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特開2024-46163シリコーンエラストマー及びシリコーンポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046163
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】シリコーンエラストマー及びシリコーンポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/16 20060101AFI20240327BHJP
   C08G 77/26 20060101ALI20240327BHJP
   C08G 77/38 20060101ALI20240327BHJP
   C08G 18/61 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
C08G77/16
C08G77/26
C08G77/38
C08G18/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151389
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 真
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】高木 凡子
(72)【発明者】
【氏名】和田 賢介
【テーマコード(参考)】
4J034
4J246
【Fターム(参考)】
4J034BA03
4J034BA07
4J034DA01
4J034DB05
4J034DB07
4J034DC25
4J034DM01
4J034DM05
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J246AA03
4J246AB01
4J246BA02X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA01U
4J246CA01X
4J246CA24X
4J246CA53M
4J246CA53X
4J246CA54M
4J246CA54X
4J246CA56M
4J246CA56X
4J246CA66X
4J246CA78X
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA222
4J246FA441
4J246FB041
4J246FC162
4J246GC53
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】低弾性率と高電気抵抗を損なうことなく比誘電率を高めたシリコーンエラストマーと、その前躯体としての反応性の高いシリコーンポリマーを提供する。
【解決手段】側鎖に、シアノ基又は環状カーボネート基と、ヒドロキシ基を有するシリコーンポリマー。前記ヒドロキシ基を有する側鎖は、複数のヒドロキシ基を有することが好ましい。前記シリコーンポリマーが、架橋剤により架橋されてなるシリコーンエラストマー。架橋剤はイソシアネートが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に、シアノ基又は環状カーボネート基と、ヒドロキシ基を有するシリコーンポリマー。
【請求項2】
前記ヒドロキシ基を有する側鎖は、複数のヒドロキシ基を有する請求項1記載のシリコーンポリマー。
【請求項3】
前記ヒドロキシ基を有する側鎖には、ヒドロキシ基と主鎖との間にエーテル結合が存在する請求項1記載のシリコーンポリマー。
【請求項4】
0
請求項1~3のいずれか一項に記載のシリコーンポリマーが、架橋剤により架橋されてなるシリコーンエラストマー。
【請求項5】
前記架橋剤は、イソシアネートである請求項4記載のシリコーンエラストマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンエラストマーとその前躯体であるシリコーンポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エラストマーに電極を付けてなる誘電エラストマーアクチュエータや誘電エラストマーセンサに使用されるエラストマーには、低弾性率、高電気抵抗、高比誘電等の特性が求められる。シリコーンエラストマーは、低弾性率、高電気抵抗、高耐湿性という特長があるが、比誘電率が低いという課題がある。
【0003】
この課題に対して、特許文献1では、フィラーを充填することで高誘電化したシリコーンエラストマーを開示している。しかしながら、フィラーを充填することは、低弾性率が損なわれる点で好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-173691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、低弾性率と高電気抵抗を損なうことなく比誘電率を高めたシリコーンエラストマーと、その前躯体としての反応性の高いシリコーンポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の側鎖官能基がシリコーンの比誘電率に影響することを見出し、鋭意検討の結果、次の課題解決手段に到った。
【0007】
[1]シリコーンポリマー
側鎖に、シアノ基又は環状カーボネート基と、ヒドロキシ基を有するシリコーンポリマー。
【0008】
(作用)
側鎖に極性の高いシアノ基又は環状カーボネート基を有することにより、比誘電率が高まる。
側鎖にヒドロキシ基を有することにより、架橋剤により架橋してエラストマーとする際の反応性が高まる。
【0009】
[2]シリコーンエラストマー
前記シリコーンポリマーが、架橋剤により架橋されてなるシリコーンエラストマー。
【0010】
(作用)
側鎖に極性の高いシアノ基又は環状カーボネート基を有するシリコーンポリマーが架橋されていることにより、シリコーンエラストマーの低弾性率と高電気抵抗が損なわれることなく、比誘電率が高まる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコーンエラストマーは、低弾性率と高電気抵抗を損なうことなく、比誘電率を高めることができる。
本発明のシリコーンポリマーは、高比誘電率であるとともに、架橋剤により架橋してエラストマーとする際の反応性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.シリコーンポリマー
シリコーンポリマーの分子量は、特に限定されないが、材料の相溶性の点で、更に、官能基の配向運動を阻害しにくい低分子の方が電場分極配向がし易く誘電率が高くなると考えられるという観点から、比較的低分子(モノマーが20以下)のポリシロキサンが好ましい。
【0013】
前記ヒドロキシ基を有する側鎖は、複数のヒドロキシ基を有することが好ましい。前記架橋の際の反応性をさらに高めることができるからである。2つのヒドロキシ基(グリコール)を有する側鎖、3つのヒドロキシ基を有する側鎖等を例示できる。
【0014】
前記ヒドロキシ基を有する側鎖には、ヒドロキシ基と主鎖との間にエーテル結合が存在してもよい。反応時の立体障害を緩和して、架橋を促進させる可能性がある。更に、エーテル結合は、炭素鎖に導入すると鎖の運動性を高め、官能基の電場配向分極を容易にする効果が期待できる。
【0015】
4.シリコーンエラストマー
架橋剤としては、特に限定されないが、イソシアネートが好ましい。前記シリコーンポリマーとの反応性が高いからである。イソシアネートとしては、特に限定されないが、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等を例示できる。
【0016】
シリコーンエラストマーの用途としては、特に限定されないが、誘電エラストマーアクチュエータや誘電エラストマーセンサ等を例示できる。
【実施例0017】
以下、本発明を具体化した実施例について比較例と共に説明する。
【0018】
(1)実施例1
次のスキームに示した方法によるシリコーンポリマーの合成を経て、シリコーンエラストマーを作製した。
【0019】
【化1】
【0020】
(1-1)側鎖にシアノ基を有するシリコーンポリマーの合成
上記スキームの左半部に示すように、窒素グローブボックス内でシュレンク管にジメトキシメチルシラン1.52g、メタノール(超脱水)3g、3-シアノプロピルジメトキシシラン10gを混合し、シュレンク管を真空ラインに接続し、窒素雰囲気、撹拌下、-10℃アイスバスで冷却を行った。氷冷した濃硫酸水溶液(190μl/水2.6ml)を加え、窒素雰囲気、撹拌下、45℃、20時間攪拌した。ジクロロメタン40mlを加え溶かし、飽和炭酸水素ナトリウムで中和し、水を加えて有機層を洗浄した。これを3回行った。有機層を回収し、ロータリーエバポレーターで揮発分を除去し、終夜真空乾燥して8.3gの重合体を得た。得られた粘性液体に、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン1.61g、アセトニトリル8gを加え攪拌し4時間反応後、溶媒留去及び真空乾燥を行った。得られたポリマーをクロロホルム50mlに溶解し、へキサン100mlを加えて再沈殿し、分離し、濃縮・真空乾燥して、側鎖にシアノ基を有するシリコーンポリマー5.8gを得た。
【0021】
(1-2)側鎖にシアノ基とヒドロキシ基を有するシリコーンポリマーの合成
上記スキームの右半部に示すように、上記(1-1)で得た側鎖にシアノ基を有するシリコーンポリマー3.91g(1.7mmolSi-H/gなので6.6mmol、Si-H相当)、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール1.18g、トルエン(超脱水)5g、白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体 キシレン溶液(Pt ~2%)10μlをグルーブボックス内でシュレンク管に投入し、窒素雰囲気下100℃、5時間反応させた。NMRでSi-H(~4.6ppm)消失を確認し、ジクロロメタン60mlに溶解した。有機層を水10mlで4回洗浄し、回収した有機層の溶媒を留去し、60℃で真空乾燥した。得られた固形分をクロロホルム40mlに溶解し、撹拌下にヘキサン80mlで再沈殿した。下層をろ過、エバポレーションした後、60℃で4時間真空乾燥して、シアノ基を有する側鎖と2つのヒドロキシ基(グリコール)を有する側鎖とを含むシリコーンポリマー4.0gを得た。
【0022】
(1-3)シリコーンエラストマーフィルムの作製
上記(1-2)で得た側鎖にシアノ基とグリコール基を有するシリコーンポリマー(2.3mmol/gOH)0.238gと、変性シリコーンオイル(信越化学工業製、商品名:KF-6000)0.350g、テトラヒドロフラン(THF)1.300g、スズ触媒溶液(3wt%トルエン溶液)0.008g、シリコーン添加剤(30wt%トルエン溶液)0.027gを加えた溶液を攪拌した後、イソシアネート(旭化成社製、商品名:デュラネートTSS-100)0.220gを加えて攪拌した。こうして得られた溶液を基板フィルム上に塗布し、加熱真空乾燥、硬化させて、シリコーンエラストマーフィルムを作製した。
【0023】
(2)実施例2
次のスキームに示した方法によるシリコーンポリマーの合成を経て、シリコーンエラストマーを作製した。
【0024】
【化2】
【0025】
(2-1)環状カーボネート基を有するジメトキシシラン誘導体の合成
上記スキームの左部に示すように、ビニルカーボネート12g(0.105mol),白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体 キシレン溶液(Pt ~2%)5μl、脱水トルエン10gを混合し、窒素雰囲気下でジメトキシメチルシラン17ml(0.137mol)を適宜氷冷しながら10分かけて加えた。30分室温で撹拌後、60℃で3時間加熱した。NMRで反応終了を確認した。室温で20時間真空乾燥し、環状カーボネート基を有するジメトキシシラン誘導体19.84g(0.090mol)を得た。
【0026】
(2-2)側鎖に環状カーボネート基を有するシリコーンポリマーの合成
上記スキームの中央部に示すように、上記(2-1)で得た環状カーボネート基を有するジメトキシシラン誘導体12g(54.5mmol)、ジメトキシメチルシラン1.45g(13.6mmol)、脱水メタノール5gを窒素雰囲気下で混合し、-10℃に冷却した。撹拌下に硫酸水溶液(濃硫酸0.36mlと水5mlの混合物)を3.1ml加え、30分冷却を継続した後、室温で12時間撹拌した。メトキシトリメチルシラン1mlを加え、30分室温で撹拌した。飽和炭酸ナトリウム水溶液で中和し、溶媒を留去した。ジクロロメタン60mlを加え、水20mlで洗浄を4回行った。エバポレーションした後、40℃で2日間真空乾燥して、側鎖に環状カーボネート基を有するシリコーンポリマー10.07gを得た。NMRの積分比から共重合比、架橋基当量を求めた。
【0027】
(2-3)側鎖に環状カーボネート基とヒドロキシ基を有するシリコーンポリマーの合成
上記スキームの右部に示すように、上記(2-2)で得た側鎖に環状カーボネート基を有するシリコーンポリマー6.52g(4.7mmol Si-H相当)、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール1g(7.6mmol)、脱水トルエン5g、白金(0)-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体 キシレン溶液(Pt ~2%)10μlを窒素雰囲気下で混合し、70℃で5時間加熱撹拌した。真空乾燥した後、酢酸エチル40mlに溶解し、水10mlで3回洗浄した。エバポレーションした後、60℃で真空乾燥して、環状カーボネート基を有する側鎖と2つのヒドロキシ基(グリコール)を有する側鎖とを含むシリコーンポリマー6.87gを得た。NMRの積分比から共重合比、架橋基当量を求めた。
【0028】
(2-4)シリコーンエラストマーフィルムの作製
上記(2-3)で得た側鎖に環状カーボネート基とグリコール基を有するシリコーンポリマー(1.0mmol/gOH)0.238gと、変性シリコーンオイル(上記KF-6000)0.350g、THF1.300g、スズ触媒溶液(3wt%トルエン溶液)0.008g、シリコーン添加剤(30wt%トルエン溶液)0.027gを加えた溶液を攪拌した後、イソシアネート(上記デュラネートTSS-100)0.220gを加えて攪拌した。こうして得られた溶液を基板フィルム上に塗布し、加熱真空乾燥、硬化させて、シリコーンエラストマーフィルムを作製した。
【0029】
(3)比較例1
変性シリコーンオイル(上記KF-6000)5.00g、トルエン2.80g、スズ触媒溶液(3wt%トルエン溶液)0.021g、表面調整剤ヒュームドシリカ(30wt%トルエン溶液)0.064gを加えた溶液を攪拌した後、イソシアネート(東ソー社製、商品名:ミリオネートMR-200)1.44gを加えて攪拌し、得られた溶液を基板フィルム上に塗布した。加熱真空乾燥、硬化させてシリコーンエラストマーフィルムを作製した。
【0030】
(4)比較例2
市販の工業用シリコーンエラストマーフィルム(旭化成ワッカーシリコーン社製、商品名:ELASTOSIL 2030)を使用した。
【0031】
(5)比較例3
市販の2液型液状シリコーンゴム(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:Silopren LSR2540)を基板フィルム上に塗布し、加熱硬化してシリコーンエラストマーフィルムを作製した。
【0032】
以上のとおり作製した実施例1,2及び比較例1,2,3の各シリコーンエラストマーフィルムに金電極を蒸着形成し、インピーダンスアナライザー(エヌエフ回路設計ブロック社製、機器名:ZA57630)にて静電容量を測定した後、比誘電率を算出した。また、各シリコーンエラストマーフィルムの体積抵抗率(常温常湿)を、JIS C2139に準拠して測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0033】
【0034】
実施例1,2の比誘電率が、比較例1,2,3に対して顕著に高い。これは側鎖官能基が、比較例1,2,3ではメチル基であるのに対して、実施例1ではシアノ基であり、実施例2では環状カーボネート基であることに起因すると考えられる。
また、実施例1,2の体積抵抗率は、比較例1,2,3に対してはやや低いが、シリコーンエラストマー本来の高電気抵抗を損なってはいない。
なお、実施例1,2は柔軟性に富んでおり、シリコーンエラストマー本来の低弾性率を損なってはいない。
【0035】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。