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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046153
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/272 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
B60R21/272
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151374
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 信行
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054DD11
3D054DD17
3D054DD21
3D054DD28
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】燃料ガスと酸化性ガスとを用いたガス発生器の構造を簡素化可能な技術を提供する。
【解決手段】ガス発生器は、点火手段が収容される点火室とガスが充填されるガス充填室とを外殻ハウジングの内部に画定する第1隔壁部と、第1隔壁部に設けられ、点火器の作動により開口することで点火室とガス充填室とを連通する第1連通部と、外殻ハウジングに設けられ、点火器の作動により開口することでガス充填室と外殻ハウジングの外部とを連通する排出部と、第1連通部に隣接する第1充填室と排出部に隣接する第2充填室とをガス充填室の内部に画定する第2隔壁部と、第1充填室及び第2充填室の一方に充填された燃料ガスと、他方に充填された酸化性ガスと、第2隔壁部に設けられ、点火器の作動により開口することで第1充填室と第2充填室とを連通する第2連通部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻ハウジングと、
作動することで燃焼生成物を放出する点火器を含む点火手段と、
前記点火手段が収容される点火室とガスが充填されるガス充填室とを前記外殻ハウジングの内部に画定する第1隔壁部と、
前記第1隔壁部に設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記点火室と前記充填室とを連通する第1連通部と、
前記外殻ハウジングに設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記ガス充填室と前記外殻ハウジングの外部とを連通する排出部と、
前記第1連通部に隣接する第1充填室と前記排出部に隣接する第2充填室とを前記ガス充填室の内部に画定する第2隔壁部と、
前記第1充填室及び前記第2充填室の一方に充填された燃料ガスと、
前記第1充填室及び前記第2充填室の他方に充填された酸化性ガスと、
前記第2隔壁部に設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記第1充填室と前記第2充填室とを連通する第2連通部と、を備える、
ガス発生器。
【請求項2】
前記点火器と前記第1連通部とが対向配置されている、
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記第1連通部と前記第2連通部とが対向配置されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記第2連通部と前記排出部とが対向配置されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記点火器、前記第1連通部、前記第2連通部、及び前記排出部が、同一直線上に配置されている、
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記外殻ハウジングは、有底筒状に形成されており、
前記点火器、前記第1連通部、前記第2連通部、及び前記排出部が、前記外殻ハウジングの中心軸上に配置されている、
請求項5に記載のガス発生器。
【請求項7】
前記排出部を介して前記ガス充填室と連通される拡散室を内部に形成するように一端部が前記外殻ハウジングに接合された筒状のディフューザハウジングを更に備え、
前記ディフューザハウジングの周壁部には、前記拡散室と前記ガス発生器の外部とを連通するガス排出孔が形成されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項8】
前記燃料ガスは、不活性ガスと共に前記第1充填室及び前記第2充填室の一方に充填されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項9】
前記燃料ガスは、水素ガスである、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項10】
前記第1充填室と前記第2充填室とのうち前記水素ガスが充填されている方の壁面には
、耐水素脆性膜がコーティングされている、
請求項9に記載のガス発生器。
【請求項11】
前記酸化性ガスは、不活性ガスと共に前記第1充填室及び前記第2充填室の他方に充填されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項12】
前記第2連通部は、前記点火器の作動により開裂するように前記第2隔壁部の一部として形成されており、前記第2充填室の側へドーム状に突出している、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項13】
前記第2連通部は、前記第2隔壁部における他の部位よりも薄肉に形成されている、
請求項12に記載のガス発生器。
【請求項14】
前記第2連通部は、前記第2連通部における他の部位よりも薄肉に形成された線状の脆弱部を有する、
請求項13に記載のガス発生器。
【請求項15】
前記点火手段は、前記点火室に配置されると共に前記点火器の作動により燃焼するガス発生剤を含む、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項16】
前記第1連通部は、前記第1隔壁部に形成された開口部と、前記点火器の作動前は前記開口部を閉塞すると共に前記点火器の作動により開裂する破裂板と、によって形成されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項17】
前記排出部は、前記外殻ハウジングに形成された開口部と、前記点火器の作動前は前記開口部を閉塞すると共に前記点火器の作動により開裂する破裂板と、によって形成されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項18】
前記外殻ハウジングは、有底筒状に形成されており、
前記第1充填室は、前記第1隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記点火室と隣り合う第1軸方向領域と、前記第1隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの径方向から前記点火室を取り囲む筒状の第1径方向領域と、を有し、
前記第2充填室は、前記第2隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記第1充填室の前記第1軸方向領域と隣り合う第2軸方向領域と、前記第2隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの径方向から前記第1充填室の前記第1径方向領域を取り囲む筒状の第2径方向領域と、を有する、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項19】
前記排出部を介して前記ガス充填室と連通される拡散室を内部に形成するように一端部が前記外殻ハウジングに接合された筒状のディフューザハウジングを更に備え、
前記ディフューザハウジングの周壁部には、前記拡散室と前記ガス発生器の外部とを連通するガス排出孔が形成されており、
前記拡散室は、前記外殻ハウジングの壁を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記ガス充填室と隣り合っており、
前記外殻ハウジングと前記ディフューザハウジングとによって構成されるガス発生器ハウジングは、径方向における幅よりも軸方向における長さの方が短い、
請求項18に記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内に形成された収容空間にガス源を収容し、点火器を作動させることでガスを外部へ放出するガス発生器が広く知られている。この種のガス発生器は、例えば、エアバッグやシートベルトリトラクタへのガスの供給に用いられる。これに関連して、水素ガス等に例示される被酸化性ガス(燃料ガス)と酸素ガス等に例示される酸化性ガスとの混合気体を着火することで燃焼ガス(水蒸気等)を生成し、該燃焼ガスを作動用ガスとしてエアバッグに供給することで当該エアバッグを膨張させるエアバッグ用インフレータが開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1のエアバッグ用インフレータでは、被酸化性ガスが収容されたボトルと酸化性ガスが収容されたボトルとが共通のチャンバーに接続されており、各ボトルの出口を閉塞するシール箔がスクイブの点火により開裂することで各ボトルのガスがチャンバーに排出され、これらの混合ガスが着火される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0283231号明細書
【特許文献2】米国特許第5582806号明細書
【特許文献3】特開平9-20203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る技術は、燃料ガスと酸化性ガスとを用いたガス発生器の構造を簡素化可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(態様1)
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るガス発生器は、以下の構成を採用した。即ち、本開示に係るガス発生器は、
外殻ハウジングと、
作動することで燃焼生成物を放出する点火器を含む点火手段と、
前記点火手段が収容される点火室とガスが充填されるガス充填室とを前記外殻ハウジングの内部に画定する第1隔壁部と、
前記第1隔壁部に設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記点火室と前記ガス充填室とを連通する第1連通部と、
前記外殻ハウジングに設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記ガス充填室と前記外殻ハウジングの外部とを連通する排出部と、
前記第1連通部に隣接する第1充填室と前記排出部に隣接する第2充填室とを前記ガス充填室の内部に画定する第2隔壁部と、
前記第1充填室及び前記第2充填室の一方に充填された燃料ガスと、
前記第1充填室及び前記第2充填室の他方に充填された酸化性ガスと、
前記第2隔壁部に設けられ、前記点火器の作動前は閉鎖され、前記点火器の作動により開口することで前記第1充填室と前記第2充填室とを連通する第2連通部と、を備える。
【0006】
(態様2)
上記の態様1において、前記点火器と前記第1連通部とが対向配置されていてもよい。
【0007】
(態様3)
上記の態様1又は2において、前記第1連通部と前記第2連通部とが対向配置されていてもよい。
【0008】
(態様4)
上記の態様1から3の何れかにおいて、前記第2連通部と前記排出部とが対向配置されていてもよい。
【0009】
(態様5)
上記の態様1から4の何れかにおいて、前記点火器、前記第1連通部、前記第2連通部、及び前記排出部が、同一直線上に配置されていてもよい。
【0010】
(態様6)
上記の態様1から5の何れかにおいて、前記外殻ハウジングは、有底筒状に形成されており、
前記点火器、前記第1連通部、前記第2連通部、及び前記排出部が、前記外殻ハウジングの中心軸上に配置されていてもよい。
【0011】
(態様7)
上記の態様1から6の何れかのガス発生器は、前記排出部を介して前記ガス充填室と連通される拡散室を内部に形成するように一端部が前記外殻ハウジングに接合された筒状のディフューザハウジングを更に備え、
前記ディフューザハウジングの周壁部には、前記拡散室と前記ガス発生器の外部とを連通するガス排出孔が形成されていてもよい。
【0012】
(態様8)
上記の態様1から7の何れかにおいて、前記燃料ガスは、不活性ガスと共に前記第1充填室及び前記第2充填室の一方に充填されていてもよい。
【0013】
(態様9)
上記の態様1から8の何れかにおいて、前記燃料ガスは、水素ガスであってもよい。
【0014】
(態様10)
上記の態様9において、前記第1充填室と前記第2充填室とのうち前記水素ガスが充填されている方の壁面には、耐水素脆性膜がコーティングされていてもよい。
【0015】
(態様11)
上記の態様1から10の何れかにおいて、前記酸化性ガスは、不活性ガスと共に前記第1充填室及び前記第2充填室の他方に充填されていてもよい。
【0016】
(態様12)
上記の態様1から11の何れかにおいて、前記第2連通部は、前記点火器の作動により開裂するように前記第2隔壁部の一部として形成されており、前記第2充填室の側へドーム状に突出していてもよい。
【0017】
(態様13)
上記の態様12において、前記第2連通部は、前記第2隔壁部における他の部位よりも薄肉に形成されていてもよい。
【0018】
(態様14)
上記の態様12又は13において、前記第2連通部は、前記第2連通部における他の部位よりも薄肉に形成された線状の脆弱部を有してもよい。
【0019】
(態様15)
上記の態様1から14の何れかにおいて、前記点火手段は、前記点火室に配置されると共に前記点火器の作動により燃焼するガス発生剤を含んでもよい。
【0020】
(態様16)
上記の態様1から15の何れかにおいて、前記第1連通部は、前記第1隔壁部に形成された開口部と、前記点火器の作動前は前記開口部を閉塞すると共に前記点火器の作動により開裂する破裂板と、によって形成されていてもよい。
【0021】
(態様17)
上記の態様1から5の何れかにおいて、前記排出部は、前記外殻ハウジングに形成された開口部と、前記点火器の作動前は前記開口部を閉塞すると共に前記点火器の作動により開裂する破裂板と、によって形成されていてもよい。
【0022】
(態様18)
上記の態様1から17の何れかにおいて、前記外殻ハウジングは、有底筒状に形成されており、
前記第1充填室は、前記第1隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記点火室と隣り合う第1軸方向領域と、前記第1隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの径方向から前記点火室を取り囲む筒状の第1径方向領域と、を有し、
前記第2充填室は、前記第2隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記第1充填室の前記第1軸方向領域と隣り合う第2軸方向領域と、前記第2隔壁部を挟んで前記外殻ハウジングの径方向から前記第1充填室の前記第1径方向領域を取り囲む筒状の第2径方向領域と、を有してもよい。
【0023】
(態様19)
上記の態様1から18の何れかのガス発生器は、前記排出部を介して前記ガス充填室と連通される拡散室を内部に形成するように一端部が前記外殻ハウジングに接合された筒状のディフューザハウジングを更に備え、
前記ディフューザハウジングの周壁部には、前記拡散室と前記ガス発生器の外部とを連通するガス排出孔が形成されており、
前記拡散室は、前記外殻ハウジングの壁を挟んで前記外殻ハウジングの軸方向に前記ガス充填室と隣り合っており、
前記外殻ハウジングと前記ディフューザハウジングとによって構成されるガス発生器ハウジングは、径方向における幅よりも軸方向における長さの方が短くてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本開示に係る技術によれば、燃料ガスと酸化性ガスとを用いたガス発生器の構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態に係るガス発生器の作動前の状態を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る第2連通部を説明するための図である。
図3図3は、第2連通部の変形例を説明するための図である。
図4図4は、実施形態に係るガス発生器の作動時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本開示に係る技術をエアバッグ用のガス発生器(インフレータ)に適用した態様について説明する。但し、本開示に係る技術の用途はこれに限定されず、例えばシートベルトリトラクタ用のガス発生器に適用してもよい。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0027】
[全体構成]
図1は、実施形態に係るガス発生器100の作動前の状態を示す断面図である。図1では、符号10で示す外殻ハウジングの軸方向に沿う断面が示されている。ガス発生器100は、エアバッグ用インフレータであり、作動時にエアバッグ(図示せず)を膨張させる作動用のガスをエアバッグに供給する装置である。ガス発生器100は、燃料ガスの一例である水素ガスと酸化性ガスの一例である酸素ガスとの混合ガスを着火することで、燃焼ガスである水蒸気を生成し、該水蒸気をエアバッグ作動用のガス(以下、作動用ガス)としてエアバッグに供給するように構成されている。
【0028】
図1に示すように、ガス発生器100は、上部シェル1、下部シェル2、中間シェル3、点火手段20、保持部材5、第1破裂板6、第2破裂板7、ディフューザハウジング8、及びフィルタ9を備え、両端部が閉塞された有底筒状に形成されている。また、詳細については後述するが、上部シェル1と下部シェル2の一部と中間シェル3の一部とによって、図1のドットパターンで示す外殻ハウジング10が形成されている。外殻ハウジング10は、両端部が閉塞された有底筒状に形成されている。図1の符号A1は、外殻ハウジング10の中心軸を示す。以下、外殻ハウジング10の軸方向に沿う方向をガス発生器100の上下方向と定義し、下部シェル2側(即ち、図1における下側)をガス発生器100の下側とし、その反対側(即ち、上部シェル1であって、図1における上側)をガス発生器100の上側とする。また、以下の説明において、特に指定が無い限りは、「軸方向」とは、外殻ハウジング10の軸方向を指し、「径方向」とは、外殻ハウジング10の半径方向を指し、「周方向」とは、外殻ハウジング10の周方向のことを指す。以下、ガス発生器100の各構成要素について説明する。
【0029】
[上部シェル・下部シェル・中間シェル]
上部シェル1は、上部外側周壁部11と天板部12と上部内側周壁部13とフランジ部15とを有し、上端部が閉塞された有底筒状に形成されている。上部外側周壁部11は、上下に延在する筒状に形成されている。天板部12は、上部外側周壁部11の上端部から径方向内側へ延在している。上部内側周壁部13は、天板部12の径方向内側の縁部から下方向へ延在(突出)する筒状に形成されている。上部内側周壁部13の下端部には、開口部14が形成されている。フランジ部15は、上部外側周壁部11の下端部から径方向外側へ延在している。
【0030】
下部シェル2は、下部外側周壁部21と底板部22と下部内側周壁部23とを有し、下端部が閉塞された有底筒状に形成されている。下部外側周壁部21は、上下に延在する筒状に形成されている。底板部22は、下部外側周壁部21の下端部から径方向内側へ延在している。下部内側周壁部23は、底板部22の径方向内側の縁部から上方向へ延在(突出)する筒状に形成されている。下部内側周壁部23の上端部には、開口部24が形成されている。
【0031】
中間シェル3は、中間外側周壁部31と中間板部32と中間内側周壁部33と蓋壁部34とを有し、下端部が閉塞された有底筒状に形成されている。中間外側周壁部31は、上
下に延在する筒状に形成されている。中間板部32は、中間外側周壁部31の下端部から径方向内側へ延在している。中間内側周壁部33は、中間板部32の径方向内側の縁部から上方向へ延在(突出)する筒状に形成されている。蓋壁部34は、中間内側周壁部33の上端部を閉塞している。
【0032】
図1に示すように、上部シェル1の上部外側周壁部11、上部内側周壁部13、下部シェル2の下部外側周壁部21、下部内側周壁部23、中間シェル3の中間外側周壁部31、及び中間板部32は、外殻ハウジング10の中心軸A1と同軸となるように配置されている。
【0033】
上部シェル1、下部シェル2、及び中間シェル3は、金属材料により形成されている。これらを形成する金属材料は特に限定されないが、鉄やステンレス等が例示される。図1に示すように、上部シェル1が上側に配置され、下部シェル2が下側に配置され、上部シェル1と下部シェル2との間に中間シェル3が配置されている。下部シェル2の下部内側周壁部23が中間シェル3の中間内側周壁部33に挿入されており、この状態で、上部シェル1のフランジ部15と中間シェル3の中間外側周壁部31とが接合され、中間シェル3の中間板部32と下部シェル2の下部外側周壁部21とが接合されている。各部材の接合には、例えば、レーザ溶接を用いることができる。
【0034】
[第1破裂板]
第1破裂板6は、下部シェル2の開口部24を覆うことで開口部24を閉塞する板状の部材であり、点火器4の作動により生じるエネルギーによって開裂するように構成されている。第1破裂板6は、金属材料により形成されている。第1破裂板6を形成する金属材料は特に限定されないが、鉄やステンレス等が例示される。第1破裂板6は、その周縁部がレーザ溶接等によって下部内側周壁部23の上端部に接合されることで、下部内側周壁部23に固定されている。
【0035】
[第2破裂板]
第2破裂板7は、上部シェル1の開口部14を覆うことで開口部14を閉塞する板状の部材であり、点火器4の作動により生じるエネルギーによって開裂するように構成されている。第2破裂板7は、第1破裂板6と同様に、鉄やステンレス等に例示される金属材料により形成されている。第2破裂板7は、その周縁部がレーザ溶接等によって上部内側周壁部13の下端部に接合されることで、上部内側周壁部13に固定されている。
【0036】
[外殻ハウジング]
外殻ハウジング10は、上部シェル1と下部シェル2の下部外側周壁部21と底板部22と中間シェル3の中間外側周壁部31と中間板部32の一部とによって形成されている。より詳細には、中間板部32のうち下部シェル2の下部外側周壁部21との接合部よりも径方向外側の部位が外殻ハウジング10の一部を構成している。
【0037】
[第1隔壁部]
図1に示すように、外殻ハウジング10の内部空間は、第1隔壁部30によって仕切られている。第1隔壁部30は、下部シェル2の下部内側周壁部23の一部によって形成されている。第1隔壁部30によって、外殻ハウジング10の内部には、点火手段20が収容される点火室S10とガスが充填されるガス充填室S20とが画定されている。点火室S10は、外殻ハウジング10の内部空間のうち第1隔壁部30によって囲まれた空間であり、後述する第1連通部40が閉鎖されることで、大気圧に維持されている。ガス充填室S20は、外殻ハウジング10の内部空間のうち第1隔壁部30の外側の空間であり、加圧ガスの充填により加圧状態となっている。
【0038】
[点火手段]
点火手段20は、点火室S10に収容された点火器4を含む。点火器4は、点火薬が収容された着火部41と、点火薬を着火するための着火電流が供給される導電部42と、を含む。点火器4は、導電部42に供給される着火電流により作動することで着火部41が開裂して点火薬の燃焼生成物(火炎等)が放出されるように構成されている。図1の符号411は、点火器4の作動時に開裂して燃焼生成物を放出する放出部を示す。放出部411は、上方向に面している。
【0039】
点火器4に用いられる点火薬は限定されないが、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が例示される。
【0040】
点火手段20は、後述する連通部及び排出部の開裂に要するエネルギーに応じて、固形のガス発生剤を更に含んでもよい。ガス発生剤は、点火室S10に収容され、点火器4が作動すると点火器4から放出される燃焼生成物によって燃焼することでガスを発生させる。また、ガス発生剤は、着火部41の内部に点火薬と隣接させて配置することもできる。ガス発生剤としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。ガス発生剤はこれに限定されない。
【0041】
ここで、本例における「点火器の作動により生じるエネルギー」には、点火器4から放出されるエネルギー(燃焼生成物の放出による衝撃波や火炎、高温ガス等)や点火薬の燃焼によるエネルギー(圧力上昇等)が含まれる。点火手段20がガス発生剤を含む場合には、点火器4の作動に起因するガス発生剤の燃焼によるエネルギー(圧力上昇等)も「点火器の作動により生じるエネルギー」に含まれるものとする。つまり、本明細書において、「点火器の作動により生じるエネルギー」は、点火器の作動により一次的又は副次的に生じるエネルギーのことを指す。
【0042】
[保持部材]
保持部材5は、点火器4と下部シェル2の下部内側周壁部23との間に配置されると共に点火器4と下部内側周壁部23とを一体に接合する、樹脂製の部材である。保持部材5によって、点火器4と下部内側周壁部23との間に形成される環状の隙間が埋められている。これにより、点火室S10の内部空間が封止されている。保持部材5は、点火器4の放出部411が保持部材5から点火室S10に露出し、導電部42の先端部が保持部材5から外殻ハウジング10の外部空間に露出するように、点火器4を覆っている。また、保持部材5は、給電用のコネクタ(不図示)を挿入可能な空間であるコネクタ挿入空間51が下部内側周壁部23の内側に形成されるように、下部内側周壁部23の内周面を覆っている。
【0043】
[第1連通部]
第1隔壁部30には、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することで点火室S10とガス充填室S20(より詳細には、第1充填室S1)とを連通するように構成された、第1連通部40が設けられている。第1連通部40は、第1隔壁部30に形成された開口部24と開口部24を閉塞する第1破裂板6とによって形成されている。点火器4の作動前は第1破裂板6によって開口部24が閉塞され、点火器4が作動すると点火器4の作動により生じるエネルギーを受けて第1破裂板6が開裂することで、第1
連通部40が開口し、点火室S10とガス充填室S20とが連通する。点火器4の作動前では、第1連通部40が閉鎖されていることから、点火室S10が大気圧に維持され、また、点火器4が加圧ガスに曝されることが防止されている。
【0044】
図1に示すように、本例では、点火器4の放出部411と第1連通部40とが対向配置されている。そのため、点火器4の作動時には、点火器4から第1破裂板6に向かってエネルギー(衝撃波や火炎、高温ガス等)が放出されることとなり、第1破裂板6が開裂し易くなっている。
【0045】
[排出部]
外殻ハウジング10には、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することでガス充填室S20(より詳細には、第2充填室S2)と外殻ハウジング10の外部(より詳細には、拡散室S30)とを連通するように構成された、排出部50が設けられている。排出部50は、外殻ハウジング10に形成された開口部14と開口部14を閉塞する第2破裂板7とによって形成されている。点火器4の作動前は第2破裂板7によって開口部14が閉塞され、点火器4が作動すると点火器4の作動により生じるエネルギーを受けて第2破裂板7が開裂することで、排出部50が開口し、ガス充填室S20と外殻ハウジング10の外部とが連通する。
【0046】
[第2隔壁部]
図1に示すように、ガス充填室S20は、第2隔壁部60によって仕切られている。第2隔壁部60は、中間シェル3の中間板部32の一部と中間内側周壁部33と蓋壁部34とによって形成されている。より詳細には、中間板部32のうち下部シェル2の下部外側周壁部21との接合部よりも径方向内側の部位が第2隔壁部60の一部を構成している。第2隔壁部60によって、ガス充填室S20の内部には、第1連通部40に隣接する第1充填室S1と排出部50に隣接する第2充填室S2とが画定されている。第1充填室S1は、ガス充填室S20のうち第2隔壁部60によって囲まれた空間であり、下部シェル2と中間シェル3とによって画定されている。第2充填室S2は、ガス充填室S20のうち第2隔壁部60の外側の空間であり、上部シェル1と中間シェル3とによって画定されている。
【0047】
[第2連通部]
第2隔壁部60には、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することで第1充填室S1と第2充填室S2とを連通するように構成された、第2連通部70が設けられている。第2連通部70は、点火器4の作動により開裂するように、第2隔壁部60の一部として形成されている。より詳細には、第2連通部70は、第2隔壁部60を構成する蓋壁部34の中央部分によって形成されており、第2充填室S2の側へドーム状に突出している。点火器4の作動前は第1充填室S1と第2充填室S2との連通が遮断され、点火器4が作動すると点火器4の作動により生じるエネルギーを受けて蓋壁部34の中央部分が開裂することで、第2連通部70が開口し、第1充填室S1と第2充填室S2とが連通する。
【0048】
図1に示すように、本例では、第1連通部40と第2連通部70とが対向配置されている。そのため、点火器4の作動時には、開口した第1連通部40から第2連通部70に向かってエネルギー(衝撃波や高温ガス等)が放出されることとなり、第2連通部70が開裂し易くなっている。
【0049】
ここで、第2連通部70は、第2充填室S2の側へ突出している。つまり、第2連通部70は、第1充填室S1の外側へ突出している。そのため、第2連通部70は、第2充填室S2側からのエネルギーに対する強度に比べ、第1充填室S1側からのエネルギーに対
する強度が低くなっている。これによっても、点火器4の作動時に第2連通部70が開裂し易くなっている。
【0050】
また、第2連通部70がドーム状に形成されていることの利点として、次のことが挙げられる。ガス発生器100の製造時には、第1充填室S1及び第2充填室S2の一方へ加圧ガスを充填した後に他方へ加圧ガスを充填することになる。このとき、先に一方の充填室へ充填された加圧ガスの圧力によって第2連通部70が他方の充填室側へ凸状に変形し、その後に他方の充填室へ充填された加圧ガスの圧力によって第2連通部70が押し戻されて一方の充填室側へ凸状に変形する等して、凹凸の変形が繰り返されると、加圧ガスに対する強度の観点で好ましくない。これに対して、本例では、第2連通部70を予め第2充填室S2側に突出したドーム状に形成しておくことで、第2充填室S2の圧力上昇に対して第2連通部70が変形し難くなっている。そのため、先に第1充填室S1へ加圧ガスを充填した場合は当然ながら、先に第2充填室S2へ加圧ガスを充填した場合であっても、第2連通部70が第1充填室S1側へ凸状に変形することが抑制される。つまり、少なくとも第1充填室S1側への凸状の変形が抑制される。従って、第2連通部70をドーム状に形成することで、加圧ガスの充填時に第2連通部70が凹凸の変形を繰り返すことが防止される。
【0051】
更に、第2連通部70は、第2隔壁部60における他の部位(即ち、第2隔壁部60のうち第2連通部70を除く部位)よりも薄肉に形成されている。そのため、第2連通部70は、第2隔壁部60における他の部位よりも脆弱となっている。これによっても、点火器4の作動時に第2連通部70が開裂し易くなっている。
【0052】
ここで、図2は、実施形態に係る第2連通部70を説明するための図である。図2では、中間シェル3の蓋壁部34の上端面が図示されている。図2に示すように、第2連通部70には、線状に延びるV字型(断面が三角形)の溝G1が複数形成されている。複数の溝G1は、蓋壁部34の頂部となる中央部を起点として径方向へ放射状に延びている。図2に示すように、本例では、8本の溝G1が等角度間隔で形成されている。但し、本開示の技術はこれに限定されない。また、溝G1の形状は、V字型に限定されず、断面が四角形や断面が半円状であってもよい。
【0053】
第2連通部70のうち溝G1が形成された部位は、第2連通部70における他の部位よりも薄肉に形成された線状の脆弱部701となっている。脆弱部701は、他の部位(即ち、第2連通部70のうち脆弱部701を除く部位)よりも脆弱となっており、破断し易くなっている。第2連通部70は、優先的に開裂し易い線状の脆弱部701を有することで、加圧ガスに対する強度を確保しつつも、点火器4の作動時には開裂し易くなっている。本例では、複数の脆弱部701が形成されており、全ての脆弱部701が第2連通部70の中央で交差している。なお、脆弱部701が交差する部分は特に強度が低下するため、加圧ガスに対する強度を考慮して、一部の脆弱部701のみを交差させてもよいし、何れの脆弱部701も交差しない態様としてもよい。また、溝G1の交差部分を浅く形成してもよい。図3は、第2連通部70の変形例を説明するための図である。図3に示すように、変形例に係る第2連通部70は、その中央部において脆弱部701が交差していない。つまり、第2連通部70の中央部(頂部)を除く部位に脆弱部701が形成されている。なお、図2及び図3に示す第2連通部70は、複数(8本)の脆弱部701を有するが、脆弱部701は複数でなくともよく1本であってもよい。また、本例の脆弱部701は、連続的に延びる実線状に形成されているが、脆弱部701は、断続的に延びる破線状又は点線状に形成されてもよい。
【0054】
図1に示すように、本例では、第2連通部70と排出部50とが対向配置されている。そのため、点火器4の作動時には、開口した第2連通部70から第2破裂板7に向かって
エネルギー(衝撃波や高温ガス等)が放出されることとなり、第2破裂板7が開裂し易くなっている。
【0055】
[第1充填室]
第1充填室S1は、第1軸方向領域S11と第1径方向領域S12とを有する。第1軸方向領域S11は、第1隔壁部30を挟んで軸方向に点火室S10と隣り合っており、点火室S10の上側に配置されている。第1軸方向領域S11は、第1連通部40と第2連通部70とによって軸方向から挟まれている。第1径方向領域S12は、第1隔壁部30を挟んで点火室S10を径方向から取り囲むように筒状に形成されており、点火室S10の径方向外側に配置されている。
【0056】
[第2充填室]
第2充填室S2は、第2軸方向領域S21と第2径方向領域S22とを有する。第2軸方向領域S21は、第2隔壁部60を挟んで軸方向に第1充填室S1の第1軸方向領域S11と隣り合っており、第1軸方向領域S11の上側に配置されている。第2軸方向領域S21は、第2連通部70と排出部50とによって軸方向から挟まれている。第2径方向領域S22は、第2隔壁部60を挟んで第1充填室S1の第1径方向領域S12を径方向から取り囲むように筒状に形成されており、第1径方向領域S12の径方向外側に配置されている。
【0057】
[ガス]
第2充填室S2には、燃料ガスとして水素の単体ガスが、圧縮された状態で充填されている。但し、本開示に係る燃料ガスは、水素ガスに限定されない。燃料ガスは特に限定されないが、例えば、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の単体ガスや、これらのうち少なくとも1種類のガスを含む混合ガス等の、可燃性のガスが例示される。
【0058】
また、第1充填室S1には、酸化性ガスとして酸素の単体ガスが、圧縮された状態で充填されている。但し、本開示に係る酸化性ガスは、酸素ガスに限定されない。酸化性ガスは特に限定されないが、例えば、酸素、亜酸化窒素等の単体ガスや、空気等の混合ガス等の、助燃性のガスが例示される。
【0059】
なお、本開示に係るガス発生器は、燃料ガスが第1充填室に充填され、酸化性ガスが第2充填室に充填されてもよい。つまり、本開示に係るガス発生器は、第1充填室及び第2充填室の一方に燃料ガスが充填され、他方に酸化性ガスが充填されていればよい。また、充填室に充填されるガスは、加圧された状態でなくともよい。
【0060】
また、燃料ガスは、不活性ガスと共に第1充填室及び第2充填室の一方に充填されてもよい。また、酸化性ガスは、不活性ガスと共に第1充填室及び第2充填室の他方に充填されてもよい。つまり、本例の場合、第2充填室S2に水素ガスと不活性ガスとを充填してもよいし、第1充填室S1に酸素ガスと不活性ガスとを充填してもよい。燃料ガスや酸化性ガスを不活性ガスと共存させることで、混合ガスの燃焼温度を低下させ、コントロールすることができる。なお、充填室の加圧状態は、不活性ガスによって形成されてもよい。不活性ガスは特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等の、反応性の低いガスが例示される。
【0061】
[耐水素脆性膜]
ここで、水素ガスが充填されている第2充填室S2の壁面には、壁面を構成する金属表面が水素に接触することによる水素脆化を防ぐために、水素遮断性を有する材料により形成された耐水素脆性膜C1がコーティングされている。耐水素脆性膜C1は、上部シェル1及び中間シェル3における第2充填室S2を画定する面に設けられている。この耐水素
脆性膜C1は、金属表面への水素の侵入を抑制することが可能に構成されていればよい。耐水素脆性膜C1の材料は、水素遮断性を有するものであれば限定されず、樹脂材料、金属材料、又はセラミック材料であってもよい。
【0062】
耐水素脆性膜C1を形成する樹脂材料としては、エチレンビニールアルコール共重合樹脂やポリアミド6等が例示され、金属材料としては、A6061-T6アルミニウム合金等が例示され、セラミック材料としては、酸化アルミニウムや酸化チタン等が例示される。耐水素脆性膜C1の構成の具体例としては、特開2018-141214号公報に記載のAl-5Mg溶射皮膜や、特開2021-139034号公報の表1に記載の水素カット率の比較的高いコーティング、特開2007-9276号公報に記載のセラミックス薄膜等が例示される。
【0063】
なお、本例では、第2充填室S2の壁面に耐水素脆性膜C1がコーティングされているが、第1充填室S1に水素ガスが充填される場合には、耐水素脆性膜C1は、第1充填室S1の壁面にコーティングされる。つまり、耐水素脆性膜C1は、第1充填室S1と第2充填室S2とのうち水素ガスが充填されている方の壁面にコーティングされていればよい。但し、本開示に係るガス発生器において、耐水素脆性膜は必須の構成ではない。
【0064】
[ディフューザハウジング]
ディフューザハウジング8は、上下に延在し上端部が閉塞された有底筒状に形成されている。より具体的には、ディフューザハウジング8は、上下に延在する筒状の周壁部81と、周壁部81の上端部を閉塞する蓋壁部82と、を有する。周壁部81の下端部(本開示に係るディフューザハウジングの一端部に相当)は、周壁部81の内側に外殻ハウジング10の排出部50が位置するように、外殻ハウジング10に接合されている。これにより、ディフューザハウジング8の内部には、排出部50を介してガス充填室S20と連通される拡散室S30が形成されている。
【0065】
ディフューザハウジング8の周壁部81には、拡散室S30とガス発生器100の外部とを連通する複数のガス排出孔83が形成されている。点火器4が作動すると、ガス充填室S20からの作動用ガスが拡散室S30を経由し、ガス排出孔83を介して外部へ放出される。なお、ガス排出孔83の数量は特に限定されず、複数でなくともよい。
【0066】
[フィルタ]
フィルタ9は、上下に延在すると共に両端部が開口した筒状の部材であり、上端部がディフューザハウジング8の蓋壁部82に支持され、下端部が上部シェル1の天板部12に支持された状態で、拡散室S30の内部における排出部50とガス排出孔83との間に配置される。フィルタ9には、作動用ガスの濾過や冷却ができるように、多孔が形成されている。
【0067】
[点火器と連通部と排出部の配置]
図1に示すように、本例では、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が、同一直線上に配置されている。ここで、複数の部材が「同一直線上に配置されている」とは、当該複数の部材を通る直線が存在し得ることを意味する。本例では、同一直線として、外殻ハウジング10の中心軸A1が、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50を通っている。つまり、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が、中心軸A1上に配置されている。
【0068】
点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が同一直線上に配置されていることは、点火器4の放出部411から燃焼生成物が放出される方向(本例では上方向)において第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が直線状に並んでいるこ
とを意味する。そのため、点火器4の作動時に、点火器4から放出されるエネルギー(衝撃波や火炎、高温ガス等)によって、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50を纏めて開口させることが容易となる。つまり、1つの点火器で第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50の全てを開口させることが容易となる。また、点火器4から拡散室S30に至るまでの経路が直線状となるため、点火器4から放出される燃焼生成物が拡散室S30に到達し易くなり、拡散室S30内の混合ガスの着火が容易となる。更に、本実施形態に係るガス発生器100では、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が軸方向(上下方向)において近接配置されているため、これらの全てを開口させることが一層容易となっている。
【0069】
また、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50を、外殻ハウジング10の中心軸A1上に配置することで、ガス発生器100は、中心軸A1を基準とした軸対称の構造を採ることができる。これにより、ガス発生器100の製造が容易となる。また、ガス発生器100を軸対称の構造とすることで、周方向におけるガス発生器の出力斑を抑制することができる。
【0070】
[動作]
次に、実施形態に係るガス発生器100の動作について説明する。図1に示される作動前のガス発生器100が車両に組み付けられた状態では、コネクタ挿入空間51に挿入されたコネクタ(図示せず)が点火器4の導電部42と接続されており、点火器4に対して給電可能な状態となっている。この状態で、自動車に搭載されたセンサ(図示せず)が衝撃を感知すると、外部電源(図示せず)からの電力がコネクタを介して導電部42に供給されることで、点火器4が作動し、着火部41内の点火薬が燃焼する。
【0071】
図4は、実施形態に係るガス発生器100の作動時の状態を示す断面図である。図4では、外殻ハウジング10の軸方向に沿う断面が示されている。点火器4が作動し、点火薬の燃焼に伴って着火部41の内圧が上昇すると、放出部411が開裂し、点火薬の燃焼生成物が点火室S10内へ放出される。このとき、燃焼生成物は、上方向(軸方向)へ放出される。第1連通部40が点火器4の上方において点火器4の放出部411と対向配置されているため、図4に示すように、第1連通部40の第1破裂板6は、点火器4から放出されるエネルギー(衝撃波や火炎、高温ガス等)を受けて開裂する。これにより、第1連通部40が開口する。また、第2連通部70が第1連通部40の上方において第1連通部40と対向配置されているため、第2連通部70は、開口した第1連通部40から放出されるエネルギーを受けて開裂する。これにより、第2連通部70が開口する。更に、排出部50が第2連通部70の上方において第2連通部70と対向配置されているため、排出部50の第2破裂板7は、開口した第2連通部70から放出されるエネルギーを受けて開裂する。これにより、排出部50が開口する。このように、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50は、同一直線上に配置されているため、点火器4から放出されるエネルギーによって纏まって開口する。
【0072】
第1充填室S1と第2充填室S2とを仕切る第2隔壁部60に設けられた第2連通部70が開口することで、第1充填室S1に充填された酸素ガス(酸化性ガス)と第2充填室S2に充填された水素ガス(燃料ガス)とが混合可能となる。酸素ガスは、第2連通部70と排出部50とを通って拡散室S30に流入し、拡散する。水素ガスは、排出部50を通って拡散室S30に流入し、拡散する。これにより、酸素ガスと水素ガスとが拡散室S30で混合される。そして、点火器4から放出された燃焼生成物が第1連通部40と第2連通部70と排出部50とを通って拡散室S30に流入することで、水素ガスと酸素ガスとの混合ガスが着火され、燃焼する。これにより、エアバッグの作動用ガスである水蒸気が生成される。
【0073】
拡散室S30で生成された作動用ガスは、フィルタ9を通過してガス排出孔83からガス発生器100の外部へと排出される。作動用ガスがフィルタ9を通過する過程で、ガス中に含まれる第1破裂板6、第2破裂板7、及び蓋壁部34の破片が、フィルタ9に捕捉される。また、作動用ガスは、フィルタ9を通過するとき、フィルタ9によって冷却及び濾過される。そして、ガス排出孔83はディフューザハウジング8の周壁部81に形成されているため、作動用ガスは径方向外側へ放出される。従って、ガス充填室S20から拡散室S30までは軸方向であったガスの流れは、ディフューザハウジング8によって、径方向に変化する。
【0074】
ガス発生器100から排出された作動用ガスがエアバッグに供給されることで、エアバッグが膨張し、車両の乗員が衝撃から保護される。
【0075】
[作用・効果]
以上のように、本実施形態に係るガス発生器100は、
外殻ハウジング10と、
作動することで燃焼生成物を放出する点火器4を含む点火手段20と、
点火手段20が収容される点火室S10とガスが充填されるガス充填室S20とを外殻ハウジング10の内部に画定する第1隔壁部30と、
第1隔壁部30に設けられ、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することで点火室S10とガス充填室S20とを連通する第1連通部40と、
外殻ハウジング10に設けられ、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することでガス充填室S20と外殻ハウジング10の外部とを連通する排出部50と、
第1連通部40に隣接する第1充填室S1と排出部50に隣接する第2充填室S2とをガス充填室S20の内部に画定する第2隔壁部60と、
第1充填室S1及び第2充填室S2の一方(本例では第2充填室S2)に充填された燃料ガスとしての水素ガスと、
第1充填室S1及び第2充填室S2の他方(本例では第1充填室S1)に充填された酸化性ガスとしての酸素ガスと、
第2隔壁部60に設けられ、点火器4の作動前は閉鎖され、点火器4の作動により開口することで第1充填室S1と第2充填室S2とを連通する第2連通部70と、を備える。
【0076】
つまり、ガス発生器100は、第1充填室S1と第2充填室S2とを仕切る第2隔壁部60に設けられた第2連通部70を点火器4の作動により開口させることで、燃料ガスと酸化性ガスとを混合させる構造を採用している。これにより、単一の点火器4で燃料ガスと酸化性ガスとを混合させることが可能となる。そのため、本実施形態に係るガス発生器100は、共通のチャンバーに連結された別々の容器にガスを充填し、夫々の容器を別個の点火器で開口させることで、チャンバー内でガスを混合させる構造のガス発生器と比較して、部品点数を低減し、構造を簡素化することができる。
【0077】
更に、本実施形態に係るガス発生器100では、点火器4と第1連通部40とが対向配置されている。これにより、点火器4の作動時には、点火器4から第1連通部40に向けてエネルギーを放出することができ、第1連通部40を開口し易くすることができる。
【0078】
更に、本実施形態に係るガス発生器100では、第1連通部40と第2連通部70とが対向配置されている。これにより、点火器4の作動時には、開口した第1連通部40から第2連通部70に向けてエネルギーを放出することができ、第2連通部70を開口し易くすることができる。
【0079】
更に、本実施形態に係るガス発生器100では、第2連通部70と排出部50とが対向
配置されている。これにより、点火器4の作動時には、開口した第2連通部70から排出部50に向けてエネルギーを放出することができ、排出部50を開口し易くすることができる。
【0080】
また、本実施形態に係るガス発生器100では、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が、同一直線上に配置されている。これにより、点火器4の作動時に、点火器4から放出されるエネルギーによって、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50を纏めて開口させることが容易となる。
【0081】
更に、本実施形態に係る外殻ハウジング10は、有底筒状に形成されており、点火器4、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が、外殻ハウジング10の中心軸A1上に配置されている。これによると、ガス発生器100を、中心軸A1を基準とした軸対称の構造とすることができ、ガス発生器100の製造を容易化し、周方向におけるガス発生器100の出力斑を抑制することができる。
【0082】
但し、本開示に係るガス発生器において、点火器、第1連通部、第2連通部、及び排出部の配置は、上述の態様に限定されず、直線状に配置されていなくともよい。
【0083】
また、本実施形態に係るガス発生器100は、排出部50を介してガス充填室S20と連通される拡散室S30を内部に形成するように一端部が外殻ハウジング10に接合された筒状のディフューザハウジング8を更に備え、ディフューザハウジング8の周壁部81には、拡散室S30とガス発生器100の外部とを連通するガス排出孔83が形成されている。これによると、拡散室S30で燃料ガスと酸化性ガスとを混合し、着火することができる。また、ディフューザハウジング8の周壁部81にガス排出孔83が形成されているため、ガスの流れを軸方向から径方向に変化させることができる。なお、ディフューザハウジング8は、本開示に係るガス発生器において必須の構成ではない。本開示に係るガス発生器は、充填室内でガスを混合し、着火する構成としてもよい。
【0084】
また、本実施形態に係るガス発生器100に充填される燃料ガスは水素ガスであり、第1充填室S1と第2充填室S2とのうち水素ガスが充填されている方(本例では第2充填室S2)の壁面には、耐水素脆性膜C1がコーティングされている。これによると、第2充填室S2の壁面を構成する金属表面が水素に接触することによる水素脆化を防止することができる。
【0085】
また、本実施形態に係る第2連通部70は、点火器4の作動により開裂するように第2隔壁部60の一部として形成されており、第2充填室S2の側へドーム状に突出している。これによると、少なくとも第1充填室S1側への凸状の変形が抑制されるため、加圧ガスの充填時に第2連通部70が凹凸の変形を繰り返すことが防止される。その結果、加圧ガスに対する第2連通部70の強度を向上させることができる。
【0086】
更に、本実施形態に係る第2連通部70は、第2隔壁部60における他の部位よりも薄肉に形成されている。これにより、点火器4の作動時に第2連通部70が開裂し易くなっている。
【0087】
更に、第2連通部70は、第2連通部70における他の部位よりも薄肉に形成された線状の脆弱部701を有する。これにより、点火器4の作動時に第2連通部70がより開裂し易くなっている。
【0088】
なお、本開示に係るガス発生器の第2連通部は、第2隔壁部の一部でなくともよい。第2連通部は、第2隔壁部に形成された開口部と、点火器の作動前は当該開口部を閉塞する
と共に点火器の作動により開裂する破裂板と、によって形成されてもよい。
【0089】
また、本実施形態に係る第1連通部40は、第1隔壁部30に形成された開口部24と、点火器4の作動前は開口部24を閉塞すると共に点火器4の作動により開裂する第1破裂板6と、によって形成されている。これにより、第1連通部40は、点火器4の作動により開口することができる。なお、本開示に係る第1連通部は、上述の態様に限定されず、例えば、点火器の作動により開裂するように第1隔壁部の一部として形成されてもよい。
【0090】
また、本実施形態に係る排出部50は、外殻ハウジング10に形成された開口部14と、点火器4の作動前は開口部14を閉塞すると共に点火器4の作動により開裂する第2破裂板7とによって形成されている。これにより、排出部50は、点火器4の作動により開口することができる。なお、本開示に係る排出部は、上述の態様に限定されず、例えば、点火器の作動により開裂するように外殻ハウジングの一部として形成されてもよい。
【0091】
なお、本開示に係る点火手段は、点火室に配置されると共に点火器の作動により燃焼するガス発生剤を含んでもよい。そうすることで、点火器の作動により生じるエネルギーを増加させることができる。つまり、第1連通部、第2連通部、及び排出部を開口するためのエネルギーを増加させることができる。例えば、点火器、第1連通部、第2連通部、及び排出部が同一直線上に配置されておらず点火器から放出されるエネルギーのみでは不足する場合には、点火室にガス発生剤を配置することで、エネルギーを補うことができる。
【0092】
また、本実施形態に係る第1充填室S1は、第1隔壁部30を挟んで外殻ハウジング10の軸方向に点火室S10と隣り合う第1軸方向領域S11と、第1隔壁部30を挟んで外殻ハウジング10の径方向から点火室S10を取り囲む筒状の第1径方向領域S12と、を有する。そして、本実施形態に係る第2充填室S2は、第2隔壁部60を挟んで外殻ハウジング10の軸方向に第1充填室S1の第1軸方向領域S11と隣り合う第2軸方向領域S21と、第2隔壁部60を挟んで外殻ハウジング10の径方向から第1充填室S1の第1径方向領域S12を取り囲む筒状の第2径方向領域S22と、を有する。点火室S10、第1軸方向領域S11、及び第2軸方向領域S21は、軸方向の下側から上側へ順番に並んでいる。また、点火室S10、第1径方向領域S12、及び第2径方向領域S22は、径方向の内側から外側へ順番に並んでいる。第1充填室S1が筒状の第1径方向領域S12を有することで、ガスを充填するための容積を確保しながらも、軸方向における第1充填室S1の長さを短くすることができる。同様に、第2充填室S2が筒状の第2径方向領域S22を有することで、ガスを充填するための容積を確保しながらも、軸方向における第2充填室S2の長さを短くすることができる。その結果、ガス発生器100の軸方向における長さを短くしてガス発生器100を小型化することができる。また、実施形態に係るガス発生器100は、第1連通部40、第2連通部70、及び排出部50が、外殻ハウジング10の中心軸A1上に配置されているため、第1充填室S1及び第2充填室S2の軸方向長さを短くすることで、第1連通部40と第2連通部70との距離や第2連通部70と排出部50との距離を短くすることができる。これにより、点火器4の作動時に第2連通部70及び排出部50を開口し易くすることができる。
【0093】
ここで、図1に示すように、外殻ハウジング10とディフューザハウジング8とによって構成される外殻容器を、ガス発生器ハウジング80とする。そして、ガス発生器ハウジング80の軸方向における長さをL1とし、径方向における幅をW1とする。本実施形態に係るガス発生器100のガス発生器ハウジング80は、径方向における幅W1よりも軸方向における長さL1の方が短くなるように、短尺筒状に形成されている。これにより、ガス発生器100を小型化することができる。
【0094】
<その他>
以上、本開示に係る技術の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0095】
4・・・・・点火器
6・・・・・第1破裂板
7・・・・・第2破裂板
8・・・・・ディフューザハウジング
10・・・・外殻ハウジング
20・・・・点火手段
30・・・・第1隔壁部
40・・・・第1連通部
50・・・・排出部
60・・・・第2隔壁部
70・・・・第2連通部
80・・・・ガス発生器ハウジング
100・・・ガス発生器
C1・・・・耐水素脆性膜
S1・・・・第1充填室
S2・・・・第2充填室
S10・・・点火室
S20・・・ガス充填室
図1
図2
図3
図4