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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046003
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、及び造形用キット
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20240327BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20240327BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20240327BHJP
   B22C 1/20 20060101ALI20240327BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240327BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240327BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20240327BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C1/00 B
B22C1/10 D
B22C1/20 Z
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y40/20
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151126
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】永井 康弘
【テーマコード(参考)】
4E092
4G052
【Fターム(参考)】
4E092AA02
4E092AA03
4E092AA04
4E092AA15
4E092AA23
4E092AA27
4E092AA42
4E092BA04
4E092BA12
4E092CA01
4E092DA01
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】作業環境が良好で、実用的な強度の造形物を製造できる造形物の製造方法、及び造形用キットの提供。
【解決手段】耐火性粒状材料と、糖類及び多価カルボン酸類を含む糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを含む一次造形物を加熱して、前記糖バインダを硬化させて二次造形物を得る第一の熱処理工程と、前記二次造形物を400℃以上に加熱する第二の熱処理工程と、を有する、造形物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒状材料と、糖類及び多価カルボン酸類を含む糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを含む一次造形物を加熱して、前記糖バインダを硬化させて二次造形物を得る第一の熱処理工程と、
前記二次造形物を400℃以上に加熱する第二の熱処理工程と、
を有する、造形物の製造方法。
【請求項2】
前記耐火性粒状材料と、前記糖バインダと、前記リン酸二水素ナトリウムとを含む混合物を成形型に充填して前記一次造形物を得る、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記耐火性粒状材料に前記多価カルボン酸類及び前記リン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に前記糖類を射出する工程(b)とを繰り返して前記一次造形物を得る、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
耐火性粒状材料と、糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを各々独立して有し、
前記糖バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する、造形用キット。
【請求項5】
耐火性粒状材料に多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料と、糖類とを各々独立して有する、造形用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法、及び造形用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)の一つとして自硬性鋳型が知られている。自硬性鋳型とは、例えば珪砂等の耐火性粒状材料に、粘結剤と硬化剤とを添加、混練した後、得られた混練砂を木型や樹脂型(以下、これらを総称して「成形型」ともいう。)に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されているものである。
粘結剤としては、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂等の有機粘結剤や、水ガラス等の無機粘結剤が用いられる。
【0003】
鋳型には、鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体が注湯され、鋳物が得られる。鋳物は、鋳型を解体して取り出される。また、解体した鋳型から耐火性粒状材料を再生し、鋳型の製造に再利用するのが一般的である。
有機粘結剤は、ハンドリング性に優れ、鋳型の造型が容易である。また、有機粘結剤を用いた鋳型は、解体時の崩壊性に優れる。しかし、注湯時に有機粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生しやすく、鋳物に欠陥が生じたり、作業環境が悪化したりしやすい。
【0004】
一方、無機粘結剤を用いた鋳型は、無機粘結剤が熱分解しにくいため注湯時に粘結剤の熱分解ガスが発生しにくい。しかし、無機粘結剤は有機粘結剤に比べてハンドリング性に劣り、鋳型の造型が容易ではない。また、無機粘結剤を用いた鋳型は、注湯後の強度が低下しにくく、崩壊しにくい(崩壊性に劣る)ため、有機粘結剤を用いた鋳型に比べて解体しにくい。
【0005】
そこで、無機粘結剤を用いた鋳型の崩壊性を改善する方法として、例えば特許文献1、2には、有機粘結剤で造型した鋳型に、特定の無機粘結剤を含浸させた後に、特定の温度で焼成する鋳型の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-59148号公報
【特許文献2】特開2020-22981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法では、無機粘結剤の含浸ムラが発生する場合がある。その結果、鋳型中のバインダ量のばらつきにより、鋳型の強度が低下することがある。また、鋳造欠陥が生じることもある。
【0008】
本発明は、作業環境が良好で、実用的な強度の造形物を製造できる造形物の製造方法、及び造形用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 耐火性粒状材料と、糖類及び多価カルボン酸類を含む糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを含む一次造形物を加熱して、前記糖バインダを硬化させて二次造形物を得る第一の熱処理工程と、
前記二次造形物を400℃以上に加熱する第二の熱処理工程と、
を有する、造形物の製造方法。
[2] 前記耐火性粒状材料と、前記糖バインダと、前記リン酸二水素ナトリウムとを含む混合物を成形型に充填して前記一次造形物を得る、前記[1]の造形物の製造方法。
[3] 前記耐火性粒状材料に前記多価カルボン酸類及び前記リン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に前記糖類を射出する工程(b)とを繰り返して前記一次造形物を得る、前記[1]の造形物の製造方法。
[4] 耐火性粒状材料と、糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを各々独立して有し、
前記糖バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する、造形用キット。
[5] 耐火性粒状材料に多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料と、糖類とを各々独立して有する、造形用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業環境が良好で、実用的な強度の造形物を製造できる造形物の製造方法、及び造形用キットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[造形物の製造方法]
以下、本発明の造形物の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の造形物の製造方法は、耐火性粒状材料と、糖類及び多価カルボン酸類を含む糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを含む一次造形物を加熱して、前記糖バインダを硬化させて二次造形物を得る第一の熱処理工程と、二次造形物を400℃以上に加熱する第二の熱処理工程とを有する。
【0012】
<一次造形物>
一次造形物は、耐火性粒状材料と、糖類及び多価カルボン酸類を含む糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを含む。
一次造形物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、耐火性粒状材料、糖バインダ及びリン酸二水素ナトリウム以外の成分(以下、「任意成分(X)」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0013】
(耐火性粒状材料)
耐火性粒状材料としては、砂、セラミック、金属などが挙げられる。
これらの耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
砂としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などが挙げられる。また、使用済みの人工砂や天然砂を回収したもの(回収砂)や、これらを再生処理(焙焼再生、研磨など乾式再生)したもの(再生砂)なども使用できる。これらの砂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
人工砂は、一般的にボーキサイトを原料とし、溶融法(アトマイズ法)、焼結法、火炎溶融法のいずれかの方法で得られる。溶融法、焼結法、火炎溶融法の具体的な条件等は特に限定されず、例えば特開平5-169184号公報、特開2003-251434号公報、特開2004-202577号公報等に記載された公知の条件等を用いて人工砂を製造すればよい。
金属としては、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅などが挙げられる。これらの金属は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
耐火性粒状材料の平均粒子径は10~600μmが好ましく、30~550μmがより好ましく、50~500μmがさらに好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、強度の高い造形物が得られる。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、本発明により得られる造形物が鋳型の場合、この鋳型を用いて鋳造される鋳物の表面性に優れる。
特に、一次造形物を後述する方法(I)で製造する場合、耐火性粒状材料の平均粒子径は50~600μmが好ましく、65~550μmがより好ましく、75~500μmがさらに好ましい。
一次造形物を後述する方法(II)で製造する場合、耐火性粒状材料の平均粒子径は10~300μmが好ましく、50~150μmより好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が300μm以下であれば、面相度に優れた3次元積層造形物である一次造形物が得られる。
耐火性粒状材料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積分布基準での累積頻度50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
また、「面粗度」とは、3次元積層造形物の積層方向の表面粗さのことである。
【0016】
耐火性粒状材料は、得られる造形物の使用目的に応じて選択される。例えば、造形物を鋳型として使用する場合、耐火性粒状材料としては砂が適している。天然砂は人工砂に比べて安価であるため、製造コストを抑える観点では、天然砂を単独又は人工砂と混合して用いるのが好ましく、鋳型の耐火度も考慮するのであれば、天然砂と人工砂とを混合して用いるのが好ましい。
なお、鋳型は鋳物を鋳造するための型であり、鋳造後は鋳物を取り出すために解体される。すなわち、鋳物を最終目的物(最終製品)とすると、鋳型は最終的に壊される前提のものである。
一方、造形物が最終目的物(最終的に壊されることを前提としていないもの)である場合、耐火性粒状材料としては金属が適している。本明細書において、金属を用いて得られた造形物を「金属成形体」ともいう。
【0017】
(糖バインダ)
糖バインダは有機粘結剤であり、糖類及び多価カルボン酸類を含む。
糖バインダは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、糖類及び多価カルボン酸類以外の成分(以下、「任意成分(Y)」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0018】
<<糖類>>
糖類は、有機粘結剤の役割を果たす。
糖類としては、単糖、オリゴ糖、多糖等の糖質;糖アルコールなどが挙げられる。
なお、本明細書において、「オリゴ糖」は2~10の単糖が結合したものとし、「多糖」は11以上の単糖が結合したものとする。
【0019】
単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロースなどが挙げられる。
オリゴ糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース、セロビオース等の二糖;マルトトリオース、ラフィノース等の三糖;マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;フラクトオリゴ糖;マンノオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖などが挙げられる。
多糖としては、例えばデンプン、デキストリン、ザンサンガム、カードラン、プルラン、シクロアミロース、キチン、セルロース、ポリデキストロースなどが挙げられる。
デンプンとしては、末加工デンプン及び加工デンプンを挙げることができる。具体的には馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、米デンプン、アマランサスデンプンなどの未加工デンプン、及びこれらの加工デンプン(焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理デンプン、酸化デンプン、ジアルデヒド化デンプン、エーテル化デンプン(カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、カチオンデンプン、メチロール化デンプン等)、エステル化デンプン(酢酸デンプン、リン酸デンプン、コハク酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、マレイン酸デンプン、高級脂肪酸エステル化デンプン等)、架橋デンプン、クラフト化デンプン、及び湿熱処理デンプンなどが挙げられる。
糖アルコールとしては、例えばマルチトール、ソルビトール、リビトール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、ラクチトール、キシリトール、スクロース、エリトリトール、イノシトールなどが挙げられる。
なお、砂糖はスクロース(ショ糖)を主成分とするものであり、原料や製法などによって上白糖、グラニュー糖、白双糖、三温糖、黒糖などがあり、これらはいずれも本発明において糖類として使用することができる。
これらの糖類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
<<多価カルボン酸類>>
多価カルボン酸類は、後述の第一の熱処理工程により糖類と反応してポリマー化することで粘結性を発現することから、有機粘結剤の役割を果たす。加えて、多価カルボン酸類は、糖類の酸触媒(硬化剤)としての役割も果たす。
本発明において、「多価カルボン酸類」との用語は、多価カルボン酸に加え、多価カルボン酸塩、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸ハロゲン化物、多価カルボン酸誘導体等も含むものである。
【0021】
多価カルボン酸類としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、イソフタル酸、イタコン酸、ブタンテトラジカルボン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、3,6-ジヒドロキシフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体等の多価カルボン酸;これら多価カルボン酸の塩(多価カルボン酸塩);これら多価カルボン酸の無水物(多価カルボン酸無水物);これら多価カルボン酸のハロゲン化物(多価カルボン酸ハロゲン化物);及びこれら多価カルボン酸の誘導体(多価カルボン酸誘導体)などが挙げられる。
多価カルボン酸の塩としては、例えば多価カルボン酸とアルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)との塩、多価カルボン酸とアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)との塩、多価カルボン酸とアンモニウムとの塩、多価カルボン酸とアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩などが挙げられる。
多価カルボン酸の無水物としては、例えば多価カルボン酸の分子内又は分子間より脱水縮合され、カルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)を含むものなどが挙げられる。
多価カルボン酸のハロゲン化物としては、例えば多価カルボン酸の酸塩化物、多価カルボン酸の酸臭化物などが挙げられる。
多価カルボン酸の誘導体としては、例えば多価カルボン酸の炭素数1~5の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等)とのエステル化合物、多価カルボン酸と低分子量グリコール(エチレングリコール等)とのエステル化合物などが挙げられる。
これの中でも、植物由来であり、かつ入手のし易さの観点から、多価カルボン酸が好ましく、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
これらの多価カルボン酸類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
糖類及び多価カルボン酸類の合計量は、糖バインダの総質量に対して60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0023】
<<任意成分(Y)>>
任意成分(Y)としては、シランカップリング剤、多価カルボン酸類以外の酸成分(以下、「他の酸成分」ともいう。)等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えばN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
他の酸成分としては、例えば安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸等の一価のカルボン酸;パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;硫酸;リン酸などが挙げられる。
これらの他の酸成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ただし、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸は、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を発生しやすい。そのため、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.5質量部未満が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましく、糖バインダは硫黄を含む酸を実質的に含まないことが特に好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、意図せずして含有するものを除き、積極的に硫黄を含む酸を配合しないことを意味する。
【0025】
(リン酸二水素ナトリウム)
リン酸二水素ナトリウムは、無機粘結剤である。
リン酸二水素ナトリウムは、加熱脱水縮合によりポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウムを生成する。後述の第二の熱処理工程によりリン酸二水素ナトリウムがポリマー化することで生成した縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが、効率的に形成される。その結果、耐火性粒状材料同士を十分に粘結する。
リン酸二水素ナトリウムは、水和物であってもよいし、無水物であってもよい。
【0026】
(任意成分(X))
任意成分(X)としては、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、滑剤、崩壊剤、硬化促進剤などが挙げられる。
シランカップリング剤としては、任意成分(Y)の説明において先に例示したシランカップリング剤が挙げられる。
【0027】
ブロッキング防止剤としては、例えば無機粒子、ゼオライト、滑剤などが挙げられる。
無機粒子としては、例えばシリカ、チタニア、アルミナ、ゼオライト、カオリン、タルク、マイカ等の珪酸塩鉱物;珪藻土などが挙げられる。シリカは非晶質でもよいし、結晶質でもよい。また、天然シリカでもよいし、合成シリカでもよい。合成シリカとしては沈降法シリカ、シリカゲル等の湿式シリカ;ヒュームドシリカ(火炎加水分解法シリカ)、アーク法シリカ、プラズマ法シリカ、石英ガラス(火炎溶融シリカ)等の乾式シリカなどが挙げられる。
ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称である。ゼオライトの骨格構造としては、例えばA型、X型、LSX型、ベータ型、ZSM-5型、フェリエライト型、モルデナイト型、L型、Y型などが挙げられる。
滑剤としては、例えばパラフィンワックス、カルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤;高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の金属石けん系滑剤;脂肪酸エステル系滑剤;複合滑剤などが挙げられる。
これらのブロッキング防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
滑剤としては、例えば脂肪酸アミド、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。
硬化促進剤としては、例えば安息香酸、サリチル酸などが挙げられる。
これらの滑剤及び硬化促進剤はそれぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(一次造形物の製造方法)
一次造形物は、例えば下記方法(I)、方法(II)により得られる。
方法(I):耐火性粒状材料と、糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムと、必要に応じて任意成分(X)とを含む混合物(以下、「混合物(M1)」ともいう。)を成形型に充填して一次造形物を製造する方法。
方法(II):3次元積層造形により一次造形物を製造する方法。
【0030】
<<方法(I)>>
混合物(M1)は、例えば耐火性粒状材料と、糖類と、多価カルボン酸類と、リン酸二水素ナトリウムと、必要に応じて任意成分(X)及び任意成分(Y)から選択される1つ以上と混合することで得られる。
耐火性粒状材料が砂の場合、混合物(M1)を「混練砂」ともいう。
【0031】
糖類と、多価カルボン酸類との反応を促進させる観点から、混合物(M1)は水分を含んでいることが好ましい。
上述した各成分を混合した後に水を加えることで水分を含む混合物(M1)を調製してもよいし、糖類、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムの1つ以上を水に溶解した溶液(以下、「溶液(i)」ともいう。)用いることで、水分を含む混合物(M1)を調製してもよい。溶液(i)には、必要に応じて任意成分(X)及び任意成分(Y)から選択される1つ以上が含まれていてもよい。また、溶液(i)には、水以外の溶媒が含まれていてもよく、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノール等のアルコールが含まれていてもよい。
糖類、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムの2つ以上を水に溶解して用いる場合は、別々に水に溶解してもよいし、混合した後に水に溶解してもよい。
混合物(M1)の水分量は、耐火性粒状材料100質量部に対して20~80質量部が好ましく、40~60質量部がより好ましい。
【0032】
糖類と多価カルボン酸類との質量比は、糖類:多価カルボン酸類=90:10~10:90となるように、糖類及び多価カルボン酸類を射出することが好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、さらに好ましくは70:30~30:70であり、特に好ましくは60:40~40:60であり、最も好ましくは50:50である。糖類と多価カルボン酸類との質量比が上記範囲内であれば、糖類と多価カルボン酸類との反応により十分な硬化が可能となる。特に、糖類と多価カルボン酸類との質量比が50:50~20:80の範囲内であれば、耐水性に優れた造形物が得られやすくなる傾向にある。よって、造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。
【0033】
糖類及び多価カルボン酸類の合計量は、耐火性粒状材料100質量部に対して0.6~15質量部が好ましく、0.8~10質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましく、1.5~3.5が特に好ましく、2~3が最も好ましい。耐火性粒状材料に対する糖類及び多価カルボン酸類の合計量が、上記下限値以上であれば十分な粘結性が得られる。粘結性の効果は、糖類及び多価カルボン酸類の合計量の割合が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、糖類及び多価カルボン酸類の合計量は15質量部以下が好ましい。
なお、糖類の合計量は、耐火性粒状材料100質量部に対して0.5~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましく、0.5~2質量部がさらに好ましい。
多価カルボン酸類の合計量は、耐火性粒状材料100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.3~3質量部がより好ましく、0.5~2質量部がさらに好ましく、1~1.5が特に好ましい。
【0034】
リン酸二水素ナトリウムの含有量に対する糖類及び多価カルボン酸類の合計量の質量比を表す(糖類+多価カルボン酸類)/(リン酸二水素ナトリウム)は、0.15~10が好ましく、0.3~5がより好ましく、0.5~3がさらに好ましい。(糖類+多価カルボン酸類)/(リン酸二水素ナトリウム)が上記下限値以上であれば、実用的な強度の造形物が得られやすくなる。(糖類+多価カルボン酸類)/(リン酸二水素ナトリウム)が上記上限値以下であれば、実用的な崩壊性を有する造形物が得られやすくなる。
なお、リン酸二水素ナトリウムの含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましく、1~2質量部がさらに好ましい。
【0035】
方法(I)で一次造形物を製造する場合、成形型から一次造形物を抜型してから第一の熱処理工程に供してもよいし、成形型が第一の熱処理工程での加熱温度に耐えられる場合は、抜型せずに第一の熱処理工程に供してもよい。
成形型から一次造形物を抜型してから第一の熱処理工程に供する場合は、加熱した成形型に混合物(M1)を充填して一次造形物を製造することが好ましい。このときの成形型の温度は50~100℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。加熱した成形型に混合物(M1)を充填することで、糖類の一部と多価カルボン酸類の一部が反応し、成形型から抜型できる程度の強度の一次造形物が得られる。
加熱していない成形型を用いる場合は、成形型に混合物(M1)を充填した後に、成形型ごと加熱してもよい。このときの加熱温度は、50~100℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
なお、本明細書において、100℃以下に加熱した成形型に混合物(M1)を充填すること、及び、成形型に混合物(M1)を充填した後に100℃以下に加熱することを総称して、「予備加熱」ともいう。
【0036】
また、水分を含む混合物(M1)を成形型に充填して一次造形物を製造する場合は、一次造形物中の水分を蒸発させて除去してから第一の熱処理工程に供することが好ましい。第一の熱処理工程の前に一次造形物中の水分を除去しておくことで、糖類と多価カルボン酸のエステル化を予め進行させておき、その後の熱処理で完全なエステル化を達成しやすくすることができる。
例えば上述したように、第一の熱処理工程の前に一次造形物を予備加熱することで、すなわち、加熱した成形型に混合物(M1)を充填して一次造形物を製造したり、加熱していない成形型に混合物(M1)を充填した後に加熱したりすることで、一次造形物中の水分の少なくとも一部を蒸発させて除去することができる。
【0037】
<<方法(II)>>
方法(II)の場合、例えば耐火性粒状材料に多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に糖類を射出する工程(b)とを、目的の一次造形物が得られるまで繰り返して一次造形物を製造する。
方法(II)により得られる一次造形物、及びこの一次造形物を熱処理して得られる造形物は、3次元積層造形物である。
【0038】
方法(II)で用いる被覆材料は、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが被覆したものである。
多価カルボン酸類の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.3~3質量部がより好ましく、0.5~2質量部がさらに好ましく、1~1.5が特に好ましい。多価カルボン酸類の含有量が上記下限値以上であれば、実用的な強度の二次造形物が得られやすくなる。多価カルボン酸類の含有量が上記上限値以下であれば、第二の熱処理工程の際に発生するガス量を軽減できる。
リン酸二水素ナトリウムの含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましく、1~2質量部がさらに好ましい。リン酸二水素ナトリウムの含有量が上記下限値以上であれば、実用的な強度の造形物が得られやすくなる。リン酸二水素ナトリウムの含有量が上記上限値以下であれば、実用的な崩壊性を有する造形物が得られやすくなる。
【0039】
耐火性粒状材料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムに加えて、必要に応じて他の成分が被覆されていてもよい。
他の成分としては、例えば任意成分(X)の説明において先に例示したブロッキング防止剤、任意成分(Y)の説明において先に例示した他の酸成分などが挙げられる。
ただし、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸は、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を発生しやすい。そのため、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.5質量部未満が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましく、耐火性粒状材料は、硫黄を含む酸で被覆されていないことが特に好ましい。
【0040】
被覆材料は、例えば加熱した耐火性粒状材料に、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムと、必要に応じて他の成分とを含む溶液(以下、「溶液(α)」ともいう。)を添加することで得られる。
なお、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムは、別々に耐火性粒状材料に添加してもよい。この場合、加熱した耐火性粒状材料に、多価カルボン酸類と、必要に応じて他の成分とを含む溶液(以下、「溶液(α1)」ともいう。)、及びリン酸二水素ナトリウムと、必要に応じて他の成分とを含む溶液(以下、「溶液(α2)」ともいう。)を添加することで、被覆材料は得られる。溶液(α1)と溶液(α2)の添加の順は特に限定されず、耐火性粒状材料に溶液(α1)を添加した後に溶液(α2)を添加してもよいし、溶液(α2)を添加した後に溶液(α1)を添加してもよいし、溶液(α1)と溶液(α2)を同時に添加してもよい。
【0041】
溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、溶媒としては水が好ましい。
溶液(α)の総質量に対する多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムの合計量は10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
溶液(α1)の総質量に対する多価カルボン酸類の含有量は10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
溶液(α2)の総質量に対するリン酸二水素ナトリウムの含有量は10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0042】
耐火性粒状材料の加熱温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。耐火性粒状材料の温度が上記上限値以下であれば、多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが熱分解するのを抑制できる。
特に、乾態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒の沸点以上であることが好ましく、具体的には100~250℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましく、100~150℃が特に好ましい。ただし、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒がアルコールの場合は水に比べて低沸点であり、アルコールの沸点以下でも蒸発しやすい。そのため、耐火性粒状材料の加熱温度は上記範囲内には限らず、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒がアルコールのときは、耐火性粒状材料の加熱温度が60℃超、100℃未満でも乾態の被覆材料が得られる場合がある。一方、湿態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)、溶液(α1)、溶液(α2)に含まれる溶媒の沸点未満が好ましく、具体的には60℃以下がより好ましく、10~50℃がさらに好ましく、20~30℃が特に好ましい。
被覆材料は、乾態でもよいし、3次元積層造形において積層できれば湿態でもよいが、乾態であることが好ましい。
【0043】
工程(a)及び工程(b)は、例えば印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、以下のようにして行われる。
3次元積層装置としては、ブレード機構と、印刷ノズルヘッド機構と、造形テーブル機構とを備えるものが好ましい。さらに、各機構の動作を造形対象物の3次元データを用いて制御する制御部を備えていることが好ましい。
ブレード機構は、リコータを含み、金属ケースの面又は糖類で結合済みの造形部の上層に、被覆材料を所定の厚みで積層するものである。
印刷ノズルヘッド機構は、積層された被覆材料に対して糖類による印刷を行い、被覆材料を結合することによって1層毎の造形を行うものである。
造形テーブル機構は、1層の造形が終了すると1層分の距離だけ下降して、所定の厚みでの積層造形を実現するものである。
【0044】
まず、印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、リコータを有するブレード機構により被覆材料を3次元積層装置に設置された金属ケースの底面に積層する(工程(a))。ついで、積層した被覆材料の所望の領域に、目的の3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッド機構により印刷ノズルヘッドを走査させて、糖類を印刷(射出)する(工程(b))。金属ケースの底面は造形テーブルとなっており、上下に可動することができる。糖類を印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を1層分降下させ、先と同様にして被覆材料を積層し(工程(a))、その上に糖類を印刷する(工程(b))。これら積層と印刷の操作を、目的の一次造形物が造形されるまで繰り返す。1層の厚さは、100~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
なお、耐火性粒状材料が金属である被覆材料を用いて金属成形体を製造する場合は、メタル3Dプリンタを用いることが好ましい。
【0045】
糖類は、印刷ノズルヘッド機構から射出しやすい濃度となるように、予め溶媒に溶解又は希釈して、溶液の状態で用いることが好ましい。すなわち、工程(b)では糖類を含む溶液(以下、「溶液(β)」ともいう。)を射出することが好ましい。
溶液(β)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。これらの中でも、溶媒としては水が好ましい。
溶液(β)中の糖類の含有量は特に限定されず、3次元積層装置の性能等に応じて適宜決定すればよい。
【0046】
糖類を印刷する際の塗布量は純分換算で、糖類とその印刷領域における1層分の被覆材料中の多価カルボン酸類との質量比が、糖類:多価カルボン酸類=90:10~10:90となる量が好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、さらに好ましくは70:30~30:70であり、特に好ましくは60:40~40:60であり、最も好ましくは50:50である。糖類と多価カルボン酸類との質量比が上記範囲内となるように糖類を塗布することで、糖類と多価カルボン酸類との反応により十分な硬化が可能となる。特に、糖類と多価カルボン酸類との質量比が50:50~20:80の範囲内であれば、耐水性に優れた造形物が得られやすくなる傾向にある。よって、造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。
【0047】
また、糖類を印刷する際の塗布量は純分換算で、その印刷領域における1層分の被覆材料中の耐火性粒状材料の質量を100質量部としたときに、0.5~10質量部となる量が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2質量部である。耐火性粒状材料に対する糖類の割合が、上記下限値以上であれば十分な粘結性が得られる。粘結性の効果は、糖類の割合が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、糖類の割合は10質量部以下が好ましい。
【0048】
また、糖類を印刷する際の塗布量は純分換算で、糖類とその印刷領域における1層分の被覆材料中の多価カルボン酸類の合計量が、その印刷領域における1層分の被覆材料中の耐火性粒状材料100質量部に対して0.5~10質量部となる量が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは1~5質量部であり、特に好ましくは1.5~3.5であり、最も好ましくは2~3である。
【0049】
また、糖類を印刷する際の塗布量は純分換算で、(糖類+多価カルボン酸類)/(リン酸二水素ナトリウム)が、0.1~10となる量が好ましく、より好ましくは0.2~5であり、さらに好ましくは0.3~3である。
なお、ここでいう「(糖類+多価カルボン酸類)/(リン酸二水素ナトリウム)」は、糖類の印刷領域における1層分中の被覆材料中のリン酸二水素ナトリウムの含有量に対する、糖類とその印刷領域における1層分の被覆材料中の多価カルボン酸類との合計量の質量比である。
【0050】
工程(a)において、被覆材料はブロッキング防止剤と混合された状態で用いられてもよい。すなわち、被覆材料とブロッキング防止剤とを含む混合物(以下、「混合物(M2)」ともいう。)を層状に敷き詰めてもよい。
混合物(M2)は、例えば、加熱した耐火性粒状材料に溶液(α)を添加して被覆材料を製造した後に、得られた被覆材料とブロッキング防止剤とを混合することで得られる。溶液(α)には、他の成分としてブロッキング防止剤が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
工程(a)において混合物(M2)を層状に敷き詰める場合、工程(b)では、層状に敷き詰められた混合物(M2)の所望の領域に糖類を射出する。
【0051】
方法(II)で一次造形物を製造する場合、一次造形物は被覆材料の粉末の中で埋もれながら造形される。
被覆材料の粉末から一次造形物を取り出すことができれば、被覆材料の粉末から一次造形物を取り出して第一の熱処理工程に供してもよいし、一次造形物が被覆材料の粉末の中で埋もれた状態で第一の熱処理工程に供してもよい。
被覆材料の粉末から一次造形物取り出して第一の熱処理工程に供する場合、取り出した一次造形物の周囲に、糖類が印刷されていない領域(非印刷領域)の被覆材料が付着している場合は、ブラシや掃除機等で非印刷領域の被覆材料を除去する。
【0052】
<第一の熱処理工程>
第一の熱処理工程は、一次造形物を加熱して、糖バインダを硬化させて二次造形物を得る工程である。
一次造形物を加熱することで、糖バインダである糖類及び多価カルボン酸類が溶融し、その後に固化又は硬化することで耐火性粒状材料同士が強固に結合する。また、糖類及び多価カルボン酸類が溶融したときに、糖類と多価カルボン酸類との反応(エステル化等)が進行してポリマー化しやすくなるので、糖類が単独で固化又は硬化する場合よりも硬化性が高まり、耐火性粒状材料同士がより強固に結合する。
本発明において、第一の熱処理工程による糖バインダの硬化を「一次硬化」ともいう。
【0053】
一次造形物の加熱温度は、糖バインダが硬化する温度であれば特に制限されないが、100℃超300℃以下が好ましく、130~250℃がより好ましく、150~250℃がさらに好ましく、150~200℃が特に好ましい。一次造形物の加熱温度が上記下限値以上であれば、糖バインダが硬化しやすく、実用的な強度の二次造形物が得られやすい。一次造形物の加熱温度が上記上限値以下であれば、糖類及び多価カルボン酸類が熱分解するのを抑制できる。
一次造形物の加熱時間は、糖バインダが十分に硬化する時間であれば特に制限されず、一次造形物の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
【0054】
なお、方法(I)で製造した一次造形物を、成形型から抜型せずに加熱する場合、二次造形物は成形型に充填されたままである。成形型から二次造形物を抜型してから第二の熱処理工程に供してもよいし、成形型が第二の熱処理工程での加熱温度にも耐えられる場合は、抜型せずに第二の熱処理工程に供してもよい。第一の熱処理工程により糖バインダは硬化しているので、成形型から二次造形物を容易に抜型できる。
また、一次造形物を予備加熱した後に、一次造形物を成形型から抜型せずに、第一の熱処理工程を行ってもよい。
【0055】
方法(II)で製造した一次造形物を、被覆材料の粉末から取り出さずに加熱する場合、二次造形物は被覆材料の粉末の中に埋まった状態である。非印刷領域の被覆材料をブラシや掃除機等で除去して、二次造形物を被覆材料の粉末から取り出してから第二の熱処理工程に供してもよいし、取り出さずに第二の熱処理工程に供してもよい。第一の熱処理工程により糖バインダは硬化しているので、被覆材料の粉末から二次造形物を容易に取り出すことができる。
【0056】
<第二の熱処理工程>
第二の熱処理工程は、二次造形物を400℃以上に加熱する工程である。
二次造形物を400℃以上に加熱することで、二次造形物に含まれる糖類と多価カルボン酸類との反応生成物(ポリマー)、及び未反応の糖類及び多価カルボン酸類が熱分解してガス化し、熱分解ガスとして二次造形物から除去される。すなわち、有機粘結剤である糖バインダが二次造形物から除去される。
加えて、二次造形物を400℃以上に加熱することで、リン酸二水素ナトリウムがポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが形成され、耐火性粒状材料同士が十分に粘結する。
本発明において、第二の熱処理工程によるリン酸二水素ナトリウムの硬化を「二次硬化」ともいう。
【0057】
二次造形物の加熱温度は、400℃以上であり、400~1000℃が好ましく、500~800℃がより好ましく、550~750℃がさらに好ましい。二次造形物の加熱温度が上記下限値以上であれば、糖類と多価カルボン酸類との反応生成物、及び未反応の糖類及び多価カルボン酸類が十分に熱分解して、二次造形物から除去される。加えて、リン酸二水素ナトリウムの脱水縮合反応が十分に進行する。これら熱分解と脱水縮合反応は、二次造形物の加熱温度が高くなるほど進行する傾向あるが、加熱温度が高すぎても効果は頭打ちになるだけである。また、加熱温度が高くなるほどエネルギーを消費するため、コストが高くなる。加えて、造形物を鋳型として用いる場合、崩壊性が低下する傾向にある。これらの点を考慮すると、二次造形物の加熱温度は1000℃以下が好ましい。熱分解と脱水縮合反応は400℃以上で進行することから、本発明であれば、必要以上に高温で二次造形物を加熱する必要はなく、エネルギー消費をより効果的に削減し、造形物を鋳型として用いる場合の崩壊性をより高める観点では、800℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましい。
二次造形物の加熱時間は、上述した熱分解と脱水縮合反応が十分に進行する時間であれば特に制限されず、二次造形物の形状や大きさに応じて適宜決定すればよい。
【0058】
二次造形物を加熱した後に室温(例えば25℃)まで冷却し(冷却工程)、造形物を得る。耐火性粒状材料が砂の場合、造形物として例えば鋳型が得られる。
冷却方法としては公知の方法を採用でき、例えば室温で自然放冷する方法、送風を利用して強制冷却する方法などが挙げられる。
【0059】
被覆材料の粉末から二次造形物を取り出さずに加熱する場合、冷却工程後に非印刷領域の被覆材料をブラシや掃除機等で除去して、造形物を被覆材料の粉末から取り出す。
【0060】
<作用効果>
以上説明した本発明の造形物の製造方法によれば、有機粘結剤と無機粘結剤の2種類の粘結剤を併用し、まず、一次造形物に含まれる有機粘結剤である糖バインダを硬化させて二次造形物を得る。有機粘結剤はハンドリング性に優れるため、一次造形物を容易に製造できる。
次いで、二次造形物を400℃以上に加熱することで、有機粘結剤の硬化物、すなわち糖類と多価カルボン酸類との反応生成物、及び未反応の糖類及び多価カルボン酸類は熱分解してガス化し、熱分解ガスとして二次造形物から除去される。一方、無機粘結剤であるリン酸二水素ナトリウムはポリマー化して、縮合リン酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム等の無機物のネットワークが形成され、耐火性粒状材料同士が十分に粘結するので、実用的な強度の造型物が得られる。
しかも、リン酸二水素ナトリウムは、例えば糖バインダと共に耐火性粒状材料に混練された状態、又は多価カルボン酸類と共に耐火性粒状材料を被覆した状態で、一次造形物の製造に供されるため、無機粘結剤の含浸ムラが発生しにくい。よって、造形物中のバインダ量のばらつきが生じにくく、実質的な強度の造型物が得られる。造形物を鋳型として用いる場合は、鋳造欠陥の発生を抑制できる。
【0061】
このように、本発明では、二次造形物の製造までは有機粘結剤の機能を利用し、その後は無機粘結剤の機能を利用して造形物を製造する。すなわち、造形物の製造中に、粘結剤を有機系から無機系に切り替える。
本発明により得られる造形物は糖バインダが十分に除去されているので、造形物が鋳型の場合、有機粘結剤の熱分解ガスが発生しにくく、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
また、造形物はリン酸二水素ナトリウムのポリマー化によってその形状を維持し、強度を維持できる。
よって、本発明であれば、作業環境が良好で、実用的な強度の造形物を製造できる。特に、一次造形物を方法(ii)で製造すれば、複雑な形状の造型物であっても容易に製造できる。
【0062】
なお、本発明では、第二の熱処理工程において糖類と多価カルボン酸類との反応生成物、及び未反応の糖類及び多価カルボン酸類は熱分解するため、熱分解ガスが発生してしまう。
しかし、糖類と多価カルボン酸類との反応生成物、及び未反応の糖類及び多価カルボン酸類が熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度である。しかも、第二の熱処理工程は、例えば電気炉やオーブンなどの狭い空間で行うことができるため、熱分解ガスを排気しやすい。
また、糖類は植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明によればカーボンニュートラルな造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
【0063】
[造形用キット]
以下、本発明の造形用キットの一例を説明する。
本発明の一実施形態である造形用キット(K1)は、耐火性粒状材料と、糖バインダと、リン酸二水素ナトリウムとを各々独立して有する。造形用キット(K1)は、さらにブロッキング防止剤を独立して有していてもよい。
本発明の他の実施形態である造形用キット(K2)は、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類及びリン酸二水素ナトリウムが被覆された被覆材料と、糖類とを各々独立して有する。造形用キット(K1)は、さらにブロッキング防止剤を独立して有していてもよい。
ここで、「独立して有する」とは、各々の成分が互いに混合、接触しない状態で存在していることを意味する。
【0064】
造形用キット(K1)を構成する耐火性粒状材料としては、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示した耐火性粒状材料が挙げられる。
造形用キット(K1)を構成する糖バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する。糖バインダは、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて任意成分(Y)を具備していてもよい。
糖類、多価カルボン酸類及び任意成分(Y)としては、それぞれ、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示した糖類、多価カルボン酸類及び任意成分(Y)が挙げられる。
糖バインダに具備される糖類及び多価カルボン酸類は、混合物の状態で存在していてもよし、独立して存在していてもよい。
造形用キット(K1)を構成するブロッキング防止剤としては、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示したブロッキング防止剤が挙げられる。
【0065】
造形用キット(K2)を構成する被覆材料としては、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示した被覆材料が挙げられる。
造形用キット(K2)を構成する糖類は、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示した糖類が挙げられる。
造形用キット(K2)を構成するブロッキング防止剤としては、上述した本発明の造形物の製造方法の説明において先に例示したブロッキング防止剤が挙げられる。
【0066】
造形用キット(K1)の好ましい態様は以下の通りである。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類及び多価カルボン酸類が収容された第二の容器と、リン酸二水素ナトリウムが収容された第三の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類が収容された第四の容器と、多価カルボン酸類が収容された第五の容器と、リン酸二水素ナトリウムが収容された第三の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類及び多価カルボン酸類が収容された第二の容器と、リン酸二水素ナトリウムが収容された第三の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第六の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類が収容された第四の容器と、多価カルボン酸類が収容された第五の容器と、リン酸二水素ナトリウムが収容された第三の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第六の容器とを備える、容器の集合体。
第一の容器には、必要に応じてブロッキング防止剤がさらに収容されていてもよい。すなわち、耐火性粒状材料はブロッキング防止剤との混合物の状態で第一の容器に収容されていてもよい。
第二の容器、第四の容器及び第五の容器の1つ以上には、必要に応じて任意成分(Y)がさらに収容されていてもよい。
【0067】
造形用キット(K2)の好ましい態様は以下の通りである。
被覆材料が収容された第七の容器と、糖類が収容された第四の容器とを備える、容器の集合体。
被覆材料が収容された第七の容器と、糖類が収容された第四の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第六の容器とを備える、容器の集合体。
第七の容器には、必要に応じてブロッキング防止剤がさらに収容されていてもよい。すなわち、被覆材料はブロッキング防止剤との混合物の状態で第七の容器に収容されていてもよい。
第四の容器には、必要に応じて任意成分(Y)がさらに収容されていてもよい。
【0068】
上述した本発明の造形物の製造方法においては、本発明の造形用キットを用いて、造形物を製造してもよい。
例えば、造形用キット(K1)を用いて方法(I)により、一次造形物を製造してもよい。具体的には、第一の容器から取り出した耐火性粒状材料と、第二の容器から取り出した糖類及び多価カルボン酸類と、第三の容器から取り出したリン酸二水素ナトリウムとを混合して混合物(M1)を製造し、得られた混合物(M1)を成形型に充填して一次造形物を得る。
なお、第二の容器から取り出した糖類及び多価カルボン酸類を用いる代わりに、第四の容器から取り出した糖類と、第五の容器から取り出した多価カルボン酸類とを用いてもよい。
【0069】
また、造形用キット(K2)を用いて方法(II)により、一次造形物を製造してもよい。具体的には、第七の容器から取り出した被覆材料を層状に敷き詰める工程と、層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に、第四の容器から取り出した糖類を射出する工程とを、目的の一次造形物が造形されるまで繰り返して、一次造形物を製造する。
なお、第七の容器にブロッキング防止剤がさらに収容されている場合、被覆材料はブロッキング防止剤と混合された状態で用いられることとなる。造形用キットが被覆材料とブロッキング防止剤とを独立して有する場合、第七の容器から取り出した被覆材料と、第六の容器から取り出したブロッキング防止剤とを混合して混合物(M2)を調製した後に、得られた混合物(M2)を層状に敷き詰めてもよい。
【0070】
以上説明した本発明の造形用キットによれば、有機粘結剤と無機粘結剤の2種類の粘結剤を併有しているので、本発明の造形用キットを用いれば、注湯時や製造過程等における作業環境が良好で、実用的な強度の造形物を製造できる。
しかも、糖類は植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明の造形用キットを用いればカーボンニュートラルな3次元積層造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた材料を以下に示す。また、各種測定方法は以下の通りである。
【0072】
[測定・評価方法]
<曲げ強さの測定>
各実施例および比較例で得られた二次造形物及びテストピースの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0073】
[実施例1-1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#750」、平均粒子径212μm)を用いた。
溶液(i-1)として、マルチトール50質量部と、シランカップリング剤0.5質量部と、水49.5質量部との混合物を用いた。
溶液(i-2)として、クエン酸50質量部と、シランカップリング剤0.5質量部と、水49.5質量部との混合物を用いた。
溶液(i-3)として、リン酸二水素ナトリウム40質量部と、水60質量部との混合物を用いた。
【0074】
<混練砂の調製>
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)1質量部(マルチトールの純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-2)1質量部(クエン酸の純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-3)2.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で1質量部)とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。混練砂の配合組成を表1に示す。
【0075】
<テストピースの作製>
縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体の型が5個形成された樹脂製の成形型を6個用意した。
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度40%の条件下、用意した各成形型に充填して一次造形物を得た。成形型に充填したままの状態で、100℃で3時間乾燥して一次造形物から水分を除去した後(予備加熱)、成形型から一次造形物を取り出した。その後、一次造形物を150℃で1時間加熱して、二次造形物を得た(第一の熱処理工程)。
室温(25℃)まで冷却した後、5個の二次造形物について曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
残りの25個の二次造形物を5個ずつのグループに分けて、400℃、500℃、600℃、700℃又は800℃で1時間加熱して、テストピースを得た(第二の熱処理工程)。
室温(25℃)まで冷却した後、各グループのテストピース5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例1-2、1-3]
第一の熱処理工程の温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例2-1~2-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)2質量部(マルチトールの純分換算で1質量部)と、溶液(i-2)2質量部(クエン酸の純分換算で1質量部)と、溶液(i-3)2.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で1質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例3-1~3-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)3質量部(マルチトールの純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-2)3質量部(クエン酸の純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-3)2.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で1質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例4-1~4-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)1質量部(マルチトールの純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-2)1質量部(クエン酸の純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-3)5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表2に示す。
【0080】
[実施例5-1~5-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)2質量部(マルチトールの純分換算で1質量部)と、溶液(i-2)2質量部(クエン酸の純分換算で1質量部)と、溶液(i-3)5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表2に示す。
【0081】
[実施例5-4]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#750」、平均粒子径212μm)を用いた。
溶液(i-1)として、マルチトール50質量部と、シランカップリング剤0.5質量部と、水49.5質量部との混合物を用いた。
溶液(i-4)として、リンゴ酸50質量部と、シランカップリング剤0.5質量部と、水49.5質量部との混合物を用いた。
溶液(i-3)として、リン酸二水素ナトリウム40質量部と、水60質量部との混合物を用いた。
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)2質量部(マルチトールの純分換算で1質量部)と、溶液(i-4)の溶液2質量部(リンゴ酸の純分換算で1質量部)と、溶液(i-3)の溶液5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。混練砂の配合組成を表2に示す。
得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表2に示す。
【0082】
[実施例6-1~6-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)3質量部(マルチトールの純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-2)3質量部(クエン酸の純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-3)5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表2に示す。
【0083】
[実施例7-1~7-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)1質量部(マルチトールの純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-2)1質量部(クエン酸の純分換算で0.5質量部)と、溶液(i-3)7.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で3質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表3に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0084】
[実施例8-1~8-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)2質量部(マルチトールの純分換算で1質量部)と、溶液(i-2)2質量部(クエン酸の純分換算で1質量部)と、溶液(i-3)7.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で3質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表3に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0085】
[実施例9-1~9-3]
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-1)3質量部(マルチトールの純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-2)3質量部(クエン酸の純分換算で1.5質量部)と、溶液(i-3)7.5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で3質量部)とを混合して混練砂を調製し、得られた混練砂を用い、かつ、第一の熱処理工程の温度を表3に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にしてテストピースを作製し、曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0086】
[実施例10-1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
溶液(α)として、クエン酸15質量部と、リン酸二水素ナトリウム30質量部と、水55質量部との混合物を用いた。
溶液(β)として、マルチトール20質量部と、水80質量部との混合物を用いた。
【0087】
<被覆材料の調製>
130℃に加熱した耐火性粒状材料100質量部に対して、溶液(α)6.66質量部(クエン酸の純分換算で1質量部、リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)を添加し、3分間撹拌した後に排砂し、室温(25℃)まで冷却後、目開き212μmの篩を通過させ、篩を通過したものを被覆材料(被覆砂)として回収した。
【0088】
<テストピースの作製>
印刷造形法を用いた3次元積層造形装置(3D Systems社製、製品名「ZPrinter 310 Plus」)を用い、リコータを有するブレード機構により被覆材料を厚さが200μmとなるように、3次元積層造形装置に設置された金属ケース(縦210mm、横260mm、高さ150mm)の底面(造形テーブル)に積層した(工程(a))。
次いで、積層した被覆材料の上に、10個の一次造形物が得られるように、3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッドを走査させて、溶液(β)を印刷した(工程(b))。溶液(β)を印刷した後、金属ケースの造形テーブルを一層分(200μm)降下させ、先と同様にして被覆材料を積層し(工程(a))、その上に溶液(β)を印刷した(工程(b))。これら工程(a)と工程(b)を複数回、繰り返し行った。
最後の工程(b)の後、3時間経過した後に、一次造形物を被覆材料の粉末の中で埋もれた状態で金属ケースより取り出し、乾燥機内にて200℃で1時間加熱した(第一の熱処理工程)。
室温(25℃)まで放冷後、溶液(β)の非印刷部分の被覆材料をブラシで除去し、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体状の3次元積層造形物である二次造形物を取り出した。5個の二次造形物について曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。
残りの5個の二次造形物を600℃で1時間加熱して、テストピースを得た(第二の熱処理工程)。
室温(25℃)まで冷却した後、テストピース5個の曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。
【0089】
[比較例1-1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#750」、平均粒子径212μm)を用いた。
溶液(i-5)として、水溶性アルカリフェノール樹脂であるレゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、アルファシステム用樹脂「AR-170」、固形分(純分)45質量%、水分量55質量%)を用いた。
硬化剤として、エチレングリコールジアセテートを用いた。
溶液(i-3)として、リン酸二水素ナトリウム40質量部と、水60質量部との混合物を用いた。
【0090】
<混練砂の調製>
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-5)1.0質量部(水溶性アルカリフェノール樹脂の純分換算で0.45質量部)と、硬化剤0.2質量部と、溶液(i-3)5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。混練砂の配合組成を表5に示す。
【0091】
<テストピースの作製>
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度40%の条件下、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体の型が5個形成された樹脂製の成形型に充填したが、有機粘結剤が硬化せず、一次造形物を得ることができなかった。
【0092】
[比較例1-2]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#750」、平均粒子径212μm)を用いた。
溶液(i-6)として、尿素変性フラン樹脂(群栄化学工業株式会社製、「GFA-101」)90質量部と、水10質量部との混合物を用いた。
溶液(i-7)として、キシレンスルホン酸65質量部と、水35質量部との混合物を用いた。
溶液(i-3)として、リン酸二水素ナトリウム40質量部と、水60質量部との混合物を用いた。
【0093】
<混練砂の調製>
耐火性粒状材料100質量部と、溶液(i-6)0.8質量部(尿素変性フラン樹脂の純分換算で0.72質量部)と、溶液(i-7)0.4質量部(キシレンスルホン酸の純分換算で0.26質量部)と、溶液(i-3)5質量部(リン酸二水素ナトリウムの純分換算で2質量部)とを品川式万能撹拌機(株式会社品川工業所製、MIXER)に投入し、これらを混合して混練砂を得た。混練砂の配合組成を表5に示す。
【0094】
<テストピースの作製>
得られた混練砂を、直ちに温度25℃、湿度40%の条件下、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体の型が5個形成された樹脂製の成形型に充填したが、有機粘結剤が硬化せず、一次造形物を得ることができなかった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
表1~4から明らかなように、各実施例で得られたテストピースは、曲げ強さが高かった。
一方、比較例1-1及び比較例1-2で用いた有機粘結剤は自硬性鋳型を製造する場合に適した粘結剤であり、有機粘結剤と硬化剤とが接触することで硬化が開始される。そのため、通常は、耐火性粒状材料と有機粘結剤と硬化剤とを含む混練砂を成形型に充填し、時間が経過すると有機粘結剤が硬化して鋳型を製造することができる。しかし、リン酸二水素ナトリウムの存在下では、有機粘結剤の硬化反応が阻害され、有機粘結剤が硬化しなかったため、一次造形物を製造することができなかった。このように、水溶性アルカリフェノール樹脂及び尿素変性フラン樹脂のような、自硬性鋳型の製造に用いられる有機粘結剤では、無機粘結剤であるリン酸二水素ナトリウムの併用は不向きであった。