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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046125
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
F04B49/06 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151325
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】井口 和幸
【テーマコード(参考)】
3H145
【Fターム(参考)】
3H145AA02
3H145AA24
3H145AA44
3H145BA07
3H145BA30
3H145CA09
3H145CA25
3H145DA05
3H145DA46
3H145EA04
3H145EA17
3H145EA23
3H145EA36
3H145EA46
3H145EA50
3H145GA02
3H145GA15
(57)【要約】
【課題】制限された帯域の通信を用いながら、目的の作動プロファイルに対して充分な応答性と追従性を確保することができる電動ポンプを提供する。
【解決手段】電動ポンプ1は、親コントローラ10からバス11を介して受信される指令に従って駆動される。電動ポンプ1は、目標値取得手段13と追従制御部14とを備える。目標値取得手段13は、電動ポンプ1の制御量または物理量に対する指令である目標値として、電動ポンプ1に配管接続される各クラッチアクチュエータ7,8,9の少なくとも使用条件に従って定められる既定の目標値を受信する。追従制御部14は、前記規定の目標値を受信し前記一定時間経過後に、前記制御量または前記物理量が前記目標値になるように追従制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位制御手段から通信を介して受信される指令に従って駆動される電動ポンプであって、
この電動ポンプの制御量または物理量に対する指令である目標値として、前記電動ポンプに配管接続される作動機器の少なくとも使用条件に従って定められる既定の一連の目標値の中から、一定時間ごとに、一定時間未来の目標値を受信する目標値取得手段と、
前記目標値を受信し前記一定時間経過後に、前記制御量または前記物理量が前記目標値になるように追従制御する追従制御部と、
を備えた電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、前記目標値取得手段は、前記目標値を通信周期に従って周期的に受信し、前記追従制御部は、前記通信周期よりも短い制御周期に従って追従制御する電動ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ポンプにおいて、前記追従制御部は、前記制御周期毎の内部目標値を前記目標値より補間処理で生成し、生成された前記内部目標値に対して追従制御を行う電動ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ポンプにおいて、前記追従制御部は、前記目標値を受信する周期になっても前記目標値が受信できないとき、前記補間処理に基づいて前記内部目標値を予測する電動ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の電動ポンプにおいて、前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、運転を停止する電動ポンプ。
【請求項6】
請求項4に記載の電動ポンプにおいて、前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、所定の条件で運転を継続する電動ポンプ。
【請求項7】
請求項4に記載の電動ポンプにおいて、前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、前記電動ポンプの外部に異常状態であることを通知する異常状態通知手段を有する電動ポンプ。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の電動ポンプにおいて、車両のトランスミッションに設けられる電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両のオートマチックトランスミッション等に適用される電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるオートマチックトランスミッション(以下「AT」と称す)では、変速を行う際には、その内部で油圧を操作し、油圧機構を用いてAT内部のクラッチまたはブレーキを作動する。この油圧源として用いられるオイルポンプには、環境性能要求の高まりにより、電動オイルポンプが用いられる場合が増加している。
【0003】
ATが、スムーズに、かつ、素早く変速を行うためには、内部のクラッチまたはブレーキを作動するシリンダに適切なタイミングで適切な流量を供給する必要がある。そのために、油圧源である電動オイルポンプは、過渡的な作動プロファイルに追従した作動が求められる。このプロファイルはシチュエーションによって変化し、例えば、連続的に変化するモータの回転数として表される。
【0004】
このようなATを制御するコントローラは、ATを統括して制御するトランスミッションコントローラと、油圧を発生する電動オイルポンプとが独立して構成される場合がある。トランスミッションコントローラが電動オイルポンプに対して前述の作動プロファイルを指示するには、通信を介して、トランスミッションコントローラが、例えば、回転数を目標値として連続して送信し、電動オイルポンプが、図6のように、前記目標値に従って追従制御を行い、必要な油圧を発生する。
【0005】
車両内の電子機器同士の通信には一般的にCAN通信が用いられる。このとき、車両内の多くの電子機器が同じ帯域を使って通信するため、トランスミッションコントローラから電動オイルポンプへ目標値を連続して送信する際の周期は、その通信に割り当てることができる帯域により制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表2019-142712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示す従来技術では、フィードバック演算とフィードフォワード演算を用いて、指令値が得られる周期よりも短い周期の内部指令値を生成している。フィードフォワード演算により応答性を向上しているが、内部指令値は過去の指令値からの演算であり、正確さを欠く。
【0008】
親コントローラから、電気信号、光信号などの通信を介して、流量、圧力、回転数などの目標値を連続して受信し、その目標値に追従するようにモータを制御し、オイルなどの液体を吐出する電動ポンプがある。前記通信は、周期的に行われ、前記目標値の変化が、一定の時間間隔を開けて通知される場合がある。前記電動ポンプは、前記目標値に対して、実際の作動状態が、一定の応答時間以内に追従することが求められる場合がある。このとき、前記通信の周期が前記応答時間に対して充分に短い場合には問題にならないが、そうでない場合、通信による目標値の通知の遅れのため、求められる応答時間を満たすことができない問題が発生する。
【0009】
つまり、図7に示すように、電動ポンプが認識する目標値は、通信により通知される度にしか更新されないため、前記時間間隔ごとに階段状に変化する。モータ制御の応答時間を短くして追従性を向上しても、その階段状の目標値に対して追従するため、本来追従させたい目標値に対して追従性が遅れるばかりか、誤差の振れ幅も大きくなってしまう。
【0010】
このような問題の対策として、特許文献1のように、目標値の更新よりも短い周期で、過去の目標値を元に未来の目標値を予測する手法がある。しかし、過去の目標値の変化と関係なく目標値が変化したとき、過去を参照した期間の分だけ、目標値の予測は誤差を含んでしまう。例として、過去3回分の目標値変化量を元に未来の目標値を予測した例を図8に示す。
【0011】
本発明の目的は、制限された帯域の通信を用いながら、目的の作動プロファイルに対して充分な応答性と追従性を確保することができる電動ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電動ポンプ1は、上位制御手段10から通信を介して受信される指令に従って駆動される電動ポンプであって、
この電動ポンプ1の制御量または物理量に対する指令である目標値として、前記電動ポンプ1に配管接続される作動機器7,8,9の少なくとも使用条件に従って定められる既定の一連の目標値の中から、一定時間ごとに、一定時間未来の目標値を受信する目標値取得手段13と、
前記目標値を受信し前記一定時間経過後に、前記制御量または前記物理量が前記目標値になるように追従制御する追従制御部14と、
を備えている。
【0013】
この構成によると、目標値取得手段13は、既定の一連の目標値の中から、一定時間未来の目標値を通信により一定時間ごとに受信する。追従制御部14は、目標値を受信し一定時間経過後に、制御量または物理量が目標値になるように追従制御する。結果として、規定の一連の目標値に対して、通信による遅延なしに、電動ポンプ1を実際に作動させ得る。したがって、制限された帯域の通信を用いながら、目的の作動プロファイルに対して充分な応答性と追従性を確保することができる。
【0014】
前記目標値取得手段13は、前記目標値を通信周期に従って周期的に受信し、前記追従制御部14は、前記通信周期よりも短い制御周期に従って追従制御してもよい。この場合、通信周期に対し制御周期が長いか同一である場合よりも、応答時間を短縮することができる。
【0015】
前記追従制御部14は、前記制御周期毎の内部目標値を前記目標値より補間処理で生成し、生成された前記内部目標値に対して追従制御を行ってもよい。この場合、本来追従させたい目標値に対して、誤差の振れ幅が小さく遅れの短い追従が可能になる。
【0016】
前記追従制御部14は、前記目標値を受信する周期になっても前記目標値が受信できないとき、前記補間処理に基づいて前記内部目標値を予測してもよい。この場合、周期的な目標値の受信が、例えば、一度または数度欠落しただけならば、従来技術と同等程度の応答性を確保することが可能となる。
【0017】
前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、運転を停止してもよい。
前記定められた期間は、設計等によって任意に定める期間であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な期間を求めて定められる。
このように目標値を受信できないような通信異常に対し電動モータの運転を停止する処置を行うことで、電動モータ1の負荷を軽減することができる。
【0018】
前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、所定の条件で運転を継続してもよい。
前記定められた期間、前記所定の条件は、設計等によって任意に定める期間、条件であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な期間、条件を求めて定められる。
このように目標値を受信できないような通信異常に対しても、電動モータ1の運転を継続することで、この電動モータ1に配管接続された作動機器7,8,9の作動性を確保し得る。
【0019】
前記目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、前記電動ポンプの外部に異常状態であることを通知する異常状態通知手段16を有してもよい。
前記定められた期間は、設計等によって任意に定める期間であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な期間を求めて定められる。
この場合、異常状態であることを通知された上位制御手段は、電動モータ等の各機器に対して必要な処理を行うことが可能となる。
【0020】
車両のトランスミッションATに設けられる電動ポンプ1であってもよい。この場合、トランスミッション1の各作動機器7,8,9に対して、電動ポンプ1から吐出したオイルを分配することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電動ポンプは、電動ポンプに配管接続される作動機器の少なくとも使用条件に従って定められる既定の一連の目標値の中から、一定時間未来の目標値を、一定時間ごとに受信する目標値取得手段と、前記規定の目標値を受信し前記一定時間経過後に、前記制御量または前記物理量が前記目標値になるように追従制御する追従制御部とを備える。このため、制限された帯域の通信を用いながら、目的の作動プロファイルに対して充分な応答性と追従性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動ポンプの斜視図である。
図2】同電動ポンプを備えたシステムであるATのブロック図である。
図3】同電動ポンプに配管接続される各クラッチアクチュエータの変速作動の一例を示す図である。
図4】同電動ポンプの制御部の処理を段階的に示すフローチャートである。
図5】同制御部の追従特性を示す図である。
図6】従来例の電動オイルポンプの追従特性を示す図である。
図7】通信周期に対応した追従特性を示す図である。
図8】本来の目標値と受信した目標値と予測した目標値との関係を示す図である。
図9】本発明を用いない通常処理のフローチャートである。
図10】同通常処理の回転数プロファイルの一部とその追従特性を示す図である。
図11】制御の応答時間を短くした場合の処理を示すフローチャートである。
図12】同処理の追従特性を示す図である。
図13】先行技術文献の処理を示すフローチャートである。
図14】同処理の追従特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る電動ポンプを図1ないし図5と共に説明する。電動ポンプは、例えば、車両のオートマチックトランスミッション(略称「AT」)に設けられる。電動ポンプは、ATギヤ等に対して油圧を供給する。電動ポンプは、ATの内部または外縁に搭載されるか、またはATの外部に設けられて配管接続され、ATの作動および潤滑等に用いられるオイルを後述のように吸引して吐出する。前記電動ポンプは、電動オイルポンプとも称される。
【0024】
<電動ポンプの全体構成>
図1の電動ポンプ1は、ATケースの底部に設けられた図示外のオイルパンからオイルを吸引し、このオイルを吐出してAT内の各クラッチアクチュエータにオイルを圧送する。これにより、AT内で必要な油圧が確保される。電動ポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、このポンプ部2を駆動するモータ部3と、センサ類と、モータ部3を制御する制御部4と、これらポンプ部2、モータ部3、センサ類および制御部4を収容するハウジング5とを備える。
【0025】
<ポンプ部>
ポンプ部2は、図示しないが、例えば、ポンプケース、アウターロータおよびインナーロータを有するトロコイドギヤポンプである。前記アウターロータの内径側に前記インナーロータが配置され、前記ポンプケースは、これらインナーロータおよびアウターロータを収容する。
【0026】
<モータ部>
モータ部3は、ポンプ部2と軸方向に並べて配置される。モータ部3として、例えば、3相ブラシレスDCモータが適用される。モータ部3は、ハウジング5に固定される図示外のステータと、このステータの径方向内方に所定のラジアルギャップを介して対向する図示外のロータと、前記ロータを回転自在に支持する出力軸とを有する。ハウジング5には、例えば、軸方向両側に所定間隔を空けて転がり軸受が設けられ、これら転がり軸受に前記出力軸が回転自在に支持されている。
【0027】
<ポンプ部とモータ部との関係等について>
前記出力軸の軸方向一端部は、ポンプ部2のインナーロータが直結されている。換言すれば、出力軸とポンプ部2との間には、減速機が設けられておらず、モータ部3の回転速度とポンプ部2の回転速度は同一である。この明細書において「回転速度」とは、単位時間当たりの回転数と同義である。以後、この単位時間当たりの回転数を、単に「回転数」という場合がある。
モータ部3を回転駆動すると、前記インナーロータが回転することでアウターロータが従動回転する。これにより両歯部間に形成される空間が回転に伴って拡大および縮小する。よって、前記オイルパンに貯留されたオイルが、ポンプ部2に吸入されて所定の油圧を発生させた後、図2のバルブ6を介して作動機器である各クラッチアクチュエータ7,8,9に圧送される。
【0028】
<センサ類>
モータ部3には、前記ロータの回転角を検出する回転角検出手段が設けられてもよい。回転角検出手段は、例えば、前記出力軸の軸方向一端部に固定された図示外のセンサマグネットと、このセンサマグネットに所定のギャップを介して対向する磁気センサとを有する。磁気センサは、例えば、MR素子またはホール素子等から成り図1のハウジング5内に設けられる。図2の制御部4において、前記回転角検出手段で検出された回転角を時間に関して微分することで回転速度(回転数)が算出される。モータ部3の回転数が得られるため、ポンプ部2の実回転数が求められる。
【0029】
モータ部3、または制御部4には、電流を検出する電流検出手段が設けられてもよい。電流検出手段として、例えば、シャント抵抗両端の電圧を検出するアンプから成る電流センサ、またはモータ部3の相電流の通電経路周囲の磁束等を検出する非接触式センサ等を用いることができる。電流検出手段は、例えば、後述するインバータのモータドライバを構成する素子等の端子電圧等を検出する構成としてもよい。
【0030】
制御部4は、マイコンと略称されるマイクロコンピュータおよびインバータを含む。制御部4の上位制御手段である親コントローラ10は、現在および次の変速ポジションと、車両の、例えば、速度、加減速状態等の駆動状態等から定められる目標値を決定し、制御部4に送信する。前記駆動状態を表すセンサ出力は、例えば、親コントローラ10の上位制御手段である車両制御ユニット(略称「VCU」)から、後述するバス11および入出力インターフェース12を介して、親コントローラ10に入力される。
【0031】
<制御部の基本構成>
制御部4のマイコンは、モータ部3の各検出値および制御値等の情報を入出力インターフェース12およびバス11を介して親コントローラ10に出力する機能を有する。前記インバータは、複数のスイッチング素子を含むブリッジ回路で構成される。マイコンは、親コントローラ10から与えられる指令回転数に対応する電流指令を演算しこの電流指令に対し、電流検出手段で検出されるモータ電流を得て追従させる電流フィードバック制御を行う。マイコンは、電流フィードバック制御により電圧指令を算出し、PWMドライバに電圧指令を与える。PWMドライバは、与えられた電圧指令に従ってインバータを駆動する。インバータは、図示外のバッテリの直流電力をモータ部3の駆動に用いる三相の交流電力に変換する。
【0032】
<制御部の特徴構成>
制御部4は、目標値取得手段13と、追従制御部14とを備える。目標値取得手段13は、電動ポンプ1の制御量または物理量に対する指令である目標値として、クラッチアクチュエータ7,8,9の締結、開放等の使用条件および車両の前記駆動状態に従って定められる既定の一連の目標値の中から、一定時間未来の目標値を受信する。前記制御量は、例えば、モータ部3の回転数または電流であり、前記物理量は、例えば、ポンプ部2の圧力(油圧)または流量である。モータ電流と圧力との関係は予め設定され、親コントローラ10、または、制御部4は、検出されたモータ電流を前記関係に照合して圧力を算出し得る。ポンプ部2の流量は回転数に比例する関係にあるため、親コントローラ10、または、制御部4は検出された回転数から前記流量を算出し得る。
追従制御部14は、前記目標値を受信し前記一定時間経過後に、前記制御量または前記物理量が前記目標値になるように追従制御する。
【0033】
<システム>
ATを統括して制御する親コントローラ10と、電動ポンプ1の制御部4とは、共に車両に展開するシリアル通信ネットワーク(略称「CAN」)のバス11に電気的に接続され、バス11を流れるデータフレーム群より識別子を用いて選択的に通信を行う。親コントローラ10は、前記通信を介して、電動ポンプ1に対して指令を送信する。換言すれば、電動ポンプ1は、親コントローラ10から通信を介して受信される指令に従って駆動される。車両に搭載される他の電子機器15も同じバス11を用いて通信している。このため、親コントローラ10と、電動ポンプ1の制御部4とが通信可能な周期は限定され、制限された帯域の通信を用いた一定の周期(例えば、数十ミリ秒)でバス11を流れる周期フレームとして送受信される。
【0034】
電動ポンプ1のポンプ部2が吐出するオイルは、親コントローラ10が各々の油路の閉塞と開放を制御するバルブ6を通って、各アクチュエータ7,8,9へ分配される。各アクチュエータ7,8,9は、電動ポンプ1に配管接続されている。各アクチュエータ7,8,9の例として、第1~第3のアクチュエータを図示するが、他のアクチュエータ等の油圧回路が接続されることがある。
【0035】
<車両走行中のAT変速例>
車両走行中に、ATが、ある変速ポジションから次の変速ポジションに変更を行うときを例に挙げる。走行中の車両において、ATが、ある変速ポジションの状態のとき、AT内の複数のクラッチアクチュエータ7,8,9のうち、親コントローラ10に変速ポジションに応じて選択されたいくつかのクラッチアクチュエータが、電動ポンプ1が発生する油圧により締結されている。
【0036】
変速が開始されるとき、親コントローラ10は、現在の変速ポジションと次の変速ポジションから、締結と解放の作動を行うアクチュエータを選択する。また、親コントローラ10は、車両の前記駆動状態等から、アクチュエータに与える油圧の最適な過渡的遷移を導き、電動ポンプ1の回転数目標値の遷移プロファイル(規定の一連の目標値)を決定する。続いて、親コントローラ10は速やかに変速作動を開始し、電動ポンプ1へ回転数目標値の遷移プロファイルを送信しながら、それに同期して適切なタイミングでそれぞれのアクチュエータへの油路を閉鎖、開放して油圧回路を制御する。
【0037】
<変速作動の一例>
図3に変速作動の一例を挙げる。ある変速ポジションで、第1のクラッチアクチュエータ7と第2のクラッチアクチュエータ8が締結され、第3のクラッチアクチュエータ9が解放されている状態から、次の変速ポジションに変速する。このため、第1のクラッチアクチュエータ7は締結したまま、第2のクラッチアクチュエータ8を解放しつつ、第3のクラッチアクチュエータ9を締結する。その際、締結と解放を速やかに行い、かつ、変速による車両への衝撃を抑制するため、過渡的に半締結状態になるよう、電動ポンプ1と各クラッチアクチュエータ7,8,9を共調して制御を行う。
【0038】
時系列順に説明すると、最初は、第1のクラッチアクチュエータ7と第2のクラッチアクチュエータ8の締結力が維持されている状態(同図[a])である。アクチュエータが遷移しないので、電動ポンプ1は低流量で高圧力を発生している。次に第3のクラッチアクチュエータ9を遷移させるが、その際に発生する流量で圧力が低下しないよう、あらかじめ電動ポンプ1の回転数を上昇(同図[b])して、第3のクラッチアクチュエータ9へ油圧を供給(同図[c])する。
【0039】
第3のクラッチアクチュエータ9は、クラッチの締結が開始するまで、クラッチの隙間を押し縮める形で空送(同図[d])する。この間はなるべく速やかに遷移させるため、電動ポンプ1は第3のクラッチアクチュエータ9に流量を供給しても高圧を維持できる回転数で作動(同図[e])する。クラッチの隙間がなくなり締結が始まると、第3のクラッチアクチュエータ9の油圧が上昇し始め、流量が減少する(同図[f])。このとき、クラッチ締結の車両への衝撃が小さくなるよう、第3のクラッチアクチュエータ9の圧力上昇を緩やかにするため、電動ポンプ1は一度回転数をある程度下げた状態を維持する(同図[g])。
【0040】
第3のクラッチアクチュエータ9の締結力が適切に上がった時点で第2のクラッチアクチュエータ8への油圧供給をオフし(同図[h])、クラッチを開放する。そして、第3のクラッチアクチュエータ9の遷移が完了し、完全に締結したところ(同図[i])で、クラッチ締結の維持に必要な油圧を確保して、電動ポンプ1の回転数を下げ(同図[j])、以上で変速を完了する。
【0041】
このような制御は、図2の親コントローラ10が、各々のアクチュエータ7,8,9の遷移を検出するのではなく、あらかじめ用意されたモデル等を用いて都度演算して遷移を予測し、回転数プロファイルおよびバルブ制御タイミングを生成する。このような制御によって速やかでショックの小さい変速を達成するためには、電動ポンプ1は、過渡的な回転数プロファイルに正確に従った作動が求められる。
【0042】
ここで本発明を用いない通常処理のフローチャートを図9に示し、同通常処理の回転数プロファイルの一部とその追従特性を図10に示す。同図10におけるグラフの横軸が時間経過、縦軸が電動ポンプの回転数を表す。'profile'で示される曲線は、親コントローラが前述の演算により生成した回転数プロファイルの一部である。この目標プロファイルより、前記一定の周期ごとに回転数の目標値が電動ポンプに送信される。電動ポンプはこの目標値に追従するよう回転数を制御し、実回転数は'response'のような応答性となり、'profile'に対する'response'の遅れは通信周期Taより長くなる。
【0043】
この応答の遅れを短くしたいとき、図7に示し前述したように、前記一定の周期よりも制御の応答時間を短くしても、良好な応答性は得られないことがある。その制御の応答時間を短くした場合の処理を図11のフローチャートに示し、その追従特性を図12に示す。前記一定の周期、すなわち、目標値が得られる通信周期Taよりも周期処理の制御周期Tbを短くして応答時間を短くする。しかし、周期処理毎の内部目標値'inter'は、その周期よりも長い通信周期Ta毎にしか更新されない。このため、プロファイルに対しての実回転数'response'の遅れの最大値は大差なく、その上、応答性になめらかさが失われ、騒音等の問題の原因になり得る。
【0044】
前記先行技術文献の従来技術の場合のフローチャート例を図13に示し、その追従特性を図14に示す。図11と同様に前記通信周期Taよりも周期処理の制御周期Tbを短くし、フィードバック、フィードフォワード演算を用いて、周期処理毎の内部目標値'inter'を生成する。しかし、この技術を用いても、図8で示し前述した未来値予測の誤差も問題があるため、'profile'に対する'response'の良好な追従特性を得るための解決手段にはならない場合がある。
【0045】
そこで、本実施形態の電動ポンプの制御部のフローチャート例を図4に示し、その追従特性を図5に示す。図4のように、制御部4(図2)は、周期処理開始後、規定の目標値を通信周期に従って周期的に受信したか否かを判断する(ステップS1)。規定の目標値を受信していないとき(ステップS1:No)、制御部4(図2)は異常期間を経過したか否かを判断する。(ステップS2)。前記異常期間を経過したとは、規定の目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたときを意味する。異常期間を経過した(ステップS2:Yes)との判断で、制御部4(図2)は、この電動ポンプの運転を停止するか、または所定の条件で運転を継続する(ステップS3)。前記所定の条件で運転とは、例えば、電動ポンプが過負荷とならないような出力が制限された状態の運転である。
【0046】
規定の目標値を受信したとき(ステップS1:Yes)、制御部4(図2)は、前記目標値を元に1周期毎の補間値を算出、つまり補間処理を実行する(ステップS4)。その後、ステップS5に移行する。ステップS2において、規定の目標値を受信する周期になっても前記目標値が受信できないとき(ステップS2:No)、ステップS5において、追従制御部14(図2)は、前記補間値から、通信周期よりも短い制御周期毎の内部目標値を演算し、生成された内部目標値に対して追従制御を行う(ステップS6)。このとき、追従制御部14(図2)は、受信されている目標値よりも通信周期Taで1周期分前に受信された目標値に対して追従制御する。制御部4(図2)は、これら一連の作動を行う周期処理が終了したか否かを判断する(ステップS7)。周期処理が終了していないとき(ステップS7:No)、ステップS1に戻る。周期処理が終了したとの判断で(ステップS7:Yes)、本処理を終了する。
【0047】
図5に示す'profile'で示される曲線は、前述したように、予め決まっている曲線なので、未来の目標値を送信可能である。そこで、親コントローラ10(図2)は、前述の回転数目標値の遷移プロファイルである既定の一連の目標値の中から、通信周期分未来の目標値を電動ポンプに送信する。電動ポンプの追従制御部14(図2)は、その未来の時点で指示される物理量が目標値となるように、通信周期Taよりも短い制御周期Tbで周期処理を行って、補間された周期処理毎の内部目標値を算出する。追従制御部14(図2)は、前記内部目標値に対して追従制御を行う。
【0048】
前記追従制御を行うことで、'profile'に対して内部目標値'inter'には遅れがなく、かつ、'profile'に近い曲線となる。その'inter'に対して応答時間を短くした追従制御を行うことで、'profile'に対して、より精度よく追従する実回転数'response'を得ることができる。結果として、'profile'に対する'response'の遅れを通信周期と同等以内に抑えることが可能となる。
【0049】
<作用効果>
以上説明した図2の電動ポンプ1によると、目標値取得手段13は、既定の一連の目標値の中から、一定時間未来の目標値を通信により一定時間ごとに受信する。追従制御部14は、目標値を受信し一定時間経過後に、制御量または物理量が目標値になるように追従制御する。結果として、規定の一連の目標値に対して、通信による遅延なしに、電動ポンプ1を実際に作動させ得る。したがって、制限された帯域の通信を用いながら、目的の作動プロファイルに対して充分な応答性と追従性を確保することができる。
【0050】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0051】
図2のように、電動ポンプ1の制御部4は、目標値を受信できない期間が定められた期間に達した、または超えたとき、例えば、親コントローラ10または他の電子機器(電動ポンプの外部)15に異常状態であることを通知する異常状態通知手段16を有してもよい。異常状態を通知される他の電子機器15としては、例えば、警告灯または警告音または警告表示等を出力する異常状態出力手段が挙げられる。この異常状態出力手段は、異常状態通知手段16からバス11を介して異常状態である旨通知されると警告表示等を出力することで、車両の運転者の注意を喚起する。
【0052】
モータ電流に対する規定の目標値を定めてもよく、圧力に対する規定の目標値を定めてもよく、流量に対する規定の目標値を定めてもよい。
電動ポンプを、車両における、AT以外の油圧機器に適用してもよい。
電動ポンプを、産業機械、工作機械等に適用してもよい。
モータ部として、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
ポンプ部として、外接ギヤポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ等を適用してもよい。
出力軸とポンプ部との間に減速機が設けられてもよい。この場合、減速機の減速比を加味した各演算が行われる。
回転角検出手段として、光学式エンコーダまたはレゾルバ等を適用してもよいし、モータの電圧や電流を検出することによる、いわゆるセンサレス制御を用いて検出してもよい。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1…電動ポンプ、10…親コントローラ(上位制御手段)、7,8,9…第1,第2,第3のアクチュエータ(作動機器)、13…目標値取得手段、14…追従制御部、16…異常状態通知手段、AT…オートマチックトランスミッション(トランスミッション)
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