(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004591
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/04 20060101AFI20240110BHJP
B24B 5/42 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B24B49/04 Z
B24B5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104258
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 涼
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝規
(72)【発明者】
【氏名】阿部田 郷
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034BB74
3C034CA02
3C034CA12
3C034CB01
3C034DD20
3C043AC21
3C043CC03
3C043DD02
3C043DD03
3C043DD06
(57)【要約】
【課題】ジャーナル部の径に加工誤差がある場合でもピン部の加工精度の低下を抑制できる研削装置を提供する。
【解決手段】偏心シャフトのピン部を研削する研削装置は、ジャーナル部の径を測定する径測定装置と、ジャーナル部を固定したVブロックが固定され、主軸回転軸回りに回転する主軸と、主軸回転軸に交差する方向に移動可能に設けられ、ピン部を研削する砥石を回転可能に設けられた、砥石台と、径測定装置によって測定されたジャーナル部の径に基づいて、ジャーナル部の軸線と主軸回転軸との距離であるずれ量を算出する、ずれ量算出部と、ずれ量と、偏心ストロークと、主軸の位相から砥石の位置を演算する、砥石位置演算部と、主軸の位相と砥石の位置との対応関係を表すプロフィールデータを記憶する記憶部と、プロフィールデータを用いて、主軸の位相とピン部に対する砥石の位置を制御する動作制御部と、を有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャーナル部と、前記ジャーナル部の軸線から偏心ストロークだけ偏心した軸線を有するピン部と、を備える偏心シャフトの前記ピン部を研削する研削装置であって、
前記ジャーナル部の径を測定する径測定装置と、
V溝を有し、前記ジャーナル部を前記V溝で支持するVブロックと、
前記ジャーナル部を前記V溝に固定するクランプ機構と、
前記Vブロックが固定され、主軸回転軸回りに回転する主軸と、
前記主軸回転軸に交差する方向に移動可能に設けられ、前記ピン部を研削する砥石を回転可能に設けられた、砥石台と、
前記径測定装置によって測定された前記ジャーナル部の径に基づいて、前記ジャーナル部の軸線と前記主軸回転軸との距離であるずれ量を算出する、ずれ量算出部と、
前記ずれ量と、前記偏心ストロークと、前記主軸の位相から前記砥石の位置を演算する、砥石位置演算部と、
前記主軸の位相と前記砥石の位置との対応関係を表すプロフィールデータを記憶する記憶部と、
前記プロフィールデータを用いて、前記主軸の位相と前記ピン部に対する前記砥石の位置を制御する、動作制御部と、を有する、
研削装置。
【請求項2】
請求項1に記載の研削装置であって、
前記Vブロックの前記V溝の角度は90°であり、
前記主軸回転軸と一致する軸線を有する基準ジャーナルの径をX、前記径測定装置によって測定された前記ジャーナル部の径をYとした場合に、前記ずれ量はY/√2-X/√2で算出される、
研削装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の研削装置であって、
前記砥石位置演算部は、前記砥石の径と前記ピン部の径に応じて前記砥石の位置を演算する、
研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、Vブロックに円筒ジャーナルを固定して、円筒ジャーナルに対して偏心した円筒ピンを研削加工する円筒研削盤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の円筒研削盤では、ジャーナル部の径に加工誤差がある場合、Vブロックへのジャーナル部の位置決めが良好に行われず、ジャーナル部の中心が主軸の回転中心からずれることにより、ピン部の加工精度が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、ジャーナル部と、前記ジャーナル部の軸線から偏心ストロークだけ偏心した軸線を有するピン部と、を備える偏心シャフトの前記ピン部を研削する研削装置が提供される。前記研削装置は、前記ジャーナル部の径を測定する径測定装置と、V溝を有し、前記ジャーナル部を前記V溝で支持するVブロックと、前記ジャーナル部を前記V溝に固定するクランプ機構と、前記Vブロックが固定され、主軸回転軸回りに回転する主軸と、前記主軸回転軸に交差する方向に移動可能に設けられ、前記ピン部を研削する砥石を回転可能に設けられた、砥石台と、前記径測定装置によって測定された前記ジャーナル部の径に基づいて、前記ジャーナル部の軸線と前記主軸回転軸との距離であるずれ量を算出する、ずれ量算出部と、前記ずれ量と、前記偏心ストロークと、前記主軸の位相から前記砥石の位置を演算する、砥石位置演算部と、前記主軸の位相と前記砥石の位置との対応関係を表すプロフィールデータを記憶する記憶部と、前記プロフィールデータを用いて、前記主軸の位相と前記ピン部に対する前記砥石の位置を制御する動作制御部と、を有する。
この形態の研削装置によれば、径測定装置によって測定されたジャーナル部の径に基づいて、ジャーナル部の軸線と主軸回転軸との距離であるずれ量を算出し、ずれ量と、偏心ストロークと、主軸の位相から砥石の位置を演算し、主軸の位相と砥石の位置との対応関係を表すプロフィールデータを記憶し、記憶されたプロフィールデータを用いて主軸の位相と砥石の位置を制御するため、ジャーナル部の径に加工誤差がある場合でも、ピン部を精度良く加工することができる。
(2)上記形態の研削装置において、前記Vブロックの前記V溝の角度は90°であり、前記主軸回転軸と一致する軸線を有する基準ジャーナルの径をX、前記径測定装置によって測定された前記ジャーナル部の径をYとした場合に、前記ずれ量はY/√2-X/√2で算出されてもよい。この形態の研削装置によれば、ずれ量を簡単に算出することができる。
(3)上記形態の研削装置において、前記砥石位置演算部は、前記砥石の径と前記ピン部の径に応じて前記砥石の位置を演算してもよい。この形態の研削装置によれば、円柱形状のピン部を有する偏心シャフトのピン部を研削する場合の砥石の位置を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】Z軸に垂直な断面におけるチャックの断面図である。
【
図6】研削装置による偏心シャフトのピン部の研削加工の工程図である。
【
図7】ずれ量算出部によって算出されるずれ量について説明する図である。
【
図8】主軸回転軸と砥石回転軸との距離の演算について説明する図である。
【
図9】主軸の位相と砥石の位置の制御を示す図である。
【
図10】主軸の位相と砥石の位置の制御を示す図である。
【
図11】主軸の位相と砥石の位置の制御を示す図である。
【
図12】主軸の位相と砥石の位置の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、研削装置100の概略構成を示す説明図である。
図1には、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を表す矢印が示されている。Z軸およびX軸は、水平面に平行な座標軸である。Y軸は、鉛直方向に平行な座標軸である。
図1におけるX,Y,Z軸を表す矢印と、他の図におけるX,Y,Z軸を表す矢印とは、同じ方向を指し示している。向きを特定する場合には、矢印の指し示す方向である正の方向を「+」、矢印の指し示す方向とは反対の方向である負の方向を「-」として、方向表記に正負の符号を併用する。
【0009】
研削装置100は、ジャーナル部Aと、ジャーナル部Aの軸線から偏心ストロークだけ偏心した軸線を有するピン部Bと、を備える偏心シャフトWのピン部Bを研削加工する。本実施形態では、ピン部Bの形状は円柱形状である。研削装置100は、ベッド10と、テーブル20と、砥石台30と、テーブル移動モータ40と、砥石台移動モータ50と、径測定装置60と、制御部70と、駆動回路81、82、83と、を備える。
【0010】
ベッド10は、テーブル20と砥石台30を支持する。ベッド10は、例えば、鋳鉄により形成される。ベッド10の上面には、テーブル20がZ軸方向に沿って移動するための摺動面と、砥石台30がX軸方向に沿って移動するための摺動面が形成されている。
【0011】
テーブル20は、ベッド10の上面に配置されている。テーブル20の上面には、主軸台21および心押台26が取り付けられている。
【0012】
主軸台21は、主軸22と、チャック23と、主軸回転モータ24と、主軸エンコーダ25と、を備える。
【0013】
図2は、Z軸に垂直な断面におけるチャック23の断面図である。チャック23は、主軸22に固定されている。チャック23は、ブラケット231と、Vブロック232と、位置決めブロック234と、クランプ機構250と、を有する。
【0014】
ブラケット231は、略U字型であり、主軸22の先端面に取り付けられている。ブラケット231は、凹部236を有する。
【0015】
Vブロック232は、ブラケット231の凹部236に、Z軸方向に直列に2つ並べて取り付けられている。Vブロック232には、偏心シャフトWのジャーナル部Aを支持するV溝237が形成されている。
【0016】
位置決めブロック234は、Vブロック232よりも主軸22側に取り付けられている。位置決めブロック234は、偏心シャフトWの主軸22側の端部に当接することで、偏心シャフトWのZ軸方向の位置を決定する。
【0017】
クランプ機構250は、クランプアーム235と、回旋ピン238と、シリンダロッド239と、ピン241と、ピストン242と、を備える。クランプアーム235は、Vブロック232の側方に取り付けられている。クランプアーム235は、回旋ピン238回りに回転可能となるように、回旋ピン238によって支持されている。クランプアーム235の一端には、シリンダロッド239が、クランプアーム235に設けられた長穴240を介してピン241によって取り付けられている。シリンダロッド239は、ピストン242に固定されている。ピストン242がX軸方向に移動することにより、クランプアーム235が回旋ピン238を中心に回転する。
図2においてピストン242がX軸の正の方向に移動すると、クランプアーム235が回旋ピン238を中心として反時計回りに回転する。このとき、クランプアーム235の他端に設けられた爪243によって、偏心シャフトWのジャーナル部AがV溝237に押し付けられる。以上のようにして、クランプ機構250によってジャーナル部AがV溝237に固定される。偏心シャフトWは、ジャーナル部Aの径に加工誤差が無い場合、ジャーナル部Aの軸線Oaが主軸22の軸線である主軸回転軸AXと等しくなるように、チャック23に固定される。なお、クランプ機構250は、ジャーナル部AをV溝237に固定できる機構であればよく、クランプアーム235を有する機構でなくてもよい。
【0018】
図1に示す主軸回転モータ24は、主軸22を主軸回転軸AX回りに回転駆動させる。主軸22が回転することにより、主軸22に固定されたチャック23および偏心シャフトWが主軸回転軸AX回りに回転する。主軸エンコーダ25は、主軸回転モータ24に配置されている。主軸エンコーダ25の信号は、駆動回路83にフィードバックされる。主軸エンコーダ25は、主軸22の位相(主軸回転軸AX回りの角度位置)を検出し、駆動回路83に送信する。
【0019】
心押台26は、Z軸方向において、ワークWを挟んで主軸台21と対向するように設けられている。心押台26は、センタ27を備える。センタ27は、ワークWが主軸回転軸AX回りに回転可能となるように、ワークWのZ軸方向の他端を支持する。
【0020】
砥石台30は、ベッド10の上面に配置されている。砥石台30は、砥石31と、砥石軸32と、砥石回転モータ33と、を備える。
【0021】
砥石31は、偏心シャフトWのピン部Bの表面を研削加工する。砥石31は、コア311と、砥石層312と、から構成される。コア311は、円盤状であり、鉄等の金属によって形成されている。コア311は、図示しないボルト等により砥石軸32に対して着脱可能に連結される。砥石層312は、コア311の外周に円盤状に設けられている。砥石層312は、砥粒と結合材を混合して焼き固めることによって形成される。砥粒としては、例えば、CBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)や、ダイヤモンドが使用される。砥石層312がピン部Bと接触することにより、ピン部Bの外周が研削される。
【0022】
砥石軸32は、砥石31をその軸線回りに回転可能に支持する。砥石軸32は、図示しない軸受を介して砥石台30に回転可能に支持されている。砥石軸32の軸線は、砥石31の軸線である砥石回転軸BXと一致する。砥石回転軸BXの方向は、Z軸と平行な方向である。
【0023】
砥石回転モータ33は、砥石軸32と同軸に砥石台30に内蔵されている。砥石回転モータ33は、砥石軸32を砥石回転軸BX回りに回転駆動させる。砥石軸32が回転駆動することにより、砥石31は砥石回転軸BX回りに回転駆動される。
【0024】
テーブル移動モータ40は、図示しない送りねじを回転駆動させることで、テーブル20をZ軸方向に沿って移動させる。テーブル移動モータ40は、テーブルエンコーダ41を有する。テーブルエンコーダ41の信号は、駆動回路81にフィードバックされる。Z軸方向を、送り方向とも呼ぶ。
【0025】
砥石台移動モータ50は、図示しない送りねじを回転駆動させることで、砥石台30をX軸方向に沿って移動させる。砥石台移動モータ50は、砥石台エンコーダ51を有する。砥石台エンコーダ51の信号は、駆動回路82にフィードバックされる。X軸方向を、砥石31の切込方向とも呼ぶ。
【0026】
図3は、径測定装置60の上面図である。
図4は、径測定装置60の側面図である。径測定装置60は、第1支持部610と、第2支持部620と、第3支持部630と、測長器640と、を備える。径測定装置60は、測長器640を偏心シャフトWのジャーナル部Aに接触させることによって、ジャーナル部Aの径を測定する。第1支持部610および第2支持部620は、ジャーナル部Aを支持する。第3支持部630は、ジャーナル部Aとは異なるジャーナル部A2を支持する。
【0027】
第1支持部610は、ジャーナル部Aの下方に設けられている。第1支持部610は、第1可動板611と、第2可動板612と、ねじ棒621と、を備える。第2支持部620の構成は、第1支持部610と同じである。
【0028】
第1可動板611は、第1傾斜面613と、第1基部614を有する。第2可動板612は、第2傾斜面615と、第2基部616を有する。ジャーナル部Aは、第1傾斜面613および第2傾斜面615の上に載置される。
図4に示すように、第1可動板611および第2可動板612は、第1傾斜面613と第2傾斜面615が、ジャーナル部Aの軸線Oaを含みX軸に垂直な面に関して対称となるように配置される。第1基部614は、第1可動板611の下端部に形成されている。第2基部616は、第2可動板612の下端部に形成されている。
【0029】
ねじ棒621は、第1基部614および第2基部616をX軸方向に貫くように設けられている。ねじ棒621は、第1ねじ部622と、第2ねじ部623を有する。第1ねじ部622は、ねじ棒621のX軸方向の中心よりも-X方向側の外周に形成されたねじ山である。第2ねじ部623は、ねじ棒621のX軸方向の中心よりも+X方向側の外周に形成されたねじ山である。第1ねじ部622と第2ねじ部623は、互いに逆ねじの関係である。第1ねじ部622は、第1基部614に形成された第1ねじ穴624に螺合する。第2ねじ部623は、第2基部616に形成された第2ねじ穴625に螺合する。
【0030】
第1ねじ部622と第2ねじ部623は互いに逆ねじの関係であるため、ねじ棒621がその回転軸回りに回転された場合、第1可動板611および第2可動板612は、互いにX軸方向に接近または離間する。そのため、ねじ棒621がその回転軸回りに回転されることによって、第1傾斜面613および第2傾斜面615の上に載置されたジャーナル部AがY方向に移動する。具体的には、第1可動板611と第2可動板612が互いに接近すると、ジャーナル部Aは+Y方向に移動し、第1可動板611と第2可動板612が互いに離間すると、ジャーナル部Aは-Y方向に移動する。
【0031】
第3支持部630は、ワークWの端部を下方から支持する。
図3に示すように、第3支持部630は、径測定装置60によって径が測定されるジャーナル部Aとは異なるジャーナル部A2の下方に設けられている。
【0032】
測長器640は、固定部641と、可動部642を備える。固定部641および可動部642は、X軸方向において、ジャーナル部Aを挟むように設けられている。固定部641は、その先端の固定子643がジャーナル部Aに接触するように固定されている。可動部642は、例えば、差動トランス式の測長器である。可動部642は、固定筐体648と、可動体646と、を有する。固定筐体648は、可動体646の一部を覆うように設けられている。可動部642は、固定筐体648に対して可動体646がX軸方向に移動可能または伸縮可能に設けられている。固定筐体648に対して可動体646がX軸方向に移動または伸縮することにより、可動体646の先端の可動子644がジャーナル部Aに接触する。可動子644および固定子643は、ジャーナル部Aの軸線Oaを含み水平面に平行な面上において、ジャーナル部Aと接触する。可動子644および固定子643が、Z方向から見てジャーナル部Aの左右両端に接触することにより、ジャーナル部Aの径が測定される。
【0033】
制御部70は、研削装置100の動作を制御する。制御部70は、砥石回転モータ33と、径測定装置60と、駆動回路81,82,83に電気的に接続されている。
【0034】
図5は、制御部70の構成を説明する図である。制御部70は、CPU71と、記憶部72を備える。
【0035】
記憶部72は、研削装置100を動作させるためのプログラム等を記憶する。記憶部72は、ピン部加工プログラム721と、工作物情報722と、砥石情報723と、予め定められた値である基準ジャーナルの径と、プロフィールデータを記憶する。プロフィールデータについては後述する。
【0036】
ピン部加工プログラム721は、径測定装置60によって測定されたジャーナル部Aの径に基づいて、偏心シャフトWのピン部Bの研削加工を行うプログラムである。
【0037】
工作物情報722は、研削対象となる工作物である偏心シャフトWに関する情報である。工作物情報722は、例えば、偏心ストローク、研削加工前のピン部Bの半径、ジャーナル部Aに対するピン部Bの位相である。
【0038】
砥石情報723は、砥石31に関する情報である。砥石情報723は、例えば、砥石31の半径である。
【0039】
CPU71は、記憶部72に記憶されたプログラムを実行することにより、ずれ量算出部711と、砥石位置演算部712と、動作制御部713として機能する。これらの機能部の一部または全部は、回路によって実現されてもよい。
【0040】
ずれ量算出部711は、径測定装置60によって測定されたジャーナル部Aの径と、基準ジャーナルの径を用いて、ずれ量Sを算出する。ずれ量算出部711におけるずれ量Sの算出については後述する。
【0041】
砥石位置演算部712は、ピン部加工プログラム721を実行する際の砥石31の位置を演算する。砥石位置演算部712は、ずれ量算出部711によって算出されたずれ量Sと、偏心ストロークと、研削加工前のピン部Bの半径と、砥石情報723が有する砥石31の半径と、主軸回転モータ24の駆動指令として与える主軸22の位相を用いて、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXとの距離Tを演算する。砥石位置演算部712における距離Tの演算については後述する。
【0042】
動作制御部713は、記憶部72に記憶されたプロフィールデータを用いて、主軸22の位相とピン部Bに対する砥石31の位置を制御する。動作制御部713は、砥石回転モータ33の回転数を制御することにより、砥石31の回転数を制御する。動作制御部713は、駆動回路81,82,83に駆動指令を出力する。
【0043】
駆動回路81は、動作制御部713からの指令に応じてテーブル移動モータ40の動作を制御する。駆動回路82は、動作制御部713からの指令に応じて砥石台移動モータ50の動作を制御する。駆動回路83は、動作制御部713からの指令に応じて主軸回転モータ24の動作を制御する。
【0044】
図6は、研削装置100による偏心シャフトWのピン部Bの研削加工の工程図である。まず、
図6のステップS10において、径測定装置60によってジャーナル部Aの径が測定される。測定されたジャーナル部Aの径は、記憶部72に記憶される。
【0045】
次に、
図6のステップS20において、ずれ量算出部711でずれ量Sが算出される。
【0046】
図7は、ずれ量算出部711によって算出されるずれ量Sについて説明する図である。
図7では、偏心シャフトWのジャーナル部Aと基準ジャーナルMがVブロック232に支持されている。基準ジャーナルMは、Vブロック232に支持されている状態でその軸線Omが主軸回転軸AXと一致する、仮想的なジャーナルである。本実施形態では、基準ジャーナルMの径は、ジャーナル部Aの径よりも小さい。ずれ量Sは、ジャーナル部Aおよび基準ジャーナルMが同一のVブロック232に支持されている状態での、ジャーナル部Aの軸線Oaと基準ジャーナルMの軸線Omの距離である。すなわち、ずれ量Sは、ジャーナル部Aの軸線Oaと主軸回転軸AXの距離である。ずれ量算出部711は、基準ジャーナルMの径と径測定装置60によって測定されたジャーナル部Aの径を用いて、ずれ量Sを算出する。
図7に示すように、Vブロック232のV溝237の角度が90°の場合、基準ジャーナルMの径をX、径測定装置60によって測定されたジャーナル部Aの径をYとすると、ずれ量Sは、Y/√2-X/√2で算出される。
【0047】
次に、
図6のステップS30において、砥石位置演算部712が主軸回転軸AXと砥石回転軸BXとの距離Tを演算する。
【0048】
図8は、砥石位置演算部712での、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXとの距離Tの演算について説明する図である。
図8に示す位相αは、主軸回転軸AXとジャーナル部Aの軸線Oaを結ぶ直線と、Y軸との成す角度である。位相αは、主軸22の位相と等しい。位相αは、ジャーナル部Aの軸線Oaが主軸回転軸AXの真上に位置する場合を0°とする。偏心シャフトWは、位相αが0°のとき、ピン部Bの軸線Obが、ジャーナル部Aの軸線Oaおよび主軸回転軸AXの真上に位置するように、Vブロック232に固定されている。
図8に示す角度apは、主軸回転軸AXとジャーナル部Aの軸線Oaを結ぶ直線と、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線の成す角であり、位相αから270°を差し引くことで算出される。
【0049】
主軸回転軸AXと砥石回転軸BXとの距離Tは、以下の式(1)および式(2)を用いて算出される。ここで、dは偏心ストローク、rbはピン部Bの半径、Rは砥石31の半径である。βは、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線と、砥石回転軸BXとピン部Bの軸線Obを結ぶ直線が成す角度である。
【0050】
(S+d)×sinap=(rb+R)×sinβ ・・・式(1)
T=(S+d)×cosap+(rb+R)×cosβ ・・・式(2)
【0051】
上記式(1)において、ずれ量Sと、偏心ストロークdと、角度apと、ピン部Bの半径rbと、砥石31の半径Rは既知であるため、角度βが算出される。式(1)で得られた角度βを式(2)に代入することで、距離Tが算出される。したがって、位相αが任意の値を取るときの、距離Tの値が求められる。本明細書では、位相αの値と各位相αに対応する距離Tの値が組み合わされたデータを、プロフィールデータと呼ぶ。プロフィールデータは、主軸22の位相αと砥石31の位置との対応関係を表す。プロフィールデータは、記憶部72に記憶される。
【0052】
最後に、
図6のステップS40において、CPU71がピン部加工プログラム721を実行することにより、偏心シャフトWのピン部Bが研削される。ピン部加工プログラム721が実行されることにより、動作制御部713が、記憶部72に記憶されたプロフィールデータを用いて、主軸22の位相αとピン部Bに対する砥石31の位置を制御する。
【0053】
図9から
図12は、動作制御部713による主軸22の位相αとピン部Bに対する砥石31の位置の制御を示す図である。
図9から
図12は、XY平面に砥石31および偏心シャフトWを投影した模式図である。
図9から
図12に示す研削点Qは、砥石31がピン部Bを研削する点である。偏心シャフトWは、位相αが0°のとき、ピン部Bの軸線Obが、ジャーナル部Aの軸線Oaおよび主軸回転軸AXの真上に位置するように、図示しないVブロック232に固定されている。動作制御部713は、位相αに関わらず、ピン部Bの軸線Obと砥石回転軸BXの距離(rb+R)が一定となるように、砥石31の送り動作を制御する。ここで、砥石31の送り動作とは、砥石台30を主軸回転軸AXに交差する方向に移動させる動作である。以下では、X軸の負の方向を砥石31の前進送り方向、X軸の正の方向を砥石31の後退送り方向と称する。
【0054】
図9に示すように、位相αが270°のときには、ピン部Bの軸線Obは、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線上に位置し、かつ、主軸回転軸AXよりも後退送り方向に位置する。研削点Qは、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線上に位置する。この場合、距離Tは最大となる。動作制御部713は、位相αが270°となるように主軸22を制御したときには、砥石回転軸BXが後退送り方向に最も後退した位置となるように砥石31の送り動作を制御する。
【0055】
図10に示すように、位相αが0°のときには、ピン部Bの軸線Obは主軸回転軸AXに対して最上方に偏心した位置にある。この場合、距離Tは、位相αが270°のときよりも小さくなる。動作制御部713は、位相αが0°となるように主軸22を制御したときには、位相αが270°のときよりも砥石回転軸BXが前進送り方向に前進した位置となるように砥石31の送り動作を制御する。
【0056】
図11に示すように、位相αが90°のときには、ピン部Bの軸線Obは、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線上に位置し、かつ、主軸回転軸AXよりも前進送り方向に位置する。研削点Qは、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXを結ぶ直線上に位置する。この場合、距離Tは最小となる。動作制御部713は、位相αが90°となるように主軸22を制御したときには、砥石回転軸BXが前進送り方向に最も前進した位置となるように砥石31の送り動作を制御する。
【0057】
図12に示すように、位相αが180°のときには、ピン部Bの軸線Obは主軸回転軸AXに対して最下方に偏心した位置にある。この場合、距離Tは、位相αが90°のときよりも大きくなる。動作制御部713は、位相αが180°となるように主軸22を制御したときには、位相αが90°のときよりも砥石回転軸BXが後退送り方向に後退した位置となるように砥石31の送り動作を制御する。
【0058】
以上のようにして、動作制御部713が主軸22の位相αとピン部Bに対する砥石31の位置を制御することにより、偏心シャフトWのピン部Bが研削される。
【0059】
以上で説明した研削装置100によれば、ずれ量算出部711が、径測定装置60によって測定されたジャーナル部Aの径に基づいて、ジャーナル部Aの軸線Oaと主軸回転軸AXの距離であるずれ量Sを算出する。そして、砥石位置演算部712が、ずれ量Sと、偏心ストロークdと、主軸22の位相αと、ピン部Bの半径rbと、砥石31の半径rbから、主軸回転軸AXと砥石回転軸BXの距離Tを演算する。主軸22の位相αと距離Tとの対応関係を表すプロフィールデータは、記憶部72に記憶される。そして、動作制御部713が、プロフィールデータを用いて主軸22の位相とピン部Bに対する砥石31の位置を制御することにより、偏心シャフトWのピン部Bが研削される。したがって、ジャーナル部Aの径に加工誤差があり、ジャーナル部Aの軸線Oaが主軸回転軸AXからずれている場合でも、ジャーナル部Aの軸線Oaと主軸回転軸AXの距離であるずれ量Sを考慮してピン部Bを研削する際の砥石31の位置が演算される。そのため、研削装置100は、ジャーナル部Aの径に加工誤差がある場合でも、ピン部Bを精度よく研削することができる。
【0060】
B.他の実施形態:
(B-1)上記実施形態において、基準ジャーナルMの径はジャーナル部Aの径より大きくてもよい。すなわち、ずれ量Sは負の値でもよい。
【0061】
(B-2)上記実施形態において、径測定装置60は、光学測定等によりジャーナル部Aに接触することなくジャーナル部Aの径を測定する装置でもよい。また、径測定装置60は、ベッド10上に設けられていてもよい。
【0062】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…ベッド、20…テーブル、21…主軸台、22…主軸、23…チャック、24…主軸回転モータ、25…主軸エンコーダ、26…心押台、27…センタ、30…砥石台、31…砥石、32…砥石軸、33…砥石回転モータ、40…テーブル移動モータ、41…テーブルエンコーダ、50…砥石台移動モータ、51…砥石台エンコーダ、60…径測定装置、70…制御部、71…CPU、72…記憶部、81…駆動回路、82…駆動回路、83…駆動回路、100…研削装置、231…ブラケット、232…Vブロック、234…位置決めブロック、235…クランプアーム、236…凹部、237…V溝、238…回旋ピン、239…シリンダロッド、240…長穴、241…ピン、242…ピストン、243…爪、250…クランプ機構、311…コア、312…砥石層、610…第1支持部、611…第1可動板、612…第2可動板、613…第1傾斜面、614…第1基部、615…第2傾斜面、616…第2基部、620…第2支持部、621…ねじ棒、622…第1ねじ部、623…第2ねじ部、624…第1ねじ穴、625…第2ねじ穴、630…第3支持部、640…測長器、641…固定部、642…可動部、643…固定子、644…可動子、711…ずれ量算出部、712…砥石位置演算部、713…動作制御部、721…ピン部加工プログラム、722…工作物情報、723…砥石情報、A…ジャーナル部、B…ピン部、Q…研削点、W…偏心シャフト、AX…主軸回転軸、BX…砥石回転軸、M…基準ジャーナル、Oa…ジャーナル部の軸線、Ob…ピン部の軸線