(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045680
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電位発生繊維を含む糸の表面電位の測定方法
(51)【国際特許分類】
D06H 3/10 20060101AFI20240326BHJP
D02G 3/38 20060101ALI20240326BHJP
D02G 3/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
D06H3/10
D02G3/38
D02G3/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024331
(22)【出願日】2024-02-21
(62)【分割の表示】P 2021522281の分割
【原出願日】2020-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2019099434
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 良
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】山永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】玉倉 大次
(57)【要約】
【課題】所定条件で規定された電位を発生することより、抗菌、帯電、または吸着等の所望の効果を発揮する糸の表面電位の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の電位発生繊維を含む糸の表面電位の測定方法は、下記条件(a)~(d)で測定することを特徴とする。(a)前記糸を一軸方向に所定量伸張する。(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。(c)前記芯材を接地する。(d)電気力顕微鏡により前記糸の表面電位を測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(a)~(d)で測定することを特徴とする、電位発生繊維を含む糸の表面電位の測定方法。
(a)前記糸を一軸方向に所定量伸張する。
(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。
(c)前記芯材を接地する。
(d)電気力顕微鏡により前記糸の表面電位を測定する。
【請求項2】
前記所定量として、前記糸の歪みが0.1%以上である、
請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
太さが0.005~10dtexである、請求項1または請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記繊維は、ポリ乳酸を含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記繊維が撚られている、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
撚り角度の平均が10~50°である、請求項5に記載の測定方法。
【請求項7】
下記要件(A)~(C)を満たす、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の測定方法。
(A)繊維強度が1~5cN/dtexであること。
(B)伸度が10~50%であること。
(C)結晶化度が15~55%であること。
【請求項8】
下記条件(a)~(d)で測定することを特徴とする、電位発生繊維を含む布の表面電位の測定方法。
(a)前記糸を一軸方向に所定量伸張する。
(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。
(c)前記芯材を接地する。
(d)電気力顕微鏡により前記糸の表面電位を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷を発生する電位発生繊維を含む糸および布の表面電位の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、外部からのエネルギーにより電荷を発生する電荷発生繊維を備えた糸および布が開示されている。特許文献1の糸および布は、発生した電荷により抗菌効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の電荷発生繊維は、繊維の表面にどの程度の電位が生じているか、開示されていない。仮に、発生した電位が低すぎる場合には、所望の効果を生じない可能性もある。
【0005】
そこで、この発明は、所望の効果を発揮する糸および布の表面電位の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電位発生繊維を含む糸の表面電位の測定方法は、下記条件(a)~(d)で測定することを特徴とする。
(a)前記糸を一軸方向に所定量伸張する。
(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。
(c)前記芯材を接地する。
(d)電気力顕微鏡により前記糸の表面電位を測定する。
【0007】
外部からのエネルギーにより表面に電位を発生する繊維は、例えば、圧電効果を有する物質(例えばポリ乳酸、光電効果を有する物質、焦電効果を有する物質(例えばPVDF:Polyvinylidene Difluoride))、または化学変化により電荷を生じる物質、等がある。本発明の糸は、発生した電位により抗菌効果を発揮する。また、本発明の糸は、上記条件により規定された電位を発生することにより、物質を帯電させることもできる。あるいは、本発明の糸は、上記条件により規定された電位を発生することにより、物質を吸着することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、所定条件で規定された電位を発生することより、抗菌、帯電、または吸着等の所望の効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(A)は、糸1の構成を示す一部分解図であり、
図1(B)は、
図1(A)のA-A線における断面図である。
【
図3】糸1に対して、軸方向に2%の変位をかけた際の電位を示すシミュレーション結果である。
【
図4】
図4(A)は、Z糸である糸1において、ある断面における電場を示したシミュレーション結果であり、
図4(B)は、S糸である糸2において、ある断面における電場を示したシミュレーション結果である。
【
図5】糸1および糸2を近接させた場合の、電場の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1(A)は、糸1の構成を示す一部分解図であり、
図1(B)は、
図1(A)のA-A線における断面図である。
【0011】
糸1は、複数の繊維10が撚られてなるマルチフィラメント糸である。繊維10は、断面が円形状の繊維である。糸1は、複数の繊維10が左旋回して撚られた左旋回糸(以下、Z糸と称する。)である。
【0012】
繊維10は、例えば圧電性ポリマーからなる。繊維10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法により製造される。あるいは、繊維10は、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程および延伸工程を分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程および延伸工程を連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む。)、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するようなゲル紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法、等を含む。)により繊維化する手法、または圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法等により製造される。なお、繊維10の断面形状は、円形状に限るものではない。
【0013】
圧電性ポリマーは、焦電性を有するものと、焦電性を有しないものとが存在するが、いずれも使用することができる。例えば、PVDFは、焦電性を有しており、温度変化によっても分極し、繊維の表面に電位を生じる。PVDF等の焦電性を有する圧電体は、人体の熱エネルギーによっても分極する。この場合、人体の熱エネルギーが外部からのエネルギーである。
【0014】
また、ポリ乳酸(PLA:Polylactic Acid)は、焦電性を有していない圧電性ポリマーである。ポリ乳酸は、一軸延伸されることで圧電性が生じる。ポリ乳酸としては、結晶構造によって、L-乳酸およびL-ラクチドを重合してなるポリ-L-乳酸、D-乳酸およびD-ラクチドを重合してなるポリ-D-乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸等があるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点では、好ましくは、ポリ-L-乳酸またはポリ-D-乳酸を用いるとよい。ポリ-L-乳酸およびポリ-D-乳酸はそれぞれ、同じ変形に対して分極の極性が逆になる。
【0015】
ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現する。ポリ乳酸は、さらに熱処理を加えて結晶化度を高めることで圧電定数を高くすることができる。ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。
【0016】
一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0017】
一軸延伸されたポリ乳酸を含む繊維10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。したがって、一軸延伸されたポリ乳酸を含む繊維10は、一軸延伸された方向に交差する方向にずり変形が生じた場合に電位を生じる。
【0018】
図1(A)において、各繊維10の延伸方向900は、それぞれの繊維10の軸方向に一致している。複数の繊維10が撚られることによって、繊維10の延伸方向900は、糸1の軸方向に対して傾いた状態となる。
【0019】
この様なZ糸の糸1に張力をかけて伸張した場合、繊維10には、糸1の軸方向に沿って歪みが生じ、糸1の軸方向に沿ってずり変形が生じる。したがって、繊維10の表面には正の電位が生じ、内側には負の電位が発生する。なお、
図2に示す様に繊維10を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、S糸と称する。)である場合は、伸張した場合、繊維10の表面に負の電位が発生し、内側に正の電位が発生する。
【0020】
したがって、糸1の表面には正の電位が発生し、内側には負の電位が発生する。糸2の表面には負の電位が発生し、内側には正の電位が発生する。ただし、繊維10の撚り角度は部位により異なり、糸1および糸2の太さも全体としては均一ではない。そのため、繊維10は、常に均一な表面電位を生じるのではない。
【0021】
図3は、糸1に対して、軸方向に2%の変位をかけた際の電位を示すシミュレーション結果である。ただし、このシミュレーション結果においては、糸1に軸方向の変位が生じた場合に、それぞれの繊維10同士が滑ることを前提としている。このシミュレーション結果においては、軸方向に2%の変位をかけたことにより、撚り角度の平均は、6.5°から5.5°に変化している。
【0022】
図3のシミュレーション結果に示す様に、繊維10は、正の電位を生じる箇所と、負の電位を生じる箇所と、を有する。糸1は、それぞれ、正の電位を生じる箇所と、負の電位を生じる箇所との間で、電場を形成する。
【0023】
図4(A)は、Z糸である糸1において、ある断面における電場を示したシミュレーション結果である。
図4(B)は、S糸である糸2において、ある断面における電場を示したシミュレーション結果である。これらのシミュレーション結果に示す様に、糸1および糸2は、それぞれ単独でも数MV/mの電場が生じる部分を有することが分かる。
【0024】
この様に、本発明の糸は、外部からのエネルギーにより表面に電位を発生する複数の繊維10を備え、変位を加えた時に複数の繊維10の間で電場を生じる。
【0025】
より詳細には、繊維10は、正の電位部分と負の電位部分(電位が異なる部分)を有し、複数の繊維10の正の部分と負の部分との間に電場が発生する。
【0026】
なお、繊維10の延伸方向900は、少なくとも糸の軸方向に対して交差していればよい。好ましくは、撚り角度の平均は、10~50°である。より好ましくは、撚り角度の平均は、20~40°である。
【0027】
無論、糸1と他の物質との間、糸2と他の物質との間、または糸1と糸2との間でも、電場を生じる。
図5は、糸1および糸2を近接させた場合の、電場の状態を示す断面図である。糸1単独では、軸方向の張力が加わった時に表面は正の電位になり、内部は負の電位になる。糸2単独では、軸方向の張力が加わった時に表面は負の電位になり、内部は正の電位になる。
【0028】
これら糸1および糸2が近接した場合、近接する部分(表面)は同電位になろうとする。この場合、糸1と糸2との近接部は0Vとなり、元々の電位差を保つように、糸1の内部の負の電位はさらに低くなる。同様に糸2の内部の正の電位はさらに高くなる。
【0029】
糸1の断面では、主に糸1の外から内に向かう電場が形成され、糸2の断面では主に内から外に向かう電場が形成される。糸1および糸2を近接させた場合、これらの電場が空気中に漏れ出て合成され、糸1および糸2の間の電位差により、糸1と糸2との間に電場が形成される。
【0030】
また、糸1と、人体等の所定の電位を有する物と、が近接した場合も、糸1と近接する物との間に電場が生じる。糸2と、人体等の所定の電位を有する物と、が近接した場合にも、糸2と近接する物との間に電場が生じる。
【0031】
以上の様な電場は、例えば、ウイルス、細菌、真菌、古細菌またはダニおよびノミ等の微生物の増殖を抑制する抗菌効果を発揮する。
【0032】
なお、糸1または糸2に電解質を含む水分が存在する場合、当該水分を介して電流が流れる。糸1または糸2は、この電流によっても、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。または電場や電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある。ラジカルとして、スーパーオキシドアニオンラジカル(活性酸素)やヒドロキシラジカルの発生が考えられる。
【0033】
従来の薬剤等の抗菌性を有する材料は、効果が長く持続しなかった。また、従来の抗菌性を有する材料は、薬剤等によるアレルギー反応が生じる場合もある。これに対して、本実施形態の糸の抗菌効果は、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、本実施形態の糸では、薬剤よりもアレルギー反応が生じるおそれは低い。さらに、上述の様にポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定しているため、糸の抗菌効果も長く安定して発揮される。
【0034】
また、糸1または糸2は、発生した電位により、他の物質を帯電させることができる。あるいは、糸1または糸2は、発生した電位により、物質を吸着することができる。例えば、糸1は、表面に正の電位が生じるため、負の電位を有する物質を吸着することができる。糸2は、表面に負の電位が生じるため、正の電位を有する物質を吸着することができる。
【0035】
糸1または糸2は、フィルタを構成することにより、物質を効率良く吸着することもできる。この様なフィルタは、マスクまたは空気清浄機に好適である。また、前段のプレフィルタとして糸1または糸2で物質を正または負に帯電させ、後段のフィルタとして極性が反対の電位を生じる糸1または糸2を用いることで、より効率よく物質を吸着させることもできる。前段のプレフィルタとして糸1または糸2で物質を正または負に帯電させ、後段のフィルタとして極性が反対の電位を有するエレクトレットフィルタを用いてもよい。
【0036】
ここで、仮に、糸1または糸2の表面に発生した電位が低すぎる場合には、上述した各種の所望の効果を生じない可能性もある。しかし、本発明の糸は、外部からのエネルギーにより表面に電位を発生する繊維を備え、下記条件(a)~(d)で測定することにより糸の表面に0.1V以上の電位を発生することが特徴である。本発明の糸は、この様な条件で規定された電位を発生することにより、所望の効果を発揮することができる。
(a)前記糸を一軸方向に所定量伸張する。
(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。
(c)前記芯材を接地する。
(d)電気力顕微鏡により前記糸の表面電位を測定する。
【0037】
なお、上記(a)の所定量としては、糸の歪みが0.1%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5%以上の歪みである。表面の電位は、好ましくは0.3V以上であり、より好ましくは1.0V以上である。
【0038】
糸の太さ(単繊維繊度)は、0.005~10dtexであることが好ましい。単繊維繊度が小さくなるとフィラメント数が多くなりすぎて、毛羽立ち易くなる。一方で、単繊維繊度が大きくフィラメント数が少なすぎると風合いが損なわれる。なお、ここで言う単繊維繊度とは、1本の撚糸の単繊維繊度である。撚糸をさらに合糸した場合でも、合糸される前の1本の撚糸の単繊維繊度を意味する。
【0039】
さらに、糸の繊維強度は、1~5cN/dtexであることが好ましい。これにより、糸は、高い電位を発生するためにより大きな変形が生じたとしても、破断することなく耐えることができる。繊維強度は、2~10cN/dtexがより好ましく、3~10cN/dtexがさらに好ましく、3.5~10cN/dtexが最も好ましい。同様の趣旨により、糸の伸度は、10~50%であることが好ましい。
【0040】
また、ポリ乳酸の結晶化度は、15~55%であることが好ましい。これによりポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による分極をより効果的に生じさせることができる。
【0041】
以下、実施例について述べる。実施例1~3の糸は、結晶化度45%、結晶サイズ12nm、配向度79%のポリ乳酸、84dtex-24フィラメントを用いた撚糸である。実施例1~3の糸は、導電繊維からなる芯材にポリ乳酸のフィラメントをカバリングしてなる。また、当該芯材は接地されている。そのため、実施例1~3の糸の内側は、0Vの電位となる。
【0042】
実施例1は、撚り回数が500T/mであり、実施例2は、撚り回数が1150T/mであり、実施例3は、撚り回数が3000T/mである。撚り回数が500T/mの場合、撚り角度の平均は10°であり、撚り回数が1150T/mの場合、撚り角度の平均は28°であり、撚り回数が3000T/mの場合、撚り角度の平均は47°である。
【0043】
表1は、実施例1~3の糸の両端を剛体の治具で挟みこみ、40mmの糸を40.2mmに伸張してイオナイザで除電した後に、軸方向に0.5%(40.2mmを40.4mmに)伸張し、電気力顕微鏡により糸の表面の電位を測定した結果である。表1に示す電位の値は、正または負のピーク値である。
【0044】
【0045】
表1に示す様に、実施例1のS糸は、-0.15Vの電位を生じる。実施例1のZ糸は、0.12Vの電位を生じる。実施例2のS糸は、-1.22Vの電位を生じる。実施例2のZ糸は、0.96Vの電位を生じる。実施例3のS糸は、-0.35Vの電位を生じる。実施例3のZ糸は、0.40Vの電位を生じる。
【0046】
表2は、上記表1の条件で測定した後、さらに軸方向に0.25%に伸縮(40.4mmおよび40.5mmの間で伸縮)した場合に、電気力顕微鏡により糸の表面電位を測定した結果である。S糸は、伸張した場合には表面に負の電位が生じ、収縮した場合には表面に正の電位が生じる。Z糸は、伸張した場合には表面に正の電位が生じ、収縮した場合には表面に負の電位が生じる。したがって、糸を伸縮すると、正の電位および負の電位が交互に生じる。表2に示す表面電位の値は、最小値と最大値の差(ピークからピークまでの値の差)である。
【0047】
【0048】
表1に示す様に、実施例1のS糸は、0.28Vの電位を生じる。実施例1のZ糸は、0.33Vの電位を生じる。実施例2のS糸は、2.83Vの電位を生じる。実施例2のZ糸は、2.42Vの電位を生じる。実施例3のS糸は、0.80Vの電位を生じる。実施例3のZ糸は、0.75Vの電位を生じる。
【0049】
表1および表2の結果から、撚り回数が500~3000Tmである場合、糸の表面に約0.1V以上の電位が生じることが確認できた。これら実施例は、いずれも抗菌効果を生じることを確認している。よって、本発明の糸は、上記(a)~(d)の条件で規定された電位(0.1V以上)を発生することにより、所望の効果を発揮することができる。
【0050】
これらの実施例の測定結果から、撚り角度の平均は、好ましくは10~50°と言える。また、上記の測定結果では、撚り角度30°の場合に最も高い電位を生じていることから、より好ましくは、撚り角度の平均は、20~40°であると言える。
【0051】
本発明の糸は、必要に応じて複数種類の撚糸を組み合わせて用いることができる。例えば、主にポリ-L-乳酸を用いたS撚りの撚糸と、主にポリ-L-乳酸を用いたZ撚りの撚糸とを用いることができる。これらの糸を近接させると、繊維間の電場が大きくなり抗菌性が高くなる。
【0052】
主にポリ-L-乳酸を用いたS撚りの撚糸と主にポリ-D-乳酸を用いたS撚りの撚糸とを用いた場合、および主にポリ-L-乳酸を用いたZ撚りの撚糸と主にポリ-D-乳酸を用いたZ撚りの撚糸とを用いた場合、およびポリ-D-乳酸を用いたS撚りの撚糸と、主にポリ-D-乳酸を用いたZ撚りの撚糸とを用いた場合、も同様である。
【0053】
これらの撚糸は、合糸して用いてもよいし、布を構成する糸として上記の撚糸のうち任意の2種の撚糸を併用してもよい。本発明の布は、例えば、上述の糸1または糸2で構成される。なお、本発明において、布とは、織物、編物、組物、不織布、レースなどの繊維製品を指す。
【0054】
布を構成する糸のそれぞれが、上述の条件(a)~(d)で表面に0.1V以上の電位を発生してもよいが、本発明の布自体が、下記条件(a)~(d)で測定することにより布の表面に0.1V以上の電位を発生してもよい。本発明の布も、この様な条件で規定された電位を発生することにより、所望の効果を発揮することができる。
(a)前記布を一軸方向に所定量伸張する。
(b)導電繊維からなる芯材に前記繊維をカバリングする。
(c)前記芯材を接地する。
(d)電気力顕微鏡により前記布の表面電位を測定する。
【0055】
糸の場合と同様に、上記(a)の所定量としては、布の歪みが0.1%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.5%以上の歪みである。表面の電位は、好ましくは0.3V以上であり、より好ましくは1.0V以上である。
【0056】
布を構成する繊維のパラメータは、上述の糸と同様である。すなわち、繊維の太さ(単繊維繊度)は、0.005~10dtexであることが好ましい。さらに、繊維強度は、1~5cN/dtexであることが好ましい。繊維強度は、2~10cN/dtexがより好ましく、3~10cN/dtexがさらに好ましく、3.5~10cN/dtexが最も好ましい。繊維の伸度は、10~50%であることが好ましい。ポリ乳酸の結晶化度は、15~55%であることが好ましい。
【0057】
布を構成する繊維が撚糸である場合、当該撚糸の撚り角度の平均は、好ましくは10~50°であり、より好ましくは、撚り角度の平均は、20~40°である。
【0058】
布の目付は、20~200g/m2、空隙率は、50~95%であることが好ましい。また、布をフィルタとして用いる場合には、捕集性能および捕集安定性を高くするため風速5.1cm/sec以上で0.3μmの微粒子捕集率が40%以上であり、かつ圧損が250Pa未満であるフィルタとすることが好ましい。
【0059】
本発明の布は、衣料、医療部材等の各種の製品に適用可能である。例えば、本発明の布は、肌着(特に靴下)、タオル、靴およびブーツ等の中敷き、スポーツウェア全般、帽子、寝具(布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバー等を含む。)、歯ブラシ、フロス、各種フィルタ類(浄水器、エアコンまたは空気清浄機のフィルタ等)、ぬいぐるみ、ペット関連商品(ペット用マット、ペット用服、ペット用服のインナー)、各種マット品(足、手、または便座等)、カーテン、台所用品(スポンジまたは布巾等)、シート(車、電車または飛行機等のシート)、オートバイ用ヘルメットの緩衝材およびその外装材、ソファ、包帯、ガーゼ、マスク、縫合糸、医者および患者の服、サポーター、サニタリ用品、スポーツ用品(ウェアおよびグローブのインナー、または武道で使用する籠手等)、あるいは包装資材等に適用することができる。
【0060】
衣料のうち、特に靴下(またはサポーター)は、歩行等の動きによって、関節に沿って必ず伸縮が生じるため、高頻度で分極を生じる。また、靴下は、汗などの水分を吸い取り、菌の増殖の温床となるが、本発明の布では、菌の増殖を抑制することができるため、菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0061】
なお、本発明の糸は、無撚糸であってもよいし、仮撚糸であってもよい。本発明の布を構成する糸も、無撚糸であってもよいし、仮撚糸であってもよい。外部からのエネルギーにより表面に電位を発生する繊維を備えていて、上記条件により0.1V以上の電位を生じるものであれば、抗菌効果等の各種の所望の効果を発揮することができる。
【0062】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1,2…糸
10…繊維
900…延伸方向