(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004584
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】発信機
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20240110BHJP
H01H 13/52 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G08B17/00 H
H01H13/52 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104250
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】大下 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠馬
【テーマコード(参考)】
5G206
5G405
【Fターム(参考)】
5G206AS33H
5G206AS33M
5G206GS17
5G206JU14
5G206MS01
5G405AA02
5G405CA51
5G405FA04
(57)【要約】
【課題】クリック感を操作者へ付与し押しボタンを押し切ったことを操作者に分からせることができる発信機を提供する。
【解決手段】前部に開口が設けられスイッチを内蔵した収納ケースを有する発信機本体部と第1保護板(押しボタン)を有する前面パネル部とを備えた発信機において、前記収納ケースには、第1保護板の押込み操作によって移動される第2保護板(スライド部材)と、該第2保護板に設けられた突起部と対向する位置に揺動可能に配設されたラッチ部材と、該ラッチ部材を付勢するバネ部材とが設けられ、ラッチ部材には突起部が摺接可能な凹凸が形成され、常態において突起部がラッチ部材の凹部に係合し、第1保護板が押圧されると突起部がラッチ部材の凸部を乗り越えることでラッチ部材が往復回動されるように構成した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部に開口が設けられオン、オフ動作可能なスイッチを内蔵した収納ケースを有し設置面に取り付けられる発信機本体部と、前記スイッチを作動させる第1保護板を有する前面パネル部と、を備えた発信機であって、
前記収納ケースには、前記第1保護板の押込み操作によって移動される第2保護板と、該第2保護板に設けられた突起部と対向する位置に揺動可能に配設されたラッチ部材と、該ラッチ部材を前記突起部へ向かって付勢するバネ部材と、が設けられ、
前記ラッチ部材の前記突起部と対向する部位には、前記突起部が摺接可能な凹凸が形成されており、常態において前記突起部が前記ラッチ部材の凹部に係合し、前記第1保護板が押圧されると前記突起部が前記ラッチ部材の凸部を乗り越えることで前記バネ部材により前記突起部へ向かって付勢されている前記ラッチ部材が往復回動されるように構成されていることを特徴とする発信機。
【請求項2】
前記収納ケース内には、前記第2保護板の背部に位置するように圧縮バネが配設され、前記第1保護板の押込み操作を止めると前記圧縮バネの復元力によって前記第2保護板および前記第1保護板が元の位置に復帰するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発信機。
【請求項3】
前記ラッチ部材の凸部は、前記第2保護板の押圧時移動方向の手前側に位置する第1傾斜面と押圧時移動方向の進行側に位置する第2傾斜面とを有する山形をなし、前記押圧時移動方向と直交する面に対する前記第1傾斜面のなす角度と前記第2傾斜面のなす角度が異なるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発信機。
【請求項4】
前記ラッチ部材の前記第2傾斜面のなす角度は、前記第1傾斜面のなす角度よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の発信機。
【請求項5】
前記第1保護板は前記前面パネル部に組み込まれる一方、前記第2保護板は前記発信機本体部に組み込まれており、前記前面パネル部が開放方向へ移動された際に前記第1保護板は前記第2保護板から離反するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の発信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急報知用の発信機に関し、例えば建物の壁部に設けられ火災発生時に操作されることで警報を発するための火災報知用の発信機に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内部には火災の発生を知らせるために、火災報知システムが設けられている。火災報知システムは、火災感知器や押しボタン式スイッチを備えた手動の火災報知用の発信機、受信機、火災報知用のベル、表示灯などから構成され、このうち火災報知用の発信機は建物の廊下等の壁面に適切な高さで設置されている。火災発生時には、発見者が火災報知用の発信機の押しボタンを強く押すことにより、内蔵スイッチがオンされて火災発生を知らせる信号が受信機に伝送されると共に、発信機の近傍に設けられるベルから警報音が発せられて、周囲の人に対し火災発生を知らせることができる。
【0003】
従来の火災報知用発信機は、室内露出部分を覆う円盤状の前面パネル部を発信機本体の前面に備えたものが一般的であり、発信機本体は内蔵スイッチをオンさせるための押しボタン(保護板)と、火災受信機の監視員と通話するため送受話器を接続する電話ジャックとを備え、内蔵スイッチをオンさせるのに充分な所定の深さまで押し込まれると、その押込み状態を保持するラッチ構造を有していた。そのため、押しボタンを押し込んだ際に、ラッチ構造によって操作者へクリック感を付与するとともに、見た目でもオンされている状態になっていることが分かるという利点があった。
【0004】
一方、近年、前面が平坦もしくは円盤状をなすフラットタイプの表示灯や、表示灯が一体に構成された火災報知用発信機が実用化されている。表示灯が発信機と一体に構成されることにより、発信機と別に設けられている表示灯が不要になるという利点がある。
なお、電話ジャックを備え、表示灯が一体に構成されるとともに、押込み状態を保持するラッチ構造を有するように構成された火災報知用発信機に関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている火災報知用発信機は、発信機の前面パネルに電話ジャックの前面を覆う開閉扉が設けられているため、前面に設けられている表示灯と押しボタンや開閉扉の各部品同士の境界が視覚的にはっきりと分かるような形態で構成されている。一方、近年、建物内部のデザイン性に対する要求が高くなってきており、各部品の境界がはっきりと分かる発信機は、建物の内壁に設置した際に、内装との調和がとれず違和感が生じるという課題がある。
【0007】
そこで、本出願人は、発信機の前方から電話ジャックを使用可能にする機能を保証しつつ、部品同士の境界を減らして建物の内装との調和をとり違和感を生じにくくした発信機を考案し、先に出願した(特願2021-174656)。
しかし、上記先願に係る発信機は、従来の発信機とは異なり、押しボタンを押し込んだ状態を保持するラッチ構造がないため、ラッチ回路を採用して電気的にラッチしてランプを点灯させる構成を設けている。そのため、従前であれば保護板が構造でラッチする際に強いクリック感の他、見た日でも押されていることが分かるメリットがあったが、上記先願に係る発信機は構造でラッチ構造を有しないため、クリック感が無く押し切ったことが分かりづらいという課題がある。
【0008】
本発明は上記先願発明の改良に関するもので、その目的とするところは、クリック感を操作者へ付与し押しボタンを押し切ったことを操作者に分からせることができる発信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、
前部に開口が設けられオン、オフ動作可能なスイッチを内蔵した収納ケースを有し設置面に取り付けられる発信機本体部と、前記スイッチを作動させる第1保護板を有する前面パネル部と、を備えた発信機において、
前記収納ケースには、前記第1保護板の押込み操作によって移動される第2保護板と、該第2保護板に設けられた突起部と対向する位置に揺動可能に配設されたラッチ部材と、該ラッチ部材を前記突起部へ向かって付勢するバネ部材と、が設けられ、
前記ラッチ部材の前記突起部と対向する部位には、前記突起部が摺接可能な凹凸が形成されており、常態において前記突起部が前記ラッチ部材の凹部に係合し、前記第1保護板が押圧されると前記突起部が前記ラッチ部材の凸部を乗り越えることで前記バネ部材により前記突起部へ向かって付勢されている前記ラッチ部材が往復回動されるように構成したものである。
【0010】
上記のような構成によれば、内蔵スイッチを作動させる第1保護板(押しボタン)を備えた発信機において、押しボタンが押圧されると突起部がラッチ部材の凸部を乗り越えることでラッチ部材が往復回動されるように構成されているため、ラッチ部材が往復回動した際に生じる振動が押しボタンに伝わり、操作者の指にクリック感を付与し押しボタンを押し切ったことを操作者に分からせることができる。
【0011】
ここで、望ましくは、前記収納ケース内には、前記第2保護板の背部に位置するように圧縮バネが配設され、前記第1保護板の押込み操作を止めると前記圧縮バネの復元力によって前記第2保護板および前記第1保護板が元の位置に復帰するように構成する。
かかる構成によれば、第1保護板(押しボタン)を押し込んでも、第2保護板および前記第1保護板が押し込まれたロック状態を維持することがないので、ロックを解除する操作を不要とすることができる。
【0012】
また、望ましくは、前記ラッチ部材の凸部は、前記第2保護板の押圧時移動方向の手前側に位置する第1傾斜面と押圧時移動方向の進行側に位置する第2傾斜面とを有する山形をなし、前記押圧時移動方向と直交する面に対する前記第1傾斜面のなす角度と前記第2傾斜面のなす角度が異なるように形成されているように構成する。
上記のような構成によれば、第1保護板(押しボタン)の押込み力と第1保護板に付与されるクリック感をそれぞれ最適に設定することが可能となる
【0013】
さらに、望ましくは、前記ラッチ部材の前記第2傾斜面のなす角度は、前記第1傾斜面のなす角度よりも小さくなるようにする。
かかる構成によれば、第1保護板(押しボタン)の押込み力(抵抗力)を小さくしつつ第1保護板に付与されるクリック感を大きくすることができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記第1保護板は前記前面パネル部に組み込まれる一方、前記第2保護板は前記発信機本体部に組み込まれており、前記前面パネル部が開放方向へ移動された際に前記第1保護板は前記第2保護板から離反するように構成する。
かかる構成によれば、前面パネル部を開放した状態でも内蔵スイッチの前方に第2保護板が存在することになるため、第2保護板を押圧することで内蔵スイッチに直接触れることなく内蔵スイッチをオンさせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の発信機によれば、内蔵スイッチを作動させる第1保護板(押しボタン)を備えた発信機において、クリック感を操作者へ付与し押しボタンを押し切ったことを操作者に分からせることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る発信機の一実施形態を示す全体斜視図ある。
【
図2】実施形態の発信機の内部構造を示す中央断面側面図である。
【
図3】実施形態の発信機を構成する前面パネルの構造の詳細を示す要部拡大断面図である。
【
図4】(A)、(B)は実施形態の発信機の前面パネルの開動作の手順を示す断面側面図である。
【
図5】実施形態の発信機の押しボタンを押し込んでいる際の状態変化を示すもので、(A)は押し込み途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は押しボタンを奥まで押し切った状態を示す要部拡大断面図である。
【
図6】(A)は実施形態の発信機内部に設けられるラッチ部材の詳細な形状を示す拡大図、(B)はラッチ部材の凸部の角度を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を適用した火災報知用発信機の実施形態について説明する。
本発明の火災報知用発信機(以下、単に発信機と記す)は、火災等の異常が発生した際に、前面に設けられている押しボタンを強く押して内部のスイッチをオンさせることにより異常の発生を知らせる信号を火災受信機に伝送する機能を備え、建造物の壁面あるいは消火栓箱の扉などに設置されて使用されるように構成されている。
【0018】
図1は、本発明に係る発信機の一実施形態を示す。このうち、
図1は発信機の全体斜視図、
図2は
図1に示す発信機の内部構造を示す断面側面図、
図3は
図1に示す発信機の発信機の一部(放光部)を拡大して示す要部断面構造図である。
本実施形態の発信機は、
図1に示すように、押しボタン式スイッチを内蔵した箱状の収納ケース13を備えた発信機本体部10と、前面中央に第1保護板としての押しボタン21を備え発信機本体部10の前部に設けられた円板状の前面パネル部20とから構成されている。
【0019】
発信機本体部10は、
図2に示すように、内部に押しボタン式スイッチ11や送受話器のコード先端のプラグを差し込む電話ジャック12等を内蔵した箱状の収納ケース13を備えている。
収納ケース13は、押しボタン21側(図では左側)に開口を有し奥部(図では右側)に複数(例えば4個)の圧縮バネ15を収納するバネ受け部材16が設けられ、このバネ受け部材16の各バネ収納凹部に収納された圧縮バネ15の前方側を覆うように、前面視で円形をなす第2保護板としてのスライド部材17が設けられている。
【0020】
上記スライド部材17の中心部には、後方(図では右側)に向かって突出するボス部17aが形成されているとともに、上記バネ受け部材16の前面側の中心には上記ボス部17aが嵌合可能なガイド筒部16aが形成されており、スライド部材17はガイド筒部16aに案内されて前後方向に移動可能に構成されている。また、ガイド筒部16aの中央に、アクチュエータがボス部17aの端面に対向するように、押しボタン式スイッチ11が配設されている。
さらに、上記収納ケース13の前端には、前面パネル部20の背面に接合される円環状の鍔部13aが形成されている。
【0021】
一方、前面パネル部20は、前面中央に非透光材で形成された円形状の押しボタン21が設けられ、その周囲に円環状をなす放光部22が設けられ、放光部22の背面側に皿状の支持プレート23が設けられている。そして、この支持プレート23の中央にガイド筒部23aが形成されており、このガイド筒部23aには円形状の押しボタン21の背面中心に後方(図では右側)に向かって突出するように形成された押圧ロッド部21aが嵌合されている。なお、図示しないが、押しボタン21は所定以上前方(図では左方)へ移動しないように構成されている。
【0022】
さらに、押圧ロッド部21aは、ガイド筒部23aを貫通し収納ケース13側へ突出し、その突出端部が発信機本体部10の収納ケース13内の前記スライド部材17の前面中央に当接するように構成されている。そして、押しボタン21を前方より後方へ押圧すると、発信機本体部10内の圧縮バネ15のバネ力に抗して押しボタン21が後方へ移動され、背面の押圧ロッド部21aが押しボタン式スイッチ11のアクチュエータ部に当接してこれを押し込むことでスイッチ11がオン状態にされるように構成されている。
【0023】
また、前面パネル部20の放光部22は、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂のような光透過性を有する導光材で形成され、前面パネル部20の内部に配設された発光素子LEDからの光を誘導し前面へ放出させることで発光表示を行うように構成されている。
また、上記支持プレート23前面のガイド筒部23aの周囲にLED基板27が設置され、このLED基板27上に複数の発光素子(LED)28が所定の間隔をおいて周方向に沿って並んで配設されている。発光素子28から前方へ放出された光は前面パネル部20の円環状をなす放光部22へ誘導され、反射を繰り返しながら放光部22の前面より放出され、全体が明るく光るように構成されている。
【0024】
上記発光素子28の発光色は、例えば従来の表示灯と同様な赤色とされる。赤色の発光素子を使用する代わりに、白色の発光素子を使用し放光部22を形成する導光材として赤色に着色されたものを使用するようにしても良い。さらに、押しボタン21と放光部22は、ガラスやアクリル樹脂のような光透過性を有する樹脂などの導光材で形成され、この導光材は、内部に粒子状の拡散材が混入されていても良い。
【0025】
また、前面パネル部20を構成する上記放光部22は、内側にすり鉢状の傾斜部を有し外側に平坦部を有しており、
図3に示すように、LED基板27上の複数の発光素子28に対向する傾斜部の端部に光導入部22cが形成された導光部材22Aと、該導光部材22Aの表面を覆う光透過可能なカバー部材22Bとから構成されている。
導光部材22Aは、前記支持プレート23の平坦部の前面に接合されている。さらに、押しボタン21には鍔部21bが設けられ、その鍔部21bが導光部材22Aの光導入部22cすなわち発光素子28の前方位置まで延設されている。
【0026】
本実施形態の発信機においては、導光部材22Aの内側の端面の光導入部22cより入射した光が、傾斜部により平坦部へ導光されて表面に当たって方向を変え、一部は表面側へ放出されるとともに残りは表面と裏面で反射を繰り返して外縁部の方へ導光される。
また、導光部材22Aおよび支持プレート23の外縁部には庇部22b,23bが設けられている。これにより、導光部材22Aの本体部分により導光された光の一部は庇部22bより側方へ放出されるため、発信機の側方の離れた位置から前面パネル部20の発光表示を視認することが容易になる。
【0027】
一方、カバー部材22Bは、シリコーン樹脂等の透光性を有し形状を保持可能な軟質材料で形成された保形部材と、該保形部材の表面を覆うように設けられた合成樹脂製シートや布のような柔軟性のある材料で形成された光拡散膜とから構成されている。そして、カバー部材22Bは、導光部材22Aの外縁部の庇部22bを側部から背部まで覆うように形成されている。
これにより、カバー部材22Bに外部から衝撃が加わったとしても保形部材が変形して衝撃を吸収し、表面の損傷を防止することができる。また、保形部材の表面が光拡散膜で覆われているため、導光部材22Aにより導かれて来た光を拡散させて前方へ放出することで、ぼんやりとした柔らかな質感を与えることができる。また、前面パネル部20の表面側が湾曲しているため、デザイン性が向上し、発信機の設置環境である建物の内装との調和がとれ違和感が生じにくくなる。
【0028】
さらに、本実施形態の発信機は、放光部22が発信機の位置を示す表示灯として機能するとともに、放光部22の前面が平坦に近い湾曲形状であるため、従来の砲弾型の表示灯に比べて前方への突出量がなく、備品を搬送する際に移動の障害となることがないという利点がある。
また、押しボタン21が非透光材で形成されているが、放光部22の導光部材22Aの前面側が湾曲され、中央開口付近では開口部に向かって下り傾斜しているため、該傾斜部から放出(散乱)された光の一部が押しボタン21の表面に達して明るくするので、押しボタン21の表面と放光部22の表面の明度差が小さくなり、押しボタン21が非透光材で形成されたとしても、押しボタン21を目立たなくし、周囲の内装と調和し違和感の少ない発信機を実現することが可能である。
【0029】
さらに、本実施形態の発信機においては、
図4に示すように、前面パネル部20を構成する支持プレート23の背面側にリング部材24が嵌合され、このリング部材24の下部には鉛直方向に延出するフランジ24aが設けられている。そして、このフランジ24aにはピン穴が形成されており、このピン穴に挿入されたピン25によって、支持プレート23の背面下部から後方へ向かって突出し収納ケース13の底壁内面に沿って摺動するスライドプレート26の一端が連結されている。
一方、収納ケース13の側壁内面下部には、底壁13bと平行にリブ状のガイドレール13cが設けられており、上記スライドプレート26の側端部がこのガイドレール13cと収納ケース13の底壁13bとにより形成された溝に係合することで、水平姿勢のまま前方向に移動可能に支持されている。さらに、
図4(B)に示すように、前面パネル部20は、上記ピン25を中心として上部が前方へ倒れるようにして、回動可能に構成されている。
【0030】
上記のような構成を有することによって、本実施形態の発信機は、前面パネル部20を開放して電話ジャック12を露出させ、送受話器のコード先端のプラグを差し込むことで通話が行えることとなる。なお、図示しないが、ガイドレール13cにはスライドプレート26が前方へ抜けてしまうのを防止するための抜け止め構造が設けられている。また、スライドプレート26とガイドレール13cの代わりに、前面パネル20を斜め下方へ平行移動させることが可能なリンク機構を設けるようにしても良い。
【0031】
上述したように、本実施形態の発信機は、前面パネル20を前方へ移動させてから下方へ回動させて電話ジャック12を露出させる構成であるため、前面パネル20に電話ジャック12の前方を覆う開閉扉を設ける必要がないので、前面の部品の数および部品同士の境界が少なくなって境界が目立たなくなる。また、放光部22の前面全体が放光面となって光を放出するとともに、光の一部が押しボタン21の前面に照射されるため、押しボタン21と放光部22の境界が目立たなくなる。
そのため、建物の内装との調和がとれ違和感が生じにくくなって美観を向上させることができるとともに、電話ジャック12の開閉扉が不要であるので、発信機が小型化されたとしても、放光部22を相対的に大きくすることができ、発光表示面積が小さくなって視認性が低下するのを回避することができる。また、開閉扉がないため、押しボタン21を相対的に大きくすることで、操作性を向上させることが可能となる。
【0032】
なお、設置面としての壁面または取付けパネルへの発信機の取付けは、例えば壁面または取付けパネルに収納ケース13を挿入可能な開口を形成するとともに開口の周辺にビス穴を設け、この開口に収納ケース13を挿入して鍔部13aを壁面または取付けパネルに接合させた状態で、ビスを鍔部13aのビス穴と取付けパネルの開口周辺のビス穴に螺合させることで行なえるように構成することができる。あるいは、収納ケース13の開口側端部の外周に雄ネジ部を形成し、この雄ネジ部にリング状ナットを螺合させ、リング状ナットと鍔部13aとの間に取付けパネルを挟み込むことで取り付けるようにしても良い。
【0033】
次に、
図5を用いて、発信機の押しボタン21にクリック感を付与する構造とその動作について説明する。なお、
図5(A)は押しボタン21を押し込んでいる途中の状態を、(B)は押しボタン21を奥まで押し切った状態をそれぞれ示している。
本実施形態の発信機は、
図5に示すように、スライド部材17の上部に、上方へ突出し頭部が丸みを有している突起部17bが設けられている。また、この突起部17bに対向するように、収納ケース13の上部には、ほぼ水平姿勢にて配設されたラッチ部材18と、該ラッチ部材18を上記スライド部材17の突起部17bに向けて付勢するための圧縮バネ(ラッチバネ)19とからなるラッチ機構が設けられている。
【0034】
上記ラッチ部材18は、
図6(A)に拡大して示されているように、下面に逆V字状の溝18aと下向きの凸部18bとが前後方向に連続して形成されている。ラッチ部材18の凸部18bは、スライド部材17の押圧時移動方向の手前側に位置する第1傾斜面と押圧時移動方向の進行側に位置する第2傾斜面とを有する山形をなし、押圧時移動方向と直交する面に対する上記第1傾斜面のなす角度θと上記第2傾斜面のなす角度θ’が異なるように形成されている。具体的には、ラッチ部材18の上記第2傾斜面のなす角度θ’は、上記第1傾斜面のなす角度θよりも小さい。第1傾斜面のなす角度θを大きくするほど、押しボタン21の押込み力(抵抗力)を小さくすることができ、小さくするほど押込み力(抵抗力)は大きくなるが、クリック感を大きくできる。ただし、θを大きくするほど移動量は大きくなる。一方、第2傾斜面のなす角度θ’を小さくするほど、押しボタン21に付与されるクリック感を大きくすることができる。ただし、θ’を小さくほど、スライド部材17および押しボタン21の戻りが悪くなる。従って、上記メリットとデメリットを考慮して、θとθ’をそれぞれ設定すると良い。
【0035】
また、上記ラッチ部材18は、後方側(図では右方)の端部が丸みを有するように半円柱状に形成されており、ここを支点として先端側(図では左方)が上下方向へ揺動可能に配設されている。さらに、収納ケース13の上壁内面には上記圧縮バネ(ラッチバネ)19を収納する収納部13dが、また、バネ受け部材16には上記ラッチ部材18の支点部を収納する半円筒状の凹部16bがそれぞれ形成されている。
また、ラッチ部材18の前方には、前面パネル部20を構成する支持プレート23の背面側に嵌合されているリング部材24が位置している。
【0036】
次に、上記ラッチ機構の動作について説明する。
前面パネル部20の押しボタン21の前面に指を当て、押しボタン21を後方へ押し込むと、押圧ロッド部21aの後端面がスライド部材17を後方へ移動させる。すると、
図5(A)に示すように、スライド部材17の上部の突起部17bの先端がラッチ部材18の凸部18bに乗り上げるようにして、ラッチ部材18を上方へ回動させる。この際、スライド部材17の背部の圧縮バネ15およびラッチ部材18の上方の圧縮バネ19が圧縮された状態になる。
【0037】
そして、押しボタン21をさらに後方へ押し込むと、
図5(B)に示すように、スライド部材17の上部の突起部17bの先端がラッチ部材18の凸部18bを乗り越え、ラッチ部材18は圧縮バネ19の復元力で下方へ回動する。一方、スライド部材17の背部の圧縮バネ15はさらに圧縮される。上記一連の動作の際に、スライド部材17から押しボタン21へ振動が伝わり、操作者の指先にクリック感が付与される。
また、押しボタン21を押し切った状態になると、スライド部材17の背面が、押しボタン式スイッチ11のアクチュエータに当たってスイッチをオンさせる。すると、発信機から警報器を発報させる信号が送出される。
【0038】
その後、押しボタン21の前面から指を離すと、上記とは逆の動作でスライド部材17の背部の圧縮バネ15のバネ力によって押しボタン21が前方へ移動され、その移動に伴ってラッチ部材18が一旦上方へ回動されて圧縮バネ19が圧縮される。そして、スライド部材17の上部の突起部17bの先端がラッチ部材18の凸部18bを乗り越えると、圧縮バネ19のバネ力によって下方へ回動され、スライド部材17の上部の突起部17bの先端がラッチ部材18の溝18aに係合した元の状態に復帰する。
【0039】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、押しボタン21が非透光性材料で形成されていると説明したが、押しボタン21とスライド部材17を透光性材料で形成して前面パネル部20と共に押しボタン21の前面から光が放出され発信機の前面全体が光るように構成しても良い。さらに、スイッチ11の近傍に発光素子(LED)を設置して、押しボタン21の押込み操作で内部のスイッチがオンされた際に、上記の発光素子を発光させてスライド部材17と押しボタン21の内部を透過して押しボタン21の表面を光らせ、動作確認表示を行うようにしても良い。
また、上記実施形態においては、スライド部材17の背部に径の小さな複数の圧縮バネ15を配設しているが、径の大きな圧縮バネ15を1つ配設するようにしても良い。
【0040】
さらに、上記実施形態では、押しボタン21の前面から指を離すとスライド部材17の背部の圧縮バネ15のバネ力によって押しボタン21が前方へ移動して元の状態に復帰するように構成しているが、スライド部材17が押し込まれた状態を保持するロック機構を設けるようにしても良い。
また、上記実施形態では、本発明を、火災報知システムを構成する火災報知用発信機に適用したものを説明したが、本発明は火災報知用発信機に限定されず、駅のプラットホームや踏切に設置される列車緊急停止用の発信機などに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 発信機本体部
11 押しボタン式スイッチ
12 電話ジャック
13 収納ケース
15 圧縮バネ
16 バネ受け部材
17 スライド部材(第2保護板)
18 ラッチ部材
18a 溝
18b 凸部
19 圧縮バネ
20 前面パネル部
21 押しボタン(第1保護板)
22 放光部
22A 導光部材
22B カバー部材
23 支持プレート
24 リング部材
25 ピン
26 スライドプレート
27 LED基板
28 発光素子