(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045798
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】超音波センサの製造方法、超音波センサ、及び、超音波流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/667 20220101AFI20240327BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20240327BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01F1/667 A
H04R31/00 330
H04R17/00 330G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150783
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安永 武史
(72)【発明者】
【氏名】原田 大雅
【テーマコード(参考)】
2F035
5D019
【Fターム(参考)】
2F035DA14
5D019AA18
5D019FF02
5D019GG09
5D019GG12
5D019HH03
(57)【要約】
【課題】従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能とする。
【解決手段】圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形又は当該変形に伴う当該接着剤との部分的な剥離を発生させる応力緩和処理を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子及び金属振動板並びに音響整合層及び当該金属振動板が接着剤により接着された超音波センサに対し、当該超音波センサの運用前に、当該接着部分での変形又は当該変形に伴う当該接着剤との部分的な剥離を発生させる応力緩和処理
を有する超音波センサの製造方法。
【請求項2】
前記応力緩和処理において、前記超音波センサに対し、当該超音波センサの運用前に、熱履歴を加える
ことを特徴とする請求項1記載の超音波センサの製造方法。
【請求項3】
前記応力緩和処理において、前記超音波センサを、当該超音波センサの運用前に、高電圧で駆動させる
ことを特徴とする請求項1記載の超音波センサの製造方法。
【請求項4】
圧電素子と、
音響整合層と、
前記圧電素子及び前記音響整合層が接着剤により接着された金属振動板とを備え、
前記圧電素子、前記音響整合層及び前記金属振動板は、自機の運用前に、接着部分での変形又は当該変形に伴う前記接着剤との部分的な剥離を発生させられた
ことを特徴とする超音波センサ。
【請求項5】
互いに超音波の送受信を行う一対の超音波センサと、
前記超音波センサによる送受信結果に基づいて、計測対象である流体の流量計測を行う演算部とを備え、
前記超音波センサは、
圧電素子と、
音響整合層と、
前記圧電素子及び前記音響整合層が接着剤により接着された金属振動板とを備え、
前記圧電素子、前記音響整合層及び前記金属振動板は、自機の運用前に、接着部分での変形又は当該変形に伴う前記接着剤との部分的な剥離を発生させられた
ことを特徴とする超音波流量計。
【請求項6】
前記演算部は、
前記一対の超音波センサによる送受信結果に基づいて、超音波の伝搬時間差を計測する伝搬時間差計測部と、
前記一対の超音波センサが超音波の送受信を行った際の温度を計測する温度計測部と、
前記伝搬時間差計測部による計測結果及び前記温度計測部による計測結果に基づいて、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性を取得するオフセット取得部と、
前記伝搬時間差計測部による計測結果、前記温度計測部による計測結果、及び、前記オフセット取得部による取得結果に基づいて、超音波の伝搬時間差のオフセット補正を行うオフセット補正部と、
前記オフセット補正部によるオフセット補正後の超音波の伝搬時間差に基づいて、流体の流量を算出する流量算出部とを有する
ことを特徴とする請求項5記載の超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波を用いて流体の流量計測を行う超音波流量計に用いられる超音波センサの製造方法、超音波センサ、及び、超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用い、計測対象である流体の流量計測を行う超音波流量計が知られている(例えば特許文献1参照)。ここでは、超音波流量計のうち、特に、伝搬時間方式の超音波流量計を対象としている。
【0003】
この特許文献1に開示された伝搬時間方式の超音波流量計では、一対の超音波センサを用いて計測対象である流体が流れる流路に対して超音波を交互に送受信することによって、その2つの超音波の伝搬時間差であるΔtを求める。そして、この超音波流量計では、上記伝搬時間差に基づいて、流路内を流れる流体の流量を計測する。
【0004】
なお、一般的に、流量が0の場合での伝搬時間差は、一対の超音波センサの特性差によって、0から変化することは公知である。
【0005】
一方、超音波センサでは、圧電素子が金属振動板にロー付けされている。また、この圧電素子の熱膨張係数と、金属振動板の熱膨張係数とは異なる。
そのため、この超音波センサは、熱負荷が繰り返し加えられる試験(以下、熱衝撃試験と称す)が行われると、圧電素子と金属振動板との間の接着部が破損してしまう。
【0006】
そこで、これに対し、圧電素子とケースとを接着する接着剤を、熱膨張係数の観点から適切に選定した超音波センサが知られている(例えば特許文献2参照)。この特許文献2では、接着剤について、材質をエポキシ樹脂とし、硬化時の硬さを鉛筆硬度評価方法におけるHBから2Bとし、硬化時の内部応力をポリイミドを用いた所定のひずみ評価方法における10%以下とし、ガラス転移点を50℃から90℃以内とし、接着強度を10N/mm2以上としている。
【0007】
この構成では、熱衝撃試験による圧電素子とケースとの熱膨張係数の違いを接着剤が伸びることにより緩和する。よって、圧電素子とケースとの接続部が破損することを妨げることができる。
その結果、屋外で使用する環境下においても、長期間にわたり圧電素子とケースとの接続を破損することが防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-184488号公報
【特許文献2】特開2003-270013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この特許文献2に開示された構成では、圧電素子の熱膨張係数とケースの熱膨張係数との違いに対して、接着剤が伸びることで、圧電素子とケースとの接着部の破損を防ぐことができる。
しかしながら、この特許文献2に開示された構成であっても、熱履歴による超音波センサの特性の変化によって、計測精度が低下してしまう。
【0010】
すなわち、熱衝撃試験をかけると、接着部のひずみが変化し、破壊とまではいかないとしても、超音波センサの特性(機械的電気的な構造)が変化することがある。この場合、超音波の伝搬時間差の温度特性が変化し、計測に誤差が生じることがある。
【0011】
図15に、熱衝撃試験前後での超音波の伝搬時間差の温度特性の変化の一例を示す。なお、ここでは、熱衝撃試験として、-30℃で30分保持、70℃で30分保持という状態を繰り返し200回かける試験を想定している。また、
図15において、実線が熱衝撃試験前での超音波の伝搬時間差の温度特性を示し、破線が熱衝撃試験後での超音波の伝搬時間差の温度特性を示している。
そして、
図15に示すように、熱衝撃試験の前後で、超音波の伝搬時間差の温度特性に変化が生じている。
【0012】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる超音波センサの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る超音波センサの製造方法は、圧電素子及び金属振動板並びに音響整合層及び当該金属振動板が接着剤により接着された超音波センサに対し、当該超音波センサの運用前に、当該接着部分での変形又は当該変形に伴う当該接着剤との部分的な剥離を発生させる応力緩和処理を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、上記のように構成したので、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係る超音波流量計の構成例を示す図である。
【
図2】実施の形態1における超音波センサの構成例を示す図である。
【
図3】実施の形態1における超音波センサに対する応力緩和処理の一例を示す図である。
【
図4】
図4A、
図4bは、実施の形態1における超音波センサの製造方法の原理を説明するための図である。
【
図5】
図5A~
図5Cは、実施の形態1における超音波センサの製造方法の原理を説明するための図である。
【
図6】実施の形態1における超音波センサの製造方法の原理を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1における超音波センサの製造方法の原理を説明するための図である。
【
図8】実施の形態1における超音波センサの製造方法の原理を説明するための図である。
【
図9】実施の形態1における演算部の構成例を示す図である。
【
図10】実施の形態1における演算部の動作例を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態1における演算部の動作例を示すフローチャートである。
【
図12】実施の形態1における演算部の動作例を示すフローチャートである。
【
図15】従来の超音波センサを用いた超音波流量計での熱衝撃試験前後での超音波の伝搬時間差の温度特性の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る超音波流量計1の構成例を示す図である。
超音波流量計1は、超音波を用いて計測対象である流体の流量を計測する。この超音波流量計1は、
図1に示すように、計測管101、一対の超音波センサ102(第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2)、及び、演算部103を備えている。
【0017】
計測管101は、内部に超音波流量計1が計測対象とする流体が流れる管である。
【0018】
第1の超音波センサ102-1は、計測管101の側壁における上流側に取付けられ、計測管101内で第2の超音波センサ102-2との間で超音波の送受信を交互に繰り返す超音波振動子である。すなわち、第1の超音波センサ102-1は、演算部103による制御に応じて計測管101内で下流側(第2の超音波センサ102-2)に対して超音波を送信し、また、下流側(第2の超音波センサ102-2)からの超音波を受信信号として受信する。
この第1の超音波センサ102-1により受信された受信信号は、演算部103に出力される。
【0019】
第2の超音波センサ102-2は、計測管101の側壁における下流側に取付けられ、計測管101内で第1の超音波センサ102-1との間で超音波の送受信を交互に繰り返す超音波振動子である。すなわち、第2の超音波センサ102-2は、演算部103による制御に応じて計測管101内で上流側(第1の超音波センサ102-1)に対して超音波を送信し、また、上流側(第1の超音波センサ102-1)からの超音波を受信信号として受信する。
この第2の超音波センサ102-2により受信された受信信号は、演算部103に出力される。
【0020】
なお、第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2の位置関係は、第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2で用いられる超音波の伝搬経路に応じて適宜設計される。
【0021】
この超音波センサ102(第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2)の構成例については、後述する。
【0022】
演算部103は、第1の超音波センサ102-1による送受信結果、及び、第2の超音波センサ102-2による送受信結果に基づいて、計測対象である流体の流量を演算する。
【0023】
また、演算部103は、システムLSI(Large Scale Integration)等の処理回路、又はメモリ等に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等により実現される。
【0024】
この演算部103の構成例については、後述する。
【0025】
次に、超音波センサ102(第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2)の構成例について、
図2を参照しながら説明する。
超音波センサ102は、
図2に示すように、圧電素子(PZT)1021、音響整合層(AML)1022、及び、金属振動板(SUS)1023を備えている。
【0026】
圧電素子1021は、入力された高周波(例えば500kHz)の電圧に応じた超音波を出力し、また、入力された超音波に応じた高周波の電圧を出力する。
また、圧電素子1021には、電圧の入出力が可能なよう、リード線(不図示)がはんだ付けされている。
【0027】
音響整合層1022は、圧電素子1021により出力された超音波を外部に送り、また、外部からの超音波を圧電素子1021に送る。
【0028】
金属振動板1023は、圧電素子1021と音響整合層1022とを固定する部材であり、金属により構成された板状部材である。この金属振動板1023には、一方の面に圧電素子1021が接着剤1024により接着され、他方の面に音響整合層1022が接着剤1024により接着されている。なお、
図2では、接着剤1024の図示を省略している。
【0029】
そして、この超音波センサ102では、応力緩和処理が施されている。実施の形態1では、応力緩和処理は、圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤1024により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形及び当該変形に伴う当該接着剤1024との部分的な剥離を発生させる処理である。
【0030】
実施の形態1では、特に、応力緩和処理として、超音波センサ102に対して、事前に、熱履歴が加えられる。
【0031】
すなわち、実施の形態1では、超音波センサ102を恒温槽(試験装置)に入れ、当該恒温槽の温度を、超音波流量計1の試験温度又は熱衝撃試験等の試験温度(例えば-30℃~70℃)で変化させる。そして、この変化を1回又は複数回繰り返す。
【0032】
なお、
図3では、恒温槽の温度をステップ状に変化させた場合を示している。また、
図3では、恒温槽の温度を一定に保持する時間を30分とし、恒温槽の温度の変化を10回繰り返した場合を示している。
【0033】
なお、恒温槽に入れられる超音波センサ102は、超音波流量計1として組み込まれた状態でもよいし、センサ単体でもよい。すなわち、どのような状態であれ、超音波センサ102が使用される前に、超音波センサ102に任意の熱履歴が加えられればよい。
【0034】
また、超音波センサ102に熱履歴を加える際の温度は、任意の使用温度でよい。
また、
図3では、恒温槽の温度変化をステップ状の変化とした場合を例に示した。しかしながら、恒温槽の温度変化はこれに限らず、例えば、恒温槽の温度を緩やかに変化させるようにしてもよい。
【0035】
また、上記では、試験装置が恒温槽である場合を示した。しかしながら、試験装置はこれに限らず、超音波センサ102に対して温度変化を与えることが可能な装置であればよい。例えば、試験装置として、熱衝撃試験装置を用いることも可能である。
【0036】
また、超音波センサ102に熱履歴を加える時間は、超音波センサ102の温度が安定するまで保持することを想定し、それ以上の保持時間であればよい。
例えば温度を-30℃から70℃に変化させるとき、試験装置内の温度は70℃に達して10分保持しているかもしれないが、超音波センサ102の温度は65℃までしか到達していない可能性があるため、この場合には、それ以上に保持する必要がある。
【0037】
また、繰り返し回数は、1回又は複数回とする。なお、この繰り返し回数は多い程効果がある。
【0038】
上記の条件で、超音波センサ102に対して熱履歴をかけることで、実フィールドで温度変化が激しく繰り返し熱履歴かかるような環境にあっても、超音波の伝搬時間差の温度特性に再現性を持つ超音波センサ102が得られる。
【0039】
次に、実施の形態1に係る超音波センサ102の効果について説明する。
ここで、超音波センサ102は、圧電素子1021及び金属振動板1023、並びに、音響整合層1022及び金属振動板1023が樹脂材料から成る接着剤1024により接着された構造を有している。すなわち、超音波センサ102は、熱膨張係数が異なる部材が貼り合わされた構造体である。
よって、
図4Aで符号41に示すように、この超音波センサ102では、上記貼り合わせ状態に起因する内部応力(残留応力)が発生する。
【0040】
そのため、この超音波センサ102に熱履歴が加えられると、圧電素子1021、金属振動板1023及び音響整合層1022はそれぞれ膨張するが、熱膨張係数がそれぞれ異なっているため、超音波センサ102は例えば
図4Bに示すように撓むような形状で変形する。
図4Bにおいて、符号42は熱膨張係数の違いによる撓みを示している。
その結果、
図4Bで符号43に示すように、上記内部応力と熱膨張により生じる応力とによって、圧電素子1021と金属振動板1023との間の接着部分、及び、音響整合層1022と金属振動板1023との間の接着部分において、変形と、それに伴う接着剤1024との部分的な剥離が発生する。
【0041】
そして、内部応力の分布又は大きさによっては、この部分的な剥離が発生する前と後で、超音波センサ102の特性(機械的電気的特性)が変化してしまい、超音波の伝搬時間差の温度特性も変化する。更に、内部応力の分布又は大きさによっては、この部分的な剥離が発生する前と後で、超音波センサ102のインピーダンスも変化してしまう。
【0042】
そこで、実施の形態1に係る超音波センサ102では、事前に、応力緩和処理を施すことで上記課題を解決する。実施の形態1では、超音波センサ102に対し、予め熱履歴を加える。
【0043】
ここで、
図5に示すように、超音波センサ102に対して熱履歴を繰り返しかけると、上記の接着部分での変形及び当該変形に伴う接着剤1024との部分的な剥離も繰り返し発生し、徐々に内部応力が緩和される。なお、この際、接着面の一部が剥離するが、導通はしたままの状態である。
そして、内部応力が緩和されるにつれて部分的な剥離がほとんど発生しなくなり、超音波センサ102が繰り返し熱履歴をかけた温度範囲において安定して変形する状態になる。
また、接着不足の部分においても剥離が起こり、安定して変形する状態になる。
【0044】
そして、上記の現象に対し、超音波の伝搬時間差の温度特性に着目すると、
図6に示すように、超音波センサ102に対して熱履歴を繰り返しかけることで、超音波の伝搬時間差の温度特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
また、上記の現象に対し、超音波センサ102のインピーダンス特性に着目すると、超音波センサ102に対して熱履歴を繰り返しかけることで、インピーダンス特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
【0045】
そして、
図7に示すように、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波の伝搬時間差の温度特性の変化は見られなくなる。なお、
図7において、実線が熱衝撃試験前での超音波の伝搬時間差の温度特性を示し、破線が熱衝撃試験後での超音波の伝搬時間差の温度特性を示している。
また、
図8に示すように、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波センサ102のインピーダンス特性についても変化が見られなくなる。なお、
図8において、実線が熱衝撃試験前での超音波センサ102のインピーダンス特性を示し、破線が熱衝撃試験後での超音波センサ102のインピーダンス特性を示している。
【0046】
次に、演算部103の構成例について、
図9を参照しながら説明する。
演算部103は、
図9に示すように、記憶部1031、伝搬時間差計測部1032、温度計測部1033、オフセット取得部1034、オフセット補正部1035、及び、流量算出部1036を備えている。
【0047】
記憶部1031は、演算部103で扱われる各種のデータを記憶する。例えば、記憶部1031は、オフセット取得部1034により取得された超音波の伝搬時間差の温度特性を示すデータを記憶する。
この記憶部1031は、HDD(Hard Disk Drive)、DVD(Digital Versatile Disc)又はメモリ等によって構成される。
【0048】
なお、
図9では、記憶部1031が演算部103の内部に設けられた場合を示した。しかしながら、これに限らず、記憶部1031は演算部103の外部に設けられていてもよい。
【0049】
伝搬時間差計測部1032は、第1の超音波センサ102-1による送受信結果、及び、第2の超音波センサ102-2による送受信結果に基づいて、超音波の伝搬時間差を算出する。
なお、伝搬時間差計測部1032による超音波の伝搬時間差の算出方法については、既存技術を適用可能であり、その説明を省略する。
【0050】
温度計測部1033は、第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2が超音波の送受信を行った際の温度を計測する。
【0051】
オフセット取得部1034は、伝搬時間差計測部1032による計測結果及び温度計測部1033による計測結果に基づいて、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性を取得する。
【0052】
オフセット補正部1035は、伝搬時間差計測部1032により計測結果、温度計測部1033による計測結果、及び、オフセット取得部1034による取得結果に基づいて、伝搬時間差計測部1032により計測された超音波の伝搬時間差のオフセット補正を行う。
この際、オフセット補正部1035は、オフセット取得部1034により取得された超音波の伝搬時間差の温度特性から、温度計測部1033により計測された温度に対応する温度での超音波の伝搬時間差を抽出する。そして、オフセット補正部1035は、伝搬時間差計測部1032により計測された超音波の伝搬時間差から、上記抽出した超音波の伝搬時間差を差し引くことで、オフセット補正を行う。
【0053】
流量算出部1036は、オフセット補正部1035によるオフセット補正後の超音波の伝搬時間差に基づいて、計測対象である流体の流量を算出する。
この流量算出部1036による流量算出動作については、既存技術を適用可能であり、その説明を省略する。
【0054】
次に、実施の形態1における演算部103の動作例について、
図10を参照しながら説明する。
実施の形態1における演算部103の動作例では、
図10に示すように、まず、演算部103は、オフセット補正値を取得する(ステップST1001、オフセット補正値取得動作)。この演算部103によるオフセット補正値取得動作例については、後述する。
【0055】
次いで、演算部103は、オフセット補正値を用いて、計測対象である流体の流量計測を行う(ステップST1002、流量計測動作)。この演算部103による流量計測動作例については、後述する。
【0056】
次に、実施の形態1における演算部103によるオフセット補正値取得動作について、
図11を参照しながら説明する。
実施の形態1における演算部103によるオフセット補正値取得動作例では、
図11に示すように、まず、伝搬時間差計測部1032は、流量が0の場合における第1の超音波センサ102-1による送受信結果、及び、第2の超音波センサ102-2による送受信結果に基づいて、超音波の伝搬時間差を算出する(ステップST1101)。
なお、伝搬時間差計測部1032による超音波の伝搬時間差の算出方法については、既存技術を適用可能であり、その説明を省略する。
【0057】
また、温度計測部1033は、第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2が超音波の送受信を行った際の温度を計測する(ステップST1102)。
【0058】
そして、上記のステップST1101及びステップST1102の処理を、超音波流量計1の使用温度(例えば‐30℃~60℃)において温度を変えながら繰り返し実施する。
【0059】
次いで、オフセット取得部1034は、伝搬時間差計測部1032による計測結果及び温度計測部1033による計測結果に基づいて、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性を取得する(ステップST1103)。
【0060】
その後、記憶部1031は、オフセット取得部1034により取得された超音波の伝搬時間差の温度特性を示すデータを記憶する。
【0061】
このように、実施の形態1における演算部103では、超音波流量計1が実際の計測を行う前に、まず、超音波流量計1の使用温度(例えば-30℃~60℃)において、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性を計測する。
【0062】
次に、実施の形態1における演算部103による流量計測動作について、
図12を参照しながら説明する。
実施の形態1における演算部103による流量計測動作例では、
図12に示すように、まず、伝搬時間差計測部1032は、第1の超音波センサ102-1による送受信結果、及び、第2の超音波センサ102-2による送受信結果に基づいて、超音波の伝搬時間差を算出する(ステップST1201)。
【0063】
また、温度計測部1033は、第1の超音波センサ102-1及び第2の超音波センサ102-2が超音波の送受信を行った際の温度を計測する(ステップST1202)。
【0064】
次いで、オフセット補正部1035は、伝搬時間差計測部1032により計測結果、温度計測部1033による計測結果、及び、オフセット取得部1034による取得結果に基づいて、伝搬時間差計測部1032により計測された超音波の伝搬時間差のオフセット補正を行う(ステップST1203)。
この際、オフセット補正部1035は、オフセット取得部1034により取得された超音波の伝搬時間差の温度特性から、温度計測部1033により計測された温度に対応する温度での超音波の伝搬時間差を抽出する。そして、オフセット補正部1035は、伝搬時間差計測部1032により計測された超音波の伝搬時間差から、上記抽出した超音波の伝搬時間差を差し引くことで、オフセット補正を行う。
【0065】
次いで、流量算出部1036は、オフセット補正部1035によるオフセット補正後の超音波の伝搬時間差に基づいて、計測対象である流体の流量を算出する(ステップST1204)。
この流量算出部1036による流量算出動作については、既存技術を適用可能であり、その説明を省略する。
【0066】
このように、実施の形態1に係る超音波流量計1では、超音波センサ102に対して事前に応力緩和処理を行う。すなわち、超音波センサ102に対し、予め超音波流量計1の使用温度又は熱衝撃試験等の試験温度において、熱履歴を加えることで、その温度範囲における超音波の伝搬時間差の温度特性の繰り返し再現性を向上させる。このように、超音波センサ102に対して繰り返し熱履歴を加えることで、超音波センサ102における超音波の伝搬時間差の温度特性が徐々に変化し、最終的にはその特性が安定する。
その後、実施の形態1に係る超音波流量計1は、超音波流量計1の使用温度において、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性をオフセットとして計測する。
そして、実施の形態1に係る超音波流量計1は、実際の流量計測の際に、計測した超音波の伝搬時間差に対して上記オフセットを用いて補正を行った上で、流量算出を行う。
これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1は、従来に対し、実フィールドで温度変化が激しく繰り返し熱履歴かかるような環境にあっても、オフセット補正に用いる超音波の伝搬時間差の温度特性が変化し難くなるため、誤差が小さく精度がよい超音波流量計1が得られる。
【0067】
以上のように、この実施の形態1によれば、超音波センサ102の製造方法は、圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤1024により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形及び当該変形に伴う当該接着剤1024との部分的な剥離を発生させる応力緩和処理を有する。また、この際、実施の形態1に係る超音波センサ102の製造方法は、応力緩和処理において、超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、熱履歴を加える。これにより、実施の形態1に係る超音波センサ102の製造方法は、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる。
【0068】
また、実施の形態1に係る超音波流量計1では、演算部103は、一対の超音波センサ102による送受信結果に基づいて、超音波の伝搬時間差を計測する伝搬時間差計測部1032と、一対の超音波センサ102が超音波の送受信を行った際の温度を計測する温度計測部1033と、伝搬時間差計測部1032による計測結果及び温度計測部1033による計測結果に基づいて、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性を取得するオフセット取得部1034と、伝搬時間差計測部1032による計測結果、温度計測部1033による計測結果、及び、オフセット取得部1034による取得結果に基づいて、超音波の伝搬時間差のオフセット補正を行うオフセット補正部1035と、オフセット補正部1035によるオフセット補正後の超音波の伝搬時間差に基づいて、流体の流量を算出する流量算出部1036とを有する。これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1は、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態1に係る超音波センサ102の製造方法では、超音波センサ102に対する応力緩和処理として、事前に、超音波センサ102に対して熱履歴を加える処理を行う場合を示した。これに対し、実施の形態2に係る超音波センサ102の製造方法では、超音波センサ102に対する応力緩和処理として、事前に、超音波センサ102を高電圧で駆動する処理を行う場合を示す。
【0070】
実施の形態2では、応力緩和処理として、超音波センサ102を、事前に、高電圧で駆動する。
この際、超音波センサ102に対して、例えば50Vの正弦波を加える。なお、駆動周波数は例えば500kHzとし、例えば30分間駆動させる。
【0071】
なお、高電圧が加えられる超音波センサ102は、超音波流量計1として組み込まれた状態でもよいし、センサ単体でもよい。すなわち、どのような状態であれ、超音波センサ102が使用される前に、超音波センサ102に高電圧が加えられればよい。
【0072】
また、超音波センサ102に加えられる高電圧は、超音波センサ102の駆動電圧から20倍の電圧までの範囲内の電圧とする。すなわち、超音波センサ102の変位は電圧と線形の関係がある。そして、超音波センサ102に加える高電圧を20倍以上にすると、剥離が大きくなりすぎて導通を十分に取れなくなる可能性がある。
【0073】
また、上記では、駆動波形が正弦波である場合を示した。しかしながら、駆動波形はこれに限らず、超音波センサ102を振動させる駆動波形であればよい。例えば、駆動波形は、矩形波、三角波、又は、パルス波でもよい。
【0074】
また、駆動周波数は、超音波センサ102の駆動周波数、或いは、1次共振周波数から2次反共振周波数の前後±5%の周波数とする。
【0075】
また、駆動時間は、1回の超音波の伝搬時間差の温度特性の計測(以下、0流量Δt温度特性計測と称す)において、超音波センサ102が振動する回数を用いて試算する。
例えば、毎秒計測する0流量Δt温度特性計測の試験時間が24時間、毎秒の計測に320の振動を与える場合、超音波センサ102の振動回数は320×24×3600=27648000回となる。そのため、これに相当する高電圧駆動回数を試算する場合、駆動周波数を500kHzとすると、約1分必要となる。したがって、この場合には、駆動時間は1分以上を想定する。
【0076】
上記の条件で、超音波センサ102を高電圧で駆動することで、実フィールドで温度変化が激しく繰り返し熱履歴かかるような環境にあっても、超音波の伝搬時間差の温度特性に再現性を持つ超音波センサ102が得られる。
【0077】
次に、実施の形態2に係る超音波センサ102の効果について説明する。
ここで、超音波センサ102は、圧電素子1021及び金属振動板1023、並びに、音響整合層1022及び金属振動板1023が樹脂材料から成る接着剤1024により接着された構造を有している。すなわち、超音波センサ102は、熱膨張係数が異なる部材が貼り合わされた構造体である。
よって、この超音波センサ102では、上記貼り合わせ状態に起因する内部応力(残留応力)が発生する。
【0078】
そのため、この超音波センサ102に熱履歴が加えられると、圧電素子1021、金属振動板1023及び音響整合層1022はそれぞれ膨張するが、熱膨張係数がそれぞれ異なっているため、超音波センサ102は撓むような形状で変形する。
その結果、上記内部応力と熱膨張により生じる応力とによって、圧電素子1021と金属振動板1023との間の接着部分、及び、音響整合層1022と金属振動板1023との間の接着部分において、変形と、それに伴う接着剤1024との部分的な剥離が発生する。
【0079】
そして、内部応力の分布又は大きさによっては、この部分的な剥離が発生する前と後で、超音波センサ102の特性(機械的電気的特性)が変化してしまい、超音波の伝搬時間差の温度特性も変化する。更に、内部応力の分布又は大きさによっては、この部分的な剥離が発生する前と後で、超音波センサ102のインピーダンスも変化してしまう。
【0080】
これに対し、超音波センサ102に高電圧が加えられても、上記と同様の現象が発生する(
図13B)。
【0081】
そこで、実施の形態2に係る超音波センサ102では、応力緩和処理として、超音波センサ102を、予め高電圧で駆動する。すなわち、超音波センサ102を、本来使用する駆動電圧よりもはるかに大きな電圧(例えば、駆動電圧が3Vの場合には、10V~50V程度)で駆動させる。
【0082】
ここで、
図13に示すように、超音波センサ102に対して高電圧を繰り返しかけると、上記の接着部分での変形及び当該変形に伴う接着剤1024との部分的な剥離も繰り返し発生し、徐々に内部応力が緩和される。なお、この際、接着面の一部が剥離するが、導通はしたままの状態である。
そして、内部応力が緩和されるにつれて部分的な剥離がほとんど発生しなくなり、超音波センサ102が繰り返し高電圧をかけた範囲において安定して変形する状態になる。
また、接着不足の部分においても剥離が起こり、安定して変形する状態になる。
【0083】
そして、上記の現象に対し、超音波の伝搬時間差の温度特性に着目すると、超音波センサ102に対して高電圧を繰り返しかけることで、超音波の伝搬時間差の温度特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
また、上記の現象に対し、超音波センサ102のインピーダンス特性に着目すると、超音波センサ102に対して高電圧を繰り返しかけることで、インピーダンス特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
【0084】
そして、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波の伝搬時間差の温度特性の変化は見られなくなる。
また、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波センサ102のインピーダンス特性についても変化が見られなくなる。
【0085】
このように、実施の形態2に係る超音波流量計1では、超音波センサ102に対して事前に応力緩和処理を行う。すなわち、超音波センサ102に対し、予め超音波流量計1の使用温度又は熱衝撃試験等の試験温度において、高電圧(超音波振動)を加えることで、その温度範囲における超音波の伝搬時間差の温度特性の繰り返し再現性を向上させる。この際、超音波センサ102に対し、超音波センサ102の駆動周波数近傍の周波数で高電圧(駆動電圧より大きい電圧)で振動させることで、超音波センサ102における超音波の伝搬時間差の温度特性が徐々に変化し、最終的にはその特性が安定する。
その後、実施の形態1に係る超音波流量計1は、超音波流量計1の使用温度において、流量が0の場合での超音波の伝搬時間差の温度特性をオフセットとして計測する。
そして、実施の形態1に係る超音波流量計1は、実際の流量計測の際に、計測した超音波の伝搬時間差に対して上記オフセットを用いて補正を行った上で、流量算出を行う。
これにより、実施の形態1に係る超音波流量計1は、従来に対し、実フィールドで温度変化が激しく繰り返し熱履歴かかるような環境にあっても、オフセット補正に用いる超音波の伝搬時間差の温度特性が変化し難くなるため、誤差が小さく精度がよい超音波流量計1が得られる。
【0086】
以上のように、この実施の形態2に係る超音波センサ102の製造方法は、応力緩和処理において、超音波センサ102を、当該超音波センサ102の運用前に、高電圧で駆動させる。これにより、実施の形態2に係る超音波センサ102の製造方法は、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる。
【0087】
実施の形態3.
実施の形態1,2に係る超音波センサ102の製造方法では、応力緩和処理として、圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤1024により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形及び当該変形に伴う当該接着剤1024との部分的な剥離を発生させる場合を示した。
これに対し、実施の形態3に係る超音波センサ102の製造方法では、応力緩和処理として、圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤1024により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形を発生させる場合を示す。すなわち、実施の形態3に係る超音波センサ102の製造方法では、応力緩和処理として、上記接着剤1024との部分的な剥離は発生させず、上記接着部分での変形のみを発生させる。
【0088】
次に、実施の形態3に係る超音波センサ102の効果について説明する。
ここでは、応力緩和処理として、事前に、超音波センサ102に対して熱履歴を加える処理を行う場合を例に説明を行うが、事前に、超音波センサ102を高電圧で駆動する処理を行う場合についても同様である。
【0089】
ここで、超音波センサ102は、圧電素子1021及び金属振動板1023、並びに、音響整合層1022及び金属振動板1023が樹脂材料から成る接着剤1024により接着された構造を有している。すなわち、超音波センサ102は、熱膨張係数が異なる部材が貼り合わされた構造体である。
よって、
図14Aで符号141に示すように、この超音波センサ102では、各部材の熱膨張差に起因する内部応力(残留応力)が発生する。
【0090】
ここで、例えば、各部材を貼り合わせる際の温度を90℃とした場合、25℃の際に圧電素子1021と金属振動板1023にかかる応力は、解析結果から、ミーゼス応力で190MPaとなる。これは、熱による曲げ応力であり、超音波センサ102の構成部材の違いにより発生する。
図14Bに示すように、圧電素子1021と金属振動板1023との間の貼り合わせ面を考えると、特に
図14Aに示す中心部と圧電素子1021の端にかかる応力が大きくなる。なお、
図14Bにおいて、符号142は、応力を示している。
【0091】
そして、このような超音波センサ102に対し、応力緩和処理として、超音波センサ102に対し、事前に、接着部分での変形を発生させる。
【0092】
例えば、超音波センサ102に対し、例えば-30℃~60℃の繰り返し熱履歴を加えると、圧電素子1021と金属振動板1023との間の接着部分(接着剤1024)に90MPa~350MPaの大きな応力が繰り返しかかることになる。すなわち、温度を-30℃とした場合には被着部に350MPaの応力がかかり、温度を60℃とした場合には被着部に90MPaの応力がかかる。そして、熱による曲げ応力が繰り返し発生することによって、接着剤1024及びその周囲の被着部で微小な変形が発生する。それに伴い、
図14Cに示すように、接着部分の応力緩和が発生する。なお、
図14Cにおいて、符号143は、繰り返し熱履歴を示している。
【0093】
ここで、この微小な変形と応力緩和が発生する前と後では、超音波センサ102の特性(機械的電気的特性)が異なり、超音波の伝搬時間差の温度特性も変化する。更に、この微小な変形と応力緩和が発生する前と後では、超音波センサ102のインピーダンスも変化する。一方で、予め決められた範囲での温度変化を繰り返すと、上記変形により圧電素子1021と金属振動板1023との間の接着部分にかかる熱による曲げ応力は発生しにくくなる。そして、内部応力が緩和されるにつれて微小な変形がほとんど発生しなくなり、超音波センサ102が繰り返し熱履歴をかけた温度範囲において安定して変形する状態になる。
【0094】
そして、上記の現象に対し、超音波の伝搬時間差の温度特性に着目すると、超音波センサ102に対して熱履歴を繰り返しかけることで、超音波の伝搬時間差の温度特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
また、上記の現象に対し、超音波センサ102のインピーダンス特性に着目すると、超音波センサ102に対して熱履歴を繰り返しかけることで、インピーダンス特性が徐々に変化し、その特性が安定(再現性が向上)していく。
【0095】
そして、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波の伝搬時間差の温度特性の変化は見られなくなる。
また、安定した状態の超音波センサ102では、熱履歴が加えられても、超音波センサ102のインピーダンス特性についても変化が見られなくなる。
【0096】
以上のように、この実施の形態3によれば、超音波センサ102の製造方法は、圧電素子1021及び金属振動板1023並びに音響整合層1022及び当該金属振動板1023が接着剤1024により接着された超音波センサ102に対し、当該超音波センサ102の運用前に、当該接着部分での変形を発生させる応力緩和処理を有する。これにより、実施の形態3に係る超音波センサ102の製造方法は、従来に対し、計測時に熱履歴が加えられる場合であっても、計測精度の低下を抑制可能となる。
【0097】
なお、各実施の形態の自由な組合わせ、或いは各実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 超音波流量計
101 計測管
102 超音波センサ
102-1 第1の超音波センサ
102-2 第2の超音波センサ
103 演算部
1021 圧電素子
1022 音響整合層
1023 金属振動板
1024 接着剤
1031 記憶部
1032 伝搬時間差計測部
1033 温度計測部
1034 オフセット取得部
1035 オフセット補正部
1036 流量算出部