(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000459
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】レンズユニット
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20231225BHJP
【FI】
G02B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099258
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 知昭
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AA02
2H044AA17
(57)【要約】
【課題】光学フィルタをレンズホルダに接着剤で固定するときの弊害を軽減する。
【解決手段】レンズと、平板形状のフィルタである光学フィルタと、レンズ及び光学フィルタを保持するレンズホルダと、を備え、光学フィルタは、レンズホルダのその光軸方向の一方の端面に配置され、端面は、レンズのレンズ面が露出する開口部と、光学フィルタを支持する平面部である載置面と、を有し、載置面には、光学フィルタの側面に付着するように、該側面の側方に接着剤が充填され、端面の開口部と載置面との間には、光学フィルタの板面と端面との間に隙間を形成する段差部が設けられるレンズユニットによりこれを解決する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズと、
平板形状のフィルタである光学フィルタと、
前記レンズ及び前記光学フィルタを保持するレンズホルダと、を備え、
前記光学フィルタは、前記レンズホルダのその光軸方向の一方の端面に配置され、
前記端面は、
前記レンズのレンズ面が露出する開口部と、
前記光学フィルタを支持する平面部である載置面と、を有し、
前記載置面には、前記光学フィルタの側面に付着するように、該側面の側方に接着剤が充填され、
前記端面の前記開口部と前記載置面との間には、前記光学フィルタの板面と前記端面との間に隙間を形成する段差部が設けられる、
レンズユニット。
【請求項2】
前記端面における前記開口部の周囲には、該開口部に向かって下り勾配となる環状のスロープ面が設けられ、
前記段差部は、前記スロープ面と前記載置面との間に設けられる、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記端面は、前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ爪部を有し、
前記爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられ、その縁部に掛けられる、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅のいずれかの角を構成する2側面に付着している、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着している、
請求項4に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記載置面は、前記端面の外縁部よりも面位置が段状に低くなるように形成され、
前記載置面は、前記光学フィルタが届き得ない範囲である拡張部を有し、
前記拡張部と前記外縁部との間の段差面、及び前記光学フィルタの側面は、前記接着剤が保持される凹状の空間である接着剤溜まりを形成する、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記端面には、前記開口部を外気に連通させる溝である空気溝が形成され、
前記空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びている、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記レンズユニットは射出成形部品であり、
前記空気溝の、前記光学フィルタよりも外側の部分には、金型のピン跡が形成されている、
請求項7に記載のレンズユニット。
【請求項9】
前記ピン跡が形成された部位は、前記空気溝の他の部位よりも肉厚に形成されている、
請求項8に記載のレンズユニット。
【請求項10】
前記段差部は、前記開口部側に向かうにつれてその面位置が階段状に低くなる複数段の段差を有する、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項11】
前記接着剤は紫外線硬化性および湿気硬化性を有する、
請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項12】
光軸方向に配列された複数の前記レンズを備え、
前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、
前記載置面は、前記光学フィルタの四隅に相当する位置に設けられ、
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着しており、
前記端面は、前記各載置部に載置された前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ複数の爪部を有し、
前記各爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられてその縁部に掛けられ、
前記端面には、前記開口部を外気に連通させる溝である複数の空気溝が形成されており、
前記各空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びており、
前記空気溝は、隣接する前記載置面の各組の間にそれぞれ設けられている、
請求項1に記載のレンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズユニットに関し、特に、レンズホルダに対する光学フィルタの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、樹脂製の爪部を加熱・加圧して塑性変形させることで光学フィルタを固定するレンズユニットが開示されている。下記特許文献2には、これと同様の爪部と接着剤とでガラスレンズを固定するレンズユニットが開示されている。下記特許文献3には、光学フィルタが接着剤で固定され、鏡筒の内部を外気に連通させる溝を有するレンズユニットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-54735号公報
【特許文献2】特開2019-179076号公報
【特許文献3】特開2015-31926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学フィルタが設置されるレンズホルダ等の収容スペースには、光学フィルタを設置するためのクリアランスが当然に必要となる。上記各特許文献の爪部のみで光学フィルタを固定する場合、光学フィルタは完全には固定されず、レンズユニットの振動等によりクリアランスの範囲内でがたつくことがある。一方、光学フィルタを接着剤で固定する場合、接着剤がレンズに付着するとレンズユニットの光学性能を損なうおそれがある。
【0005】
上記問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、レンズユニットの光学フィルタを接着剤により安全に固定可能なレンズユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のレンズユニットは、レンズと、平板形状のフィルタである光学フィルタと、前記レンズ及び前記光学フィルタを保持するレンズホルダと、を備え、前記光学フィルタは、前記レンズホルダのその光軸方向の一方の端面に配置され、前記端面は、前記レンズのレンズ面が露出する開口部と、前記光学フィルタを支持する平面部である載置面と、を有し、前記載置面には、前記光学フィルタの側面に付着するように、該側面の側方に接着剤が充填され、前記端面の前記開口部と前記載置面との間には、前記光学フィルタの板面と前記端面との間に隙間を形成する段差部が設けられることを要旨とする。
【0007】
光学フィルタの側方に接着剤が充填され、これが光学フィルタの側面に付着していることにより、固化した接着剤により光学フィルタのその側方への移動が阻止される。つまり、光学フィルタの設置スペースに設けられたクリアランスをその設置後に除去することができる。また、光学フィルタの板面と載置面との間には毛細管力により接着剤が浸潤するが、この毛細管力は段差部により遮断され、しみ出した接着剤も段差部により保持される。これにより接着剤がレンズに付着することが防止され、光学フィルタを安全に接着剤で固定することが可能となる。
【0008】
このとき、前記端面における前記開口部の周囲には、該開口部に向かって下り勾配となる環状のスロープ面が設けられ、前記段差部は、前記スロープ面と前記載置面との間に設けられていてもよい。光学フィルタの板面と載置面との間の毛細管力を遮断し、しみ出した接着剤を保持するための専用の段差部を備えることにより、レンズをより確実に接着剤から保護することができる。
【0009】
また、本発明のレンズユニットは、前記端面が、前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ爪部を有し、前記爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられ、その縁部に掛けられることが好ましい。接着剤と爪部の両方で光学フィルタを固定することにより、光学フィルタの脱落をより確実に防ぐことができる。
【0010】
また、前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅のいずれかの角を構成する2側面に付着していることが好ましい。これにより、光学フィルタの載置面上でのXY方向(載置面に平行な互いに直交する2方向)への移動が制限され、光学フィルタのがたつきを効果的に抑えることができる。
【0011】
このとき、前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着していることが好ましい。光学フィルタのがたつきをより確実に抑えるためである。
【0012】
また、前記載置面は、前記端面の外縁部よりも面位置が段状に低くなるように形成され、前記載置面は、前記光学フィルタが届き得ない範囲である拡張部を有し、前記拡張部と前記外縁部との間の段差面、及び前記光学フィルタの側面は、前記接着剤が保持される凹状の空間である接着剤溜まりを形成することが好ましい。これにより接着剤の充填作業が容易になり、作業品質が安定し、また、光学フィルタの側方への移動を制限するのに十分な量の接着剤を充填することが可能となる。
【0013】
また、本発明のレンズユニットは、前記端面に、前記開口部を外気に連通させる溝である空気溝が形成され、前記空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びていることが好ましい。光学フィルタでレンズホルダが密封されている場合、気密検査の方法が煩雑になるうえ、接着剤のアウトガスがレンズの光学性能を低下させるおそれがある。空気溝を備えることによりこのような不都合を解消させることができる。
【0014】
このとき、前記レンズユニットは射出成形部品であり、前記空気溝の、前記光学フィルタよりも外側の部分には、金型のピン跡が形成されていることが好ましい。単に空気の通り道にすぎない空気溝にエジェクタピンを当てることにより、取り出し時に仮にバリが生じたとしてもその影響を抑えることができる。またこのとき、前記ピン跡が形成された部位は、前記空気溝の他の部位よりも肉厚に形成されていることが好ましい。レンズホルダの部品強度を損ねないためである。
【0015】
また、前記段差部は、前記開口部側に向かうにつれてその面位置が階段状に低くなる複数段の段差を有することが好ましい。接着剤がレンズに付着することをより確実に防止するためである。
【0016】
また、前記接着剤は紫外線硬化性および湿気硬化性を有することが好ましい。接着剤が紫外線硬化性を有することで、接着剤の固化に要する時間を短縮することができる。一方光学フィルタと載置面との間に浸潤した接着剤には、光学フィルタにより紫外線が十分に届かないおそれもある。そこで接着剤に湿気硬化性ももたせることで、紫外線で固化しなかった部分については時間の経過により固化させることができる。
【0017】
また、本発明のレンズユニットは、光軸方向に配列された複数の前記レンズを備え、前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、前記載置面は、前記光学フィルタの四隅に相当する位置に設けられ、前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着しており、前記端面は、前記各載置部に載置された前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ複数の爪部を有し、前記各爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられてその縁部に掛けられ、前記端面には、前記開口部を外気に連通させる溝である複数の空気溝が形成されており、前記各空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びており、前記空気溝は、隣接する前記載置面の各組の間にそれぞれ設けられる構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明のレンズユニットによれば、光学フィルタをレンズホルダに接着剤で固定するときの弊害を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本形態のレンズユニットの内部構造を示す側面視断面図である。
【
図2】レンズユニットの像側端面を示す平面図である。
【
図3】
図2の一点鎖線で囲んだ部分の部分拡大図(a)及びその部分の斜視図(b)である。
【
図4】
図3に示される部分の、赤外線カットフィルタが配置される前の状態を示す部分拡大図(a)及び斜視図(b)である。
【
図5】
図3(a)に示す像側端面のN-N断面図である。
【
図6】
図3(a)に示す像側端面のM-M断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のレンズユニットの実施形態について図面を参照して説明する。本形態のレンズユニット90は、様々な撮影機器に採用される汎用的な小型レンズユニットである。
【0021】
本形態のレンズユニット90は、レンズホルダに対する光学フィルタの固定構造にその特徴を有している。具体的には、レンズユニット90は、平板形状の光学フィルタとレンズホルダとを接着剤により化学的に接合するだけでなく、固化した接着剤を光学フィルタの側面に隣接して配置することで、光学フィルタの設置スペースのクリアランスを事後的に除去し、光学フィルタのがたつきを構造的にも阻止する。また、光学フィルタが設置されるレンズホルダの端面には、毛細管力により浸潤した接着剤がレンズに付着することを防ぐための専用の空隙(段差部)が設けられており、これにより光学レンズの固定に接着剤を用いることの弊害が軽減されている。以下、これらの特徴とその付随的な特徴について具体的に説明する。
【0022】
(全体構成)
図1は本形態のレンズユニット90の内部構造を示す側面視断面図である。以下、
図1を参照してレンズユニット90の全体構成について説明する。
【0023】
図1に示す一点鎖線L1-L2はレンズユニット90の光軸を示しており、L1側が物体側(被写体側)、L2側が像側である。レンズユニット90は、光軸L1-L2に沿って配列された6枚のレンズである第1レンズ11~第6レンズ16と、これらレンズを保持するレンズホルダ30を有している。第2レンズ12と第3レンズ13の間には遮光板17が配置され、第3レンズ13と第4レンズ14との間には絞り18が配置されている。また、レンズホルダ30の最も像側の端面には光学フィルタである赤外線カットフィルタ20(以下、「IRCF20」という。)が配置されている。
【0024】
これらレンズのうち、最も物体側に位置する第1レンズ11、及び第4レンズ14はガラスレンズである。第4レンズ14は、円環形状の枠体であるホルダ141に保持された状態でレンズホルダ30に支持されている。第2レンズ12、第3レンズ13、第5レンズ15、第6レンズ16はプラスチックレンズである。最も像側に位置する第6レンズ及び第5レンズ15は接合レンズを構成している。尚、レンズホルダ30に保持されるレンズの数や種類は本形態の構成に限られるものではなく、レンズユニットの用途や被写体に応じて適宜変更可能である。
【0025】
本形態のレンズホルダ30は、内筒31及び外筒32からなる二重筒構造の鏡筒・玉枠である。第1レンズ11はレンズホルダ30の外筒32に支持されており、他のレンズや遮光板17、絞り18は内筒32に収容されている。レンズホルダ30の構造も本形態のものには限られず、その光軸方向の一端に光学フィルタが配置されるものであればどのような構造のレンズホルダであってもよい。
【0026】
(IRCF固定構造)
図2は、レンズユニット90の像側の端面(以下、「像側端面40」という。)を示す平面図である。
図3は、
図2の一点鎖線で囲んだ部分の部分拡大図(a)及びその部分の斜視図(b)である。
図4は、
図3に示される部分の、IRCF20が配置される前の状態を示す部分拡大図(a)及び斜視図(b)である。以下、
図2から
図4を参照して、IRCF20の固定構造について説明する。
【0027】
上でも述べたように、レンズホルダ30の像側端面40にはIRCF20が配置されている。IRCF20は正方形の板面を有する平板形状の光学フィルタである。
図2から
図4に示すように、像側端面40には、IRCF20の四隅が載置される載置面44が設けられている。尚、
図3及び
図4はIRCF20の四隅の一つに相当する部分を拡大したものであるが、以下に説明する固定構造はIRCF20の四隅すべてにおいて共通している。
【0028】
載置面44は、像側端面40の外縁部49よりも面位置が段状に低くなるように形成された平面部である。像側端面40の中央には、第6レンズ16のレンズ面が露出する開口部41が形成されており、開口部41の周囲には、開口部41に向かって下り勾配となる環状のスロープ面42が設けられている。スロープ面42と載置面44との間には後述する段差部43が設けられている。
【0029】
本形態のIRCF20は接着剤Gと後述する爪部45とにより載置面44に固定されている。尚、
図2及び
図3では、説明の便宜上、接着剤Gにハッチングを施してその塗布範囲を明示している。
図3(b)に示されるように、載置面44には、IRCF20の四隅を構成するXY方向(互いに水平に直交する2方向)の側面21,22に付着するように、これら側面21,22の側方に接着剤Gが充填されている。IRCF20の板面と載置面44との間には毛細管力により接着剤Gが浸潤しており、載置面44から開口部41側にしみ出した接着剤Gは段差部43により保持されている。
【0030】
像側端面40のIRCF20が設置されるスペースには、これを設置するためのクリアランスC(
図3(a))が当然に必要となる。本形態のレンズユニット90では、IRCF20の側方に接着剤Gが充填され、これがIRCF20のXY方向の側面21,22に付着しており、そして固化した接着剤GによりIRCF20のその側方への移動が阻止されている。つまり、IRCF20の設置スペースに設けられたクリアランスCがその設置後に除去されており、これによりIRCF20のがたつきが抑えられている。特に、本形態ではIRCF20の四隅の角を構成するすべての側面の側方に固化した接着剤Gが控えており、がたつきの抑制効果が最大化されている。
【0031】
図3に示すように、載置面44は、IRCF20が届き得ない範囲である拡張部441を有し、拡張部441と外縁部49との間の段差面491、及びIRCF20のX側側面21は、接着剤Gが保持される凹状の空間である接着剤溜まり44aを形成している。これにより接着剤Gの充填作業が容易になり、作業品質が安定する。また、IRCF20の側方への移動を制限するのに十分な量の接着剤を充填することが可能とされている。
【0032】
本形態の接着剤溜まり44aは、
図3(a)ではIRCF20のX方向側に舌片形状に膨出するように形成されている。本形態では、載置面44のY方向側には爪部45が配置されるため、このような構造が採用されているが、接着剤溜まり44aはIRCF20のY方向側、又はX方向側とY方向側の両方にあってもよい。さらには、接着剤Gの充填作業や充填量に差し支えがなければ、接着剤溜まり44aは設けなくてもよい。その場合は載置面44のクリアランスCに接着剤Gを充填すればよい。
【0033】
そして、本形態の接着剤Gは紫外線硬化性と湿気硬化性とを有している。接着剤Gが紫外線硬化性を有することで、接着剤Gの固化に要する時間が短縮されている。一方IRCF20と載置面44との間に浸潤した接着剤Gには、IRCF20により紫外線が反射・減衰されることで紫外線が十分に届かないおそれもある。そこで接着剤Gに湿気硬化性ももたせることで、紫外線で固化しなかった部分については時間の経過により固化させることができる。また、詳しくは後述するが、像側端面40には開口部41を外気に連通する空気溝46が設けられており、段差部43に保持された接着剤Gなど、載置面44からしみ出した接着剤Gにも外気の湿気が及ぶ。
【0034】
また、本形態の像側端面40は、IRCF20の浮き上がりを防ぐ爪部45を有している。
図4及び
図3に示すように、爪部45は、IRCF20の配置後に、加熱および加圧によりIRCF20側に折り曲げられ、その縁部に掛けられる。接着剤Gと爪部45の両方でIRCF20を固定することにより、IRCF20の脱落がより確実に防止されている。尚、接着剤Gに十分な接合強度がある場合や、レンズユニット90が静止した(振動のない)環境で用いられる場合には爪部45は省略してもよい。
【0035】
(段差部の構造)
図5は、
図3(a)に示される像側端面40のN-N断面の模式図である。以下、
図3から
図5を参照して段差部43の構造について説明する。
【0036】
図5に示されるように、像側端面40のスロープ面42と載置面44との間には、IRCF20の板面と像側端面40との間に隙間を形成する段差部43が設けられている。本形態の段差部43は、載置面44側からスロープ42側(開口部41側)に向かうにつれてその面位置が階段状に低くなる2段の段差である第1段部431及び第2段部432により構成されている。
【0037】
IRCF20の板面と載置面44との間には毛細管力により接着剤Gが浸潤するが、これが開口部41側にしみ出した場合、接着剤Gが第6レンズ16に付着し、レンズユニット90の光学性能を損なうおそれがある。本形態のレンズホルダ30は、段差部43(第1段部431及び第2段部432)を備えることにより、毛細管力が段差部43により遮断され、しみ出した接着剤Gも段差部43に保持される。これにより接着剤Gがレンズに付着することが防止され、IRCF20を安全に接着剤Gで固定することが可能とされている。
【0038】
尚、仮に段差部43が設けられていない場合でも、スロープ面42があれば、スロープ面42により、IRCF20の板面と像側端面40との間には隙間が形成されることになる。これにより毛細管力は遮断され、接着剤Gの浸潤は停止するようにも思われる。一方、段差部43は階段状に形成されており、各段の段面(上面)は平面である。接着剤Gの充填時およびその硬化時には、これら段面は水平に配置される。さらに、接着剤Gはその表面張力により、各段の段差面の下端(つまり各段の段面の奥)に引き寄せられる。このように、レンズユニット90は、段差部43を備えることにより、接着剤Gが直接スロープ面42に流れ込む構造のレンズユニットに比べ、接着剤Gを開口部41から遠ざける効果が高められている。尚、第2段部432は予備の段部であり、第1段部431だけでも段差部43の効果を得ることはできる。
【0039】
(空気溝の構造)
レンズホルダ30は、像側端面40に、開口部41を外気に連通させる4本の溝である複数の空気溝46を有している。前記空気溝は、IRCF20の周縁よりも内側からIRCF20の外側まで延びており、隣接する載置面44の各組の間にそれぞれ設けられている。IRCF20でレンズホルダ30が密封されている場合、気密検査の方法が煩雑になるうえ、接着剤Gやレンズホルダ30の内部で使われている他の接着剤のアウトガスがレンズの光学性能を低下させるおそれがある。レンズユニット90は空気溝46を備えることによりこのような不都合を解消している。
【0040】
また、本形態の空気溝46には、IRCF20の板面と載置面44との間の毛細管力を遮断する効果もある。そして、本形態の第2段部432は、スロープ面42の全周を囲むように環状に形成されており、空気溝46に侵入した接着剤Gに対しても予備の段部として機能する。
【0041】
図6は、
図3(a)の像側端面40をM-M方向に見た断面模式図である。本形態のレンズユニット90は射出成形部品であり、各空気溝46の、IRCF20よりも外側の部分には、金型のピン跡が形成されている。単に空気の通り道にすぎない空気溝46にエジェクタピンを当てることにより、取り出し時に仮にバリが生じたとしてもその影響が抑えられる。また、
図6に示すように、ピン跡が形成された部位は、空気溝46の他の部位よりも肉厚に形成されている。これによりレンズホルダ30の部品強度が維持されている。
【0042】
尚、本技術は以下のような構成をとることが可能である。
(1)
レンズと、
平板形状のフィルタである光学フィルタと、
前記レンズ及び前記光学フィルタを保持するレンズホルダと、を備え、
前記光学フィルタは、前記レンズホルダのその光軸方向の一方の端面に配置され、
前記端面は、
前記レンズのレンズ面が露出する開口部と、
前記光学フィルタを支持する平面部である載置面と、を有し、
前記載置面には、前記光学フィルタの側面に付着するように、該側面の側方に接着剤が充填され、
前記端面の前記開口部と前記載置面との間には、前記光学フィルタの板面と前記端面との間に隙間を形成する段差部が設けられる、
レンズユニット。
(2)
前記端面における前記開口部の周囲には、該開口部に向かって下り勾配となる環状のスロープ面が設けられ、
前記段差部は、前記スロープ面と前記載置面との間に設けられる、
(1)に記載のレンズユニット。
(3)
前記端面は、前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ爪部を有し、
前記爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられ、その縁部に掛けられる、
(1)または(2)に記載のレンズユニット。
(4)
前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅のいずれかの角を構成する2側面に付着している、
(1)から(3)のいずれかに記載のレンズユニット。
(5)
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着している、
(4)に記載のレンズユニット。
(6)
前記載置面は、前記端面の外縁部よりも面位置が段状に低くなるように形成され、
前記載置面は、前記光学フィルタが届き得ない範囲である拡張部を有し、
前記拡張部と前記外縁部との間の段差面、及び前記光学フィルタの側面は、前記接着剤が保持される凹状の空間である接着剤溜まりを形成する、
(1)から(5)のいずれかに記載のレンズユニット。
(7)
前記端面には、前記開口部を外気に連通させる溝である空気溝が形成され、
前記空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びている、
(1)から(6)のいずれかに記載のレンズユニット。
(8)
前記レンズユニットは射出成形部品であり、
前記空気溝の、前記光学フィルタよりも外側の部分には、金型のピン跡が形成されている、
(7)に記載のレンズユニット。
(9)
前記ピン跡が形成された部位は、前記空気溝の他の部位よりも肉厚に形成されている、
(8)に記載のレンズユニット。
(10)
前記段差部は、前記開口部側に向かうにつれてその面位置が階段状に低くなる複数段の段差を有する、
(1)から(9)のいずれかに記載のレンズユニット。
(11)
前記接着剤は紫外線硬化性および湿気硬化性を有する、
(1)から(10)のいずれかに記載のレンズユニット。
(12)
光軸方向に配列された複数の前記レンズを備え、
前記光学フィルタはその板面が矩形状のフィルタであり、
前記載置面は、前記光学フィルタの四隅に相当する位置に設けられ、
前記接着剤は、前記光学フィルタの四隅の角を構成する各側面に付着しており、
前記端面は、前記各載置部に載置された前記光学フィルタの浮き上がりを防ぐ複数の爪部を有し、
前記各爪部は、前記光学フィルタの配置後に、加熱および加圧により前記光学フィルタ側に折り曲げられてその縁部に掛けられ、
前記端面には、前記開口部を外気に連通させる溝である複数の空気溝が形成されており、
前記各空気溝は、前記端面を平面視したときに、前記光学フィルタの周縁よりも内側から、該光学フィルタの外側まで延びており、
前記空気溝は、隣接する前記載置面の各組の間にそれぞれ設けられている、
(1)から(11)のいずれかに記載のレンズユニット。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば上記実施形態では光学フィルタとしてIRCF20が採用されているが、これは他の光学フィルタであってもよい。また、IRCF20の板面形状は正方形であるが、これは円形であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
90:レンズユニット,16:第6レンズ(レンズ),20:赤外線カットフィルタ(IRCF)(光学フィルタ),21:X側面,22:Y側面,30:レンズホルダ,31:内筒,32:外筒,40:像側端面(端面),41:開口部,42:スロープ面,43:段差部,431:第1段部,432:第2段部,44:載置面,441:拡張部,45:爪部,46:空気溝,461:ピン跡,49:外縁部,491:段差面,G:接着剤