(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046064
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】呼吸訓練システム、呼吸訓練方法および呼吸訓練プログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240327BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20240327BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20240327BHJP
G16H 20/00 20180101ALI20240327BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 Z
A61B5/113
A61B5/08
G16H20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151224
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】510126379
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 圭介
(72)【発明者】
【氏名】豊原 尚実
(72)【発明者】
【氏名】蓑原 伸一
(72)【発明者】
【氏名】下野 義章
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌彦
【テーマコード(参考)】
4C038
4C082
5L099
【Fターム(参考)】
4C038SS00
4C038ST00
4C038ST01
4C038SV01
4C038SX08
4C038SX09
4C038VA04
4C038VA16
4C038VB28
4C038VB33
4C038VB40
4C038VC20
4C082AC04
4C082AE01
4C082AJ07
4C082AJ08
4C082AN10
4C082AP08
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を基に体内の動きを可視化して呼吸訓練を効果的に行うことができる呼吸訓練技術を提供する。
【解決手段】呼吸訓練システム1は、訓練用端末5と呼吸情報処理装置3とを備え、呼吸情報処理装置3が、それぞれの時点の呼吸状態の特徴量を計算し、呼吸情報処理装置3が、それぞれの訓練用画像70を、対応する呼吸状態の特徴量に紐づけた訓練用情報を生成し、訓練用端末5が、呼吸情報処理装置3から訓練用情報を取得し、訓練用端末5が、訓練用デバイス6を用いて患者Pの呼吸状態を取得し、訓練用端末5が、訓練用デバイス6で取得した呼吸状態の特徴量を計算し、訓練用端末5が、自身が計算した特徴量に紐づけられた訓練用画像70を画面に表示する、ように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射して治療を行う治療施設以外の場所で患者の呼吸の訓練を行う訓練用端末と、
治療計画の策定時に訓練用情報を生成する呼吸情報処理装置と、
を備え、
前記呼吸情報処理装置が、前記患者の呼吸状態を取得すると同時に、前記患者の体内を写した断層撮影画像またはX線画像の少なくとも一方を含む複数の訓練用画像であって、前記呼吸状態により時系列順に変化するそれぞれの時点の前記訓練用画像を取得し、
前記呼吸情報処理装置が、それぞれの時点の前記呼吸状態の特徴量を計算し、
前記呼吸情報処理装置が、それぞれの前記訓練用画像を、対応する前記呼吸状態の前記特徴量に紐づけた前記訓練用情報を生成し、
前記訓練用端末が、前記呼吸情報処理装置から前記訓練用情報を取得し、
前記訓練用端末が、訓練用デバイスを用いて前記患者の前記呼吸状態を取得し、
前記訓練用端末が、前記訓練用デバイスで取得した前記呼吸状態の前記特徴量を計算し、
前記訓練用端末が、自身が計算した前記特徴量に紐づけられた前記訓練用画像を画面に表示する、
ように構成されている、
呼吸訓練システム。
【請求項2】
前記呼吸情報処理装置が、前記訓練用画像に対して、精細化または明確化の少なくとも一方の処理を行い、前記訓練用情報を生成する、
ように構成されている、
請求項1に記載の呼吸訓練システム。
【請求項3】
前記訓練用端末が、
複数の前記訓練用画像を用いて生成され、前記治療計画で作成された前記訓練の目標である前記呼吸状態を示す目標動画と、
複数の前記訓練用画像を用いて生成され、前記訓練用デバイスで取得した前記呼吸状態を示す現状動画と、
を並べて画面に表示する、
ように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の呼吸訓練システム。
【請求項4】
前記訓練用端末が、前記治療計画で設定される前記放射線が照射される照射領域を示すマークを、腫瘍が写る前記訓練用画像に重ねて画面に表示する、
ように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の呼吸訓練システム。
【請求項5】
前記訓練用デバイスは、
歪みセンサと、
前記患者の胸部または腹部の少なくとも一方に前記歪みセンサを装着するための装着具と、
を備える、
請求項1または請求項2に記載の呼吸訓練システム。
【請求項6】
放射線を照射して治療を行う治療施設以外の場所で患者の呼吸の訓練を行う訓練用端末と、
治療計画の策定時に訓練用情報を生成する呼吸情報処理装置と、
を用いて行う方法であり、
前記呼吸情報処理装置が、前記患者の呼吸状態を取得すると同時に、前記患者の体内を写した断層撮影画像またはX線画像の少なくとも一方を含む複数の訓練用画像であって、前記呼吸状態により時系列順に変化するそれぞれの時点の前記訓練用画像を取得し、
前記呼吸情報処理装置が、それぞれの時点の前記呼吸状態の特徴量を計算し、
前記呼吸情報処理装置が、それぞれの前記訓練用画像を、対応する前記呼吸状態の前記特徴量に紐づけた前記訓練用情報を生成し、
前記訓練用端末が、前記呼吸情報処理装置から前記訓練用情報を取得し、
前記訓練用端末が、訓練用デバイスを用いて前記患者の前記呼吸状態を取得し、
前記訓練用端末が、前記訓練用デバイスで取得した前記呼吸状態の前記特徴量を計算し、
前記訓練用端末が、自身が計算した前記特徴量に紐づけられた前記訓練用画像を画面に表示する、
呼吸訓練方法。
【請求項7】
放射線を照射して治療を行う治療施設以外の場所で患者の呼吸の訓練を行う訓練用端末と、
治療計画の策定時に訓練用情報を生成する呼吸情報処理装置と、
を備える呼吸訓練システムに用いるものであり、
前記呼吸情報処理装置が、
前記患者の呼吸状態を取得すると同時に、前記患者の体内を写した断層撮影画像またはX線画像の少なくとも一方を含む複数の訓練用画像であって、前記呼吸状態により時系列順に変化するそれぞれの時点の前記訓練用画像を取得し、
それぞれの時点の前記呼吸状態の特徴量を計算し、
それぞれの前記訓練用画像を、対応する前記呼吸状態の前記特徴量に紐づけた前記訓練用情報を生成する、
ように構成されており、
前記訓練用端末を制御するコンピュータに、
前記呼吸情報処理装置から前記訓練用情報を取得する処理と、
訓練用デバイスを用いて前記患者の前記呼吸状態を取得する処理と、
前記訓練用デバイスで取得した前記呼吸状態の前記特徴量を計算する処理と、
自身が計算した前記特徴量に紐づけられた前記訓練用画像を画面に表示する処理と、
を実行させる、
呼吸訓練プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、呼吸訓練技術に関する。
【背景技術】
【0002】
重粒子線などの放射線治療ビームを患者に照射する治療装置がある。この治療装置では、治療の対象であるがん標的に正確に治療ビームを照射する手法が用いられている。しかし、がん標的は、呼吸、心拍、臓器の動きなどによって移動する場合がある。これは移動性標的という名称で呼ばれることがある。この移動性標的に治療ビームを照射する場合、患者の呼吸位相と同期させて照射する必要がある。特に、呼吸に起因する移動性標的の動きは、大きいため、がん標的に治療ビームを照射するために特別な手法が開発されている。その手法としては、患者に外部センサを配置し、この外部センサの出力値により呼吸位相を取得する外部呼吸同期と、X線などで患者の内部の透視画像を取得し、呼吸位相を把握する内部呼吸同期がある。
【0003】
いずれの手法も治療前に患者の透視画像を複数回撮影し、患者のがん標的の画像パターンから、治療ビームを照射する範囲、治療ビームの照射の方向、治療ビームの照射のタイミング、照射線量が設定される。これは治療計画と呼ばれている。ここで、外部呼吸同期を行う場合は、治療計画の策定時に、患者の透視画像と外部センサの出力値の関係を把握し、外部センサの出力値に閾値を設定する。そして、治療時には、患者に配置した外部センサの出力値が閾値内に入った場合に治療ビームを照射する。一方、内部呼吸同期を行う場合は、治療中に撮影される患者の透視画像から、がん標的の位置を特定し、予め決められた範囲内に、がん標的が移動した場合に、治療ビームを照射する。
【0004】
いずれの手法も治療計画の策定に日数を要する。このため、患者に対して初めて治療ビームを照射する時期は、治療計画の策定のための透視画像の撮影日から数日後になる。ここで、治療ビームの照射は、がんの種類などに応じて決められた照射線量を数回(複数の日)に分けて行う。例えば、前立腺のがん治療では12回(12日)ほどに分けて行う。このため、治療計画の策定から治療完了まで、患者は通院しながら治療するのが一般的である。
【0005】
治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現することは、移動性標的に正確に治療ビームを照射するために極めて重要なことである。しかし、治療計画の策定から実際の治療開始まで、さらに治療開始から治療完了までに、数日から数ヶ月の時間が経過することがある。このため、治療計画時の呼吸を治療時に再現することが困難な場合がある。さらに治療計画時の呼吸の再現をどのようにして行うのか、その手法が必要である。また、呼吸の重要性を患者が理解し、呼吸の呼吸をどのようにすれば良いのかを患者に認識させ、積極的に治療に協力してもらえるようにすることが粒子線によるがん治療にとって重要である。
【0006】
特に、病院などの治療施設以外の遠隔地、例えば、患者の自宅などで治療計画時の呼吸状態を再現する訓練を行うことが有効である。ここで、患者が自宅などで所定の訓練用デバイスを用いて呼吸訓練を行うことが求められている。この訓練の際に、患者の視覚または聴覚などを用いて、目標とする呼吸波形を認識させ、呼吸を再現する訓練を行うことが考えられている。しかし、実際の治療では、がん標的の各深さの部分を2次元面に投影した所謂スライス面と呼ばれる画像上に現れるがん標的の断面を塗り潰すように治療ビームを照射する。つまり、呼吸波形は補完的な情報に過ぎず、呼吸波形により実際のがん標的がどのように動いているのかを、患者に認識させ、積極的に患者の協力を得ることが、放射線治療にとって最も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を基に体内の動きを可視化して呼吸訓練を効果的に行うことができる呼吸訓練技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る呼吸訓練システムは、放射線を照射して治療を行う治療施設以外の場所で患者の呼吸の訓練を行う訓練用端末と、治療計画の策定時に訓練用情報を生成する呼吸情報処理装置と、を備え、前記呼吸情報処理装置が、前記患者の呼吸状態を取得すると同時に、前記患者の体内を写した断層撮影画像またはX線画像の少なくとも一方を含む複数の訓練用画像であって、前記呼吸状態により時系列順に変化するそれぞれの時点の前記訓練用画像を取得し、前記呼吸情報処理装置が、それぞれの時点の前記呼吸状態の特徴量を計算し、前記呼吸情報処理装置が、それぞれの前記訓練用画像を、対応する前記呼吸状態の前記特徴量に紐づけた前記訓練用情報を生成し、前記訓練用端末が、前記呼吸情報処理装置から前記訓練用情報を取得し、前記訓練用端末が、訓練用デバイスを用いて前記患者の前記呼吸状態を取得し、前記訓練用端末が、前記訓練用デバイスで取得した前記呼吸状態の前記特徴量を計算し、前記訓練用端末が、自身が計算した前記特徴量に紐づけられた前記訓練用画像を画面に表示する、ように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を基に体内の動きを可視化して呼吸訓練を効果的に行うことができる呼吸訓練技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】最大呼気の状態の患者の体内を写したCT画像を示す図。
【
図6】最大吸気の状態の患者の体内を写したCT画像を示す図。
【
図7】訓練用端末のディスプレイの表示態様を示す画面図。
【
図8】管理サーバで実行される訓練用情報生成処理を示すフローチャート。
【
図9】訓練用端末で実行される呼吸訓練処理を示すフローチャート。
【
図10】第2実施形態の管理サーバを示すブロック図。
【
図11】訓練用端末のディスプレイの表示態様を示す画面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、呼吸訓練システム、呼吸訓練方法および呼吸訓練プログラムの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図6を用いて説明する。
【0013】
図1の符号1は、本実施形態の呼吸訓練システムである。この呼吸訓練システム1は、粒子線治療装置2で治療を受ける患者Pが、呼吸の訓練を行うためのものである。特に、病院などの治療施設以外の場所、例えば、自宅または療養中の居所となるホテルなどで、患者Pが呼吸の訓練を行えるようにする。なお、治療施設の近傍に設けられている入院施設で訓練を行っても良い。以下の説明では、患者Pの自宅で訓練を行う形態を例示する。
【0014】
呼吸訓練システム1は、管理サーバ3と管理用端末4と訓練用端末5と訓練用デバイス6とを備える。なお、本実施形態の呼吸情報処理装置は、管理サーバ3で構成される。また、呼吸情報処理装置には、管理サーバ3とともに管理用端末4が含まれていても良い。
【0015】
管理サーバ3と管理用端末4と訓練用端末5は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の呼吸訓練方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0016】
治療施設には、粒子線治療装置2と管理サーバ3と管理用端末4が設けられている。管理サーバ3と管理用端末4は、ローカルエリアネットワーク7により互いに接続され、情報の送受信が可能となっている。さらに、管理サーバ3と管理用端末4は、ローカルエリアネットワーク7を介してインターネット8に接続されている。
【0017】
自宅には、訓練用端末5が設けられている。訓練用端末5は、インターネット8に接続されている。管理サーバ3と管理用端末4は、訓練用端末5に対してインターネット8を介して情報の送受信が可能となっている。
【0018】
管理用端末4は、治療施設に居る指導者Cにより扱われるものである。指導者Cは、患者Pの呼吸の訓練を指導する者である。例えば、医師または技師などが指導者Cとなる。また、訓練用端末5は、自宅に居る患者Pにより扱われるものである。
【0019】
まず、粒子線治療装置2について説明する。粒子線治療装置2は、例えば、炭素イオンなどの粒子線ビーム(治療用放射線)を患者Pのがん病巣(腫瘍)に照射して治療を行う。
【0020】
粒子線治療装置2を用いた放射線治療技術は、重粒子線がん治療技術などとも称される。この技術は、がん病巣を炭素イオンがピンポイントで狙い撃ちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる。なお、粒子線とは、放射線のなかでも電子より重いものと定義され、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義される。
【0021】
重粒子線を用いるがん治療では、従来のエックス線、ガンマ線、陽子線を用いたがん治療と比較してがん病巣を殺傷する能力が高く、患者Pの体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有している。そのため、照射回数と副作用を少なくすることができ、治療期間をより短くすることができる。
【0022】
詳細な図示は省略するが、粒子線治療装置2は、イオン発生器と円形加速器とビーム輸送ラインとを備える。ここで、イオン発生器は、荷電粒子である炭素イオンのイオン源を有し、この炭素イオンによって粒子線ビームを生成する。円形加速器は、平面視でリング状を成し、ビーム発生器で生成された粒子線ビームを加速する。ビーム輸送ラインは、円形加速器で加速された粒子線ビームを輸送する。
【0023】
ビーム輸送ラインで導かれた粒子線ビームが患者Pに照射される。なお、粒子線治療装置2は、回転ガントリを備える場合がある。回転ガントリは、ビーム輸送ラインを回転可能な状態で支持するものである。この回転ガントリの内部に、患者Pが配置される。回転ガントリを周方向に回転させることで、患者Pに対する粒子線ビームの照射方向を変更することができる。
【0024】
粒子線ビームは、患者Pの体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度が低下するとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受け、ある一定の速度まで低下すると急激に停止する。この粒子線ビームの停止点はブラッグピークと呼ばれ、高エネルギーが放出される。粒子線治療装置2は、このブラッグピークを患者Pのがん病巣の位置に合わせることにより、正常組織のダメージを抑えつつ、病巣組織のみを死滅させることができる。
【0025】
図1に示すように、粒子線治療装置2は、撮影部10と呼吸監視部11とを備える。これら撮影部10と呼吸監視部11は、治療計画の策定時および治療中に用いられる。
【0026】
撮影部10は、被検体としての患者Pのコンピュータ断層撮影画像(CT画像)またはX線画像の少なくとも一方を撮影するものである。CT画像は、患者Pの体をスライスした状態で写すものである。X線画像は、患者Pの体内を透視した状態で写すものである。これらの画像は、治療の対象である腫瘍の位置を把握するために撮影される。以下の説明では、撮影部10でCT画像を用いる形態を例示する。
【0027】
呼吸監視部11は、撮影部10でCT画像を撮影中の患者Pの呼吸状態を取得する。患者Pの体内の腫瘍の位置は、呼吸運動により移動される。粒子線治療装置2は、患者Pの呼吸の周期を把握することで、腫瘍の位置を把握することができる。呼吸監視部11で呼吸状態を取得するためのセンサは、患者Pの体表面に設置された位置センサでも良いし、患者Pの実際の呼吸量を測定する測定装置などでも良い。つまり、患者Pの呼吸に関わる情報が取得可能なセンサであれば如何なるものでも良い。
【0028】
撮影部10で撮影されたCT画像と、呼吸監視部11で取得された呼吸状態を示す情報は、管理サーバ3に蓄積される。例えば、指導者Cは、管理用端末4に接続されているディスプレイ12に、管理サーバ3に蓄積されたCT画像と呼吸状態を示す情報とを表示させ、治療計画の策定を行うことができる。
【0029】
患者Pが治療を受ける際には、まず、治療施設に出向き、治療計画の策定に必要な様々な検査を受ける。ここで、患者PのCT画像が撮影される。そして、画像にある腫瘍のパターンから、照射する範囲、照射の方向、照射線量が設定される。この治療計画の策定は、日数を要する。そのため、患者Pに対して粒子線ビームの照射を行う治療開始日は、治療計画時にCT画像の撮影をしてから数日後になる。
【0030】
治療計画の策定時に患者PのCT画像を撮影する際に、同時に呼吸状態が取得される。例えば、医師または技師などの指導者Cの指導により、患者Pが深呼吸または呼吸止めなどの呼吸動作を行ったときの呼吸状態が取得される。ここで、指導者Cは、患者Pの呼吸状態が理想的な状態になるように、呼吸の仕方について指導を行う。これらの呼吸に関するデータに基づいて、指導者Cが、腫瘍の種類の特定、腫瘍に対する照射する線量、移動性の標的(腫瘍)に対して呼吸のどの状態で粒子線ビームを照射するか、照射の可否を決定する閾値、照射の方向などを含むビームパラメータを設定する。
【0031】
治療計画の策定から実際の治療開始まで、さらに治療開始から治療完了までに、数日から数ヶ月の時間が経過することがある。最初に患者Pが呼吸の指導を受けた日から期間が経過してしまうと、患者Pが指導者Cから指導された呼吸の仕方を忘れてしまう場合がある。そこで、患者Pは、自宅で訓練用端末5と訓練用デバイス6を用いて呼吸の訓練を行う。
【0032】
訓練用端末5としては、例えば、患者Pが可搬し易いスマートフォンを例示する。なお、訓練用端末5としては、自宅で使い易いタブレット型のコンピュータでも良いし、モバイルコンピュータでも良いし、デスクトップ型またはノートブック型のコンピュータでも良い。
【0033】
呼吸の訓練を行う際に、患者Pは、予め呼吸訓練プログラムを含むアプリケーションを管理サーバ3からダウンロードする。このアプリケーションが訓練用端末5にインストールされる。なお、訓練用端末5は、患者Pの私物でも良いし、治療施設を運営する医療機関から貸与される物でも良い。訓練では、目標とする呼吸の波形が設定され、それに合うように視覚、聴覚などを用いて、呼吸を目標に合わる。
【0034】
訓練用デバイス6は、自宅で患者Pの呼吸状態を取得するものである。この訓練用デバイス6は、医療機関から貸与される。例えば、患者Pは、訓練用デバイス6を装着してベッドで仰向けになっている姿勢(仰臥位)で呼吸の訓練を行う。
【0035】
訓練用デバイス6は、少なくとも1つの歪みセンサ13(呼吸センサ)と、患者Pの胸部または腹部の少なくとも一方に歪みセンサ13を装着するための装着具14とを備える。このようにすれば、歪みセンサ13により患者Pの胸部または腹部の動きを検出し、訓練中の呼吸状態を取得することができる。また、低コストで訓練用デバイス6を提供することができる。さらに、患者Pが持ち運べる大きさと重さを有する訓練用デバイス6とすることができる。
【0036】
なお、歪みセンサ13とは、測定対象物の伸縮に比例して金属(抵抗体)が伸縮し、その抵抗値が変化することを利用して測定対象物の歪みを測定するものであり、所謂電気抵抗式の歪みゲージである。この歪みセンサ13により患者Pの胸部または腹部の動きを測定することができる。例えば、患者Pが息を吸った場合には、胸部と腹部が膨らむ動きとなる。一方、患者Pが息を吐いた場合には、胸部と腹部が縮む動きとなる。この動きが歪みセンサ13で捉えられる。この動きにより呼吸により生じる肺の換気量を推定することができる。なお、胸部または腹部の動きと、肺の換気量との関係は、治療計画の策定時の検査で予め取得される。
【0037】
また、装着具14としては、患者Pが着る腹巻を例示する。胸部または腹部に巻き付けるベルトでも良い。患者Pの皮膚に貼り付ける吸盤でも良い。例えば、歪みセンサ13は、患者Pの脇腹(胴体の側面)辺りに装着させる。さらに、複数の歪みセンサ13を患者Pの体に装着させても良い。例えば、1つの装着具14に対して複数の歪みセンサ13を設けても良い。
【0038】
次に、管理サーバ3と訓練用端末5と訓練用デバイス6のシステム構成を
図2から
図3に示すブロック図を参照して説明する。
【0039】
図2に示すように、呼吸情報処理装置である管理サーバ3は、通信部20と制御部21と記憶部22とを備える。
【0040】
記憶部22は、治療計画および呼吸の訓練に必要な各種情報を記憶する。また、通信部20は、ローカルエリアネットワーク7およびインターネット8などの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。
【0041】
制御部21は、訓練用情報生成部60と指導情報受付部61と訓練用画像取得部63と特徴量計算部64と画像処理部65と照射領域設定部66とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0042】
訓練用情報生成部60は、治療計画の策定時に生成された訓練の目標である呼吸状態を示す情報を含む訓練用情報を生成する。この訓練用情報は、訓練用端末5に送信される。そして、訓練用端末5が、訓練用情報を出力する。
【0043】
指導情報受付部61は、患者Pに対する呼吸の訓練に関する指導を指導者Cから受け付ける。なお、指導者Cは、管理用端末4を用いて指導に関する情報を入力する。管理サーバ3には、管理用端末4を介して指導に関する情報が入力される。なお、指導に関する情報は、指導者Cが作成した文章(テキスト)、指導者Cの音声、指導者Cが作成した画像、治療計画に関する画像、その他のデータなどを含む。ここで、管理サーバ3は、指導者Cから受け付けた指導に関する情報を含む指導情報を訓練用端末5に送信する。そして、訓練用端末5が、指導者Cからの指導に関する情報を出力する。このようにすれば、治療施設以外の場所で患者Pが、指導者Cの指導を受けることができる。
【0044】
記憶部22は、例えば、訓練用情報を記憶する。さらに、記憶部22は、訓練用端末5で取得された患者Pの呼吸状態を示す情報を含む現状情報を記憶する。なお、記憶部22は、指導情報を記憶しても良い。
【0045】
呼吸情報処理装置としての管理サーバ3の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、1つの呼吸情報処理装置が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されても良い。
【0046】
図3に示すように、訓練用端末5は、デバイス接続部30と入力部31とディスプレイ32とスピーカ33と通信部34と制御部35と記憶部36とを備える。
【0047】
制御部35は、波形表示部39と記憶情報消去部40と特徴量計算部48と現状動画生成部49とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。また、記憶部36は、患者Pが呼吸の訓練を行うときに必要な各種情報を記憶する。
【0048】
デバイス接続部30には、訓練用デバイス6が接続される。歪みセンサ13から出力される検出信号は、デバイス接続部30に入力される。これにより制御部35が、歪みセンサ13の測定値を取得することができる。
【0049】
入力部31は、患者P(ユーザ)の操作に応じて所定の情報が入力される。訓練用端末5がスマートフォンまたはタブレット型のコンピュータの場合には、ディスプレイ32と一体化されたタッチパネルが入力部31となっている。なお、入力部31には、マウス、キーボードまたはタッチペンなどの入力装置が含まれる。これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部31に入力される。
【0050】
ディスプレイ32は、画像を表示する。スピーカ33は、音声を出力する。これらのデバイスで所定の情報を出力する出力部が構成される。なお、訓練用端末5がデスクトップ型のコンピュータの場合には、ディスプレイ32およびスピーカ33がコンピュータ本体と別体であっても良い。さらに、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイ32およびスピーカ33に、訓練用端末5から所定の情報を出力しても良い。
【0051】
通信部34は、インターネット8などの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。例えば、通信部34は、管理サーバ3と通信を行う。なお、本実施形態では、訓練用端末5と管理サーバ3がインターネット8を介して互いに接続されているが、その他の態様であっても良い。例えば、訓練用端末5と管理サーバ3がLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されても良い。
【0052】
図7に示すように、治療計画の策定時に指導者Cの指導により取得された患者Pの呼吸状態が、訓練の目標である呼吸状態を示す目標呼吸波形50となっている。この目標呼吸波形50が治療計画の策定時に設定された理想的な呼吸状態である。そして、粒子線治療装置2で治療中に患者Pが、この目標呼吸波形50を再現する必要がある。
【0053】
一方、患者Pが自宅で行う呼吸の訓練を行うときに、訓練用デバイス6で取得された呼吸状態が、現状呼吸波形51となっている。この現状呼吸波形51は、患者Pの現在(訓練時)の呼吸状態である。なお、現状呼吸波形51は、現状情報に含まれている情報であり、訓練用端末5が、管理サーバ3に送信するものである。
【0054】
ここで、呼吸状態とは、例えば、呼吸による肺の換気量の時間的な変化を示している。換気量は、訓練用デバイス6で計測される。また、時間(時刻)は、訓練用端末5に搭載されたリルタイムクロック(RTC)で計測される。例えば、現状情報には、時刻に関する情報と呼吸の波形の周期に関する情報が含まれる。
【0055】
訓練用端末5のディスプレイ32の画面には、現状呼吸波形51と目標呼吸波形50が同時に画面に表示される。このようにすれば、患者Pが、同時に画面に表示される現状呼吸波形51と目標呼吸波形50を比較しながら訓練を行うことができる。例えば、患者Pは、ディスプレイ32の画面を見ながら、現状呼吸波形51と目標呼吸波形50のズレを認識し、訓練用デバイス6で測定中の現状呼吸波形51が、目標呼吸波形50に近づくように、呼吸の訓練を行う。
【0056】
図7の例では、現状呼吸波形51と目標呼吸波形50が互いに重ねられた状態で画面に表示されている。なお、現状呼吸波形51と目標呼吸波形50を上下に並べて画面に表示しても良い。目標呼吸波形50は、訓練用端末5が管理サーバ3から受信した訓練用情報に含まれているものである。また、現状呼吸波形51は、訓練用端末5から管理サーバ3に送信される現状情報に含まれている。
【0057】
このように、訓練用端末5は、訓練用デバイス6で取得した呼吸状態と治療計画で作成された訓練の目標である呼吸状態とを患者Pが認識可能な態様で出力する。このようにすれば、治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を患者Pに認識させて呼吸訓練を効果的に行うことができる
【0058】
なお、訓練用端末5で出力する態様は、スピーカ33から音声を出力する態様でも良い。例えば、訓練用端末5の制御部35が、目標呼吸波形50を参照し、最大呼気のタイミングで「息を吸ってください」という音声を出力し、最大吸気のタイミングで「息を吐いてください」という音声を出力する態様でも良い。患者Pは、音声に従って現状呼吸波形51の最大呼気と最大吸気のタイミングを把握することができ、現状呼吸波形51を目標呼吸波形50に近づけることができる。
【0059】
さらに、管理サーバ3は、訓練用デバイス6で取得した呼吸状態と訓練の目標である呼吸状態とを指導者Cが認識可能な態様で出力する。例えば、管理用端末4のディスプレイ12の画面に、現状呼吸波形51と目標呼吸波形50のグラフ(
図7)が表示される。このようにすれば、患者Pから離れた治療施設などに居る指導者Cが、患者Pの呼吸状態を把握することができる。また、患者Pの呼吸状態の改善状況が、指導者Cなどの治療関係者に周知されるとともに、患者Pへの指導または激励などに活用することができる。
【0060】
第1実施形態では、訓練用端末5のディスプレイ32に呼吸波形50,51を表示させることで、患者Pが、自身の呼吸状態を認識できるようにしている。さらに、第1実施形態では、ディスプレイ32に患者Pの体内を写したCT画像(またはX線画像)を表示させることで、患者Pが、自身の呼吸状態を認識できるようにする。
【0061】
第1実施形態では、まず、治療施設で患者Pの訓練用画像70(
図5,
図6)が取得される。例えば、治療計画の策定時に、呼吸監視部11(
図1)で患者Pの呼吸状態が取得されると同時に、撮影部10(
図1)で患者Pの体内を写したCT画像(またはX線画像)が取得される。これが訓練用画像70となっている。そして、複数の訓練用画像70に基づいて、患者Pの体内の状態が時系列順に変化する動画が生成される。この動画が訓練用端末5のディスプレイ32に表示される。訓練用画像70には、患者Pの臓器71と腫瘍72(がん標的)が写っている(
図5,
図6)。患者Pは、呼吸に応じて腫瘍72が動く様子を観察することができる。
【0062】
図4に示すように、呼吸監視部11(
図1)で患者Pの呼吸波形50,51において、それぞれの時点T1~T3に対応する訓練用画像70(
図5,
図6)が撮影される。例えば、最大呼気の時点T1と、最大呼気と最大吸気の途中の時点T2と、最大吸気の時点T3の訓練用画像70が取得される。実際には、さらに細かい時間間隔で訓練用画像70が撮影される。
【0063】
また、呼吸波形50,51において、それぞれの時点T1~T3に対応する特徴量R1~R3が計算される。例えば、呼吸の速さが一般の人に比べて早いまたは遅いなどの時間的な特徴は、呼吸の周期という特徴で記録される。また、呼吸の大きさは、呼吸の振幅という特徴で記録される。ここで、患者Pの呼吸波形50,51の特徴量R1~R3が計算され、その特徴量R1~R3が生じた時点T1~T3の訓練用画像70との紐づけが行われる。
【0064】
簡易で有効な特徴の設定方法を例示する。例えば、患者Pが息を吐き切った状態(最大呼気)を基底として原点がセットされる。この原点から患者Pが吸気して息を吸い切った状態(最大吸気)までの患者Pの体表面の空間的な座標の動き(空間距離)を、呼吸監視部11(
図1)により取得する。そして、特徴量R1~R3の計算が行われる。計算の一例としては、患者Pの体表面の動きをベクトルで表示した場合が最も分かり易い。基底の状態を始点として、呼吸監視部11により得た体表面の動きは、空間位置を表すベクトルr(r,t)で表わされる。ここで、tは同期時間である。なお、訓練用端末5で特徴量R1~R3の計算を行う場合は、呼吸監視部11の替わりに訓練用デバイス6(
図1)を用いて、体表面の動き(空間距離)が推定される。
【0065】
それぞれの訓練用画像70(CT画像またはX線画像)は、呼吸波形50,51と同期して記録されているため、この同期時間tを基にして、rという基底状態からの体表面の空間距離が判定され、体表面の位置という特徴量R1~R3で紐づけられる。
【0066】
即ち、最大呼気から最大吸気までの患者Pの体表面のそれぞれの空間距離に対応して、それぞれの訓練用画像70が紐づけられる。なお、最大呼気から最大吸気までの例に説明したが、最大吸気から最大呼気までにおいても、同様に、体表面の位置と訓練用画像70は、同期時間tを介して体表面の空間位置という特徴で紐づけられる。
【0067】
なお、これら訓練用画像70は、管理サーバ3から訓練用端末5に送信される。なお、医療用画像である訓練用画像70は、そのデータ容量が大きいため、送信に際してリサイジングまたは圧縮されることがあり得る。
【0068】
なお、理解を助けるために、患者Pの体表面の位置の変化を、最大呼気からの空間距離という例で説明したが、その他の態様であっても良い。例えば、体表面の変化率(位置の時間の1次微分)、体表面の加速度(位置の時間の2次微分)、呼吸波形50,51の形状(振幅と周期の比率の大小)、または、異常な呼吸波形50,51などの特徴を示すものであれば、如何なるものであっても、特徴量R1~R3として訓練用画像70に紐づけることができる。
【0069】
図5および
図6に示すように、最大呼気の時点の腫瘍72の位置が、照射領域の位置として設定される。この照射領域を示すマーク73が、腫瘍72が写る訓練用画像70に重ねて画面に表示される。例えば、円形のマーク73が表示される。このようにすれば、呼吸とともに動く腫瘍72の部分が、照射領域の位置に重なるように、患者Pが呼吸の訓練を行うことができる。
【0070】
例えば、
図5は、最大呼気の状態を示しており、腫瘍72の部分がマーク73に重なっている。一方、
図6は、最大吸気の状態を示しており、腫瘍72の部分がマーク73からずれている。
【0071】
図7に示すように、第1実施形態では、呼吸波形50,51と訓練用画像70により構成される現状の体内の様子を写した現状動画74が並べて表示される。患者Pは、呼吸波形50,51を参照しつつ、適切なタイミングで腫瘍72の部分がマーク73に重なるように呼吸を行うように訓練する。
【0072】
次に、管理サーバ3の制御部21が実行する訓練用情報生成処理について
図8のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0073】
まず、ステップS1において、制御部21の訓練用画像取得部63は、訓練用画像70(
図5,
図6)を取得する。この訓練用画像取得部63は、呼吸状態により時系列順に変化するそれぞれの時点の訓練用画像70を取得する。ここで、制御部21は、訓練用画像70の撮影と同時に、呼吸監視部11により測定された患者Pの呼吸状態を示す情報を取得する。この情報には、呼吸波形50,51が含まれる。
【0074】
ここで、訓練用画像取得部63が取得する訓練用画像70は、最大呼気から最大吸気に至り、再び最大呼気になるまでのそれぞれの時点(時刻)に対応するCT画像(またはX線画像)となっている。なお、患者Pの呼吸状態が理想的な状態のCT画像のみならず、様々な呼吸状態に対応するCT画像が含まれる。例えば、呼吸が乱れている状態のときのCT画像が含まれる。
【0075】
次のステップS2において、制御部21の特徴量計算部64は、呼吸監視部11(
図1)で測定したそれぞれの時点の呼吸状態の特徴量を計算する。
【0076】
次のステップS3において、制御部21は、それぞれの時点の訓練用画像70を、対応する時点の呼吸状態(呼吸波形50,51)の特徴量に紐づける。これらの訓練用画像70は、記憶部22に記憶される。
【0077】
次のステップS4において、制御部21の照射領域設定部66は、治療計画で設定される粒子線ビームが照射される照射領域を設定する。
【0078】
ここで、腫瘍72(がん標的)を含む照射領域が、所定のマージンも含めて設定される。例えば、重粒子線がん治療の場合において、スキャニング照射による治療法では、照射の対象となる腫瘍は、患者Pの体内の奥方向から体表面に向かって約2mmの間隔で設定される。そして、体内の奥方向から体表面に向けて2mmの面間隔で、腫瘍の縦横方向の大きさに合わせて、重粒子線で腫瘍を塗りつぶす手法が用いられる。実際の治療では、腫瘍に対して3次元方向で5mmから10mmのマージンを取った領域PTV(計画標的体積:Planning Target Volume)が照射領域として設定される。照射領域およびマージンは、治療計画の策定時に医師または技師(例えば、指導者C)により策定される。
【0079】
訓練用画像70の照射領域は、PTVにより設定される。照射領域設定部66は、医師また技師により策定された照射領域のデータを取り込む処理を行う。
【0080】
呼吸同期による粒子線ビームの照射において、照射領域は、体内の所定の深さにおける腫瘍72の領域の2次元投影画像に相当する。この照射領域に腫瘍72が入ったタイミングで粒子線ビームが照射される。
【0081】
例えば、訓練用端末5において、患者Pの現時点での呼吸に基づいた訓練用画像70を表示する際に、治療計画で設定された照射領域を示すマーク73が同時表示される。これにより、所定の呼吸状態での照射領域と臓器71の状態を患者Pが認識することができ、呼吸の訓練の効果が高まる。
【0082】
次のステップS5において、制御部21の画像処理部65は、訓練用画像70に対して、精細化または明確化の少なくとも一方の処理を行う。
【0083】
ここで、画像処理の具体的な方法は、臓器71または腫瘍72の部分の画像の細精化でも良いし、コントラストの明確化でも良い。細精化の方法は、例えば、臓器71の輪郭抽出を行うことである。コントラストの明確化の方法は、例えば、2値化処理が挙げられる。なお、その他の方法を用いても良い。
【0084】
訓練用画像70の元となっているCT画像およびX線画像は、一般的な画像と比べて特徴が明確でない場合がある。また、これらの画像は、コントラストが不明瞭な場合がある。このような画像であっても、医師または技師は、画像に写る臓器71と腫瘍72などを認識することができる。しかし、専門的な知識を有していない患者Pは、このような画像から腫瘍72なの動きなどを認識することが困難である。そのため、CT画像またはX線画像をそのまま表示しても、臓器71によっては、患者Pに認識させることが困難な場合がある。そこで、画像処理部65は、訓練用画像70に対して画像処理を行う。このようにすれば、患者Pが、訓練用画像70に写る臓器71または腫瘍72の部分を容易に認識することができる。
【0085】
次のステップS6において、制御部21の訓練用情報生成部60は、特徴量に紐づけられた訓練用画像70を含む訓練用情報を生成する。
【0086】
次のステップS7において、制御部21は、訓練用情報を訓練用端末5に送信する。
【0087】
そして、管理サーバ3の制御部21が訓練用情報生成処理を終了する。以上のステップは、管理サーバ3の制御部21が実行する少なくとも一部の処理であり、他のステップが訓練用情報生成処理に含まれていても良い。
【0088】
次に、訓練用端末5の制御部35が実行する呼吸訓練処理について
図9のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。
【0089】
まず、ステップS11において、制御部35は、管理サーバ3から訓練用情報を受信済であるか否かを判定する。ここで、訓練用情報を受信済である場合(ステップS11でYESの場合)は、ステップS13に進む。一方、訓練用情報を受信済でない場合(ステップS11でNOの場合)は、ステップS12に進む。
【0090】
次のステップS12において、制御部35は、訓練用情報受信処理を実行する。この訓練用情報受信処理において、制御部35は、管理サーバ3に要求信号を送信する。ここで、管理サーバ3は、要求信号の受信に基づいて、訓練用情報を訓練用端末5に送信する。訓練用端末5は、管理サーバ3から訓練用情報を受信し、これを記憶部36に記憶する。そして、ステップS13に進む。
【0091】
ステップS13において、制御部35は、訓練用デバイス6を用いて患者Pの呼吸状態を取得する。例えば、制御部35は、呼吸による換気量を推定する。制御部35は、取得した現状の呼吸状態を現状情報として記憶部36に記憶する。
【0092】
次のステップS14において、制御部35の特徴量計算部48は、訓練用デバイス6で取得した呼吸状態の特徴量を計算する。この特徴量の計算方法は、管理サーバ3における特徴量の計算方法と同一である。なお、訓練用端末5における特徴量の計算方法は、同一の特徴量が計算できるものであれば、管理サーバ3における特徴量の計算方法と異なっていても良い。
【0093】
次のステップS15において、制御部35の現状動画生成部49は、訓練用端末5が、自身が計算した特徴量に紐づけられた訓練用画像70に基づいて現状動画74(
図7)を生成する。この現状動画74は、複数の訓練用画像70を用いて生成され、訓練用デバイス6で取得した呼吸状態を示すものである。
【0094】
ここで、現状動画生成部49は、管理サーバ3から受信した訓練用情報に含まれる複数の訓練用画像70から、特徴量計算部48で計算した特徴量に紐づけられた訓練用画像70を抽出(選択)する。例えば、訓練用端末5は、現状呼吸波形51のそれぞれの時点(時刻)の特徴量を計算し、これらに対応する訓練用画像70を時系列順に並べて現状動画74を生成する。つまり、訓練用端末5は、訓練用画像70のアニメーションを生成する。訓練用デバイス6による呼吸状態の取得と、現状動画74の生成および表示とをリアルタイムで行うことで、患者Pは、現状の呼吸の動きに応じてどのように臓器71および腫瘍72が動くのかを視覚的に認識することができる。
【0095】
次のステップS16において、制御部35は、出力処理を実行する。この出力処理において、例えば、制御部35の波形表示部39は、現状情報に含まれている現状呼吸波形51と訓練用情報に含まれている目標呼吸波形50とを同時に画面に表示する。さらに、制御部35は、現状動画生成部49で生成された現状動画74を画面に表示する。この現状動画74と呼吸波形50,51が画面に同時に表示される。
【0096】
例えば、
図7に示すように、訓練用端末5のディスプレイ32の画面には、目標呼吸波形50と現状呼吸波形51とが重ねて表示される。なお、現状呼吸波形51の現時点の位置を示すライン54を表示しても良い。患者Pは、ライン54を見ながら、将来の呼吸動作の調整を行うことで、現状呼吸波形51を目標呼吸波形50に近づけるようにする。
【0097】
さらに、画面には、患者Pの現時点の体内の様子を写す現状動画74が表示される。例えば、呼吸波形50,51と並べて現状動画74が表示される。これにより患者Pは、呼吸により連続的に変化する特徴量に応じたCT画像を認識することができ、呼吸訓練の意味と呼吸による臓器71および腫瘍72の動きの変化を認識できるようになり、訓練効果が高まる。
【0098】
図9に戻り、次のステップS17において、制御部35は、患者Pが呼吸訓練を終了する操作を行ったか否かを判定する。ここで、呼吸訓練を終了する場合(ステップS17でYESの場合)は、ステップS18に進む。一方、呼吸訓練を終了しない場合(ステップS17でNOの場合)は、ステップS13に戻る。
【0099】
なお、ステップS13からステップS16が繰り返されることで、現状の呼吸状態(例えば、換気量)が時系列順に取得される。繰り返し取得される呼吸状態が時系列順にプロットされることで、現状呼吸波形51が生成される。そして、波形表示部39は、目標呼吸波形50の周期を現状呼吸波形51の周期に同期させた状態で表示する。また、波形表示部39は、時刻とともに、現状呼吸波形51を表示しても良い。
【0100】
ステップS18において、制御部35は、現状情報送信処理を実行する。この現状情報送信処理において、制御部35は、記憶部36に記憶されている現状情報を管理サーバ3に送信する。
【0101】
次のステップS19において、制御部35の記憶情報消去部40は、記憶情報消去処理を実行する。この記憶情報消去処理において、記憶情報消去部40は、記憶部36に記憶されている訓練用情報と現状情報とを消去する。このようにすれば、治療に関わる患者Pの個人情報が、治療施設以外の場所にある訓練用端末5に残らないため、個人情報の漏洩を防止することができる。
【0102】
そして、訓練用端末5の制御部35が呼吸訓練処理を終了する。以上のステップは、訓練用端末5の制御部35が実行する少なくとも一部の処理であり、他のステップが呼吸訓練処理に含まれていても良い。
【0103】
第1実施形態では、患者Pが訓練中に、訓練用端末5が訓練用情報と現状情報を記憶する。現在の通信技術は、目覚ましい進歩を遂げているが、通信環境が必ずしも良くない地域においては、通信量を低減させる必要がある。この第1実施形態では、治療計画の策定時に治療施設で生成した訓練用情報を、最初に訓練用端末5に転送することで、その後の通信量を抑制することができる。
【0104】
なお、治療施設では、呼吸監視部11(
図1)を用いて患者Pの呼吸状態を取得し、自宅では、訓練用デバイス6を用いて患者Pの呼吸状態を取得しているが、その他の態様であっても良い。例えば、治療施設においても、訓練用デバイス6を用いて患者Pの呼吸状態を取得しても良い。つまり、治療施設と自宅で同一の条件で呼吸状態を取得しても良い。また、特徴量の計算も、治療施設と自宅で同一の条件で行っても良い。例えば、訓練用端末5が管理サーバ3にアクセスし、管理サーバ3において、自宅に居る患者Pの呼吸状態の特徴量の計算をしても良い。
【0105】
第1実施形態では、治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を基に体内の臓器71または腫瘍72の動きを可視化して呼吸訓練を効果的に行うことができる。
【0106】
また、照射領域のマーク73を訓練用画像70と重ね合わせて表示することで、どの呼吸動作のときに、腫瘍72が照射領域の入るのかを患者P認識できるようになる。そして、がん標的を含む臓器71と照射との関係を、患者Pが、視覚的に認識し、かつ理解することができる。
【0107】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図10から
図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0108】
図10に示すように、第2実施形態の管理サーバ3の制御部21は、前述した第1実施形態の構成に加えて、目標動画生成部67を備える。この目標動画生成部67は、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0109】
目標動画生成部67は、複数の訓練用画像70を用いて生成され、治療計画で作成された訓練の目標である呼吸状態を示す目標動画75を生成する。
【0110】
管理サーバ3の制御部21は、生成した目標動画75を訓練用情報に含めて訓練用端末5に送信する。
【0111】
図11に示すように、訓練用端末5は、目標動画75と現状動画とを並べて画面に表示する。このようにすれば、患者Pが、目標である呼吸状態の動きを目標動画75で認識し、現状の呼吸状態を改善することができる。
【0112】
第2実施形態では、治療計画の策定時に設定された目標とする呼吸状態と、現時点での酷状態による臓器71および腫瘍72の動きの差異が明確になり、訓練効果が向上する。
【0113】
呼吸訓練システム、呼吸訓練方法および呼吸訓練プログラムを第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0114】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0115】
前述の実施形態の呼吸訓練システム1は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この呼吸訓練システム1は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0116】
なお、前述の実施形態の呼吸訓練システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0117】
また、この呼吸訓練システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この呼吸訓練システム1は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0118】
なお、前述の実施形態では、管理サーバ3が治療施設に設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、管理サーバ3が、治療施設以外の場所であって、クラウドまたは他の施設に設けられても良い。
【0119】
なお、前述の実施形態では、訓練用デバイス6の呼吸センサとして歪みセンサ13を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、患者Pの体表面に設置された位置センサでも良いし、患者Pの実際の呼吸量を測定する測定装置などでも良い。
【0120】
なお、前述の実施形態では、管理サーバ3と訓練用端末5がネットワークを介して情報の送受信が可能となっているが、その他の態様であっても良い。例えば、電波を用いた無線通信、ケーブルを用いた有線通信、可搬型の記憶媒体としてのUSBメモリなどを用いて、管理サーバ3と訓練用端末5の間で情報のやり取りが可能であるものでも良い。
【0121】
なお、前述の実施形態では、重粒子線を用いるがん治療の呼吸訓練を例示したが、その他の態様であっても良い。例えば、エックス線、ガンマ線、陽子線などの他の治療用放射線を用いたがん治療の呼吸訓練に前述の実施形態を適用しても良い。
【0122】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、訓練用端末5が、自身が計算した特徴量に紐づけられた訓練用画像70を画面に表示することにより、治療計画の策定時の呼吸状態を治療時に再現するための呼吸訓練において、呼吸状態を基に体内の動きを可視化して呼吸訓練を効果的に行うことができる。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0124】
1…呼吸訓練システム、2…粒子線治療装置、3…管理サーバ、4…管理用端末、5…訓練用端末、6…訓練用デバイス、7…ローカルエリアネットワーク、8…インターネット、10…撮影部、11…呼吸監視部、12…ディスプレイ、13…歪みセンサ、14…装着具、20…通信部、21…制御部、22…記憶部、30…デバイス接続部、31…入力部、32…ディスプレイ、33…スピーカ、34…通信部、35…制御部、36…記憶部、39…波形表示部、40…記憶情報消去部、48…特徴量計算部、49…現状動画生成部、50…目標呼吸波形、51…現状呼吸波形、54…ライン、60…訓練用情報生成部、61…指導情報受付部、63…訓練用画像取得部、64…特徴量計算部、65…画像処理部、66…照射領域設定部、67…目標動画生成部、70…訓練用画像、71…臓器、72…腫瘍、73…マーク、74…現状動画、75…目標動画、C…指導者、P…患者。