IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイションの特許一覧 ▶ デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッドの特許一覧

特開2024-45573腫瘍特異的なネオ抗原を同定する組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045573
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】腫瘍特異的なネオ抗原を同定する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20240326BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240326BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240326BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240326BHJP
   C07K 14/82 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240326BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/02
C07K7/06
C07K7/08
C07K14/82
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
G01N33/53 D
G01N33/53 M
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021658
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2022000837の分割
【原出願日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】61/334,866
(32)【優先日】2010-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ハコヘン ニール
(72)【発明者】
【氏名】ウー キャサリン
(57)【要約】
【課題】免疫治療用ペプチドおよび免疫治療、特に、癌の免疫治療における、抗腫瘍応答を刺激するワクチン組成物の薬学的活性成分として、単独でまたは他の腫瘍関連ペプチドと共にはたらく腫瘍特異的なネオ抗原を同定する方法を提供する。
【解決手段】癌を有する対象の遺伝子における腫瘍特異的な変異を同定する行程、該変異ペプチドが野生型ペプチドよりも高い親和性でクラスIHLAタンパク質に結合性し、かつ
500nm未満のIC50を有する工程、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ネオ抗原を同定する方法:
(a)癌を有する対象の発現された遺伝子における腫瘍特異的な変異を同定する工程;
(b)工程(a)において同定された変異が点変異である場合:
(i)工程(a)において同定された変異を有する変異ペプチドを同定する工程であって、該変異ペプチドが、野生型ペプチドより高い親和性でクラスI HLAタンパク質に結合し
;かつ500nm未満のIC50を有する、工程;
(c)工程(a)において同定された変異が、スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である場合:
(i)工程(a)において同定された変異によりコードされる変異ポリペプチドを同定する工程であって、該変異ポリペプチドがクラスI HLAタンパク質に結合する、工程。
【請求項2】
前記変異ペプチドが約8~10アミノ酸長である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記変異ペプチドが10アミノ酸長より長い、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記変異ペプチドが15アミノ酸長より長い、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記変異ペプチドが20アミノ酸長より長い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記変異ペプチドが30アミノ酸長より長い、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記変異ペプチドが約8~50アミノ酸長である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記変異ペプチドが約24~40アミノ酸長である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
腫瘍特異的な変異が核酸配列決定により同定される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
抗腫瘍CD8 T細胞を活性化する、工程(b)において同定されたペプチドまたは工程(c
)のポリペプチドを選択する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
請求項1に従って同定された1種または複数種のペプチドまたはポリペプチドと、アジュバントとを投与する工程を含む、対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法。
【請求項12】
前記アジュバントがTLRベースのアジュバントである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチドまたはポリペプチドが鉱油ベースのアジュバントにより乳化される、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドまたはポリペプチドおよびTLRベースのアジュバントが、鉱油ベースのア
ジュバントにより乳化される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法であって、請求項1に従って同定さ
れたペプチドまたはポリペプチドのうちの1種または複数種でパルス処理された自己の樹
状細胞または抗原提示細胞を該対象へ投与する工程を含む、方法。
【請求項18】
アジュバントを投与する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
アジュバントがTLRベースのアジュバントである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの
阻害剤である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下の工程を含む、癌に対するワクチン接種または処置を対象に対して行う方法:
(a)該対象の発現された遺伝子における複数の腫瘍特異的な変異を同定し、同定された
変異が:
(i)点変異である場合、該点変異を有する変異ペプチドをさらに同定する工程;およ
び/または
(ii)スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である場合、該変異によりコードされる変異ポリペプチドをさらに同定する工程;(b)クラスI HLAタンパク質に結合する、工程(a)において同定された1種または複数種の変異ペプチドまたは変異ポリペプチドを選択する工程;
(c)抗腫瘍CD8 T細胞を活性化することができる、工程(b)において同定された1種または複数種の変異ペプチドまたは変異ポリペプチドを選択する工程;ならびに
(d)該1種または複数種のペプチドまたはポリペプチド、工程(c)において選択された1種または複数種のペプチドまたはポリペプチドでパルス処理された自己の樹状細胞または抗原提示細胞を、該対象へ投与する工程。
【請求項23】
アジュバントを前記対象へ投与する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
アジュバントがTLRベースのアジュバントである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項26】
前記抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記変異ペプチドが約8~10アミノ酸長である、請求項22記載の方法。
【請求項28】
前記変異ペプチドが約8~50アミノ酸長である、請求項22記載の方法。
【請求項29】
前記変異ペプチドが約24~40アミノ酸長である、請求項22記載の方法。
【請求項30】
前記対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、請求項22記載の方法。
【請求項31】
前記対象がヒト、イヌ、ネコ、またはウマである、請求項22記載の方法。
【請求項32】
前記癌が、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頸部癌、膵臓癌、脳腫瘍、黒色腫、リンパ腫、または白血病である、請求項22記載の方法。
【請求項33】
前記リンパ腫がB細胞リンパ腫である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記白血病が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、またはTリンパ球性白血病である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
請求項1に従って同定されたペプチドと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成
物。
【請求項36】
以下のうちの少なくとも2種の別個のペプチドを含む、組成物:
(a)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型SF3B1に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸625位にロイシン;
(ii)アミノ酸626位にヒスチジン;
(iii)アミノ酸700位にグルタミン酸;
(iv)アミノ酸742位にアスパラギン酸;もしくは
(v)アミノ酸903位にアルギニン
を含有している、SF3B1ペプチド;
(b)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MYD88に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸232位にトレオニン;
(ii)アミノ酸258位にロイシン;もしくは
(iii)アミノ酸265位にプロリン
を含有している、MYD88ペプチド;
(c)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型TP53に基づいて番号付けた
場合、
(i)アミノ酸111位にアルギニン;
(ii)アミノ酸215位にアルギニン;
(iii)アミノ酸238位にセリン;
(iv)アミノ酸248位にグルタミン;
(v)アミノ酸255位にフェニルアラニン;
(vi)アミノ酸273位にシステイン、もしくは
(vii)アミノ酸281位にアスパラギン
を含有している、TP53ペプチド;
(d)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ATMに基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸1252位にフェニルアラニン;
(ii)アミノ酸2038位にアルギニン;
(iii)アミノ酸2522位にヒスチジン;もしくは
(iv)アミノ酸2954位にシステイン
を含有している、ATMペプチド;
(e)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ablに基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸244位にバリン;
(ii)アミノ酸248位にバリン;
(iii)アミノ酸250位にグルタミン酸;
(iv)アミノ酸250位にアラニン;
(v)アミノ酸252位にヒスチジン;
(vi)アミノ酸252位にアルギニン;
(vii)アミノ酸253位にフェニルアラニン;
(viii)アミノ酸253位にヒスチジン;
(ix)アミノ酸255位にリジン;
(x)アミノ酸255位にバリン;
(xi)アミノ酸276位にグリシン;
(xii)アミノ酸315位にイソロイシン;
(xiii)アミノ酸315位にアスパラギン;
(xiv)アミノ酸317位にロイシン;
(xv)アミノ酸343位にトレオニン;
(xvi)アミノ酸351位にトレオニン;
(xvii)アミノ酸355位にグリシン;
(xviii)アミノ酸359位にバリン;
(xix)アミノ酸359位にアラニン;
(xx)アミノ酸379位にイソロイシン;
(xxi)アミノ酸382位にロイシン;
(xxii)アミノ酸387位にメチオニン;
(xxiii)アミノ酸396位にプロリン;
(xxiv)アミノ酸396位にアルギニン;
(xxv)アミノ酸417位にチロシン;もしくは
(xxvi)アミノ酸486位にセリン
を含有している、ablペプチド;
(f)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型FBXW7に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸280位にロイシン;
(ii)アミノ酸465位にヒスチジン;
(iii)アミノ酸505位にシステイン;もしくは
(iv)アミノ酸597位にグルタミン酸
を含有している、FBXW7ペプチド;
(g)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MAPK1に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸162位にアスパラギン;
(ii)アミノ酸291位にグリシン;もしくは
(iii)アミノ酸316位にフェニルアラニン
を含有している、MAPK1ペプチド;または
(h)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型GNB1に基づいて番号付けた
場合、アミノ酸180位にトレオニンを含有している、GNB1ペプチド。
【請求項37】
アジュバントをさらに含む、請求項36記載の組成物。
【請求項38】
イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、野生型bcr-ablに基づいて
番号付けた場合、255位にリジンを含有している、50アミノ酸長に等しいかそれ未満のBcr-ablペプチドの組成物を、HLA-A3陽性対象へ投与する工程を含む、方法。
【請求項39】
イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、bcr-abl変異を含有してい
る1種または複数種のペプチドを、該対象へ投与する工程を含み、該ペプチドが、50アミ
ノ酸に等しいかそれ未満であり、かつ500nm未満のIC50でクラスI HLAタンパク質に結合する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2010年5月14日出願の米国
仮出願第61/334,866号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、腫瘍特異的なネオ抗原の同定、および癌ワクチンを作製するためのこれらのネオ抗原の使用に一般に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
腫瘍ワクチンは、典型的には、腫瘍細胞を認識し溶解する抗原特異的な細胞障害性T細
胞(CTL)を誘導するため共同作用する腫瘍抗原および免疫刺激分子(例えば、サイトカ
インまたはTLRリガンド)から構成される。現時点で、ほぼ全てのワクチンが、共通腫瘍
抗原または完全腫瘍細胞調製物のいずれかを含有している(Gilboa,1999)。共通腫瘍抗
原は、多くの個体において腫瘍に選択的に発現している免疫原性タンパク質であり、一般的に、合成ペプチドまたは組換えタンパク質として患者に送達される(Boon et al.,2006)。対照的に、完全腫瘍細胞調製物は、自己の照射された細胞、細胞溶解物、細胞融合物、熱ショックタンパク質調製物、または全mRNAとして、患者に送達される(Parmiani et al.,2007)。完全腫瘍細胞は、自己患者から単離されるため、共通腫瘍抗原に加えて、患者特異的な腫瘍抗原を発現している。最後に、同定が技術的に困難であるため、ワクチンにおいて稀にしか使用されていない、腫瘍抗原の第三のクラスが存在する(Sensi et al.2006)。このクラスは、改変されたアミノ酸配列をもたらす腫瘍特異的な変異を有するタンパク質からなる。そのような変異タンパク質は、(a)免疫系による認識および破壊の
ため、(非腫瘍細胞に対して)腫瘍を独特にマークし(Lennerz et al.,2005);(b)中枢性、時には、末梢性のT細胞寛容を回避し、従って、より有効な高アビディティT細胞受容体により認識される(Gotter et al.,2004):可能性を有する。
【0004】
従って、腫瘍ワクチンとして有用なネオエピトープを同定する方法が、必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、腫瘍特異的なT細胞応答を誘発することができるペプチドを同定する方法の
発見に、一部関連する。
【0006】
一つの局面において、本発明は、癌を有する対象の発現された遺伝子における腫瘍特異的な変異を同定することにより、ネオ抗原を同定する方法を提供する。いくつかの局面において、変異が点変異である時、方法は、変異を有する変異ペプチドを同定する工程をさらに含む。好ましくは、変異ペプチドは、野生型ペプチドより高い親和性でクラスI HLA
タンパク質に結合し、500nm未満のIC50を有する;他の局面において、変異がスプライス
部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である時、方法は、変異によりコードされる変異ポリペプチドを同定する工程をさらに含む。好ましくは、変異ポリペプチドはクラスI HLAタンパク質に結合する。
【0007】
任意で、方法は、抗腫瘍CD8 T細胞を活性化するペプチドまたはポリペプチドを選択す
る工程をさらに含む。
【0008】
変異ペプチドまたは変異ポリペプチドは、好ましくは、野生型ペプチドより高い親和性でクラスI HLAタンパク質に結合し、500nM未満のIC50を有する。好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドは、250nM未満のIC50を有する。より好ましくは、ペプチドまたはポリ
ペプチドは、100nM未満のIC50を有する。最も好ましくは、ペプチドまたはポリペプチド
は、50nM未満のIC50を有する。
【0009】
変異ペプチドは、約8~10アミノ酸長であり、もう一つの局面において、約8~50アミノ酸長である。例えば、変異ペプチドは、10アミノ酸長より長く、15アミノ酸長より長く、20アミノ酸長より長く、30アミノ酸長より長い。好ましくは、変異ペプチドは約24~40アミノ酸長である。
【0010】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法に従って同定された1種または複数種
のペプチドまたはポリペプチドと、アジュバントとを投与することにより、対象における腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法を提供する。アジュバントは、例えば、TLRベース
のアジュバントまたは鉱油ベースのアジュバントである。いくつかの態様において、ペプチドまたはポリペプチドおよびTLRベースのアジュバントが、鉱油ベースのアジュバント
により乳化される。任意で、方法は、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤のような抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む。
【0011】
さらにもう一つの局面において、本発明は、本発明の方法に従って同定されたペプチドまたはポリペプチドのうちの1種または複数種でパルス処理された自己の樹状細胞または
抗原提示細胞を対象へ投与することにより、対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法を提供する。任意で、方法は、例えば、TLRベースのアジュバントまたは鉱油ベー
スのアジュバントのようなアジュバントを投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、ペプチドまたはポリペプチドおよびTLRベースのアジュバントが、鉱油ベースの
アジュバントにより乳化される。いくつかの態様において、方法は、抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む。抗免疫抑制剤には、例えば、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤が含まれる。
【0012】
もう一つの局面において、本発明は、対象の発現された遺伝子における複数の腫瘍特異的な変異を同定すること、同定された腫瘍特異的な変異を有する変異ペプチドまたは変異ポリペプチドを同定すること、好ましくは野生型ペプチドより高い親和性で、クラスI HLAタンパク質に結合し、かつ抗腫瘍CD8 T細胞を活性化することができる、同定された変異ペプチドまたは変異ポリペプチドのうちの1種または複数種を選択すること、および1種もしくは複数種の選択されたペプチド、ポリペプチド、または、1種もしくは複数種の同定
されたペプチドもしくはポリペプチドでパルス処理された自己の樹状細胞もしくは抗原提示細胞を、対象へ投与することにより、癌に対するワクチン接種または処置を対象に対して行う方法を提供する。変異ペプチドは、約8~10アミノ酸長であり、もう一つの局面に
おいて、約8~50アミノ酸長である。例えば、変異ペプチドは、10アミノ酸長より長く、15アミノ酸長より長く、20アミノ酸長より長く、30アミノ酸長より長い。好ましくは、変
異ペプチドは約24~40アミノ酸長である。
【0013】
任意で、方法は、例えば、TLRベースのアジュバントまたは鉱油ベースのアジュバント
のようなアジュバントを投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、ペプチドまたはポリペプチドおよびTLRベースのアジュバントが、鉱油ベースのアジュバントによ
り乳化される。いくつかの態様において、方法は、抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む。抗免疫抑制剤には、例えば、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤が含まれる。
【0014】
対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、請求項22記載の方法。
【0015】
対象はヒト、イヌ、ネコ、またはウマである。癌は、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頸部癌、膵臓癌、脳腫瘍、黒色腫、B細胞リンパ腫の
ようなリンパ腫、または急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、もしくはTリンパ球性白血病のような白血病である。
【0016】
本発明の方法に従って同定されたペプチドまたはポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物も、本発明に含まれる。
【0017】
例えば、本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型SF3B1に基
づいて番号付けた場合、
アミノ酸625位にロイシン;
アミノ酸626位にヒスチジン;
アミノ酸700位にグルタミン酸;
アミノ酸742位にアスパラギン酸;または
アミノ酸903位にアルギニン
を含有している、少なくとも2種の別個のSF3B1ペプチドを含有している組成物を提供する。
【0018】
本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MYD88に基づいて番
号付けた場合、アミノ酸232位にトレオニン;アミノ酸258位にロイシン;またはアミノ酸265位にプロリンを含有している、少なくとも2種の別個のMYD88ペプチドを含有している
組成物も提供する。
【0019】
本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型TP53に基づいて番号付けた場合、アミノ酸111位にアルギニン;アミノ酸215位にアルギニン;アミノ酸238位
にセリン;アミノ酸248位にグルタミン;アミノ酸255位にフェニルアラニン;アミノ酸273位にシステイン、またはアミノ酸281位にアスパラギンを含有している、少なくとも2種
の別個のTP53ペプチドを含有している組成物をさらに提供する。
【0020】
本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ATMに基づいて番号
付けた場合、アミノ酸1252位にフェニルアラニン;アミノ酸2038位にアルギニン;アミノ酸2522位にヒスチジン;またはアミノ酸2954位にシステインを含有している、少なくとも2種の別個のATMペプチドを含有している組成物をさらに提供する。
【0021】
各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ABLに基づいて番号付けた場合
、アミノ酸244位にバリン;アミノ酸248位にバリン;アミノ酸250位にグルタミン酸;ア
ミノ酸250位にアラニン;アミノ酸252位にヒスチジン;アミノ酸252位にアルギニン;ア
ミノ酸253位にフェニルアラニン;アミノ酸253位にヒスチジン;アミノ酸255位にリジン
;アミノ酸255位にバリン;アミノ酸276位にグリシン;アミノ酸315位にイソロイシン;
アミノ酸315位にアスパラギン;アミノ酸317位にロイシン;アミノ酸343位にトレオニン
;アミノ酸351位にトレオニン;アミノ酸355位にグリシン;アミノ酸359位にバリン;ア
ミノ酸359位にアラニン;アミノ酸379位にイソロイシン;アミノ酸382位にロイシン;ア
ミノ酸387位にメチオニン;アミノ酸396位にプロリン;アミノ酸396位にアルギニン;ア
ミノ酸417位にチロシン;またはアミノ酸486位にセリンを含有している、少なくとも2種
の別個のAblペプチドを含む組成物。
【0022】
各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型FBXW7に基づいて番号付けた場
合、アミノ酸280位にロイシン;アミノ酸465位にヒスチジン;アミノ酸505位にシステイ
ン;またはアミノ酸597位にグルタミン酸を含有している、少なくとも2種の別個のFBXW7
ペプチドを含有している組成物が、本発明にさらに含まれる。
【0023】
さらなる局面において、本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MAPK1に基づいて番号付けた場合、アミノ酸162位にアスパラギン;アミノ酸291位に
グリシン;またはアミノ酸316位にフェニルアラニンを含有している、少なくとも2種の別個のMAPK1ペプチドを含有している組成物を提供する。
【0024】
本発明は、各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型GNB1に基づいて番号付けた場合、アミノ酸180位にトレオニンを含有している、少なくとも2種の別個のGNB1ペプチドを含有している組成物も提供する。
【0025】
野生型bcr-ablに基づいて番号付けた場合、255位にリジンを含有している、50アミノ酸長に等しいかそれ未満のBcr-ablペプチドの組成物を、HLA-A3陽性対象へ投与する工程を
含む、イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法も、本発明によって提供される。
【0026】
50アミノ酸に等しいかそれ未満であって、かつ500nm未満のIC50でクラスI HLAタンパク質に結合する、bcr-abl変異を含有している1種または複数種のペプチドを、対象へ投与する工程を含む、イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法が、本発明によってさらに提供される。
【0027】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が関する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施において使用され得るが、適当な方法および材料が以下に記載される。本明細書において言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照文献は、全て、参照によりその全体が明示的に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先されるであろう。さらに、本明細書に記載された材料、方法、および例は、例示に過ぎず、限定を意図したものではない。
【0028】
[本発明1001]
以下の工程を含む、ネオ抗原を同定する方法:
(a)癌を有する対象の発現された遺伝子における腫瘍特異的な変異を同定する工程;
(b)工程(a)において同定された変異が点変異である場合:
(i)工程(a)において同定された変異を有する変異ペプチドを同定する工程であって、該変異ペプチドが、野生型ペプチドより高い親和性でクラスI HLAタンパク質に結合し
;かつ500nm未満のIC50を有する、工程;
(c)工程(a)において同定された変異が、スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である場合:
(i)工程(a)において同定された変異によりコードされる変異ポリペプチドを同定する工程であって、該変異ポリペプチドがクラスI HLAタンパク質に結合する、工程。
[本発明1002]
前記変異ペプチドが約8~10アミノ酸長である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記変異ペプチドが10アミノ酸長より長い、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記変異ペプチドが15アミノ酸長より長い、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記変異ペプチドが20アミノ酸長より長い、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記変異ペプチドが30アミノ酸長より長い、本発明1005の方法。
[本発明1007]
前記変異ペプチドが約8~50アミノ酸長である、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記変異ペプチドが約24~40アミノ酸長である、本発明1001の方法。
[本発明1009]
腫瘍特異的な変異が核酸配列決定により同定される、本発明1001の方法。
[本発明1010]
抗腫瘍CD8 T細胞を活性化する、工程(b)において同定されたペプチドまたは工程(c
)のポリペプチドを選択する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1011]
本発明1001に従って同定された1種または複数種のペプチドまたはポリペプチドと、ア
ジュバントとを投与する工程を含む、対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法。
[本発明1012]
前記アジュバントがTLRベースのアジュバントである、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記ペプチドまたはポリペプチドが鉱油ベースのアジュバントにより乳化される、本発明1011の方法。
[本発明1014]
前記ペプチドまたはポリペプチドおよびTLRベースのアジュバントが、鉱油ベースのア
ジュバントにより乳化される、本発明1011の方法。
[本発明1015]
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、本発明1011の方法。
[本発明1016]
前記抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導する方法であって、本発明1001に従って同定されたペプチドまたはポリペプチドのうちの1種または複数種でパルス処理された自己の
樹状細胞または抗原提示細胞を該対象へ投与する工程を含む、方法。
[本発明1018]
アジュバントを投与する工程をさらに含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
アジュバントがTLRベースのアジュバントである、本発明1018の方法。
[本発明1020]
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、本発明1017の方法。
[本発明1021]
抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの
阻害剤である、本発明1020の方法。
[本発明1022]
以下の工程を含む、癌に対するワクチン接種または処置を対象に対して行う方法:
(a)該対象の発現された遺伝子における複数の腫瘍特異的な変異を同定し、同定された
変異が:
(i)点変異である場合、該点変異を有する変異ペプチドをさらに同定する工程;およ
び/または
(ii)スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である場合、該変異によりコードされる変異ポリペプチドをさらに同定する工程;(b)クラスI HLAタンパク質に結合する、工程(a)において同定された1種または複数種の変異ペプチドまたは変異ポリペプチドを選択する工程;
(c)抗腫瘍CD8 T細胞を活性化することができる、工程(b)において同定された1種また
は複数種の変異ペプチドまたは変異ポリペプチドを選択する工程;ならびに
(d)該1種または複数種のペプチドまたはポリペプチド、工程(c)において選択された1種または複数種のペプチドまたはポリペプチドでパルス処理された自己の樹状細胞または抗原提示細胞を、該対象へ投与する工程。
[本発明1023]
アジュバントを前記対象へ投与する工程をさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1024]
アジュバントがTLRベースのアジュバントである、本発明1023の方法。
[本発明1025]
抗免疫抑制剤を投与する工程をさらに含む、本発明1022の方法。
[本発明1026]
前記抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗CD25抗体、またはIDOの阻害剤である、本発明1025の方法。
[本発明1027]
前記変異ペプチドが約8~10アミノ酸長である、本発明1022の方法。
[本発明1028]
前記変異ペプチドが約8~50アミノ酸長である、本発明1022の方法。
[本発明1029]
前記変異ペプチドが約24~40アミノ酸長である、本発明1022の方法。
[本発明1030]
前記対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、本発明1022の方法。
[本発明1031]
前記対象がヒト、イヌ、ネコ、またはウマである、本発明1022の方法。
[本発明1032]
前記癌が、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頸部癌、膵臓癌、脳腫瘍、黒色腫、リンパ腫、または白血病である、本発明1022の方法。
[本発明1033]
前記リンパ腫がB細胞リンパ腫である、本発明1032の方法。
[本発明1034]
前記白血病が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、またはTリンパ球性白血病である、本発明1032の方法。
[本発明1035]
本発明1001に従って同定されたペプチドと薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
[本発明1036]
以下のうちの少なくとも2種の別個のペプチドを含む、組成物:
(a)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型SF3B1に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸625位にロイシン;
(ii)アミノ酸626位にヒスチジン;
(iii)アミノ酸700位にグルタミン酸;
(iv)アミノ酸742位にアスパラギン酸;もしくは
(v)アミノ酸903位にアルギニン
を含有している、SF3B1ペプチド;
(b)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MYD88に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸232位にトレオニン;
(ii)アミノ酸258位にロイシン;もしくは
(iii)アミノ酸265位にプロリン
を含有している、MYD88ペプチド;
(c)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型TP53に基づいて番号付けた
場合、
(i)アミノ酸111位にアルギニン;
(ii)アミノ酸215位にアルギニン;
(iii)アミノ酸238位にセリン;
(iv)アミノ酸248位にグルタミン;
(v)アミノ酸255位にフェニルアラニン;
(vi)アミノ酸273位にシステイン、もしくは
(vii)アミノ酸281位にアスパラギン
を含有している、TP53ペプチド;
(d)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ATMに基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸1252位にフェニルアラニン;
(ii)アミノ酸2038位にアルギニン;
(iii)アミノ酸2522位にヒスチジン;もしくは
(iv)アミノ酸2954位にシステイン
を含有している、ATMペプチド;
(e)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型ablに基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸244位にバリン;
(ii)アミノ酸248位にバリン;
(iii)アミノ酸250位にグルタミン酸;
(iv)アミノ酸250位にアラニン;
(v)アミノ酸252位にヒスチジン;
(vi)アミノ酸252位にアルギニン;
(vii)アミノ酸253位にフェニルアラニン;
(viii)アミノ酸253位にヒスチジン;
(ix)アミノ酸255位にリジン;
(x)アミノ酸255位にバリン;
(xi)アミノ酸276位にグリシン;
(xii)アミノ酸315位にイソロイシン;
(xiii)アミノ酸315位にアスパラギン;
(xiv)アミノ酸317位にロイシン;
(xv)アミノ酸343位にトレオニン;
(xvi)アミノ酸351位にトレオニン;
(xvii)アミノ酸355位にグリシン;
(xviii)アミノ酸359位にバリン;
(xix)アミノ酸359位にアラニン;
(xx)アミノ酸379位にイソロイシン;
(xxi)アミノ酸382位にロイシン;
(xxii)アミノ酸387位にメチオニン;
(xxiii)アミノ酸396位にプロリン;
(xxiv)アミノ酸396位にアルギニン;
(xxv)アミノ酸417位にチロシン;もしくは
(xxvi)アミノ酸486位にセリン
を含有している、ablペプチド;
(f)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型FBXW7に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸280位にロイシン;
(ii)アミノ酸465位にヒスチジン;
(iii)アミノ酸505位にシステイン;もしくは
(iv)アミノ酸597位にグルタミン酸
を含有している、FBXW7ペプチド;
(g)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型MAPK1に基づいて番号付けた場合、
(i)アミノ酸162位にアスパラギン;
(ii)アミノ酸291位にグリシン;もしくは
(iii)アミノ酸316位にフェニルアラニン
を含有している、MAPK1ペプチド;または
(h)各々が50アミノ酸長に等しいかそれ未満であり、野生型GNB1に基づいて番号付けた
場合、アミノ酸180位にトレオニンを含有している、GNB1ペプチド。
[本発明1037]
アジュバントをさらに含む、本発明1036の組成物。
[本発明1038]
イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、野生型bcr-ablに基づいて
番号付けた場合、255位にリジンを含有している、50アミノ酸長に等しいかそれ未満のBcr-ablペプチドの組成物を、HLA-A3陽性対象へ投与する工程を含む、方法。
[本発明1039]
イマチニブ耐性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、bcr-abl変異を含有してい
る1種または複数種のペプチドを、該対象へ投与する工程を含み、該ペプチドが、50アミ
ノ酸に等しいかそれ未満であり、かつ500nm未満のIC50でクラスI HLAタンパク質に結合する、方法。
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲より明らかになり、かつ以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲に包含されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】腫瘍ワクチンのための抗原の三つのクラスを使用した、特異性と自己免疫毒性とのバランスを示す。腫瘍細胞に発現しているタンパク質抗原の一式には、身体のその他の細胞にも存在する数千のタンパク質が含まれるため、完全腫瘍細胞は、腫瘍ワクチンのための最も特異性の低い抗原製剤であり得る。過剰発現する腫瘍抗原は、体内のその他の細胞と比較して、腫瘍における発現の強度および選択性がはるかに高いことによって選択されているため、わずかに特異性が高い。にもかかわらず、これらの抗原の発現について体内の全ての細胞を試験することは不可能であり、他の細胞がそれらを発現している実質的なリスクが存在する。最後に、変異タンパク質は、腫瘍細胞にのみ存在するネオエピトープを生成し、最も高レベルの特異性を提供する。
図2】任意の癌の処置に適用され得る、個別化ネオ抗原ワクチン接種戦略についてのスキームである。本発明者らは、二つの独特のシナリオにおいて、この戦略を適用する可能性も強調する。第一のケースにおいて、患者は、(例えば、CLL、CML、およびその他の白血病に対して行われるような)造血幹細胞移植(HSCT)の後、初期にワクチン接種を受ける。HSCT後初期は、免疫系が、HSCTによる再構成のためコンピテントであり、従って、腫瘍または処置によって誘導される宿主免疫の欠陥を克服するため、独特の治療状況である。さらに、HSCT後初期状況のような、リンパ球減少環境において、豊富なホメオスタシスサイトカインは、T細胞の急速な増大に寄与することができる。第二のケースにおいて、疾患の初期段階、(例えば、固形腫瘍または造血器腫瘍に対する)化学療法の曝露により障害を受ける前には、免疫コンピテンスがより完全であり得るため、患者は、疾患の経過の初期にワクチン接種を受ける。免疫系は、これらの二つの特定の情況において最も高活性である可能性が高いため、本発明者らは、これらが、腫瘍ワクチン接種戦略を適用するための理想的な情況であることを提案する。
図3】腫瘍ネオエピトープを同定するための戦略が、三つの工程で記載されることを示す:(1)配列決定技術を使用して、単一の患者の腫瘍に存在し生殖系列DNAには存在しない遺伝子変異を検出する;(2)予測アルゴリズムを使用して、変異ペプチドが、個人のHLA対立遺伝子に結合する可能性を有するか否かを予測する;これらの予測されたペプチドを、任意で、適切なHLAタンパク質との結合について実験的に試験してもよい。さらに、これらの遺伝子も腫瘍細胞に発現していなければならない。(3)エクスビボでT細胞を生成し、それらが変異タンパク質を発現している細胞を認識することができるか否かを試験する;あるいは、腫瘍細胞表面HLAタンパク質から溶出させたペプチドを検出するため、質量分析を使用してもよい。慢性リンパ球性白血病について、現在までの本発明者らの研究は、患者1人当たり平均23種のタンパク質改変変異、46種の予測された結合変異ペプチド、および15~25種の実証された結合変異ペプチドが存在することを証明している。これらのうち、およそ7~12種のペプチドが、腫瘍細胞において発現されプロセシングされると予測される(しかし、これは、腫瘍および患者によって異なる可能性がある)。
図4】五つの変異クラスが、可能性のある腫瘍ネオエピトープを生成することを示す。新たな腫瘍特異的なエピトープは、ミスセンス点変異、スプライス部位点変異、フレームシフト点変異、もしくはリードスルー点変異(赤色アスタリスク)の結果として、または2種の遺伝子の(もしくは同一遺伝子内の)融合から発生し得る。具体的には、スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、および遺伝子融合は、各々、通常は翻訳されないが、変異の結果として発現され翻訳されるようになった新規のアミノ酸ストレッチ(赤紫色)を生成することができる。ミスセンス変異は、単一のアミノ酸変化を有するペプチドをもたらす。
図5】CLL患者における各クラスの変異の頻度を示す。一連の7例のCLL腫瘍に次世代配列決定を適用した本発明者らの研究は、CLL細胞が、可能性のある変異ペプチドの豊富な起源を提供する、多くの変異を保有していることを明らかにしている。本発明者らは、CLLにおける非サイレント遺伝子改変の総数が、1個体当たり17~155の範囲であり、その大部分が、体細胞性に改変された点変異(ミスセンス)であったことを観察する。4人の患者の腫瘍は、スプライス部位変異も保持しており;3人の患者については、新規の遺伝子融合がRNA配列決定によって同定された。
図6】患者の6種のHLA(MHCクラスI)対立遺伝子の各々に対する(特定のミスセンス変異を保有しているペプチドについての)ペプチド結合の自動化予測(図3の戦略の工程2A)からのデータを示す。赤紫色=強力な結合体;緑色=中程度の結合体。
図7】変異遺伝子のRNA発現を確認する方法を示す(図3の戦略の工程2B)。(A)CLL患者7について、本発明者らは、予測されたHLA結合ペプチドを含む変異遺伝子の過半数が、RNAレベルで発現されていることを見出した。(B)本発明者らは、DNAに見出された特異的な変異を保有している発現されたRNAを検出するため、RNAピロシーケンスも使用した。(C)ブレークポイント領域のPCR-TOPOクローニングを使用して、DNA配列決定により見られた新規の遺伝子融合を実証することができる(患者2について発見された融合が図示されている)。
図8】HLA-ペプチド結合の実験的実証についての方法およびデータを示す(図3の戦略の工程2C)。(A)特異的なHLA対立遺伝子に対するペプチド結合の実験的実証についてのスキーム。(B)患者1および2において同定された変異ペプチド候補の概要。影付きのセルは、分析が進行中であることを示す。(C)患者2についての、遺伝子改変(ミスセンス変異または遺伝子融合)から生成されたペプチドの、予測された結合親和性 対 実験的に実証された結合親和性についてのデータ。IC50<120nMの予測カットオフ(左側の縦の実線)は、クラスI HLAに対する実験的な結合を示す全てのペプチドをもたらす。
図9】変異ペプチド 対 生殖系列ペプチド(即ち、親ペプチド、野生型ペプチド、または正常ペプチドとも呼ばれる)の、HLA対立遺伝子に対する示差的な結合の予測を示す。Pt2の予測されたHLA結合性変異ペプチド25種のうちの12種が、親ペプチドの2倍を超える結合を有する(カットオフ=赤色点線)。これは、さらに、変異ペプチドの特異性を増加させる。変異ペプチドは、二つの理由のために特異的である:第一に、変異ペプチドを認識するT細胞受容体の多くは、野生型親ペプチドを検出しない可能性が高い;第二に、変異ペプチドのうちのいくつかは、親ペプチドより高い親和性でHLAに結合することができる。第一の特性は、コンピュータでは予測し得ないため、第二の特性を予測し、野生型ペプチドと比べて変異ペプチドの方がHLAとのより高い結合を示すペプチドのみをワクチンに含めるために選択することに、焦点が当てられるであろう。
図10】個人のCLLネオエピトープ候補に対するT細胞反応性を示す(図3の戦略の工程3)。本発明者らは、(エリスポット(Elispot)アッセイを使用して)治療後に患者1から単離されたT細胞が、特異的な変異型TLK2ペプチド(ペプチド#7)を検出し得ることを観察した。
図11】BCR-ABL変異がHLA-A対立遺伝子およびHLA-B対立遺伝子に結合すると予測される多くのペプチドを生成することを示す。NetMHC予測アルゴリズム(Nielsen et al.PLoS One.2007,2(8):e796)を適用することにより、本発明者らは、8種の一般的なHLA-A対立遺伝子およびHLA-B対立遺伝子に結合する可能性を有する、BCR-ABL変異から生成されたペプチドを予測した。最も一般的なBCR-ABL変異が(左から右に)頻度が低下する順に示され、様々なクラスI MHC結合ペプチドの予測IC50が図示される。本発明者らは、広範囲のHLA対立遺伝子において、1000未満のIC50として定義される、良好な親和性で結合するペプチドを、全部で84種、予測した。全ての予測されたペプチドのうち、24/84(29%)が、IC50<50を有する強力な結合体であると予測された。42種のペプチド(50%)は、50~500のIC50として定義される、中程度の結合体であった。18種のペプチド(21%)は、500~1000のIC50として定義される、弱い結合体であった。
図12】E255K変異を保有しているBCR-ABLペプチドが、HLAタンパク質に結合し、CML患者に存在する特異的な多機能性T細胞と会合することを示す。(A)HLA A3およびスーパータイプメンバーに対するE255K-B(および親ペプチド)の実験的に得られた結合スコア。(B)HSCT後、HLAA3+E255K+患者から増大させたCD8+T細胞において、本発明者らは、E255K-B(MUT)ペプチド、およびE255Kミニ遺伝子(MG)を発現しているA3+発現APCに対するIFNγ分泌を検出した。この応答は、クラスI阻止抗体(w6/32)の存在下で排除された。(C)IFNγ分泌細胞は、変異ペプチドについて四量体+でもあり、かつ(D)多機能性であって、IP10、TNFα、およびGM-CSFを分泌した(ルミネックス(Luminex)アッセイに基づく)。
図13】患者由来のT細胞クローンが、腫瘍特異的なエピトープを認識し、これらのエピトープを提示している細胞を死滅させ得ることを示す。(A)CML66のCD8+T細胞エピトープ(ペプチド66-72C)の反応性は、HLA B-4403に拘束される。(B)CML66 mRNAは、CD40Lにより増大させられたB細胞へ効率的にヌクレオフェクト(nucleofected)され得る。(C)CML66に特異的なCD8+T細胞は、RNAヌクレオフェクション(nucleofection)またはペプチドパルスによってCML66を発現しているCD40L B細胞に対して細胞障害性であるが、対照標的に対しては細胞障害性でない。
図14A】CLLにおいて有意に変異している遺伝子を示す。64種のCLL試料における9種の最も有意に変異している遺伝子。N-64の配列決定された試料における全てのカバーされたテリトリー(塩基対)。p値およびq値は、観察された変異の配置が見られる確率を、データセットにおいて計算されたバックグラウンド変異率と比較することにより計算された。赤色バー-CLLにおいて変異していることが以前には未知であった遺伝子;灰色バー-CLLにおける変異が以前に報告されている遺伝子。
図14B-01】CLLにおいて有意に変異している遺伝子を示す。文献またはCOSMICデータベースにおいて以前に報告された変異(遺伝子の下の線が変異の位置を示す)と比較された、64のCLLにおいて発見されたATM、SF3B1、TP53、MYD88、FBXW7、DDX3X、MAPK1、およびGNB1の変異の型(ミスセンス、スプライス部位、ナンセンス)および位置(CLL試料における位置および変異は遺伝子の上に示される)。
図14B-02】図14B-02は、図14B-01の続きを示す図である。
図15】SF3B1が、CLL試料(グラフ中の7番目のカラム)において発現されており、PBMC、M:単球、CC:癌細胞株(K562、Jurkat、IM9、MCF-7、Hela、Ovcar、RPMI、OTM、MCF-CAR、KM12BM、およびMM1Sを含む)を含む、多くの対照細胞より高発現することを示す。
図16】SF3B1変異が、患者特異的なHLA対立遺伝子に結合すると予測されるペプチドを生成することを示す。例えば、一般的なSF3B1 K700E変異を含むあるペプチドは、HLAに強力に結合すると予測される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
根治的な腫瘍特異的な免疫治療の開発にとっての重要な障壁のうちの一つは、自己免疫を回避するための、高度に制限された腫瘍抗原の同定および選択である。悪性細胞内の遺伝子変化の結果として発生する腫瘍ネオ抗原は、最も腫瘍特異的な抗原クラスを表す。ネオ抗原は、同定が技術的に困難であるため、ワクチンにおいて稀にしか使用されていない。腫瘍特異的なネオエピトープを同定するための本発明者らのアプローチは、三つの工程を含む。(1)各患者に由来する腫瘍試料 対 マッチした生殖系列試料の、全ゲノムまた
は全エキソーム(exome)(即ち、捕獲されたエキソンのみ)またはRNAの配列決定を使用した、DNA変異の同定;(2)患者のHLA対立遺伝子に結合することができ、かつ腫瘍に存
在する非サイレント変異に基づくT細胞エピトープ候補のセットを生成するための、実証
されたペプチド-MHC結合予測アルゴリズムの適用;および(3)任意で、変異ペプチドに
対する抗原特異的なT細胞の証明、または候補ペプチドが腫瘍表面上のHLAタンパク質に結合していることの証明。
【0031】
従って、本発明は、抗原のT細胞エピトープの同定および/または検出のための方法に
関する。具体的には、本発明は、対象における腫瘍特異的な免疫応答の誘導において有用な腫瘍特異的なネオ抗原の同定および/または検出の方法を提供する。
【0032】
具体的には、本発明は、対象のゲノムにおける複数の腫瘍特異的な変異を同定することにより、ワクチン接種または処置を対象に対して行う方法を提供する。同定された変異を有し、かつクラスI HLAタンパク質に結合する変異ペプチドおよび変異ポリペプチドが選
択される。任意で、これらのペプチドおよびポリペプチドは、野生型ペプチドより高い親和性でクラスI HLAに結合し、かつ/または抗腫瘍CD8 T細胞を活性化することができる。これらのペプチドが、対象へ投与される。あるいは、ペプチドでパルス処理された自己抗原提示細胞が、投与される。
【0033】
腫瘍の免疫制御における変異型抗原またはネオエピトープの重要性は、以下のことを示す基礎研究において認識されている:(a)マウスおよびヒトは、しばしば、変異型抗原
に対するT細胞応答を開始する(Parmiani et al.,2007;Sensi and Anichini,2006);(b)マウスは、腫瘍に存在する単一の変異ペプチドによる免疫化によって、腫瘍から防御
され得る(Mandelboim et al.,1995);(c)自然のまたはワクチンにより媒介された長
期黒色腫生存者は、変異型抗原に対する強力なメモリー細胞障害性T細胞(CTL)応答を開始する(Huang et al.,2004;Lennerz et al.,2005;Zhou et al.,2005a);(d)最後に、濾胞性リンパ腫患者は、自己腫瘍細胞に存在する患者特異的な変異型免疫グロブリンタンパク質により免疫化された時、分子的寛解を示す(Baskar et al.,2004)。さらに、これらの患者におけるCTL応答は、免疫グロブリンタンパク質の共通領域ではなく変異領域
に対するものである。さらに、そのような変異ペプチドは、(a)免疫系による認識およ
び破壊のため腫瘍を独特にマークし、従って、自己免疫のリスクを低下させ;かつ(b)
中枢性および末梢性のT細胞寛容を回避し、より有効な高アビディティT細胞受容体により抗原が認識されることを可能にする:可能性を有する(図1)。
【0034】
特定の遺伝子の同一の変異は、腫瘍間で稀にしか見出されない(最も一般的なドライバー変異ですら低い頻度である)。従って、本発明の方法は、患者特異的な腫瘍変異を包括的に同定するであろう。高度に平行の(highly parallel)配列決定技術、HLA-ペプチド
結合予測ツール、および生化学的アッセイを使用して、本発明の方法は、以下のことを可能にする:(1)患者の腫瘍に発現しており、かつ患者の腫瘍に存在するHLAタンパク質に結合する変異ペプチドの包括的な同定;(2)これらの同定されたネオエピトープに対す
る癌患者の自然免疫応答のモニタリング;(3)患者のHLAタンパク質と関連してこれらのペプチドを認識する細胞障害性T細胞が、エクスビボで自己腫瘍細胞を選択的に溶解する
ことができるか否かの決定。この戦略は、癌患者の免疫系がどのように腫瘍ネオエピトープと相互作用するか、に関するいくつかの根本的な疑問に取り組む。これらには、以下のことが含まれる:腫瘍ネオエピトープのどの画分がT細胞によって検出されるか、どの程
度の数のT細胞前駆細胞がネオエピトープに応答することができるか、ネオエピトープ特
異的なメモリーT細胞およびエフェクターT細胞が、循環系および腫瘍に、どの程度の頻度で存在するか、T細胞が、これらのエピトープに対して、どの程度のアビディティを有す
るか、ネオエピトープ特異的なT細胞が機能性であるか。これらの疑問の答えは、ヒトワ
クチンにおける腫瘍ネオエピトープの使用についての正当化および戦略の両方を提供する。
【0035】
ヒトの免疫系は、二つの機能的サブシステム、即ち、自然免疫系および獲得免疫系に分類され得る。自然免疫系は、感染に対する防御の第一線であり、大部分の可能性のある病原体が、例えば、顕著な感染を引き起こす前に、迅速に中和される。獲得免疫系は、侵入してくる生物の、抗原と呼ばれる分子構造に反応する。二つの型の獲得免疫反応、即ち、体液性免疫反応および細胞性免疫反応が存在する。体液性免疫反応においては、B細胞に
よって体液中に分泌された抗体が、病原体由来の抗原に結合して、多様な機序、例えば、補体により媒介される溶解を通して、病原体の排除をもたらす。細胞性免疫反応においては、他の細胞を破壊することができるT細胞が活性化される。例えば、疾患に関連したタ
ンパク質が細胞に存在する場合、それらが、細胞内で、タンパク質分解によりペプチドへと断片化される。次いで、特異的な細胞タンパク質が、このようにして形成された抗原またはペプチドに付着し、それらを細胞表面へと輸送し、細胞表面において、身体の分子的防御機構、特に、T細胞へとそれらが提示される。細胞障害性T細胞が、これらの抗原を認識し、抗原を保有している細胞を死滅させる。
【0036】
ペプチドを輸送し細胞表面上に提示する分子は、主要組織適合性抗原(MHC)のタンパ
ク質と呼ばれる。MHCタンパク質は、クラスIのMHCタンパク質とクラスIIのMHCタンパク質とに分類される。二つのMHCクラスのタンパク質の構造は、極めて類似している;しかし
ながら、それらは、機能に関しては極めて大きく異なっている。MHCクラスIのタンパク質は、大部分の腫瘍細胞を含む、身体のほぼ全ての細胞の表面に存在する。MHCクラスIのタンパク質は、一般的に、内因性タンパク質または細胞内に存在する病原体に起因する抗原を負荷され、次いで、細胞障害性Tリンパ球(CTL)へと提示される。クラスIIのMHCタン
パク質は、樹状細胞、Bリンパ球、マクロファージ、およびその他の抗原提示細胞にのみ
存在する。それらは、主として、外部抗原起源、即ち、細胞の外部からプロセシングされたペプチドを、Tヘルパー(Th)細胞へと提示する。クラスIのMHCタンパク質が結合した
ペプチドの大部分は、健康な宿主生物自体において産生された細胞質タンパク質に起因し、通常、免疫反応を刺激しない。従って、クラスIのそのような自己ペプチド提示MHC分子を認識する細胞障害性Tリンパ球は、胸腺において除去されるか、または胸腺からの放出
の後、除去されるかもしくは不活化される、即ち、寛容化される。MHC分子は、寛容化さ
れていない細胞障害性Tリンパ球へとペプチドを提示した時にのみ、免疫反応を刺激する
ことができる。細胞障害性Tリンパ球は、表面上に、T細胞受容体(TCR)およびCD8分子の両方を有する。T細胞受容体は、MHCクラスIの分子と複合体化したペプチドを認識し、そ
れに結合することができる。細胞障害性Tリンパ球は、各々、特異的なMHC/ペプチド複合体に結合することができる独特のT細胞受容体を発現している。
【0037】
ペプチドは、細胞表面上に提示される前に、小胞体内で競合的な親和性結合によりMHC
クラスIの分子に付着する。ここで、個々のペプチドの親和性は、そのアミノ酸配列、お
よびアミノ酸配列内の定義された位置における特異的結合モチーフの存在に直接関係する。そのようなペプチドの配列が既知である場合、例えば、ペプチドワクチンを使用して、疾患細胞に対して免疫系を操作することが、例えば、可能である。
【0038】
コンピューターアルゴリズムを使用して、可能性のあるT細胞エピトープ、即ち、ペプ
チド提示複合体の形態でクラスIまたはクラスIIのMHC分子に結合し、次いで、この形態でTリンパ球のT細胞受容体により認識されるペプチド配列を予測することが可能である。現在、具体的には、二つのプログラム、即ち、SYFPEITHI(Rammensee et al.,Immunogenetics,50(1999),213-219)およびHLA_BIND(Parker et al.,J.Immunol.,152(1994),163-175
)が使用されている。次いで、クラスIのMHC分子に結合する可能性のある、このようにして決定されたペプチド配列は、実際の結合能についてインビトロで調査されなければならない。
【0039】
本発明の技術上の目的は、特異的なMHC分子に対する結合能について、多数のペプチド
配列を同時かつ迅速に調査することを可能にする、腫瘍細胞に存在する、可能性のあるT
細胞エピトープを同定しスクリーニングするための改良された方法を提供することである。
【0040】
本発明において、本発明が基づく技術上の目的は、腫瘍に存在し正常組織には存在しない変異型抗原の検出および/または同定のための方法を提供することにより達成される。方法は、腫瘍における特異的な変異型遺伝子を同定するため、癌患者ゲノムの全コーディング部分の大量平行ゲノム配列決定を使用する。変異ペプチドのうち、野生型ペプチドより強力にHLAに結合し、従って、腫瘍特異性を与える可能性を有するものを特定するため
、よく確立されたアルゴリズムが、各患者の6種の独特のクラスI HLA対立遺伝子のいずれかに結合するペプチドを予測するために使用され、腫瘍特異的な変異残基を有する全ての9残基ペプチドもしくは10残基ペプチド 対 生殖系列残基を有するものについて、予測IC50が計算されるであろう。典型的には、予測IC50<50nMを有するペプチドが、一般に、中
~高親和性結合ペプチドと見なされ、HLA結合の生化学的アッセイを使用して経験的に親
和性を試験するため、選択されるであろう。最後に、ヒト免疫系が、これらの変異型腫瘍抗原に対する有効な免疫応答を開始し、従って、正常細胞を死滅させることなく、腫瘍を効果的に死滅させることができるか否かが決定されるであろう。
【0041】
定義
「T細胞エピトープ」とは、ペプチドを提示するMHC分子またはMHC複合体の形態で、ク
ラスIまたはIIのMHC分子が結合し、次いで、この形態で、それぞれ、細胞障害性Tリンパ
球またはTヘルパー細胞が認識し結合するペプチド配列を意味するものとして理解される
べきである。
【0042】
「受容体」とは、リガンドに結合することができる生物学的な分子または分子群を意味するものとして理解されるべきである。受容体は、細胞、細胞形成、または生物において情報を伝達するよう機能することができる。受容体は、少なくとも1個の受容体単位、好
ましくは、2個の受容体単位を含み、各受容体単位は、タンパク質分子、具体的には、糖
タンパク質分子からなり得る。受容体は、リガンドの構造を補完し、結合パートナーとしてリガンドと複合体化することができる構造を有する。情報は、具体的には、細胞の表面におけるリガンドの複合体化の後、受容体のコンフォメーション変化により伝達される。本発明によると、受容体とは、具体的には、リガンド、具体的には、適当な長さのペプチドまたはペプチド断片と、受容体/リガンド複合体を形成することができるMHCクラスIおよびIIのタンパク質を意味するものとして理解されるべきである。
【0043】
「リガンド」とは、受容体の構造に相補的な構造を有し、この受容体と複合体を形成することができる分子を意味するものとして理解されるべきである。本発明によると、リガンドとは、具体的には、MHCクラスIまたはMHCクラスIIのタンパク質と複合体を形成する
ことができるよう、適当な長さを有し、適当な結合モチーフをそのアミノ酸配列内に有するペプチドまたはペプチド断片を意味するものとして理解されるべきである。
【0044】
「受容体/リガンド複合体」も、「受容体/ペプチド複合体」または「受容体/ペプチド断片複合体」、具体的には、ペプチドまたはペプチド断片を提示しているクラスIまた
はクラスIIのMHC分子を意味するものとして理解されるべきである。
【0045】
「主要組織適合性抗原(MHC)のタンパク質もしくは分子」、「MHC分子」、「MHCタン
パク質」、または「HLAタンパク質」とは、具体的には、タンパク質抗原のタンパク質分
解的切断に起因する、可能性のあるT細胞エピトープを表すペプチドに結合し、細胞表面
へとそれらを輸送し、特異的な細胞、具体的には、細胞障害性Tリンパ球またはTヘルパー細胞へとそれらを提示することができるタンパク質を意味するものとして理解されるべきである。ゲノム内の主要組織適合性抗原は、細胞表面上に発現されたその遺伝子産物が、内因性抗原および/または外来抗原に結合しそれらを提示するため、従って、免疫学的過程を調節するために重要であるような遺伝子領域を含む。主要組織適合性抗原は、異なるタンパク質をコードする二つの遺伝子群、即ち、MHCクラスIの分子およびMHCクラスIIの
分子に分類される。二つのMHCクラスの分子は、異なる抗原起源のために専門化されてい
る。MHCクラスIの分子は、内因的に合成された抗原、例えば、ウイルスタンパク質および腫瘍抗原を提示する。MHCクラスIIの分子は、外因性の起源に起因するタンパク質抗原、
例えば、細菌産物を提示する。二つのMHCクラスの細胞生物学および発現パターンは、こ
れらの異なる役割に適合している。
【0046】
クラスIのMHC分子は、重鎖および軽鎖からなり、ペプチドが適当な結合モチーフを有する場合、約8~11アミノ酸、一般的には、9または10アミノ酸のペプチドに結合し、それを細胞障害性Tリンパ球へと提示することができる。クラスIのMHC分子が結合するペプチド
は、内因性タンパク質抗原に起因する。クラスIのMHC分子の重鎖は、好ましくは、HLA-A
モノマー、HLA-Bモノマー、またはHLA-Cモノマーであり、軽鎖はβ2ミクログロブリンで
ある。
【0047】
クラスIIのMHC分子は、α鎖およびβ鎖からなり、ペプチドが適当な結合モチーフを有
する場合、約15~24アミノ酸のペプチドに結合し、それをTヘルパー細胞へと提示するこ
とができる。クラスIIのMHC分子が結合するペプチドは、一般的に、細胞外のまたは外因
性のタンパク質抗原に起因する。α鎖およびβ鎖は、具体的には、HLA-DRモノマー、HLA-DQモノマー、およびHLA-DPモノマーである。
【0048】
「ワクチン」とは、疾患の予防および/または処置のために免疫を生じるための組成物を意味するとして理解されるべきである。従って、ワクチンは、抗原を含む医薬であり、ワクチン接種により特異的な防御および防御物質を生成するためにヒトまたは動物において使用することを意図したものである。
【0049】
「単離された」とは、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド、またはそれらの断片、バリアント、もしくは誘導体が、それが天然に関連している他の生物学的材料から本質的に除去されているか、または、例えば、本発明のポリペプチドを発現するよう遺伝学的に操作された組換え宿主細胞に由来する他の生物学的材料を本質的に含まないことを意味する。
【0050】
「ネオ抗原」とは、発現されたタンパク質における腫瘍特異的な変異から発生する、腫
瘍抗原のクラスを意味する。
【0051】
「精製された」とは、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド、またはそれらの断片、バリアント、もしくは誘導体が、それが天然に関連している他の生物学的材料を実質的に含まないか、または、例えば、本発明のポリペプチドを発現するよう遺伝学的に操作された組換え宿主細胞に由来する他の生物学的材料を実質的に含まないことを意味する。即ち、例えば、本発明の精製されたポリペプチドは、少なくとも純度約70~100%のポリペプ
チドであり、即ち、ポリペプチドは、全組成物の約70~100重量%を構成して、組成物中
に存在する。いくつかの態様において、本発明の精製されたポリペプチドは、純度約75~99重量%であるか、純度約80~99重量%であるか、純度約90~99重量%であるか、または純度約95~99重量%である。
【0052】
腫瘍特異的な変異の同定
本発明は、ある種の変異(例えば、癌細胞に存在するバリアントまたは対立遺伝子)の同定に基づく。具体的には、これらの変異は、癌を有する対象の癌細胞のゲノムに存在し、その対象に由来する正常組織には存在しない。
【0053】
腫瘍における遺伝子変異は、腫瘍において排他的にタンパク質のアミノ酸配列の変化をもたらす場合、腫瘍を免疫学的に標的とするために有用であると考えられるであろう。有用な変異には、以下のものが含まれる:(1)タンパク質において異なるアミノ酸をもた
らす非同義変異;(2)終止コドンが修飾されるかまたは欠失し、新規の腫瘍特異的な配
列をC末端に有するより長いタンパク質の翻訳をもたらすリードスルー変異;(3)成熟mRNAへのイントロンの包含をもたらし、従って、独特の腫瘍特異的なタンパク質配列をもたらすスプライス部位変異;(4)2種のタンパク質の接続部に腫瘍特異的な配列を有するキメラタンパク質を与える染色体再編成(即ち、遺伝子融合);(5)新規の腫瘍特異的な
タンパク質配列を有する新たなオープンリーディングフレームをもたらすフレームシフト変異または欠失。
【0054】
例えば、腫瘍細胞におけるスプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異から発生した変異を有するペプチドまたは変異型ポリペプチドは、腫瘍細胞 対 正常細胞において、DNA、RNA、またはタンパク質を配列決定することにより同定され得る。
【0055】
以前に同定された腫瘍特異的な変異を含むペプチドも、本発明の範囲内である。公知の腫瘍変異は、http://www.sanger.ac.uk/cosmicに見出され得る。
【0056】
多様な方法が、個体のDNAまたはRNAにおける特定の変異または対立遺伝子の存在を検出するために利用可能である。この領域の進歩は、正確で、容易で、かつ低コストの大規模SNP遺伝子型決定を提供した。最近、例えば、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーシ
ョン(DASH)、マイクロプレートアレイダイアゴナルゲル電気泳動(MADGE)、ピロシー
ケンス、オリゴヌクレオチド特異的ライゲーション、TaqMan系、およびAffymetrix SNPチップのような様々なDNA「チップ」技術を含む、いくつかの新たな技術が記載された。こ
れらの方法は、標的遺伝子領域の増幅、典型的には、PCRによる増幅を必要とする。侵襲
的な切断による小さなシグナル分子の生成、それに続く、質量分析または固定化パッドロックプローブおよびローリングサークル増幅に基づく、さらに他の新たに開発された方法は、最終的に、PCRの必要性を排除する可能性がある。特異的な一塩基多型を検出するた
めの当技術分野において公知の方法のいくつかは、以下に要約される。本発明の方法は、全ての利用可能な方法を含むものと理解される。
【0057】
PCRに基づく検出手段には、複数のマーカーの同時の多重増幅が含まれ得る。例えば、
サイズがオーバーラップせず、同時に分析され得るPCR産物を生成するため、PCRプライマーを選択することは、当技術分野において周知である。あるいは、示差的に標識されており、従って、各々、示差的に検出され得るプライマーを用いて、異なるマーカーを増幅することが可能である。当然、ハイブリダイゼーションに基づく検出手段は、試料中の複数のPCR産物の示差的な検出を可能にする。複数のマーカーの多重分析を可能にするその他
の技術は、当技術分野において公知である。
【0058】
いくつかの方法が、ゲノムDNAまたは細胞RNAにおける一塩基多型の分析を容易にするため、開発されている。一つの態様において、一塩基多形は、例えば、Mundy,C.R.(米国特許第4,656,127号)に開示されるように、特殊なエキソヌクレアーゼ抵抗性ヌクレオチド
を使用することにより検出され得る。その方法によると、多形部位の直ぐ3'側の対立遺伝子配列に相補的なプライマーを、特定の動物またはヒトから得られた標的分子にハイブリダイズさせる。標的分子上の多形部位が、存在する特定のエキソヌクレアーゼ抵抗性ヌクレオチド誘導体に相補的なヌクレオチドを含有している場合、その誘導体はハイブリダイズしたプライマーの末端に取り込まれるであろう。そのような取り込みは、プライマーをエキソヌクレアーゼ抵抗性にし、それにより、その検出を可能にする。試料のエキソヌクレアーゼ抵抗性誘導体の同一性が既知であるため、プライマーがエキソヌクレアーゼ抵抗性になったという所見は、標的分子の多形部位に存在するヌクレオチドが、反応において使用されたヌクレオチド誘導体のものに相補的であったことを明らかにする。この方法は、多量の外来配列データの決定を必要としないという利点を有する。
【0059】
本発明のもう一つの態様において、溶液に基づく方法が、多形部位のヌクレオチドの同一性の決定のために使用される。Cohen,D.ら(フランス特許第2,650,840号;PCT出願番号WO91/02087)。米国特許第4,656,127号のMundyの方法と同様に、多形部位の直ぐ3'側の対立遺伝子配列に相補的なプライマーが利用される。その方法は、多形部位のヌクレオチドに相補的である場合に、プライマーの末端に取り込まれるであろう、標識されたジデオキシヌクレオチド誘導体を使用して、その部位のヌクレオチドの同一性を決定する。
【0060】
Genetic Bit AnalysisまたはGBA(登録商標)として公知の別の方法は、Goelet,P.ら(PCT出願番号92/15712)により記載されている。Goelet,P.らの方法は、標識されたターミネーターと、多形部位の3'側の配列に相補的なプライマーとの混合物を使用する。従って、取り込まれる標識されたターミネーターは、評価されている標的分子の多形部位に存在するヌクレオチドにより決定され、それに相補的である。Cohenら(フランス特許第2,650,840号;PCT出願番号W091/02087)の方法とは対照的に、Goelet,P.らの方法は、好ましくは、プライマーまたは標的分子が固相に固定化される不均一系アッセイである。
【0061】
最近、DNAの多形部位をアッセイするための、いくつかのプライマーガイド(primer-guided)ヌクレオチド取り込み法が記載された
。これらの方法は、多形部位における塩基を識別するため、標識されたデオキシヌクレオチドの取り込みに全て頼る点で、GBA(登録商標)と異なる。そのようなフォーマットに
おいては、シグナルが、取り込まれたデオキシヌクレオチドの数に比例するため、同一のヌクレオチドのランにおいて起こる多形が、ランの長さに比例するシグナルをもたらし得
る(Syvanen,A.-C.,et al.,Amer.J.Hum.Genet.52:46-59(1993))。
【0062】
数百万の個々のDNA分子またはRNA分子から直接、平行して、配列情報を得るため、多数の構想が現在進行中である。リアルタイムの単一分子Sequencing-by-Synthesis(SBS)技術は、配列決定されている鋳型に相補的なDNAの新生鎖に取り込まれる際の蛍光性ヌクレ
オチドの検出に頼る。一つの方法において、30~50塩基長のオリゴヌクレオチドが、カバーガラスに5'末端で共有結合的に接着させられる。これらの接着した鎖は、二つの機能を果たす。第一に、鋳型が、表面に結合したオリゴヌクレオチドに相補的な捕獲テールを含んで構成される場合、それらは、標的鋳型鎖の捕獲部位として機能する。また、それらは、配列読み取りの基礎を形成する、鋳型により指図されたプライマー伸張のためのプライマーとしても作用する。捕獲プライマーは、合成、検出、および色素を除去するための色素リンカーの化学的切断の複数のサイクルを使用した配列決定のための固定された部位として機能する。各サイクルは、ポリメラーゼ/標識されたヌクレオチドの混合物の添加、濯ぎ、イメージング、および色素の切断からなる。別の方法においては、ポリメラーゼが、蛍光ドナー分子により修飾され、ガラススライドに固定化され、各ヌクレオチドが、γリン酸に付着したアクセプター蛍光成分により色分けされる。系は、ヌクレオチドが新生鎖に取り込まれる際の、蛍光タグ付きポリメラーゼと、蛍光により修飾されたヌクレオチドとの間の相互作用を検出する。その他のSBS技術も存在する。
【0063】
好ましくは、任意の適当なSBSプラットフォームが、変異を同定するために使用され得
る。上記のように、四つの主要なSBSプラットフォームが、現在、利用可能である:Roche/454 Life SciencesのGenome Sequencers、Illumina/Solexaの1G Analyzer、Applied BioSystemsのSOLiD system、およびHelicos BiosciencesのHeliscope system。SBSプラット
フォームは、Pacific BioSciencesおよびVisiGen Biotechnologiesによっても記載されている。これらのプラットフォームの各々が、本発明の方法において使用され得る。いくつかの態様において、配列決定される複数の核酸分子を、支持体(例えば、固体支持体)に結合させる。支持体上に核酸を固定化するため、鋳型の3'末端および/または5'末端に、捕獲配列/ユニバーサルプライミング部位を付加することができる。支持体に共有結合的に付着している相補配列に捕獲配列をハイブリダイズさせることによって、核酸を支持体に結合させることもできる。(ユニバーサル捕獲配列とも呼ばれる)捕獲配列は、ユニバーサルプライマーとして二重に機能することができる、支持体に付着している配列に相補的な核酸配列である。
【0064】
捕獲配列の代わりに、(例えば、例えば、米国特許出願第2006/0252077号に記載されるような、抗体/抗原対、受容体/リガンド対、またはアビジン-ビオチン対のような)カ
ップリング対のメンバーを、そのカップリング対のそれぞれの第二のメンバーによりコーティングされた表面に捕獲されるよう、各断片に連結させてもよい。
【0065】
捕獲の後、例えば、鋳型依存性SBSを含む、例えば、実施例および米国特許第7,283,337号に記載されたような単一分子検出/配列決定により、配列を分析することができる。SBSにおいては、表面に結合した分子を、ポリメラーゼの存在下で、複数の標識されたヌク
レオチド三リン酸に曝す。成長中の鎖の3'末端に取り込まれた標識ヌクレオチドの順序により、鋳型の配列を決定する。これは、リアルタイムで行われてもよいし、またはステップアンドリピートモードで行われてもよい。リアルタイム分析のためには、各ヌクレオチドに異なる光学標識を組み込み、取り込まれたヌクレオチドの刺激のために複数のレーザーを利用することができる。
【0066】
本明細書に記載された診断において使用するための核酸試料を得るため、任意の細胞型または組織が利用され得る。好ましい態様において、DNA試料またはRNA試料は、腫瘍、または体液、例えば、公知の技術(例えば、静脈穿刺)によって得られた血液、または唾液
から得られる。あるいは、乾性試料(例えば、毛髪または皮膚)に対して、核酸試験が実施されてもよい。
【0067】
あるいは、腫瘍細胞上のMHCタンパク質に結合している変異ペプチドの存在を同定する
かまたは実証するため、タンパク質質量分析が使用されてもよい。腫瘍細胞から、または腫瘍から免疫沈降したHLA分子から、ペプチドを酸溶出させ、次いで、質量分析を使用し
て同定することができる。
【0068】
ネオ抗原性ペプチド
本発明は、本発明の方法により同定された腫瘍特異的な変異を含む単離されたペプチド、公知の腫瘍特異的な変異を含むペプチド、および本発明の方法によって同定された変異ポリペプチドまたはそれらの断片をさらに含む。これらのペプチドおよびポリペプチドは、本明細書中、「ネオ抗原性ペプチド」または「ネオ抗原性ポリペプチド」と呼ばれる。「ペプチド」という用語は、典型的には、隣接するアミノ酸のαアミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合によって相互に接続された一連の残基、典型的には、L-アミノ酸をさすため、本明細書において「変異ペプチド」および「ネオ抗原性ペプチド」と交換可能に使用される。同様に、「ポリペプチド」という用語は、典型的には、隣接するアミノ酸のαアミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合によって相互に接続された一連の残基、典型的には、L-アミノ酸をさすため、本明細書において「変異ポリペプチド」および「ネオ抗原性ポリペプチド」と交換可能に使用される。ポリペプチドまたはペプチドは、多様な長さであり得、中性(電荷を有しない)型であってもよいしまたは塩の型であってもよく、グリコシル化、側鎖の酸化、もしくはリン酸化のような修飾を含まなくてもよいし、またはこれらの修飾を含有していてもよいが、修飾は、本明細書に記載されるようなポリペプチドの生物学的活性を破壊しないものでなければならない。
【0069】
ある種の態様において、少なくとも1種のネオ抗原性ペプチド分子のサイズには、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、またはそ
れ以上のアミノ分子残基、およびその中の任意の推論可能な範囲が含まれ得るが、これらに限定されない。具体的な態様において、ネオ抗原性ペプチド分子は、50アミノ酸に等しいかそれ未満である。
【0070】
いくつかの態様において、本発明の具体的なネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、MHCクラスIについては、13残基長またはそれ未満であり、一般的には、約8
~約11残基、具体的には、9または10残基からなり;MHCクラスIIについては、15~24残基からなる。
【0071】
いくつかの方式で、より長いペプチドを設計してもよい。一つのケースにおいて、HLA
結合ペプチドが予測されるかまたは既知である場合、より長いペプチドは、以下のいずれかからなっていてよい:(1)各々の対応する遺伝子産物のN末端およびC末端に向かって2~5アミノ酸の伸張を有する個々の結合ペプチド;(2)各々についての伸張配列を有する結合ペプチドのいくつかまたは全ての連結。もう一つのケースにおいて、(例えば、新規のペプチド配列をもたらす、フレームシフト、リードスルー、またはイントロン包含による)腫瘍に存在する長い(>10残基)ネオエピトープ配列が、配列決定によって明らかになった時、より長いペプチドは、(3)新規の腫瘍特異的なアミノ酸のストレッチ全体:
からなり、従って、HLAタンパク質に対するペプチド結合のコンピュータ予測またはイン
ビトロ試験の必要性が回避されるであろう。いずれのケースにおいても、より長いペプチドの使用は、患者の細胞による内因的なプロセシングを可能にし、より有効な抗原提示お
よびT細胞応答の誘導をもたらし得る。
【0072】
ネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、HLAタンパク質に結合する。い
くつかの局面において、ネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、野生型ペプチドより高い親和性で、HLAタンパク質に結合する。ネオ抗原性ペプチドまたはネオ抗
原性ポリペプチドは、少なくとも5000nM未満、少なくとも500nM未満、少なくとも250nM未満、少なくとも200nM未満、少なくとも150nM未満、少なくとも100nM未満、少なくとも50nM未満、またはそれ以下のIC50を有する。
【0073】
ネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、対象へ投与された時、自己免疫応答を誘導せずかつ/または免疫寛容を惹起しない。
【0074】
本発明は、少なくとも2種以上のネオ抗原性ペプチドを含む組成物も提供する。いくつ
かの態様において、組成物は、少なくとも2種の別個のペプチドを含有している。好まし
くは、少なくとも2種の別個のペプチドは、同一のポリペプチドに由来する。別個のポリ
ペプチドとは、長さ、アミノ酸配列、またはその両方について異なっているペプチドを意味する。ペプチドは、腫瘍特異的な変異を含有していることが公知であるか、または本発明の方法によって見出された任意のポリペプチドに由来する。ネオ抗原性ペプチドが由来し得る適当なポリペプチドは、例えば、COSMICデータベース(http://www.sanger.ac.uk/cosmic)に見出され得る。COSMICは、ヒト癌における体細胞変異に関する包括的な情報を管理している。ペプチドは腫瘍特異的な変異を含有している。いくつかの局面において、腫瘍特異的な変異とは、特定の癌型に対するドライバー変異である。いくつかの局面において、ペプチドは、SF3B1ポリペプチド、MYD88ポリペプチド、TP53ポリペプチド、ATMポ
リペプチド、Ablポリペプチド、FBXW7ポリペプチド、DDX3Xポリペプチド、MAPK1ポリペプチド、またはGNB1ポリペプチドに由来する。
【0075】
SF3B1ペプチドとは、SF3B1ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、SF3B1ペプチドは、野生型SF3B1に基づいて番号付けた場合、アミノ酸625位にロ
イシン;アミノ酸626位にヒスチジン;アミノ酸700位にグルタミン酸;アミノ酸742位に
アスパラギン酸;またはアミノ酸903位にアルギニンを含む。野生型SF3B1は表Aに示され
る(SEQ ID NO:1)。
【0076】
(表A)野生型SF3B1(SEQ ID NO:1)
【0077】
MYD88ペプチドとは、MYD88ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、MYD88ペプチドは、野生型MYD88に基づいて番号付けた場合、アミノ酸232位にト
レオニン;アミノ酸258位にロイシン;またはアミノ酸265位にプロリンを含む。野生型MYD88は表Bに示される(SEQ ID NO:2)。
【0078】
(表B)野生型MYD88(SEQ ID NO:2)
【0079】
TP53ペプチドとは、TP53ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、TP53ペプチドは、野生型TP53に基づいて番号付けた場合、アミノ酸111位にアルギ
ニン;アミノ酸215位にアルギニン;アミノ酸238位にセリン;アミノ酸248位にグルタミ
ン;アミノ酸255位にフェニルアラニン;アミノ酸273位にシステイン、またはアミノ酸281位にアスパラギンを含む。野生型TP53は表Cに示される(SEQ ID NO:3)。
【0080】
(表C)野生型TP53(SEQ ID NO:3)
【0081】
ATMペプチドとは、SF3B1ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、ATMペプチドは、野生型ATMに基づいて番号付けた場合、アミノ酸1252位にフェニルアラニン;アミノ酸2038位にアルギニン;アミノ酸2522位にヒスチジン;またはアミノ酸2954位にシステインを含む。
【0082】
野生型ATMは表Dに示される(SEQ ID NO:4)。
【0083】
(表D)野生型ATM(SEQ ID NO:4)
【0084】
Ablペプチドとは、Ablポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、Bcr-ablペプチドは、野生型Ablに基づいて番号付けた場合、アミノ酸244位にバリン
;アミノ酸248位にバリン;アミノ酸250位にグルタミン酸;アミノ酸250位にアラニン;
アミノ酸252位にヒスチジン;アミノ酸252位にアルギニン;アミノ酸253位にフェニルア
ラニン;アミノ酸253位にヒスチジン;アミノ酸255位にリジン;アミノ酸255位にバリン
;アミノ酸276位にグリシン;アミノ酸315位にイソロイシン;アミノ酸315位にアスパラ
ギン;アミノ酸317位にロイシン;アミノ酸343位にトレオニン;アミノ酸351位にトレオ
ニン;アミノ酸355位にグリシン;アミノ酸359位にバリン;アミノ酸359位にアラニン;
アミノ酸379位にイソロイシン;アミノ酸382位にロイシン;アミノ酸387位にメチオニン
;アミノ酸396位にプロリン;アミノ酸396位にアルギニン;アミノ酸417位にチロシン;
またはアミノ酸486位にセリンを含む。野生型Ablは表Eに示される(SEQ ID NO:5)。
【0085】
(表E)野生型Abl(SEQ ID NO:5)
【0086】
FBXW7ペプチドとは、FBXW7ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、FBXW7ペプチドは、野生型FBXW7に基づいて番号付けた場合、アミノ酸280位にロ
イシン;アミノ酸465位にヒスチジン;アミノ酸505位にシステイン;またはアミノ酸597
位にグルタミン酸を含む。野生型FBXW7は表Fに示される(SEQ ID NO:6)。
【0087】
(表F)野生型FBXW7(SEQ ID NO:6)
【0088】
DDX3Xペプチドとは、DDX3Xポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。DDX3Xペプチドは、野生型DDX3Xに基づいて番号付けた場合、アミノ酸24位におけるミスセンス変異;アミノ酸342位におけるスプライス部位、またはアミノ酸410位におけるフレームシフトの結果であるペプチドである。野生型DDX3Xは表Gに示される(SEQ ID NO:7)。
【0089】
(表F)野生型DDX3X(SEQ ID NO:7)
【0090】
MAPK1ペプチドとは、MAPK1ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、MAPK1ペプチドは、野生型MAPK1に基づいて番号付けた場合、アミノ酸162位にア
スパラギン;アミノ酸291位にグリシン;またはアミノ酸316位にフェニルアラニンを含む。野生型MAPK1は表Hに示される(SEQ ID NO:8)。
【0091】
(表F)野生型MAPK1(SEQ ID NO:8)
【0092】
GNB1ペプチドとは、GNB1ポリペプチドの一部分を含有するペプチドを意味する。好ましくは、GNB1ペプチドは、野生型GNB1に基づいて番号付けた場合、アミノ酸180位にトレオ
ニンを含む。野生型GNB1は表Iに示される(SEQ ID NO:9)。
【0093】
(表I)野生型GNB1(SEQ ID NO:9)
【0094】
所望の活性を有するネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、所望のMHC
分子に結合し適切なT細胞を活性化する未修飾ペプチドの生物学的活性を増加させるか、
または少なくともその実質的に全てを保持しつつ、ある種の所望の属性、例えば、改良された薬理学的特徴を提供するため、必要に応じて、修飾されてもよい。例えば、ネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、保存的または非保存的な置換のような様々な変化を受けることができ、そのような変化は、改良されたMHC結合のような、使用上の
ある種の利点を提供する可能性がある。保存的置換とは、あるアミノ酸残基を、生物学的にかつ/または化学的に類似したもう一つのアミノ酸に交換すること、例えば、疎水性残基同士の交換、または極性残基同士の交換を意味する。置換には、Gly、Ala;Val、Ile、Leu、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrのような組み合わせが含まれる。単一アミノ酸置換の効果は、D-アミノ酸を使用して探索されてもよい。そのような修飾は、例えば、Merrifield,Science 232:341-347(1986)、Barany & Merrifield,The Peptides,Gross & Meienhofer,eds.(N.Y.,Academic Press),pp.1-284(1979);およびStewart & Young,Solid Phase Peptide Synthesis,(Rockford,III.,Pierce),2d Ed.(1984)に記載されたような、周知のペプチド合成法を使用してなされ得る。
【0095】
ネオ抗原性ペプチドおよびネオ抗原性ポリペプチドは、例えば、アミノ酸の付加または欠失により、化合物のアミノ酸配列を伸張するかまたは減少させることにより修飾されてもよい。ペプチド、ポリペプチド、または類似体は、ある種の残基の順序または組成を改変することによっても修飾され得るが、生物学的活性にとって必須のある種のアミノ酸残基、例えば、重要な接触部位にあるものまたは保存された残基は、一般に、生物学的活性に対する有害効果なしには改変され得ないことが容易に認識される。重要でないアミノ酸は、L-αアミノ酸またはそれらのD-異性体のようなタンパク質に天然に存在するものに必ずしも限定されず、β-γ-δ-アミノ酸のような非天然アミノ酸、およびL-αアミノ酸の
多くの誘導体も同様に含む。
【0096】
典型的には、単一アミノ酸置換を有する一連のペプチドは、静電気的電荷、疎水性等の、結合に対する効果を決定するために利用される。例えば、様々なMHC分子およびT細胞受容体に対する異なる感受性のパターンを明らかにするため、一連の正の電荷を有するアミノ酸(例えば、LysまたはArg)または負の電荷を有するアミノ酸(例えば、Glu)の置換
が、ペプチドの長さに沿って作成される。さらに、Ala、Gly、Pro、または類似している
残基のような、小さな比較的中性の成分を使用した複数の置換が、利用されてもよい。置換は、ホモオリゴマーまたはヘテロオリゴマーであってもよい。置換されるかまたは付加される残基の数および型は、必須の接触点の間に必要な間隔、および求められるある種の機能的属性(例えば、疎水性 対 親水性)に依る。親ペプチドの親和性と比較して増加した、MHC分子またはT細胞受容体に対する結合親和性も、そのような置換によって達成され得る。いかなる場合にも、そのような置換は、例えば、結合を破壊する可能性のある立体干渉および電荷干渉を回避するために選ばれたアミノ酸残基またはその他の分子断片を利用するべきである。
【0097】
アミノ酸置換は、典型的には、単一残基の置換である。最終的なペプチドを得るために置換、欠失、挿入、またはそれらの任意の組み合わせを組み合わせてもよい。置換バリアントは、ペプチドの少なくとも1個の残基が除去され、その場所に異なる残基が挿入され
たものである。ペプチドの特徴を微細にモジュレートすることが望まれる時、そのような置換は、一般に、以下の表に従って作成される。
【0098】
機能(例えば、MHC分子またはT細胞受容体に対する親和性)の実質的な変更は、上記表中のものより保存的でない置換を選択することにより、即ち、(a)置換の区域における
ペプチド骨格の構造、例えば、シートもしくはヘリックスコンフォメーション、(b)標
的部位における分子の電荷もしくは疎水性、の維持に対する効果、または(c)側鎖のか
さ、に関してより有意に異なる残基を選択することにより、なされ得る。一般に、ペプチ
ド特性を最も大きく変化させると予想される置換は、(a)親水性残基、例えばセリルと
、疎水性残基、例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、もしくはアラニルとの置換;(b)正の電荷を有する側鎖を有する残基、例えばリジル、アルギニル
、もしくはヒスチジルと、負の電荷を有する残基、例えばグルタミルもしくはアスパルチルとの置換;または(c)かさの大きい側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンと、
側鎖を有しないもの、例えばグリシンとの置換であろう。
【0099】
ペプチドおよびポリペプチドは、ネオ抗原性ペプチドまたはネオ抗原性ポリペプチドに2残基以上のアイソスターを含んでいてもよい。アイソスターとは、本明細書において定
義されるように、第一の配列の立体的コンフォメーションが、第二の配列に特異的な結合部位に適合するため、第二の配列の代わりに用いられ得る、2残基以上の配列である。そ
の用語には、具体的には、当業者に周知のペプチド骨格修飾が含まれる。そのような修飾には、アミド窒素、α炭素、アミドカルボニルの修飾、アミド結合の完全な交換、伸張、欠失、または骨格架橋が含まれる。一般に、Spatola,Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides and Proteins,Vol.VII(Weinstein ed.,1983)を参照のこと。
【0100】
様々なアミノ酸模倣体または非天然アミノ酸によるペプチドおよびポリペプチドの修飾は、インビボでのペプチドおよびポリペプチドの安定性を増加させるために特に有用である。安定性は、多数の方式でアッセイされ得る。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清のような様々な生物学的培地が、安定性を試験するために使用されている。例えば、Verhoef et al.,Eur.J.Drug Metab Pharmacokin.11:291-302(1986)を参照の
こと。本発明のペプチドの半減期は、25%ヒト血清(v/v)アッセイを使用して、便利に
決定される。そのプロトコルは一般に以下の通りである。プールされたヒト血清(AB型、非熱不活化)を、使用前に、遠心分離により脱脂する。次いで、血清をRPMI組織培養培地で25%に希釈し、ペプチド安定性を試験するために使用する。所定の時間間隔で、少量の反応溶液を取り出し、6%水性トリクロロ酢酸またはエタノールのいずれかに添加する。
濁った反応試料を15分間冷却し(4℃)、次いで、沈降した血清タンパク質をペレット化
するため、スピンする。次いで、ペプチドの存在を、安定性特異的なクロマトグラフィ条件を使用して、逆相HPLCにより決定する。
【0101】
ペプチドおよびポリペプチドは、改良された血清半減期以外の所望の属性を提供するため、修飾されてもよい。例えば、Tヘルパー細胞応答を誘導することができる少なくとも1個のエピトープを含有している配列との連結によって、ペプチドのCTL活性誘導能を増強
することができる。特に好ましい免疫原性ペプチド/Tヘルパーコンジュゲートは、スペ
ーサー分子により連結される。スペーサーは、典型的には、生理学的条件下で実質的に電荷を有しない、アミノ酸またはアミノ酸模倣体のような、比較的小さな中性分子から構成される。スペーサーは、典型的には、例えば、Ala、Gly、または非極性アミノ酸もしくは中性極性アミノ酸のその他の中性スペーサーより選択される。任意で存在するスペーサーは、同一残基から構成されている必要はなく、従って、ヘテロオリゴマーまたはホモオリゴマーであり得ることが理解されるであろう。存在する場合、スペーサーは、一般的に、少なくとも1または2残基、より一般的には、3~6残基であろう。あるいは、ペプチドは、スペーサーなしでTヘルパーペプチドに連結されてもよい。
【0102】
ネオ抗原性ペプチドは、ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかにおいて、直接、またはスペーサーを介して、Tヘルパーペプチドに連結され得る。ネオ抗原性
ペプチドまたはTヘルパーペプチドのいずれかのアミノ末端が、アシル化され得る。例示
的なTヘルパーペプチドには、破傷風トキソイド830-843、インフルエンザ307-319、マラ
リアスポロゾイト周囲(malaria circumsporozoite)382-398および378-389が含まれる。
【0103】
タンパク質またはペプチドは、標準的な分子生物学的技術を通したタンパク質、ポリペ
プチド、もしくはペプチドの発現、天然起源からのタンパク質もしくはペプチドの単離、またはタンパク質もしくはペプチドの化学合成を含む、当業者に公知の任意の技術によって作成され得る。様々な遺伝子に対応するヌクレオチド、ならびにタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドの配列は、以前に開示されており、当業者に公知のコンピュータ化されたデータベースに見出され得る。そのようなデータベースの一つは、National Institutes of Healthのウェブサイトに位置するNational Center for Biotechnology InformationのGenbankデータベースおよびGenPeptデータベースである。公知の遺伝子のコーディング領域は、本明細書に開示された技術を使用して、または当業者に公知であるように、増幅されかつ/または発現され得る。あるいは、タンパク質、ポリペプチド、およびペプチドの様々な市販の調製物が、当業者に公知である。
【0104】
さらなる局面において、本発明は、本発明のネオ抗原性ペプチドをコードする核酸(例えば、ポリヌクレオチド)を提供する。ポリヌクレオチドは、例えば、一本鎖かつ/もしくは二本鎖のDNA、cDNA、PNA、CNA、RNA、またはネイティブのもしくは安定化された型のポリヌクレオチド、例えば、ホスホロチオエート骨格を有するポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせであり得、ペプチドをコードする限り、イントロンを含有していてもよいしまたは含有していなくてもよい。当然、天然に存在するペプチド結合によって接合された、天然に存在するアミノ酸残基を含有しているペプチドのみが、ポリヌクレオチドによってコード可能である。本発明のさらなる局面は、本発明に係るポリペプチドを発現することができる発現ベクターを提供する。異なる細胞型に対する発現ベクターは、当技術分野において周知であり、過度の実験なしに選択され得る。一般に、DNAは、発現のた
めの適切な方向および正確なリーディングフレームで、プラスミドのような発現ベクターに挿入される。必要であれば、DNAは、所望の宿主によって認識される適切な転写および
翻訳の調節制御ヌクレオチド配列に連結されてもよいが、そのような制御は、一般に、発現ベクター内に利用可能である。次いで、ベクターは、標準的な技術を通して、宿主へ導入される。指針は、例えば、Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.に見出され得る。
【0105】
ワクチン組成物
本発明は、特異的なT細胞応答を起こすことができる免疫原性組成物、例えば、ワクチ
ン組成物に関する。ワクチン組成物は、本明細書に記載された方法により同定された腫瘍特異的なネオ抗原に対応する変異ペプチドおよび変異ポリペプチドを含む。
【0106】
当業者は、例えば、インビトロでのT細胞の生成ならびにその効率および全存在量、あ
る種のペプチドに対するある種のT細胞の増殖、親和性、および増大、ならびにT細胞の機能性を試験することにより、例えば、T細胞によるIFN-γ産生または腫瘍死滅を分析する
ことにより、好ましいペプチド、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを選択することができるであろう。通常は、最も効率的な複数のペプチドを、次にワクチンとして組み合わせる。
【0107】
適当なワクチンは、好ましくは、1~20種のペプチド、より好ましくは、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、17種、18種
、19種、または20種の異なるペプチド、さらに好ましくは、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、または14種の異なるペプチド、最も好ましくは、12種、13種、または14種の異なるペプチドを含有しているであろう
【0108】
本発明の一つの態様において、一つのワクチン組成物が、異なるMHCクラスI分子のような異なるMHC分子と会合することができるペプチドおよび/またはポリペプチドを含むよ
う、異なるペプチドおよび/またはポリペプチドが選択される。好ましくは、一つのワクチン組成物は、最も高頻度に存在するMHCクラスI分子と会合することができるペプチドお
よび/またはポリペプチドを含む。従って、本発明に係るワクチン組成物は、少なくとも2種、より好ましくは、少なくとも3種、さらに好ましくは、少なくとも4種の好ましいMHCクラスI分子と会合することができる異なる断片を含む。
【0109】
ワクチン組成物は、特異的な細胞障害性T細胞応答および/または特異的なヘルパーT細胞応答を起こすことができる。
【0110】
ワクチン組成物は、アジュバントおよび/または担体をさらに含んでいてもよい。有用なアジュバントおよび担体の例は、本明細書中に以下に与えられる。組成物中のペプチドおよび/またはポリペプチドは、例えば、タンパク質、または、例えば、ペプチドをT細
胞へと提示することができる樹状細胞(DC)のような抗原提示細胞のような担体と会合していてもよい。
【0111】
アジュバントとは、ワクチン組成物に混和された場合に、変異ペプチドに対する免疫応答を増加させるかまたはその他の様式で修飾する任意の物質である。担体とは、ネオ抗原性ペプチドが会合することができる足場構造、例えば、ポリペプチドまたは多糖である。任意で、アジュバントは、本発明のペプチドまたはポリペプチドに共有結合または非共有結合でコンジュゲートされる。
【0112】
抗原に対する免疫応答を増加させるアジュバントの能力は、典型的には、免疫により媒介される反応の有意な増加、または疾患症状の低下により、顕在化する。例えば、体液性免疫の増加は、典型的には、抗原に対して生じた抗体の力価の有意な増加により顕在化し、T細胞活性の増加は、典型的には、増加した細胞増殖、または細胞障害性、またはサイ
トカイン分泌において顕在化する。アジュバントは、例えば、主として体液性の応答またはTh応答を、主として細胞性の応答またはTh応答に変更することにより、免疫応答を改変することもできる。
【0113】
適当なアジュバントには、1018ISS、アルミニウム塩、Amplivax、AS15、BCG、CP-870,893、CpG7909、CyaA、dSLIM、GM-CSF、IC30、IC31、イミキモド(Imiquimod)、ImuFact IMP321、IS Patch、ISS、ISCOMATRIX、JuvImmune、LipoVac、MF59、モノホスホリルリピドA、モンタニド(Montanide)IMS 1312、モンタニドISA 206、モンタニドISA 50V、モンタニドISA-51、OK-432、OM-174、OM-197-MP-EC、ONTAK、PepTel.RTM.ベクター系、PLG微粒
子、レシキモド(resiquimod)、SRL172、ビロソームおよびその他のウイルス様粒子、YF-17D、VEGF trap、R848、βグルカン、Pam3Cys、サポニンに由来するAquila's QS21 stimulon(Aquila Biotech,Worcester,Mass.,USA)、ミコバクテリウム抽出物、および合成細菌細胞壁模倣体、およびRibi's Detox.QuilまたはSuperfosのようなその他の専用アジュ
バントが含まれるが、これらに限定されない。不完全フロイントまたはGM-CSFのようなアジュバントが好ましい。樹状細胞およびそれらの調製物に特異的ないくつかの免疫学的アジュバント(例えば、MF59)は、以前に記載されている(Dupuis M,et al.,Cell Immunol.1998;186(1):18-27;Allison A C;Dev Biol Stand.1998;92:3-11)。また、サイトカイ
ンが使用されてもよい。いくつかのサイトカインは、樹状細胞のリンパ組織への遊走に対する影響(例えば、TNFα)、Tリンパ球に対する効率的な抗原提示細胞への樹状細胞の成熟の促進(例えば、GM-CSF、IL-1、およびIL-4)(参照によりその全体が具体的に本明細書に組み入れられる米国特許第5,849,589号)、ならびにイムノアジュバントとしての機
能(例えば、IL-12)(Gabrilovich D I,et al.,J Immunother Emphasis Tumor Immunol.1996(6):414-418)と、直接、関係付けられている。
【0114】
CpG免疫刺激性オリゴヌクレオチドも、ワクチン状況においてアジュバントの効果を増
強することが報告されている。理論によって拘束されないが、CpGオリゴヌクレオチドは
、Toll様受容体(TLR)、主として、TLR9を介して、自然(非適応)免疫系を活性化する
ことにより作用する。CpGにより誘発されたTLR9活性化は、予防的ワクチンにおいても、
治療的ワクチンにおいても、ペプチド抗原またはタンパク質抗原、生ウイルスまたは不活化ウイルス、樹状細胞ワクチン、自己細胞ワクチン、および多糖コンジュゲートを含む、多様な抗原に対する抗原特異的な体液性応答および細胞性応答を増強する。より重要なことには、それは、CD4 T細胞ヘルプの非存在下ですら、樹状細胞の成熟および分化を増強
し、TH1細胞の増強された活性化および強力な細胞障害性Tリンパ球(CTL)の生成をもた
らす。TLR9刺激により誘導されたTH1バイアスは、通常はTH2バイアスを促進するミョウバンまたは不完全フロイントアジュバント(IFA)のようなワクチンアジュバントの存在下
ですら維持される。CpGオリゴヌクレオチドは、その他のアジュバントと共に製剤化され
るかもしくは同時投与された時、または微粒子、ナノ粒子、脂肪乳剤のような製剤、もしくは、抗原が比較的弱い時に強力な応答を誘導するために特に必要とされる類似の製剤において、さらに大きなアジュバント活性を示す。また、それらは、いくつかの実験において、免疫応答を加速し、抗原用量をおよそ2桁低下させても、CpGを含まない完全用量ワクチンと比較可能な抗体応答を有することができた(Arthur M.Krieg,Nature Reviews,Drug
Discovery,5,Jun.2006,471-484)。米国特許第6,406,705 B1号は、抗原特異的な免疫応
答を誘導するための、CpGオリゴヌクレオチドと非核酸アジュバントと抗原との併用を記
載している。市販されているCpG TLR9アンタゴニストは、Mologen(Berlin,GERMANY)に
よるdSLIM(double Stem Loop Immunomodulator)であり、それは、本発明の薬学的組成
物の好ましい成分である。TLR7、TLR8、および/またはTLR9に結合するRNAのようなその
他のTLR結合分子も使用され得る。
【0115】
有用なアジュバントのその他の例には、化学的に修飾されたCpG(例えば、CpR、Idera
)、ポリ(I:C)(例えば、ポリi:CI2U)、非CpG細菌DNAまたはRNAが含まれ、治療的にかつ/またはアジュバントとして作用し得る、シクロホスファミド、スニチニブ、ベバシズマブ、セレブレックス(celebrex)、NCX-4016、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ソラフィニブ(sorafinib)、XL-999、CP-547632、パゾパニブ、ZD2171、AZD2171、イピリムマブ、トレメリムマブ、およびSC58175のような、免疫活性を有する低分子および抗体も含まれるが、これらに限定されない。本発明に関して有用なアジュバントおよび添加剤の量および濃度は、過度の実験なしに、当業者によって容易に決定され得る。付加的なアジュバントには、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、サルグラモスチム)のようなコロニー刺激因子が含まれる。
【0116】
本発明に係るワクチン組成物は、複数の異なるアジュバントを含んでいてもよい。さらに、本発明には、上記のいずれかまたはそれらの組み合わせを含む、任意のアジュバント物質を含む治療用組成物が包含される。ペプチドまたはポリペプチドと、アジュバントとは、適切な順序で、別々に投与されてもよいことが企図される。
【0117】
担体は、アジュバントと無関係に存在し得る。担体の機能は、例えば、活性もしくは免疫原性を増加させるため、安定性を付与するため、生物学的活性を増加させるため、または血清半減期を増加させるため、特に、変異体の分子量を増加させることであり得る。さらに、担体は、ペプチドのT細胞への提示を補助し得る。担体は、当業者に公知の適当な
担体、例えば、タンパク質または抗原提示細胞であり得る。担体タンパク質は、キーホールリンペットヘモシアニン、トランスフェリン、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、チログロブリン、もしくはオボアルブミンのような血清タンパク質、免疫グロブリン、またはインスリンのようなホルモン、またはパルミチン酸であり得るが、これらに限定されない。ヒトの免疫化のため、担体は、ヒトにとって許容され安全である生理学的に許容される担体でなければならない。しかしながら、破傷風トキソイドおよび/またはジフテリアトキソイドは、本発明の一つの態様において、適当な担体である。あるいは、担体は、デキストラン、例えば、セファロースであり得る。
【0118】
細胞障害性T細胞(CTL)は、完全な外来抗原自体ではなく、MHC分子に結合したペプチ
ドの形態で抗原を認識する。MHC分子自体は、抗原提示細胞の細胞表面に位置する。従っ
て、ペプチド抗原、MHC分子、およびAPCの三量体複合体が存在する場合にのみ、CTLの活
性化が可能となる。従って、ペプチドがCTLの活性化のために使用されるのみならず、さ
らに、それぞれのMHC分子を有するAPCが添加された場合に、それは免疫応答を増強することができる。従って、いくつかの態様において、本発明に係るワクチン組成物は、少なくとも1種の抗原提示細胞をさらに含有している。
【0119】
抗原提示細胞(または刺激細胞)は、典型的には、その表面上にMHCクラスIまたはII分子を有し、一つの態様において、それ自体は、MHCクラスIまたはII分子に、選択された抗原を負荷することが実質的にできない。以下により詳細に記載されるように、MHCクラスIまたはII分子は、インビトロで、選択された抗原を容易に負荷され得る。
【0120】
好ましくは、抗原提示細胞は樹状細胞である。適当には、樹状細胞は、ネオ抗原性ペプチドでパルス処理された自己樹状細胞である。ペプチドは、適切なT細胞応答を与える任
意の適当なペプチドであり得る。腫瘍関連抗原に由来するペプチドでパルス処理された自己樹状細胞を使用したT細胞治療は、Murphy et al.(1996)The Prostate 29,371-380およ
びTjua et al.(1997)The Prostate 32,272-278に開示されている。
【0121】
従って、本発明の一つの態様において、少なくとも1種の抗原提示細胞を含有している
ワクチン組成物は、本発明の1種または複数種のペプチドでパルス処理されるか、または
それを負荷される。あるいは、患者から単離された末梢血単核細胞(PBMC)が、エクスビボでペプチドを負荷され、患者に戻し注射されてもよい。
【0122】
別法として、抗原提示細胞は、本発明のペプチドをコードする発現構築物を含む。ポリヌクレオチドは、任意の適当なポリヌクレオチドであり得るが、樹状細胞を形質導入し、それにより、ペプチドの提示および免疫の誘導をもたらすことができることが好ましい。
【0123】
治療法
本発明は、本発明のネオ抗原性ペプチドまたはネオ抗原性ワクチン組成物を対象へ投与することにより、対象において腫瘍特異的な免疫応答を誘導し、腫瘍に対するワクチン接種を行い、対象における癌を処置しかつまたはその症状を軽減する方法をさらに提供する。
【0124】
対象は、癌を有すると診断されているかまたは癌を発症するリスクを有する。対象は、イマチニブ耐性腫瘍を有する。対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、または腫瘍特異的な免疫応答が望まれる任意の動物である。腫瘍は、乳房、卵巣、前立腺、肺、腎臓、胃、結腸、精巣、頭頸部、膵臓、脳、黒色腫のような任意の固形腫瘍、および組織器官のその他の腫瘍、ならびに急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、Tリンパ
球性白血病、およびB細胞リンパ腫を含む、リンパ腫および白血病のような血液腫瘍であ
る。
【0125】
本発明のペプチドまたは組成物は、CTL応答を誘導するのに十分な量、投与される。
【0126】
具体的な態様において、本発明は、bcr-abl変異を含有している1種または複数種のネオ抗原性ペプチドを、対象へ投与することにより、イマチニブ耐性腫瘍を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、対象はHLA-A3である。Bcr-abl変異には、例えば、T315I、E255K、M351T、Y253H、Q252H、F317L、F359V、G250E、Y253F、E355G、E255V、M244V
、L248V、G250A、Q252R、D276G、T315N、M343T、F359A、V379I、F382L、L387M、H396P、H396R、S417Y、F486Sが含まれる。
【0127】
本発明のネオ抗原性ペプチド、ネオ抗原性ポリペプチド、またはネオ抗原性ワクチン組成物は、単独で、または他の治療剤と組み合わせて、投与され得る。治療剤は、例えば、化学療法剤、放射線、または免疫治療である。特定の癌に対する任意の適当な治療的処置が投与され得る。化学療法剤の例には、アルデスロイキン、アルトレタミン、アミホスチン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クラドリビン、シサプリド、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ドロナビノール、エポエチンアルファ、エトポシド、フィルグラスチム、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、グラニセトロン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロンα、イリノテカン、ランソプラゾール、レバミソール、ロイコボリン、メゲストロール、メスナ、メトトレキサート、メトクロプラミド、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、オメプラゾール、オンダンセトロン、パクリタクセル(Taxol(
登録商標))、ピロカルピン、プロクロルペラジン、リツキシマブ、タモキシフェン、タキソール、トポテカン塩酸塩、トラスツズマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビン酒石酸塩が含まれるが、これらに限定されない。前立腺癌処置のため、抗CTLA-4と組み合わせることができる好ましい化学療法剤は、パクリタクセル(Taxol(登
録商標))である。
【0128】
さらに、対象は、抗免疫抑制/免疫刺激剤をさらに投与されてもよい。例えば、対象は、抗CTLA抗体または抗PD-1または抗PD-L1をさらに投与される。抗体によるCTLA-4またはPD-L1の阻止は、患者における癌細胞に対する免疫応答を増強することができる。特に、CTLA-4阻止は、ワクチン接種プロトコルに従う時、有効であることが示されている。
【0129】
ワクチン組成物に含められる各ペプチドの最適量および最適投薬計画は、過度の実験なしに、当業者によって決定され得る。例えば、ペプチドまたはそのバリアントは、静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射、皮内(i.d.)注射、腹腔内(i.p.)注射、筋肉内(i.m.)注射のために調製され得る。ペプチド注射の好ましい方法には、s.c.、i.d.、i.p.、i.m.、およびi.v.が含まれる。DNA注射の好ましい方法には、i.d.、i.m.、s.c.、i.p.、
およびi.v.が含まれる。例えば、1~500mg、50μg~1.5mg、好ましくは、125μg~500μgの用量のペプチドまたはDNAを与えることができ、それぞれのペプチドまたはDNAに依るであろう。この範囲の用量は、以前の試験(Brunsvig P F,et al.,Cancer Immunol Immunother.2006;55(12):1553-1564;M.Staehler,et al.,ASCO meeting 2007;Abstract No 3017
)において成功裡に使用された。ワクチン組成物のその他の投与法は、当業者に公知である。
【0130】
本発明の薬学的組成物は、組成物中に存在するペプチドの選択、数、および/または量が、組織、癌、および/または患者に特異的であるよう編成され得る。例えば、ペプチドの正確な選択は、副作用を回避するため、所定の組織における親タンパク質の発現パターンによってガイドされ得る。選択は、癌の具体的な型、疾患の状態、初期処置計画、患者の免疫状態に依存し得、当然、患者のHLAハプロタイプにも依存し得る。さらに、本発明
に係るワクチンは、特定の患者の個人的必要性に応じて、個別化された成分を含有することができる。例には、特定の患者における関連ネオ抗原の発現、個人のアレルギーまたはその他の処置による不要な副作用に応じたペプチドの量の変動、および処置の最初のラウンドまたはスキームの後の二次処置についての調整が含まれる。
【0131】
組成物を癌に対するワクチンとして使用するため、内因性親タンパク質が正常組織に多量に発現しているようなペプチドは、本発明の組成物において、回避されるか、または少ない量で存在するであろう。他方、患者の腫瘍が、ある種のタンパク質を多量に発現することが既知である場合、この癌の処置のためのそれぞれの薬学的組成物は、多量に存在し
てもよく、かつ/または、この特定のタンパク質もしくはこのタンパク質の経路に特異的なペプチドが、複数種、含まれてもよい。
【0132】
本発明のペプチドを含む薬学的組成物は、癌に既に罹患している個体へ投与され得る。治療的適用において、組成物は、腫瘍抗原に対する有効なCTL応答を誘発し、かつ症状お
よび/または合併症を治癒させるかまたは少なくとも部分的に抑止するのに十分な量で、患者へ投与される。これを達成するための適切な量は、「治療的に有効な用量」として定義される。この使用のために有効な量は、例えば、ペプチドの組成、投与の様式、処置されている疾患の病期および重度、患者の体重および全身健康状態、ならびに処方する医師の判断に依るであろうが、一般に、70kgの患者の場合、初回免疫化(治療的または予防的な投与)については、約1.0μg~約50,000μgのペプチドの範囲であり、その後、患者の
血中の特異的なCTL活性を測定することにより、患者の応答および状態に依って、数週~
数ヶ月にわたり、追加免疫計画により、約1.0μg~約10,000μgのペプチドが追加投与さ
れる。本発明のペプチドおよび組成物は、一般に、重篤な疾患状態、即ち、生命を脅かすかまたは生命を脅かす可能性のある情況において、特に、癌が転移した時、利用され得ることに留意しなければならない。そのようなケースにおいては、外来物質の最小化およびペプチドの比較的非毒性の性質を考慮すると、処置する医師がこれらのペプチド組成物を実質的に過剰に投与することは、可能であり、望ましいと考えられ得る。
【0133】
治療的使用のため、投与は、腫瘍の検出または外科的除去の時に開始されるべきである。その後、少なくとも症状が実質的に緩和されるまで、そしてその後のある期間、追加免疫投与が行われる。
【0134】
治療的処置のための薬学的組成物(例えば、ワクチン組成物)は、非経口投与用、局部投与用、経鼻投与用、経口投与用、または局所投与用である。好ましくは、薬学的組成物は、非経口的に、例えば、静脈内、皮下、皮内、または筋肉内へ投与される。腫瘍に対する局所的な免疫応答を誘導するため、外科的切除の部位に組成物を投与することもできる。本発明は、ペプチドの溶液を含む非経口投与用の組成物を提供し、ワクチン組成物は、許容される担体、好ましくは、水性担体に溶解または懸濁させられる。多様な水性担体、例えば、水、緩衝水、0.9%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等が使用され得る。これらの組成物は、従来の周知の減菌技術により滅菌されてもよいし、またはろ過滅菌されてもよい。得られた水性溶液は、そのまま使用のためにパッケージングされてもよく、または凍結乾燥され、凍結乾燥された調製物が、投与前に無菌溶液と組み合わせられてもよい。組成物は、pH調整剤および緩衝剤、浸透圧調整剤、湿潤剤等、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ラウリン酸ソルビタン(sorbitan monolaurate)、オレイン酸トリエタノールアミン等のような、生理学的条件に近似するために必要とされる、薬学的に許容される補助物質を含有し得る。
【0135】
薬学的製剤の中の本発明のペプチドの濃度は、広範囲に、即ち、約0.1重量%未満、一
般的に少なくとも約2重量%から、20~50重量%まで変動してもよく、選択された特定の
投与のモードに応じて、主として、液体の体積、粘性等により選択されるであろう。
【0136】
本発明のペプチドは、リンパ組織のような特定の細胞組織へとペプチドをターゲティングするリポソームを介して投与されてもよい。リポソームは、ペプチドの半減期を増加させるためにも有用である。リポソームには、乳剤、泡状物質、ミセル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散物、層状物質等が含まれる。これらの調製物において、送達されるペプチドは、単独で、または、CD45抗原に結合するモノクローナル抗体のような、例えば、リンパ球系細胞において優勢な受容体に結合する分子と共に、もしくはその他の治療用組成物もしくは免疫原性組成物と共に、リポソームの一部分として組み込まれる。従って、本発明の所望のペプチドを充填されたリポソームは、リンパ球系細胞の部位に差し向けられ、
次いで、そこで、リポソームが、選択された治療用/免疫原性ペプチド組成物を送達することができる。本発明において使用するためのリポソームは、一般に、中性リン脂質および負の電荷を有するリン脂質、ならびにコレステロールのようなステロールを含む、標準的な小胞形成脂質から形成される。脂質の選択は、一般に、例えば、リポソームのサイズ、血流中におけるリポソームの酸不安定性および安定性を考慮することによりガイドされる。例えば、Szoka et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9;467(1980)、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、および第5,019,369号に記載されるような、多様な方法が、リポソームの調製のために利用可能である。
【0137】
免疫細胞へのターゲティングのため、リポソームに組み込まれるリガンドには、例えば、所望の免疫系細胞の細胞表面決定因子に特異的な抗体またはその断片が含まれる。ペプチドを含有しているリポソーム懸濁物は、とりわけ、投与の様式、送達されるペプチド、および処置されている疾患の病期によって変動する用量で、静脈内、局所、局部等に投与され得る。
【0138】
固形組成物については、例えば、薬学的等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム等を含む、従来のまたはナノ粒子型の非毒性固形担体が使用され得る。経口投与に関して、薬学的に許容される非毒性組成物は、前掲の担体のような通常利用されている賦形剤のいずれかと、一般に、10~95%、より好ましくは、25~75%の濃度の活性成分、即ち、本発明の1種または複数種のペプチドとを組み込むことにより形成され
る。
【0139】
エアロゾル投与に関して、免疫原性ペプチドは、好ましくは、界面活性剤および噴霧剤と共に、微細に分割された形態で供給される。ペプチドの典型的な割合は、0.01~20重量%、好ましくは、1~10重量%である。界面活性剤は、当然、非毒性でなければならず、
好ましくは、噴霧剤に可溶性である。そのような薬剤の代表は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン(olesteric)酸、およびオレイン酸のような、6~22個の炭素原子を含有している脂肪酸の、脂肪族多価アルコールまたはその環式無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合グリセリドまたは天然グリセリドのような混合エステルが利用されてもよい。界面活性剤は、組成物の0.1~20重量%、好ましくは、0.25~5重量%を占めることができる。組成物の残りは、普通、噴霧剤である。例えば、鼻腔内送達のためのレシチンのように、所望により、担体が含まれてもよい。
【0140】
治療または免疫化の目的のため、本発明のペプチドをコードする核酸、および、任意で、本明細書に記載されたペプチドのうちの1種または複数種が、患者へ投与されてもよい
。核酸を患者へ送達するため、多数の方法が便利に使用される。例えば、核酸は、「裸のDNA」として直接送達され得る。このアプローチは、例えば、Wolff et al.,Science 247:1465-1468(1990)、ならびに米国特許第5,580,859号および第5,589,466号に記載されてい
る。核酸は、例えば、米国特許第5,204,253号に記載されたような、弾道(ballistic)送達を使用して投与されてもよい。DNAのみから構成された粒子が投与されてもよい。ある
いは、金粒子のような粒子にDNAを付着させることもできる。
【0141】
陽イオン性脂質のような陽イオン性化合物と複合体化された核酸を送達することもできる。脂質により媒介される遺伝子送達法は、例えば、WO96/18372;WO93/24640;Mannino & Gould-Fogerite,BioTechniques 6(7):682-691(1988);Roseの米国特許第5,279,833号;WO91/06309;およびFelgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413-7414(1987)に記載されている。
【0142】
ワクシニアまたは鶏痘のような、弱毒化ウイルス宿主によって、本発明のペプチドおよびポリペプチドを発現させることもできる。このアプローチは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとしてのワクシニアウイルスの使用を含む。急性もしくは慢性に感染させた宿主、または無感染宿主へ導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それにより、宿主CTL応答を誘発する。
免疫化プロトコルにおいて有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば、米国特許第4,722,848号に記載されている。もう一つのベクターは、BCG(Bacille Calmette Guerin
)である。BCGベクターは、Stoverら(Nature 351:456-460(1991))に記載されている。
本発明のペプチドの治療的投与または免疫化のために有用な、多様なその他のベクター、例えば、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター等は、本明細書中の説明から当業者に明らかになるであろう。
【0143】
本発明のペプチドをコードする核酸を投与する好ましい手段は、複数のエピトープをコードするミニ遺伝子構築物を使用する。ヒト細胞における発現に関して、選択されたCTL
エピトープをコードするDNA配列(ミニ遺伝子)を作出するためには、エピトープのアミ
ノ酸配列を逆翻訳する。ヒトコドン使用頻度表が、各アミノ酸のためのコドン選択をガイドするために使用される。これらのエピトープをコードするDNA配列を直接隣接させ、連
続的なポリペプチド配列を作出する。発現および/または免疫原性を最適化するため、付加的な要素をミニ遺伝子設計に組み込んでもよい。逆翻訳され、ミニ遺伝子配列に含まれ得るアミノ酸配列の例には、以下のものが含まれる:ヘルパーTリンパ球、エピトープ、
リーダー(シグナル)配列、および小胞体保留シグナル。さらに、合成隣接配列(例えば、ポリアラニン)または天然に存在する隣接配列を、CTLエピトープに近接して、含める
ことにより、CTLエピトープのMHC提示を改良することができる。
【0144】
ミニ遺伝子配列を、ミニ遺伝子のプラス鎖およびマイナス鎖をコードするオリゴヌクレオチドを組み立てることにより、DNAに変換する。オーバーラップするオリゴヌクレオチ
ド(30~100塩基長)を、周知の技術を使用して、適切な条件の下で、合成し、リン酸化
し、精製し、アニールする。オリゴヌクレオチドの末端を、T4 DNAリガーゼを使用して接合する。CTLエピトープポリペプチドをコードするこの合成ミニ遺伝子を、次いで、所望
の発現ベクターへとクローニングすることができる。
【0145】
標的細胞における発現を確実にするため、当業者に周知の標準的な調節配列が、ベクターに含まれる。いくつかのベクター要素が必要とされる:ミニ遺伝子挿入のための下流クローニング部位を含むプロモーター;効率的な転写終結のためのポリアデニル化シグナル;大腸菌複製開始点;および大腸菌選択可能マーカー(例えば、アンピシリン耐性またはカナマイシン耐性)。多数のプロモーター、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーターが、この目的のために使用され得る。その他の適当なプロモーター配列については、米国特許第5,580,859号および第5,589,466号を参照のこと。
【0146】
ミニ遺伝子発現および免疫原性を最適化するため、付加的なベクター修飾が望まれる場合がある。いくつかのケースにおいて、イントロンが効率的な遺伝子発現のために必要とされ、1種または複数種の合成イントロンまたは天然に存在するイントロンが、ミニ遺伝
子の転写領域に組み込まれ得る。mRNA安定化配列の包含も、ミニ遺伝子発現を増加させるために考慮され得る。免疫刺激配列(ISSまたはCpG)が、DNAワクチンの免疫原性におい
て役割を果たすことが、最近、提唱された。これらの配列は、免疫原性を増強することが見出された場合、ベクター内のミニ遺伝子コーディング配列の外部に含まれ得る。
【0147】
いくつかの態様において、ミニ遺伝子によりコードされるエピトープ、および免疫原性を増強するかまたは低下させるために含まれる第二のタンパク質の産生を可能にするため、2シストロン発現ベクターが使用され得る。同時発現された場合に免疫応答を有益に増
強することができるタンパク質またはポリペプチドの例には、サイトカイン(例えば、IL2、IL12、GM-CSF)、サイトカイン誘導分子(例えば、LeIF)、または同時刺激分子が含
まれる。ヘルパー(HTL)エピトープを、細胞内ターゲティングシグナルに接合し、CTLエピトープとは別に発現させることができる。これは、CTLエピトープと異なる細胞コンパ
ートメントへのHTLエピトープの差し向けを可能にするであろう。必要とされる場合、こ
れは、HTLエピトープのMHCクラスII経路へのより効率的な進入を容易にし、それにより、CTL誘導を改良することができる。CTL誘導とは対照的に、免疫抑制分子(例えば、TGF-β)の同時発現により免疫応答を特異的に低下させることが、ある種の疾患において有益であり得る。
【0148】
発現ベクターが選択されると、ミニ遺伝子が、プロモーターの下流のポリリンカー領域へクローニングされる。このプラスミドは、適切な大腸菌株に形質転換され、DNAが標準
的な技術を使用して調製される。ベクターに含まれるミニ遺伝子および全てのその他の要素の方向およびDNA配列が、制限マッピングおよびDNA配列分析を使用して確認される。正確なプラスミドを保持している細菌細胞が、マスター細胞バンクおよびワーキング細胞バンクとして保管され得る。
【0149】
精製されたプラスミドDNAは、多様な製剤化を使用して、注射用に調製され得る。これ
らの中で最も単純なものは、無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)による、凍結乾燥DNAの再生である。多様な方法が記載されており、新たな技術が利用可能になる可能性がある。上に示されたように、核酸は陽イオン性脂質により便利に製剤化される。さらに、安定性、筋肉内分散、または特定の器官もしくは細胞型への輸送のような変数に影響を及ぼすため、糖脂質、融合性リポソーム、ペプチド、および防御相互作用非縮合(protective,interactive,non-condensing)(PINC)と集合的に呼ばれる化合物を、精製されたプラスミドDNAと複合体化することができる。
【0150】
ミニ遺伝子によりコードされるCTLエピトープの発現およびMHCクラスI提示についての
機能アッセイとして、標的細胞感作を使用することができる。プラスミドDNAを、標準的
なCTLクロム放出アッセイのための標的として適当な哺乳動物細胞株へ導入する。使用さ
れるトランスフェクション法は、最終的な製剤に依存するであろう。電気穿孔は「裸の」DNAのために使用され得、陽イオン性脂質は直接インビトロトランスフェクションを可能
にする。蛍光標示式細胞分取(FACS)を使用した、トランスフェクトされた細胞の濃縮を可能にするため、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するプラスミドを同時トランスフェ
クトしてもよい。次いで、これらの細胞をクロム-51により標識し、エピトープ特異的なCTL株のための標的細胞として使用する。51Cr放出により検出される細胞溶解は、ミニ遺伝子によりコードされるCTLエピトープのMHC提示の発生を示す。
【0151】
インビボ免疫原性は、ミニ遺伝子DNA製剤の機能的試験のための第二のアプローチであ
る。適切なヒトMHC分子を発現しているトランスジェニックマウスを、DNA産物で免疫化する。用量および投与経路は、製剤依存性である(例えば、PBS中のDNAの場合にはIM、脂質と複合体化されたDNAの場合にはIP)。免疫化の21日後、脾細胞を採取し、試験されてい
る各エピトープをコードするペプチドの存在下で、1週間、再刺激する。これらのエフェ
クター細胞(CTL)を、ペプチドを負荷されたクロム-51標識標的細胞の細胞溶解について、標準的な技術を使用してアッセイする。ミニ遺伝子によりコードされるエピトープに対応するペプチドのMHC負荷により感作された標的細胞の溶解は、DNAワクチンがCTLのイン
ビボ誘導のため機能することを示す。
【0152】
ペプチドはエクスビボでCTLを誘発するために使用されてもよい。得られたCTLは、他の従来の型の治療に応答しないか、またはペプチドワクチン治療アプローチに応答しないであろう患者において、慢性腫瘍を処置するために使用され得る。特定の腫瘍抗原に対する
エクスビボCTL応答は、組織培養物中で、患者のCTL前駆細胞(CTLp)を、抗原提示細胞(APC)の起源および適切なペプチドと共にインキュベートすることにより誘導される。CTLpが活性化され、エフェクターCTLへと成熟し増大する、適切なインキュベーション時間(典型的には、1~4週間)の後、細胞は、患者に戻し注入され、そこで、特異的な標的細胞(即ち、腫瘍細胞)を破壊するであろう。特異的な細胞障害性T細胞の生成のためのイン
ビトロ条件を最適化するため、刺激細胞の培養物は、適切な無血清培地で維持される。
【0153】
活性化される細胞、例えば、前駆CD8+細胞と共に刺激細胞をインキュベートする前に、ヒトクラスI分子に負荷され、刺激細胞の表面に発現されるようになるために十分な量の
抗原性ペプチドを、刺激細胞培養物に添加する。本発明において、ペプチドの十分な量とは、ペプチドを負荷されたヒトクラスI MHC分子が、約200個、好ましくは、200個以上、
各刺激剤細胞の表面に発現されることを可能にするであろう量である。好ましくは、刺激細胞を、>2μg/mlのペプチドと共にインキュベートする。例えば、刺激細胞を、>3、4
、5、10、15μg/ml、またはそれ以上のペプチドと共にインキュベートする。
【0154】
次いで、休止CD8+細胞または前駆CD8+細胞を、CD8+細胞を活性化するのに十分な期間、適切な刺激剤細胞と共に、培養物中でインキュベートする。好ましくは、CD8+細胞は、抗原特異的な様式で活性化される。休止CD8+細胞または前駆CD8+(エフェクター)細胞と刺激細胞との比率は、個体によって変動し得、さらに、個体のリンパ球の培養条件への順応性、ならびに疾患状態または本明細書に記載された処置モダリティが使用されるその他の状態の性質および重度のような変数に依り得る。しかしながら、好ましくは、リンパ球:刺激細胞比率は、約30:1~300:1の範囲内にある。エフェクター/刺激細胞培養物は、
治療的に使用可能なまたは有効な数のCD8+細胞を刺激するのに必要な長さの時間、維持され得る。
【0155】
インビトロのCTLの誘導は、APC上の対立遺伝子特異的なMHCクラスI分子に結合したペプチドの特異的な認識を必要とする。APC 1個当たりの特異的なMHC/ペプチド複合体の数は、特に、一次免疫応答において、CTLの刺激のために重要である。CTLによる溶解に対して細胞を感受性にするか、または二次CTL応答を刺激するためには、細胞1個当たりの少量のペプチド/MHC複合体で十分であるが、一次応答におけるCTL前駆物質(pCTL)の活性化の成功には、有意に多い数のMHC/ペプチド複合体が必要とされる。細胞上の空の主要組織
適合性抗原分子へのペプチド負荷は、一次細胞障害性Tリンパ球応答の誘導を可能にする
。細胞上の空の主要組織適合性複合体分子へのペプチド負荷は、一次細胞障害性Tリンパ
球応答の誘導を可能にする。
【0156】
全てのヒトMHC対立遺伝子について変異細胞株が存在するとは限らないため、APCの表面から内因性のMHC会合ペプチドを除去し、続いて、得られた空のMHC分子に、関心対象の免疫原性ペプチドを負荷する技術を使用することは有利である。形質転換されていない(非腫瘍原性の)未感染の細胞、好ましくは、患者の自己細胞を、APCとして使用することは
、エクスビボCTL治療の開発に向けたCTL誘導プロトコルの設計のために望ましい。本願は、APCの表面から内因性のMHC会合ペプチドをストリッピングし、続いて、所望のペプチドを負荷する方法を開示する。
【0157】
安定的なMHCクラスI分子は、以下の要素から形成された三量体複合体である:(1)一
般的に8~10残基のペプチド、(2)α1ドメインおよびα2ドメインにペプチド結合部位を保持している膜貫通型多形タンパク質重鎖、および(3)非共有結合で会合した非多形軽
鎖β2ミクログロブリン。複合体から、結合しているペプチドを除去し、かつ/またはβ2ミクログロブリンを解離させることにより、MHCクラスI分子は非機能性かつ不安定となり、急速に分解される。PBMCから単離される全てのMHCクラスI分子には、内因性ペプチドが結合している。従って、第一工程は、外因性ペプチドが添加される前に、分解を引き起こ
すことなく、APC上のMHCクラスI分子に結合している全ての内因性ペプチドを除去するこ
とである。
【0158】
MHCクラスI分子から、結合しているペプチドを取り除くための二つの可能な方式には、β2ミクログロブリンを不安定化するため、培養温度を37℃から26℃に一夜低下させるこ
と、および弱酸処理を使用して、細胞から内因性ペプチドをストリッピングすることが含まれる。それらの方法は、以前に結合していたペプチドを細胞外環境へ放出し、新たな外因性ペプチドが空のクラスI分子に結合することを可能にする。低温インキュベーション
法は、外因性ペプチドがMHC複合体に効率的に結合することを可能にするが、細胞の代謝
速度を遅くする可能性がある26℃での一夜のインキュベーションを必要とする。MHC分子
を活発に合成しない細胞(例えば、休止PBMC)は、低温法により、空の表面MHC分子を多
量には作製しない可能性も高い。
【0159】
強酸ストリッピングは、トリフルオロ酢酸(pH2)によるペプチドの抽出、またはイム
ノアフィニティ精製されたクラスI-ペプチド複合体の酸変性を含む。抗原提示のために重要なAPCの生存能および最適の代謝状態を保存しながら、内因性ペプチドを除去すること
が重要であるため、これらの方法は、CTL誘導に関しては実行可能でない。グリシン緩衝
液またはクエン酸リン酸緩衝液のようなpH3の弱酸性溶液が、内因性ペプチドを同定し、
腫瘍関連T細胞エピトープを同定するために使用されている。処理は、MHCクラスI分子の
みが不安定化され(かつ会合ペプチドが放出され)、MHCクラスII分子を含む、その他の
表面抗原は完全なままであるという点で、特に有効である。最も重要なことには、弱酸性溶液による細胞の処置は、細胞の生存能または代謝状態に影響を与えない。4℃において
内因性ペプチドのストリッピングは2分以内に起こるため、弱酸処理は迅速であり、APCは、適切なペプチドが負荷された後、その機能を果たす準備ができている。その技術は、一次抗原特異的CTLの生成用のペプチド特異的なAPCを作成するため、本明細書中で利用される。得られたAPCは、ペプチド特異的なCD8+CTLの誘導において効率的である。
【0160】
活性化されたCD8+細胞は、多様な公知の方法のうちの一つを使用して、刺激細胞から効果的に分離され得る。例えば、刺激細胞、刺激細胞へ負荷されたペプチド、またはCD8+細胞に特異的なモノクローナル抗体(またはそのセグメント)が、適切な相補リガンドに結合するために利用され得る。次いで、抗体タグ付き分子が、適切な手段を介して、例えば、周知の免疫沈降法またはイムノアッセイ法を介して、刺激細胞-エフェクター細胞混合
物から抽出され得る。
【0161】
活性化されたCD8+細胞の有効な細胞障害性の量は、インビトロ使用とインビボ使用との間で変動し、これらのキラー細胞の最終標的である細胞の量および型によっても変動し得る。量は、患者の状態に依っても変動し、全ての適切な要因の考慮を介して実務者により決定されるべきである。しかしながら、好ましくは、約1×106~約1×1012個、より好ま
しくは、約1×108~約1×1011個、さらに好ましくは、約1×109~約1×1010個の活性化されたCD8+細胞が、成人ヒトのために利用され、それに対して、マウスにおいては約5×106~5×107個の細胞が使用される。
【0162】
好ましくは、上述のように、活性化されたCD8+細胞は、処置される個体へのCD8+細胞の投与の前に、細胞培養物から採取される。しかしながら、他の現存の処置モダリティおよび提唱されている処置モダリティとは異なり、本発明の方法は、非腫瘍原性の細胞培養系を使用することに注目することが重要である。従って、刺激細胞と活性化されたCD8+細胞との完全な分離が達成されない場合、少数の刺激細胞の投与に関連していることが公知の固有の危険は存在しないが、哺乳動物腫瘍促進性細胞の投与は非常に有害であり得る。
【0163】
細胞成分を再導入する方法は、当技術分野において公知であり、Honsikらの米国特許第
4,844,893号およびRosenbergの米国特許第4,690,915号に例示されたもののような手法を
含む。例えば、活性化されたCD8+細胞の静脈内注入を介した投与が適切である。
【0164】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、実施例は、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例0165】
実施例1:ワクチン接種のためのネオエピトープを同定するための戦略
腫瘍特異的なネオエピトープを同定するための本発明者らのアプローチは、三つの工程を含む。(1)各患者に由来する腫瘍試料 対 マッチした生殖系列試料の全ゲノムまたは
全エキソーム(即ち、捕獲されたエキソンのみ)の配列決定を使用したDNA変異の同定。
本発明者らの予備的研究は、CLL細胞が、アミノ酸配列を改変し、可能性のある新規T細胞エピトープを生成し得る多くの別個の遺伝子変化を含有していることを証明している。(2)腫瘍に存在する非サイレント変異に基づくT細胞エピトープ候補のセットを生成するための、高度に実証されたペプチド-MHC結合予測アルゴリズムの適用。本発明者らは、CLL
試料におけるRNAとしての変異型遺伝子の発現を確認し、次いで、候補ペプチドのHLA対立遺伝子との結合を定量化するための実験アプローチを使用して、ペプチド-HLA結合予測を確認するであろう。(3)変異ペプチドに対する抗原特異的なT細胞の生成。
【0166】
実施例2:慢性リンパ球性白血病を有する患者の腫瘍における変異型遺伝子の同定のため
の腫瘍ゲノムおよび正常ゲノムの配列決定(工程1)
(正常組織には存在しない)腫瘍特異的な変異を検出するため、各患者の腫瘍および正常組織から試料を収集した。白血病については、腫瘍細胞に特異的な抗体を使用した磁性ビーズ単離または蛍光標示式細胞分取を使用して、腫瘍を精製した。例えば、慢性リンパ球性白血病(CLL)を有する患者の腫瘍細胞は、表面マーカーCD5およびCD19を発現する。皮膚繊維芽細胞を正常組織対照として使用した。配列決定のためのDNAまたはRNAを、単離された腫瘍細胞または正常組織細胞から精製した。(非腫瘍細胞の混入がある)黒色腫、卵巣腫瘍、およびその他の固形腫瘍については、腫瘍細胞の比較的均質の短期培養物、またはレーザーキャプチャーされた腫瘍から、DNAおよびRNAを単離した。PBMCを正常対照細胞として使用した。全ての試料について、変異ペプチド特異的なT細胞の増大のために必要
とされるまで、PBMCを凍結保存した。最後に、腫瘍細胞の短期培養物も、増大したT細胞
の標的として後に使用するため、凍結保存した。単離されたゲノムDNAまたはゲノムRNAを、配列決定前に、核酸の完全性および純度について試験した。
【0167】
DNAの各試料について、全ゲノムDNAを剪断し配列決定するか、またはコーディングエキソンを、ハイブリッド選択を使用して、相補的なオリゴヌクレオチドにより捕獲し、次いで、配列決定した(Gnirke et al.,Nat Biotechnol.2009,27(2):182-9)。DNAおよびRNA
のライブラリーを生成し、Illumina次世代配列決定装置を使用して配列決定した。
【0168】
慢性リンパ球性白血病(CLL)を有する患者64人の配列決定は、腫瘍において生殖系列DNA配列に比べてタンパク質アミノ酸配列を改変する平均23種の非サイレント変異を与えた(図3)。これらの非サイレント変異は、ネオエピトープを生成する可能性を有する五つ
の別個のクラスに分類される:ミスセンス、スプライス部位、フレームシフト(インデル、挿入および欠失)、リードスルー、ならびに遺伝子融合(図4)。これらの変異の頻度
は、個々の患者の間で変動する(図5)。これらの変異は、全て、免疫化のための可能性
のあるネオエピトープを提供するが、フレームシフト変異、リードスルー変異、およびスプライス部位変異(例えば、保持されたイントロンを含む)は、新規ペプチドのより長いストレッチを生成し、ミスセンス変異は、単一のアミノ酸変化を有する短いペプチドをもたらし、最後に、融合遺伝子は、新規のジャンクション配列を有するハイブリッドペプチドを生成する。
【0169】
実施例3:腫瘍特異的な変異を保有している発現されたタンパク質に由来するHLA結合ペプチドの同定(工程2)
次の疑問は、変異型遺伝子が、患者のMHC/HLAタンパク質により提示され得るペプチド
を生成し得るか否かである。最初に、いくつかのアルゴリズムを使用して、患者1の10種
のミスセンス変異から30種、患者2の53種のミスセンス、1種のインデル、および2種の遺
伝子融合から137種、IC50スコア<500nMを有するHLA結合ペプチドを予測した。6種の特異的なHLA対立遺伝子を有する患者における1種のミスセンス変異についての例が、9残基ペ
プチドとHLA対立遺伝子との54の組み合わせのうちの2種の予測された結合ペプチドと共に示される(図6)。これらの遺伝子が腫瘍において発現されていることを確認するため、
本発明者らは、(変異クラスに依るいくつかのアプローチ(図7)を使用して)変異型遺
伝子についてのRNAレベルを測定し、HLA結合ペプチドを有する変異型遺伝子の98%が発現されていることを見出した。
【0170】
次いで、RNA発現が実証された全ての予測されたペプチドのHLA結合能を、HLA対立遺伝
子に結合することが既知の参照ペプチドに対する試験ペプチドの競合結合アッセイを実施することにより、実験的に実証する(Sidney et al.Curr Protoc Immunol.2001,Chapter 18:Unit 18.3)(図8A)。HLA結合の実験的確認に供されたサブセットのうち、Pt1におけるミスセンス変異からの予測されたペプチド17種のうち8種(47%)が、HLA対立遺伝子に対する高い結合親和性を有することが確認された(IC50<500)(図8B)。Pt2については、予測されたペプチド49種のうちの25種が、HLA結合であると実験的に確認された(図8B
)。これらの結果は、予測IC50<150nMを有する全てのペプチドが、実験的にHLA結合を示し、<500nMのカットオフは、当時の40~50%の真の結合ペプチドを生ずることを示唆す
る(図8C)。注目すべきことに、Pt2の確認された変異ペプチド25種のうちの12種は、生
殖系列ペプチドより>2倍良好な結合親和性を有する(図9)。そのようなペプチドは、T
細胞の生殖系列ペプチドとの交差反応の確率を低下させるため、腫瘍ワクチンに組み込むために好ましいが、示差的な結合を示さないペプチドであっても、T細胞受容体による変
異ペプチド 対 生殖系列ペプチドの示差的な認識のため、腫瘍特異的な応答を提供する可能性がある。
【0171】
実施例4:CLL患者試料の配列決定により同定された変異ペプチドに対するCD8+T細胞応答
(工程3)
予測されたHLA結合性変異ペプチド、または実験的に実証されたHLA結合性変異ペプチドに基づき、これらの腫瘍特異的な変異ペプチドを認識するT細胞が生成され得るか否かを
決定することが可能となった。従って、本発明者らは、腫瘍細胞において発現が実証された遺伝子に由来する、1000nM未満の結合スコアを有するペプチドを合成した。所望の特異性を有するT細胞を生成するため、本発明者らは、IL-2およびIL-7の存在下で、1週間毎に、(個々のペプチドまたはペプチドプールを使用して)ペプチドでパルス処理された自己APC(樹状細胞およびCD40Lにより増大させられた自己B細胞)により、配列決定された患
者のT細胞を刺激した。3~4回の刺激の後、増大したCD8+細胞を、IFNγ分泌に基づき、ペプチドに対する反応性の証拠について、エリスポットで試験した。患者1の候補ペプチド17種のうち、TLK2遺伝子由来の変異ペプチドでパルス処理された自己DCに対して、T細胞におけるIFNγ分泌が検出された(図10)。
【0172】
実施例5:変異型BCR-ABL遺伝子は、患者のMHC/HLAタンパク質に結合し、変異ペプチド特
異的なCD8+T細胞を誘発することができる
本発明者らは、白血病のもう一つの型、慢性骨髄性白血病(CML)を有する患者におい
て、腫瘍特異的な変異ペプチドに対するT細胞応答の、より完全な研究を実施した。CMLは、BCR-ABL遺伝子融合の産物である腫瘍特異的な転座の発現により定義される。BCR-ABLの変異は、BCR-ABLを標的とするイマチニブメシル酸塩による最先端の薬理学的治療に対し
て薬物耐性を発症したCML患者において発生する。これらの変異は、MHCタンパク質に結合した時、宿主または移植された正常ドナーに由来するT細胞が認識することができるネオ
エピトープを生成する可能性がある;これらのT細胞は最小限に寛容化される可能性が高
い。
【0173】
本発明者らは、イマチニブに対する耐性を有する患者において進化した20種の最も一般的な変異を考慮し、各変異の周囲に張られた9残基ペプチドおよび10残基ペプチドの結合
を予測した。予測アルゴリズムNetMHC(Nielsen et al.PLoS One.2007,2(8):e796)また
はIEDB(Vita R et al.Nucleic Acids Res.2010,38:D854-62)のいずれかを使用して、本発明者らは、20種の一般的な変異に由来する84種のペプチドの、8種の一般的なHLA対立遺伝子のうちの1種または複数種との結合を予測した(IC50<1000)。多くのペプチドが、3種の最も一般的な変異に由来した。84種のペプチドのうちの24種が、強力な結合体(IC50<50)(図14)、42種のペプチドが中程度の結合体(50<IC50<500)、18種のペプチド
が弱い結合体(500<IC50<1000)であると予測された。
【0174】
本発明者らは、HLA-A3に高い親和性(IC50=33.1)で結合すると予測されるE255K変異
により生成された変異ペプチド(E255K-B255-263)(KVYEGVWKK)(SEQ ID NO:10)に注
目した。競合MHC結合アッセイ(図8A)を使用して、本発明者らは、E255K-BのHLA-A3との高い結合親和性(IC50=17nM)を実験的に確認した。変異ペプチドのHLA結合は、親(野
生型)ペプチドと比較しておよそ10倍強力であった(図15A)。E255K-Bは、他のA3スーパータイプファミリーメンバーHLA-A*1101およびHLA-A*68にも結合することが実験的に実証された。次に、正常なHLA-A3+ドナーおよび2人のE255K+/HLA-A3+CML患者から、E255K-Bに対するT細胞株を生成したところ、各々、親ペプチドより大きな特異性を変異型に対して
示した(図15B、C)。E255K-Bと反応性のT細胞は、E255K変異の周囲の227塩基対を包含しているミニ遺伝子によりトランスフェクトされたHLA-A3+APCにも応答したため、E255K-B
は、内因的にプロセシングされ提示されるようである。最後に、1人の患者におけるE255K反応性は、根治的同種HSCTの後に初めて発生した(図15D)。これらの研究は、白血病に
より駆動される遺伝子改変が、インビボの臨床的応答に関連している新規の免疫原性の腫瘍特異的な抗原標的を提供し得ることを証明している。従って、変異型BCR-ABLの免疫原
性T細胞エピトープの同定のための本発明者らのアプローチは、変異型遺伝子に由来するT細胞エピトープを発見するため、バイオインフォマティクスツールを適用するための有効な戦略を例示している。
【0175】
実施例6:腫瘍エピトープを認識する患者のT細胞クローンは、変異型エピトープを提示する細胞を選択的に死滅させることができる
T細胞の標的特異性の確認は、個々のT細胞クローンの特徴決定によって、最適に取り組まれる。従って、典型的には、反応性T細胞株の限界希釈によって変異ペプチド特異的なT細胞クローンを単離し、次いで、変異ペプチドでパルス処理された自己APC 対 生殖系列
ペプチドでパルス処理された自己APCの示差的な死滅を示すT細胞クローンについてスクリーニングするため、標準的なクロム放出アッセイを使用する。各ペプチドについて標準的な希釈系列を使用して、50%の死滅のために必要とされるペプチドの濃度を測定する。50%の死滅のための必要とされる野生型ペプチドと変異ペプチドとの比率が、10倍を超える場合、変異型腫瘍抗原について以前に見られたように、T細胞によるこれらペプチドの示
差的な認識が存在するとの結論を下す。本発明者らは、CML腫瘍抗原CML66について、この手法を実施した。CML66ペプチド特異的なT細胞が、プロセシングされ提示されたエピトープを認識するか否かを決定するため、CML66ペプチド反応性T細胞を、CML66タンパク質全
体を発現するよう形質導入された自己APCと共にインキュベートした。(DC、CD40Lにより増大させられたB細胞、または操作されたHLA分子を有するK562細胞において)プラスミドDNAまたはインビトロで転写されたRNAのいずれかのヌクレオフェクションによりCML66を
発現させた。図12Aに示されるように、刺激されたT細胞は、HLA-B4403に結合したCML66由
来ペプチドエピトープ(ペプチド66-72C)に特異的であった。CD40Lにより増大させられ
たB細胞をCML66 mRNAによりヌクレオフェクトした時に、完全CML66タンパク質が効率的に発現されたため(図12B)、本発明者らは、標準的なクロム放出アッセイにおいて、標的
として、これらの細胞(またはペプチドでパルス処理された細胞)を使用することができ、T細胞がこれらの標的細胞を効果的に溶解することを見出した(図12C)。患者マッチ(patient-matched)腫瘍細胞の溶解を含む比較可能なアッセイが、(例えば、実施例6および7に記載されたT細胞株を使用して)各癌患者から生成された変異ペプチド特異的なT細
胞株の各々について実施されている。
【0176】
実施例7:可能性のある腫瘍抗原としての変異型腫瘍ドライバー
64人の患者における1188種の非サイレント変異のうち、本発明者らは、SF3B1(CLL患者の16%)、TP53(12.5%)、MYD88(9%)、ATM(9%)、FBXW7(6%)、MAPK1(5%)、GNB1(3%)、およびM6PR(3%)を含む、8種の再現性の変異を同定した(図11)。これ
らの変異(特に、最も高頻度のもの:SF3B1、TP53、MYD88、およびATM)は、腫瘍の発達
または進行にとって必須のドライバー変異であると予測される。これらのドライバー遺伝子は、ワクチンに含めるための有望な腫瘍特異的な抗原を表す。
【0177】
SF3B1は、CLLにおいて最も高頻度に変異している遺伝子であり、保存された部位において変異しており、CLL患者において高発現されており(図12)、以前に記載されていない
。最も一般的なSF3B1変異はK700Eであり(SF3B1変異の40%);付加的な89人の無関係のCLL患者の遺伝子型決定は、この変異を保有するさらに6人の患者の腫瘍を発見した。SF3B1変異にペプチド-HLA結合アルゴリズムを適用することにより、最も一般的なHLA-A2対立遺伝子に対する変異ペプチドの結合を予測する(図13)。CLLにおいて最も一般的な変異(SF3B1 K700E)を保有するペプチドが、最も一般的なクラスI HLA対立遺伝子(HLA-A2)に
結合する場合、このペプチドは、多くのCLL患者のためのCLLワクチンに含めるための優れた候補である。
【0178】
参照文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B-01】
図14B-02】
図15
図16
【配列表】
2024045573000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌または腫瘍に罹患する対象に由来するT細胞の集団を含有する組成物であって、該T細胞の集団は、
(1)対象が発現するHLA対立遺伝子によりコードされるタンパク質 および
(2)少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20の対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドの、1つ以上のネオエピトープ
の複合体に特異的な、抗原特異的T細胞を含み、該T細胞は、前記少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20の対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドによってエクスビボで刺激されており、
対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的な夫々のペプチドのネオエピトープは、対象に特異的且つ対象の腫瘍に特異的なエピトープである、別個の腫瘍ネオエピトープであり、各ネオエピトープは、150nM未満の予測されたIC50で、対象のクラスIのHLA対立遺伝子によりコードされるタンパク質に結合するか、または結合すると予測され、各ネオエピトープは、対象特異的且つ腫瘍特異的な、対象の非腫瘍試料には存在しない非サイレント変異の発現産物を表し、該非サイレント変異は、
(A)点変異、
(B)スプライス部位変異、
(C)フレームシフト変異、
(D)リードスルー変異、または
(E)遺伝子融合変異
を含み、各非サイレント変異は、対象に由来する腫瘍試料および正常組織試料の全ゲノムまたは全エキソームの核酸配列決定により同定される、
前記T細胞の集団を含有する組成物。
【請求項2】
前記少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20の対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドの1つ以上および対象が発現するHLA対立遺伝子によりコードされる前記タンパク質を発現する抗原提示細胞と共に、対象に由来するT細胞をエクスビボでインキュベートすることを含む方法により、T細胞の集団が調製される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドが、約8~50アミノ酸の長さであるか、10アミノ酸を超える長さであるか、20アミノ酸を超える長さであるか、または30アミノ酸を超える長さである、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
(i)少なくとも1つの対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドが、15アミノ酸を超える長さであるか、約24~40アミノ酸の長さであるか、または約15~30アミノ酸の長さである;および/または
(ii)前記1つ以上のネオエピトープの夫々が、約8~12アミノ酸の長さである;または
(iii)前記1つ以上のネオエピトープの夫々が、約15~24アミノ酸の長さである;および/または
(iv)前記少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20の対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドの1つ以上が、ウイルス性のペプチドである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの対象特異的且つ対象の腫瘍に特異的なペプチドが、100nM未満または50nM未満のIC50で、前記対象が発現するHLA対立遺伝子によりコードされる前記タンパク質に結合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
癌が、固形腫瘍または血液腫瘍である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
腫瘍が、乳房の腫瘍、卵巣の腫瘍、前立腺の腫瘍、肺の腫瘍、腎臓の腫瘍、胃の腫瘍、結腸の腫瘍、精巣の腫瘍、頭頸部の腫瘍、膵臓の腫瘍、脳腫瘍、黒色腫、リンパ腫、または白血病である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物が担体を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
(i)2つ以上の変異ネオエピトープ配列を含む1つ以上のポリペプチドでパルス処理された抗原提示細胞、または(ii)2つ以上の変異ネオエピトープ配列を含む1つ以上のポリペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含む抗原提示細胞の集団を含有する組成物であって、
2つ以上の変異ネオエピトープ配列は、以下の工程(a)および(b):
(a)対象に由来する腫瘍試料および正常組織試料の全ゲノムまたは全エキソームの核酸配列決定により、対象の遺伝子における複数の腫瘍特異的変異を同定する工程であって、ここで、該腫瘍特異的変異は対象の癌細胞のゲノムの発現された遺伝子に存在するが、対象由来の正常組織には存在せず、
前記同定された腫瘍特異的変異が、
(ア)点変異である場合、該点変異によりコードされる変異ペプチド配列をさらに同定する;および/または
(イ)スプライス部位変異、フレームシフト変異、リードスルー変異、または遺伝子融合変異である場合、該変異によりコードされる変異ペプチド配列をさらに同定する、工程;および
(b)実証されたペプチド-MHC結合予測アルゴリズムを適用して、150nM未満の予測されたIC50で対象のクラスIのHLAタンパク質に結合する、工程(a)において同定された変異ペプチド配列の2つ以上の変異ネオエピトープ配列を選抜する工程
を含む方法により同定される、前記抗原提示細胞の集団を含有する組成物。
【請求項10】
抗原提示細胞が自己由来の抗原提示細胞である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
腫瘍特異的な免疫応答をその必要がある対象において誘導するための医薬の製造における、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
腫瘍に対してその必要がある対象をワクチン接種するための医薬の製造における、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項14】
T細胞応答をその必要がある対象において誘導するための医薬の製造における、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
癌を有する対象を治療するための医薬の製造における、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
少なくとも1つの組成物、または前記集団が、アジュバントと組み合わせられる、請求項12~15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
アジュバントが、TLR系のアジュバントである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
抗細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)抗体、抗プログラム細胞死タンパク質1(PD1)抗体、抗プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)抗体、抗CD25抗体、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される抗免疫抑制剤または免疫刺激剤の使用をさらに含む、請求項12~17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記抗免疫抑制剤が、抗CTLA-4抗体、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、または抗CD25抗体である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記対象が造血幹細胞移植を受けたことがある、請求項12~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記対象が、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、胃癌、結腸癌、精巣癌、頭頸部癌、膵臓癌、脳の癌、黒色腫、リンパ腫、または白血病を有する、請求項12~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
リンパ腫がB細胞リンパ腫である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
白血病が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、もしくはTリンパ球性白血病である、請求項21に記載の使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0173
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0173】
本発明者らは、イマチニブに対する耐性を有する患者において進化した20種の最も一般的な変異を考慮し、各変異の周囲に張られた9残基ペプチドおよび10残基ペプチドの結合を予測した。予測アルゴリズムNetMHC(Nielsen et al.PLoS One.2007,2(8):e796)またはIEDB(Vita R et al.Nucleic Acids Res.2010,38:D854-62)のいずれかを使用して、本発明者らは、20種の一般的な変異に由来する84種のペプチドの、8種の一般的なHLA対立遺伝子のうちの1種または複数種との結合を予測した(IC50<1000)。多くのペプチドが、3種の最も一般的な変異に由来した。84種のペプチドのうちの24種が、強力な結合体(IC50<50)(図11)、42種のペプチドが中程度の結合体(50<IC50<500)、18種のペプチドが弱い結合体(500<IC50<1000)であると予測された。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0174
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0174】
本発明者らは、HLA-A3に高い親和性(IC50=33.1)で結合すると予測されるE255K変異により生成された変異ペプチド(E255K-B255-263)(KVYEGVWKK)(SEQ ID NO:10)に注目した。競合MHC結合アッセイ(図8A)を使用して、本発明者らは、E255K-BのHLA-A3との高い結合親和性(IC50=17nM)を実験的に確認した。変異ペプチドのHLA結合は、親(野生型)ペプチドと比較しておよそ10倍強力であった(図12A)。E255K-Bは、他のA3スーパータイプファミリーメンバーHLA-A*1101およびHLA-A*68にも結合することが実験的に実証された。次に、正常なHLA-A3+ドナーおよび2人のE255K+/HLA-A3+CML患者から、E255K-Bに対するT細胞株を生成したところ、各々、親ペプチドより大きな特異性を変異型に対して示した(図12B、12C)。E255K-Bと反応性のT細胞は、E255K変異の周囲の227塩基対を包含しているミニ遺伝子によりトランスフェクトされたHLA-A3+APCにも応答したため、E255K-Bは、内因的にプロセシングされ提示されるようである。最後に、1人の患者におけるE255K反応性は、根治的同種HSCTの後に初めて発生した(図12D)。これらの研究は、白血病により駆動される遺伝子改変が、インビボの臨床的応答に関連している新規の免疫原性の腫瘍特異的な抗原標的を提供し得ることを証明している。従って、変異型BCR-ABLの免疫原性T細胞エピトープの同定のための本発明者らのアプローチは、変異型遺伝子に由来するT細胞エピトープを発見するため、バイオインフォマティクスツールを適用するための有効な戦略を例示している。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0175
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0175】
実施例6:腫瘍エピトープを認識する患者のT細胞クローンは、変異型エピトープを提示する細胞を選択的に死滅させることができる
T細胞の標的特異性の確認は、個々のT細胞クローンの特徴決定によって、最適に取り組まれる。従って、典型的には、反応性T細胞株の限界希釈によって変異ペプチド特異的なT細胞クローンを単離し、次いで、変異ペプチドでパルス処理された自己APC 対 生殖系列ペプチドでパルス処理された自己APCの示差的な死滅を示すT細胞クローンについてスクリーニングするため、標準的なクロム放出アッセイを使用する。各ペプチドについて標準的な希釈系列を使用して、50%の死滅のために必要とされるペプチドの濃度を測定する。50%の死滅のための必要とされる野生型ペプチドと変異ペプチドとの比率が、10倍を超える場合、変異型腫瘍抗原について以前に見られたように、T細胞によるこれらペプチドの示差的な認識が存在するとの結論を下す。本発明者らは、CML腫瘍抗原CML66について、この手法を実施した。CML66ペプチド特異的なT細胞が、プロセシングされ提示されたエピトープを認識するか否かを決定するため、CML66ペプチド反応性T細胞を、CML66タンパク質全体を発現するよう形質導入された自己APCと共にインキュベートした。(DC、CD40Lにより増大させられたB細胞、または操作されたHLA分子を有するK562細胞において)プラスミドDNAまたはインビトロで転写されたRNAのいずれかのヌクレオフェクションによりCML66を発現させた。図13Aに示されるように、刺激されたT細胞は、HLA-B4403に結合したCML66由来ペプチドエピトープ(ペプチド66-72C)に特異的であった。CD40Lにより増大させられたB細胞をCML66 mRNAによりヌクレオフェクトした時に、完全CML66タンパク質が効率的に発現されたため(図13B)、本発明者らは、標準的なクロム放出アッセイにおいて、標的として、これらの細胞(またはペプチドでパルス処理された細胞)を使用することができ、T細胞がこれらの標的細胞を効果的に溶解することを見出した(図13C)。患者マッチ(patient-matched)腫瘍細胞の溶解を含む比較可能なアッセイが、(例えば、実施例6および7に記載されたT細胞株を使用して)各癌患者から生成された変異ペプチド特異的なT細胞株の各々について実施されている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0176
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0176】
実施例7:可能性のある腫瘍抗原としての変異型腫瘍ドライバー
64人の患者における1188種の非サイレント変異のうち、本発明者らは、SF3B1(CLL患者の16%)、TP53(12.5%)、MYD88(9%)、ATM(9%)、FBXW7(6%)、MAPK1(5%)、GNB1(3%)、およびM6PR(3%)を含む、8種の再現性の変異を同定した(図14A~14C)。これらの変異(特に、最も高頻度のもの:SF3B1、TP53、MYD88、およびATM)は、腫瘍の発達または進行にとって必須のドライバー変異であると予測される。これらのドライバー遺伝子は、ワクチンに含めるための有望な腫瘍特異的な抗原を表す。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0177
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0177】
SF3B1は、CLLにおいて最も高頻度に変異している遺伝子であり、保存された部位において変異しており、CLL患者において高発現されており(図15)、以前に記載されていない。最も一般的なSF3B1変異はK700Eであり(SF3B1変異の40%);付加的な89人の無関係のCLL患者の遺伝子型決定は、この変異を保有するさらに6人の患者の腫瘍を発見した。SF3B1変異にペプチド-HLA結合アルゴリズムを適用することにより、最も一般的なHLA-A2対立遺伝子に対する変異ペプチドの結合を予測する(図16)。CLLにおいて最も一般的な変異(SF3B1 K700E)を保有するペプチドが、最も一般的なクラスI HLA対立遺伝子(HLA-A2)に結合する場合、このペプチドは、多くのCLL患者のためのCLLワクチンに含めるための優れた候補である。