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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045926
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】3次元造形装置および3次元造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/264 20170101AFI20240327BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240327BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20240327BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240327BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240327BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240327BHJP
   B22F 10/366 20210101ALI20240327BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240327BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20240327BHJP
【FI】
B29C64/264
B29C64/153
B29C64/386
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
B22F10/366
B22F10/28
B22F12/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151022
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 大輔
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213AP06
4F213AP12
4F213AR07
4F213AR13
4F213AR16
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL44
4F213WL85
4F213WL92
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】造形物を精度良く形成する。
【解決手段】3次元造形装置1では、制御部5が、造形物の設計データに基づいて材料保持部3および光学ヘッド2を制御することにより、ステージ341上に造形材料91を供給し、供給された造形材料91の表層である描画対象層92上にて、マルチスポットビームを所定の走査方向に走査して、光が照射された領域の造形材料91を溶融させてパターンを描画することを繰り返させる。上記設計データにて描画が指示されていない非描画領域は、走査方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域を含む。そして、制御部による制御によって、設計データにて描画が指示されている描画領域のうち狭小非描画領域に隣接する狭小部隣接領域に対する光の照射が抑制される。これにより、造形物を精度良く形成することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元造形装置であって、
粉末状の造形材料を保持するステージ、および、前記ステージ上に造形材料を供給する材料供給部を有する材料保持部と、
所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、前記ステージ上の造形材料上にて変調しつつ走査する光学ヘッドと、
造形物の設計データに基づいて前記材料保持部および前記光学ヘッドを制御することにより、前記ステージ上に造形材料を供給し、供給された造形材料の表層である描画対象層上にて、前記マルチスポットビームを所定の走査方向に走査して、光が照射された領域の造形材料を溶融させてパターンを描画することを繰り返させる制御部と、
を備え、
前記設計データにて描画が指示されていない非描画領域は、前記走査方向、前記走査方向に垂直かつ前記ステージに平行な幅方向、および、前記ステージに垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域を含み、
前記制御部による制御によって、前記設計データにて描画が指示されている描画領域のうち前記狭小非描画領域に隣接する領域に対する光の照射が抑制されることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記幅方向であり、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が前記狭小非描画領域上に位置する際に、前記制御部による制御によって、前記狭小非描画スポット群、および、前記狭小非描画スポット群の前記配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群がOFFとされることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記複数の光スポットでは階調の調節が可能であり、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記幅方向であり、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が前記狭小非描画領域上に位置する際に、前記制御部による制御によって、
前記狭小非描画スポット群がOFFとされ、
前記狭小非描画スポット群の前記配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群において、各補正スポット群に含まれる2つ以上の光スポットの光強度が、前記狭小非描画スポット群から前記配列方向において離れるに従って増大するように調節されることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記走査方向であり、
前記制御部による制御によって、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、
前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の前記走査方向の両側に隣接する補正領域上に位置する際にもOFFとされることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項5】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記複数の光スポットでは階調の調節が可能であり、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記走査方向であり、
前記制御部による制御によって、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、
前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の前記走査方向の両側に隣接する補正領域上に位置する際に、前記狭小非描画スポット群の光強度が、前記狭小非描画領域から前記走査方向に離れるに従って増大するように調節されることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項6】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記上下方向であり、
前記制御部による制御によって、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、
前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の上側に隣接する上側描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域の上方に位置する際にもOFFとされることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項7】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記複数の光スポットでは階調の調節が可能であり、
前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記上下方向であり、
前記制御部による制御によって、
前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、
前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の上側に隣接する上側描画領域を含む複数の描画対象層において前記狭小非描画領域の上方に位置する際に、前記狭小非描画スポット群の光強度が、上側に向かうに従って増大するように調節されることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の3次元造形装置であって、
前記ステージ上の造形材料の上面における温度分布を測定する温度測定部をさらに備え、
前記補正閾値は可変であり、前記温度測定部により測定された前記非描画領域と対応する領域における温度が高温になるに従って前記補正閾値が小さくなることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項9】
3次元造形方法であって、
a)粉末状の造形材料をステージ上に供給する工程と、
b)所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、前記ステージ上に供給された造形材料の表層である描画対象層上にて、造形物の設計データに基づいて変調しつつ所定の走査方向に走査する工程と、
c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程と、
を備え、
前記設計データにて描画が指示されていない非描画領域は、前記走査方向、前記走査方向に垂直かつ前記ステージに平行な幅方向、および、前記ステージに垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域を含み、
前記b)工程では、前記設計データにて描画が指示されている描画領域のうち前記狭小非描画領域に隣接する領域に対する光の照射が抑制されることを特徴とする3次元造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形に係る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂粉末や金属粉末等の造形材料に変調されたレーザ光を照射し、造形材料を溶融し、固化させることにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の3次元造形装置が使用されている。
【0003】
例えば、粉末床方式の3次元造形装置では、構築プラットフォーム上に樹脂粉末を薄く層状に敷き詰め、当該樹脂粉末の層上においてレーザ光をガルバノミラー等で走査することにより、レーザ光の照射領域の粉末樹脂を溶融させる。そして、当該動作を繰り返し、溶融した樹脂粉末を積層して固化することにより造形物が作成される。粉末床方式の3次元造形装置では、一般的に、構築プラットフォーム上の樹脂粉末を、当該樹脂粉末の融点よりも数℃~十数℃低い所定の予熱温度まで加熱し、当該予熱温度にて維持されている樹脂粉末にレーザ光が照射される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-509094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、構築プラットフォーム上の樹脂粉末の層では、レーザ光の照射領域(すなわち、描画領域)の温度は上昇し、描画領域の周囲の非描画領域へと熱拡散が生じる。また、描画領域と非描画領域との境界近傍ではレーザ光の光量は漸次変化するため、非描画領域の端部における光量は0ではない。このため、2つの描画領域に挟まれた細い非描画領域等では、描画領域からの熱拡散および描画領域の端部光量の影響により、意図に反する樹脂粉末の溶融が生じ、造形物の寸法精度が低下するおそれがある。
【0006】
また、構築プラットフォームにおいて、パターンが描画された樹脂粉末の層(以下、「既描画層」とも呼ぶ。)上に新たな樹脂粉末が供給された場合、新たな樹脂粉末の層では、既描画層の描画領域および周囲の領域の直上の温度が、所定の予熱温度よりも高くなることがある。したがって、新たな樹脂粉末の層において当該描画領域の直上にレーザ光を照射した場合、レーザ光の照射領域の周囲において、意図に反する樹脂粉末の溶融が生じるおそれがある。特に、上述のように、2つの描画領域に挟まれた細い非描画領域では、意図に反する樹脂粉末の溶融が生じる可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、造形物を精度良く形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、3次元造形装置であって、粉末状の造形材料を保持するステージ、および、前記ステージ上に造形材料を供給する材料供給部を有する材料保持部と、所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、前記ステージ上の造形材料上にて変調しつつ走査する光学ヘッドと、造形物の設計データに基づいて前記材料保持部および前記光学ヘッドを制御することにより、前記ステージ上に造形材料を供給し、供給された造形材料の表層である描画対象層上にて、前記マルチスポットビームを所定の走査方向に走査して、光が照射された領域の造形材料を溶融させてパターンを描画することを繰り返させる制御部と、を備える。前記設計データにて描画が指示されていない非描画領域は、前記走査方向、前記走査方向に垂直かつ前記ステージに平行な幅方向、および、前記ステージに垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域を含む。前記制御部による制御によって、前記設計データにて描画が指示されている描画領域のうち前記狭小非描画領域に隣接する領域に対する光の照射が抑制される。
【0009】
本発明の態様2は、態様1の3次元造形装置であって、前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記幅方向である。前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が前記狭小非描画領域上に位置する際に、前記制御部による制御によって、前記狭小非描画スポット群、および、前記狭小非描画スポット群の前記配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群がOFFとされる。
【0010】
本発明の態様3は、態様1の3次元造形装置であって、前記複数の光スポットでは階調の調節が可能である。前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記幅方向である。前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が前記狭小非描画領域上に位置する際に、前記制御部による制御によって、前記狭小非描画スポット群がOFFとされ、前記狭小非描画スポット群の前記配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群において、各補正スポット群に含まれる2つ以上の光スポットの光強度が、前記狭小非描画スポット群から前記配列方向において離れるに従って増大するように調節される。
【0011】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つ、であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記走査方向である。前記制御部による制御によって、前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の前記走査方向の両側に隣接する補正領域上に位置する際にもOFFとされる。
【0012】
本発明の態様5は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つ、であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記複数の光スポットでは階調の調節が可能である。前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記走査方向である。前記制御部による制御によって、前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の前記走査方向の両側に隣接する補正領域上に位置する際に、前記狭小非描画スポット群の光強度が、前記狭小非描画領域から前記走査方向に離れるに従って増大するように調節される。
【0013】
本発明の態様6は、態様1(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記上下方向である。前記制御部による制御によって、前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の上側に隣接する上側描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域の上方に位置する際にもOFFとされる。
【0014】
本発明の態様7は、態様1(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記複数の光スポットでは階調の調節が可能である。前記狭小非描画領域の前記一の方向は前記上下方向である。前記制御部による制御によって、前記複数の光スポットのうち前記狭小非描画領域上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域を含む描画対象層において前記狭小非描画領域上に位置する際にOFFとされ、前記狭小非描画スポット群が、前記狭小非描画領域の上側に隣接する上側描画領域を含む複数の描画対象層において前記狭小非描画領域の上方に位置する際に、前記狭小非描画スポット群の光強度が、上側に向かうに従って増大するように調節される。
【0015】
本発明の態様8は、態様1ないし7のいずれか1つの3次元造形装置であって、前記ステージ上の造形材料の上面における温度分布を測定する温度測定部をさらに備える。前記補正閾値は可変である。前記温度測定部により測定された前記非描画領域と対応する領域における温度が高温になるに従って前記補正閾値が小さくなる。
【0016】
本発明の態様9は、3次元造形方法であって、a)粉末状の造形材料をステージ上に供給する工程と、b)所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、前記ステージ上に供給された造形材料の表層である描画対象層上にて、造形物の設計データに基づいて変調しつつ所定の走査方向に走査する工程と、c)前記a)工程および前記b)工程を繰り返す工程と、を備える。前記設計データにて描画が指示されていない非描画領域は、前記走査方向、前記走査方向に垂直かつ前記ステージに平行な幅方向、および、前記ステージに垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域を含む。前記b)工程では、前記設計データにて描画が指示されている描画領域のうち前記狭小非描画領域に隣接する領域に対する光の照射が抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、造形物を精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一の実施の形態に係る3次元造形装置の構成を示す図である。
図2】制御部の構成を示す図である。
図3】制御部の機能を示すブロック図である。
図4】3次元造形装置における造形物の形成の流れを示す図である。
図5】造形物の斜視図である。
図6】造形物の横断面図である。
図7】造形物の横断面図である。
図8】比較例の3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図9】第1の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図10】第2の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図11】造形物の斜視図である。
図12】造形物の横断面図である。
図13】第3の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図14】第4の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図15】造形物の斜視図である。
図16】造形物の縦断面図である。
図17】第5の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
図18】第6の補正方法を用いる3次元造形装置においてパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る3次元造形装置1の構成を示す図である。図1に例示する3次元造形装置1は、粉末状の造形材料に変調されたレーザ光を照射することで、造形材料を溶融し、その後固化させることにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の3次元造形装置である。造形材料は、例えば、樹脂、金属、エンジニアリングプラスチックまたはセラミックス等である。当該造形材料は、複数種類の材料を含んでいてもよい。本実施の形態では、造形材料は粉末状の合成樹脂である。
【0020】
3次元造形装置1は、光学ヘッド2と、材料保持部3と、温度測定部4と、制御部5とを備える。材料保持部3は、光学ヘッド2の下方に配置され、粉末状の造形材料91を保持する。図1では、材料保持部3を縦断面にて示し、造形材料91に平行斜線を付す。光学ヘッド2は、材料保持部3により保持される造形材料91上において、レーザ光を変調しつつ走査する。光学ヘッド2から造形材料91に照射される光は、所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームである。温度測定部4は、材料保持部3に保持される造形材料91の温度を測定する。制御部5は、光学ヘッド2、材料保持部3および温度測定部4を制御する。
【0021】
材料保持部3は、造形部31と、材料供給部32とを備える。造形部31は、第1シリンダ33と、第1ピストン34とを備える。第1シリンダ33は、上下方向に延びる筒状の部材である。第1シリンダ33の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第1ピストン34は、第1シリンダ33の内部空間に収容される部材である。第1ピストン34は、第1シリンダ33の内部空間において、上下方向に移動可能である。第1ピストン34は、上下方向に略垂直な略平板状のステージ341と、ステージ341を下方から支持する支柱342と、を備える。ステージ341の平面視における形状は、第1シリンダ33の内部空間の平面視における形状と略同じである。
【0022】
造形部31では、第1シリンダ33の内側面とステージ341の上面とにより囲まれる3次元空間が、3次元造形が行われる造形空間30となる。造形空間30では、粉末状の造形材料91がステージ341上に保持される。すなわち、3次元造形装置1は、粉末床方式の3次元造形装置である。
【0023】
造形部31は、ステージ341上の造形材料91を加熱するヒータ35を備える。ヒータ35は、ステージ341上の造形材料91に略一様にエネルギーを付与することにより、造形材料91を融点未満の温度まで昇温させて維持する。図1に示す例では、ヒータ35は、第1ヒータ351と、第2ヒータ352とを備える。第1ヒータ351は、ステージ341の上部に設けられる略平板状の電熱ヒータである。第1ヒータ351は、例えば、ステージ341に内蔵され、平面視においてステージ341の略全面に亘って設けられる。第2ヒータ352は、ステージ341の上方に離間して配置され、ステージ341に向けて光を照射するハロゲンランプである。ヒータ35の構成および配置等は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0024】
材料供給部32は、第2シリンダ35と、第2ピストン36と、スキージ37とを備える。第2シリンダ35は、上下方向に延びる筒状の部材であり、第1シリンダ33の側方に隣接して配置される。第2シリンダ35の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第2ピストン36は、第2シリンダ35の内部空間に収容される部材である。第2ピストン36は、第2シリンダ35の内部空間において、上下方向に移動可能である。第2ピストン36の平面視における形状は、第2シリンダ35の内部空間と略同じである。
【0025】
材料供給部32では、第2シリンダ35の内側面と第2ピストン36の上面とにより囲まれる3次元空間が、造形部31に供給される予定の造形材料91が貯溜される貯溜空間となる。スキージ37は、第2シリンダ35の上部開口を横断して水平方向に延びる棒状(例えば、略円柱状)または板状の部材である。スキージ37は、第2シリンダ35の上端面に沿って水平方向に移動可能である。
【0026】
材料保持部3において、ステージ341上に造形材料91が供給される際には、造形部31の第1ピストン34が所定距離だけ下降する。これにより、ステージ341上の造形材料91の上面が、第1シリンダ33の上端面よりも下側に位置する。一方、材料供給部32では、第2ピストン36が所定距離だけ上昇し、第2シリンダ35内の造形材料91が上方へと持ち上げられる。そして、スキージ37が第2シリンダ35上から第1シリンダ33上へと移動することにより、第2シリンダ35の上端面よりも上側に突出する造形材料91が、造形部31の造形空間30内に供給される。造形空間30内に保持された造形材料91の上面は、第1シリンダ33の上端面と略同じ高さに位置する。
【0027】
光学ヘッド2は、レーザ光源21と、照明光学系221と、光変調器222と、第1投影光学系223と、走査部23と、第2投影光学系224とを備える。レーザ光源21は、光学装置22へとレーザ光を出射する。レーザ光源21は、例えば、ファイバレーザ光源である。なお、レーザ光源21の種類は、様々に変更されてよい。また、レーザ光源21から出射されるレーザ光の波長は、造形材料91の種類等に合わせて適宜設定される。
【0028】
照明光学系221、光変調器222および第1投影光学系223は、レーザ光源21からのレーザ光を変調ビームに変調し、走査部23へと照射する。第2投影光学系224は、走査部23からのマルチスポットビームをステージ341上の造形材料91へと導く。照明光学系221、第1投影光学系223および第2投影光学系224はそれぞれ、レンズ等の光学素子を複数備える。
【0029】
照明光学系221は、例えば、レーザ光源21からのレーザ光を、一の方向(以下、「長軸方向」と呼ぶ。)に長い略矩形状の整形ビームに整形して光変調器222へと導く。換言すれば、整形ビームの断面形状は、長軸方向に長く、長軸方向に垂直な短軸方向に短い略矩形である。長軸方向および短軸方向は、整形ビームの進行方向(すなわち、光軸方向)に垂直な方向である。また、整形ビームの断面形状とは、整形ビームの進行方向に対して垂直な面における整形ビームの形状である。整形ビームの断面形状は、長軸方向に延びる略直線状と捉えることもできる。
【0030】
光変調器222は、照明光学系221からの整形ビームを、変調ビームに変調して投影光学系223へと導く。光変調器222としては、例えば、PLV(Planar Light Valve)の一種であるLPLV(Liner Planar Light Valve)が利用される。上記変調ビームは、長軸方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームである。マルチスポットビームの各光スポットでは、階調の調節(すなわち、出射光の光強度の調節)が可能である。なお、光変調器222は、必ずしもLPLVである必要はなく、他の構造を有していてもよい。
【0031】
走査部23は、第1投影光学系223からの変調ビーム(すなわち、マルチスポットビーム)を反射し、第2投影光学系224を介して材料保持部3の造形空間30内の造形材料91上で走査する。走査部23は、例えば、リレーレンズ231と、ガルバノスキャナ232とを備える。ガルバノスキャナ232は、ガルバノミラー233と、ガルバノモータ(図示省略)とを備える走査機構である。走査部23では、ガルバノモータによってガルバノミラー233が回転することにより、ガルバノミラー233により反射されるマルチスポットビームの進行方向が変更される。その結果、造形材料91上に照射されたマルチスポットビームが、マルチスポットビームの長軸方向に対して傾斜する(例えば、長軸方向に垂直な)走査方向に走査される。
【0032】
図1に示す例では、図中の左右方向が、ステージ341に平行な上記走査方向である。また、図1の紙面に垂直な方向は、当該走査方向に垂直、かつ、ステージ341に平行な幅方向(すなわち、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向)である。なお、走査部23は、必ずしもガルバノスキャナを備える必要はなく、他の構造を有していてもよい。
【0033】
温度測定部4は、ステージ341上の造形材料91の上面における温度分布を測定する。温度測定部4は、例えば、ステージ341上の造形材料91の上面を略全面に亘って撮像可能な赤外線サーモグラフィカメラである。温度測定部4による測定結果(例えば、撮像画像)は、制御部5へと送られる。
【0034】
図2は、制御部5の構成を示す図である。制御部5は、プロセッサ51と、メモリ52と、入出力部53と、バス54とを備える通常のコンピュータである。バス54は、プロセッサ51、メモリ52および入出力部53を接続する信号回路である。メモリ52は、各種情報を記憶する。メモリ52は、例えば、記憶媒体50に予め記憶されているプログラムプロダクトであるプログラム59を読み出して記憶する。記憶媒体50は、例えば、USBメモリやCD-ROMである。プロセッサ51は、メモリ52に記憶される上記プログラム59等に従って、メモリ52等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値計算)を実行する。入出力部53は、オペレータからの入力を受け付けるキーボード55およびマウス56、並びに、プロセッサ51からの出力等を表示するディスプレイ57を備える。入出力部53は、プロセッサ51からの出力等を送信する送信部58も備える。
【0035】
図3は、制御部5によって上記プログラム59が実行されることにより実現される機能を示すブロック図である。3次元造形装置1は、制御部5により実現される機能として、記憶部501と、補正部502と、描画制御部503とを備える。記憶部501は、主にメモリ52により実現され、3次元造形装置1により形成される造形物の設計データ、および、温度測定部4により測定された造形材料91の温度分布等を記憶する。補正部502および描画制御部503は、主にプロセッサ51により実現される。補正部502は、造形物の設計データを補正する。描画制御部503は、材料保持部3および光学ヘッド2等を制御する。
【0036】
次に、図4を参照しつつ、3次元造形装置1における造形物の形成の流れについて説明する。3次元造形装置1では、まず、形成予定の3次元の造形物の設計データが制御部5の記憶部501に記憶される(ステップS11)。当該設計データは、造形物を上下方向において所定の厚さ毎にスライスした横断面を示すデータ(以下、「断面データ」とも呼ぶ。)の集合である。当該断面データは、造形物を上下方向に積層される複数の層に分割した場合の1つの層に相当する部位の形状を示すデータである。
【0037】
続いて、補正部502により、設計データの補正が行われて描画データが生成される(ステップS12)。ステップS12において生成された描画データは、記憶部501に格納される。ステップS12における設計データの補正の詳細については、後述する。
【0038】
次に、描画制御部503によって材料保持部3が制御されることにより、粉末状の造形材料91がステージ341上に供給される(ステップS13)。ステージ341上の造形材料91は、ヒータ35により予熱されて昇温し、造形材料91の融点よりも低く、かつ、造形材料91の結晶点(すなわち、結晶化温度)よりも高い温度にて維持される。例えば、造形材料91として融点185℃、結晶点150℃の樹脂粉末が利用される場合、ステージ341上の造形材料91の温度は、150℃よりも高く、かつ、185℃よりも低い温度(例えば、約173℃)に維持される。これにより、ステージ341上の造形材料91は、溶融することなく粉末の状態で維持される。また、ステージ341上において溶融した造形材料91は、固化することなく溶融した状態で維持される。
【0039】
そして、描画制御部503によって光学ヘッド2が制御されることにより、上述のマルチスポットビームが、ステージ341上に供給された造形材料91の表層(以下、「描画対象層92」とも呼ぶ。)において、上述の描画データを用いて変調されつつ上記走査方向に走査される(ステップS14)。これにより、描画対象層92において光が照射された領域の造形材料91の温度が上昇して融点以上の造形温度(例えば、約220℃)になり、当該領域の造形材料91が溶融して描画対象層92にパターン(すなわち、溶融した造形材料91により構成されるパターン)が描画される。
【0040】
なお、ステップS14におけるパターンの描画は、マルチスポットビームが走査方向に1回のみ走査されるワンパス描画により行われてもよく、マルチスポットビームの走査方向への走査と幅方向(すなわち、副走査方向)へのステップ移動とが繰り返されるマルチパス描画により行われてもよい。
【0041】
描画対象層92では、光が照射された領域において溶融した造形材料91から、当該領域の周囲の造形材料91へと熱が拡散する。これにより、光が照射された領域の造形材料91の温度は低下するが、描画対象層92の造形材料91の温度はヒータ35により上記結晶点よりも高温に維持されているため、当該領域において造形材料91は溶融状態にて維持される。
【0042】
描画対象層92に対するパターンの描画が終了すると、造形物の形成が完了したか否かが確認される(ステップS15)。造形物の形成が完了していない場合は、ステップS13へと戻り、ステージ341上においてパターンが描画された造形材料91の層上に、新たに造形材料91が供給されて新たな描画対象層92が形成される(ステップS13)。そして、新たな描画対象層92上においてマルチスポットビームが走査され、溶融された造形材料91によるパターンが描画される(ステップS14)。
【0043】
上述のように、ステップS14にて描画されたパターンでは、造形材料91が溶融状態で維持されており、1回前のステップS14にて描画されたパターンにおいても、造形材料91が溶融状態で維持されている。このように、3次元造形装置1では、溶融状態の造形材料91が積層されるため、固化した際に積層方向(すなわち、上下方向)における結合力が高い造形物が形成される。
【0044】
3次元造形装置1では、造形物の形成が完了するまで、ステップS13~S14が繰り返される。ステップS13~S14が繰り返されている間、ヒータ35による造形材料91の加熱は継続され、ステップS13~S14の繰り返しが終了すると、ヒータ35による造形材料91の加熱も終了する。これにより、上述のパターンにおいて溶融状態で維持されていた造形材料91が結晶点以下まで降温して固化し、固化した造形材料91により構成される3次元の造形物が形成される。
【0045】
次に、3次元造形装置1における造形物の形成と、比較例の3次元造形装置における造形物の形成とを比較しつつ、上述のステップS12における設計データの補正について説明する。比較例の3次元造形装置は、3次元造形装置1と略同様の構造を有するが、造形物の形成の際に、ステップS12における設計データの補正を行わない。すなわち、比較例の3次元造形装置では、ステップS14において、補正されていない設計データを使用して描画対象層92に対する描画が行われる。
【0046】
図5は、3次元造形装置1および比較例の3次元造形装置により造形される予定の造形物81を示す斜視図である。造形物81は略直方体状であり、造形物81の上面には、第1溝811および第2溝812が設けられる。第1溝811および第2溝812は、上述の走査方向に平行に延びる略直線状の溝であり、造形物81の走査方向の全長に亘って設けられる。第1溝811および第2溝812の深さは同じであり、造形物81の高さよりも小さい。第1溝811の幅方向の大きさは、第2溝812の幅方向の大きさよりも小さい。
【0047】
図6は、図5中のVI-VIの位置における造形物81の横断面813を示す図である。図7は、図5中のVII-VIIの位置における造形物81の横断面814を示す図である。横断面813,814にそれぞれ対応する断面データは、上述の設計データ(すなわち、補正前の設計データ)に含まれている。横断面813では、造形物81に対応する矩形領域全体が、設計データにおいて描画が指示されている描画領域815である。図6では、描画領域815に平行斜線を付す。
【0048】
横断面814では、横断面813における描画領域815の直上の矩形領域のうち、第1溝811および第2溝812にそれぞれ対応する矩形帯状の領域は、設計データにおいて描画が指示されていない非描画領域816,817である。また、非描画領域816の左側の矩形領域、非描画領域816と非描画領域817との間の矩形領域、および、非描画領域817の右側の矩形領域はそれぞれ、設計データにおいて描画が指示されている描画領域815a,815b,815cである。図7では、描画領域815a,815b,815cに平行斜線を付す。
【0049】
図7に示す例では、第1溝811に対応する非描画領域816の幅方向(すなわち、図中の左右方向)における大きさは、所定の補正閾値以下である。また、第2溝812に対応する非描画領域817の幅方向における大きさは、当該補正閾値(すなわち、幅方向における補正閾値)よりも大きい。以下の説明では、非描画領域816を「狭小非描画領域816」とも呼ぶ。すなわち、図7に示す例では、非描画領域816,817は、狭小非描画領域816を含む。
【0050】
図8は、比較例の3次元造形装置において横断面814に対応するパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。図8中において(a)の符号を付す図(以下、図8(a)とも呼ぶ。)は、横断面814における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)を示す図である。図8(b)は、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図8(b)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は光量を示す。図8(c)は、図8(b)に示す光量プロファイルを有するマルチスポットビームが照射された描画対象層92における温度分布を示す図である。図8(c)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図8(d)は、横断面814における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)を示す図である。
【0051】
比較例の3次元造形装置では、上述のように、設計データに対する補正が行われないため、図8(b)に示すように、設計パターンの描画領域815a,815b,815cと同じ幅の領域が、マルチスポットビームのスポットが点灯されるON領域711a,711b,711cとされる。また、設計パターンの非描画領域816,817と同じ幅の領域が、マルチスポットビームのスポットが消灯されるOFF領域712,713とされる。図8(c)中において実線にて示すように、ON領域711a,711b,711cでは、描画対象層92における造形材料91の温度は、造形材料91の融点(例えば、185℃)よりも高い所定の造形温度(例えば、220℃)まで上昇する。
【0052】
図8(b)に示すように、ON領域711aにおける光量分布は、略矩形分布となる。また、ON領域711aの幅方向の端部の外側では、光量はいきなり0にはならず、ON領域711aから離れるに従って漸次減少する。以下の説明では、ON領域711aの光スポットにおける光に起因してON領域711aの幅方向の端部の外側に生じる光量を「端部光量」とも呼ぶ。ON領域711b,711cにおいても同様である。
【0053】
幅方向の大きさが比較的大きい非描画領域817に対応するOFF領域713では、幅方向の両端部の光量は、両側に隣接するON領域711b,711cの端部光量によって若干増大する。また、OFF領域713には、ON領域711b,711cからの熱拡散も生じる。このため、図8(c)中において実線にて示すように、OFF領域713における造形材料91の温度は、予熱温度(例えば、173℃)よりも若干上昇する。
【0054】
一方、幅方向の大きさが小さい狭小非描画領域816に対応するOFF領域712では、図8(b)に示すように、両側に隣接するON領域711a,711bの端部光量が累積するため、非描画領域817に対応するOFF領域713よりも光量が大きくなる。また、OFF領域712では、ON領域711a,711bから拡散される熱も重複する。したがって、図8(c)中において実線にて示すように、OFF領域712における造形材料91の温度は、OFF領域713における造形材料91の温度よりも高くなる。
【0055】
その後、時間経過に伴うON領域711a,711b,711cからの熱拡散により、図8(c)中において二点鎖線にて示すように、ON領域711a,711b,711cにおける造形材料91の温度は低下し、OFF領域712,713における造形材料91の温度は上昇する。その結果、OFF領域712における造形材料91の温度が融点(例えば、185℃)よりも高くなり、OFF領域712において、意図に反した造形材料91の溶融が生じるおそれがある。その結果、図8(d)に示すように、実際の描画パターンにおいて、描画領域815aと描画領域815bとの間で狭小非描画領域816が消滅するか、あるいは、狭小非描画領域816の幅が設計値よりも小さくなる。なお、OFF領域713における造形材料91の温度は融点まで上昇しないため、OFF領域713では造形材料91の溶融は生じない。したがって、非描画領域817は、描画領域815bと描画領域815cとの間に存在する。
【0056】
これに対し、本実施の形態にかかる3次元造形装置1では、上述のステップS12において、補正部502(図3参照)による設計データの補正が行われて描画データが生成され、当該描画データに基づいて、描画対象層92(図1参照)に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが調節されることにより、意図に反した造形材料91の溶融が抑制される。
【0057】
図9は、3次元造形装置1において横断面814に対応するパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。図9(a)は、横断面814における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)を示す図であり、図8(a)に示すものと同じである。図9(b)は、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図9(b)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は光量を示す。図9(c)は、図9(b)に示す光量プロファイルを有するマルチスポットビームが照射された描画対象層92における温度分布を示す図である。図9(c)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図9(d)は、横断面814における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)を示す図である。
【0058】
3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図9(b)に示すように、狭小非描画領域816に対応するOFF領域715の幅方向の幅が、図8(b)に示すOFF領域712の幅方向の幅(すなわち、設計パターンにおける狭小非描画領域816の幅)よりも大きくされる。具体的には、設計パターンの描画領域815aに対応するON領域714aとOFF領域715との境界が、図8(b)に示すON領域711aとOFF領域712との境界よりも左側へと移動する。また、設計パターンの描画領域815bに対応するON領域714bとOFF領域715との境界が、図8(b)に示すON領域711bとOFF領域712との境界よりも右側へと移動する。
【0059】
すなわち、3次元造形装置1では、描画領域815a,815bのうち狭小非描画領域816に隣接する領域(以下、「狭小部隣接領域818」とも呼ぶ。)に対する光の照射が抑制される。換言すれば、狭小部隣接領域818における単位面積当たりの積算光量が、描画領域815a,815bのうち狭小部隣接領域818を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図9(a)では、各狭小部隣接領域818を二点鎖線にて囲んで示す。
【0060】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち、狭小非描画領域816上を通過する1つ以上の光スポット(以下、「狭小非描画スポット群」とも呼ぶ。)が、狭小非描画領域816上に位置する際にOFFとされるとともに、狭小非描画スポット群の幅方向の両側に隣接する2つの光スポット群(以下、「補正スポット群」とも呼ぶ。)もOFFとされることにより実現される。
【0061】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向において連続して配置される。各補正スポット群は、1つまたは2つ以上の光スポットを含む。各補正スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは上記配列方向において連続して配置される。各補正スポット群に含まれる光スポットの数は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。また、各補正スポット群と狭小非描画スポット群との間には、他の光スポットは存在しない。
【0062】
3次元造形装置1では、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図9(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域816に対応するOFF領域715において、両側に隣接するON領域714a,714bの端部光量が累積することが抑制される。また、OFF領域715において、ON領域714a,714bから拡散される熱が重複することも抑制される。
【0063】
このため、OFF領域715における造形材料91の温度は、図9(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、図8(c)に示すOFF領域712程は上昇しない。また、時間経過に伴うON領域714a,714bからの熱拡散が生じた後は、二点鎖線にて示すように、OFF領域715の幅方向中央部における造形材料91の温度は融点(例えば、185℃)未満となり、OFF領域715の幅方向両端部における造形材料91の温度は融点以上となる。したがって、OFF領域715の幅方向中央部においては、図8(c)に示すOFF領域712とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。一方、OFF領域715の幅方向両端部においては、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0064】
3次元造形装置1では、マルチスポットビームにおける上述の補正スポット群以外の光スポットのON/OFF(例えば、非描画領域817および描画領域815cに対応するOFF領域716およびON領域714cにおけるON/OFF等)は、比較例の3次元造形装置と同じである。このため、描画領域815a,815b,815cにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、非描画領域817では、設計データどおり造形材料91の溶融は生じない。その結果、図9(d)に示すように、描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0065】
3次元造形装置1では、ステップS12における設計データの補正方法は、上述のもの(以下、「第1の補正方法」とも呼ぶ。)には限定されず、様々に変更されてよい。以下、第2の補正方法について説明する。
【0066】
図10は、第2の補正方法を用いる3次元造形装置1において横断面814に対応するパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。図10(a)は、横断面814における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)を示す図であり、図9(a)に示すものと同じである。図10(b)は、第2の補正方法にて生成された描画データに基づいて描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図10(b)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は光量を示す。図10(c)は、図10(b)に示す光量プロファイルを有するマルチスポットビームが照射された描画対象層92における温度分布を示す図である。図10(c)中の横軸は幅方向を示し、縦軸は描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図10(d)は、横断面814における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)を示す図である。
【0067】
第2の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図10(b)に示すように、狭小非描画領域816に対応するOFF領域718の幅方向の両側において、設計パターンの描画領域815a,815bに対応するON領域717a,717bとOFF領域718との境界がテーパ状とされる。具体的には、ON領域717aのうちOFF領域718側の端部における光量が、OFF領域718に近付くに従って漸次減少する。また、ON領域717bのうちOFF領域718側の端部における光量が、OFF領域718に近付くに従って漸次減少する。OFF領域718の幅(すなわち、図10(b)中において光量が0近傍にて大きく変動していない領域の幅)は、図8(b)に示すOFF領域712の幅(すなわち、設計パターンにおける狭小非描画領域816の幅)と同じである。なお、OFF領域718の幅は、OFF領域712の幅よりも大きくてもよく、小さくてもよい。
【0068】
すなわち、第2の補正方法を用いる3次元造形装置1においても、第1の補正方法を用いる3次元造形装置1と略同様に、描画領域815a,815bのうち狭小部隣接領域818に対する光の照射が抑制される。換言すれば、狭小部隣接領域818における単位面積当たりの積算光量が、描画領域815a,815bのうち狭小部隣接領域818を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図10(a)では、各狭小部隣接領域818を二点鎖線にて囲んで示す。
【0069】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域816上に位置する際にOFFとされるとともに、狭小非描画スポット群の幅方向の両側に隣接する2つ補正スポット群において、各補正スポット群に含まれる2つ以上の光スポットの光強度が、狭小非描画スポット群から上記配列方向に離れるに従って増大するように調節されることにより実現される。
【0070】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、上記配列方向において連続して配置される。各補正スポット群は、当該配列方向において連続して配置される2つ以上の光スポットを含む。各補正スポット群では、狭小非描画スポット群から幅方向に最も離れた光スポットの光強度は、描画領域815a,815bのうち狭小部隣接領域818を除く領域と対応する光スポットの光強度と略同じであってもよい。各補正スポット群に含まれる光スポットの数は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。これにより、狭小部隣接領域818と対応する領域における光量プロファイルの勾配が緩やかになる。また、各補正スポット群と狭小非描画スポット群との間には、他の光スポットは存在しない。
【0071】
第2の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図10(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域816に対応するOFF領域718において、幅方向の両側に隣接するON領域717a,717bの端部光量が累積することが抑制される。また、OFF領域718において、ON領域717a,717bから拡散される熱が重複することも抑制される。このため、OFF領域718における造形材料91の温度は、図10(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、時間経過に伴うON領域717a,717bからの熱拡散が生じた後も、二点鎖線にて示すように造形材料91の融点(例えば、185℃)までは上昇しない。したがって、OFF領域718においては、図8(c)に示すOFF領域712とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。また、OFF領域718において造形材料91の溶融が多少生じたとしても、図8(c)に示すOFF領域712における造形材料91の溶融に比べて抑制される。一方、ON領域717a,717bのOFF領域718に隣接する領域では、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0072】
第2の補正方法を用いる3次元造形装置1では、マルチスポットビームにおける上述の補正スポット群以外の光スポットのON/OFF(例えば、非描画領域817および描画領域815cに対応するOFF領域719およびON領域717cにおけるON/OFF等)は、第1の補正方法を用いる3次元造形装置1と同じである。このため、描画領域815a,815b,815cにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、非描画領域817では、設計データどおり造形材料91の溶融は生じない。その結果、図10(d)に示すように、描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0073】
次に、ステップS12において用いられる第3および第4の補正方法について説明する。図11は、第3および第4の補正方法を用いる3次元造形装置1により造形される予定の造形物82を示す斜視図である。造形物82は略直方体状であり、造形物82の上面には、溝821が設けられる。溝821は、上述の幅方向に平行に延びる略直線状の溝であり、造形物82の幅方向の全長に亘って設けられる。溝821の走査方向の大きさは、図5に示す第1溝811の幅方向の大きさと略同じである。
【0074】
図12は、図11中のXII-XIIの位置における造形物82の横断面824を示す図である。横断面824に対応する断面データは、上述の設計データ(すなわち、補正前の設計データ)に含まれている。横断面824では、溝821に対応する矩形帯状の領域は、設計データにおいて描画が指示されていない非描画領域826である。図12に示す例では、非描画領域826の走査方向における大きさは所定の補正閾値以下であり、以下の説明では、非描画領域826を「狭小非描画領域826」とも呼ぶ。なお、当該補正閾値(すなわち、走査方向における補正閾値)は、上述の幅方向における補正閾値と同じであってもよく、異なっていてもよい。横断面824では、狭小非描画領域826の走査方向における両側の矩形領域はそれぞれ、設計データにおいて描画が指示されている描画領域825a,825bである。図12では、描画領域825a,825bに平行斜線を付す。
【0075】
設計データの補正を行わない比較例の3次元造形装置では、描画領域825aの描画中は、上述のマルチスポットビームの全ての光スポットが点灯され、マルチスポットビームが狭小非描画領域826上に位置する際にのみ全ての光スポットが消灯され、描画領域825bの描画中は、全ての光スポットが再び点灯される。このため、図8に示す狭小非描画領域816と略同様に、狭小非描画領域826において意図に反した造形材料91の溶融が生じるおそれがある。
【0076】
これに対し、第3および第4の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正が行われて描画データが生成され、当該描画データに基づいて、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが調節されることにより、意図に反した造形材料91の溶融が抑制される。
【0077】
図13は、第3の補正方法を用いる3次元造形装置1において横断面824に対応するパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。図13(a)は、横断面824における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)の一部を示す図である。図13(b)は、第3の補正方法にて生成された描画データに基づいて描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図13(b)中の縦軸は走査方向を示し、横軸は光量を示す。図13(c)は、図13(b)に示す光量プロファイルを有するマルチスポットビームが照射された描画対象層92における温度分布を示す図である。図13(c)中の縦軸は走査方向を示し、横軸は描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図13(d)は、横断面824における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)の一部を示す図である。
【0078】
第3の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図13(b)に示すように、狭小非描画領域826に対応するOFF領域725の走査方向の幅が、図13(a)に示す設計パターンにおける狭小非描画領域826の走査方向の幅よりも大きくされる。具体的には、設計パターンの描画領域825aに対応するON領域724aとOFF領域725との境界が、描画領域825aと狭小非描画領域826との境界よりも図13中における下側(すなわち、走査方向の手前側)へと移動する。また、設計パターンの描画領域825bに対応するON領域724bとOFF領域725との境界が、描画領域825bと狭小非描画領域826との境界よりも図13中における上側(すなわち、走査方向の奥側)へと移動する。
【0079】
すなわち、第3の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画領域825a,825bのうち狭小非描画領域826に隣接する領域(以下、「補正領域828」とも呼ぶ。)に対する光の照射が抑制される。換言すれば、補正領域828における単位面積当たりの積算光量が、描画領域825a,825bのうち補正領域828を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図13(a)では、各補正領域828を二点鎖線にて囲んで示す。
【0080】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち、狭小非描画領域826上を通過する1つ以上の光スポット(以下、「狭小非描画スポット群」とも呼ぶ。)が、狭小非描画領域826上に位置する際にOFFとされるとともに、狭小非描画スポット群が狭小非描画領域826の走査方向の両側に隣接する補正領域828上に位置する際にもOFFとされることにより実現される。
【0081】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向において連続して配置される。なお、上述の例では、狭小非描画スポット群はマルチスポットビームの全ての光スポットを含む。また、狭小非描画領域826と各補正領域828とは走査方向において連続しており、狭小非描画領域826と各補正領域828との走査方向の間には、他の領域は存在しない。各補正領域828の走査方向の幅は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。
【0082】
第3の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図13(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域826に対応するOFF領域725において、走査方向の両側に隣接するON領域724a,724bの端部光量が累積することが抑制される。また、OFF領域725において、ON領域724a,724bから拡散される熱が重複することも抑制される。このため、OFF領域725における造形材料91の温度は、図13(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、比較例の3次元造形装置における温度上昇程は上昇しない。また、時間経過に伴うON領域724a,724bからの熱拡散が生じた後は、二点鎖線にて示すように、OFF領域725の走査方向中央部における造形材料91の温度は融点(例えば、185℃)未満となり、OFF領域725の走査方向両端部における造形材料91の温度は融点以上となる。したがって、OFF領域725の走査方向中央部においては、比較例の3次元造形装置とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。一方、OFF領域725の走査方向両端部においては、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0083】
第3の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画領域825a,825bにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、図13(d)に示すように、描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0084】
図14は、第4の補正方法を用いる3次元造形装置1において横断面824に対応するパターンを描画する際の光量プロファイル等を示す図である。図14(a)は、横断面824における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)の一部を示す図であり、図13(a)に示すものと同じである。図14(b)は、第4の補正方法にて生成された描画データに基づいて描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図14(b)中の縦軸は走査方向を示し、横軸は光量を示す。図14(c)は、図14(b)に示す光量プロファイルを有するマルチスポットビームが照射された描画対象層92における温度分布を示す図である。図14(c)中の縦軸は走査方向を示し、横軸は描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図14(d)は、横断面824における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)の一部を示す図である。
【0085】
第4の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図14(b)に示すように、狭小非描画領域826に対応するOFF領域728の幅方向の両側において、設計パターンの描画領域825a,825bに対応するON領域727a,727bとOFF領域728との境界がテーパ状とされる。具体的には、ON領域727aのうちOFF領域728側の端部における光量が、OFF領域728に近付くに従って漸次減少する。また、ON領域727bのうちOFF領域728側の端部における光量が、OFF領域728に近付くに従って漸次減少する。OFF領域728の幅は、設計パターンにおける狭小非描画領域826の幅と同じである。なお、OFF領域728の幅は、狭小非描画領域826の幅よりも大きくてもよく、小さくてもよい。
【0086】
すなわち、第4の補正方法を用いる3次元造形装置1においても、第3の補正方法を用いる3次元造形装置1と略同様に、描画領域825a,825bのうち補正領域828に対する光の照射が抑制される。換言すれば、補正領域828における単位面積当たりの積算光量が、描画領域825a,825bのうち補正領域828を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図14(a)では、各補正領域828を二点鎖線にて囲んで示す。各補正領域828は、マルチスポットビームの2つ以上の光スポットに対応する。補正領域828の当該2つ以上の光スポットのうち、狭小非描画領域826から走査方向において最も離れている光スポットによる単位面積当たりの積算光量は、描画領域825a,825bのうち補正領域828を除く領域における単位面積当たりの積算光量と略同じであってもよい。
【0087】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域826上に位置する際にOFFとされるとともに、補正領域828上に位置する際に、狭小非描画スポット群の各光スポットの光強度が、狭小非描画領域826から走査方向に離れるに従って増大するように調節されることにより実現される。
【0088】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向において連続して配置される。なお、上述の例では、狭小非描画スポット群はマルチスポットビームの全ての光スポットを含む。また、狭小非描画領域826と各補正領域828とは走査方向において連続しており、狭小非描画領域826と各補正領域828との走査方向の間には、他の領域は存在しない。各補正領域828の走査方向の幅は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。これにより、補正領域828における光量プロファイルの勾配が緩やかになる。
【0089】
第4の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図14(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域826に対応するOFF領域728において、走査方向の両側に隣接するON領域727a,727bの端部光量が累積することが抑制される。また、OFF領域728において、ON領域727a,727bから拡散される熱が重複することも抑制される。このため、OFF領域728における造形材料91の温度は、図14(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、時間経過に伴うON領域727a,727bからの熱拡散が生じた後も、二点鎖線にて示すように造形材料91の融点(例えば、185℃)までは上昇しない。したがって、OFF領域728においては、比較例の3次元造形装置とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。また、OFF領域728において造形材料91の溶融が多少生じたとしても、比較例の3次元造形装置における造形材料91の溶融に比べて抑制される。一方、ON領域727a,727bのOFF領域728に隣接する領域では、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0090】
第4の補正方法を用いる3次元造形装置1では、第3の補正方法を用いる3次元造形装置1と略同様に、描画領域825a,825bにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、図14(d)に示すように、描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0091】
次に、ステップS12において用いられる第5および第6の補正方法について説明する。図15は、第5および第6の補正方法を用いる3次元造形装置1により造形される予定の造形物83を示す斜視図である。造形物83は略直方体状であり、造形物83の左側面には、溝831が設けられる。溝831は、上述の走査方向に平行に延びる略直線状の溝であり、造形物83の走査方向の全長に亘って設けられる。溝831の上下方向の大きさは、図5に示す第1溝811の幅方向の大きさと略同じである。溝831の幅方向の大きさは、溝831の上下方向の大きさよりも大きい。
【0092】
図16は、図15中のXVI-XVIの位置における造形物83の縦断面834を示す図である。縦断面834では、溝831に対応する矩形帯状の領域は、設計データにおいて描画が指示されていない非描画領域836である。図16に示す例では、非描画領域836の上下方向における大きさは所定の補正閾値以下であり、以下の説明では、非描画領域836を「狭小非描画領域836」とも呼ぶ。なお、当該補正閾値(すなわち、上下方向における補正閾値)は、上述の走査方向における補正閾値、および、幅方向における補正閾値と同じであってもよく、異なっていてもよい。縦断面834では、狭小非描画領域836の上下方向における両側の矩形領域はそれぞれ、設計データにおいて描画が指示されている描画領域835a,835bである。図16では、描画領域835a,835bに平行斜線を付す。
【0093】
設計データの補正を行わない比較例の3次元造形装置では、上述のマルチスポットビームのうち縦断面834の描画に使用される光スポットは、描画領域835aに対応する描画対象層92の描画中は点灯され、狭小非描画領域836に対応する描画対象層92の描画中は消灯され、描画領域835bに対応する描画対象層92の描画中は再び点灯される。このため、描画領域835bのうち狭小非描画領域836の直上の領域が描画された際に、当該直上の領域から下方へと拡散する熱等により、狭小非描画領域836において意図に反した造形材料91の溶融が生じるおそれがある。
【0094】
これに対し、第5および第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正が行われて描画データが生成され、当該描画データに基づいて、描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが調節されることにより、意図に反した造形材料91の溶融が抑制される。
【0095】
図17は、第5の補正方法を用いる3次元造形装置1において縦断面834に対応する描画が行われる際の光量プロファイル等を示す図である。図17(a)は、縦断面834における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)を示す図である。図17(b)は、第5の補正方法にて生成された描画データに基づいて、縦断面834の各描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図17(b)中の縦軸は上下方向を示し、横軸は光量を示す。図17(c)は、縦断面834に対応する複数の描画対象層92における温度分布を示す図である。図17(c)中の縦軸は上下方向を示し、横軸は各描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図17(d)は、縦断面834における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)を示す図である。
【0096】
第5の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図17(b)に示すように、狭小非描画領域836に対応するOFF領域735の上下方向の幅が、図17(a)に示す設計パターンにおける狭小非描画領域836の上下方向の幅よりも大きくされる。具体的には、設計パターンの描画領域835bに対応するON領域734bとOFF領域735との境界が、描画領域835bと狭小非描画領域836との境界よりも図17中における上側(すなわち、上下方向の上側)へと移動する。なお、描画領域835aに対応するON領域734aとOFF領域735との境界は、描画領域835aと狭小非描画領域836との境界と上下方向の同じ位置に位置する。
【0097】
すなわち、第5の補正方法を用いる3次元造形装置1では、狭小非描画領域836の上側に位置する描画領域835bのうち、狭小非描画領域836に隣接する領域(以下、「上側描画領域838」とも呼ぶ。)に対する光の照射が抑制される。換言すれば、上側描画領域838における単位面積当たりの積算光量が、描画領域835bのうち上側描画領域838を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図17(a)では、上側描画領域838を二点鎖線にて囲んで示す。上側描画領域838は、狭小非描画領域836を含む描画対象層92の上側に隣接する1つの描画対象層92のみに設けられてもよく、狭小非描画領域836を含む描画対象層92の上側に隣接する複数の描画対象層92に亘って設けられてもよい。
【0098】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち、狭小非描画領域836上を通過する1つ以上の光スポット(以下、「狭小非描画スポット群」とも呼ぶ。)が、狭小非描画領域836を含む描画対象層92において狭小非描画領域836上に位置する際にOFFとされるとともに、狭小非描画スポット群が、上側描画領域838を含む描画対象層92において狭小非描画領域836の上方に位置する際にもOFFとされることにより実現される。
【0099】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向において連続して配置される。なお、上述の例では、狭小非描画スポット群は、マルチスポットビームの幅方向の左端部に位置する複数の光スポットにより構成される。また、狭小非描画領域836と上側描画領域838とは上下査方向において連続しており、狭小非描画領域836と上側描画領域838との上下方向の間には、他の領域(すなわち、他の描画対象層92)は存在しない。上側描画領域838を含む描画対象層92は、1層であってもよく、上下方向に連続する複数の層であってもよい。上側描画領域838を含む描画対象層92の数は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。
【0100】
第5の補正方法を用いる3次元造形装置1では、縦断面834に対応する複数の描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図17(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域836に対応するOFF領域735に、上側描画領域838に対応するON領域734bから過剰に熱が伝達されることが抑制される。このため、OFF領域735における造形材料91の温度は、図17(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、比較例の3次元造形装置における温度上昇程は上昇しない。また、時間経過に伴うON領域734bからの熱拡散が生じた後は、二点鎖線にて示すように、OFF領域735の下部における造形材料91の温度は融点(例えば、185℃)未満となり、OFF領域735の上部における造形材料91の温度は融点以上となる。したがって、OFF領域735の下部においては、比較例の3次元造形装置とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。一方、OFF領域735の上部においては、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0101】
第5の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画領域835a,835bにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、図17(d)に示すように、上下方向に積層される複数の描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0102】
図18は、第6の補正方法を用いる3次元造形装置1において縦断面834に対応する描画が行われる際の光量プロファイル等を示す図である。図18(a)は、縦断面834における設計データ上のパターン(すなわち、設計パターン)を示す図である。図18(b)は、第6の補正方法にて生成された描画データに基づいて、縦断面834の各描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルを示すグラフである。図18(b)中の縦軸は上下方向を示し、横軸は光量を示す。図18(c)は、縦断面834に対応する複数の描画対象層92における温度分布を示す図である。図18(c)中の縦軸は上下方向を示し、横軸は各描画対象層92における造形材料91の温度を示す。図18(d)は、縦断面834における実際に描画されたパターン(すなわち、描画パターン)を示す図である。
【0103】
第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正部502による設計データの補正により、図18(b)に示すように、狭小非描画領域836に対応するOFF領域738の上下方向の上側において、設計パターンの描画領域835bに対応するON領域737bとOFF領域738との境界がテーパ状とされる。具体的には、ON領域737bのうちOFF領域738側の端部における光量が、OFF領域738に近付くに従って漸次減少する。OFF領域738の幅は、図18(a)に示す設計パターンにおける狭小非描画領域836の幅と同じである。OFF領域738の幅は、狭小非描画領域836の幅よりも大きくてもよく、小さくてもよい。なお、描画領域835aに対応するON領域737aとOFF領域738との境界は、描画領域835aと狭小非描画領域836との境界と上下方向の同じ位置に位置する。
【0104】
すなわち、第6の補正方法を用いる3次元造形装置1においても、第5の補正方法を用いる3次元造形装置1と略同様に、狭小非描画領域836の上側に位置する描画領域835bのうち、狭小非描画領域836に隣接する上側描画領域838に対する光の照射が抑制される。換言すれば、上側描画領域838における単位面積当たりの積算光量が、描画領域835bのうち上側描画領域838を除く領域における単位面積当たりの積算光量よりも低減される。図18(a)では、上側描画領域838を二点鎖線にて囲んで示す。
【0105】
上側描画領域838は、狭小非描画領域836を含む描画対象層92の上側に隣接する複数の描画対象層92に亘って設けられる。上側描画領域838の最上段の描画対象層92では、上側描画領域838における単位面積当たりの積算光量は、描画領域835bのうち上側描画領域838を除く領域における単位面積当たりの積算光量と略同じであってもよい。
【0106】
上述の光量プロファイルの補正は、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域836を含む描画対象層92において狭小非描画領域836上に位置する際にOFFとされるとともに、狭小非描画スポット群が、上側描画領域838を含む複数の描画対象層92において狭小非描画領域836の上方に位置する際に、狭小非描画スポット群の光強度が上側に向かうに従って増大するように調節されることにより実現される。
【0107】
狭小非描画スポット群が2つ以上の光スポットを含む場合、当該2つ以上の光スポットは、マルチスポットビームにおける複数の光スポットの配列方向において連続して配置される。なお、上述の例では、狭小非描画スポット群は、マルチスポットビームの幅方向の左端部に位置する複数の光スポットにより構成される。また、狭小非描画領域836と上側描画領域838とは上下査方向において連続しており、狭小非描画領域836と上側描画領域838との上下方向の間には、他の領域(すなわち、他の描画対象層92)は存在しない。上側描画領域838を含む描画対象層92の数は、造形材料91の融点と結晶点との差が小さくなるに従って増加することが好ましい。これにより、上側描画領域838における光量プロファイルの勾配が緩やかになる。
【0108】
第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、縦断面834に対応する複数の描画対象層92に照射されるマルチスポットビームの光量プロファイルが、図18(b)に示すように補正されることにより、狭小非描画領域836に対応するOFF領域738に、上側描画領域838に対応するON領域737bから過剰に熱が伝達されることが抑制される。このため、OFF領域738における造形材料91の温度は、図18(c)中において実線にて示すように、予熱温度(例えば、173℃)よりもある程度上昇するものの、時間経過に伴うON領域737bからの熱拡散が生じた後も、二点鎖線にて示すように造形材料91の融点(例えば、185℃)までは上昇しない。したがって、OFF領域738においては、比較例の3次元造形装置とは異なり、造形材料91の溶融は生じない。また、OFF領域738において造形材料91の溶融が多少生じたとしても、比較例の3次元造形装置における造形材料91の溶融に比べて抑制される。一方、ON領域737bのOFF領域738に隣接する領域では、意図通り造形材料91の溶融が生じる。
【0109】
第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、第5の補正方法を用いる3次元造形装置1と略同様に、描画領域835a,835bにおける造形材料91の溶融は設計データ通りに行われ、図18(d)に示すように、上下方向に積層された複数の描画対象層92に対するパターンの描画を、比較例の3次元造形装置に比べて精度良く行うことができる。
【0110】
上述の第1ないし第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、補正閾値(すなわち、幅方向における補正閾値、走査方向における補正閾値、および、上下方向における補正閾値)は、温度測定部4による測定結果に基づいて変更される可変な閾値であってもよい。
【0111】
例えば、図6に示す横断面813対応するパターンが、図中の下側から上側に向かって(すなわち、走査方向の手前側から奥側に向かって)描画された場合、横断面813に対応する造形材料91の層(すなわち、既描画層)上に供給された新たな造形材料91の層では、下層からの熱拡散により、走査方向の奥側の温度が比較的高く、走査方向の手前側の温度が比較的低くなることがある。このような温度差が生じた場合、当該新たな造形材料91の層に、図7に示す横断面814に対応するパターンを描画する場合、狭小非描画領域816における意図しない造形材料91の溶融は、走査方向の奥側(すなわち、図中の上側)の方が、走査方向の手前側(すなわち、図中の下側)よりも生じやすい。
【0112】
そこで、第1および第2の補正方法を用いる3次元造形装置1では、横断面813に対応するパターンの描画後、かつ、横断面814に対応するパターンの描画前に、ステージ341上の造形材料91の上面における温度分布が温度測定部4によって測定される。温度測定部4によって測定される温度分布は、例えば、横断面814に対応するパターンが描画される予定の描画対象層92(すなわち、既描画層上に新たに供給された造形材料91の層)の上面のものである。あるいは、横断面813に対応するパターンが描画された描画対象層92の上面の温度分布が、温度測定部4によって測定されてもよい。
【0113】
そして、補正部502では、温度測定部4により測定された非描画領域816,817と対応する領域における温度に基づいて、上述の補正閾値(すなわち、幅方向における補正閾値)が変更される。当該温度は、横断面814に対応するパターンが描画される際に、非描画領域816,817となる予定の領域の温度であり、以下、「非描画領域温度」とも呼ぶ。補正部502では、非描画領域温度が高くなるに従って、補正閾値が小さくされる。これにより、非描画領域温度が低い場合、非描画領域は狭小非描画領域と判断されにくくなり、非描画領域温度が高い場合、非描画領域は狭小非描画領域と判断されやすくなる。
【0114】
例えば、上述のように、横断面813に対応するパターンの温度が、図中の下側で低く、図中の上側で高い場合、横断面814に対応するパターンにおいて、非描画領域816のうち図中の下側の領域は狭小非描画領域とは判断されず、非描画領域816のうち図中の上側の領域のみが狭小非描画領域と判断される。この場合、非描画領域816のうち図中の上側の領域のみに、第1または第2の補正方法による補正が行われ、非描画領域816のうち図中の下側の領域には、当該補正は行われない。これにより、描画対象層92に対するパターンの描画を、さらに精度良く行うことができる。
【0115】
第3および第6の補正方法を用いる3次元造形装置1においても略同様に、温度測定部4により測定された非描画領域826,836(図12および図16参照)と対応する領域における温度(すなわち、非描画領域温度)が高くなるに従って、補正閾値(すなわち、走査方向における補正閾値、および、上下方向における補正閾値)が小さくされる。これにより、描画対象層92に対するパターンの描画を、さらに精度良く行うことができる。
【0116】
第1ないし第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、描画領域815a,815b,825a,825b,835bのうち狭小非描画領域816,826,836に隣接する領域(すなわち、狭小部隣接領域818、補正領域828および上側描画領域838)に対する光の照射の抑制の程度が、温度測定部4による測定結果に基づいて(すなわち、既描画層の温度に基づいて)変更されてもよい。これにより、描画対象層92に対するパターンの描画を、より一層精度良く行うことができる。
【0117】
例えば、第1の補正方法を用いる3次元造形装置1では、狭小非描画領域816に対応するOFF領域715の幅方向の幅が、既描画層の温度が高くなるに従って大きくされる。第2の補正方法を用いる3次元造形装置1では、ON領域717a,717bのうち狭小部隣接領域818と対応する領域における光量プロファイルの勾配が、既描画層の温度が高くなるに従って緩やかにされ、狭小部隣接領域818の幅方向の幅が広くなる。
【0118】
第3の補正方法を用いる3次元造形装置1では、狭小非描画領域826に対応するOFF領域725の走査方向の幅が、既描画層の温度が高くなるに従って大きくされる。第4の補正方法を用いる3次元造形装置1では、ON領域727a,727bのうち補正領域828と対応する領域における光量プロファイルの勾配が、既描画層の温度が高くなるに従って緩やかにされ、補正領域828の走査方向の幅が広くなる。
【0119】
第5の補正方法を用いる3次元造形装置1では、狭小非描画領域836に対応するOFF領域735の上下方向の幅が、既描画層の温度が高くなるに従って大きくされる。第6の補正方法を用いる3次元造形装置1では、ON領域737bのうち上側描画領域838と対応する領域における光量プロファイルの勾配が、既描画層の温度が高くなるに従って緩やかにされ、上側描画領域838の上下方向の幅が広くなる。
【0120】
以上に説明したように、3次元造形装置1は、材料保持部3と、光学ヘッド2と、制御部5とを備える。材料保持部3は、粉末状の造形材料91を保持するステージ341と、ステージ341上に造形材料91を供給する材料供給部32と、を有する。光学ヘッド2は、所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、ステージ341上の造形材料91上にて変調しつつ走査する。制御部5は、造形物81,82,83の設計データに基づいて材料保持部3および光学ヘッド2を制御することにより、ステージ341上に造形材料91を供給し、供給された造形材料91の表層である描画対象層92上にて、マルチスポットビームを所定の走査方向に走査して、光が照射された領域の造形材料91を溶融させてパターンを描画することを繰り返させる。
【0121】
上記設計データにて描画が指示されていない非描画領域816,817,826,836は、走査方向、走査方向に垂直かつステージ341に平行な幅方向、および、ステージ341に垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域816,826,836を含む。そして、制御部5による制御によって、設計データにて描画が指示されている描画領域815a,815b,815c,825a,825b,835a,835bのうち狭小非描画領域816,826,836に隣接する領域(上記例では、狭小部隣接領域818、補正領域828、上側描画領域838)に対する光の照射が抑制される。
【0122】
これにより、上述のように、狭小非描画領域816,826,836において意図に反する造形材料91の溶融が生じることを抑制することができる。その結果、造形物81,82,83が狭小非描画領域816,826,836を含む場合であっても、造形物81,82,83を精度良く形成することができる。
【0123】
上述のように、狭小非描画領域816の上記一の方向は幅方向である。好ましくは、上述の複数の光スポットのうち、狭小非描画領域816上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が狭小非描画領域816上に位置する際に、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群、および、狭小非描画スポット群の配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群がOFFとされる。これにより、幅方向の幅が小さい狭小非描画領域816を含む造形物81を、精度良く形成することができる。
【0124】
上述のように、狭小非描画領域816の上記一の方向は幅方向である。好ましくは、マルチスポットビームの複数の光スポットでは、階調の調節が可能である。また、好ましくは、当該複数の光スポットのうち狭小非描画領域816上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が狭小非描画領域816上に位置する際に、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群がOFFとされる。さらに好ましくは、狭小非描画スポット群が狭小非描画領域816上に位置する際に、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群の配列方向の両側に隣接する2つの補正スポット群において、各補正スポット群に含まれる2つ以上の光スポットの光強度が、狭小非描画スポット群から配列方向において離れるに従って増大するように調節される。これにより、幅方向の幅が小さい狭小非描画領域816を含む造形物81を、精度良く形成することができる。
【0125】
上述のように、狭小非描画領域826の上記一の方向は走査方向である。好ましくは、制御部5による制御によって、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画領域826上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域826上に位置する際にOFFとされる。また、好ましくは、制御部5による制御によって、当該狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域826の走査方向の両側に隣接する補正領域828上に位置する際にもOFFとされる。これにより、走査方向の幅が小さい狭小非描画領域826を含む造形物82を、精度良く形成することができる。
【0126】
上述のように、狭小非描画領域826の上記一の方向は走査方向である。好ましくは、マルチスポットビームの複数の光スポットでは、階調の調節が可能である。また、好ましくは、制御部5による制御によって、複数の光スポットのうち狭小非描画領域826上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域826上に位置する際にOFFとされる。さらに好ましくは、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域826の走査方向の両側に隣接する補正領域828上に位置する際に、狭小非描画スポット群の光強度が、狭小非描画領域826から走査方向に離れるに従って増大するように調節される。これにより、走査方向の幅が小さい狭小非描画領域826を含む造形物82を、精度良く形成することができる。
【0127】
上述のように、狭小非描画領域836の上記一の方向は上下方向である。好ましくは、制御部5による制御によって、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画領域836上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域836を含む描画対象層92において狭小非描画領域836上に位置する際にOFFとされる。また、好ましくは、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域836の上側に隣接する上側描画領域838を含む描画対象層92において狭小非描画領域836の上方に位置する際にもOFFとされる。これにより、上下方向の幅が小さい狭小非描画領域836を含む造形物83を、精度良く形成することができる。
【0128】
上述のように、狭小非描画領域836の上記一の方向は上下方向である。好ましくは、マルチスポットビームの複数の光スポットでは、階調の調節が可能である。また、好ましくは、制御部5による制御によって、マルチスポットビームの複数の光スポットのうち狭小非描画領域836上を通過する1つ以上の光スポットである狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域836を含む描画対象層92において狭小非描画領域836上に位置する際にOFFとされる。さらに好ましくは、制御部5による制御によって、狭小非描画スポット群が、狭小非描画領域836の上側に隣接する上側描画領域838を含む複数の描画対象層92において狭小非描画領域836の上方に位置する際に、狭小非描画スポット群の光強度が、上側に向かうに従って増大するように調節される。これにより、上下方向の幅が小さい狭小非描画領域836を含む造形物83を、精度良く形成することができる。
【0129】
上述のように、3次元造形装置1は、ステージ341上の造形材料91の上面における温度分布を測定する温度測定部4をさらに備えることが好ましい。また、好ましくは、上述の補正閾値は可変であり、温度測定部4により測定された非描画領域816,817,826,836と対応する領域における温度が高温になるに従って補正閾値が小さくなる。これにより、狭小非描画領域816,826,836において意図に反する造形材料91の溶融が生じることを好適に抑制することができる。その結果、造形物81,82,83が狭小非描画領域816,826,836を含む場合であっても、造形物81,82,83をさらに精度良く形成することができる。
【0130】
上述の3次元造形方法は、粉末状の造形材料91をステージ341上に供給する工程(ステップS13)と、所定の配列方向に直線状に配列された複数の光スポットにより構成されるマルチスポットビームを、ステージ341上に供給された造形材料91の表層である描画対象層92上にて、造形物の設計データに基づいて変調しつつ所定の走査方向に走査する工程(ステップS14)と、ステップS13およびステップS14を繰り返す工程(ステップS15)と、を備える。
【0131】
上記設計データにて描画が指示されていない非描画領域816,817,826,836は、走査方向、走査方向に垂直かつステージ341に平行な幅方向、および、ステージ341に垂直な上下方向のうちの一の方向における大きさが補正閾値以下の狭小非描画領域816,826,836を含む。そして、ステップS14では、設計データにて描画が指示されている描画領域815a,815b,815c,825a,825b,835a,835bのうち狭小非描画領域816,826,836に隣接する領域(上記例では、狭小部隣接領域818、補正領域828、上側描画領域838)に対する光の照射が抑制される。
【0132】
これにより、上述のように、狭小非描画領域816,826,836において意図に反する造形材料91の溶融が生じることを抑制することができる。その結果、造形物81,82,83が狭小非描画領域816,826,836を含む場合であっても、造形物81,82,83を精度良く形成することができる。
【0133】
上述の3次元造形装置1および3次元造形方法では、様々な変更が可能である。
【0134】
例えば、上述のステップS13(ステージ341上への造形材料91の供給)は、ステップS12(設計データの補正)と並行して行われてもよく、ステップS12よりも前に行われてもよい。
【0135】
ステップS12では、上述の第1ないし第6の補正方法以外の様々な方法によって設計データの補正が行われてよい。
【0136】
上述の狭小非描画領域816,826,836は、走査方向、幅方向および上下方向のうち2以上の方向において、それぞれの方向における大きさがそれぞれの方向における補正閾値以下であってもよい。この場合、当該2以上の方向のそれぞれについて、上述の補正が行われてもよい。
【0137】
3次元造形装置1では、温度測定部4による温度分布の測定は、必ずしも行われる必要はない。温度分布の測定を行わない場合、3次元造形装置1から温度測定部4が省略されてもよい。
【0138】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0139】
1 3次元造形装置
2 光学ヘッド
3 材料保持部
4 温度測定部
5 制御部
32 材料供給部
81,82,83 造形物
91 造形材料
92 描画対象層
341 ステージ
815a,815b,815c,825a,825b,835a,835b 描画領域
816,826,836 狭小非描画領域
818 狭小部隣接領域
828 補正領域
838 上側描画領域
S11~S15 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
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図17
図18