(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045905
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】アレーアンテナ、および、レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20240327BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20240327BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240327BHJP
H01Q 23/00 20060101ALI20240327BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20240327BHJP
【FI】
G01S7/03 230
G01S13/34
H01Q21/06
H01Q23/00
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150988
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大薮 弘和
(72)【発明者】
【氏名】山浦 新司
(72)【発明者】
【氏名】傅 宇峰
(72)【発明者】
【氏名】岸本 修也
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA04
5J021AA05
5J021AA09
5J021DB03
5J021EA04
5J021HA04
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD06
5J070AD10
5J070AE01
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH40
5J070AH50
5J070AK40
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】素子間隔の決定のための計算量を削減する。
【解決手段】点対称に配置されているアレーアンテナにおいて、条件1と条件2とが満たされる。条件1:平行な直線群からなる第1直線群と、平行な直線群からなり、第1直線群の直線とアンテナ素子の位置で交差する第2直線群と、のそれぞれに含まれる直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線からなる1以上の線群に振り分けたときに、線群の数と、線群上に位置していないアンテナ素子の数と、の合計が観測対象の数+1以上である。条件2:点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子の一方を第1グループに、他方を第2グループに分ける場合に、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、第1グループのアンテナ素子の第1方向の間隔の最大公約数D
gcd_Uと第1グループのアンテナ素子の第2方向の間隔の最大公約数D
gcd_Vとについて、式(5)または式(6)が満たされる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元に配置されたK個(Kは4以上の偶数)のアンテナ素子を含み、前記K個のアンテナ素子が点対称に配置されているアレーアンテナ(210)であって、
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、条件1と条件2とを満たすように、前記K個のアンテナ素子が配置されている、
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くのアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上のアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上のアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、前記一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、前記K個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
アレーアンテナ。
【請求項2】
2次元に配置されたR個(Rは2以上の偶数)の受信用のアンテナ素子と、2次元に配置されたT個(Tは2以上の偶数)の送信用のアンテナ素子とを含み、R×T個の仮想的なアンテナ素子から構成される仮想的な受信アレーアンテナとして用いられるアレーアンテナであって、
前記受信用のアンテナ素子は、前記受信用のアンテナ素子の配置の中心に対して点対称に配置され、前記送信用のアンテナ素子は、前記中心に対して点対称に配置されており、
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、前記仮想的なアンテナ素子の配置が条件1と条件2とを満たすように、前記受信用のアンテナ素子と前記送信用のアンテナ素子とが配置されている、
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上の前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線と前記仮想的なアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くの前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、前記仮想的なアンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上の前記仮想的なアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上の前記仮想的なアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
前記受信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合、
および、
前記送信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合において、
グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
アレーアンテナ。
【請求項3】
レーダ装置(1)であって、
送信信号を送信する送信アンテナ(140)と、2次元に配置されたK個(Kは4以上の偶数)のアンテナ素子を含み、前記K個のアンテナ素子が点対称に配置されているアレーアンテナである受信アンテナ(210)と、前記K個のアンテナ素子が受信した受信信号と前記送信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキサ(230)と、前記ビート信号をあらかじめ設定されたサンプリング周波数でサンプリングして前記K個のアンテナ素子に対応する複数チャネル分の受信データを得るA/D変換器(250)と、前記受信データに基づいて、観測対象までの距離と観測対象がある方向とを検出する方位検出部(320)と、を有するレーダ装置であって、
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、条件1と条件2とを満たすように、前記K個のアンテナ素子が配置されている、
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くのアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上のアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上のアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、前記一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、前記K個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
レーダ装置。
【請求項4】
レーダ装置(1)であって、
2次元に配置されたR個(Rは2以上の偶数)の受信用のアンテナ素子と、2次元に配置されたT個(Tは2以上の偶数)の送信用のアンテナ素子とを含み、R×T個の仮想的なアンテナ素子から構成される仮想的な受信アレーアンテナとして用いられるアレーアンテナと、受信信号と送信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキサ(230)と、前記ビート信号をあらかじめ設定されたサンプリング周波数でサンプリングして前記仮想的なアンテナ素子に対応する複数チャネル分の受信データを得るA/D変換器(250)と、前記受信データに基づいて、観測対象までの距離と観測対象がある方向とを検出する方位検出部(320)と、を有するレーダ装置であって、
前記受信用のアンテナ素子は、前記受信用のアンテナ素子の配置の中心に対して点対称に配置され、前記送信用のアンテナ素子は、前記中心に対して点対称に配置されており、
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、前記仮想的なアンテナ素子の配置が条件1と条件2とを満たすように、前記受信用のアンテナ素子と前記送信用のアンテナ素子とが配置されている、
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上の前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線と前記仮想的なアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くの前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、前記仮想的なアンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上の前記仮想的なアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上の前記仮想的なアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
前記受信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合、
および、
前記送信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合において、
グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレーアンテナ、および、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、不等間隔アレーアンテナにおいて、非所望ピークのうちのグレーティングローブの発生を回避するための不等間隔アレーアンテナの素子の配置を決定する技術が記載されている。特許文献1に開示された技術においては、アンテナ素子が2グループに分けられ、各グループのアンテナ素子間隔の最大公約数から、グループ間のアンテナ素子間隔の最大公約数が求められる。そして、アンテナ素子を2グループに分けるすべての組み合わせについて、それぞれ求められた最大公約数があらかじめ設定された値を超えないように、アンテナ素子の間隔が決定される。
【0003】
特許文献1に開示された技術においては、1次元アレーアンテナのアンテナ素子の配置について記載されているものの、2次元アレーアンテナのアンテナ素子の配置については言及されていない。よって、発明者は、第1方向における素子間隔と第2方向とにおける素子間隔とを考慮した上で、特許文献1に開示された技術を2次元アレーアンテナに採用することを考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、2グループにわける組み合わせの数は、アンテナ素子の数に応じて決まる。アンテナ素子の数がn個の場合、組み合わせの数は、2(n-1)-1となる。例えば、アンテナ素子の数が、16個の場合は、組み合わせの数は32767である。しかし、アンテナ素子の数が32個の場合、組み合わせの数は、21億を超える。さらに、アンテナ素子の数が64個の場合、組み合わせの数は、1.8×1019を超える。このように、アンテナ素子の数が増えた場合には組み合わせの数が膨大となり、これに伴い計算量も膨大となる。よって、実質的に計算することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
本開示の第1形態によれば、アレーアンテナが提供される。このアレーアンテナ(210)は、2次元に配置されたK個(Kは4以上の偶数)のアンテナ素子を含み、前記K個のアンテナ素子が点対称に配置されているアレーアンテナ(210)であって、観測対象の数が(Lは2)である場合において、条件1と条件2とを満たすように、前記K個のアンテナ素子が配置されている。
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くのアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上のアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上のアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、前記一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、前記K個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0008】
上記の形態によれば、2つに分けられた各グループにおけるアンテナ素子の配置が同じとなる。アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよく、2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がない。従って、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0009】
本開示の第2形態によれば、アレーアンテナが提供される。このアレーアンテナ(210)は、2次元に配置されたR個(Rは2以上の偶数)の受信用のアンテナ素子と、2次元に配置されたT個(Tは2以上の偶数)の送信用のアンテナ素子とを含み、R×T個の仮想的なアンテナ素子から構成される仮想的な受信アレーアンテナとして用いられるアレーアンテナである。前記受信用のアンテナ素子は、前記受信用のアンテナ素子の配置の中心に対して点対称に配置され、前記送信用のアンテナ素子は、前記中心に対して点対称に配置されている。
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、前記仮想的なアンテナ素子の配置が条件1と条件2とを満たすように、前記受信用のアンテナ素子と前記送信用のアンテナ素子とが配置されている。
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上の前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線と前記仮想的なアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くの前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、前記仮想的なアンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上の前記仮想的なアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上の前記仮想的なアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である。
条件2:
前記受信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合、
および、
前記送信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合において、
グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)。
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0010】
上記の形態によれば、仮想的に配置されたアンテナ素子を2つに分けた場合において、各グループにおけるアンテナ素子の配置が同じとなる。アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよく、2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がない。従って、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0011】
本開示の第3形態によれば、レーダ装置(1)が提供される。このレーダ装置は、送信信号を送信する送信アンテナ(140)と、2次元に配置されたK個(Kは4以上の偶数)のアンテナ素子を含み、前記K個のアンテナ素子が点対称に配置されているアレーアンテナである受信アンテナ(210)と、前記K個のアンテナ素子が受信した受信信号と前記送信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキサ(230)と、前記ビート信号をあらかじめ設定されたサンプリング周波数でサンプリングして前記K個のアンテナ素子に対応する複数チャネル分の受信データを得るA/D変換器(250)と、前記受信データに基づいて、観測対象までの距離と観測対象がある方向とを検出する方位検出部(320)と、を有する。
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、条件1と条件2とを満たすように、前記K個のアンテナ素子が配置されている、
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くのアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上のアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上のアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である、
条件2:
点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、前記一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、前記K個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれるアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0012】
上記の形態によれば、2つに分けられた各グループにおけるアンテナ素子の配置が同じとなる。アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよく、2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がない。従って、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0013】
本開示の第4形態によれば、レーダ装置(1)が提供される。このレーダ装置は、2次元に配置されたR個(Rは2以上の偶数)の受信用のアンテナ素子と、2次元に配置されたT個(Tは2以上の偶数)の送信用のアンテナ素子とを含み、R×T個の仮想的なアンテナ素子から構成される仮想的な受信アレーアンテナとして用いられるアレーアンテナと、受信信号と送信信号とをミキシングしてビート信号を得るミキサ(230)と、前記ビート信号をあらかじめ設定されたサンプリング周波数でサンプリングして前記仮想的なアンテナ素子に対応する複数チャネル分の受信データを得るA/D変換器(250)と、前記受信データに基づいて、観測対象までの距離と観測対象がある方向とを検出する方位検出部(320)と、を有する。前記受信用のアンテナ素子は、前記受信用のアンテナ素子の配置の中心に対して点対称に配置され、前記送信用のアンテナ素子は、前記中心に対して点対称に配置されている。
観測対象の数がL(Lは2)である場合において、前記仮想的なアンテナ素子の配置が条件1と条件2とを満たすように、前記受信用のアンテナ素子と前記送信用のアンテナ素子とが配置されている。
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上の前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、第1方向および第2方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、前記第1方向および前記第2方向に対して傾きを持つ直線から構成され、前記第1直線群の直線と平行ではなく、前記第1直線群のいずれかの直線と前記仮想的なアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
前記第1直線群の直線と前記第2直線群の直線とが最も多くの前記仮想的なアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
前記第1直線群に含まれるすべての直線と前記第2直線群に含まれるすべての直線を、前記仮想的なアンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、前記線群の数と、前記線群の線上に位置していない1以上の前記仮想的なアンテナ素子について、
前記線群の数と、前記1以上の前記仮想的なアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である。
条件2:
前記受信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合、
および、
前記送信用のアンテナ素子において前記中心に対して点対称な位置に配置されている対応する一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法により、R×T個の前記仮想的なアンテナ素子を第1グループと第2グループとに分ける場合において、
グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第1方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、前記第1グループに含まれる前記仮想的なアンテナ素子の前記第2方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)。
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0014】
上記の形態によれば、仮想的に配置されたアンテナ素子を2つに分けた場合において、各グループにおけるアンテナ素子の配置が同じとなる。アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよく、2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がない。従って、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】レーダ装置を搭載した自車両と他車両との位置関係を示す図である。
【
図2】レーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】アンテナ素子が受信する信号の経路差を表した図である。
【
図4】観測対象と、アンテナ素子との位置関係の一例を表した図である。
【
図5】点対称に配置されたアンテナ素子の例を示す図である。
【
図6】条件を満たすアンテナ素子の配置例を示す図である。
【
図7】
図6と同様の配置例において、他のグループ分けを行う例を示す図である。
【
図8】
図6に示す配置におけるスペクトルを示す図である。
【
図9】送信用のアンテナ素子と受信用のアンテナ素子との配置例を示す図である。
【
図10】MIMOによる仮想アンテナ素子の配置例を示す図である。
【
図11】
図9に示す配置のアレーアンテナにMIMOを採用したときのスペクトルを示す図である。
【
図12】送信用のアンテナ素子と受信用のアンテナ素子との配置例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態
A1.レーダ装置の概要
図1に示すように、実施形態にかかるレーダ装置1は、自車両M1に搭載される車載用レーダである。レーダ装置1は、例えば、自車両M1のフロントグリル内に設置されている。レーダ装置1は、自車両M1の前方に存在する観測対象である他車両M2までの距離、他車両M2の方位、および、自車両M1に対する他車両M2の相対速度を検出する。レーダ装置1の検出結果は、走行時の周囲の環境についてのドライバへの報知等のために使用される。具体的には、レーダ装置1は、送信波ILとして電波を放射する。送信波はミリ波である。送信波ILは、他車両M2といった自車両M1の外部の観測対象で反射して反射波RLとなる。レーダ装置1は、送信波ILの送信時刻と反射波RLの受信時刻とから求められる遅延時間から、観測対象までの距離を推定する。また、レーダ装置1は、送信波ILに対する反射波RLのドップラシフト量から、観測対象の相対速度を推定する。
【0017】
また、レーダ装置1は、受信アンテナの各アンテナ素子が受信する反射波RLに、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して、観測対象の方位を推定する。方位推定を、高精度かつ高分解能を行うための演算アルゴリズムとして、例えば、MUSIC(Multiple Signal Classification)がある。
【0018】
方位推定を行う演算アルゴリズムは、アレーアンテナと組み合わせて使用される。複数の観測対象の方位分解能を向上させるにはアンテナの開口面積を広くすればよい。アレーアンテナには、複数のアンテナ素子が等間隔に配置された等間隔アレーアンテナと、複数のアンテナ素子が不等間隔に配置された不等間隔アレーアンテナとがある。等間隔アレーアンテナではグレーティングローブの発生を抑制するためにアンテナ素子の間隔を小さくする必要がある。例えば、等間隔アンテナにおいて、アンテナ素子の間隔を小さくし、アンテナの開口面積を大きくすると、アンテナ素子数が増大する。そこで、グレーティングローブの発生を抑制するため、不等間隔アレーアンテナを採用し、アンテナ素子数を削減することが提案されている。
【0019】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部100と、受信部200と、処理部300とを備える。実施形態においては、レーダ装置1はFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave: 周波数変調連続波)方式のレーダである。
【0020】
送信部100は、発振器110と、アンプ120と、分配器130と、送信アンテナ140とを備える。発振器110は、例えば、電圧制御発振器(Voltage-controlled oscillator:VCO)である。発振器110は、処理部300の送受信制御部330から三角波電圧信号が入力されると、周波数変調された高周波信号である送信信号をアンプ120に出力する。アンプ120は、送信信号を増幅し、増幅した信号を分配器130に出力する。分配器130は、増幅された送信信号を送信アンテナ140と受信部200のミキサ230とに分配する。ミキサ230に分配された送信信号の一部は、受信信号の検波のため使用される。送信アンテナ140は、分配器130を介して供給された送信信号を電波として自車両M1の外部へ放射する。
【0021】
受信部200は、アレーアンテナ210と、アンプ220と、ミキサ230と、ローパスフィルタ240と、A/D(Analog Digital)変換器250とを備える。アレーアンテナ210は、2次元アレーアンテナである。アレーアンテナ210は、K個のアンテナ素子が平面上に不等間隔に配置された不等間隔アレーアンテナである。Kは4以上の偶数である。K個のアンテナ素子は、第1チャネルからKチャネルまでの各チャネルにそれぞれ対応する。アレーアンテナ210は、観測対象で反射した反射波を受信信号として受信し、受信信号をアンプ220に出力する。
【0022】
さらに、実施形態において、K個のアンテナ素子は、点対称となるように配置されている。点対称に配置する理由については後述する。
【0023】
アンプ220は、受信信号を増幅し、増幅した信号をミキサ230に出力する。ミキサ230は、位相検波のため、分配された送信信号と受信信号とをミキシングして、ビート信号を生成する。位相検波とは、受信信号の振幅おおび位相情報を抽出することである。ミキサ230が出力したビート信号は、高周波ノイズをカットするローパスフィルタ240を経由して、A/D変換器250に供給される。A/D変換器250は、ビート信号をサンプリング周波数でサンプリングおよび量子化することにより、デジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、処理部300に供給される。
【0024】
処理部300は、周波数処理部310と、方位検出部320と、送受信制御部330とを備える。処理部300は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を含むコンピュータにより構成される。周波数処理部310は、供給されたデジタル信号から0個以上のビート周波数を算出する。方位検出部320は、算出された各ビート周波数に対して、MUSIC等を使用して観測対象の方位を推定する。送受信制御部330は送信部100および受信部200を制御する。
【0025】
A2.グレーティングローブの発生について
図3に示すように、アンテナ素子A0、A1に同じ角度Φで反射波が入射したとする。アンテナ素子A0が受信する反射波の信号を基準とすると、アンテナ素子A1が受信する信号は、経路差Δdだけ位相がずれる。即ち、アンテナ素子A0の受信信号とアンテナ素子A1の受信信号とには経路差Δdに相当する位相差が生じる。
【0026】
アンテナ素子A0の受信信号とアンテナ素子A1の受信信号との位相差が、レーダ装置1が受信する信号の波長である波長λの整数倍である場合、アンテナ素子A0の受信信号とアンテナ素子A1の受信信号とは、同位相を有するといえる。複数のアンテナ素子の受信信号が同位相となるとき、MUSIC等のサブスペース手法として知られる高分解能手法においては、複数のアンテナ素子の受信信号が、ひとつの信号として扱われる。
【0027】
例えば、アレーアンテナ210が6個のアンテナ素子を有している場合に、例えば、6個のうち3個のアンテナ素子がグループ1に、残りの3個のアンテナ素子がグループ2に分けられたとする。グループ1に属する3個のアンテナ素子の受信信号が同じ位相となり、グループ2に属する3個のアンテナ素子の受信信号が同じ位相となったとする。このような場合、グループ1に属する3個のアンテナ素子は、等価なアンテナ素子となる。グループ2に属する3個のアンテナ素子は、等価なアンテナ素子となる。
【0028】
このとき、アレーアンテナ210において分離して受信することができる信号の数が実質的に2つとなる。この場合、受信信号から求められる相関行列のサイズは2×2行列となり、相関行列から求められる固有ベクトルは最大で2つとなる。固有ベクトルが2つの場合、固有ベクトルで張られる空間は2次元となる。この状況で、2つの観測対象からそれぞれ到来波があり、さらに、観測対象が存在しない方位であって条件を満たす方位が存在すると、観測対象が存在しない方位についての方向ベクトルは、独立とならず、2つの観測対象を示すそれぞれ方向ベクトルと1次従属の関係となる。方向ベクトルを、モードベクトルまたはステアリングベクトルともいう。車両に搭載されるレーダ装置1は、少なくとも2つの信号源を分離して検出することが要求されている。信号源とは、電波が反射される観測対象のことである。ここでは、観測対象を2つとしたため、アレーアンテナ210が含むアンテナ素子を2つのグループに分けた。グループの数は、到来波数に応じて選択される。一般的に、L個の観測対象があるとき、アレーアンテナ210が含むアンテナ素子をL個のグループに分ける必要がある。Lは正の整数である。
【0029】
MUSIC等のサブスペース手法による方位推定は、アレーアンテナ210の出力の相関行列の固有ベクトルからノイズベクトルを求め、ノイズベクトルで張る雑音部分空間が、信号部分空間と直交する性質を使用して、到来波の方位を求める。観測対象からの到来波の方位を示す方向ベクトルと、観測対象が存在しない方位を示す方向ベクトルとが一次従属の関係にある場合、観測対象が存在しない方位を示す方向ベクトルも、ノイズベクトルと直交する。このような理由により、MUSIC等のサブスペース手法として知られる高分解能手法を用いて方位推定を行う場合に、アンテナ素子の間隔と到来波の到来方向の条件とに依存して、実際の観測対象とは異なる方位を示すグレーティングローブが発生することがある。この結果、観測対象が存在しない方位が、到来波の方位として誤って推定される。
【0030】
図4に示すように、観測対象T1と、観測対象T1を観測する地点である観測点P1と、アンテナ素子A0~A5との位置関係を、直交座標系で表したとする。X軸、Y軸、および、Z軸が交わる原点を、観測点P1とする。実施形態においては、X軸方向をU軸方向ともよぶ。Y軸方向をV軸方向ともよぶ。アンテナ素子A0~A5は、U軸方向およびV軸方向において不等間隔に配置されている。
【0031】
例えば、2つのアンテナ素子のU軸方向における間隔とは、一方のアンテナ素子をU軸に投影した場合における一方のアンテナ素子の位置を表すU軸上の点と、他方のアンテナ素子をU軸上に投影した場合における他方のアンテナ素子の位置を表すU軸上の点と、の間隔である。2つのアンテナ素子のV軸方向における間隔とは、一方のアンテナ素子をV軸に投影した場合における一方のアンテナ素子の位置を表すV軸上の点と、他方のアンテナ素子をV軸上に投影した場合における他方のアンテナ素子の位置を表すV軸上の点と、の間隔である。実施形態において、複数のアンテナ素子が不等間隔に配置されているとは、アンテナ素子のU軸方向における間隔が不等間隔であり、アンテナ素子のV軸方向における間隔が不等間隔となるように、アンテナ素子が配置されていることをいう。
図4に示すように、X軸、Y軸、Z軸それぞれが示す方向は、相互に直交する。ここで、直交するとは、ある方向が、他の方向に対してなす角度が、直角に対してプラスマイナス10度の範囲にあることを含むものとする。U軸方向を第1方向ともよぶ。V軸方向を第2方向とも呼ぶ。
【0032】
観測対象T1がある方向を単位ベクトルで表すと、観測対象T1の方向tは、t=(Ut,Vt,√(1-Ut
2-Vt
2))と表される。レーダ装置1のU軸上における検知可能な範囲は、-1<Ut<+1である。レーダ装置1のV軸上における検知可能な範囲は、-1≦Vt≦+1である。
【0033】
また、アンテナ素子の数が2つの場合、2つのアンテナ素子は1つの直線上に並ぶため、受信信号の経路差Δdは、下記の式(1)により表すことができる。式(1)において、Duはアンテナ素子のU軸方向における間隔であり、Dvはアンテナ素子のV軸方向における間隔である。
Δd=Du・Ut+Dv・Vt・・・(1)
【0034】
アンテナ素子の3つ以上の場合、複数のアンテナ素子が、必ずしも一直線上に並ぶわけではない。よって、アンテナ素子間の位相差を調整するため、2次元アレーアンテナでは、U軸方向と、V軸方向とのそれぞれについて、アンテナ素子の間隔が検討される必要がある。よって、実施形態においては、下記の(a)かつ(b)が満たされたとき、または、(c)が満たされたとき、Δd=n・λが成立するものとする。n1は、ゼロを除く整数である。n2は、ゼロを含む整数である。
(a)Du・Ut=n1・λ
(b)Dv・Vt=n1・λ
(c)Du・Ut+Dv・Vt=n2・λ
【0035】
A3.アンテナ素子の配置条件
まず、
図4に示すようなアンテナ素子の配置において、複数のアンテナ素子の受信信号が同じ位相を有する例を説明する。まず、A0、A1、A3について説明する。以降の説明においては、素子間の距離を表す基本単位をdとしている。d=λ/2である。なお、λは受信信号の波長である。以下、アンテナ素子A0を単にA0と記載することがある。アンテナ素子A1~A5についても同様である。
【0036】
A0とA1とのU軸方向における間隔は2dであり、V軸方向における間隔は2dである。Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、Du・Ut=λ/2、Dv・Vt=λ/2となる。よって、Du・Ut+Dv・Vt=λとなる。Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、上記の式(c)で表すように、A0とA1との間の経路差Δdが波長λの整数倍となるので、A0の受信信号とA1の受信信号とは同位相を有する。A0とA3とのU軸方向における間隔は4dであり、V軸方向における間隔は4dである。Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、Du・Ut=λ、Dv・Vt=λとなる。よって、Du・Ut+Dv・Vt=2λとなる。Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、A0とA3との間の経路差Δdが波長λの整数倍となるので、A0の受信信号とA3の受信信号とは同位相を有する。A1とA3とのU軸方向における間隔は2dであり、V軸方向における間隔は2dであるので、Du・Ut=λ/2、Dv・Vt=λ/2となる。よって、Du・Ut+Dv・Vt=λとなる。Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、A1とA3との間の経路差Δdが波長λの整数倍となるので、A1の受信信号とA3の受信信号とは同位相を有する。
【0037】
このように、Ut=1/2、Vt=1/2であるとき、A0、A1、A3の間の経路差Δdが波長λの整数倍となるので、A0、A1、A2の受信信号は同位相を有する。よって、3つのアンテナ素子A0、A1、A3は、等価なアンテナ素子であるといえる。
【0038】
また、
図4に示すようなアンテナ素子の配置において、複数のアンテナ素子の受信信号が同じ位相を有する他の例を説明する。以下、A0、A1、A2について説明する。A0とA1とのU軸方向における間隔は2dであり、V軸方向における間隔は2dであるので、U
t=1、V
t=1であるとき、D
u・U
t=λ、D
v・V
t=λとなる。上記の式(a)、(b)で表すように、A0とA1との間の経路差Δdが波長λの整数倍となるので、A0の受信信号とA1との受信信号とは同位相を有する。A0とA2とのU軸方向における間隔は6dであり、V軸方向における間隔は4dであるので、U
t=1、V
t=1であるとき、D
u・U
t=3λ、D
v・V
t=2λとなる。A0の受信信号とA2との受信信号とは同位相を有する。A1とA2とのU軸方向における間隔は4dであり、V軸方向における間隔は2dであるので、U
t=1、V
t=1であるとき、D
u・U
t=2λ、D
v・V
t=λとなる。A1の受信信号とA2との受信信号とは同位相を有する。
【0039】
このように、Ut=1、Vt=1であるとき、A0、A1、A2の間の経路差Δdが波長λの整数倍となり、A0、A1、A2の受信信号は同位相を有する。よって、3つのアンテナ素子A0、A1、A2は等価なアンテナ素子であるといえる。
【0040】
前述のように、
図4に示すアンテナ素子の配置において、U
t=1/2、V
t=1/2であるとき、A0、A1、A3は同じ位相を有する。また、A0、A1、A3は、同一の直線上に並ぶように配置されている。このように、同一の直線上に並ぶように配置されている複数のアンテナ素子の受信信号は、アンテナ素子の間隔と到来波の到来方向の条件とにより、同位相を有することがある。この直線が任意の傾きKを持つとする。この場合、D
v=K・D
uと表すことができる。式(1)を変形して、A0、A1、A3についての経路差Δdを、下記の式(2)のように表すことができる。
Δd=D
u・U
t+K・D
U・V
t・・・(2)
【0041】
また、A0、A1、A3のようにアンテナ素子を直線で結ぶことができる場合は、A0、A1、A2のようにアンテナ素子を直線で結ぶことができない場合に比べて、Δd=n・λが成立するときのnの絶対値が小さくなる。つまり、アンテナ素子を直線で結ぶことができる場合は、アンテナ素子を直線で結ぶことができない場合に比べて、Utの値とVtの値とが、小さい値を取る。これは、アンテナ素子を直線で結ぶことができる場合は、直線で結ぶことができない場合に比べて、グレーティングローブが発生しない検知範囲が狭くなることを意味する。よって、同一の直線上に、同一のグループに属するすべてのアンテナ素子が位置していないことが好ましいと言える。
【0042】
前述したように、車両に搭載されるレーダ装置1は、少なくとも2つの信号源を分離して検出することが要求されている。よって、レーダ装置1は少なくとも2つの観測対象を検知する必要がある。まず、観測対象が2つの場合を考える。
図4に示すアンテナ配置において、例えば、A1、A3をグループ1とし、A4、A5をグループ2とする。なお、ここでは、アンテナ素子A0とA2は使用されないものとする。
【0043】
グループ1に属するA1、A3を直線で結んだとし、その直線の傾きを傾きK1とする。
図4に示すアンテナ配置においては、K1=V/U=1である。アンテナ素子のU軸方向における間隔を式(2)のD
uに代入する。
Δd=D
u・U
t+K1・D
U・V
t=2d・U
t+2d・V
t・・・(3)
【0044】
グループ2に属するA4、A5を直線で結んだとし、その直線の傾きを傾きK2とする。K2=V/U=-2/3である。アンテナ素子のU軸方向における間隔を式(3)のDuに代入する。
Δd=Du・Ut+K2・DU・Vt=3d・Ut+(-2/3)・3d・Vt・・・(4)
【0045】
ここで、Ut=2/5、Vt=3/5となるとき、式(3)において、Δd=λとなり、Δdは波長λの整数倍の値をとる。このとき、グループ1に属するA1の受信信号とA3の受信信号とは同じ位相を有する。また、式(4)において、Δd=0となり、Δdは波長λの整数倍の値をとる。このとき、グループ2に属するA4の受信信号とA5の受信信号とは同じ位相を有する。また、式(3)に示すΔdと、式(4)に示すΔdとのいずれも波長λの整数倍の値をとるので、グループ1に属するA1、A3における受信信号と、グループ2に属するA4、A5における受信信号と、が同位相となり得る。このように、複数のグループにおいて、それぞれグループに含まれるアンテナ素子の受信信号が同位相となり得る。これにより、実質的なアンテナ素子が減少し、実際の観測対象とは異なる方位を示すグレーティングローブが発生することがある。
【0046】
次に、
図4に示すアンテナ配置において、A2を除くアンテナ素子を使用する場合について述べる。A0、A1、A3、A4、A5が同一のグループに属する場合を考える。このグループをグループ1とする。アンテナ素子の数が3つ以上の場合、特許文献1に記載されているように、複数のアンテナ素子の間隔の最大公約数に応じて、複数のアンテナ素子の受信信号の位相差が生じる。この場合、式(1)、(2)において、D
uはU軸方向における複数のアンテナ素子の間隔の最大公約数であり、D
vはV軸方向における複数のアンテナ素子の間隔の最大公約数である。
【0047】
前述のように、Ut=2/5、Vt=3/5のときに、傾きK1を持つ直線上に並ぶように配置されているA1、A3の受信信号は同じ位相を有する。A0は、傾きK1を有し、A1、A3の位置を通る直線上に並ぶように配置されている。よって、Ut=2/5、Vt=3/5のときに、A0、A1、A3の受信信号は同じ位相を有する。また、Ut=2/5、Vt=3/5のときに、傾きK2を有する直線上に位置するA4、A5の受信信号は同じ位相を有する。A0は、傾きK2を有し、A4、A5の位置を通る直線上に並ぶように配置されている。よって、Ut=2/5、Vt=3/5のときに、A0、A4、A5の受信信号は同じ位相を有する。
【0048】
Ut=2/5、Vt=3/5となるとき、傾きK1を有する直線上に並ぶように配置されているA0、A1、A3について得られるΔdは波長λの整数倍の値を取る。Ut=2/5、Vt=3/5となるとき、傾きK2を有する直線上に並ぶように配置されているA0、A4、A5について得られるΔdは波長λの整数倍の値を取る。よって、A0、A1、A3におけるそれぞれの受信信号と、A0、A4、A5におけるそれぞれの受信信号と、は同じ位相を有する。このように、同じグループに属するアンテナ素子が、異なる2本の直線上に位置している場合であっても、受信信号が同位相になり得る。
【0049】
同じグループに属するアンテナ素子が、異なる2本の直線上に位置している場合に、受信信号が同位相になり得るかどうかは、次のように判別することができる。同じグループに属するアンテナ素子が、異なる2本の直線上に位置している場合であっても、2本の直線がいずれかのアンテナ素子が配置された位置において交差する場合には、受信信号が同位相になり得る。
図4に示す例では、傾きK1を有する直線と傾きK2を有する直線とは、A0が配置された位置において交差する。よって、A0、A1、A3、A4、A5それぞれにおける受信信号が同位相となり得る。
【0050】
さらに、A0、A1、A3、A4、A5が同一のグループに属する場合において、
図4に図示していない複数のアンテナ素子が配置されており、これらの複数のアンテナ素子がグループ1とは異なるグループ2に含まれているとする。グループ2に含まれているのは、A0、A1、A3、A4、A5以外のアンテナ素子である。技術の理解を容易にするため、
図4に示すA2については考慮しない。グループ2に含まれるすべてのアンテナ素子が、傾きK1を有する直線上もしくは傾きK2を有する直線上に並ぶように配置されている場合、グループ1内のアンテナ素子の受信信号と、グループ2内のアンテナ素子の受信信号とが同位相となり得る。これにより、実質的なアンテナ素子が減少し、実際の観測対象とは異なる方位を示すグレーティングローブが発生することがある。
【0051】
上記の例では、傾きが異なる2本の直線上に複数のアンテナ素子が並ぶように配置されていた。ここで、傾きの異なる3本の直線上に複数のアンテナ素子が並ぶように配置されている場合を考える。3本の直線の傾きは、それぞれK1、K2、K3とする。この場合に、次のような状況が成立したとする。傾きK1を有する1本目の直線上に並ぶように配置されているアンテナ素子について、Δd=Du・Ut+K1・Du・Vt=n11・λが成立する。傾きK2を有する2本目の直線上に並ぶように配置されているアンテナ素子について、Δd=Du・Ut+K2・Du・Vt=n12・λが成立する。傾きK3を有する3本目の直線上に並ぶように配置されているアンテナ素子について、Δd=Du・Ut+K3・Du・Vt=n13・λが成立する。なお、n11、n12、n13はいずれも整数である。このとき、3つの独立した式があるために、一般的には、2つの独立変数UtとVtを求めることができない。よって、直線の傾きを3つ以上とはせず、2つとする。
【0052】
また、実施形態においては、2次元的に配列されたアレーアンテナを想定しており、1次元配列のアレーアンテナは想定されていない。アンテナ素子がU軸と平行な直線上に配置されているアレーアンテナは、1次元的配列のアレーアンテナとなる。また、アンテナ素子がV軸と平行な直線上に配置されているときにも、1次元配列のアレーアンテナとなる。よって、U軸と平行な直線上にアンテナ素子が配置されているアレーアンテナと、V軸と平行な直線上にアンテナ素子が配置されているアレーアンテナとは、除かれる。
【0053】
また、アンテナ素子が、傾きK1を有する直線上、または、傾きK1とは異なる傾きK2を有する直線上に並ぶように配置されている場合であって、傾きK1またはK2を有する直線が、U軸と平行であるとする。アンテナ素子が一直線上に並んでいないため、上述の(a)かつ(b)が満たされたときに、Δd=n・λが成立することになるが、傾きK1またはK2を有する直線が、U軸と平行であるため、Dv=0となり、(b)が満たされないことになる。よって、(a)かつ(b)が満たされない。
【0054】
また、アンテナ素子が、傾きK1を有する直線上、または、傾きK1とは異なる傾きK2を有する直線上に並ぶように配置されている場合であって、傾きK1またはK2を有する直線が、V軸と平行であるとする。このとき、Du=0となり、(a)が満たされないことになる。よって、(a)かつ(b)が満たされない。
【0055】
以上より、実施形態においては、アンテナ素子は以下のように配置されているものとする。アンテナ素子が、傾きK1を有する直線上、または、傾きK1とは異なる傾きK2を有する直線上に並ぶように配置されている場合には、傾きK1を有する直線と傾きK2を有する直線とは、U軸およびV軸と平行でない直線である、ことを要する。U軸と平行でない直線とは、U軸方向に対して傾きをもつ直線である。V軸と平行でない直線とは、V軸方向に対して傾きをもつ直線である。
【0056】
また、実施形態においては、アレーアンテナ210に含まれるK個のアンテナ素子が点対称に配置されている。前述のように、L個の観測対象があるとき、アレーアンテナ210に含まれるアンテナ素子をL個のグループに分ける必要がある。Lは正の整数である。例えば、観測対象の数が2であるとする。この場合、K個のアンテナ素子を2個のグループに分ける必要がある。実施形態においては、後述する理由により、点対称な一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、他方を第2グループに分ける方法により、K個のアンテナ素子が2つのグループに分けられるものとする。以下、点対称に配置されたK個のアンテナ素子を分けるときに、点対称な一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、他方を第2グループに分ける理由を説明する。
【0057】
まず、特許文献1に記載されているように、アンテナ素子の間隔を決定するため、K個のアンテナ素子を2つのグループに分ける場合の、各グループに含まれるアンテナ素子の組み合わせをすべて生成する必要がある。グループ分けの組み合わせの数はアンテナ素子の数に応じて決まる。実施形態においては、2個のグループの区別をしないものとする。また、いずれかのグループがアンテナ素子を1個も含まない場合を除く。この場合、アンテナ素子の数をKとすると、グループ分けの組み合わせの数は(2K-2)/2=2K-1-1である。例えば、アンテナ素子の数が16の場合は、組み合わせの数は32767である。また、アンテナ素子の数が32の場合、組み合わせの数は、21億を超える。さらに、アンテナ素子の数が64の場合、組み合わせの数は、1.8×1019を超える。このように、アンテナ素子の数が増えると組み合わせの数が膨大となり、これに伴い計算量も膨大となる。よって、実質的に計算することが困難となる。
【0058】
図5に、点対称にアンテナ素子が配置されている例を示す。図示する例では、A1~A8の8つのアンテナ素子が配置されている。A1とA8とは、中心点CPを中心にして点対称に配置されている。中心点CPは、アンテナ素子の8個のアンテナ素子の配置の中心として設定された点である。中心点CPを中心ともよぶ。A2とA7とは、中心点CPを中心にして点対称に配置されている。A3とA6とは、中心点CPを中心にして点対称に配置されている。A4とA5とは、中心点CPを中心にして点対称に配置されている。
【0059】
点対称な一対のアンテナ素子の一方をグループg1に分け、他方をグループg2に分けるとする。グループ分けの一例は以下の通りである。A1をグループg1に、A8をグループg2に振り分ける。A7をグループg1に、A2をグループg2に振り分ける。A6をグループg1に、A3をグループg2に振り分ける。A5をグループg1に、A4をグループg2に振り分ける。従って、グループg1に振り分けられたのは、A1、A5、A6、A7であり、グループg2に振り分けられたのは、A2、A3、A4、A8となる。この場合、グループg1に含まれるアンテナ素子の配置は、中心点CPのまわりに180度回転したときに、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置と重なる。グループg1に含まれるアンテナ素子の配置と、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置とが実質的に同じである。
【0060】
また、例えば、グループg1に、A1、A2、A3、A4を、グループg2に、A5、A6、A7、A8を振り分けた場合も同様である。この場合も、グループg1に含まれるアンテナ素子の配置は、中心点CPのまわりに180度回転したときに、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置と重なる。よって、グループg1に含まれるアンテナ素子の配置と、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置とが実質的に同じである。
【0061】
このように、点対称な一対のアンテナ素子のうち、一方をグループg1に、他方をグループg2に振り分けることにより、2つのグループのアンテナ素子の配置が実質的に同じとなる。よって、グループ分けの組み合わせを生成する際に、K個のアンテナ素子の数が実質的に半分であるとみなすことができる。この場合、グループ分けの組み合わせの数は、2(K/2-1)-1である。
【0062】
例えば、アンテナ素子の数Kが16であるとする。上記のグループ分けの方法を使用する場合、グループ分けの組み合わせの数は、2(16/2-1)-1=127である。一方、上記のグループ分けの方法を使用しない場合、グループ分けの組み合わせの数は、2(16-1)-1=32767である。このように、組み合わせの数を大幅に減らすことができるので、アンテナ素子の配置を決定する際の計算量を大幅に削減できる。また、例えば、アンテナ素子の数Kが32であるとする。上記のグループ分けの方法を使用しない場合、グループ分けの組み合わせの数は21億を超える。この場合、グループ分けの組み合わせの数が膨大であり、実質的にアンテナ素子の配置を決定するための計算が困難となる。一方、上記のグループ分けの方法を使用する場合、組み合わせの数は、2(32/2-1)-1=32767である。このように、実質的にアンテナ素子の配置を決定するための計算が可能な程度に、グループ分けの組み合わせを削減できる。また、2つに分けられた各グループにおけるアンテナ素子の配置が実質的に同じとなる。アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよい。2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がないので、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0063】
上記の検討を踏まえて、実施形態においては、アンテナ素子の配置の条件を以下のようなものとする。まず、2次元に配置されたK個(Kは4以上の偶数)のアンテナ素子を含み、K個のアンテナ素子が点対称に配置されているアレーアンテナにおいて、以下に記載する条件1と条件2とを満たすように、アンテナ素子が配置されているものとする。観測対象の数をL(Lは2)とする。
【0064】
条件1:
第1の処理であって、
それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線であって、U軸方向およびV軸方向に対して傾きをもつ直線から構成される第1直線群と、
互いに平行な直線であって、U軸方向およびV軸方向に対して傾きを持つ直線から構成され、第1直線群の直線と平行ではなく、第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群と、
の組み合わせを
第1直線群の直線と第2直線群の直線とが最も多くのアンテナ素子の位置を通過するように、規定する第1の処理と、
第1直線群に含まれるすべての直線と第2直線群に含まれるすべての直線を、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける第2の処理と、
を経て定められる、線群の数と、線群の線上に位置していない1以上のアンテナ素子について、
線群の数と、1以上のアンテナ素子の数と、の合計が、(L+1)以上である。
条件2:
点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、N個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせにおいて、
第1グループに含まれるアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Uとして求め、第1グループに含まれるアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数を最大公約数Dgcd_Vとして求めたときに、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる(受信信号の波長をλ、送信信号の水平走査範囲の上限をUmax、送信信号の水平走査範囲の下限をUmin、送信信号の垂直走査範囲の上限をVmax、送信信号の垂直走査範囲の下限をVminとする)、
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0065】
条件2の式(5)、(6)は、特許文献1に記載されていたアンテナ素子の間隔が満たすべき式を、2次元に拡張したものである。アンテナ素子の配置が一次元である場合、アンテナ素子の間隔を調整することでグレーティングローブの発生を抑制できた。
【0066】
しかし、アンテナ素子の配置が2次元となると、上述したように、アンテナ素子の間隔の調整だけでは、グレーティングローブの発生を抑制できない。より具体的には、条件2で定まる範囲内において、偽像が発生し得る。これを抑制するため、条件1が設定されている。上記の条件1は、特許文献1に開示された技術を2次元アレーアンテナに応用したときに偽像が発生し得るという問題を解消するために、充足することが必要な条件である。条件1および条件2を満たすアンテナ素子の配置を選択することにより、特許文献1と同様に、レーダ装置1の検知可能な範囲を、到来波数の数で等分割した範囲それぞれにおいて、グレーティングローブが発生しないようにできる。
【0067】
また、アレーアンテナ210において点対称に配置されたN個のアンテナ素子を2つのグループに分ける際に、点対称な一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、他方を第2グループに分ける方法を採用することにより、点対称な一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、他方を第2グループに分けない態様に比べて、グループ分けの組み合わせの数を大幅に削減できる。
【0068】
さらに、点対称な一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、他方を第2グループに分けることにより、2つのグループにそれぞれ含まれるアンテナ素子の配置が同じとなる。
【0069】
このため、第1グループにおける、アンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数と、第2グループにおける、アンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数と、は同じとなる。よって、一方のグループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数だけを算出すればよい。2つのグループにそれぞれ含まれるアンテナ素子の配置が同じでない場合、特許文献1に記載されているように、各グループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数をそれぞれ求めてから、グループ間の最大公約数を算出する必要があった。しかし、実施形態にかかる方法では、一方のグループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数だけを算出すればよい。同様に、第1グループにおける、アンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数と、第2グループにおける、アンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数と、は同じとなる。よって、一方のグループのアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数だけを算出すればよい。よって、アンテナ素子の間隔を決定する際の計算量を削減できる。
【0070】
例えば、第1グループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1uと、第2グループのアンテナ素子の第1方向における間隔の最大公約数gcd2uとが異なる場合、最大公約数gcd1uと最大公約数gcd2uとの最大公約数(以下、グループ間最大公約数という)は、第1グループの最大公約数gcd1uと第2グループのgcd2uより小さい値となる。例えば、第1グループにおける最大公約数gcd1uが2であり、第2グループにおける最大公約数gcd2uが3である場合、グループ間最大公約数の値は1となる。一方、第1グループにおける最大公約数gcd1uと第2グループにおけるgcd2uとがいずれも2である場合、グループ間最大公約数は2となる。このように、第1グループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1uと、第2グループのアンテナ素子の第1方向における間隔の最大公約数gcd2uとが同じ場合は、第1グループのアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1uと、第2グループのアンテナ素子の第1方向における間隔の最大公約数gcd2uとが異なる場合に比べて、グループ間最大公約数の値が大きい。
【0071】
また、MUSIC等により高精度に到来方位を推定するためには、観測時間帯におけるサンプリング数であるスナップショット数を大きくする必要がある。しかし、車載用レーダにおいては、リアルタイムで観測対象の方位を推定する必要がある。このため、空間平均方を使用した前処理により、スナップショット数を増加させることがある。不等間隔アレーを使用している場合には、空間平均法のうち、サブアレー空間平均法を使用することができないため、前方空間平均法または後方空間平均法が使用される。前方空間平均法または後方空間平均法を使用する場合、アンテナ素子が点対称に配置されている必要がある。実施形態にかかる構成は、アンテナ素子を点対称に配置しているので、前方空間平均法または後方空間平均法を使用する場合において、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減するのに有用である。
【0072】
以下、条件1を充足するか否かを確認する処理を説明する。観測対象の数Lは2である。以下に説明する処理は、例えば、プロセッサ、メモリを備えるコンピュータにより実行される。
【0073】
まず、それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線から構成される直線群を生成する。生成された直線群の直線には、U軸およびV軸に平行な直線が含まれない。なお、生成される直線群に含まれる直線の数は必ずしも複数ではなく、1つの場合もある。生成される直線群の数は1つ以上である。生成された直線群のうち、最も多くのアンテナ素子の位置を通過する直線群が第1直線群として決定される。
【0074】
次に、互いに平行な直線から構成され、第1直線群の直線と平行ではなく、第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群が決定される。第2直線群の直線には、U軸およびV軸に平行な直線が含まれない。なお、第2直線群に含まれる直線の数は必ずしも複数ではなく、1つの場合もある。また、第2直線群となりうる直線群が複数ある場合、最も多くのアンテナ素子の位置を通過する直線から構成される直線群が、第2直線群として決定される。第1直線群と第2直線群との組み合わせを規定する処理を第1の処理ともよぶ。
【0075】
次に、第1直線群に含まれるすべての直線と第2直線群に含まれるすべての直線とを、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける。1つの線群は、受信信号が同位相となり得る配置となっているアンテナ素子の組を特定するものである。1つの線群に含まれる線上に配置されている複数のアンテナ素子の受信信号は同位相となり得る。
【0076】
そして、線群の数と、線群の線上にないアンテナ素子の数の合計が、観測対象の数に1を加えることにより得られた値の3以上であることを確認する。線群の数と、線群の線上にないアンテナ素子の数の合計が3以上である場合、条件1が満たされている。
【0077】
次に、条件2を充足するか否かを確認する処理を説明する。条件1を満たすアンテナ素子の配置において、点対称の中心に対して点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子のうちの一方を第1グループに、一対のアンテナ素子のうちの他方を第2グループに分ける方法により、N個のアンテナ素子を2個のグループに分ける場合において、グループ分けのすべての組み合わせが生成される。生成された組み合わせの数が、C個であるとする。Cは、1以上の整数である。
【0078】
まず、1番目の組み合わせにおいて、以下の処理が行われる。2個のグループそれぞれをグループ1、グループ2とする。グループ1に含まれるアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数Dgcd_Uが求められる。また、グループ1に含まれるアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数Dgcd_Vが求められる。なお、式(5)が満たされる場合には、最大公約数Dgcd_Vの算出は不要である。
【0079】
条件2における式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるかが判別される。
Dgcd_U(Umax-Umin)<L・λ・・・(5)
Dgcd_V(Vmax-Vmin)<L・λ・・・(6)
【0080】
続いて、2番目の組み合わせにおいて、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるかを確認する処理が同様に行われる。その後、3番目の組み合わせ、・・・、C番目の組み合わせについて、それぞれ同様の処理が行われる。
【0081】
1番目の組み合わせからC番目の組み合わせまでで、式(5)および式(6)のいずれもが満たされない組み合わせが1つ以上あった場合、検討されているアンテナ素子の配置が、グレーティングローブの抑制に効果を奏するものではないといえる。よって、他のアンテナ素子の配置が再び検討されることになる。このように、条件1を満たしたアンテナ配置について、グループ分けできるすべての組み合わせについて、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるかを確認する。上記の処理を経て、条件1および条件2を満たすアンテナ配置が決定される。
【0082】
このようにして、アンテナ素子の間隔を決定することで、2次元の不等間隔アレーアンテナを有するレーダ装置において、到来波数がL個以下の場合に、グレーティングローブの発生を回避できる。
【0083】
A4.配置条件を満たす例
図6に、アンテナ素子の配置の一例を示す。観測対象の数を2とする。なお、
図6に示すアンテナ素子の配置は、
図5と同じである。
【0084】
まず、それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過する互いに平行な直線から構成される直線群を生成する。生成された直線群の直線には、U軸およびV軸に平行な直線が含まれない。生成された直線群のうち、最も多くのアンテナ素子の位置を通過する直線群を探す。
図6に示す例では、互いに平行な直線L11、L13が、それぞれ2個以上のアンテナ素子の位置を通過し、これらの直線が通るアンテナ素子の数は4となり最大である。よって、直線L11、L13から構成される直線群が第1直線群として決定される。第1直線群の直線が持つ傾きK1は-3/5である。
【0085】
次に、互いに平行な直線から構成され、第1直線群の直線と平行ではなく、第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される第2直線群を探す。第2直線群の直線には、U軸およびV軸に平行な直線が含まれない。
図6に示す例では、互いに平行な直線L12、L14から構成される直線群は、第1直線群と平行ではない。また、直線L12は、第1直線群の直線L11とA6の位置で交差する。直線L14は、第1直線群の直線L13とA3の位置で交差する。また、直線L12、L14が通るアンテナ素子の数は4であり、第1直線群のいずれかの直線とアンテナ素子の位置で交差する直線から構成される直線群のうち、最も多い。よって、直線L12、L14から構成される直線群が第2直線群として決定される。第2直線群の直線が持つ傾きK2は-6である。
【0086】
その後、第1直線群に含まれるすべての直線と第2直線群に含まれるすべての直線とを、アンテナ素子の位置で互いに交差する2以上の直線でそれぞれ構成される1以上の線群に振り分ける。
【0087】
図6に示すように、第1直線群の直線L11と第2直線群の直線L12とがA6の位置で交差する。よって、直線L11と、直線L12と、が1つの線群となる。この線群を、線群LG1とする。
【0088】
また、第1直線群のL13と第2直線群のL14とがA3の位置で交差する。よって、直線L13と、直線14と、が1つの線群となる。この線群を、線群LG2とする。
【0089】
上述のように、1つの線群は、受信信号が同位相となり得る配置となっているアンテナ素子の組を特定するものである。ここでは、線群LG1の線上にあるA1、A5、A6は、それぞれの受信信号が同位相となり得る。線群LG1の線上にあるアンテナ素子をひとまとめにしてアンテナ素子群AG1とする。また、線群LG2の線上にあるA3、A4は、A8は、それぞれの受信信号が同位相となり得る。線群LG2の線上にあるアンテナ素子をひとまとめにしてアンテナ素子群AG2とする。
【0090】
また、線群LG1、LG2の線上に位置しないアンテナ素子A2、A7がある。よって、線群の数と、線群の線上に位置していないアンテナ素子の数と、の合計は4である。なお、線群の数と、アンテナ素子群の数と、は一致する。ここでは、観測対象Lの数が2である。よって、
図5に示すアンテナ配置は、条件1を満たしている。
【0091】
アンテナ素子A2、A7はアンテナ素子群G1、G2のいずれにも含まれない。このため、アンテナ素子A2、A7の受信信号は、アンテナ素子群AG1のアンテナ素子の受信信号と同位相となり得ない。さらに、アンテナ素子A2、A7の受信信号は、アンテナ素子群AG2のアンテナ素子の受信信号と同位相となり得ない。前述したように、観測対象が2つの場合には、実質的な信号が2個になると、実際の観測対象とは異なる方位を示すグレーティングローブが発生することがある。しかし、
図6に示す例では実質的な信号を4個確保できる。このため、
図6に示すアンテナ配置において、後述する条件2が満たされる場合には、グレーティングローブは発生しない。
【0092】
次に条件2を考える。例えば、グループg1にA1、A5、A6、A7を振り分け、グループg2にA2、A3、A4、A8を振り分けたとする。
図6においては、グループg1のアンテナ素子を白い丸で、グループg2のアンテナ素子を黒い丸で表している。グループg2に属するA2、A3、A4、A8を、中心点CPまわりに180度回転させると、グループg1に属するA1、A5、A6、A7に重なる。このように、グループg1に含まれるアンテナ素子の配置と、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置とが実質的に同じである。
【0093】
グループg1のアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1Uは1dである。グループg1に含まれるアンテナ素子の配置と、グループg2に含まれるアンテナ素子の配置とが実質的に同じであるので、グループg1のアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1Uと、グループg2のアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd2Uとは、いずれも1dである。グループg1についての最大公約数gcd1Uを、最大公約数Dgcd_Uとする。最大公約数Dgcd_U=λ/2であり、Dgcd_U<2λとなり、式(5)を満たす。
【0094】
また、アンテナ素子の組み合わせのさらに他の例を考える。例えば、
図7に示すように、グループg1にA1、A2、A3、A4を振り分け、グループg2にA5、A6、A7、A8を振り分けたとする。なお、
図7に示すアンテナ素子の配置は、
図5および
図6に示す例と同じである。
図7においては、グループg1のアンテナ素子を白い丸で、グループg2のアンテナ素子を黒い丸で表している。
【0095】
グループg1のアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd1Uと、グループg2のアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数gcd2Uとはいずれも1dである。最大公約数gcd1Uを、最大公約数Dgcd_Uとする。最大公約数Dgcd_U=λ/2であり、Dgcd_U<2λとなり、式(5)を満たす。
【0096】
ここでは、2パターンのグループ分けの例を説明した。実際には、グループ分けのすべての組み合わせを生成し、すべての組み合わせにおいて、(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされたとする。よって、条件2が満たされる。条件1および条件2が満たされる場合、
図5に示すようなアンテナ素子の配置が、到来波数が2個以下の場合に、グレーティングローブの発生を抑制できる配置であると言える。
【0097】
図8に、
図6に示す配置のアレーアンテナにより、2つの観測対象を観測し、MUSICを用いて観測対象の方位を検出したときに出力されたスペクトル画像(以下、MUSICスペクトル)を示す。検出された観測対象の方位(以下、ターゲット方位とよぶ)はそれぞれ(U,V)=(1/2,1/2)、(―1/2,―1/2)である。
図8においては観測対象を丸で囲っている。この図で示しているように、偽像は発生していない。
【0098】
A5.MIMOを採用する例
また、受信用のアンテナ素子の数を仮想的に増やす方法としてMIMO(Multi Input Multi Output)という技術がある。MIMOを採用することで、R個(Rは2以上の偶数)の受信用のアンテナ素子と、T個(Tは2以上の偶数)の送信用のアンテナ素子とから、R×T個の仮想的なアンテナ素子を含む仮想的な受信アレーアンテナを実現できる。
【0099】
図9に示す例では、8個の受信用のアンテナ素子と、4個の送信用のアンテナ素子とが配置されている。
図9においては、受信用のアンテナ素子を白い丸で、送信用のアンテナ素子を黒い丸で表している。送信用のアンテナ素子は点対称に配置されており、受信用のアンテナ素子も点対称に配置されている。MIMOにより仮想的に配置されるアンテナ素子の数は、受信用のアンテナ素子の数に送信用のアンテナ素子の数を乗じて求められる。
図10に示すように、仮想的に配置されるアンテナ素子の数は、32個である。また、MIMOにより仮想的に配置されるアンテナ素子も点対称に配置される。技術の理解を容易にするため、仮想的なアンテナ素子の配置は、条件1を満たしているものとする。以下、条件2についての仮想的なアンテナ素子のグループ分けの方法を説明する。
【0100】
仮想的なアンテナ素子の数が32個の場合、点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子を2つ分ける方法でグループ分けすると、グループ分けの組み合わせの数は、2(32/2-1)-1=32767である。このように、グループ分けの組み合わせの数が大きくなると、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量も増大する。
【0101】
そこで、MIMOを採用する場合には、仮想的なアンテナ素子を以下の方法C1と方法C2とを用いてグループ分けする。仮想的に配置されるアンテナ素子を2つのグループに分けるため、受信用のアンテナ素子のグループ数Grに送信用のアンテナ素子のグループ数Gtを乗じた数が2となるように、グループ数Gr、Gtが決められる。
【0102】
以下、方法C1によるグループ分けを説明する。方法C1においては、送信用のアンテナ素子のグループ数Gtが2となる。まず、送信用の4個のアンテナ素子のうち、点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子を2つのグループに分ける方法によるグループ分けのすべての組み合わせを生成する。グループ分けの組み合わせの数は、2
(4/2-1)=2となる。
図9に示す例では、1番目の組み合わせでは、一方のグループにA9およびA11、他方のグループにA10およびA12が振り分けられる。2番目の組み合わせでは、一方のグループにA9およびA10、他方のグループにA11およびA12が振り分けられる。
【0103】
1番目の組み合わせにおいて、A9およびA11と8つの受信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第1グループに振り分けられる。1番目の組み合わせにおいて、A10およびA12と8つの受信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第2グループに振り分けられる。第1グループに含まれるアンテナ素子により得られる仮想的なアンテナ素子の配置は、中心点CPのまわりに180度回転したときに、第2グループに含まれるアンテナ素子により得られる仮想的なアンテナ素子の配置と重なる。第1グループに含まれる仮想的なアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Uと、第1グループに含まれるアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Vと、について、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるか判別される。
【0104】
2番目の組み合わせにおいて、A9およびA10と8つの受信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第1グループに振り分けられる。2番目の組み合わせにおいて、A11およびA12と8つの受信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第2グループに振り分けられる。第1グループに含まれるアンテナ素子により得られる仮想的なアンテナ素子の配置は、中心点CPのまわりに180度回転したときに、第2グループに含まれるアンテナ素子により得られる仮想的なアンテナ素子の配置と重なる。2番目の組み合わせにおいても、第1グループに含まれる仮想的なアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Uと、第1グループに含まれるアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Vと、について、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるか判別される。
【0105】
続いて、方法C2によるグループ分けを説明する。方法C2においては、受信用のアンテナ素子のグループ数Grが2となる。まず、受信用の8個のアンテナ素子のうち、点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子それぞれを2つのグループに分ける方法(以下、方法C2という)によるグループ分けのすべての組み合わせを生成する。グループ分けの組み合わせの数は、2(8/2-1)=8となる。
【0106】
1番目の組み合わせにおいて、一方のグループに振り分けられた受信用のアンテナ素子と4つの送信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第1グループに振り分けられる。1番目の組み合わせにおいて、他方のグループに振り分けられた受信用のアンテナ素子と4つの送信用のアンテナ素子とにより、得られた仮想的なアンテナ素子は第2グループに振り分けられる。第1グループに含まれる仮想的なアンテナ素子のU軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Uと、第1グループに含まれるアンテナ素子のV軸方向における間隔の最大公約数である最大公約数Dgcd_Vと、について、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるか判別される。
【0107】
続いて、2番目の組み合わせにおいて、式(5)または式(6)の少なくとも一方がみたされるかを確認する処理が同様に行われる。その後、3番目の組み合わせ、・・・、8番目の組み合わせについて、それぞれ同様の処理が行われる。すべての組み合わせにおいて、(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる場合、
図9に示すアンテナ素子の配置が、到来波数が2個以下の場合に、グレーティングローブの発生を抑制できる配置であると言える。
【0108】
図11に、
図9に示す配置のアレーアンテナにMIMOを採用して、2つの観測対象を観測し、MUSICを用いて観測対象の方位を検出したときに出力されたスペクトル画像を示す。検出された観測対象の方位(以下、ターゲット方位とよぶ)はそれぞれ(U,V)=(1/2,1/2)、(―1/2,―1/2)である。
図11においては観測対象を丸で囲っている。この図で示しているように、偽像は発生していない。
【0109】
方法C1を用いたグループ分けの組み合わせが2通りであり、方法C2を用いたグループ分けの組み合わせが8通りであるので、グループ分けの組み合わせの数は、合計で10通りである。仮想的なアンテナ素子の数が32個の場合、点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子を2つ分ける方法でグループ分けすると、グループ分けの組み合わせの数は、2(32/2-1)-1=32767である。このように、グループ分けの組み合わせの数を大幅に削減できる。また、すべてのグループ分けの組み合わせにおいて、2つのグループそれぞれにおける仮想的にアンテナ素子の配置は実質的に同じである。このため、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算を行う際には、一方のグループに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行えばよい。よって、2つのグループそれぞれに含まれるアンテナ素子の間隔について計算を行う必要がない。従って、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0110】
図12に示す他の配置の例では、16個の受信用のアンテナ素子と、4個の送信用のアンテナ素子とが配置されている。
図12においては、受信用のアンテナ素子を白い丸で、送信用のアンテナ素子を黒い丸で表している。送信用のアンテナ素子は点対称に配置されており、受信用のアンテナ素子も点対称に配置されている。送信用のアンテナ素子それぞれが配置されている位置をUV平面における座標で表すと、(-39,-36)、(-36,39)、(36,-39)、(39,36)である。受信用のアンテナ素子それぞれが配置されている位置をUV平面における座標で表すと、(-35,23)、(-33,-9)、(-24,-35)、(-23,8)、(-19,-19)、(-17,33)、(-8,1)、(-1,-24)、(1,24)、(8,-1)、(17,-33)、(19、19)、(23,-8)、(24,35)、(33,9)、(35,-23)である。
【0111】
図12に示す配置に、MIMOを採用することにより、仮想的に配置されるアンテナ素子の数は64個である。技術の理解を容易にするため、仮想的なアンテナ素子の配置は、条件1を満たしているものとする。仮想的なアンテナ素子の数が64個の場合、点対称な位置に配置されている一対のアンテナ素子を2つ分ける方法でグループ分けすると、グループ分けの組み合わせの数は、2
(64/2-1)-1となり、21億を超える。この場合、アンテナ素子の間隔を決定するための計算を行うことが困難となる。
【0112】
送信用のアンテナ素子が4個であるため、方法C1を用いたグループ分けの組み合わせの数は、2
(4/2-1)=2である。1番目の組み合わせ、2番目の組み合わせについて、上述したのと同様に、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるかを確認する処理が行われる。また、受信用のアンテナ素子が16個であるため、方法C2を用いたグループ分けの組み合わせの数は、2
(16/2-1)=128である。1番目の組み合わせ、2番目の組み合わせ、・・・、128番目の組み合わせについて、上述したのと同様に、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされるかを確認する処理が行われる。すべての組み合わせにおいて、式(5)または式(6)の少なくとも一方が満たされる場合、条件2が満たされる。この場合、
図12に示すアンテナ素子の配置が、到来波数が2個以下の場合に、グレーティングローブの発生を抑制できる配置であると言える。
【0113】
仮想的なアンテナ素子の数が64個の場合、方法C1と方法C2とを用いることにより、グループ分けの組み合わせの数は、合計で130通りとなる。このように、グループ分けの組み合わせの数を大幅に削減でき、アンテナ素子の間隔を決定するのに必要な計算量を削減できる。
【0114】
B.他の実施形態
実施形態においては、素子間の距離を表す基本単位d=λ/2とする例を説明したが、これに限られない。なお、素子間の距離を表す基本単位は、受信信号の波長λの1/10より大きい値であることが好ましい。
【0115】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0116】
1…レーダ装置、140…送信アンテナ、200…受信部、210…アレーアンテナ、220…アンプ、230…ミキサ、250…A/D変換器、320…方位検出部