(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046007
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キット
(51)【国際特許分類】
B22C 9/02 20060101AFI20240327BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20240327BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20240327BHJP
B22C 1/20 20060101ALI20240327BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240327BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240327BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C1/00 B
B22C1/10 D
B22C1/20 Z
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151133
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 幸佑
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA02
4E092AA03
4E092AA04
4E092AA23
4E092AA27
4E092AA42
4E092BA04
4E092BA12
4E092CA01
4E092DA01
(57)【要約】
【課題】作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を容易に製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットの提供。
【解決手段】耐火性粒状材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域に、バインダを射出する工程(b)とを含み、前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備し、前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。耐火性粒状材料と、バインダとを各々独立して有し、前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する、3次元積層造形用キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒状材料を層状に敷き詰める工程(a)と、
前記層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域に、バインダを射出する工程(b)とを含み、
前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備し、
前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも最後の前記工程(b)の後に、加熱により前記バインダを硬化させる工程(c)をさらに含む、請求項1に記載の3次元積層造形物の製造方法。
【請求項3】
耐火性粒状材料と、バインダとを各々独立して有し、
前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する、3次元積層造形用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)の一つとして自硬性鋳型が知られている。自硬性鋳型とは、珪砂等の耐火性粒状材料に、フラン樹脂等を主成分とした粘結剤(酸硬化性粘結剤)と、硫酸やキシレンスルホン酸等の酸触媒(硬化剤)とを添加、混練した後、得られた混練砂を木型や樹脂型(以下、これらを総称して「模型」という。)に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されているものである。
【0003】
鋳型には、鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体が注湯され、鋳物が得られるが、注湯時に酸硬化性粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生することがある。
また、硬化速度を速くする目的で酸触媒を多量に使用すると、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しやすくなる。
このように、注湯時にガスが発生すると、作業環境が悪化する。
【0004】
そこで、粘結剤として酸硬化性粘結剤の代わりに糖類を用いて鋳型を製造する方法が提案されている。
例えば特許文献1、2には、耐火骨材の表面に、粘結剤として糖類を含有する固形のコーティング層が被覆された粘結剤コーテッド耐火物を模型に充填し、加熱することで糖類を溶融した後に、糖類を固化ないし硬化させて鋳型を製造する方法が開示されている。糖類は炭水化物であるため、熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、作業環境は悪化しにくい。また、溶融した糖類の固化ないし硬化により粘結性を発現させているので、酸触媒を用いる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/030795号
【特許文献2】特開2016-221540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、複雑な形状の鋳型を製造するには、必然的に模型の数を増やす必要があるが、模型の数を増やすことは工程の煩雑化の原因となる。また、模型の数を増やすことができても、鋳型を模型から外すことができなければ、鋳型を製造することはできない。
また、鋳型を中空化すれば、粘結剤の使用量を減らすことができるため、粘結剤として酸硬化性粘結剤を用いても注湯時に発生する熱分解ガスを軽減できるとともに、熱分解ガスを鋳型の外へ放出しやすくできる。しかし、模型を用いて鋳型を製造する方法では、中空の鋳型を製造するのは困難である。
こうした問題を解決するために、近年、模型を用いなくても直接鋳型を製造することが可能な、3次元積層造形による鋳型の製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献1、2に記載の粘結剤コーテッド耐火物を用いて3次元積層造形により鋳型の製造する場合、所望の形状の鋳型を得るためには、粘結剤コーテッド耐火物を層状に積層する工程と、層状に敷き詰められた粘結剤コーテッド耐火物の所望の領域に水を射出して糖類を糊状化させる工程とを、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返した後に、加熱処理する必要がある。
しかし、加熱処理により水が射出されていない領域の糖類も溶融した後に硬化してしまうため、目的の形状の3次元積層造形物が得られない。
このように、耐火骨材に糖類が被覆された粘結剤コーテッド耐火物は、3次元積層造形による鋳型の製造には不向きある。
【0008】
本発明は、作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を容易に製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 耐火性粒状材料を層状に敷き詰める工程(a)と、
前記層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域に、バインダを射出する工程(b)とを含み、
前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備し、
前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。
[2] 少なくとも最後の前記工程(b)の後に、加熱により前記バインダを硬化させる工程(c)をさらに含む、前記[1]の3次元積層造形物の製造方法。
[3] 耐火性粒状材料と、バインダとを各々独立して有し、
前記バインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する、3次元積層造形用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を容易に製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[3次元積層造形物の製造方法]
以下、本発明の3次元積層造形物の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法は、以下に示す工程(a)と工程(b)とを含み、工程(a)と工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返すことで、3次元積層造形物を製造する方法である。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法は、少なくとも最後の工程(b)の後に、以下に示す工程(c)をさらに含むことが好ましい。
【0012】
<耐火性粒状材料>
本発明で用いる耐火性粒状材料としては、砂、セラミック、金属などが挙げられる。
これらの耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
砂としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などが挙げられる。また、使用済みの人工砂や天然砂を回収したもの(回収砂)や、これらを再生処理(焙焼再生、研磨など乾式再生)したもの(再生砂)なども使用できる。これらの砂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
人工砂は、一般的にボーキサイトを原料とし、溶融法(アトマイズ法)、焼結法、火炎溶融法のいずれかの方法で得られる。溶融法、焼結法、火炎溶融法の具体的な条件等は特に限定されず、例えば特開平5-169184号公報、特開2003-251434号公報、特開2004-202577号公報等に記載された公知の条件等を用いて人工砂を製造すればよい。
金属としては、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅などが挙げられる。これらの金属は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
耐火性粒状材料の平均粒子径は10~300μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、強度の高い3次元積層造形物が得られる。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、面相度に優れた3次元積層造形物が得られる。
耐火性粒状材料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積分布基準での累積頻度50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
また、「面粗度」とは、3次元積層造形物の積層方向の表面粗さのことである。
【0015】
耐火性粒状材料は、得られる3次元積層造形物の使用目的に応じて選択される。例えば、3次元積層造形物を鋳型として使用する場合、耐火性粒状材料としては砂が適している。天然砂は人工砂に比べて安価であるため、製造コストを抑える観点では、天然砂を単独又は人工砂と混合して用いるのが好ましく、鋳型の耐火度も考慮するのであれば、天然砂と人工砂とを混合して用いるのが好ましい。
なお、鋳型は鋳物を鋳造するための型であり、鋳造後は鋳物を取り出すために解体される。すなわち、鋳物を最終目的物(最終製品)とすると、鋳型は最終的に壊される前提のものである。
一方、3次元積層造形物が最終目的物(最終的に壊されることを前提としていないもの)である場合、耐火性粒状材料としては金属が適している。本明細書において、金属を用いて得られた3次元積層造形物を「金属成形体」ともいう。
【0016】
耐火性粒状材料は、被覆剤で被覆されていてもよい。
被覆剤で被覆された耐火性粒状材料を「被覆材料」ともいう。特に耐火性粒状材料が砂である場合、被覆材料を「被覆砂」ともいう。
被覆剤としては、ブロッキング防止剤、多価カルボン酸類以外の酸成分等が挙げられる。
【0017】
ブロッキング防止剤としては、例えば無機粒子、ゼオライト、滑剤等のブロッキング防止剤などが挙げられる。
無機粒子としては、例えばシリカ、チタニア、アルミナ、ゼオライト、カオリン、タルク、マイカ等の珪酸塩鉱物;珪藻土などが挙げられる。シリカは非晶質でもよいし、結晶質でもよい。また、天然シリカでもよいし、合成シリカでもよい。合成シリカとしては沈降法シリカ、シリカゲル等の湿式シリカ;ヒュームドシリカ(火炎加水分解法シリカ)、アーク法シリカ、プラズマ法シリカ、石英ガラス(火炎溶融シリカ)等の乾式シリカなどが挙げられる。
ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称である。ゼオライトの骨格構造としては、例えばA型、X型、LSX型、ベータ型、ZSM-5型、フェリエライト型、モルデナイト型、L型、Y型などが挙げられる。
滑剤としては、例えばパラフィンワックス、カルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤;高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の金属石けん系滑剤;脂肪酸エステル系滑剤;複合滑剤などが挙げられる。
これらのブロッキング防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
酸成分としては、多価カルボン酸類以外であれば特に制限されないが、例えば安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸等の一価のカルボン酸;パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;硫酸;リン酸などが挙げられる。
これらの酸成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ただし、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸は、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を発生しやすい。そのため、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.5質量部未満が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましく、耐火性粒状材料は、硫黄を含む酸で被覆されていないことが特に好ましい。
【0019】
被覆材料は、例えば加熱した耐火性粒状材料に、被覆剤を含む溶液(以下、「溶液(α)」ともいう。)を添加することで得られる。
乾態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)に含まれる溶媒の沸点以上であることが好ましい。
耐火性粒状材料の加熱温度の上限値は、被覆剤が熱分解しない温度であれば特に制限されない。
被覆材料は、乾態でもよいし、3次元積層造形において積層できれば湿態でもよいが、乾態であることが好ましい。
【0020】
<バインダ>
本発明で用いるバインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する。
バインダは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、糖類及び多価カルボン酸類以外の成分(任意成分)を具備していてもよい。
なお、本発明において糖類及び多価カルボン酸類を具備するバインダを「糖バインダ」ともいう。
【0021】
(糖類)
糖類は、粘結剤の役割を果たす。
糖類としては、単糖、オリゴ糖、多糖等の糖質;糖アルコールなどが挙げられる。
なお、本明細書において、「オリゴ糖」は2~10の単糖が結合したものとし、「多糖」は11以上の単糖が結合したものとする。
【0022】
単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロースなどが挙げられる。
オリゴ糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース、セロビオース等の二糖;マルトトリオース、ラフィノース等の三糖;マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;フラクトオリゴ糖;マンノオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖などが挙げられる。
多糖としては、例えばデンプン、デキストリン、ザンサンガム、カードラン、プルラン、シクロアミロース、キチン、セルロース、ポリデキストロースなどが挙げられる。
デンプンとしては、末加工デンプン及び加工デンプンを挙げることができる。具体的には馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、米デンプン、アマランサスデンプンなどの未加工デンプン、及びこれらの加工デンプン(焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理デンプン、酸化デンプン、ジアルデヒド化デンプン、エーテル化デンプン(カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、カチオンデンプン、メチロール化デンプン等)、エステル化デンプン(酢酸デンプン、リン酸デンプン、コハク酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、マレイン酸デンプン、高級脂肪酸エステル化デンプン等)、架橋デンプン、クラフト化デンプン、及び湿熱処理デンプンなどが挙げられる。
糖アルコールとしては、例えばマルチトール、ソルビトール、リビトール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、ラクチトール、キシリトール、スクロース、エリトリトール、イノシトールなどが挙げられる。
なお、砂糖はスクロース(ショ糖)を主成分とするものであり、原料や製法などによって上白糖、グラニュー糖、白双糖、三温糖、黒糖などがあり、これらはいずれも本発明において糖類として使用することができる。
これらの糖類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(多価カルボン酸類)
多価カルボン酸類は、糖類と反応してポリマー化することで粘結性を発現することから、粘結剤の役割を果たす。加えて、多価カルボン酸類は、糖類の酸触媒(硬化剤)としての役割も果たす。
本発明において、「多価カルボン酸類」との用語は、多価カルボン酸に加え、多価カルボン酸塩、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸ハロゲン化物、多価カルボン酸誘導体等も含むものである。
【0024】
多価カルボン酸類としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、イソフタル酸、イタコン酸、ブタンテトラジカルボン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、3,6-ジヒドロキシフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体等の多価カルボン酸;これら多価カルボン酸の塩(多価カルボン酸塩);これら多価カルボン酸の無水物(多価カルボン酸無水物);これら多価カルボン酸のハロゲン化物(多価カルボン酸ハロゲン化物);及びこれら多価カルボン酸の誘導体(多価カルボン酸誘導体)などが挙げられる。
多価カルボン酸の塩としては、例えば多価カルボン酸とアルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)との塩、多価カルボン酸とアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)との塩、多価カルボン酸とアンモニウムとの塩、多価カルボン酸とアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩などが挙げられる。
多価カルボン酸の無水物としては、例えば多価カルボン酸の分子内又は分子間より脱水縮合され、カルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)を含むものなどが挙げられる。
多価カルボン酸のハロゲン化物としては、例えば多価カルボン酸の酸塩化物、多価カルボン酸の酸臭化物などが挙げられる。
多価カルボン酸の誘導体としては、例えば多価カルボン酸の炭素数1~5の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等)とのエステル化合物、多価カルボン酸と低分子量グリコール(エチレングリコール等)とのエステル化合物などが挙げられる。
これの中でも、植物由来であり、かつ入手のし易さの観点から、多価カルボン酸が好ましく、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
これらの多価カルボン酸類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(任意成分)
任意成分としては、耐火性粒状材料の説明において先に例示した、多価カルボン酸類以外の酸成分等が挙げられる。
【0026】
<工程(a)、工程(b)>
工程(a)は、耐火性粒状材料を層状に敷き詰める工程である。
工程(b)は、層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域にバインダを射出する工程である。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法では、工程(a)と工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。
【0027】
工程(a)及び工程(b)は、例えば印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、以下のようにして行われる。
3次元積層装置としては、ブレード機構と、印刷ノズルヘッド機構と、造形テーブル機構とを備えるものが好ましい。さらに、各機構の動作を造形対象物の3次元データを用いて制御する制御部を備えていることが好ましい。
ブレード機構は、リコータを含み、金属ケースの面又はバインダで結合済みの造形部の上層に、耐火性粒状材料を所定の厚みで積層するものである。
印刷ノズルヘッド機構は、積層された耐火性粒状材料に対してバインダによる印刷を行い、耐火性粒状材料を結合することによって1層毎の造形を行うものである。
造形テーブル機構は、1層の造形が終了すると1層分の距離だけ下降して、所定の厚みでの積層造形を実現するものである。
【0028】
まず、印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、リコータを有するブレード機構により耐火性粒状材料を3次元積層装置に設置された金属ケースの底面に積層する(工程(a))。ついで、積層した耐火性粒状材料の所望の領域に、目的の3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッド機構により印刷ノズルヘッドを走査させて、バインダを印刷(射出)する(工程(b))。金属ケースの底面は造形テーブルとなっており、上下に可動することができる。バインダを印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を1層分降下させ、先と同様にして耐火性粒状材料を積層し(工程(a))、その上にバインダを印刷する(工程(b))。これら積層と印刷の操作を、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。1層の厚さは、100~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
なお、耐火性粒状材料が金属である耐火性粒状材料を用いて金属成形体を製造する場合は、メタル3Dプリンタを用いることが好ましい。
【0029】
バインダに具備される糖類及び多価カルボン酸類は、混合物の状態で用いられてもよいし、別々に用いられてもよい。すなわち、工程(b)では、層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域に、糖類及び多価カルボン酸類を含む混合物(以下、「混合物(M1)」ともいう。)を射出してもよいし、糖類及び多価カルボン酸類を別々に射出してもよい。糖類及び多価カルボン酸類を別々に射出する場合、射出の順序については特に制限されず、糖類を射出した後に多価カルボン酸類を射出してもよいし、多価カルボン酸類を射出した後に糖類を射出してもよいし、糖類及び多価カルボン酸類を同時に射出してもよい。製造コストや手間を考慮すると、混合物(M1)を射出することが好ましい。
以下、本明細書において、混合物(M1)を射出する場合を「工程(b1)」ともいう。糖類を射出する場合を「工程(b2)」ともいう。多価カルボン酸類を射出する場合を「工程(b3)」ともいう。
【0030】
工程(a)及び工程(b)の好ましい態様は以下の通りである。
工程(a)、工程(b1)の順で、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す態様。
工程(a)、工程(b2)、工程(b3)の順で、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す態様。
工程(a)、工程(b3)、工程(b2)の順で、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す態様。
工程(a)、工程(b2)及び工程(b3)の順で(ただし、工程(b2)及び工程(b3)は同時である)、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す態様。
【0031】
バインダは、印刷ノズルヘッド機構から射出しやすい濃度となるように、予め溶媒に溶解又は希釈して、溶液の状態で用いることが好ましい。すなわち、工程(b)ではバインダを含む溶液(以下、「溶液(β)」ともいう。)を射出することが好ましい。溶液(β)は、必要に応じて上述した任意成分を含んでいてもよい。
糖類及び多価カルボン酸類を混合物の状態で用いる場合、工程(b1)では、混合物(M1)を含む溶液(以下、「溶液(β1)」ともいう。)を用いることが好ましい。
糖類及び多価カルボン酸類を別々に用いる場合、工程(b2)では、糖類を含む溶液(以下、「溶液(β2)」ともいう。)を用いることが好ましい。工程(b3)では、多価カルボン酸類を含む溶液(以下、「溶液(β3)」ともいう。)を用いることが好ましい。
溶液(β1)、溶液(β2)及び溶液(β3)のそれぞれは、必要に応じて上述した任意成分を含んでいてもよい。
溶液(β)、すなわち溶液(β1)、溶液(β2)及び溶液(β3)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。これらの中でも水が好ましい。
溶液(β)、すなわち溶液(β1)、溶液(β2)及び溶液(β3)中の糖類及び多価カルボン酸類の合計量は特に限定されず、3次元積層装置の性能等に応じて適宜決定すればよい。
【0032】
工程(b)では、糖類と多価カルボン酸類との質量比が、糖類:多価カルボン酸類=90:10~10:90となるように、糖類及び多価カルボン酸類を射出することが好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、さらに好ましくは70:30~30:70であり、特に好ましくは60:40~40:60であり、最も好ましくは50:50である。糖類及び多価カルボン酸類を質量比が上記範囲内となるように射出することで、糖類と多価カルボン酸類との反応により十分な硬化が可能となる。特に、糖類と多価カルボン酸類との質量比が50:50~20:80の範囲内であれば、耐水性に優れた3次元積層造形物が得られやすくなる傾向にある。よって、3次元積層造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。
【0033】
また、工程(b)では、バインダの総質量に対して、糖類及び多価カルボン酸類の合計量が60質量%以上となるように、糖類及び多価カルボン酸類を射出することが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0034】
また、バインダを印刷する際の塗布量は純分換算で、その印刷領域における1層分の耐火性粒状材料の質量を100質量部としたときに、糖類及び多価カルボン酸類の合計量が0.5~10質量部となる量が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2質量部である。耐火性粒状材料に対する糖類及び多価カルボン酸類の合計量が、上記下限値以上であれば十分な粘結性が得られる。粘結性の効果は、糖類及び多価カルボン酸類の合計量の割合が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、糖類及び多価カルボン酸類の合計量は10質量部以下が好ましい。
【0035】
なお、工程(a)において、耐火性粒状材料は、上述した被覆剤で被覆された状態で用いられてもよいし、ブロッキング防止剤と混合された状態で用いられてもよい。すなわち、工程(a)では、上述した被覆材料を層状に敷き詰めてもよいし、耐火性粒状材料又は被覆材料とブロッキング防止剤とを含む混合物(以下、「混合物(M2)」ともいう。)を層状に敷き詰めてもよい。
工程(a)において被覆材料又は混合物(M2)を層状に敷き詰める場合、工程(b)では、層状に敷き詰められた被覆材料又は混合物(M2)の所望の領域にバインダを射出する。
【0036】
このようにして得られる3次元積層造形物は、耐火性粒状材料の粉末の中で埋もれながら造形される。射出されたバインダ(糖類及び多価カルボン酸類)の乾燥固化により、バインダが液架橋して耐火性粒状材料同士がある程度結合するので、耐火性粒状材料の粉末から3次元積層造形物を取り出すことができる。取り出した3次元積層造形物の周囲に、バインダが印刷されていない領域(非印刷領域)の耐火性粒状材料が付着している場合は、刷毛、ブラシ、掃除機等で除去する。
【0037】
耐火性粒状材料の粉末から3次元積層造形物を取り出した後、3次元積層造形物の強度を高める目的で、以下の工程(c)を行うことが好ましい。
また、取り出した3次元積層造形物の周囲に付着した耐火性粒状材料が除去しにくい場合は、以下の工程(c)を行うことが好ましい。
なお、耐火性粒状材料の粉末から3次元積層造形物を取り出さずに、3次元積層造形物が耐火性粒状材料の粉末の中で埋もれた状態で、以下の工程(c)を行ってもよい。
【0038】
<工程(c)>
工程(c)は、少なくとも最後の工程(b)の後に、加熱によりバインダを硬化させる工程である。
工程(c)の回数は、1回でもよいし、2回以上でもよい。
工程(c)の回数が1回の場合は、最後の工程(b)の後でのみ工程(c)を行う。
工程(c)の回数が2回以上の場合は、最後の工程(b)以外の工程(b)の後にも工程(c)を1回以上行う。例えば、工程(a)と工程(b)と工程(c)とをこの順で目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。
最後の工程(b)の後、耐火性粒状材料の粉末から3次元積層造形物を取り出せる場合は、取り出した3次元積層造形物のみを加熱してもよい。その際、取り出した3次元積層造形物の周囲に非印刷領域の耐火性粒状材料が付着した状態で加熱してもよい。また、3次元積層造形物が耐火性粒状材料の粉末に埋もれた状態で加熱してもよい。
【0039】
工程(c)における加熱温度は、100~300℃が好ましく、130~290℃がより好ましく、150~280℃がさらに好ましく、160~270℃がよりさらに好ましく、170~260℃が特に好ましく、180~250℃が最も好ましい。加熱温度が上記下限値以上であれば、バインダが硬化しやすい。特に加熱温度が150℃以上であれば、実用的な強度の3次元積層造形物が得られやすい。さらに、加熱温度が150℃超であれば、耐水性に優れた3次元積層造形物が得られやすい。よって、3次元積層造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。加熱温度が上記上限値以下であれば、糖類及び多価カルボン酸類が熱分解するのを抑制できる。
加熱処理は、乾燥機を用いて行ってもよいし、3次元積層装置が加熱処理機構を備えている場合は3次元積層装置の金属ケース内にて加熱処理を行ってもよい。
【0040】
加熱により糖類及び多価カルボン酸類が溶融し、その後に固化又は硬化することで耐火性粒状材料同士が強固に結合する。また、糖類及び多価カルボン酸類が溶融したときに、糖類と多価カルボン酸類との反応(エステル化等)が進行してポリマー化しやすくなるので、糖類が単独で固化又は硬化する場合よりも硬化性が高まり、耐火性粒状材料同士がより強固に結合する。
糖類と多価カルボン酸類との反応を十分に進行させる観点からも、工程(c)を行うことが好ましい。
【0041】
耐火性粒状材料の粉末の中で3次元積層造形物が埋もれた状態で工程(c)を行う場合、最後の工程(b)の後に工程(c)を行った後、バインダが印刷されていない領域(非印刷領域)の耐火性粒状材料を刷毛、ブラシ、掃除機等で除去して、3次元積層造形物を取り出す。加熱により糖類と多価カルボン酸類とがポリマー化することで耐火性粒状材料同士がより強固に結合するので、3次元積層造形物の強度が高まり、3次元積層造形物はその形状を良好に維持できる。よって、耐火性粒状材料の粉末の中から3次元積層造形物を容易に取り出すことができる。
非印刷領域においては糖類と多価カルボン酸類との反応は起こらないため、耐火性粒状材料同士は結合しておらず、非印刷領域の耐火性粒状材料を容易に除去できる。
【0042】
なお、金属成形体を製造する場合は、最後の工程(b)の後に工程(c)を行った後、必要に応じて脱脂工程及び焼結工程を行ってもよい。
【0043】
<作用効果>
以上説明した本発明の3次元積層造形物の製造方法によれば、粘結剤として糖類及び多価カルボン酸類を具備するバインダを用いているので、本発明により得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
また、本発明であれば、酸触媒としてスルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸を用いる必要がない。よって、本発明により得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しにくい観点からも、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
【0044】
なお、金属成形体を製造する場合は、通常、粘結剤を硬化させた後に脱脂工程及び焼結工程を行う。これら脱脂工程及び焼結工程の際に、粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生したり、硫酸やキシレンスルホン酸等の酸触媒に起因して亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生したりして、作業環境が悪化する。
しかし、本発明であれば、粘結剤として糖類及び多価カルボン酸類を具備するバインダを用いており、硫黄を含む酸を用いる必要もないので、工程(c)の後に脱脂工程及び焼結工程を行っても、熱分解ガスや硫黄酸化物が発生しにくく、金属成形体の製造過程において作業環境が悪化しにくい。
【0045】
このように、本発明では、粘結剤として糖類及び多価カルボン酸類を具備するバインダを用いているので、注湯時や製造過程における作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる。また、3次元積層造形を採用していることから、複雑な形状の3次元積層造形物であっても容易に製造できる。
しかも、糖類は植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明によればカーボンニュートラルな3次元積層造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
【0046】
加えて、本発明であれば、工程(b)においてバインダが射出されていない領域ではバインダが硬化しないため、耐火性粒状材料同士は結合せず、耐火性粒状材料の粉末から3次元積層造形物を容易に取り出すことができる。よって、例えば中空の3次元積層造形物を製造する場合は、中空部分に位置する耐火性粒状材料を除去する必要があるが、本発明であれば中空部分に位置する耐火性粒状材料同士は結合しにくいため容易に除去でき、中空の3次元積層造形物を容易に製造できる。なお、中空の3次元積層造形物を製造する場合は、中空部分に位置する耐火性粒状材料を除去するための除去用穴が3次元積層造形物の任意の箇所に設けられるように、3次元積層造形物の形状を設計することが好ましい。
【0047】
[3次元積層造形用キット]
本発明の3次元積層造形用キットは、耐火性粒状材料と、バインダとを各々独立して有する。3次元積層造形用キットは、さらにブロッキング防止剤を独立して有していてもよい。
ここで、「独立して有する」とは、各々の成分が互いに混合、接触しない状態で存在していることを意味する。
【0048】
3次元積層造形用キットを構成する耐火性粒状材料としては、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示した耐火性粒状材料が挙げられる。
3次元積層造形用キットを構成するバインダは、糖類及び多価カルボン酸類を具備する。バインダは、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて任意成分を具備していてもよい。
糖類、多価カルボン酸類及び任意成分としては、それぞれ、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示した糖類、多価カルボン酸類及び任意成分が挙げられる。
バインダに具備される糖類及び多価カルボン酸類は、混合物の状態で存在していてもよし、独立して存在していてもよい。
3次元積層造形用キットを構成するブロッキング防止剤としては、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示したブロッキング防止剤が挙げられる。
【0049】
3次元積層造形用キットの好ましい態様は以下の通りである。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、前記混合物(M1)が収容された第二の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類が収容された第三の容器と、多価カルボン酸類が収容された第四の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、前記混合物(M1)が収容された第二の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第五の容器とを備える、容器の集合体。
耐火性粒状材料が収容された第一の容器と、糖類が収容された第三の容器と、多価カルボン酸類が収容された第四の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第五の容器とを備える、容器の集合体。
第一の容器には、必要に応じてブロッキング防止剤がさらに収容されていてもよい。すなわち、耐火性粒状材料はブロッキング防止剤との混合物の状態で第一の容器に収容されていてもよい。
また、耐火性粒状材料は、上述した被覆剤で被覆された状態で(すなわち、被覆材料として)第一の容器に収容されていてもよい。
【0050】
上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法においては、本発明の3次元積層造形用キットを用いて、3次元積層造形物を製造してもよい。
例えば、第一の容器から取り出した耐火性粒状材料を層状に敷き詰める工程と、層状に敷き詰められた耐火性粒状材料の所望の領域に、第二の容器から取り出した混合物(M1)を射出する工程とを、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返して、3次元積層造形物を製造する。その際、上述した工程(c)を行うことが好ましい。
なお、第一の容器にブロッキング防止剤がさらに収容されている場合、耐火性粒状材料はブロッキング防止剤と混合された状態で用いられることとなる。3次元積層造形用キットが耐火性粒状材料とブロッキング防止剤とを独立して有する場合、第一の容器から取り出した耐火性粒状材料と、第五の容器から取り出したブロッキング防止剤とを混合して混合物(M2)を調製した後に、得られた混合物(M2)を層状に敷き詰めてもよい。
また、混合物(M1)の代わりに、第三の容器から取り出した糖類及び第四の容器から取り出した多価カルボン酸類を用いてもよい。
【0051】
以上説明した本発明の3次元積層造形用キットによれば、粘結剤として糖類及び多価カルボン酸類を具備するバインダを有しているので、本発明の3次元積層造形用キットを用いて得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
また、3次元積層造形用キットであれば、酸触媒としてスルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸を用いる必要がない。よって、本発明の3次元積層造形用キットを用いて得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しにくい観点からも、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
さらに、本発明の3次元積層造形用キットを用いて金属成形体を製造する場合において、工程(c)の後に脱脂工程及び焼結工程を行っても、熱分解ガスや硫黄酸化物が発生しにくく、金属成形体の製造過程において作業環境が悪化しにくい。
【0052】
このように、本発明の3次元積層造形用キットを用いれば、注湯時や製造過程における作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる。
しかも、糖類は植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明の3次元積層造形用キットを用いればカーボンニュートラルな3次元積層造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
加えて、本発明の3次元積層造形用キットを用いれば、複雑な形状はもちろんのこと、中空の3次元積層造形物を容易に製造できる。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた材料を以下に示す。また、各種測定方法は以下の通りである。
【0054】
[測定・評価方法]
<曲げ強さの測定>
各実施例および比較例で得られたテストピースの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0055】
<取り出しやすさの評価>
テストピースの作製において、非印刷部分の耐火性粒状材料を除去して3次元積層造形物(テストピース)を取り出す際の取り出しやすさについて、以下の評価基準にて評価した。
<<評価基準>>
I:刷毛を用いてテストピースの表面をなぞる程度で、非印刷部分の耐火性粒状材料を容易に除去することができる。
II:ブラシを用いてテストピースの表面を擦ることで、非印刷部分の耐火性粒状材料を除去することができる。
III:非印刷部分の耐火性粒状材料を除去できず、テストピースを取り出すことが困難である。
【0056】
[実施例1]
溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を目開き212μmの篩に通過させ、篩を通過したものを耐火性粒状材料として用いた。
糖類としてマルトースと、多価カルボン酸類としてクエン酸と、水とを質量比が糖類:多価カルボン酸類:水=10:10:80となるように混合して溶液(β1)を調製し、これをバインダの溶液として用いた。
溶液(β1)について、25℃におけるpH、25℃における粘度、及び25℃における比重を測定した。結果を表1に示す。なお、pHはpHメータを用い、25℃の条件で測定した。粘度は、B型粘度計を用い、ローターの回転数60rpm、測定温度25℃の条件で測定した。ローターとしては、1号ローターを用いた。比重は、JIS Z 8804:2012における「液体の密度及び比重の測定方法」に準じて測定した。
【0057】
(テストピースの作製)
印刷造形法を用いた3次元積層造形装置(3D Systems社製、製品名「ZPrinter 310 Plus」)を用い、リコータを有するブレード機構により耐火性粒状材料を厚さが200μmとなるように、3次元積層造形装置に設置された金属ケース(縦210mm、横260mm、高さ150mm)の底面(造形テーブル)に積層した(工程(a))。
次いで、積層した耐火性粒状材料の上に、3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッドを走査させて、溶液(β1)を印刷した(工程(b1))。溶液(β1)を印刷した後、金属ケースの造形テーブルを一層分(200μm)降下させ、先と同様にして耐火性粒状材料を積層し(工程(a))、その上に溶液(β1)を印刷した(工程(b1))。これら工程(a)と工程(b1)を複数回、繰り返し行った。
最後の工程(b1)の後、3時間経過した後に、3次元積層造形物を耐火性粒状材料の粉末の中で埋もれた状態で金属ケースより取り出し、乾燥機内にて200℃で1時間加熱処理した(工程(c))。室温(25℃)まで放冷後、溶液(β1)の非印刷部分の耐火性粒状材料を除去し、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体状の3次元積層造形物を取り出し、これをテストピースとした。テストピースは同時に9個作製した。
テストピースを取り出す際の取り出しやすさを評価した。結果を表1に示す。
【0058】
次いで、放冷後の9個のテストピースの曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
また、曲げ強さを測定した後のテストピースを用いて、以下のようにして耐火性粒状材料100質量部に対するバインダの添加量(糖類及び多価カルボン酸類の合計量)を求めた。結果を表2に示す。
【0059】
(バインダの添加量の算出)
テストピースをヤスリで粉砕し、粉砕物20gをるつぼに採取した。粉砕物をるつぼに入れた状態で、105℃で1時間乾燥し、粉砕物中の水分を除去し、粉砕物の重量を測定した。次いで、水分を除去した後の粉砕物を800℃で3時間、加熱処理した。放冷後、粉砕物の重量を測定し、下記式(1)よりテストピースの強熱減量を求めた。結果を表1に示す。
強熱減量[%]=(800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]-800℃で加熱処理した後の粉砕物の重量[g])/800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]×100 ・・・・(1)
【0060】
別途、耐火性粒状材料100質量部に対して、テストピースの作製に用いた溶液(β1)と同じ種類の溶液(β1)を2.00質量部、3.00質量部又は4.00質量部添加して混練砂を作製した。
得られた混練砂を200℃で1時間、加熱処理し、硬化させた。放冷後、硬化した混練砂をヤスリで粉砕し、粉砕物20gをるつぼに採取した。粉砕物をるつぼに入れた状態で、105℃で1時間乾燥し、粉砕物中の水分を除去し、粉砕物の重量を測定した。次いで、水分を除去した後の粉砕物を800℃で3時間、加熱処理した。放冷後、粉砕物の重量を測定し、下記式(2)より強熱減量を求め、強熱減量を縦軸(y)、溶液(β1)の添加量を横軸(x)にとって、検量線を作製した。
強熱減量[%]=(800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]-800℃で加熱処理した後の粉砕物の重量[g])/800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]×100 ・・・・(2)
【0061】
作製した検量線を用い、先に求めたテストピースの強熱減量の結果から、テストピースにおける耐火性粒状材料100質量部に対する溶液(β1)の添加量を求め、これを耐火性粒状材料100質量部に対する溶液(β1)の添加量に換算した。結果を表1に示す。
また、算出した溶液(β1)の添加量と溶液(β1)中の糖類及び多価カルボン酸類の濃度から、耐火性粒状材料100質量部に対するバインダの純分換算での添加量を求めた。結果を表1に示す。本実施例において、このバインダの添加量は、バインダを印刷する際の、その印刷領域における1層分の耐火性粒状材料の質量を100質量部に対するバインダの純分換算での塗布量(糖類及び多価カルボン酸類の合計量)である。
【0062】
[実施例2~8]
表1、2に示す種類の耐火性粒状材料を用い、かつ、表1、2に示す配合組成となるように調製した溶液(β1)を用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの取り出しやすさを評価した。結果を表1、2に示す。
得られたテストピースについて、実施例1と同様にして曲げ強さを測定した。また実施例1と同様にしてバインダの添加量を求めた。これらの結果を表1、2に示す。
なお、実施例6で用いた耐火性粒状材料は、珪砂(三菱商事建材株式会社製、「フラタリーMS-60」、平均粒子径150μm)を目開き212μmの篩に通過させ、篩を通過したものである。
【0063】
[比較例1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
130℃に加熱した耐火性粒状材料100質量部に対して、濃度50質量%のクエン酸水溶液を1質量部(クエン酸の純分換算で0.5質量部)添加し、3分間撹拌した後に排砂し、室温(25℃)まで冷却後、目開き212μmの篩を通過させ、篩を通過したものを被覆材料(被覆砂)として回収した。
別途、マルトースと安息香酸ナトリウム(防腐剤)と水とを質量比がマルトース:安息香酸ナトリウム:水=20:0.5:79.5となるように混合し、溶液(β2)を調製し、これを工程(b)で用いる射出液とした。溶液(β2)について、実施例1と同様にして25℃におけるpH、25℃における粘度、及び25℃における比重を測定した。結果を表3に示す。
【0064】
耐火性粒状材料の代わりに被覆材料(被覆砂)を用い、かつ、溶液(β1)の代わりに溶液(β2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの取り出しやすさを評価した。結果を表3に示す。
得られたテストピースについて、実施例1と同様にして曲げ強さを測定した。また実施例1と同様にしてバインダの添加量を求めた。これらの結果を表3に示す。
なお、比較例1におけるバインダの添加量は、糖類であるマルトースの添加量である。
【0065】
[比較例2]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
150℃に加熱した耐火性粒状材料100質量部に対して、濃度50質量%のマルトース水溶液を2質量部(マルトースの純分換算で1質量部)添加し、5分間撹拌してマルトース水溶液の溶媒である水を揮発させた。次いで、ステアリン酸カルシウム0.3質量部を添加して1分間撹拌した後に排砂し、室温(25℃)まで冷却後、目開き212μmの篩を通過させ、篩を通過したものを被覆材料(被覆砂)として回収した。
別途、エチレングリコール(EG)と水とを質量比がEG:水=5:95となるように混合し、溶液(β4)を調製し、これを工程(b)で用いる射出液とした。溶液(β4)について、実施例1と同様にして25℃におけるpH、25℃における粘度、及び25℃における比重を測定した。結果を表3に示す。
【0066】
耐火性粒状材料の代わりに被覆材料(被覆砂)を用い、かつ、溶液(β1)の代わりに溶液(β4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの取り出しやすさを評価した。結果を表3に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1、2の結果から明らかなように、各実施例の場合、テストピース(3次元積層造形物)を容易に取り出すことができた。また、各実施例で得られたテストピースは、曲げ強さが高かった。
また、各実施例で得られたテストピースは、糖類と多価カルボン酸類とを具備するバインダを用いていることから、注湯時の温度まで加熱しても亜硫酸ガス等は発生せず、作業環境が悪化しにくい。
【0071】
一方、表3の結果から明らかなように、比較例1の場合、テストピースの曲げ強さは高いが、テストピースを取り出す際に各実施例の場合よりも強く擦る必要があった。
比較例2の場合、加熱処理(工程(c))後に非印刷領域も固まりテストピースを取り出すことができなかった。そのため、曲げ強さ等を測定することができなかった。