(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045784
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】コモンモードチョークコイル
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240326BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20240326BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F27/00 160
H01F27/28 K
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027052
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2022151318の分割
【原出願日】2019-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌史
(57)【要約】
【課題】異なるターン間の浮遊容量の局所的な偏りを低減し、モード変換特性を低減することができる、巻線型のコモンモードチョークコイルを提供する。
【解決手段】第1、第2ワイヤ11,12を第1、第2端子電極21,22に接続し、第3、第4ワイヤ13,14を第3、第4端子電極23,24に接続する。巻芯部3のまわりに、第1ワイヤ11、第3ワイヤ13、第4ワイヤ14および第2ワイヤ12を、それぞれ、第1層、第2層、第3層および第4層を構成するように巻回する。第1ワイヤ11の所定のターンは、第1ワイヤ11の当該ターンと第1端4側から数えて同一番目の第3ワイヤ13のターンより第2端5側に2ターン以上ずれており、第2ワイヤ12の所定のターンは、第2ワイヤ12の当該ターンと第1端4側から数えて同一番目の第4ワイヤ14のターンより第1端4側に2ターン以上ずれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部ならびに前記巻芯部の軸線方向での第1端側に設けられた第1鍔部および前記巻芯部の軸線方向での前記第1端側とは逆の第2端側に設けられた第2鍔部を有するコアと、
前記巻芯部のまわりで並行しながらそれぞれ螺旋状に巻回された第1ワイヤ、第2ワイヤ、第3ワイヤおよび第4ワイヤと、
前記第1鍔部に設けられた第1端子電極および第3端子電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2端子電極および第4端子電極と、
を備え、
前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤの各々の一方端は、前記第1端子電極に接続され、前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤの各々の他方端は、前記第2端子電極に接続され、
前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの各々の一方端は、前記第3端子電極に接続され、前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの各々の他方端は、前記第4端子電極に接続され、
前記第1ワイヤは、前記巻芯部のまわりで第1層を構成するように巻回され、
前記第3ワイヤは、その一部を前記第1ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第1層の外周側において第2層を構成するように巻回され、
前記第4ワイヤは、その一部を前記第3ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第2層の外周側において第3層を構成するように巻回され、
前記第2ワイヤは、その一部を前記第4ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第3層の外周側において第4層を構成するように巻回され、
前記第1ワイヤの所定のターンは、前記第1ワイヤの当該ターンと前記第1端側から数えて同一番目の前記第3ワイヤのターンより前記第2端側に2ターン以上ずれており、前記第2ワイヤの所定のターンは、前記第2ワイヤの当該ターンと前記第1端側から数えて同一番目の前記第4ワイヤのターンより前記第1端側に2ターン以上ずれている、
コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
前記第1ワイヤの所定のターンと前記第1ワイヤの当該ターンと同一番目の前記第3ワイヤのターンとが2ターンずれており、前記第2ワイヤの前記所定のターンと前記第2ワイヤの当該ターンと同一番目の前記第4ワイヤのターンとが2ターンずれている、
請求項1に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項3】
前記第1ワイヤの実質的にすべてのターンと前記第1ワイヤの当該ターンと同一番目の前記第3ワイヤのターンとが2ターン以上ずれており、前記第2ワイヤの実質的にすべてのターンと前記第2ワイヤの当該ターンと同一番目の前記第4ワイヤのターンとが2ターン以上ずれている、請求項1に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項4】
巻芯部ならびに前記巻芯部の軸線方向での第1端側に設けられた第1鍔部および前記巻芯部の軸線方向での前記第1端側とは逆の第2端側に設けられた第2鍔部を有するコアと、
前記巻芯部のまわりで並行しながらそれぞれ螺旋状に巻回された第1ワイヤ、第2ワイヤ、第3ワイヤおよび第4ワイヤと、
前記第1鍔部に設けられた第1端子電極および第3端子電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2端子電極および第4端子電極と、
を備え、
前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤの各々の一方端は、前記第1端子電極に接続され、前記第1ワイヤおよび前記第2ワイヤの各々の他方端は、前記第2端子電極に接続され、
前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの各々の一方端は、前記第3端子電極に接続され、前記第3ワイヤおよび前記第4ワイヤの各々の他方端は、前記第4端子電極に接続され、
前記第1ワイヤは、前記巻芯部のまわりで第1層を構成するように巻回され、
前記第3ワイヤは、その一部を前記第1ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第1層の外周側において第2層を構成するように巻回され、
前記第4ワイヤは、その一部を前記第3ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第2層の外周側において第3層を構成するように巻回され、
前記第2ワイヤは、その一部を前記第4ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、前記第3層の外周側において第4層を構成するように巻回され、
前記第1ワイヤの所定のターンと前記第1ワイヤの当該ターンと前記第1端側から数えて同一番目の前記第3ワイヤのターンとのずれ量と、前記第2ワイヤの前記所定のターンと前記第2ワイヤの当該ターンと前記第1端側から数えて同一番目の前記第4ワイヤのターンとのずれ量と、が互いに異なる、
コモンモードチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コモンモードチョークコイルに関するもので、特に、コアに備える巻芯部上に複数本のワイヤを巻回した構造を有する巻線型のコモンモードチョークコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9および
図10を参照して、この発明の対象となるコモンモードチョークコイル31の一般的な構成について説明する。
【0003】
図9に示すように、コモンモードチョークコイル31は、コア32と、それぞれインダクタを構成する第1ワイヤ33および第2ワイヤ34と、を備えている。コモンモードチョークコイル31は、天板45を備えることもある。
【0004】
コア32は、巻芯部35ならびに巻芯部35の軸線方向での第1端38側に設けられた第1鍔部36および同じく第1端38側とは逆の第2端39側に設けられた第2鍔部37を有する。
【0005】
第1鍔部36には、第1端子電極41および第3端子電極43が設けられ、第2鍔部37には、第2端子電極42および第4端子電極44が設けられる。なお、端子電極41~44の位置からわかるように、
図9は、コモンモードチョークコイル31を、実装基板側に向けられる実装面を上方に向けた姿勢で図示している。
【0006】
第1ワイヤ33および第2ワイヤ34は、巻芯部35のまわりで第1端38側から第2端39側に向かって並行しながら螺旋状に巻回されている。第1ワイヤ33の各端部は、それぞれ、第1端子電極41および第2端子電極42に接続され、第2ワイヤ34の各端部は、それぞれ、第3端子電極43および第4端子電極44に接続される。
【0007】
以上のような構成を有するコモンモードチョークコイル31は、
図10に示すような等価回路を与えている。
図10において、
図9に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付している。
【0008】
図10を参照して、コモンモードチョークコイル31は、第1端子電極41および第2端子電極42間に接続される第1ワイヤ33によって構成される第1インダクタ46と、第3端子電極43および第4の端子電極44間に接続される第2ワイヤ34によって構成される第2インダクタ47と、を備える。
【0009】
図9では明瞭に表わされていないが、第1ワイヤ33は、巻芯部35の周面のまわりで第1層を構成するように巻回され、第2ワイヤ34は、その一部を第1ワイヤ33の隣り合うターン間に形成される凹部に嵌り込ませながら第1層の外周側において第2層を構成するように巻回されている。このようにして、上述の第1インダクタ46および第2インダクタ47は、互いに磁気結合される。
【0010】
以上説明したコモンモードチョークコイル31において、そこに入力される信号周波数が高くなると、入力されたディファレンシャル信号成分のうち、コモンモードノイズに変換されて出力される割合であるモード変換特性が大きく現れるという問題に遭遇することがある。たとえば特開2014-120730号公報(特許文献1)では、第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々の異なるターン間に発生する浮遊容量(分布容量)のバランスが崩れることを、この問題の原因として挙げている。
【0011】
そのため、
図11に示すように、特許文献1に記載のコモンモードチョークコイル31aでは、次のようなワイヤ33および34の巻回態様が採用される。
【0012】
なお、
図11では、第1ワイヤ33を示す断面には網掛けが施され、第2ワイヤ34との区別が明確になるようにしている。また、
図11に示した第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々の断面内には、巻芯部35の第1鍔部36が位置する第1端38側から数えたターン数「1」~「12」が記入されている。
【0013】
図11において、巻芯部35の周囲に巻回される第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各部分のうち、巻芯部35の手前側に位置する部分は実線で、巻芯部35によって隠れる部分は破線でそれぞれ模式的に示されている。なお、
図11では、ワイヤ33および34の、巻芯部35の手前側に位置する部分および巻芯部35によって隠れる部分の各々のすべてが図示されているわけではない。
【0014】
図11を参照して、第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の巻回状態に基づき分類したとき、
(1)第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ33のターンがこれと同一番目の第2ワイヤ34のターンより第1端38側に位置する第1巻回領域Aと、
(2)第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ33のターンがこれと同一番目の第2ワイヤ34のターンより第2端39側に位置する第2巻回領域Bと、
(3)第1巻回領域Aと第2巻回領域Bとの間に位置し第1ワイヤ33と第2ワイヤ34とが交差することによって、第1ワイヤ33のターンと第2ワイヤ34のターンとの位置関係が切り替えられる切替領域Cと、
が存在している。そして、これら第1巻回領域A、切替領域Cおよび第2巻回領域Bは、この順序で巻芯部35の軸線方向に沿って配列されている。
【0015】
特許文献1に記載の技術では、モード変換特性が大きく現れるという問題を解決するにあたり、第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の異なるターン間に発生する浮遊容量(分布容量)をバランスさせるため、第1巻回領域Aにおける第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の巻回構造と、第2巻回領域Bにおける第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の巻回構造とが、切替領域Cの中心線CLに関して、対称となるようにされている。言い換えると、第1巻回領域Aにおける第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々のターン数と第2巻回領域Bにおける第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の各々のターン数とが、互いに等しくなるようにされている。
【0016】
特許文献1に記載の技術では、上述のように、第1巻回領域A、切替領域Cおよび第2巻回領域Bを、この順序で巻芯部35の軸線方向に沿って配列することによって、ワイヤ33および34の巻回構造を、切替領域Cの中心線CLに関して、対称となるようにしている。そのため、異ターン間容量が第1ワイヤ33および第2ワイヤ34の両方に対して均一に発生するため、第1ワイヤ33および第2ワイヤ34のインピーダンスのアンバランスを抑えることができる。したがって、モード変換特性を低減することができ、高品質なコモンモードチョークコイルを実現することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載の技術では、モード変換特性を低減するため、上述のように、ワイヤ33および34の巻回構造を対称にするという手段を採用している。したがって、
図9および
図10を参照して説明した一般的なコモンモードチョークコイル31に比べて、モード変換特性をある程度低減することができる。
【0019】
しかし、特許文献1に記載の技術によっても、モード変換特性は完全に0になるわけではない。その原因として、コモンモードチョークコイル31aに関連して形成される回路を、信号の進行方向に対して前半と後半との2つに割っているため、巨視的、すなわちターン全体では異なるターン間の浮遊容量の偏りは解消されるが、局所的、たとえば前半だけまたは後半だけを見た場合には、異なるターン間の浮遊容量が発生している。そのため、後述する
図4に示すように、高周波域において徐々にモード変換特性が悪化することを本件発明者が発見した。
【0020】
そこで、この発明の目的は、異なるターン間の浮遊容量の局所的な偏りを低減することができる、コモンモードチョークコイルを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明に係るコモンモードチョークコイルは、上述した技術的課題を解決するため、巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向での第1端側に設けられた第1鍔部および巻芯部の軸線方向での第1端側とは逆の第2端側に設けられた第2鍔部を有するコアと、巻芯部のまわりで並行しながらそれぞれ螺旋状に巻回された第1ワイヤ、第2ワイヤ、第3ワイヤおよび第4ワイヤと、第1鍔部に設けられた第1端子電極および第3端子電極と、第2鍔部に設けられた第2端子電極および第4端子電極と、を備えている。
【0022】
第1ワイヤおよび第2ワイヤの各々の一方端は、第1端子電極に接続され、第1ワイヤおよび第2ワイヤの各々の他方端は、第2端子電極に接続され、第3ワイヤおよび第4ワイヤの各々の一方端は、第3端子電極に接続され、第3ワイヤおよび第4ワイヤの各々の他方端は、第4端子電極に接続される。
【0023】
第1ワイヤは、巻芯部のまわりで第1層を構成するように巻回され、第3ワイヤは、その一部を第1ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、第1層の外周側において第2層を構成するように巻回され、第4ワイヤは、その一部を第3ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、第2層の外周側において第3層を構成するように巻回され、第2ワイヤは、その一部を第4ワイヤの隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、第3層の外周側において第4層を構成するように巻回される。
【0024】
そして、第1ワイヤの所定のターンは、第1ワイヤの当該ターンと第1端側から数えて同一番目の第3ワイヤのターンより第2端側に2ターン以上ずれており、第2ワイヤの所定のターンは、第2ワイヤの当該ターンと第1端側から数えて同一番目の第4ワイヤのターンより第1端側に2ターン以上ずれていることを特徴としている。
【0025】
この発明は、他の局面では、第1ワイヤの所定のターンと第1ワイヤの当該ターンと第1端側から数えて同一番目の第3ワイヤのターンとのずれ量と、第2ワイヤの所定のターンと第2ワイヤの当該ターンと第1端側から数えて同一番目の第4ワイヤのターンとのずれ量と、が互いに異なることを特徴としている。
【0026】
特許文献1に記載の技術では、対をなす2本のワイヤについての位置関係が互いに逆の第1巻回領域と第2巻回領域とを巻芯部の軸線方向に配列していたのに対し、この発明では、簡単に言えば、上記第1巻回領域に相当する領域と上記第2巻回領域に相当する領域とを巻芯部の軸線方向に直交する方向に積み重ねた構成が採用される。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、4本のワイヤによって構成される第1インダクタまたは第2インダクタにおける異なるターン間の浮遊容量の局所的な偏りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】この明細書において開示される第1の実施形態によるコモンモードチョークコイル1の外観を実装面側から示す平面図である。
【
図2】
図1に示したコモンモードチョークコイル1における第1ないし第4ワイヤ11~14の巻回状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2に示した第1ないし第4ワイヤ11~14間に発生する浮遊容量C1,C2を説明するため、第1ないし第4ワイヤ11~14の一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】コモンモードチョークコイルのモード変換特性の周波数特性を示す図であって、(A)は比較例としての特許文献1に記載のレイヤ巻きと呼ばれる2層巻きが採用されたコモンモードチョークコイルの特性を示し、(B)は比較例としての特許文献1に記載された第1の実施形態によるコモンモードチョークコイルの特性を示し、(C)は
図1ないし
図3を参照して説明した構成を有するコモンモードチョークコイルの特性を示す。
【
図5】
図2に示したコモンモードチョークコイル1の変形例としてのコモンモードチョークコイル1aにおける第1ないし第4ワイヤ11~14の巻回状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】この明細書において開示される第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル1bの外観を実装面側から示す平面図である。
【
図7】
図6に示したコモンモードチョークコイル1bにおける第1ないし第3ワイヤ11~13の巻回状態を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図7に示した第1ないし第3ワイヤ11~13の中心導線17および絶縁被覆層18の寸法関係を説明するため、第1ないし第3ワイヤ11~13の一部を拡大して示す断面図である。
【
図9】従来の一般的なコモンモードチョークコイル31の外観を、実装面を上方に向けた姿勢で示す斜視図である。
【
図10】
図9に示したコモンモードチョークコイル31の等価回路図である。
【
図11】特許文献1に記載されたコモンモードチョークコイル31aにおける第1および第2ワイヤ33および34の巻回状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、この明細書において開示される第1の実施形態によるコモンモードチョークコイル1が示されている。
図1に示したコモンモードチョークコイル1は、コア2と、それぞれインダクタを構成する4本のワイヤ、すなわち、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14と、を備えている。
図2には、
図1に示したコモンモードチョークコイル1における第1ワイヤ11、第2ワイヤ12、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の巻回状態が模式的断面図で示されている。
図2において、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12と、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14とを明確に区別するため、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の断面は白抜きで示され、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の断面には網掛けが施されている。
【0030】
コア2は、非導電性材料、より具体的には、誘電体としてのアルミナ、磁性体としてのNi-Zn系フェライト、または樹脂などから構成される。コア2は、全体として断面四角形状をなしている。ワイヤ11~14は、たとえば、絶縁被覆された銅線から構成され、ともに断面円形であり、互いに同じ外径を有している。なお、コア2の材料および形状、ならびにワイヤ11~14の材料、形状および外径等については、ここで例示したものには限定されない。
【0031】
コア2は、巻芯部3ならびに巻芯部3の軸線方向での第1端4側に設けられた第1鍔部6および同じく第1端4側とは逆の第2端5側に設けられた第2鍔部7を有する。第1ワイヤ11、第2ワイヤ12、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14は、巻芯部3のまわりで第1端4側から第2端5側に向かって互いに実質的に同じターン数をもって並行しながら螺旋状に巻回されている。なお、「実質的に同じターン数」としたのは、ワイヤ11~14のそれぞれの巻回の始端または終端の巻芯部3における位置が、互いに多少ずれる場合があるからである。
【0032】
第1鍔部6には、第1端子電極21および第3端子電極23が設けられ、第2鍔部7には、第2端子電極22および第4端子電極24が設けられる。端子電極21~24は、たとえば、導電性ペーストの焼付け、導電性金属のめっき、金属板の接着剤による貼付け等によって与えられる。なお、
図1は、コモンモードチョークコイル1を実装面側から示している。また、
図2では、端子電極21~24の図示を省略している。
【0033】
第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の各々の一方端は、ともに第1端子電極21に接続され、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の各々の他方端は、ともに第2端子電極22に接続される。第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の各々の一方端は、ともに第3端子電極23に接続され、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の各々の他方端は、ともに第4端子電極24に接続される。これらの接続には、たとえば、熱圧着またはレーザ溶接が適用される。
【0034】
コモンモードチョークコイル1は、
図9に示したコモンモードチョークコイル31に備える天板45に相当する天板を備えていてもよい。天板は、コア2と同様、たとえば、非磁性体としてのアルミナ、磁性体としてのNi-Zn系フェライト、または樹脂などから構成される。コア2および天板が磁性体からなるとき、天板が第1鍔部6および第2鍔部7間を連結するように設けられることによって、コア2は、天板と協働して、閉磁路を構成する。
【0035】
図2を主として参照して、まず、第1ワイヤ11が、巻芯部3のまわりで第1層を構成するように巻回される。次いで、第3ワイヤ13が、その一部、より正確には、その断面上の一部を第1ワイヤ11の隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、上記第1層の外周側において第2層を構成するように巻回される。次いで、第4ワイヤ14が、その一部、より正確には、その断面上の一部を第3ワイヤ13の隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、上記第2層の外周側において第3層を構成するように巻回される。最後に、第2ワイヤ12が、その一部、より正確には、その断面上の一部を第4ワイヤ14の隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、上記第3層の外周側において第4層を構成するように巻回される。
【0036】
図2において、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の各々の断面内には、巻芯部3の第1端4側から数えたターン数「1」~「20」が記入されている。ワイヤの断面内へのターン数の記入は、後述する
図5および
図7においても採用されている。
【0037】
上述したターン数に注目すると、第1層を構成する第1ワイヤ11および第2層を構成する第3ワイヤ13は、巻芯部3の第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ11のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより巻芯部3の第2端5側に位置している。すなわち、nを2から20までの自然数としたとき、第3ワイヤ13の第n(n:自然数)ターンは、第1ワイヤ11の第n-1ターンと隣接する。
【0038】
また、第4層を構成する第2ワイヤ12および第3層を構成する第4ワイヤ14は、巻芯部3の第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第2ワイヤ12のターンがこれと同一番目の第4ワイヤ14のターンより巻芯部3の第1端4側に位置している。すなわち、nを1から19までの自然数としたとき、第4ワイヤ14の第n(n:自然数)ターンは、第2ワイヤ12の第n+1ターンと隣接する。
【0039】
そのため、
図3に示すように、第1端子電極21と第2端子電極22とに接続される第1ワイヤ11と第3端子電極23と第4端子電極24とに接続される第3ワイヤ13との間では、異なるターン間に浮遊容量C1が発生し、また、第1端子電極21と第2端子電極22とに接続される第2ワイヤ12と第3端子電極23と第4端子電極24とに接続される第4ワイヤ14との間では、異なるターン間に浮遊容量C2が発生する。なお、第1ワイヤ11と第2ワイヤ12、第3ワイヤ13と第4ワイヤ14は、それぞれ、同じ端子電極間に接続されるため、電気的に並列接続され、差動信号線路において同じ信号ラインを形成していることになる。
【0040】
上述した浮遊容量C1およびC2を発生させる原因となる第1ワイヤ11と第3ワイヤ13との間でのターンのずれ、ならびに第2ワイヤ12と第4ワイヤ14との間でのターンのずれに注目すると、第3ワイヤ13に対する第1ワイヤ11のずれ方向と第4ワイヤ14に対する第2ワイヤ12のずれ方向とは、互いに逆になっている。言い換えると、
図3に示すように、第3ワイヤ13の第nターンは、第1ワイヤ11の第nターンの左上に位置し、第4ワイヤ14の第nターンは、第2ワイヤ12の第nターンの右下に位置している。すなわち、異なるターン間の浮遊容量C1は、第3ワイヤ13の第nターンと第1ワイヤ11の第n-1ターンとの間で発生し、異なるターン間の浮遊容量C2は、第4ワイヤ14の第nターンと第2ワイヤ12の第n+1ターンとの間で発生する。
【0041】
その結果、第1層および第2層間の浮遊容量C1と第3層および第4層間の浮遊容量C2とは発生する方向が互いに逆となる。このように、発生する方向が互いに逆となる浮遊容量C1と浮遊容量C2とは、特許文献1に記載の技術のように、各ワイヤのターンの前半、後半に分割されるのではなく、電気的に並列接続された2本のワイヤ(第1ワイヤ11と第2ワイヤ12、第3ワイヤ13と第4ワイヤ14)を利用して発生する。すなわち、一方の信号ラインの第nターンに対して、他方の信号ラインの第n-1ターンと第n+1ターンとの両方について浮遊容量C1およびC2を発生させることができる。したがって、コモンモードチョークコイル1では、巨視的、すなわち信号ライン全体だけではなく、局所的、具体的には各ターン単位で、浮遊容量の偏りが低減されている。このようなことから、高周波域までモード変換特性を低減することができる。
【0042】
図4には、シミュレーションによって求めたコモンモードチョークコイルのモード変換特性の周波数特性が示されている。
図4において、(A)は比較例としての特許文献1に記載のレイヤ巻きと呼ばれる2層巻きが採用されたコモンモードチョークコイルの特性を示し、(B)は比較例としての特許文献1に記載された第1の実施形態によるコモンモードチョークコイルの特性を示し、(C)は
図1ないし
図3を参照して説明した構成を有するコモンモードチョークコイルの特性を示す。これらの特性は、ワイヤのターン数が10ターンのコモンモードチョークコイルについて求めたものである。
【0043】
図4に示すように、特許文献1に記載のレイヤ巻きと呼ばれる2層巻きが採用されたコモンモードチョークコイルのモード変換特性(A)に比べて、特許文献1に記載された第1の実施形態によるコモンモードチョークコイルおよび
図1ないし
図3を参照して説明した構成を有するコモンモードチョークコイルの各々のモード変換特性(B)および(C)は低減されている。さらに、
図1ないし
図3を参照して説明した構成を有するコモンモードチョークコイルのモード変換特性(C)は、特許文献1に記載された第1の実施形態によるコモンモードチョークコイルのモード変換特性(B)に比べて、約20dBの改善効果が確認される。
【0044】
なお、この改善効果のうち、高周波域での改善効果は、上述した異なるターン間の浮遊容量の局所的な偏りの低減によるものであるが、低周波域での改善効果は、異なる信号ライン間におけるインダクタンスの差異の低減による効果である。
【0045】
特許文献1に記載のレイヤ巻きと呼ばれる2層巻きが採用されたコモンモードチョークコイルおよび特許文献1に記載された第1の実施形態によるコモンモードチョークコイルでは、常に、第1ワイヤは第1層を構成し、第2ワイヤは第2層を構成する。このとき、ワイヤの巻回径は第2層の方が大きく、ワイヤの線路長や、コアからの距離について、第1ワイヤと第2ワイヤとの間で差異が生じ、微小なインダクタンスの差異が発生する。一方、
図1ないし
図3を参照して説明した構成を有するコモンモードチョークコイル1では、一方の信号ラインは第1ワイヤ11および第2ワイヤ12、すなわち最内層の第1層および最外層の第4層で構成され、他方の信号ラインは第3ワイヤ13および第4ワイヤ14、すなわち中間の第2層および第3層で構成されるため、平均的に見ると、ワイヤの線路長およびコアからの距離の差異が低減され、インダクタンスの差異も低減される。これによって、上記コモンモードチョークコイル1では、低周波域でのモード変換特性も低減できる。
【0046】
なお、コモンモードチョークコイル1において、中間の第2層と第3層とをそれぞれ構成する第3ワイヤ13と第4ワイヤ14とは、ともに第3端子電極23と第4端子電極24との間に接続されるため、浮遊容量(分布容量)についてほとんど配慮する必要がない。しかしながら、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の各々の同一番目のターンがあまり離れていると、第3ワイヤ13と第4ワイヤ14との間での電位差が無視できなくなり、浮遊容量の問題を引き起こすことがある。この問題を回避するため、
図2に示した実施形態では、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第3ワイヤ13のターンがこれと同一番目の第4ワイヤ14のターンより第1端4側に位置している。この位置関係は、以下に説明する
図5に示すように、逆にされてもよい。
【0047】
図5には、
図2に示したコモンモードチョークコイル1の変形例が示されている。
図5は、
図2に対応する図である。
図5において、
図2に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0048】
図5に示したコモンモードチョークコイル1aでは、ワイヤ11~14の巻回態様が、
図2に示したコモンモードチョークコイル1の場合と異なっている。
図2に示したワイヤ11~14の巻回態様では、第3ワイヤ13の第1ターン13-1、第4ワイヤ14の第20ターン14-20、および第2ワイヤ12の第1ターン12-1をそれぞれ安定して受ける巻芯部またはワイヤが存在せず、半ば宙に浮いた状態となっている。したがって、上述した第3ワイヤ13の第1ターン13-1、第4ワイヤ14の第20ターン14-20、および第2ワイヤ12の第1ターン12-1については、これらを安定した状態で巻回し、かつ巻回した位置を維持することが難しい。
【0049】
これに対して、
図5に示したワイヤ11~14の巻回態様では、第3ワイヤ13の第1ターン13-1が第1ワイヤ11の第1ターン11-1より第1端4側において巻芯部3上に位置している。また、第4ワイヤ14の第20ターン14-20は、第3ワイヤ13の第19ターン13-19と第20ターン13-20との間に形成される凹部に嵌り込んでいる。したがって、すべてのワイヤ11~14のすべてのターンについて、巻回された位置を安定して維持されることができる。
【0050】
なお、第2ワイヤ12の第1ターン12-1は、半ば宙に浮いた状態で図示されているが、この第2ワイヤ12の第1ターン12-1については、第4ワイヤ14の第1ターン14-1と第1鍔部6との間に嵌り込んでもよい。第4ワイヤ14の第1ターン14-1は、第1ワイヤ11の第1ターン11-1と第3ワイヤ13の第1ターン13-1との間に形成された凹部に嵌り込んでいるので、その位置が安定的に維持され得る。
【0051】
このような
図5に示した巻回態様は、現実的な巻回工程において採用される可能性が高い。
【0052】
なお、
図5に示した実施形態では、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第3ワイヤ13のターンがこれと同一番目の第4ワイヤ14のターンより第2端5側に位置している。この位置関係は、
図2に示した第3ワイヤ13と第4ワイヤ14との位置関係とは逆である。しかしながら、
図5に示した実施形態によっても、
図2に示した実施形態の場合と同様の効果が維持されることは言うまでもない。
【0053】
図2に示したコモンモードチョークコイル1および
図5に示したコモンモードチョークコイル1aでは、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12、第3ワイヤ13および第4ワイヤ14は、ともに断面円形であり、互いに同じ外径を有している。したがって、下層側のワイヤに対する上層側のワイヤ、すなわち、下層側の第1ワイヤ11に対して上層側の第3ワイヤ13、下層側の第3ワイヤ13に対して上層側の第4ワイヤ14、および下層側の第4ワイヤに対する上層側の第2ワイヤ12の各々の巻回状態を安定化させることができる。
【0054】
また、
図2に示したコモンモードチョークコイル1および
図5に示したコモンモードチョークコイル1aでは、
図11に示したコモンモードチョークコイル31aにおける切替領域Cのような、複数のワイヤが交差する箇所を備える必要がない。そのため、
図11に示したコモンモードチョークコイル31aの場合に比べて、コモンモードチョークコイル1および1aの場合には、製造がより容易であるとともに、ワイヤ11~14における絶縁被覆層18(
図8参照)の損傷などのワイヤの品質低下をより生じにくくすることができる。
【0055】
次に、
図6ないし
図8を参照して、この明細書において開示される第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル1bについて説明する。
図6は
図1に対応し、
図7は
図2に対応している。
図6ないし
図8において、
図1および
図2に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0056】
コモンモードチョークコイル1bは、3本のワイヤを備えることを特徴としている。簡単に言えば、第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル1bでは、前述した第1の実施形態によるコモンモードチョークコイル1における第3ワイヤ13および第4ワイヤ14の役割を第3ワイヤ13のみによって担わせていることを特徴としている。したがって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態に比べて、ワイヤの巻回工程をより簡素化することができる。
【0057】
コモンモードチョークコイル1bは、コア2と、3本のワイヤ、すなわち、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13と、を備えている。
図7において、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12と、第3ワイヤ13とを明確に区別するため、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の断面は白抜きで示され、第3ワイヤ13の断面には網掛けが施されている。
【0058】
コア2は、第1の実施形態におけるコア2と同様、巻芯部3ならびに巻芯部3の軸線方向での第1端4側に設けられた第1鍔部6および同じく第1端4側とは逆の第2端5側に設けられた第2鍔部7を有する。第1ワイヤ11、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13は、巻芯部3のまわりで第1端4側から第2端5側に向かって互いに実質的に同じターン数をもって並行しながら螺旋状に巻回されている。
【0059】
第1の実施形態におけるコア2の場合と同様、第1鍔部6には、第1端子電極21および第3端子電極23が設けられ、第2鍔部7には、第2端子電極22および第4端子電極24が設けられる。
図7では、端子電極21~24の図示を省略している。
【0060】
第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の各々の一方端は、ともに第1端子電極21に接続され、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の各々の他方端は、ともに第2端子電極22に接続される。第3ワイヤ13の一方端は、第3端子電極23に接続され、第3ワイヤ13の他方端は、第4端子電極24に接続される。
【0061】
コモンモードチョークコイル1bにおいても、
図9に示した天板45に相当する天板を備えていてもよい。
【0062】
図7を主として参照して、まず、第1ワイヤ11が、巻芯部3のまわりで第1層を構成するように巻回される。次いで、第3ワイヤ13が、その一部、より正確には、その断面上の一部を第1ワイヤ11の隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、上記第1層の外周側において第2層を構成するように巻回される。次いで、第2ワイヤ12が、その一部、より正確には、その断面上の一部を第3ワイヤ13の隣り合うターン間に形成された凹部に嵌り込ませながら、上記第2層の外周側において第3層を構成するように巻回される。
【0063】
第1層を構成する第1ワイヤ11および第2層を構成する第3ワイヤ13は、巻芯部3の第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ11のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより巻芯部3の第2端5側に位置している。
【0064】
また、第3層を構成する第2ワイヤ12および第2層を構成する第3ワイヤ13は、巻芯部3の第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第2ワイヤ12のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより巻芯部3の第1端4側に位置している。なお、第2ワイヤ12の第1ターン12-1は、第1ワイヤ11の第1ターン11-1の第1端4側であって、巻芯部3上に位置している。このような巻回態様は、
図5に示した巻回態様の場合と同様、現実的な巻回工程において採用される可能性が高い。
【0065】
第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル1bでは、第1層および第2層間の浮遊容量と第2層および第3層間の浮遊容量とは発生する方向が互いに逆となる。このように、発生する方向が互いに逆となる2種類の浮遊容量は、上述した第1の実施形態の場合と同様、電気的に並列接続された2本のワイヤ(第1ワイヤ11と第2ワイヤ12)を利用して発生する。すなわち、一方の信号ラインの第nターンに対して、他方の信号ラインの第n-1ターンと第n+1ターンとの両方について浮遊容量C1およびC2を発生させることができる。したがって、コモンモードチョークコイル1bにおいても、巨視的、すなわち信号ライン全体だけではなく、局所的、具体的には各ターン単位で、浮遊容量の偏りが低減されている。このようなことから、高周波域までモード変換特性を低減することができる。
【0066】
第2の実施形態によるコモンモードチョークコイル1bは、第1端子電極21および第2端子電極22間に接続される第1ワイヤ11および第2ワイヤ12によって構成される第1インダクタと、第3端子電極23および第4の端子電極24間に接続される第3ワイヤ13によって構成される第2インダクタと、を備える。この場合、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13が互いに同じ仕様のワイヤから構成されていると、第1インダクタの直流抵抗と第2インダクタの直流抵抗との間に差が生じる。
【0067】
上述のような直流抵抗の差に対して適正な対策を講じることにより、コモンモードチョークコイル1bにおいて、特性をさらに改善することができる。この対策として、第2の実施形態では、以下のような構成を採用することが好ましい。
【0068】
図8に示すように、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13は、ともに断面円形の銅などの導体からなる中心導線17と中心導線17の周面を覆う電気絶縁性の絶縁被覆層18とを備える。ここで、第3ワイヤ13の中心導線17の直径は、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12の各々の中心導線17の直径の約√2倍、すなわち1.3倍以上かつ1.5倍以下とされる。
【0069】
上述のような構成が採用されることにより、第1ワイヤ11の中心導線17と第2ワイヤ12の中心導線17との合計断面積と、第3ワイヤ13の中心導線17の断面積とを等しく、またはほぼ等しくすることができる。その結果、第1ワイヤ11および第2ワイヤ12によって構成される第1インダクタと、第3ワイヤ13によって構成される第2インダクタとの間で、直流抵抗の差をなくす、またはほぼなくすことができる。
【0070】
また、コモンモードチョークコイル1bにおいて、第1ワイヤ11、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13は、ともに断面円形であり、互いに同じ外径を有している。このことは、第1の実施形態の場合と同様、下層側のワイヤに対する上層側のワイヤ、すなわち、下層側の第1ワイヤ11に対して上層側の第3ワイヤ13、および下層側の第3ワイヤ13に対して上層側の第2ワイヤ12の各々の巻回状態の安定化に寄与する。
【0071】
また、コモンモードチョークコイル1bの場合も、
図2に示したコモンモードチョークコイル1および
図5に示したコモンモードチョークコイル1aの場合と同様、
図11に示したコモンモードチョークコイル31aにおける切替領域Cのような、複数のワイヤが交差する箇所を備える必要がない。そのため、
図11に示したコモンモードチョークコイル31aの場合に比べて、コモンモードチョークコイル1bの場合には、製造がより容易であるとともに、ワイヤ11~13における絶縁被覆層18の損傷などのワイヤの品質低下をより生じにくくすることができる。
【0072】
以上、
図2に示したコモンモードチョークコイル1および
図5に示したコモンモードチョークコイル1aでは、第1ワイヤ11および第3ワイヤ13は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ11のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより第2端5側に位置し、かつ、第2ワイヤ12および第4ワイヤ14は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第2ワイヤ12のターンがこれと同一番目の第4ワイヤ14のターンより第1端4側に位置している。
【0073】
また、
図7に示したコモンモードチョークコイル1bでは、第1ワイヤ11および第3ワイヤ13は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第1ワイヤ11のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより第2端5側に位置し、かつ、第2ワイヤ12および第3ワイヤ13は、第1端4側から数えて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、第2ワイヤ12のターンがこれと同一番目の第3ワイヤ13のターンより第1端4側に位置している。
【0074】
すなわち、コモンモードチョークコイル1、1aおよび1bのいずれにおいても、隣り合う層を形成して互いに対をなす2本のワイヤについての位置関係が互いに逆の2つの領域が、巻芯部の軸線方向に直交する方向に積み重なった構成を有している。そのため、特許文献1に記載のものに比べて、分布容量の偏在の度合いが低く、より高周波域までモード変換特性を低減することができる。
【0075】
また、コモンモードチョークコイル1、1aおよび1bのいずれにおいても、
図2、
図5および
図7に示すように、隣り合う層を形成して互いに対をなす2本のワイヤについて、各々の同一番目のターン同士が隣接しながら、一方のワイヤのターンがこれと同一番目の他方のワイヤのターンより1ターンだけずれている構成が採用されている。このように、1ターンだけずれる構成が採用されると、上記2本のワイヤ間に発生する浮遊容量を最小限に留めることができる。
【0076】
しかしながら、この発明では、隣り合う層を形成して互いに対をなす2本のワイヤについて、同一番目のターン同士が1ターンだけずれる構成ではなく、2ターン以上ずれる構成が採用される。すなわち、たとえば
図1を参照して説明すると、第1ワイヤ11の所定のターンは、第1ワイヤ11の当該ターンと第1端4側から数えて同一番目の第3ワイヤ13のターンより第2端5側に2ターン以上ずれており、第2ワイヤ12の所定のターンは、第2ワイヤ12の当該ターンと第1端4側から数えて同一番目の第4ワイヤ14のターンより第1端4側に2ターン以上ずれる構成が採用される。
【0077】
また、コモンモードチョークコイル1および1aについて言えば、第1ワイヤ11と第3ワイヤ13との間のターンずれ量と第2ワイヤ12と第4ワイヤ14との間のターンずれ量とが互いに異なっていてもよい。同様に、コモンモードチョークコイル1bについて言えば、第1ワイヤ11と第3ワイヤ13との間のターンずれ量と第2ワイヤ12と第3ワイヤ13との間のターンずれ量とが互いに異なっていてもよい。
【0078】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の変形例が可能である。
【0079】
たとえば、コモンモードチョークコイルに備えるワイヤのターン数は、任意に増減することができる。
【0080】
また、実施形態の説明において採用したターン数の数える方向は、逆にしてもよい。
【0081】
また、コモンモードチョークコイルに備える複数本のワイヤについて、一部において、交差する部分や互いに撚り合わせたツイスト巻き部分が存在してもよい。
【0082】
また、図示した各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,1a,1b コモンモードチョークコイル
2 コア
3 巻芯部
4 第1端
5 第2端
6 第1鍔部
7 第2鍔部
11 第1ワイヤ
12 第2ワイヤ
13 第3ワイヤ
14 第4ワイヤ
17 中心導線
18 絶縁被覆層
21 第1端子電極
22 第2端子電極
23 第3端子電極
24 第4端子電極