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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045871
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/14 20060101AFI20240327BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240327BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20240327BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C03C10/14
C03C21/00 101
C03C3/097
C03C10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150933
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 早矢
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB23
4G062AA11
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4G062DA07
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4G062HH20
4G062JJ01
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4G062JJ10
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4G062KK04
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN33
4G062NN34
4G062QQ03
4G062QQ09
(57)【要約】
【課題】硬い結晶化ガラスを提供することである。
【解決手段】主結晶相として、α-クリストバライトおよびジケイ酸リチウムを含有し、酸化物換算の質量%で、SiO成分の含量が65.0%~85.0%、Al成分の含量が1.5%~5.9%、P成分の含量が0%超~5.0%、LiO成分の含量が5.0%~10.8%、ZrO成分の含量が4.0%~12.5%であり、[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量]が13.9超であることを特徴とする結晶化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相として、α-クリストバライトおよびジケイ酸リチウムを含有し、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量 65.0%~85.0%、
Al成分の含量 1.5%~5.9%、
成分の含量 0%超~5.0%、
LiO成分の含量 5.0%~10.8%、
ZrO成分の含量 4.0%~12.5%、
であり、
[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量] 13.9超、
であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
酸化物換算の質量%で、
成分の含量 0%~5.0%、
NaO成分の含量 0%~5.0%、
O成分の含量 0%~5.0%、
MgO成分の含量 0%~5.0%
CaO成分の含量 0%~5.0%、
ZnO成分の含量 0%~5.0%、
TiO成分の含量 0%~5.0%、
Gd成分の含量 0%~5.0%、
Sb成分の含量 0%~3.0%、
Nb成分の含量 0%~3.0%、
であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
ZrO成分の含量が、4.7%~12.5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
ZrO成分の含量が、7%超~12.5%であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
酸化物換算の質量%で、
[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量] 0.88未満、
であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
酸化物換算の質量%で、
[(P成分の含量+KO成分の含量+MgO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量] 1.32未満、
であることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
表面に圧縮応力層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
スマートフォンのガラス部材に用いることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶化ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス、特に硬い結晶化ガラスに関する。
【0002】
近年、スマートフォンの意匠の自由度を高めるため、そのカバーガラスや筐体に、ガラス部材が使用されはじめている。これらのガラス部材は、傷がつき難く、スマートフォンがアスファルトに落下した場合など、外的要因による衝撃を受けても割れ難いことが求められている。
【0003】
ガラスの強度や硬度を高めたものとして、結晶化ガラスがある。結晶化ガラスはガラス内部に結晶を析出させたものであり、アモルファスガラスよりも機械的強度が優れていることが知られている。さらに、化学強化などにより表面に圧縮応力層を形成して強度や硬度を高めることも知られている。
【0004】
特許文献1には、迅速なイオン交換可能性、及び高い破壊靭性を有する、透明又は半透明なペタライト結晶質相及びリチウムシリケート結晶質相を有するガラスセラミック材料が開示されている。
【0005】
特許文献2には、α-クリストバライトを含有する強化結晶化ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-095333号公報
【特許文献2】特開2022-044054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スマートフォンのガラス部材などの用途において、さらに硬度が高いガラスが求められていた。
【0008】
本発明の目的は、硬い結晶化ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、所定の組成を有するガラスを所定の条件で熱処理することにより、主結晶相として、α-クリストバライトとジケイ酸リチウムを共に含む結晶化ガラスが得られ、さらに、α-クリストバライトにジケイ酸リチウムが加わることにより、硬度が高くなることを見出した。また、ジケイ酸リチウムを主結晶相として含む結晶化ガラスは2段階化学強化され難いが、所定の組成と主結晶相であれば2段階化学強化され易いことを見出した。これら知見により本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下を提供する。
(構成1)
主結晶相として、α-クリストバライトおよびジケイ酸リチウムを含有し、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量 65.0%~85.0%、
Al成分の含量 1.5%~5.9%、
成分の含量 0%超~5.0%、
LiO成分の含量 5.0%~10.8%、
ZrO成分の含量 4.0%~12.5%、
であり、
[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量] 13.9超、
であることを特徴とする結晶化ガラス。
(構成2)
酸化物換算の質量%で、
成分の含量 0%~5.0%、
NaO成分の含量 0%~5.0%、
O成分の含量 0%~5.0%、
MgO成分の含量 0%~5.0%
CaO成分の含量 0%~5.0%、
ZnO成分の含量 0%~5.0%、
TiO成分の含量 0%~5.0%、
Gd成分の含量 0%~5.0%、
Sb成分の含量 0%~3.0%、
Nb成分の含量 0%~3.0%、
であることを特徴とする構成1に記載の結晶化ガラス。
(構成3)
ZrO成分の含量が、4.7%~12.5%であることを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成4)
ZrO成分の含量が、7%超~12.5%であることを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成5)
酸化物換算の質量%で、
[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量] 0.88未満、
であることを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成6)
酸化物換算の質量%で、
[(P成分の含量+KO成分の含量+MgO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量] 1.32未満、
であることを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成7)
表面に圧縮応力層を有することを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成8)
スマートフォンのガラス部材に用いることを特徴とする構成1または2に記載の結晶化ガラス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬い結晶化ガラスを提供できる。
【0012】
本発明の結晶化ガラスは、硬度が高い性質に鑑み、スマートフォンの筐体、タブレット型PCやウェアラブル端末などの携帯電子機器の部材として利用したり、車や飛行機などの輸送機体で使用される保護プロテクターやヘッドアップディスプレイ用基板などの部材として利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の結晶化ガラスの実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の質量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、結晶化ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%としたときの、結晶化ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、A%~B%はA%以上B%以下を表す。
【0015】
本発明の結晶化ガラスは、主結晶相として、α-クリストバライトとジケイ酸リチウムを含む。本発明は、所定の組成においてこれら結晶相を共に含むことにより、α-クリストバライトは含有するがジケイ酸リチウムは含有しない結晶化ガラスより、さらに硬度が高くなる。結晶相には固溶体も含まれる。
本発明において、「主結晶相」とは、結晶化ガラスのX線回折図形のピークから認定される主要な結晶相のうち最も多く、即ち1番目と2番目に多く含有される結晶相である。α-クリストバライトが1番目の主結晶相であってもよく、ジケイ酸リチウムが1番目の主結晶相であってもよい。
結晶化ガラスは、さらに、ペタライト、バージライト、クオーツ及びモノケイ酸リチウム結晶から選択される1種以上の他の結晶相を含んでいてもよいが、これら結晶相は少ないか、含まないことが好ましい。
【0016】
主結晶相としてα-クリストバライトとジケイ酸リチウムを含む結晶化ガラスは、以下の組成を有する原ガラスを熱処理により結晶化することにより得られる。
結晶化ガラスの組成は、酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が65.0%~85.0%、
Al成分の含量が1.5%~5.9%、
成分の含量が0%超~5.0%、
LiO成分の含量が5.0%~10.8%、
ZrO成分の含量が4.0%~12.5%であり、
[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量]が13.9超である。
【0017】
特に、SiO成分、Al成分、LiO成分の含量を上記範囲とすることにより、所定の結晶相が得られる。Al成分が上記上限より多いとリチウムアルミニウムシリケート結晶相が生成され易く、SiO成分とLiO成分が上記範囲から外れるとジケイ酸リチウムが形成されずにα-クリストバライトのみが生成され易くなる。
【0018】
SiO成分は、結晶化ガラスを構成する骨格成分であり、安定性を高め、所望の結晶相を析出させるために必要な必須成分である。SiO成分の含有量を85.0%以下とすると、過剰な粘性の上昇や熔解性の悪化を抑制することができ、また、65.0%以上とすることで、結晶化ガラスの安定性を向上することができる。
したがって、好ましくは上限を85.0%以下、より好ましくは83.0%以下、さらに好ましくは80.0%以下とする。また、好ましくは下限を65.0%以上、より好ましくは68.0%以上、さらに好ましくは70.0%超とする。
【0019】
Al成分は、結晶化ガラスを構成する骨格成分であり、安定性を高めるために必要な必須成分である。Al成分の含有量が5.9%以下であると、450nmにおける透過率を高くし、失透性の悪化を抑制することができ、また、1.5%以上であると、安定性の悪化を抑制することができる。
したがって、好ましくは上限を5.9%以下、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5.3%以下とする。また、好ましくは下限を1.5%以上、より好ましくは1.8%以上、さらに好ましくは2.0%以上とできる。
【0020】
成分は、結晶化ガラスの結晶形成を促す必須成分である。P成分の含有量が5.0%以下であると、ガラスの分相を抑制することができる。また、0%であると、所望の結晶相を得られない。
したがって、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下とする。また、好ましくは下限を0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上とできる。
【0021】
LiO成分は、原ガラスの熔融性を向上させ、製造性を高め、かつ所望の結晶相を析出させるために必要な必須成分である。LiO成分の含有量が10.8%以下であると、失透性の悪化を抑制することができ、また、5.0%以上とすると粘性の悪化と熔融性の悪化を抑制し、製造性を高めることができる。また、所望の結晶相を得ることができる。
したがって、好ましくは上限は10.8%以下、より好ましくは10.5%以下であり、例えば、10.2%以下、8.9%以下、または8.5%以下とできる。また、好ましくは下限は5.0%以上、より好ましくは6.2%以上、さらに好ましくは7.0%以上であり、例えば、8.1%以上、または9.0%以上とできる。
【0022】
ZrO成分は、結晶の核形成剤となる成分である。ZrO成分の含有量が12.5%以下であると熔解性の悪化を抑制することができる。ZrO成分の含有量が4.0%以上であると、450nmにおける透過率を高くさせ易くなる。
したがって、好ましくは上限は12.5%以下であり、例えば、12.0%以下、11.5%以下、11.0%以下、10.0%以下、または9.0%以下とできる。また、好ましくは下限は4.0%以上、より好ましくは4.7%以上、より好ましくは5.7%以上、さらに好ましくは6.9%超であり、例えば、7%超、または10.5%以上とできる。
【0023】
MgO成分は、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に低温熔融性を向上させる任意成分である。本発明において任意成分とは含んでも含まなくてもよい成分である。MgO成分の含有量が5.0%以下であると、化学強化を行う際に強化しやすくなる。
したがって、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%未満とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上とできる。
【0024】
ZnO成分は、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に低温熔融性を向上させる任意成分である。ZnO成分の含有量が5.0%以下であると、化学強化を行う際に強化しやすくなる。
したがって、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%未満とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上とできる。
【0025】
CaO成分は、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に低温熔融性を向上させる任意成分である。CaO成分の含有量が5.0%以下であると、化学強化を行う際に強化しやすくなる。
したがって、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満とできる。また、好ましくは下限を0%超、より好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とできる。
【0026】
O成分、NaO成分は、原ガラスの熔融性を向上させ、製造性を高める任意成分である。KO成分、NaO成分のそれぞれの含有量が5.0%以下であると、失透性の悪化を抑制することができる。また、KO成分、NaO成分が0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に粘性の悪化と熔融性の悪化を抑制し、製造性を高めることができる。
したがって、NaO成分は、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.0%未満とする。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とする。
O成分は、好ましくは上限は5.0%以下、より好ましくは4.0%以下であり、例えば、3.0%以下、2.0%以下、または1.0%以下とできる。また、好ましくは下限は0%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上であり、例えば、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、2,5%以上、または3.0%以上とできる。
【0027】
Sb成分は、原ガラスを製造する際の清澄剤として機能する任意成分である。Sb成分を過剰に含有すると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる恐れがある。したがって、好ましくは上限を3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.5%以下とできる。好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03以上とできる。
【0028】
成分は、原ガラスの粘性を下げる効果を有する任意成分である。B成分の含有量が5.0%以下であると、失透性の悪化を抑制することができる。また、B成分の含有量が0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に原ガラスの粘性悪化と熔融性の悪化を抑制することができる。
したがって、好ましくは上限を、5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上とできる。
【0029】
TiO成分は、屈折率を上昇させる効果を有する任意成分である。TiO成分の含有量が5.0%以下であると、失透性の悪化を抑制することができる。また、TiO成分の含有量が0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に屈折率を上昇させることができる。
したがって、好ましくは上限を、5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上とできる。
【0030】
Gd成分は、屈折率を上昇させる効果を有する任意成分である。Gd成分の含有量が5.0%以下であると、失透性の悪化を抑制することができる。また、Gd成分の含有量が0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に屈折率を上昇させることができる。
したがって、好ましくは上限を、5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上とできる。
【0031】
Nb成分は、屈折率を上昇させる効果を有する任意成分である。Nb成分の含有量が3.0%以下であると、失透性の悪化を抑制することができる。また、Nb成分の含有量が0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に屈折率を上昇させることができる。
したがって、好ましくは上限を、3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下とできる。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上とできる。
【0032】
SrO成分、BaO成分は、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に低温熔融性を向上させる任意成分である。SrO成分、BaO成分のそれぞれの含有量が5.0%以下であると、化学強化を行う際に強化しやすくなる。
したがって、SrO成分、BaO成分は、好ましくはそれぞれの上限を5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下とできる。
【0033】
CaO成分及びMgO成分の合計含有量[CaO成分の含量+MgO成分の含量]は、5.0%以下とすることで化学強化がしにくくなることを抑制でき、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に熔融性の悪化を抑制することができる。
したがって、[CaO成分の含量+MgO成分の含量]の好ましい上限は5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%以下とする。
また、[CaO成分の含量+MgO成分の含量]の好ましい下限は0%以上、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上とできる。
【0034】
O成分及びNaO成分の合計含有量[KO成分の含量+NaO成分の含量]は、0%でも本発明に係るガラスを作製することができるが、0%超含有する場合に粘性の悪化を抑制し、熔融温度が高くなることを抑制することができる。また、5.0%以下とすることで失透性の悪化を抑制することができる。
したがって、[KO成分の含量+NaO成分の含量]は、好ましくは上限を5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、より好ましくは4.0%未満、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.0%未満とする。また、好ましくは下限を0%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上とする。
【0035】
[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量]は13.9超とすることで主結晶相としてα-クリストバライトとジケイ酸リチウムを生成できる。
したがって、[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量]の好ましい上限は50.0以下、より好ましくは48.0以下、さらに好ましくは45.0以下とする。また、好ましい下限は13.9超、より好ましくは14.5以上、さらに好ましくは15.0以上とする。
【0036】
[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]を0.88未満としてもよい。0.88未満とすることで主結晶相としてα-クリストバライトとジケイ酸リチウムを生成し易くできる。
したがって、[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の好ましい上限は0.88未満、より好ましくは0.87以下、さらに好ましくは0.85以下とする。また、好ましい下限は0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上とする。
【0037】
[(P成分の含量+KO成分の含量+MgO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]を1.32未満としてもよい。1.32未満とすることで主結晶相としてα-クリストバライトとジケイ酸リチウムを生成し易くできる。
したがって、[(P成分の含量+KO成分の含量+MgO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の好ましい上限は1.32未満、より好ましくは1.28以下、さらに好ましくは1.25以下とする。また、好ましい下限は0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上とする。
【0038】
[Al成分の含量/ZrO成分の含量]を0超1.0以下としてもよい。1.0以下とすることで所望の結晶相を得易くなり、0超とすることで失透性の悪化を抑制し易くなる。
したがって、[Al成分の含量/ZrO成分の含量]の好ましい上限は1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下とする。また、好ましい下限は0超、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上とする。
【0039】
[LiO成分の含量+Al成分の含量]を6.5%~15.5%としてもよい。15.5%以下とすることでリチウムアルミニウムシリケート結晶相の生成を抑制し易くなり、6.5%以上とすることで所望の結晶相が得られつつ、ガラスを安定化し易くなる。
したがって、[LiO成分の含量+Al成分の含量]の好ましい上限は15.5%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは14.0%以下とする。また、好ましい下限は6.5%以上、より好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上とする。
【0040】
[(LiO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]を1.0~2.7としてもよい。2.7以下とすることでリチウムアルミニウムシリケート結晶相の生成を抑制し易くなり、1.0以上とすることで所望の結晶相が得られつつ、ガラスを安定化し易くなる。
したがって、[(LiO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の好ましい上限は2.7以下、より好ましくは2.4以下、さらに好ましくは2.1以下とする。また、好ましい下限は1.0以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.6以上とする。
【0041】
[SiO成分の含量/(P成分の含量+LiO成分の含量+NaO成分の含量+KO成分の含量)]を4.5以上としてもよい。4.5以上とすることで所望の結晶相が得易くなる。
したがって、好ましい下限は4.5以上、さらに好ましくは5.0以上とする。 また、[SiO成分の含量/(P成分の含量+LiO成分の含量+NaO成分の含量+KO成分の含量)]を20.0以下とすることで、所望の結晶相を析出させる、過剰な粘性の上昇や熔解性の悪化を抑制することができる。 したがって、[SiO成分の含量/(P成分の含量+LiO成分の含量+NaO成分の含量+KO成分の含量)]の上限は例えば20.0以下、10.0以下、または7.5以下としてもよい。
【0042】
[KO成分の含量/ZrO成分の含量]を0超0.5未満としてもよい。0.5未満とすることで所望の結晶相が得易くなり、0超とすることで粘性の悪化と熔融性の悪化を抑制し、製造性を高め易くなる。
したがって、[KO成分の含量/ZrO成分の含量]の好ましい上限は0.5未満、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下とする。また、好ましい下限は0超、より好ましくは0.1以上とする。
【0043】
[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]を0超0.85以下としてもよい。0.85以下とすることでリチウムアルミニウムシリケート結晶相の生成を抑制し易くなり、0超とすることでガラスを安定化し易くなる。
したがって、[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の好ましい上限は0.85以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.75以下とする。また、好ましい下限は0超、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上とする。
【0044】
[(KO成分の含量+Al成分の含量)/(ZnO成分の含量+ZrO成分の含量)]を0超0.95以下としてもよい。0.95以下とすることでリチウムアルミニウムシリケート結晶相の生成を抑制し易くなり、0超とすることでガラスを安定化し易くなる。
したがって、[(KO成分の含量+Al成分の含量)/(ZnO成分の含量+ZrO成分の含量)]の好ましい上限は0.95以下、より好ましくは0,90以下、さらに好ましくは0.85以下とする。また、好ましい下限は0超、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上とする。
【0045】
本発明の結晶化ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、Bi、Cr、CuO、La、MnO、MoO、PbO、V、WO、Y成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。これらの成分を含まないことで透過率が悪化することを防ぐ効果がある。
【0046】
さらに結晶化ガラスには、上述されていない他の成分を、本発明の結晶化ガラスの特性を損なわない範囲で、含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、Yb、Lu、Fe、Co、NiおよびAgなどの金属成分(これらの金属酸化物を含む)などである。
【0047】
またガラスの清澄剤として、Sb成分の他、SnO成分、CeO成分、As成分、およびF、NOx、SOxの群から選択された一種または二種以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、清澄剤の含有量は、好ましくは上限を3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.6%以下とできる。
【0048】
一方、Pb、Th、Tl、Os、Be、ClおよびSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
本発明の結晶化ガラスのビッカース硬度(Hv0.2:試験荷重200gfでのHv)は、好ましくは630以上、より好ましくは690以上、さらに好ましくは710以上である。ビッカース硬度は、ZrO成分を少なくする、LiO成分を多くする、またはKO成分を少なくすることにより、高くなる傾向がある。
【0050】
本発明の結晶化ガラスは、厚さ1mmであるとき、波長450nmにおいて、透過率は0%~80%であり、例えば、20%以上、30%以上、または50%以上としてもよい。また、20%未満としてもよい。透過率は、ZrO成分、LiO成分、またはKO成分の含量等により、調整できる。
【0051】
本発明の結晶化ガラスは、以下の方法で作製できる。具体的には、各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次に、この原ガラスを結晶化して結晶化ガラスを作製する。
【0052】
結晶析出のための熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
2段階熱処理の第1の温度は400℃~680℃が好ましく、より好ましくは450℃~650℃、さらに好ましくは500℃~600℃とできる。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は680℃以上が好ましく、例えば700℃~800℃であり、好ましくは700℃~750℃である。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
【0053】
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
1段階熱処理する場合、熱処理の温度は680℃以上が好ましく、例えば700℃~800℃であり好ましくは700℃~750℃である。また、熱処理の温度での保持時間は30分~500分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
【0054】
結晶化ガラスを強化して表面に圧縮応力層を形成してもよい。強化結晶化ガラスにおける圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。
【0055】
化学強化法は、例えば次のような工程で実施することができる。結晶化ガラスを、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)またはその混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理(化学強化処理)は、1段階でもよく2段階で処理してもよい。
【0056】
1段階化学強化処理の場合、例えば、350℃~550℃で加熱したカリウムまたはナトリウムを含有する塩、またはその混合塩に1~1440分接触または浸漬させる。
2段階化学強化処理の場合、例えば、第1に350℃~550℃で加熱したナトリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは30~1000分接触または浸漬させる。続けて第2に350℃~550℃で加熱したカリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは60~600分接触または浸漬させる。
【0057】
本発明は、主結晶相としてジケイ酸リチウムを含むが、リチウムをナトリウムで交換した後、ナトリウムをカリウムで交換する2段階化学強化ができる。このような2段階化学強化により、最表面の圧縮応力値を高くすることができる。
【0058】
強化した結晶化ガラスの最表面の圧縮応力値(CS)は、好ましくは400MPa以上、より好ましくは500MPa以上である。圧縮応力層の圧縮応力が0MPaのときの深さ(DOLzero)は、好ましくは120μm以上、より好ましくは130μm以上とできる。中心引張応力(CT)は、例えば30MPa以上、または40以上MPaとできる。
【0059】
実施例1~27、比較例1,2
1.結晶化ガラスの製造
結晶化ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を選定し、これらの原料を表1~4に記載の組成になるように秤量して均一に混合した。比較例1は特許文献2の実施例9である。
尚、表中の(Si+Li)/Alは[(SiO成分の含量+LiO成分の含量)/Al成分の含量]の、(K+Al)/Zrは[(KO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の、(P+K+Mg+Al)/Zrは[(P成分の含量+KO成分の含量+MgO成分の含量+Al成分の含量)/ZrO成分の含量]の略である。
【0060】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300℃~1600℃で、2~24時間熔融した。その後、熔融したガラスを攪拌して均質化してから1000℃~1450℃に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。得られた原ガラスを表1~4に示す結晶化条件で加熱して結晶化ガラスを作製した。
【0061】
結晶化ガラスの結晶相はX線回折分析装置(ブルカー製、D8Discover)を用いたX線回折図形において現れるピークの角度から判別した。析出した結晶相を表1~4に記載する。尚、表中、criはα-クリストバライト、LS2はジケイ酸リチウム、LSはモノケイ酸リチウム結晶の略称である。全ての実施例で主結晶相はα-クリストバライトとジケイ酸リチウムであった。
【0062】
2.結晶化ガラスの評価
作製した結晶化ガラスを切断、研削して試料を作製して、以下の評価をした。結果を表1~4に示す。
(1)透過率(λ5,λ80)
1mm厚における反射損失を含む光線透過率を、分光光度計(日立ハイテクノロジー製、U-4000型)で測定した。透過率が5%となる波長(λ5)と透過率が80%となる波長(λ80)を求めた。
【0063】
(2)透過率
分光光度計(日立ハイテクノロジー製、U-4000型)で、1mm厚における450nmにおける反射損失を含む光線透過率を測定した。
【0064】
(3)ビッカース硬度(Hv0.2)
対面角が136°のダイヤモンド四角錐圧子を用いて、試料面にピラミッド形状のくぼみをつけたときの荷重を、くぼみの長さから算出した表面積(mm)で割った値で示した。(株)島津製作所マイクロビッカース硬度計HMV-G21Dを用い、試験荷重200gf、保持時間10秒で測定した。
【0065】
3.化学強化
比較例2として、以下の組成(質量%)の結晶化ガラスを用いた。この結晶化ガラスは、主結晶相としてペタライトとジケイ酸リチウムを含有する。
SiO成分を78.3%、Al成分を8.1%、B成分を0.2%、LiO成分を11.9%、NaO成分を1.7%、KO成分を0.0%、ZnO成分を0.0%、ZrO成分を4.0%、P成分を2.2%
【0066】
実施例8,24,27、比較例2では、作製した結晶化ガラスを切断、研削して、表5に示す材厚の結晶化ガラス基板を得た。この結晶化ガラス基板を母材として用いて表5に示す条件で1次強化(1段目)と2次強化(2段目)を行い、強化結晶化ガラスを得た。
【0067】
強化結晶化ガラスについて、最表面の圧縮応力値(CS)(MPa)は、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用いて測定した。測定機の光源として596nmの波長の光源を使用した。波長596nmにおける光弾性定数は、実施例では代表値として28.2、比較例では26.2を使用した。結果を表5に示す。
【0068】
圧縮応力層の圧縮応力が0MPaのときの深さ(DOLzero)(μm)および中心引張応力(CT)(MPa)は、散乱光光弾性応力計(折原製作所製、SLP-1000)を用いて測定した。測定光源は、518nmの波長の光源を使用した。波長518nmにおける光弾性定数は、実施例では代表値として28.8、比較例では26.6を使用した。結果を表5に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】