失の計算値は、下記式(9)~(14)で構成されるErgun・Larkins式により導出することができる。本実施形態においてはErgun・Larkins式により求められる反応器内の圧力損失の計算値をΔP2calとする。
【0061】
【数16】
【0062】
前記式(9)中、δは液体のΔPcal/H、δは気体のΔPcal/H、δLGは気液のΔPcal/Hであり、χ=(δ/δ1/2であり、0.05<χ<30である。)
【0063】
【数17】
【0064】
前記式(10)中、Rは液ホールドアップである。
【0065】
【数18】
【0066】
前記式(11)中、ρは気液平均密度、ρは液体の密度、ρは気体の密度、Rは上記と同様である。
【0067】
【数19】
【0068】
Ergun・Larkins式による反応器内の圧力損失の計算値ΔP2calの導出について以下に説明する。
まず、δ及びδを前記Ergun式により、下記の通り導出する(下記式(13)、下記式(14))。
【0069】
【数20】
【0070】
前記式(13)中、a、b、mはErgun式における定数、εは反応器内の固体触媒層の空隙率、μは液体の粘度[kg/ms]、uは液体の線速度[m/s]、ρは液体の密度[kg/m]、dpは固体触媒を球と仮定した場合の球径[m]、Hは触媒の層高[m]である。これらの値の求め方は、Ergun式で説明した通りである。
また、本実施形態においては、前記式(13)中のεとしては、前記式(1)又は後述する式(1-1)により導出したεを使用する。
【0071】
【数21】
【0072】
前記式(14)中、a、b、mはErgun式における定数、εは反応器内の固体触媒層の空隙率、μは気体の粘度[kg/ms]、uは気体の線速度[m/s]、ρは気体の密度[kg/m]、dpは固体触媒を球と仮定した場合の球径[m]、Hは触媒の層高[m]である。これらの値の求め方は、Ergun式で説明した通りである。
また、本実施形態においては、前記式(14)中のεとしては、前記式(1)又は後述する式(1-1)により導出したεを使用する。
【0073】
得られたδ及びδよりχ=(δ/δ1/2を導出する。引き続いて、δ、δ、χを用いて前記式(9)からδLGを、前記式(10)からRを導出する。続いて、得られたRを用いて前記式(11)からρを導出する。得られたδLG及びρを用いて前記式(12)よりΔP2calを導出する。そして、得られたΔP2calを前記式(2)のΔPcalに代入することにより、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsim(以下、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失の推定値をΔP2simと表記することがある)を求めることができる。
【0074】
本発明の圧力損失の推定方法において、反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されている場合は、各固体触媒層における圧力損失の計算値ΔPcal(n)を上述の方法によりそれぞれ導出し、それらを積算することにより、全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを取得することができる。そして、得られたΔPcalを前記式(2)に代入することにより、反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されている場合の反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを求めることができる。
【0075】
本発明の反応器内の圧力損失の推定方法によって得られるΔPsimは、反応器内の圧力損失の実測値をΔPとした時に、ΔP/ΔPsimが平均で0.50以上1.50以下となることが好ましく、0.80以上1.20以下となることがより好ましい。ΔP/ΔPsimの平均は例えば15点以上のΔP/ΔPsimを測定することによって得ることができる。
【0076】
所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れるときには、チューニングファクターαを再設定することが好ましい。所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れる場合は、圧力損失の上昇の要因が、流体中の不純物の固体触媒層への堆積のみではなく、その他の要因によっても起こっていることを示唆するものである。
【0077】
反応器内に単一の固体触媒層が形成されている場合、所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れたときの、チューニングファクターαの再設定は以下のように行うことが好ましい。
所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れた後の任意の反応経過時tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。このとき、前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにαの値を再設定すればよい。
【0078】
反応器内に複数の異なる固体触媒層が形成されており、各固体触媒層の空隙率εx(n)を前記εx(n)導出方法(2)により導出する場合、所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れたときの、チューニングファクターαconstの再設定は以下のように行うことが好ましい。
所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れた後の任意の反応経過時tにおける反応器内の各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を前記式(1-B)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式より導出する。続いて、各固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(n)を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを得る。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する。このとき、前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにαconstの値を再設定すればよい。
【0079】
所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れた後における前記圧力損失の推定値ΔPsimと前記圧力損失の実測値ΔPとの比較は複数の反応経過時において行い、チューニングファクターα(αconst)を再決定することが好ましい。例えば、所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れた後における前記ΔPsimと前記ΔPを任意の15点以上の反応経過時において取得し、それぞれの平均値であるΔPsim(ave)、ΔP(ave)の比率ΔP(ave)/ΔPsim(ave)の値が1に最も近づくようにα(αconst)を再設定することができる。
【0080】
上述した所定期間におけるΔP/ΔPsimの平均値が前記範囲を外れるのは、金属化合物を代表とする反応物を含む流体に含まれる不純物の固体触媒層への堆積に加え、さらに他の要因によっても固体触媒層の空隙率が減少していることを示唆するものである。例えば、流体が炭素元素を含む化合物を含む場合には、反応器内でコークが生成し、コークが固体触媒層へ堆積することにより、固体触媒層の空隙率が減少することがある。
【0081】
本願の発明者らは、上述の反応器内の圧力損失の推定方法を基に、さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップ(図2のS1C)を有し、前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(1)に代えて、下記式(1-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する(図2のS1BC)ことにより、不純物の固体触媒層への堆積に加え、コークの固体触媒層への堆積を考慮した、固体触媒層の空隙率の経時変化、並びに前記空隙率の経時変化による反応器内の圧力損失を推定する方法を新たに見出した。
【0082】
【数22】
(式(1-1)中、Rは気体定数、β、γはチューニングファクターである。)
【0083】
反応経過時tにおける反応温度Tt(x)としては、例えば固体触媒層の最高温度(ホットスポット温度)、固体触媒層の重量平均温度(WABT)、反応器の入口温度、反応器の出口温度、反応器の入口温度と反応器の出口温度の平均温度等を採用することができる、中でも固体触媒層の最高温度を採用することが好ましい。上述の温度は、例えば反応器内の温度計等により取得することができる。
【0084】
前記式(1-1)において、コーキングの閾値Tとは、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始める温度である。コーキングの閾値は、固体触媒の種類、反応物を含む流体の種類、及び前記固体触媒に対する前記流体の液空間速度(LHSV)及び/又はガス空間速度(GHSV)の組み合わせが決まると一義的に決定される。すなわち、上記組み合わせが決まると、Tは一定の値となる。以下にコーキングの閾値Tを取得する方法を説明するが、当該方法は例示であり、Tを取得する方法はこれに限定されるものではない。
【0085】
(コーキングの閾値Tの取得方法1)
上述した通り、コーキングの閾値Tとは、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始める温度である。したがって、固体触媒を経時的に抜出すことが可能な反応の場合は、抜出した固体触媒を元素分析等により分析し、固体触媒中の炭素濃度が、一定値以上となったときの反応温度をTとすることができる。前記一定の値とは、例えば0.05質量%以上が挙げられる。固体触媒の抜出及び元素分析は反応温度5~20℃おきに行うことが好ましく、5~10℃おきに行うことより好ましい。反応温度は上記で説明した通りであり、固体触媒層の最高温度を採用することが好ましい。
本方法においては、コーキングの閾値Tは実機で反応を行いながら取得してもよく、実機よりも小さなスケールのラボ、ベンチスケールにおいて、予め取得してもよい。ラボ、ベンチスケールで予めコーキングの閾値Tの取得する場合、上述したように、固体触媒の種類、反応物を含む流体の種類、及び前記固体触媒に対する前記流体のLHSV及び/又はGHSVを実機での反応条件と同じにすればよい。
実機においては、経時的に触媒を抜出すことが困難であることが多いため、コーキングの閾値Tの取得方法1においては、ラボ、ベンチスケールで予めコーキングの閾値Tを取得することが好ましい。
【0086】
(コーキングの閾値Tの取得方法2)
上述した通り、コークが生成し始めると当該コークが固体触媒層への堆積を始め、固体触媒層の空隙が徐々に閉塞され、圧力損失が上昇する。また、固定床流通式反応において、固体触媒は種々の要因により活性が経時的に低下するため、反応器全体としての活性を一定に保つために反応温度を経時的に上昇させながら反応を行う。
本願の発明者らが、重質炭化水素油の水素化処理反応をモデルに反応温度と、反応器内の圧力損失の実測値との関係を検討したところ、コークが固体触媒層へ堆積していない反応初期において、反応器内の圧力損失の実測値を反応温度に対してプロットすると、y=ax+bで表される直線関係(直線1)が得られることがわかった。前記直線1において、yは反応器内の圧力損失の実測値、xは反応温度、aは傾き、bは切片である。反応温度は上記で説明した通りであり、固体触媒層の最高温度を採用することが好ましく、以下同様である。
【0087】
本願の発明者らが、さらに検討を進めたところ、コークが固体触媒層へ堆積し始めた後において、反応器内の圧力損失の実測値を反応温度に対してプロットすると、当該プロットは前記直線1から大きく上方に外れるということがわかった。
そして、コークが固体触媒層へ堆積し始めた後において、反応器内の圧力損失の実測値を反応温度に対してプロットすると、y=ax+bで表される新たな直線関係(直線2)が得られることがわかった。前記直線2において、yは反応器内の圧力損失の実測値、xは反応温度、aは傾きでありa>aを満たし、bは切片でありb<bを満たす。
すなわち、本願の発明者らは、反応器内の圧力損失の実測値を反応温度に対してプロットしたときに、コークの固体触媒層への堆積開始前後において前記プロットが前記直線1から前記直線2に移行し、前記直線1と前記直線2の交点(直線1から直線2への変曲点)における反応温度としてTを取得可能であることを見出した。
【0088】
上記変曲点の測定方法について具体的に説明を行う。反応開始から、反応器内の圧力損失の実測値と反応温度を経時的に取得し、プロットを行い、直線1をexcel等で求める。例えば反応開始からM点において上記プロットを行い、y=ax+bで表される直線1を求める。Mは正の整数であり、例えば5~350である。続いて、M+1点目における反応温度を直線1の式のxに代入し、y(M+1)を求める。得られたy(M+1)とM+1点目における反応器内の圧力損失の実測値ΔP(M+1)との比率であるΔP(M+1)/y(M+1)を算出する。
前記ΔP(M+1)/y(M+1)が0.8~1.2の時は、前記直線1上のプロットとして判断し、当該プロットも加えて直線1のa、bを計算し直す。M+2点目以降においても同様に計算値と反応器内の圧力損失の比率を算出することを繰り返し、当該比率が0.8~1.2の範囲内の場合は、上述したM+1点目と同様に処理を行う。
【0089】
前記比率が1.2超となったときには、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始め、反応器内の圧力損失の実測値の反応温度に対するプロットが前記直線1から直線2に移行したと判断することができる。前記比率が1.2超となった点以降のN点において、反応器内の圧力損失の実測値と反応温度を経時的に取得し、プロットを行い、y=ax+bで表される直線2をexcel等で求める。Nは正の整数であり、例えば5~350である。
そして、前記直線1と前記直線2の交点を求め、交点におけるxとしてコーキングの閾値Tを取得することができる。
本方法においては、コーキングの閾値Tは実機で反応を行いながら取得してもよく、実機よりも小さなスケールのラボ、ベンチスケールにおいて、予め取得してもよい。ラボ、ベンチスケールで予めコーキングの閾値Tの取得する場合、上述したように、固体触媒の種類、反応物を含む流体の種類、及び前記固体触媒に対する前記流体のLHSV及び/又はGHSVを実機での反応条件と同じにすればよい。
【0090】
コーキングの閾値Tの取得方法2は、固体触媒を抜出す必要がないため、反応を停止する必要がない点でコーキングの閾値Tの取得方法1よりも好ましい。
【0091】
チューニングファクターαは、上述の方法によりTt(x)≦Tにおいて設定した値を、Tt(x)>Tとなった後も引き続き使用することができる。
チューニングファクターβ、γは例えば以下の方法により設定することができる。
【0092】
(チューニングファクターβ、γの設定方法1)
反応温度Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを初めて満たした時の任意の反応経過tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1-1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。このとき、β、γが定まっていないため、ΔPsimはβ、γの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにβ、γの値を設定することができる。
【0093】
前記圧力損失の推定値ΔPsimと前記圧力損失の実測値ΔPとの比較は、反応温度Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを初めて満たした時の任意の反応経過時t以降の複数の反応経過時において行い、チューニングファクターβ及びγを決定することが好ましい。例えば、前記ΔPsimと前記ΔPを任意の15点以上の反応経過時において取得し、それぞれの平均値であるΔPsim(ave)、ΔP(ave)の比率ΔP(ave)/ΔPsim(ave)の値が1に最も近づくようにβ、γを設定することができる。
【0094】
(チューニングファクターβ、γの設定方法2)
反応温度Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを初めて満たした時の任意の反応経過tにおける反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1-1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。このとき、βとして仮の値を設定する。βの仮の値としては0超10以下が例として挙げられ、1であってもよい。
βとして仮の値を使用したことにより、上述の方法によって導出されたΔPsimはγの関数となる。
前記反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるようにγの値を設定することができる。
【0095】
このようにして得られたβ、γを使用し、前記反応経過時tより後の別の任意の反応経過時tx+1における反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを前記式(1-1)、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式、及び前記式(2)より導出する。
【0096】
前記反応経過時tx+1における圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの比率であるΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲を外れるときは、βの仮の値を変更して、再度上述の方法で(反応経過時tにおける圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの関係が、ΔP=ΔPsimとなるように)γの値を設定する。
一方、ΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲内であるときは、当該βとγを使用し、前記反応経過時tx+1より後の別の任意の反応経過時tx+2における反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを上記と同様に導出する。
前記反応経過時tx+2における圧力損失の実測値ΔPと前記ΔPsimとの比率であるΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲を外れるときは、上述と同様にβの仮の値を変更して、再度上述の方法でγの値を設定する。
一方、ΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲内であるときは、当該βとγを使用し、前記反応経過時tx+2より後の別の任意の反応経過時tx+3における反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを上記と同様に導出し、上述の操作を繰り返す。
【0097】
上述の操作を繰り返し、前記反応経過時t以降の15点全てにおいてΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲内となった場合、β、γを確定することができる。
【0098】
<本発明の圧力損失の推定方法の適用例>
本発明の流体が気体及び液体の2相の場合の圧力損失の推定方法の適用例としては、重質炭化水素油の水素化処理反応が好適な例として挙げられる。以下、重質炭化水素油の水素化処理反応における圧力損失の推定方法について説明する。
【0099】
(重質炭化水素油の水素化処理反応)
重質炭化水素油の水素化処理反応は、液体である重質炭化水素油と、気体である水素を反応器に流通させることにより反応を行う流体が液体と気体の2相の固定床流通式反応である。重質炭化水素油中には、金属不純物が含まれており、これらの金属不純物が固体触媒層に堆積することにより圧力損失が経時的に上昇する。重質炭化水素油に含まれる金属不純物に含まれる金属元素としては、Ni、V、Fe、Na、Zn、Al、Ba、Ca、Mg、P、Pb、Mo、Cr、Cd、As、Se、Si等が代表的な例として挙げられる。また、重質炭化水素油の水素化処理反応では、固体触媒の活性の低下に伴い、経時的に反応温度を上げる必要があり、反応温度が一定の値以上となると、コークが発生し、当該コークが固体触媒層への堆積を始め、固定触媒層の空隙を閉塞することが知られている。
【0100】
まず、任意の反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に反応器に流入した重質炭化水素油中の金属不純物総量SIN、及び反応器から流出した重質炭化水素油中の金属不純物総量SOUTを取得する。前記SINは、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)における、反応器に流入する前の重質炭化水素油中の金属不純物濃度(単位は例えばppm)を測定し、その間に反応器に流入した重質炭化水素油の量(単位は例えばkg)との積を計算することにより得ることができる。また、前記SOUTは、前記反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)における、反応器から流出した後の重質炭化水素油中の金属不純物濃度(単位は例えばppm)を測定し、その間に反応器から流出した重質炭化水素油の量(単位は例えばkg)との積を計算することにより得ることができる。
【0101】
金属不純物濃度の測定方法としては、例えばICP-MSが挙げられる。反応器に流入した重質炭化水素油の量、及び反応器から流出した重質炭化水素油の量は、例えば流量計により取得することができる。
【0102】
なお、重質炭化水素油の水素化処理反応に使用される水素には、固体触媒層に堆積する不純物は通常含まれていないため、前記SIN及び前記SOUTを導出するうえで、水素中の不純物濃度を測定する必要はない。
【0103】
得られたSIN及びSOUTを前記式(1)に代入して、前記反応時間tにおける反応器内の固体触媒層の空隙率εを得ることができる。なお、反応開始時の反応器内の固体触媒層の空隙率εは上述の方法で求めることができ、εx-1は、εから前記式(1)を繰り返し適用することにより取得することができる。
【0104】
本実施形態においては、さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップにおいて、前記式(1)に代えて、下記式(1-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及び前記Tt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを得ることが好ましい。
本実施形態において、反応経過時tにおける反応温度Tt(x)は、上述した通りであり、触媒層の最高温度を採用することが好ましい。反応温度は、例えば反応器内の温度計等により取得することができる。
【0105】
重質炭化水素油のδを前記式(13)により導出する。この際、反応器内の固体触媒層の空隙率εとして前記式(1)又は前記式(1-1)により導出したεを使用する。反応温度における重質炭化水素油の粘度μ[kg/ms]は、例えばJIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」より得られた結果とJIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により得られた15℃換算の密度を乗じて、温度換算することにより取得することができる。反応温度における重質炭化水素油の密度ρ[kg/m]は、例えばJIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により得られた15℃換算の密度を温度で補正することにより取得することができる。重質炭化水素油の線速度u[m/s]は、重質炭化水素油の流量[m/s]を反応器(例えば、円柱状の管型反応器)の断面積[m]で除することにより求めることができる。重質炭化水素油の流量は、例えば流量計により取得することができる。
【0106】
水素のδを前記式(14)により導出する。この際、反応器内の固体触媒空隙率εとして前記式(1)又は前記式(1-1)により導出したεを使用する。反応温度における水素の粘度μ[kg/ms]は、例えばガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果をプロセスシミュレーターに導入し、算出した結果により求めることができる。反応温度における水素の密度ρ[kg/m]は、例えばガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果の組成に相当する密度を温度で補正することにより求めることができる。水素の線速度u[m/s]は、水素の流量[m/s]を反応器(例えば、円柱状の管型反応器)の断面積[m]で除することにより求めることができる。水素の流量は、例えばガスメーターにより取得することができる。
【0107】
得られたδ及びδよりχ=(δ/δ1/2を導出する。引き続いて、δ、δ、χを用いて前記式(9)からδLGを、前記式(10)からRを導出する。続いて、得られたRを用いて前記式(11)からρを導出する。そして、得られたδLG及びρを用いて前記式(12)よりΔP2calを導出する。そして、得られたΔP2calを前記式(2)のΔPcalに代入することにより、重質炭化水素油の水素化処理方法における前記反応経過時tの前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsim(ΔP2sim)を求めることができる。
【0108】
重質炭化水素油の水素化処理反応の条件としては、一般に反応温度が300~450℃、好ましくは350~410℃であり、水素分圧が4~20MPa、好ましくは8~15MPaであり、反応器の液空間速度が0.05~5hr-1、好ましくは0.1~2hr-1であり、水素/油比が400~3,000(L/L)、好ましくは500~1,400(L/L)である。
【0109】
重質炭化水素油の水素化処理反応に用いる触媒は、特に限定されるものではなく、本分野で公知の水素化処理触媒を使用することができる。触媒の担体として、種々のものが使用でき、例えばシリカ、アルミナ、ボリア、マグネシア、チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニア、シリカ-ボリア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-チタニア、アルミナ-ボリア、アルミナ-クロミア、チタニア-ジルコニア、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア、シリカ-マグネシア-ジルコニアなど、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの無機酸化物のうち、好ましいものとしては、アルミナ、シリカ-アルミナ、アルミナ-チタニア、アルミナ-ボリア、アルミナ-ジルコニアが挙げられ、特に好ましくは、アルミナが挙げられ、アルミナの中でもγアルミナが特に好ましい。これらの無機酸化物は、1種単体で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
上記担体に活性成分として含有させる金属は、元素周期律表第6族金属及び第8~10族金属の中から選ばれる少なくとも1種類以上の金属を含むもので、好ましくはモリブデン、タングステン、コバルト及びニッケルの金属及びそれを含む化合物である。これらの金属成分は、金属状態又は金属酸化物、金属硫化物の何れの形態でも有効であり、また、イオン交換などにより金属成分が触媒担体と結合した形態で存在してもよい。この金属成分の含有量は、通常、触媒基準かつ酸化物換算で、約10~25質量%の範囲内である。金属含有量が10質量%より少ないと、活性点として働く金属の絶対量が少ないために、脱硫活性を始めとする水素化処理活性(以下、簡単に水素化処理活性と言う)が発現せず、逆に担持される金属の含有量が25質量%より多すぎると、金属の凝集が起こり活性点の数が減少し、その結果、水素化処理活性が却って低下するからである。更に、必要に応じて、元素周期律表第6族金属及び第8族金属からなる活性金属に加えて、リン、ホウ素、亜鉛、ジルコニア等を含ませることができる。
【0111】
固体触媒を充填した反応器に気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応の例として、重質炭化水素油の水素化処理反応を例示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、流体中の不純物を測定することができ、コークが生成する反応であれば、本発明の圧力損失の推定方法を適用することができる。このような反応としては、軽質炭化水素の水素化処理方法等が例として挙げられる。
【0112】
<本発明の圧力損失の推定方法の利用方法>
本発明の圧力損失の推定方法の利用方法としては、例えば、(1)反応運転中の圧力損失の異常上昇の確認、(2)反応を終了すべき時期の推定、(3)運転計画に対して運転期間終了までの圧力損失の推移の推定、(4)運転期間に対して許容圧力損失以下となる運転条件の推定、(5)不純物含有量が上限以下となる原油種の選定等が例として挙げられる。
【0113】
(反応運転中の圧力損失の異常上昇の確認)
本発明の前記式(1)により導出された固体触媒層の空隙率εを使用し、圧力損失の推定方法により得られた圧力損失の推定値ΔPsimと、実測値ΔPが大きく異なる場合(特にΔP/ΔPsim>1.5の場合)、圧力損失の上昇が流体中の不純物の固体触媒層への堆積だけではなく、それ以外の要因によっても圧力損失の上昇が起きていることが示唆される。例えば、コークが生成し、当該コークが固体触媒層への堆積を始め、固体触媒層の空隙が徐々に閉塞されることにより、圧力損失が上昇することがある。この場合、チューニングファクターαを再設定することにより、再度圧力損失の経時変化を推定することができる。チューニングファクターαの再設定方法は上述した通りである。また、前記式(1-1)により導出された固体触媒層の空隙率εを使用し、上述の方法によって圧力損失の推定値ΔPsimを求めてもよい。前記式(1-1)を使用する方法では、チューニングファクターαを変更する必要がないため、上述のチューニングファクターαを再設定する方法よりも好ましい。
【0114】
(反応を終了すべき時期の推定)
本発明の圧力損失の推定方法により得られた圧力損失の推定値を反応時間に対してプロットし、これらのプロットをつないだ圧力損失の推定曲線を作成することにより、反応器に設定されている許容圧力損失に達する反応時間を推定することができ、当該時間を参考に反応を終了すべき時期を決定することができる。また、将来の想定する運転条件、不純物の堆積量等の予測値を上述の式に代入することにより、将来の圧力損失の推定値を反応時間にプロットすることによっても反応器に設定されている許容圧力損失に達する反応時間を推定することができ、当該時間を参考に反応を終了すべき時期を決定することができる。
【0115】
(運転計画に対して運転期間終了までの圧力損失の推移の推定)
本発明の圧力損失の推定方法から得られた圧力損失の推定値と将来の運転条件から運転終了期間までの圧力損失を推定し、これらの運転条件で許容圧力損失以下になることを確認することができる。
【0116】
(運転期間に対して許容圧力損失以下となる運転条件の推定)
本発明の圧力損失の推定方法から得られた圧力損失の推定値と運転期間終了まで許容圧力損失以下となる運転条件(主に流量)を推定することができる。詳細は後述する。
【0117】
(不純物含有量が上限以下となる原油種の選定)
本発明の圧力損失の推定方法から得られた圧力損失の推定値より、運転期間終了まで許容圧力損失以下となるような不純物含有量を推定し、その推定値以下の不純物を含む原油を選定することができる。
【0118】
<圧力損失を制御するための反応方法>
本発明の別の実施形態は、固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失を制御するための反応方法であって、前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得するステップと、取得したSIN及びSOUTを下記式(3)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出するステップと、を有し、所期の前記反応器内の圧力損失ΔPを下記式(4)に代入し、ΔPcalを導出し、得られたΔPcal及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、前記圧力損失を計算する式が成立するように流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを調整して反応を行うことを特徴とする。
【0119】
【数23】
式(3)中、εx-1は、前記反応経過時tx-1における反応器内の固体触媒層の空隙率、αはチューニングファクターであり、前記式(1)と同様である。
【0120】
【数24】
式(4)中、σはチューニングファクターであり、前記式(2)と同様である。
【0121】
すでに説明した圧力損失の推定方法では、流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρ等のパラメータを所定の式に代入し、圧力損失の推定値ΔPsimを導出したが、本実施形態では反対に、所期の圧力損失ΔPを設定し、前記ΔPを所定の式に代入し、前記所定の式が成り立つように流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを調整して反応を行う。所期の圧力損失となるように制御を行うために必要な流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρの条件を得て、当該条件で反応を行う。
【0122】
任意の反応経過時tにおけるε及び反応開始時の反応器内の固体触媒層の空隙率εは、上述の圧力損失の推定方法で説明した場合と同様に前記式(3)により求めることができる。また、チューニングファクターであるα、σは、上述の圧力損失の推定方法で説明した方法と同様に求めることができる。
【0123】
本実施形態においては、さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得するステップを有し、前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときのεは、上述の圧力損失の推定方法で説明した場合と同様に下記式(3-1)により求めることが好ましい。また、コーキングの閾値T、及びチューニングファクターであるβ、γは、上述の圧力損失の推定方法で説明した方法と同様に求めることができる。
【0124】
【数25】
【0125】
(流体が気体又は液体の1相の場合)
流体が気体又は液体の1相の場合の圧力損失を制御するための反応方法について流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式としてErgun式を使用した場合の説明を行う。まず、所期の圧力損失ΔP1を設定し、前記ΔP1を前記式(4)のΔPに代入して、ΔPcal(以下、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失の計算値をΔP1calと表記することがある)を導出する。続いて、前記式(7)で表されるErgun式に前記ΔP1cal、前記式(3)又は前記式(3-1)により導出したε、固体触媒の層高H、固体触媒を球と仮定した場合の球径dpを代入する。
なお、固体触媒の層高H及び固体触媒を球と仮定した場合の球径dpは上述の圧力損失の推定方法で説明した通りである。
【0126】
上記パラメータを代入すると、Ergun式中の変数は、流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρの3つとなる。Ergun式が成り立つようなμ、u、ρの組み合わせを選択し、当該条件において反応を行うことによって、所期の圧力損失ΔP1を達成することができる。
【0127】
化学反応においては、反応物を含む流体の粘度μ、密度ρを大きく変更することは難しい場合が多い。その場合は、前記Ergun式が成り立つようなuを選択して反応を行うことによって所期の圧力損失ΔP1を達成することができる。
【0128】
(流体が気体及び液体の2相の場合)
流体が気体及び液体の2相の場合の圧力損失を制御するための反応方法について流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式としてErgun・Larkins式を使用した場合の説明を行う。まず、所期の圧力損失ΔP2を設定し、前記ΔP2を前記式(4)のΔPに代入して、ΔPcal(以下、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失の計算値をΔP2calと表記することがある)を導出する。続いて、前記式(9)~(14)で構成されるErgun・Larkins式に前記ΔP2cal、前記式(3)又は前記式(3-1)により導出したε、固体触媒の層高H、固体触媒を球と仮定した場合の球径dpを代入する。
なお、固体触媒の層高H及び固体触媒を球と仮定した場合の球径dpは上述の圧力損失の推定方法で説明した通りである。
【0129】
具体的には、前記ΔP2cal、前記Hを前記式(12)に代入、前記ε、前記dpを前記式(13)、(14)に代入する。前記式(9)、(13)、(14)よりδLGを、液体の粘度μ、液体の線速度u、液体の密度ρ、気体の粘度μ、気体の線速度u、気体の密度ρで表される式とする。また、前記式(10)、(11)、(13)、(14)より、ρを、μ、u、ρ、μ、u、ρで表される式とする。これらの式と前記式(12)より、ΔP2calをμ、u、ρ、μ、u、ρで表される式とし、当該式が成り立つようなμ、u、ρ、μ、u、ρの組み合わせを選択し、当該条件において反応を行うことによって、所期の圧力損失ΔP2を達成することができる。
【0130】
上述した通り、化学反応においては、反応物を含む流体の粘度μ、密度ρを大きく変更することは難しい場合が多い。その場合は、前記式が成り立つような液体の線速度u、気体の線速度uを選択して反応を行うことによって所期の圧力損失ΔP2を達成することができる。
【0131】
<圧力損失推定導出装置、圧力損失推定プログラム>
本発明の別の実施形態は、固体触媒を充填した反応器に気体若しくは液体の1相の流体、又は気体及び液体の2相の流体を流通させる固定床流通式反応における任意の反応経過時tの前記反応器内の圧力損失推定導出装置であって、前記反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得する流体情報取得部と、前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得する不純物情報取得部と、取得したSIN及びSOUTを前記式(5)に代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部と、取得した前記μ、前記u、前記ρ、及び前記εを流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式に代入し、圧力損失の計算値であるΔPcalを導出するΔPcal導出部と、得られたΔPcalを前記式(6)に代入し、前記反応経過時tにおける前記反応器内の圧力損失の推定値ΔPsimを導出する圧力損失の推定値導出部と、前記圧力損失の推定値ΔPsimを出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【0132】
本実施形態の圧力損失推定導出装置は、さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得する温度情報取得部を有し、前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには、前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出する空隙率導出部において、前記式(5)に代えて、前記式(5-1)に前記SIN、前記SOUT、前記T、及びTt(x)を代入して、前記反応経過時tにおける前記反応器内の固体触媒層の空隙率εを導出することが好ましい。
【0133】
本実施形態の圧力損失推定導出装置10は、具体的には図3に示されるように、取得部11と、取得部11からの情報を処理する計算機本体14と、計算機本体14において処理された情報(反応器内の圧力損失の推定値)を外部に出力する出力部20とを有する。
【0134】
取得部11は、反応のオペレーターによって所定の情報が入力され、この入力により取得した情報を計算機14に送信するものである。本実施形態の取得部11は、任意の反応経過時tにおける流体の粘度μ、流体の線速度u、及び流体の密度ρを取得する流体情報取得部12と、前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを取得する不純物情報取得部13と、を備える。また、本実施形態の取得部11は、さらに前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を取得する温度情報取得部19を備えることが好ましい。
【0135】
流体情報取得部12は、具体的には、上述の測定方法により得られた前記反応経過時tにおける流体の粘度μ(流体が気体及び液体の2相の場合は、μ及びμ)、流体の線速度u(流体が気体及び液体の2相の場合は、u及びu)、及び流体の密度ρ(流体が気体及び液体の2相の場合は、ρ及びρ)を反応のオペレーターが入力することにより取得し、これを計算機本体14へ送信する。
不純物情報取得部13は、具体的には、上述の測定方法により得られた前記反応経過時tより前の別の任意の反応経過時tx-1から前記反応経過時tの間(t-tx-1)に前記反応器に流入した流体中の不純物総量SIN、及び前記反応器から流出した流体中の不純物総量SOUTを反応のオペレーターが入力することにより取得し、これを計算機本体14へ送信する。
温度情報取得部19は、具体的には、上述の測定方法により得られた前記反応経過時tにおける反応温度Tt(x)を反応のオペレーターが入力することにより取得し、これを計算機本体14へ送信する。
【0136】
本実施形態では、流体情報取得部12と不純物情報取得部13と温度情報取得部19が共通のキーボードによって構成されている。流体情報取得部12、不純物情報取得部13、及び温度情報取得部19の具体的構成は、限定されず、本実施形態ではキーボードであるが、タッチパネル等であってもよい。なお、流体情報取得部12、不純物情報取得部13、及び温度情報取得部19が別々に構成され、それぞれが独立して計算機本体14に接続されてもよい。また、流体情報取得部12、不純物情報取得部13、及び温度情報取得部19は、反応器の制御等に用いられる計算機、分析装置等から有線又は無線により前記の各情報を直接取得するように構成されてもよい。
【0137】
計算機本体14は、種々の情報を処理可能な、いわゆるコンピュータである。この計算機本体14には、所定のプログラムが組み込まれ、このプログラムの実行によって機能的に演算部15が構成される。具体的には、この演算部15には、前記プログラムの実行によって機能的に空隙率導出部16と、ΔPcal導出部17と、圧力損失の推定値導出部18と、が構成される。
【0138】
空隙率導出部16は、計算機本体14に取得部11から上記の情報が入力されると前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)≦Tを満たすときには前記式(5)より、前記Tt(x)とコーキングの閾値Tの関係が、Tt(x)>Tを満たすときには前記式(5-1)より、反応器内の固体触媒層の空隙率εを計算する。ΔPcal導出部17は計算機本体14に取得部11から上記の情報が入力されると、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式よりΔPcalを、導出する。ΔPcal導出部17において、流体が気体又は液体の1相の場合は、例えば上述のErgun式よりΔPcal(ΔP1cal)を導出することができる。また、ΔPcal導出部17において、流体が気体及び液体の2相の場合は、例えば上述のErgun・Larkins式よりΔPcal(ΔP2cal)を導出することができる。圧力損失の推定値導出部18は前記ΔPcal導出部17により導出されたΔPcalから前記式(6)より前記反応経過時tにおける圧力損失の推定値ΔPsimを導出する。
【0139】
また、空隙率導出部16、ΔPcal導出部17、圧力損失の推定値導出部18は協同して、圧力損失の推定方法の部分ですでに説明した方法で、前記式(5)におけるチューニングパラメータα、前記式(5-1)におけるチューニングファクターβ、γ、及び前記式(6)におけるチューニングファクターσを導出する機能を有することが好ましい。
【0140】
演算部15は、反応のオペレーターが入力した情報に基づいて上記のように求めた計算結果を圧力損失の推定値として出力部20に出力する。
【0141】
出力部20は、計算機本体14(詳しくは、演算部15)が出力した計算結果(反応器内における圧力損失の推定値)を受信し、これを外部に出力するものである。本実施形態の出力部20は、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、PDP等の表示部によって構成されているが、これに限定されず、プリンタ等の印刷部や、他の装置(例えば、重質炭化水素油の水素化処理反応制御等に用いられる計算機等)等へ出力するように構成されてもよい。また、出力部20は、これらを組み合わせたものでもよい。
【0142】
本実施形態の圧力損失推定導出装置10は、流体が気体又は液体の1相の場合の反応器内の圧力損失の推定値のみを導出する装置であってもよいし、流体が気体及び液体の2相の場合の反応器内の圧力損失の推定値のみを導出する装置であってもよいし、流体が前記1相の場合の反応器内の圧力損失の推定値と流体が前記2相の場合の反応器内の圧力損失の推定値の両方を導出する装置であってもよい。
【0143】
流体が前記1相の場合の反応器内の圧力損失の推定値と流体が前記2相の場合の反応器内の圧力損失の推定値の両方を導出する装置である場合、取得部11において流体が1相であるか2相であるかを反応のオペレーターが入力することにより、取得する流体相数情報取得部(不図示)を備えていることが好ましい。
【0144】
前記流体相数情報が計算機本体14へ送信されることで、ΔPcal導出部17において使用される、流体の粘度、流体の線速度、流体の密度、及び反応器内の固体触媒層の空隙率により圧力損失を計算する式が適切に選択される。
【0145】
圧力損失推定導出装置10の各構成は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0146】
すなわち、圧力損失推定導出装置10は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである圧力損失推定導出装置10の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、圧力損失推定導出装置10に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0147】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD-ROM/MO/MD/DVD/CD-R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0148】
また、圧力損失推定導出装置10を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された搬送波あるいはデータ信号列の形態でも実現され得る。
【実施例0149】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0150】
[重質炭化水素油中の金属不純物濃度の測定]
重質炭化水素油中の金属不純物濃度の測定は、ICP-OESで測定した。具体的には、反応器流入前の重質炭化水素油中のNi、V、Feの金属換算濃度、及び反応器流出後の重質炭化水素油のNi、V、Feの金属換算濃度をICP-OESで測定した。
【0151】
[重質炭化水素油の密度及び粘度の測定]
重質炭化水素油の密度は、JIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して測定した15℃換算の密度を反応温度で補正することにより得た。
重質炭化水素油の粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られた結果とJIS K2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して測定した15℃換算の密度を乗じて、温度換算を行うことにより得た。
【0152】
[水素の密度及び粘度の測定]
水素の密度は、ガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果の組成に相当する密度を温度、圧力補正を行うことにより得た。
水素の粘度は、ガスクロマトグラフィーで得られた組成分析結果をプロセスシミュレーターに導入し、算出することにより得た。
【0153】
反応温度の測定は、反応器内の温度計により行い、その中の最高温度を採用した。
【0154】
[実施例1]
4種類の異なる重質炭化水素油の水素化処理触媒(モリブデンとニッケルがγアルミナに担持されたモリブデン・ニッケル系触媒、形状:四つ葉型)A~Dを反応器にそれぞれ充填し、4層の固体触媒層を形成した。この際、それぞれの固体触媒層の層高H(m)を検尺により測定した。それぞれの固体触媒層の層高Hと反応器(円柱状の管型反応器)の断面積(m)を乗じることにより、それぞれの固体触媒層の充填容積Vcat(m)を計算した。さらに、それぞれの固体触媒層の充填容積Vcatと充填重量Wcat(kg)より、BD=Wcat/Vcatを計算し、それぞれの固体触媒層の充填密度BD(kg/m)を求めた。それぞれの固体触媒層の充填密度BD、それぞれの固体触媒の真密度ρcat(kg/m)、及びそれぞれの固体触媒の細孔容積PV(m/kg)より、ε=1-(BD×(1/ρcat+PV))を計算し、それぞれの固体触媒層のεを計算した。
なお、固体触媒の真密度はピクノメーター法(液相法)により求めた。また、固体触媒の細孔容積は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(MICROMERITICS AUTO-PORE 9200:島津製作所製)を使用した。
【0155】
それぞれの固体触媒の平均長径、平均短径から、前記式(8-3)より、それぞれの固体触媒を球と仮定した場合の球径dpを求めた。
表1に水素化処理触媒A~Dのdp、H、ε及び層構成を表1に示す。表1において、1ゾーンが反応器入口側、4ゾーンが反応器出口側である。
【0156】
【表1】
【0157】
反応温度に加熱した重質炭化水素油と水素を反応器の上部より導入して、下記の条件で水素化処理を行った。
【0158】
反応条件:
反応温度;377℃
圧力(水素分圧);10.3MPa
液空間速度 ;0.2h-1
線速(油);0.0043m/s
線速(水素);0.067m/s
水素/油比 ;860m/m
生成油中の硫黄成分;0.30質量%
【0159】
原料油の性状:
油種;中東系原油の常圧蒸留残渣油
密度(15℃);0.9616g/cm
硫黄成分;2.97質量%
バナジウム;15ppm
ニッケル;31ppm
鉄;18ppm
動粘度;369mm/s(50℃)
生成油の性状:
バナジウム;6ppm
ニッケル;9ppm
鉄;13ppm
硫黄成分の測定は、JIS K2541「原油及び石油製品-硫黄分試験方法」に準拠して測定した。
なお、上記の反応条件は、全反応期間の平均の値である。
【0160】
反応開始から24h後に、反応器に流入する前の重質炭化水素油中の金属不純物濃度を測定し、24hの間に反応器に流入した重質炭化水素油の総量との積を計算することにより、反応開始から24h経過時の間に反応器に流入した重質炭化水素油中の不純物総量SIN(kg/24h)を取得した。反応開始から24h後に、反応器から流出した後の重質炭化水素油中の金属不純物濃度を測定し、24hの間に反応器から流出した重質炭化水素油の総量との積を計算することにより、反応開始から24h経過時の間に反応器から流出した重質炭化水素油中の不純物総量SOUT(kg/24h)を取得した。
前記式(1-B)に各ゾーンの固体触媒層のε、及びSIN、SOUTを代入し、各ゾーンの固体触媒層のε24hをαconstの関数としてそれぞれ得た。前記ε24h、24h経過時の重質炭化水素の密度、線速度、粘度、水素の密度、線速度、粘度、及び触媒のdp、Hを前記式(9)~(14)に代入し、各ゾーンの固体触媒層の24h経過時の圧力損失の計算値ΔPcal(n)(ΔP2cal(n))をαconstの関数としてそれぞれ得た(n=4である)。続いて、1~4ゾーンの固体触媒層の圧力損失の計算値を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(ΔP2cal)をαconstの関数として得た。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcal(ΔP2cal)を前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsim(ΔP2sim)をαconstとσの関数として得た。
以後24hおきに上記の圧力損失の推定作業を行い、圧力損失の推定値ΔPsim(ΔP2sim)をαconstとσの関数として得た。反応開始から15点の反応経過時における圧力損失の実測値ΔPと圧力損失の推定値ΔPsimの平均値であるΔP(ave)、ΔPsim(ave)の比率ΔP(ave)/ΔPsim(ave)の値が1に近づくようαconst、σを調整したところ、αconst=0.0065、σ=-0.19とすると実測値と推定値がよく合うことがわかった。
【0161】
αconst=0.0065、σ=-0.19として、24hおきに上記の圧力損失の推定作業を行った。図4に、反応時間に対する、圧力損失の実測値(実績値)と推定値のグラフを示す。
【0162】
図4に示すように269日経過時まではαconst、σの値を変更しなかったが、その間のΔP/ΔPsimの平均値は、1.06であり、非常に精度高く圧力損失を推定することができた。ΔP/ΔPsimの値が徐々に上昇してきたため(264日経過時:1.09、265日経過時:1.16、266日経過時:1.20、267日経過時:1.24、268日経過時:1.28、269日経過時:1.30)、270日経過時にαconstの値を0.03に変更し(σは変更せず)、反応をトータルでおよそ300日行った。全反応期間の圧力損失の実測値と推定値はよく一致した。この間のΔP(実測値)/ΔPsim(推定値)の平均値は1.06であった。
【0163】
[実施例2]
実機スケールにて、上述のコーキングの閾値Tの取得方法2に準拠して、Tを求めたところ、Tは370℃であった。なお、コーキングの閾値Tの取得方法2における直線1はy=0.0002x+0.0372であり、直線2はy=0.0163x-5.9256であった。
したがって、反応温度Tが370℃を超えるまでは、上述の実施例1の方法で圧力損失の推定値を前記式(1)により求めたεにより圧力損失の推定値を求めた(実施例1と同様にα=0.0065、σ=-0.19とした)。
101日経過時に、反応温度Tが371℃となり、Tである370℃超となった。
101日経過時の反応器に流入する前の重質炭化水素油中の金属不純物濃度を測定し、100日経過時から101日経過時までの間に反応器に流入した重質炭化水素油の総量との積を計算することにより、100日経過時から101日経過時の間に反応器に流入した重質炭化水素油中の不純物総量SIN(kg/24h)を取得した。101日経過時の反応器から流出した後の重質炭化水素油中の金属不純物濃度を測定し、100日経過時から101日経過時の間に反応器から流出した重質炭化水素油の総量との積を計算することにより、100日経過時から101日経過時の間に反応器から流出した重質炭化水素油中の不純物総量SOUT(kg/24h)を取得した。
前記式(1-1)に各ゾーンの固体触媒層のε100日、及びSIN、SOUT、R、T、Tt(x)を代入し、各ゾーンの固体触媒層のε101日をβ、γの関数としてそれぞれ得た。ここで上述のチューニングファクターβ、γの設定方法2に準拠して、仮の値としてβ=1を代入し、前記ε101日をγの関数として得た。前記ε101日、101日経過時の重質炭化水素の密度、線速度、粘度、水素の密度、線速度、粘度、及び触媒のdp、Hを前記式(9)~(14)に代入し、各ゾーンの固体触媒層の101日経過時の圧力損失の計算値ΔPcal(n)をγの関数としてそれぞれ得た。続いて、1~4ゾーンの固体触媒層の圧力損失の計算値を合計することにより全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalをγの関数として得た。得られた全固体触媒層の圧力損失の計算値ΔPcalを前記式(2)に代入し、全固体触媒層の圧力損失の推定値ΔPsimをγの関数として得た。101日経過時の圧量損失の実測値ΔPと前記ΔPsimがΔP=ΔPsimになるよう計算するとγは340であった。
以後24hおきに上記の圧力損失の推定作業を行い、以後15点においてΔP/ΔPsimが0.5~1.5の範囲に収まったため、β=1、γ=340として、その後の圧力の推定作業を継続した。
図5に、反応時間に対する、圧力損失の実測値と推定値のグラフを示す。
【0164】
図5に示すように、全反応期間の圧力損失の実測値と推定値はよく一致した。また、実施例1のように、チューニングパラメータαを変更する必要がなかった。この間のΔP(実測値)/ΔPsim(推定値)の平均値は1.01であった。
【符号の説明】
【0165】
10…圧力損失推定導出装置、11…取得部、12…流体情報取得部、13…不純物情報取得部、14…計算機、15…演算部、16…空隙率導出部、17…ΔPcal導出部、18…圧力損失の推定値導出部、19…温度情報取得部、20…出力部
図1
図2
図3
図4
図5