(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045938
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】歯科用接着性組成物及びポリマー
(51)【国際特許分類】
A61K 6/60 20200101AFI20240327BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20240327BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20240327BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/30
A61K6/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151040
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】森本 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】岸 裕人
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BD00
4C089BE03
(57)【要約】
【課題】充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能な歯科用接着性組成物を提供する。
【解決手段】ポリマーと、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、有機溶媒と、水と、を含有し、重合開始剤を含有しない歯科用接着性組成物において、前記ポリマーとして、たとえば2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート(BrMPAと略記する。)とメチルアクリレート(MAと略記する。)と、を両者の比がBrMPA5~90mol%:MA10~95mol%となるような割合で用いて共重合した後に塩基を作用させて得られる、BrMPAに由来する構造単位の末端がラジカル重合性基に変換させられたポリマーであって、重量平均分子量が1000~50000であるポリマーを使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ポリマーと、有機溶媒と、水と、を含有し、重合開始剤を含有しない歯科用接着性組成物であって、
前記ポリマーは、
下記一般式(1)
【化1】
{一般式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。}
で表される構造単位X:5~90mol%と、
下記一般式(2)
【化2】
{一般式(2)中、R
3は、水素原子またはメチル基を表し、R
3が水素原子の場合、R
4は下記一般式(2-1)
【化3】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R’はアルキル基を表す。)
で表される総炭素数が1~15である1価の基であり、R
3がメチル基の場合、R
4は前記一般式(2-1)で表される総炭素数が4~15である1価の基を表す。}
で表される構造単位Y:10~95mol%と、を有し、
重量平均分子量が、1000~50000である、
ことを特徴とする歯科用接着性組成物。
【請求項2】
前記構造単位Y表す前記一般式(2)におけるR4が、
前記一般式(2)におけるR3が水素原子である場合には、前記式(2-1)におけるpが0~2であり、R’が炭素数1~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が1~12である1価の基であり、
前記一般式(2)におけるR3がメチル基である場合には、前記式(2-1)におけるpが0~2であり、R’が炭素数4~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が4~12である1価の基である、
請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、前記構造単位X:10~70mol%と、前記構造単位Y:30~90mol%を有する、請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
下記一般式(1)で表される構造単位X:5~90mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位Y:10~95mol%と、からなり、重量平均分子量が、1000~50000である、ことを特徴とするポリマー。
【化4】
{一般式(1)中、R
1及びR
2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。}
【化5】
{一般式(2)中、R
3は、水素原子またはメチル基を表し、R
3が水素原子の場合、R
4は下記一般式(2-1)
【化6】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R’はアルキル基を表す。)
で表される総炭素数が1~15の基であり、R
3がメチル基の場合、R
4は前記一般式(2-1)で表される総炭素数が4~15の基を表す。}
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物及び該歯科用接着性組成物に配合される新規なポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕等により損傷を受けた歯牙の修復には、コンポジットレジンと呼ばれる硬化性の充填材料が用いられている。このような歯科用充填材料(以下、単に「充填材料」ともいう。)は、歯牙を構成する歯質に対する接着性がほとんど無い。このため、充填材料は、通常、歯科用ボンディング材等の接着材を介して歯質に接着される。一般的な接着材は、高い接着力を得るために、予め硬化させておく必要がある。
【0003】
充填材料の接着に利用可能な接着材として、光照射によって硬化可能な光硬化型接着材が知られている(例えば、特許文献1参照)。光硬化型接着材は、充填材料の充填の前に、腔内での光照射によって硬化させる必要がある。光硬化型接着材の硬化のためには、数秒から数十秒の間の光照射が必要となる。
【0004】
このため、光硬化型接着材では、治療の長時間化や、光照射に伴う発熱などによって患者への負担が大きくなる。また、光硬化型接着材は、光照射時に口腔内に露出しているため、患者の唾液や血液などによる汚染を受けることがある。このため、充填材料の充填前の段階での光照射が不要な接着材が求められる。
【0005】
特許文献2には、光照射による硬化が不要な接着材が開示されている。この接着材は、2液型であり、つまり第1剤と第2剤とを混合することにより化学重合型の硬化が進行するように構成されている。しかしながら、この接着材では、治療中に第1剤と第2剤とを混合するための手間及びこれらを硬化するための時間がかかる。
【0006】
また、特許文献3には、光照射が不要な1液型の歯科用接着材が開示されている。この接着材では、充填材料の充填後に、充填材料の硬化の際に照射された光によって光重合型の硬化が進行するとともに、充填材料から芳香族アミンが供給されることで、化学重合型の硬化が進行することで、別途接着材を硬化するための時間を設ける必要がない。しかしながら、この接着材は、芳香族アミンを含む充填材料以外の充填材料には適用できない。
【0007】
なお、コンポジットレジンに自己接着性を持たせる技術として、重量平均分子量が5000~50000であり(メタ)アクリル基1つ当たりの重量平均分子量が1250以上20000未満である(メタ)アクリル化合物及び分子量が5000未満である酸性基を有する単量体、分子量が5000未満である酸性基を有しない単量体、及び重合開始剤を含有する歯科用組成物を用いる方法が知られており(特許文献4参照。)、特許文献4によれば、このような自己接着性コンポジットレジンを用いた場合には、接着材を用いなくても良好な接着性が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-137960号公報
【特許文献2】特開2018-027913号公報
【特許文献3】特開2020-138911号公報
【特許文献4】WO2021/070875号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
汎用的なコンポジットレジンを用いて、迅速で、かつ患者への負担の小さい歯牙の治療を実現するためには、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、且つどのようなコンポジットレジンに対しても(たとえば芳香族アミンを含まないコンポジットレジンに対しても)使用可能な接着材が求められる。しかしながら、現状、このような構成の歯科用接着材は知られていない。
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明の目的は、充填材料の充填前の段階での硬化が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能な歯科用接着材として機能し得る歯科用接着性組成物(以下、単に「接着性組成物」ともいう。)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ポリマーと、有機溶媒と、水と、を含有し、重合開始剤を含有しない歯科用接着性組成物であって、
前記ポリマーは、
下記一般式(1)
【0012】
【0013】
{一般式(1)中、R1及びR2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。}
で表される構造単位X:5~90mol%と、
下記一般式(2)
【0014】
【0015】
{一般式(2)中、R3は、水素原子またはメチル基を表し、R3が水素原子の場合、R4は下記一般式(2-1)
【0016】
【0017】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R’はアルキル基を表す。)
で表される総炭素数が1~15の基であり、R3がメチル基の場合、R4は前記一般式(2-1)で表される総炭素数が4~15の基を表す。}
で表される構造単位Y:10~95mol%と、を有し、
重量平均分子量が、1000~50000である、
ことを特徴とする歯科用接着性組成物である。
【0018】
上記形態の歯科用接着性組成物(以下、「本発明の接着性組成物」ともいう。)においては、前記構造単位Y表す前記一般式(2)におけるR4が、前記一般式(2)におけるR3が水素原子である場合には、前記式(2-1)におけるpが0~2であり、R’が炭素数1~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が1~12である1価の基であり、前記一般式(2)におけるR3がメチル基である場合には、前記式(2-1)におけるpが0~2であり、R’が炭素数4~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が4~12である1価の基である、ことが好ましい。
【0019】
また、前記ポリマーが、前記構造単位X:10~70mol%と、前記構造単位Y:30~90mol%を有する、ことが好ましい。
【0020】
第二の本発明の形態は、下記一般式(1)で表される構造単位X:5~90mol%と、下記一般式(2)で表される構造単位Y:10~95mol%と、からなり、重量平均分子量が、1000~50000である、ことを特徴とするポリマー(以下、「本発明のポリマー」ともいう。)である。
【0021】
【0022】
{一般式(1)中、R1及びR2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。}
【0023】
【0024】
{一般式(2)中、R3は、水素原子またはメチル基を表し、R3が水素原子の場合、R4は下記一般式(2-1)
【0025】
【0026】
(上記式中、pは0~5の整数を表し、R’はアルキル基を表す。)
で表される総炭素数が1~15の基であり、R3がメチル基の場合、R4は前記一般式(2-1)で表される総炭素数が4~15の基を表す。}
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、充填材料の充填前の段階での光照射が不要で容易に硬化し、かつ、様々な充填材料に適用可能な接着性組成物及び当該接着性組成物に配合される新規なポリマーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
特許文献4には、前記歯科用組成物は、歯質との接着性及び硬化物の機械的強度に優れ、かつ重合収縮応力が小さく、歯科用プライマーや歯科用セメントなどの歯科用接着性組成物としても使用できる旨が記載されている。そこで、本発明者等は、特許文献4に開示されているような歯科用組成物から重合開始剤を除いたものを歯科用ボンディング材として用いると共に充填材料として一般的にコンポジットレジンを用い、充填材料の充填前の段階での硬化を行わずに充填材料の硬化を行って接着強度を調べてみたが、歯質に対する十分な接着強度は得られなかった。
【0029】
そこで、配合されるポリマーの構造について種々検討を行った結果、特定の構造を有する新規なポリマー(具体的には、本発明のポリマー)を用いた場合には前記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明の接着性組成物は、従来の、歯科用ボンディング材として使用される接着性組成物と同様に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、有機溶媒と、水と、を含有するものであるが、本発明のポリマーを含有し、重合開始剤を含有しない点に最大の特徴を有する。
【0030】
本発明のポリマーを配合することにより、重合開始剤を含まずに(従って事前の硬化処理を行わずに)充填材と歯牙とを強固に接合できるようになる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者等は、次のようなものであると推定している。すなわち、事前の硬化処理を行わずに充填材と歯牙とを強硬に接合できるようにするためには、充填材を本発明の接着性組成物が施用された歯牙に充填材を充填してこれを硬化させる際に、充填材に含まれる重合開始剤を利用して本発明の接着性組成物も硬化して強固な硬化膜を形成する必要があると考えられる。本発明のポリマーは分子内に多数のラジカル重合性基を有し、常温で液状を示すような分子量を有するので接着剤組成物中では溶解して均一に分布するため、重合開始剤に対する感度高まり、わずかなラジカル量においても接着性組成物を硬化させることが可能となるばかりでなく、さらに硬化後において架橋構造が導入されるため、上記要求を満たせるようになったものと考えられる。なお、本発明の接着性組成物は、充填材料に必ず含まれる重合開始剤より生成したラジカルを利用するため、特殊な構成の充填材料ではなく、光硬化型、化学重合型、デュアルキュア型の何れの充填材料にも広く適用可能である。
【0031】
このように、本発明の接着性組成物においては、本発明のポリマーを含むことが極めて重要であり、その他の成分である酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、有機溶媒及び水に関しては、従来の接着性組成物と特に変わる点は無い。そこで、先ず本発明のポリマーについて詳しく説明した上で、上記成分を含めて本発明の接着性組成物について詳しく説明する。
【0032】
なお、以下の説明において、「x~y」との数値範囲にはx及びyが含まれるものとし、つまり「x~y」は「x以上y以下を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0033】
1.本発明のポリマー
本発明のポリマーは、主鎖が2つの構造単位、すなわち前記一般式(1)で表される構造単位X及び前記一般式(2)で表される構造単位Yによって構成される必要がある。そして、ポリマーの(1つの)主鎖を構成する全構造単位数(mol:モル)に占める構造単位Xの数(mol)の割合をx(mol%)としたときにx=5~90(mol%)であり、構造単位Yの数の割合をyとしたときにy=100-x=10~95(mol%)であり、重量平均分子量が、1000~50000である必要がある。なお、上記重量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された(ポリスチレン換算)の重量平均分子量を意味する。
【0034】
本発明のポリマーにおいては、該ポリマーの主鎖は、それぞれ異なる複数種の構造単位X及び構造単位Yからなっていてもよいが、1つのポリマーの主鎖は夫々単一種の構造単位X及び構造単位Yからなることが好ましい。また、主鎖における構造単位X及びYの配列はランダムであることが好しく、主鎖中において両構造単位が均一に分布していることが好ましい。また、高い接着強度を有する接着層が得られるという観点から、上記xは、10~70(mol%)、特に30~50(mol%)であることが好ましい。さらに、上記重量平均分子量は、上記範囲内であれば、ポリマーが常温(15~30℃)下で流動性を有する液状となり歯面への浸透性及び充填材料のモノマーとの相溶性が一層向上し、歯面及び充填材料に対する密着性が良好となる効果が得られる。歯科用接着材料として歯面に塗布したときに、塗布した被膜が流れることなく、所望の厚みを確保でき、塗布後に溶媒除去をするためエアブローを行っても、被膜が均一に保たれ、更に、接着強度の高い接着層が形成できるという理由から、本発明のポリマーの重量平均分子量は、2000を超え、40000未満であることが好ましく、3000~30000であることが特に好ましい。
【0035】
なお、本発明のポリマーの上記主鎖の両末端の構造は、本発明の効果に与える影響はほとんどないため、その構造は特に限定されない。通常は、本発明のポリマー又はその前駆体ポリマーを合成する際に用いるモノマー、重合開始剤の種類や溶媒の種類に応じて適宜決定される。また、本発明のポリマーは新規の構成を有するため、接着材以外にも幅広い用途に有用な可能性がある。つまり、本発明のポリマーの用途は接着材に限定されない。
以下に各構造単位及び本発明のポリマーの製造方法について詳しく説明する。
【0036】
1-1.構造単位X
構造単位Xは、下記一般式(1)で示される構造を有する。
【0037】
【0038】
上記一般式(1)中、R1及びR2は、水素原子又はメチル基を表し、nは1~15の整数を表す。
【0039】
前記構造単位Xは、上記構造に示されるように主鎖を構成する(R1が結合する)炭素原子に、末端にラジカル重合性を有する(メタ)アクリロイルオキシ基を有する側鎖が結合した構造を有するため、ラジカル重合により充填材料と結合し、充填修復材に対する接着性を良好にする。原料モノマーの入手の容易さという観点から、構造単位:Xを表す前記一般式(1)におけるnは、1~10の整数であることが好ましく、2~4であることが特に好ましい。
【0040】
1-2.構造単位Y
構造単位Yは、下記一般式(2)で示される構造を有する。
【0041】
【0042】
前記式中のR3は、水素原子またはメチル基を表す。前記式中のR4は、0~5の整数をpで表し、アルキル基をR’で表したときに式(2-1):―(CH2-CH2―O)p-R’で表される1価の基を意味するが、R3の種類によって具体的な構造は異なり、R3が水素原子である場合には、上記1価の基に含まれる総炭素数は、1~15となり、R3がメチル基である場合には、上記1価の基に含まれる総炭素数は、4~15となる。
【0043】
前記構造単位:Yを含むことで、歯質及び充填材料とのなじみをよくすることができ、歯面への浸透性や充填材料のモノマーとの相溶性を向上させ、歯面及び充填材料に対する密着性が良好な接着層が形成される。歯質や充填剤との相溶性向上という観点から、構造単位Yを表す前記一般式(2)におけるR4は、R3が水素原子である場合には、前記式(2-1)におけるpは0~5でありR’は炭素数1~15のアルキル基であり、且つ総炭素数が1~15である1価の基であることが好ましく、pは0~2でありR’は炭素数1~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が1~12である1価の基であることが特に好ましい。また、R3がメチル基である場合には、前記式(2-1)におけるpは0~5でありR’は炭素数4~15であるアルキル基であり、且つ総炭素数が4~15の1価の基であることが好ましく、pは0~2でありR’は炭素数4~12のアルキル基であり、且つ総炭素数が4~12である1価の基であることが特に好ましい。
【0044】
1-3.本発明のポリマーの製造方法
本発明のポリマーは、下記工程I及びIIを含む方法により好適に製造することができる。
【0045】
工程I: 構造Xのベースとなる下記一般式(3)または(4)
【0046】
【0047】
{一般式(3)および(4)中、R1及びR2並びにnは、前記一般式(1)におけるR1及びR2並びにnと同義であり、Eはアニオン性脱離基を表す。}
で表される(メタ)アクリレートからなる重合性単量体と、
構造Yベースとなる下記一般式(5)
【0048】
【0049】
{一般式(5)中、R3及びR4は、前記一般式(2)におけるR3及びR4と同義である。}
で表される(メタ)アクリレートからなる重合性単量体と、を共重合して、下記一般式(6)または(7)
【0050】
【0051】
{一般式(6)及び(7)中、R1及びR2並びにnは、前記一般式(1)におけるR1及びR2並びにnと同義であり、Eはアニオン性脱離基を表し、R3及びR4は、前記一般式(2)におけるR3及びR4と同義であり、xは目的とする本発明のポリマーにおける構造単位Xの前駆体となる構成単位のmol%を表し、目的とする本発明のポリマーにおける構造単位Xのmol%をと同じ数値を意味し、yは目的とする本発明のポリマーにおける構造単位Yに相当する構造単位のmol%を表す数値:100-xを意味する。}
で示される前駆体ポリマーを得る工程。
【0052】
工程II: 前記工程で得られた前駆体ポリマーに塩基を作用させて、前記「構造単位Xの前駆体となる構造単位」においてプロトンを引き抜くと共にEを脱離させて末端を-HC=CH2基又は-(Me)C=CH2基に変換することによって、前記「構造単位Xの前駆体となる構造単位」を「構造単位X」とする工程。
【0053】
上記製造方法は、工程IIにより重合性基前駆体を重合性基へ変換するため、保護・脱保護の工程がなく工程数が少ない。そのため、精製によるロスが少なく、高収率で目的のポリマー得ることができる。
【0054】
前記工程Iで使用する前記一般式(3)または(4)で表される(メタ)アクリレートからなる重合性単量体(以下、「構造単位X用モノマー」ともいう。)におけるアニオン性脱離基:Eとしては、ハロゲン原子やアルキルまたはアリールスルホニルオキシ基などが好ましく、臭素原子、塩素原子、p-トルエンスルホニルオキシ基が特に好ましい。
【0055】
合成原料の入手の容易さ等から好適に使用できる構造単位X用モノマーを例示すれば、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート、2-((3-クロロ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート、および2-((3-クロロプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0056】
前記工程Iで使用する前記一般式(5)表される(メタ)アクリレートからなる重合性単量体(以下、「構造単位Y用モノマー」ともいう。)してポリマーの性状を液体状とする観点等から好適に使用されるものを例示すれば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸‐2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸‐2‐(2‐メトキシエトキシ)エチルなどを挙げることができる。
【0057】
前記工程Iにおける共重合では、構造単位X用モノマーの総量(mol)と構造単位Y用モノマーの総量(mol)比が、構造単位X用モノマー:構造単位Y用モノマー=x:y=x:(100-x)となるようにして行えばよい。
【0058】
なお、前記工程Iの共重合は、重合反応における停止反応の起こりにくさや、反応の仕込みやすさの観点から、ラジカル重合で行うことが好ましく、目的の分子量を得やすく、反応が容易であるという観点から溶液重合法を採用することが好ましい。
【0059】
ラジカル重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤として機能するものが特に制限なく使用できるが、一般的にポリマーの合成反応で用いられる熱ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。好適に使用できる熱ラジカル重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、ジ-tert-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、ペルオキソ二硫酸アンモニウムなどを挙げることができ、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)や2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などを用いることが特に好適に使用される。
【0060】
本発明のポリマー合成のために反応溶媒としては、エタノール、n―プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、1,2―ジメトキシエタン、1,4―ジオキサンなどの公知の有機溶媒を挙げることができ、生成するポリマーの溶解性の観点から、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサンなどを用いることが好ましい。
【0061】
前記工程Iにおける共重合の反応条件としては、前記重合開始剤から重合反応が起きる条件であれば特に限定されない。前記の通り、重合反応はラジカル重合、特に熱ラジカル重合にて行うことが好ましく、熱ラジカル重合を用いる場合、反応温度は熱ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度及び反応溶媒の沸点に依存する。重合反応における副反応抑制の観点から、反応温度は40~120℃が好ましく、45~110℃にて反応を行うことがさらに好ましい。
【0062】
前記工程Iにおける共重合の分子量の制御方法として、重合開始剤の濃度及びモノマーの濃度によって制御することが出来る。前記工程Iにおける重合開始剤の濃度として、目的の分子量の前駆体ポリマーを得るという観点から、モノマーの総量100molに対して、0.01~20mol用いることが好ましく、0.05~15mol用いることがさらに好ましい。前記工程Iにおけるモノマー濃度は、目的の反応を速やかに反応させ、かつ副反応を抑制するという観点から、モノマーの総量(mol)の反応液の量(リットル:L)に対する濃度で表して0.1~100mol/Lが好ましく、0.2~50mol/Lがさらに好ましい。
【0063】
前記工程Iにおける反応時間は、モノマーが消失した時点を反応の終点とすることが好ましく、特に限定されない。
【0064】
前記工程I終了後は、得られた前駆体ポリマーを精製してもよいし、精製しなくともよいが工程IIでの副反応抑制のため、精製することが好ましい。精製方法としては、分液、カラムクロマトグラフィー、再沈殿などを挙げることができ、ポリマーの一般的な精製法である再沈殿にて精製を行うことが好ましい。
【0065】
再沈殿を行う際の溶媒として、前記反応溶媒と同様の溶媒を挙げることが出来るが、前駆体ポリマーの溶解性の観点から、ジイソプロピルエーテルを用いることが好ましい。
また、再沈殿を行う際は、前駆体ポリマーの性状の観点から、10℃以下での精製が好ましく、0℃以下での精製がさらに好ましい。
【0066】
前記工程IIで脱離反応を誘起させる塩基としては、無機塩基及び有機塩基のどちらを使用してもよい。好ましい無機化合物塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、有機化合物塩基としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドのような金属アルコキシド、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミンのような有機アミン化合物等が挙げられる。
【0067】
前記工程IIで脱離反応を誘起させる塩基の量としては、脱離反応を速やかに進行させるため、工程Iにて用いた構造単位Y用モノマー1molに対して、1~100mol用いることが好ましく、1.1~50mol用いることがさらに好ましい。前記工程IIにおける反応は、前駆体ポリマーと塩基が反応可能である条件であれば特に限定されないが、反応の行い易さから溶液にて行うことが好ましい。前記工程IIにおける反応温度は、反応の速やかな進行や副反応抑制のために室温にて行うことが好ましい。前記工程IIにおける、溶液反応を行う際の反応溶媒は、工程Iと同様の溶媒を用いることが出来る。ポリマーを溶解させることが出来れば用いる溶媒は限定されないが、精製の観点からジクロロメタンやクロロホルムを用いることが好ましい。前記工程IIにおける反応濃度は、ポリマーが溶解すれば特に限定されないが、ポリマー1gに対して、1~100ml用いることが好ましく、5~50mL用いることがさらに好ましい。
【0068】
前記工程II終了後は、得られたポリマーの精製を行う。精製方法としては、工程Iと同様の操作を挙げることが出来るが、塩基を除く観点から、酸を用いた分液による精製を行うことが好ましい。精製に用いる酸としては有機酸を用いても良いし、無機酸を用いてもよい。また、用いる酸の濃度としては、副反応抑制のため0.1~20mol/Lが好ましく、0.3~10mol/Lがさらに好ましい。前記工程II終了後の精製に用いる酸の量としては、ポリマー1gに対して、1~100ml用いることが好ましく、5~50ml用いることがさらに好ましい。用いる有機酸としては、カルボン酸やスルホン酸などを挙げることができ、無機酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを挙げることができる。
【0069】
酸による処理分液終了後は、得られた粗生成物を真空乾燥することにより、本発明のポリマーを得ることができる。このようにして得られた本発明のポリマーの重量平均分子量(標準ポリマー:ポリスチレンを用いたポリスチレン換算重量平均分子量)は、例えばフォトダイオードアレイ検出器210nmを備えたGPC測定装置を用い、カラム:ACQUITY APCTMXT45(1.7μm)又はACQUITY APCTMXT125(2.5μm)、カラム温度:40℃、展開溶媒:THF、流量:0.5ml/分といった条件で測定溶媒とで100倍程度に希釈したサンプルについて測定を行うことで確認することができる。
【0070】
2.本発明の接着性組成物
本発明の接着性組成物は、いわゆる1液型として構成されるものであり、本発明のポリマーと、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、有機溶媒と、水と、を含有し、重合開始剤を含有しない。本発明の接着性組成物は、重合開始剤を含まないにもかかわらず、本発明のポリマーを含むことによって充填材料に含まれる重合開始剤の作用を利用して、充填材硬化時に同時に硬化して良好な接着性能を発揮することができる。また、重合開始剤を含まないため、本発明の接着性組成物のみで硬化しないことから、環境光に対する安定性に優れており、操作余裕時間を長く確保することができる。したがって、本発明の接着性組成物は、一液型の光照射不要な歯科用接着材として適用可能である。
本発明の接着性組成物における本発明のポリマー以外の成分について説明する。
【0071】
2-1.重合性単量体
本発明の接着性組成物の構成成分である重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基を有する化合物である。本実施形態に係る接着性組成物では、重合性単量体がラジカル重合することによって硬化する。重合性単量体は、少なくとも酸性基含有重合性単量体を含む必要がある。
【0072】
2-1―1.酸性基含有重合性単量体
酸性基含有重合性単量体(以下、「酸モノマー」ともいう。)とは、光照射により上記ポリマーと共重合可能なモノマーであり、1分子中に、重合性不飽和基に加え、少なくとも1つの酸性基を含む酸性の重合性単量体を意味する。酸性基含有重合性単量体(酸モノマー)は、歯質の脱灰効果を有するとともに、歯質に対する接着成分としてはたらくことで、充填修復材の歯質に対する接着性を良好なものとする。
【0073】
酸モノマーに含まれる重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基などが挙げられる。これらの中でも、充填材料との接着性の観点から重合性不飽和基は、アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基であることが好ましい。
【0074】
酸モノマーに含まれる酸性基としては、該基を有す重合性単量体の水分散媒又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、典型的には、リン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)2}、リン酸水素ジエステル基{(-O-)2P(=O)OH}、カルボキシル基(-COOH)、ホスホノ基{-P(=O)(OH)2}、スルホ基(-SO3H)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、酸無水物基{-C(=O)-O-C(=O)-}、酸ハロゲン化物基{-C(=O)X、但しXはハロゲン原子を表す。}が挙げられる。
【0075】
水に対する安定性が高く、歯面のスメア層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、酸性基として、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基、及び/又はカルボキシル基を有する化合物であることが好ましく、リン酸二水素モノエステル基及び/又はリン酸水素ジエステル基を有する化合物であることが最も好ましい。
【0076】
好適に使用できる酸モノマーを例示すれば、リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有するものとして、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、モノ(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート、ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げることができる。
【0077】
また、カルボキシル基を有する酸モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等を挙げることができる。
【0078】
ホスホノ基を有する酸モノマーとして、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、6-(メタ)アクリロイルヘキシルホスホン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシスルホ基を有する酸モノマーとして、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。これら酸モノマーは単独で、又は複数種を混合して使用することができる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、酸モノマーの配合量は、酸モノマーの合計質量を基準とする。
【0079】
酸モノマーの配合量は、通常、本発明のポリマー100質量部に対して、10~5000質量部であればよいが、接着性の観点から、20~2000質量部であることが好ましい。なお、酸モノマーを、2種以上を組み合わせて使用する場合には、酸モノマーの配合量は、酸モノマーの合計質量を基準とする。
【0080】
2-1-2.酸性基非含有重合性単量体
本発明の接着性組成物の構成成分である重合性単量体は、接着性組成物における歯質に対する接着性及び接着耐久性の観点から酸性基含有重合性単量体以外に、酸性基を含まない酸性基非含有重合性単量体(以下、「非酸モノマー」ともいう。)を更に含むことが好適である。
【0081】
酸性基非含有重合性単量体(非酸モノマー)は、1分子中に、酸性基を含まず、かつ、1つ以上の重合性不飽和基を含む化合物であれば公知の化合物を特に制限無く用いることができる。ここで、重合性不飽和基としては、酸性基含有重合性単量体に含まれる重合性不飽和基と同様のものも挙げられるが、接着性の観点からは、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などが好ましい。
【0082】
非酸モノマーの好適な具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の単官能性重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性重合性単量体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー等のスチレン、α-メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。特に、歯質への浸透性や各成分の相溶性の観点で単官能性重合性単量体を含むことが好ましく、機械強度の向上や耐久性の向上の観点で多官能性重合性単量体を含むことが好ましい。
【0083】
非酸モノマーとして好適に使用される単官能性重合性単量体を具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0084】
非酸モノマーとして好適に使用される多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0085】
非酸モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。酸性基非含有重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、非酸モノマーの配合量は、非酸モノマーの合計質量を基準とする。
【0086】
非酸モノマーの配合量は、ポリマーによる接着性向上効果をさらに確保する観点から、本発明のポリマー100質量部に対して、10~10000質量部とすることが好ましく、さらに20~5000質量部とすることが好ましい。
【0087】
2-2.水
水としては、貯蔵安定性、生体適合性及び接着性の観点で有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が利用できる。水の配合量は、本発明のポリマー100質量部に対して、10~1000質量部とし、20~500質量部とすることが好ましく、50~200質量部とすることが特に好ましい。
【0088】
2-3.有機溶媒
有機溶媒としては、通常は、沸点が100℃未満の揮発性の高い有機溶媒が用いられる。好適に使用できる有機溶媒を例示すれば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を挙げることができる。これらの中でも、生体安全性、溶解性及び保存安定性等の理由で、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。有機溶媒としては、1種又は2種以上の有機溶媒を組み合わせて使用することもできる。有機溶媒の配合量は、本発明のポリマー100質量部に対して、10~3000質量部とし、30~1000質量部とすることが好ましい。
【0089】
2-4.その他の成分
本発明の接着性組成物は、必要に応じて、上記の成分以外の各種添加剤などの成分を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、フィラー、着色剤、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエンなどの重合禁止剤などが挙げられる。
【実施例0090】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものでは無い。
【0091】
<物質の略称>
まず、以下に、実施例及び比較例において使用した物質の略称について説明する。
【0092】
[構造単位X用モノマー]
BrMPMA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート
BrMPA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート
BrPA:2-((3-ブロモプロパノイル)オキシ)エチルアクリレート
BrMPDMA:2-((3-ブロモ-2-メチルプロパノイル)オキシ)エチルメタクリレート。
【0093】
[構造単位Y用モノマー]
MA:メチルアクリレート(東京化成工業社製)
DGMA:ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(東京化成工業社製)
BMA:ブチルメタクリレート(東京化成工業社製)
DMA:ドデシルメタクリレート(東京化成工業社製)
PDMA:ペンタデシルメタクリレート(東京化成工業社製)。
【0094】
[その他のモノマー(酸モノマー)]
MDP:10-メタクリルオキシドデシルジハイドロジェンフォスフェート(新中村化学工業社製)。
【0095】
[その他のモノマー(非酸モノマー)]
Bis-GMA:2,2’-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(新中村化学工業社製)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)
MMA:メチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬社製)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(新中村化学工業社製)
ODMA:オクタデシルメタクリレート(東京化成工業社製)。
【0096】
[その他の化合物]
THF:テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)
TEA:トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)
DIPE:ジイソプロピルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)
AIBN:アゾビス(イソブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製)。
【0097】
実施例1(ポリマー:P1の合成と評価)
下記反応式に示すように、後述する方法で合成した構造単位X用モノマー:BrMPAと、構造単位Y用モノマー:MAとを共重合させて前駆体ポリマー1を得た(工程I)後に、得られた前駆体ポリマー1を塩基:TEAで処理することにより本発明のポリマーであるポリマー:P1の合成を行った。以下に各工程の詳細を示す。
【0098】
【0099】
(1)構造単位X用モノマーの合成
3-ブロモイソ酪酸(東京化成工業社製);1.7g(15mmol)を500mlなす型フラスコに秤量した。さらにTHF100mlを添加し、続いて1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(東京化成工業社製);3.5g(18mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬社製);0.1g(1mmol)及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(新中村化学工業社製);1.3g(10mmol)を添加した。6時間後、エバポレーターを用いて除媒し、さらに酢酸エチル(100mL)を添加した。酢酸エチル層を、水(100ml)を用いて3回洗浄した。酢酸エチル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、エバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去した。得られた化合物を80℃、1時間、酸素バブリングしつつ乾燥させ、BrMPA;2.2g、収率75%にて得た。
【0100】
(2)工程I
上記で得られたBrMPA;133mg(0.5mmol)、AIBN;82mg(0.5mmol)を100mlなす型フラスコに秤量した。窒素置換を行った後、THF10mLを添加し、続いてMA;807μl(9.5mmol)を系内に添加した。オイルバスを用いて6時間、65℃にて加熱攪拌を行った。HPLCにてモノマーの消失を確認し、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。得られた粗生成物をエタノール/ドライアイスバス下、DIPE/THF(9/1)混合溶媒20mlを用いて再沈殿を行った後、真空乾燥を行い、重合性基前駆体ポリマー1を得た。
【0101】
(3)工程II
重合性基前駆体ポリマー1をジクロロメタン20mlに溶解させ、TEA2mLを添加した。室温にて3時間撹拌した後、1N塩酸20mlを添加し洗浄操作を行った。さらに2回、1N塩酸20mlにて、ジクロロメタン層の洗浄を行った。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウムにて乾燥させ、エバポレーターにてジクロロメタンを減圧留去及び真空乾燥することで407mg(収率85%)のポリマー:P1を得た。
【0102】
(4)ポリマーの分析
得られたポリマー:P1の構造単位X及びYの含有率(mol%)を以下に示す1H-NMR測定結果に基づき決定すると共に重量平均分子量を以下に示すGPC測定により求めたところ、構造単位X(mol%):構造単位Y(mol%)=5:95であり、重量平均分子量Mw=3000であった。
【0103】
[1H-NMR測定]
日本電子株式会社製JNM-ECAII(400MHz)を測定装置として用いた。測定溶媒として重クロロホルムを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行った。
【0104】
[GPC測定]
日本ウォーターズ社製Advanced Polymer Chromatographyを測定装置として用いた。また、カラムにはACQUITY APCTMXT45(1.7μm)及びACQUITY APCTMXT125(2.5μm)を用い、カラム温度は40℃とした。展開溶媒にはTHFを用い、流量は0.5ml/分とした。検出器にはフォトダイオードアレイ検出器210nmを用いた。また、測定溶媒としてTHFを用い、測定サンプルを100倍希釈して測定を行い、標準ポリマーとしてはポリスチレンを用いた。
【0105】
実施例2~14および比較例1~6(ポリマー:P2~P20の合成と評価)
実施例1に記載した方法に準じ、表1に示す、原料(構造単位X用モノマー及び構造単位Y用モノマー)を、表1に示す配合割合で用い、実施例2~14及び比較例1~6に係るポリマー:P2~P20を合成した。
なお、BrMPA以外の構造単位X用モノマーについては、実施例1で使用した2-ヒドロキシエチルアクリレートの代わりに、BrMPMAを合成する際は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)を、BrPAを合成する際は、3-ブロモ酪酸(東京化成工業社製)を、BrMPDMAを合成する際は、10-ヒドロキシドデシルメタクリレート(新中村化学工業社製)を夫々用いて、実施例1のBrMPAの合成と同様にして合成したものを使用した。
また、工程Iにおいて使用するAIBNの量を、実施例11及び比較例4及び5に係るポリマー11、18及び19の合成に際しては8.2mg(0.05mmol)に、実施例12に係るポリマー12の合成に際しては1.6mg(0.01mmol)に夫々変更し、それ以外は実施例1の工程Iと同様に共重合を行った。
得られたポリマーについて、収率、室温での性状及び実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
実施例15~28および比較例7~13(接着性組成物の調製と評価)
(1)接着性組成物の調製
比較例13以外については、ポリマー:P1~P20を用い、
・ポリマー 10質量部、
・酸モノマー:MDP 2質量部、
・非酸モノマー:HEMA 3質量部、Bis-GMA 3質量部及び3G 2質量部、
・有機溶媒:アセトン 60質量部、並びに
・水:20質量部
からなる組成の接着性組成物を調製した。
また、比較例13については、
・ポリマー 0質量部、
・酸モノマー:MDP 4質量部、
・非酸モノマー:HEMA 6質量部、Bis-GMA 6質量部及び3G 4質量部、
・有機溶媒:アセトン 60質量部、並びに
・水:20質量部
からなる組成の接着性組成物を調製した。
【0109】
(2)接着性組成物の評価
得られた接着性組成物の歯質に対する接着強度を以下に示す(充填材であるコンポジットレジン施用前の事前硬化を行っていない)方法により、「引張接着強さ」で評価した。結果を表3に示す。
【0110】
[引張接着強さ評価方法]
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質あるいはエナメル質平面を削り出した被着体を準備した。
次に、これら2種類の被着体のそれぞれの研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、各実施例および各比較例で調製した接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。
直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトユニバーサルフロー、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(エリパー、3M ESPE社製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(エステセムII、トクヤマデンタル社製)で接着し、評価用試料(サンプル)を作製した。なお、使用したコンポジットレジンは、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。この試験サンプルを37℃の水中にて24時間浸漬した後、万能試験機(AG-I型、島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/mmの条件で荷重を開始し、測定サンプルが破断するまで試験サンプルに荷重を加え、最大荷重から下記式を用いて引張接着強さ(接着強度)を求めた。
引張接着強さ(MPa)=最大荷重(N)/被着面積(mm2)。
【0111】
【0112】
表3に示されるように、実施例15~28に係る接着性組成物では、すべての実施例において良好な引張接着強さ(接着強度)が得られた。これに対し、本発明のポリマーに該当しないポリマーを用いた例である比較例7~13に係る接着性組成物では、良好な接着強度を示さなかった。具体的には、固体であるポリマーを用いた比較例7及び8では、エアブローによって歯面を乾燥させた際に、ポリマーの析出が観測され、均一な接着層を形成できないため、低い接着強度を示した。比較例9は、前記一般式(2)におけるR4がC18H35であるポリマー用いた例であるが、疎水性が高すぎるため、歯質とのなじみが悪く低い接着強度であった。比較例10は、ポリマーの分子量が本発明の要件を超えている例であり、分子量の増大によるポリマー及び接着性組成物の粘度上昇による歯質や充填材料とのなじみの低下により、低い接着強度を示した。比較例11および12は構造単位X及びYが本発明の要件を満たさない比率で含まれている例である。比較例11では構造単位Xが少なすぎるため、ポリマーとモノマーの結合割合が少なく、低い接着強度を示した。比較例12では、構造単位Yを有さないため、接着層と歯面のなじみが低下し、低い接着強度を示した。比較例13は、モノマーのみを用いた例であり、低い接着強度を示した。