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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045981
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】高調波抑制装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240327BHJP
   H02M 1/12 20060101ALI20240327BHJP
   H02J 3/01 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
H02M1/12
H02J3/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151094
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 元紀
【テーマコード(参考)】
5G066
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5G066EA03
5H740BA12
5H740BB08
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740NN03
5H770BA11
5H770DA03
5H770EA01
5H770GA19
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】交流系統の状態に対応して系統電流の歪みを低減できる信頼性にすぐれた高調波抑制装置を提供する。
【解決手段】高調波抑制装置は、系統ラインに流れる負荷電流の電流値を交流系統の電圧の一周期内の所定期間ごとに保持し、保持した各電流値のうち所定個数の電流値に基づいて上記負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために上記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、求めた補償電流を電力変換器から出力させるとともに、上記所定個数を上記交流系統の状態に応じて可変設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と、
前記系統ラインに流れる負荷電流の電流値を前記交流系統の電圧の一周期内の所定期間ごとに保持し、保持した各電流値のうち所定個数の電流値に基づいて前記負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、求めた補償電流を前記電力変換器から出力させるとともに、前記所定個数を前記交流系統の状態に応じて可変設定する制御部と、
を備える高調波抑制装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記保持した各電流値のうち最新の所定個数の電流値の加重平均値を算出し、算出した加重平均値に基づいて前記高調波成分を検出する、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電力変換器の運転開始に際し前記所定個数として予め定めた標準個数を設定し、前記交流系統の電圧の状態に応じて前記所定個数を増加方向または減少方向に補正する、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記交流系統の状態として、前記交流系統の電圧にサグの発生、記交流系統の電圧の不平衡の発生、前記交流系統の安定状態を検出する、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電力変換器の運転開始に際し前記所定個数として予め定めた標準個数を設定し、前記交流系統の電圧にサグが発生した場合に前記所定個数を増加方向に補正し、前記交流系統の電圧に不平衡が生じた場合に前記所定個数を減少方向に補正し、前記交流系統が安定状態にある場合に前記所定個数を前記標準個数に戻す、
請求項4に記載の高調波抑制装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記交流系統の電圧または電流の微分値の絶対値が閾値以上の場合に前記サグが発生したと判定し、前記交流系統の電圧の不平衡率が閾値以上の場合に前記不平衡が生じたと判定し、前記交流系統の電圧または電流が規定値内に一定時間わたり収まっている場合に前記交流系統が安定状態にあると判定する、
請求項5に記載の高調波抑制装置。
【請求項7】
前記交流系統は、三相交流電源であり、
前記負荷は、6個のダイオードのブリッジ接続により構成され前記三相交流電源の電圧を全波整流する全波整流回路を含み、
前記所定期間は、前記交流系統の電圧の一周期Tを、前記ダイオードの個数“6”で割った期間(=T/6)である、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高調波抑制装置。
【請求項8】
前記交流系統は、三相交流電源であり、
前記電力変換器は、
複数の第1半導体スイッチ素子および1つの第1コンデンサから成りそれぞれが複数レベルの直流電圧を選択的に出力する複数の第1単位変換器を含み、これら第1単位変換器を直列接続した第1クラスタと、
複数の第2半導体スイッチ素子および1つの第2コンデンサから成りそれぞれが複数レベルの直流電圧を選択的に出力する複数の第2単位変換器を含み、これら第2単位変換器を直列接続した第2クラスタと、
複数の第3半導体スイッチ素子および1つの第3コンデンサから成りそれぞれが複数レベルの直流電圧を選択的に出力する複数の第3単位変換器を含み、これら第3単位変換器を直列接続した第3クラスタと、
を含むマルチレベル変換器である、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項9】
前記負荷は、空気調和機であり、前記交流系統の電圧を全波整流する全波整流回路、この全波整流回路の出力端に直流リアクトルを介して接続された直流コンデンサ、およびこの直流コンデンサの電圧を所定周波数の交流電圧に変換するインバータ、このインバータの出力により動作する圧縮機モータを含む、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高調波を抑制する高調波抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード整流器など非線形な特性を持つ負荷を交流系統に接続した場合、負荷に流れる電流(負荷電流)に高調波成分が生じる。この高調波電流は交流系統を通して他の負荷へ悪影響を与えるため、それをいかに抑制するかが重要な課題となっている。
【0003】
対策として、負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する高調波抑制装置いわゆるアクティブフィルタが使用される。アクティブフィルタは、複数の半導体スイッチ素子により構成されるスイッチング回路、およびこのスイッチング回路を通して通電路が形成される直流コンデンサを含み、この直流コンデンサの電圧により高調波抑制用の補償電流を生成し、それを交流電源と負荷との間の系統ラインに供給することで、負荷電流に含まれる高調波成分を抑制する。
【0004】
このアクティブフィルタにおいては、直流コンデンサの容量を低減することを目的に、直流コンデンサにおける電圧変動を抑制したいという課題がある。この課題に応える技術として、下記の論文には高調波抑制用の補償電流を生成する際の負荷電流の急変に対処するk-step補償器が提案されている。このk-step補償器の採用により、直流コンデンサにおける不要な電圧変動を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気学会論文誌D135巻 6号 p.718-724 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、交流系統電源の状態によってはk-step補償器の採用に伴い、かえって系統電流に歪みが生じることが見いだされた。
本発明の実施形態の目的は、直流コンデンサの容量の低減を可能としながら、系統電流の歪みを低減できる信頼性にすぐれた高調波抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の高調波抑制装置は、交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と;制御部と;を備える。制御部は、前記系統ラインに流れる負荷電流の電流値を前記交流系統の電圧の一周期内の所定期間ごとに保持し、保持した各電流値のうち所定個数の電流値に基づいて前記負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流を求め、求めた補償電流を前記電力変換器から出力させるとともに、前記所定個数を前記交流系統の状態に応じて可変設定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は第1実施形態の構成を示すブロック図。
図2図2は第1実施形態における制御部の要部の構成を示すブロック図。
図3図3図2における補償器の構成を示すブロック図。
図4図4は第1実施形態における系統電圧、負荷電流、d軸負荷電流、q軸負荷電流の波形を示す図。
図5図5は第1実施形態において補償器がない状態で系統電圧にサグが発生した場合のd軸負荷電流Id、低周波数成分Idx、目標値Idrefの変化を示す図。
図6図6は第1実施形態において補償器がある状態で系統電圧にサグが発生した場合のd軸負荷電流Id、低周波数成分Iqx、目標値Idrefの変化を示す図。
図7図7は第1実施形態において交流系統が安定状態にあるときに系統電流に生じる歪みが補償器の有無と所定個数Nに応じて異なる様子を示す図。
図8図8は第1実施形態において交流系統が安定状態にあるときに系統電流に生じる歪みが補償器の有無と所定個数Nに応じて異なる様子を周波数別に示す図。
図9図9は第1実施形態において補償器がない状態で系統電圧に不平衡が生じた場合の系統電流を系統電圧および負荷電流と共に示す図。
図10図10は第1実施形態において補償器がありかつ所定個数Nが“1”の状態で系統電圧に不平衡が生じた場合の系統電流を系統電圧および負荷電流と共に示す図。
図11図11は第1実施形態において補償器がありかつ所定個数Nが“6”の状態で系統電圧に不平衡が生じた場合の系統電流を系統電圧および負荷電流と共に示す図。
図12図12は第1実施形態の制御を示すフローチャート。
図13図13は第2実施形態の構成を示すブロック図。
図14図14図13における各単位変換器の構成を示す図。
図15図15図14における給電回路の構成を示す図。
図16図16図14における給電回路の変形例の構成を示す図。
図17図17図13における各単位変換器の変形例の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、3相交流系統(3相交流電源、電力系統、配電系統などを含む)1の系統ライン(電源ライン)Lr,Ls,Ltに負荷たとえば空気調和機2が接続されている。
【0010】
空気調和機2は、非線形な特性を持つ負荷である6個のダイオード3a~3fのブリッジ接続により構成され3相交流系統1の系統電圧(交流電圧)Vr,Vs,Vtを全波整流する全波相整流回路3、この全波整流回路3の出力端に直流リアクトル4を介して接続された直流コンデンサ5、この直流コンデンサ5の両端に接続されたインバータ6、このインバータ6の出力により動作する圧縮機モータ7を含む。インバータ6は、直流コンデンサ5の直流電圧をスイッチングにより所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧を圧縮機モータ7の駆動電力として出力する。
【0011】
3相交流系統1と空気調和機2との間の系統ラインLr,Ls,Ltに、本実施形態の高調波抑制装置10が接続されている。高調波抑制装置10のことをアクティブフィルタ10ともいう。
【0012】
高調波抑制装置10は、いわゆるアクティブフィルタであり、系統連系用のパッシブフィルタ11、連系リアクトル14r,14s,14t、このパッシブフィルタ11および連系リアクトル14r,14s,14tを介して系統ラインLr,Ls,Ltに接続された電力変換器20、系統ラインLr,Ls,Ltにおけるパッシブフィルタ11の接続位置と空気調和機2との間に配置され3相交流系統1から空気調和機2の全波整流回路3に流れる電流(負荷電流という)Ir,Isを検出する検出器(検出手段)15、系統ラインLr,Ls,Ltに接続され交流系統1の電圧(系統電圧という)Vr,Vs,Vtを検出する検出器(検出手段)16、パッシブフィルタ11と電力変換器20との接続間に配置され連系リアクトル14r,14s,14tに流れる電流、すなわち補償電流(出力電流ともいう)Icr,Ics,Ictを検出する検出器(検出手段)17、これら検出器15,16,17の検出結果に応じて電力変換器20を制御する制御部30を含む。
【0013】
パッシブフィルタ11は、系統ラインLrにつながるリアクトル12rとコンデンサ13rから成るLC回路、系統ラインLsにつながるリアクトル12sとコンデンサ13sから成るLC回路、系統ラインLtにつながるリアクトル12tとコンデンサ13tから成るLC回路を含む。
【0014】
電力変換器20は、例えば3相2レベル変換器であり、複数の半導体スイッチ素子を有するスイッチング回路21、このスイッチング回路21を通して通電路が形成される直流コンデンサ22、この直流コンデンサ22の電圧を検出する電圧検出器23を含み、スイッチング回路21の各半導体スイッチ素子のスイッチング(オン,オフ)により、負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を抑制するための補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltへ供給する。
【0015】
制御部30は、検出器15で検出される負荷電流Ir,Isの電流値を交流系統1の電圧Vr,Vs,Vtの一周期T内の所定期間tごとに内部メモリ30aに保持(記憶)し、保持した各電流値のうち最新の所定個数Nの電流値(参照データ)の加重平均値を算出し、算出した加重平均値に基づいて負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流Icr,Ics,Ictの目標値を求め、その目標値の補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr,Vcs,Vctを電力変換器20で生成し出力させる。内部メモリ30aに保持される各電流値は、一周期Tごとに更新される。
【0016】
所定期間tは、交流系統1の電圧の一周期Tを、高調波発生負荷であるところの全波整流回路3のダイオード3a~3fの個数“6”で割った期間(T/6)である。
【0017】
さらに、制御部30は、上記加重平均値の算出に用いる電流値の所定個数Nを、交流系統1の状態に応じて可変設定する。具体的には、制御部30は、電力変換器20の運転開始に際し所定個数Nとして予め定めた標準個数Naを設定し(N←Na)、交流系統1の状態に応じて所定個数Nを増加方向または減少方向に補正する。交流系統1の状態として、交流系統1の電圧(電源電圧)の一時的な低下であるサグ、交流系統1の各相電圧の不平衡、交流系統1の安定状態などがある。
【0018】
制御部30は、系統電圧Vr,Vs,Vtの絶対値、または負荷電流Ir,Isを座標変換して得られるd軸負荷電流Id,q軸負荷電流Iqの微分値の絶対値が、閾値以上の場合に系統電圧Vr,Vs,Vtにサグが発生したと判定し、系統電圧Vr,Vs,Vtの不平衡率Bが閾値Bs以上の場合に系統電圧Vr,Vs,Vtに不平衡が生じたと判定し、系統電圧Vr,Vs,Vtの絶対値、および負荷電流Ir,Isを座標変換して得られるd軸負荷電流Id,q軸負荷電流Iqの微分値が、規定値内に一定時間わたり収まっている場合に交流系統1が安定状態にあると判定する。そして、制御部30は、サグが発生したと判定した際に所定個数Nを例えば“1”だけ増加方向に補正し(N←N+1)、不平衡が生じたと判定した際に所定個数Nを例えば“1”だけ減少方向に補正し(N←N-1)、交流系統1が安定状態にあると判定した際に所定個数Nを標準個数Naに戻す(N←Na)。
【0019】
制御部30の要部の構成を図2に示す。
座標変換部31は、検出器15で検出される負荷電流Ir,Isの値を検出器16で検出される系統電圧Vr,Vs,Vtの位相θに基づく回転座標変換により、d軸負荷電流Idおよびq軸負荷電流Iqに変換する。
【0020】
補償器32aは、上記非特許文献1に示されているk-step補償器と同様に図3に示す処理回路を有し、座標変換部31で得られたd軸負荷電流Idの電流値を交流系統1の電圧Vr,Vs,Vtの一周期T内の所定期間t(=T/6)ごとに内部メモリ30aに参照データとして継続的に記憶・保持し、保持した各電流値のうち最新の所定個数Nの電流値の加重平均値Id´を算出する。
【0021】
補償器32bも、補償器32aと同様に、座標変換部31で得られたq軸負荷電流Iqの電流値を交流系統1の電圧Vr,Vs,Vtの一周期T内の所定期間t(=T/6)ごとに内部メモリ30aに参照データとして継続的に記憶・保持し、保持した各電流値のうち最新の所定個数Nの電流値の加重平均値Iq´を算出する。
【0022】
ローパスフィルタ33aは、座標変換部31で得られたd軸負荷電流Idの低周波数成分Idxを抽出する。ローパスフィルタ33bは、座標変換部31で得られたq軸負荷電流Iqの低周波数成分Iqxを抽出する。
【0023】
演算部34aは、ローパスフィルタ33aで抽出された低周波数成分Idxを補償器32aで算出された加重平均値Id´から減算することにより、負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するためにd軸負荷電流Idに加えるべきd軸補償電流の目標値(指令値)Idrefを算出する。
【0024】
演算部34bは、ローパスフィルタ33bで抽出された低周波数成分Iqxを補償器32bで算出された加重平均値Iq´から減算することにより、負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するためにq軸負荷電流Iqに加えるべきq軸補償電流の目標値(指令値)Iqrefを算出する。
【0025】
d軸補償電流の目標値Idrefおよびq軸補償電流の目標値Iqrefは、高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流Icr,Ics,Ictの目標値に相当する。補償電流Icr,Ics,Ictとは、負荷電流Ir,Is,Itをできるだけ系統電圧Vr,Vs,Vtと同期する正弦波に近づけるために、その負荷電流Ir,Is,Itに足し合わせるべき電流のことである。
【0026】
パルス幅変調部(PWM)35は、検出器16で検出される系統電圧Vr,Vs,Vtと同じ周波数の変調波信号の電圧と演算部34a,34bで算出される目標値Idref,Iqrefから目標となる三相の補償電流Icr,Ics,Ictを内蔵の電流制御部によって算出し、この電流目標値をPWM制御のキャリア波形と比較するパルス幅変調により、スイッチング回路21の各スイッチ素子に対する駆動信号を生成する。生成される駆動信号によってスイッチング回路21の各スイッチ素子がオン,オフすることにより、目標値の補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr,Vcs,Vctがスイッチング回路21から出力される。この出力に伴い、目標値の補償電流Icr,Ics,Ictがスイッチング回路21から系統ラインLr,Ls,Ltに流れる。この補償電流Icr,Ics,Ictにより、負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分が抑制される。
【0027】
図4の系統電圧Vr、負荷電流Ir、d軸負荷電流Id、q軸負荷電流Iqの波形において、d軸負荷電流Idおよびq軸負荷電流Iqに着目すると、所定期間t(=T/6)ごとに同じ振幅が繰り返されている。上記非特許文献1に示されているk-step補償器では、この振幅の繰り返し特性を利用し、所定期間tごとにデータを参照してその各データの加重平均値を求めている。
【0028】
図5に、補償器32aがない状態で、系統電圧Vr,Vs,Vtにサグが発生した場合のd軸負荷電流Id、低周波数成分Idx、目標値Idrefの変化を示している。サグの影響でd軸負荷電流Idが大きく変動し、それに伴い目標値Idrefも大きく変動している。この目標値Idrefに応じて生成される補償電流Icr,Ics,Ictが系統ラインLr,Ls,Ltに供給されると、系統ラインLr,Ls,Ltが過電流状態となり、過電流保護が働いて空気調和機2の運転が停止に至る可能性がある。
図6に、補償器32aがあり、かつ補償器32aの加重平均値の算出に使用(参照)する各電流値の所定個数Nが“6”の状態で、系統電圧Vr,Vs,Vtにサグが発生した場合のd軸負荷電流Id、低周波数成分Idx、目標値Idrefの変化を示している。サグの影響でd軸負荷電流Idが大きく変動しているが、目標値Idrefの変動は抑えられている。
【0029】
図7は、交流系統1が安定状態にあるとき、系統電流Iroに生じる歪みが、補償器32a,32bの有無に応じて、かつ加重平均の算出に使用(参照)する各電流値の所定個数Nに応じて異なる様子を示している。図8は、交流系統1が安定状態にあるとき、系統電流Iroの実効値に生じる歪みが、補償器32a,32bの有無に応じて、かつ加重平均の算出に使用(参照)する各電流値の所定個数Nに応じて異なる様子を、周波数別に示している。補償器32a,32bが無い場合に系統電流Iroに生じる歪み率は2.45%、所定個数Nが“1”の場合に系統電流Iroに生じる歪み率は2.35%であり、両歪み率に大差はない。これに比べ、所定個数Nが“6”の場合に系統電流Iroに生じる歪み率は2.64%に悪化している。悪化の理由は、電流値を所定期間tごとに内部メモリ30aに保持(記憶)するタイミングに量子化誤差が生じ、その量子化誤差が個数Nの増加に伴い蓄積するからである。個数Nが“6”の場合は、量子化誤差の蓄積が大きくなるため、電流値を所定期間tごとの適切なタイミングで捕らえることが困難となる。
【0030】
図9は、補償器32a,32bが無い状態で、系統電圧Vro,Vso,Vtoに不平衡が生じた場合の系統電流Iro,Iso,Itoを、系統電圧Vr,Vs,Vtおよび負荷電流Ir,Is,Itと共に示している。系統電流Itoの歪み率は12.5%である。
【0031】
図10は、補償器32a,32bがあり、かつ所定個数Nが“1”の状態で、系統電圧Vro,Vso,Vtoに不平衡が生じた場合の系統電流Iro,Iso,Itoを、系統電圧Vr,Vs,Vtおよび負荷電流Ir,Is,Itと共に示している。系統電流Itoの歪み率は13.7%である。
【0032】
図11は、補償器32a,32bがあり、かつ所定個数Nが“6”の状態で、系統電圧Vro,Vso,Vtoに不平衡が生じた場合の系統電流Iro,Iso,Itoを、系統電圧Vr,Vs,Vtおよび負荷電流Ir,Is,Itと共に示している。系統電流Itoの歪み率は23.5%に悪化している。
【0033】
制御部30は、これら交流系統1の状態に応じた電流歪みを抑えるため、図12のフローチャートに示す制御を実行する。
電力変換器20の運転開始に際し(S1のYES)、制御部30は、補償器32a,32bの加重平均値の算出に使用(参照)する各電流値の所定個数Nとして、予め定めた標準個数Na(例えば“2”)を設定する(S2;N←Na)。
【0034】
続いて、制御部30は、系統電圧Vr,Vs,Vtにサグの発生がなく(S3のNO)、系統電圧Vr,Vs,Vtに不平衡がなく(S4のNO)、しかも交流系統1が安定状態にある場合(S5のYES)、所定個数Nとして標準個数Naの設定を維持する(S6)。そして、制御部30は、運転停止指令がなければ(S7のNO)、上記S3のサグ判定に戻る。
【0035】
系統電圧Vr,Vs,Vtにサグが発生した場合(S3のYES)、制御部30は、所定個数Nを“1”だけ増加方向に補正する(S8;N←N+1)。そして、制御部30は、運転停止指令がなければ(S7のNO)、上記S3のサグ判定に戻る。
【0036】
系統電圧Vr,Vs,Vtにサグの発生はないが(S3のNO)、系統電圧Vr,Vs,Vtに不平衡が生じた場合(S4のYES)、制御部30は、所定個数Nを“1”だけ減少方向に補正する(S9;N←N-1)。そして、制御部30は、電力変換器20の運転停止指令がなければ(S7のNO)、上記S3のサグ判定に戻る。
【0037】
系統電圧Vr,Vs,Vtにサグの発生がなく(S3のNO)、系統電圧Vr,Vs,Vtに不平衡もないが(S4のNO)、交流系統1が安定状態にない場合(S5のNO)、制御部30は、所定個数Nを“1”だけ減少方向に補正する(S9;N←N-1)。そして、制御部30は、電力変換器20の運転停止指令がなければ(S7のNO)、上記S3のサグ判定に戻る。
【0038】
系統電圧Vr,Vs,Vtにサグの発生がなく(S3のNO)、系統電圧Vr,Vs,Vtに不平衡がなく(S4のNO)、しかも交流系統1が安定状態に戻った場合(S5のYES)、所定個数Nを標準個数Naに戻す(S6)。
【0039】
電力変換器20の運転停止指令がある場合(S7のYES)、制御部30は、一連の制御を終了する。
【0040】
以上のように、負荷電流Ir,Is,Itの急変に対処する補償器32a,32bを電力変換器20の制御に用いることにより、交流系統1におけるサグの発生や電圧不平衡の発生等の電源擾乱状態に対する耐性が向上する。
【0041】
すなわち、補償器32a,32bの加重平均値の算出に用いる電流値の所定個数Nを交流系統1の状態に応じて可変設定するので、補償器32a,32bを採用したことに伴う系統電流Iro,Iso,Itoの歪みを低減することができる。
【0042】
上記各実施形態では、高調波発生負荷がダイオードブリッジの全波整流回路3である場合を例に説明したが、高調波発生負荷が12パルス整流器や18パルス整流器である場合も所定期間t(=T/6)を用いて実施することができる。
【0043】
更に高調波を低減させるために、12パルス整流器の場合、負荷電流Ir,Is,Itの振幅がT/12期間ごとに繰り返されるので、補償器32a,32bにおいて電流値を保持するタイミングは所定期間tをT/12にしてもよい。同様に18パルス整流器の場合、負荷電流Ir,Is,Itの振幅がT/18期間ごとに繰り返されるので、補償器32a,32bにおいて電流値を保持するタイミングは所定期間t=T/18としてもよい。
【0044】
[2]本発明の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。
図13に示すように、高調波抑制装置10は、電力変換器20に代えて電力変換器40を備える。電力変換器40は、いわゆるマルチレベル変換器(MMC)であり、系統ラインLr,Ls,Ltの各相に対応する3つのクラスタ41,42,43を含む。
【0045】
クラスタ(第1クラスタ)41は、それぞれが複数レベル(マルチレベル)の直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器(セル)50を直列接続(カスケード接続)してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器50の出力電圧(セル出力電圧)Vcr1,Vcr2,Vcr3を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vcr0(=Vcr1+Vcr2+Vcr3)を生成し出力する。
【0046】
クラスタ(第2クラスタ)42は、それぞれが複数レベルの直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器50を直列接続してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器50の出力電圧Vcs1,Vcs2,Vcs3を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vcs0(=Vcs1+Vcs2+Vcs3)を生成し出力する。
【0047】
クラスタ(第3クラスタ)43は、それぞれが複数レベルの直流電圧をスイッチングにより選択的に生成し出力する複数の単位変換器50を直列接続してなるいわゆる多直列変換器クラスタであり、各単位変換器50の出力電圧Vct1,Vct2,Vct3を足し合わせることにより高調波を低減するための正弦波に近い波形の交流電圧Vct0(=Vct1+Vct2+Vct3)を生成し出力する。
【0048】
各単位変換器50の具体的な構成を図14に示す。
単位変換器50は、一対の出力端子、それぞれ還流ダイオードDを有する半導体スイッチ素子Qa,Qb,Qc,Qd、これら半導体スイッチ素子Qa~Qdを介して上記出力端子に接続された直流コンデンサC、制御部30からの駆動信号に応じて半導体スイッチ素子Qa~Qdを駆動するゲートドライブ回路58、このゲートドライブ回路58の動作用電圧をコンデンサCの電圧(コンデンサ電圧)から得る給電回路53、コンデンサCの電圧を検出して制御部30に知らせる電圧検出回路51を含み、半導体スイッチ素子Qa~Qdのスイッチング(オン,オフ)による複数の通電路の選択的な形成により複数レベルの直流電圧を生成し出力する。
【0049】
コンデンサCと給電回路53との間の通電路に、リレー接点等の開閉器52が挿入接続されている。給電回路53は、図15に示すように、MOSFET等の半導体スイッチ素子54、この半導体スイッチ素子54のドレイン・ソース間および開閉器52を介してコンデンサCに並列接続されるコンデンサ55、開閉器52を介してコンデンサCに接続される抵抗器56およびツェナーダイオード57の直列回路を含み、ツェナーダイオード57のツェナー電圧を半導体スイッチ素子54のゲートに加えるシリーズレギュレータである。コンデンサ55の電圧がゲートドライブ回路58の動作用電圧となる。
【0050】
制御部30は、検出器15で検出される負荷電流Ir,Isの電流値を交流系統1の電圧Vr,Vs,Vtの一周期T内の所定期間tごとに内部メモリ30aに保持(記憶)し、保持した各電流値のうち最新の所定個数Nの電流値(参照データ)の加重平均値を算出し、算出した加重平均値に基づいて負荷電流Ir,Is,Itに含まれる高調波成分を検出し、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流Ir,Is,Itに加えるべき補償電流Icr,Ics,Ictの目標値を求め、その目標値の補償電流Icr,Ics,Ictを系統ラインLr,Ls,Ltに供給するために必要な補償電圧Vcr0,Vcs0,Vct0を電力変換器40で生成し出力させる。
【0051】
また、制御部30は、単位変換器50の半導体スイッチ素子Qa~Qdをスイッチングする場合に開閉器52をオンしてコンデンサCから給電回路53への通電路を形成し、半導体スイッチ素子Qa~Qdを非スイッチングしない場合は開閉器52をオフしてコンデンサCから給電回路53への通電路を遮断する。この遮断により、コンデンサCの電圧が待機電力として消費される不具合を解消するようにしている。
他の構成および制御は第1実施形態と同じである。
【0052】
[3]変形例
第2実施形態の給電回路53については、シリーズレギュレータに限らず、図16に示すDC/DCコンバータを用いてもよい。このDC/DCコンバータは、MOSFET等の半導体スイッチ素子61、リアクトル62、この半導体スイッチ素子61のドレイン・ソース間とリアクトル62および開閉器52を介してコンデンサCに並列接続されるコンデンサ63、このコンデンサ63に対する放電路形成用のダイオード64を含み、る。コンデンサ63の電圧がゲートドライブ回路58の動作用電圧となる。
【0053】
このDC/DCコンバータは、上記シリーズレギュレータよりも効率が高い。ただし、開閉器52がないと仮定した場合、単位変換器50の半導体スイッチ素子Qa~Qdの非スイッチング時に各単位変換器50におけるコンデンサCの電圧がアンバランスとなってしまう現象が生じる。
【0054】
この不具合を防ぐため、制御部30は、単位変換器50の半導体スイッチ素子Qa~Qdをスイッチングする場合に開閉器52をオンしてコンデンサCから給電回路53への通電路を形成し、半導体スイッチ素子Qa~Qdを非スイッチングしない場合は開閉器52をオフしてコンデンサCから給電回路53への通電路を遮断する。この遮断により、コンデンサCの電圧が待機電力として消費される不具合を解消するとともに、各単位変換器50におけるコンデンサCの電圧がアンバランスとなってしまう不具合を解消する。
【0055】
また、制御部30は、各単位変換器50におけるコンデンサCの電圧が予め定めた閾値から外れる過電圧異常が生じた場合、開閉器52をオフしてコンデンサCから給電回路53への通電路を遮断する。この遮断によっても、各単位変換器50におけるコンデンサCの電圧がアンバランスとなる不具合を解消する。
【0056】
なお、図17に示すように、開閉器52に代えて双方向接点形の開閉器71を設け、その開閉器71の一方の接点をコンデンサCから給電回路53への通電路に挿入接続するとともに、放電用の抵抗器72を開閉器71の他方の接点を介してコンデンサCに並列接続する構成としてもよい。
【0057】
この場合、制御部30は、各単位変換器50におけるコンデンサCの電圧が予め定めた閾値から外れる過電圧異常が生じた場合、開閉器71の一方の接点をオフしてコンデンサCから給電回路53への通電路を遮断する。このとき、開閉器71の一方の接点がオンするので、放電用の抵抗器72を通してコンデンサCに対する放電路が形成される。これにより、コンデンサCの過電圧状態が不要に続く不具合を解消することができる。
【0058】
その他、上記各実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…交流系統(三相交流電源)、2…負荷、Lr,Ls,Lt…系統ライン、10…高調波抑制装置、11…パッシブフィルタ、15…電流検出部、16…電圧検出部、17…電流検出部、20…電力変換器、21…スイッチング回路、22…直流コンデンサ、23…電圧検出器、30…制御部、30a…メモリ。
図1
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