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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045980
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】溶存イオン転移装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/48 20230101AFI20240327BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20240327BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C02F1/48 B
B01D61/46
B01D61/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151093
(22)【出願日】2022-09-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年11月8日に国立大学法人熊本大学がJASIS 2021にて公開 〔刊行物等〕 2022年9月7日に株式会社アナテック・ヤナコがJASIS 2022にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】391028188
【氏名又は名称】株式会社アナテック・ヤナコ
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】天野 省三
(72)【発明者】
【氏名】大平 慎一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敬
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006KA01
4D006KB11
4D006KC02
4D006KC20
4D006KE12Q
4D006KE17P
4D006KE17Q
4D006KE18P
4D006KE18Q
4D006KE24Q
4D006MA13
4D006MA14
4D006MC11
4D006PA01
4D006PB12
4D006PC38
4D061DA10
4D061DB18
4D061DC19
4D061EA09
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB16
4D061EB19
4D061EB37
4D061EB38
4D061EB39
4D061FA08
4D061GA12
4D061GA14
4D061GB11
4D061GC02
4D061GC11
4D061GC12
4D061GC14
4D061GC20
(57)【要約】
【課題】溶存イオンの処理条件を成立させるための制御を容易に実現できる溶存イオン転移装置を提供する。
【解決手段】溶存イオン転移装置A1は、溶液が流れるチャネルC1と、抽出液が流れるチャネルC4,C5と、チャネルC1とチャネルC4,C5との間に設けられたイオン透過膜と、溶液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させる電場を発生させるための電極とを有するイオン転移部1を備え、さらに、チャネルC1に溶液を供給する溶液供給部2と、チャネルC4,C5に抽出液を供給する抽出液供給部4A,4Bと、電極に電圧を印加する電圧印加部と、チャネルC1からチャネルC4,C5への溶存イオンの転移を開始させる開始指示が入力される入力部と、開始指示が入力されたことをきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、溶液供給部2、抽出液供給部4A,4B、および電圧印加部を制御する制御部とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液が流れる溶液チャネルと、抽出液が流れる抽出液チャネルと、前記溶液チャネルと前記抽出液チャネルとの間に設けられたイオン透過膜と、前記溶液に含まれる溶存イオンを前記抽出液に転移させる電場を発生させるための電極とを有するイオン転移部と、
前記溶液チャネルに前記溶液を供給する溶液供給部と、
前記抽出液チャネルに前記抽出液を供給する抽出液供給部と、
前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、
前記溶液チャネルから前記抽出液チャネルへの前記溶存イオンの転移を開始させる開始指示が入力される入力部と、
前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記溶液供給部、前記抽出液供給部、および前記電圧印加部を制御する制御部とを備えている
ことを特徴とする溶存イオン転移装置。
【請求項2】
前記入力部は、前記溶液供給部および前記抽出液供給部の少なくとも一方の制御態様を設定する指示が入力可能に構成されており、
前記制御部は、前記指示に応じて前記溶液供給部および前記抽出液供給部の少なくとも一方を制御することで、前記溶液および前記抽出液の少なくとも一方の所定時間当たりの供給量を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の溶存イオン転移装置。
【請求項3】
前記入力部は、前記電圧を調整する指示が入力可能に構成されており、
前記制御部は、前記指示に応じて前記電圧印加部を制御することで、前記電圧を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の溶存イオン転移装置。
【請求項4】
前記電極の表面で発生するガスを除去するための電極液を供給する電極液供給部をさらに備え、
前記制御部は、前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、前記溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記電極液供給部を制御する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶存イオン転移装置。
【請求項5】
前記イオン転移部を流れた前記抽出液または前記溶液を精製液として外部に出力する精製液出力部をさらに備え、
前記制御部は、前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、前記溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記精製液出力部を制御する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶存イオン転移装置。
【請求項6】
前記溶液チャネルを洗浄するための洗浄液を供給する洗浄液供給部をさらに備え、
前記制御部は、予め用意された洗浄プログラムに基づいて、前記洗浄液供給部を制御する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶存イオン転移装置。
【請求項7】
前記洗浄プログラムは、前記溶存イオン処理プログラムに組み込まれている
ことを特徴とする請求項6に記載の溶存イオン転移装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させる溶存イオン転移装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、電場とイオンの膜透過とを利用したイオン転移デバイスが記載されている。イオン転移デバイスは、溶液が流れる溶液チャネル、抽出液が流れる抽出液チャネル、溶液チャネルと抽出液チャネルとの間に設けられたイオン透過膜、および溶液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させる電場を発生させるための電極等を有している。上記構成を備えたイオン転移デバイスは、溶液である試料液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させることで溶存イオンの分離やインライン濃縮を行う処理、および溶液である原料液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させることで所定のイオンを含んだ抽出液をインライン精製する処理等に利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-223566号公報
【特許文献2】特許第5888653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させるためには(すなわち溶存イオンの処理条件を成立させるためには)、溶液チャネルに流れる溶液の流量、抽出液チャネルに流れる抽出液の流量、および電極に印加される電圧の全てを精度良く同時に制御することが必要であった。このため、従来、イオン転移デバイスの使用者は、溶存イオンの処理条件を成立させるための制御に苦労を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、溶存イオンの処理条件を成立させるための制御を容易に実現できる溶存イオン転移装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の溶存イオン転移装置は、溶液が流れる溶液チャネルと、抽出液が流れる抽出液チャネルと、前記溶液チャネルと前記抽出液チャネルとの間に設けられたイオン透過膜と、前記溶液に含まれる溶存イオンを前記抽出液に転移させる電場を発生させるための電極とを有するイオン転移部と、前記溶液チャネルに前記溶液を供給する溶液供給部と、前記抽出液チャネルに前記抽出液を供給する抽出液供給部と、前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、前記溶液チャネルから前記抽出液チャネルへの前記溶存イオンの転移を開始させる開始指示が入力される入力部と、前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記溶液供給部、前記抽出液供給部、および前記電圧印加部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記入力部は、前記溶液供給部および前記抽出液供給部の少なくとも一方の制御態様を設定する指示が入力可能に構成されており、前記制御部は、前記指示に応じて前記溶液供給部および前記抽出液供給部の少なくとも一方を制御することで、前記溶液および前記抽出液の少なくとも一方の所定時間当たりの供給量を変更することが好ましい。
【0008】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記入力部は、前記電圧を調整する指示が入力可能に構成されており、前記制御部は、前記指示に応じて前記電圧印加部を制御することで、前記電圧を変更することが好ましい。
【0009】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記電極の表面で発生するガスを除去するための電極液を供給する電極液供給部をさらに備え、前記制御部は、前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、前記溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記電極液供給部を制御することが好ましい。
【0010】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記イオン転移部を流れた前記抽出液または前記溶液を精製液として外部に出力する精製液出力部をさらに備え、前記制御部は、前記開始指示が入力されたことをきっかけとして、前記溶存イオン処理プログラムに基づいて、前記精製液出力部を制御することが好ましい。
【0011】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記溶液チャネルを洗浄するための洗浄液を供給する洗浄液供給部をさらに備え、前記制御部は、予め用意された洗浄プログラムに基づいて、前記洗浄液供給部を制御することが好ましい。
【0012】
また、上記の溶存イオン転移装置において、前記洗浄プログラムは、前記溶存イオン処理プログラムに組み込まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶存イオンの処理条件を成立させるための制御を容易に実現できる溶存イオン転移装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る溶存イオン転移装置の概略構成図である。
図2】同実施形態に係るイオン転移部の概略構成図である。
図3】(A)は、同実施形態に係る溶存イオン転移装置のブロック図であり、(B)は、同実施形態に係る入力部および表示部の模式図である。
図4】同実施形態に係る溶存イオン処理のフローチャートである。
図5】同実施形態に係る溶存イオン処理のフローチャートである。
図6】(A)は、変形例に係る溶存イオン転移装置の概略構成図であり、(B)は、同変形例に係るイオン転移部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の一実施形態に係る溶存イオン転移装置A1を説明する。
図1に示すように、溶存イオン転移装置A1は、イオン転移部1と、溶液供給部2と、電極液供給部3A,3Bと、抽出液供給部4A,4Bと、洗浄液供給部5と、精製液出力部6と、廃液処理部7とを備えている。溶存イオン転移装置A1は、溶存イオンを分析するための前処理として試料液である溶液から溶存イオンを抽出液に転移させ、溶存イオンを含んだ抽出液を分析装置Bへ出力する。
【0016】
イオン転移部1は、5層チャネルを有する平板状構造のイオン転移デバイス(ITD:Ion Transfer Device)により構成されている。イオン転移部1は、溶液が流れる第1チャネルC1、第1電極液が流れる第2チャネルC2、第2電極液が流れる第3チャネルC3、第1抽出液が流れる第4チャネルC4、および第2抽出液が流れる第5チャネルC5を有している。イオン転移部1は、溶液に含まれる溶存イオンのうち陰イオンを第1抽出液に転移させるとともに、溶液に含まれる溶存イオンのうち陽イオンを第5抽出液に転移させる。すなわち、イオン転移部1は、陰イオンを第1チャネルC1から第4チャネルC4に転移させ、陽イオンを第1チャネルC1から第5チャネルC5に転移させる。
【0017】
第1チャネルC1に流す溶液としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲン化物イオン、もしくはオキソ酸イオンを溶存イオンとして含んでいる溶液を使用できる。なお、溶液として、これら以外の溶存イオンを含んだ液を使用してもよい。
【0018】
第2チャネルC2に流す第1電極液、および、第3チャネルC3に流す第2電極液としては、例えば、純水またはイオン交換水等を使用できる。第1電極液および第2電極液は、後述する電極11A,11B(図2参照)の表面で発生するガスを除去するための液である。
【0019】
第4チャネルC4に流す第1抽出液、および、第5チャネルC5に流す第2抽出液としては、例えば、超純水(UPW:Ultra-Pure Water)を使用できる。なお、分析装置Bで溶存イオンを適切に分析できるのであれば、第1抽出および第2抽出液は、超純水以外の液を使用してもよい。
【0020】
溶液供給部2は、イオン転移部1の溶液チャネルである第1チャネルC1に溶液を供給する。溶液供給部2は、液体貯留部21と、ポンプ22と、バルブ23とにより構成されている。液体貯留部21は、溶液を貯留する。ポンプ22は、ペリスタルティックポンプ(いわゆるチューブポンプ)により構成されており、液体貯留部21からイオン転移部1に溶液を送り出す。バルブ23は、ポンプ22が送り出す液体を切り替える三方電磁弁により構成されており、通常時は液体貯留部21とポンプ22とを接続する。
【0021】
電極液供給部3Aは、イオン転移部1の電極液チャネルである第2チャネルC2に第1電極液を供給する。電極液供給部3Aは、液体貯留部31Aと、ポンプ32Aと、イオン交換カラム33Aとにより構成されている。液体貯留部31Aは、第1電極液を貯留する。ポンプ32Aは、ペリスタルティックポンプにより構成されており、液体貯留部31Aからイオン転移部1に第1電極液を送り出す。イオン交換カラム33Aは、第1電極液に含まれる不要なイオンを除去する。
【0022】
電極液供給部3Bは、イオン転移部1の電極液チャネルである第3チャネルC3に第2電極液を供給する。電極液供給部3Bは、液体貯留部31Bと、ポンプ32Bと、イオン交換カラム33Bとにより構成されている。液体貯留部31Bは、第2電極液を貯留する。ポンプ32Bは、ペリスタルティックポンプにより構成されており、液体貯留部31Bからイオン転移部1に第2電極液を送り出す。イオン交換カラム33Bは、第2電極液に含まれる不要なイオンを除去する。
【0023】
抽出液供給部4Aは、イオン転移部1の抽出液チャネルである第4チャネルC4に第1抽出液を供給する。抽出液供給部4Aは、液体貯留部41Aと、ポンプ42Aと、バルブ43Aと、イオン交換カラム44Aとにより構成されている。液体貯留部41Aは、第1抽出液を貯留する。ポンプ42Aは、シリンジポンプにより構成されており、液体貯留部41Aから第1抽出液を吸い込み、イオン転移部1に第1抽出液を送り出す。バルブ43Aは、第1抽出液が流れる流路を切り替える三方電磁弁により構成されており、通常時は液体貯留部41Aとポンプ42Aとを接続し、被制御時はポンプ42Aとイオン転移部1とを接続する。イオン交換カラム44Aは、第1抽出液に含まれる不要なイオンを除去する。
【0024】
抽出液供給部4Bは、イオン転移部1の抽出液チャネルである第5チャネルC5に第2抽出液を供給する。抽出液供給部4Bは、液体貯留部41Bと、ポンプ42Bと、バルブ43Bと、イオン交換カラム44Bとにより構成されている。液体貯留部41Bは、第2抽出液を貯留する。ポンプ42Bは、シリンジポンプにより構成されており、液体貯留部41Bから第2抽出液を吸い込み、イオン転移部1に第2抽出液を送り出す。バルブ43Bは、第2抽出液が流れる流路を切り替える三方電磁弁により構成されており、通常時は液体貯留部41Bとポンプ42Bとを接続し、被制御時はポンプ42Bとイオン転移部1とを接続する。イオン交換カラム44Bは、第2抽出液に含まれる不要なイオンを除去する。
【0025】
洗浄液供給部5は、洗浄液をイオン転移部1の第1チャネルC1に供給する。洗浄液は、第1チャネルC1を洗浄するための液であり、洗浄液としては、例えば超純水を使用できる。洗浄液供給部5は、液体貯留部51と、溶液供給部2の一部であるポンプ22およびバルブ23とにより構成されている。すなわち、ポンプ22およびバルブ23は、溶液供給部2と洗浄液供給部5の一部を兼ねている。液体貯留部51は、洗浄液を貯留する。ポンプ22は、液体貯留部51からイオン転移部1に洗浄液を送り出す。バルブ23は、被制御時は液体貯留部51とポンプ22とを接続する。
【0026】
精製液出力部6は、イオン転移部1を流れた抽出液を精製液として外部に出力する。精製液出力部6は、液体貯留部61と、ポンプ62と、バルブ63,64とにより構成されている。液体貯留部61は、抽出液を移送するための移送液を貯留する。移送液としては、例えば抽出液と同じ液を使用できる。ポンプ62は、ペリスタルティックポンプにより構成されており、液体貯留部61からバルブ63,64に移送液を送り出し、バルブ63,64から移送液とともに抽出液を分析装置Bに送り出す。バルブ63,64は、イオン転移部1を流れた抽出液を一時的に貯留するとともに、貯留液および移送液の流路を切り替えるインジェクターである。バルブ63は、イオン転移部1の第5チャネルC5に接続されており、通常時は、第2抽出液の流路を廃液処理部7と接続して、第2抽出液が分析装置Bに出力されないように構成されている。バルブ64は、イオン転移部1の第4チャネルC4に接続されており、通常時は、第1抽出液および移送液の流路を廃液処理部7と接続して、第1抽出液および移送液が分析装置Bに出力されないように構成されている。
【0027】
廃液処理部7は、イオン転移部1を流れた溶液および電極液、ならびに、バルブ63,64から分析装置Bへ出力されなかった抽出液および移送液を廃液として処理する。廃液処理部7は、廃液を貯留する液体貯留部71を備えている。液体貯留部71は、イオン転移部1の第1チャネルC1、第2チャネルC2、および第3チャネルC3、ならびに、バルブ63,64に接続されている。
【0028】
分析装置Bは、溶存イオンを分析するための外部装置であって、例えば、イオンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、原子吸光光度計、または誘導結合プラズマ質量分析計等により構成されている。
【0029】
図2に示すように、イオン転移部1は、電極11A,11Bと、プレート12A,12Bと、イオン透過膜13A,13B,13C,13Dと、チャネル形成膜14A,14B,14C,14D,14Eとを有している。
【0030】
電極11Aは、第2チャネルC2に設けられており、電極11Bは、第3チャネルC3に設けられている。電極11A,11Bは、溶液に含まれる溶存イオンを抽出液に転移させる電場を発生させるために、複数のチャネルC1~C5を挟んで互いに対向するように設けられている。電極11A,11Bは、後述する電圧印加部81により電圧が印加されることで、一方が陰イオンを引き寄せる陽極となり、および、他方が陽イオンを引き寄せる陰極となる。
【0031】
プレート12A,12Bは、電極11A,11Bを保持しており、チャネル形成膜14B、イオン透過膜13C、チャネル形成膜14D、イオン透過膜13A、チャネル形成膜14A、イオン透過膜13B、チャネル形成膜14E、イオン透過膜13D、チャネル形成膜14Cの順で積層されている膜積層体を挟み込んでいる。
【0032】
イオン透過膜13A,13Bは、溶液に含まれる溶存イオンが透過でき、溶液に含まれる微粒子やタンパク質等の巨大分子が透過できない、電気的に中性な透析膜である。具体的には、イオン透過膜13A,13Bとしては、例えば油脂類または有機溶媒類の疎水性の物質からなる膜(例えば、セルロース膜)を使用できる。イオン透過膜13Aは、第1チャネルC1と第4チャネルC4との間に設けられ、イオン透過膜13Bは、第1チャネルC1と第5チャネルC5との間に設けられている。こうして、イオン転移部1は、チャネルC1,C4間およびチャネルC1,C5間で、溶液中の溶存イオンが転移可能、かつ、溶液中の不純物が転移不可能に構成されている。
【0033】
イオン透過膜13Cは、第2チャネルC2と第4チャネルC4との間に設けられた陽イオン交換膜であり、イオン透過膜13Dは、第3チャネルC3と第5チャネルC5との間に設けられた陰イオン交換膜である。こうして、イオン転移部1は、陽イオンが第2チャネルC2から第4チャネルC4に転移可能(すなわち第1電極液に含まれる陽イオンが第1抽出液に転移可能)、かつ、陰イオンが第3チャネルC3から第5チャネルC5に転移可能(すなわち第2電極液に含まれる陰イオンが第2抽出液に転移可能)に構成されている。
【0034】
チャネル形成膜14A,14B,14C,14D,14Eは、液体の流路を形成するスリットを有した薄膜である。チャネル形成膜14Aは、イオン透過膜13A,13Bとともに第1チャネルC1を形成している。チャネル形成膜14Bは、電極11Aおよびイオン透過膜13Cとともに第2チャネルC2を形成し、チャネル形成膜14Cは、電極11Bおよびイオン透過膜13Dとともに第3チャネルC3を形成している。また、チャネル形成膜14Dは、イオン透過膜13A,13Cとともに第4チャネルC4を形成し、チャネル形成膜14Eは、イオン透過膜13B,13Dとともに第5チャネルC5を形成している。
【0035】
また、図3(A)および図3(B)に示すように、溶存イオン転移装置A1は、電圧印加部81と、入力部82と、表示部83と、制御部84とを備えている。なお、図3(B)は、入力部82および表示部83を構成するマンマシンインタフェースの配置態様を示している。
【0036】
電圧印加部81は、イオン転移部1の電極11A,11Bに電圧を印加する。具体的には、電圧印加部81は、陰イオンを第1チャネルC1から第4チャネルC4に転移させ、陽イオンを第1チャネルC1から第5チャネルC5に転移させる溶存イオン処理時には、電極11A,11Bに直流電圧を印加する。また、電圧印加部81は、イオン転移部1を洗浄する洗浄処理時には、電極11A,11Bに交流電圧を印加する。
【0037】
入力部82は、押しボタン82A~82Fとダイヤル82Gとを備えており、溶存イオン転移装置A1の使用者からの指示が入力可能に構成されている。入力部82には、押しボタン82A~82Dのいずれかが押されることによって、抽出液供給部4A,4Bの制御態様を設定する指示が入力されるとともに、溶存イオン処理(すなわち第1チャネルC1から第4チャネルC4および第5チャネルC5への溶存イオンの転移)を開始させる溶存イオン処理開始指示が入力される。
【0038】
また、入力部82には、押しボタン82Eが押されることによって、イオン転移部1の洗浄処理を開始させる洗浄処理開始指示が入力され、押しボタン82Fが押されることによって、溶存イオン処理および洗浄処理を中止させる中止指示が入力される。
【0039】
さらに、入力部82には、ダイヤル82Gが回されることによって、電極11A,11Bに印加される電圧を調整する電圧調整指示(すなわち電圧印加部81の制御態様を変更する指示)が入力される。
【0040】
表示部83は、イオン転移部1の動作態様を表示するセグメントディスプレイ83A,83Bにより構成されている。セグメントディスプレイ83Aは、電極11A,11Bに印加される電圧値を表示し、セグメントディスプレイ83Bは、電極11A,11B間の電流値を表示する。
【0041】
制御部84は、溶存イオン転移装置A1の各部を制御する制御回路により構成されている。制御部84は、押しボタン82A~82Dのいずれかが押されたこと(すなわち溶存イオン処理開始指示が入力されたこと)をきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、溶液供給部2、電極液供給部3A,3B、抽出液供給部4A,4B、精製液出力部6、および電圧印加部81等を制御し、溶存イオン処理を実行する。溶存イオン処理プログラムは、溶存イオン転移装置A1の上記各部への命令が記述されたコンピュータプログラムであって、不揮発性のメモリ(図示略)に記憶されている。
【0042】
また、制御部84は、溶存イオン処理の実行中にダイヤル82Gが回されたとき(すなわち電圧調整指示が入力されたとき)、電圧調整指示に応じて電圧印加部81を制御することで、電極11A,11Bに印加される電圧を変更する。
【0043】
また、制御部84は、押しボタン82Eが押されたこと(すなわち洗浄処理開始指示が入力されたこと)をきっかけとして、予め用意された洗浄プログラムに基づいて、洗浄液供給部5等を制御し、洗浄処理を実行する。なお、本実施形態では、洗浄プログラムは、溶存イオン処理プログラムに組み込まれているため、制御部84は、溶存イオン処理プログラムに基づいて、洗浄液供給部5も制御する。また、制御部84は、溶存イオン処理および洗浄処理の実行中に、押しボタン82Fが押されたとき(すなわち中止指示が入力されたとき)、これらの処理の実行を中止する。
【0044】
図4および図5を参照して、溶存イオン処理の流れを説明する。
まず、制御部84は、シリンジ内の容積が小さくなるように、シリンジポンプであるポンプ42A,42Bを駆動し、シリンジ内の容積が最も小さくなったとき(すなわちシリンジ内のピストンが作動限界に到達したとき)、ポンプ42A,42Bの駆動を停止する(ステップS1)。このとき、ポンプ42A,42B内に抽出液が残留している場合には、ポンプ42A,42Bから液体貯留部41A,41Bに抽出液が送り出される。
【0045】
次いで、制御部84は、シリンジ内の容量が大きくなるように(すなわちシリンジ内に抽出液を吸引するように)ポンプ42A,42Bを駆動し、所定時間の経過後にポンプ42A,42Bの駆動を停止する(ステップS2)。このとき、ポンプ42A,42Bは、液体貯留部41A,41Bから洗浄処理に必要な量の抽出液を吸い込む。
【0046】
次いで、制御部84は、ポンプ42A,42Bとイオン転移部1とが接続されるようにバルブ43A,43Bを制御するとともに、ポンプ42A,42Bからイオン転移部1に抽出液が送り出されるようにポンプ42A,42Bを駆動する(ステップS3)。ステップS3でポンプ42A,42Bから送り出された抽出液は、イオン転移部1およびバルブ63,64を経て、液体貯留部71に排出される。
【0047】
同時に、制御部84は、液体貯留部51とポンプ22とが接続されるようにバルブ23を制御するとともに、ポンプ22からイオン転移部1に洗浄液が送り出されるようにポンプ22を駆動する(ステップS4)。ポンプ22から送り出された洗浄液は、イオン転移部1を経て、液体貯留部71に排出される。
【0048】
また、同時に、制御部84は、ポンプ32A,32Bからイオン転移部1に電極液が送り出されるようにポンプ32A,32Bを駆動する(ステップS5)。ポンプ32A,32Bから送り出された電極液は、イオン転移部1を経て、液体貯留部71に排出される。
【0049】
さらに、同時に、制御部84は、ポンプ62からバルブ63,64に移送液が送り出されるようにポンプ62を駆動する(ステップS6)。ステップS6でポンプ62から送り出された移送液は、バルブ63,64を経て、液体貯留部71に排出される。
【0050】
次いで、制御部84は、イオン転移部1に抽出液、洗浄液、および電極液が流れているタイミングで、電極11A,11Bに所定の交流電圧が印加されるように電圧印加部81を駆動する(ステップS7)。具体的には、制御部84は、例えば24Vで周波数1Hzの矩形波の交流電圧が電極11A,11Bに印加されるように、電圧印加部81を制御する。
【0051】
そして、制御部84は、イオン転移部1が十分に洗浄されたタイミングで(例えばステップS7から数分後または数十分後)、ポンプ42A,42B,22,32A,32B,62の駆動を停止するとともに、電圧印加部81の駆動を停止する(ステップS8)。
【0052】
以上のようにして、制御部84は、ステップS1~S8を経て洗浄処理を完了する。なお、制御部84は、押しボタン82Eが押されたときも、洗浄プログラムに基づいて、上記ステップS1~S8と同じ動作により洗浄処理を行う。
【0053】
洗浄処理が完了すると、制御部84は、ステップS1と同様にポンプ42A,42Bを駆動し、シリンジ内の容積が最も小さくなったとき、ポンプ42A,42Bの駆動を停止する(ステップS11)。
【0054】
次いで、制御部84は、ステップS2と同様にポンプ42A,42Bを駆動し、所定時間の経過後にポンプ42A,42Bの駆動を停止する(ステップS12)。このとき、ポンプ42A,42Bは、液体貯留部41A,41Bから溶存イオン処理に必要な量の抽出液を吸い込む。
【0055】
次いで、制御部84は、ステップS3と同様に、ポンプ42A,42Bからイオン転移部1に抽出液が送り出されるようにバルブ43A,43Bおよびポンプ42A,42Bを駆動する(ステップS13)。このとき、制御部84は、例えば0.1mL/min以上5.0mL/min以下の所定量の抽出液がイオン転移部1に供給されるようにポンプ42A,42Bを制御する。ステップS13でイオン転移部1に送り出された抽出液は、イオン転移部1を経て、バルブ63,64に送り出される。
【0056】
本実施形態では、押しボタン82A~82Dが押されることで抽出液供給部4A,4Bの制御態様を設定する指示が入力可能に構成されており、制御部84は、ステップS13では、その指示に応じて抽出液供給部4A,4Bを制御することで、抽出液の所定時間当たりの供給量を変更する。具体的には、例えば、溶存イオン処理開始指示の入力時に、以下の表の左欄に記載された押しボタン82A~82Dが押された場合は、同表の中欄および右欄に記載された量がイオン転移部1への抽出液の供給量として設定され、制御部84は、設定された供給量の抽出液がイオン転移部1に供給されるようにポンプ42A,42Bを制御する。
【表1】
【0057】
同時に、制御部84は、ポンプ22からイオン転移部1に溶液が送り出されるようにポンプ22を駆動する(ステップS14)。このとき、制御部84は、例えば0.1mL/min以上50.0mL/min以下の所定量の溶液がイオン転移部1に供給されるようにポンプ22を制御する。ポンプ22から送り出された溶液は、イオン転移部1を経て、液体貯留部71に排出される。
【0058】
また、同時に、制御部84は、ステップS5と同様に、ポンプ32A,32Bからイオン転移部1に電極液が送り出されるようにポンプ32A,32Bを駆動する(ステップS15)。このとき、制御部84は、例えば2mL/min以上3mL/min以下の所定量の電極液がイオン転移部1に供給されるようにポンプ32A,32Bを制御する。
【0059】
さらに、同時に、制御部84は、ステップS6と同様に、ポンプ62からバルブ63,64に移送液が送り出されるようにポンプ62を駆動する(ステップS16)。このとき、制御部84は、所定量(例えば1mL/min)の移送液がバルブ63,64に入力されるようにポンプ62を制御する。
【0060】
次いで、制御部84は、イオン転移部1に抽出液、溶液、および電極液が流れているタイミングで、電極11A,11Bに例えば400V以下の所定の直流電圧が印加されるように電圧印加部81を駆動する(ステップS17)。本実施形態では、ダイヤル82Gが回されることで電圧を調整する電圧調整指示が入力可能に構成されており、制御部84は、ステップS17では、その電圧調整指示に応じて電圧印加部81を制御することで、電極11A,11Bに印加される電圧を変更する。具体的には、制御部84は、ダイヤル82Gの回転角度に応じた電圧が電極11A,11Bに印加されるように電圧印加部81を制御する。
【0061】
次いで、制御部84は、所定のタイミングで、抽出液が精製液として分析装置Bに出力されるようにバルブ63,63を制御する(ステップS18)。具体的には、制御部84は、第1抽出液の流路と移送液の流路とを接続して第1抽出液が移送液とともに精製液として分析装置Bに出力されるようにバルブ64を制御し、次いで、第2抽出液の流路と移送液の流路とを接続して第2抽出液が移送液とともに精製液として分析装置Bに出力されるようにバルブ63を制御する。
【0062】
そして、制御部84は、溶存イオンを分析するために必要な量の抽出液が分析装置Bに出力されたタイミングで、ポンプ42A,42B,22,32A,32B,62の駆動を停止するとともに、電圧印加部81の駆動を停止する(ステップS19)。
【0063】
本実施形態では以下の効果が得られる。
(1)第1チャネルC1(溶液チャネル)から第4チャネルC4および第5チャネルC5(抽出液チャネル)への溶存イオンの転移を開始させる溶存イオン処理開始指示が入力されたことをきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、溶液供給部2、抽出液供給部4A,4B、および電圧印加部81等が制御部84によって制御される。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者が溶存イオン処理開始指示を入力することで(すなわち押しボタン82A~82Dのいずれかを押すことで)、第1チャネルC1に流れる溶液の流量、第4チャネルC4および第5チャネルC5に流れる抽出液の流量、および電極11A,11Bに印加される電圧等が制御部84により自動的に制御される。このため、溶存イオン転移装置A1の使用者がポンプ22,42A,42Bおよび電圧印加部81等を直接操作する手間を省くことができ、溶存イオンの処理条件を成立させるための制御を容易に実現できる。
【0064】
(2)入力部82は、抽出液供給部4A,4Bの制御態様を設定する指示が入力可能に構成されており、制御部84は、その指示に応じて抽出液供給部4A,4Bを制御することで、抽出液の所定時間当たりの供給量を変更する。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者は、入力部82を用いて(本実施形態では押しボタン82A~82Dを押して)、第4チャネルC4および第5チャネルC5に流れる抽出液の流量を変化させることができる。
【0065】
(3)入力部82は、電圧を調整する指示が入力可能に構成されており、制御部84は、その指示に応じて電圧印加部81を制御することで、電極11A,11Bに印加される電圧を変更する。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者は、入力部82を用いて(本実施形態ではダイヤル82Gを回して)、電極11A,11Bに印加される電圧を変化させることができる。
【0066】
(4)溶存イオン処理開始指示が入力されたことをきっかけとして、溶存イオン処理プログラムに基づいて、電極液供給部3A,3Bが制御部84によって制御される。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者がポンプ32A,32Bを直接操作する手間を省くことができる。
【0067】
(5)溶存イオン処理開始指示が入力されたことをきっかけとして、溶存イオン処理プログラムに基づいて、精製液出力部6が制御部84によって制御される。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者がポンプ62およびバルブ63,64を直接操作する手間を省くことができる。
【0068】
(6)予め用意された洗浄プログラムに基づいて、洗浄液供給部5等が制御部84によって制御される。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者がイオン転移部1の第1チャネルC1等を洗浄する手間を省くことができる。
【0069】
(7)洗浄プログラムは、溶存イオン処理プログラムに組み込まれている。この構成によれば、溶存イオン処理開始指示が入力されたことをきっかけとして、イオン転移部1の第1チャネルC1等が自動的に洗浄される。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記構成を変更することもできる。例えば、以下のように変更して実施することもでき、以下の変更を組み合わせて実施することもできる。
【0071】
・入力部82は、溶液供給部2の制御態様を設定する指示が入力可能に構成され、制御部84は、その指示に応じて溶液供給部2を制御することで、溶液の所定時間当たりの供給量を変更してもよい。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者は、入力部82を用いて(例えば押しボタン82A~82Dを押して)、第1チャネルC1に流れる溶液の流量を変化させることができる。
【0072】
・入力部82は、溶液供給部2および抽出液供給部4A,4Bの双方の制御態様を設定する指示が入力可能に構成され、制御部84は、その指示に応じて溶液供給部2および抽出液供給部4A,4Bを制御することで、溶液および抽出液の所定時間当たりの供給量を変更してもよい。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1の使用者は、入力部82を用いて(例えば押しボタン82A~82Dを押して)、第1チャネルC1に流れる溶液の流量、ならびに、第4チャネルC4および第5チャネルC5に流れる抽出液の流量を変化させることができる。
【0073】
・押しボタン82A~82Fおよびダイヤル82G以外のマンマシンインタフェースにより入力部を構成してもよい。例えば、タッチパネルにより入力部および表示部を構成することもできる。
【0074】
・移送液を使用せずに抽出液を外部に出力するように精製液出力部を構成してもよい。すなわち、例えば、イオン転移部1を流れた第1抽出液および第2抽出液が、インジェクターを含む個別の流路を経て、外部に出力されるように構成してもよい。
【0075】
・溶存イオン転移装置は、イオン転移部を流れた溶液を精製液として外部に出力する精製液出力部を備えていてもよい。すなわち、溶存イオン転移装置から出力される精製液は、抽出液チャネルを流れた抽出液に限定されず、溶液チャネルを流れた溶液であってもよい。また、溶存イオン転移装置が精製液を貯留するように構成することで、精製液出力部を省いてもよい。
【0076】
・溶液、電極液、抽出液、洗浄液、および移送液は、上記実施形態に記載した液に限定されず、その目的に応じて適宜変更してもよい。また、電極液および抽出液に応じて、イオン交換カラム33A,33B,44A,44Bを構成するイオン交換樹脂を適宜変更してもよい。
【0077】
・廃液処理部7が廃液を溶存イオン転移装置の外部に排出するように構成することで、液体貯留部71を省いてもよい。また、イオン交換カラム33A,33B,44A,44Bを省くこともできる。
【0078】
・複数のチャネル間で溶存イオンを転移させることができるのであれば、イオン転移部1の構成を適宜変更してもよい。例えば、3層チャネルまたは4層チャネルを有するイオン転移デバイスによりイオン転移部を構成してもよい。
【0079】
具体的には、例えば、4層チャネルとして、溶液が流れる1つの溶液チャネルと、電極液が流れる2つの電極液チャネルと、抽出液が流れる1つの抽出液チャネルとを有するイオン転移デバイスにより、イオン転移部を構成していてもよい。また、例えば、3層チャネルとして、電極液を兼ねる溶液が流れる1つの溶液チャネル兼電極液チャネルと、電極液が流れる1つの電極液チャネルと、抽出液が流れる1つの抽出液チャネルとを有するイオン転移デバイスにより、イオン転移部を構成していてもよい。これらの構成では、溶液に含まれる溶存イオンのうち陽イオンおよび陰イオンの一方を抽出液に転移可能である。
【0080】
・分析装置Bと連携して動作するように溶存イオン転移装置A1を構成してもよい。すなわち、例えば、制御部84が、溶存イオン処理の完了時に、分析装置Bに溶存イオンの分析開始を指示する信号を送信し、分析装置Bが、その信号を受信することで溶存イオンの分析を開始するように構成してもよい。この構成によれば、溶存イオン転移装置A1および分析装置Bを用いた一連の処理がシームレスに行われ、溶存イオン転移装置A1の使用者が分析装置Bを操作する手間を省くことができる。
【0081】
(変形例1)
以下、図6(A)および(B)を参照して、変形例1に係る溶存イオン転移装置A2を説明する。なお、溶存イオン転移装置A1と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略し、溶存イオン転移装置A1と相違する構成について説明する。
【0082】
図6(A)に示すように、溶存イオン転移装置A2は、イオン転移部1と、溶液供給部2と、電極液供給部3Aと、抽出液供給部4Aと、洗浄液供給部5と、廃液処理部7と、精製液貯留部91とを備えている。溶存イオン転移装置A2は、原料液である溶液から溶存イオンであるHPO を抽出液に転移させることで、KとOHとHPO とHとを含んだ抽出液であるpH緩衝液を精製し、pH緩衝液を精製液貯留部91に貯留する。
【0083】
変形例1に係るイオン転移部1は、3層チャネルを有する平板状構造のイオン転移デバイスにより構成されている。イオン転移部1は、電極液を兼ねる溶液が流れる第1チャネルC1’、電極液が流れる第2チャネルC2’、および抽出液が流れる第3チャネルC3’を有している。イオン転移部1は、溶液に含まれる溶存イオンのうち陰イオンを抽出液に転移させる。すなわち、イオン転移部1は、陰イオンを第1チャネルC1’から第3チャネルC3’に転移させる。
【0084】
変形例1において、第1チャネルC1’に流す溶液は、リン酸二水素カリウム(KHPO)溶液であって、電極11Bで発生するガスを除去するための電極液を兼ねている。また、第2チャネルC2’に流す電極液は、超純水であり、第3チャネルC3’に流す抽出液は、水酸化カリウム(KOH)溶液である。
【0085】
溶液供給部2は、イオン転移部1の溶液チャネル兼電極液チャネルである第1チャネルC1’に溶液を供給する。電極液供給部3Aは、イオン転移部1の電極液チャネルである第2チャネルC2’に電極液を供給し、抽出液供給部4Aは、イオン転移部1の抽出液チャネルである第3チャネルC3’に抽出液を供給する。
【0086】
図6(B)に示すように、変形例1において、電極11Aは、第2チャネルC2’に設けられ、電極11Bは、第1チャネルC1’に設けられている。プレート12A,12Bは、チャネル形成膜14B、イオン透過膜13A、チャネル形成膜14C、イオン透過膜13B、チャネル形成膜14Aの順で積層されている膜積層体を挟み込んでいる。
【0087】
イオン透過膜13Aは、第2チャネルC2’と第3チャネルC3’との間に設けられた陽イオン交換膜であり、イオン透過膜13Bは、第1チャネルC1’と第3チャネルC3’との間に設けられた陰イオン交換膜である。こうして、イオン転移部1は、陽イオンが第2チャネルC2’から第3チャネルC3’に転移可能(すなわち電極液に含まれる陽イオン(H)が抽出液に転移可能)に構成され、陰イオンが第1チャネルC1’から第3チャネルC3’に転移可能(すなわち溶液に含まれる陰イオン(HPO )が抽出液に転移可能)に構成されている。
【0088】
チャネル形成膜14Aは、電極11Bおよびイオン透過膜13Bとともに第1チャネルC1’を形成し、チャネル形成膜14Bは、電極11Aおよびイオン透過膜13Aとともに第2チャネルC2’を形成し、チャネル形成膜14Cは、イオン透過膜13A,13Bとともに第3チャネルC3’を形成している。
【0089】
変形例1に係る溶存イオン転移装置A2は、上記実施形態と同様に、電圧印加部81と、入力部82と、表示部83と、制御部84(いずれも図3参照)とを備えており、電圧印加部81は、陰イオンを第1チャネルC1’から第3チャネルC3’に転移させる溶存イオン処理時に、電極11A,11Bに直流電圧を印加する。
【0090】
制御部84は、上記実施形態と同様の流れでポンプ22,32A,42A、バルブ23,43A、および電圧印加部81を制御することで、陰イオンを第1チャネルC1’から第3チャネルC3’に転移させる溶存イオン処理を実行する。
【0091】
変形例1でも、第1チャネルC1’(溶液チャネル)から第3チャネルC3’(抽出液チャネル)への溶存イオンの転移を開始させる溶存イオン処理開始指示が入力されたことをきっかけとして、予め用意された溶存イオン処理プログラムに基づいて、溶液供給部2、抽出液供給部4A、および電圧印加部81等が制御部84によって制御される。このため、上記(1)に記載の効果が得られる。
【符号の説明】
【0092】
1 イオン転移部
2 溶液供給部
3A,3B 電極液供給部
4A,4B 抽出液供給部
5 洗浄液供給部
6 精製液出力部
7 廃液処理部
11A,11B 電極
13A,13B,13C,13D イオン透過膜
22,32A,32B,42A,42B,62 ポンプ
23,43A,43B,63,64 バルブ
81 電圧印加部
82 入力部
82A~82F 押しボタン
82G ダイヤル
84 制御部
A1,A2 溶存イオン転移装置
B 分析装置
C1 第1チャネル(溶液チャネル)
C2 第2チャネル(電極液チャネル)
C3 第3チャネル(電極液チャネル)
C4 第4チャネル(抽出液チャネル)
C5 第5チャネル(抽出液チャネル)
C1’ 第1チャネル(溶液チャネル、電極液チャネル)
C2’ 第2チャネル(電極液チャネル)
C3’ 第3チャネル(抽出液チャネル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6