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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045896
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/14 20200101AFI20240327BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20240327BHJP
   G01S 7/4915 20200101ALI20240327BHJP
【FI】
G01S17/14
G01C3/06 120Q
G01S7/4915
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150976
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】三谷 勇介
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112DA25
2F112DA28
2F112EA05
2F112FA25
2F112FA41
5J084AA05
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA05
5J084BA36
5J084BA38
5J084CA03
5J084CA19
5J084EA11
(57)【要約】
【課題】霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下においても計測物体までの距離を正確に計測可能な構成を提供する。
【解決手段】受光部30が備える信号処理部32は、所定数のSPADのうち反射光に応答したSPADの個数(応答素子数N)の変化に応じて生成される応答波形が所定の閾値Nthを超えた後に当該所定の閾値Nth以下となる立下りタイミングTbを画素ごとに検出する。そして、投光部20の投光タイミングと受光部30における画素ごとに求めた受光タイミングとの時間差ΔTに基づいて計測対象領域内での距離計測を行う計測部40は、霧等の影響を受けている場合に、上記受光タイミングを、信号処理部32により検出された立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算したタイミングとなるように求める。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の計測対象領域に対して所定の投光パルスを投光する投光部と、
1画素を構成する所定数の受光素子が複数配列されてなり、前記投光パルスが前記計測対象領域内の物体で反射した反射光を受光する受光部と、
前記投光部の投光タイミングと前記受光部における画素ごとに求めた受光タイミングとの時間差に基づいて前記計測対象領域内での距離計測を行う計測部と、
を備える距離計測装置であって、
前記受光部は、前記所定数の受光素子のうち前記反射光に応答した受光素子の個数の変化に応じて生成される応答波形が所定の閾値を超えた後に前記所定の閾値以下となる立下りタイミングを画素ごとに検出する信号処理部を備え、
前記計測部は、前記受光タイミングを、前記信号処理部により検出された前記立下りタイミングから前記受光素子の不感時間を減算したタイミングとなるように求めることを特徴とする距離計測装置。
【請求項2】
前記受光素子は、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)であり、
前記受光部は、受光によるブレークダウン(降伏)現象に応じて所定の電圧値から低下した前記SPADへの印加電圧が当該受光中に下げ止まり、受光しなくなることで前記所定の電圧値まで回復するためのパッシブクエンチ回路を有し、
前記計測部は、前記受光タイミングを、前記信号処理部により検出された前記立下りタイミングから前記不感時間及び前記所定の投光パルスの投光パルス幅を減算したタイミングとなるように求めることを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項3】
前記計測部は、前記信号処理部により1画素について2以上の立下りタイミングが検出される場合に、最も遅くなる立下りタイミングに基づいて前記受光タイミングを求めることを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記応答波形が前記所定の閾値を超えた立上がりタイミングを前記立下りタイミングとともに画素ごとに検出し、
前記計測部は、前記立下りタイミングから前記受光素子の不感時間を減算したタイミングと前記立上がりタイミングとの時間差が所定の時間閾値以上となる場合に、前記受光タイミングを前記立下りタイミングから前記受光素子の不感時間を減算したタイミングとなるように求め、前記立下りタイミングから前記受光素子の不感時間を減算したタイミングと前記立上がりタイミングとの時間差が前記所定の時間閾値未満となる場合に、前記受光タイミングを前記立上がりタイミングとなるように求めることを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項5】
前記計測部は、前記応答波形の前記立下りタイミングの前後間での傾きが所定の傾き閾値以下となる画素について距離計測を行わないことを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項6】
前記受光素子は、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)であり、
前記受光部は、受光によるブレークダウン(降伏)現象に応じて所定の電圧値から低下した前記SPADへの印加電圧を当該受光中であっても所定時間後に前記所定の電圧値まで回復させるためのアクティブクエンチ回路を有し、
前記投光部は、光量が徐々に高くなるように前記投光パルスを投光することを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象から受光した反射光を利用して計測対象までの距離を計測する距離計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、計測対象領域内の物体から受光した反射光を利用してその物体までの距離を計測する装置として、その物体に照射した光の反射光を検出したタイミング、すなわち、物体までを往復する光の飛行時間(TOF:Time of Flight)を利用する光学式の距離計測装置が採用されている。
【0003】
このような光学式の距離計測装置に関する技術として、例えば、下記特許文献1に開示される光学的測距装置が知られている。この光学的測距装置では、所定数のSPAD(Single Photon Avalanche Diode)がアレイ状に配置されることで光検出器として構成されるSiPM(Silicon Photo Multipliers)をそれぞれ垂直方向にて並列に配置するようにしたTOF計測用光検出器及びノイズ計測用光検出器が採用されている。TOF計測用光検出器では、ハイ状態(High)のSPADの数が所定数以上の場合にレーザ発光時刻からの経過時間が計測されることでヒストグラム(応答波形)が生成され、このヒストグラムにおけるピーク値が所定の閾値以上である場合にピーク位置に対応する時間がヒストグラム回路からTOFとして出力される。その際、予め作成したノイズ平均-閾値変換テーブルを参照して、ノイズ計測用光検出器の検出回路が出力したノイズ平均値に対応する境界レベルがヒストグラム回路の上記所定の閾値として設定されることで、ノイズのレベルに応じて反射光の信号の誤検出率を所定値に維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-134224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、所定数のSPADによって受光部の1画素が構成され、その1画素において計測対象領域内の物体(計測物体)からの反射光に応答しているSPADの個数に応じて生成されるヒストグラム(応答波形)を利用してTOF計測する構成では、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下において正しく測距できない可能性がある。計測対象領域に対して所定の投光パルスを投光した直後に距離計測装置周辺の霧によって生じた反射光が受光されると、応答しているSPADの個数が投光直後に急増してヒストグラムが飽和してしまう。このような場合、ヒストグラムが所定の閾値を超えた立上がりタイミングを計測物体からの反射光が受光されたタイミングとしてその計測物体までの距離を計測する構成では、投光直後に急増したヒストグラムが上記所定の閾値を超えてしまうことで、計測物体が近距離に存在すると誤計測してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下においても計測物体までの距離を正確に計測可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、
所定の計測対象領域に対して所定の投光パルスを投光する投光部(20)と、
1画素を構成する所定数の受光素子が複数配列されてなり、前記投光パルスが前記計測対象領域内の物体で反射した反射光を受光する受光部(30)と、
前記投光部の投光タイミングと前記受光部における画素ごとに求めた受光タイミングとの時間差に基づいて前記計測対象領域内での距離計測を行う計測部(40)と、
を備える距離計測装置であって、
前記受光部は、前記所定数の受光素子のうち前記反射光に応答した受光素子の個数(N)の変化に応じて生成される応答波形が所定の閾値(Nth)を超えた後に前記所定の閾値以下となる立下りタイミング(Tb)を画素ごとに検出する信号処理部(32)を備え、
前記計測部は、前記受光タイミングを、前記信号処理部により検出された前記立下りタイミングから前記受光素子の不感時間(ΔTd)を減算したタイミングとなるように求めることを特徴とする距離計測装置。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、受光部が備える信号処理部は、所定数の受光素子のうち反射光に応答した受光素子の個数の変化に応じて生成される応答波形が所定の閾値を超えた後に当該所定の閾値以下となる立下りタイミングを画素ごとに検出する。そして、投光部の投光タイミングと受光部における画素ごとに求めた受光タイミングとの時間差に基づいて計測対象領域内での距離計測を行う計測部は、上記受光タイミングを、信号処理部により検出された立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算したタイミングとなるように求める。
【0009】
霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下において計測物体に対して投光パルスが投光された場合、計測物体よりも遠距離では反射光が発生しないので、応答波形は、霧等の存在によって投光直後に急増するように立上がった後に計測物体までの距離に応じて急減するように立下がって生成される。すなわち、応答波形の立上がりは霧等の影響を受けても、応答波形の立下がりは霧等の影響を受けない。そして、霧等が存在しない場合に計測物体での反射光の受光に応じて生成される応答波形では、所定の閾値を超えた立上がりタイミングとその後に所定の閾値以下となった立下りタイミングとの時間差が受光素子の不感時間に相当する。このため、立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算して立上がりタイミングを推定し、この推定した立上がりタイミングとなるように受光タイミングを求めることで、霧等の影響を受けない立下りタイミングを利用して距離計測を行うことができる。したがって、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下においても計測物体までの距離を正確に計測することができる。
【0010】
請求項2の発明では、受光素子は、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)であり、受光部は、受光によるブレークダウン(降伏)現象に応じて所定の電圧値から低下したSPADへの印加電圧が当該受光中に下げ止まり、受光しなくなることで上記所定の電圧値まで回復するためのパッシブクエンチ回路を有する。そして、計測部は、上記受光タイミングを、信号処理部により検出された立下りタイミングから不感時間及び所定の投光パルスの投光パルス幅を減算したタイミングとなるように求める。
【0011】
受光によるブレークダウン現象に応じて所定の電圧値から低下したSPADへの印加電圧が当該受光中に下げ止まり受光しなくなることで上記所定の電圧値まで回復するためのパッシブクエンチ回路を有する受光部では、投光パルスの反射光が受光されている間、印加電圧が回復しない。すなわち、投光パルスの投光パルス幅が長くなるほど、印加電圧が回復し始める回復開始タイミングが遅くなるため、立上がりタイミングと立下りタイミングとの時間差が長くなる。このため、立下りタイミングから受光素子の不感時間及び投光パルス幅を減算するようにして立上がりタイミングを推定することで、パッシブクエンチ回路を採用するために生じる投光パルス幅に起因する印加電圧の回復開始タイミングのずれを抑制することができる。したがって、パッシブクエンチ回路を採用する場合でも、印加電圧の回復開始タイミングのずれに起因する立上がりタイミング及び受光タイミングの推定精度の低下を抑制することができる。
【0012】
請求項3の発明では、計測部は、信号処理部により1画素について2以上の立下りタイミングが検出される場合に、最も遅くなる立下りタイミングに基づいて受光タイミングを求める。
【0013】
これにより、霧等の濃度が薄いために立下りタイミングが2以上検出されるような場合であっても、計測物体よりも遠距離では反射光が発生しないため、最も遅くなる立下りタイミングに基づいて受光タイミングを求めることで、霧等の濃淡に起因する誤計測を抑制することができる。
【0014】
請求項4の発明では、信号処理部は、応答波形が所定の閾値を超えた立上がりタイミング(検出した立上がりタイミング)を立下りタイミングとともに画素ごとに検出する。計測部は、立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算したタイミングと立上がりタイミングとの時間差が所定の時間閾値以上となる場合に、受光タイミングを立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算したタイミングとなるように求め、立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算したタイミングと立上がりタイミングとの時間差が所定の時間閾値未満となる場合に、受光タイミングを立上がりタイミングとなるように求める。
【0015】
霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下では、立下りタイミングから受光素子の不感時間を減算したタイミング(推定した立上がりタイミング)と検出した立上がりタイミングとの時間差が小さくなる。そして、霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下では、検出した立上がりタイミングとなるように求めた受光タイミングの方が、推定した立上がりタイミングとなるように求めた受光タイミングよりも、測距精度が高くなる。このため、上記時間差が所定の時間閾値以上となる場合には、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下であるとして、推定した立上がりタイミングとなるように受光タイミングを求め、上記時間差が所定の時間閾値未満となる場合には、霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下であるとして、検出した立上がりタイミングとなるように受光タイミングを求める。これにより、霧等の有無に応じて受光タイミングの求め方を変えることで、計測物体までの距離計測に関する測距精度を高めることができる。
【0016】
請求項5の発明では、計測部は、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きが所定の傾き閾値以下となる画素について距離計測を行わない。
【0017】
霧等が存在する環境下では、投光パルスの投光先に計測物体が存在する場合、応答波形は計測物体までの距離に応じて急減するように立ち下がって生成され、投光パルスの投光先に計測物体が存在しない場合、応答波形は徐々に立下がるように生成される。このため、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きが上記所定の傾き閾値以下である場合には、投光パルスの投光先に計測物体が存在しないために応答波形が徐々に立下がるように生成されているとして、その画素について距離計測を行わないことで、霧等に起因する誤計測を抑制することができる。
【0018】
請求項6の発明では、受光素子は、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)であり、受光部は、受光によるブレークダウン(降伏)現象に応じて所定の電圧値から低下したSPADへの印加電圧を当該受光中であっても所定時間後に上記所定の電圧値まで回復させるためのアクティブクエンチ回路を有する。そして、投光部は、光量が徐々に高くなるように投光パルスを投光する。
【0019】
受光中でも印加電圧を回復させるアクティブクエンチ回路では、パッシブクエンチ回路と比較して各SPADが短時間で反射光に応答可能な状態に復帰するため、濃霧発生時に近距離の霧等からの強い反射光を受光していると、ほぼ全てのSPADにて同時に応答波形が所定の閾値を超える応答を繰り返す発振現象が生じるおそれがある。このため、光量が徐々に高くなるように投光パルスを投光することで、矩形状の投光パルスを投光する場合と比較して、各SPADにて応答波形が所定の閾値を超えるタイミングを分散させることができるので、上述した発振現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る距離計測装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】TOF計測方式による距離計測を説明する説明図である。
図3】アクティブクエンチ回路を利用したSPADへの印加電圧の変化を説明する説明図である。
図4】応答素子数の変化に応じて生成される応答波形を説明する説明図であり、図4(A)は、計測物体までに霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下での計測結果を示し、図4(B)は、計測物体までに霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下での計測結果を示す。
図5】第1実施形態において計測部によりなされる計測処理等の流れを例示するフローチャートである。
図6】第1実施形態の変形例として、複数の立下りタイミングが生じる場合を説明する説明図であり、図6(A)は、図4(A)よりも霧等の濃度が薄い場合を示し、図6(B)は、図6(A)よりも霧等の濃度が薄い場合を示す。
図7】第2実施形態において受光部にて採用されるパッシブクエンチ回路を利用したSPADへの印加電圧の変化を説明する説明図である。
図8】霧等が存在する環境下にて投光パルスの投光先に計測物体が存在しない場合に生成される応答波形を説明する説明図である。
図9】第3実施形態において計測部によりなされる計測処理等の流れを例示するフローチャートである。
図10図10(A)は、第4実施形態において光量が徐々に高くなる投光パルスを投光させるために各投光素子に供給される供給電流を直線状に増加させる例を説明する説明図であり、図10(B)は、第4実施形態の変形例において光量が徐々に高くなる投光パルスを投光させるために各投光素子に供給される供給電流を曲線状に増加させる例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の距離計測装置を具現化した第1実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る距離計測装置10は、所定の計測対象領域内での物体までの距離をTOF計測方式にて計測するLiDARなどの計測装置である。この距離計測装置10は、図1に示すように、全体制御を司る制御部11と、所定の計測対象領域に対して所定の投光パルスを投光する投光部20と、計測対象領域内の物体で反射した反射光を受光する受光部30と、受光部30により受光された受光パルスに基づいて計測対象領域内での物体までの距離計測を行う計測部40と、を備えるように構成されている。
【0022】
TOF計測方式を採用する距離計測装置10では、図2に示すように、投光部20により投光パルスを投光した投光タイミングとその投光パルスに応じて計測物体Rにて反射した反射光を受光パルスとして受光部30にて受光した受光タイミングとの時間差ΔTに応じて、受光部30での画素単位で距離計測が行われる。
【0023】
制御部11は、マイコンを主体として構成されるものであり、CPU、システムバス、入出力インタフェース等を有し、ROM,RAM、不揮発性メモリなどからなる記憶部とともに情報処理装置を構成している。記憶部には、投光部20及び計測部40の制御に関するプログラムや計測部40による計測結果を利用した制御処理を実行するためのプログラム等が制御部11により実行可能に予め格納されている。
【0024】
投光部20は、VCSELアレイ21と、制御部11からの投光指示に応じてVCSELアレイ21の各投光素子を制御する光源制御部22とを備えている。VCSELアレイ21は、投光素子である複数の垂直共振器型面発光レーザがアレイ状に配置されてなるもので、光源制御部22により制御されて投光素子ごとに所定のタイミングにて矩形状の投光パルスを投光可能に構成されている。
【0025】
受光部30は、SPADアレイ31と、SPADアレイ31からの出力信号を処理して計測部40に出力する信号処理部32とを備えている。SPADアレイ31は、応答特性が高く画素サイズを小さくできる受光素子として採用される複数のSPADが、VCSELアレイ21の各投光素子と同様にアレイ状に配置されて、所定数(例えば、18個)のSPADにて1画素が構成される。このように、1画素を構成する所定数のSPADが複数配列されてなるSPADアレイ31は、投光部20から投光された投光パルスが計測対象領域内の物体で反射した反射光を受光パルスとして各SPADにてそれぞれ受光するように配置されている。
【0026】
また、受光部30は、各SPADをそれぞれ短時間で受光パルス(反射光)に応答可能な状態に復帰させるためのアクティブクエンチ回路を有している。アクティブクエンチ回路は、図3に示すように、各SPADに逆バイアスの電圧Vaを印加し、受光によるブレークダウン(降伏)現象に応じて電圧Vaから低下したSPADへの印加電圧Vを、所定時間後に当該受光中であっても電圧Vaまで強制的に回復させるように機能する。このアクティブクエンチ回路と後述するパッシブクエンチ回路との主な構成の違いとしては、受動素子であるクエンチ抵抗を用いず、能動素子であるトランジスタ等を用いてブレークダウン(現象)発生後から一定遅延時間経過まではSPADへの印加電圧Vを回復させず、遅延時間経過直後に強制的に電圧Vaまで高速に回復させるように機能する点があげられる(なお、アクティブクエンチ回路の性能向上のために、クエンチ抵抗も合わせて実装したハイブリッドクエンチ回路等も採用することができる)。すなわち、アクティブクエンチ回路は、投光パルスの投光パルス幅(投光パルスが投光されている時間)にかかわらず、一定となるSPADの不感時間(Dead Time期間)ΔTdでSPADを応答可能な状態に復帰させる。このように機能するアクティブクエンチ回路としては、例えば、特開2020-134224号公報にて開示されるアクティブ回路を採用することができる。なお、逆バイアスの電圧Vaは、「所定の電圧値」の一例に相当し得る。
【0027】
信号処理部32は、各SPADが受光パルスの受光に応じてそれぞれ出力する信号を処理して計測部40に出力するように構成されている。具体的には、信号処理部32は、サンプリング時間ごとに、1画素を構成する所定数のSPADのうち受光パルスに応答したSPADの個数(以下、応答素子数Nともいう)の変化に応じた応答波形(ヒストグラム)を生成して、この応答波形からTOF計測に用いる受光タイミングに関する情報(以下、受光タイミング情報ともいう)を画素ごとに求めて計測部40に出力する受光タイミング情報出力処理を行う。
【0028】
本実施形態における受光タイミング情報出力処理では、まず、投光パルスの投光後にSPADの印加電圧Vが所定の電圧閾値Vth(図3参照)以下となるタイミングをそのSPADの応答タイミングとして、応答素子数Nの変化に応じた応答波形が画素ごとに生成される。計測物体Rまでに霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下では、例えば、図4(A)に例示するような応答波形が生成される。そして、応答波形が所定の閾値(判定閾値)Nthを超えた立上がりタイミングTa1とこの後に所定の閾値Nth以下となる立下りタイミングTbが画素ごとに検出される。さらに、このように検出した立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算するようにして立上がりタイミングTa2が推定され、このように推定した立上がりタイミングTa2と上述のように検出した立上がりタイミングTa1及び立下りタイミングTbが計測部40に出力される。
【0029】
このように立下りタイミングTbから立上がりタイミングTa2を推定する理由について、以下に説明する。
霧や花粉、PM2.5(微小粒子状物質)などの空間浮遊微粒子が存在する環境下では、計測対象領域に対して所定の投光パルスを投光した直後に距離計測装置10の周辺の霧によって生じた反射光(微粒子による連続散乱も含む)が受光されると、図4(B)に例示するように、応答しているSPADの個数が投光直後に急増して最大値Nmaxに到達したために応答波形が飽和してしまう。なお、図4(B)では、霧等が存在しない環境下で同じ計測物体Rから反射光が受光された際に生成される応答波形(図4(A)に相当する応答波形)を、破線にて図示している。
【0030】
このような場合、応答波形が所定の閾値Nthを超えた立上がりタイミングTa1を計測物体Rからの反射光が受光された受光タイミングとしてその計測物体Rまでの距離を計測する構成では、投光直後に急増した応答波形が上記所定の閾値Nthを超えてしまうことで、計測物体Rが近距離に存在すると誤計測してしまう。
【0031】
その一方で、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下において計測物体Rに対して投光パルスが投光された場合、計測物体Rよりも遠距離では反射光が発生しないので、応答波形は、図4(B)に例示するように、霧等の存在によって投光直後に急増するように立上がって最大値Nmaxに到達した後に計測物体Rまでの距離に応じて急減するように立下がって生成される。すなわち、応答波形の立上がりタイミングTa1は霧等の影響を受けても、応答波形の立下がりタイミングTbは霧等の影響を受けない。
【0032】
そして、霧等が存在しない場合に計測物体Rでの反射光の受光に応じて生成される応答波形では、所定の閾値Nthを超えた立上がりタイミングTa1とその後に所定の閾値Nth以下となった立下りタイミングTbとの時間差がSPADの不感時間ΔTdに相当する。厳密には、1画素に相当する対象物体上の領域は小さく、1画素を構成する各SPAD素子は基本的に同じタイミングで反射光を受光する。そして同じタイミングで応答した各SPAD素子は不感期間ΔTdの期間応答し続ける。今回の受光波形は、1画素を構成する各SPAD素子の出力値(2値信号(0,1))の合計値をもって波形生成しているため、信号波形の半値幅(Tb-Ta1)=不感時間ΔTdが導かれる。なお、応答波形の所定の閾値Nthによってはこの関係式が成り立たない場合もあるが、その影響は大きくない。なお、Nthのレベルによって上記関係式を補正することも可能であり、例えば、信号光の半値よりもNthのレベルが低ければ、Tb-Ta1>ΔTdとなるし、Nthのレベルが高ければ、Tb-Ta1<ΔTdとなるので、Nthのレベルに応じた所定の係数を乗じること距離精度を向上させることができる。なお、本実施形態では、SPADの不感時間ΔTdとして、各SPADのそれぞれの不感時間の中央値が採用される。
【0033】
このため、霧等が存在する環境下では、立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算して立上がりタイミングTa2を推定し(図4(B)参照)、この推定した立上がりタイミングTa2となるように受光タイミングを求めることで、霧等の影響を受けない立下りタイミングTbを利用して距離計測を行うことができる。
【0034】
計測部40は、受光部30の信号処理部32から上述のように画素ごとに求めた受光タイミング情報(検出した立上がりタイミングTa1及び立下りタイミングTbと推定した立上がりタイミングTa2)を受信するとともに、制御部11から投光部20に対して指示した投光指示のタイミングに関する情報(以下、投光タイミング情報ともいう)を受信することで、所定の計測対象領域内での物体までの距離を計測するための計測処理を行う。
【0035】
以下、本実施形態において、計測部40にてなされる計測処理等について、図5に示すフローチャートを参照して詳述する。
所定の操作等に応じて計測部40にて計測処理が開始されると、投光部20のVCSELアレイ21の各投光素子が発光可能な状態になるとともに受光部30のSPADアレイ31の各SPADが受光可能な状態になる。そして、制御部11による発光指示に応じて、投光部20から投光パルスが投光(発光)される(図5のS101)。
【0036】
次に、ステップS103に示す受光タイミング情報取得がなされる。この処理では、受光部30の信号処理部32にて上述のようになされた受光タイミング情報出力処理によって、画素ごとに求めた受光タイミング情報(検出した立上がりタイミングTa1及び立下りタイミングTbと推定した立上がりタイミングTa2)が信号処理部32から取得される。
【0037】
続いて、画素ごとに計測物体からの反射光を受光パルスとして受光しているか判定して、受光している画素について計測物体までの距離が算出される。具体的には、まず1番目の画素を計測対象画素として、ステップS105に示す判定処理にて、その計測対象画素にて受光パルスが受光されている否かについて判定される。ここで、その計測対象画素について生成された応答波形が上述した所定の閾値Nthを超えていない場合には、計測対象画素では受光パルスが受光されていないとして(S105でNo)、ステップS107に示す計測対象画素変更処理がなされる。この処理では、計測対象画素が次の画素に変更されて、この変更された次の計測対象画素について、ステップS105の判定処理がなされる。
【0038】
そして、変更された計測対象画素にて生成された応答波形が上述した所定の閾値Nthを超えている場合には、その計測対象画素にて受光パルスが受光されていると判定される(S105でYes)。この場合には、ステップS109の判定処理にて、検出された立上がりタイミングTa1が霧等の影響を受けているか否かについて判定される。
【0039】
ここで、応答素子数Nが投光直後に急増していないため、検出された立上がりタイミングTa1と推定された立上がりタイミングTa2との時間差が所定の時間閾値未満である場合には、検出された立上がりタイミングTa1が霧等の影響を受けていないと判定される(S109でNo:霧判定フラグOFF)。
【0040】
このように霧等の影響を受けていないと判定される場合には、ステップS111に示す距離算出処理がなされる。この処理では、検出された立上がりタイミングTa1を受光タイミングとして、この立上がりタイミングTa1と制御部11から取得した投光タイミング(投光タイミング情報)との時間差ΔTに応じて、計測対象画素での計測物体までの距離が算出される。
【0041】
一方、上述したように、霧等が存在する環境下では、応答素子数Nが投光直後に急増することから、立上がりタイミングTa1と推定された立上がりタイミングTa2との差が上記所定の時間閾値以上となる場合には、検出された立上がりタイミングTa1が霧等の影響を受けていると判定される(S109でYes:霧判定フラグON)。
【0042】
このように霧等の影響を受けていると判定される場合には、ステップS113に示す距離算出処理がなされる。この処理では、推定された立上がりタイミングTa2(立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算したタイミング)を受光タイミングとして、この立上がりタイミングTa2と制御部11から取得した投光タイミング(投光タイミング情報)との時間差ΔTに応じて、計測対象画素での計測物体までの距離が算出される。
【0043】
上述のように計測対象画素での距離が算出された後、全ての画素について受光に関する判定処理がなされていない場合には(S115でNo)、上記ステップS107以降の処理がなされる。そして、受光パルスが受光された全ての画素についてそれぞれの計測物体までの距離が算出されると(S115でYes)、ステップS117に示す計測結果出力処理がなされ、上位機器に対して出力されるか、制御部11の記憶部に記憶されることで、1サンプリング分(1投光分)での本計測処理が終了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る距離計測装置10では、受光部30が備える信号処理部32は、所定数のSPADのうち反射光に応答したSPADの個数(応答素子数N)の変化に応じて生成される応答波形が所定の閾値Nthを超えた後に当該所定の閾値Nth以下となる立下りタイミングTbを画素ごとに検出する。そして、投光部20の投光タイミングと受光部30における画素ごとに求めた受光タイミングとの時間差ΔTに基づいて計測対象領域内での距離計測を行う計測部40は、霧等の影響を受けている場合に、上記受光タイミングを、信号処理部32により検出された立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算したタイミングとなるように求める。
【0045】
このように、霧等の影響を受けている場合には、立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算して立上がりタイミングTa2を推定し、この推定した立上がりタイミングTa2となるように受光タイミングを求めることで、霧等の影響を受けない立下りタイミングTbを利用して距離計測を行うことができる。したがって、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下においても計測物体までの距離を正確に計測することができる。
【0046】
特に、信号処理部32は、応答波形が所定の閾値Nthを超えた立上がりタイミング(検出した立上がりタイミングTa1)を立下りタイミングTbとともに画素ごとに検出する。計測部40にてなされる計測処理等では、推定した立上がりタイミングTa2(立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTdを減算したタイミング)と検出した立上がりタイミングTa1との時間差が所定の時間閾値以上となる場合に(S109でYes)、受光タイミングを推定した立上がりタイミングTa2となるように求め、推定した立上がりタイミングTa2と検出した立上がりタイミングTa1との時間差が所定の時間閾値未満となる場合に(S109でNo)、受光タイミングを検出した立上がりタイミングTa1となるように求める。
【0047】
霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下では、推定した立上がりタイミングTa2と検出した立上がりタイミングTa1との時間差が小さくなる。そして、霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下では、検出した立上がりタイミングTa1となるように求めた受光タイミングの方が、推定した立上がりタイミングTa2となるように求めた受光タイミングよりも、測距精度が高くなる。投光パルス及び受光パルスともに、立上がりの方が立下りに対して急峻な特性を有するため、立上がりタイミングを用いた方が測距精度を高めることができるからである。
【0048】
このため、上記時間差が所定の時間閾値以上となる場合には、霧等の空間浮遊微粒子が存在する環境下であるとして、推定した立上がりタイミングTa2となるように受光タイミングを求め、上記時間差が所定の時間閾値未満となる場合には、霧等の空間浮遊微粒子が存在しない環境下であるとして、検出した立上がりタイミングTa1となるように受光タイミングを求める。これにより、霧等の有無に応じて受光タイミングの求め方を変えることで、計測物体までの距離計測に関する測距精度を高めることができる。
【0049】
なお、本実施形態の変形例として、霧等が存在する環境下にて1画素について2以上の立下りタイミングTbが検出される場合には、最も遅くなる立下りタイミングTbに基づいて受光タイミングを求めてもよい。例えば、図4(B)での環境に対して霧等の濃度が薄い場合、図6(A)に例示するように、計測物体Rの手前で応答素子数Nが所定の閾値Nth以下となるために、所定の閾値Nth以下となるタイミングが2以上生じる場合がある。また、図6(A)よりもさらに霧等の濃度が薄い場合でも、図6(B)に例示するように、所定の閾値Nth以下となるタイミングが2以上生じる場合がある。
【0050】
このように、霧等の濃度が薄いために立下りタイミングTbが2以上検出されるような場合であっても、計測物体Rよりも遠距離では反射光が発生しないため、最も遅くなる立下りタイミングTbに基づいて受光タイミングを求めることで、霧等の濃淡に起因する誤計測を抑制することができる。
【0051】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る距離計測装置について、図面を参照して説明する。
本第2実施形態では、受光部にて、アクティブクエンチ回路に代えてパッシブクエンチ回路が採用される点が、上記第1実施形態と主に異なる。したがって、第1実施形態と実質的に同一の構成部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
本実施形態に係る距離計測装置10では、受光部30において、各SPADを応答可能な状態に復帰させるための回路として、上述したアクティブクエンチ回路に代えて、パッシブクエンチ回路が採用されている。パッシブクエンチ回路は、アクティブクエンチ回路と比較して簡素な回路であり、各SPADに逆バイアスの電圧Vaを印加し、受光によるブレークダウン現象に応じて電圧Vaから低下したSPADへの印加電圧Vを、「受動素子であるクエンチ抵抗を用いたクエンチング機能により」電圧Vaまで徐々に回復させるように機能する。このため、各SPADは、受光によるブレークダウン(降伏)現象発生直後に徐々にSPADへの印加電圧Vが回復するが、回復中であっても特に受光している光強度が強い場合は、連続的にフレークダウン(降伏)現象を発生する確率が高い。つまり、投光パルスの投光パルス幅ΔTv(投光パルスが投光されている時間)の期間中はSPADへの印加電圧Vが回復しきらず、その後、投光パルスが立ち下がる(投光パルスを受光しなくなる)ことで印加電圧が回復し始め、印加電圧の回復が完全に完了する。
【0053】
すなわち、図7に示すように、パッシブクエンチ回路は、受光パルスが受光されている間では印加電圧が回復せず、受光パルスの受光時間(投光パルスが投光されている時間:投光パルスの投光パルス幅ΔTv)が経過した後に、一定となるSPADの不感時間ΔTdでSPADを応答可能な状態に復帰させるように機能する。
【0054】
そうすると、投光部20から投光される投光パルスの投光パルス幅ΔTvが長くなるほど、印加電圧が回復し始める回復開始タイミングが遅くなるため、推定すべき立上がりタイミングTa2と立下りタイミングTbとの時間差が長くなる。
【0055】
そこで、本実施形態では、立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTd及び投光パルス幅ΔTvを減算するようにして立上がりタイミングTa2を推定することで、パッシブクエンチ回路を採用するために生じる投光パルス幅ΔTvに起因する印加電圧の回復開始タイミングのずれを抑制する。
【0056】
このため、本実施形態において計測部40にてなされる計測処理等では、霧等の影響を受けている場合に、上述のように投光パルス幅ΔTvを考慮して推定した立上がりタイミングTa2を利用して距離計測を行う。具体的には、霧等の影響を受けていると判定されることで(S109でYes)、ステップS113の距離算出処理にて、立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTd及び投光パルス幅ΔTvを減算したタイミングとして立上がりタイミングTa2を推定する。そして、このように推定した立上がりタイミングTa2を受光タイミングとして、この立上がりタイミングTa2と制御部11から取得した投光タイミングとの時間差ΔTに応じて、計測対象画素での計測物体までの距離を算出する。
【0057】
このように、本実施形態に係る距離計測装置10では、受光部30は、受光によるブレークダウン現象に応じて逆バイアスの電圧Vaから低下したSPADへの印加電圧が当該受光中に下げ止まり受光しなくなることで上記電圧Vaまで回復するためのパッシブクエンチ回路を有する。そして、計測部40は、上記受光タイミングを、信号処理部32により検出された立下りタイミングTbからSPADの不感時間ΔTd及び投光パルス幅ΔTvを減算したタイミングとなるように求める。
【0058】
これにより、パッシブクエンチ回路を採用するために生じる投光パルス幅ΔTvに起因する印加電圧の回復開始タイミングのずれが抑制されるので、パッシブクエンチ回路を採用する場合でも、印加電圧の回復開始タイミングのずれに起因する立上がりタイミング及び受光タイミングの推定精度の低下を抑制することができる。
【0059】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る距離計測装置について、図面を参照して説明する。
本第3実施形態では、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きが所定の傾き閾値以下となる画素について距離計測を行わない点が、上記第1実施形態と主に異なる。したがって、第1実施形態と実質的に同一の構成部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
霧等が存在する環境下では、投光パルスの投光先に計測物体Rが存在する場合、上述した図4(B)に例示するように、応答波形は計測物体Rまでの距離に応じて急減するように立ち下がって生成される。特に、計測物体Rからの反射光が受光されてから以降の時間においてSPADが新規に応答しないため、最大値Nmaxから立下りが完了するまでにかかる時間は、SPADの不感時間ΔTdとなる。つまり、最大値Nmaxから不感時間ΔTdの経過後までに立ち下がっていれば、投光パルスの投光先に計測物体Rが存在していると判断することができる。
【0061】
その一方で、投光パルスの投光先に計測物体が存在しない場合、図8に例示するように、応答波形はある程度最大値Nmaxを維持した後に徐々に立下がるように生成される。投光された投光パルスのパワーが距離の逆二乗の法則で減衰するだけでなく、霧通過によっても減衰するからである。
【0062】
すなわち、霧等が存在する環境下では、投光パルスの投光先に計測物体が存在しない場合に所定の閾値Nth以下となるタイミングの前後間での応答波形の傾きは、計測物体が存在する場合に所定の閾値Nth以下となるタイミングの前後間での応答波形の傾きよりも小さくなる(緩やかになる)。
【0063】
このため、本実施形態において計測部40にてなされる計測処理等では、図9に例示するフローチャートのように、霧等の影響を受けていると判定される場合に(図9のS109でYes)、ステップS121の判定処理にて、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きが所定の傾き閾値以下であるか否かについて判定される。具体的には、例えば、最大値Nmaxから立下りが完了するまでの時間に対応する応答波形の傾きθ(図8参照)が、SPADの不感時間ΔTdに対応する所定の傾き閾値以下であるか否かについて判定される。
【0064】
そして、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きが所定の傾き閾値以下である場合には(S121でYes)、投光パルスの投光先に計測物体が存在しないために応答波形が徐々に立下がるように生成されているとして、その画素について距離計測を行わないことで、霧等に起因する誤計測を抑制することができる。
【0065】
なお、応答波形の立下りタイミングの前後間での傾きは、最大値Nmaxから立下りが完了するまでの時間に対応する応答波形の傾きに応じて求められることに限らず、例えば、立下りタイミングTbから所定時間前の応答素子数Nと所定時間後の応答素子数Nと差に対応する応答波形の傾きに応じて求められてもよい。
【0066】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る距離計測装置について、図面を参照して説明する。
本第4実施形態では、光量が徐々に高くなるように投光パルスが投光される点が、上記第1実施形態と主に異なる。したがって、第1実施形態と実質的に同一の構成部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
受光中でも印加電圧を回復させるアクティブクエンチ回路では、パッシブクエンチ回路と比較して各SPADが短時間で反射光に応答可能な状態に復帰するため、濃霧発生時に近距離の霧等からの強い反射光を受光していると、ほぼ全てのSPADにて同時に応答波形が所定の閾値Nthを超える応答を繰り返す発振現象が生じるおそれがある。
【0068】
このため、本実施形態では、投光部20は、光量が徐々に高くなるような投光パルスを投光するように制御される。具体的には、例えば、図10(A)に例示するように、投光パルス発光時に各投光素子に供給する供給電流Iを緩やかな直線状に増加させて、投光開始から規定時間後に、その供給電流Iを急峻に減少させる。これにより、光量が徐々に高くなった後に光量が急減する投光パルスを投光部20から投光することができる。
【0069】
このように、光量が徐々に高くなるような投光パルスを投光するように投光部20が制御されることで、矩形状の投光パルスを投光する場合と比較して、各SPADにて応答波形が所定の閾値Nthを超えるタイミングを分散させることができるので、上述した発振現象を抑制することができる。
【0070】
なお、投光部20は、供給電流Iを緩やかな直線状に増加させるようにして光量が徐々に高くなる投光パルスを投光するように制御されることに限らず、例えば、図10(B)に例示するように、供給電流Iを緩やかな曲線状に増加させるようにして光量が徐々に高くなる投光パルスを投光するように制御されてもよい。
【0071】
なお、本発明は上記各実施形態等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)本発明は、近距離レンジ向け(例えば、計測範囲が20m程度)のSPAD-LiDARとして1サンプリング毎に測定方向が所定角度で回転するように構成される距離計測装置10に採用されることに限らず、TOF計測方式を採用する他の距離計測装置に採用されてもよい。
【0072】
(2)本発明は、所定の計測対象領域内での物体までの距離を計測する装置に適用することができるが、これに限らず、例えば、移動体に設置されることで相対的に移動することになる物体までの距離を計測する装置に適用されてもよい。
【0073】
10…距離計測装置
11…制御部
20…投光部
30…受光部
32…信号処理部
40…計測部
N…応答素子数
Nth…閾値
Ta1…検出された立上がりタイミング
Ta2…推定された立上がりタイミング
Tb…立下りタイミング
ΔTd…不感時間
ΔTv…投光パルス幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10