IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立マクセル株式会社の特許一覧

特開2024-458ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法
<>
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図1
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図2
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図3
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図4
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図5
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図6
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図7
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図8
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図9
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図10
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図11
  • 特開-ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000458
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ダイシングテープおよびダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20231225BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20231225BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231225BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20231225BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20231225BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20231225BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/20
C09J7/38
C09J133/00
C09J4/00
C09J11/04
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099257
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】増田 晃良
(72)【発明者】
【氏名】古川 慧
(72)【発明者】
【氏名】角田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】田中 理恵
【テーマコード(参考)】
4F071
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA32X
4F071AA33X
4F071AA54
4F071AA84
4F071AA88
4F071AF15Y
4F071AF57Y
4F071AF61Y
4F071AH12
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J004AA01
4J004AA10
4J004AB06
4J004CA03
4J004CA06
4J004CB03
4J004CC02
4J004FA08
4J040DF031
4J040FA132
4J040JA09
4J040JB07
4J040KA13
4J040KA16
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA08
4J040NA20
5F063AA05
5F063AA18
5F063CB07
5F063CB24
5F063CC26
5F063DD64
5F063DD69
5F063DD70
5F063DD75
5F063DD85
5F063DD93
5F063DG04
5F063DG21
5F063DG32
5F063EE07
5F063EE08
5F063EE13
5F063EE14
5F063EE18
5F063EE31
5F063EE43
5F063EE44
5F063EE48
(57)【要約】
【課題】常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることができ、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度に、カーフ幅を十分に保持することができるダイシングテープ、および該ダイシングテープを使用する半導体チップならびに半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、前記基材フィルムは、MD方向において、9MPa以上18MPa以下の23℃における100%延伸時の引張強度、50%以上の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および20%以上の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率を有し、前記粘着剤層は、0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、MD方向において、
(1)9MPa以上18MPa以下の23℃における100%延伸時の引張強度、
(2)50%以上の、式
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A)]×100 (1)
(式中、Aは、基材フィルムを23℃において100%延伸した時の引張荷重であり、Bは、基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後の引張荷重である。)
で表される、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および
(3)20%以上の、式
100%延伸100秒保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100 (2)
(式中、Cは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した時の該標線の間隔であり、Dは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後に、テンションフリーの状態で80℃の温度雰囲気で60秒間加熱して収縮させた後の該標線の間隔である。)
で表される、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率、
を有し、
前記粘着剤層は、
0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する、ダイシングテープ。
【請求項2】
前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである、
請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
前記粘着剤層は、0.35K・cm/W以下の熱抵抗を有する、請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
前記粘着剤層は、
(1)光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(2)前記(1)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
(3)官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、および、
(4)前記(3)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
から成る群から選ばれるいずれか一つの活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する、
請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つのダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程で使用することのできるダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、ダイシングテープ、又は該ダイシングテープとダイボンドフィルムとが一体化されたダイシングダイボンドフィルムが使用される。
【0003】
ダイシングテープは、基材フィルム上に粘着剤層が設けられた構造を有しており、半導体ウエハのダイシング時にダイシングにより個片化された半導体チップが飛散しないよう固定保持する用途に用いられる。個片化された半導体チップは、その後、ダイシングテープの粘着剤層から剥離され、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0004】
ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層上にダイボンドフィルム(以下、「接着剤層」と称する場合がある)が剥離可能に設けられたものである。半導体装置の製造においては、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハが貼合される。半導体ウエハ及びダイボンドフィルムは、その後、分割され、ダイシングテープの粘着剤層から剥離(ピックアップ)され、ダイボンドフィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0005】
半導体ウエハを分割する方法として、従来、高速回転するダイシングブレードによるフルカット切断方法が行われていた。しかしながら、近年では、半導体ウエハが薄膜化し、切断時の欠けを防止することを目的として、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)と呼ばれる方法が行われている。
【0006】
この方法では、例えば、まず、半導体ウエハのダイシング予定ラインにレーザー光を照射して、半導体ウエハを完全に切断せずに、半導体ウエハの表面から所定の深さの改質領域を形成し、その後、研削量を適宜調整しながら裏面研削を行うことにより、複数の半導体チップに個片化する。その後、個片化された半導体チップをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、低温下(例えば、-30℃~0℃)にてダイシングテープをエキスパンド(以下、「クールエキスパンド」と称する場合がある)することにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルムを個々の半導体チップの形状に従い割断する。次いで、ダイシングテープを常温付近でエキスパンド(以下、「常温エキスパンド」と称する場合がある)して隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(以下、「カーフ幅」と称する場合がある)を広げ、最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離することで、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
【0007】
しかしながら、上記SDBGによる方法では、使用するダイシングテープの性能によっては、上記常温エキスパンド工程のエキスパンド量の上昇に伴い、ダイシングテープのエキスパンドリングで突き上げられた部分が伸び、常温エキスパンド後に拡張テーブルを降下させてエキスパンド状態を解除した際に当該部分に弛みが生じてしまい、弛みを放置すると、隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(カーフ幅)が狭められたり、不均一になったりして、常温エキスパンド直後のカーフ幅を十分に維持できないという問題が生じる場合があった。カーフ幅が十分に維持されない場合、後のピックアップ工程において、ダイシングテープの粘着剤層からダイボンドフィルム付き半導体チップを適切にピックアップできないことがあり、例えば、半導体チップのピックアップ時に、当該半導体チップとそれに隣接する半導体チップおいてチップ間接触に起因する損傷や接着剤層同士の接触に起因する再癒着等が生じ、ピックアップ歩留まりが低下することがある。
【0008】
そこで、上記問題を解決する方法として、エキスパンドによってダイボンドフィルム(接着剤層)を割断し、エキスパンド状態を解除した後に、ダイシングテープの弛んだ部分を加熱することにより収縮させ、隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(カーフ幅)を保持する方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【0009】
特許文献1では、ダイシングテープのたるみを取り除くことが可能で、半導体チップ同士の接触を防止できるダイシングテープを提供することを目的に、ダイボンドフィルムと、ダイボンドフィルム上に配置された積層部及び積層部の周辺に配置された周辺部を備えるダイシングテープとを備え、周辺部の130℃~160℃における収縮率が0.1%以上であるダイシング・ダイボンドフィルムが開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、たるみを取り除くことが可能で、半導体素子同士の接触を防止できるダイシングシートを提供することを目的に、100℃で1分加熱することにより収縮し、加熱前のMD方向の第1長さ100%に対して加熱後のMD方向の第2長さは95%以下であるダイシングシートが開示されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、熱収縮率が低く、テープの方向によらず均一に収縮することで、シワが入らず、またチップ位置がずれることなく、カーフ幅が均一に拡張する半導体加工用テープを提供することを目的に、100℃において10秒間加熱した時のテープの長手方向および幅方向の双方の熱収縮率が0%以上20%以上であり、かつ、長手方向および幅方向の熱収縮率のいずれかが0.1%以上であるとき、長手方向の熱収縮率/幅方向の熱収縮率=0.01以上100以下であることを特徴とする半導体加工用テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-211081号公報
【特許文献2】特開2016-115775号公報
【特許文献3】国際公開第2016/152957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、常温エキスパンドにより生じたダイシングテープの弛みを加熱収縮(以下、「ヒートシュリンク」と称する場合がある)により除去する方法としては、一般に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域よりも外側部分の弛みが生じたダイシングテープに対して、一対の熱風吹き出しノズルを周回させることによって、該ダイシングテープの粘着剤層面側から熱風を当てて加熱し収縮させる方法が用いられる。このヒートシュリンク工程を用いた方法により、ダイシングテープの外側部分より内側の領域(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域)は、所定程度の張力が作用する緊張状態に至るので、常温エキスパンドした際に形成、確保されていた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を保持することができる。そうすると、後のピックアップ工程において、ダイシングテープの粘着剤層から、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを隣接する半導体チップと相互干渉させることなく剥離することができ、ダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く得ることができる。
【0014】
上記特許文献1に記載にされたダイシングテープでは、130℃~160℃における収縮率が0.1%以上となっており、たるみの生じたダイシングテープの周辺部に対して収縮を生じさせるためには比較的高い加熱温度と長い加熱時間が必要となっている。そのため、加熱ドライヤー等の熱風が半導体ウエハ外周近傍のダイボンドフィルム(接着剤層)まで影響を及ぼし、ダイボンドフィルムの一部が融解して、割断されたダイボンドフィルム付き半導体チップにおいて、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士の接触に起因する再癒着や半導体チップのエッジ損傷等が生じ、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下するおそれがあった。
【0015】
また、上記特許文献2に記載されたダイシングシートでは、100℃で1分加熱することにより収縮し、加熱前のMD方向の第1長さ100%に対して加熱後のMD方向の第2長さは95%以下となっている。さらに、上記特許文献3に記載にされた半導体加工用テープでは、100℃において10秒間加
熱した時のテープの長手方向および幅方向の双方の熱収縮率が0%以上20%以下となっている。しかしながら、熱風吹き出しノズルを周回させて加熱した場合、ダイシングシートや半導体加工用テープの表面付近の温度は徐々に上昇していくため、ダイシングテープや半導体加工用テープの周辺部の全ての箇所のたるみを取り除くためには時間がかかるという問題があった。また、カーフ幅の保持性においても、十分であるとは言えない場合があった。
【0016】
そこで、本発明は、ダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く製造する上で、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることを可能とし、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度に、カーフ幅を十分に保持することができるダイシングテープを提供することを目的とする。また、別の目的とするところは、該ダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態を以下に記載する。
[形態1]
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、MD方向において、
(1)9MPa以上18MPa以下の23℃における100%延伸時の引張強度、
(2)50%以上の、式
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A)]×100 (1)
(式中、Aは、基材フィルムを23℃において100%延伸した時の引張荷重であり、Bは、基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後の引張荷重である。)
で表される、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および
(3)20%以上の、式
100%延伸100秒保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100 (2)
(式中、Cは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した時の該標線の間隔であり、Dは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後に、テンションフリーの状態で80℃の温度雰囲気で60秒間加熱して収縮させた後の該標線の間隔である。)
で表される、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率、
を有し、
前記粘着剤層は、
0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する、ダイシングテープ。
【0018】
[形態2]
前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである、形態1に記載のダイシングテープ。
【0019】
[形態3]
前記粘着剤層は、0.35K・cm/W以下の熱抵抗を有する、形態1又は2に記載のダイシングテープ。
【0020】
[形態4]
前記粘着剤層は、
(1)光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(2)前記(1)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
(3)官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、および、
(4)前記(3)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
から成る群から選ばれるいずれか一つの活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する、形態1~3のいずれか一つに記載のダイシングテープ。
【0021】
[形態5]
形態1~4のいずれか一つのダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、ダイシングテープを従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが可能となるため、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、広げたカーフ幅を十分に保持することができ、その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性に優れたダイシングテープが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルムの構成の一例を示した断面図である。
図2】本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
図3】本実施の形態が適用されるダイシングテープをダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
図4】ダイシングテープの製造方法について説明したフローチャートである。
図5】半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。
図6】ダイシングダイボンドフィルムの外縁部にリングフレーム(ウエハリング)、ダイボンドフィルム中心部に個片化された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した斜視図である。
図7】(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
図8】(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の割断された薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
図9】本実施の形態が適用されるダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図10】本実施の形態が適用されるダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図11】エキスパンド後における半導体チップ間の間隔(カーフ幅)の測定方法を説明するための平面図である。
図12図11における半導体ウエハの中心部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
<ダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムの構成>
図1の(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルム1の構成の一例を示した断面図である。本実施の形態のダイシングテープの基材フィルム1は単一の樹脂組成物の単層(図1の(a)1-A参照)であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体(図1の(b)1-B参照)であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体(図1の(c)1-C、(d)1-D参照)であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
図2は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。図2に示すように、ダイシングテープ10は、基材フィルム1の第1面の上に粘着剤層2を備えた構成を有している。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)には、離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。
【0027】
基材フィルム1は、MD方向において、(1)9MPa以上18MPa以下の範囲の23℃における100%延伸時の引張強度、(2)50%以上の23℃における100%延伸100秒保持後の応力緩和率、および(3)20%以上の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率、を有する。
【0028】
本明細書における「MD(Machine Direction)方向」とは、基材フィルム1の製膜時における流れ(長さ)方向を意味する。
【0029】
また、本発明における「100%延伸」とは、基材フィルム1を延伸前の長さの2倍の長さになるまで延伸することである。具体的には、例えば、引張圧縮試験機を用いて、基材フィルム1の試験片の長手(MD)方向の両端をチャック間の初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、該チャック間距離が100mmとなるまで基材フィルム1の試験片を引っ張り、延伸することを意味する。
【0030】
さらに、本発明における「100%延伸100秒間保持後の応力緩和率」とは、23℃の温度条件で基材フィルム1を100%延伸した時点の引張荷重(応力)値に対する、100%延伸時から、該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重(応力)値までの減少量の割合である。すなわち、基材フィルム1のMD方向において、23℃の温度条件で100%延伸した時の引張荷重(応力)値をA、23℃の温度条件で100%延伸し、該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重(応力)値をBとした時に、下記式
【0031】
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A]×100
【0032】
から算出される値のことを言う。基材フィルム1が延伸される方向は、MD方向であり、基材フィルム1の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は50%以上であればよい。なお、本明細書において、上記「23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率」を、単に「応力緩和率」と称する場合がある。
【0033】
またさらに、本発明における「100%延伸100秒間保持後の熱収縮率」とは、23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した基材フィルム1を、テンションフリーの状態にして80℃で加熱した際の、加熱前の基材フィルム1のある長さ部分に対する、加熱により収縮した長さの割合である。すなわち、基材フィルム1のMD方向において、所定の間隔で2本の標線が付された基材フィルム1を23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した時の該標線の間隔をC、所定の間隔で2本の標線が付された基材フィルム1を23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後に、テンションフリーの状態で80℃の温度雰囲気で60秒間加熱して収縮させた後の該標線の間隔をDとした時に、下記式
【0034】
100%延伸100秒間保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100
【0035】
から算出される値のことを言う。基材フィルム1が延伸される方向は、MD方向であり、基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率は20%以上であればよい。なお、本明細書において、上記「80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率」を、単に「熱収縮率」と称する場合がある。
【0036】
本発明のダイシングテープ10は、上記基材フィルム1上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2を備えるが、上記粘着剤層2は、0.91K・cm/W以下の熱抵抗を有する。
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、例えば、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する性質を有する。
【0037】
本発明における粘着剤層2の「熱抵抗」とは、ダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さをL(μm)、粘着剤層2を総厚さが1mmとなるように積層した粘着剤層のみから成る積層体を作製し、京都電子工業社製の迅速熱伝導率計“QTM-500(型式)”)を用いてホットワイヤー法により測定した該積層体の熱伝導率をλ(W/m・K)とした時に、下記式
【0038】
熱抵抗(K・cm/W)=(L/100)/λ
【0039】
から算出される値のことを言う。上記粘着剤層2の熱抵抗は、その値が小さければ小さい程、粘着剤層2の熱伝導性がより良好であることを意味する。すなわち、上述したようにダイシングテープ10のヒートシュリンク工程においては、弛みが生じたダイシングテープ10の粘着剤層2面側から熱風を当てて加熱し収縮させる方法が用いられるが、上記粘着剤層2の熱抵抗の値が小さければ小さい程、加えられた熱を粘着剤層2から基材フィルム1に、より効率的に伝えることができるため、短時間で基材フィルム1を均一かつ十分に加熱収縮させるのに好都合である。
【0040】
かかる構成のダイシングテープ10は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングテープ10の粘着剤層2上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着剤層)を介して貼り付けて保持(仮固定)し、クールエキスパンドにより、ダイボンドフィルムを個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断した後、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程により半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張し、その後のピックアップ工程において、ダイシングテープの下面側から治具を突き上げることにより、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム付き半導体チップは、該ダイボンドフィルムにより、リードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0041】
図3は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10をダイボンドフィルム(接着剤層)3と貼り合わせて一体化した構成、いわゆるダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。図3に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層された構成を有している。
【0042】
かかる構成のダイシングダイボンドフィルム20は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを貼り付けて保持(接着)し、クールエキスパンドにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3を個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断し、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得る。次いで、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張した後、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム(接着フィルム)3付き半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着フィルム)3を介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)およびダイボンドフィルム3の表面(粘着剤層2に対向する面とは反対側の面)には、それぞれ離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えて使用の際に適宜剥離しても良い。
【0043】
<ダイシングテープ>
(基材フィルム)
本発明のダイシングテープ10における第一の構成要件を備える基材フィルム1について、以下説明する。
【0044】
[基材フィルムの引張強度]
上記基材フィルム1は、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲である。
【0045】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa未満である場合、ダイシングテープ10にエキスパンドにより外部応力を加えてもダイボンドフィルム3に十分に伝わらないため、クールエキスパンド工程においてダイボンドフィルム3が良好に割断されないおそれがある。また、上記引張強度が過度に小さいと、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができないおそれや、ダイシングテープ10が軟質となり、取扱が困難となるおそれがある。
【0046】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が18MPaを超える場合、上記引張強度が過度に大きいと、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。また、基材フィルム1の剛性が大きくなり、ピックアップ性が劣るおそれがある。
【0047】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にあることで、ダイシングテープ10は、良好なエキスパンド性を有する。すなわち、クールエキスパンド工程において、後述する活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができる。エキスパンド性の観点から、上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度は、11MPa以上16MPa以下の範囲であることがより好ましい。
【0048】
[基材フィルムの応力緩和率]
上記基材フィルム1は、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にある一方で、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は50%以上となっている。これにより、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に基材フィルム1に発生した応力が十分に低い値まで早期に減少するため、上記の適切な範囲の引張強度により、常温エキスパンド時に十分に広げられた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)に該当するダイシングテープのみの部分(ダイボンドフィルム付き半導体チップが存在しない部分)において、エキスパンド状態が解除された際に弾性により縮もうとする力が低減、緩和される。その結果、次工程に移る時や保管中にエキスパンド状態が解除されることがあっても、カーフ幅は多少の縮みは発生するものの、元の間隔から過度に縮むことはなく、比較的、保持されやすい。また、チップに付着した接着剤層同士が接触することも防止しやすい。カーフ幅の保持性の観点から、上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率は、55%以上が好ましい。
【0049】
上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率の上限値については、基材フィルム1が適度な剛性を有し、複数の個片化された半導体チップを安定的にダイシングダイボンドフィルム20に貼り付けて積層できるようにする観点、および加熱した際の引っ張り(延伸)に対する一定の復元力を確保する観点から、70%であることが好ましく、65%であることがより好ましい。
【0050】
[基材フィルムの熱収縮率]
さらに、上記基材フィルム1は、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率が20%以上となっている。これにより、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分に生じた弛みに対して、熱風を吹き付けることで、その弛みを解消・除去しやすくすることができる。その結果、ダイシングテープ10の外側部分より内側の領域(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域)は、所定程度の張力が作用する緊張状態に至るので、常温エキスパンドした際に形成、確保されていた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を保持することができる。
【0051】
上記基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率の上限値については、上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率とのバランスの観点から、35%であることが好ましく、30%であることがより好ましい。
【0052】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物]
上記基材フィルム1は、上記特性、すなわち、引張強度、応力緩和率および熱収縮率を同時に満たすものであればその材質や形態は特に限定されないが、好ましい一実施形態として、具体的には、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)(以下、単に「アイオノマーから成る樹脂」あるいは「アイオノマー」と称する場合がある)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムが挙げられる。上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、該不飽和カルボン酸が有するカルボキシル基の少なくとも一部が、金属(イオン)で中和された熱可塑性架橋樹脂であり、熱可塑性非架橋樹脂であるポリアミド樹脂(PA)と比較して、樹脂フィルム化した場合、延伸に対する加熱時の復元力が大きく、常温エキスパンド工程により延伸された状態に熱を加えた際に、エントロピー弾性が強く働き、その収縮応力は大きいものとなる。したがって、常温エキスパンド工程後に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分のダイシングテープ10に生じた弛みを加熱収縮によって除去し、ダイシングテープ10をその収縮応力により緊張させて、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を安定に保持する点で優れる。その一方で、常温においては、アイオノマー中の網目構造を持たない部分に起因する適度な塑性変形のし易さ、すなわち適度な応力緩和性も持ち合わせる。したがって、(1)クールエキスパンド工程後、一度エキスパンド状態が解除され、常温に戻された時、(2)常温エキスパンド工程直後、(3)その後のピックアップ工程、マウント工程等に移行する時や保管する時等において、ダイシングテープ10が収縮しにくい傾向があるため、カーフ幅の縮小や半導体チップに付着した接着剤層同士が接触することを防止できる点で優れる。これに対し、熱可塑性非架橋樹脂であるポリアミド樹脂(PA)は、熱可塑性架橋樹脂であるアイオノマーと比較して、樹脂フィルム化した場合、延伸に対する復元力が小さいが、引張強度は大きいものとなる。したがって、上記アイオノマーから成る樹脂に混合して樹脂フィルム化した場合、エキスパンド工程において加えられた外部応力の伝達が良好で、ダイボンドフィルム3の割断性やダイシングテープ10のカーフ幅の拡張性をより向上させる点で優れる。また、加熱収縮性を維持しながら適度な耐熱性も付与できるので、ヒートシュリンク工程において加熱した際に、ダイシングテープ10が必要以上に熱変形することも抑制できる。したがって、加熱収縮後にダイシングテープ10において、熱シワのような変形が低減された均一な緊張状態を実現でき、カーフ幅のバラツキを抑制できる点でも優れる。
【0053】
基材フィルム1の材質として、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とを含む混合樹脂を用いた場合、基材フィルム1の物性は、加熱収縮性と応力緩和性とをバランス良く持ち合わせるとともに、その両特性を維持したまま、適度な引張強度も併せ持ったものとなる。これらの樹脂組成物を用いて製膜された樹脂フィルムを基材フィルム1として好適に供することができる。
【0054】
上記基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との合計量は、上記の基材フィルム1の引張強度、応力緩和率および熱収縮率が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、少なくとも65質量%以上の割合で占めることが好ましい。より好ましくは75質量、更に好ましくは85質量%であり、特に好ましくは、その割合の上限値となる100質量%である。
【0055】
このような構成の基材フィルム1を用いたダイシングテープ10は、その粘着剤層2上にダイボンドフィルム3が密着された形態において、半導体装置の製造工程のクールエキスパンド工程さらには常温エキスパンド工程で使用するのに好適である。すなわち、クールエキスパンド工程により、すでに個片化された半導体チップ個々の形状に従い、ダイボンドフィルムを良好に割断させて、所定のサイズの個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップを歩留まり良く得るのに好適である。さらに、常温エキスパンド工程においても、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保する上で必要な延伸性を維持する。
【0056】
[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)]
本実施の形態の基材フィルム1において、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のカルボキシル基の一部、または全てが金属(イオン)で中和されたものである。
【0057】
上記アイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸アルキルエステルとが共重合した少なくとも三元の共重合体であり、さらに第4の共重合成分が共重合した四元以上の多元共重合体であってもよい。なお、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体は、一種単独で用いてもよく、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体を併用してもよい。
【0058】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数が4~8の不飽和カルボン酸等が挙げられる。特に、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0059】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体を構成する不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル(アクリル酸2-メチル-プロピル)、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル(メタアクリル酸2-メチル-プロピル)、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のアルキル部位の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、アルキル部位の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。ダイシングテープ10のエキスパンド時におけるネッキング現象の抑制を含めた均一拡張性の観点から、特に、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル(アクリル酸2-メチル-プロピル)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル(メタアクリル酸2-メチル-プロピル)等が好ましい。
【0060】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体が四元以上の多元共重合体である場合、前記三元共重合体を構成するエチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸アルキルエステル以外に、多元共重合体を形成する第4の共重合成分を含んでもよい。第4の共重合成分としては、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0061】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、三元共重合体、四元共重合体のいずれでもよい。中でも、工業的に入手可能な点で、三元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、より好ましくは三元ランダム共重合体である。
【0062】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の具体例としては、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸2-メチル-プロピル共重合体、エチレン・メタクリル酸・メタクリル酸エチル等の三元共重合体が挙げられる。また、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体として上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレルシリーズ(登録商標)等を使用することができる。
【0063】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体中における、不飽和カルボン酸エステルの共重合比(質量比)は、1質量%~20質量%の範囲であることが好ましく、エキスパンド工程における延伸性、および耐熱性(ブロッキング、融着)の観点から、5質量%~15質量%の範囲であることがより好ましい。
【0064】
本実施の形態の基材フィルム1において、樹脂(IO)として用いるアイオノマーは、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体に含まれるカルボキシル基が金属イオンによって任意の割合で架橋(中和)されたものが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。これら金属イオンの中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
【0065】
上記アイオノマーにおけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の中和度は、10モル%以上85モル%以下の範囲であることが好ましく、15モル%以上82モル%以下の範囲であることがより好ましい。前記中和度を10モル%以上とすることで、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハの割断性をより向上することができ、85モル%以下とすることで、フィルムの製膜性をより良好とすることができる。なお、中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の有する酸基、特にカルボキシル基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)である。
【0066】
上記アイオノマーから成る樹脂(IO)は、約85~100℃程度の融点を有するが、該アイオノマーから成る樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることが好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることがより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下の範囲であることが更に好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、基材フィルム1としての製膜性が良好となる。なお、MFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0067】
本実施の形態の基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、上述したエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の他に、後述するポリアミド樹脂(PA)を更に含む。基材フィルム1において、上述した引張強度、応力緩和率および熱収縮率の物性をバランス良く安定して発現させる観点から、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)は、特に限定されないが、72:28~95:5の範囲であることが好ましい。より好ましくは74:26~92:8の範囲、更に好ましくは80:20~90:10の範囲である。なお、本明細書の数値範囲の上限、および下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。アイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を上記範囲となるように混合した樹脂組成物により基材フィルム1を構成することで、該基材フィルム1の耐熱性を向上させることができるのみならず、低温下(例えば、-15℃)において伸張した際の引張応力をも増大させることができ、該基材フィルム1を用いたダイシングテープ10に対して、クールエキスパンド工程においては、ダイボンドフィルム3付き半導体ウエハを歩留まり良く個片化し得る良好な割断力を付与でき、さらには常温エキスパンド工程においては、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保し得る良好な引張強度、延伸性および応力緩和性を維持でき、ヒートシュリンク工程においては、拡張された該カーフ幅を維持し得る良好な熱収縮性を付与できる。
【0068】
[ポリアミド樹脂(PA)]
上記ポリアミド樹脂(PA)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、あるいは前記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合等が挙げられる。
【0069】
上記ポリアミド樹脂(PA)は、市販品を使用することもできる。具体的には、ナイロン4(融点268℃)、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン46(融点240℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン610(融点222℃)、ナイロン612(融点215℃)、ナイロン6T(融点260℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点175℃)、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610など)、ナイロンMXD6(融点237℃)、ナイロン46等が挙げられる。これらポリアミドの中でも、基材フィルム1としての製膜性および機械的特性の観点から、ナイロン6やナイロン6/12が好ましい。
【0070】
上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、特に限定されないが、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と前記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が72:28~95:5の範囲となる量であることが好ましい。上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲未満の場合、基材フィルム1のエキスパンド時の引張強度の増大の効果が不十分となるおそれがある。一方、上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲を超える場合、基材フィルム1の樹脂組成物によっては安定な製膜が困難となるおそれや、ヒートシュリンク工程における熱収縮性が不十分となるおそれがある。また、基材フィルム1の柔軟性が損なわれ、常温エキスパンド工程における延伸性が維持できないおそれや、ダイボンドフィルム3付き半導体チップをピックアップする際に、半導体チップの割れ等によるピックアップ不良が発生するおそれがある。上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が74:26~92:8の範囲となる量であることがより好ましく、80:20~90:10の範囲となる量であることが更に好ましい。
【0071】
なお、基材フィルム1が複数層から成る積層体である場合、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率とは、各層におけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率と、基材フィルム1(積層体)全体における各層の質量比率とから計算される基材フィルム1(積層体)全体における値を意味する。
【0072】
[その他の成分]
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤が添加されてもよい。上記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体等のエチレン共重合体、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体やポリエーテルエステルアミドを挙げることができる。このようなその他の樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る樹脂熱可塑性架橋(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば20質量部の割合で配合することができる。また、上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材等を挙げることができる。このような各種添加剤は、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば5質量部の割合で配合することができる。
【0073】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物のビカット軟化点]
上記基材フィルム1が単一の樹脂組成物の単層あるいは同一樹脂組成物の複数層から成る積層体により構成される場合、該樹脂組成物のビカット軟化点は、特に限定されないが、熱収縮性の観点からは、57℃以上80℃未満の範囲であることが好ましい。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点が上記範囲にあることで、常温エキスパンド時に延伸された基材フィルム1は、ヒ-トシュリンク工程において、例えば、弛み部分の表面温度が約80℃となるように熱風を吹きかけられた際に、エントロピー弾性が強く働き、延伸・配向された分子が元の状態に戻りやすくなり、十分な熱収縮性を示すことが容易となる。その結果、ダイシングテープ10の弛みを解消してカーフ幅を保持することが容易となる。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点は、より好ましくは60℃以上75℃以下の範囲であり、更に好ましくは61℃以上70℃以下の範囲である。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点が57℃未満である場合には、特にその値が過度に低いと、基材フィルム製膜時やダイシングテープ製造時にブロッキングを起こすおそれがある。ヒートシュリンク工程において、加熱の際に樹脂が過剰に軟化し、流動化してしまうため、ダイシングテープ10が必要以上に変形してしまうおそれがある。基材フィルム1の上記樹脂生物のビカット軟化点が80℃以上である場合には、特にその値が過度に高いと、常温エキスパンド時に延伸された基材フィルム1は、例えば、弛み部分の表面温度が約80℃となるように熱風を吹きかけられた際に、延伸・配向された分子が元の状態に戻りにくくなり、ダイシングテープ10の弛みが十分に解消されず、カーフ幅を保持することが困難となるおそれがある。なお、基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点は、例えばJIS K7206に準拠した方法で測定することができる。
【0074】
上記基材フィルム1が異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体により構成される場合、熱収縮性の観点からは、各層を構成するいずれの樹脂組成物もそのビカット軟化点は57℃以上80℃未満の範囲であることが好ましいが、ビカット軟化点が57℃以上80℃未満である樹脂組成物から構成される層の質量が、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、少なくとも65質量%以上の割合で占めていればよく、残りの35質量%以下の質量割合を占める層の樹脂組成物のビカット軟化点は、57℃未満あるいは80℃以上であってもよい。例えば、残りの35質量%以下の質量割合を占める層の樹脂組成物のビカット軟化点は、40℃以上57℃未満あるいは80℃以上85℃以下の範囲であってもよい。
【0075】
[基材フィルムの厚さ]
上記基材フィルム1の厚さは、特に限定されないが、ダイシングテープ10として用いることを考慮すると、例えば、60μm以上150μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは70μm以上120μm以下の範囲である。基材フィルム1の厚さが60μm未満であると、ダイシングテープ10をダイシング工程に供する際に、リングフレーム(ウエハリング)の保持が不十分となるおそれがある。また基材フィルム1の厚さが150μmより大きいと、基材フィルム1の製膜時の残留応力の開放による反りが大きくなるおそれがある。また、基材フィルム1やダイシングテープ10としてロール状に長尺巻き取った際に、巻き芯部に段差痕が生じるおそれがある。
【0076】
[基材フィルムの構成]
上記基材フィルム1の構成は、特に限定されず、単一の樹脂組成物の単層であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましく、2層もしくは3層がより好ましい。
【0077】
上記基材フィルム1を複数層から成る積層体とする場合、例えば、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物を用いて製膜される層が複数積層された構成であってもよいし、本発明の効果を妨げない範囲において、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物を用いて製膜される層に、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いて製膜される層が積層された構成であってもよい。
【0078】
上記他の樹脂組成物を用いて製膜される層は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー等の樹脂組成物を用いて製膜される層が挙げられる。これらの中でも、本実施の好適な形態のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から成る樹脂層との密着性、基材フィルム1の物性のバランス制御および汎用性の観点からは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体およびこれら共重合体のアイオノマー、エチレン・α-オレフィン共重合体等が好ましい。
【0079】
本実施の形態の基材フィルム1が積層構成からなる場合の例として、具体的には、以下の2層構成や3層構成等の基材フィルムが挙げられる。
【0080】
2層構成としては、具体的には、例えば、
(1)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第2樹脂層](同一樹脂層の2層構成)、
【0081】
(2)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第2のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0082】
(3)[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO)から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0083】
(4)[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(E)から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0084】
(5)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とエチレン・α-オレフィン共重合体(EO)の混合樹脂組成物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
等の同一樹脂層の2層または異種樹脂層の2層から成る2層構成(第1樹脂層/第2樹脂層)等が挙げられる。
【0085】
3層構成としては、具体的には、例えば、
(6)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](同一樹脂層の3層構成)、
【0086】
(7)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第2のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0087】
(8)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層)](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0088】
(9)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(E)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0089】
(10)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・α-オレフィン共重合体(EO)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
等の同一樹脂層の3層または異種樹脂層の3層から成る3層構成(第1樹脂層/第2樹脂層/第3樹脂層)等が挙げられる。
【0090】
[基材フィルムの製膜方法]
本実施の形態の基材フィルム1の製膜方法としては、従来から慣用の方法を採用することができる。基材フィルム1の材質となる各樹脂、必要に応じて他の成分を加えて溶融混錬した樹脂組成物を、例えば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等の各種成形方法により、フィルム状に加工すればよい。また、基材フィルム1が複数層から成る積層体の場合は、各層をカレンダー成型法、押出法、インフレーション成型法等の手段によって別々に製膜し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層することにより積層体を製造することができる。上記接着剤としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物等が挙げられる。また、各層の樹脂組成物を共押出ラミネート法により同時に押出して積層体を製造することもできる。基材フィルム1を複数層から成る積層体として製膜・製造する方法は、単層構成で同じ厚さの基材フィルム1を製膜・製造する方法と比較して、押出機内の樹脂圧力やモーター負荷を過度に増大させることなく押出流量を制御できるので、製膜精度や安定製膜の観点から好適であり、基材フィルム1に不必要なシワを生じることがない。また、基材フィルム1の製膜速度をアップすることもできる点や各層で上述した引張強度、応力緩和率および熱収縮率といった物性も調整できるので、基材フィルム1全体として、それら物性のバランスを制御しやすい点でも好適である。なお、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面は、後述する粘着剤層2との密着性向上を目的として、コロナ処理またはプラズマ処理等が施されてもよい。また、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面と反対側の面は、基材フィルム1の製膜時の巻き取りの安定化や製膜後のブロッキングの防止を目的として、シボロールによるエンボス処理等が施されてもよい。
【0091】
(粘着剤層)
本発明のダイシングテープ10における第二の構成要件である活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2について、以下説明する。
【0092】
本発明者らは、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることを可能とするためには、上述した基材フィルム1の諸物性を特定の範囲に規定するだけでは不十分であるとの見解のもと、更に鋭意検討したところ、基材フィルム1の上に位置する粘着剤層2の熱抵抗が重要な因子であるとの知見を得るに至った。通常、ヒートシュリンク工程では、熱風はダイシングテープ10の粘着剤層2側から吹き付けられるため、粘着剤層2の熱抵抗が大きいと、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されないため、短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが困難となる。したがって、粘着剤層2の熱抵抗を従来よりも小さくすれば、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されるので、従来よりも短時間で加熱収縮させることが可能となり、その結果、従来よりも短いタクトタイムで、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや損傷することを抑制できる程度に、カーフ幅を十分に保持することができることに気が付いた。
【0093】
すなわち、本発明における活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する。粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W上を超える場合、ヒートシュリンク工程において、例えば、熱風吹き付けノズルの周回速度(ワークを保持するステージの回転速度)を従来よりも早く設定した時に、すなわち、タクトタイムを短くしようとした時に、弛みが生じたダイシングテープ10の加熱収縮が不十分となるため、弛みが十分に解消されず、その結果、カーフ幅を十分に保持できないおそれがある。上記熱抵抗は、より好ましくは0.35K・cm/W以下、更に好ましくは0.25K・cm/W以下である。上記熱抵抗は、小さければ小さい程良いが、ダイシングテープとして必要な粘着剤層2の粘着特性維持の観点からは、その下限値は、0.15K・cm/Wである。
【0094】
上記粘着剤層2の熱抵抗を低減する方法としては、例えば、本発明の効果を損なわない範囲で、(1)粘着剤層2の厚さをできるだけ薄くする、(2)粘着剤層2の熱伝導率の値をできるだけ大きくする、方法が挙げられる。
【0095】
本実施の形態の粘着剤層2は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含んで成る。ここで、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物とは、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する粘着剤組成物を意味する。上記粘着剤層2に含有される活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物としては、典型的には、
(1)粘着剤組成物(A1):光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(2)粘着剤組成物(A2):上記粘着剤組成物(A1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
(3)粘着剤組成物(B1):官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(4)粘着剤組成物(B2):上記粘着剤組成物(B1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
の群から選ばれるいずれか一つの粘着剤組成物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0096】
これらの中でも、ダイボンドフィルム3への糊残りや汚染の抑制の観点から、粘着剤組成物(A1)および粘着剤組成物(A2)が好ましい。なお、ここでいう官能基とは、光感応性の炭素-炭素二重結合と共存可能な熱反応性官能基をいう。かかる官能基の例は、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアミノ基等の活性水素基、およびグリシジル基等の活性水素基と熱反応する官能基である。活性水素基とは、炭素以外の窒素、酸素又は硫黄などの元素とそれに直接結合した水素とを有する官能基をいう。なお、本明細書において、上記「光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー」を、単に「活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマー」と称する場合がある。
【0097】
(粘着剤組成物(A1))
粘着剤組成物(A1)は、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物である。
【0098】
[光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー]
上記粘着剤組成物(A1)において、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、分子側鎖に炭素-炭素二重結合を有するものを使用する。炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと官能基含有不飽和化合物とを共重合してアクリル系共重合体を得、そのアクリル系共重合体が有する官能基に対して付加反応することが可能な官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法が挙げられる。
【0099】
上記官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる前の上記アクリル系共重合体(以下、「官能基を有するアクリル系共重合体」と称する場合がある)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と活性水素基含有単量体、およびまたはグリシジル基含有単量体とを含む共重合体が挙げられる。
【0100】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、炭素数6以上18以下のヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0101】
また、上記活性水素基含有単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー;アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有単量体等が挙げられる。これら活性水素基含有単量体成分は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、グリシジル基含有単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0102】
上記熱反応性官能基の含有量は、特に限定はされないが、共重合単量体成分全量に対して0.5質量%以上50質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0103】
上記の単量体を共重合した好適な官能基を有するアクリル系共重合体としては、具体的には、「2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸」との二元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との二元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメタクリル酸と2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「n-ブチルアクリレートとアクリル酸」との二元共重合体、「n-ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との二元共重合体、「n-ブチルアクリレートとメタクリル酸と2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとn-ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとメタクリル酸」との四元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとメタクリル酸」との四元共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0104】
上記官能基を有するアクリル系共重合体は、凝集力、および耐熱性等を目的として、必要に応じて他の共重合単量体成分を含有してもよい。このような他の共重合単量体成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環を有する単量体が挙げられる。これらの他の共重合単量体成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記官能基を有する共重合体は、特に限定されないが、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性、紫外線照射後の粘着剤層2のダイボンドフィルム3からの剥離性、剥離時のダイボンドフィルム3に対する汚染性のバランス制御の観点から、ガラス転移温度(Tg)が-70℃以上-10℃以下の範囲であることが好ましく、-65℃以上-50℃以下の範囲であることがより好ましい。
【0105】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、上述した官能基を有するアクリル系共重合体を用い、該共重合体が有する官能基に対して付加反応することが可能な官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させて得ることができる。このような官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、上記共重合体の側鎖にあるヒドロキシル基に対して付加反応を行う場合には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を使用することができる。また、上記共重合体の側鎖にあるカルボキシル基に対して付加反応を行う場合には、グリシジル(メタ)アクリレートや2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等を活性エネルギー線反応性化合物として使用することができる。さらに、上記共重合体の側鎖にあるグリシジル基に対して付加反応を行う場合には、(メタ)アクリル酸等を活性エネルギー線反応性化合物として使用することができる。
【0106】
上記付加反応としては、その反応追跡の容易さ(制御の安定性)や技術的難易度の観点から、アクリル系共重合体が側鎖に有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物((メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物)を付加反応させる方法が最も好適である。
【0107】
なお、上記付加反応を行う際には、後述するポリイソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤等の架橋剤により上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを架橋させて、さらに高分子量化するために、ヒドロキシル基、カルボキシル基やグリシジル基等の官能基が残存するようにしておくことが好ましい。例えば、ヒドロキシル基を側鎖に有するアクリル系共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を反応させる場合、上記共重合体の側鎖にあるヒドロキシル基(-OH)に対する(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基(-NCO)の当量比[(NCO)/(OH)]が1.0未満となるように両者の配合比を調整すれば良い。このようにして、(メタ)アクリロイルオキシ基などの炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、すなわち活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを得ることができる。
【0108】
上記付加反応においては、炭素-炭素二重結合の活性エネルギー線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、官能基を有する共重合体と活性エネルギー線反応性化合物の合計量に対して、通常、0.01質量部以上0.1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0109】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。水酸基価が上記範囲内であると、粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、紫外線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することができる。また、架橋剤添加により適切な架橋構造を形成できるので粘着剤層2の凝集力を向上させることができる。上記水酸基は、より好ましくは17.0mgKOH/g以上39.0mgKOH/g以下の範囲である。
【0110】
また、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、酸価が2.0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、紫外線等の活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することができる。上記酸価は、より好ましくは2.5mgKOH/g以上8.2mgKOH/g以下の範囲である。
【0111】
さらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量は、紫外線等の活性エネルギー線照射後に粘着剤層2において十分な粘着力の低減効果が得られる量であればよく、活性エネルギー線の照射量等の使用条件等により異なり一義的ではないが、例えば、0.85meq/g以上1.60meq/g以下の範囲であることが好ましい。炭素-炭素二重結合含有量が0.85meq/g未満である場合は活性エネルギー線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、接着剤層3付き半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、炭素-炭素二重結合含有量が1.60meq/gを超える場合は、アクリル系粘着性ポリマーの共重合組成によっては合成する際の重合または反応時にゲル化しやすくなり、合成が困難となる場合がある。なお、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量を確認する場合、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーのヨウ素価を測定することで、炭素-炭素二重結合含有量を算出することができる。
【0112】
またさらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは20万以上200万以下の範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量(Mw)が20万未満である場合には、塗工性などを考慮して、数千cP以上数万cP以下の高粘度の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の溶液を得ることが難しく好ましくない。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が小さくなって、例えば、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際、ダイボンドフィルム3を汚染するおそれがある。一方、重量平均分子量(Mw)が200万を超える場合には、粘着剤としての特性上、特に問題はないが、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーを量産的に製造することが難しく、例えば、合成時に光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーがゲル化する場合があり、好ましくない。上記重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは30万以上150万以下である。ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0113】
またさらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは1.05以上12.0以下の範囲の分子量分布(Mw/Mn)を有する。その上限値としては、粘着剤層2の凝集力を向上させる観点から、10.0以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0114】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であると、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの全体の中で、架橋に寄与しにくい低分子量成分、すなわち、熱反応性官能基や光感応性の炭素-炭素二重結合を有しない、あるいは、ほとんど有しない低分子量成分が占める割合が少ないものとなる。したがって、粘着剤層2の熱抵抗を低減するために粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、後述する架橋剤の添加によりその凝集力を十分なものとすることができ、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することが容易となる。さらに、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力も適切に低減できるとともに、粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際のダイボンドフィルム3の汚染を抑制することも容易となる。
【0115】
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーのベースポリマーとなる官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー(官能基を有するアクリル系共重合体)は、上述した単量体の混合物を重合に付すことにより得られるが、該重合は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの方式で行うこともできる。該重合の反応様式としては、フリーラジカル重合やリビングラジカル重合等が好適に挙げられるが、上記の分子量分布(Mw/Mn)をできるだけ狭くする観点からは、重合停止反応や移動反応を伴わないリビングラジカル重合により重合することがより好ましい。これらの中でも、反応様式としてリビングラジカル重合を用いた溶液重合が特に好適である。フリーラジカル重合により重合した官能基を有するアクリル系共重合体をベースポリマーとする活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを含む粘着剤組成物から成る粘着剤層2は、少なくとも重合開始剤である有機過酸化物及び又はアゾ化合物を含むものとなる。また、リビングラジカル重合により重合した官能基を有するアクリル系共重合体をベースポリマーとする活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを含む粘着剤組成物から成る粘着剤層2は、少なくとも重合開始剤であるハロゲン化物及び又は触媒である遷移金属錯体を含むものとなる。上記の有機過酸化物、アゾ化合物、ハロゲン化物および遷移金属錯体としては、公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0116】
[光重合開始剤]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、上述したように、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、被着物脱着時の粘着剤層に対する活性エネルギー線の照射を感受して、ラジカルを発生させ、粘着剤層2中の上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する炭素-炭素二重結合の架橋反応を開始させる。その結果、活性エネルギー線の照射下において粘着剤層が、さらに硬化・収縮することにより被着物に対する接着力が低減される。光重合開始剤としては、紫外線等によりラジカル活性種を発生させる化合物が好ましく、例えば、アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。これら光重合開始剤は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
上記アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0118】
上記ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、商品名:Omnirad651、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。上記α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)、1- [4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル] -2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名:Omnirad2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-1-{4- [4- (2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名Omnirad127、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。上記α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名:Omnirad907、IGM Resins B.V.社製)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルフォリノブチロフェノン(商品名:Omnirad369、IGM Resins B.V.社製)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(商品名:Omnirad379EG、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0119】
上記アシルフォスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:Omnirad819、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0120】
上記オキシムエステル系ラジカル重合開始剤としては、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)(商品名:OmniradOXE-01、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0121】
上記光重合開始剤の添加量としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤の添加量が0.1質量部未満の場合には、活性エネルギー線に対する光反応性が十分ではないために活性エネルギー線を照射してもアクリル系粘着性ポリマーの光ラジカル架橋反応が十分に起こらず、粘着剤の硬化・収縮が不十分となり、その結果、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、光重合開始剤の添加量が10.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、光重合開始剤の種類によっては、粘着剤層2が黄変し外観不良となる場合がある。
【0122】
また、このような光重合開始剤の増感剤として、ジメチルアミノエチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の化合物を粘着剤に添加してもよい。
【0123】
[架橋剤]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、上述したように、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの高分子量化のためにさらに架橋剤を含有する。このような架橋剤としては、特に制限されず、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する官能基であるヒドロキシル基、カルボキシル基及びグリシジル基等と反応可能な官能基を有する公知の架橋剤を使用することができる。具体的には、例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤、酸無水化合物系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、反応性、汎用性の観点からポリイソシアネート系架橋剤またはエポキシ系架橋剤を用いることが好ましい。これらの架橋剤は、単独でまたは2種以上併用してもよい。架橋剤の配合量は、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.1質量部以上5質量部以下の範囲であり、更に好ましくは
0.5質量部以上4質量部以下の範囲である。
【0124】
上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0125】
上記エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエリスリトール、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、1,3′-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0126】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(粘着剤組成物(A1))により粘着剤層2を形成した後に、上記架橋剤と上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する官能基とを反応させるためのエージングの条件としては、特に限定はされないが、例えば、温度は23℃以上80℃以下の範囲、時間は24時間以上168時間以下の範囲で適宜設定すれば良い。
【0127】
[その他]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、その他に、多官能アクリルモノマー、多官能アクリルオリゴマー、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0128】
(粘着剤組成物(A2))
粘着剤組成物(A2)は、上記粘着剤組成物(A1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物である。粘着剤組成物(A2)から成る粘着剤層2は、熱伝導性フィラーを含まない粘着組成物(A1)から成る粘着剤層2と比べて、粘着剤層2の厚さが同じ場合、その熱伝導率が高くなるため、熱抵抗が小さくなる。
【0129】
[熱伝導性フィラー]
上記粘着剤組成物(A2)において、熱伝導性フィラーの材質は、特に限定されないが、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、酸化マグネシウム、アルミニウム、銅、ダイヤモンド等が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが好ましい。
【0130】
上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、特に限定されないが、0.1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。上記熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.1μm未満である場合、粘着剤組成物の溶液の粘度が高くなり、粘着剤層2の基材フィルム1への均一薄膜塗布が困難となるおそれがある。また、特に熱伝導性フィラーの含有量が多いと、粘着剤層2の粘着力が低下するおそれがある。一方、上記熱伝導性フィラーの平均粒子径が10μmを超える場合、粘着剤層2の厚さが薄いと、粘着剤層2の表面起伏が大きくなり、粘着剤層2の粘着力が低下するおそれがある。粘着剤層2の粘着力が低下するとダイボンドフィルム3への初期密着性やリングフレームへの固定力が低下し、貼り合わせ工程やエキスパンド工程において不具合が生じることがある。上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、0.2μm以上3μm以下の範囲であることがより好ましい。本発明において、上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)で上記熱伝導性フィラーの粒子を観察し、100個の粒子の長軸径を測定し、その算術平均値として求めるものとする。
【0131】
上記熱伝導性フィラーの含有量は、本発明の効果を妨げない範囲において特に限定されないが、例えば、粘着剤組成物の全体積に対して、体積比率で5%以上20%以下の範囲であることが好ましい。上記熱伝導性フィラーの含有量が体積比率で5%未満であると、十分な熱伝導性が得られないおそれがある。一方、上記熱伝導性フィラーの含有量が体積比率で20%を超えると、粘着剤層2の粘着力が低下し、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が低下するおそれがある。また、紫外線等の活性エネルギー線を照射した際に、活性エネルギー線の透過が一部妨げられ、粘着剤層2の粘着力が十分に低下しないおそれがある。なお、上記体積比率は、各材料の比重を用いて計算することができる。
【0132】
[分散剤]
上記熱伝導性フィラーを上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと混合すると、増粘することがある。これは、上記熱伝導性フィラーと上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの相互作用によると考えられる。このため、上記粘着剤組成物(A2)には、増粘現象を抑制す るため、分散剤を添加してもよい。上記分散剤としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの親和性が良好な高分子系分散剤が好ましい。上記 高分子系分散剤としては、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系等の高分子化合物が挙げられる。上記分散剤は、1種類を単独で用いることもできるが、2種類以上を混合して用 いてもよい。
【0133】
上記分散剤は、分散機能を高めるために官能基を有していることが好ましい。上記官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸 エステル基、スルホン酸エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、四級アンモニウム塩基 、アミド基等が挙げられるが、上記分散剤は、酸性官能基と塩基性官能基の両方を有して いる両性分散剤であることがより好ましい。
【0134】
上記分散剤の酸性度は、その酸価を基準として決定し、上記分散剤の塩基性度は、そのアミン価を基準として決定する。例えば、酸価が20mgKOH/g以上である分散剤を用いることで 、上記粘着剤組成物(A2)の増粘現象を防止できる。また、アミン価が5mgKOH/g以上である分散剤を用いることで、粘着剤の保存時の粘着力の変化を防止できる。上記分散剤の酸性官能基は、上記熱伝導性フィラーの塩基性活性点を覆い、上記熱伝導性フィラーと上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの相互作用を抑制するため、上記粘着剤組成物(A2)の増粘現象を防止すると考えられる。また、上記分散剤中の塩基性官能基は上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマー中の酸性官能基と相互作用し、上記分散剤が上記粘着組成物の界面に移行するこ とを抑制するため、粘着剤の保存時の粘着力の変化を防止すると考えられる。
【0135】
上記分散剤の含有量は、上記熱伝導性フィラー100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部 以下の範囲とすることが好ましく、0.3質量部以上10質量部の範囲がより好ましい。上記分散剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分な分散性が得られず、上記分散剤の含有量が15質量部を超えると、高温下での粘着力が低下し易く、ダイボンドフィルム3に対する初期密着力への影響が懸念される。
【0136】
(粘着剤組成物(B1))
粘着剤組成物(B1)は、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物である。上記粘着剤組成物(B1)において、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーとしては、上述の粘着剤組成物(A1)の説明において官能基を有するアクリル系共重合体として例示したものと同じものを用いることができる。また、光重合開始剤および架橋剤についても、上述の粘着剤組成物(A1)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。
【0137】
[活性エネルギー線硬化性化合物]
上記粘着剤組成物(B1)の活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、活性エネルギー線の照射によって三次元網状化しうる、分子内に炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる。このような低分子量化合物としては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1 ,6-へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物;2-プロペニル-ジ-3-ブテニルシアヌレート、2-ヒドロキシエチルビス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート又はイソシアヌレート化合物等が挙げられる。これら活性エネルギー線硬化性の低分子量化合物は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
また、活性エネルギー線硬化性化合物として、上記のような低分子量化合物の他に、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエステルアクリレート系オリゴマー等の活性エネルギー線硬化性オリゴマーを用いることもできる。エポキシアクリレートは、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応により合成される。ウレタンアクリレートは、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとの付加反応物に、末端に残るイソシアネート基をヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと反応させて(メタ)アクリル基を分子末端に導入して合成される。ポリエステルアクリレートは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との反応によって合成される。上記活性エネルギー線硬化性オリゴマーは、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力の低減効果の観点から、分子中に炭素-炭素二重結合を3個以上有するものが好ましい。これら活性エネルギー線硬化性オリゴマーは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
上記活性エネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、100以上30,000以下の範囲であることが好ましく、半導体チップの汚染抑制および活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力の低減効果の両観点から、500以上6,000以下の範囲であることがより好ましい。
【0140】
上記活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、5質量部以上500質量部以下、好ましくは50質量部以上180質量部以下の範囲であることが好ましい。上記活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲内である場合、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2の粘着力を適正に低下させ、ダイボンドフィルム3付き半導体チップを破損させることなく、ピックアップを容易とすることができる。
【0141】
(粘着剤組成物(B2))
粘着剤組成物(B2)は、上記粘着剤組成物(B1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物である。粘着剤組成物(B2)から成る粘着剤層2は、熱伝導性フィラーを含まない粘着組成物(
B1)から成る粘着剤層2と比べて、粘着剤層2の厚さが同じ場合、その熱伝導率が高くなるため、熱抵抗が小さくなる。上記粘着剤組成物(B1)において、熱伝導性フィラーとしては、上述の粘着剤組成物(A2)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。また、分散剤についても、上述の粘着剤組成物(A2)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。
【0142】
本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さは、特に限定されず、粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W以下となるように、粘着剤層2の熱伝導率の値に応じて、適宜調整すればよいが、例えば、4μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。より具体的には、粘着剤層2を構成する粘着剤組成物が熱伝導性フィラーを含まない場合は、例えば、4μm以上9μm以下の範囲であることが好ましく、粘着剤層2を構成する粘着剤組成物が熱伝導性フィラーを含む場合は、例えば、9μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。それぞれの場合において、粘着剤層2の厚さが好ましい下限値を下回ると、粘着力が低下し、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性やリングフレームに対する固定力が不十分となるおそれがある。一方、粘着剤層2の厚さが好ましい上限値を超えると、熱抵抗が大きくなり、ヒートシュリンク工程において、例えば、熱風吹き付けノズルの周回速度を従来よりも早く設定した時に、すなわち、タクトタイムを短くしようとした時に、弛みが生じたダイシングテープ10の加熱収縮が不十分となるため、弛みが十分に解消されず、その結果、カーフ幅を十分に保持できないおそれがある。
【0143】
(アンカーコート層)
本実施の形態のダイシングテープ10では、本発明の効果を損なわない範囲において、ダイシングテープ10の製造条件や製造後のダイシングテープ10の使用条件等に応じて、基材フィルム1と粘着剤層2との間に、基材フィルム1の組成に合わせたアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、基材フィルム1と粘着剤層2との密着力が向上する。
【0144】
(剥離ライナー)
また、粘着剤層2の基材フィルム1とは逆の表面側(一方の表面側)には、必要に応じて剥離ライナーを設けてもよい。剥離ライナーとして使用できるものは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、紙類等が挙げられる。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層2の剥離性を高めるために、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤などによる剥離処理を施してもよい。剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm~200μmの範囲であるものを好適に使用することができる。
【0145】
(ダイシングテープの製造方法)
図4は、ダイシングテープ10の製造方法について説明したフローチャートである。まず、剥離ライナーを準備する(ステップS101:剥離ライナー準備工程)。次に、粘着剤層2の形成材料である粘着剤層2用の塗布溶液(粘着剤層形成用塗布溶液)を作製する(ステップS102:塗布溶液作製工程)。塗布溶液は、例えば、粘着剤層2の構成成分である活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと光重合開始剤と架橋剤と希釈溶媒とを均一に混合撹拌することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0146】
そして、ステップS102で作製した粘着剤層2用の塗布溶液を用いて、剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さの粘着剤層2を形成する(ステップS103:粘着剤層形成工程)。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は80℃~150℃の範囲内、乾燥時間は0.5分間~5分間の範囲内で行うことが好ましい。続いて、基材フィルム1を準備する(ステップS104:基材フィルム準備工程)。そして、剥離ライナーの上に形成された粘着剤層2の上に、基材フィルム1を貼り合わせる(ステップS105:基材フィルム貼合工程)。最後に、形成した粘着剤層2を例えば40℃の環境下で72時間エージングして活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと架橋剤とを反応させることにより架橋・硬化させる(ステップS106:熱硬化工程)。以上の工程により基材フィルム1の上に基材フィルム側から順に粘着剤層2、剥離ライナーを備えたダイシングテープ10を製造することができる。なお、本発明では、粘着剤層2の上に剥離ライナーを備えている積層体もダイシングテープ10と称する場合がある。
【0147】
なお、上記基材フィルム1上に粘着剤層2を形成する方法として、剥離ライナーの上に粘着剤層2用の塗布溶液を塗布して乾燥し、その後、粘着剤層2の上に基材フィルム1を貼り合わせる方法を例示したが、基材フィルム1上に粘着剤層2用の塗布溶液を直接塗布して乾燥する方法を用いてもよい。安定生産の観点からは、前者の方法が好適に用いられる。
【0148】
本実施の形態のダイシングテープ10は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0149】
<ダイシングダイボンドフィルム>
本発明の第2の側面によると、本実施の形態のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用することもできる。ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、個片化された半導体チップをリードフレームや配線基板(支持基板)に接着・接続するためのものである。また、半導体チップを積層する場合は、半導体チップ同士の接着剤層の役割もする。
【0150】
半導体チップを積層する場合、一段目の半導体チップはダイボンドフィルム(接着剤層)3により、端子が形成された半導体チップ搭載用配線基板に接着され、一段目の半導体チップの上に、さらにダイボンドフィルム(接着剤層)3により二段目の半導体チップが接着されている。一段目の半導体チップおよび二段目の半導体チップの接続端子は、ワイヤを介して外部接続端子と電気的に接続されるが、一段目の半導体チップ用のワイヤは、圧着(ダイボンディング)時にダイボンドフィルム(接着剤層)3、すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3の中に埋め込まれる。
【0151】
(ダイボンドフィルム)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、熱により硬化する熱硬化型の接着剤組成物からなる層である。上記接着剤組成物としては、特に限定されるものでなく、従来公知の材料を使用することができる。上記接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、例えば、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂に対する硬化剤としてフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤等が添加されてなる熱硬化性接着剤組成物が挙げられる。このような熱硬化性接着剤組成物からなるダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体チップ/支持基板間、半導体チップ/半導体チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性及び/又はワイヤ埋め込み性等も付与可能で、且つダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤によりモールドされた後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0152】
ワイヤが接着剤層中に埋め込まれない形態で使用される汎用ダイボンドフィルムとワイヤが接着剤層中に埋め込まれる形態で使用されるワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、その接着剤組成物を構成する材料の種類については、ほぼ同じであることが多いが、使用する材料の配合割合、個々の材料の物性・特性等を、それぞれの目的に応じて変更することにより、汎用ダイボンドフィルム用あるいはワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用としてカスタマイズされる。また、最終的な半導体装置としての信頼性に問題がない場合には、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが汎用ダイボンドフィルムとして使用されることもある。すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線等に起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板等へ半導体チップを接着する用途でも同様に使用可能である。
【0153】
(汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
まず、汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、汎用ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、20,000Pa・s以上40,000Pa・s以下の範囲、好ましくは25,000Pa・s以上35,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を52質量部以上90質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を5質量部以上25質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂の5質量部以上23質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0154】
また、上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、1.0質量部以上7.0質量部以下の範囲であることが好ましい。上記のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機フィラー、およびシランカップリング剤等については、汎用のダイボンドフィルム用接着剤組成物の材料として公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0155】
(ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
続いて、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲、好ましくは2,000Pa・s以上7,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を17質量部以上51質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を30質量部以上64質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂を19質量部以上53質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0156】
また、上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。上記のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機フィラー、およびシランカップリング剤等については、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の材料として公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0157】
(ダイボンドフィルム(接着剤層)の厚さ)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さは、特に限定されないが、接着強度の確保、半導体チップ接続用のワイヤを適切に埋め込むため、あるいは基板の配線回路等の凹凸を十分に充填するため、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが5μm未満であると、半導体チップとリードフレームや配線基板等との接着力が不十分となるおそれがある。一方、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが200μmより大きいと経済的でなくなる上に、半導体装置の小型薄膜化への対応が不十分となりやすい。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上75μm以下の範囲が特に好ましい。
【0158】
(ダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、例えば、次の通りにして製造される。まず、剥離ライナーを準備する。なお、該剥離ライナーとしては、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上に配置する剥離ライナーと同じものを使用することができる。次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の形成材料であるダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を作製する。塗布溶液は、例えば、上述したようなダイボンドフィルム(接着剤層)3の構成成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤、およびシランカップリング等を含む熱硬化性樹脂組成物と希釈溶媒とを均一に混合分散することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0159】
次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を仮支持体となる上記剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さのダイボンドフィルム(接着剤層)3を形成する。その後、別の剥離ライナーの剥離処理面をダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に貼り合わせる。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は60℃以上200℃以下の範囲内、乾燥時間は1分間以上90分間以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、本発明では、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の両面あるいは片面に剥離ライナーを備えている積層体もダイボンドフィルム(接着剤層)3と称する場合がある。
【0160】
(ダイシングダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイシングダイボンドフィルム20の製造方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法により製造することができる。例えば、上記ダイシングダイボンドフィルム20は、先ずダイシングテープ10およびダイボンドフィルム3を個別にそれぞれ準備し、次に、ダイシングテープ10の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーをそれぞれ剥離し、ダイシングテープ10の粘着剤層2とダイボンドフィルム(接着剤層)3を、例えば、ホットロールラミネーター等の圧着ロールにより圧着して貼り合わせればよい。貼り合わせ温度としては、特に限定されず、例えば10℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、貼り合わせ圧力(線圧)としては、例えば0.1kgf/cm以上100kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、本発明では、ダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に剥離ライナーが備えられた積層体もダイシングダイボンドフィルム20と称する場合がある。ダイシングダイボンドフィルム20において、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に備えられた剥離ライナーは、ダイシングダイボンドフィルム20をワークに供する際に、剥離すればよい。
【0161】
上記ダイシングダイボンドフィルム20は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0162】
<半導体チップの製造方法>
図5は、本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20を使用したダイボンドフィルム付き半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。また、図6は、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40が、中心部のダイボンドフィルム(接着剤層)3上に個片化された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)が貼り付けられた状態を示した概略図である。またさらに、図7(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)のダイシングダイボンドフィルム20への貼合工程の一例を示した断面図である。図8(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルム20上に貼合・保持された複数の割断された薄膜半導体ウエハから、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得るための、エキスパンド~ピックアップまでの一連の工程を含む製造方法の一例を示した断面図である。
【0163】
(ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法)
ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法は、特に限定されず、従来から公知の方法に依ればよいが、ここでは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)による製造方法を例に挙げて説明する。
【0164】
まず、図7(a)に示すように、例えばシリコンを主成分とする半導体ウエハWの第一面Wa上に複数の集積回路(図示はしない)を搭載した半導体ウエハWを準備する(図5のステップS201:準備工程)。そして、粘着面Taを有するウエハ加工用テープ(バックグラインドテープ)Tが半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされる。
【0165】
次いで、図7(b)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープTとは反対側、つまり半導体ウエハの第二面Wb側から半導体ウエハWに対して、その格子状のダイシング予定ラインXに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される(図5のステップS202:改質領域形成工程)。改質領域30bは、半導体ウエハWを研削工程により半導体チップ単位に割断・分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハWにおいてレーザー光照射によってダイシング予定ラインに沿って改質領域30bを形成する方法については、例えば、特許第3408805号公報、特開2002-192370号公報、特開2003-338567号公報等に開示されている方法を参照することができる。
【0166】
半導体ウエハWに形成されるダイシング予定ラインXは、長方形格子であってよい。その場合は、半導体チップが長方形に個片化される。個片化された半導体チップが長方形の場合、長辺の長さαと短辺の長さβとの比α/βは、例えば1.2以上20以下の範囲であることが好ましい。この比α/βの下限値は、1.4であることがより好ましい。また、長辺および短辺の長さは、1mm以上30mm以下の範囲であることが好ましく、3mm以上20mm以下の範囲であることがより好ましく、4mm以上12mm以下の範囲であることが更に好ましい。
【0167】
次いで、図7(c)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが予め定められた厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄膜化される。ここで、薄膜化される半導体ウエハ30の厚さは、半導体装置の薄型化の観点から、好ましくは100μm、より好ましくは10μm以上50μm以下の厚さに調節される。本研削・薄膜化工程において、薄膜化された半導体ウエハ30は、研削ホイールの研削負荷が加えられた際に、半導体ウエハ30が、図7(b)で形成された改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、ダイシング予定ラインXに対応した割断ライン30cに沿って、ウエハ加工用テープT上で複数の半導体チップ30aへと割断、個片化される。
【0168】
次いで、図7(d)、(e)に示すように、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aが別途準備したダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム3に対して貼り合わせられる(図5のステップS204:貼合工程)。本工程においては、円形にカットしたダイシングダイボンドフィルム20の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3から剥離ライナーを剥離した後、図6に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上中央部に積層されたダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aを貼り付ける。この後、図7(f)に示すように、薄膜の複数の半導体チップ30aからウエハ加工用テープTが剥がされる。貼り付けは、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。貼り付け温度は、特に限定されず、例えば、20℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、半導体チップ30aの反りを小さくする観点からは、40℃以上100℃以下の範囲内であることがより好ましい。貼り付け圧力は、特に限定されず、0.1MPa以上10.0MPa以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性も有するため、貼り付け温度が高温であっても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0169】
続いて、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の粘着剤層2上にリングフレーム40が貼り付けられた後、図8(a)に示すように、複数の半導体チップ30aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム20がエキスパンド装置の保持具41に固定される。図8(b)に示すように、割断ライン30cで割断された薄膜の半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)は、複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ30aとして個片化可能なように、その下面側に、次工程でダイシング予定ラインXに沿って割断されることになるダイボンドフィルム3が貼り付けられている。
【0170】
次いで、相対的に低温(例えば、-30℃~0℃)の条件下での第1のエキスパンド工程、すなわち、クールエキスパンド工程が、図8(c)に示すように行われ、ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3が半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム(接着剤層)3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる(図5のステップS205:クールエキスパンド工程)。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)が貼り合わされたダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10が、半導体ウエハ30の径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として伝達される。この外部応力により、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3は、半導体チップ30aと同じサイズの小片のダイボンドフィルム3aへと割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0171】
上記クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば、-30℃以上0℃以下の範囲であり、好ましくは-20℃以上-5℃以下の範囲であり、より好ましくは-15℃以上-5℃以下の範囲であり、特に好ましくは-15℃である。上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(中空円柱状の突き上げ部材が上昇する速度)は、好ましくは0.1mm/秒以上1000mm/秒以下の範囲であり、より好ましくは10mm/秒以上300mm/秒以下の範囲である。また、上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量(中空円柱状の突き上げ部材の突き上げ高さ)は、好ましくは3mm以上16mm以下の範囲である。
【0172】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、まず、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の適正な範囲に調整されているので、低温においても相応の引張強度を有し、クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、基材フィルム1上の粘着剤2に密着しているダイボンドフィルム3に外部応力として効率的に伝達され、その結果、ダイボンドフィルム3が個片化された半導体チップの形状に沿って、綺麗にに歩留まり良く割断される。
【0173】
上記クールエキスパンド工程の後、エキスパンド装置の中空円柱形状の突き上げ部材が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0174】
次いで、相対的に高温(例えば、10℃~30℃)の条件下での第2のエキスパンド工程、すなわち、常温エキスパンド工程が、図8(d)に示すように行われ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える円柱状のテーブル(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10がエキスパンドされる(図5のステップS206:常温エキスパンド工程)。
【0175】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の適正な範囲に調整されているので、良好なエキスパンド性を備える。したがって、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができる。
【0176】
常温エキスパンド工程によりダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を十分に確保することにより、CCDカメラ等による半導体チップ30aの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接する半導体チップ30a同士が接触することによって生じるダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a同士の再接着を防止することができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が向上する。
【0177】
前記常温エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15℃以上30℃以下の範囲である。常温エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(円柱状のテーブルが上昇する速度)は、例えば0.1mm/秒以上50mm/秒以下の範囲であり、好ましくは0.3mm/秒以上30mm/秒以下の範囲である。また、常温エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3mm以上20mm以下の範囲である。
【0178】
テーブルの上昇によってダイシングテープ10が常温エキスパンドされた後、テーブルはダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブルによるその吸着を維持した状態で、テーブルがワークを伴って下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのカーフ幅が狭まることを抑制するうえでは、ダイシングテープ10がテーブルに真空吸着された状態で、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を熱風吹付により加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させて、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛みを解消することで緊張状態を保つことが好ましい。
【0179】
前記加熱収縮後、テーブルによる真空吸着状態が解除される。前記熱風の温度は、基材フィルム1の物性と、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離、および風量等に応じて調整すれば良いが、例えば200℃以上250℃以下の範囲が好ましい。また、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離は、例えば15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。また、風量は、例えば35L/分以上45L/分以下の範囲が好ましい。なお、ヒートシュリンク工程を行う際、エキスパンド装置のステージを、例えば3°/秒以上10°/秒以下の範囲の回転速度で回転させながら、ダイシングテープ10の半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分に沿って熱風吹付を行う。このような熱風吹付により、ダイシングテープ10の表面の温度は、例えば、60℃以上100℃以下の範囲に調整されることが好ましい。より好ましくは、70℃以上90℃以下の範囲である。
【0180】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にある一方で、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率が50%以上となっているので、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に基材フィルム1に発生した応力が十分に低い値まで早期に減少し、上記の適切な範囲の引張強度により、常温エキスパンド時に十分に広げられた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)に該当するダイシングテープのみの部分(ダイボンドフィルム付き半導体チップが存在しない部分)において、エキスパンド状態が解除された際に弾性により縮もうとする力が低減、緩和される。その結果、エキスパンド状態が解除されることがあっても、カーフ幅は多少の縮みは発生するものの、元の間隔から過度に縮むことはなく、一定量保持することができる。また、半導体チップに付着した接着剤層同士が接触することや半導体チップ同士の干渉によるエッジの損傷等を防止することもできる。
【0181】
さらに、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率が20%以上となっていることに加えて、基材フィルム1上の粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W以下となっている。これにより、ヒートシュリンク工程において、常温エキスパンド時に生じたダイシングテープ10の弛み部分(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分)に対して、ヒートシュリンク工程において、粘着剤層2側から熱風を吹き付けた際に、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されるので、従来よりも短時間でその弛み部分を加熱収縮させて、熱シワを発生させることなく弛みを除去することが可能となる。その結果、ヒートシュリンク工程のタクトタイムを従来よりも短時間化しても、ダイシングテープ10の弛み部分を、所定程度の張力が作用する緊張状態に至らせることが可能となり、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップ同士の干渉によりエッジが損傷することを抑制できる程度に、エキスパンドで広げたカーフ幅を十分に保持することができる。
【0182】
このように、基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率を所定の範囲とし、さらに粘着剤層2の熱抵抗を所定の範囲とすることにより、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、ダイシングテープを従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが可能となるため、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップ同士の干渉によりエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、エキスパンドにより広げたカーフ幅を十分に保持することができるのである。
【0183】
続いて、ダイシングテープ10に対して、基材フィルム1側から活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤層2を硬化・収縮させ、粘着剤層2のダイボンドフィルム3aに対する粘着力を低下させる(図5のステップS207:活性エネルギー線照射工程)。ここで、前記後照射に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、β線、γ線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、紫外線(UV)および電子線(EB)が好ましく、特に紫外線(UV)が好ましく用いられる。上記紫外線(UV)を照射するための光源としては、特に限定されないが、例えば、ブラックライト、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることができる。上記紫外線(UV)の照射光量は、特に限定されず、例えば100mJ/cm以上2,000mJ/cm以下の範囲であることが好ましく、300mJ/cm以上1,000mJ/cm以下の範囲であることがより好ましい。
【0184】
続いて、個片化されたそれぞれのダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ダイシングテープ10の紫外線(UV)照射後の粘着剤層2から剥がし取る所謂ピックアップを行う(図5のステップS208:剥離(ピックアップ)工程)。
【0185】
上記ピックアップの方法としては、例えば、図8(e)に示すように、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の基材フィルム1の第2面を突き上げピン(ニードル)60によって突き上げるとともに、図8(f)に示すように、突き上げられたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ピックアップ装置(図示しない)の吸着コレット50により吸引してダイシングテープ10の粘着剤層2から剥がし取る方法等が挙げられる。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0186】
ピックアップ条件としては、実用上、許容できる範囲であれば特に限定されず、通常は、突き上げピン(ニードル)60の突き上げ速度は、1mm/秒以上100mm/秒以下
の範囲内で設定されることが多いが、半導体チップ30aの厚さ(半導体ウエハの厚さ)が100μmと薄い場合には、薄膜の半導体チップ30aの損傷抑制の観点から、1mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定することが好ましい。生産性を加味した観点からは、5mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定できることがより好ましい。
【0187】
また、半導体チップ30aが損傷せずにピックアップが可能となる突き上げピンの突き上げ高さは、例えば、前記と同様の観点から、100μm以上600μm以下の範囲内で設定できることが好ましく、半導体薄膜チップに対する応力軽減の観点から、100μm以上450μm以下の範囲内で設定できることがより好ましい。生産性を加味した観点からは、100μm以上350μm以下の範囲内で設定できることがとりわけ好ましい。このような突き上げ高さをより小さくできるダイシングテープはピックアップ性に優れていると言える。
【0188】
なお、図8(a)~(f)で説明した製造方法は、ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体チップ30aの製造方法の一例(SDBG)であり、ダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する方法は、前記の方法に限定されない。すなわち、本実施の形態のダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングに際して、半導体ウエハ30に貼り付けられるものであれば、前記の方法に限定されることなく使用することができる。
【0189】
このように、本発明のダイシングテープ10は、DBG、ステルスダイシング、SDBG等といった薄膜半導体チップを得るための製造方法において、ダイボンドフィルム3と一体化してダイシングダイボンドフィルム20として用いるためのダイシングテープ10として好適である。
【0190】
<半導体装置の製造方法>
本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された半導体装置について、以下、具体的に説明する。
【0191】
半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを半導体チップ搭載用支持部材または半導体チップに加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0192】
図9は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。図9に示す半導体装置70は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a1、3a2と、一段目の半導体チップ30a1と、二段目の半導体チップ30a2と、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4、硬化されたダイボンドフィルム3a1および半導体チップ30a1は、半導体チップ30a2の支持部材9を構成している。
【0193】
半導体チップ搭載用支持基板4の一方の面には、外部接続端子5が複数配置されており、半導体チップ搭載用支持基板4の他方の面には、端子6が複数配置されている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30a1および半導体チップ30a2の接続端子(図示せず)と、外部接続端子5とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30a1は、硬化されたダイボンドフィルム3a1により半導体チップ搭載用支持基板4に外部接続端子5に由来する凹凸を埋め込むような形で接着されている。半導体チップ30a2は、硬化されたダイボンドフィルム3a2により半導体チップ30a1に接着されている。半導体チップ30a1、半導体チップ30a2およびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。このようにワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3aは、半導体チップ30aを複数重ねる積層構成の半導体装置に好適に使用される。
【0194】
また、図10は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10と汎用ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された他の半導体装置の一態様の模式断面図である。図10に示す半導体装置80は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム3aと、半導体チップ30aと、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30aの支持部材であり、半導体チップ30aの接続端子(図示せず)と半導体素チップ搭載用支持基板4の主面に配置された外部接続端子(図示せず)とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30aは、硬化されたダイボンドフィルム3aにより半導体チップ搭載用支持基板4に接着されている。半導体チップ30aおよびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。
【実施例0195】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0196】
1.基材フィルム1の作製
基材フィルム1(a)~(x)を作製するための材料として下記の樹脂をそれぞれ準備した。
【0197】
(エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO))
・樹脂(IO1)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率からなる三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:60モル%、融点:86℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm、ビカット軟化点:56℃
【0198】
・樹脂(IO2)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:70モル%、融点:87℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm、ビカット軟化点:57℃
【0199】
(ポリアミド樹脂(PA))
・樹脂(PA1)
ナイロン6、融点:225℃、密度:1.13g/cm
【0200】
(その他樹脂(C))
・樹脂(TPO)
熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)、MFR:3.6g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm、ビカット軟化点:41℃
【0201】
・樹脂(POPE)
ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(高分子型帯電防止剤)、融点:115℃、MFR:15g/10分(190℃/2.16kg荷重)
【0202】
・樹脂(PP)
ランダム共重合ポリプロピレン、融点138℃、ビカット軟化点:110℃
【0203】
・樹脂(LDPE)
低密度ポリエチレン、融点116℃、ビカット軟化点:97℃
【0204】
・樹脂(EVA)
エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量20質量%、融点82℃、密度:0.94g/cm、ビカット軟化点:53℃
【0205】
・樹脂(TPU)
熱可塑性ポリウレタン
【0206】
(基材フィルム1(a))
アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)を準備した。まず、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(a)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、1種(同一樹脂)3層Tダイフィルム成形機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(a)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=90:10である。
【0207】
(基材フィルム1(b))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=85:15の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(b)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=85:15である。
【0208】
(基材フィルム1(c))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=80:20の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(c)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=80:20である。
【0209】
(基材フィルム1(d))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)を準備した。まず、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=85:15の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(d)の第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。
【0210】
また、第2樹脂層用の樹脂として、上記熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)=(TPO)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(d)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=85:15である。また、層全体における樹脂(IO)と樹脂(PA)の合計量の含有割合は67質量%である。
【0211】
(基材フィルム1(e))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)および(IO2)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)を準備した。まず、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(e)の第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。また、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO2)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(e)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=93:7である。
【0212】
(基材フィルム1(f))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)およびポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)を準備した。まず、第1樹脂層、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1樹脂層、第2樹脂層用の樹脂組成物を得た。
【0213】
また、第3樹脂層用の樹脂として、アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)、ポリアミド樹脂(PA1)、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(TPO)、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)をそれぞれ76:8:8:8の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(f)の第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(IO)と樹脂(PA)の合計量の含有割合は95質量%である。
【0214】
(基材フィルム1(g))
その他樹脂(C)として、ランダム共重合ポリプロピレン(PP)およびエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を準備した。第1樹脂層、第3樹脂層用としてランダム共重合ポリプロピレン(PP)、第2樹脂層用としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いて、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機により、2種類の樹脂による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=8μm/64μm/8μmとした。層全体としてのPP/EVAの質量比率は、PP/EVA=20質量%/80質量%である。
【0215】
(基材フィルム1(h))
その他樹脂(C)として、ランダム共重合ポリプロピレン(PP)および低密度ポリエチレン(LDPE)を準備した。第1樹脂層、第3樹脂層用としてランダム共重合ポリプロピレン(PP)、第2樹脂層用として低密度エチレン(LDPE)を用いて、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機により、2種類の樹脂による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(h)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=10μm/70μm/10μmとした。層全体としてのPP/LDPEの質量比率は、PP/LDPE=22質量%/78質量%である。
【0216】
(基材フィルム1(i))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、その他樹脂(C)としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)および熱可塑性ポリウレタン(TPU)を準備した。まず、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記熱可塑性ポリウレタン(TPU)を、(IO1):(TPU)=50:50の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、溶融混練することで、基材フィルム1(i)の第2樹脂層用の樹脂組成物を得た。また、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を単独で用いた。それぞれの樹脂および樹脂組成物を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体としてのEVA/IO/TPUの質量比率は、EVA/IO/TPU=67質量%/16.5/16.5質量%である。
【0217】
[基材フィルムの引張強度]
基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長さ方向の両端をチャック間初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を測定した。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、100%伸長時(チャック間距離100mm時)における引張荷重値を求め、その値を基材フィルム1の厚さで除して、引張強度(単位:MPa)を求めた。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の23℃における100%延伸時の引張強度とした。
【0218】
[基材フィルムの応力緩和率]
基材フィルム1の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手さ向の両端をチャック間初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、100%延伸した時の引張荷重値A、および該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重値Bを求めた。そして、下記式
【0219】
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A]×100
から100%延伸100秒間保持後の応力緩和率を算出した。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率とした。
【0220】
[基材フィルムの熱収縮率]
基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意し、50mmの間隔で2本の標線を付した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手さ向の両端をチャック間初期距離50mm(初期標線間距離)となるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、まず、100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した時の標線の間隔Cを測定した。次いで、下端の
チャックを開放して該基材フィルム1の試験片をテンションフリーの状態にして、ミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で80℃にて1分間加熱した後に、再度該標線の間隔Dを測定した。そして、下記式
【0221】
100%延伸100秒間保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100
【0222】
から100%延伸100秒間保持後の熱収縮率を算出した。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率とした。
【0223】
2.粘着剤組成物の溶液の調製
ダイシングテープ10の粘着剤層2用の粘着剤組成物として、下記の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)~2(g)の溶液を調製した。
【0224】
なお、これら粘着剤組成物のベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)を構成する共重合モノマー成分として、
・アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA、分子量:184.3、Tg:-70℃)、
・アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA、分子量:116.12、Tg:-15℃)、
・メタクリル酸(MAA、分子量:86.06、Tg:228℃)、
を準備した。
【0225】
また、ポリイソシアネート系架橋剤として、東ソー株式会社製の
・TDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:8.05質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.89質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.8個/1分子、理論上分子量:656.64)、
【0226】
・HDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:12.8質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.07質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.6個/1分子、理論上分子量:638.75)、
を準備した。
【0227】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いフリーラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃である。
【0228】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)21.0質量部(135.35mmol:2-HEAに対して74.8mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:40万、分子量分布(Mw/Mn):9.5、固形分水酸基価:21.1mgKOH/g、固形分酸価:2.7mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.12mmol/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0229】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を2.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のTDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%)を2.56質量部(固形分換算1.15質量部、1.75mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を調製した。
【0230】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤として2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いリビングラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃である。
【0231】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)21.0質量部(135.35mmol:2-HEAに対して74.8mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(B)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:41万、分子量分布(Mw/Mn):1.8、固形分水酸基価:21.1mgKOH/g、固形分酸価:2.7mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.12mmol/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0232】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(B)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を2.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のTDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%)を2.56質量部(固形分換算1.15質量部、1.75mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液を調製した。
【0233】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(c)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いフリーラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマー(アクリル系粘着性ポリマー)のFoxの式より算出したTgは-60℃、重量平均分子量Mwは40万、分子量分布(Mw/Mn)は9.5である。
【0234】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、紫外線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマー120質量部(重量平均分子量Mw:1,000、水酸基価:1mgKOH /g、二重結合当量:167)、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad369)を1.0質量部、架橋剤として東ソー社製のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45、固形分濃度:45質量%)を11.1質量部(固形分換算5.0質量部)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(c)の溶液を調製した。
【0235】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤として2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いリビングラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃、重量平均分子量Mwは41万、分子量分布(Mw/Mn)は1.8である。
【0236】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、紫外線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマー120質量部(重量平均分子量Mw:1,000、水酸基価:1mgKOH /g、二重結合当量:167)、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad369)を1.0質量部、架橋剤として東ソー社製のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45、固形分濃度:45質量%)を11.1質量部(固形分換算5.0質量部)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液を調製した。
【0237】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(e)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で20%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(e)の溶液を調製した。分散剤両性分散剤) :2.34部
【0238】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(f)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で10%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(f)の溶液を調製した。
【0239】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(g)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で10%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(g)の溶液を調製した。
【0240】
[粘着剤層の熱抵抗]
粘着剤層2の熱抵抗は、以下の方法により測定した。まず、厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に、乾燥後の厚さが100μmとなるように、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物の溶液を塗布して、100℃の温度で3分間加熱することにより溶剤を乾燥させた後、その粘着剤層の上に、厚さ50μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-50-ZW”)の剥離処理面を重ねて、基材レスの粘着シートを作製した。その後、該粘着シートを23℃の温度で96時間保存して粘着剤層を架橋、硬化させた。続いて、架橋、硬化させた基材レスの粘着シートを長さ150mm、幅50mmの大きさに裁断して、剥離PETライナーを全て剥離した粘着剤層のみの評価サンプルを作製し、その評価サンプルを10枚重ねて総厚さ1mmの粘着剤層のみから成る積層体とし、京都電子工業社製の迅速熱伝導率計“QTM-500(型式)”を用い、ホットワイヤー法により、薄膜測定用ソフトと組み合わせて上記粘着剤層のみから成る積層体の熱伝導率λを測定した。本測定のレファランスには、シリコーン樹脂、石英、ジルコニアを用いた。そして、下記式
【0241】
熱抵抗(K・cm/W)=(L/100)/λ
【0242】
から、粘着剤層2の熱抵抗を算出した。ここで、Lは、実際のダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さ(単位:μm)である。試料数N=3にて測定を行い、その平均値を粘着剤層2の熱抵抗とした。
【0243】
3.接着剤組成物の溶液の調製
ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3用の接着剤組成物として、下記の接着剤組成物3(a)および3(b)の溶液を調製した。
【0244】
(接着剤組成物3(a)の溶液)
汎用ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物3(a)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)54質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、吸水率:1.8%)46質量部、無機フィラーとして日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径0.016μm)32質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0245】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)274質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)5.0質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)1.7質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.1質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(d)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=73.3質量%:14.4質量%:12.3質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して8.6質量%であった。
【0246】
(接着剤組成物3(b)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(b)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)26質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)36質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)25質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)12質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC2050-HLG、平均粒子径:0.50μm)15質量部、アドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)14質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)1質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0247】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-30B-CHN、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:8質量%、重量平均分子量Mw:23万、Tg:-7℃)37質量部、ナガセケムテックス株式会社製のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(商品名:HTR-860P-3CSP、グリシジル(メタ)アクリレート含有量:3質量%、重量平均分子量Mw:80万、Tg:-7℃)9質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.7質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.3質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.03質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(a)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=31.5質量%:42.5質量%:26.0質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して20.5質量%であった。
【0248】
[ダイボンドフィルム(接着剤層)3の80℃でのずり粘度の測定]
接着剤組成物3(a)および3(b)の溶液から形成した各ダイボンドフィルム(接着剤層)3フィルムについて、下記の方法により、80℃でのずり粘度を測定した。
【0249】
剥離ライナーを除去したダイボンドフィルム(接着剤層)3を総厚さが200~210μmとなるように70℃で複数枚貼り合わせて積層体を作製した。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm×10mmの大きさに打ち抜いて測定サンプルとした。続いて、動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、直径8mmの円形アルミプレート治具を装着した後、測定サンプルをセットした。測定サンプルに35℃で5%の歪みを与えながら、昇温速度5℃/分の条件で測定サンプルを昇温しながらずり粘度を測定し、80℃でのずり粘度の値を求めた。
【0250】
4.ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の作製
(実施例1)
厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に乾燥後の粘着剤層2の厚さが7μmとなるように、前記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(a)の溶液を塗布して100℃の温度で3分間加熱することにより溶媒を乾燥させた後に、粘着剤層2上に基材フィルム1(a)の第1層側の表面を貼り合わせ、ダイシングテープ10の原板を作製した。その後、ダイシングテープ10の原板を23℃の温度で96時間保存して粘着剤層2を架橋、硬化させた。
【0251】
次いで、ダイボンドフィルム(接着剤層)3形成用の接着剤組成物3(a)の溶液を準備し、厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが20μmとなるように、前記接着剤組成物3(a)の溶液を塗布して、まず90℃の温度で5分間、続いて140℃の温度で5分間の2段階で加熱することにより溶媒を乾燥させ、剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を作製した。なお、必要に応じ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(例えばポリエチレンフィルム等)を貼り合わせても良い。
【0252】
続いて、前記で作製した剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を、剥離ライナーごと直径335mmの円形にカットし、該ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、剥離ライナーを剥離した前記ダイシングテープ10の粘着剤層2面に貼り合わせた。貼り合わせ条件は、温度23℃、速度10mm/秒、線圧30kgf/cmとした。
【0253】
最後に、直径370mmの円形にダイシングテープ10をカットすることにより、直径370mmの円形のダイシングシート10の粘着剤層2の上中心部に直径335mmの円形のダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a))を作製した。
【0254】
(実施例2~6)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表1~2に示した基材フィルム1(b)~1(f)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(b)~DDF(f))を作製した。
【0255】
(実施例7~10)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを、表2、3に示した厚さに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(g)~DDF(j))を作製した。
【0256】
(実施例11~16)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表3、4に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(g)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(k)~DDF(p))を作製した。
【0257】
(実施例17)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを15μmに変更したこと以外はすべて実施例14と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(q))を作製した。
【0258】
(実施例18)
接着剤樹脂組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(b)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを50μmに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(r))を作製した。
【0259】
(比較例1~3)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表6に示した基材フィルム1(g)~1(i)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(s)~DDF(u))を作製した。
【0260】
(比較例4~6)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを、表6、7に示した厚さに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(v)~DDF(x))を作製した。
【0261】
5.ダイシングテープの評価
上記実施例1~18および比較例1~6で作製したダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(x))を用いて、以下に示す方法で評価を行った。
【0262】
5.1 ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性
まず、半導体ウエハ(シリコンミラーウエハ、厚さ750μm、外径12インチ)Wを準備し、一方の面に市販のバックグラインドテープを貼り付けた。次いで、半導体ウエハWのバックグラインドテープを貼り付けた側と反対面から、株式会社ディスコ製のステルスダイシングレーザソー(装置名:DFL7361)を使用し、割断後の半導体チップ30aの大きさが4.7mm×7.2mmのサイズとなるように、格子状のダイシング予定ラインに沿って、以下の条件にて、レーザー光を照射することにより、半導体ウエハWの所定の深さの位置に改質領域30bを形成した。
【0263】
・レーザー照射条件
(1)レーザー発振器型式:半導体レーザー励起Qスイッチ固体レーザー
(2)波長:1342nm
(3)発振形式:パルス
(4)周波数:90kHz
(5)出力:1.7W
(6)半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0264】
次いで、株式会社ディスコ製のバックグラインド装置(装置名:DGP8761)を使用し、バックグラインドテープに保持された当該改質領域30bが形成された厚さ750μmの半導体ウエハWを研削、薄膜化することにより、厚さ30μmの個片化された半導体チップ30aを得た。続いて、以下の方法によりクールエキスパンド工程を実施することで、ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性を評価した。具体的には、厚さ30μmの半導体チップ30aのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対面に、各実施例および比較例で作製したダイシングダイボンドフィルム20から剥離ライナーを剥離することによって露出させたダイボンドフィルム3が密着するように、株式会社ディスコ製のラミネート装置(装置名:DFM2800)を使用し、当該半導体チップ30aに対してダイシングダイボンドフィルム20をラミネート温度70℃、ラミネート速度10mm/秒の条件にて貼り合わせるとともに、ダイシングテープ10の外縁部の粘着剤層2露出部にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けた後、バックグラインドテープを剥離した。なお、ここで、ダイシングダイボンドフィルム20は、その基材フィルム1のMD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの縦ライン方向(基材フィルム1のTD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの横ライン方向)とが一致するように、半導体チップ30aに貼り付けられている。
【0265】
上記リングフレーム(ウエハリング)40に保持された半導体チップ30aを含む積層体(半導体ウエハ30/ダイボンドフィルム3/粘着剤層2/基材フィルム1)を株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)に固定した。次いで、以下の条件にて、半導体チップ30aを伴うダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10(粘着剤層2/基材フィルム1)をクールエキスパンドすることによって、ダイボンドフィルム3を割断した。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3付き半導体チップ30aを得た。なお、本実施例では、下記の条件にてクールエキスパンド工程を実施したが、基材フィルム1の物性および温度条件等によってエキスパンド条件(「エキスパンド速度」および「エキスパンド量」等)を適宜調整した上でクールエキスパンド工程を実施すればよい。
【0266】
・クールエキスパンド工程の条件
温度:-15℃、冷却時間:80秒、
エキスパンド速度:300mm/秒、
エキスパンド量:11mm、
(4)待機時間:0秒
【0267】
クールエキスパンド後のダイボンドフィルム(接着剤層)3について、半導体チップ30aの表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察することによって、割断性を確認した。割断予定の辺のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、割断予定の辺の総数と未割断の辺の総数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断された辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。上記光学顕微鏡による観察は、ダイボンドフィルム3の全面に対して行った。以下の基準に従って、ダイボインドフィルム(接着剤層)3の割断性を評価し、B以上の評価を割断性が良好と判断した。
【0268】
A:割断率が95%以上100%以下であった。
B:割断率が90%以上95%未満であった。
C:割断率が85%以上90%未満であった。
D:割断率が85%未満であった。
【0269】
5.2 ヒートシュリンク工程後におけるダイシングテープ10の弛み解消の度合いの評価
上記クールエキスパンド状態を解除した後、再度、株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)を用い、そのヒートエキスパンダーユニットにて、以下の条件にて、常温エキスパンド工程を実施した。
【0270】
・常温エキスパンド工程の条件
温度:23℃、
エキスパンド速度:30mm/秒、
エキスパンド量:9mm、
(4)待機時間:15秒
【0271】
次いで、エキスパンド状態を維持したまま、ダイシングテープ10を吸着テーブルで吸着させ、吸着テーブルによるその吸着を維持した状態で吸着テーブルをワークとともに下降させた。そして、以下の3条件にて、ヒートシュリンク工程を実施し、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させた。ダイシングテープ10の加熱部分の表面温度は80℃であった。
【0272】
・ヒートシュリンク工程の条件
[条件1]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:7°/秒、
【0273】
[条件2]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:8°/秒、
【0274】
[条件3]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:9°/秒、
【0275】
続いて、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した後、ワークをエキスパンド装置から取り外し、平面状のゴムマットの上に置いて、加熱収縮(ヒートシュリンク)後のダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分における弛みの解消の度合いを、三波長蛍光灯の下、目視にて確認した。以下の基準に従って、ダイシングテープ10のそれぞれについて弛みの解消の度合いを評価し、B以上の評価を熱収縮性が均一で良好であると判断した。
【0276】
A:弛みが確認されなかった。
B:シワ状の弛みがごく一部に確認されたが軽微であった。
C:シワ状の弛み、あるいは変形シワが明確に確認された。
【0277】
5.3 ダイシングテープ10のカーフ幅の保持性の評価
上記のヒートシュリンク工程後に、ワークをエキスパンド装置から取り外し、隣り合う半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を、半導体ウエハ30の表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察、測定することにより、ダイシングテープ10のカーフ幅の保持性について評価した。
【0278】
具体的には、図11に示す半導体ウエハ30の中心部31における隣接する4つの半導体チップ30aで形成される一つの割断十字ライン部の4ヶ所(基材フィルム1のMD方向:カーフMD1とカーフMD2の2ヶ所、基材フィルム1のTD方向:カーフTD1とカーフTD2の2ヶ所、図12参照)、左部32における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD3~カーフMD5の3ヶ所、TD方向:カーフTD3~カーフTD6の4ヶ所、図示せず)、右部33における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD6~カーフMD8の3ヶ所、TD方向:カーフTD7~カーフTD10の4ヶ所、図示せず)、上部34における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD9~カーフMD12の4ヶ所、TD方向:カーフTD11~カーフTD13の3ヶ所、図示せず)、および下部35における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD13~カーフMD16の4ヶ所、TD方向:カーフTD14~カーフTD16の3ヶ所、図示せず)の計32ヶ所(MD方向において16ヶ所、TD方向において16ヶ所)について、隣り合う半導体チップ30a間の離間距離を測定し、MD方向16ヶ所の平均値をMD方向カーフ幅、TD方向16ヶ所の平均値をTD方向カーフ幅としてそれぞれ算出した。以下の基準に従って、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10のカーフ幅の保持性を評価し、B以上の評価をカーフ幅の保持性が良好と判断した。
【0279】
A:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれの値も30μm以上であった。
B:MD方向カーフ幅の値が30μm以上、TD方向カーフ幅の値が25μm以上30μm未満であるか、あるいは、TD方向カーフ幅の値が30μm以上、MD方向カーフ幅の値が25μm以上30μm未満であるか、あるいは、MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれの値も25μm以上30μm未満である、のいずれかであった。
C:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれかの値が25μm未満であった。
【0280】
5.5 評価結果
実施例1~18および比較例1~6で作製した各ダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(x))の態様にて上記実装評価を行った結果を、ダイシングテープ10とダイシングダイボンドフィルム20の構成および使用した基材フィルム1と粘着剤層2の特性等と合わせて表1~7に示す。
【0281】
【表1】
【0282】
【表2】
【0283】
【表3】
【0284】
【表4】
【0285】
【表5】
【0286】
【表6】
【0287】
【表7】
【0288】
表1~5に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1および粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した実施例1~18のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(r))は、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム20の割断性が良好であり、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることが抑制されるとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、熱風を吹き出す際にステージの回転速度を早くしてタクトタイムを短縮化した場合においても、ダイシングテープ10の弛み部分を均一に加熱収縮させることが可能であり、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、エキスパンド時に広げられたカーフ幅が保持されていることが確認できた。したがって、本発明のダイシングテープ10は、ダイボンドフィルム付き半導体チップおよび半導体装置を製造するための半導体製造工程に供した場合、それらを歩留まり良く製造することができる。
【0289】
これに対し、表6、7に示すように、基材フィルム1の物性値および粘着剤層2の熱抵抗の要件の少なくともいずれかを満たさないダイシングテープ10を用いて作製した比較例1~6のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(s)~DDF(x))については、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断性、ヒートシュリンク工程におけるダイシングテープ10の弛み解消の度合いおよびカーフ幅の保持性の評価のいずれかの項目において実施例1~18のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(r))よりも劣る結果であることが確認された。
【符号の説明】
【0290】
1…基材フィルム、
2…粘着剤層、
3、3a1、3a2…ダイボンドフィルム(接着剤層)、
4…半導体チップ搭載用支持基板、
5…外部接続端子、
6…端子、
10…ダイシングテープ、
20…ダイシングダイボンドフィルム、
W、30…半導体ウエハ、
30a、30a1、30a2…半導体チップ、
30b…改質領域(図7(c)~(f)、図8(a)、(b)では割断領域)、
31…半導体ウエハ中心部、
32…半導体ウエハ左部、
33…半導体ウエハ右部、
34…半導体ウエハ上部、
35…半導体ウエハ下部、
40…リングフレーム(ウエハリング)、
41…保持具、
50…吸着コレット、
60…突き上げピン(ニードル)、
70、80…半導体装置、
71、81…半導体チップ搭載用支持基板
72…外部接続端子、
73…端子、
74、84…ワイヤ、
75、85…封止材、
76…支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程で使用することのできるダイシングテープに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、ダイシングテープ、又は該ダイシングテープとダイボンドフィルムとが一体化されたダイシングダイボンドフィルムが使用される。
【0003】
ダイシングテープは、基材フィルム上に粘着剤層が設けられた構造を有しており、半導体ウエハのダイシング時にダイシングにより個片化された半導体チップが飛散しないよう固定保持する用途に用いられる。個片化された半導体チップは、その後、ダイシングテープの粘着剤層から剥離され、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0004】
ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層上にダイボンドフィルム(以下、「接着剤層」と称する場合がある)が剥離可能に設けられたものである。半導体装置の製造においては、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハが貼合される。半導体ウエハ及びダイボンドフィルムは、その後、分割され、ダイシングテープの粘着剤層から剥離(ピックアップ)され、ダイボンドフィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0005】
半導体ウエハを分割する方法として、従来、高速回転するダイシングブレードによるフルカット切断方法が行われていた。しかしながら、近年では、半導体ウエハが薄膜化し、切断時の欠けを防止することを目的として、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)と呼ばれる方法が行われている。
【0006】
この方法では、例えば、まず、半導体ウエハのダイシング予定ラインにレーザー光を照射して、半導体ウエハを完全に切断せずに、半導体ウエハの表面から所定の深さの改質領域を形成し、その後、研削量を適宜調整しながら裏面研削を行うことにより、複数の半導体チップに個片化する。その後、個片化された半導体チップをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、低温下(例えば、-30℃~0℃)にてダイシングテープをエキスパンド(以下、「クールエキスパンド」と称する場合がある)することにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルムを個々の半導体チップの形状に従い割断する。次いで、ダイシングテープを常温付近でエキスパンド(以下、「常温エキスパンド」と称する場合がある)して隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(以下、「カーフ幅」と称する場合がある)を広げ、最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離することで、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
【0007】
しかしながら、上記SDBGによる方法では、使用するダイシングテープの性能によっては、上記常温エキスパンド工程のエキスパンド量の上昇に伴い、ダイシングテープのエキスパンドリングで突き上げられた部分が伸び、常温エキスパンド後に拡張テーブルを降下させてエキスパンド状態を解除した際に当該部分に弛みが生じてしまい、弛みを放置すると、隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(カーフ幅)が狭められたり、不均一になったりして、常温エキスパンド直後のカーフ幅を十分に維持できないという問題が生じる場合があった。カーフ幅が十分に維持されない場合、後のピックアップ工程において、ダイシングテープの粘着剤層からダイボンドフィルム付き半導体チップを適切にピックアップできないことがあり、例えば、半導体チップのピックアップ時に、当該半導体チップとそれに隣接する半導体チップおいてチップ間接触に起因する損傷や接着剤層同士の接触に起因する再癒着等が生じ、ピックアップ歩留まりが低下することがある。
【0008】
そこで、上記問題を解決する方法として、エキスパンドによってダイボンドフィルム(接着剤層)を割断し、エキスパンド状態を解除した後に、ダイシングテープの弛んだ部分を加熱することにより収縮させ、隣接するダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(カーフ幅)を保持する方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【0009】
特許文献1では、ダイシングテープのたるみを取り除くことが可能で、半導体チップ同士の接触を防止できるダイシングテープを提供することを目的に、ダイボンドフィルムと、ダイボンドフィルム上に配置された積層部及び積層部の周辺に配置された周辺部を備えるダイシングテープとを備え、周辺部の130℃~160℃における収縮率が0.1%以上であるダイシング・ダイボンドフィルムが開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、たるみを取り除くことが可能で、半導体素子同士の接触を防止できるダイシングシートを提供することを目的に、100℃で1分加熱することにより収縮し、加熱前のMD方向の第1長さ100%に対して加熱後のMD方向の第2長さは95%以下であるダイシングシートが開示されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、熱収縮率が低く、テープの方向によらず均一に収縮することで、シワが入らず、またチップ位置がずれることなく、カーフ幅が均一に拡張する半導体加工用テープを提供することを目的に、100℃において10秒間加熱した時のテープの長手方向および幅方向の双方の熱収縮率が0%以上20%以上であり、かつ、長手方向および幅方向の熱収縮率のいずれかが0.1%以上であるとき、長手方向の熱収縮率/幅方向の熱収縮率=0.01以上100以下であることを特徴とする半導体加工用テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-211081号公報
【特許文献2】特開2016-115775号公報
【特許文献3】国際公開第2016/152957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、常温エキスパンドにより生じたダイシングテープの弛みを加熱収縮(以下、「ヒートシュリンク」と称する場合がある)により除去する方法としては、一般に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域よりも外側部分の弛みが生じたダイシングテープに対して、一対の熱風吹き出しノズルを周回させることによって、該ダイシングテープの粘着剤層面側から熱風を当てて加熱し収縮させる方法が用いられる。このヒートシュリンク工程を用いた方法により、ダイシングテープの外側部分より内側の領域(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域)は、所定程度の張力が作用する緊張状態に至るので、常温エキスパンドした際に形成、確保されていた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を保持することができる。そうすると、後のピックアップ工程において、ダイシングテープの粘着剤層から、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを隣接する半導体チップと相互干渉させることなく剥離することができ、ダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く得ることができる。
【0014】
上記特許文献1に記載にされたダイシングテープでは、130℃~160℃における収縮率が0.1%以上となっており、たるみの生じたダイシングテープの周辺部に対して収縮を生じさせるためには比較的高い加熱温度と長い加熱時間が必要となっている。そのため、加熱ドライヤー等の熱風が半導体ウエハ外周近傍のダイボンドフィルム(接着剤層)まで影響を及ぼし、ダイボンドフィルムの一部が融解して、割断されたダイボンドフィルム付き半導体チップにおいて、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士の接触に起因する再癒着や半導体チップのエッジ損傷等が生じ、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ歩留まりが低下するおそれがあった。
【0015】
また、上記特許文献2に記載されたダイシングシートでは、100℃で1分加熱することにより収縮し、加熱前のMD方向の第1長さ100%に対して加熱後のMD方向の第2長さは95%以下となっている。さらに、上記特許文献3に記載にされた半導体加工用テープでは、100℃において10秒間加
熱した時のテープの長手方向および幅方向の双方の熱収縮率が0%以上20%以下となっている。しかしながら、熱風吹き出しノズルを周回させて加熱した場合、ダイシングシートや半導体加工用テープの表面付近の温度は徐々に上昇していくため、ダイシングテープや半導体加工用テープの周辺部の全ての箇所のたるみを取り除くためには時間がかかるという問題があった。また、カーフ幅の保持性においても、十分であるとは言えない場合があった。
【0016】
そこで、本発明は、ダイボンドフィルム付き半導体チップを歩留まり良く製造する上で、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることを可能とし、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度に、カーフ幅を十分に保持することができるダイシングテープを提供することを目的とする。また、別の目的とするところは、該ダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態を以下に記載する。
[形態1]
基材フィルムと、該基材フィルム上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層と、を備えたダイシングテープであって、
前記基材フィルムは、MD方向において、
(1)9MPa以上18MPa以下の23℃における100%延伸時の引張強度、
(2)50%以上の、式
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A)]×100 (1)
(式中、Aは、基材フィルムを23℃において100%延伸した時の引張荷重であり、Bは、基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後の引張荷重である。)
で表される、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および
(3)20%以上の、式
100%延伸100秒保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100 (2)
(式中、Cは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した時の該標線の間隔であり、Dは、所定の間隔で標線が付された基材フィルムを23℃において100%延伸し、その状態のまま100秒間保持した後に、テンションフリーの状態で80℃の温度雰囲気で60秒間加熱して収縮させた後の該標線の間隔である。)
で表される、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率、
を有し、
前記粘着剤層は、
0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する、ダイシングテープ。
【0018】
[形態2]
前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである、形態1に記載のダイシングテープ。
【0019】
[形態3]
前記粘着剤層は、0.35K・cm/W以下の熱抵抗を有する、形態1又は2に記載のダイシングテープ。
【0020】
[形態4]
前記粘着剤層は、
(1)光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(2)前記(1)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
(3)官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、および、
(4)前記(3)の粘着剤組成物に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
から成る群から選ばれるいずれか一つの活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する、形態1~3のいずれか一つに記載のダイシングテープ。
【0021】
[形態5]
形態1~4のいずれか一つのダイシングテープを使用する、半導体チップおよび半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、ダイシングテープを従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが可能となるため、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、広げたカーフ幅を十分に保持することができ、その結果、ダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップ性に優れたダイシングテープが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルムの構成の一例を示した断面図である。
図2】本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
図3】本実施の形態が適用されるダイシングテープをダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
図4】ダイシングテープの製造方法について説明したフローチャートである。
図5】半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。
図6】ダイシングダイボンドフィルムの外縁部にリングフレーム(ウエハリング)、ダイボンドフィルム中心部に個片化された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した斜視図である。
図7】(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
図8】(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の割断された薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
図9】本実施の形態が適用されるダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図10】本実施の形態が適用されるダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図11】エキスパンド後における半導体チップ間の間隔(カーフ幅)の測定方法を説明するための平面図である。
図12図11における半導体ウエハの中心部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
<ダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムの構成>
図1の(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルム1の構成の一例を示した断面図である。本実施の形態のダイシングテープの基材フィルム1は単一の樹脂組成物の単層(図1の(a)1-A参照)であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体(図1の(b)1-B参照)であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体(図1の(c)1-C、(d)1-D参照)であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
図2は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。図2に示すように、ダイシングテープ10は、基材フィルム1の第1面の上に粘着剤層2を備えた構成を有している。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)には、離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。
【0027】
基材フィルム1は、MD方向において、(1)9MPa以上18MPa以下の範囲の23℃における100%延伸時の引張強度、(2)50%以上の23℃における100%延伸100秒保持後の応力緩和率、および(3)20%以上の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率、を有する。
【0028】
本明細書における「MD(Machine Direction)方向」とは、基材フィルム1の製膜時における流れ(長さ)方向を意味する。
【0029】
また、本発明における「100%延伸」とは、基材フィルム1を延伸前の長さの2倍の長さになるまで延伸することである。具体的には、例えば、引張圧縮試験機を用いて、基材フィルム1の試験片の長手(MD)方向の両端をチャック間の初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、該チャック間距離が100mmとなるまで基材フィルム1の試験片を引っ張り、延伸することを意味する。
【0030】
さらに、本発明における「100%延伸100秒間保持後の応力緩和率」とは、23℃の温度条件で基材フィルム1を100%延伸した時点の引張荷重(応力)値に対する、100%延伸時から、該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重(応力)値までの減少量の割合である。すなわち、基材フィルム1のMD方向において、23℃の温度条件で100%延伸した時の引張荷重(応力)値をA、23℃の温度条件で100%延伸し、該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重(応力)値をBとした時に、下記式
【0031】
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A]×100
【0032】
から算出される値のことを言う。基材フィルム1が延伸される方向は、MD方向であり、基材フィルム1の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は50%以上であればよい。なお、本明細書において、上記「23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率」を、単に「応力緩和率」と称する場合がある。
【0033】
またさらに、本発明における「100%延伸100秒間保持後の熱収縮率」とは、23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した基材フィルム1を、テンションフリーの状態にして80℃で加熱した際の、加熱前の基材フィルム1のある長さ部分に対する、加熱により収縮した長さの割合である。すなわち、基材フィルム1のMD方向において、所定の間隔で2本の標線が付された基材フィルム1を23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した時の該標線の間隔をC、所定の間隔で2本の標線が付された基材フィルム1を23℃において100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後に、テンションフリーの状態で80℃の温度雰囲気で60秒間加熱して収縮させた後の該標線の間隔をDとした時に、下記式
【0034】
100%延伸100秒間保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100
【0035】
から算出される値のことを言う。基材フィルム1が延伸される方向は、MD方向であり、基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率は20%以上であればよい。なお、本明細書において、上記「80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率」を、単に「熱収縮率」と称する場合がある。
【0036】
本発明のダイシングテープ10は、上記基材フィルム1上に活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2を備えるが、上記粘着剤層2は、0.91K・cm/W以下の熱抵抗を有する。
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、例えば、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する性質を有する。
【0037】
本発明における粘着剤層2の「熱抵抗」とは、ダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さをL(μm)、粘着剤層2を総厚さが1mmとなるように積層した粘着剤層のみから成る積層体を作製し、京都電子工業社製の迅速熱伝導率計“QTM-500(型式)”)を用いてホットワイヤー法により測定した該積層体の熱伝導率をλ(W/m・K)とした時に、下記式
【0038】
熱抵抗(K・cm/W)=(L/100)/λ
【0039】
から算出される値のことを言う。上記粘着剤層2の熱抵抗は、その値が小さければ小さい程、粘着剤層2の熱伝導性がより良好であることを意味する。すなわち、上述したようにダイシングテープ10のヒートシュリンク工程においては、弛みが生じたダイシングテープ10の粘着剤層2面側から熱風を当てて加熱し収縮させる方法が用いられるが、上記粘着剤層2の熱抵抗の値が小さければ小さい程、加えられた熱を粘着剤層2から基材フィルム1に、より効率的に伝えることができるため、短時間で基材フィルム1を均一かつ十分に加熱収縮させるのに好都合である。
【0040】
かかる構成のダイシングテープ10は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングテープ10の粘着剤層2上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着剤層)を介して貼り付けて保持(仮固定)し、クールエキスパンドにより、ダイボンドフィルムを個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断した後、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程により半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張し、その後のピックアップ工程において、ダイシングテープの下面側から治具を突き上げることにより、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム付き半導体チップは、該ダイボンドフィルムにより、リードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着される。
【0041】
図3は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10をダイボンドフィルム(接着剤層)3と貼り合わせて一体化した構成、いわゆるダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。図3に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層された構成を有している。
【0042】
かかる構成のダイシングダイボンドフィルム20は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハ又はレーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハに対して裏面研削して得られる、複数の個片化された半導体チップを貼り付けて保持(接着)し、クールエキスパンドにより、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3を個片化された個々の半導体チップの形状に従って割断し、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得る。次いで、常温エキスパンドおよびヒートシュリンク工程によりダイボンドフィルム付き半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張した後、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム(接着フィルム)3付き半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着フィルム)3を介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)およびダイボンドフィルム3の表面(粘着剤層2に対向する面とは反対側の面)には、それぞれ離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えて使用の際に適宜剥離しても良い。
【0043】
<ダイシングテープ>
(基材フィルム)
本発明のダイシングテープ10における第一の構成要件を備える基材フィルム1について、以下説明する。
【0044】
[基材フィルムの引張強度]
上記基材フィルム1は、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲である。
【0045】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa未満である場合、ダイシングテープ10にエキスパンドにより外部応力を加えてもダイボンドフィルム3に十分に伝わらないため、クールエキスパンド工程においてダイボンドフィルム3が良好に割断されないおそれがある。また、上記引張強度が過度に小さいと、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができないおそれや、ダイシングテープ10が軟質となり、取扱が困難となるおそれがある。
【0046】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が18MPaを超える場合、上記引張強度が過度に大きいと、ダイシングテープ10のエキスパンドが困難となるおそれがある。また、基材フィルム1の剛性が大きくなり、ピックアップ性が劣るおそれがある。
【0047】
上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にあることで、ダイシングテープ10は、良好なエキスパンド性を有する。すなわち、クールエキスパンド工程において、後述する活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2上に密着しているダイボンドフィルム3を割断するのに十分な外部応力をダイボンドフィルム3に与えることができるとともに、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができる。エキスパンド性の観点から、上記基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度は、11MPa以上16MPa以下の範囲であることがより好ましい。
【0048】
[基材フィルムの応力緩和率]
上記基材フィルム1は、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にある一方で、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は50%以上となっている。これにより、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に基材フィルム1に発生した応力が十分に低い値まで早期に減少するため、上記の適切な範囲の引張強度により、常温エキスパンド時に十分に広げられた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)に該当するダイシングテープのみの部分(ダイボンドフィルム付き半導体チップが存在しない部分)において、エキスパンド状態が解除された際に弾性により縮もうとする力が低減、緩和される。その結果、次工程に移る時や保管中にエキスパンド状態が解除されることがあっても、カーフ幅は多少の縮みは発生するものの、元の間隔から過度に縮むことはなく、比較的、保持されやすい。また、チップに付着した接着剤層同士が接触することも防止しやすい。カーフ幅の保持性の観点から、上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率は、55%以上が好ましい。
【0049】
上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率の上限値については、基材フィルム1が適度な剛性を有し、複数の個片化された半導体チップを安定的にダイシングダイボンドフィルム20に貼り付けて積層できるようにする観点、および加熱した際の引っ張り(延伸)に対する一定の復元力を確保する観点から、70%であることが好ましく、65%であることがより好ましい。
【0050】
[基材フィルムの熱収縮率]
さらに、上記基材フィルム1は、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率が20%以上となっている。これにより、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分に生じた弛みに対して、熱風を吹き付けることで、その弛みを解消・除去しやすくすることができる。その結果、ダイシングテープ10の外側部分より内側の領域(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ(ダイ)が貼着された領域)は、所定程度の張力が作用する緊張状態に至るので、常温エキスパンドした際に形成、確保されていた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を保持することができる。
【0051】
上記基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率の上限値については、上記基材フィルム1の100%延伸100秒後の応力緩和率とのバランスの観点から、35%であることが好ましく、30%であることがより好ましい。
【0052】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物]
上記基材フィルム1は、上記特性、すなわち、引張強度、応力緩和率および熱収縮率を同時に満たすものであればその材質や形態は特に限定されないが、好ましい一実施形態として、具体的には、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)(以下、単に「アイオノマーから成る樹脂」あるいは「アイオノマー」と称する場合がある)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムが挙げられる。上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、該不飽和カルボン酸が有するカルボキシル基の少なくとも一部が、金属(イオン)で中和された熱可塑性架橋樹脂であり、熱可塑性非架橋樹脂であるポリアミド樹脂(PA)と比較して、樹脂フィルム化した場合、延伸に対する加熱時の復元力が大きく、常温エキスパンド工程により延伸された状態に熱を加えた際に、エントロピー弾性が強く働き、その収縮応力は大きいものとなる。したがって、常温エキスパンド工程後に、割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分のダイシングテープ10に生じた弛みを加熱収縮によって除去し、ダイシングテープ10をその収縮応力により緊張させて、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を安定に保持する点で優れる。その一方で、常温においては、アイオノマー中の網目構造を持たない部分に起因する適度な塑性変形のし易さ、すなわち適度な応力緩和性も持ち合わせる。したがって、(1)クールエキスパンド工程後、一度エキスパンド状態が解除され、常温に戻された時、(2)常温エキスパンド工程直後、(3)その後のピックアップ工程、マウント工程等に移行する時や保管する時等において、ダイシングテープ10が収縮しにくい傾向があるため、カーフ幅の縮小や半導体チップに付着した接着剤層同士が接触することを防止できる点で優れる。これに対し、熱可塑性非架橋樹脂であるポリアミド樹脂(PA)は、熱可塑性架橋樹脂であるアイオノマーと比較して、樹脂フィルム化した場合、延伸に対する復元力が小さいが、引張強度は大きいものとなる。したがって、上記アイオノマーから成る樹脂に混合して樹脂フィルム化した場合、エキスパンド工程において加えられた外部応力の伝達が良好で、ダイボンドフィルム3の割断性やダイシングテープ10のカーフ幅の拡張性をより向上させる点で優れる。また、加熱収縮性を維持しながら適度な耐熱性も付与できるので、ヒートシュリンク工程において加熱した際に、ダイシングテープ10が必要以上に熱変形することも抑制できる。したがって、加熱収縮後にダイシングテープ10において、熱シワのような変形が低減された均一な緊張状態を実現でき、カーフ幅のバラツキを抑制できる点でも優れる。
【0053】
基材フィルム1の材質として、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とを含む混合樹脂を用いた場合、基材フィルム1の物性は、加熱収縮性と応力緩和性とをバランス良く持ち合わせるとともに、その両特性を維持したまま、適度な引張強度も併せ持ったものとなる。これらの樹脂組成物を用いて製膜された樹脂フィルムを基材フィルム1として好適に供することができる。
【0054】
上記基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との合計量は、上記の基材フィルム1の引張強度、応力緩和率および熱収縮率が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、少なくとも65質量%以上の割合で占めることが好ましい。より好ましくは75質量、更に好ましくは85質量%であり、特に好ましくは、その割合の上限値となる100質量%である。
【0055】
このような構成の基材フィルム1を用いたダイシングテープ10は、その粘着剤層2上にダイボンドフィルム3が密着された形態において、半導体装置の製造工程のクールエキスパンド工程さらには常温エキスパンド工程で使用するのに好適である。すなわち、クールエキスパンド工程により、すでに個片化された半導体チップ個々の形状に従い、ダイボンドフィルムを良好に割断させて、所定のサイズの個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップを歩留まり良く得るのに好適である。さらに、常温エキスパンド工程においても、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保する上で必要な延伸性を維持する。
【0056】
[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)]
本実施の形態の基材フィルム1において、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)は、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のカルボキシル基の一部、または全てが金属(イオン)で中和されたものである。
【0057】
上記アイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸アルキルエステルとが共重合した少なくとも三元の共重合体であり、さらに第4の共重合成分が共重合した四元以上の多元共重合体であってもよい。なお、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体は、一種単独で用いてもよく、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体を併用してもよい。
【0058】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数が4~8の不飽和カルボン酸等が挙げられる。特に、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0059】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体を構成する不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル(アクリル酸2-メチル-プロピル)、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル(メタアクリル酸2-メチル-プロピル)、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のアルキル部位の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、アルキル部位の炭素数が1~4の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。ダイシングテープ10のエキスパンド時におけるネッキング現象の抑制を含めた均一拡張性の観点から、特に、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル(アクリル酸2-メチル-プロピル)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル(メタアクリル酸2-メチル-プロピル)等が好ましい。
【0060】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系三元共重合体が四元以上の多元共重合体である場合、前記三元共重合体を構成するエチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸アルキルエステル以外に、多元共重合体を形成する第4の共重合成分を含んでもよい。第4の共重合成分としては、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0061】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、三元共重合体、四元共重合体のいずれでもよい。中でも、工業的に入手可能な点で、三元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、より好ましくは三元ランダム共重合体である。
【0062】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の具体例としては、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸2-メチル-プロピル共重合体、エチレン・メタクリル酸・メタクリル酸エチル等の三元共重合体が挙げられる。また、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体として上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレルシリーズ(登録商標)等を使用することができる。
【0063】
上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体中における、不飽和カルボン酸エステルの共重合比(質量比)は、1質量%~20質量%の範囲であることが好ましく、エキスパンド工程における延伸性、および耐熱性(ブロッキング、融着)の観点から、5質量%~15質量%の範囲であることがより好ましい。
【0064】
本実施の形態の基材フィルム1において、樹脂(IO)として用いるアイオノマーは、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体に含まれるカルボキシル基が金属イオンによって任意の割合で架橋(中和)されたものが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。これら金属イオンの中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
【0065】
上記アイオノマーにおけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の中和度は、10モル%以上85モル%以下の範囲であることが好ましく、15モル%以上82モル%以下の範囲であることがより好ましい。前記中和度を10モル%以上とすることで、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハの割断性をより向上することができ、85モル%以下とすることで、フィルムの製膜性をより良好とすることができる。なお、中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体の有する酸基、特にカルボキシル基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)である。
【0066】
上記アイオノマーから成る樹脂(IO)は、約85~100℃程度の融点を有するが、該アイオノマーから成る樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることが好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることがより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下の範囲であることが更に好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、基材フィルム1としての製膜性が良好となる。なお、MFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0067】
本実施の形態の基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、上述したエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の他に、後述するポリアミド樹脂(PA)を更に含む。基材フィルム1において、上述した引張強度、応力緩和率および熱収縮率の物性をバランス良く安定して発現させる観点から、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)は、特に限定されないが、72:28~95:5の範囲であることが好ましい。より好ましくは74:26~92:8の範囲、更に好ましくは80:20~90:10の範囲である。なお、本明細書の数値範囲の上限、および下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。アイオノマーから成る樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を上記範囲となるように混合した樹脂組成物により基材フィルム1を構成することで、該基材フィルム1の耐熱性を向上させることができるのみならず、低温下(例えば、-15℃)において伸張した際の引張応力をも増大させることができ、該基材フィルム1を用いたダイシングテープ10に対して、クールエキスパンド工程においては、ダイボンドフィルム3付き半導体ウエハを歩留まり良く個片化し得る良好な割断力を付与でき、さらには常温エキスパンド工程においては、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保し得る良好な引張強度、延伸性および応力緩和性を維持でき、ヒートシュリンク工程においては、拡張された該カーフ幅を維持し得る良好な熱収縮性を付与できる。
【0068】
[ポリアミド樹脂(PA)]
上記ポリアミド樹脂(PA)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、あるいは前記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合等が挙げられる。
【0069】
上記ポリアミド樹脂(PA)は、市販品を使用することもできる。具体的には、ナイロン4(融点268℃)、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン46(融点240℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン610(融点222℃)、ナイロン612(融点215℃)、ナイロン6T(融点260℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点175℃)、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610など)、ナイロンMXD6(融点237℃)、ナイロン46等が挙げられる。これらポリアミドの中でも、基材フィルム1としての製膜性および機械的特性の観点から、ナイロン6やナイロン6/12が好ましい。
【0070】
上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、特に限定されないが、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と前記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が72:28~95:5の範囲となる量であることが好ましい。上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲未満の場合、基材フィルム1のエキスパンド時の引張強度の増大の効果が不十分となるおそれがある。一方、上記ポリアミド樹脂(PA)の質量比率が上記範囲を超える場合、基材フィルム1の樹脂組成物によっては安定な製膜が困難となるおそれや、ヒートシュリンク工程における熱収縮性が不十分となるおそれがある。また、基材フィルム1の柔軟性が損なわれ、常温エキスパンド工程における延伸性が維持できないおそれや、ダイボンドフィルム3付き半導体チップをピックアップする際に、半導体チップの割れ等によるピックアップ不良が発生するおそれがある。上記ポリアミド樹脂(PA)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率(IO):(PA)が74:26~92:8の範囲となる量であることがより好ましく、80:20~90:10の範囲となる量であることが更に好ましい。
【0071】
なお、基材フィルム1が複数層から成る積層体である場合、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)との質量比率とは、各層におけるエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)との質量比率と、基材フィルム1(積層体)全体における各層の質量比率とから計算される基材フィルム1(積層体)全体における値を意味する。
【0072】
[その他の成分]
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤が添加されてもよい。上記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体等のエチレン共重合体、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体やポリエーテルエステルアミドを挙げることができる。このようなその他の樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る樹脂熱可塑性架橋(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば20質量部の割合で配合することができる。また、上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材等を挙げることができる。このような各種添加剤は、上記エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)と上記ポリアミド樹脂(PA)の合計100質量部に対して、例えば5質量部の割合で配合することができる。
【0073】
[基材フィルムを構成する樹脂組成物のビカット軟化点]
上記基材フィルム1が単一の樹脂組成物の単層あるいは同一樹脂組成物の複数層から成る積層体により構成される場合、該樹脂組成物のビカット軟化点は、特に限定されないが、熱収縮性の観点からは、57℃以上80℃未満の範囲であることが好ましい。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点が上記範囲にあることで、常温エキスパンド時に延伸された基材フィルム1は、ヒ-トシュリンク工程において、例えば、弛み部分の表面温度が約80℃となるように熱風を吹きかけられた際に、エントロピー弾性が強く働き、延伸・配向された分子が元の状態に戻りやすくなり、十分な熱収縮性を示すことが容易となる。その結果、ダイシングテープ10の弛みを解消してカーフ幅を保持することが容易となる。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点は、より好ましくは60℃以上75℃以下の範囲であり、更に好ましくは61℃以上70℃以下の範囲である。基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点が57℃未満である場合には、特にその値が過度に低いと、基材フィルム製膜時やダイシングテープ製造時にブロッキングを起こすおそれがある。ヒートシュリンク工程において、加熱の際に樹脂が過剰に軟化し、流動化してしまうため、ダイシングテープ10が必要以上に変形してしまうおそれがある。基材フィルム1の上記樹脂生物のビカット軟化点が80℃以上である場合には、特にその値が過度に高いと、常温エキスパンド時に延伸された基材フィルム1は、例えば、弛み部分の表面温度が約80℃となるように熱風を吹きかけられた際に、延伸・配向された分子が元の状態に戻りにくくなり、ダイシングテープ10の弛みが十分に解消されず、カーフ幅を保持することが困難となるおそれがある。なお、基材フィルム1の上記樹脂組成物のビカット軟化点は、例えばJIS K7206に準拠した方法で測定することができる。
【0074】
上記基材フィルム1が異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体により構成される場合、熱収縮性の観点からは、各層を構成するいずれの樹脂組成物もそのビカット軟化点は57℃以上80℃未満の範囲であることが好ましいが、ビカット軟化点が57℃以上80℃未満である樹脂組成物から構成される層の質量が、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、少なくとも65質量%以上の割合で占めていればよく、残りの35質量%以下の質量割合を占める層の樹脂組成物のビカット軟化点は、57℃未満あるいは80℃以上であってもよい。例えば、残りの35質量%以下の質量割合を占める層の樹脂組成物のビカット軟化点は、40℃以上57℃未満あるいは80℃以上85℃以下の範囲であってもよい。
【0075】
[基材フィルムの厚さ]
上記基材フィルム1の厚さは、特に限定されないが、ダイシングテープ10として用いることを考慮すると、例えば、60μm以上150μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは70μm以上120μm以下の範囲である。基材フィルム1の厚さが60μm未満であると、ダイシングテープ10をダイシング工程に供する際に、リングフレーム(ウエハリング)の保持が不十分となるおそれがある。また基材フィルム1の厚さが150μmより大きいと、基材フィルム1の製膜時の残留応力の開放による反りが大きくなるおそれがある。また、基材フィルム1やダイシングテープ10としてロール状に長尺巻き取った際に、巻き芯部に段差痕が生じるおそれがある。
【0076】
[基材フィルムの構成]
上記基材フィルム1の構成は、特に限定されず、単一の樹脂組成物の単層であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましく、2層もしくは3層がより好ましい。
【0077】
上記基材フィルム1を複数層から成る積層体とする場合、例えば、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物を用いて製膜される層が複数積層された構成であってもよいし、本発明の効果を妨げない範囲において、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物を用いて製膜される層に、本実施の好適な形態として例示した上述の樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いて製膜される層が積層された構成であってもよい。
【0078】
上記他の樹脂組成物を用いて製膜される層は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー等の樹脂組成物を用いて製膜される層が挙げられる。これらの中でも、本実施の好適な形態のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)を含有した樹脂組成物から成る樹脂層との密着性、基材フィルム1の物性のバランス制御および汎用性の観点からは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体およびこれら共重合体のアイオノマー、エチレン・α-オレフィン共重合体等が好ましい。
【0079】
本実施の形態の基材フィルム1が積層構成からなる場合の例として、具体的には、以下の2層構成や3層構成等の基材フィルムが挙げられる。
【0080】
2層構成としては、具体的には、例えば、
(1)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第2樹脂層](同一樹脂層の2層構成)、
【0081】
(2)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第2のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0082】
(3)[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO)から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0083】
(4)[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(E)から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
【0084】
(5)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)とエチレン・α-オレフィン共重合体(EO)の混合樹脂組成物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合樹脂組成物から成る第2樹脂層](異種樹脂層の2層構成)、
等の同一樹脂層の2層または異種樹脂層の2層から成る2層構成(第1樹脂層/第2樹脂層)等が挙げられる。
【0085】
3層構成としては、具体的には、例えば、
(6)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](同一樹脂層の3層構成)、
【0086】
(7)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[本実施の好適な形態の第2のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0087】
(8)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層)](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0088】
(9)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(E)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
【0089】
(10)[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第1樹脂層]/[エチレン・α-オレフィン共重合体(EO)から成る第2樹脂層]/[本実施の好適な形態の第1のエチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体のアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)とポリアミド樹脂(PA)の混合物から成る第3樹脂層](2種類の異種樹脂層の3層構成)、
等の同一樹脂層の3層または異種樹脂層の3層から成る3層構成(第1樹脂層/第2樹脂層/第3樹脂層)等が挙げられる。
【0090】
[基材フィルムの製膜方法]
本実施の形態の基材フィルム1の製膜方法としては、従来から慣用の方法を採用することができる。基材フィルム1の材質となる各樹脂、必要に応じて他の成分を加えて溶融混錬した樹脂組成物を、例えば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等の各種成形方法により、フィルム状に加工すればよい。また、基材フィルム1が複数層から成る積層体の場合は、各層をカレンダー成型法、押出法、インフレーション成型法等の手段によって別々に製膜し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層することにより積層体を製造することができる。上記接着剤としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物等が挙げられる。また、各層の樹脂組成物を共押出ラミネート法により同時に押出して積層体を製造することもできる。基材フィルム1を複数層から成る積層体として製膜・製造する方法は、単層構成で同じ厚さの基材フィルム1を製膜・製造する方法と比較して、押出機内の樹脂圧力やモーター負荷を過度に増大させることなく押出流量を制御できるので、製膜精度や安定製膜の観点から好適であり、基材フィルム1に不必要なシワを生じることがない。また、基材フィルム1の製膜速度をアップすることもできる点や各層で上述した引張強度、応力緩和率および熱収縮率といった物性も調整できるので、基材フィルム1全体として、それら物性のバランスを制御しやすい点でも好適である。なお、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面は、後述する粘着剤層2との密着性向上を目的として、コロナ処理またはプラズマ処理等が施されてもよい。また、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面と反対側の面は、基材フィルム1の製膜時の巻き取りの安定化や製膜後のブロッキングの防止を目的として、シボロールによるエンボス処理等が施されてもよい。
【0091】
(粘着剤層)
本発明のダイシングテープ10における第二の構成要件である活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2について、以下説明する。
【0092】
本発明者らは、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることを可能とするためには、上述した基材フィルム1の諸物性を特定の範囲に規定するだけでは不十分であるとの見解のもと、更に鋭意検討したところ、基材フィルム1の上に位置する粘着剤層2の熱抵抗が重要な因子であるとの知見を得るに至った。通常、ヒートシュリンク工程では、熱風はダイシングテープ10の粘着剤層2側から吹き付けられるため、粘着剤層2の熱抵抗が大きいと、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されないため、短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが困難となる。したがって、粘着剤層2の熱抵抗を従来よりも小さくすれば、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されるので、従来よりも短時間で加熱収縮させることが可能となり、その結果、従来よりも短いタクトタイムで、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや損傷することを抑制できる程度に、カーフ幅を十分に保持することができることに気が付いた。
【0093】
すなわち、本発明における活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2は、0.45K・cm/W以下の熱抵抗を有する。粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W上を超える場合、ヒートシュリンク工程において、例えば、熱風吹き付けノズルの周回速度(ワークを保持するステージの回転速度)を従来よりも早く設定した時に、すなわち、タクトタイムを短くしようとした時に、弛みが生じたダイシングテープ10の加熱収縮が不十分となるため、弛みが十分に解消されず、その結果、カーフ幅を十分に保持できないおそれがある。上記熱抵抗は、より好ましくは0.35K・cm/W以下、更に好ましくは0.25K・cm/W以下である。上記熱抵抗は、小さければ小さい程良いが、ダイシングテープとして必要な粘着剤層2の粘着特性維持の観点からは、その下限値は、0.15K・cm/Wである。
【0094】
上記粘着剤層2の熱抵抗を低減する方法としては、例えば、本発明の効果を損なわない範囲で、(1)粘着剤層2の厚さをできるだけ薄くする、(2)粘着剤層2の熱伝導率の値をできるだけ大きくする、方法が挙げられる。
【0095】
本実施の形態の粘着剤層2は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含んで成る。ここで、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物とは、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する粘着剤組成物を意味する。上記粘着剤層2に含有される活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物としては、典型的には、
(1)粘着剤組成物(A1):光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(2)粘着剤組成物(A2):上記粘着剤組成物(A1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
(3)粘着剤組成物(B1):官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物、
(4)粘着剤組成物(B2):上記粘着剤組成物(B1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物、
の群から選ばれるいずれか一つの粘着剤組成物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0096】
これらの中でも、ダイボンドフィルム3への糊残りや汚染の抑制の観点から、粘着剤組成物(A1)および粘着剤組成物(A2)が好ましい。なお、ここでいう官能基とは、光感応性の炭素-炭素二重結合と共存可能な熱反応性官能基をいう。かかる官能基の例は、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアミノ基等の活性水素基、およびグリシジル基等の活性水素基と熱反応する官能基である。活性水素基とは、炭素以外の窒素、酸素又は硫黄などの元素とそれに直接結合した水素とを有する官能基をいう。なお、本明細書において、上記「光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー」を、単に「活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマー」と称する場合がある。
【0097】
(粘着剤組成物(A1))
粘着剤組成物(A1)は、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物である。
【0098】
[光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー]
上記粘着剤組成物(A1)において、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、分子側鎖に炭素-炭素二重結合を有するものを使用する。炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと官能基含有不飽和化合物とを共重合してアクリル系共重合体を得、そのアクリル系共重合体が有する官能基に対して付加反応することが可能な官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法が挙げられる。
【0099】
上記官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる前の上記アクリル系共重合体(以下、「官能基を有するアクリル系共重合体」と称する場合がある)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と活性水素基含有単量体、およびまたはグリシジル基含有単量体とを含む共重合体が挙げられる。
【0100】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、炭素数6以上18以下のヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0101】
また、上記活性水素基含有単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー;アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有単量体等が挙げられる。これら活性水素基含有単量体成分は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、グリシジル基含有単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0102】
上記熱反応性官能基の含有量は、特に限定はされないが、共重合単量体成分全量に対して0.5質量%以上50質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0103】
上記の単量体を共重合した好適な官能基を有するアクリル系共重合体としては、具体的には、「2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸」との二元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との二元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメタクリル酸と2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「n-ブチルアクリレートとアクリル酸」との二元共重合体、「n-ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との二元共重合体、「n-ブチルアクリレートとメタクリル酸と2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレート」との三元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとn-ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとメタクリル酸」との四元共重合体、「2-エチルヘキシルアクリレートとメチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとメタクリル酸」との四元共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0104】
上記官能基を有するアクリル系共重合体は、凝集力、および耐熱性等を目的として、必要に応じて他の共重合単量体成分を含有してもよい。このような他の共重合単量体成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環を有する単量体が挙げられる。これらの他の共重合単量体成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記官能基を有する共重合体は、特に限定されないが、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性、紫外線照射後の粘着剤層2のダイボンドフィルム3からの剥離性、剥離時のダイボンドフィルム3に対する汚染性のバランス制御の観点から、ガラス転移温度(Tg)が-70℃以上-10℃以下の範囲であることが好ましく、-65℃以上-50℃以下の範囲であることがより好ましい。
【0105】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、上述した官能基を有するアクリル系共重合体を用い、該共重合体が有する官能基に対して付加反応することが可能な官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させて得ることができる。このような官能基および炭素-炭素二重結合を有する化合物としては、例えば、上記共重合体の側鎖にあるヒドロキシル基に対して付加反応を行う場合には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を使用することができる。また、上記共重合体の側鎖にあるカルボキシル基に対して付加反応を行う場合には、グリシジル(メタ)アクリレートや2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等を活性エネルギー線反応性化合物として使用することができる。さらに、上記共重合体の側鎖にあるグリシジル基に対して付加反応を行う場合には、(メタ)アクリル酸等を活性エネルギー線反応性化合物として使用することができる。
【0106】
上記付加反応としては、その反応追跡の容易さ(制御の安定性)や技術的難易度の観点から、アクリル系共重合体が側鎖に有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物((メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物)を付加反応させる方法が最も好適である。
【0107】
なお、上記付加反応を行う際には、後述するポリイソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤等の架橋剤により上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを架橋させて、さらに高分子量化するために、ヒドロキシル基、カルボキシル基やグリシジル基等の官能基が残存するようにしておくことが好ましい。例えば、ヒドロキシル基を側鎖に有するアクリル系共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を反応させる場合、上記共重合体の側鎖にあるヒドロキシル基(-OH)に対する(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基(-NCO)の当量比[(NCO)/(OH)]が1.0未満となるように両者の配合比を調整すれば良い。このようにして、(メタ)アクリロイルオキシ基などの炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、すなわち活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを得ることができる。
【0108】
上記付加反応においては、炭素-炭素二重結合の活性エネルギー線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、官能基を有する共重合体と活性エネルギー線反応性化合物の合計量に対して、通常、0.01質量部以上0.1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0109】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。水酸基価が上記範囲内であると、粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、紫外線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することができる。また、架橋剤添加により適切な架橋構造を形成できるので粘着剤層2の凝集力を向上させることができる。上記水酸基は、より好ましくは17.0mgKOH/g以上39.0mgKOH/g以下の範囲である。
【0110】
また、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、酸価が2.0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、紫外線等の活性エネルギー線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することができる。上記酸価は、より好ましくは2.5mgKOH/g以上8.2mgKOH/g以下の範囲である。
【0111】
さらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量は、紫外線等の活性エネルギー線照射後に粘着剤層2において十分な粘着力の低減効果が得られる量であればよく、活性エネルギー線の照射量等の使用条件等により異なり一義的ではないが、例えば、0.85meq/g以上1.60meq/g以下の範囲であることが好ましい。炭素-炭素二重結合含有量が0.85meq/g未満である場合は活性エネルギー線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、接着剤層3付き半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、炭素-炭素二重結合含有量が1.60meq/gを超える場合は、アクリル系粘着性ポリマーの共重合組成によっては合成する際の重合または反応時にゲル化しやすくなり、合成が困難となる場合がある。なお、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量を確認する場合、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーのヨウ素価を測定することで、炭素-炭素二重結合含有量を算出することができる。
【0112】
またさらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは20万以上200万以下の範囲の重量平均分子量(Mw)を有する。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量(Mw)が20万未満である場合には、塗工性などを考慮して、数千cP以上数万cP以下の高粘度の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の溶液を得ることが難しく好ましくない。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が小さくなって、例えば、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際、ダイボンドフィルム3を汚染するおそれがある。一方、重量平均分子量(Mw)が200万を超える場合には、粘着剤としての特性上、特に問題はないが、光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーを量産的に製造することが難しく、例えば、合成時に光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーがゲル化する場合があり、好ましくない。上記重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは30万以上150万以下である。ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0113】
またさらに、上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、特に限定されないが、好ましくは1.05以上12.0以下の範囲の分子量分布(Mw/Mn)を有する。その上限値としては、粘着剤層2の凝集力を向上させる観点から、10.0以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0114】
上記光感応性の炭素-炭素二重結合および官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であると、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの全体の中で、架橋に寄与しにくい低分子量成分、すなわち、熱反応性官能基や光感応性の炭素-炭素二重結合を有しない、あるいは、ほとんど有しない低分子量成分が占める割合が少ないものとなる。したがって、粘着剤層2の熱抵抗を低減するために粘着剤層2の厚さを薄くした場合においても、後述する架橋剤の添加によりその凝集力を十分なものとすることができ、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性を確保することが容易となる。さらに、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力も適切に低減できるとともに、粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際のダイボンドフィルム3の汚染を抑制することも容易となる。
【0115】
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーのベースポリマーとなる官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー(官能基を有するアクリル系共重合体)は、上述した単量体の混合物を重合に付すことにより得られるが、該重合は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの方式で行うこともできる。該重合の反応様式としては、フリーラジカル重合やリビングラジカル重合等が好適に挙げられるが、上記の分子量分布(Mw/Mn)をできるだけ狭くする観点からは、重合停止反応や移動反応を伴わないリビングラジカル重合により重合することがより好ましい。これらの中でも、反応様式としてリビングラジカル重合を用いた溶液重合が特に好適である。フリーラジカル重合により重合した官能基を有するアクリル系共重合体をベースポリマーとする活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを含む粘着剤組成物から成る粘着剤層2は、少なくとも重合開始剤である有機過酸化物及び又はアゾ化合物を含むものとなる。また、リビングラジカル重合により重合した官能基を有するアクリル系共重合体をベースポリマーとする活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーを含む粘着剤組成物から成る粘着剤層2は、少なくとも重合開始剤であるハロゲン化物及び又は触媒である遷移金属錯体を含むものとなる。上記の有機過酸化物、アゾ化合物、ハロゲン化物および遷移金属錯体としては、公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0116】
[光重合開始剤]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、上述したように、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、被着物脱着時の粘着剤層に対する活性エネルギー線の照射を感受して、ラジカルを発生させ、粘着剤層2中の上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する炭素-炭素二重結合の架橋反応を開始させる。その結果、活性エネルギー線の照射下において粘着剤層が、さらに硬化・収縮することにより被着物に対する接着力が低減される。光重合開始剤としては、紫外線等によりラジカル活性種を発生させる化合物が好ましく、例えば、アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。これら光重合開始剤は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
上記アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0118】
上記ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、商品名:Omnirad651、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。上記α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名:Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)、1- [4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル] -2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名:Omnirad2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-1-{4- [4- (2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名Omnirad127、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。上記α-アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名:Omnirad907、IGM Resins B.V.社製)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルフォリノブチロフェノン(商品名:Omnirad369、IGM Resins B.V.社製)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(商品名:Omnirad379EG、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0119】
上記アシルフォスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:Omnirad819、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0120】
上記オキシムエステル系ラジカル重合開始剤としては、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)(商品名:OmniradOXE-01、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。
【0121】
上記光重合開始剤の添加量としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤の添加量が0.1質量部未満の場合には、活性エネルギー線に対する光反応性が十分ではないために活性エネルギー線を照射してもアクリル系粘着性ポリマーの光ラジカル架橋反応が十分に起こらず、粘着剤の硬化・収縮が不十分となり、その結果、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、光重合開始剤の添加量が10.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、光重合開始剤の種類によっては、粘着剤層2が黄変し外観不良となる場合がある。
【0122】
また、このような光重合開始剤の増感剤として、ジメチルアミノエチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の化合物を粘着剤に添加してもよい。
【0123】
[架橋剤]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、上述したように、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの高分子量化のためにさらに架橋剤を含有する。このような架橋剤としては、特に制限されず、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する官能基であるヒドロキシル基、カルボキシル基及びグリシジル基等と反応可能な官能基を有する公知の架橋剤を使用することができる。具体的には、例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤、酸無水化合物系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、反応性、汎用性の観点からポリイソシアネート系架橋剤またはエポキシ系架橋剤を用いることが好ましい。これらの架橋剤は、単独でまたは2種以上併用してもよい。架橋剤の配合量は、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.1質量部以上5質量部以下の範囲であり、更に好ましくは
0.5質量部以上4質量部以下の範囲である。
【0124】
上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0125】
上記エポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエリスリトール、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、1,3′-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0126】
上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(粘着剤組成物(A1))により粘着剤層2を形成した後に、上記架橋剤と上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する官能基とを反応させるためのエージングの条件としては、特に限定はされないが、例えば、温度は23℃以上80℃以下の範囲、時間は24時間以上168時間以下の範囲で適宜設定すれば良い。
【0127】
[その他]
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(粘着剤組成物(A1))は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、その他に、多官能アクリルモノマー、多官能アクリルオリゴマー、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0128】
(粘着剤組成物(A2))
粘着剤組成物(A2)は、上記粘着剤組成物(A1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物である。粘着剤組成物(A2)から成る粘着剤層2は、熱伝導性フィラーを含まない粘着組成物(A1)から成る粘着剤層2と比べて、粘着剤層2の厚さが同じ場合、その熱伝導率が高くなるため、熱抵抗が小さくなる。
【0129】
[熱伝導性フィラー]
上記粘着剤組成物(A2)において、熱伝導性フィラーの材質は、特に限定されないが、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、酸化マグネシウム、アルミニウム、銅、ダイヤモンド等が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウムが好ましい。
【0130】
上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、特に限定されないが、0.1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。上記熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.1μm未満である場合、粘着剤組成物の溶液の粘度が高くなり、粘着剤層2の基材フィルム1への均一薄膜塗布が困難となるおそれがある。また、特に熱伝導性フィラーの含有量が多いと、粘着剤層2の粘着力が低下するおそれがある。一方、上記熱伝導性フィラーの平均粒子径が10μmを超える場合、粘着剤層2の厚さが薄いと、粘着剤層2の表面起伏が大きくなり、粘着剤層2の粘着力が低下するおそれがある。粘着剤層2の粘着力が低下するとダイボンドフィルム3への初期密着性やリングフレームへの固定力が低下し、貼り合わせ工程やエキスパンド工程において不具合が生じることがある。上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、0.2μm以上3μm以下の範囲であることがより好ましい。本発明において、上記熱伝導性フィラーの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)で上記熱伝導性フィラーの粒子を観察し、100個の粒子の長軸径を測定し、その算術平均値として求めるものとする。
【0131】
上記熱伝導性フィラーの含有量は、本発明の効果を妨げない範囲において特に限定されないが、例えば、粘着剤組成物の全体積に対して、体積比率で5%以上20%以下の範囲であることが好ましい。上記熱伝導性フィラーの含有量が体積比率で5%未満であると、十分な熱伝導性が得られないおそれがある。一方、上記熱伝導性フィラーの含有量が体積比率で20%を超えると、粘着剤層2の粘着力が低下し、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が低下するおそれがある。また、紫外線等の活性エネルギー線を照射した際に、活性エネルギー線の透過が一部妨げられ、粘着剤層2の粘着力が十分に低下しないおそれがある。なお、上記体積比率は、各材料の比重を用いて計算することができる。
【0132】
[分散剤]
上記熱伝導性フィラーを上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと混合すると、増粘することがある。これは、上記熱伝導性フィラーと上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの相互作用によると考えられる。このため、上記粘着剤組成物(A2)には、増粘現象を抑制す るため、分散剤を添加してもよい。上記分散剤としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの親和性が良好な高分子系分散剤が好ましい。上記 高分子系分散剤としては、例えば、アクリル系、ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、エポキシ系、ポリスチレン系、アミノ系等の高分子化合物が挙げられる。上記分散剤は、1種類を単独で用いることもできるが、2種類以上を混合して用 いてもよい。
【0133】
上記分散剤は、分散機能を高めるために官能基を有していることが好ましい。上記官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸エステル基、スルホン酸エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、四級アンモニウム塩基 、アミド基等が挙げられるが、上記分散剤は、酸性官能基と塩基性官能基の両方を有して いる両性分散剤であることがより好ましい。
【0134】
上記分散剤の酸性度は、その酸価を基準として決定し、上記分散剤の塩基性度は、そのアミン価を基準として決定する。例えば、酸価が20mgKOH/g以上である分散剤を用いることで 、上記粘着剤組成物(A2)の増粘現象を防止できる。また、アミン価が5mgKOH/g以上である分散剤を用いることで、粘着剤の保存時の粘着力の変化を防止できる。上記分散剤の酸性官能基は、上記熱伝導性フィラーの塩基性活性点を覆い、上記熱伝導性フィラーと上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーとの相互作用を抑制するため、上記粘着剤組成物(A2)の増粘現象を防止すると考えられる。また、上記分散剤中の塩基性官能基は上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマー中の酸性官能基と相互作用し、上記分散剤が上記粘着組成物の界面に移行するこ とを抑制するため、粘着剤の保存時の粘着力の変化を防止すると考えられる。
【0135】
上記分散剤の含有量は、上記熱伝導性フィラー100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.3質量部以上10質量部以下の範囲がより好ましい。上記分散剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分な分散性が得られず、上記分散剤の含有量が15質量部を超えると、高温下での粘着力が低下し易く、ダイボンドフィルム3に対する初期密着力への影響が懸念される。
【0136】
(粘着剤組成物(B1))
粘着剤組成物(B1)は、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤、および該官能基と反応する架橋剤を含んで成る粘着剤組成物である。上記粘着剤組成物(B1)において、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーとしては、上述の粘着剤組成物(A1)の説明において官能基を有するアクリル系共重合体として例示したものと同じものを用いることができる。また、光重合開始剤および架橋剤についても、上述の粘着剤組成物(A1)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。
【0137】
[活性エネルギー線硬化性化合物]
上記粘着剤組成物(B1)の活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、活性エネルギー線の照射によって三次元網状化しうる、分子内に炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる。このような低分子量化合物としては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1 ,6-へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物;2-プロペニル-ジ-3-ブテニルシアヌレート、2-ヒドロキシエチルビス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート又はイソシアヌレート化合物等が挙げられる。これら活性エネルギー線硬化性の低分子量化合物は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
また、活性エネルギー線硬化性化合物として、上記のような低分子量化合物の他に、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエステルアクリレート系オリゴマー等の活性エネルギー線硬化性オリゴマーを用いることもできる。エポキシアクリレートは、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応により合成される。ウレタンアクリレートは、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとの付加反応物に、末端に残るイソシアネート基をヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと反応させて(メタ)アクリル基を分子末端に導入して合成される。ポリエステルアクリレートは、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との反応によって合成される。上記活性エネルギー線硬化性オリゴマーは、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力の低減効果の観点から、分子中に炭素-炭素二重結合を3個以上有するものが好ましい。これら活性エネルギー線硬化性オリゴマーは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
上記活性エネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、100以上30,000以下の範囲であることが好ましく、半導体チップの汚染抑制および活性エネルギー線照射後の粘着剤層2の粘着力の低減効果の両観点から、500以上6,000以下の範囲であることがより好ましい。
【0140】
上記活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、官能基を有するアクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、5質量部以上500質量部以下、好ましくは50質量部以上180質量部以下の範囲であることが好ましい。上記活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲内である場合、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2の粘着力を適正に低下させ、ダイボンドフィルム3付き半導体チップを破損させることなく、ピックアップを容易とすることができる。
【0141】
(粘着剤組成物(B2))
粘着剤組成物(B2)は、上記粘着剤組成物(B1)に更に熱伝導性フィラーを含んで成る粘着剤組成物である。粘着剤組成物(B2)から成る粘着剤層2は、熱伝導性フィラーを含まない粘着組成物(
B1)から成る粘着剤層2と比べて、粘着剤層2の厚さが同じ場合、その熱伝導率が高くなるため、熱抵抗が小さくなる。上記粘着剤組成物(B1)において、熱伝導性フィラーとしては、上述の粘着剤組成物(A2)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。また、分散剤についても、上述の粘着剤組成物(A2)の説明において例示したものと同じものを用いることができ、含有量等の使用態様についても同様とすることができる。
【0142】
本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さは、特に限定されず、粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W以下となるように、粘着剤層2の熱伝導率の値に応じて、適宜調整すればよいが、例えば、4μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。より具体的には、粘着剤層2を構成する粘着剤組成物が熱伝導性フィラーを含まない場合は、例えば、4μm以上9μm以下の範囲であることが好ましく、粘着剤層2を構成する粘着剤組成物が熱伝導性フィラーを含む場合は、例えば、9μm以上15μm以下の範囲であることが好ましい。それぞれの場合において、粘着剤層2の厚さが好ましい下限値を下回ると、粘着力が低下し、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性やリングフレームに対する固定力が不十分となるおそれがある。一方、粘着剤層2の厚さが好ましい上限値を超えると、熱抵抗が大きくなり、ヒートシュリンク工程において、例えば、熱風吹き付けノズルの周回速度を従来よりも早く設定した時に、すなわち、タクトタイムを短くしようとした時に、弛みが生じたダイシングテープ10の加熱収縮が不十分となるため、弛みが十分に解消されず、その結果、カーフ幅を十分に保持できないおそれがある。
【0143】
(アンカーコート層)
本実施の形態のダイシングテープ10では、本発明の効果を損なわない範囲において、ダイシングテープ10の製造条件や製造後のダイシングテープ10の使用条件等に応じて、基材フィルム1と粘着剤層2との間に、基材フィルム1の組成に合わせたアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、基材フィルム1と粘着剤層2との密着力が向上する。
【0144】
(剥離ライナー)
また、粘着剤層2の基材フィルム1とは逆の表面側(一方の表面側)には、必要に応じて剥離ライナーを設けてもよい。剥離ライナーとして使用できるものは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、紙類等が挙げられる。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層2の剥離性を高めるために、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤などによる剥離処理を施してもよい。剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm~200μmの範囲であるものを好適に使用することができる。
【0145】
(ダイシングテープの製造方法)
図4は、ダイシングテープ10の製造方法について説明したフローチャートである。まず、剥離ライナーを準備する(ステップS101:剥離ライナー準備工程)。次に、粘着剤層2の形成材料である粘着剤層2用の塗布溶液(粘着剤層形成用塗布溶液)を作製する(ステップS102:塗布溶液作製工程)。塗布溶液は、例えば、粘着剤層2の構成成分である活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと光重合開始剤と架橋剤と希釈溶媒とを均一に混合撹拌することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0146】
そして、ステップS102で作製した粘着剤層2用の塗布溶液を用いて、剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さの粘着剤層2を形成する(ステップS103:粘着剤層形成工程)。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は80℃~150℃の範囲内、乾燥時間は0.5分間~5分間の範囲内で行うことが好ましい。続いて、基材フィルム1を準備する(ステップS104:基材フィルム準備工程)。そして、剥離ライナーの上に形成された粘着剤層2の上に、基材フィルム1を貼り合わせる(ステップS105:基材フィルム貼合工程)。最後に、形成した粘着剤層2を例えば40℃の環境下で72時間エージングして活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーと架橋剤とを反応させることにより架橋・硬化させる(ステップS106:熱硬化工程)。以上の工程により基材フィルム1の上に基材フィルム側から順に粘着剤層2、剥離ライナーを備えたダイシングテープ10を製造することができる。なお、本発明では、粘着剤層2の上に剥離ライナーを備えている積層体もダイシングテープ10と称する場合がある。
【0147】
なお、上記基材フィルム1上に粘着剤層2を形成する方法として、剥離ライナーの上に粘着剤層2用の塗布溶液を塗布して乾燥し、その後、粘着剤層2の上に基材フィルム1を貼り合わせる方法を例示したが、基材フィルム1上に粘着剤層2用の塗布溶液を直接塗布して乾燥する方法を用いてもよい。安定生産の観点からは、前者の方法が好適に用いられる。
【0148】
本実施の形態のダイシングテープ10は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0149】
<ダイシングダイボンドフィルム>
実施の形態のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用することもできる。ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、個片化された半導体チップをリードフレームや配線基板(支持基板)に接着・接続するためのものである。また、半導体チップを積層する場合は、半導体チップ同士の接着剤層の役割もする。
【0150】
半導体チップを積層する場合、一段目の半導体チップはダイボンドフィルム(接着剤層)3により、端子が形成された半導体チップ搭載用配線基板に接着され、一段目の半導体チップの上に、さらにダイボンドフィルム(接着剤層)3により二段目の半導体チップが接着されている。一段目の半導体チップおよび二段目の半導体チップの接続端子は、ワイヤを介して外部接続端子と電気的に接続されるが、一段目の半導体チップ用のワイヤは、圧着(ダイボンディング)時にダイボンドフィルム(接着剤層)3、すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3の中に埋め込まれる。
【0151】
(ダイボンドフィルム)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、熱により硬化する熱硬化型の接着剤組成物からなる層である。上記接着剤組成物としては、特に限定されるものでなく、従来公知の材料を使用することができる。上記接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、例えば、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂に対する硬化剤としてフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤等が添加されてなる熱硬化性接着剤組成物が挙げられる。このような熱硬化性接着剤組成物からなるダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体チップ/支持基板間、半導体チップ/半導体チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性及び/又はワイヤ埋め込み性等も付与可能で、且つダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤によりモールドされた後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0152】
ワイヤが接着剤層中に埋め込まれない形態で使用される汎用ダイボンドフィルムとワイヤが接着剤層中に埋め込まれる形態で使用されるワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、その接着剤組成物を構成する材料の種類については、ほぼ同じであることが多いが、使用する材料の配合割合、個々の材料の物性・特性等を、それぞれの目的に応じて変更することにより、汎用ダイボンドフィルム用あるいはワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用としてカスタマイズされる。また、最終的な半導体装置としての信頼性に問題がない場合には、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが汎用ダイボンドフィルムとして使用されることもある。すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線等に起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板等へ半導体チップを接着する用途でも同様に使用可能である。
【0153】
(汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
まず、汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、汎用ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、20,000Pa・s以上40,000Pa・s以下の範囲、好ましくは25,000Pa・s以上35,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を52質量部以上90質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を5質量部以上25質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂の5質量部以上23質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0154】
また、上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、1.0質量部以上7.0質量部以下の範囲であることが好ましい。上記のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機フィラー、およびシランカップリング剤等については、汎用のダイボンドフィルム用接着剤組成物の材料として公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0155】
(ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
続いて、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲、好ましくは2,000Pa・s以上7,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を17質量部以上51質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を30質量部以上64質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂を19質量部以上53質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0156】
また、上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。上記のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、無機フィラー、およびシランカップリング剤等については、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の材料として公知乃至慣用のものを使用することができる。
【0157】
(ダイボンドフィルム(接着剤層)の厚さ)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さは、特に限定されないが、接着強度の確保、半導体チップ接続用のワイヤを適切に埋め込むため、あるいは基板の配線回路等の凹凸を十分に充填するため、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが5μm未満であると、半導体チップとリードフレームや配線基板等との接着力が不十分となるおそれがある。一方、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが200μmより大きいと経済的でなくなる上に、半導体装置の小型薄膜化への対応が不十分となりやすい。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上75μm以下の範囲が特に好ましい。
【0158】
(ダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、例えば、次の通りにして製造される。まず、剥離ライナーを準備する。なお、該剥離ライナーとしては、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上に配置する剥離ライナーと同じものを使用することができる。次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の形成材料であるダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を作製する。塗布溶液は、例えば、上述したようなダイボンドフィルム(接着剤層)3の構成成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤、およびシランカップリング等を含む熱硬化性樹脂組成物と希釈溶媒とを均一に混合分散することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0159】
次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を仮支持体となる上記剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さのダイボンドフィルム(接着剤層)3を形成する。その後、別の剥離ライナーの剥離処理面をダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に貼り合わせる。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は60℃以上200℃以下の範囲内、乾燥時間は1分間以上90分間以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、本発明では、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の両面あるいは片面に剥離ライナーを備えている積層体もダイボンドフィルム(接着剤層)3と称する場合がある。
【0160】
(ダイシングダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイシングダイボンドフィルム20の製造方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法により製造することができる。例えば、上記ダイシングダイボンドフィルム20は、先ずダイシングテープ10およびダイボンドフィルム3を個別にそれぞれ準備し、次に、ダイシングテープ10の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーをそれぞれ剥離し、ダイシングテープ10の粘着剤層2とダイボンドフィルム(接着剤層)3を、例えば、ホットロールラミネーター等の圧着ロールにより圧着して貼り合わせればよい。貼り合わせ温度としては、特に限定されず、例えば10℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、貼り合わせ圧力(線圧)としては、例えば0.1kgf/cm以上100kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、本発明では、ダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に剥離ライナーが備えられた積層体もダイシングダイボンドフィルム20と称する場合がある。ダイシングダイボンドフィルム20において、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に備えられた剥離ライナーは、ダイシングダイボンドフィルム20をワークに供する際に、剥離すればよい。
【0161】
上記ダイシングダイボンドフィルム20は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0162】
<半導体チップの製造方法>
図5は、本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20を使用したダイボンドフィルム付き半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。また、図6は、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40が、中心部のダイボンドフィルム(接着剤層)3上に個片化された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)が貼り付けられた状態を示した概略図である。またさらに、図7(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および複数の割断された半導体ウエハ(複数の半導体チップ)のダイシングダイボンドフィルム20への貼合工程の一例を示した断面図である。図8(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルム20上に貼合・保持された複数の割断された薄膜半導体ウエハから、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得るための、エキスパンド~ピックアップまでの一連の工程を含む製造方法の一例を示した断面図である。
【0163】
(ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法)
ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法は、特に限定されず、従来から公知の方法に依ればよいが、ここでは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)による製造方法を例に挙げて説明する。
【0164】
まず、図7(a)に示すように、例えばシリコンを主成分とする半導体ウエハWの第一面Wa上に複数の集積回路(図示はしない)を搭載した半導体ウエハWを準備する(図5のステップS201:準備工程)。そして、粘着面Taを有するウエハ加工用テープ(バックグラインドテープ)Tが半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされる。
【0165】
次いで、図7(b)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープTとは反対側、つまり半導体ウエハの第二面Wb側から半導体ウエハWに対して、その格子状のダイシング予定ラインXに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される(図5のステップS202:改質領域形成工程)。改質領域30bは、半導体ウエハWを研削工程により半導体チップ単位に割断・分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハWにおいてレーザー光照射によってダイシング予定ラインに沿って改質領域30bを形成する方法については、例えば、特許第3408805号公報、特開2002-192370号公報、特開2003-338567号公報等に開示されている方法を参照することができる。
【0166】
半導体ウエハWに形成されるダイシング予定ラインXは、長方形格子であってよい。その場合は、半導体チップが長方形に個片化される。個片化された半導体チップが長方形の場合、長辺の長さαと短辺の長さβとの比α/βは、例えば1.2以上20以下の範囲であることが好ましい。この比α/βの下限値は、1.4であることがより好ましい。また、長辺および短辺の長さは、1mm以上30mm以下の範囲であることが好ましく、3mm以上20mm以下の範囲であることがより好ましく、4mm以上12mm以下の範囲であることが更に好ましい。
【0167】
次いで、図7(c)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが予め定められた厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄膜化される。ここで、薄膜化される半導体ウエハ30の厚さは、半導体装置の薄型化の観点から、好ましくは100μm、より好ましくは10μm以上50μm以下の厚さに調節される。本研削・薄膜化工程において、薄膜化された半導体ウエハ30は、研削ホイールの研削負荷が加えられた際に、半導体ウエハ30が、図7(b)で形成された改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、ダイシング予定ラインXに対応した割断ライン30cに沿って、ウエハ加工用テープT上で複数の半導体チップ30aへと割断、個片化される。
【0168】
次いで、図7(d)、(e)に示すように、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aが別途準備したダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム3に対して貼り合わせられる(図5のステップS204:貼合工程)。本工程においては、円形にカットしたダイシングダイボンドフィルム20の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3から剥離ライナーを剥離した後、図6に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上中央部に積層されたダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に、ウエハ加工用テープTに保持された複数の半導体チップ30aを貼り付ける。この後、図7(f)に示すように、薄膜の複数の半導体チップ30aからウエハ加工用テープTが剥がされる。貼り付けは、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。貼り付け温度は、特に限定されず、例えば、20℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、半導体チップ30aの反りを小さくする観点からは、40℃以上100℃以下の範囲内であることがより好ましい。貼り付け圧力は、特に限定されず、0.1MPa以上10.0MPa以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性も有するため、貼り付け温度が高温であっても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0169】
続いて、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の粘着剤層2上にリングフレーム40が貼り付けられた後、図8(a)に示すように、複数の半導体チップ30aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルム20がエキスパンド装置の保持具41に固定される。図8(b)に示すように、割断ライン30cで割断された薄膜の半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)は、複数のダイボンドフィルム付き半導体チップ30aとして個片化可能なように、その下面側に、次工程でダイシング予定ラインXに沿って割断されることになるダイボンドフィルム3が貼り付けられている。
【0170】
次いで、相対的に低温(例えば、-30℃~0℃)の条件下での第1のエキスパンド工程、すなわち、クールエキスパンド工程が、図8(c)に示すように行われ、ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3が半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム(接着剤層)3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる(図5のステップS205:クールエキスパンド工程)。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)が貼り合わされたダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10が、半導体ウエハ30の径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化された半導体ウエハ30(複数の半導体チップ30a)に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として伝達される。この外部応力により、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3は、半導体チップ30aと同じサイズの小片のダイボンドフィルム3aへと割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0171】
上記クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば、-30℃以上0℃以下の範囲であり、好ましくは-20℃以上-5℃以下の範囲であり、より好ましくは-15℃以上-5℃以下の範囲であり、特に好ましくは-15℃である。上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(中空円柱状の突き上げ部材が上昇する速度)は、好ましくは0.1mm/秒以上1000mm/秒以下の範囲であり、より好ましくは10mm/秒以上300mm/秒以下の範囲である。また、上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量(中空円柱状の突き上げ部材の突き上げ高さ)は、好ましくは3mm以上16mm以下の範囲である。
【0172】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、まず、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の適正な範囲に調整されているので、低温においても相応の引張強度を有し、クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、基材フィルム1上の粘着剤2に密着しているダイボンドフィルム3に外部応力として効率的に伝達され、その結果、ダイボンドフィルム3が個片化された半導体チップの形状に沿って、綺麗に歩留まり良く割断される。
【0173】
上記クールエキスパンド工程の後、エキスパンド装置の中空円柱形状の突き上げ部材が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0174】
次いで、相対的に高温(例えば、10℃~30℃)の条件下での第2のエキスパンド工程、すなわち、常温エキスパンド工程が、図8(d)に示すように行われ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える円柱状のテーブル(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10がエキスパンドされる(図5のステップS206:常温エキスパンド工程)。
【0175】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の適正な範囲に調整されているので、良好なエキスパンド性を備える。したがって、常温エキスパンド工程において、エキスパンド中に個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)を十分に広げることができる。
【0176】
常温エキスパンド工程によりダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を十分に確保することにより、CCDカメラ等による半導体チップ30aの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接する半導体チップ30a同士が接触することによって生じるダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a同士の再接着を防止することができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が向上する。
【0177】
前記常温エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15℃以上30℃以下の範囲である。常温エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(円柱状のテーブルが上昇する速度)は、例えば0.1mm/秒以上50mm/秒以下の範囲であり、好ましくは0.3mm/秒以上30mm/秒以下の範囲である。また、常温エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3mm以上20mm以下の範囲である。
【0178】
テーブルの上昇によってダイシングテープ10が常温エキスパンドされた後、テーブルはダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブルによるその吸着を維持した状態で、テーブルがワークを伴って下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのカーフ幅が狭まることを抑制するうえでは、ダイシングテープ10がテーブルに真空吸着された状態で、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を熱風吹付により加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させて、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛みを解消することで緊張状態を保つことが好ましい。
【0179】
前記加熱収縮後、テーブルによる真空吸着状態が解除される。前記熱風の温度は、基材フィルム1の物性と、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離、および風量等に応じて調整すれば良いが、例えば200℃以上250℃以下の範囲が好ましい。また、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離は、例えば15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。また、風量は、例えば35L/分以上45L/分以下の範囲が好ましい。なお、ヒートシュリンク工程を行う際、エキスパンド装置のステージを、例えば3°/秒以上10°/秒以下の範囲の回転速度で回転させながら、ダイシングテープ10の半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分に沿って熱風吹付を行う。このような熱風吹付により、ダイシングテープ10の表面の温度は、例えば、60℃以上100℃以下の範囲に調整されることが好ましい。より好ましくは、70℃以上90℃以下の範囲である。
【0180】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度が9MPa以上18MPa以下の範囲にある一方で、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率が50%以上となっているので、ダイシングテープ10を常温エキスパンドした際に基材フィルム1に発生した応力が十分に低い値まで早期に減少し、上記の適切な範囲の引張強度により、常温エキスパンド時に十分に広げられた個々のダイボンドフィルム付き半導体チップの間隔(カーフ幅)に該当するダイシングテープのみの部分(ダイボンドフィルム付き半導体チップが存在しない部分)において、エキスパンド状態が解除された際に弾性により縮もうとする力が低減、緩和される。その結果、エキスパンド状態が解除されることがあっても、カーフ幅は多少の縮みは発生するものの、元の間隔から過度に縮むことはなく、一定量保持することができる。また、半導体チップに付着した接着剤層同士が接触することや半導体チップ同士の干渉によるエッジの損傷等を防止することもできる。
【0181】
さらに、本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1のMD方向において、80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率が20%以上となっていることに加えて、基材フィルム1上の粘着剤層2の熱抵抗が0.45K・cm/W以下となっている。これにより、ヒートシュリンク工程において、常温エキスパンド時に生じたダイシングテープ10の弛み部分(割断された複数のダイボンドフィルム付き半導体チップが貼着された領域よりも外側部分)に対して、ヒートシュリンク工程において、粘着剤層2側から熱風を吹き付けた際に、加えられた熱が基材フィルム1に効率的に伝達されるので、従来よりも短時間でその弛み部分を加熱収縮させて、熱シワを発生させることなく弛みを除去することが可能となる。その結果、ヒートシュリンク工程のタクトタイムを従来よりも短時間化しても、ダイシングテープ10の弛み部分を、所定程度の張力が作用する緊張状態に至らせることが可能となり、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップ同士の干渉によりエッジが損傷することを抑制できる程度に、エキスパンドで広げたカーフ幅を十分に保持することができる。
【0182】
このように、基材フィルム1のMD方向において、23℃における100%延伸時の引張強度、23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率、および80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率を所定の範囲とし、さらに粘着剤層2の熱抵抗を所定の範囲とすることにより、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることを抑制するとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、ダイシングテープを従来よりも短時間で十分かつ均一に加熱収縮させることが可能となるため、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップ同士の干渉によりエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、エキスパンドにより広げたカーフ幅を十分に保持することができるのである。
【0183】
続いて、ダイシングテープ10に対して、基材フィルム1側から活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤層2を硬化・収縮させ、粘着剤層2のダイボンドフィルム3aに対する粘着力を低下させる(図5のステップS207:活性エネルギー線照射工程)。ここで、前記後照射に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、β線、γ線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、紫外線(UV)および電子線(EB)が好ましく、特に紫外線(UV)が好ましく用いられる。上記紫外線(UV)を照射するための光源としては、特に限定されないが、例えば、ブラックライト、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることができる。上記紫外線(UV)の照射光量は、特に限定されず、例えば100mJ/cm以上2,000mJ/cm以下の範囲であることが好ましく、300mJ/cm以上1,000mJ/cm以下の範囲であることがより好ましい。
【0184】
続いて、個片化されたそれぞれのダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ダイシングテープ10の紫外線(UV)照射後の粘着剤層2から剥がし取る所謂ピックアップを行う(図5のステップS208:剥離(ピックアップ)工程)。
【0185】
上記ピックアップの方法としては、例えば、図8(e)に示すように、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の基材フィルム1の第2面を突き上げピン(ニードル)60によって突き上げるとともに、図8(f)に示すように、突き上げられたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ピックアップ装置(図示しない)の吸着コレット50により吸引してダイシングテープ10の粘着剤層2から剥がし取る方法等が挙げられる。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0186】
ピックアップ条件としては、実用上、許容できる範囲であれば特に限定されず、通常は、突き上げピン(ニードル)60の突き上げ速度は、1mm/秒以上100mm/秒以下
の範囲内で設定されることが多いが、半導体チップ30aの厚さ(半導体ウエハの厚さ)が100μmと薄い場合には、薄膜の半導体チップ30aの損傷抑制の観点から、1mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定することが好ましい。生産性を加味した観点からは、5mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定できることがより好ましい。
【0187】
また、半導体チップ30aが損傷せずにピックアップが可能となる突き上げピンの突き上げ高さは、例えば、前記と同様の観点から、100μm以上600μm以下の範囲内で設定できることが好ましく、半導体薄膜チップに対する応力軽減の観点から、100μm以上450μm以下の範囲内で設定できることがより好ましい。生産性を加味した観点からは、100μm以上350μm以下の範囲内で設定できることがとりわけ好ましい。このような突き上げ高さをより小さくできるダイシングテープはピックアップ性に優れていると言える。
【0188】
なお、図8(a)~(f)で説明した製造方法は、ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体チップ30aの製造方法の一例(SDBG)であり、ダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する方法は、前記の方法に限定されない。すなわち、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングに際して、半導体ウエハ30に貼り付けられるものであれば、前記の方法に限定されることなく使用することができる。
【0189】
このように、本発明のダイシングテープ10は、DBG、ステルスダイシング、SDBG等といった薄膜半導体チップを得るための製造方法において、ダイボンドフィルム3と一体化してダイシングダイボンドフィルム20として用いるためのダイシングテープ10として好適である。
【0190】
<半導体装置の製造方法>
本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された半導体装置について、以下、具体的に説明する。
【0191】
半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを半導体チップ搭載用支持部材または半導体チップに加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0192】
図9は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。図9に示す半導体装置70は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a1、3a2と、一段目の半導体チップ30a1と、二段目の半導体チップ30a2と、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4、硬化されたダイボンドフィルム3a1および半導体チップ30a1は、半導体チップ30a2の支持部材9を構成している。
【0193】
半導体チップ搭載用支持基板4の一方の面には、外部接続端子5が複数配置されており、半導体チップ搭載用支持基板4の他方の面には、端子6が複数配置されている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30a1および半導体チップ30a2の接続端子(図示せず)と、外部接続端子5とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30a1は、硬化されたダイボンドフィルム3a1により半導体チップ搭載用支持基板4に外部接続端子5に由来する凹凸を埋め込むような形で接着されている。半導体チップ30a2は、硬化されたダイボンドフィルム3a2により半導体チップ30a1に接着されている。半導体チップ30a1、半導体チップ30a2およびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。このようにワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3aは、半導体チップ30aを複数重ねる積層構成の半導体装置に好適に使用される。
【0194】
また、図10は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10と汎用ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された他の半導体装置の一態様の模式断面図である。図10に示す半導体装置80は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム3aと、半導体チップ30aと、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30aの支持部材であり、半導体チップ30aの接続端子(図示せず)と半導体チップ搭載用支持基板4の主面に配置された外部接続端子(図示せず)とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30aは、硬化されたダイボンドフィルム3aにより半導体チップ搭載用支持基板4に接着されている。半導体チップ30aおよびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。
【実施例0195】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0196】
1.基材フィルム1の作製
基材フィルム1(a)~(x)を作製するための材料として下記の樹脂をそれぞれ準備した。
【0197】
(エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル系共重合体のアイオノマーからなる熱可塑性架橋樹脂(IO))
・樹脂(IO1)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率からなる三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:60モル%、融点:86℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm、ビカット軟化点:56℃
【0198】
・樹脂(IO2)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率から成る三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:70モル%、融点:87℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm、ビカット軟化点:57℃
【0199】
(ポリアミド樹脂(PA))
・樹脂(PA1)
ナイロン6、融点:225℃、密度:1.13g/cm
【0200】
(その他樹脂(C))
・樹脂(TPO)
熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)、MFR:3.6g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm、ビカット軟化点:41℃
【0201】
・樹脂(POPE)
ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(高分子型帯電防止剤)、融点:115℃、MFR:15g/10分(190℃/2.16kg荷重)
【0202】
・樹脂(PP)
ランダム共重合ポリプロピレン、融点138℃、ビカット軟化点:110℃
【0203】
・樹脂(LDPE)
低密度ポリエチレン、融点116℃、ビカット軟化点:97℃
【0204】
・樹脂(EVA)
エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量20質量%、融点82℃、密度:0.94g/cm、ビカット軟化点:53℃
【0205】
・樹脂(TPU)
熱可塑性ポリウレタン
【0206】
(基材フィルム1(a))
アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)を準備した。まず、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(a)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、1種(同一樹脂)3層Tダイフィルム成形機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(a)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=90:10である。
【0207】
(基材フィルム1(b))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=85:15の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(b)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=85:15である。
【0208】
(基材フィルム1(c))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=80:20の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(c)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=80:20である。
【0209】
(基材フィルム1(d))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)を準備した。まず、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=85:15の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(d)の第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。
【0210】
また、第2樹脂層用の樹脂として、上記熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)=(TPO)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(d)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=85:15である。また、層全体における樹脂(IO)と樹脂(PA)の合計量の含有割合は67質量%である。
【0211】
(基材フィルム1(e))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)および(IO2)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)を準備した。まず、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(e)の第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。また、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO2)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(e)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=93:7である。
【0212】
(基材フィルム1(f))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、ポリアミド樹脂(PA)として(PA1)、その他樹脂(C)として熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(エチレン-α-オレフィンランダム共重合体)(TPO)およびポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)を準備した。まず、第1樹脂層、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記ポリアミド樹脂(PA1)を、(IO1):(PA1)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1樹脂層、第2樹脂層用の樹脂組成物を得た。
【0213】
また、第3樹脂層用の樹脂として、アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)、ポリアミド樹脂(PA1)、熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(TPO)、ポリオレフィン-ポリエーテルブロック共重合体(POPE)をそれぞれ76:8:8:8の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(f)の第3樹脂層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/20μmとした。層全体におけるアイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)の総量とポリアミド樹脂(PA)の総量の質量比率は、(IO)の総量:(PA)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(IO)と樹脂(PA)の合計量の含有割合は95質量%である。
【0214】
(基材フィルム1(g))
その他樹脂(C)として、ランダム共重合ポリプロピレン(PP)およびエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を準備した。第1樹脂層、第3樹脂層用としてランダム共重合ポリプロピレン(PP)、第2樹脂層用としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いて、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機により、2種類の樹脂による3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=8μm/64μm/8μmとした。層全体としてのPP/EVAの質量比率は、PP/EVA=20質量%/80質量%である。
【0215】
(基材フィルム1(h))
その他樹脂(C)として、ランダム共重合ポリプロピレン(PP)および低密度ポリエチレン(LDPE)を準備した。第1樹脂層、第3樹脂層用としてランダム共重合ポリプロピレン(PP)、第2樹脂層用として低密度エチレン(LDPE)を用いて、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機により、2種類の樹脂による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(h)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=10μm/70μm/10μmとした。層全体としてのPP/LDPEの質量比率は、PP/LDPE=22質量%/78質量%である。
【0216】
(基材フィルム1(i))
上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO)として(IO1)、その他樹脂(C)としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)および熱可塑性ポリウレタン(TPU)を準備した。まず、第2樹脂層用の樹脂として、上記アイオノマーから成る熱可塑性架橋樹脂(IO1)および上記熱可塑性ポリウレタン(TPU)を、(IO1):(TPU)=50:50の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、溶融混練することで、基材フィルム1(i)の第2樹脂層用の樹脂組成物を得た。また、第1樹脂層、第3樹脂層用の樹脂として、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を単独で用いた。それぞれの樹脂および樹脂組成物を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、2種類の樹脂組成物による3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1樹脂層(粘着剤層2に接する面側)/第2樹脂層/第3樹脂層=30μm/30μm/30μmとした。層全体としてのEVA/IO/TPUの質量比率は、EVA/IO/TPU=67質量%/16.5/16.5質量%である。
【0217】
[基材フィルムの引張強度]
基材フィルム1の23℃における100%延伸時の引張強度は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長さ方向の両端をチャック間初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、引張荷重-伸長曲線を測定した。そして、得られた引張荷重-伸長曲線から、100%伸長時(チャック間距離100mm時)における引張荷重値を求め、その値を基材フィルム1の厚さで除して、引張強度(単位:MPa)を求めた。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の23℃における100%延伸時の引張強度とした。
【0218】
[基材フィルムの応力緩和率]
基材フィルム1の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手さ向の両端をチャック間初期距離50mmとなるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、100%延伸した時の引張荷重値A、および該100%の延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した後の引張荷重値Bを求めた。そして、下記式
【0219】
100%延伸100秒間保持後の応力緩和率(%)=[(A-B)/A]×100
から100%延伸100秒間保持後の応力緩和率を算出した。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の23℃における100%延伸100秒間保持後の応力緩和率とした。
【0220】
[基材フィルムの熱収縮率]
基材フィルム1の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率は、以下の方法により測定した。まず、MD方向測定用の試料(試料数N=5)として長さ100mm(MD方向)、幅10mm(TD方向)の形状の試験片を用意し、50mmの間隔で2本の標線を付した。続いて、23℃の温度条件で、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用いて、試験片の長手さ向の両端をチャック間初期距離50mm(初期標線間距離)となるようにチャックで固定し、300mm/分の速度で引張試験を行い、まず、100%延伸し、該100%延伸歪を与えた状態のまま100秒間保持した時の標線の間隔Cを測定した。次いで、下端の
チャックを開放して該基材フィルム1の試験片をテンションフリーの状態にして、ミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で80℃にて1分間加熱した後に、再度該標線の間隔Dを測定した。そして、下記式
【0221】
100%延伸100秒間保持後の熱収縮率(%)=[(C-D)/C]×100
【0222】
から100%延伸100秒間保持後の熱収縮率を算出した。試料数N=5にて測定を行い、その平均値をMD方向の80℃における100%延伸100秒間保持後の熱収縮率とした。
【0223】
2.粘着剤組成物の溶液の調製
ダイシングテープ10の粘着剤層2用の粘着剤組成物として、下記の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)~2(g)の溶液を調製した。
【0224】
なお、これら粘着剤組成物のベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)を構成する共重合モノマー成分として、
・アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA、分子量:184.3、Tg:-70℃)、
・アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA、分子量:116.12、Tg:-15℃)、
・メタクリル酸(MAA、分子量:86.06、Tg:228℃)、
を準備した。
【0225】
また、ポリイソシアネート系架橋剤として、東ソー株式会社製の
・TDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:8.05質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.89質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.8個/1分子、理論上分子量:656.64)、
【0226】
・HDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:12.8質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.07質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.6個/1分子、理論上分子量:638.75)、
を準備した。
【0227】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いフリーラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃である。
【0228】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)21.0質量部(135.35mmol:2-HEAに対して74.8mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:40万、分子量分布(Mw/Mn):9.5、固形分水酸基価:21.1mgKOH/g、固形分酸価:2.7mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.12mmol/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0229】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を2.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のTDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%)を2.56質量部(固形分換算1.15質量部、1.75mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を調製した。
【0230】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤として2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いリビングラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃である。
【0231】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)21.0質量部(135.35mmol:2-HEAに対して74.8mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(B)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:41万、分子量分布(Mw/Mn):1.8、固形分水酸基価:21.1mgKOH/g、固形分酸価:2.7mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.12mmol/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0232】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(B)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を2.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のTDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%)を2.56質量部(固形分換算1.15質量部、1.75mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液を調製した。
【0233】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(c)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いフリーラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマー(アクリル系粘着性ポリマー)のFoxの式より算出したTgは-60℃、重量平均分子量Mwは40万、分子量分布(Mw/Mn)は9.5である。
【0234】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、紫外線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマー120質量部(重量平均分子量Mw:1,000、水酸基価:1mgKOH /g、二重結合当量:167)、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad369)を1.0質量部、架橋剤として東ソー社製のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45、固形分濃度:45質量%)を11.1質量部(固形分換算5.0質量部)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(c)の溶液を調製した。
【0235】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸(MAA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MAA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤として2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオン酸エチルおよびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いリビングラジカル重合(溶液重合)により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃、重量平均分子量Mwは41万、分子量分布(Mw/Mn)は1.8である。
【0236】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、紫外線硬化性ウレタンアクリレート系オリゴマー120質量部(重量平均分子量Mw:1,000、水酸基価:1mgKOH /g、二重結合当量:167)、光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製のα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad369)を1.0質量部、架橋剤として東ソー社製のイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45、固形分濃度:45質量%)を11.1質量部(固形分換算5.0質量部)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液を調製した。
【0237】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(e)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で20%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(e)の溶液を調製した。分散剤両性分散剤) :2.34部
【0238】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(f)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で10%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(f)の溶液を調製した。
【0239】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(g)の溶液)
上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液に対して、熱伝導性フィラーとして酸化アルミニウム(平均粒子径:1.2μm、真比重:3.95)を体積比率で10%、両性分散剤(ビックケミー社製、商品名“DISPERBYK145”)を熱伝導性フィラーに対して2.34質量部となるように更に配合し、攪拌したこと以外は活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(d)の溶液の調整と同様にして、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(g)の溶液を調製した。
【0240】
[粘着剤層の熱抵抗]
粘着剤層2の熱抵抗は、以下の方法により測定した。まず、厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に、乾燥後の厚さが100μmとなるように、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物の溶液を塗布して、100℃の温度で3分間加熱することにより溶剤を乾燥させた後、その粘着剤層の上に、厚さ50μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-50-ZW”)の剥離処理面を重ねて、基材レスの粘着シートを作製した。その後、該粘着シートを23℃の温度で96時間保存して粘着剤層を架橋、硬化させた。続いて、架橋、硬化させた基材レスの粘着シートを長さ150mm、幅50mmの大きさに裁断して、剥離PETライナーを全て剥離した粘着剤層のみの評価サンプルを作製し、その評価サンプルを10枚重ねて総厚さ1mmの粘着剤層のみから成る積層体とし、京都電子工業社製の迅速熱伝導率計“QTM-500(型式)”を用い、ホットワイヤー法により、薄膜測定用ソフトと組み合わせて上記粘着剤層のみから成る積層体の熱伝導率λを測定した。本測定のレファランスには、シリコーン樹脂、石英、ジルコニアを用いた。そして、下記式
【0241】
熱抵抗(K・cm/W)=(L/100)/λ
【0242】
から、粘着剤層2の熱抵抗を算出した。ここで、Lは、実際のダイシングテープ10の粘着剤層2の厚さ(単位:μm)である。試料数N=3にて測定を行い、その平均値を粘着剤層2の熱抵抗とした。
【0243】
3.接着剤組成物の溶液の調製
ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3用の接着剤組成物として、下記の接着剤組成物3(a)および3(b)の溶液を調製した。
【0244】
(接着剤組成物3(a)の溶液)
汎用ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物3(a)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)54質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、吸水率:1.8%)46質量部、無機フィラーとして日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径0.016μm)32質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0245】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体274質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)5.0質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)1.7質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.1質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(d)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=73.3質量%:14.4質量%:12.3質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して8.6質量%であった。
【0246】
(接着剤組成物3(b)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(b)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)26質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)36質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)25質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)12質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC2050-HLG、平均粒子径:0.50μm)15質量部、アドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)14質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)1質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0247】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として第1のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体37質量部、第2のグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体9質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.7質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.3質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.03質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(a)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=31.5質量%:42.5質量%:26.0質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して20.5質量%であった。
【0248】
[ダイボンドフィルム(接着剤層)3の80℃でのずり粘度の測定]
接着剤組成物3(a)および3(b)の溶液から形成した各ダイボンドフィルム(接着剤層)3について、下記の方法により、80℃でのずり粘度を測定した。
【0249】
剥離ライナーを除去したダイボンドフィルム(接着剤層)3を総厚さが200~210μmとなるように70℃で複数枚貼り合わせて積層体を作製した。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm×10mmの大きさに打ち抜いて測定サンプルとした。続いて、動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、直径8mmの円形アルミプレート治具を装着した後、測定サンプルをセットした。測定サンプルに35℃で5%の歪みを与えながら、昇温速度5℃/分の条件で測定サンプルを昇温しながらずり粘度を測定し、80℃でのずり粘度の値を求めた。
【0250】
4.ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の作製
(実施例1)
厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に乾燥後の粘着剤層2の厚さが7μmとなるように、前記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(a)の溶液を塗布して100℃の温度で3分間加熱することにより溶媒を乾燥させた後に、粘着剤層2上に基材フィルム1(a)の第1層側の表面を貼り合わせ、ダイシングテープ10の原板を作製した。その後、ダイシングテープ10の原板を23℃の温度で96時間保存して粘着剤層2を架橋、硬化させた。
【0251】
次いで、ダイボンドフィルム(接着剤層)3形成用の接着剤組成物3(a)の溶液を準備し、厚さ38μmの剥離PETライナー(中本パックス社製、商品名“NS-38+A”)の剥離処理面側に乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが20μmとなるように、前記接着剤組成物3(a)の溶液を塗布して、まず90℃の温度で5分間、続いて140℃の温度で5分間の2段階で加熱することにより溶媒を乾燥させ、剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を作製した。なお、必要に応じ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(例えばポリエチレンフィルム等)を貼り合わせても良い。
【0252】
続いて、前記で作製した剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を、剥離ライナーごと直径335mmの円形にカットし、該ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、剥離ライナーを剥離した前記ダイシングテープ10の粘着剤層2面に貼り合わせた。貼り合わせ条件は、温度23℃、速度10mm/秒、線圧30kgf/cmとした。
【0253】
最後に、直径370mmの円形にダイシングテープ10をカットすることにより、直径370mmの円形のダイシングテープ10の粘着剤層2の上中心部に直径335mmの円形のダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a))を作製した。
【0254】
(実施例2~6)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表1~2に示した基材フィルム1(b)~1(f)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(b)~DDF(f))を作製した。
【0255】
(実施例7~10)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを、表2、3に示した厚さに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(g)~DDF(j))を作製した。
【0256】
(実施例11~16)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表3、4に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(g)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(k)~DDF(p))を作製した。
【0257】
(実施例17)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを15μmに変更したこと以外はすべて実施例14と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(q))を作製した。
【0258】
(実施例18)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(b)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを50μmに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(r))を作製した。
【0259】
(比較例1~3)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表6に示した基材フィルム1(g)~1(i)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(s)~DDF(u))を作製した。
【0260】
(比較例4~6)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを、表6、7に示した厚さに変更したこと以外はすべて実施例1と同様にして、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(v)~DDF(x))を作製した。
【0261】
5.ダイシングテープの評価
上記実施例1~18および比較例1~6で作製したダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(x))を用いて、以下に示す方法で評価を行った。
【0262】
5.1 ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性
まず、半導体ウエハ(シリコンミラーウエハ、厚さ750μm、外径12インチ)Wを準備し、一方の面に市販のバックグラインドテープを貼り付けた。次いで、半導体ウエハWのバックグラインドテープを貼り付けた側と反対面から、株式会社ディスコ製のステルスダイシングレーザソー(装置名:DFL7361)を使用し、割断後の半導体チップ30aの大きさが4.7mm×7.2mmのサイズとなるように、格子状のダイシング予定ラインに沿って、以下の条件にて、レーザー光を照射することにより、半導体ウエハWの所定の深さの位置に改質領域30bを形成した。
【0263】
・レーザー照射条件
(1)レーザー発振器型式:半導体レーザー励起Qスイッチ固体レーザー
(2)波長:1342nm
(3)発振形式:パルス
(4)周波数:90kHz
(5)出力:1.7W
(6)半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0264】
次いで、株式会社ディスコ製のバックグラインド装置(装置名:DGP8761)を使用し、バックグラインドテープに保持された当該改質領域30bが形成された厚さ750μmの半導体ウエハWを研削、薄膜化することにより、厚さ30μmの個片化された半導体チップ30aを得た。続いて、以下の方法によりクールエキスパンド工程を実施することで、ダイボンドフィルム(接着剤層)割断性を評価した。具体的には、厚さ30μmの半導体チップ30aのバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対面に、各実施例および比較例で作製したダイシングダイボンドフィルム20から剥離ライナーを剥離することによって露出させたダイボンドフィルム3が密着するように、株式会社ディスコ製のラミネート装置(装置名:DFM2800)を使用し、当該半導体チップ30aに対してダイシングダイボンドフィルム20をラミネート温度70℃、ラミネート速度10mm/秒の条件にて貼り合わせるとともに、ダイシングテープ10の外縁部の粘着剤層2露出部にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けた後、バックグラインドテープを剥離した。なお、ここで、ダイシングダイボンドフィルム20は、その基材フィルム1のMD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの縦ライン方向(基材フィルム1のTD方向と半導体チップ30aの格子状の分割ラインの横ライン方向)とが一致するように、半導体チップ30aに貼り付けられている。
【0265】
上記リングフレーム(ウエハリング)40に保持された半導体チップ30aを含む積層体(半導体ウエハ30/ダイボンドフィルム3/粘着剤層2/基材フィルム1)を株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)に固定した。次いで、以下の条件にて、半導体チップ30aを伴うダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10(粘着剤層2/基材フィルム1)をクールエキスパンドすることによって、ダイボンドフィルム3を割断した。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3付き半導体チップ30aを得た。なお、本実施例では、下記の条件にてクールエキスパンド工程を実施したが、基材フィルム1の物性および温度条件等によってエキスパンド条件(「エキスパンド速度」および「エキスパンド量」等)を適宜調整した上でクールエキスパンド工程を実施すればよい。
【0266】
・クールエキスパンド工程の条件
温度:-15℃、冷却時間:80秒、
エキスパンド速度:300mm/秒、
エキスパンド量:11mm、
(4)待機時間:0秒
【0267】
クールエキスパンド後のダイボンドフィルム(接着剤層)3について、半導体チップ30aの表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察することによって、割断性を確認した。割断予定の辺のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、割断予定の辺の総数と未割断の辺の総数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断された辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。上記光学顕微鏡による観察は、ダイボンドフィルム3の全面に対して行った。以下の基準に従って、ダイボインドフィルム(接着剤層)3の割断性を評価し、B以上の評価を割断性が良好と判断した。
【0268】
A:割断率が95%以上100%以下であった。
B:割断率が90%以上95%未満であった。
C:割断率が85%以上90%未満であった。
D:割断率が85%未満であった。
【0269】
5.2 ヒートシュリンク工程後におけるダイシングテープ10の弛み解消の度合いの評価
上記クールエキスパンド状態を解除した後、再度、株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)を用い、そのヒートエキスパンダーユニットにて、以下の条件にて、常温エキスパンド工程を実施した。
【0270】
・常温エキスパンド工程の条件
温度:23℃、
エキスパンド速度:30mm/秒、
エキスパンド量:9mm、
(4)待機時間:15秒
【0271】
次いで、エキスパンド状態を維持したまま、ダイシングテープ10を吸着テーブルで吸着させ、吸着テーブルによるその吸着を維持した状態で吸着テーブルをワークとともに下降させた。そして、以下の3条件にて、ヒートシュリンク工程を実施し、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させた。ダイシングテープ10の加熱部分の表面温度は80℃であった。
【0272】
・ヒートシュリンク工程の条件
[条件1]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:7°/秒、
【0273】
[条件2]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:8°/秒、
【0274】
[条件3]
(1)熱風温度:200℃、
(2)風量:40L/min、
(3)熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
(4)ステージの回転速度:9°/秒、
【0275】
続いて、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した後、ワークをエキスパンド装置から取り外し、平面状のゴムマットの上に置いて、加熱収縮(ヒートシュリンク)後のダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分における弛みの解消の度合いを、三波長蛍光灯の下、目視にて確認した。以下の基準に従って、ダイシングテープ10のそれぞれについて弛みの解消の度合いを評価し、B以上の評価を熱収縮性が均一で良好であると判断した。
【0276】
A:弛みが確認されなかった。
B:シワ状の弛みがごく一部に確認されたが軽微であった。
C:シワ状の弛み、あるいは変形シワが明確に確認された。
【0277】
5.3 ダイシングテープ10のカーフ幅の保持性の評価
上記のヒートシュリンク工程後に、ワークをエキスパンド装置から取り外し、隣り合う半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を、半導体ウエハ30の表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察、測定することにより、ダイシングテープ10のカーフ幅の保持性について評価した。
【0278】
具体的には、図11に示す半導体ウエハ30の中心部31における隣接する4つの半導体チップ30aで形成される一つの割断十字ライン部の4ヶ所(基材フィルム1のMD方向:カーフMD1とカーフMD2の2ヶ所、基材フィルム1のTD方向:カーフTD1とカーフTD2の2ヶ所、図12参照)、左部32における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD3~カーフMD5の3ヶ所、TD方向:カーフTD3~カーフTD6の4ヶ所、図示せず)、右部33における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD6~カーフMD8の3ヶ所、TD方向:カーフTD7~カーフTD10の4ヶ所、図示せず)、上部34における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD9~カーフMD12の4ヶ所、TD方向:カーフTD11~カーフTD13の3ヶ所、図示せず)、および下部35における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD13~カーフMD16の4ヶ所、TD方向:カーフTD14~カーフTD16の3ヶ所、図示せず)の計32ヶ所(MD方向において16ヶ所、TD方向において16ヶ所)について、隣り合う半導体チップ30a間の離間距離を測定し、MD方向16ヶ所の平均値をMD方向カーフ幅、TD方向16ヶ所の平均値をTD方向カーフ幅としてそれぞれ算出した。以下の基準に従って、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10のカーフ幅の保持性を評価し、B以上の評価をカーフ幅の保持性が良好と判断した。
【0279】
A:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれの値も30μm以上であった。
B:MD方向カーフ幅の値が30μm以上、TD方向カーフ幅の値が25μm以上30μm未満であるか、あるいは、TD方向カーフ幅の値が30μm以上、MD方向カーフ幅の値が25μm以上30μm未満であるか、あるいは、MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれの値も25μm以上30μm未満である、のいずれかであった。
C:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれかの値が25μm未満であった。
【0280】
5.5 評価結果
実施例1~18および比較例1~6で作製した各ダイシングテープ10について、ダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(x))の態様にて上記実装評価を行った結果を、ダイシングテープ10とダイシングダイボンドフィルム20の構成および使用した基材フィルム1と粘着剤層2の特性等と合わせて表1~7に示す。
【0281】
【表1】
【0282】
【表2】
【0283】
【表3】
【0284】
【表4】
【0285】
【表5】
【0286】
【表6】
【0287】
【表7】
【0288】
表1~5に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1および粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した実施例1~18のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(r))は、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム20の割断性が良好であり、常温エキスパンド直後にカーフ幅が狭くなることが抑制されるとともに、常温エキスパンド後のヒートシュリンク工程において、熱風を吹き出す際にステージの回転速度を早くしてタクトタイムを短縮化した場合においても、ダイシングテープ10の弛み部分を均一に加熱収縮させることが可能であり、隣接するダイボンドフィルム(接着剤層)同士が接触して再癒着することや半導体チップのエッジが損傷することを抑制できる程度にまで、エキスパンド時に広げられたカーフ幅が保持されていることが確認できた。したがって、本発明のダイシングテープ10は、ダイボンドフィルム付き半導体チップおよび半導体装置を製造するための半導体製造工程に供した場合、それらを歩留まり良く製造することができる。
【0289】
これに対し、表6、7に示すように、基材フィルム1の物性値および粘着剤層2の熱抵抗の要件の少なくともいずれかを満たさないダイシングテープ10を用いて作製した比較例1~6のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(s)~DDF(x))については、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の割断性、ヒートシュリンク工程におけるダイシングテープ10の弛み解消の度合いおよびカーフ幅の保持性の評価のいずれかの項目において実施例1~18のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(r))よりも劣る結果であることが確認された。
【符号の説明】
【0290】
1…基材フィルム、
2…粘着剤層、
3、3a1、3a2…ダイボンドフィルム(接着剤層)、
4…半導体チップ搭載用支持基板、
5…外部接続端子、
6…端子、
10…ダイシングテープ、
20…ダイシングダイボンドフィルム、
W、30…半導体ウエハ、
30a、30a1、30a2…半導体チップ、
30b…改質領域(図7(c)~(f)、図8(a)、(b)では割断領域)、
31…半導体ウエハ中心部、
32…半導体ウエハ左部、
33…半導体ウエハ右部、
34…半導体ウエハ上部、
35…半導体ウエハ下部、
40…リングフレーム(ウエハリング)、
41…保持具、
50…吸着コレット、
60…突き上げピン(ニードル)、
70、80…半導体装置、
71、81…半導体チップ搭載用支持基板
72…外部接続端子、
73…端子、
74、84…ワイヤ、
75、85…封止材、
76…支持部材