(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046208
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】米飯用品質改良剤、並びに、これを用いた米飯及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240327BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151455
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】500015984
【氏名又は名称】清田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】石川 瑠菜
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE11
4B023LE14
4B023LE16
4B023LG01
4B023LG04
4B023LK04
4B023LK17
4B023LL01
4B023LP03
4B023LP05
4B023LP08
4B023LP10
(57)【要約】
【課題】食品業界の要求に対応できる米飯の食感と長時間の食感安定性を改善することのできる米飯用品質改良剤、並びに、これを用いた米飯及びその製造方法を提供する。
【解決手段】米飯用品質改良剤は、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼと、ペクチナーゼとを含有する。このペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まず、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素であってもよい。また、このペクチナーゼは、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有する酵素であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼと、ペクチナーゼとを含有することを特徴とする米飯用品質改良剤。
【請求項2】
前記α-アミラーゼは、エンド型酵素であることを特徴とする請求項1に記載の米飯用品質改良剤。
【請求項3】
前記グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とする請求項1に記載の米飯用品質改良剤。
【請求項4】
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の米飯用品質改良剤。
【請求項5】
前記ペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないことを特徴とする請求項4に記載の米飯用品質改良剤。
【請求項6】
前記ペクチナーゼは、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の米飯用品質改良剤。
【請求項7】
請求項5に記載の米飯用品質改良剤を使用して製造したことを特徴とする米飯。
【請求項8】
請求項6に記載の米飯用品質改良剤を使用して製造したことを特徴とする米飯。
【請求項9】
米飯を製造する際に、米の浸漬処理、炊飯処理、蒸飯処理など、米の処理工程において、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼを作用させると共に、ペクチナーゼを併用して作用させることを特徴とする米飯の製造方法。
【請求項10】
前記α-アミラーゼは、エンド型酵素であることを特徴とする請求項9に記載の米飯の製造方法。
【請求項11】
前記グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とする請求項9に記載の米飯の製造方法。
【請求項12】
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することを特徴とする請求項9~11のいずれか1つに記載の米飯の製造方法。
【請求項13】
前記ペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないことを特徴とする請求項12に記載の米飯の製造方法。
【請求項14】
前記ペクチナーゼは、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有することを特徴とする請求項9~11のいずれか1つに記載の米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感や食感安定性などの米飯の品質を改良するための米飯用品質改良剤、並びに、これを用いた米飯及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米飯は、炊飯後の経時的な澱粉の老化によるパサつきや硬さなどが生じ、食感が落ちる。常温でも炊飯24時間後にはパサつきが生じ、硬くもろくなる。また、冷蔵ではその傾向が早まり、より硬くボソついた食感となる。なお、一口に米飯といっても、白米で食べる白飯と、ピラフやチャーハンなどの調理飯とでは、求める食感の方向性が異なる。従って、求める食感毎に、それにあった米飯製造技術が必要となる。しかし、求める食感と老化に対する経時的な安定性を保つことは、非常に困難であった。
【0003】
また、食品業界においては、米飯の表面の乾きや老化をより高い状態で防止し、製品の歩留まりを増加させ、経済性の観点から炊飯時の加水を増加させることも行われている。この方法においては、時間が経ったのちの米飯の表面の乾きや老化による食感の変化に対しては一定の効果が認められる。しかし、炊飯時の加水を増やすことで、米粒が水を抱ききれず、炊飯直後の白飯には表面のべたつきがでるという問題があった。また、炊飯直後の米飯が柔らかくべたつくことは、おむすびや寿司の握りにくさなどの成形性の課題としての問題があった。
【0004】
また、炊飯時の加水を増加させると、業務用の大型炊飯器では、水自体の重みにより釜内対流が悪くなり、釜の上部・中部・下部で品質が異なることとなる。特に、釜の下部の米飯に関しては、米の潰れが大きくなる。このように、釜内の場所によって白飯の品質に振れが生じ、業務用の安定生産が困難であるという問題があった。
【0005】
なお、米飯の炊飯後の良好な食感を経時的に維持する方法として、pH調整剤、炊飯油、デンプン改質酵素(α-アミラーゼ)などを併用する方法が行われている。しかし、食感安定性が十分ではなく、また違和感のある呈味が付与される、食品添加物表示を必要とするなどの問題があった。なお、デンプン改質酵素による方法は、多く検討され一定の評価があるものの、冷蔵時の老化に関しては十分なものではなかった。
【0006】
そこで、本発明者らは、下記特許文献1において、広くデンプンを含有する原材料を利用する食品用に食品性能改良剤を提案し、特定の酵素を使用することにより米飯についても経時的な食感の改良ができることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1においては、米飯についても炊飯後の経時的な食感の改善は認められた。しかし、食品業界における米飯においては、更に長時間の食感安定性が好ましい。なお、現在の米飯は、日本国内のみに留まらず、東南アジアはもちろん欧米にも普及しており、国や地域によって輸送時間の大幅な延長にも耐えうることが求められる。また、上述のように、求める食感と老化の改善、炊飯直後の白飯の表面のべたつきの改善、おむすびや寿司の成形性の改善、更には、業務用の大型炊飯器での釜内対流の改善など、米飯の食感と食感安定性に関する多くの問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、食品業界の要求に対応できる米飯の食感と長時間の食感安定性を改善することのできる米飯用品質改良剤、並びに、これを用いた米飯及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、複数種類の酵素を使用した場合の相乗効果に着目することにより、米飯の食感と長時間の食感安定性を改善できることを見出して本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明に係る米飯用品質改良剤は、請求項1の記載によれば、
α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼと、ペクチナーゼとを含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の米飯用品質改良剤であって、
前記α-アミラーゼは、エンド型酵素であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1に記載の米飯用品質改良剤であって、
前記グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載の米飯用品質改良剤であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項4に記載の米飯用品質改良剤であって、
前記ペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載の米飯用品質改良剤であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る米飯は、請求項7の記載によれば、
請求項5に記載の米飯用品質改良剤を使用して製造したことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る米飯は、請求項8の記載によれば、
請求項6に記載の米飯用品質改良剤を使用して製造したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る米飯の製造方法は、請求項9の記載によれば、
米飯を製造する際に、米の浸漬処理、炊飯処理、蒸飯処理など、米の処理工程において、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼを作用させると共に、ペクチナーゼを併用して作用させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項10の記載によれば、請求項9に記載の米飯の製造方法であって、
前記α-アミラーゼは、エンド型酵素であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項11の記載によれば、請求項9に記載の米飯の製造方法であって、
前記グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、請求項12の記載によれば、請求項9~11のいずれか1つに記載の米飯の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、請求項13の記載によれば、請求項12に記載の米飯の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、請求項14の記載によれば、請求項9~11のいずれか1つに記載の米飯の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
上記構成によれば、本発明に係る米飯用品質改良剤は、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼと、ペクチナーゼとを含有する。また、α-アミラーゼは、エンド型酵素であることが好ましい。また、グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することが好ましい。また、ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することが好ましい。
【0026】
なお、このペクチンメチルエステラーゼ活性を有するペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないものであってもよい。また、ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性の代わりにペクチントランスエリミナーゼ活性を有するものであってもよい。これらのことにより、各酵素の相乗効果により、食品業界の要求に対応できる米飯の食感と長時間の食感安定性を改善することのできる米飯用品質改良剤を提供することができる。
【0027】
また、上記構成によれば、本発明に係る米飯は、上述の米飯用品質改良剤を使用して製造する。また、上記構成によれば、本発明に係る米飯の製造方法は、米飯を製造する際に、米の浸漬処理、炊飯処理、蒸飯処理など、米の処理工程において、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼを作用させると共に、ペクチナーゼを併用して作用させて製造する。また、α-アミラーゼは、エンド型酵素であることが好ましい。また、グルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有することが好ましい。また、ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することが好ましい。
【0028】
なお、このペクチンメチルエステラーゼ活性を有するペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まないものであってもよい。また、ペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性の代わりにペクチントランスエリミナーゼ活性を有するものであってもよい。これらのことにより、食品業界の要求に対応できる米飯の食感と長時間の食感安定性を改善することのできる米飯及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1における炊飯直後の米飯の表面状態(カニ穴の状態)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において米飯とは、炊飯による米飯だけではなく、蒸米によるおこわ(御強)、炊飯直後に調整した酢飯、チャーハン、成形したおにぎり、炊き込みご飯、これらの冷凍食品、無菌米飯のような長期保存が効く即席食品などの米を調理したもの全般をいうものとする。また、本発明に係る米飯用品質改良剤を使用して調理する米の種類は、特に限定するものではなく、ジャポニカ米・インディカ米・ジャバニカ米のいずれであってもよい。また、米の精米度合いについても、特に限定するものではなく、米の精米度合いに合わせて使用する酵素の組み合わせと量を適宜選定すればよい。
【0031】
本発明に係る米飯用品質改良剤は、作用の異なる少なくとも2種類の酵素を併用することを特徴とする。第1の種類の酵素としては、α-アミラーゼを使用、グルコシルトランスフェラーゼを使用、α-アミラーゼとグルコシルトランスフェラーゼの両方を使用、のいずれかを採用する。また、第2の種類の酵素としては、ペクチナーゼを使用する。なお、これら第1の種類及び第2の種類の酵素を併用することに加え、必要により他の作用を有する酵素を更に併用してもよい。
【0032】
本発明において使用するα-アミラーゼは、粗酵素の状態であってもよく、複合酵素のアミラーゼであってもよい。また、本発明において使用するα-アミラーゼは、その基原を特に限定するものではない。α-アミラーゼの基原としては、例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus Licheniformisなどが挙げられる。
【0033】
なお、本発明において使用するα-アミラーゼは、エンド型酵素であることが好ましい。エンド型α-アミラーゼは、デンプンやグリコーゲンのα-1,4-グルコシド結合を不規則に加水分解し、低分子の可溶性デキストリンを生成する。
【0034】
また、本発明において使用するグルコシルトランスフェラーゼは、グルコシル基転移酵素であってグルコース残基の転移を触媒する。グルコシルトランスフェラーゼに分類される酵素には、多種の酵素がある。本発明においては、これらの中でも、α-グルカノトランスフェラーゼが好ましい。また、α-グルカノトランスフェラーゼとしては、例えば、4-α-グルカノトランスフェラーゼや6-α-グルカノトランスフェラーゼなどが挙げられる。
【0035】
また、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼを使用することが特に好ましい。4-α-グルカノトランスフェラーゼは、1,4-α-グルカンの一部分をグルコース又は1,4-α-グルカンなどの炭化水素の別部分に転移させる化学反応を触媒する。なお、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼは、米粒を構成するデンプンを基質として改質する。具体的には、デンプンに含まれるアミロースやアミロペクチンを基質として、これを改質して分子鎖を長くし、また、分枝させるなどの機作を有している。また、本発明においては、4-α-グルカノトランスフェラーゼの基原について特に限定するものではないが、特に耐熱性に優れた酵素を使用することが好ましい。
【0036】
また、本発明において使用するペクチナーゼは、粗酵素の状態であってもよく、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチントランスエリミナーゼなど複数の活性を有する複合酵素であってもよい。また、本発明において使用するペクチナーゼは、その基原を特に限定するものではない。ペクチナーゼの基原としては、例えば、Aspergillus kawachii、Aspergillus usamii mutant shirousamii、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus tamarii、Aspergillus niger、Aspergillus awamori、Aspergillus pulverulentus、Aspergillus aculeatus、Trichoderma viride、Rhizopus oryzaeなどが挙げられる。
【0037】
なお、本発明において使用するペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することが好ましい。その点からは、ペクチンメチルエステラーゼ活性の強い酵素、或いは、ペクチンメチルエステラーゼとして分画された酵素であってもよい。更に、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有するペクチナーゼは、ペクチン鎖を分解するポリガラクチュロナーゼ活性とペクチンリアーゼ活性とを実質的に含まず、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有することがより好ましい。
【0038】
ここで、ペクチンメチルエステラーゼ活性とは、ペクチンを基質として、ペクチン分子鎖を分解することなく、メトキシル基を脱メチル化してカルボキシル基とする。よって、本発明においては、デンプンと共に含まれるペクチンを低メチルエステル含量の多い(ガラクツロン酸含量の多い)ペクチンに改質する作用を有する。
【0039】
そこで、本発明者らは、ペクチンメチルエステラーゼ活性の作用を次のように考えた。米粒の表面にはペクチンを有する層が多く、ペクチンメチルエステラーゼ活性の作用でデンプンと併存するペクチンの負電荷が増加してより親水性とする。また、静電的な反発力の増大によりデンプン中のアミロースやアミロペクチン、特にアミロース同士の水素結合を阻害するなどの作用が考えられる。よって、ペクチンメチルエステラーゼ活性を有するペクチナーゼが米粒の表面の層を緩めることにより、ペクチナーゼと併用するα-アミラーゼ、グルコシルトランスフェラーゼの作用効果が増大する。
【0040】
また、本発明において使用するペクチナーゼは、ペクチンメチルエステラーゼ活性の代わりに、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有するものであってもよい。なお、必要により、ペクチンメチルエステラーゼ活性と共にペクチントランスエリミナーゼ活性を有するものであってもよい。なお、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有するペクチナーゼは、粗酵素の状態であってもよく、複合酵素のペクチナーゼであってもよい。また、ペクチントランスエリミナーゼとして分画された酵素でもよい。
【0041】
ペクチントランスエリミナーゼ活性を有するペクチナーゼは、脱離酵素であって単一の酵素で直接ペクチン質を分解することができる。ペクチントランスエリミナーゼを単一で含むことで、従来の加水分解酵素によるペクチン質の分解の機構であるペクチンエステラーゼとペクチンポリガラクチュロナーゼの二種類の酵素による反応とは異なることとなる。具体的には、メチルエステル化ガラクチュロン酸の箇所にて、直接ペクチン質を分解することができる。また、その改質場所も異なる。このことにより、ペクチンポリガラクチュロナーゼやペクチンメチルエステラーゼとは異なった反応生成物が生じ、その結果食感への変化が異なるものと考えられる。
【0042】
本発明において、ペクチントランスエリミナーゼ活性を有するペクチナーゼは、特に4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有するグルコシルトランスフェラーゼと併用することにより、長時間の経時的な食感の改善に作用することが認められる。そこで、本発明者らは、ペクチントランスエリミナーゼ活性の作用を次のように考えた。米粒の表面にはペクチンを有する層が多く、ペクチントランスエリミナーゼ活性の作用でペクチン鎖が分解される。分解されたペクチン構造により、メチルエステル化ガラクチュロン酸が単分子から低分子で多く存在することとなる。その結果、水が保水されやすくなったことで、米飯からの水の脱離も抑制され、グルコシルトランスフェラーゼの浸潤が進み、作用効果が増大することで、しっとりとした食感が長時間安定する。
【0043】
本発明に係る米飯の製造方法においては、米に上述のα-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼを作用させると共に、ペクチナーゼを併用して作用させる。なお、これらの酵素を米に同時に作用させてもよい。或いは、米にペクチナーゼを併用させた後で、α-アミラーゼ及び/又はグルコシルトランスフェラーゼを作用させるようにしてもよく、その逆であってもよい。
【0044】
また、米にこれらの酵素を作用させるには、浸漬処理、炊飯処理、蒸飯処理、蒸気炊飯処理、煮込み処理、フライパン加熱処理など、米の処理工程において、これらの酵素を使用することが有効である。また、これらの処理工程を組み合わせて作用させるようにしてもよい。例えば、炊飯にあたり洗米後の米に加水する際に酵素を添加して所定時間の浸漬処理を行う。その後、酵素を含む水に浸漬した状態で炊飯処理してもよい。
【0045】
次に、本発明に係る米飯用品質改良剤を使用した米飯及びその製造方法について、各実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する各実施例にのみ限定されるものではなく、ここに挙げた具体的な米飯の種類及び使用した各酵素にのみ限定されるものではない。
【0046】
また、以下の各実施例においては、α-アミラーゼとして、Bacillus amyloliquefaciensより産生された酵素を使用した。このα-アミラーゼ(以下「α-A酵素」という)は、エンド型の酵素であった。このα-A酵素は、至適pH5.5~6.0、至適温度70℃であって、α-アミラーゼ活性(力価)を1分間にバレイショデンプンのヨウ素による呈色を10%減少させる酵素活性単位(α-AU)と定義した。
【0047】
また、以下の各実施例においては、グルコシルトランスフェラーゼとして、Aeribacillus pallidusより産生された酵素を使用した。このグルコシルトランスフェラーゼは、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性を有する酵素(以下「GTF酵素」という)であった。このGTF酵素は、至適pH7.5、至適温度50℃であって、4-α-グルカノトランスフェラーゼ活性(力価)をマルトテトラオースから1分間に1μmol のブドウ糖を生成する酵素活性単位(GTFU)と定義した。
【0048】
また、以下の各実施例においては、2種類のペクチナーゼを使用した。まず、1つ目のペクチナーゼは、Aspergillus nigerより産生されたペクチンメチルエステラーゼ活性を有する酵素(以下「PME酵素」という)であって、ポリガラクツロナーゼ活性、ペクチンリアーゼ活性を実質的に含まず、ペクチンメチルエステラーゼ活性の強い酵素であった。このPME酵素は、至適pH4.5、至適温度50℃であって、ペクチンメチルエステラーゼ活性(力価)を1分間にペクチンのメチルエステルを分解して1μmolのカルボキシル基を生成する酵素活性単位(PMEU)と定義した。
【0049】
次に、2つ目のペクチナーゼは、Aspergillus japonicusより産生されたペクチントランスエリミナーゼ活性を有する酵素(以下「PTE酵素」という)であって、ペクチントランスエリミナーゼ活性の強い酵素であった。このPTE酵素は、至適pH5.0、至適温度45℃であって、ペクチントランスエリミナーゼ活性(力価)を次のように定義した。まず、市販のペクチン試薬(ナカライテスク株式会社;商品コード26234-92)を基質とし、これをマッキルベイン緩衝液(pH5.5)に溶解した溶液(基質0.5g/100ml)を準備する。この溶液を遠心分離(3000rpm、10分間)して、その上澄み液を反応液とする。酵素活性単位(PTEU)は、40℃で10分間の反応条件下において反応液中の吸光度を60秒間に1.0増加させる酵素量とした。
【0050】
なお、本発明においては、米飯用品質改良剤の添加量(各酵素の力価)を特に限定するものではない。なお、α-A酵素については、米1g当たり0.005α-AU以上であることがよく、0.02α-AU以上であることが好ましく、0.04α-AU以上であることがより好ましい。また、GTF酵素については、米1g当たり0.0035GTFU以上であることがよく、0.005GTFU以上であることが好ましく、0.01GTFU以上であることがより好ましい。また、PME酵素については、米1g当たり0.0015PMEU以上であることがよく、0.008PMEU以上であることが好ましく、0.01PMEU以上であることがより好ましい。また、PTE酵素については、米1g当たり0.00005PTEU以上であることがよく、0.0001PTEU以上であることが好ましく、0.0004PTEU以上であることがより好ましい。
【実施例0051】
本実施例1は、米飯を対象とするものであり、α-A酵素とPME酵素とを併用するものである。米飯において、ガス釜炊飯器を使用した場合、電気炊飯器と異なり火力はとても強いものの、その火力が釜の下側などある一定方向からのみ強い状態となる。そのため、ガス釜炊飯器では、釜内対流が悪く、釜の上部・中部・下部での品質(食感)が安定しないという課題がある。更に、工場生産ラインで使用する大型ガス釜炊飯器による大量の炊飯量となると、より一層その差異は大きくなる。そこで、炊飯する際に生じる米粒表面の粘り気(おねば)を分解する目的で、α-A酵素を使用すると釜内での対流がよくなり、炊飯中に釜の上部・中部・下部の米粒が安定して混ざっていくという効果が期待される。
【0052】
本実施例1においては、炊飯する際にα-A酵素を作用させると共に、PME酵素を併用して作用させることにより、α-A酵素の効果をPME酵素が大きく増大させるという効果を確認するものである。本発明者らは、米粒の表面にはペクチンを有する層が多く、この層をPME酵素の作用で緩めることにより、α-A酵素の作用効果が増大すると考えた。また、これらの酵素を併用することにより、各酵素の添加率が低くても米飯の品質が大きく改善され、商業的にも経済性が高くなるという効果を奏することができた。更に、炊飯された米飯は、保水性、もちもち感、やわらかさなどの食感が長時間維持されるという効果をも奏することができた。
【0053】
1.炊飯操作
まず、生米(あいちのかおり)450gを水洗し、その後、水と米の合計が1,125gになるように150%加水量で水に浸けた。このように調整した実施例1の試料には、PME酵素(米1g当たり0.01PMEU)と、α-A酵素(米1g当たり0.04α-AU)とを添加した。また、比較例1-1~1-3の各試料は、
比較例1-1:各酵素を無添加、
比較例1-2:PME酵素のみ(米1g当たり0.01PMEU)、
比較例1-3:α-A酵素のみ(米1g当たり0.04α-AU)、
のような組成とした。
【0054】
その後、各試料それぞれを5合炊きガス炊飯器の通常操作にて炊飯を行った。なお、本実施例1においては、各酵素を添加してから常温~100℃の炊飯時において、特に常温から85℃程度までの間にα-A酵素、PME酵素が作用したと考えられる。
【0055】
2.評価
本実施例1において、炊飯直後の評価は、米飯の食感(官能評価)と炊飯時の釜内対流(目視評価)の両面から評価した。また、経時変化の評価は、常温保管30時間後の米飯の食感(官能評価)から評価した。
【0056】
まず、食感の評価は、保水感、もちもち感、表面のやわらかさ、表面の粘り気のなさ、の4項目を官能評価により点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。
【0057】
ここで、保水感とは、表面がみずみずしいが、米粒が水を抱きかかえている状態とし、評点が高いほど保水感が良好であり好ましい。もちもち感とは、噛み込んだ際に歯に感じるもちもちとした反発力とし、評点が高いほどもちもち感が良好であり好ましい。表面のやわらかさとは、噛み初めに歯に感じる反発力がないこととし、評点が高いほどやわらかさが良好であり好ましい。表面の粘り気のなさとは、米粒の表面に粘り気(おねば)がない状態でツルッとしており、評点が高いほど表面の粘り気がなく粒感が良好で好ましい。
【0058】
一方、炊飯時の釜内対流の評価は、炊飯後の米飯の表面状態を目視で確認し、米粒の対流の残痕(これを「カニ穴」と表現する)の数で評価した。具体的には、本実施例1で使用した釜の横断面積(炊飯後の米飯の表面積:266cm2)に対するカニ穴の数が20個以上あれば良好と評価した。
【0059】
まず、炊飯直後の評価においては、官能評価4項目の合計が14点以上あることに加え、カニ穴の数が20個以上である場合に炊飯直後Aと評価した。また、カニ穴の数が20個未満であっても、官能評価4項目の合計が14点以上を炊飯直後Bと評価した。更に、官能評価4項目の合計が14点未満9点以上を炊飯直後Cと評価し、それ以外を炊飯直後Dと評価した。
【0060】
一方、経時変化の評価においては、官能評価のみで判断し、常温保管30時間後の官能評価4項目の合計が14点以上を経時変化Aと評価した。更に、官能評価4項目の合計が14点未満9点以上を経時変化Bと評価し、それ以外を経時変化Cと評価した。
【0061】
総合評価においては、炊飯直後Aであり、且つ、経時変化Aであるものを最もよい状態として総合評価SAとした。炊飯直後の評価結果を表1に示し、経時変化の評価結果及び総合評価を表2に示す。また、炊飯直後の米飯の表面状態(カニ穴の状態)を示す写真を
図1に示す。
【0062】
【0063】
炊飯直後の米飯を評価した表1及び
図1から分かるように、各酵素を無添加とした比較例1-1(これまでの炊飯)に対して、PME酵素のみを添加した比較例1-2においては、カニ穴が認められず対流が向上したとはいえなかった。しかし、官能評価においては、比較例1-1より僅かに評価点が上がったが、米飯の食感が向上したとまではいえず、PME酵素単独の効果は不十分であった。一方、α-A酵素のみを添加した比較例1-3においては、22個のカニ穴が認められ対流が向上したと判断できた。この点では、α-A酵素の作用で米粒表面の粘り気(おねば)が分解され、釜の上部・中部・下部の米粒が安定して混ざっているものと評価できる。しかし、官能評価においては、比較例1-1と略同様の評価であり、食感が向上したとはいえず、α-A酵素単独の効果は不十分であった。
【0064】
これらの比較例に対して、PME酵素とα-A酵素とを併用した実施例1においては、31個のカニ穴が認められ、α-A酵素のみを添加した比較例1-3よりも更に対流が向上したと判断できた。この点から、PME酵素の作用で米粒の表面のペクチンを有する層が緩むことにより、α-A酵素の作用効果が増大して釜の上部・中部・下部の米粒が安定して混ざっているものと評価できる。また、実施例1の官能評価においては、合計点数が15と評価され炊飯直後の食感が大きく向上したことが分かる。その結果、本実施例1においては、官能評価及び対流評価の結果から炊飯直後Aと評価された。
【0065】
【0066】
炊飯後の米飯を常温保管30時間後に官能評価した表2から分かるように、比較例1-1,1-2,1-3においては、常温保管30時間後の食感は良好なものとはいえなかった。これに対して、実施例1の官能評価においては、合計点数が14と依然として高く評価され、常温保管30時間後の食感が比較例1-1(これまでの炊飯)に対して大きく向上したことが分かる。その結果、本実施例1においては、常温保管30時間後の官能評価の結果から経時変化Aと評価された。
【0067】
また、表1及び表2の結果から、本実施例1においては、炊飯直後及び経時変化の両面から総合評価SAと評価された。このことにより、α-A酵素とPME酵素との相乗効果により、炊飯直後及び常温保管後の米飯の性能を大きく向上させることができた。
本実施例2は、おこわ(御強)を対象とするものであり、GTF酵素とPME酵素とを併用するものである。おこわには、もちもちとした粒感が欲しいという課題がある。そこで、デンプンに含まれるアミロースやアミロペクチンを改質する目的で、GTF酵素を使用すると分子鎖を長くし分枝させるなどの効果で、もちもちとした食感がでるという効果が期待される。
本実施例2においては、蒸し機で調理する際にGTF酵素を作用させると共に、PME酵素を併用して作用させることにより、GTF酵素の効果をPME酵素が大きく増大させるという効果を確認するものである。本発明者らは、米粒(もち米、うるち米)の表面にはペクチンを有する層が多く、この層をPME酵素の作用で緩めることにより、GTF酵素の作用効果が増大すると考えた。また、これらの酵素を併用することにより、各酵素の添加率が低くてもおこわの品質が大きく改善され、商業的にも経済性が高くなるという効果を奏することができた。
調整した各試料をザルにあげ、調味液を取っておいた。その後、蒸し機としてスチームコンベクションオーブンを使用し、各試料を一般的な条件(100℃、30分、湿度100%)で蒸米した。この間、蒸米10分後に50gの調味液をかけ、更に10分後に調味液をかけた。また、蒸米後に80℃にて5分蒸らした。なお、本実施例2においては、各酵素を添加した調味液に浸漬してから常温~100℃の蒸米時において、特に常温から80℃程度までの間にGTF酵素、PME酵素が作用したと考えられる。
食感の評価は、保水感、もちもち感、表面のやわらかさ、の3項目を官能評価により点数化して評価した。具体的には、評価に熟練した4名の評価員が0点(不良)~5点(良好)で評価して平均値をとった。
ここで、保水感とは、表面がみずみずしいが、米粒が水を抱きかかえている状態とし、評点が高いほど保水感が良好であり好ましい。もちもち感とは、噛み込んだ際に歯に感じるもちもちとした反発力とし、評点が高いほどもちもち感が良好であり好ましい。表面のやわらかさとは、噛み初めに歯に感じる反発力がないこととし、評点が高いほどやわらかさが良好であり好ましい。
蒸米直後の評価は、官能評価3項目の合計が10点以上を蒸米直後Aと評価した。更に、官能評価3項目の合計が10点未満8点以上を蒸米直後Bと評価し、それ以外をCと蒸米直後評価した。同様に、常温保管30時間後の評価は、官能評価3項目の合計が10点以上を経時変化Aと評価した。更に、官能評価3項目の合計が10点未満8点以上を経時変化Bと評価し、それ以外を経時変化Cと評価した。更に、総合評価においては、蒸米直後Aであり、且つ、経時変化Aであるものを最もよい状態として総合評価SAとした。蒸米直後の評価結果を表3に示し、経時変化の評価結果及び総合評価を表4に示す。なお、炊飯直後の米飯の表面状態(カニ穴の状態)を示す写真は省略する。
蒸米直後のおこわを評価した表3から分かるように、各酵素を無添加とした比較例2-1(これまでのおこわ)に対して、PME酵素のみを添加した比較例2-2においては、僅かに評価点が上がったが、おこわの食感が向上したとまではいえず、PME酵素単独の効果は不十分であった。一方、GTF酵素のみを添加した比較例2-3においては、僅かに評価点が上がったが、おこわの食感が向上したとまではいえず、GTF酵素単独の効果は不十分であった。
これらの比較例に対して、PME酵素とGTF酵素とを併用した実施例2においては、合計点数が15と評価され蒸米直後の食感が大きく向上したことが分かる。その結果、本実施例2においては、官能評価の結果から蒸米直後Aと評価された。
蒸米後のおこわを常温保管30時間後に官能評価した表4から分かるように、比較例2-1,2-2,2-3においては、常温保管30時間後の食感は良好なものとはいえなかった。これに対して、実施例2の官能評価においては、合計点数が13.5と依然として高く評価され、常温保管30時間後の食感が比較例2-1(これまでのおこわ)に対して大きく向上したことが分かる。その結果、本実施例2においては、常温保管30時間後の官能評価の結果から経時変化Aと評価された。
また、表3及び表4の結果から、本実施例2においては、蒸米直後及び経時変化の両面から総合評価SAと評価された。このことにより、GTF酵素とPME酵素との相乗効果により、蒸米直後及び常温保管後のおこわの性能を大きく向上させることができた。