(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004598
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】立体細胞構造体作製する培養バッグ
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240110BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104270
(22)【出願日】2022-06-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】519206564
【氏名又は名称】ティシューバイネット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522260861
【氏名又は名称】ダイバースファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】大野次郎
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】立体細胞構造体を容易に製造することができる方法及びこれに用いるバッグ等を提供する
【解決手段】細胞を増殖し結合させる方法であって、バッグ内に細胞および培養液を投入し増殖させ、細胞同士を接触させる機構を持ち、細胞同士が結合するように培養する方法及びバッグ等を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を増殖し結合させる方法であって、
バッグ内に細胞および培養液を投入し増殖させ、
細胞同士を接触させる機構を持ち、
細胞同士が結合するように培養する方法
【請求項2】
前記による培養方法であって
細胞同士を接触させる機構は、
内部の空気を減圧し、細胞同士を接触させる方法。
【請求項3】
前記による培養方法であって
細胞同士を接触させる機構は、
バッグ外部から圧力を加え、細胞同士を接触させる方法。
【請求項4】
前記による培養方法であって
減圧状態と、加圧状態を交互に繰り返す方法
【請求項5】
前記による培養方法であって
密閉されたバッグの一部に、変形しにくい部位があるもの
【請求項6】
前記による培養方法であって
密閉されたバッグの一部に、任意の形状のくぼみがあり、
そのくぼみ内に細胞が入り込み、その任意の形状の形に細胞が結合するもの
【請求項7】
前記による培養方法であって
、細胞が接着することができる足場材をバッグ内に投入して培養する方法
【請求項8】
細胞を増殖し結合させるバッグであって、
バッグ内に細胞および培養液を投入し増殖させ、
細胞同士を接触させる機構を持つ培養バッグ
【請求項9】
前記8項による培養バッグであって
バッグの一部に、変形しにくい部位がある培養バッグ
【請求項10】
上記8項による培養バッグであって
密閉されたバッグの一部に、任意の形状のくぼみがあり、
そのくぼみ内に細胞が入り込み、その任意の形状の形に細胞が結合する培養バッグ
【請求項11】
上記8項による培養バッグであって
密閉されたバッグの内部に足場材を固定する機構をもつ培養バッグ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を用いた立体細胞構造体を作製する培養バッグ及び作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物の体や臓器は細胞が結合してできた立体細胞構造体である。細胞が生存状態のまま細胞間結合といわれる特殊な結合方法で結合し、組織化したものである。これを人工的に作ることは極めて困難とされてきた。一般には細胞を人為的に結合させてもおよそ200ミクロン以上の大きさになると内部で細胞が死滅し始めるということが知られている。
【0003】
非特許文献1によると、tissue spheroid と呼ばれる細胞の微小な塊を結合させることで、大きな立体細胞構造体の作製が可能になることを示唆している。7項にIn continuous (analog) bioprinting, tissue spheroids could be continuously dispensed with hydrogel. とあり、ハイドロゲルを用いてspheroidを配置することが記されている。これは粘度の高いゲルをいわば接着剤として利用してspheroid結合させる手法である。
【0004】
非特許文献2にバイオプリンターについてまとめられている。Fig3 に示されるように、cell-laiden hydrogell(細胞を含むハイドロゲル)を吐出して成型するものである。この手法のバイオプリンターは数多く販売されているが、ハイドロゲルが細胞を包み込んでいるため、ハイドロゲル内の栄養素や酸素を消費尽くすと細胞が死滅してしまう、という課題が残されている。
【0005】
特許文献1は細胞を死滅させずに長期間培養することを可能にした手法を提供している。網目状に支持材に囲まれた空間で細胞塊を培養することで、培地の供給を継続しながら長期間の培養を可能とした手法である。この手法により、厚さ1mm程度までの立体細胞構造体が作製できることが非特許文献3にて証明されている。
【0006】
非特許文献3では、特許文献1によって提供されたネットモールド法にて作製したヒト皮膚由来線維芽細胞で立体細胞構造体を作製する実例を示している。これによると、細胞は3週間の培養で組織化し、1.2mm程度までの厚さで内部まで生存していることが認められる。(Fig4、B)
【0007】
特許文献2では、バルーンにより内部から物理的圧力をかけることで管状の立体細胞構造体を作製する手法を提供している。この手法により、細胞同士が強固に結合することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6256853号
【特許文献2】特願2021-562438
【特許文献3】特許第6881798号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Organ printing: Tissue spheroids as building blocks、Vladimir Mironova et al, Biomaterials. 2009 April ;30(12):2164-2174. doi:1016/j.biomaterials.2008.12.084
【非特許文献2】Review of Low-Cost 3D Bioprinters: State of the Market and Observed Future Trends, Anh Tong et al, Published June 17, 2021 Review Article Find in PubMed https://doi.org/10.1177/24726303211020297
【非特許文献3】Bioengineering of a scaffold-less three-dimensional tissue using net mould Katsuhisa Sakaguchi et al, Biofabrication 13 (2021)045019, https://doi.org/10.1088/1758-5090/ac23e3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の手法にて、細胞を結合させ立体細胞構造体を作製することが可能となったが、再生医療及び培養肉などの事業化に向けてはより簡便かつ安価な手法が望まれている。細胞培養は無菌状態で行う必要があり、密閉された空間内で行うことが必要である。同時に細胞を立体的に結合させるための機構を密閉容器内に組み込むことが必要である。本発明はこれらの課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に関る立体細胞構造体の製造方法は、密閉されたバッグ内に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子などを投入し、培養される細胞もしくは細胞塊をバッグの内壁で押し付けることにより立体細胞構造体を作製するステップを含む。
【0012】
さらに本発明に関る立体細胞構造体の製造方法は、密閉されたバッグ内に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子などを投入し、さらに細胞が付着する足場材をバッグ内に設置し、培養される細胞もしくは細胞塊をバッグの内壁で押し付けることにより立体細胞構造体を作製するステップを含む
【0013】
さらに本発明に関る立体細胞構造体の製造方法は、密閉されたバッグ内に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子などを投入し、さらに細胞が付着する足場材をバッグ内に設置し、バッグを回転もしくは振とうさせることにより立体細胞構造体を作製するステップを含む
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、滅菌されたバッグ内で細胞及び細胞塊が培養液及び増殖因子等で増殖され細胞同士が結合するため、工程が簡素であり、低コストの立体細胞構造体を製造する手法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一の実施例に関る立体細胞構造体を製造するのに用いられる構成図である。
【
図2】本発明の第二の実施例に関る立体細胞構造体を製造するのに用いられる構成図である。
【
図3】本発明の第三の実施例に関る立体細胞構造体を製造するのに用いられる構成図である。
【
図4】本発明の第四の実施例に関るフィルタを内蔵するバッグの構成を示す図である。
【
図5】形状の異なるフィルタ付きバッグの一例である。
【
図6】筒型バッグとその内部に配置される足場材をしめず図である。
【
図7】足場材と足場材の形状を保持するフレームを示す図である。
【
図8】培養バッグで実際に細胞を培養した一例である。
【
図9】外部から圧縮板400を用いてバッグ100内部の細胞星くは細胞塊200を接触させる手法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態にかかわる立体細胞構造体の製造方法は、バッグと、バッグ内部に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子、足場材などを投入し、収縮拡張もしくは回転などの物理的効果を付与し、一定期間培養することで、立体細胞構造体を製造するものである。
【実施例0017】
図1は本発明の第一の実施例に関る立体細胞構造体を製造するのに用いられる構成図である。(a)は密閉された内部が無菌状態のバッグ100に細胞200、および培養液150を投入している状態を示している。細胞200は個別の細胞でもよいし、数百ミクロン程度の細胞の塊でもよい。培養液150は充満していても、一部空気が入っていてもよい。シリンジ300にシリンダ350が装填されており、ステッピングモーター360がコントローラー370により制御され、任意の距離、速度、頻度にてシリンダ350が出し入れされる。(b)は吸引時を示す。シリンダー350が移動することで、培養液150が吸引され、バッグ100が収縮し、内部の細胞が圧縮され、圧縮された細胞201となる。上記(a)と(b)は任意の頻度により繰り返されることで、細胞が圧縮され細胞同士が結合する。培地が吸引されることで、細胞から排出される老廃物も同時に除去することができる。バッグはすべて柔らかい素材で作られていてもよいし、一部変形しにくい素材で作られていてもよい。一定期間の培養で細胞同士が結合すると(c)に示される結合した細胞201を得ることができる。更に、最後に吸引しバッグ内の培養液及び空気を排除することで、無菌状態のまま、商品の包装ができる。
図8は実際の細胞を用いて本手法で作製した立体細胞構造体である。細胞同士が結合して大きな構造体となっている。
【0018】
図2は本発明の第2の実施例に関る立体細胞構造体を製造するのに用いられる構成図である。(a)窪み付きバッグ110には一部任意の計上の窪み103が設けられている。窪み付きバッグ101に細胞200が密閉された内部が無菌状態のバッグ101に細胞200、および培養液150を投入し、窪み103に細胞が配置されている状態を示している。細胞200は個別の細胞でもよいし、数百ミクロン程度の細胞の塊でもよい。培養液150は充満していても、一部空気が入っていてもよい。シリンジ300にシリンダ350が装填されており、ステッピングモーター360がコントローラー370により制御され、任意の距離、速度、頻度にてシリンダ350が出し入れされる。(b)は吸引時を示す。シリンダー350が移動することで、培養液150が吸引され、バッグ101が収縮し、内部の細胞が圧縮され、圧縮された細胞201となる。上記(a)と(b)は任意の頻度により繰り返されることで、細胞が圧縮され細胞同士が結合する。培地が吸引されることで、細胞から排出される老廃物も同時に除去することができる。一定期間の培養で細胞同士が結合すると(c)に示される結合した細胞201を得ることができる。更に、最後に吸引しバッグ内の培養液及び空気を排除することで、無菌状態のまま、商品の包装ができる。
【0019】
図3は本発明の第3の実施例に関る構成図である。(a)は密閉された内部が無菌状態のバッグ100に細胞200、足場材250,および培養液150を投入している状態を示している。細胞200は個別の細胞でもよいし、数百ミクロン程度の細胞の塊でもよい。培養液150
は充満していても、一部空気が入っていてもよい。シリンジ300にシリンダ350が装填されており、ステッピングモーター360がコントローラー370により制御され、任意の距離、速度、頻度にてシリンダ350が出し入れされる。(b)は吸引時を示す。シリンダー350が移動することで、培養液150が吸引され、バッグ100が収縮し、内部の細胞が圧縮され、足場材250に密着される。上記(a)と(b)は任意の頻度により繰り返されることで、細胞が圧縮され細胞同士が結合すると同時に、細胞が足場材と一体化し、足場材と結合した細胞細胞202となる。足場材は、板状、網目形状、粉状、繊維状などである。培地が吸引されることで、細胞から排出される老廃物も同時に除去することができる。一定期間の培養で細胞同士が結合すると(c)に示される足場材と結合した細胞202を得ることができる。更に、最後に吸引しバッグ内の培養液及び空気を排除することで、無菌状態のまま、商品の包装ができる。
【0020】
図4は本発明に関る第4の実施例である。(a)にあるようにバッグ内部に培養液及び空気は透過できるが、細胞は透過できないフィルター147を設置し、細胞培養部140と培養液保持部145を区別する。(b)は側面図である。フィルタはb2に示されるように延伸できる素材でもよいし、b3に示されるように延伸しない材質でもよい。細胞培養部140に細胞投入孔110から細胞を投入し、第一乃至第3の実施例により培養を行う。細胞はフィルターを投下できないため細胞培養部140にとどまる。細胞培養には大量の培養液が必要となるため、培養液保持部で十分な量の培養液を保持できる。
【0021】
図6は本発明の第5の実施例に関る構成図である。(a)筒形バッグ102は概ね筒型の形状を持ち、プラスチック素材等で作製される。素材は、細胞接着性の物でもよいし、細胞が接着しないものでもよい。細胞投入孔110を有し、細胞や培養液などを投入することができる。(b)は筒型バッグ102内部に足場材を有し、足場材250はバッグ内部に固定されているものである。(c)は足場材がバッグ内部から離れて固定されているものである。(d)は足場材を固定せずにバッグ内にいれているものである。足場材は
図7にあるように変形を防ぐフレーム260に固定されていてもよい。これらの筒型バッグ内に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子等を投入し、回転もしくは旋回をしながらばいようすることで、細胞が足場材に結合し、足場材の形状の立体細胞構造体を作製することができる。
【0022】
図9は本発明の第6の実施例に関る構成図である。圧縮板を用いてバッグを外部から圧縮する手法である。(a)は開放時で、バッグ100内部に細胞もしくは細胞塊200及び培養液150が投入されている。この際に、足場材が投入されていてもよい。足場材は板状でも粉状でもよい。圧縮板がバッグを両面から挟み込むことで細胞もしくは細胞塊200が密着し、結合を促進する。圧縮と開放は一定の時間間隔で反復される。
本発明により使用される細胞は接着性の細胞であれば種類を問わない。ヒトの皮膚由来線維芽細胞で作製すれば人工皮膚となり、家畜の線維芽細胞もしくは筋芽細胞などで作製すれば食用の培養肉となる。更に肝細胞や神経細胞などの細胞を用いれば、人工臓器の作製に活用される。また、複数種類の細胞を投入することも可能である。医療用途と食品用途の培養は認可基準は異なるが、一定部分の共用は可能であることから、大幅なコストダウンをすることができる。密閉された環境下で培養しそのまま開封せずに販売することが可能なので、食中毒などのリスクを排除することができる。更に無菌状態なので、食品としては賞味期限の延長や長期間保存が可能となりフードロス対策となる。
さらに本発明に関る立体細胞構造体の製造方法は、密閉されたバッグ内に細胞もしくは細胞塊、培養液、増殖因子などを投入し、さらに細胞が付着する足場材をバッグ内に設置し、バッグを回転もしくは振とうさせることにより立体細胞構造体を作製するステップを含む。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕細胞を増殖し結合させる方法であって、
バッグ内に細胞および培養液を投入し増殖させ、
細胞同士を接触させる機構を持ち、
細胞同士が結合するように培養する方法。
〔2〕前記による培養方法であって
細胞同士を接触させる機構は、
内部の空気を減圧し、細胞同士を接触させる方法。
〔3〕前記による培養方法であって
細胞同士を接触させる機構は、
バッグ外部から圧力を加え、細胞同士を接触させる方法。
〔4〕前記による培養方法であって
減圧状態と、加圧状態を交互に繰り返す方法。
〔5〕前記による培養方法であって
密閉されたバッグの一部に、変形しにくい部位があるもの。
〔6〕前記による培養方法であって
密閉されたバッグの一部に、任意の形状のくぼみがあり、
そのくぼみ内に細胞が入り込み、その任意の形状の形に細胞が結合するもの。
〔7〕前記による培養方法であって
、細胞が接着することができる足場材をバッグ内に投入して培養する方法。
〔8〕細胞を増殖し結合させるバッグであって、
バッグ内に細胞および培養液を投入し増殖させ、
細胞同士を接触させる機構を持つ培養バッグ。
〔9〕前記8項による培養バッグであって
バッグの一部に、変形しにくい部位がある培養バッグ。
〔10〕上記8項による培養バッグであって
密閉されたバッグの一部に、任意の形状のくぼみがあり、
そのくぼみ内に細胞が入り込み、その任意の形状の形に細胞が結合する培養バッグ。
〔11〕上記8項による培養バッグであって
密閉されたバッグの内部に足場材を固定する機構をもつ培養バッグ。