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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045795
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】プレス加工装置
(51)【国際特許分類】
   B30B 13/00 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
B30B13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150777
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513256125
【氏名又は名称】株式会社根上シブヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】東 淳一
(72)【発明者】
【氏名】高村 浩
【テーマコード(参考)】
4E090
【Fターム(参考)】
4E090AA01
4E090AB01
4E090CA02
4E090EC06
4E090FA04
4E090HA03
4E090HA04
(57)【要約】
【課題】部品を省スペースな構造で効率良く製造できるプレス加工装置を提供する。
【解決手段】部品(100)をプレス加工で形成するプレス加工装置(10)において、部品を形成する複数のプレス部(21P~28P)を動作させる機構は、上下動可能に支持される第1段移動部(22)と、第1段移動部に対して上下動可能に支持される第2段移動部(23、24)と、第2段移動部に対して上下動可能に支持される第3段移動部(25、26)と、を少なくとも備えており、部品を形成するプレス加工時に、第1段移動部が第2段移動部及び第3段移動部と共にプレス方向に移動する動作、第2段移動部が第3段移動部と共にプレス方向に移動する動作、第3段移動部がプレス方向に移動する動作、これらの動作をあらかじめ設定された順序で行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品をプレス加工で形成するプレス加工装置において、
前記部品を形成する複数のプレス部を動作させる機構は、
上下動可能に支持される第1段移動部と、
前記第1段移動部に対して上下動可能に支持される第2段移動部と、
前記第2段移動部に対して上下動可能に支持される第3段移動部と、を少なくとも備えており、
前記部品を形成するプレス加工時に、前記第1段移動部が前記第2段移動部及び前記第3段移動部と共にプレス方向に移動する動作、前記第2段移動部が前記第3段移動部と共に前記プレス方向に移動する動作、前記第3段移動部が前記プレス方向に移動する動作、これらの動作をあらかじめ設定された順序で行うことを特徴とするプレス加工装置。
【請求項2】
前記第1段移動部は前記第2段移動部の一部を囲む筒状部を備え、
前記第1段移動部の前記筒状部の内部に、前記第1段移動部が前記プレス方向に移動する力を前記第2段移動部に伝達する伝達部と、前記第1段移動部に対して前記第2段移動部を前記プレス方向に移動可能にさせる隙間と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のプレス加工装置。
【請求項3】
前記第2段移動部は前記第3段移動部の一部を囲む筒状部を備え、
前記第2段移動部の前記筒状部の内部に、前記第2段移動部が前記プレス方向に移動する力を前記第3段移動部に伝達する伝達部と、前記第2段移動部に対して前記第3段移動部を前記プレス方向に移動可能にさせる隙間と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工装置。
【請求項4】
前記第1段移動部により並列的に支持される複数の前記第2段移動部を備え、
複数の前記第2段移動部によって支持される複数の前記第3段移動部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工装置。
【請求項5】
前記部品の母材を保持するベース部と、
前記ベース部に対して上下動可能に支持されるベース移動部と、を備え、
前記第1段移動部は、前記ベース移動部に対して上下動可能に支持されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工装置。
【請求項6】
前記部品の母材を上下から保持する上ブロックと下ブロックとを有し、前記第1段移動部と前記第2段移動部と前記第3段移動部は前記下ブロックを構成し、前記プレス方向は下方であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品を形成するプレス加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両シート用のリクライニング機構を構成するラチェットは、プレス加工によって製造される場合が多い。ラチェットは、外周側に位置する環状部の内面に内歯を有する円板状の部品であり、内歯の他に、中央の貫通孔や複数の凹凸部分などを備えている。リクライニング機構の部品では、ラチェットと組み合わされるベースプレートなどもプレス加工によって形成される場合が多い。ベースプレートは、中央の貫通孔や複数の凹凸部分などを備えている。
【0003】
ラチェットやベースプレートのようなリクライニング機構の部品をプレス加工で製造する場合は、外形の切り出し、中央の貫通孔の形成、複数の凹凸部分の形成など、複数の部位を形成するための複数の成形型が必要になる。
【0004】
複数の成形型を用いたプレス加工を行う装置として、金属製の板材などのワークを段階的に搬送しながら、搬送の各段階で個別にプレス機によるプレス加工を行う順送プレス装置が知られている。
【0005】
また、順送プレス装置とは異なり、複数の成形型を1つのプレス機に設置して、1回のプレス動作で複数の異なる部位を形成する1ショットタイプのプレス装置も知られている。
【0006】
1ショットタイプのプレス装置の一種として、複数の成形型による各部分の成形動作を、プレス動作の1回のストローク中にタイミングを異ならせて行うものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6437792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
順送プレス装置は、ワークを段階的に搬送するためのスペースと、各段階でプレスする複数のプレス機とを要するため、設置面積が広くなり、大掛かりな装置が必要という点が課題であった。
【0009】
1ショットタイプのプレス装置は、順送プレス装置に比べて設置面積を小さくできる。しかし、従来の1ショットタイプのプレス装置は、複数の成形型を上下動させるための機構が独立した構造であり、構造や制御をさらに簡略化したいという要求があった。
【0010】
本発明は以上の課題を解決するべく、部品を省スペースな構造で効率良く製造できるプレス加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明における一態様は、部品をプレス加工で形成するプレス加工装置において、前記部品を形成する複数のプレス部を動作させる機構は、上下動可能に支持される第1段移動部と、前記第1段移動部に対して上下動可能に支持される第2段移動部と、前記第2段移動部に対して上下動可能に支持される第3段移動部と、を少なくとも備えており、前記部品を形成するプレス加工時に、前記第1段移動部が前記第2段移動部及び前記第3段移動部と共にプレス方向に移動する動作、前記第2段移動部が前記第3段移動部と共に前記プレス方向に移動する動作、前記第3段移動部が前記プレス方向に移動する動作、これらの動作をあらかじめ設定された順序で行うことを特徴とする。
【0012】
前記第1段移動部は前記第2段移動部の一部を囲む筒状部を備え、前記第1段移動部の前記筒状部の内部に、前記第1段移動部が前記プレス方向に移動する力を前記第2段移動部に伝達する伝達部と、前記第1段移動部に対して前記第2段移動部を前記プレス方向に移動可能にさせる隙間と、を備えることが好ましい。
【0013】
前記第2段移動部は前記第3段移動部の一部を囲む筒状部を備え、前記第2段移動部の前記筒状部の内部に、前記第2段移動部が前記プレス方向に移動する力を前記第3段移動部に伝達する伝達部と、前記第2段移動部に対して前記第3段移動部を前記プレス方向に移動可能にさせる隙間と、を備えることが好ましい。
【0014】
前記第1段移動部により並列的に支持される複数の前記第2段移動部を備え、複数の前記第2段移動部によって支持される複数の前記第3段移動部を備えるように構成してもよい。
【0015】
前記部品の母材を保持するベース部と、前記ベース部に対して上下動可能に支持されるベース移動部と、を備え、前記第1段移動部は、前記ベース移動部に対して上下動可能に支持されることが好ましい。
【0016】
前記部品の母材を上下から保持する上ブロックと下ブロックとを有し、前記第1段移動部と前記第2段移動部と前記第3段移動部は前記下ブロックを構成し、前記プレス方向は下方であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプレス加工装置によれば、部品を省スペースな構造で効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のプレス加工装置の正面図である。
図2】プレス加工装置の下ブロックの上面を示す図である。
図3】プレス加工装置の上ブロックの下面を示す図である。
図4】下ブロックの構造を示す断面図である。
図5】プレス加工装置により製造されるラチェットを示す斜視図である。
図6】プレス加工装置によるラチェットの製造の流れを説明する図である。
図7】下ブロックの各部の動作を示すグラフである。
図8】上ブロックの各部の動作を示すグラフである。
図9】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図10】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図11】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図12】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図13】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図14】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図15】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図16】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図17】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図18】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図19】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
図20】プレス加工装置による加工段階を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本実施形態のプレス加工装置10について説明する。図1に示すように、プレス加工装置10は、床面に設置される下ブロック11と、下ブロック11の上方に位置する上ブロック12とを備える。下ブロック11はベース部20を有し、上ブロック12はベース部40を有する。ベース部20の四隅に近い位置に、上下方向へ延びる4つのガイドシャフト13が設けられており、各ガイドシャフト13はベース部40に形成したガイド孔14(図3参照)に挿通されている。上ブロック12は、ガイドシャフト13に沿って上下方向へ移動可能である。
【0020】
上ブロック12の上部にプレス機構15を備える。プレス機構15は、上下方向へ移動可能な可動部15aを備え、可動部15aがベース部40の上面に接続している。図示を省略する駆動源によってプレス機構15の可動部15aが上下方向に移動し、これに伴って上ブロック12が上下方向に移動する。
【0021】
プレス機構15の可動部15aの動作は制御部70によって制御される。制御部70は、プレス加工装置10を統括制御するものであり、プロセッサとメモリ(記憶手段)を備えている。メモリに記憶されたプログラムに従って、後述するプレス動作が実行される。つまり、制御部70の制御によって、本実施形態のプレス加工方法が行われる。
【0022】
下ブロック11と上ブロック12にはそれぞれ、ベース部20とベース部40に対して複数のパーツが上下方向へ可動に支持されており、これらの複数のパーツの動作によって、ベース部20とベース部40の間で金属板16をプレス加工して、製造物であるラチェット100(図5及び図6)を成形する。
【0023】
ラチェット100は、車両シート用のリクライニング機構を構成する部品であり、円板状の基本構造に凹凸部分などを形成したものである。具体的には、図5に示すように、ラチェット100の中央には、厚み方向へ貫通する円形の貫通孔101が形成されている。貫通孔101の外周側には、基準面102に対して凹形状となる(基準面102とは反対側に向けて凸形状となる)複数のダボ部103が形成されている。ダボ部103の外周側には、基準面102に対して凸形状となる複数の保持部104が形成されている。ラチェット100の最も外周側には、保持部104よりも基準面102からの突出量が大きい環状部105が形成されており、環状部105の内周面には内歯106が形成されている。
【0024】
リクライニング機構の詳細については周知であるため省略するが、ラチェット100の各部の役割を簡単に説明する。ラチェット100は、シートクッションフレームとシートバックフレームの一方に対して、ダボ部103を介して溶接で固定される。つまり、ダボ部103は、溶接用の突出部である。シートクッションフレームとシートバックフレームの他方には、環状部105の外周面に対して摺動可能(相対的に回転可能)なベースプレートが固定されており、ベースプレートには、ラチェット100の半径方向に移動可能なロック部材(図示略)が支持されている。ロック部材は、内歯106に噛合可能な外歯を有しており、外歯が内歯106に噛合する方向(外径方向)へ付勢されている、貫通孔101に挿通された軸部材を回転させると、ロック部材は外歯が内歯106との噛合を解除する方向(内径方向)へ移動する。ロック部材の外歯が内歯106に噛合する状態では、ラチェット100とベースプレート(つまり、シートクッションフレームとシートバックフレーム)が固定関係にあるため、シートバックの傾動が規制される。ロック部材の外歯が内歯106との噛合を解除した状態では、ラチェット100とベースプレートが相対的に回転可能になるため、シートバックの傾動が可能になる。保持部104は、シートバックの特定の角度範囲(シートバックが前傾する位置)で、ロック部材が内歯106に噛合することを阻止する。
【0025】
プレス加工装置10では、ラチェット100の母材である金属板16を下ブロック11と上ブロック12の間に配置し、上ブロック12を下ブロック11に接近させるプレス動作(下ブロック11と上ブロック12に含まれる複数のパーツの移動を含む)と、水平方向への金属板16の搬送動作とを行って、ラチェット100をプレス加工で形成する。図1から図3に示すように、下ブロック11のベース部20は上向きの下基準面20aを備え、上ブロック12のベース部40は下向きの上基準面40aを備える。下基準面20aと上基準面40aはいずれも、上下方向(プレス方向)に対して垂直な平面であり、上下方向に対向している。
【0026】
下基準面20a及び上基準面40aに沿う水平方向のうち、プレス動作の各ストロークの間で金属板16を移動させる搬送方向をX方向とする。X方向に対して垂直な方向をY方向とする。
【0027】
主に図4を参照して、下ブロック11の構成を説明する。下ブロック11におけるベース部20には、第1スライド部21、第2スライド部22、第3スライド部23、第4スライド部24、第5スライド部25、第6スライド部26、第7スライド部27、第8スライド部28が支持されている。ベース部20の内部には、これらのスライド部21~28を収容する収容空間29が形成されている。スライド部21~28は油圧シリンダによって構成されている。
【0028】
収容空間29は、上方から順に、第1空間29a、第2空間29b、第3空間29cで構成されている。これらの各空間29a~29cは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有しており、水平方向の開口径がそれぞれ異なっている。第1空間29aの開口径が最も大きく、次に第2空間29bの開口径が大きく、第3空間29cの開口径が最も小さい。つまり、収容空間29は、上方から下方に進むにつれて、開口径が段階的に小さくなっている。
【0029】
第1空間29aと第2空間29bの境界には第1底部29dが形成され、第2空間29bと第3空間29cの境界には第2底部29eが形成され、第3空間29cの最下部には第3底部29fが形成されている。これらの各底部29d~29fは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、収容空間29内で上方に向いている。
【0030】
第1スライド部21は、上下方向で概ね第2空間29bから第3空間29cの範囲に位置しており、上方に向けて開放された有底筒状の形状を有している。より詳しくは、第1スライド部21は、収容空間29の第3底部29fに対向して位置する円板状の底壁部21aと、底壁部21aの周縁から上方に向けて突出する円筒状の筒状部21bと、を有している。底壁部21aと筒状部21bによって囲まれる内部空間21cは、上方に向けて開口している。内部空間21cは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。
【0031】
第1スライド部21はベース部20に対して上下方向へ移動可能に支持されている。第1スライド部21の筒状部21bには、第3空間29cの内面に対してフィットする形状の被案内外面21dが形成されている。第3空間29cの内面に対して被案内外面21dを摺接させることによって、第1スライド部21は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。第1スライド部21がベース部20に対して上下方向の初期位置にある状態で、第1スライド部21の底壁部21aと収容空間29の第3底部29fとの間に隙間S1がある。
【0032】
内部空間21cの内部には、筒状部21bの内周に沿って環状の段部21eが形成されている。段部21eは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、被案内外面21d内で下方に向いている。つまり、筒状部21bは、段部21eの上側の領域の内径よりも、段部21eの下側の領域の内径の方が大きい。
【0033】
第2スライド部22は、収容空間29の第1底部29dに対向して位置する底壁部22aと、底壁部22aの中央付近から下方に突出する基部22bと、を有している。
【0034】
第2スライド部22の基部22bは、第1スライド部21の内部空間21cに挿入されている。基部22bは、筒状部21bの内面に対してフィットする形状の被案内外面22cと、上下方向で被案内外面22cの途中に形成された環状の被規制面22dと、を有している。被規制面22dは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面22dは、段部21eに対して下方から当接可能である。
【0035】
第2スライド部22は、基部22bが筒状部21bの案内を受けることによって、第1スライド部21に対して上下方向へ移動可能に支持されている。より詳しくは、筒状部21b(内部空間21c)の内面に対して被案内外面22cを摺接させることによって、第2スライド部22は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0036】
上下方向において、底壁部21aの上面から段部21eまでの距離は、基部22bの下端面から被規制面22dまでの距離よりも大きい。この距離の差が、第1スライド部21に対する第2スライド部22の上下方向の可動量である。基部22bの下端面が底壁部21aに当接する位置が、第1スライド部21に対する第2スライド部22の下方への移動端であり、被規制面22dが段部21eに当接する位置が、第1スライド部21に対する第2スライド部22の上方への移動端である。第2スライド部22が第1スライド部21に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面22dが段部21eに当接し、基部22bの下端面と底壁部21aの上面との間に隙間S2がある。
【0037】
なお、第2スライド部22の初期位置において、収容空間29の第1底部29dと第2スライド部22の底壁部22aとの間に存在する上下方向の隙間の大きさは、隙間S1と隙間S2の合計よりも大きい。つまり、第1スライド部21が下方に移動して隙間S1を詰め、第2スライド部22が下方に移動して隙間S2を詰めた場合に、底壁部22aは第1底部29dに当接しない。
【0038】
第2スライド部22は、底壁部22aの周縁から上方に向けて突出する筒状部22eと、底壁部22aの中央付近から上方に向けて突出する隔壁部22fと、を有している。底壁部22aと筒状部22eと隔壁部22fによって囲まれる2つの内部空間22g及び内部空間22hが形成されている。内部空間22gと内部空間22hは上方に向けて開口している。
【0039】
内部空間22gと内部空間22hは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。内部空間22gの内部には、環状の段部22iが形成されている。内部空間22hの内部には、環状の段部22jが形成されている。段部22iと段部22jはそれぞれ、上下方向に対して略垂直な水平面であり、内部空間22g及び内部空間22h内で下方に向いている。
【0040】
筒状部22eの外面と、第1空間29aの内面との間には、水平方向に所定のクリアランスが設けられている。従って、第2スライド部22の水平方向の位置は、第1スライド部21の筒状部21bを介して定められており、ベース部20は第2スライド部22の水平方向の位置を直接的には規制していない。
【0041】
第2スライド部22の内部空間22gに第3スライド部23が挿入されている。第3スライド部23は、第2スライド部22の底壁部22aに対向して位置する底壁部23aと、底壁部23aから上方へ突出する筒状部23bと、を有している。筒状部23bは、内部空間22gを構成する筒状部22e及び隔壁部22fの内面に対してフィットする形状の被案内外面23cと、上下方向で被案内外面23cの途中に形成された環状の被規制面23dと、を有している。被規制面23dは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面23dは、段部22iに対して下方から当接可能である。
【0042】
第3スライド部23は、第2スライド部22に対して上下方向へ移動可能に支持されている。筒状部22e及び隔壁部22f(内部空間22g)の内面に対して被案内外面23cを摺接させることによって、第3スライド部23は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0043】
上下方向において、底壁部22aの上面から段部22iまでの距離は、底壁部23aの下端面から被規制面23dまでの距離よりも大きい。この距離の差が、第2スライド部22に対する第3スライド部23の上下方向の可動量である。底壁部23aの下端面が底壁部22aに当接する位置が、第2スライド部22に対する第3スライド部23の下方への移動端であり、被規制面23dが段部22iに当接する位置が、第2スライド部22に対する第3スライド部23の上方への移動端である。第3スライド部23が第2スライド部22に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面23dが段部22iに当接し、底壁部23aの下端面と底壁部22aの上面との間に隙間S3がある。
【0044】
第3スライド部23の筒状部23bには、上方に向けて開放された内部空間23eが形成されている。内部空間23eは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。内部空間23eの内部には環状の段部23fが形成されている。段部23fは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、内部空間23e内で下方に向いている。
【0045】
第2スライド部22の内部空間22hに第4スライド部24が挿入されている。第4スライド部24は、第2スライド部22の底壁部22aに対向して位置する底壁部24aと、底壁部24aから上方へ突出する筒状部24bと、を有している。筒状部24bは、内部空間22hを構成する筒状部22e及び隔壁部22fの内面に対してフィットする形状の被案内外面24cと、上下方向で被案内外面24cの途中に形成された環状の被規制面24dと、を有している。被規制面24dは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面24dは、段部22jに対して下方から当接可能である。
【0046】
第4スライド部24は、第2スライド部22に対して上下方向へ移動可能に支持されている。筒状部22e及び隔壁部22f(内部空間22h)の内面に対して被案内外面24cを摺接させることによって、第4スライド部24は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0047】
上下方向において、底壁部22aの上面から段部22jまでの距離は、底壁部24aの下端面から被規制面24dまでの距離よりも大きい。この距離の差が、第2スライド部22に対する第4スライド部24の上下方向の可動量である。底壁部24aの下端面が底壁部22aに当接する位置が、第2スライド部22に対する第4スライド部24の下方への移動端であり、被規制面24dが段部22jに当接する位置が、第2スライド部22に対する第4スライド部24の上方への移動端である。第4スライド部24が第2スライド部22に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面24dが段部22jに当接し、底壁部24aの下端面と底壁部22aの上面との間に隙間S4がある。
【0048】
第4スライド部24の筒状部24bには、上方に向けて開放された内部空間24eが形成されている。内部空間24eは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。内部空間24eの内部には環状の段部24fが形成されている。段部24fは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、内部空間24e内で下方に向いている。
【0049】
第3スライド部23と第4スライド部24は略同じ構成であり、第2スライド部22に対する第3スライド部23の可動量(隙間S3)と、第2スライド部22に対する第4スライド部24の可動量(隙間S4)は、同じ量に設定されている。
【0050】
第5スライド部25は、内部空間23eに挿入される基部25aと、基部25aから上方へ突出する支持部25bと、を有している。基部25aは、内部空間23eの内面に対してフィットする形状の被案内外面25cと、上下方向で被案内外面25cの途中に形成された環状の被規制面25dと、を有している。被規制面25dは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面25dは、段部23fに対して下方から当接可能である。
【0051】
第5スライド部25は、第3スライド部23に対して上下方向へ移動可能に支持されている。内部空間23eの内面に対して被案内外面25cを摺接させることによって、第5スライド部25は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0052】
上下方向において、底壁部23aの上面から段部23fまでの距離は、基部25aの下端面から被規制面25dまでの距離よりも大きい。この距離の差が、第3スライド部23に対する第5スライド部25の上下方向の可動量である。基部25aの下端面が底壁部23aに当接する位置が、第3スライド部23に対する第5スライド部25の下方への移動端であり、被規制面25dが段部23fに当接する位置が、第3スライド部23に対する第5スライド部25の上方への移動端である。第5スライド部25が第3スライド部23に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面25dが段部23fに当接し、基部25aの下端面と底壁部23aの上面との間に隙間S5がある。
【0053】
第5スライド部25の支持部25bには、上方に向けて開放された内部空間25eが形成されている。支持部25bは、内部空間25eを囲む筒状構造である。内部空間25eは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。内部空間25eの内部には段部25fが形成されている。段部25fは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、段部25f内で下方に向いている。
【0054】
支持部25bは、基部25aよりも水平方向に大きく広がっている。支持部25bの外面と、第1空間29aの内面との間には、水平方向に所定のクリアランスが設けられている。従って、第5スライド部25の水平方向の位置は、第3スライド部23の筒状部23bを介して定められており、ベース部20は第5スライド部25の水平方向の位置を直接的には規制していない。
【0055】
第6スライド部26は、内部空間24eに挿入される基部26aと、基部26aから上方へ突出する支持部26bと、を有している。基部26aは、内部空間24eの内面に対してフィットする形状の被案内外面26cと、上下方向で被案内外面26cの途中に形成された環状の被規制面26dと、を有している。被規制面26dは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面26dは、段部24fに対して下方から当接可能である。
【0056】
第6スライド部26は、第4スライド部24に対して上下方向へ移動可能に支持されている。内部空間24eの内面に対して被案内外面26cを摺接させることによって、第6スライド部26は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0057】
上下方向において、底壁部24aの上面から段部24fまでの距離は、基部26aの下端面から被規制面26dまでの距離よりも大きい。この距離の差が、第4スライド部24に対する第6スライド部26の上下方向の可動量である。基部26aの下端面が底壁部24aに当接する位置が、第4スライド部24に対する第6スライド部26の下方への移動端であり、被規制面26dが段部24fに当接する位置が、第4スライド部24に対する第6スライド部26の上方への移動端である。第6スライド部26が第4スライド部24に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面26dが段部24fに当接し、基部26aの下端面と底壁部24aの上面との間に隙間S6がある。
【0058】
第6スライド部26の支持部26bには、上方に向けて開放された内部空間26eが形成されている。支持部26bは、内部空間26eを囲む筒状構造である。内部空間26eは、上下方向に向く軸線を中心とする円筒状の内面を有している。内部空間26eの内部には段部26fが形成されている。段部26fは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、段部26f内で下方に向いている。
【0059】
支持部26bは、基部26aよりも水平方向に大きく広がっている。支持部26bの外面と、第1空間29aの内面との間には、水平方向に所定のクリアランスが設けられている。従って、第6スライド部26の水平方向の位置は、第4スライド部24の筒状部24bを介して定められており、ベース部20は第6スライド部26の水平方向の位置を直接的には規制していない。
【0060】
第5スライド部25と第6スライド部26は略同じ構成であり、第3スライド部23に対する第5スライド部25の可動量(隙間S5)と、第4スライド部24に対する第6スライド部26の可動量(隙間S6)は、同じ量に設定されている。
【0061】
第7スライド部27は、内部空間25eに挿入される基部27aを有している。基部27aは、内部空間25eの内面に対してフィットする形状の被案内外面27bと、被規制面27cと、を有している。被規制面27cは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面27cは、段部25fに対して下方から当接可能である。
【0062】
第7スライド部27は第5スライド部25に対して上下方向へ移動可能に支持されている。内部空間25eの内面に対して被案内外面27bを摺接させることによって、第7スライド部27は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0063】
上下方向において、内部空間25eの底面から段部25fまでの距離は、基部27aの下端面から被規制面27cまでの距離よりも僅かに大きい。この距離の差が、第5スライド部25に対する第7スライド部27の上下方向の可動量である。基部27aの下端面が内部空間25eの底面に当接する位置が、第5スライド部25に対する第7スライド部27の下方への移動端であり、被規制面27cが段部25fに当接する位置が、第5スライド部25に対する第7スライド部27の上方への移動端である。第7スライド部27が第5スライド部25に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面27cが段部25fに当接し、基部27aの下端面と内部空間25eの底面との間に隙間S7がある。
【0064】
第8スライド部28は、内部空間26eに挿入される基部28aを有している。基部28aは、内部空間26eの内面に対してフィットする形状の被案内外面28bと、被規制面28cと、を有している。被規制面28cは、上下方向に対して略垂直な水平面であり、上方に向いている。被規制面28cは、段部26fに対して下方から当接可能である。
【0065】
第8スライド部28は第6スライド部26に対して上下方向へ移動可能に支持されている。内部空間26eの内面に対して被案内外面28bを摺接させることによって、第8スライド部28は、水平方向での位置を定められながら、上下方向へ移動する。
【0066】
上下方向において、内部空間26eの底面から段部26fまでの距離は、基部28aの下端面から被規制面28cまでの距離よりも僅かに大きい。この距離の差が、第6スライド部26に対する第8スライド部28の上下方向の可動量である。基部28aの下端面が内部空間26eの底面に当接する位置が、第6スライド部26に対する第8スライド部28の下方への移動端であり、被規制面28cが段部26fに当接する位置が、第6スライド部26に対する第8スライド部28の上方への移動端である。第8スライド部28が第6スライド部26に対して上下方向の初期位置にある状態では、被規制面28cが段部26fに当接し、基部28aの下端面と内部空間26eの底面との間に隙間S8がある。
【0067】
第7スライド部27と第8スライド部28は略同じ構成であり、第5スライド部25に対する第7スライド部27の可動量(隙間S7)と、第6スライド部26に対する第8スライド部28の可動量(隙間S8)は、同じ量に設定されている。
【0068】
ベース部20は、収容空間29の上部を塞ぐ蓋部20bを備え、蓋部20bの上面が下基準面20aになっている。各スライド部21~28は、蓋部20bを貫通して上方に延びるプレス部21P~28Pと接続している。蓋部20bには各プレス部21P~28Pが挿通されるガイド孔が形成され、ガイド孔の上端が下基準面20aに開口している。
【0069】
図2及び図4に示すように、プレス部23Pの外側にプレス部25Pが配置され、プレス部25Pの外側にプレス部27Pが配置されている。また、プレス部24Pの外側にプレス部26Pが配置され、プレス部26Pの外側にプレス部28Pが配置されている。
【0070】
また、下ブロック11は、ダボ形成部30及びダボ形成部31と、パンチ受け孔34及びパンチ受け孔35と、を備えている(図9から図20参照)。ダボ形成部30とダボ形成部31は、ベース部20の蓋部20bに支持されている。パンチ受け孔34とパンチ受け孔35は、下基準面20aに開口する円形孔である。ダボ形成部30はパンチ受け孔34を囲む領域に設けられ、ダボ形成部31はパンチ受け孔35を囲む領域に設けられている。
【0071】
下ブロック11はさらに、外形形成部32及び外形形成部33を備えている(図9から図20参照)。外形形成部32はプレス部27Pを囲む円筒状をなし、外形形成部33はプレス部28Pを囲む円筒状をなしている。外形形成部32と外形形成部33は、ベース部20に対して固定的に支持されている。
【0072】
上ブロック12については詳細な構成の図示を省略するが、上ブロック12におけるベース部40には、第1スライド部から第7スライド部が支持されている。第1スライド部から第7スライド部は、ベース部40に対して上下方向にスライド可能である。ベース部40の内部には、第1スライド部から第7スライド部を収容する収容空間が形成されている。
【0073】
ベース部40は、収容空間の下部を塞ぐ蓋部40b(図1)を備え、蓋部40bの上面が上基準面40aになっている。上ブロック12の第1スライド部から第7スライド部はそれぞれ、蓋部40bを貫通して下方に延びるプレス部41Q~47Qに接続している。蓋部40bには各プレス部41Q~47Qが挿通されるガイド孔が形成され、ガイド孔の下端が上基準面40aに開口している。
【0074】
また、上ブロック12にはパンチ部50及びパンチ部51が支持されている(図3図9から図20参照)。パンチ部50とパンチ部51はいずれも円筒状の外面を有している。
【0075】
上ブロック12はさらに、外形形成部52及び外形形成部53を備えている(図3図9から図20参照)。図3に示すように、プレス部44Qの外側にプレス部43Qが配置され、プレス部43Qの外側に外形形成部52が配置されている。また、プレス部46Qの外側にプレス部45Qが配置され、プレス部45Qの外側に外形形成部53が配置されている。外形形成部52はプレス部43Qを囲む円筒状をなし、外形形成部53はプレス部45Qを囲む円筒状をなしている。
【0076】
下ブロック11の構成要素と上ブロック12の構成要素は、下基準面20aと上基準面40aにおいて以下のような分布で配置される。図2及び図3に示す第1領域T1では、パンチ部50とパンチ受け孔34が上下方向に対向し、その周囲でダボ形成部30とプレス部42Qが上下方向に対向する。第2領域T2では、プレス部24Pとプレス部46Qが上下方向に対向し、その周囲でプレス部26Pとプレス部45Qが上下方向に対向し、その周囲でプレス部28Pと外形形成部53が上下方向に対向する。第3領域T3では、パンチ部51とパンチ受け孔35が上下方向に対向し、その周囲でダボ形成部31とプレス部47Qが上下方向に対向する。第4領域T4では、プレス部23Pとプレス部44Qが上下方向に対向し、その周囲でプレス部25Pとプレス部43Qが上下方向に対向し、その周囲でプレス部27Pと外形形成部52が上下方向に対向する。
【0077】
図2から図4に示すように、第1領域T1と第3領域T3は互いに対応する構成要素を有し、第2領域T2と第4領域T4は互いに対応する構成要素を有する。そして、これら4つの領域T1~T4に分散して配置した構成要素によって、2つのラチェット100を形成することができる。言い換えれば、1つのラチェット100を形成するための全ての要素を1つの同心状の領域に集約した構成ではなく、所定のまとまりごとに複数の領域T1~T4に分けて2つのラチェット100の各部の形成を行うようにしている。但し、既存の順送プレス装置とは異なり、複数の領域T1~T4に対して共通のプレス機(プレス機構15)を用いてプレス動作を行う。
【0078】
図2及び図3に示すように、第2領域T2は第1領域T1に対してX方向に離れた(進んだ)位置にあり、第4領域T4は第3領域T3に対してX方向に離れた(進んだ)位置にある。また、第3領域T3は第1領域T1よりもX方向に進んだ位置にあり、第4領域T4は第2領域T2よりもX方向に進んだ位置にある。さらに、第1領域T1及び第2領域T2のセットと、第3領域T3及び第4領域T4のセットは、Y方向で互いの位置を異ならせている。
【0079】
以上の構成のプレス加工装置10によるプレス加工について説明する。このプレス加工は、上ブロック12を下降させることによって行われ、上ブロック12が下死点に達するまでの1回のストロークで、図9から図20に示す各ステップの動作が順に行われる。
【0080】
図7のグラフは、1回のストロークでの、下ブロック11の所定の基準位置に対する各プレス部21P~28Pの上下方向の位置変化を示しており、縦軸の「0」がプレス加工前の基準位置を表している。図8のグラフは、1回のストロークでの、上ブロック12の所定の基準位置に対する各プレス部41Q~47Qの上下方向の位置変化を示しており、縦軸の「0」がプレス加工前の基準位置を表している。各グラフ中の数値は、上下方向への移動量(単位はmm)であり、マイナスは、ベース部20、40の内側に入り込む方向(下ブロック11では下方、上ブロック12では上方)の動作であることを意味している。
【0081】
なお、図9から図20は、下ブロック11及び上ブロック12における複数の異なる位置の断面構造を組み合わせた概念図であり、特定の一つの断面位置を表したものではない。また、図9から図20では、プレス加工を受ける金属板16の図示を省略している。
【0082】
図9に示すステップ1は、下ブロック11に対して上ブロック12が上方に離れている状態(プレス前の状態)である。下ブロック11の各プレス部21P~28Pと上ブロック12の各プレス部41Q~47Qの全てが基準位置にある。この状態で、加工対象の金属板16をX方向に搬送して下基準面20a上に載置する。既に下基準面20a上に金属板16が載置されていて、前回のプレス動作が完了した状態である場合には、金属板16をX方向に1ピッチU移動させる(図6参照)。ピッチUについては後述する。
【0083】
図10に示すステップ2は、プレス機構15によって上ブロック12を下降させ、上基準面40aと下基準面20aの間に金属板16を挟んだ状態を示している。上ブロック12の各プレス部41Q~47Qは、ベース部40と共に下降しており、ステップ2の時点では基準位置に保たれている。
【0084】
図11に示すステップ3では、上ブロック12が備えるパンチ部50が上基準面40aから突出して金属板16を貫通する。パンチ部50が金属板16を貫通した箇所は、ラチェット100における貫通孔101になる。金属板16を貫通したパンチ部50は、下ブロック11のパンチ受け孔34に入る。
【0085】
ステップ3では、上ブロック12のうち、プレス部41Q、42Q及び47Qが上方へスライドし、プレス部43Q~46Qは下方へ移動する。プレス部43Q、44Qと外形形成部52は、金属板16の上面に接する位置に達する。
【0086】
図12に示すステップ4では、上ブロック12のプレス部41Qが下ブロック11のプレス部22Pと共に移動して、第2スライド部22が下方へ移動して隙間S2が詰められる。第2スライド部22の当該移動に伴って、第2スライド部22よりも上層側に支持されている各スライド部23~28(各プレス部23P~28P)も、第2スライド部22の移動力が順次伝達されて、ベース部20に対して下方へ移動する。
【0087】
より詳しくは、第2スライド部22が下方へ移動すると、段部22iと段部22jが被規制面23dと被規制面24dを下方に押し込んで、第3スライド部23と第4スライド部24が第2スライド部22と共に下方へ移動する。第3スライド部23と第4スライド部24が下方へ移動すると、段部23fと段部24fが被規制面25dと被規制面26dを下方に押し込んで、第5スライド部25と第6スライド部26が第2スライド部22と共に下方へ移動する。第5スライド部25と第6スライド部26が下方へ移動すると、段部25fと段部26fが被規制面27cと被規制面28cを下方に押し込んで、第7スライド部27と第8スライド部28が第2スライド部22と共に下方へ移動する。
【0088】
この下ブロック11の動作によって、ベース部20の蓋部20bに支持されているダボ形成部30が下基準面20aから突出する。ダボ形成部30の突出に伴って、金属板16を挟んでダボ形成部30に対向している上ブロック12のプレス部42Qが押し上げられて、上方へスライドする。ダボ形成部30とプレス部42Qとの間で金属板16がプレスされた箇所が、ラチェット100におけるダボ部103になる。
【0089】
図13に示すステップ5では、下ブロック11において、第3スライド部23が第2スライド部22に対して下方へ移動して隙間S3が詰められる。第3スライド部23に伴って第5スライド部25と第7スライド部27が下方へ移動し、プレス部23P、25P及び27Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、プレス部43Q、44Qと外形形成部52が下方に移動する。この動作によって、外形形成部52が外形形成部32の内側に入り込み、外形形成部32と外形形成部52との間で金属板16が切断されて、ラチェット100の外形(環状部105の外周面の元になる形状)が形成される。
【0090】
また、ステップ5では、上ブロック12において、プレス部45Q、46Qと外形形成部53が下方に移動し、プレス部41Q、42Q及び47Qは上方へスライドする。
【0091】
図14に示すステップ6では、下ブロック11において、第5スライド部25が第3スライド部23に対して下方へ移動して隙間S5が詰められる。第5スライド部25に伴って第7スライド部27が下方へ移動し、プレス部25P、27Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、プレス部43Qと外形形成部52が下方に移動する。この動作によって、金属板16のうち、プレス部25P及びプレス部27Pとプレス部43Q及び外形形成部52との間に挟まれた箇所が下方に押圧されて、ラチェット100の保持部104に相当する部分が形成される。
【0092】
また、ステップ6では、上ブロック12において、プレス部45Q、46Qと外形形成部53が下方に移動し、プレス部41Q、42Q、44Q及び47Qは上方へスライドする。
【0093】
図15に示すステップ7では、下ブロック11において、第7スライド部27が第5スライド部25に対して下方へ移動して隙間S7が詰められる。これにより、プレス部27Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、外形形成部52が下方に移動する。この動作によって、金属板16のうち、プレス部27Pと外形形成部52との間に挟まれた箇所が下方に押圧されて、環状部105及び内歯106が形成される。
【0094】
また、ステップ7では、上ブロック12において、プレス部45Q、46Qと外形形成部53が下方に移動して金属板16の上面に接する位置に達する。プレス部41Q、42Q、43Q、44Q及び47Qは上方へスライドする。
【0095】
図16に示すステップ8では、下ブロック11において、第4スライド部24が第2スライド部22に対して下方へ移動して隙間S4が詰められる。第4スライド部24に伴って第6スライド部26と第8スライド部28が下方へ移動し、プレス部24P、26P及び28Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、プレス部45Q、46Qと外形形成部53が下方に移動する。この動作によって、外形形成部53が外形形成部33の内側に入り込み、外形形成部33と外形形成部53との間で金属板16が切断されて、ラチェット100の外形(環状部105の外周面の元になる形状)が形成される。
【0096】
また、ステップ8では、下ブロック11において、既に隙間S3、S5及びS7が詰められている状態のプレス部23P、25P及び27Pが、ベース部20に対して下方へスライドする。また、上ブロック12において、プレス部43Q、44Qと外形形成部52が下方に移動し、プレス部41Q、42Q及び47Qは上方へスライドする。
【0097】
図17に示すステップ9では、下ブロック11において、第6スライド部26が第4スライド部24に対して下方へ移動して隙間S6が詰められる。第6スライド部26に伴って第8スライド部28が下方へ移動し、プレス部26P、28Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、プレス部45Qと外形形成部53が下方に移動する。この動作によって、金属板16のうち、プレス部26P及びプレス部28Pとプレス部45Q及び外形形成部53との間に挟まれた箇所が下方に押圧されて、ラチェット100の保持部104に相当する部分が形成される。
【0098】
また、ステップ9では、下ブロック11において、既に隙間S3、S5及びS7が詰められている状態のプレス部23P、25P及び27Pが、ベース部20に対して下方へスライドする。また、上ブロック12において、プレス部43Q、44Qと外形形成部52が下方に移動し、プレス部41Q、42Q、46Q及び47Qは上方へスライドする。
【0099】
図18に示すステップ10では、下ブロック11において、第8スライド部28が第6スライド部26に対して下方へ移動して隙間S8が詰められる。これにより、プレス部28Pがベース部20に対して下方へスライドする。上ブロック12では、外形形成部53が下方に移動する。この動作によって、金属板16のうち、プレス部28Pと外形形成部53との間に挟まれた箇所が下方に押圧されて、環状部105及び内歯106が形成される。
【0100】
また、ステップ10では、下ブロック11において、既に隙間S3、S5及びS7が詰められている状態のプレス部23P、25P及び27Pが、ベース部20に対して下方へスライドする。また、上ブロック12において、プレス部43Q、44Qと外形形成部52が下方に移動し、プレス部41Q、42Q、45Q、46Q及び47Qは上方へスライドする。
【0101】
図19に示すステップ11では、上ブロック12が備えるパンチ部51が上基準面40aから突出して金属板16を貫通する。パンチ部51が金属板16を貫通した箇所は、ラチェット100における貫通孔101になる。金属板16を貫通したパンチ部51は、下ブロック11のパンチ受け孔35に入る。上ブロック12のうち、プレス部41Q、42Q及び47Qが上方へスライドし、プレス部43Q~46Qは下方へ移動する。
【0102】
また、ステップ11では、下ブロック11において、隙間S3~S8が詰められている状態にあるプレス部23P~28Pが、ベース部20に対して下方へスライドする。また、上ブロック12において、プレス部43Q~46Qと外形形成部52、53が下方に移動し、プレス部41Q、42Q及び47Qは上方へスライドする。
【0103】
図20に示すステップ12では、上ブロック12がプレス部21Pと共に移動して、下ブロック11において、第1スライド部21が下方へ移動して隙間S1が詰められる。第1スライド部21の当該移動に伴って、第1スライド部21よりも上層側に支持されている各スライド部22~28(各プレス部22P~28P)も、第1スライド部21の移動力が順次伝達されて、ベース部20に対して下方へ移動する。
【0104】
より詳しくは、第1スライド部21が下方へ移動すると、段部21eが被規制面22dを下方に押し込んで、第2スライド部22が第1スライド部21と共に下方へ移動する。これに伴い、第2スライド部22よりも上層側に支持されている各スライド部23~28が、第1スライド部21と共に下方へ移動する。
【0105】
この下ブロック11の動作によって、ベース部20の蓋部20bに支持されているダボ形成部31が下基準面20aから突出する。ダボ形成部31の突出に伴って、金属板16を挟んでダボ形成部31に対向している上ブロック12のプレス部47Qが押し上げられて、上方へスライドする。ダボ形成部31とプレス部47Qとの間で金属板16がプレスされた箇所が、ラチェット100におけるダボ部103になる。
【0106】
続くステップ13(図7及び図8のグラフのみに示す)では、プレス機構15による上ブロック12への押し込みを完了して、上ブロック12を上方へ移動させる。これにより、下ブロック11と上ブロック12の各可動部は、プレス加工前の基準位置に戻る。
【0107】
以上のステップ1からステップ13までが、プレス加工装置10における1ストロークのプレス動作である。1ストロークを複数の段階(ステップ)に分けて、各段階にて時間差で別々の部位を成形するので、個々の段階でプレス動作に必要な負荷が小さく抑えられる。そのため、複数の部位を同じタイミングで成形する場合に比べて、プレス機構15に必要とされるパワーが小さくて済み、プレス加工装置10を小型で低出力なものにすることができる。
【0108】
プレス加工装置10では、1ストロークのプレス動作によって、2つのラチェット100に対応する部位が形成される。これにより、1ストロークのプレス動作で1つのラチェットを形成していた従来技術(先に説明した特許文献1)に比べて生産効率が向上する。
【0109】
また、ラチェットの各部を形成する複数のプレス機を搬送方向に分散して配置する順送プレス装置とは異なり、プレス加工装置10では、プレス機(プレス機構15)自体は1つであるため、装置の大型化を防ぐことができる。
【0110】
さらに、プレス加工装置10では、第1領域T1から第4領域T4のそれぞれでラチェット100の複数の部位を形成するので、プレスを行うための範囲はある程度集約されており、既存の順送プレス装置に比べて狭い設置面積で設置が可能である。
【0111】
より詳しくは、図6に示すように、第1領域T1と第2領域T2に含まれる要素によって、第1のラチェット100の各部分が形成され、第3領域T3と第4領域T4に含まれる要素によって、第2のラチェット100の各部分が形成される。言い換えれば、プレス加工装置10では、第1領域T1及び第2領域T2に含まれる要素が1つの製造ラインを構成し、第3領域T3及び第4領域T4に含まれる要素が別の1つの製造ラインを構成している。
【0112】
例えば、第1領域T1にて行われるプレスを第1工程とし、第2領域T2にて行われるプレスを第2工程とし、第3領域T3にて行われるプレスを第3工程とし、第4領域T4にて行われるプレスを第4工程とする。第1工程で第1のラチェットの少なくとも一部を形成し、第2工程で第1のラチェットが完成される。第3工程で第2のラチェットの少なくとも一部を形成し、第4工程で第2のラチェットが完成される。
【0113】
第1工程には、ステップ3での加工(貫通孔101の形成)と、ステップ4での加工(ダボ部103の形成)とが含まれ、貫通孔101を形成した後にダボ部103が形成される。
【0114】
第2工程には、ステップ8での加工(ラチェット100の外形の形成)と、ステップ9での加工(保持部104の形成)と、ステップ10での加工(環状部105及び内歯106外形の形成)とが含まれ、ラチェット100の外形を形成した後に、保持部104と環状部105と内歯106が形成される。
【0115】
第3工程には、ステップ11での加工(貫通孔101の形成)とステップ12での加工(ダボ部103の形成)とが含まれ、貫通孔101を形成した後にダボ部103が形成される。
【0116】
第4工程には、ステップ5での加工(ラチェット100の外形の形成)と、ステップ6での加工(保持部104の形成)と、ステップ7での加工(環状部105及び内歯106外形の形成)とが含まれ、ラチェット100の外形を形成した後に、保持部104と環状部105と内歯106が形成される。
【0117】
つまり、大きく分けて、第1工程と第3工程では、ラチェット100の中心側に位置する要素(貫通孔101、ダボ部103)を形成し、第2工程と第4工程では、ラチェット100の外周側に位置する要素(保持部104、環状部105、内歯106)を形成する。
【0118】
図6を参照して、プレス加工と搬送動作の全体的な流れを説明する。先に説明したステップ1からステップ13までの1ストロークのプレス動作が完了すると、制御部70が図示を省略する搬送機構を制御して、金属板16をX方向に1ピッチU(図6)移動させる。1ピッチUの長さは、ラチェット100の直径などのスペックに応じて予め設定されている。
【0119】
例えば、1回目のストロークのプレス動作後に金属板16をX方向に1ピッチU移動させると、第1領域T1(第1工程)で形成された貫通孔101及びダボ部103の箇所が第2領域T2に移動する。そして、次の2回目のストロークで、第2領域T2(第2工程)において、ラチェット100の外形が打ち抜かれると共に、保持部104と環状部105と内歯106が形成されて、第1のラチェット100が完成する。
【0120】
2回目のストロークが完了してから、金属板16をX方向に1ピッチU以上移動させると、第1のラチェット100を取り出すことが可能になる。なお、図6の例では、第2領域T2から1ピッチUの移動位置で第1のラチェット100を取り出しているが、複数ピッチU分の移動を経てから第1のラチェット100を取り出してもよい。
【0121】
第1領域T1と第2領域T2が1ピッチU分の間隔であるのに対して、第3領域T3と第4領域T4の間には2ピッチU分の間隔が設定されている。従って、1回目のストロークのプレス動作後に金属板16をX方向に1ピッチU移動させると、第3領域T3(第3工程)で形成された貫通孔101及びダボ部103の箇所は、第3領域T3と第4領域T4の間の中間領域T5に位置される。ここで、2回目のストロークで第2領域T2でのプレス動作(第2工程)を行う間、中間領域T5では加工が行われない(中間領域T5には、加工に関係するプレス部などが配置されていない)。
【0122】
2回目のストロークが完了してから、金属板16をX方向に1ピッチU移動させると、中間領域T5にあった貫通孔101及びダボ部103の箇所が第4領域T4に移動する。そして、次の3回目のストロークで、第4領域T4(第4工程)において、ラチェット100の外形が打ち抜かれると共に、保持部104と環状部105と内歯106が形成されて、第2のラチェット100が完成する。
【0123】
3回目のストロークが完了してから、金属板16をX方向に1ピッチU以上移動させると、第2のラチェット100を取り出すことが可能になる。なお、図6の例では、第4領域T4から1ピッチUの移動位置で第2のラチェット100を取り出しているが、複数ピッチU分の移動を経てから第2のラチェット100を取り出してもよい。
【0124】
このように、金属板16に対して、3回のストロークのプレス動作と少なくとも2ピッチUの搬送とを行うことによって、2つのラチェット100が完成する。プレス加工を行わない中間領域T5を設定することによって、2つのラチェット100を製造するためのプレス位置(特に、ラチェット100の外形を形成するために範囲が広くなっている第2領域T2と第4領域T4)を、互いに干渉させずにY方向の近い位置に配置して、プレス加工装置10の小型化を図ることができる。
【0125】
また、第1領域T1と第2領域T2、第2領域T2と第3領域T3については、互いの一部がX方向で重複する(X方向の同じ範囲に属する)ように、可能な限り近づけて配置されているため、X方向にコンパクトな装置構成にできる。
【0126】
なお、第2領域T2と第4領域T4が互いに重ならないことが条件となるが、変形例として、中間領域T5を設定せずに、第3領域T3からの1ピッチUの移動で第4領域T4に到達するような構成にしてもよい。
【0127】
貫通孔101の内周部分とラチェット100の外形は、成形時の基準を取りやすい形状(基本的に円形)である。そのため、貫通孔101を形成する工程(第1工程及び第3工程)、ラチェット100の外形を形成する工程(第2工程及び第4工程)を別工程にすることにより、いずれの工程でも、貫通孔101やラチェット100の外形による基準を取りながらの加工を行うことができる。その結果、第1のラチェット100と第2のラチェット100のそれぞれについて、形状精度のばらつきを小さくすることができる。
【0128】
第1工程及び第3工程で、貫通孔101の形成後にダボ部103を形成することにより、貫通孔101を形成したパンチ部50、51が貫通して位置精度を保ったまま、その外側にダボ部103を形成する。そのため、ダボ部103の位置及び形状のばらつきを少なくして精度良く形成することができる。
【0129】
第2工程及び第4工程で、ラチェット100の外形の形成後に、保持部104と環状部105と内歯106を形成することにより、外形を形成した外形形成部32、33によって位置精度を保ったまま、保持部104と環状部105と内歯106を形成する。そのため、保持部104と環状部105と内歯106の位置及び形状のばらつきを少なくして精度良く形成することができる。
【0130】
また、X方向において、第1領域T1(第1工程)が上流側、第2領域T2(第2工程)が下流側という位置関係であり、第3領域T3(第3工程)が上流側、第4領域T4(第4工程)が下流側という位置関係である。換言すれば、第2領域は第1領域に対してX方向に離れた位置にあり、第4領域は第3領域に対して、X方向に離れた位置にある。
【0131】
これにより、第2領域T2(第2工程)と第4領域T4(第4工程)で第1のラチェット100と第2のラチェット100がそれぞれ完成した後、そのまま金属板16をX方向に搬送(順送)して、完成後の各ラチェット100を回収することができる。つまり、X方向とは異なる方向(例えば、逆方向など)への金属板16の搬送動作を要さず、次のプレス加工の準備として金属板16をX方向に移動させるだけで、完成品のラチェット100を容易に取り出すことができる。
【0132】
このように、ラチェット100を完成させる工程(第2工程、第4工程)を、搬送が進む方向であるX方向の下流側の領域(第2領域T2、第4領域T4)に設定することには、生産効率の向上において利点がある。
【0133】
プレス加工の1回のストロークでは、第1領域T1での第1工程(ステップ3、4)、第4領域T4での第4工程(ステップ5、6、7)、第2領域T2での第2工程(ステップ8、9、10)、第3領域T3での第3工程(ステップ11、12)の順で成形が行われる。図2図3及び図6に示すように、第1領域T1と第4領域T4が対角の位置関係であり、第2領域T2と第3領域T3が対角の位置関係であり、これらの対角の位置関係にある領域の順に加工を行う。そのため、水平方向で離れた位置にプレス力を分散させながら順次成形が行われ、負荷の偏りによる金属板16の傾きなどを防いで、精度の高いプレス加工を実現できる。
【0134】
例えば、本実施形態とは異なり、ストロークの初期段階において、第1領域T1での第1工程に続いて第3領域T3での第3工程を行うと、金属板16に対してX方向の上流側に負荷が集中し、水平面に対して金属板16を傾かせようとする力が加わりやすくなる。
【0135】
これに対して、本実施形態のように、対角の位置関係にある領域順にプレス力を作用させると、金属板16の傾きを抑制して水平を維持させやすい効果が得られる。特に、最初の2工程において、互いの距離が最も離れている第1領域T1と第4領域T4でプレスするようにしているので、金属板16の安定性を高める効果が高い。
【0136】
なお、この説明から分かる通り、第1工程(第1領域T1)、第2工程(第2領域T2)、第3工程(第3領域T3)、第4工程(第4領域T4)での第1、第2、第3、第4は、1ストローク中にプレスを行う順序を表す序数ではない。
【0137】
プレス加工装置10の下ブロック11は、ラチェット100の各部分を形成するための複数の成形型(プレス部21P~28P)を動作させる機構として、スライド部21~28を備えている。スライド部21~28は、所定の連動関係を有する多段階の支持構造になっている。
【0138】
具体的には、ベース部20に対して第1スライド部21が上下動可能に支持され、第1スライド部21に対して第2スライド部22が上下動可能に支持され、第2スライド部22に対して第3スライド部23及び第4スライド部24が上下動可能に支持され、第3スライド部23及び第4スライド部24に対して第5スライド部25及び第6スライド部26が上下動可能に支持され、第5スライド部25及び第6スライド部26に対して第7スライド部27及び第8スライド部28が上下動可能に支持される。そして、この多段階の支持構造では、支持の下層側(ベース部20による支持に近い側)のスライド部がプレス方向(下方)に移動すると、当該スライド部よりも支持の上層側のスライド部が共にプレス方向に移動する。上層側のスライド部がプレス方向に移動する際には、下層側のスライド部は移動しない。
【0139】
例えば、第2スライド部22は、下ブロック11の中では最も早い段階(ステップ4)でプレス方向に移動する。この第2スライド部22を第1段移動部とする。ステップ4で第2スライド部22がプレス方向へ移動する際には、第2スライド部22よりも上層側である第3スライド部23、第4スライド部24、第5スライド部25、第6スライド部26、第7スライド部27、第8スライド部28が、第2スライド部22と共にプレス方向に移動する。
【0140】
第3スライド部23は、第2スライド部22(第1段移動部)に対して上下動可能に支持される第2段移動部を構成し、ステップ5でプレス方向へ移動する。第5スライド部25は、第3スライド部23(第2段移動部)に対して上下動可能に支持される第3段移動部を構成し、ステップ6でプレス方向へ移動する。第7スライド部27は、第5スライド部25(第3段移動部)に対して上下動可能に支持される第4段移動部を構成し、ステップ7でプレス方向へ移動する。
【0141】
ステップ5で第3スライド部23がプレス方向へ移動する際には、第3スライド部23よりも上層側の第5スライド部25と第7スライド部27が、第3スライド部23と共にプレス方向に移動する。ステップ6で第5スライド部25がプレス方向へ移動する際には、第5スライド部25よりも上層側の第7スライド部27が、第5スライド部25と共にプレス方向に移動する。
【0142】
第4スライド部24は、第2スライド部22(第1段移動部)に対して上下動可能に支持される第2段移動部を構成し、ステップ8でプレス方向へ移動する。第6スライド部26は、第4スライド部24(第2段移動部)に対して上下動可能に支持される第3段移動部を構成し、ステップ9でプレス方向へ移動する。第8スライド部28は、第6スライド部26(第3段移動部)に対して上下動可能に支持される第4段移動部を構成し、ステップ10でプレス方向へ移動する。
【0143】
ステップ8で第4スライド部24がプレス方向へ移動する際には、第4スライド部24よりも上層側の第6スライド部26と第8スライド部28が、第4スライド部24と共にプレス方向に移動する。ステップ9で第6スライド部26がプレス方向へ移動する際には、第6スライド部26よりも上層側の第8スライド部28が、第6スライド部26と共にプレス方向に移動する。
【0144】
このように、下ブロック11では、多段階の支持構造のうち下層側のスライド部から順にプレス方向への移動を行う。例外的に、最も下層側の第1スライド部21については、他のスライド部22~28がプレス方向への移動を行った後のステップ12でプレス方向への移動を行う。
【0145】
第1スライド部21は、ラチェット100の母材である金属板16を保持するベース部20に対して上下動可能に支持されるベース移動部を構成する。
【0146】
第1スライド部21は、内部空間21cを囲む筒状部21bを有し、内部空間21cに対して第2スライド部22の一部である基部22bが挿入される。筒状部21bの内部には、段部21eと隙間S2とを備えている。段部21eは、第1スライド部21がプレス方向へ移動する力を第2スライド部22に伝達する伝達部を構成する。隙間S2は、第1スライド部21に対して第2スライド部22をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0147】
第1スライド部21の筒状部21bによって第2スライド部22の基部22bを囲んでいるため、第1スライド部21がプレス方向に移動する際に、第2スライド部22を位置ずれさせずに第1スライド部21と共に高精度に移動させることができる。
【0148】
第2スライド部22は、隔壁部22fで分割される内部空間22g、22hを囲む筒状部22eを有し、内部空間22g、22hに対して第3スライド部23の一部と第4スライド部24の一部が挿入される。筒状部22eの内部には、段部22i、22jと隙間S3、S4とを備えている。段部22i、22jは、第2スライド部22がプレス方向へ移動する力を第3スライド部23と第4スライド部24に伝達する伝達部を構成する。隙間S3、S4は、第2スライド部22に対して第3スライド部23と第4スライド部24をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0149】
第2スライド部22の筒状部22eによって第3スライド部23の一部と第4スライド部24の一部を囲んでいるため、第2スライド部22がプレス方向に移動する際に、第3スライド部23と第4スライド部24を位置ずれさせずに第2スライド部22と共に高精度に移動させることができる。
【0150】
第3スライド部23は、内部空間23eを囲む筒状部23bを有し、第5スライド部25の一部が内部空間23eに挿入される。筒状部23bの内部に、段部23fと隙間S5とを備えている。段部23fは、第3スライド部23がプレス方向へ移動する力を第5スライド部25に伝達する伝達部を構成する。隙間S5は、第3スライド部23に対して第5スライド部25をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0151】
第3スライド部23の筒状部23bによって第5スライド部25の一部を囲んでいるため、第3スライド部23がプレス方向に移動する際に、第5スライド部25を位置ずれさせずに第3スライド部23と共に高精度に移動させることができる。
【0152】
第4スライド部24は、内部空間24eを囲む筒状部24bを有し、第6スライド部26の一部が内部空間24eに挿入される。筒状部24bの内部に、段部24fと隙間S6とを備えている。段部24fは、第4スライド部24がプレス方向へ移動する力を第6スライド部26に伝達する伝達部を構成する。隙間S6は、第4スライド部24に対して第6スライド部26をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0153】
第4スライド部24の筒状部24bによって第6スライド部26の一部を囲んでいるため、第4スライド部24がプレス方向に移動する際に、第6スライド部26を位置ずれさせずに第4スライド部24と共に高精度に移動させることができる。
【0154】
第5スライド部25は、内部空間25eを囲む筒状構造の支持部25bを有し、第7スライド部27の一部が内部空間25eに挿入される。支持部25bの内部に、段部25fと隙間S7とを備えている。段部25fは、第5スライド部25がプレス方向へ移動する力を第7スライド部27に伝達する伝達部を構成する。隙間S7は、第5スライド部25に対して第7スライド部27をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0155】
第5スライド部25の筒状構造の支持部25bによって第7スライド部27の一部を囲んでいるため、第5スライド部25がプレス方向に移動する際に、第7スライド部27を位置ずれさせずに第5スライド部25と共に高精度に移動させることができる。
【0156】
第6スライド部26は、内部空間26eを囲む筒状構造の支持部26bを有し、第8スライド部28の一部が内部空間26eに挿入される。支持部26bの内部に、段部26fと隙間S8とを備えている。段部26fは、第6スライド部26がプレス方向へ移動する力を第8スライド部28に伝達する伝達部を構成する。隙間S8は、第6スライド部26に対して第8スライド部28をプレス方向に移動可能にさせるスペースを構成する。
【0157】
第6スライド部26の筒状構造の支持部26bによって第8スライド部28の一部を囲んでいるため、第6スライド部26がプレス方向に移動する際に、第8スライド部278を位置ずれさせずに第6スライド部26と共に高精度に移動させることができる。
【0158】
以上のように、プレス加工装置10の下ブロック11では、ラチェット100を形成するための複数の成形型(プレス部)を動作させる機構を多段階の支持構造としている。複数のスライド部を直列的な関係性で配置したことにより、全てのスライド部を並列的に配置する構造に比べて装置の小型化を図ることができる。また、支持構造の下層側のスライド部をプレス方向に移動させた場合に、上層側のスライド部が連動してプレス方向に移動するので、各ステップで動作の制御を要するスライド部の数が少なくて済み、シンプルな制御を実現できる。特に、順送プレス装置とは異なり、複数のスライド部が集約して配置されているプレス加工装置10においては、機構の小型化や制御の簡略化による効果が高い。
【0159】
さらに、下ブロック11では、第2スライド部22が、第3スライド部23と第4スライド部24を並列で支持する分岐構造を有している。分岐構造の一方は、第3スライド部23、第5スライド部25、第7スライド部27の順で直列的に配置され、第4領域T4でのプレス加工に用いられる。分岐構造の他方は、第4スライド部24、第6スライド部26、第8スライド部28の順で直列的に配置され、第2領域T2でのプレス加工に用いられる。これにより、多段階の支持構造を用いながら、1ストロークのプレス加工で2つのラチェット100を形成することができ、製造効率が向上する。
【0160】
本発明の実施の形態は上記実施形態やその変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0161】
例えば、上記実施形態では、1ストロークのプレス加工で2つのラチェット100を形成するプレス加工装置10に適用したが、1ストロークのプレス加工で1つのラチェット100を形成するプレス加工装置にも適用が可能である。例えば、第2スライド部22が第3スライド部23と第4スライド部24を並列で支持する分岐構造ではなく、第2スライド部22が第3スライド部23と第4スライド部24の一方だけを支持するシンプルな直列的支持構造にすることで、1つのラチェット100を形成するプレス加工装置になる。
【0162】
あるいは、1ストロークのプレス加工で3つ以上のラチェット100を形成するプレス加工装置にも適用が可能である。例えば、第2スライド部22が、第3スライド部23と第4スライド部24に加えて、さらに別のスライド部を並列で支持する分岐構造にすることで、3つ以上のラチェット100を同時に形成するプレス加工装置になる。
【0163】
上記実施形態では、プレス加工装置10で製造する第1のラチェット100と第2のラチェット100が同一種の部品であるが、異なるスペックのラチェットを製造することもできる。例えば、第1領域T1と第3領域T3での金型構成(プレス部など)を異ならせたり、第2領域T2と第4領域T4での金型構成(プレス部など)を異ならせたりすることで、別種のラチェットを製造できる。
【0164】
上記実施形態のプレス加工装置10とは異なり、リクライニング機構におけるラチェット以外の部品を製造するプレス加工装置に本発明を適用することも可能である。例えば、リクライニング機構のベースプレートを製造するプレス加工装置への適用が可能である。ベースプレートは、ラチェット100と同様に、中央に貫通孔を有し、さらに複数の凹凸部分を有する円板状の部品である。そのため、本発明のプレス加工装置は、ベースプレートの製造にも適している。
【符号の説明】
【0165】
10 :プレス加工装置
11 :下ブロック
12 :上ブロック
15 :プレス機構
16 :金属板(部品の母材)
20 :ベース部
20a :下基準面
21 :第1スライド部(ベース移動部)
21P :プレス部
22 :第2スライド部(第1段移動部)
22i :段部(伝達部)
22j :段部(伝達部)
22P :プレス部
23 :第3スライド部(第2段移動部)
23f :段部(伝達部)
23P :プレス部
24 :第4スライド部(第2段移動部)
24f :段部(伝達部)
24P :プレス部
25 :第5スライド部(第3段移動部)
25P :プレス部
26 :第6スライド部(第3段移動部)
26P :プレス部
27 :第7スライド部
27P :プレス部
28 :第8スライド部
28P :プレス部
29 :収容空間
30 :ダボ形成部
31 :ダボ形成部
32 :外形形成部
33 :外形形成部
34 :パンチ受け孔
35 :パンチ受け孔
40 :ベース部
40a :上基準面
41Q :プレス部
42Q :プレス部
43Q :プレス部
44Q :プレス部
45Q :プレス部
46Q :プレス部
47Q :プレス部
50 :パンチ部
51 :パンチ部
52 :外形形成部
53 :外形形成部
70 :制御部
100 :ラチェット(リクライニング機構の部品)
101 :貫通孔
102 :基準面
103 :ダボ部
104 :保持部
105 :環状部
106 :内歯
S1~S8 :隙間
T1 :第1領域
T2 :第2領域
T3 :第3領域
T4 :第4領域
T5 :中間領域
U :搬送のピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20