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特開2024-45865気体分離膜および気体分離膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045865
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】気体分離膜および気体分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20240327BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B01D71/70 500
B01D71/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150921
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 康享
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB03
4D006MB04
4D006MC01
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006MC71X
4D006MC75X
4D006MC78X
4D006NA41
4D006NA42
4D006NA43
4D006NA54
4D006NA62
4D006PA01
4D006PA02
4D006PA05
4D006PB18
4D006PB20
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PB70
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】目的とする気体の選択分離性および気体透過性が良好な気体分離膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層と、前記樹脂層の一方の面に設けられ、前記一方の面に導入されている官能基を有する改質層と、を有し、前記改質層の表面側からX線を照射するX線光電子分光法により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得し、前記Si2pピークについて波形分離をしたとき、Si-Oピークの面積比率が前記Si2pピークの2%以上30%以下であることを特徴とする気体分離膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層と、
前記樹脂層の一方の面に設けられ、前記一方の面に導入されている官能基を有する改質層と、
を有し、
前記改質層の表面側からX線を照射するX線光電子分光法により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得し、前記Si2pピークについて波形分離をしたとき、Si-Oピークの面積比率が前記Si2pピークの2%以上30%以下であることを特徴とする気体分離膜。
【請求項2】
前記XPSスペクトルは、前記Si2pピーク、C1sピークおよびO1sピークを含む範囲のスペクトルであり、
前記XPSスペクトルに基づいて元素分析を行ったとき、前記Si2pピークの面積比率が前記XPSスペクトル全体の5%以上である請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
前記官能基は、アミノ基、カルボン酸基またはフェニル基を含む請求項1または2に記載の気体分離膜。
【請求項4】
オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層の一方の面に、活性化処理を施す活性化処理工程と、
前記活性化処理工程の後に設けられ、前記活性化処理を施した後の前記一方の面にカップリング剤を接触させ、前記一方の面に官能基を導入する官能基導入工程と、
を有し、
前記官能基を導入した後の前記一方の面についてX線光電子分光法でSi2pピークを含むXPSスペクトルを取得し、前記Si2pピークについて波形分離をしたとき、SiO由来のSi-Oピークの面積比率が前記Si2pピークの2%以上30%以下であることを特徴とする気体分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記カップリング剤は、1分子当たり1つまたは2つの加水分解性基を含み、
前記加水分解性基は、アルコキシ基またはカルボン酸基である請求項4に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜および気体分離膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの実現に向けて、大気中の二酸化炭素を取り込んで直接回収する技術が検討されている。この技術には、吸収液や吸着材に二酸化炭素を吸収、吸着させる方法である化学吸収・吸着法、気体分離膜を用いて二酸化炭素を分離する膜分離法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔質からなる支持層と、支持層に積層されたガス分離層と、を備えるガス分離複合膜が開示されている。ガス分離層の表面には、親水性に表面改質された親水性改質処理面が存在している。また、この親水性改質処理面は、ガス分離層にプラズマ処理等の処理を施した後、シランカップリング処理を行って得られることが開示されている。このようなガス分離複合膜では、優れたガス分離性と長寿命との両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-075264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討により、表面改質によってガス分離層の表面に親水性改質処理面を形成すると、ガスの透過性が低下することが明らかとなった。例えば、特許文献1では、シランカップリング処理の前にプラズマ処理を行っているが、このようなプラズマ処理は、ガスの透過性を低下させる原因になることが明らかとなった。ガスの透過性が低下すると、ガス分離に大きなエネルギーを要する。
【0006】
そこで、官能基を導入することによって目的とする気体成分の選択分離性を達成しつつ、その下地となるポリオルガノシロキサンの化学結合状態を最適化し、気体透過性が良好な気体分離膜を実現することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る気体分離膜は、
オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層と、
前記樹脂層の一方の面に設けられ、前記一方の面に導入されている官能基を有する改質層と、
を有し、
前記改質層の表面側からX線を照射するX線光電子分光法により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得し、前記Si2pピークについて波形分離をしたとき、Si-Oピークの面積比率が前記Si2pピークの2%以上30%以下である。
【0008】
本発明の適用例に係る気体分離膜の製造方法は、
オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層の一方の面に、活性化処理を施す活性化処理工程と、
前記活性化処理工程の後に設けられ、前記活性化処理を施した後の前記一方の面にカップリング剤を接触させ、前記一方の面に官能基を導入する官能基導入工程と、
を有し、
前記官能基を導入した後の前記一方の面についてX線光電子分光法でSi2pピークを含むXPSスペクトルを取得し、前記Si2pピークについて波形分離をしたとき、SiO由来のSi-Oピークの面積比率が前記Si2pピークの2%以上30%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3図2に示す改質層の変形例を示す断面図である。
図4】気体分離膜について取得されたSi2pピークを含むXPSスペクトルと、波形分離によって求められたSi-OピークおよびSi-Cピークと、を示す図である。
図5】変形例に係る気体分離膜を模式的に示す断面図である。
図6】実施形態に係る気体分離膜の製造方法を説明するための工程図である。
図7図6に示す気体分離膜の製造方法を模式的に説明するための断面図である。
図8図6に示す気体分離膜の製造方法を模式的に説明するための断面図である。
図9図6に示す気体分離膜の製造方法を模式的に説明するための断面図である。
図10】実施例1、3および比較例1~3の気体分離膜について取得したXPSスペクトルにおいて、Si-OピークおよびSi-Cピークの面積比率を比較したグラフである。
図11】実施例1、3および比較例2、3の気体分離膜についてガス透過性試験を行った結果から算出したCO透過性減少率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の気体分離膜および気体分離膜の製造方法を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
1.気体分離膜の概要
まず、実施形態に係る気体分離膜の構成について説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。図2は、図1の部分拡大図である。
【0013】
図1に示す気体分離膜1は、複数の気体成分を含む混合気体から、特定の気体成分を選択的に透過させる機能を有する。図1に示す気体分離膜1は、樹脂層3と、改質層4と、を有する。
【0014】
樹脂層3は、オルガノポリシロキサンで構成される。オルガノポリシロキサンは、主鎖に-Si-O-の繰り返し単位を有し、側鎖に有機基を持つポリマーである。樹脂層3は、互いに表裏の関係を有する第1面31(一方の面)および第2面32(他方の面)を有する。
【0015】
改質層4は、樹脂層3の第1面31に設けられ、図2に示すように、第1面31に導入された官能基Xを有する。図2は、改質層4を構成する分子構造の一例を模式的に示す断面図である。図2に示す分子構造は、シランカップリング剤に由来している。
【0016】
なお、使用時における気体分離膜1の姿勢は、限定されない。図1に示す気体分離膜1では、図1の上方に混合気体が供給される。そこで、以下の説明では、図1に示す気体分離膜1の上方を「上流側」という。また、図1の気体分離膜1では、図1の上方から下方に向かって特定の気体成分が透過する。そこで、以下の説明では、図1に示す気体分離膜1の下方を「下流側」という。
【0017】
1.1.樹脂層
樹脂層3の構成材料は、オルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、基本構成単位として、RSiO3/2で表される単位(T単位)、RSiO2/2で表される単位(D単位)、および、RSiO1/2で表される単位(M単位)を、少なくとも含んでいる。なお、各単位中、R~Rは、脂肪族炭化水素または水素原子である。オルガノポリシロキサンの1つの分子は、これらのT単位、D単位およびM単位が組み合わされて構成されている。
【0018】
オルガノポリシロキサンの具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリスルホン/ポリヒドロキシスチレン/ポリジメチルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/ジフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン/メチルフェニルシロキサン/メチルビニルシロキサン共重合体、ジフェニルシロキサン/ジメチルシロキサン共重合体末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端ビニル、ポリジメチルシロキサン末端H、ジメチルシロキサン-メチルハイドロシロキサン共重合体等が挙げられる。また、樹脂層3の構成材料は、これらのうちの1種または2種以上の複合物であってもよい。なお、これらには、架橋反応物を形成している形態も含まれる。
【0019】
なお、オルガノポリシロキサンは、特に二酸化炭素に対して良好な親和性を有する。この親和性は、分離対象の気体成分の選択分離性を高めることに寄与する。したがって、樹脂層3は、特に二酸化炭素に対して高い選択分離性を示すものとなる。
【0020】
なお、樹脂層3の機能を阻害しない範囲において、樹脂層3の構成材料には、オルガノポリシロキサンよりも少ない比率で任意の成分が含まれていてもよい。
【0021】
樹脂層3の平均厚さは、特に限定されないが、樹脂層3が気体分離膜1の基層である場合には、100μm以下であるのが好ましく、10nm以上50μm以下であるのがより好ましく、30nm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、樹脂層3は、気体分離膜1の基層として必要かつ十分な機械的強度を有するとともに、気体分離性を確保することができる。
【0022】
なお、樹脂層3の平均厚さは、例えば、気体分離膜1の断面を拡大観察し、10か所の厚さの平均値として求められる。
【0023】
樹脂層3は、シートやフィルムの製造方法により製造可能である。また、犠牲層上に成膜した後、犠牲層を除去する方法によっても製造可能である。
【0024】
1.2.改質層
改質層4は、樹脂層3の上流側の面に成膜されている。前述したように、改質層4は、第1面31に導入された官能基Xを有している。第1面31に導入された官能基Xとは、第1面31に分子鎖を介して結合していることを指している。つまり、改質層4は、官能基Xを有する分子が第1面31と反応してなる単分子層である。このような改質層4は、非常に薄いため、気体透過性を阻害することなく、官能基Xに由来する特性を付与できる。その結果、特定の気体成分に対する親和性に優れ、かつ、気体透過性が良好な気体分離膜1を得ることができる。
【0025】
改質層4は、官能基Xを有する化合物と第1面31との反応物で構成される。官能基Xを有する化合物としては、例えばカップリング剤が挙げられる。カップリング剤は、加水分解性基と官能基Xとを有し、活性化によって水酸基が導入された第1面31に結合する。これにより、カップリング剤に由来する改質層4が形成される。
【0026】
図2に示すように、改質層4の分子構造は、前述したように、シランカップリング剤に由来している。なお、図2に示すシランカップリング剤は、加水分解性基が加水分解した結果、水酸基に変化している状態である。そして、図2の例では、シランカップリング剤が有する水酸基と、第1面31に導入されている水酸基と、が水素結合によって引き合っている。また、シランカップリング剤の隣り合う分子同士の間でも、水酸基同士が引き合っている。その結果、シランカップリング剤の分子が第1面31に沿って分布し、改質層4を構成している。
【0027】
なお、上述した水酸基同士の結合は、脱水縮合を経て、共有結合に変化していてもよい。図3は、図2に示す改質層4の変形例を示す断面図である。図3では、シランカップリング剤が有する水酸基と、第1面31に導入されている水酸基と、が脱水縮合して、共有結合に変化している。また、シランカップリング剤の隣り合う分子同士の間でも、水酸基同士の結合が脱水縮合を経て、共有結合に変化している。その結果、シランカップリング剤に由来する化合物が第1面31に沿って広がり、改質層4を構成している。
【0028】
なお、改質層4の分子構造は、図2に示す構造と図3に示す構造とが混在した構造であってもよい。すなわち、シランカップリング剤に由来する化合物と第1面31との間では、水素結合と共有結合とが混在していてもよい。同様に、シランカップリング剤の隣り合う分子同士の間では、水素結合と共有結合とが混在していてもよい。
【0029】
ただし、図3に示す状態では、改質層4の分子構造においてシロキサン結合(-Si-O-)が支配的になる。そうすると、改質層4の気体透過性が低下するおそれがある。そこで、改質層4の分子構造は、図2に示す構造、または、図2に示す構造と図3に示す構造とが混在した構造であるのが好ましい。これにより、改質層4の気体透過性の低下を抑制することができる。
【0030】
改質層4の平均厚さは、官能基を有する化合物の分子サイズに応じて決まるため、特に限定されないが、1nm以上20nm以下であるのが好ましく、2nm以上10nm以下であるのがより好ましい。これにより、気体分離膜1を厚くすることなく、官能基Xを導入することができる。
【0031】
官能基Xとしては、分離対象の気体成分に応じて適宜選択される。具体的には、分離対象の気体成分に対して親和性を有する原子団が選択される。例えば、分離対象の気体成分が二酸化炭素である場合、極性基が好ましく用いられる。極性基としては、例えば、水酸基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、酸無水基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基、フェニル基等が挙げられる。このうち、官能基Xは、アミノ基、カルボン酸基またはフェニル基であることが好ましい。これらは、二酸化炭素のπ電子に対して特に良好な親和性を有する。そのため、これらを官能基Xとする改質層4には、二酸化炭素に対する良好な選択分離性が付与される。
【0032】
また、図2および図3ならびに他の図において、リンカー部位Lは、直鎖、分岐鎖、環状鎖等の炭素鎖を含む連結基である。リンカー部位Lとしては、例えば、アルキレン基、エーテル基(-O-)、アミン(-NR-,Rは水素原子または炭素数1~20のアルキル基)等が挙げられる。また、アルキレン基の炭素数は、3~18であるのが好ましい。アルキレン基は、さらに任意の置換基を伴っていてもよい。
【0033】
1.3.X線光電子分光法(XPS)による分析
1.3.1.Si2pピークの波形分離
気体分離膜1について、改質層4の表面側からX線を照射するX線光電子分光法(XPS)により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得する。このSi2pピークについて波形分離をすると、Si-OピークおよびSi-Cピークに分離される。
【0034】
図4は、気体分離膜1について取得されたSi2pピークを含むXPSスペクトルと、波形分離によって求められたSi-OピークおよびSi-Cピークと、を示す図である。Si2pピークについて、互いに異なる複数の化学結合状態に分離するフィッティング処理を行うと、図4に示すように、Si-OピークおよびSi-Cピークに分離することができる。このようなフィッティング処理は、XPSスペクトルの解析ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0035】
本実施形態に係る気体分離膜1では、分離されたSi-OピークについてSi2pピーク全体に対する面積比率を算出すると、2%以上30%以下となる。
【0036】
X線光電子分光法による分析結果が上記条件を満たすとき、気体分離膜1では、目的とする気体の選択分離性、および、気体透過性が良好になる。具体的には、Si-Oピークの面積比率が前記範囲内であるとき、改質層4を成膜する下地、つまり、樹脂層3の第1面31において、オルガノポリシロキサンの分子構造が適度に保存されている。換言すれば、官能基Xを導入するにあたって、第1面31に活性化処理を行うと、オルガノポリシロキサンから有機基が脱離し、官能基Xを導入するための結合サイトの比率、具体的には水酸基等の比率が増加する。その一方、有機基が過度に脱離すると、その後、第1面31においてシロキサン結合(-Si-O-)が生成されて過剰になる。そうすると、気体成分の透過効率が低下する。このような背景から、Si-Oピークの面積比率が前記範囲内であれば、シロキサン結合が過剰に生成されるのを抑制しつつ、有機基が適度に脱離した第1面31が得られる。つまり、官能基Xの下地に相当する第1面31において、ポリオルガノシロキサンの化学結合状態を最適化することができる。その結果、適度な密度で官能基Xが導入され、目的とする気体の選択分離性を確保するとともに、過剰なシロキサン結合に伴う気体透過性の低下を抑制することができる。
【0037】
なお、XPSでは、光電子の脱出深さが10nm以下である。前述したように、改質層4は、単分子層であるため、改質層4の表面側からX線を照射した場合、第1面31近傍の情報がXPS装置の検出器に取得されることになる。
【0038】
また、分離されたSi-OピークのSi2pピーク全体に対する面積比率は、好ましくは5%以上25%以下とされ、より好ましくは10%以上20%以下とされる。
【0039】
なお、Si-Oピークの面積比率が前記下限値を下回る場合、Si-O結合の密度が不足していること、つまり、活性化処理が十分ではないことを意味する。このため、第1面31に十分な密度で官能基Xを導入することができない。その結果、気体分離膜1において目的とする気体の選択分離性が低下することになる。一方、Si-Oピークの面積比率が前記上限値を上回る場合、Si-O結合の密度が過剰であること、つまり、活性化処理が過剰であることを意味する。このため、第1面31近傍においてシロキサン結合が支配的となり、その結果、気体分離膜1において気体透過性が低下することになる。
【0040】
なお、Si2pピークは、ピークトップが101~104eVの範囲内に位置する。Si-Oピークは、ピークトップが103~104eVの範囲内に位置する。Si-Cピークは、ピークトップが101~103eVの範囲内に位置する。
【0041】
1.3.2.XPSによる定性定量分析
気体分離膜1について、改質層4の表面側からX線を照射するX線光電子分光法(XPS)により、Si2pピーク、C1sピークおよびO1sピークを含む範囲(ワイドスキャン)のXPSスペクトルを取得する。そして、得られたSi2pピーク、C1sピークおよびO1sピークの面積比に基づいて、改質層4の表面の定性定量分析(元素分析)を行う。なお、各ピークの面積比率は、各元素の含有率に対応している。
【0042】
この定性定量分析の結果、気体分離膜1では、Si2pピークの面積比率が、XPSスペクトル全体の5%以上であることが好ましく、7%以上30%以下であることがより好ましく、7%以上20%以下であることがさらに好ましい。ここでいう「XPSスペクトル全体」とは、Si2pピーク、C1sピークおよびO1sピークの各面積の合計のことをいう。Si2pピークの面積比率が前記範囲内であれば、改質層4を単分子層であるとみなすことができる。具体的には、改質層4は、官能基Xを有する化合物が第1面31に結合して形成されるが、この場合、改質層4が単分子層であれば、光電子の脱出深さよりも薄いため、改質層4の組成によらず、下地である第1面31の組成も定性定量分析の結果に反映される。つまり、改質層4の表面側からX線を照射しても、第1面31の組成が透けて見える。したがって、Si2pピークの面積比率が前記範囲内であれば、改質層4が十分に薄いといえる。このため、Si2pピークの面積比率が前記範囲内であるとき、気体透過性が特に高い気体分離膜1が得られる。
【0043】
なお、Si2pピークの面積比率が前記下限値を下回ると、改質層4の厚さが単分子層より厚いとみなすことができる。このため、気体分離膜1の気体透過性が低下するおそれがある。一方、Si2pピークの面積比率が前記上限値を上回ると、改質層4の厚さが薄すぎる可能性がある。具体的には、官能基Xが導入できていないか、官能基Xの導入密度が低い可能性がある。
【0044】
なお、各ピークの面積は、XPSスペクトルの解析ソフトウェアを用いて求めることができる。また、改質層4は、単分子層でなくてもよい。つまり、改質層4は、多分子層であってもよい。
【0045】
以上、実施形態に係る気体分離膜1について説明したが、樹脂層3の下流側、および、改質層4の上流側、のうちの少なくとも1か所には、任意の層が設けられていてもよい。
【0046】
2.変形例
次に、変形例に係る気体分離膜の構成について説明する。
図5は、変形例に係る気体分離膜1を模式的に示す断面図である。
【0047】
以下、変形例について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、図5において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0048】
変形例は、多孔質層2が追加されていること以外、前記実施形態と同様である。すなわち、図5に示す気体分離膜1は、多孔質層2、樹脂層3および改質層4がこの順で積層されてなる複合膜である。多孔質層2は、樹脂層3や改質層4よりも剛性が高い。このため、多孔質層2を設けることにより、気体分離膜1の形状保持性を高めることができる。
【0049】
多孔質層2は、空孔23を有する多孔質である。これにより、多孔質層2は、良好な気体透過性を有する。多孔質層2の構成材料としては、例えば、高分子材料、セラミック材料、金属材料等が挙げられる。また、多孔質層2の構成材料は、これらの材料と他の材料との複合材料であってもよい。
【0050】
高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンのような含フッ素樹脂、ポリスチレン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアラミド等が挙げられる。
【0051】
セラミック材料としては、例えば、アルミナ、コーディエライト、ムライト、炭化珪素、ジルコニア等が挙げられる。金属材料としては、例えば、ステンレス鋼等が挙げられる。また、多孔質層2の構成材料は、上記のうちの2種以上を含む複合材料であってもよい。
【0052】
このうち、多孔質層2の構成材料にはセラミック材料が好ましく用いられる。セラミック材料は、焼結材料であるため、独立または連続した空孔を含む。このため、多孔質層2の構成材料としてセラミック材料を用いることにより、多孔質層2と樹脂層3との密着性をより高めることができる。
【0053】
多孔質層2の形状は、図5に示す平板状の他、スパイラル状、管状、中空糸状等であってもよい。
【0054】
多孔質層2の平均厚さは、特に限定されないが、1μm以上3000μm以下であるのが好ましく、5μm以上500μm以下であるのがより好ましく、10μm以上150μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、多孔質層2は、樹脂層3や改質層4を支持するのに必要かつ十分な剛性を有する。
【0055】
なお、多孔質層2の平均厚さは、多孔質層2の10か所について測定された、積層方向における厚さの平均値である。多孔質層2の厚さの測定には、例えば、シックネスゲージを用いることができる。
【0056】
多孔質層2は、空孔23を有するが、その平均直径を「平均空孔径」という。多孔質層2の平均空孔径は、0.1μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.09μm以下であるのがより好ましく、0.01μm以上0.07μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、樹脂層3が多孔質層2の下流側に抜け出てしまうのを抑制することができる。
【0057】
なお、多孔質層2の平均空孔径は、貫通細孔径評価装置により測定される。貫通細孔径評価装置としては、例えば、PMI社製、パームポロメーターが挙げられる。
【0058】
多孔質層2の空孔率は、20%以上90%以下であるのが好ましく、30%以上80%以下であるのがより好ましい。これにより、多孔質層2は、良好な気体透過性と、十分な剛性と、を両立できる。
なお、多孔質層2の空孔率は、前述した貫通細孔径評価装置により測定される。
【0059】
以上、変形例に係る気体分離膜1について説明したが、多孔質層2の下流側、多孔質層2と樹脂層3との間、および、改質層4の上流側、のうちの少なくとも1か所には、任意の層が設けられていてもよい。
【0060】
3.気体分離膜の製造方法
次に、実施形態に係る気体分離膜の製造方法について説明する。
【0061】
図6は、実施形態に係る気体分離膜の製造方法を説明するための工程図である。図7ないし図9は、図6に示す気体分離膜の製造方法を模式的に説明するための断面図である。なお、以下の説明では、図5に示す気体分離膜1を製造する方法を例にして説明する。
【0062】
図2に示す気体分離膜1の製造方法は、樹脂層形成工程S102と、活性化処理工程S104と、官能基導入工程S106と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0063】
3.1.樹脂層形成工程
樹脂層形成工程S102では、図7に示すように、多孔質層2の一方の面に樹脂層3を形成する。
【0064】
樹脂層3は、オルガノポリシロキサンで構成され、多孔質層2の一方の面に形成される。樹脂層3の形成方法としては、例えば、シートやフィルムを貼り付けて樹脂層3を得る方法、各種成膜方法によって原料を成膜し、樹脂層3を得る方法等が挙げられる。
【0065】
オルガノポリシロキサンの成膜方法としては、例えば、ゾルゲル法、塗布法のような液相成膜法、プラズマCVD法、プラズマ重合法のような気相成膜法等が挙げられる。
以上のようにして、図7に示す、多孔質層2と樹脂層3との積層体7が得られる。
【0066】
3.2.活性化処理工程
活性化処理工程S104では、樹脂層3の第1面31に活性化処理を施す。活性化処理は、第1面31を活性化させる処理であれば、特に限定されない。活性化処理としては、例えば、樹脂層3にエネルギー線を照射する方法、樹脂層3を加熱する方法、樹脂層3をプラズマやコロナに曝す方法、樹脂層3をオゾンガスに曝す方法等が挙げられる。エネルギー線としては、例えば、赤外線、紫外線、可視光等が挙げられる。活性化処理を施すと、樹脂層3を構成するオルガノポリシロキサンが持つ有機基の一部が脱離する。有機基の脱離後、未結合手にH原子または水分が吸着することによって、第1面31に活性種が生じる。活性種としては、例えば、Si-H基や、図8に示すSi-OH基等が挙げられる。また、活性化処理によって、第1面31を清浄化することができ、活性種を生じさせやすくなる。
【0067】
なお、活性化処理には、プラズマ処理が好ましく用いられる。プラズマ処理では、樹脂層3の第1面31に対してムラなく活性化処理を施すことができる。プラズマ処理に用いる処理ガスとしては、例えば、水蒸気、酸素、アルゴン、窒素等が挙げられる。なお、処理ガスは、2種類以上の混合ガスであってもよい。これにより、処理時間が短くても活性化の程度を高めることができる。
【0068】
3.3.官能基導入工程
官能基導入工程S106は、活性化処理工程S104の後に設けられる。官能基導入工程S106では、活性化処理を施した後の第1面31(一方の面)にカップリング剤を接触させる。これにより、第1面31に官能基を導入する。
【0069】
カップリング剤は、官能基と加水分解性基とを有する化合物である。
官能基としては、例えば、水酸基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、酸無水基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基、フェニル基等が挙げられる。
【0070】
加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子、カルボン酸基等が挙げられる。また、加水分解性基は、これらの基の加水分解物であってもよい。例えば、アルコキシ基は、加水分解によりアルコール性水酸基となる。このような加水分解性基の中でも、アルコキシ基またはカルボン酸基であることが好ましい。これらは、活性化処理を施した第1面31と効率よく結合する。
【0071】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられるが、特にシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0072】
カップリング剤は、1分子当たり3つの加水分解性基を有する化合物であってもよいが、1つまたは2つの加水分解性基を有する化合物であることが好ましい。このような化合物を有するカップリング剤が第1面31に供給されると、隣り合う分子同士の間で共有結合が生じる比率が低くなる。つまり、改質層4の分子構造において過剰なシロキサン結合が生じるのを抑制することができる。換言すれば、前述した図2に示す構造、または、図2に示す構造や図3に示す構造が混在した構造を形成することができる。これにより、改質層4の気体透過性の低下を抑制することができる。
【0073】
また、カップリング剤を接触させた樹脂層3に対し、必要に応じて熱処理を行うようにしてもよい。熱処理の条件は、例えば温度が60℃以上120℃以下で、時間が10分以上300分以下とされる。これにより、脱水縮合を促進し、カップリング剤に由来する改質層4に残留した水和物を除去したり、改質層4の密着性を高めたりすることができる。
【0074】
以上のようにして、官能基が導入されることにより、図9に示す改質層4が形成され、気体分離膜1が得られる。
【0075】
3.4.X線光電子分光法(XPS)による分析
以上のようにして製造された気体分離膜1の官能基を導入した後の第1面31について、X線光電子分光法(XPS)により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得する。これは、前述した改質層4の表面側からX線を照射するX線光電子分光法と同様である。したがって、得られるXPSスペクトルのSi2pピークについて波形分離をすると、Si-OピークおよびSi-Cピークに分離される。
【0076】
そして、官能基を導入した後の第1面31では、分離されたSi-OピークについてSi2pピーク全体に対する面積比率を算出すると、2%以上30%以下となる。
【0077】
X線光電子分光法による分析結果が上記条件を満たすとき、気体分離膜1では、目的とする気体の選択分離性、および、気体透過性が良好になる。具体的には、Si-Oピークの面積比率が前記範囲内であるとき、改質層4を成膜する下地、つまり、樹脂層3の第1面31において、オルガノポリシロキサンの分子構造が適度に保存されている。つまり、Si-Oピークの面積比率が前記範囲内であれば、シロキサン結合が過剰に生成されるのを抑制しつつ、有機基が適度に脱離した第1面31が得られる。その結果、適度な密度で官能基が導入され、目的とする気体の選択分離性を確保するとともに、過剰なシロキサン結合に伴う気体透過性の低下を抑制することができる。
【0078】
また、分離されたSi-OピークのSi2pピーク全体に対する面積比率は、好ましくは5%以上25%以下とされ、より好ましくは10%以上20%以下とされる。
【0079】
4.気体分離膜の用途
実施形態に係る気体分離膜1は、ガス分離回収、ガス分離精製等に用いることができる。例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物の他、メタン、エタンのような飽和炭化水素、プロピレンのような不飽和炭化水素、テトラフルオロエタンのようなパーフルオロ炭化水素等の気体成分を含有する混合気体から特定の気体成分を効率よく分離するため、気体分離膜1が用いられる。特に、二酸化炭素とその他の気体成分とを含む混合気体から、二酸化炭素を選択透過させる用途で、気体分離膜1が好ましく用いられる。これにより、例えば大気に含まれる二酸化炭素を分離回収する技術(直接空気回収(DAC))や、メタンが主成分である原油随伴ガスや天然ガスから二酸化炭素を分離回収する技術にも気体分離膜1を適用することができる。
【0080】
5.前記実施形態および前記変形例が奏する効果
以上のように、前記実施形態および前記変形例に係る気体分離膜1は、樹脂層3と、改質層4と、を有する。樹脂層3は、オルガノポリシロキサンで構成される。改質層4は、樹脂層3の第1面31(一方の面)に設けられ、第1面31に導入されている官能基を有する。
【0081】
そして、改質層4の表面側からX線を照射するX線光電子分光法により、Si2pピークを含む範囲のXPSスペクトルを取得し、Si2pピークについて波形分離をしたとき、気体分離膜1では、Si-Oピークの面積比率がSi2pピークの2%以上30%以下である。
【0082】
このような構成によれば、シロキサン結合が過剰に生成されるのを抑制しつつ、有機基が適度に脱離した第1面31が得られる。つまり、官能基を導入するための下地において、ポリオルガノシロキサンの化学結合状態を最適化することができる。その結果、適度な密度で官能基が導入され、目的とする気体の選択分離性を確保するとともに、過剰なシロキサン結合に伴う気体透過性の低下を抑制し得る気体分離膜1が得られる。つまり、選択分離性および気体透過性の双方が良好な気体分離膜1を製造することができる。
【0083】
また、XPSスペクトルが、Si2pピーク、C1sピークおよびO1sピークを含む範囲のスペクトルであるとき、このXPSスペクトルに基づいて元素分析を行う。このような元素分析の結果において、Si2pピークの面積比率は、XPSスペクトル全体の5%以上であることが好ましい。
【0084】
この場合、改質層4を単分子層であるとみなすことができる。つまり、Si2pピークの面積比率が前記範囲内であれば、改質層4が十分に薄いといえる。このため、Si2pピークの面積比率が前記範囲内であるとき、気体透過性が特に高い気体分離膜1が得られる。
【0085】
また、第1面31に導入されている官能基Xは、アミノ基、カルボン酸基またはフェニル基であることが好ましい。これらは、二酸化炭素のπ電子に対して特に良好な親和性を有する。そのため、これらを官能基Xとする改質層4には、二酸化炭素に対する良好な選択分離性が付与される。
【0086】
前記実施形態に係る気体分離膜1の製造方法は、活性化処理工程S104と、官能基導入工程S106と、を有する。活性化処理工程S104では、オルガノポリシロキサンで構成される樹脂層3の第1面31(一方の面)に、活性化処理を施す。官能基導入工程S106は、活性化処理工程S104の後に設けられる。官能基導入工程S106では、活性化処理を施した後の第1面31にカップリング剤を接触させ、第1面31に官能基を導入する。
【0087】
そして、官能基を導入した後の第1面31についてX線光電子分光法でSi2pピークを含むXPSスペクトルを取得し、Si2pピークについて波形分離をしたとき、得られる気体分離膜1では、SiO由来のSi-Oピークの面積比率がSi2pピークの2%以上30%以下である。
【0088】
このような製造方法によれば、選択分離性および気体透過性の双方が良好な気体分離膜1を製造することができる。
【0089】
また、前述したカップリング剤は、1分子当たり1つまたは2つの加水分解性基を含むことが好ましい。また、加水分解性基は、アルコキシ基またはカルボン酸基であることが好ましい。これらの加水分解性基は、活性化処理を施した第1面31と効率よく結合する。
【0090】
以上、本発明に係る気体分離膜および気体分離膜の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
例えば、本発明に係る気体分離膜は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。また、本発明に係る気体分離膜の製造方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例0092】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.気体分離膜の作製
6.1.実施例1
まず、樹脂層としてのPDMSシートを用意する。PDMSシートは、ポリジメチルシロキサンで構成された厚さ30μmのシートである。
【0093】
次に、PDMSシートの一方の面に、活性化処理としてプラズマ処理を施した。続いて、活性化処理を施した面にカップリング剤を供給し、官能基を導入した。これにより、改質層を形成し、気体分離膜を得た。
【0094】
6.2.実施例2~6
プラズマ処理の処理条件およびその他の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0095】
6.3.比較例1
プラズマ処理を省略した以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0096】
6.4.比較例2、3
プラズマ処理の処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして気体分離膜を得た。
【0097】
なお、各実施例および各比較例で使用したカップリング剤の化合物名は、以下の通りである。表1には、化合物名に対応する下記の記号を記載している。
【0098】
S-1:ジフェニルジメトキシシラン
S-2:フェニルトリメトキシシラン
S-3:p-フタル酸
S-4:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン
【0099】
7.気体分離膜の分析
実施例および比較例の気体分離膜について、以下のような分析を行った。
【0100】
気体分離膜の改質層の表面側からX線を照射し、XPSスペクトルを取得した。次に、Si2pピークについて波形分離を行った。その結果、Si2pピークを、Si-OピークとSi-Cピークとに分離することができた。そこで、得られたSi-OピークのSi2pピークに対する面積比率を算出した。なお、この面積比率の残部を、Si-Cピークの面積比率とみなした。これらの算出結果を図10にまとめた。図10は、実施例1、3および比較例1~3の気体分離膜について取得したXPSスペクトルにおいて、Si-OピークおよびSi-Cピークの面積比率を比較したグラフである。
【0101】
実施例の気体分離膜では、Si-Oピークの面積比率が2~30%の範囲内に収まっている。これに対し、比較例の気体分離膜では、Si-Oピークの面積比率がこの範囲から外れている。
【0102】
また、ワイドスキャンのXPSスペクトルを取得した。そして、XPSスペクトル全体に対するSi2pピークの面積比率を算出した。その結果、実施例の気体分離膜から取得されたSi2pピークの面積比率は、いずれも5%以上であった。このことから、実施例の気体分離膜が有する改質層は、いずれも単分子層であると認められる。
【0103】
8.気体分離膜の評価
実施例および比較例の気体分離膜について、以下のような評価を行った。
【0104】
8.1.気体透過性
実施例および比較例の気体分離膜を直径5cmの円形に切り取り、試験サンプルを作製した。次に、ガス透過率測定装置を用い、二酸化炭素:窒素が体積比13:87で混合されてなる混合気体を試験サンプルの上流側に供給した。なお、上流側の全圧が5MPa、二酸化炭素の分圧が0.65MPa、流量が500mL/min、温度が40℃となるように調整した。そして、試験サンプルを透過してきた気体成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0105】
次に、分析結果から、気体分離膜における二酸化炭素の気体透過速度RCO2を算出した。続いて、比較例1の気体分離膜について算出した気体透過速度RCO2を基準にしたとき、各実施例および各比較例の気体分離膜について算出した気体透過速度RCO2がどの程度減少したかを、「CO透過性減少率」として算出した。比較例1の気体分離膜では、プラズマ処理(活性化処理)が省略されていることから、このCO透過性減少率は、プラズマ処理によるCO透過性の減少幅を定量評価する指標となる。なお、CO透過性減少率とは、前述した基準に対する減少幅の割合である。そして、算出したCO透過性減少率を以下の評価基準に照らすことにより、気体分離膜の気体透過性を相対評価した。
【0106】
A:CO透過性減少率が20%以下である
B:CO透過性減少率が20%超30%以下である
C:CO透過性減少率が30%超である
【0107】
評価結果を表1に示す。また、算出したCO透過性減少率を図11にまとめた。図11は、実施例1、3および比較例2、3の気体分離膜についてガス透過性試験を行った結果から算出したCO透過性減少率を比較したグラフである。
【0108】
8.2.選択分離性
前述した分析結果から、気体分離膜における窒素の気体透過速度RN2を算出した。続いて、窒素の気体透過速度RN2に対する二酸化炭素の気体透過速度RCO2の比率RCO2/RN2を算出した。そして、比率RCO2/RN2を以下の評価基準に照らすことにより、気体分離膜の選択分離性を相対評価した。
【0109】
A:比率RCO2/RN2が比較例1より大きい
B:比率RCO2/RN2が比較例1と同等
C:比率RCO2/RN2が比較例1より小さい
評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1から明らかなように、各実施例の気体分離膜は、気体透過性および選択分離性の双方が良好であった。これに対し、比較例1の気体分離膜は、各実施例の気体分離膜に比べて選択分離性が低かった。これは、気体分離膜の製造時に活性化処理が施されていないため、官能基を十分に導入することができなかったことが原因であると考えられる。また、比較例2、3の気体分離膜は、気体透過性が十分ではなかった。これは、気体分離膜の製造時に過度な活性化処理が施された結果、樹脂層においてシロキサン結合が支配的になり、気体の透過性が低下したためと考えられる。
【符号の説明】
【0112】
1…気体分離膜、2…多孔質層、3…樹脂層、4…改質層、23…空孔、31…第1面、32…第2面、7…積層体、S102…樹脂層形成工程、S104…活性化処理工程、S106…官能基導入工程、X…官能基、L…リンカー部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11