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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046229
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】攪拌槽
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/86 20220101AFI20240327BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20240327BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20240327BHJP
   B01F 35/53 20220101ALI20240327BHJP
   B01F 35/71 20220101ALI20240327BHJP
   B01F 23/43 20220101ALI20240327BHJP
【FI】
B01F27/86
B01F27/112
B01F27/90
B01F35/53
B01F35/71
B01F23/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151485
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 知帆
【テーマコード(参考)】
4G035
4G037
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AE13
4G037AA02
4G037EA04
4G078AA02
4G078BA05
4G078CA08
4G078DA01
4G078EA10
(57)【要約】
【課題】バッフルを備えた攪拌槽での添加剤の拡散性を向上させること。
【解決手段】底部と、底部の外周より筒状に立ち上る側壁部とを備えた槽本体と、前記側壁部の内側において上下方向に延びるように設けられたバッフルと、該槽本体の内部で槽内液に旋回流を発生させる攪拌装置と、前記槽内液に添加する添加剤を滴下する滴下装置とを備え、前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から90度以上330度未満移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている攪拌槽を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と、底部の外周より筒状に立ち上る側壁部とを備えた槽本体と、
前記側壁部の内側において上下方向に延びるように設けられたバッフルと、
該槽本体に収容された槽内液に旋回流を発生させる攪拌装置と、
前記槽内液に添加する添加剤を滴下する滴下装置とを備え、
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から90度以上330度未満移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている攪拌槽。
【請求項2】
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から180度以上270度以下移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている請求項1記載の攪拌槽。
【請求項3】
前記バッフルは、前記側壁部との間に隙間が形成されるように配置されている請求項1又は2記載の攪拌槽。
【請求項4】
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記添加剤の滴下位置と前記バッフルの設置位置とが同一円周上となるように配置されている請求項1又は2記載の攪拌槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は攪拌槽に関し、より詳しくは、槽本体と該槽本体の内部で槽内液に旋回流を発生させる攪拌装置とを備えた攪拌槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底筒状の槽本体の内部に収容された槽内液を攪拌する攪拌槽が各種の用途で用いられている。この種の攪拌槽としては、槽本体の他に槽内液を攪拌するための攪拌装置を有し、槽内液による旋回流が当該攪拌装置によって槽本体の内部に形成されるように構成されたものが知られている。
【0003】
上記のような攪拌槽は、医薬品の製造における化学反応などにも利用されている。攪拌槽を用いた化学反応では、槽内液に添加する薬剤などを添加剤として用い、槽内液を攪拌しつつ添加剤を混合するような操作が行われている。また、そのような方法で行われている化学反応としては、薬剤どうしの反応だけでなく、槽内液に溶解している溶質を貧溶媒を用いて晶析させるような反応なども知られている(下記特許文献1参照)。そのため、薬剤のようなものだけでなく有機溶媒や水なども、槽内液に添加される添加剤として広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-35970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
攪拌槽で槽内液に添加剤を添加するような場面では、添加剤が素早く槽内液全体に拡散して添加剤の濃度バラツキが早期に解消されることが望まれている。攪拌槽で槽内液に添加剤を添加することは、医薬品に限らず電子材料やファインケミカルなどの多岐の分野においても行われている。そして、添加剤が素早く槽内液に拡散されることは、特定の分野に限らず種々の分野で利用される攪拌槽に共通して求められている要望事項である。そのため、槽内液の流れを乱すバッフルを設けた攪拌槽が用いられたりしている。しかしながら、バッフルを用いても添加剤の拡散性を十分に向上させることは困難で、上記のような要望が十分に満たされる状況にはなっていない。そこで本発明は、バッフルを備えた攪拌槽での添加剤の拡散性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、槽内液に添加剤を滴下する位置をバッフルに対して特定の位置とすることで添加剤の拡散性が向上されることが見出された。
上記課題を解決するために本発明は、
底部と、底部の外周より筒状に立ち上る側壁部とを備えた槽本体と、
前記側壁部の内側において上下方向に延びるように設けられたバッフルと、
該槽本体の内部で槽内液に旋回流を発生させる攪拌装置と、
前記槽内液に添加する添加剤を滴下する滴下装置とを備え、
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から90度以上330度未満移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている攪拌槽、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、添加剤の拡散性を向上させ得る攪拌槽が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、攪拌槽を示した概略正面図である。
図2図2は、滴下装置の配管部の一例を示した概略側面図である。
図3図3は、図1とは異なるバッフルを備えた攪拌槽を示した概略正面図である。
図4図4は、図1でのIV-IV線矢視断面図である。
図5図5は、実施例においてPIV測定に使用した実験装置の概略図である。
図6図6は、PIV測定でのトレーサの投入位置とバッフルとの位置関係を示した概略図(平面図)である。
図7図7は、攪拌槽の鉛直方向の流速に対するPIV結果およびCFD結果を示す図である。
図8図8は、CFDによる混合・分散過程の解析結果を表した図である。
図9A図9Aは、攪拌槽内におけるトレーサの最大濃度値の推移をトレーサの投入位置ごとに示した図である。
図9B図9Bは、トレーサ濃度が0.1wt%以上となる領域の体積の推移を表した図である。
図10A図10Aは、攪拌槽内のトレーサの最大濃度値の推移を攪拌翼の種類ごとに示した図である。
図10B図10Bは、トレーサ濃度が0.1wt%以上となる領域の体積の推移を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図を参照しつつ本発明の一つの実施の形態について説明する。以下においては最終製品となる物質又は中間物質となる粒子が貧溶媒晶析法により作製される粒子製造設備に用いられる場合を例に挙げて攪拌槽を説明するが本実施形態の攪拌槽は、そのような特定の用途に限定されず各種用途に利用可能である。図1は、本実施形態における粒子製造設備100を示した概略正面図である。図にも示されているように粒子製造設備100は、攪拌槽1と、攪拌槽1に供給する添加剤AFを収容した添加剤槽5とを備えている。
【0010】
本実施形態の攪拌槽1は、槽本体10と、滴下装置20と、攪拌装置30と、バッフル40とを備えている。本実施形態の添加剤槽5は、添加剤AFを収容する収容槽51と、該収容槽51から攪拌槽1の滴下装置20に添加剤AFを供給する添加剤供給配管52と、該添加剤供給配管52における添加剤AFの流量を調整するための流量調整弁53とを備えている。
【0011】
本実施形態の攪拌槽1での前記槽本体10は、例えば、グラスライニング製のものを用いることができる。本実施形態の槽本体10は、ステンレス等の金属製であってもよく、ガラス製であってもよく、プラスチック製であってもよい。前記槽本体10は、平面視円形の底部12と、該底部12の外周縁より円筒状になって上方に延びる側壁部13と、前記底部12と上下方向に対向して前記側壁部13の上端部を塞ぐように配される平面視円形の天井部14とを備えている。本実施形態の前記槽本体10は、天井部14より上方に短い筒状となって延びる筒状部11をさらに備えている。本実施形態の槽本体10は、円筒状の側壁部13の中心軸10axが垂直方向となるように配されている。
【0012】
本実施形態の前記槽本体10は、前記底部12、前記側壁部13、及び、前記天井部14とで囲われた収容空間10cを有し、該収容空間10cに槽内液TFを収容し得るように構成されている。
【0013】
本実施形態の前記槽本体10は、縦横方向などでの大きさなどについて特に限定されるものではないが、例えば、直径(内径:D)が、0.4m以上のものが挙げられる。槽本体10の直径は、0.6m以上であってもよく、0.8m以上であってもよく、1.0m以上であってもよい。槽本体10の直径は、1.2m以上であってもよく、1.5m以上であってもよく、1.8m以上であってもよい。槽本体10の直径(D)は、例えば、4.0m以下とすることができる。槽本体10の直径は、3.0m以下であってもよく、2.7m以下であってもよい。槽本体10の直径は、2.5m以下であってもよく、2.2m以下であってもよい。
【0014】
槽本体10は、例えば、槽本体10の直径(D)の0.5倍以上の液深さで槽内液TFを収容空間10cに収容可能な高さとすることができる。槽本体10は、直径(D)の0.6倍(0.6・D)以上の液深を形成可能であってもよく、0.7倍(0.7・D)以上の液深を形成可能であってもよい。槽本体10は、直径(D)の0.8倍(0.8・D)以上の液深を形成可能であってもよく、0.9倍(0.9・D)以上の液深を形成可能であってもよい。中心軸10axの方向(上下方向)での収容空間10cの寸法は、直径(D)の0.6倍(0.6・D)以上であってもよく、0.7倍(0.7・D)以上であってもよく、0.8倍(0.8・D)以上であってもよく、0.9倍(0.9・D)以上であってもよい。槽本体10での収容空間10cの中心軸10ax方向での寸法は、例えば、直径(D)の2.0倍(2.0・D)以下とされる。該槽本体10での収容空間10cの中心軸10ax方向での寸法は、直径(D)の1.5倍(1.5・D)以下であってもよい。
【0015】
本実施形態の槽内液TFは、例えば、晶析させる化合物と除去すべき不純物とが両者に対して良好な溶解性を示す良溶媒に溶解した溶液とすることができる。一方で、添加剤AFは、前記化合物を難溶であり該化合物よりも前記不純物に対して高い溶解度を示す貧溶媒とすることができる。
【0016】
槽本体10は、収容空間10cと連通する開口部が前記天井部14の4箇所に設けられている。4つの開口部の内の一つは、ガラス板で構成された除き窓を備えた蓋体の装着されたマンホール(図示せず)である。残り3つの開口部の内の一つは、滴下装置20を取付ける滴下装置取付口14aである。残る2つは、攪拌装置30とバッフル40とをそれぞれ取り付けるための攪拌装置取付口14bとバッフル取付口14cである。
【0017】
前記攪拌装置取付口14bは、前記天井部14の概ね中央部において開口している。前記滴下装置取付口14aと、前記バッフル取付口14cとは前記攪拌装置取付口14bを間に挟んで前記天井部14の左右に分かれて配されている。槽本体10は、前記滴下装置取付口14a、前記攪拌装置取付口14b、及び、前記バッフル取付口14cのそれぞれから上方に向けて短く延びる筒状部11を更に備える。より詳しくは、前記槽本体10は、前記滴下装置取付口14aから延びる第1筒状部11a、前記攪拌装置取付口14bから延びる第2筒状部11b及び前記バッフル取付口14cから延びる第3筒状部11cを備えている。
【0018】
第1筒状部11a、第2筒状部11b及び第3筒状部11cのそれぞれには、図示されていない前記マンホールと同様に蓋体15が装着されている。該蓋体15は、それぞれの筒状部の上端縁における開口を塞ぐように筒状部11の上方に装着されている。
【0019】
本実施形態の攪拌槽1では添加剤AFを搬送するポンプなどが前記滴下装置20には備えられていない。本実施形態では、前記添加剤槽5の収容槽51が攪拌槽1の槽本体10よりも上方に配され、重力の作用により前記添加剤供給配管52を通じて槽本体10まで添加剤AFが自然流下するように攪拌槽1と添加剤槽5とがそれぞれ配置されている。粒子製造設備100は、単位時間あたり(例えば、1分間当り)に槽本体10に供給される添加剤AFが、流量調整弁53によって調製し得るように構成されている。該流量調整弁53としては、例えば、プランジャーバルブ、ボールバルブ、バタフライバルブなどが採用可能である。単位時間あたりに槽本体10に供給される添加剤AFの量は、例えば、添加剤AFが供給されている期間全体の平均値に対して、例えば、-20%~+20%の変動幅に抑えられてもよい。該変動幅は、-10%~+10%の範囲内であってもよく、-5%~+5%の範囲内であってもよく、-2%~+2%の範囲内であってもよい。
【0020】
本実施形態の攪拌槽1では、上記のような添加剤AFの定量供給をより確実なものとすべく滴下装置20に定量ポンプなどを備えさせてもよい。より詳しくは、滴下装置20は、槽本体10の手前(添加剤AFの供給方向における上流側)に設けたマグネットポンプなどを有していてもよく、該マグネットポンプにより槽本体10に単位時間あたりに供給する添加剤AFの量を制御できるように構成されていてもよい。
【0021】
本実施形態の攪拌槽1では、上記のように供給量を制御しつつ槽内液TFに添加剤AFが滴下されることが好ましい。添加剤AFは、収容空間10cに槽内液TFを収容後、攪拌装置30による槽内液TFの流動状態が安定してから当該槽内液TFに一定以上(例えば、10分以上)の時間を掛けて滴下されることが好ましい。
【0022】
本実施形態の滴下装置20は、収容空間10cに添加剤AFを導入するための配管部21として、第1筒状部11aの略中央部を通じて上下に延びる縦配管部211を備えている。滴下装置20は、該縦配管部211の下端を解放端とし、当該解放端を槽内液TFの水面の上方に位置させて当該縦配管部211より添加剤AFを滴下するよう構成されてもよい。本実施形態の滴下装置20は、例えば、図2に示すように該縦配管部211の下端部に接続され、該接続箇所より略水平に延びる横配管部212をさらに備えたものであってもよい。そして、前記縦配管部211に接続されている側とは反対側となる横配管部22の末端部に添加剤AFを槽内液TFの液面に向けて滴下する吐出口を備えていてもよい。
【0023】
本実施形態の滴下装置20は、例えば、前記縦配管部211の長さや横配管部212の長さが可変で、前記吐出口の上下方向での位置や水平方向での位置が変更自在になっていてもよい。また、滴下装置20は、第1筒状部11aに配置可能で縦配管部211の長さや横配管部212の長さが異なる複数の配管部21を有し、添加剤AFの滴下位置に応じて用いる配管部21を取替可能になっていてもよい。即ち、本実施形態の滴下装置20は、添加剤AFを滴下する位置が調節可能となるように構成されていてもよい。本実施形態の第1筒状部11aでは、当該第1筒状部11aと縦配管部211との間の隙間を塞ぐように前記蓋体15が装着されている。尚、本実施形態においては、当該隙間から晶析の状態を確認すべく、第1筒状部11aでは蓋体15を装着せずにこの隙間を開放状態のままにしてもよい。
【0024】
本実施形態の攪拌槽1は、例えば、第1筒状部11aと同じく滴下装置20を装着可能な筒状部(滴下装置取付口)を槽本体10での複数箇所に配置し、滴下装置20の装着位置を変更可能にすることで添加剤AFを滴下する位置を調節可能としてもよい。
【0025】
本実施形態の攪拌槽1では、滴下装置20による添加剤AFの滴下速度を、例えば、0.1m/s以上とすることができ、0.12m/s以上、更には0.15m/s以上としてもよい。また、滴下速度は20m/s以下とすることができ、15m/s以下、更には12m/s以下とすることができる。液面に向けて添加剤の滴下を行う滴下装置20の末端での開口の面積を「S:m」とし、滴下される添加剤が前記開口を単位時間当たりに通過する量(平均流量)を「V:m/s」とした場合、滴下速度(v:m/s)は、平均流量(V)を前記面積(S)で除した値(v=V/S)として求めることができる。
【0026】
攪拌翼32での吐出流量を「q(m/s)」とした場合、滴下装置20で単位時間あたりに滴下される添加剤の前記平均流量(V)は、吐出流量(q)との間に下記の式(A1)を満たす関係を有していることが好ましい。前記平均流量(V)は、吐出流量(q)との間に式(A2)を満たす関係を有していることがより好ましく、式(A3)を満たす関係を有していることが更に好ましい。尚、吐出流量(q)は、例えば、翼形状などから算出でき、流れ粒子法(flow-follower method)などによる解析を行って求めることができる。
V ≦ 1200・q ・・・(A1)
V ≦ 1100・q ・・・(A2)
V ≦ 1000・q ・・・(A3)
【0027】
本実施形態の攪拌装置30は、上下方向に延びて軸心周りに回転可能に設けられた回転軸31と、該回転軸31に固定された攪拌翼32と、前記回転軸31に回転動力を与える動力機(図示せず)とを備えている。攪拌装置30は、槽内液TFに対して中心軸10axの周りを周回する方向への移動を促して槽内液TFによる旋回流SFを槽本体10の内部において形成すべく用いられる。
【0028】
前記回転軸31は、第2筒状部11bの中央部を通って上下方向に延び、該第2筒状部11bの上方に装着されている前記蓋体15を貫通して蓋体15よりも上方まで延びている。本実施形態の回転軸31は、前記槽本体10での中心軸10axに沿って上下方向に延びている。回転軸31は、攪拌装置取付口14bを通って下方に延び、槽本体10の底部12に達する手前まで下方に延びている。本実施形態の攪拌翼32は、回転軸31の下部側に装着された複数枚の羽根(攪拌羽根)で構成されている。本実施形態では、少なくとも一部の羽根が収容空間10cの高さ方向中央部よりも下方に位置している。即ち、前記攪拌翼32は、少なくとも収容空間10cの下方の槽内液TFに対して運動エネルギーを与えられるように備えられている。該攪拌翼32は、例えば、3枚後退翼などであってもよい。3枚後退翼は、前記回転軸31の下端部から放射状に延びる3枚の羽根を有し、各羽根が径方向に離れて外側に向かうに従って回転軸31の回転方向に対して後退するように湾曲している。即ち、3枚後退翼では、上面視におけるそれぞれの羽根の形状が曲線的に後退している。
【0029】
攪拌翼32は、2枚の羽根を有するパドル翼であってもよい。攪拌翼32は、回転軸31から径方向外側の端部までの寸法よりも上下方向での寸法が大きなワイドパドル翼であってもよい。前記攪拌翼32は、例えば、株式会社神鋼環境ソリューションより「ツインスター」、「フルゾーン」の商品名で市販されている市販品であってもよい。
【0030】
本実施形態の攪拌装置30は、要すれば、回転軸31や攪拌翼32などを備えていないものであってもよく、槽本体10の底部12や側壁部13において槽内液TFを吸引するとともに吸い込んだ槽内液TFを中心軸10axの周りを周回する方向に吹き出して槽内液TFに旋回流SFを形成するようなものであってもよい。
【0031】
本実施形態では前記のように槽内液TFの液面に添加剤AFが滴下される。滴下された添加剤AFを槽内液TFに対して素早く拡散させる上では、旋回流SFに加えて下向流と上向流とによる上下方向での循環流CFを生じさせることが好ましい。径方向外側が回転方向に対して後退する羽根を備えた攪拌翼32を用いると、当該回転軸31を回転した際に羽根に当たる槽内液TFを径方向外側に押しやる形となり、結果として回転軸31に沿った下向流と側壁部13に沿った上向流とによる上下方向の循環流CFが生じ易い。したがって、本実施形態では径方向外側が後退した羽根を有する攪拌翼32を用いることが好ましい。また、径方向外側が後退した羽根は、収容空間10cの底部に配されることが好ましい。
【0032】
本実施形態の攪拌槽1では、攪拌装置30による槽内液TFの攪拌速度を、例えば、パドル翼や3枚後退翼においては、50rpm以上300rpm以下とすることができる。攪拌速度はパドル翼において100rpm以上としてもよく、150rpm以上としてもよい。パドル翼での攪拌速度は、200rpm以下としてもよい。また3枚後退翼において攪拌速度は、100rpm以上としてもよく、150rpm以上、更には200rpm以上としてもよい。3枚後退翼での攪拌速度は、250rpm以下としてもよい。ワイドパドル翼を用いる場合、回転数は30rpm以上としてもよく更には50rpm以上としてもよい。また、ワイドパドル翼を用いる場合、回転数は100rpm以下としてもよく80rpm以下とすることができる。攪拌装置30での単位体積当たりの攪拌動力値(Pv値)は、例えば、0.05(kW/m)以上とすることができる。Pv値は、0.1(kW/m)以上であってもよく、0.2(kW/m)以上であってもよい。Pv値は、例えば、1.5(kW/m)以下とすることができる。Pv値は、1.2(kW/m)以下であってもよく、1.0(kW/m)以下であってもよい。
【0033】
1秒当たりの攪拌翼32の回転数を「n(1/s)」とし、該攪拌翼32による混合時間を「t(s)」とした際の、これらの積である無次元混合時間(nt)は、次の数式により設定され得る。
【0034】
【数1】
【0035】
上記の式での変数は次の通りである。
nt:無次元混合時間(-)
d:翼径(m)
D:槽径(m)
qd:吐出流量数(-)
:動力数(-)
【0036】
尚、上記の数式での吐出流量数(Nqd)は、下記式により求められる。
【数2】
【0037】
上記の式での変数は次の通りである。
:吐出流量(m/s)
n:回転数(1/s)
d:翼径(m)
【0038】
本実施形態の攪拌槽1では、例えば、吐出流量数(Nqd)を3.5以上4.5以下の範囲の中での何れかの値とした上で攪拌翼32や槽本体10などの形状、及び、回転数や動力数などの運転方法の調整を図って上記式を満たすようにしてもよい。
【0039】
本実施形態のバッフル40は、上端部が前記蓋体15に固定され、該蓋体15から第3筒状部11cの中央部を通って下方に延びるように配されている。本実施形態のバッフル40は、側壁部13に接することが無いように側壁部13との間に隙間を設けて側壁部13よりも内側に配されている。バッフル40は、下端部も槽本体10の底部12に接することが無いように配されている。即ち、バッフル40は、槽本体10の天井部14より吊下げられた状態となっている。
【0040】
本実施形態のバッフル40は、端部を塞いだパイプを太さ方向(直径方向)に圧縮して扁平化にした形状を有しており、いわゆるビーバーテイル形である。本実施形態のバッフル40は、長さ方向に直交する平面で切断した際の断面形状が長円形であり、該長円形において短径となる方向(短径方向)と長径となる方向(長径方向)とを備え、短径方向と長径方向とが直交する形状を備えている。本実施形態のバッフル40は、長径方向が槽本体10の径方向に沿い、短径方向が槽本体10の周方向となるように配されている。
【0041】
本実施形態でのバッフル40は、ビーバーテイル形でなく、図3に示すような長板状のものであってもよい。また、バッフル40は、図1に示すような天井部14より吊下支持されたものでなくてもよく、図3に示すように側壁部13の内壁面から槽本体10の径方向内向きに突出するように設けられた支持材41によって支持されてもよい。長板状のバッフル40は、ビーバーテイル形のバッフルと同様に長手方向が上下方向となり、厚さ方向が槽本体10の周方向となるように配される。長板状のバッフル40も、ビーバーテイル形のバッフル40と同様に側壁部13の内壁面との間に隙間を設けた形で配置され得る。
【0042】
静止状態での槽内液TFの液深を「L0」とし、バッフル40が槽内液TFに浸漬している部分でのバッフル40の上下方向の長さを「L1」とした場合、液深(L0)に対するバッフル40の長さ(L1)の比率(L1/L0)は、例えば、0.6以上とすることができ、0.65以上としてもよく、更には0.7以上となるように配置してもよい。また、バッフル40は、比率(L1/L0)が0.9以下となるように配置してもよく、0.8以下となるように配置してもよい。バッフルが液浸に対して所定割合以上浸漬していることで槽内で被処理物が供回りすることを抑制し攪拌を促進することで被処理物の拡散性を向上させることができる。
【0043】
槽径(収容空間10cの直径)を「D(m)」とし、中心軸10axからバッフル40の径方向での中心までの距離を「R(m)」とし、径方向におけるバッフル40と側壁部13の内壁面との間の隙間寸法を「G(m)」とした場合、バッフル40は、例えば、攪拌翼32がパドル翼や3枚後退翼である場合、下記式(B)や(C)を満たすように配置される。
0.25・D ≦ R ・・・(B)
0.02・D ≦ G ・・・(C)
槽本体10の径方向におけるバッフル40と側壁部13の内壁面との間の隙間の寸法(G)は、例えば、0.01m以上0.1m以下とすることができる。隙間の寸法は0.02m以上としてもよく0.05m以下としてもよい。旋回流SFの流れ方向におけるバッフル40の前面側では槽内液TFが正圧状態になる。一方で、旋回流SFの流れ方向におけるバッフル40の背面側では負圧状態になり、槽内液TFの滞留が生じ易くなる。バッフル40と側壁部13の内壁面との間に隙間を設けることで負圧の大きさや負圧の生じる領域の広さを低減することができ、良好な攪拌性が発揮され易くなる。
【0044】
本実施形態の槽本体10には、1つのバッフル40を単独で設ける必要はなく、複数のバッフル40を設けてもよい。本実施形態では、バッフル40の数を1つのみとすることが好ましい。
【0045】
本実施形態の槽本体10でのバッフル40と、前記滴下装置20とは、当該バッフル40の位置と、添加剤AFの滴下位置とが特定の関係となるようにそれぞれ配置されている。本実施形態では、前記バッフル40と前記滴下装置20とは、前記旋回流SFとなって流動している前記槽内液TFが、前記添加剤AFの滴下された位置から90度以上330度未満移動した時点で前記バッフル40の設けられている位置に到達するように配置されている。本実施形態では、図4に示すようにバッフル40の設けられている位置と添加剤AFの滴下位置との角度θが180度となっている。
【0046】
添加剤AFの滴下位置からバッフル40の位置までの角度は、まず、槽内液TFの液面の内、添加剤AFの滴下される範囲VA1の中心点(範囲VA1の輪郭形状の図心)を求め、該中心点を添加剤AFの滴下される位置を示す仮想点VP1と設定することで求めることができる。また、前記角度θは、槽本体10の中心軸10axとバッフル40の中心点とを通る仮想線(第1仮想線VL1)と、中心軸10axと仮想点VP1とを通る仮想線(第2仮想線VL2)とを設定することで求めることができる。即ち、前記角度θは、仮想点VP1を通る水平面における第1仮想線VL1と第2仮想線との為す角度(旋回流SFの向きに第2仮想線VL2から第1仮想線VL1までの角度を求めて得られる値)として求めることができる。
【0047】
第1仮想線VL1と第2仮想線VL2との間の前記角度θは、本実施形態では、例えば、90度以上330度未満とされる。前記角度θの下限値は、90度を超えてもよい。前記角度θは、100度以上であってもよく、120度以上であってもよく、150度以上であってもよく、180度以上であってもよく、180度を超えてもよい。前記角度θの上限値は、310度以下であってもよい。前記角度θは、290度以下であってもよく、270度以下であってもよい。
【0048】
添加剤AFの滴下位置は、例えば、バッフル40の設けられている位置を通過した旋回流が30度以上移動した時点で到達する位置とすることができる。添加剤AFの滴下位置は、バッフル40の設けられている位置を通過した旋回流が50度以上移動した時点で到達する位置であってもよく、70度以上移動した時点で到達する位置であってもよく、90度以上移動した時点で到達する位置であってもよい。添加剤AFの滴下位置は、旋回流が100度以上移動した時点で到達する位置であってもよく、130度以上移動した時点で到達する位置であってもよい。
【0049】
前記バッフル40は、槽内液TFの流れを乱して槽内液TFの攪拌性を向上すべく設けられている。槽内液TFの液面に滴下された添加剤AFは、槽内液TFが静置された状態でもブラウン運動の作用などによって時間経過とともに槽内液TFの中で広がる。本実施形態では、添加剤AFが適度な広がりをもった時点でバッフル40によって槽内液TFの流れが乱されることで添加剤AFがより広範囲に素早く拡散して槽内液TFでの濃度バラツキが早期に解消される。
【0050】
バッフル40の径方向での寸法を「W(m)」とし、バッフル40の径方向での外縁から側壁部13までの距離を「G(m)」とし、更に、前記仮想点VP1(添加剤の滴下位置)から前記側壁部13までの径方向での距離を「T(m)」としたときに、本実施形態では、下記関係式(1)を満たすことが好ましい。
G≦T≦[1.2×(G+W)] ・・・(1)
本実施形態では、下記関係式(2)を満たすことがより好ましい。
G≦T≦[1.1×(G+W)] ・・・(2)
本実施形態では、前記添加剤AFの滴下位置と前記バッフル40の設置位置とが中心軸10axを中心とする一つの円周上に位置するように前記バッフル40と前記滴下装置20とが配置されることが好ましい。
【0051】
前記バッフル40と前記滴下装置20とは、「(1.1×G)≦T≦[1.2×(G+W)] ・・・(3)」を満たすようにしてもよく、「(1.1×G)≦T≦[1.1×(G+W)] ・・・(4)」を満たしてもよく、「(1.1×G)≦T≦(G+W) ・・・(5)」を満たすように配置されてもよい。
【0052】
上記のように滴下装置20とバッフル40とを適切な位置関係とすることで添加剤AFを素早く拡散させることができ、槽内液TFでの濃度バラツキが生じることを抑制することができる。貧溶媒晶析においては、滴下した貧溶媒が槽内液に対して素早く分散せず、当該貧溶媒が高濃度に存在する箇所が生じると、スケールを発生させたり、析出粒子の純度低下が生じたりするために、本実施形態の攪拌槽1を用いることが好適である。
【0053】
尚、本実施形態の攪拌槽1は、貧溶媒晶析のみならず反応晶析などにも好適に用いられ得る。本実施形態の攪拌槽1で粒子を析出させる場合、該粒子は、結晶性の化合物や化学物質以外のものであってもよい。具体的には、本実施形態の攪拌槽1は、ゾル-ゲル法での無機物粒子などの貧溶媒析出や反応析出にも好適に用いられ得る。さらに、本実施形態の攪拌槽1は、添加剤の添加によって微粒子を製造する反応であれば適用することができ、例えば所定の溶液中に単量体を滴下して高分子化合物を生成するような重合反応などにも適用できる。本実施形態の攪拌槽1は、微量成分の滴下投入による反応や高活性触媒の投入による反応などに用いることができる。
【0054】
本実施形態の攪拌槽1を用いた粒子製造方法では、
底部12と、底部12の外周より筒状に立ち上る側壁部13とを備えた槽本体10と、
前記側壁部13の内側において上下方向に延びるように設けられたバッフル40と、
該槽本体10に収容された槽内液TFに旋回流SFを発生させる攪拌装置30と、を備えた攪拌槽1を用い、前記旋回流SFを生じて流動している槽内液TFに添加剤AFを加えて該槽内液中に粒子を析出させる析出工程を備え、
該析出工程では、前記バッフルの設けられている位置から90度以上330度未満上流となる地点に前記添加剤AFを滴下する粒子製造方法を採用することができる。
【0055】
前記添加剤AFを滴下は、前記バッフルの設けられている位置から90度以上270度以下上流側であってもよい。前記添加剤AFを滴下は、前記バッフルの設けられている位置から90度を超え270度以下上流側であってもよい。前記添加剤AFを滴下は、前記バッフルの設けられている位置から180度以上270度以下上流側であってもよい。前記添加剤AFを滴下は、前記バッフルの設けられている位置と同心円上となる位置で実施してもよい。
【0056】
前記添加剤AFの滴下に際しては、単位時間当たりの滴下量を制御しつつ前記添加剤AFを槽内液TFに連続的に滴下してもよい。前記添加剤AFの滴下に際しては、滴下が完了するまで添加剤AFを連続的に滴下する必要はなく、添加剤AFを槽内液TFに供給する供給期間と添加剤AFの槽内液TFへの供給を停止する休止期間とを交互に設けてもよい。
【0057】
添加剤AFの滴下は、最適な晶析を行うために滴下することが必要な添加剤AFの総量を予備実験等で求めた上で実施してもよい。添加剤AFを滴下する総量が予測可能である場合、添加剤AFの滴下は、予測される総量に達する前に休止して、晶析の状態を確認しつつ残りの量を滴下するようにしてもよい。
【0058】
添加剤AFを滴下するのに際しては、第1供給期間と、該第1供給期間よりも後に設けられる第2供給期間とを含む複数の供給期間を設けるとともに該第1供給期間と第2供給期間との間に設けられる休止期間を設けるようにし、第1供給期間での添加剤AFの滴下量の方が第2供給期間の滴下量よりも多くなるようにしてもよい。その場合、第1供給期間での添加剤AFの滴下量は、滴下される添加剤AFの総量の50質量%以上であってもよく、75質量%以上であってもよい。第1供給期間での添加剤AFの滴下量は、例えば、総量の99%以下とされる。
【0059】
バッフル40に対して特定の位置から実施される添加剤AFの滴下は、例えば、第1供給期間のみで実施されてもよく、第2供給期間での滴下は第1供給期間とは別の箇所で実施されてもよい。
【0060】
第1供給期間と第2供給期間との間に設けられる休止期間は、例えば、1分間以上30分以下とすることができる。
【0061】
このような粒子製造方法では、本実施形態の攪拌槽1を用いることで良質な粒子を高い収率で効率良く得ることができる。
【0062】
上記においては以下の開示を含む。
【0063】
(1)
底部と、底部の外周より筒状に立ち上る側壁部とを備えた槽本体と、
前記側壁部の内側において上下方向に延びるように設けられたバッフルと、
該槽本体に収容された槽内液に旋回流を発生させる攪拌装置と、
前記槽内液に添加する添加剤を滴下する滴下装置とを備え、
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から90度以上330度未満移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている攪拌槽。
【0064】
(2)
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記旋回流となって流動している前記槽内液が、前記添加剤の滴下された位置から180度以上270度以下移動した時点で前記バッフルの設けられている位置に到達するように配置されている(1)記載の攪拌槽。
【0065】
(3)
前記バッフルは、前記側壁部との間に隙間が形成されるように配置されている(1)又は(2)に記載の攪拌槽。
【0066】
(4)
前記バッフルと前記滴下装置とは、前記添加剤の滴下位置と前記バッフルの設置位置とが同一円周上となるように配置されている請求項(1)乃至(3)の何れか1項に記載の攪拌槽。
【0067】
尚、本明細書においては、詳細な説明をこれ以上繰り返すことはしないが、上記はあくまでも例示であり、本発明の攪拌槽については本発明の効果が著しく損なわれない範囲において従来公知の技術事項を適宜採用することが可能である。即ち、本発明は上記例示に何等限定されない。
【実施例0068】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
1.攪拌槽条件
攪拌槽条件を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
攪拌翼には、株式会社神鋼環境ソリューション社製の商品名「ツインスター」と、株式会社神鋼環境ソリューション社製のオーバル型3枚後退翼と、株式会社神鋼環境ソリューション社製のワイドパドル翼(商品名「フルゾーン」)との3つを採用した。
「ツインスター」、「オーバル型3枚後退翼」では、バッフルはビーバーテイルバッフルを1本使用した。
また、「フルゾーン翼」では10%板バッフルを2本使用した。
槽内液には上水を使用し、各条件の攪拌速度は,単位体積あたりの攪拌所要動力値(Pv値)が一定となる回転数とした。
【0072】
2.実験方法
2.1 2次元PIV測定
PIV測定に使用した実験装置の概略図を図5に示す。
透明アクリル製の円筒で構成された槽本体10xと、シート光SBxを照射可能なレーザー発振器LBxを用意し、槽本体10xの側面から回転軸32xへシート光SBxをし、槽本体10xの半分の領域の流速を測定した。
測定は、高速度カメラCMxで撮影された映像をコンピュータPCxで解析することによって実施した。
流速はサンプリング数30,000点から平均値を求め、CFD結果の検証用データとして使用した。
PIV測定には株式会社フローテック・リサーチ製の2成分PIVシステムを、トレーサ粒子にはポリアミド粒子(粒径:30μm、密度:1030kg/m)を使用した。
【0073】
2.2 流動解析
CFDにはANSYS社の汎用熱流体解析コードFLUENT19.2,モデリング,メッシュ作成にはAnsys Design ModelerおよびAnsys Meshingを用いた。
乱流モデルはk-ωSSTモデルとし、混合・分散性能は以下の手法で評価した。
・最初に流れ場を作成
・各位置で10秒以上の平均流速を算出
・PIV測定結果、CFD解析結果それぞれの平均流速を比較し、CFD解析結果のバリデーションを実施
・流れ場の液表面付近に、滴下液に見立てたトレーサとして直径40mmの球形の領域を着色し、各時刻で混合、分散過程を確認
・各条件の結果を比較評価
反応にグラスライニング製の槽本体を用いる場合、槽上部のノズルから滴下する投入方法が一般的である。そのため、幾何学的相似にてスケールダウンした場合のノズル位置となる、槽中心から150mmをトレーサの設置位置とした。
トレーサの設置方位は図6に示す。
【0074】
3.結果
3.1 CFD結果のバリデーション
図7に各攪拌槽条件の鉛直方向の流速に対し、PIV結果およびCFD結果を示す。
流速を評価する攪拌槽の高さ断面は、T.L.+50mmから300mmの50mm毎に設定した。
その結果、CFDにて得られた流速はPIV結果と良好に一致することを確認できた。
【0075】
3.2 混合・分散性能
CFDによる混合・分散過程の解析結果を図8に示す。
トレーサ濃度が0.1wt%以上となる領域を着色により明示した。
【0076】
3.2.1 トレーサ設置位置の比較
ツインスター翼にて、各投入位置の混合・分散の推移を比較した。
投入位置は、バッフルの位置から周方向に30度遡った位置、90度遡った位置、180度遡った位置、330度遡った位置の4通りとした。
図9Aに攪拌槽内におけるトレーサの最大濃度値の推移、図9Bにトレーサ濃度が0.1wt%以上となる領域の体積の推移を示す。
【0077】
図9Aでは混合を開始した直後,方位30°、330°で素早く濃度が降下するが、次第に方位90°、180°と逆転することが確認できる。
バッフルに近接する方位30°、330°では、乱れた流れ場へトレーサを投入するため、混合を開始した直後にトレーサが混合、分散される。
しかし、上記のような結果となったのは、図8の0.5~1.0sec示されるように、槽上部に形成された旋回流により、時間経過とともにトレーサがバッフルより離れ、高い濃度を維持したまま旋回するためと考える。
【0078】
均一混合時のトレーサ濃度は約0.06wt%である。
そのため、混合初期はトレーサの分散が進むにつれ0.1wt%以上となる領域の体積は増加するが、分散が十分に進むと減少することとなる。
【0079】
図9Bからは、トレーサを方位180°から投入することで最も素早く分散することを確認できる。
方位180°から投入すると、トレーサが高い濃度塊のままバッフル手前より槽中心へ引き込まれ、槽下部への移流がスムーズに進行する。
槽下部へ移流されたトレーサは撹拌翼からの吐出流により槽全体への分散が促進される。
一方、方位30°、330°では槽上部でトレーサが旋回しながら分散した後にバッフルへ到達するため、槽上部から下部へのトレーサの移流が徐々に進行することとなる。
そのため、方位180°は方位30°、330°と比較し攪拌槽全体の混合、分散が早く進行したと見られる。
【0080】
3.2.2 攪拌翼の混合性能の比較
各攪拌翼の混合・分散を比較した。
トレーサの投入方位はバッフルから最も離れた方位となるツインスター翼:方位180°、3枚後退翼:方位180°、フルゾーン翼:方位90°とした。
図10Aに攪拌槽内のトレーサの最大濃度値の推移、図10Bにトレーサ濃度が0.1wt%以上となる領域の体積の推移を示す。
【0081】
図8図10A図10Bの結果より、ツインスター翼とオーバル型3枚後退翼を比較すると、ツインスター翼の混合・分散がより早く進行することが確認できる。
3.2.1項で記述したように、ツインスター翼ではトレーサがバッフル手前から槽中心へ引き込まれ、槽下部への移流が進み、槽全体へトレーサが分散する。
一方、オーバル型3枚後退翼は図8で示す通り、トレーサが槽上部で旋回しながら、徐々に槽下部へ移るため、攪拌槽全体の混合、分散の進行が遅い結果となった。
【0082】
ツインスター翼、オーバル型3枚後退翼が槽上部で旋回流を形成しながら、トレーサの混合・分散が進行するのに対し、フルゾーン翼は全く別の挙動である。
上段翼と下段翼で吐出力のバランスが調整されたフルゾーン翼は、効率の良い上下循環流を形成し、槽中心部では強い下降流を形成する。
そのため、混合が開始された直後からトレーサが槽下部へ移流され、ワイドパドル翼による強い吐出流がトレーサを混合・分散する。
その結果、最も迅速に均一混合を達成する結果となった。
【0083】
上記のように、各種の攪拌翼において方位90度以上330度未満の間において良好な攪拌性が生じることが確認できた。以上のことからも本発明によればバッフルを備えた攪拌槽での添加剤の拡散性の向上が図られることがわかる。
【符号の説明】
【0084】
1:攪拌槽:10:槽本体、12:底部、13:側壁部、14:天井部、15:蓋体、
20:滴下装置、
30:攪拌装置、31:回転軸、32:攪拌翼、
40:バッフル、
5:添加剤槽、51:収容槽、52:添加剤供給配管、流量調整弁、
100:粒子製造設備、
TF:槽内液、
AF:添加剤、
SF:旋回流、
CF:循環流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B