(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045891
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】三次元造形食品用インク及び三次元造形食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20240327BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240327BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150966
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】501360821
【氏名又は名称】MP五協フード&ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】莇(平田) 茉莉子
(72)【発明者】
【氏名】山野上 実希
(72)【発明者】
【氏名】大和谷 和彦
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE02
4B035LE07
4B035LG23
4B035LG26
4B035LG27
4B035LK04
4B035LP32
4B035LP59
4B035LT11
4B035LT20
4B041LC10
4B041LD01
4B041LE06
4B041LH07
4B041LH11
4B041LH16
4B041LP12
(57)【要約】
【課題】本発明は、3Dプリンタのノズルから不用意に漏出せず且つ3Dプリンタのノズルからの吐出性に優れ、実用可能な成形性及び保形性を三次元造形食品に付与し得る三次元造形食品用インク、及び、該インクを用いる三次元造形食品の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】食材と、多糖類とを含み、前記多糖類が、下記(A)~(C)のいずれかである、三次元造形食品用インク。(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム、(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ、又は(C)ガラクトキシログルカンのガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材と、多糖類とを含み、
前記多糖類が、下記(A)~(C)のいずれかである、三次元造形食品用インク。
(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム
(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ
(C)ガラクトキシログルカンのガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物
【請求項2】
前記(A)の多糖類を含み、該多糖類の質量割合が0.1~2.0質量%である、請求項1に記載の三次元造形食品用インク。
【請求項3】
前記(B)の多糖類を含み、該多糖類の質量割合が0.1~2.0質量%である、請求項1に記載の三次元造形食品用インク。
【請求項4】
前記(C)の多糖類を含み、該多糖類の質量割合が1.0~2.0質量%である、請求項1に記載の三次元造形食品用インク。
【請求項5】
三次元造形食品の製造方法であって、
食材と多糖類とを含むインクを用い、
前記インクを3Dプリンタから吐出させて前記三次元造形食品を作製し、
前記多糖類が、下記(A)~(B)のいずれかである、三次元造形食品の製造方法。
(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム
(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ
【請求項6】
30℃以上に調温した前記インクを20~30℃の雰囲気下に吐出する、請求項5に記載の三次元造形食品の製造方法。
【請求項7】
三次元造形食品の製造方法であって、
食材と多糖類とを含むインクを用い、
前記インクを3Dプリンタから吐出させて前記三次元造形食品を作製し、
前記多糖類が、下記(C)である、三次元造形食品の製造方法。
(C)ガラクトキシログルカンのガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物
【請求項8】
0~30℃に調温した前記インクを20~30℃の雰囲気下に吐出した後に30℃以上に加温する、請求項7に記載の三次元造形食品の製造方法。
【請求項9】
0~30℃に調温した前記インクを20~30℃の雰囲気下に吐出した後に40℃以上に加温する、請求項7に記載の三次元造形食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形食品用インク及び三次元造形食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野では、3Dプリンタを用いて製造される三次元造形食品が利用され始めている。例えば、食品の嗜好性を高めるために、三次元造形食品の立体的な形状を利用することが提案されている。また、形状などのデータが入力された3Dプリンタで自動的に製造される三次元造形食品は、介護施設や病院などの施設における人手不足の解消に寄与すると考えられている。
【0003】
上記のように、三次元造形食品は、3Dプリンタで製造されることが好ましい。よって、3Dプリンタに適用可能な三次元造形食品用インクが必要となる。例えば、三次元造形食品用インクには、3Dプリンタのノズルから吐出可能な吐出性が求められる。
【0004】
また、三次元造形食品用インクには、三次元形状の食品を成形するための成形性が求められる。ここで、主な成形性としては、三次元造形食品の高さを維持するための積層性や、角部などの形状をなし得る成形性が挙げられる。さらに、三次元造形食品用インクには、製造後から喫食までの間において三次元造形食品の形状を維持するための保形性が求められる。
【0005】
例えば、非特許文献1では、卵白などに由来するタンパク質とゲル化剤、及び、熱可塑性ゲル化剤とを含むインクの検討がなされており、熱可塑性ゲル化剤として、HAジェランガム(ハイアシルジェランガムやネイティブ型ジェランガムとも呼ばれる)、ゲル化剤としてキサンタンガムとローカストビーンガムとの組合せ等が検討されている。そして、非特許文献1には、タンパク質、ゲル化剤、熱可塑性ゲル化剤は、それぞれを単独でごぼうピューレ(食材)に配合しても所望の三次元造形食品を製造することはできず、所望の三次元造形食品を得るためには、タンパク質とゲル化剤、あるいは、熱可塑性ゲル化剤とゲル化剤の組合せが必須であることが示されている。さらに、プレート上でインクが速やかに固まって所望の三次元造形食品が製造できるようにするために、4℃に冷却したプレート上にインクを吐出し、インク中のゲル化剤が冷却されて速やかに固まるような条件で三次元造形食品を製造している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「日本食品工学会誌」,Vol.22,No.1,pp.27-38,Mar.2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、三次元造形食品用インクについての十分な検討がこれまでになされたとは言い難く、従来技術とは異なる配合で実用可能な成形性や保形性を三次元造形食品に付与し得る多様なインクの提供が望まれる。
【0008】
また、三次元造形食品用インクは、上記のような吐出性だけでなく、3Dプリンタのノズルから不用意に漏出しないことも望まれる。かかる漏出が抑制されたインクの利点としては、例えば、インク中の成分の分離が防止されることによって3Dプリンタに充填されたインクの性能が維持されることが挙げられ、延いては、複数の三次元造形食品を連続的に製造し易くなることなどが挙げられる。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、3Dプリンタのノズルから不用意に漏出せず且つ3Dプリンタのノズルからの吐出性に優れ、実用可能な成形性及び保形性を三次元造形食品に付与し得る三次元造形食品用インク、及び、該インクを用いる三次元造形食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る三次元造形食品用インクは、
食材と、多糖類とを含み、
前記多糖類が、下記(A)~(C)のいずれかである。
(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム
(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ
(C)ガラクトキシログルカンのガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物
【0011】
斯かる構成の三次元造形食品用インクは、(A)~(C)のいずれかの多糖類を含むことによって、3Dプリンタのノズルから不用意に漏出せず且つ3Dプリンタのノズルからの吐出性に優れ、さらに、実用可能な成形性及び保形性を三次元造形食品に付与し得る。
【0012】
また、本発明に係る三次元造形食品用インクは、
前記(A)の多糖類を含む場合、該多糖類の質量割合が0.1~2.0質量%であることが好ましく、
前記(B)の多糖類を含む場合、該多糖類の質量割合が0.1~2.0質量%であることが好ましく、
前記(C)の多糖類を含む場合、該多糖類の質量割合が1.0~2.0質量%であることが好ましい。
【0013】
斯かる構成の三次元造形食品用インクは、上記の各性能にさらに優れるものとなる。
【0014】
本発明に係る三次元造形食品の製造方法の第1の態様では、
食材と多糖類とを含むインクを用い、
前記インクを3Dプリンタから吐出させて前記三次元造形食品を作製し、
前記多糖類が、下記(A)~(B)のいずれかである、三次元造形食品の製造方法。
(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム
(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ
【0015】
前記第1の態様の製造方法によれば、(A)~(B)のいずれかの多糖類を含むインクを用いることによって、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0016】
前記第1の態様の製造方法では、好ましくは、30℃以上に調温した前記インクを20~30℃の雰囲気下に吐出する。
【0017】
斯かる構成によれば、上記の多糖類を含み且つ30℃以上に調温されたインクは20~30℃(すなわち室温)の雰囲気下に吐出されると速やかにゲル化し得るため、容易に三次元造形食品を製造することができる。
【0018】
また、本発明に係る三次元造形食品の製造方法の第2の態様では、
食材と多糖類とを含むインクを用い、
前記インクを3Dプリンタから吐出させて前記三次元造形食品を作製し、
前記多糖類が、下記(C)である、三次元造形食品の製造方法。
(C)ガラクトキシログルカンのガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物
【0019】
前記第2の態様の製造方法によれば、多糖類としてキシログルカン部分分解物を含むインクを用いることによって、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0020】
前記第2の態様の製造方法では、好ましくは、0~30℃に調温した前記インクを20~30℃の雰囲気下に吐出した後に30℃以上、好ましくは40℃以上に加温する。
【0021】
斯かる構成によれば、上記のガラクトキシログルカンを含み且つ0~30℃に調温されたインクは20~30℃(すなわち室温)の雰囲気下に吐出された後に30℃以上に加温されること、好ましくは40℃以上に加温されることにより、容易に三次元造形食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のとおり、本発明によれば、3Dプリンタのノズルから不用意に漏出せず且つ3Dプリンタのノズルからの吐出性に優れ、実用可能な成形性及び保形性を三次元造形食品に付与し得る三次元造形食品用インク、及び、該インクを用いる三次元造形食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態に係る製造方法に用いる3Dプリンタの概略図である。
【
図2】実施例における実験1で作製した三次元造形食品のうち参考例1~2、実施例1~3の成形性及び保形性評価時の写真である。
【
図3】実施例における実験1で作製した三次元造形食品のうち実施例4~5、比較例1~4の成形性及び保形性評価時の写真である。
【
図4】実施例における実験2で作製した三次元造形食品のうち参考例3~4の成形性及び保形性評価時の写真である。
【
図5】実施例における実験2で作製した三次元造形食品のうち実施例6~10、比較例5の成形性及び保形性評価時の写真である。
【
図6】実施例における実験3で作製した三次元造形食品の成形性及び保形性評価時の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る三次元造形食品用インクについて説明する。
【0025】
本実施形態の三次元造形食品用インクは、ベースとなる食材と、該食材をゲル化させる多糖類とを含む。そして、本実施形態の多糖類は、下記(A)又は(B)のいずれかである。
(A)アシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム
(B)脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガム、タマリンドシードガム、及びグァーガムから選択される1種以上との組合せ
【0026】
ジェランガムは、微生物Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類である。ジェランガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸、D-グルコース、及びL-ラムノースで構成される繰り返し構造を有する。上記の微生物が産出するジェランガムは、1位水酸基及び3位水酸基がグリコシド結合したD-グルコースの2位水酸基にアシル基としてグリセリル基が結合し且つ6位水酸基にアシル基としてアセチル基が結合している。また、前記繰り返し構造あたり、平均1個のグリセリル基が存在し、平均1/2個のアセチル基が存在する。
【0027】
ジェランガムは、アシル基が除去されていないネイティブ型ジェランガム(ハイアシルジェランガムとも呼ばれる)と、前記ネイティブ型ジェランガムのアシル基が除去されることで得られる非ネイティブ型ジェランガムとに分類される。さらに、前記非ネイティブ型ジェランガムは、アシル基が部分的に除去された前記部分脱アシル化ジェランガムと、ほとんどのアシル基が除去された前記脱アシル型ジェランガムとに分類され得る。
【0028】
前記非ネイティブ型ジェランガムのアシル基の除去の程度は、前記ネイティブ型ジェランガムをアルカリ処理する際の条件設定によって調整され、具体的には、アルカリの添加量、処理温度、及び処理時間などの条件を変更することによって調整され得る。ここで、多糖類であるジェランガムにおいて、複数種のアシル基がどの程度除去されたかを定量的に把握することは困難である。一方で、前記非ネイティブ型ジェランガムのアシル基の除去の程度は、定性的には把握され得る。
【0029】
定性的な特定には、前記非ネイティブ型ジェランガムのゲル化性能を利用することができる。例えば、定性的な指標として、前記非ネイティブ型ジェランガムを用いてゲル化させた食塩水のゲル強度及び破断変形率を用いることができる。また、別の指標として、前記非ネイティブ型ジェランガムを含む脱イオン水又は食塩水のゲル化温度(セット温度と呼ばれる)が用いられ得る。そして、本明細書では、これらの指標によって、前記部分脱アシル化ジェランガムと前記脱アシル型ジェランガムとを分類することとする。
【0030】
前記ゲル強度は、0.5質量%の前記非ネイティブ型ジェランガムを含む1%食塩水(1%食塩水:前記非ネイティブ型ジェランガム=99.5:0.5の質量比)におけるゲル強度を意味するものとする。また、前記ゲル強度は、ゲルの破断点における荷重を意味するものとする。次に、前記破断変形率は、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させたゲルの最大変形量に対する破断点の変形量を意味するものとする。次に、前記セット温度は、1質量%の食塩水又は脱イオン水に0.5質量%の前記非ネイティブ型ジェランガムを90℃で溶解させた後、冷却させたときにゲルの形成を開始する温度を意味するものとする。
[ゲル強度及び破断変形率の測定方法]
(1)90℃、80℃、70℃に調整した1質量%食塩水に0.5質量%の前記非ネイティブ型ジェランガムを添加し、汎用の撹拌機(型式:スリーワンモータBLh1200、新東科学株式会社製)を用いて各温度で5分間撹拌し、前記非ネイティブ型ジェランガムを溶解させる。
(2)溶液を容器(スナップカップ、φ50mm、高さ55mm)に25mmの高さになるように充填し、20℃で1時間静置した後、10℃で一晩冷却してゲル化させる。
(3)ゲル化させた試料のゲル強度をクリープメータ(型式RE2-33005C、山電社製)を用いて測定する。なお、直径8mmのプランジャを用い、圧縮速度1mm/sで0~25mmまで試料を変形させたときの荷重(N)を測定し、ゲルの破断点における荷重をゲル強度(N)とする。また、最大変形量に対する破断点の変形量の比率を破断変形率(%)とする。
[セット温度の測定方法]
1質量%の食塩水又は脱イオン水に0.5質量%の前記非ネイティブ型ジェランガムを90℃で溶解させて得られた溶液の温度と粘度の関係を測定する。具体的には、非ネイティブ型ジェランガムを90℃で5分間撹拌して得られた溶液を、Rapid Visco Analyzer(型式:RVA-4、Newport Scientific社製)によって、200rpmの速度でパドルを回転させながら90℃で3分間保持した後、そのままの速度で回転させながら4℃/分の速度で90℃から25℃ まで冷却した際の粘度を測定する。そして、横軸に温度、縦軸に粘度をプロットして描いたグラフから最大粘度と90℃での粘度を抽出し、後記式で算出する。
セット温度=「(最大粘度-90℃での粘度)×0.2+(90℃での粘度)」が指す温度
前記式の最大粘度は、測定された粘度の最大値である。なお、粘度が最大値を示すとき、溶液はゲル化している。また、前記式の90℃での粘度は、90℃で溶解している状態の粘度である。また、前記式の係数0.2は、ゲル化が開始されたことを示す経験的に得られた数値である。このセット温度は、ゲル化が開始される温度と近似していることが経験的に分かっている。
【0031】
本実施形態の部分脱アシル化ジェランガムは、90℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を2N以上4N未満とするものである。また、本実施形態の部分脱アシル化ジェランガムは、80℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を1.5N以上3.5N未満とするものである。さらに、本実施形態の部分脱アシル化ジェランガムは、70℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を0.5N以上1.5N未満とするものである。また、本実施形態の部分脱アシル化ジェランガムは、前記破断変形率を50%以上とするものである。前記部分脱アシル化ジェランガムは、前記破断変形率を60%以上とするものが好ましく、65%以上とするものがより好ましく、70%以上90%以下とするものがさらに好ましい。また、本実施形態の部分脱アシル化ジェランガムは、前記1質量%食塩水のセット温度を55~70℃とし、前記脱イオン水のセット温度を40~50℃とするものである。前記部分脱アシル化ジェランガムは、前記1質量%食塩水のセット温度を60~70℃とするものが好ましい。
【0032】
一方、本実施形態の脱アシル型ジェランガムは、前記部分脱アシル化ジェランガムよりもアシル基が除去されたものであり、90℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を3N以上7N未満とするものである。また、本実施形態の脱アシル型ジェランガムは、80℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を2N以上5N未満とするものである。さらに、本実施形態の脱アシル型ジェランガムは、70℃で溶解させた前記1質量%食塩水のゲル強度を0.1N以上0.5N未満とするものである。また、本実施形態の脱アシル型ジェランガムは、前記破断変形率が50%未満を示すものである。前記脱アシル型ジェランガムは、前記破断変形率を20%未満とするものが好ましく、前記破断変形率を5%以上15%未満とするものがより好ましい。また、本実施形態の脱アシル型ジェランガムは、前記1質量%食塩水のセット温度を40℃以上55℃未満とするものである。
【0033】
前記脱アシル型ジェランガムは、アシル基が完全に除去されたものであることが好ましい。
【0034】
前記キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリスが醗酵過程で菌体外に産生する天然の多糖類である。前記キサンタンガムは、β-(1-4)結合した2分子のD-グルコースからなる主鎖と、主鎖のD-グルコースに結合した側鎖とで構成される繰り返し構造を有する。側鎖は、主鎖のD-グルコースにβ-(3-1)結合したD-マンノースと、D-マンノースにβ-(2-1)結合したD-グルクロン酸と、D-グルクロン酸にβ-(4-1)結合したD-マンノースとで構成されている。
【0035】
前記タマリンドシードガムは、タマリンド(Tamarindus Indica L.)の種子から得られる多糖類である。前記タマリンドシードガムは、β-(1-4)結合した4分子のD-グルコースからなる主鎖と、主鎖のD-グルコースに結合した側鎖とで構成される繰り返し構造を有する。側鎖は、主鎖のD-グルコースにα-(6-1)結合したD-キシロースと、D-キシロースにβ-(2-1)結合したD-ガラクトースとで構成されている。
【0036】
前記グァーガムは、グアー(Cyamopsis tetragonoba)の種子から得られる多糖類である。前記グァーガムは、β-(1-4)結合した2分子のD-マンノースからなる主鎖と、主鎖のD-マンノースにα-(1-6)結合したD-ガラクトースからなる側鎖とで構成される繰り返し構造を有する。
【0037】
上記の多糖類のうち、前記部分脱アシル化ジェランガム及び前記脱アシル型ジェランガムは一般にゲル化剤に分類されるものであり、一方、前記キサンタンガム、前記タマリンドシードガム、前記グァーガム、及びローカストビーンガムは一般に増粘剤に分類されるものであり、それぞれの機能が異なる。
【0038】
前記(A)のインクの場合、該インクの総質量に対する前記多糖類の質量割合は、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましい。さらに好ましくは、該インクの総質量に対する前記部分脱アシル化ジェランガムの質量割合が、0.1~0.5質量%である。
【0039】
前記(A)のインクは、前記部分脱アシル化ジェランガムを主たる多糖類として含んでいることが好ましい。すなわち、前記(A)のインクは、これに含まれる多糖類(食材由来の多糖類を除く)の総質量に対する前記部分脱アシル化ジェランガムの割合が40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、前記(A)のインクは、多糖類として前記部分脱アシル化ジェランガムを単独で含んでいてもよい。
【0040】
また、前記(A)のインクは、前記部分脱アシル化ジェランガムと、前記キサンタンガム、前記タマリンドシードガム、前記グァーガム、及びローカストビーンガムから選択される1種以上とをさらに含んでいてもよい。この場合、前記部分脱アシル化ジェランガムとこれ以外の多糖類との質量比は、4:6~8:2であることが好ましく、5:5~7:3であることがより好ましい。
【0041】
前記(B)の三次元造形食品用インクの場合、該インクの総質量に対する前記多糖類の質量割合は、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましい。さらに好ましくは、該インクの総質量に対する前記脱アシル型ジェランガムの質量割合は、0.1~0.5質量%である。
【0042】
前記(B)のインクは、上記のように、前記脱アシル型ジェランガムに、前記キサンタンガム、前記タマリンドシードガム、及び前記グァーガムから選択される1種以上を組み合わせられることが重要である。前記脱アシル型ジェランガムとこれ以外の多糖類との質量比は、1:0.5~1:1.5であることが好ましい。
【0043】
前記(A)及び前記(B)のインクは、該インクの総質量に対して70質量%以上の水を含むことが好ましい。なお、水は、前記食材に含まれる水分であってもよく、別途、添加されたものであってもよい。
【0044】
前記食材としては、デキストリン、ショ糖、フラクトオリゴ糖などの各種オリゴ糖;でんぷんや、難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどの食物繊維などの炭水化物;カゼイン、ホエイタンパクなどの動物性タンパク質;大豆タンパクなどの植物性タンパク質;植物性油脂や動物性油脂などの油脂を含むものが好ましい。かかる食材としては、例えば、米粉、小麦粉、片栗粉、穀類粉末、豆類粉末、いも類粉末、コーンスターチ、山芋、葛粉、マッシュポテト、フラワーペースト、コーンシラップ、液糖、蜂蜜、野菜ペースト、乾燥野菜、乾燥果実、果汁、バッター、畜肉、魚肉、卵黄、卵白、大豆蛋白、チーズ、ヨーグルト、バター、マーガリンなどが挙げられる。
【0045】
次に、第1の実施形態の前記(A)又は前記(B)のインク及び3Dプリンタを用いる三次元造形食品の製造方法の一実施形態について説明する。
【0046】
図1に示すように、本実施形態で用いる3Dプリンタ1は、前記(A)又は前記(B)のインクを充填する円筒状のシリンダ部10と、シリンダ部10内を摺動する円柱状のプランジャ部20と、シリンダ部10内のインクの温度を所定の温度に維持する熱交換部30と、三次元造形食品の加工台40と、加工台40周りの雰囲気を所定の温度に維持する温度制御部50とを備えている。シリンダ部10及び加工台40は、水平方向及び垂直方向に相対移動するように構成されている。また、3Dプリンタ1は、シリンダ部10の先端と加工台40乃至は加工台40上の造形物との距離を測定するセンサ部と、前記造形物の表面形状に関するデータをリアルタイムに取得するスキャン部とを備えている。3Dプリンタ1は、制御部に入力された3Dデータ及び前記スキャン部が取得したデータに基づいて、シリンダ部10からのインクの吐出量及び前記相対移動を制御するように構成されている。
【0047】
シリンダ部10は、三次元造形食品用インクを吐出するノズル部11を有する。ノズル部11の内径は、0.4mm以上が好ましい。また、ノズル部11の内径は、5mm以下が好ましい。シリンダ部10内のインクは、プランジャ部20で押圧され、ノズル部11を介して加工台40に吐出される。
【0048】
本実施形態の製造方法は、前記(A)又は前記(B)のインクを調製する調製工程と、前記(A)又は前記(B)のインク及び3Dプリンタ1を用いて三次元造形食品を作製する造形工程とを備える。
【0049】
前記調製工程では、前記食材と前記(A)又は前記(B)の多糖類とを70℃以上で混合する。混合温度は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。より具体的には、前記部分脱アシル化ジェランガムを含む前記(A)のインクを用いる場合、混合温度は70~95℃であってもよい。一方、前記脱アシル型ジェランガムを含む前記(B)のインクを用いる場合、混合温度は80℃以上であることが好ましく、80~95℃であることがより好ましい。混合には、撹拌装置を用いることが好ましい。
【0050】
前記造形工程では、前記(A)又は前記(B)のインクをシリンダ部10に充填し、保温部30によって該インクを30℃以上に調温する。前記部分脱アシル化ジェランガムを含む前記(A)のインクを用いる場合、50℃以上に調温することが好ましく、55℃以上に調温することがより好ましい。また、前記脱アシル型ジェランガムを含む前記(B)のインクを用いる場合、40℃以上に調温することが好ましい。ここで、前記(A)のインクは約50℃でゲル化が開始し、前記(B)のインクは約40℃でゲル化が開始する。よって、上記のように調温されたインクは、シリンダ部10内でのゲル化が抑制されるため、ノズル部11から吐出されるインクの線(吐出線)が滑らかで均一な幅となり、成形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0051】
すなわち、本実施形態の造形工程では、シリンダ部10内においては前記(A)又は前記(B)のインクがゲル化しないようにし、該インクをノズル部11から吐出させると同時にゲル化を開始させることによって、三次元造形食品を製造する。これによって、成形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。なお、非特許文献1の方法は、インクを50℃に調温し、室温下に吐出しているものの、そのインクは4℃のプレート上に吐出されており、インクは速やかに冷却される。これにより、インク中のゲル化剤が速やかにゲル化することが可能となり、成形性と保形性に優れる三次元造形食品が製造できる。さらに、ゲル化剤の添加濃度が全体で1.7~2.5質量%であり、多量のゲル化剤を添加することで成形性と保形性を付与している。本実施形態では多糖類濃度0.3~0.6質量%のインクを20~30℃の雰囲気温度に吐出し、その温度のまま次の層を積層する。非特許文献1の技術を本実施形態の条件下で実施すると、吐出したものが十分にゲル化して固まらないうちに次の層を積層するので、下層が上層に圧し潰された状態の三次元造形食品となる。よって、非特許文献1の技術で三次元造形食品を製造したとしても成形性と保形性に劣ると考えられる。
【0052】
そして、本実施形態の造形工程では、吐出雰囲気(すなわち加工台40周りの雰囲気)の温度を温度制御部50によって0~30℃に制御した状態で、調温したインクをシリンダ部10から吐出する。温度制御部50による制御が不要になり得るという観点から、吐出雰囲気の温度は、20~30℃(すなわち室温)であることが好ましい。前記(A)又は前記(B)のインクは、かかる温度条件の雰囲気において十分にゲル化し、20~30℃の三次元造形食品を形成し得る。よって、前記(A)又は前記(B)のインクで製造された20~30℃の三次元造形食品は、この温度で喫食まで維持されてもよい。なお、前記(A)又は前記(B)の多糖類は、一旦ゲル化させると、そのゲルを再加温しても70℃以下ではゲルを溶解させないという耐熱性を有している。そのため、前記(A)又は前記(B)のインクで製造された三次元造形食品は、70℃以下、少なくとも65℃以下の加温では再溶解せずに三次元造形食品の形状を維持する。このように、前記(A)又は前記(B)のインクは、冷やして喫食されることが好まれるか又は常温での喫食が好まれるか、又は70℃以下に再加温して喫食されることが好まれる三次元造形食品の製造に適している。
【0053】
上記のように、前記(A)又は前記(B)のインクを用いる造形工程では、該インクの温度を吐出雰囲気の温度よりも高くすることが好ましい。具体的には、前記(A)のインクの場合、該インクの温度と吐出雰囲気の温度との差を20℃以上とすることが好ましく、30℃以上とすることがより好ましい。また、前記(B)のインクの場合、該インクの温度と吐出雰囲気の温度との差を10℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがより好ましい。これによって、ノズル部11から吐出させたインクのゲル化を直ちに開始させることができ、成形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態に係る三次元造形食品用インクについて説明する。
【0055】
本実施形態に係る三次元造形食品用インクは、前記食材と、下記(C)の多糖類とを含む。
(C)ガラクトキシログルカンの側鎖のガラクトースが部分的に除去されたキシログルカン部分分解物
【0056】
前記ガラクトキシログルカンは、双子葉、単子葉植物など高等植物の細胞壁(一次壁)を構成する多糖類である。前記ガラクトキシログルカンとして、例えば、前記タマリンドシードガムが挙げられ、この他、ジャトバ、ナスタチウムの種子、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギなどの穀物、又はリンゴなどの果実の表皮に由来するものが挙げられる。
【0057】
前記キシログルカン部分分解物は、前記ガラクトキシログルカンの側鎖のD-ガラクトースが部分的に除去されたものである。本実施形態のキシログルカン部分分解物は、その水溶液を加熱によりゲル化させるゲル化性能を有し、具体的には、2.0質量%の前記キシログルカン部分分解物を含む水溶液(水:前記キシログルカン部分分解物=98:2の質量比)を30~90℃でゲル化させるゲル化性能を有する。
【0058】
また、本実施形態のキシログルカン部分分解物は、粉状であり、10℃以下の水に0.05~20質量%で混合し撹拌されると、溶解して粘性のある水溶液となる。そして、前記水溶液は、30℃以上に加温される、好ましくは40℃以上に加温されるとゲル化する。前記(C)のインクは、前記キシログルカン部分分解物の上記のようなゲル化性能を利用するものである。前記キシログルカン部分分解物は、熱による可逆的ゾル-ゲル転移温度を低温側と高温側の2箇所に有するもので、低温側のゾル-ゲル転移温度が30℃以上40℃以下のものが好ましい。なお、前記ゾル-ゲル転移温度は、実施例に記載の測定方法によって測定することができる。
【0059】
本実施形態のキシログルカン部分分解物は、前記タマリンドシードガムをβ-ガラクトシダーゼで酵素分解することによって製造される。具体的には、酵素分解工程では、2質量%の前記タマリンドシードガムを含む水溶液にβ-ガラクトシダーゼを添加し、pH5~6、温度50~55℃の条件下、所定時間反応させる。次いで、95℃、30分間加熱して酵素を失活させた後、室温に冷却する。精製工程では、反応液にエタノールを加えて析出させた沈殿物をろ過により回収し、送風乾燥機などを用いて乾燥物を得る。さらに、乾燥物を粉砕することによって粉状の前記キシログルカン部分分解物とする。
【0060】
前記キシログルカン部分分解物は、前記タマリンドシードガムに対して30~65質量%のD-ガラクトースが除去されていることが好ましく、35~55質量%のD-ガラクトースが除去されていることがより好ましい。ここで、前記タマリンドシードガムは、約17質量%のD-ガラクトースを有する。また、前記反応工程で除去されたD-ガラクトースの量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、アミノカラム)で測定することができる。そして、これらの値を用いて、前記キシログルカン部分分解物におけるD-ガラクトースの除去率を求めることができる。これによれば、前記キシログルカン部分分解物は6~12質量%(好ましくは8~11質量%)のD-ガラクトースを有すると考えられる。
【0061】
前記(C)のインクの場合、該インクの総質量に対する前記キシログルカン部分分解物の質量割合は、1.0~2.0質量%であることが好ましく、1.0~1.5質量%であることがより好ましい。かかる下限値の設定によって、前記食品と併存された場合においても前記キシログルカン部分分解物が十分にゲル化性能を発揮し、前記(C)のインクが所望の性能を発揮する。また、かかる上限値の設定によって、前記食品と併存された場合においても前記キシログルカン部分分解物が十分に溶解し、前記(C)のインクが所望の性能を発揮する。
【0062】
前記(C)のインクは、該インクの総質量に対して70質量%以上の水を含むことが好ましい。
【0063】
次に、第2の実施形態の前記(C)のインクを用いる三次元造形食品の製造方法の一実施形態について説明する。
【0064】
本実施形態の製造方法は、前記(C)のインクを調製する調製工程と、前記(C)のインク及び
図1の3Dプリンタ1を用いて三次元造形食品を作製する造形工程とを備える。
【0065】
前記調製工程では、前記食材と粉状の前記キシログルカン部分分解物とを氷水に浸すなどして冷却し0~5℃で15分~3時間混合する。混合には、撹拌装置を用いることが好ましい。かかる調製工程で調製された(C)のインクは、前記キシログルカン部分分解物が溶解していると考えられる。
【0066】
前記造形工程では、前記(C)のインクをシリンダ部10に充填し、保温部30によって30℃以下に調温する。これによって、シリンダ部10におけるインクのゲル化が抑制されるため、インクの吐出性が良好になる。また、本実施形態の(C)のインクを用いることによって、シリンダ部10においてゲル化させないにも関わらず、シリンダ部10のノズル部11からの不用意な漏出を抑制することができる。
【0067】
そして、本実施形態の造形工程では、吐出雰囲気(加工台40周りの雰囲気)の温度を温度制御部50により制御せずに20~30℃(室温)で、調温したインクをシリンダ部10から吐出する。
【0068】
さらに、本実施形態の造形工程は、吐出した20~30℃のインクを30℃、乃至は30℃よりも高い温度に加温して三次元造形食品とする。加温する温度は40℃以上にされることが好ましい。これによって、保形性に優れる三次元造形食品を得ることができる。
【0069】
吐出したインクを加温する方法としては、吐出雰囲気の温度を温度制御部50により40℃以上70℃以下に制御した状態で、調温したインクをシリンダ部10から吐出してもよい。すなわち、調温したインクを40℃以上70℃以下の雰囲気下にシリンダ部10から吐出してもよい。前記(C)のインクは、前記キシログルカン部分分解物のゲル化性能によって、かかる温度条件の雰囲気において、成形性及び保形性に優れる40~70℃の三次元造形食品を形成し得る。このように、前記(C)のインクは、温めて喫食されることが好まれる三次元造形食品の製造に適している。
【0070】
上記のように、前記(C)のインクを用いる造形工程では、吐出雰囲気の温度を該インクの温度以上とすることが好ましく、吐出雰囲気の温度と該インクの温度との差を10℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがより好ましく、30℃以上とすることがさらに好ましい。これによって、吐出されると同時にインクがゲル化し始めるため、より成形性に優れた三次元造形食品を製造することができる。また、本実施形態の造形工程では、シリンダ部10内においては前記(C)のインクがゲル化しないようにし、該インクをノズル部11から吐出させると同時にゲル化を開始させることによって、三次元造形食品を製造する。
【0071】
以上のように、例示としての実施形態を示したが、本発明に係る三次元造形食品用インク及び三次元造形食品の製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る三次元造形食品用インク及び三次元造形食品の製造方法は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る三次元造形食品用インク及び三次元造形食品の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
例えば、本発明の三次元造形食品用インクは、多糖類として、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、アラビアガム、カラヤガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、ペクチン、グァーガムの主鎖を酵素などで分解して得られるグァーガム分解物、キシログルカン、アウレオバシジウム培養液、スクシノグリカン、アルギン酸、アルギン酸塩類(K、Ca、アンモニウム)、ウエランガム、セルロース、βグルカン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、微結晶セルロース(MCC)、キチン、キトサン、ガッテイガム、カードラン、グルコサミン、酵母細胞壁、サバクヨモギシードガム、セスバニアガム、デキストラン、トラガントガム、納豆菌ガム、プルラン、ラムザンガム、大豆多糖類、寒天、カラギーナンなどを含んでいてもよい。
【0073】
また、カチオンと反応してゲル化性能が高まる多糖類を用いる場合には、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等のカチオン源となり得る塩類をインクに含ませてもよい。該塩類の質量割合は、インクの総質量に対して、0.01~0.5質量%であることが好ましい。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0075】
[実験1:ほうれん草ペーストを用いた(A)または(B)のインク、及び、その造形]
食材としてのほうれん草ペーストに下記表3に示す多糖類を配合してインクを調製し、3Dプリンタ(武蔵エンジニアリング株式会社製SM200SX、ノズルの開口径2mm、吐出圧力1~20kPa)を用いて各インクの性能を評価することとした。
【0076】
(使用した多糖類)
ネイティブ型ジェランガム(ハイアシルジェランガム):住友ファーマフード&ケミカル株式会社、ケルコゲルHM
部分脱アシル化ジェランガム:住友ファーマフード&ケミカル株式会社、ケルコゲルDGA
脱アシル型ジェランガム:住友ファーマフード&ケミカル株式会社、ケルコゲル
部分脱アシル化ジェランガム及び脱アシル型ジェランガムは、下記表1に示すゲル化性能(1%食塩水に0.5質量%で配合したときの性能)を有するものを使用した。また、これらのセット温度は、表2に示したとおりである。
【0077】
【0078】
【0079】
(手順)
容器に入れたほうれん草ペースト(ダンフーズ社製、品名:ほうれん草ペースト)を撹拌装置で撹拌しながら各多糖類を添加し、90(±2)℃で5分間加熱し、インクを調製した。次に、50g程度のインクを3Dプリンタのシリンダ部に充填し、熱交換部によって表3記載の吐出温度にインクを調温した。また、加工台周りの雰囲気を室温(25℃)とした。そして、シリンダ部のノズルからインクを吐出し、円柱状の三次元造形食品(以下、造形食品C)、及び、上面視において星形であり且つ筒状の三次元造形食品(以下、造形食品S)を作製した。造形食品Cは、直径20mm、6層の高さ:約10mmとなるように作製した。また、造形食品Sは、一辺10mm、6層の高さ:約10mmとなるように作製した。なお、高さは、インクの硬さや積層性によって差が生じやすいため、目安値である。円柱状の造形食品C作製時の単位時間あたりの吐出量は0.25g/秒とし、星形の造形食品S作製時の単位時間あたりの吐出量は0.10g/秒とした。
【0080】
作製したインク(及び三次元造形食品)について、下記の項目について評価し、全ての項目において「◎」又は「○」と評価されたインクを総合的な実用可能性があると評価した。
【0081】
(ノズルからの液漏れ評価)
シリンジ部に充填されたインクがノズルから液漏れするか、下記評価基準により評価した。
◎:ノズルから全く漏れない(インクに離水が認められない)。
○:ノズルからほぼ漏れない(インクに離水がほとんど認められない)。
×:ノズルから漏れる(インクに離水が認められる)。
【0082】
(吐出性評価)
0.25g/秒で吐出させたときの吐出性について、下記評価基準により評価した。
◎:滑らかに吐出され、且つ、吐出されたインクの表面が均一である。
○:滑らに吐出されるが、吐出されたインクの表面に不均一な部分が認められる。
×:滑らかに吐出されず、吐出が部分的に途切れる。
【0083】
(成形性評価1:積層性評価)
造形食品Cの外観について、下記評価基準により評価した。
◎:各層の高さがほぼ同じである。
○:下層が上層に比べて若干横方向に広がる。
×:下層がつぶれ、上層に比べて横方向に広がる。
【0084】
(成形性評価2:角の成形性評価)
造形食品Sの外観について、下記評価基準により評価した。
◎:角部の外側及び内側の両方がきれいに成形されている。
○:角部の外側がきれいに成形されているが、内側は若干成形性に劣る。
×:角部の外側及び内側の両方がきれいに成形されていない。
【0085】
(保形性評価)
作製から3分後及び5分後の造形食品Cを箸で摘まむことによって持ち上げた状態について、下記評価基準により評価した。
◎:3分後に持ち上げられたときに保形している。
○:3分後に持ち上げられたときには形が崩れるが、5分後に持ち上げられたときには保形している。
×:3分後及び5分後に持ち上げられたときの両方において形が崩れる。
【0086】
(総合的な実用可能性)
上記の5項目の評価をもとして総合的に評価した。
◎:上記の5項目に「×」がなく、更に「◎」が3個以上ある。
○:上記の5項目に「×」がなく、全て「〇」乃至は「◎」である。
×:上記の5項目に「×」が1個以上ある。
【0087】
【0088】
表3並びに
図2及び
図3に示したように、実施例1~実施例5のインクは実用可能であると考えられる。特に、
図2の外観の比較から、実施例1の部分脱アシル化ジェランガムを含むインクで作製した造形食品は、参考例1のネイティブ型ジェランガムを含むインクで作成した造形食品と比較して、吐出線がより滑らかであり、参考例2のローカストビーンガム及びキサンタンガムを含むインクで作製した造形食品と比較して、角の成形性が優れており、且つ、保形性にも優れることが認められた。また、表3及び
図2、3に示したように、脱アシル型ジェランガムは、単独(比較例3)では液漏れと吐出性、角の成形性に劣るものの、キサンタンガムとの組み合わせ(実施例3)では、液漏れ、吐出性、積層性、角の成形性、保形性の全ての点において好ましいことがわかった。
【0089】
[実験2:他の食材を用いた(A)又は(B)のインク、及び、その造形]
実験2では、多糖類として、実験1で結果の良かった部分脱アシル化ジェランガム、及び、脱アシル型ジェランガムとキサンタンガムとを組み合わせたものを別の食材に適用し、実験1と同様にして評価した。別の食材としては、にんじんペースト(ダンフーズ社製、品名:にんじんペースト)、鮭ペースト、及びオートミールペーストを用いた。なお、鮭ペーストは、焼鮭100gとだし60gをミキサーで1分間粉砕混合し、ペースト状にした。また、オートミールペーストは、オートミール(日本食品製造合資会社、品名:プレミアムピュア オートミール)30gと水200gを混合して電子レンジで600W、2分間加熱した後、ミキサーで30秒間粉砕混合し、ペースト状にした。
【0090】
【0091】
表4並びに
図4及び
図5に示したように、部分脱アシル化ジェランガムは、にんじんペースト(実施例6)、鮭ペースト(実施例7)で良好な結果となった。特に、鮭ペースト(実施例7)の場合、ネイティブ型ジェランガムを含むインク(参考例3)及びローカストビーンガム及びキサンタンガムを含むインク(参考例4)と比較して、吐出線が滑らかであり、積層性にも優れていた。脱アシル型ジェランガムとキサンタンガムとの組み合わせも、にんじんペースト(実施例8)、鮭ペースト(実施例9)、オートミールペースト(実施例10)で良好な結果が得られた。よって、実施例6~実施例10のインクは実用可能であると考えられる。
【0092】
[実験3:ほうれん草ペーストを用いた(C)のインク、及び、その造形]
容器に入れたほうれん草ペーストを撹拌装置で撹拌しながら下記のキシログルカン部分分解物を添加し、容器を氷水に浸して2(±1)℃で60分間冷却しながら撹拌し、インクを調製した。次に、50g程度のインクを3Dプリンタのシリンダ部に充填し、熱交換部によって表5記載の吐出温度にインクを調温した。また、加工台周りの雰囲気を室温(25℃)とした。そして、実験例1と同様にして、造形食品C及び造形食品Sを作製し、さらに45℃の恒温槽に1時間保存した。なお、実験3に用いた(C)の多糖類は、(A)や(B)の多糖類のように加熱溶解した後に室温まで冷却することによってゲル化するのではなく、10℃以下の冷水に溶解した後に30℃以上に加温することによってゲル化する性質を有する。そのため、保形性は45℃に加温した後に評価した。
【0093】
(使用した多糖類)
タマリンドシードガムを酵素分解して取得したキシログルカン部分分解物:本品の水溶液は、加熱によってゾル-ゲル転移して弾力性のあるゲルを形成する。このゲルは冷却によって、可逆的にゾルに戻る。本試験に供したキシログルカン部分分解物のゾル-ゲル転移温度は32.6℃である。なお、ゾル-ゲル転移温度は下記の測定方法によって測定した。
[ゾル-ゲル転移温度の測定方法]
(1)脱イオン水に1.25質量%の前記キシログルカン部分分解物を添加し、ビーカーを氷水に浸して冷却しながら汎用撹拌機(型式:スリーワンモータBLh1200、新東科学株式会社製)を用いて1時間撹拌し、前記キシログルカン部分分解物を溶解させる。
(2)ストレスレオメーター(型式:Discovery HR-2、TA Instruments社製)を用いてゾル-ゲル転移温度を測定する。なお、歪量1.0%、周波数1Hzの条件下で昇温速度0.5℃/分にて5℃から90℃まで昇温させたときの貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”を測定し、その交点の温度をゾル-ゲル転移温度とする。
【0094】
(評価方法)
保形性以外は、実験1と同様にして評価した。保形性については、室温(25℃)で造形した造形食品Cを45℃の恒温槽に1時間保存し、その後、直ちに造形食品Cを箸で持ち上げることによって評価した。
○:持ち上げられたときに保形している。
×:持ち上げられたときに形が崩れる。
【0095】
【0096】
表5及び
図6に示したように、実施例11のインクは液漏れ、吐出性、積層性、角の成形性、45℃での加温後の保形性で良好な結果を示し、実用可能であると考えられる。具体的に、実施例11のキシログルカン部分分解物を含むインクは、加温時の保形性が顕著に優れていることから、温めて喫食される三次元造形食品の製造に適していることがわかった。一方、比較例4のインクは、液漏れ、吐出性、積層性、角の成形性では良好な結果であったが、45℃で加温前及び加温後のいずれにおいても、箸で持ち上げられず、保形性がなかった。