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特開2024-45967電解質組成物及びその保管、輸送、製造方法、並びに固結防止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045967
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】電解質組成物及びその保管、輸送、製造方法、並びに固結防止剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20240327BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240327BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240327BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240327BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0567
H01G11/64
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151079
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 智大
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康則
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078DA13
5E078DA14
5H029AJ14
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】スルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質において、凝集物の発生を抑制し、容器から容易に排出できる電解質組成物を提供する。
【解決手段】電解質組成物は、一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質と、上記粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤とを含み、上記固結防止剤の含有量は、上記粉末状の電解質100質量%に対して、0.001質量%以上1質量%以下であることを特徴とする。
LiN(RSO)(RSO) (R及びRは同一又は異なってフッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。) (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質と、
上記粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤とを含み、
上記固結防止剤の含有量は、上記粉末状の電解質100質量%に対して、0.001質量%以上1質量%以下であることを特徴とする電解質組成物。
LiN(RSO)(RSO) (R及びRは同一又は異なってフッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。) (1)
【請求項2】
上記固結防止剤は、ケイ素化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsFからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の電解質組成物。
LiPF(C2m+16-a (a:0≦a≦6、m:1≦m≦4) (2)
LiBF(C2n+14-b (b:0≦b≦4、n:1≦n≦4) (3)
【請求項3】
上記粉末状の電解質100質量%に対して、上記スルホニルイミド化合物の含有量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項4】
上記粉末状の電解質100質量%に対して、上記スルホニルイミド化合物の含有量が99質量%よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質組成物を-20℃以上60℃以下の温度で保管及び/又は輸送することを特徴とする電解質組成物の保管又は輸送方法。
【請求項6】
上記電解質組成物を金属製容器で保管及び/又は輸送することを特徴とする請求項5に記載の電解質組成物の保管又は輸送方法。
【請求項7】
一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質100質量%に対して、該粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤を0.001質量%以上1質量%以下で混合することを特徴とする電解質組成物の製造方法。
LiN(RSO)(RSO) (R及びRは同一又は異なってフッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。) (1)
【請求項8】
一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤であって、
ケイ素化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsFからなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含むことを特徴とする固結防止剤。
LiN(RSO)(RSO) (R及びRは同一又は異なってフッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。) (1)
LiPF(C2m+16-a (a:0≦a≦6、m:1≦m≦4) (2)
LiBF(C2n+14-b (b:0≦b≦4、n:1≦n≦4) (3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解質組成物及びその保管、輸送、製造方法、並びに固結防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電解質、燃料電池の電解液への添加物、選択的求電子フッ素化剤、光酸発生剤、熱酸発生剤、近赤外線吸収色素、帯電防止剤、反応触媒等に使用されるフルオロスルホニルイミド塩等のスルホニルイミド化合物は、通常、結晶化させて乾燥した後、得られた粉体をそのまま包装して保管又は輸送(出荷)される。出荷する際の粉体の荷姿の1つとして金属製のキャニスター容器がある。ここで、スルホニルイミド化合物の粉体は、凝集する性質があるため、保管又は輸送中に容器内で凝集してその凝集物が容器排出口よりも大きくなると、詰りが発生してスルホニルイミド化合物の排出が一旦止まってしまうことがある。この場合、例えば、容器外部からノッカー等で打撃を与えて、凝集物を容器排出口よりも小さくなるまで崩すことで、スルホニルイミド化合物の排出が再開される。この操作により、キャニスター容器内の粉体を全量排出することはできるものの、適宜、打撃を与える必要があるため作業性が悪く、また容器からの排出に時間がかかるという問題がある。
【0003】
そこで、本出願人は、スルホニルイミド化合物の粉体を保管又は輸送するときの保存安定性の向上を図るべく、キャニスター容器以外の荷姿として、少なくとも1層の金属層を有する包装材料で粉体を包装する包装体を提案している(特許文献1及び2)。また、本出願人は、スルホニルイミド化合物の粉体を成形して電解質成形体を製造する方法をPCT/JP2022/008402の出願明細書に開示している。粉体を成形体とすることで凝集化が抑制され、容器からの排出性を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6208929号公報
【特許文献2】特許第6266702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の包装体でも、保管期間(例えば1ヵ月以上)や保管又は輸送環境によっては、包装材料内で粉体が凝集し、包装材料からの排出が困難になるおそれがある。また、上記の成形体の粒径と容器排出口の口径によってはブリッジが発生することや、成形体が保管又は輸送中に衝撃を受けて崩れ、再粉化した粉体が凝集することに起因して、容器からの排出が困難になるおそれがある。
【0006】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質において、凝集物の発生を抑制し、容器から容易に排出できる電解質組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、検討を進めた結果、スルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質(粉体)に特定の化合物(剤)を混合させることで、粉体が凝集した場合でも固結することが抑制され、凝集物の発生が抑制されることを見出した。本開示は、具体的には以下のとおりである。
【0008】
本開示の電解質組成物は、一般式(1):
LiN(RSO)(RSO) (R及びRは同一又は異なってフッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。) (1)
で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質と、上記粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤とを含み、上記固結防止剤の含有量は、上記粉末状の電解質100質量%に対して、0.001質量%以上1質量%以下であることを特徴とする。上記固結防止剤は、ケイ素化合物、一般式(2):
LiPF(C2m+16-a (a:0≦a≦6、m:1≦m≦4) (2)
で表される化合物、一般式(3):
LiBF(C2n+14-b (b:0≦b≦4、n:1≦n≦4) (3)
で表される化合物及びLiAsFからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。上記粉末状の電解質100質量%に対して、上記スルホニルイミド化合物の含有量が90質量%以上であってもよく、99質量%よりも多くてもよい。
【0009】
本開示の電解質組成物の保管又は輸送方法は、上記電解質組成物を-20℃以上60℃以下の温度で保管及び/又は輸送してもよく、を金属製容器で保管及び/又は輸送してもよい。
【0010】
本開示の電解質組成物の製造方法は、上記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質100質量%に対して、該粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤を0.001質量%以上1質量%以下で混合することを特徴とする。
【0011】
本開示の固結防止剤は、上記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質の固結を防止する固結防止剤であって、ケイ素化合物、上記一般式(2)で表される化合物、上記一般式(3)で表される化合物及びLiAsFからなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、スルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質において、凝集物の発生を抑制し、容器から容易に排出できる電解質組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0014】
<電解質組成物>
本実施形態に係る電解質組成物は、粉末状の電解質と固結防止剤とを含み、その形態は粉体(固体)である。本明細書において、粉末状(粉体)の電解質とは、粒度分布測定装置で測定される平均粒子径(D50)が好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下であるものを意味する。このように、細かい平均粒子径を有する電解質を含む電解質組成物は特に凝集しやすいものの、本実施形態に係る固結防止剤との併用によって、電解質組成物(その保管又は輸送中)の固結が防止される。
【0015】
[電解質]
電解質は、一般式(1):
[化1]
LiN(RSO)(RSO) (1)
で表されるスルホニルイミド化合物(以下「スルホニルイミド化合物(1)」とも称する、フッ素含有スルホニルイミド塩)を含むリチウム塩の粉体(固体)である。
【0016】
一般式(1)中、R及びRは同一又は異なって(互いに独立して)、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を示す。
【0017】
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基の中では、炭素数1~6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0018】
炭素数1~6のフルオロアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられる。炭素数1~6のフルオロアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。特に、フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であってもよい。
【0019】
置換基R及びRとしては、フッ素原子及びパーフルオロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等の炭素数1~6のパーフルオロアルキル基等)が好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基がより好ましく、フッ素原子及びトリフルオロメチル基がより一層好ましく、フッ素原子がさらに好ましい。なお、置換基R及びRは、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0020】
スルホニルイミド化合物(1)としては、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(FSO、以下「LiFSI」とも称する)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiN(CFSO、以下「LiTFSI」とも称する)、リチウム(フルオロスルホニル)(メチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(エチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ヘプタフルオロプロピルスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、リチウムビス(ヘプタフルオロプロピルスルホニル)イミド等が挙げられる。スルホニルイミド化合物(1)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
スルホニルイミド化合物(1)の中では、LiN(FSO及びLiN(CFSOが好ましく、LiN(FSOがより好ましい。換言すると、電解質組成物は、電解質としてLiN(FSO及びLiN(CFSOの少なくとも一種を含むものが好ましく、LiN(FSOを含むものがより好ましい。
【0022】
スルホニルイミド化合物(1)は、市販品を使用してもよく、従来公知の方法により合成して得られたものを用いてもよい。スルホニルイミド化合物(1)を合成する方法は特に限定されず、従来公知の方法は全て採用することが出来る。例えば、国際公開第2011/149095号、特開2014-201453号公報、特開2010-168249号公報、特開2010-168308号公報、特開2010-189372号公報、国際公開第2011/065502号、特表平8-511274号公報、国際公開第2012/108284号、国際公開第2012/117961号、国際公開第2012/118063号、特開2010-280586号公報、特開2010-254543号公報、特開2007-182410号公報、国際公開第2010/010613号等に記載の方法が挙げられる。上記の従来公知の方法により、スルホニルイミド化合物(1)の粉体(固体)が得られる。
【0023】
また、電解質は、スルホニルイミド化合物(1)を含んでいればよいが、他の電解質(スルホニルイミド化合物(1)以外の電解質)を含んでいてもよい。他の電解質としては、イミド塩、非イミド塩等が挙げられる。
【0024】
イミド塩としては、スルホニルイミド化合物(1)とは異なる他のフッ素含有スルホニルイミド塩(以下「他のスルホニルイミド化合物」という)等が挙げられる。他のスルホニルイミド化合物としては、スルホニルイミド化合物(1)として列挙したフッ素含有スルホニルイミドの非リチウム塩(例えば、スルホニルイミド化合物(1)において、リチウム(イオン)をリチウムイオン以外のカチオンに置換した塩)等が挙げられる。リチウムイオン以外のカチオンに置換した塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩等のアルカリ金属塩;ベリリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アンモニウム塩;ホスホニウム塩等が挙げられる。他のスルホニルイミド化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、他のスルホニルイミド化合物は、市販品を使用してもよく、従来公知の方法により合成して得られたものを用いてもよい。
【0025】
非イミド塩としては、非イミド系アニオンとカチオン(リチウムイオン及び前記例示のカチオン)との塩が挙げられる。非イミド塩としては、一般式(2):
[化2]
LiPF(C2m+16-a (a:0≦a≦6、m:1≦m≦4) (2)
で表される化合物(以下「フルオロリン酸化合物(2)」という)、一般式(3):
[化3]
LiBF(C2n+14-b (b:0≦b≦4、n:1≦n≦4) (3)
で表される化合物(以下「フルオロホウ酸化合物(3)」という)、六フッ化砒酸リチウム(LiAsF)、LiSbF、LiClO、LiSCN、LiAlF、CFSOLi、LiC[(CFSO]、LiN(NO)、LiN[(CN)等のリチウム塩;非リチウム塩(例えば、これらのリチウム塩において、リチウム(イオン)を前記例示のカチオンに置換した塩(例えば、NaBF、NaPF、NaPF(CF等)等が挙げられる。非イミド塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、非イミド塩は、市販品を使用してもよく、従来公知の方法により合成して得られたものを用いてもよい。
【0026】
他の電解質の中では、イオン伝導度、コストの観点等から、非イミド塩が好ましく、フルオロリン酸化合物(2)、フルオロホウ酸化合物(3)及びLiAsFが好ましく、フルオロリン酸化合物(2)がより好ましい。
【0027】
フルオロリン酸化合物(2)としては、LiPF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C等が挙げられる。フルオロリン酸化合物(2)の中では、LiPF及びLiPF(Cが好ましく、LiPFがより好ましい。
【0028】
フルオロホウ酸化合物(3)としては、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(C等が挙げられる。フルオロホウ酸化合物(3)の中では、LiBF、及びLiBF(CFが好ましく、LiBFがより好ましい。
【0029】
電解質の塩組成としては、スルホニルイミド化合物(1)の単体塩組成の電解質塩であってもよく、スルホニルイミド化合物(1)及び他の電解質を含む混合塩組成の電解質塩であってもよい。混合塩組成の電解質塩を用いる場合、スルホニルイミド化合物(1)及びフルオロリン酸化合物(2)を含む混合塩組成の電解質塩が好ましく、LiN(FSO及びLiN(CFSOの少なくとも一種と、LiPFとを含む混合塩組成の電解質塩がより好ましく、LiN(FSO及びLiPFを含む混合塩組成の電解質塩が特に好ましい。
【0030】
粉末状の電解質(100質量%)に対するスルホニルイミド化合物(1)の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに一層好ましくは99質量%以上であり、99質量%よりも多い(超過)ことが特に好ましい。なお、当該含有量の上限は100質量%である。つまり、電解質はスルホニルイミド化合物(1)のみを含むものでもよい。
【0031】
他の電解質を含む場合、粉末状の電解質(100質量%)に対する他の電解質の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、1質量%よりも多い(超過)ことが好ましく、その上限値は10質量%以下が好ましい。
【0032】
[固結防止剤]
本実施形態に係る固結防止剤は、スルホニルイミド化合物(1)を含む粉末状(粉体)の電解質の固結を防止する剤である。スルホニルイミド化合物(1)粉体に固結防止剤を添加すると、粉体が凝集した場合でも固結し難く、凝集物の発生が抑制される。これにより、スルホニルイミド化合物(1)と固結防止剤とを含む電解質組成物の粉体は、容器内で所定期間保管後又は輸送後に、打撃を与えなくても、容器から容易に排出される。なお、本明細書において、電解質組成物の粉体において、凝集物の発生が抑制される性質を「凝集性」とも称する。また、電解質組成物の粉体において、打撃を与えなくても、容器から容易に(例えば粉体の自重で)排出される性質を「排出性」とも称する。
【0033】
固結防止剤は、ケイ素化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsFからなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含む。固結防止剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。すなわち、固結防止剤は、ケイ素化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsFの何れか1種のみを含むものでもよく、2種以上を含むものでもよい。
【0034】
(ケイ素化合物)
ケイ素化合物としては、比表面積が100m/g~500m/g、好ましくは150m/g~400m/gのフュームドシリカ(乾式シリカ、好ましくは疎水性フュームドシリカ)、球状シリカ、それらのトリメチルシリル化物(有機シリカ粒子)等の二酸化ケイ素化合物(粉末)等が挙げられる。フュームドシリカとしては、オルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等で疎水化処理したもの等が挙げられる。フュームドシリカの具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製のAEROSIL(登録商標)シリーズ;旭化成ワッカーシリコーン株式会社製の高分散シリカHDK(登録商標)シリーズ等の市販品が挙げられる。ケイ素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
(一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsF
一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物及びLiAsFは、それぞれ、他の電解質(非イミド塩)として例示したフルオロリン酸化合物(2)、フルオロホウ酸化合物(3)及びLiAsFである。すなわち、電解質組成物は、これら化合物を電解質としてではなく、固結防止剤として含んでいてもよい。以下、固結防止剤として含むフルオロリン酸化合物(2)、フルオロホウ酸化合物(3)及びLiAsFを「非ケイ素化合物」(ケイ素化合物以外の固結防止剤)とも称する。非ケイ素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
固結防止剤の中では、電解質組成物の凝集性及び排出性の向上を図る観点から、ケイ素化合物及びフルオロリン酸化合物(2)が好ましく、フュームドシリカ及びLiPFがより好ましい。
【0037】
固結防止剤の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、電解質組成物の凝集性及び排出性の向上を図る観点から、粉末状の電解質100質量%に対して、0.001質量%以上1質量%以下である。当該含有量は、粉末状の電解質100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、その上限値は、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0038】
固結防止剤として非ケイ素化合物を含む場合、非ケイ素化合物の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)は、電解質組成物の凝集性及び排出性の向上を図る観点から、スルホニルイミド化合物(1)100質量%に対して、0.001質量%以上1質量%以下である。当該含有量は、スルホニルイミド化合物(1)100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、その上限値は、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。なお、フルオロリン酸化合物(2)、フルオロホウ酸化合物(3)及びLiAsFの少なくとも1種を電解質(他の電解質)として含む場合、スルホニルイミド化合物(1)100質量%に対する他の電解質の含有量は、通常、非ケイ素化合物の含有量の上限(1質量%以下)よりも十分に大きな値(例えば1質量%超過10質量%以下程度)になる。換言すると、フルオロリン酸化合物(2)、フルオロホウ酸化合物(3)及びLiAsFの少なくとも1種を固結防止剤として含む場合の含有量は、電解質(他の電解質)として含む場合と比較して、微量の範囲に特定される。
【0039】
なお、容器から排出した電解質組成物を溶媒に溶解させて電解液として使用する場合、固結防止剤は溶解し難いため、必要に応じて電解液を濾過する。このとき、固結防止剤の含有量が1質量%を超える電解質組成物では、濾過性が悪くなる(濾過不良による)問題を引き起こすおそれがある。
【0040】
<電解質組成物の製造方法>
本実施形態に係る電解質組成物の製造方法は、スルホニルイミド化合物(1)、必要に応じて他の電解質を含む粉末状の電解質に、ケイ素化合物及び/又は非ケイ素化合物を含む固結防止剤を、当該粉末状の電解質100質量%に対して0.001質量%以上1質量%以下で混合する。なお、固結防止剤が非ケイ素化合物を含む場合、非ケイ素化合物を、スルホニルイミド化合物(1)100質量%に対して0.001質量%以上1質量%以下で混合する。
【0041】
スルホニルイミド化合物(1)粉体に固結防止剤を添加して混合する方法は、従来公知の方法を適宜採用すればよい。なお、得られる電解質組成物は吸湿性があるので、当該混合する工程は、低露点下、例えば露点-30℃以下で実施するのがよい。
【0042】
<電解質組成物の保管又は輸送方法>
本実施形態に係る電解質組成物の保管又は輸送方法は、電解質組成物を容器に収容して保管又は輸送する方法である。
【0043】
(容器)
容器としては、密閉容器が好ましい。密閉容器は、水分が混入し難い材質・構造のものが好ましく、容器内圧を維持できる気密性の高いものがより好ましく、密封可能(閉鎖系)なものがさらに好ましい。容器を密封可能とする手段としては、例えば、容器の一部にバルブを設ける形態等が例示される。
【0044】
密閉容器の材質(内容物(電解質組成物)と接触する部分の材質)は、特に限定されず、ステンレス鋼(SUS316等)、アルミニウム、アルミニウム合金、ハステロイ(登録商標)等の金属;テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(パーフルオロアルコキシアルカン、PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂;ガラス等が挙げられる。密閉容器の中では、金属製容器及びフッ素系樹脂製容器が好ましく、ステンレス鋼製容器及びPFA製容器がより好ましい。
【0045】
また、前記の金属材料から構成される密閉容器の内面を樹脂でコーティングしてもよい。コーティングに用いられる樹脂は、特に制限されず、フッ素系樹脂(PTFE、PFA、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等)、オレフィン系樹脂(PP等)等が挙げられる。
【0046】
密閉容器の構造は、キャニスター缶、ポリ容器、フッ素系樹脂製の容器、パウチ型容器等が挙げられる。また、密閉容器は、樹脂製の内袋と金属製の外装体からなる構造でもよい。密閉容器の形状は、特に限定されず、ボトル型、筒型、アルミ付紙パック型、アルミパウチ型等が挙げられる。密閉容器の容積は、特に限定されず、100L~20000L程度である。
【0047】
電解質組成物を保管及び/又は輸送するときの温度(保管及び/又は輸送中の密閉容器の内温)は、-20℃以上60℃以下が好ましい。当該温度の下限は-10℃以上、0℃以上、10℃以上であってもよく、その上限は50℃以下、40℃以下であってもよい。当該温度を適宜調整・制御することで、保管及び/又は輸送中に凝集物の発生がより一層抑制される(凝集性の向上)。
【0048】
<用途>
本開示の電解質組成物は、例えば、電池(充放電機構を有する電池)、蓄電(電気化学)デバイス(又はこれらを構成するイオン伝導体の材料)等に用いられる。具体的には、電解質組成物は、例えば、一次電池、二次電池(例えばリチウム(イオン)二次電池)、燃料電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等を構成する電解質として使用し得る。
【実施例0049】
以下に、本開示を実施例に基づいて説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本開示の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本開示の範囲から除外するものではない。
【0050】
(実施例1)
温度25℃で、スルホニルイミド化合物(1)としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(株式会社日本触媒製、LiN(FSO、以下「LiFSI」と称する) 300.10gと、固結防止剤としてフュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(登録商標)RX200) 0.90gとを混合し、LiFSI組成物(電解質組成物)を得た。続いて、100mLビーカーにLiFSI組成物 250gを入れ、その上部に2.5kgの分銅を載せ、開放状態で1ヶ月間保管した。1ヶ月間保管後、ビーカーからのLiFSI組成物の排出性および凝集性を以下の評価基準に基づいて評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0051】
(排出性)
排出性は、分銅をのけて、ビーカーを反転させたときに、LiFSI組成物が自重で排出される場合を「〇」、一方、自重で排出されない場合を「×」と評価した。
【0052】
(凝集性)
凝集性は、排出されたLiFSI組成物を目視で観察し、凝集物が確認されない場合を「〇」(凝集物の発生なし)、凝集物が確認された場合を「×」と評価した。
【0053】
(実施例2)
LiFSI 300.23gと、フュームドシリカ 0.31gとを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でLiFSI組成物を製造、保管、評価した。
【0054】
(実施例3)
LiFSI 300.12gと、固結防止剤としてLiPF(ステラケミファ(株)製) 0.90gとを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でLiFSI組成物を製造、保管、評価した。
【0055】
(実施例4)
LiFSI 300.42gと、LiPF 0.31gとを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でLiFSI組成物を製造、保管、評価した。
【0056】
(比較例1)
100mLビーカーにLiFSI 250gを入れ、その上部に2.5kgの分銅を載せ、開放状態で1ヶ月間保管こと以外は、実施例1と同様の方法で評価した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、各実施例と比較例とを対比して、各実施例のLiFSI組成物は、分銅による負荷がかかった開放状態で1ヶ月間保管しても排出性及び凝集性に優れることがわかった。すなわち、LiFSI粉体に特定量の固結防止剤を含有させることで凝集物の発生が抑制され、その結果、LiFSI組成物を容器から容易に排出できることが分かった。
【0059】
ここで、実施例3及び4では、電解質として一般に使用されるLiPFを、電解質として含有する場合の通常の含有量よりも微量でLiFSI粉体に含有させることで上記と同様の効果が発現されることが分かった。すなわち、LiFSIと共に使用されるLiPF等の他の電解質は、LiFSI粉体に対する含有量を特定量にすることで、固結防止を目的とする剤になり得ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示の電解質組成物は、スルホニルイミド化合物を含む粉末状の電解質を容器で保管又は輸送するときの形態・内容物として有用である。