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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004593
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240110BHJP
   H01M 8/249 20160101ALI20240110BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20240110BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20240110BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240110BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240110BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/249
H01M8/04 Z
H01M8/04313
H01M8/04694
H01M8/04746
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104261
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智大
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB17
5H127AC05
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127BB40
5H127CC07
(57)【要約】
【課題】複数の単セルが積層された燃料電池スタックにおいて部分的なセルの性能低下や劣化を抑制可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本開示の一形態における燃料電池システムは、1又は複数のセルで構成された複数のセクションでグルーピングされた燃料電池スタックと、前記複数のセクションごとに前記セルの状態管理を行う制御装置と、前記制御装置による状態管理に基づいて、前記複数のセクションごとに流通する流体の流量を調整する流量調整機構と、を備え、前記制御装置は、前記複数のセクションを構成する第1セクションのセル数と、前記第1セクションとは異なる第2セクションのセル数と、が互いに異なるように前記グルーピングを行う。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のセルで構成された複数のセクションでグルーピングされた燃料電池スタックと、
前記複数のセクションごとに前記セルの状態管理を行う制御装置と、
前記制御装置による状態管理に基づいて、前記複数のセクションごとに流通する流体の流量を調整する流量調整機構と、を備え、
前記制御装置は、前記複数のセクションを構成する第1セクションのセル数と、前記第1セクションとは異なる第2セクションのセル数と、が互いに異なるように前記グルーピングを行う、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記燃料電池スタックの中央側に位置するセクションを構成するセル数と、前記中央側よりも端部側に位置するセクションを構成するセル数とが互いに異なるように前記グルーピングを行う、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池スタックの中央側に位置するセクションを構成するセル数よりも端部側に位置するセクションを構成するセル数が小さくなるようにグルーピングされてなる、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池スタックの周囲環境と内部状態の少なくとも1つを計測する計測センサをさらに含み、
前記制御装置は、
前記計測センサの計測結果に基づいて、前記第1セクションのセル数と前記第2セクションのセル数が異なるように前記複数のセクションのグルーピングを再編する、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記流量調整機構は、
前記複数のセクションのうち第1セクションにおける流体の流量を調整したとき、前記第1セクションの流量調整に応じて前記複数のセクションのうち他の第2セクションの流量を調整する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば車両などに適用される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において移動手段として例えば自動車は不可欠であり、日常において様々な車両が路上を移動している。近年では、環境に対する負荷が比較的小さい燃料電池が注目されてきている。
【0003】
かような燃料電池においては、一方の電極(燃料極)に対して水素を供給するとともに、他方の電極(空気極)に対して酸素を供給し、これらが反応することで電気エネルギーを得ている。損失を少なくして効率的に電気エネルギーを得るためには、燃料電池の状態管理が重要となる。例えば下記特許文献では、複数の単セルが積層された燃料電池スタックを備える燃料電池システムにおいて、複数の単セルを複数のグループに分けて各々のインピーダンスを測定することで上記した状態管理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-201627号公報
【特許文献2】特開2020-198208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず以下に述べる課題が存在する。
すなわちたしかに上記した特許文献で提案された燃料電池システムの状態管理によれば、複数の単セルをいくつかのグループに分けてそれぞれインピーダンスを測定することで細かな状態管理が可能となる。しかしながら上記した特許文献を含む従来技術では、複数の単セルをどのようなグループに分けるのが燃料電池全体において適するのかまでは言及されておらず、上記グループの分け方においても未だに改善の余地は大きいと言える。
【0006】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、複数の単セルが積層された燃料電池スタックにおいて部分的なセルの性能低下や劣化を抑制可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の一実施形態における燃料電池システムは、1又は複数のセルで構成された複数のセクションでグルーピングされた燃料電池スタックと、前記複数のセクションごとに前記セルの状態管理を行う制御装置と、前記制御装置による状態管理に基づいて、前記複数のセクションごとに流通する流体の流量を調整する流量調整機構と、を備え、前記制御装置は、前記複数のセクションを構成する第1セクションのセル数と、前記第1セクションとは異なる第2セクションのセル数と、が互いに異なるように前記グルーピングを行う。
【発明の効果】
【0008】
本開示の燃料電池システムによれば、複数の単セルが積層された燃料電池スタックにおいて部分的なセルの性能低下や劣化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の燃料電池システムにおける全体ブロック図である。
図2】第1実施形態の燃料電池の模式図である。
図3】第1実施形態の燃料電池システムにおける制御装置のブロック図である。
図4】第1実施形態の燃料電池システムのうち酸化ガス供給系を示す模式図である。
図5】第1実施形態の燃料電池システムの状態管理方法を示すフローチャートである。
図6】第1実施形態の制御装置によるセルのグルーピング例を示す模式図である。
図7】第1実施形態の制御装置によるセルの再グルーピング例を示す模式図である。
図8】第1実施形態の流量調整機構による流体の流量調整例を示す図である。
図9】第2実施形態の燃料電池システムにおける全体ブロック図である。
図10】変形例における燃料電池システムの全体ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本開示を実施するための好適な実施形態について説明する。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知の燃料電池システムに関する要素技術や構成を適宜補完してもよい。
【0011】
<第1実施形態>
[燃料電池システム100]
まず本開示の好適な実施形態に係る燃料電池システム100の構成について、図1を参照しながら説明する。本実施形態における燃料電池システム100は、例えば燃料電池自動車(FCV)に搭載されてもよい。
【0012】
以下では燃料電池システム100の適用例としてFCVの場合を説明するが、本開示はFCVに限られず、住宅設備などの定置型燃料電池システムや航空機など他の移動体に搭載される燃料電池システムにも好適である。
【0013】
FCVに搭載される燃料電池システム100は、車両を制御する制御装置20(ECU20Aや他の公知のECUなど)と、この制御装置20に制御される燃料電池スタック10と、この燃料電池スタック10にアノードガスおよびカソードガスを供給するガス供給系50と、を含んで構成されている。また、本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池スタック10の状態を管理する公知のCMU(Cell Management Unit)20Bを含んで構成されている。このように本実施形態の車両を制御する制御装置20は、上記したECU20AとCMU20Bを含んで構成されていてもよい。
【0014】
このうち本実施形態のガス供給系50は、燃料電池スタック10のアノード電極側に水素ガスを供給する公知の水素タンク51、燃料ガス吸気管52および燃料ガス排気管53などを含んで構成されている。またガス供給系50は、燃料電池スタック10のカソード電極側に空気(エア)を供給するカソードガス供給手段としての公知のエアコンプレッサ54、エア吸気管55およびエア排気管56などを含んで構成されている。これらカソードガスおよびアノードガスは、制御装置20による制御の下で、それぞれ公知の流量調整バルブV1~V3により流量が調整可能とされている。
【0015】
なお本実施形態ではその説明を省略するが、例えば上記した特許文献などにも例示されるごとき加湿装置や水素ガスの還流機構(不図示)あるいは調圧弁など公知の種々の機構がガス供給系50に含まれていてもよい。また、本実施形態の燃料電池スタック10の内部には、燃料電池スタック10を冷却するための公知の冷媒が流れる冷媒流路が形成されているが、図1ではこの冷媒流路や冷媒流路内に冷媒を循環させるための公知の冷媒循環系については省略している。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池スタック10は、単一の燃料電池で構成された単セル1が積層方向に対して複数積層されてなる。そして後述するとおり、燃料電池スタック10は、この1又は複数の単セル1で構成された複数のセクションでグルーピングされて状態管理がなされる。
【0017】
かような燃料電池スタック10を構成する単セル1は、例えば公知の固体高分子型燃料電池(PEFC)が例示できる。なお本実施形態の燃料電池スタック10は、固体高分子型燃料電池であるが、例えば固体酸化物形燃料電池など公知の他の燃料電池を適用してもよい。燃料電池スタック10を構成するそれぞれの単セル1では、電解質膜の一方側であるアノード側に上記した燃料ガスが流れる流路が形成されると共に、電解質膜の他方側であるカソード側には酸化ガス(空気)が流れる流路が形成されている。
【0018】
燃料電池スタック10を構成する各単セル1には、上記した燃料ガス及び酸化ガス並びに冷却に必要な冷媒(冷却水)を供給する必要がある。そのため本実施形態の燃料電池スタック10は、上記した流体(燃料ガス、酸化ガスおよび冷却水)を分配し又は回収するためのマニホールドが設けられている。
【0019】
より具体的には図2に例示するように、本実施形態の燃料電池スタック10は、積層された単セル1の積層方向における両端部側に配置された一対のエンドプレート2(第1エンドプレート2A、第2エンドプレート2B)と、この積層された単セル1の周囲に配置されて上記冷却水が流通可能な流路が形成された第1マニホールド3と、この積層された単セル1の他の周囲に配置されて上記した燃料ガスや酸化ガスが流通可能な流路が形成された第2マニホールド4と、を含んで構成されている。このうち一対のエンドプレート2は、公知の締め付けスタッド11を介して単セル1を加圧可能なように構成されている。
【0020】
図4に例示するとおり、本実施形態の第2マニホールド4は、1又は複数の単セル1で構成されたグループ(以後、「セクション」とも称する)ごとに、上記した酸化ガスや燃料ガスの流路が区分けされている点にも特徴がある。また、同図から理解されるとおり、エア吸気管55は、上記した各グループにそれぞれ酸化ガスが流通するように分岐されている。そして分岐されて各グループに向かうエア吸気管55上には流量調整バルブV3がそれぞれ設けられている。
【0021】
分岐されたエア吸気管55は、それぞれ流路がグループで区分けされた入口側第2マニホールド4Bに接続されている。そして入口側第2マニホールド4Bに供給された酸化ガスは、それぞれのグループ内の単セル1のカソード側に供給された後で、同様にしてグループ毎に区分けされた出口側第2マニホールド4Aに流出した後で合流される。
【0022】
従って本実施形態の制御装置20は、上記した流量調整バルブV3の開度を調整することで、各グループに供給される酸化ガスの流量を調整することが可能となっている。このように本実施形態の流量調整バルブV3は、前記した複数のグループまたはセクションごとに流通する流体の流量を調整する流量調整機構30(図1参照)として機能する。なお流量調整機構30としては、上記した流量調整バルブV3のごとき公知のバルブ機構に限定されず、例えばシャッターで流路を開閉可能なシャッター機構など公知の種々の流量調整手段を適用してもよい。
また、本実施形態では流量調整バルブV3が各マニホールドの入口側であるエア吸気管55に設ける形態を例示したが、この形態に限られず、流量調整バルブV3が各マニホールドの出口側であるエア排気管56に設けられてもよい。流量調整バルブV3を後段(各マニホールドの出口側)に設置することで、背圧弁の役割を兼ねることができ、該当セクションの流量の調整に加えて圧力の調整も可能となる。
【0023】
なお図4では上記した流量調整バルブV3の開度を調整することで各グループに供給される酸化ガスの流量を調整する例を示しているが、燃料ガスについても同様にして各グループに供給される流量を調整してもよい。また、冷却水が流通する冷却水入口59および冷却水出口60が形成された第1マニホールド3(第1マニホールド3A及び第2マニホールド3B)についてもグループごとに流路を区分けしてもよく、冷却水についても同様にして各グループに供給される流量を調整してもよい。
なおマニホールドの製造方法としては、例えば特開2010-123325号公報や特開2008-41475号公報に例示される「外部マニホールド」の製造例を参照することができる。
【0024】
上記した燃料電池スタック10は、公知のCMU20Bによって発電状態などの状態が管理されている。このCMU20Bは、本実施形態における制御装置20に含まれ、燃料電池スタック10を構成する各々の単セル1の出力電圧と出力電流を検出する機能を備えた回路である。換言すれば、制御装置20としてのCMU20Bは、上記したグループで区分けされた複数の単セル1における出力電圧と出力電流を検出することが可能となっている。このCMU20Bで検出されたグループごとの電圧値や電流値は、例えばECU20Aに出力されてもよい。
【0025】
なお本実施形態の制御装置20(ECU20AやCMU20B)は、例えば公知の1又は複数のメモリと、このメモリと電気的に接続されて予め規定された制御プログラムに従って演算などを実行する1又は複数のCPUと、を含んで構成されている。また制御装置20は、上記したCPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納された公知のROMや、このCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされる公知のRAMを有していてもよい。本実施形態の制御装置20は、燃料電池スタック10による発電制御、上記したガス供給系50の駆動制御、あるいは電動モータなどの公知の負荷58に対してDC/DCコンバータ57を介した電力供給制御などを実行してもよい。
【0026】
次に、図3も参照しつつ、本実施形態の燃料電池システム100における制御装置20の構成について説明する。図2に示すとおり、本実施形態の制御装置20は、計測状態決定部21、セル状態検出部22、環境情報検出部23、グルーピング調整部24および流量調整部25などを含んで構成されている。
【0027】
かような制御装置20は、複数のセクションごとに燃料電池スタック10を構成する単セル1の状態管理を行う機能を有して構成されている。制御装置20は、例えばグルーピング調整部24によってセクションの数を部分的に細かくグルーピングを行うことで燃料電池の内部状態を細かく管理して最適化できるため、燃料電池スタック10における部分的な性能低下や劣化を抑制可能である。
【0028】
制御装置20は、上記したセクションの数を後述する環境情報やセルの内部状態に応じて可変にすることで、性能低下への影響度が大きい部分については細かく制御すると共に影響度が小さい部分については制御を相対的に粗くできる。これにより燃料電池スタック10における制御精度が向上し、燃料電池スタックの解析に要する演算負荷なども低減できる。
【0029】
計測状態決定部21は、上記した燃料電池スタック10においてどのような数のセクションで計測を行うか決定する機能を有する。より具体的に計測状態決定部21は、図4及び図6などから理解されるとおり、複数のセクションSCを構成する第1セクション(例えばセクションSC1)のセル数と、この第1セクションとは異なる第2のセクション(例えばセクションSCk)のセル数と、が互いに異なるようにグルーピングを行うことができる。例えば図6に示す例では、セクションSC1のセル数は10である一方で、セクションSCkのセル数は15となっている。
【0030】
図6の例では、燃料電池スタック10は端部側から順にNo.1~No.nまでn個に区分けされるとともに、中央付近にはk番目のセクションが配置されている。なお燃料電池スタック10を区分するセクションの数としては、直列に接続される単セル1の個数に応じて適宜設定することができる。例えば燃料電池スタック10として300個超の単セル1が直接接続される場合には、10~20程度のセクション数に区分してもよい。
【0031】
なお計測状態決定部21は、予め燃料電池スタック10内のセクション間における発電状態のバラつきが生じやすい燃料電池スタック10の動作ポイントを定めておき、その動作ポイントに燃料電池スタック10が到達したらセクション毎にグルーピング又は再グルーピングを行ってもよい。このような燃料電池スタック10の動作ポイントは、例えばセル電圧、酸化ガスの吸気温度、燃料電池の発電電力(アイドル時や高負荷運転時など)、各流体(酸化ガス、燃料ガス、冷却水)の低流量での制御時などが例示できる。
【0032】
このように本実施形態ではセクション毎に単セル1の個数が異なる場合があるため、計測状態決定部21は、上記で決定した燃料電池スタック10のセクション毎の計測状態にあわせ、公知の手法に従ってインピーダンスの計測周波数、振幅、解析式、等価回路あるいは計測条件などを決定する。このとき、上記したインピーダンスを計算するために燃料電池スタック10に印加する交流波形(例えば電流)の周波数と振幅は、各セクションの間で基本的には同一の波形と振幅を適用できる。一方で、例えば複数の周波数を含む合成波形を燃料電池スタック10に印加して目的の発電状態を特定する場合には、計測後にセクション毎にFFT解析を行って各周波数に分離する必要があることから、燃料電池スタック10に印加する交流波形の周波数や振幅はセクション毎で変化してもよい。
さらに、燃料電池スタック10に印加する交流波形によって、計測時のサンプリング周波数も変化させてもよい。一例として、印加する交流波形が高周波の場合には相対的に高いサンプリングレートを適用し、印加する交流波形が低周波の場合には相対的に低いサンプリングレートを適用することで計算負荷を低減できる。
【0033】
セル状態検出部22は、センサ類40からの計測情報を受信して燃料電池スタック10を構成する各セクションの状態を計測する機能を有している。かようなセンサ類40としては、図1及び図3に示すように、例えば各セクションの電圧値を計測可能な公知の電圧センサ41、燃料電池スタック10を流れる電流値を計測可能な公知の電流センサ42、および燃料電池スタック10の温度を計測可能な公知の電池温度センサ43などが例示できる。なお図3では3つのセンサを示しているが、センサ類40は、例えば車速センサやGPSセンサなど車両に搭載される公知の種々のセンサを含んでいてもよい。
【0034】
環境情報検出部23は、FCVに車載された公知の計測センサに基づいて、燃料電池スタック10の周囲における温度や湿度などのFCV周囲における環境情報を取得する機能を有している。かような計測センサの具体的としては、例えばFCVに搭載される公知の車載センサのうちFCV周囲の温度を計測する公知の外気温センサや、FCV周囲の湿度を計測する公知の湿度センサなどが例示できる。
【0035】
グルーピング調整部24は、複数の単セル1が積層された燃料電池スタック10を、複数のセクション毎にグルーピングする機能を有する。より具体的にグルーピング調整部24は、上記した複数のセクションにおいて、第1セクションのセル数と、当該第1セクションとは異なる第2セクションのセル数と、が互いに異なるようにグルーピングしてもよい。
【0036】
さらに後述するように、グルーピング調整部24は、燃料電池スタック10の中央側に位置するセクション(例えば図6におけるセクションSCk)を構成するセル数と、この中央側よりも端部側に位置するセクション(図6におけるSC1やSCn)を構成するセル数とが互いに異なるようにグルーピングを行ってもよい。このとき、グルーピング調整部24は、燃料電池スタックの中央側に位置するセクションを構成するセル数よりも端部側に位置するセクションを構成するセル数が小さくなるようにグルーピングすることが好ましい。
【0037】
流量調整部25は、グルーピング調整部24が調整したセクション毎に、当該セクションを流れる流体(本例では酸化ガスであるが、燃料ガスや冷却水でもよい)の流量を調整する機能を有する。より具体的に流量調整部25は、上記した流量調整機構30を介して、燃料電池スタック10において複数のセクションョン毎に流通する流体の流量をそれぞれ調整することができる。
【0038】
<燃料電池システムの状態管理方法>
次に図5も適宜参照しつつ、本実施形態における燃料電池システム100の状態管理方法について説明する。
図5に示すとおり、まずステップ1においては、制御装置20の計測状態決定部21は、上記した燃料電池スタック10においてどのような数のセクションで計測を行うか決定する。本実施形態では、図4に示すように、積層された5つの単セル1を1つのセクションとされている。従って制御装置20は、上記した5つの単セル1を1つのセクションとしてそれぞれのセクションにおける状態管理を行うことが可能となっている。
【0039】
このような燃料電池スタック10において、計測状態決定部21は、図6に示すように、燃料電池スタック10の中央側に位置するセクションSCkを構成するセル数(本例では15)と、この中央側よりも端部側に位置するセクション(セクションSC1やセクションSCn)を構成するセル数(本例では10)とが互いに異なるようにグルーピングを行う。なお図6では、説明の便宜上、燃料電池スタック10に接続されるエア排気管56や冷却水流路などは図示が省略されている。
【0040】
次いでステップ2では、制御装置20の計測状態決定部21は、上記で決定した燃料電池スタック10のセクション毎の計測状態にあわせ、公知の手法に従ってセクション毎にインピーダンスの計測周波数、振幅、解析式、等価回路あるいは計測条件などを決定する。換言すれば、端部側に位置するセクション(セクションSC1やセクションSCn)におけるインピーダンスの計測周波数、振幅および解析式などは、中央側に位置するセクションSCkにおけるインピーダンスの計測周波数、振幅および解析式などとは異なる条件が適用される。
【0041】
次いでステップ3では、セル状態検出部22は、電圧センサ41などのセンサ類40からの計測情報を受信して燃料電池スタック10を構成する各セクションのインピーダンスを含むセル状態を計測する。
【0042】
次いでステップ4では、セル状態検出部22は、ステップ3で検出された各セクションでのインピーダンスに基づいて、各セクションでの抵抗のバラつきは規定範囲内か否かを判定する。なお各セクションでのインピーダンスの計測手法は、特に制限されず例えば特開2017-201627号公報や特開2020-198208号公報に記載された公知の交流インピーダンス法を用いて算出してもよい。
また「抵抗のバラつき」については、用いる単セル1の仕様に対する適正な範囲を予め実験またはシミュレーションで求めておき、この適正な範囲を上記規定範囲として設定することができる。
【0043】
そしてステップ4で各セクションでの抵抗のバラつきが規定範囲内である(ステップ4でYes)場合には、ステップ6においてFCVのシステムが停止されたか否かを判定し、車両のシステムが未だ稼働中の場合にはステップ3に戻って上記した処理を継続する。
他方、ステップ4で各セクションでの抵抗のバラつきが規定範囲内でない(ステップ4でNo)場合には、ステップ5において上記セクションの再グルーピングを実行する。
【0044】
すなわちステップ5では、まず環境情報検出部23は、FCVに車載された公知の計測センサ(センサ類40)に基づいて、燃料電池スタック10の周囲における温度や湿度などのFCV周囲における環境情報を取得する。
【0045】
そしてステップ5において、グルーピング調整部24は、例えば環境情報検出部23によって取得した環境情報などに基づいて、燃料電池スタック10のうち端部に位置するセクションSCedを構成するセル数がさらに細かくなるように再グルーピングを行う。すなわち図6及び図7を対比して理解されるとおり、元々は10個の単セル1で構成されていたセクションSC1が、再グルーピング後ではそれぞれ5個の単セル1で構成されたセクションSC1とセクションSC2に分割されることになる。
【0046】
なお、この環境情報検出部23による環境情報の検出は、必ずしもグルーピングや再グルーピングに必要でなく適宜省略してもよい。この場合には、予め実験またはシミュレーションなどで把握された温度変化の大きい領域を参照して上記したグルーピングや再グルーピングを行ってもよい。
【0047】
これにより、燃料電池スタック10における端部側など温度変化が大きい部分をより細かくグルーピングすることで、再グルーピング前に比してより最適な状態管理を実現することが可能となる。このように本実施形態の燃料電池システム100は、燃料電池スタック10の周囲環境と内部状態の少なくとも1つを計測する計測センサをさらに含み、制御装置20は、この計測センサの計測結果に基づいて第1セクションのセル数と第2セクションのセル数が異なるように複数のセクションのグルーピングを再編する機能を有していてもよい。
【0048】
またステップ5において、流量調整部25は、上記再グルーピングされた状態に基づいて、グルーピング調整部24が調整したセクション毎に、当該セクションを流れる流体の流量を調整する。一例として、流量調整部25は、図8に示すように、それぞれのセクションにおける単セル1の状態に基づいて各単セル1が最適な状態となるように流量調整機構30を介して流体の流量を調整する。
【0049】
一例として、例えばあるセクション(例えばセクションSC1)における単セル1が乾燥状態であると判明した場合には、流量調整部25は、流量調整機構30を介して、そのセクションSC1だけ酸化ガスの流量を減少させたり、冷却水の流量を増加させたりしてもよい。このとき上記セクションSC1を湿潤状態にしたことから、他のセクション(例えば隣接するセクションSC2)にも影響が及ぶことが想定できる。
従って流量調整部25は、上記したあるセクションでの流量調整に付随して他のセクションにおける単セル1がフラッディング傾向となっていると判明した場合には、流量調整部25は、流量調整機構30を介して、例えば冷却水の流量をそのセクションだけ減少させてもよい。
【0050】
このように本実施形態の流量調整部25は、流量調整機構30を介して、複数のセクションのうち第1セクション(上記の例ではセクションSC1)における流体の流量を調整したとき、この第1セクションの流量調整に応じて複数のセクションのうち他の第2セクション(上記の例ではセクションSC2)の流量を調整する機能を有していてもよい。
【0051】
<第2実施形態>
次に図9を参照しつつ第2実施形態の燃料電池システム110について説明する。
上記した第1実施形態の燃料電池システム100においては、少なくとも5個の単セル1によって1つのセクションを構成していた。
【0052】
これに対して本実施形態における燃料電池システム110では、燃料電池スタック10を構成する個々の単セル1でそれぞれ電圧や電流などの状態を計測可能であると共に、各単セル1で個別に当該セルに流れる流体(酸化ガス、燃料ガスおよび冷却水)の流量を調整可能な点に主とした特徴がある。
なお、以下の説明においては、既述の構成と同じ機能を有する構成について同じ参照番号を付してその説明は適宜省略する。
【0053】
図9に示すように、第2実施形態の燃料電池システム110では、燃料電池スタック10を構成するそれぞれの単セル1に対して個別に電圧センサ41が設けられており、個々の単セル1の電圧が検出可能とされている。また、第2実施形態の燃料電池システム110では、上記した第1マニホールド3や第2マニホールド4に形成される流路が上記単セル1毎に区分されており、流量調整機構30は、それぞれの単セル1に対して個別に流体の流量を調整可能とされている。
【0054】
また、第2実施形態の燃料電池システム110では、制御装置20は、複数の単セル1で構成された燃料電池スタック10において、任意の数の単セル1でセクションを構成することが可能となっている。一例として、制御装置20は、燃料電池スタック10の端部に位置するセクションSC1のセル数を3つとしつつ、中央側に位置するセクションSCkのセル数を6つとしてもよい。この場合において制御装置20は、各セクションに応じて同じセクションに属する複数の流量調整バルブV3を互いに同期して開閉制御することができる。
【0055】
このように燃料電池システム110の制御装置20は、燃料電池スタック10を任意の数のセクションで区分けすると共に、このセクションを構成するセル数も任意の数で設定できる。さらに燃料電池システム110の制御装置20は、上記したステップ5における再グルーピングにおいても、いったん設定したセクションおよびそのセル数を再び任意のセクションとセル数で再設定することができる。これにより、燃料電池スタック10の状態や環境情報に基づいて、その変化に応じて最適なセクション区分やそのセクションに属するセル数を設定することが可能となる。
【0056】
以上説明した本開示の燃料電池システムによれば、複数の単セルが積層された燃料電池スタックを任意の数のセクションで状態管理に留まらず、各セクションを構成するセル数を異ならせるように傾斜配分することから、部分的なセルの性能低下や劣化を効果的に抑制できる。
【0057】
なお上記した各実施形態は本開示の好適な一例であって、本開示の趣旨を逸脱しない限りにおいて実施形態の各要素を適宜組み合わせて新たな構造や制御を実現してもよい。以下、本実施形態に適用が可能な変形例について説明する。
【0058】
<変形例>
図10は上記した実施形態の燃料電池システムに対する変形例を示す。
同図に示すとおり、燃料電池スタック10の周囲には熱源HSが配置されている。かような熱源HSの例としては、例えばFCVにおけるインバーターや上記したDC/DCコンバータなど公知の種々の熱源が例示できる。
【0059】
同図に示すように、本変形例の燃料電池スタック10は、熱源HSに近接したセクションSChsと、熱源HSによる熱の影響をさほど受けない他のセクション(例えば本例では端部に位置するセクションSCedとしてのセクションSC1やセクションSCnなど)と、に分類できる。従って制御装置20のグルーピング調整部24は、図10に示すように、燃料電池スタック10のうち熱源HSに近接するセクションSChsを構成するセル数がさらに細かくなるようにグルーピング又は再グルーピングを行ってもよい。
【0060】
すなわち制御装置20のグルーピング調整部24は、図10から理解されるとおり、中央側に位置するセクションSCmdを構成するセル数(本例では15)や端部側に位置するセクションSCedを構成するセル数(本例では10)よりも、前記した熱源HSに近接するセクションSChsを構成するセル数(本例では5)を少なく設定してもよい。
【0061】
このように制御装置20は、燃料電池スタック10のうち例えば端部側や熱源の付近等の温度変化が大きい領域が他に比してより細かくなるように、それぞれセルを配分するグルーピングを行ってもよい。なお上記した「温度変化の大きい領域」としては、上記した端部側や熱源付近の他に、例えば導風ダクト近傍の領域、雨水など水分と接しやすい領域、コンプレッサ近傍の領域などが例示できる。
【0062】
また、制御装置20は、上記したグルーピングを行う際に、燃料電池スタック10のうち熱源からの距離に応じて段階的にセクションを構成するセル数を変化させてもよい。具体的に制御装置20は、上記熱源に近い側のセクションを構成するセル数を相対的に少なくして、熱源から遠ざかる順にセクションを構成するセル数を段階的に増加させるようにグルーピングしてもよい。
【0063】
以上説明した変形例に係る燃料電池システムによれば、燃料電池システムの周囲に配置された熱源の影響を受けやすい領域の単セルを細かく状態管理することができ、部分的なセルの性能低下や劣化をさらに抑制することができる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態および変形例について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0065】
10 燃料電池スタック
20 制御装置
30 流量調整機構
40 センサ類
50 ガス供給系
100 燃料電池システム
図1
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図10