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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004611
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】圧延機および圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 31/02 20060101AFI20240110BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20240110BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B21B31/02 B
B21C51/00 N
B21B38/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104307
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】所 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】畠中 淳
(57)【要約】
【課題】位置検出困難な劣悪環境下で使用されるチョック拘束装置の押出量の状態監視技術を提供する。
【解決手段】被圧延材を挟んで上下に配置される上下一対のワークロールと、前記ワークロールとそれぞれ直接的に接する上下一対の補助ロール、または前記ワークロールに接する上下一対の中間ロールを介してそれぞれに接する上下一対の補助ロールと、前記ワークロール、前記中間ロールおよび前記補助ロールの両端をそれぞれ回転自在に支持する一対のロールチョックと、前記ロールチョックが直接またはウィンドウ構成設備を介して、間隙を設けて取り付けられる一対のハウジングと、を備え、前記ロールチョックを被圧延材の通板方向の入側または出側に向けて押圧するチョック拘束装置と、前記チョック拘束装置の押出量を監視する手段と、を有する、圧延機である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を挟んで上下に配置される上下一対のワークロールと、前記ワークロールとそれぞれ直接的に接する上下一対の補助ロール、または前記ワークロールに接する上下一対の中間ロールを介してそれぞれに接する上下一対の補助ロールと、前記ワークロール、前記中間ロールおよび前記補助ロールの両端をそれぞれ回転自在に支持する一対のロールチョックと、前記ロールチョックが直接またはウィンドウ構成設備を介して、間隙を設けて取り付けられる一対のハウジングと、を備え、
前記ロールチョックを被圧延材の通板方向の入側または出側に向けて押圧するチョック拘束装置と、前記チョック拘束装置の押出量を監視する手段と、を有する、圧延機。
【請求項2】
前記チョック拘束装置が前記ハウジングまたは前記ウィンドウ構成設備の内部に設置された油圧シリンダー式の装置であり、
前記押出量が作動油の流量を積算することにより、ピストンの移動距離で計測される、請求項1に記載の圧延機。
【請求項3】
前記作動油は、前記ハウジングまたは前記ウィンドウ構成設備の内部に設けられた油圧回路を経由して前記油圧シリンダー式の装置に供給され、または、該装置から回収され、
前記作動油の供給・回収経路の途中に作動油の体積流量を監視するセンサを持つ、請求項2に記載の圧延機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の圧延機を用い、圧延時の任意の時点で、前記ロールチョックを前記被圧延材の通板方向の入側または出側に向けて押圧するとともに、計測した前記押出量を所定の値と比較して設備異常を判定する、圧延方法。
【請求項5】
判定した設備異常が前記間隙の増大である場合、アラームを出力するとともに、前記間隙を調整する、請求項4に記載の圧延方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延中にロールチョックを拘束する装置の押出量を監視する技術に関し、その技術を用いた圧延機および圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の被圧延材を圧延する際には、圧延機が用いられる。たとえば図5に示すように、圧延機は、被圧延材を圧延する上下一対のワークロール6a(WR)と、ワークロール6aを支持する上下一対の補助ロール6cとを有する。また、必要に応じて、ワークロール6aと補助ロール6cとの間に、上下一対の中間ロール6b(IMR)が設けられる。補助ロール6cはバックアップロール(BUR)とも称される。
【0003】
図5の設備配置において、圧延機の各種ロール6a、6b、6cは、それぞれの軸線方向の両端を回転自在に支持する軸受けを含むロールチョック7に取り付けられる。そのロールチョック7は、操作側(op側)および駆動側(dr側)に配置した一対のハウジング8に据え付けられる。この際、ロールの交換作業を容易にするために、ロールチョック7とハウジング8のウィンドウ9との間にクリアランスが設けられる。通常ワークロール6aおよび中間ロール6bはロール中心がパスラインPL方向でずらされているため自重や圧延荷重が作用し一方のハウジング8内面、つまりウィンドウ9へ押し付けられる。それによりクリアランス(間隙)が存在していてもロールチョックが安定するよう工夫されている。
【0004】
しかし、上記クリアランスをそのままにした状態で圧延を行うと、圧延材の噛込時や板抜け時はワークロール6aがパスライン方向に加減速の力を受け、ロール本体に慣性力が生じロールチョック7が間隙方向へ振動してしまう。ロールチョック7の振動による衝撃は圧延条件にもよるが数十tf(数百kN)にもなる。そのため設備劣化速度を加速させるだけでなく、ロールギャップの変動により板の蛇行や折込みなどの絞り現象が発生しロールに傷をつけてしまうこともある。そのようなことが起きると予定外にロール替えの作業が発生し、設備稼働率が低下するおそれがある。
【0005】
上記の問題を解決するために導入されたのが、特許文献1に記載のようなチョック拘束装置である。このチョック拘束装置はウィンドウ構成設備であるロール組替装置のオフセット方向とは反対側に配置される。圧延時に油圧シリンダーによってロールチョックをロール組替装置に押付けることにより拘束しロールチョックの振動を抑制する。油圧シリンダーは任意のタイミングで押付と開放を行うことができるので、ロール組替時や圧延中にロールがシフトする場合は開放し、圧延時はロールチョックを拘束するように制御可能である。
【0006】
しかし、上記の油圧シリンダーは圧延機内において故障した場合に設備破損の危険性が大きい。たとえば、油漏れや油圧シリンダー内部の破損によりシリンダーピストンがクリアランス内に突出した状態で故障した場合はロール組替やロールシフトによるロールチョックの動作と干渉しその破損の原因となってしまう。そのため、油圧シリンダーの押付状態、つまり、押出量を把握することは非常に重要な状態監視の項目の一つである。
【0007】
このような油圧シリンダーの状態監視には特許文献2に記載のエンコーダーを用いた位置検出や、特許文献3に記載のベローズダイヤフラムの変位量を測定する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-008311号公報
【特許文献2】特開2013-147291号公報
【特許文献3】特開平04-327316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に記載の油圧シリンダーはウィンドウ構成設備に完全に埋没しており、ロールが挿入されている圧延中はわずか数ミリ程度の間隙内でしかストロークしない。また、圧延時はロールにより物理的に視界が遮られることから定点カメラによる現物監視は困難である。また、圧延機周辺は、油圧駆動設備がひしめく狭隘な取合である。加えて、圧延材が500℃以上の高温である暑熱環境、圧延材のスケールが飛散する粉塵環境、および、ロールの冷却水が常時噴射される湿潤環境が重なった劣悪環境である。したがって、アブソコーダやレーザー、過流式などのセンサ類を設置することも困難である。
【0010】
また、特許文献2や3に記載のシリンダー変位量測定方法はシリンダーの微小なストローク変動による内部流量の測定を可能としており、ストローク量の少ない特許文献1に記載の油圧シリンダーにも有効と考えられる。しかし、両者ともそもそもシリンダーピストン本体のストローク量をエンコーダー等の変位計で測定しているため、変位を物理的に測定できない油圧シリンダーへの適用は困難という問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、位置検出困難な劣悪環境下で使用されるチョック拘束装置の状態監視技術を提供し、その技術を用いた圧延機および圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、圧延機直近ではなく油圧シリンダーの作動油回路上に流量計を設け、往き配管と戻り配管の移動油量を測定および比較することで油圧シリンダー自体を物理的に実測することなく遠隔から油圧シリンダーの状態監視が可能となることを見出し、発明を完成させた。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる圧延機は、被圧延材を挟んで上下に配置される上下一対のワークロールと、前記ワークロールとそれぞれ直接的に接する上下一対の補助ロール、または前記ワークロールに接する上下一対の中間ロールを介してそれぞれに接する上下一対の補助ロールと、前記ワークロール、前記中間ロールおよび前記補助ロールの両端をそれぞれ回転自在に支持する一対のロールチョックと、前記ロールチョックが直接またはウィンドウ構成設備を介して、間隙を設けて取り付けられる一対のハウジングと、を備え、
前記ロールチョックを被圧延材の通板方向の入側または出側に向けて押圧するチョック拘束装置と、前記チョック拘束装置の押出量を監視する手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかる圧延機は、
(a)前記チョック拘束装置が前記ハウジングまたは前記ウィンドウ構成設備の内部に設置された油圧シリンダー式の装置であり、前記押出量が作動油の流量を積算することにより、ピストンの移動距離で計測されること、
(b)前記作動油は、前記ハウジングまたは前記ウィンドウ構成設備の内部に設けられた油圧回路を経由して前記油圧シリンダー式の装置に供給され、または、該装置から回収され、前記作動油の供給・回収経路の途中に作動油の体積流量を監視するセンサを持つこと、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる圧延方法は、上記いずれかの圧延機を用い、圧延時の任意の時点で、前記ロールチョックを前記被圧延材の通板方向の入側または出側に向けて押圧するとともに、計測した前記押出量を所定の値と比較して設備異常を判定することを特徴とする。
【0016】
なお、本発明にかかる圧延方法は、判定した設備異常が前記間隙の増大である場合、アラームを出力するとともに、前記間隙を調整することがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる圧延機および圧延方法によれば、チョック拘束装置の状態を常時監視することで、設備トラブルを未然に防ぐことができる。特に、油圧シリンダーの作動油の流量を監視することでリークトラブルやロールチョックとウィンドウとの間隙の増加を監視し、設備メンテナンスの指針とすることができる。結果として設備稼働率が向上する効果が見込まれるので産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る圧延機の特徴を示す模式図である。
図2】上記実施形態にかかる油圧シリンダーのストロークの状態を示す模式図であって、(a)はロールチョックを拘束する方向への移動の例であり、(b)はロールチョックを開放する方向への移動の例である。
図3】(a)は上記実施形態にかかる油圧シリンダーの押出量と作動油の供給量との関係を示す模式図であり、(b)はロールチョックを押圧して拘束している状態を示し、(c)はロールチョックを押圧することなくシリンダーの最大ストロークを押し出した状態を示す。
図4】上記実施形態における油圧シリンダーを用いたロールチョックやハウジング周辺設備の摩耗検知方法の例を示す模式図であって、(a)は健全な状態を示し、(b)は摩耗が進行した状態を示す。
図5】圧延機のハウジング周辺の設備を示す模式図であって、(a)は圧延機の構造を示し、(b)はウィンドウの管理について示し、(c)は(a)のA部拡大図であって間隙量の調整要領を示す模式図である。
図6】本発明にかかる圧延機を用いて、通板ごとの油圧シリンダーへの作動油の移動量の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0020】
図5(a)は、本発明の一実施形態にかかる6段式圧延機の操作側(op側)のハウジングの構造を示す断面図である。この圧延機では、被圧延材をパスラインPL方向に圧延する上下一対のワークロール6a、6aを備える。ワークロール6a、6aにそれぞれ接する中間ロール6b、6bを備える。中間ロール6b、6bにそれぞれ接する補助ロール6c、6cを備える。これらロールの軸線方向の一端の操作側(op側)にハウジング8が配置される。同様に他端の駆動側(dr側)にもハウジング8が配置される。
【0021】
本実施形態では、それぞれのロールの軸方向両端部はロールチョック7によって回転自在に支持されている。図5(b)は、ハウジング8の内面であるウィンドウ9のパスラインPL方向間隔、つまりウィンドウ間隔WLの管理の概念を示す。それぞれのロールを支持するロールチョック7とウィンドウ9との間には所定のクリアランスを設けている。そのクリアランスには、上下方向に移動するブロック部材を設けて、パスライン方向の間隙をなくし、パスライン方向の移動を規制することもできる。
【0022】
また、図5の例では、圧延機の下半分の中間ロール6bのロールチョック7とウィンドウ9との間にウィンドウ構成設備5としてロール組替用の組替レール5aが設けられている。組替レール5aとロールチョック7との間には所定の間隙が設けられる。この間隙は、ロールの交換作業を容易に行えるようにするために設けられている。具体的に、ロールを組み替える際には、まずワークロール6a、6aを抜き出した後、上側の中間ロール6b及び補助ロール6cをスペーサー等で支えつつ、組替レール5aをシリンダー等によって上昇させる。これにより、下側の中間ロール6b用のロールチョック7の下側においてパスラインPL方向に突出した部分と、組替レール5aの下側において搬送方向に突出した部分とが引っかかりを生じる。そして、下側中間ロール6bが上方へと引き出される。次いで、上方へと引き出された下側中間ロール6bは、通板材の幅方向(紙面の手前方向) に引き抜かれる。このように、下側の中間ロール6bを取り出す際には、組替レール5aを上方へと引き上げ、次いで下側中間ロール6bを幅方向に引き抜くことが必要である。これらの移動を行うために組替レール5aと下側中間ロール6b用のロールチョック7との間に間隙を設けておく必要がある。
【0023】
本実施形態では、図1に示すように、前述のウィンドウ構成設備5とロールチョック7との間隙をなくするために、チョック拘束装置1が設けられる。図1の例では、チョック拘束装置1は油圧シリンダーであって、パスライン方向で出側のウィンドウ構成設備5に埋め込まれている。そして、ロールチョック7をパスラインPL方向で被圧延材の入側のウィンドウ構成設備5に向けて押圧している。それにより、ロールチョック7のパスラインPL方向位置を固定し、通板時にロールチョック7およびロール6にいわゆるガタが生じるのを防止することができる。なお、チョック拘束装置1は、パスラインPL方向で入側のウィンドウ構成設備5に埋め込まれて、ロールチョック7を出側に押し付けて拘束してもよい。
【0024】
本実施形態では、図2に示すようにピストンが往復運動をする油圧シリンダー1はストロークに応じて体積が変動するシリンダーヘッド側油室1aとシリンダーロッド側油室1bとを有する。それぞれの油室1a、1bにウィンドウ構成設備5内の作動油経路を介して接続されたヘッド側油圧配管2aとロッド側油圧配管2bとを設ける。それらの油圧配管2a、2bを介してそれぞれの油室1a、1bに油圧バルブスタンド4から作動油が供給される構造である。油圧配管2a、2bそれぞれにヘッド側流量計3aとロッド側流量計3bとが設置されている。この流量計によりシリンダーストロークに必要な作動油の油量をヘッド側およびロッド側についてそれぞれ検出可能となる。そのため、シリンダー直近にセンサが無くても供給される油量および排出される油量からシリンダーストロークを検出することが可能となる。流量計としては、レーザードップラー式、超音波式などを用いることができる。超音波式であれば、配管材料を選ばないので好ましい。透明配管であれば、レーザードップラー式流量計を非接触で配管工事なく適用できる。
【0025】
図2(a)はシリンダーヘッド側油室1aへ作動油が油圧配管2aを介して供給されピストンが突出方向つまりロールチョック7を拘束する方向へストロークしている状態である。これを状態1と定義する。ロールチョック7とウィンドウ構成設備5とが接触し拘束が完了した時点でストロークが停止し、シリンダーヘッド側油室1aへの作動油の供給量もゼロになる。一方で、シリンダーロッド側油室1bに残存していた作動油はピストンのストローク開始とともに油圧配管2bを介して油圧バルブスタンド4へ排出される。ストロークの停止と同時にシリンダーロッド側油室1bからの排出量もゼロになる。図2(b)はピストンが引き込む方向つまりロールチョック7の開放方向へストロークしている状態である。これを状態2と定義する。シリンダーロッド側油室1bに作動油が供給される一方でシリンダーヘッド側油室1aの作動油は排出される。その開始と停止のタイミングはストロークの開始と停止のタイミングと一致する。よって、油圧シリンダー1のストローク時に油圧配管2aを通る作動油量をヘッド側流量計3aで測定するか、あるいは、油圧配管2bを通る作動油量をロッド側流量計3bで測定することによりシリンダーのストローク量(押出量)を間接的に測定することが可能となる。
【0026】
この時流量計3a、3bで測定されるのは体積流量であるため、移動した作動油の油量(体積)への換算が必要である。前述のように油圧シリンダー1のストロークによる作動油の移動はストロークの開始から完了までに限られる。そのため、ストロークの開始から完了までの時間をt、単位時間当たりの流量をQxとした場合作動油の総移動量つまり油量Vは下記数式1の式(1)の積分で与えられる。
【0027】
【0028】
図3(a)に示すように、ここで得られた油量Vについてヘッド側油量をVa、ロッド側油量をVbと置く。ここでヘッド径をDa、ロッド径をDb、ストローク量をL1とすると下記数式2および3の式(2)および(3)の等式が成り立つ。油量Va、Vbを測定することで式(2)よりヘッド側から、式(3)よりロッド側から、シリンダーストロークLxを計算することが可能である。チョック拘束装置としての油圧シリンダーの押出量をシリンダーストロークLxとおく。
【0029】
【数2】
【数3】
【0030】
そして、図3(c)に示すようにシリンダーの最大ストローク量Lmaxは既知の値である。そこで、最大ストロークした場合の油量をそれぞれVA、VBとすると下記数式4の式(4)より任意のストローク量Lxを算出することができる。Lxを数値化し、たとえば、圧延機の操作者の操作する操作端末の画面へ出力することにより油圧シリンダー1のストロークの常時監視が可能となる。
【0031】
【数4】
【0032】
また、図3(b)にチョック拘束装置としての油圧シリンダー1がロールチョック7を拘束して対面のウィンドウ構成設備5に押して付けている状態を示す。ここで、油圧シリンダーのストロークとミルウィンドウギャップxとは一致している。最大シリンダーストロークLmaxはミルウィンドウギャップxより大きい。したがって、ロールチョック7を正常に拘束した場合の油量をそれぞれヘッド側油量がVxa、ロッド側油量がVxbとした場合、VA>Vxa、VB>Vxbとなる。なお、チョック拘束装置1として、油圧シリンダーに替えて、電動式のアクチュエータであってもよい。その場合、パルスジェネレータなどで回転数や回転角を測定し、押出量を把握することが好ましい。
【0033】
つぎに、本発明の他の実施形態としての圧延方法について説明する。本実施形態では、上記チョック拘束装置1の状態監視手段を用いて、チョック拘束装置の異常を検知する方法を含む。すなわち、圧延時の任意の時点で、ロールチョック7を被圧延材の通板方向(パスラインPL)の入側または出側に向けて押圧するとともに、計測した押出量を所定の値と比較して設備異常を判定する方法も含む。たとえば、圧延時には、チョック拘束装置1によってロールチョック7をロール組替装置5aに押付けることにより拘束しロールチョック7の振動を抑制する。一方、ロール組替時や圧延中にロール6がシフトする場合はロールチョック7を開放する。チョック拘束装置1が上記の油圧シリンダーで構成されているとする。作動油が配管経路上で漏洩しないことを前提とした場合、シリンダーが動作すると上記式(4)から、Va/VA=Vb/VBとなる。VaおよびVbの絶対量によっては動作異常と判断する必要がある。そこで、油量の絶対量を管理する方法として以下の方法から選ぶことができる。
【0034】
(1)閾値による異常検知
シリンダーが正常に作動した場合、シリンダー側およびロッド側の油量Va、VbはそれぞれVxaおよびVxbと等しくなる。状態1でロッドが突出方向に移動するとき、シリンダーがストローク途中で何らかの原因によりロールチョック7に接触しない状態で停止し拘束不良になると、Va<VxaかつVb<Vxbとなる。そこで、拘束異常時の判断油量Vfa(ヘッド側)およびVfb(ロッド側)を閾値として設定する。そして、Va≧VfaかつVb≧Vfbであれば正常と判断し、Va<VfaかつVb<Vfbであれば異常と判断する。また、ロッドを引込方向に移動する状態2のときについても同様である。正常に拘束していた状態からロッドの引き込み時に何らかの原因でストロークが停止し、ストローク後退限まで戻らず途中で停止した場合はVa<VxaかつVb<Vxbとなる。そこで、Va≧VfaかつVb≧Vfbであれば正常、Va<VfaかつVb<Vfbであれば異常と判断する。ここでVfaおよびVfbは各ウィンドウ構成設備の調整精度を考慮した上で明らかな異常値を捉えることを目的として設定することが好ましい。
【0035】
(2)フィードバック値による異常検知
シリンダー動作に使用された絶対油量を元に異常検知をする方法である。状態1で移動したシリンダー側およびロッド側油量をそれぞれVa1およびVb1とし、状態2で移動したシリンダー側およびロッド側油量をそれぞれVa2およびVb2とする。それらを比較し、Va1=Va2かつVb1=Vb2であれば正常、Va1≠Va2かつVb1≠Vb2であれば異常と判断する。シリンダー動作ごとにVa1およびVb1をフィードバック値としてロールチョック7開放時の油量Va2およびVb2と比較する。
【0036】
上記方法(1)は絶対的数値での管理であり、上記方法(2)は相対的数値での管理である。したがって、両者を用いて異常監視することが好ましい。なお、ここでいう異常とは油圧シリンダーがストロークする際にロールチョック7に接触せず、あるいは、ストローク後退限に達していない状態であるにもかかわらず動作が停止することをいう。原因は油圧配管経路内の閉塞による作動油供給の断絶あるいはシリンダー内部の破損による物理的干渉が考えられる。そのような場合、油圧経路内の閉塞の除去や油圧シリンダー1の交換を行う必要がある。
【0037】
さらに本実施形態によればウィンドウ構成設備5とロールチョック7を油圧シリンダー1が直接拘束しているため、ミルウィンドウギャップxの変動をシリンダーストロークの変化から検知することができる。ミルウィンドウギャップxの変動は、ウィンドウ構成設備5およびロールチョック7の摩耗が律速となり進行する。そこで、設備摩耗量に応じてミルウィンドウギャップxも変動する。図4(a)および(b)に示すように設備摩耗量dxはシリンダーストロークの増加量と等しくなるため、ストロークの増加に伴い作動油の移動量も増加する。この増分dVaおよびdVbを管理することでdxひいては設備の摩耗量を常時監視することができる。
【0038】
図6に通板ごとのシリンダーストロークに必要な作動油の油量Vの経時変化を示す。上記で説明したように縦軸を表す油量は、ロールチョックを拘束するシリンダーストローク量に比例し、すなわちミルウィンドウギャップxを表す。ミルウィンドウギャップxが管理値L1と管理許容値L2の間にあれば、圧延機は正常と判断し、通板を行う。ミルウィンドウギャップxが管理許容値L2を超えたとき、アラームを出力するとともに、ミルウィンドウギャップxの調整作業を指示する。これらの動作を制御する制御装置を有することが好ましい。
【0039】
ミルウィンドウギャップxの調整は、たとえば図5(c)のように行うことができる。図5(a)や(b)に示すように、圧延機のハウジング8のウィンドウ9面およびウィンドウ構成設備5にはライナー10が設置されている。ライナー10によってロールチョック7とウィンドウ9面の間の間隙管理が行われている。たとえば、設備摩耗によって、この間隙が許容値を超えて大きくなった場合には、図5(c)に示すように、ハウジングライナー10aや組替レールライナー10bに間隙調整シム11を取り付けて間隙量を調整する。もって、通板安定性を改善する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の圧延機および圧延方法によれば、チョック拘束装置の不具合を早期に発見でき、また、ミルウィンドウギャップを常時監視できるので設備摩耗を把握して、適切に設備管理でき、生産性の阻害を低減できるので産業上有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 油圧シリンダー(チョック拘束装置)
1a シリンダーヘッド側油室(油室)
1b シリンダーロッド側油室(油室)
2a ヘッド側油圧配管(油圧配管)
2b ロッド側油圧配管(油圧配管)
3a ヘッド側流量計(流量計)
3b ロッド側流量計(流量計)
4 油圧バルブスタンド
5 ウィンドウ構成設備
5a 組替レール
6 ロール
6a ワークロール
6b 中間ロール
6c 補助ロール(バックアップロール)
7 ロールチョック
8 ハウジング
9 ウィンドウ
10 ライナー
10a ハウジングライナー
10b 組替レールライナー
11 間隙調整シム
PL パスライン
WL ウィンドウ間隔

図1
図2
図3
図4
図5
図6