(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045894
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】折箱型せん断パネル版、これを組合せたせん断パネル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
E04B2/56 605M
E04B2/56 605J
E04B2/56 621H
E04B2/56 643A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150972
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 規矩夫
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EC01
2E002FB08
2E002FB22
2E002FB25
2E002GA01
2E002MA12
(57)【要約】
【課題】低製造コストの折箱型せん断パネル版、これを組合せたせん断パネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】折箱型せん断パネル版P11は、平版状の鋼板を切断して方形平面部1及び方形平面部1の四辺を囲む4つの左側フランジ2-1、右側フランジ2-2、上側フランジ2-3、下側フランジ2-4よりなる。各折箱型せん断パネル版P11の各フランジ2-1、2-2、2-3、2-4に開口部2-1a、2-2a、2-3a、2-4aを設ける。各フランジ2-1、2-2、2-3、2-4を方形平面部1に対して同一の直角方向に立設されるように、折り曲げてある。4つの同一の折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22を隣接させて折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22のフランジ2-1、2-2、2-3、2-4を接触させ、接触したフランジ間をボルトB、ナットN及びワッシャWでボルト接合させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形平面部と、
該矩形平面部の四辺を囲み、前記矩形平面部に対して同一の直角方向又は異なる直角方向に突出するように立設されている4つのフランジとを具備する折箱型せん断パネル版。
【請求項2】
前記矩形平面部に開口部を設けた請求項1に記載の折箱型せん断パネル版。
【請求項3】
請求項1に記載の折箱型せん断パネル版を複数個平面状に配置して組合せたせん断パネルであって、
隣接する2つの前記折箱型せん断パネル版の前記各フランジの間を機械的接合したせん断パネル。
【請求項4】
前記各フランジの間の前記機械的接合はボルト、ナット及びワッシャよりなるボルト接合によって行われた請求項3に記載のせん断パネル。
【請求項5】
前記各フランジの間の前記機械的接合はドリルねじよりなるねじ接合によって行われた請求項3に記載のせん断パネル。
【請求項6】
前記せん断パネルの一部に前記折箱型せん断パネル版を配置せずに開口部を設けた請求項3に記載のせん断パネル。
【請求項7】
前記各折箱型せん断パネル版の前記フランジの立設方向を相異なるようにした請求項3に記載のせん断パネル。
【請求項8】
前記各折箱型せん断パネル版の前記フランジの立設方向を前記各折箱型せん断パネル版毎に変化させた請求項3に記載のせん断パネル。
【請求項9】
薄板を切断して矩形平面部及び該矩形平面部を囲む4つのフランジを形成するための切断工程と、
前記4つのフランジに開口部を形成するための開口工程と、
前記4つのフランジを前記矩形平面部に対して同一の直角方向又は異なる直角方向に突出するように折曲げて折箱型せん断パネル版を形成する折曲工程と、
前記折箱型せん断パネル版を複数個平面状に配置して組合せ、隣接する2つの前記折箱型せん断パネル版の各フランジの間を機械的接合する機械的接合工程と
を具備するせん断パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築構造物内に設置する壁等に用いられるたとえば耐震壁用の折箱型せん断パネル版、これを組合せたせん断パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、たとえば耐震壁用の鋼板部材(せん断パネルとも言う)は水平抵抗要素、エネルギー吸収要素として作用する。このせん断パネルは薄板で製造されるので、地震力等の水平荷重によるせん断力を受けた場合の座屈不安定現象が避けられない。
【0003】
従来のせん断パネルはリブを設けている(参照:特許文献1)。これにより、リブによって区分された区画の板厚に対する幅厚比を相対的に小さくして区画内せん断座屈耐力を大きくし、また、せん断パネル全体の面外剛性を大きくする。この結果、リブで区画された区画内の座屈不安定現象及びせん断パネルの全体的な座屈不安定現象を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来のリブを有するせん断パネルの製造方法は、製造工場において、高い溶接技術を必要とし、また、製造工程も多く、他方、組立現場に設置の際にも、大型化かつ重量化するので、多くの人手及び重機を必要とする。この結果、製造コストが高いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明に係る折箱型せん断パネル版は、矩形平面部と、矩形平面部の四辺を囲み、矩形平面部に対して同一の直角方向又は異なる直角方向に突出するように立設されている4つのフランジとを具備するものである。
【0007】
また、本発明に係るせん断パネルは、上述の折箱型せん断パネル版を複数個平面状に配置して組合せたせん断パネルであって、隣接する2つの折箱型せん断パネル版の各フランジの間を機械的接合したものである。
【0008】
さらに、本発明に係るせん断パネルの製造方法は、薄板を切断して矩形平面部及び矩形平面部を囲む4つのフランジを形成するための切断工程と、4つのフランジに開口部を形成するための開口工程と、4つのフランジを矩形平面部に対して同一の直角方向又は異なる直角方向に突出するように折曲げて折箱型せん断パネル版を形成する折曲工程と、折箱型せん断パネル版を複数個平面状に配置して組合せ、隣接する2つの折箱型せん断パネル版の各フランジの間を機械的接合する機械的接合工程とを具備するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、折箱型せん断パネル版は溶接を必要とせず、製造工場で簡易な製造工程で得られ、他方、組立現場における軽量化した折箱型せん断パネル版の組合せの場合も溶接的接合ではなく機械的接合によって行われるので、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るせん断パネルの製造方法の実施の形態を説明するための図であって、折箱型せん断パネル版の切断工程を示す正面図である。
【
図2】本発明に係るせん断パネルの製造方法の実施の形態を説明するための図であって、折箱型せん断パネル版の開口工程を示す正面図である。
【
図3】本発明に係るせん断パネルの製造方法の実施の形態を説明するための図であって、折箱型せん断パネル版の折曲工程を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【
図4】本発明に係るせん断パネルの製造方法の実施の形態を説明するための図であって、折箱型せん断パネル版の組合工程を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【
図5】
図4の折箱型せん断パネル版の組合工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図6】
図5の耐震壁の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図7】
図4の折箱型せん断パネル版の組合工程の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【
図8】
図7の折箱型せん断パネル版の組合工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図9】
図3の折箱型せん断パネル版の折曲工程の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【
図10】
図9の折箱型せん断パネル版の折曲工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図11】
図2の折箱型せん断パネル版の開口工程の変更例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1、
図2、
図3、
図4は本発明に係るせん断パネルの製造方法の実施の形態を説明するための図である。
【0012】
始めに、折箱型せん断パネル版P11の切断工程を示す
図1を参照すると、平版状の鋼板を切断して方形平面部1及び方形平面部1の四辺を囲む4つの左側フランジ2-1、右側フランジ2-2、上側フランジ2-3、下側フランジ2-4を有する折箱型せん断パネル版P11を得る。尚、点線Lは後の折曲工程での折曲線を示す。
【0013】
次に、折箱型せん断パネル版P11の開口工程を示す
図2を参照すると、各折箱型せん断パネル版P11の各フランジ2-1、2-2、2-3、2-4に後述の折箱型せん断パネル版組合工程に用いる開口部2-1a、2-2a、2-3a、2-4aを設ける。
【0014】
次に、
図3の折箱型せん断パネル版P11の折曲工程を参照すると、
図2の折曲線Lに沿って各フランジ2-1、2-2、2-3、2-4を方形平面部1に対して同一の直角方向に立設されるように、折り曲げる。
【0015】
最後に、
図4の折箱型せん断パネル版の組合工程を参照すると、たとえば、4つの同一の折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22を隣接させて折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22のフランジ2-1、2-2、2-3、2-4を接触させる。すなわち、右側フランジ2-2(P11)と左側フランジ2-1(P12)とを接触させ、右側フランジ2-2(P21)と左側フランジ2-1(P22)とを接触させ、下側フランジ2-4(P11)と上側フランジ2-3(P21)とを接触させ、下側フランジ2-4(P22)と上側フランジ2-3(P22)とを接触させる。次に、接触したフランジ間をボルトBとナットNとでボルト接合させる。たとえば、折箱型せん断パネル版P1の右側フランジ2-2の開口部2-2a及び折箱型せん断パネル版P2の左側フランジ2-1の開口部2-1aを利用してボルトB、ナットN及び圧力均一のためのワッシャWでボルト接合させる。尚、ボルト接合は高力ボルト接合をも含むものとする。また、ボルト接合の代りに、ドリルねじによるねじ接合でもよい。
【0016】
このようにして複数の折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22を組合せて得られたせん断パネルPにおける折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22の接合部分は直角に突設してリブの作用をする。また、たとえば耐震壁用として用いる場合、折箱型せん断パネル版P11、P12、P21、P22の左側フランジ2-1(P11)、2-1(P21)、右側フランジ2-2(P12)、2-2(P22)、上側フランジ2-3(P11)、2-3(P12)、下側フランジ2-4(P21)、2-4(P22)の開口部2-1a、2-2a、2-3a、2-4aを利用して耐震壁のエンドプレート、フランジにボルト等を用いて結合される。
【0017】
上述のごとくして得られるせん断パネルは以下の効果を得ることができる。
(a)折箱型せん断パネル版は方形平坦部の直角方向のフランジによって分断されるので、折箱型せん断パネル版の幅厚比(b/t)が小さくなり、折箱型せん断パネル版の面内せん断座屈耐力Q
crを大きくできる。また、折箱型せん断パネル版のリブとして作用するフランジによって全体の座屈の発生を抑制できる。尚、面内せん断座屈耐力Q
crは数1で表される。
【数1】
但し、kは座屈係数、
Eはヤング係数、
νはポアソン比、
tは方形平面部厚さ、
bは方形平面部の幅、
Aは方形平面部の断面積
である。
(b)折箱型せん断パネル版は板厚tを小さくできるので、せん断パネル全体の重量を小さくできる。
(c)折箱型せん断パネル版は切断工程、開口工程、折曲工程のみであり、また溶接を用いない折箱型せん断パネル版の組合工程により製造が容易となる。
【0018】
図5は
図4の折箱型せん断パネル版の組合工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。尚、
図5においては、せん断パネルPは5×4=20個の折箱型せん断パネル版P11、P12、…、P54よりなる。
【0019】
図5のせん断パネルPにおいては、折箱型せん断パネル版の機械的に接合されたフランジが補強用リブR1、R2、R3、R4、R1'、R2'、R3’を構成している。
【0020】
図6は
図5の耐震壁の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【0021】
図6のせん断パネルPにおいては、
図5の折箱型せん断パネル版P22、P23、P32、P33を設けずに開口部OPを形成している。つまり、補強用リブR2、R2'の一部を設けていない。この開口部OPはたとえば小窓を設けるためである。また、開口部OPは複数設けてもよい。
【0022】
図7は
図4の折箱型せん断パネル版の組合工程の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【0023】
図7のせん断パネルPにおいては、折箱型せん断パネル版P12’、P21’は
図4の折箱型せん断パネル版P12、P21を裏返ししたものである。これにより、表面状態を変化させることができる。尚、裏返しする折箱型せん断パネル版はP12、P21に限定されない。
【0024】
図8は
図7の折箱型せん断パネル版の組合工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【0025】
図8のせん断パネルPにおいては、折箱型せん断パネル版P11、P12’、…、P54’は交互に表裏反対となっており、これにより、表面状態を変化させることができる。これにより、せん断パネルPの意匠上の美感が増加する。
【0026】
図9は
図3の折箱型せん断パネル版の折曲工程の変更例を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図、(D)は上側面図、(E)は下側面図である。
【0027】
図9のせん断パネルP11(M)においては、フランジ2-1、2-3、2-4は方形平面部1の上側の直角方向に折り曲げられているのに対し、フランジ2-2は方形平面部1の下側の直角方向に折り曲げられている。
【0028】
図10は
図9の折箱型せん断パネル版の折曲工程によって得られたせん断パネルを用いた耐震壁を示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB-B線断面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。尚、
図10においては、せん断パネルPは5×4=20個の折箱型せん断パネル版P11(M)、P12(M)、…、P54(M)よりなる。
【0029】
図10のせん断パネルPにおいては、横方向のみ折箱型せん断パネル版たとえばP31(M)、P32(M)、P33(M)、P34(M)が斜めに傾斜している。これにより、せん断パネルPの意匠上の美感が増加する。
【0030】
尚、上述の実施の形態では、折箱型せん断パネル版の材料として鋼材を用いているが、他の材料たとえば銅、アルミニウム、及びこれらの合金でもよい。また、折箱型せん断パネル版にはめっき処理、塗装等の表面処理を施すこともできる。
【0031】
また、上述の実施の形態における折箱型せん断パネル版の方形平面部は方形を含む矩形平面部でもよい。また、
図11に示すごとく、方形平面部1には、開口部2-1a、2-2a、2-3a、2-4aと共に、円形等の開口部1aを設けることもできる。これにより、せん断パネルの軽量化を図れる。
【0032】
さらに、上述の実施の形態におけるせん断パネルの折箱型せん断パネル版は複数行×複数列で構成されるが、1行の複数列又は1列の複数行でもよい。後者の場合、すなわち、複数の縦の折箱型せん断パネル版の場合、折箱型せん断パネル版の厚さを大きくして面内せん断座屈耐力を大きくする。
【0033】
さらに、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲内のいかなる変更にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るせん断パネルは建築土木用の外、産業機械、家具等にも利用できる。
【符号の説明】
【0035】
P11、P12、…、P21、P22、…、P11(M)、P12(M)、…:折箱型せん断パネル版
P:せん断パネル
1:方形平面部
1a:開口部
2-1、2-2、2-3、2-4:フランジ
2-1a、2-2a、2-3a、2-4a:開口部
B:ボルト
N:ナット
W:ワッシャ