(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046159
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/18 20060101AFI20240327BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240327BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20240327BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240327BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240327BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20240327BHJP
F16D 125/34 20120101ALN20240327BHJP
F16D 125/06 20120101ALN20240327BHJP
F16D 125/08 20120101ALN20240327BHJP
【FI】
F16D65/18
B60T13/74 G
F16H25/20 D
F16H25/22 A
F16H25/24 G
F16D121:24
F16D125:34
F16D125:06
F16D125:08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151384
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 優
(72)【発明者】
【氏名】江口 雅章
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
3J062
【Fターム(参考)】
3D048BB45
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH59
3D048NN04
3D048QQ12
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA83
3J058AA87
3J058BA41
3J058CC15
3J058CC34
3J058CC35
3J058CC62
3J058FA01
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA17
3J062CD02
3J062CD04
3J062CD22
3J062CD57
3J062CD58
(57)【要約】
【課題】摺動面のアブレシブ摩耗または摺動面同士の固着が発生することを防止することができる直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】直動アクチュエータ1は、電動モータと、電動モータの回転運動を直動部21の直線運動に変換する直動機構と、直動部21を摺動自在に保持するハウジング20とを備える。ハウジング20と直動部21との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段6を備えた。直動部21は円筒状に設けられ、ハウジング20のシリンダ室20aに、直動部21が軸心方向C1に沿って摺動自在に支持される。接触面圧低減手段6は、直動部21の外周面における軸心方向基端部において基端側の端面21aに向かうに従って径方向内方に縮径する第1の縮径部6Aと、直動部21の外周面における軸心方向先端部において先端側の端面21bに向かうに従って径方向内方に縮径する第2の縮径部6Bとを含む。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、この回転駆動源の回転運動を直動部の直線運動に変換する直動機構と、この直動機構の前記直動部を摺動自在に保持するハウジングと、を備える直動アクチュエータであって、
少なくとも前記ハウジングと前記直動部との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段を備えた直動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の直動アクチュエータにおいて、前記回転駆動源の回転を減速する減速機構を備え、前記直動機構は前記減速機構で出力される回転運動を直線運動に変換する直動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直動アクチュエータにおいて、前記直動部は円筒状に設けられ、前記ハウジングに形成されたシリンダ室に、前記直動部がこの直動部の軸心方向に沿って摺動自在に支持され、前記接触面圧低減手段は、前記直動部の外周面における少なくとも軸心方向基端部においてこの直動部の基端側の端面に向かうに従って径方向内方に縮径する縮径部を含む直動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載の直動アクチュエータにおいて、前記接触面圧低減手段は、前記直動部の外周面における軸心方向先端部においてこの直動部の先端側の端面に向かうに従って径方向内方に縮径する縮径部を含む直動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の直動アクチュエータにおいて、前記接触面圧低減手段は、前記シリンダ室における軸心方向先端部においてこのシリンダ室の開口端に向かうに従って径方向外方に拡径する拡径部を含む直動アクチュエータ。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載の直動アクチュエータにおいて、前記接触面圧低減手段は、前記シリンダ室における軸心方向先端部に設けられた弾性体を含む直動アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載の直動アクチュエータにおいて、前記弾性体は、ゴム、樹脂または前記直動部の外周面より低硬度の金属から成る直動アクチュエータ。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項に記載の直動アクチュエータにおいて、前記縮径部は、端面に向かうに従って縮径するテーパ形状またはクラウニング形状である直動アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の直動アクチュエータにおいて、前記回転駆動源が電動モータである直動アクチュエータ。
【請求項10】
請求項9に記載の直動アクチュエータと、ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドとを備え、前記直動アクチュエータの前記直動部により前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに対して当接離隔させる、電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置に関し、回転駆動源の回転運動を直線運動に変換してブレーキパッド等の被駆動部材を直線駆動する直動機構を採用した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの回転運動を直線運動に変換して軸方向に移動自在に支持された被駆動部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータが提案されている(特許文献1)。
特許文献1の電動式直動アクチュエータでは、この特許文献1の
図7に示すように、ハウジング20に支持された外輪部材21が軸方向に摺動することでインナ側ブレーキパッド14をディスクロータ10へ押し付ける。インナ側ブレーキパッド14の押圧力の反力によりキャリパ11は、外輪部材21とは逆向きに移動してアウタ側パッド13をディスクロータ10へ押し付けることで、ディスクロータ10を制動する。
【0003】
外輪部材21の外周面には、摺動案内面を潤滑する潤滑油脂が設けられている。ハウジング20の内側のシリンダ室20aを外輪部材21が摺動するとき、前記潤滑油脂により摺動抵抗を減らし摩擦を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、キャリパ11は、本願の
図8のようにディスクロータ10を跨ぐブリッジ構造であり、ディスクロータ10を制動させる力を支持すると、キャリパ11はブリッジ構造部分でディスクロータ10の中心側がより開くように弾性変形する。
【0006】
このとき外輪部材21はシリンダ室20a内を摺動するが、一方で外輪部材21は、ディスクロータ10の面にパッドホルダ18、インナ側パッド14を介して垂直に接触する。キャリパ11の弾性変形により外輪部材21はシリンダ室20aに対して傾くように偏荷重を受ける。
図9に示すように、直動機構を構成する部品が外輪部材21の偏荷重に応じた弾性変形をするので、外輪部材21とシリンダ室20aとのすき間は接触部A1にて部分的に零(接触状態)となり、接触しながら摺動することで摩耗を生じる。これにより外輪部材21の摺動を阻害するようになる。
つまり、外輪部材21がシリンダ室20aでキャリパ11の弾性変形による傾きに阻害されずに摺動するためには、外輪部材21とシリンダ室20aとの間で摩耗を抑制することが必要となる。
【0007】
ここで一般に、硬度差のある2つの金属部品において、一方の金属部品が他方の金属部品を引っ掻くように大きな摺動抵抗を伴って摺動すると、激しい摩耗形態であるアブレシブ摩耗を起こすことが知られている。
外輪部材21は塑性変形することなく力を伝達する必要があり、例えば、熱処理で高い硬度を実現可能な炭素鋼を用いる。一方、キャリパ11は量産性を考慮し鋳物が採用される。鋳物は熱処理された炭素鋼より硬度が低い。
また、偏荷重を受けた外輪部材21はシリンダ室20aに対して傾いた姿勢で接触するので、接触面では引っ掻くように摺動し、アブレシブ摩耗が引き起こされやすい。アブレシブ摩耗が生じたまま外輪部材21の摺動を続けるとさらに摩耗が促進され、摺動面同士の固着に至るおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、摺動面のアブレシブ摩耗または摺動面同士の固着が発生することを防止することができる直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の直動アクチュエータは、回転駆動源と、この回転駆動源の回転運動を直動部の直線運動に変換する直動機構と、この直動機構の前記直動部を摺動自在に保持するハウジングと、を備える直動アクチュエータであって、
少なくとも前記ハウジングと前記直動部との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段を備えた、ものである。
前記「接触面圧を低減する」とは、接触面圧低減手段を備えていない従来構造の直動アクチュエータにつき、直動部が定められた動作状態のときの接触面圧に対し、本発明の直動部が同一の動作状態において接触面圧が低減していることを言う。前記定められた動作状態とは、例えば、ハウジングが弾性変形する状態、または直動部が偏荷重を受けて傾く状態を指す。
【0010】
この構成によると、ハウジングと直動部との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段を備えたため、ハウジングが弾性変形したときまたは直動部が偏荷重を受けて傾いたときハウジングと直動部との接触を回避するか、またはハウジングと直動部とが接触した場合でも接触面圧を低減することができる。これにより、摺動面のアブレシブ摩耗または摺動面同士の固着が発生することを防止することができる。
【0011】
前記回転駆動源の回転を減速する減速機構を備え、前記直動機構は前記減速機構で出力される回転運動を直線運動に変換する。
【0012】
前記直動部は円筒状に設けられ、前記ハウジングに形成されたシリンダ室に、前記直動部がこの直動部の軸心方向に沿って摺動自在に支持され、前記接触面圧低減手段は、前記直動部の外周面における少なくとも軸心方向基端部においてこの直動部の基端側の端面に向かうに従って径方向内方に縮径する縮径部を含んでもよい。この場合、直動部の縮径部により容易に接触面圧を低減し得るため、例えば、ハウジングの剛性を高める等の対策を講じるよりも製造コストの低減を図れる。
【0013】
前記接触面圧低減手段は、前記直動部の外周面における軸心方向先端部においてこの直動部の先端側の端面に向かうに従って径方向内方に縮径する縮径部を含んでもよい。この直動部における軸心方向先端部の縮径部と軸心方向基端部の縮径部とで接触面圧をより確実に低減することができる。
【0014】
前記接触面圧低減手段は、前記シリンダ室における軸心方向先端部においてこのシリンダ室の開口端に向かうに従って径方向外方に拡径する拡径部を含んでもよい。この拡径部と、直動部の縮径部とで接触面圧をより確実に低減することができる。
【0015】
前記接触面圧低減手段は、前記シリンダ室における軸心方向先端部に設けられた弾性体を含んでもよい。この弾性体により直動部が案内されることにより、ハウジングと直動部との間の偏角が小さくなり、ハウジングと直動部との接触を回避するか、またはハウジングと直動部とが接触した場合でも接触面圧を低減することができる。
【0016】
前記弾性体は、ゴム、樹脂または前記直動部の外周面より低硬度の金属から成るものであってもよい。この場合、弾性体として種々の材料を使用できるため、設計の自由度が増す。
【0017】
前記縮径部は、端面に向かうに従って縮径するテーパ形状またはクラウニング形状であってもよい。縮径部がテーパ形状である場合、構造を簡単化でき、クラウニング形状とする場合よりも製造コストの低減を図れる。縮径部がクラウニング形状である場合、精度よく接触面圧を低減し得る。
【0018】
前記回転駆動源が電動モータであってもよい。
【0019】
本発明の電動ブレーキ装置は、本発明のいずれかの直動アクチュエータと、ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドとを備え、前記直動アクチュエータの前記直動部により前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに対して当接離隔させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の直動アクチュエータは、ハウジングと直動部との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段を備えたため、摺動面のアブレシブ摩耗または摺動面同士の固着が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置の縦断面図である。
【
図3A】同電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【
図3B】同直動アクチュエータの直動部が前進した状態の縦断面図である。
【
図4A】本発明の第2の実施形態に係る電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【
図4B】同直動アクチュエータの直動部が前進した状態の縦断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係る電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【
図7】参考提案例に係る電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【
図8】従来例の電動ブレーキ装置のキャリパ変形時の模式図である。
【
図9】同電動ブレーキ装置の直動アクチュエータの要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態を
図1ないし
図3Bと共に説明する。
図1に示すように、実施形態に係る電動ブレーキ装置は、いわゆるフローティング型ブレーキであるブリッジ構造の電動ブレーキ装置である。
図1は
図2のI-I線断面図である。
<電動ブレーキ装置の概略構造>
電動ブレーキ装置は、キャリパ11と、直動アクチュエータ1と、ブレーキロータ10と、摩擦パッド13,14とを備え、直動アクチュエータ1の後述する直動部21により摩擦パッド13,14をブレーキロータ10に対して当接離隔させる。
【0023】
車両には、各ブレーキロータ10の外周側部分を囲むようにキャリパ11がそれぞれ設けられる。キャリパ11のアウトボード側OSの端部に、爪部12が設けられる。爪部12は、ブレーキロータ10のアウトボード側OSの側面と軸方向で対向する。この爪部12にアウトボード側OSの摩擦パッド13が支持されている。この明細書において、ブレーキ装置を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側OSといい、車両の車幅方向中央側をインボード側ISという。
【0024】
キャリパ11のうち、直動アクチュエータ1のアウトボード側端に、インボード側ISの摩擦パッド14が支持されている。この摩擦パッド14は、ブレーキロータ10のインボード側ISの側面と軸方向で対向する。直動アクチュエータ1は、摩擦パッド13,14をブレーキロータ10に対して当接離隔させる駆動を行う。
図2は
図1のII-II線断面図である。車両における図示外のナックルに、
図2に示すマウント15が支持される。マウント15の長手方向両端部には、ピン支持片16,16が設けられる。これらピン支持片16,16のそれぞれの端部に、軸方向に互いに平行に延びるスライドピン17,17が設けられる。スライドピン17,17に、キャリパ11が軸方向にスライド自在に支持されている。
【0025】
図1に示すように、制動時、直動アクチュエータ1の駆動によりインボード側ISの摩擦パッド14がブレーキロータ10に当接して、ブレーキロータ10を軸方向に押圧する。その押圧力の反力によりキャリパ11がインボード側にスライドする。これにより、キャリパ11の爪部12に支持されたアウトボード側の摩擦パッド13がブレーキロータ10に当接する。これらアウトボード側OSおよびインボード側ISの摩擦パッド13,14で、ブレーキロータ10を軸方向両側から強く挟持することで、ブレーキロータ10に制動力が負荷される。
【0026】
直動アクチュエータ1は、ハウジング20と、回転駆動源である電動モータ24(
図2)と、この電動モータ24(
図2)の回転を減速する減速機構30と、減速機構30で出力される回転運動を直線運動に変換する直動機構2とを備える。キャリパ11に筒状のハウジング20が一体的に設けられ、ハウジング20に電動モータ24(
図2)が支持される。ハウジング20には円筒孔状のシリンダ室20aが形成され、このシリンダ室20aに直動機構2が組み込まれている。ハウジング20のインボード側ISの開口端はカバ-23によって覆われている。
【0027】
<電動モータ>
図2の電動モータ24は、例えば、永久磁石式の同期電動機から成る。但し、電動モータ24として、例えば、ブラシを用いたDCモータ、永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
【0028】
<減速機構>
図1に示すように、ハウジング20のインボード側ISに、カバ-23で覆われた減速機構30が設けられている。この減速機構30は、電動モータ24(
図2)の回転を、回転軸34に固定された出力ギヤ33に減速して伝える機構である。
図2に示すように、減速機構30は複数のギヤ列を含む。この例では、減速機構30は、電動モータ24のロータ軸25に取り付けられた入力ギヤ31の回転を中間ギヤ32により減速して、出力ギヤ33に伝達可能としている。
【0029】
<直動機構>
この例の直動機構2は、遊星ローラねじ式の直動機構である。直動機構2は、減速機構30で出力される回転運動を直線運動に変換して、ブレーキロータ10に対して摩擦パッド13,14を当接離隔させる機構である。この直動機構2は、電動モータ24(
図2)により回転駆動される回転軸34と、この回転軸34の回転運動を直線運動に変換する変換機構部3と、拘束部4,5とを有する。変換機構部3は、ピストン(「外輪部材」とも言う)である直動部21と、支持部材35と、環状のスラスト板であるバックアッププレート57と、スラスト軸受58と、転がり軸受36と、キャリア40と、すべり軸受44a,44bと、複数の遊星ローラ49とを有する。
【0030】
ハウジング20のシリンダ室20aに、円筒状の直動部21が回り止めされ且つこの直動部21の軸心方向に沿って移動自在に支持されている。直動部21の外周面には、摺動案内面を潤滑する潤滑油脂が塗布されている。ハウジング20と直動部21のアウトボード側端部との間にはブーツ61が設けられている。直動部21の内周面には、径方向内方に所定距離突出し螺旋状に形成された螺旋突起が設けられている。この螺旋突起に複数の遊星ローラ49が噛合している。
【0031】
ハウジング20内における直動部21の軸方向一端側に、支持部材35が設けられている。この支持部材35は、ボス部と、このボス部から径方向外方に延びるフランジ部とを有する。前記ボス部内に複数の転がり軸受36が嵌合され、これら転がり軸受36の内輪内径面に回転軸34が嵌合されている。回転軸34は、支持部材35に複数の転がり軸受36を介して回転自在に支持される。
【0032】
直動部21の内周には、回転軸34を中心に回転可能なキャリア40が設けられている。キャリア40は、軸方向に互いに対向して配置される一対のディスクを有する。これらディスクのうち、支持部材35に近いディスクをインナ側ディスクと称し、他方のディスクをアウタ側ディスクと称する。アウタ側ディスクのうち、インナ側ディスクに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向(インボード側)に突出するように複数の柱部材が設けられる。これら複数の柱部材によりアウタ側ディスクおよびインナ側ディスクが一体に設けられる。
【0033】
インナ側ディスクは、回転軸34との間に嵌合されたすべり軸受44bにより、回転軸34に回転自在に支持されている。アウタ側ディスクには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受44aが嵌合されている。アウタ側ディスクは、すべり軸受44aにより回転軸34に回転自在に支持される。回転軸34の軸方向両端部には、支持部材35に対して回転軸34及びキャリア40の軸方向位置を拘束する拘束部4,5が設けられる。
【0034】
キャリア40には、複数のローラ軸47が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸47の軸方向両端部が、インナ側ディスク,アウタ側ディスクにわたって支持されている。両ディスクには、それぞれ軸挿入孔が複数形成されている。各軸挿入孔は、径方向に所定距離延びる長孔から成る。各軸挿入孔に各ローラ軸47の軸方向両端部が挿入されて、これらローラ軸47が各軸挿入孔の範囲で径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸47における軸方向両端部には、これらローラ軸47を径方向内方に付勢する弾性リング50が掛け渡されている。
【0035】
各ローラ軸47に、遊星ローラ49が回転自在に支持される。各遊星ローラ49の外周面には、直動部21の螺旋突起に噛合する円周溝または螺旋溝が形成されている。各遊星ローラ49は、回転軸34の外周面と、直動部21の内周面との間に介在される。前記弾性リング50の付勢力により、各遊星ローラ49が回転軸34の外周面に押し付けられる。回転軸34が回転することで、この回転軸34の外周面に接触する各遊星ローラ49が接触摩擦により回転する。よって回転軸34の回転により各遊星ローラ49が自転しつつ公転する。これにより直動部21が軸方向に移動することで直動アクチュエータ1が駆動する。
【0036】
<接触面圧低減手段>
図3Aに示すように、直動アクチュエータ1には、少なくともハウジング20と直動部21との間の接触面圧を低減する接触面圧低減手段6が設けられている。接触面圧低減手段6は、ハウジング20と直動部21とが接触することを回避するものであってもよい。接触面圧低減手段6は、第1および第2の縮径部6A,6Bを含む。
【0037】
第1の縮径部6Aは、直動部21の外周面における軸心方向基端部においてこの直動部21の基端側の端面21aに向かうに従って径方向内方に縮径するテーパ形状の部分であり、軸方向に所定長さL1延びる。第2の縮径部6Bは、直動部21の外周面における軸心方向先端部においてこの直動部21の先端側の端面21bに向かうに従って径方向内方に縮径するテーパ形状の部分であり、軸方向に所定長さL2延びる。各縮径部6A,6Bのテーパ度、軸方向寸法は、例えば、試験またはシミュレーション等により定められる。
【0038】
直動部21の軸心方向中央部21cはこの直動部21の軸心方向C1に平行な円筒面を成す。直動部21がシリンダ室20aに対し収容されてブレーキロータ10(
図1)の制動を行っていないとき、直動部21の外周面のうち縮径していない前記円筒面21cは、シリンダ室20aに対向しており、シリンダ室20aに対し径方向の初期すき間δが確保されている。なお円筒面21cと各縮径部6A,6Bとはそれぞれ滑らかに段差なく繋がっている。
【0039】
図3Bに示すように、ブレーキロータ10(
図1)を制動するために直動部21をアウトボード側OSに前進させ、その反力によりキャリパ11(
図1)が弾性変形した場合において、第1および第2の縮径部6A,6Bにより、シリンダ内径と直動部21との接触を回避または接触部A1にて接触した場合でも接触面圧を下げ得る。
【0040】
<作用効果>
以上説明した電動ブレーキ装置によると、接触面圧低減手段6を備えたため、ハウジング20が弾性変形したときまたは直動部21が偏荷重を受けて傾いたときハウジング20と直動部21との接触を回避するか、またはハウジング20と直動部21とが接触した場合でも接触面圧を低減することができる。これにより、摺動面のアブレシブ摩耗または摺動面同士の固着が発生することを防止することができる。
【0041】
接触面圧低減手段6は、直動部21における第1および第2の縮径部6A,6Bを含む。このように直動部21の縮径部6A,6Bにより容易に接触面圧を低減し得るため、例えば、ハウジングの剛性を高める等の対策を講じるよりも製造コストの低減を図れる。また軸心方向基端部の第1の縮径部6Aと軸心方向先端部の第2の縮径部6Bとで接触面圧をより確実に低減することができる。
【0042】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0043】
[第2の実施形態:
図4A,
図4B]
図4Aおよび
図4Bに示すように、第1および第2の縮径部6A,6Bは、対応する端面21a,21bに向かうに従って縮径するクラウニング形状であってもよい。クラウニング形状は、単一の円弧または複数の円弧を繋ぐクラウニングであってもよく、対数クラウニングであってもよい。縮径部6A,6Bがクラウニング形状である場合、テーパ形状である場合よりも精度よく接触面圧を低減し得る。その他前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0044】
[第3の実施形態:
図5]
図5に示すように、接触面圧低減手段6は、直動部21における軸心方向基端部の第1の縮径部6Aと、ハウジング20のシリンダ室20aに形成された拡径部20aaとを有するものであってもよい。拡径部20aaは、シリンダ室20aにおける軸心方向先端部においてこのシリンダ室20aの開口端に向かうに従って径方向外方に拡径する。この例の拡径部20aaは、前記開口端に向かうに従って拡径するテーパ形状であるが、前述のクラウニング形状であってもよい。この拡径部20aaと、直動部21の第1の縮径部6Aとで接触面圧をより確実に低減することができる。
【0045】
[第4の実施形態:
図6]
図6に示すように、接触面圧低減手段6は、直動部21における基端側の第1の縮径部6Aと、ハウジング20のシリンダ室20aに設けられた弾性体Dbとを有するものであってもよい。弾性体Dbは、シリンダ室20aにおける軸心方向先端部に設けられた断面矩形状の環状体であり、ゴム、樹脂または直動部の外周面より低硬度の金属から成る。シリンダ室20aに形成された環状溝20abに弾性体Dbが取り付けられた状態において、弾性体Dbの内周面が直動部21の外周面における軸心方向先端部に摺接する。この軸心方向先端部は円筒状である。
【0046】
前記弾性体Dbにより直動部21が案内されることにより、ハウジング20と直動部21との間の偏角が小さくなり、ハウジング20と直動部21との接触を回避するか、またはハウジング20と直動部21とが接触した場合でも接触面圧を低減することができる。また前記弾性体Dbと直動部20の第1の縮径部6Aとで接触面圧をより確実に低減することができる。
【0047】
[参考提案例:
図7]
図7に示すように、接触面圧低減手段6は、シリンダ室20aに設けられた弾性体Dbのみから成るものであってもよい。この弾性体Dbは、前記第4の実施形態における弾性体Db(
図6)と同様の構成である。この場合にも、弾性体Dbにより直動部21が案内されることにより、ハウジング20と直動部21との間の偏角が小さくなり、ハウジング20と直動部21との接触を回避するか、またはハウジング20と直動部21とが接触した場合でも接触面圧を低減することができる。また直動部21の縮径部を省略できるため、第4の実施形態よりも構造を簡単化できコスト低減を図れる。
【0048】
直動機構は、遊星ローラねじ式の直動機構に限定されるものではなく、例えば、ボールねじ機構等を採用し得る。
減速機構を省略し回転駆動源の回転運動を直接、直動機構に伝達するいわゆるダイレクトモータ式の直動アクチュエータとしてもよい。
電動ブレーキ装置は、フローティング型ブレーキに限定されるものではなく対向ピストン型の電動ブレーキ装置であってもよい。
第1,第2の縮径部はクラウニング形状とテーパ形状の組み合わせとしてもよい。また少なくともいずれか一方の縮径部と、シリンダ室の拡径部がクラウニング形状とテーパ形状の組み合わせであってもよい。
【0049】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1…直動アクチュエータ、2…直動機構、6…接触面圧低減手段、6A…第1の縮径部、6B…第2の縮径部、10…ブレーキロータ、13,14…摩擦パッド、20…ハウジング、20a…シリンダ室、20aa…拡径部、21…直動部、24…電動モータ(回転駆動源)、30…減速機構、Db…弾性体