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特開2024-46267イヤーパッド及びこれを備えたイヤホン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046267
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】イヤーパッド及びこれを備えたイヤホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151560
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504223259
【氏名又は名称】富士ゴム化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】石川 愼一
(72)【発明者】
【氏名】福薗 大介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直斗
【テーマコード(参考)】
5D005
【Fターム(参考)】
5D005BC00
(57)【要約】
【課題】耳載せ形イヤホンを安定して装用できる構造を有したイヤーパッドの提供。
【解決手段】クッション100は、ユニット取付部10の下端面と耳介接触部20の上端面とを加硫接着して形成されており、その内部空間11の底を区画する耳介接触部20の内側部位に4本の環状溝21~24が設けられている。各環状溝の深さDは、耳介接触部20の上端面の中心Cから離れるほど深くなり、各環状溝の底部の深さTが略一定となるような大きさに設計されている。耳介接触部20は、柔らかくも安定装用が可能な適度な硬さを有する弾性材で形成されているとともに、耳介接触部20の内側部位に複数の環状溝が設けられているため、校正時には校正装置に対して、検査時には耳介に対して、クッション100を安定して装着させることができ、校正や聴覚検査を正しく行うことができる。また、良好な柔軟性を有しているため、被検者の不快感や負担を軽減することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳載せ形イヤホンのイヤーパッドであって、
第1の弾性材で形成され、前記耳載せ形イヤホンのスピーカ部に係合するユニット取付部と、
前記第1の弾性材と弾性率が異なる第2の弾性材で形成され、外面が耳介に接触する耳介接触部と
を含み、
前記ユニット取付部と前記耳介接触部とが一体的に形成されて略環状をなし、その内部に空間を有しており、
前記耳介接触部は、
前記空間を区画する部位における内縁部と外縁部との間に所定の溝が設けられている
ことを特徴とするイヤーパッド。
【請求項2】
請求項1に記載のイヤーパッドにおいて、
前記所定の溝は、
前記部位の表面の略中心を同心とした略環状の1又は複数の溝であることを特徴とするイヤーパッド。
【請求項3】
請求項1に記載のイヤーパッドにおいて、
前記所定の溝は、
前記部位の周方向に整列して配置された複数の溝であることを特徴とするイヤーパッド。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のイヤーパッドにおいて、
前記複数の溝は、
各溝の底部の厚みが略均一であることを特徴とするイヤーパッド。
【請求項5】
少なくとも、
電気信号を音に変換する音響変換ユニットと、
前記音響変換ユニットを収容するハウジングと、
前記ハウジングに取り付けられる請求項1に記載のイヤーパッドと、
を備えたイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳載せ形イヤホンのイヤーパッド、特に、オージオメータに用いられる耳載せ形イヤホンのイヤーパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
聴力検査で使用されるオージオメータ用の耳載せ形イヤホンは、一般的に、磁気回路等からなるトランスデューサユニットを収容したハウジングの片側にクッション(イヤーパッド)を備えており、クッションを被検者の耳介に押さえつけるようにして用いられる。クッションは、被検者がイヤホンを装着する際の負荷を低減するとともに、イヤホンの出力音圧を安定して耳内へ伝える役割を果たしている。クッションには、耳介の隙間からの音漏れをなくすとともに音圧の安定性を得るために、一定の柔軟性が求められる。
【0003】
また、オージオメータ用のイヤホンは、その性能を担保するために、規格(IEC60318-1)に適合した校正装置を用いて生産時及び定期の検査時に校正が実施される。イヤホンのクッションが硬いとイヤホンの質量とクッション部のバネ性による共振が検査で使用する周波数領域に発生して測定値のばらつきが大きくなり、柔らかすぎるとキャビティ等の音響条件が変わってしまい、規格に定められた校正に適合しないものが多くなる。聞こえのレベルに対して厳しい管理が求められるオージオメータ用のイヤホンにおいては、オージオメータの規格(IEC60645-1,JIS T1201-1)に適合するためにも、また、校正や聴力検査が適切に行われるためにも、クッションの柔軟性が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-169825号公報
【特許文献2】特開2009-105841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のクッションは、スポンジゴムと呼ばれる発泡させたゴムを薄皮のゴムで包み込むようにして形成することにより適切な柔軟性を持たせているが、製法が複雑であり、歩留まりも悪い。
【0006】
特許文献1には、反発弾性係数の異なるクッション材を層状に重ねた状態で接着したものを表皮で包み込んで形成されたイヤーパッドが開示されているが、このようなイヤーパッドにおいては、素材自身の硬度でクッションの柔軟性を得る必要があり、柔軟性を得るために加えることができる添加剤の量には飽和による限度があることから、実現可能な柔軟性の度合いに関して限界がある。
【0007】
また、特許文献2には、耳の周囲を覆うイヤーパッドを3層構造にし、中間層のクッション材に穴又は貫通孔を設ける構成や、中間層のクッション材に柔らかい素材を用いる構成が開示されている。このイヤーパッドは、耳覆い形イヤホンの密閉性を高めることを課題として採用されたものではあるが、このような構成により柔軟性が得られ、耳周囲の頭部の形状に柔軟に追従して密閉状態を維持することができると考えられる。しかしながら、この構造は、イヤホンを校正する際の音圧感度の安定性、ひいてはイヤホンの出力音圧の伝達の安定性を考慮した構造ではない。イヤホンの出力音圧を安定して伝達するには、音圧出力の安定性とともにイヤホンを安定して装用できることが求められる。
【0008】
そこで、本発明は、耳載せ形イヤホンを安定して装用できる構造を有したイヤーパッドの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下のイヤーパッドを採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
すなわち、本発明のイヤーパッドは、耳載せ形イヤホンのイヤーパッドであって、第1弾性材で形成され、耳載せ形イヤホンのスピーカ部に取り付けられるユニット取付部と、第1弾性材と弾性率が異なる第2弾性材で形成され、外面が耳介に接触する耳介接触部とを含み、ユニット取付部と耳介接触部とが一体的に形成されて略環状をなし、その内部に空間を有しており、耳介接触部は、上記の空間を区画する部位における内縁部と外縁部との間に所定の溝が設けられている。
【0011】
この態様のイヤーパッドによれば、耳介接触部が弾性材で形成されているとともに、内部空間を区画する耳介接触部の部位における内縁部と外縁部との間に所定の溝が設けられているため、材質により得られる柔軟性の限界を超えたさらなる柔軟性を得ることができ、イヤホンの安定した音圧出力と装用に寄与することができる。したがって、イヤホンの校正時には、イヤーパッドが校正装置に安定して密に装着され、音響負荷が一定になることから、測定値のばらつきが小さい安定した校正結果を得ることができる。また、聴力検査時には、イヤーパッドが被検者の耳に安定して装着されるため、聴力検査を適切に行うことができる。
【0012】
より好ましくは、上述した態様のイヤーパッドにおいて、所定の溝は、上記の部位の表面の略中心を同心とした略環状の1又は複数の溝である。或いは、所定の溝は、上記の部位の周方向に整列して配置された複数の溝である。
【0013】
さらに好ましくは、上述した態様のイヤーパッドにおいて、複数の溝は、各溝の底部の厚みが略均一である。
【0014】
上述した態様のイヤーパッドによれば、溝が上記の部位の径方向又は周方向に規則的に設けられており、溝の底部の厚みが略均一にされていることから、耳介に接触した部分の柔軟性が略均一となるため、被検者への負担の少ない装着感を実現することができる。また、イヤホンの使用中(校正中、聴力検査中)に、イヤーパッドをより安定して装着させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のイヤーパッドによれば、耳載せ形イヤホンを安定して装用できる構造を有したイヤーパッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態のクッション100を示す斜視図である。
図2】クッション100を取り付ける前後のスピーカユニット2を示す図である。
図3】クッション100の平面図及び側面図である。
図4】クッション100の水平断面図(図3中のIV-IV線に沿う断面図)である。
図5】クッション100の垂直断面図(図3中のV-V線に沿う断面図)である。
図6】試作した複数のサンプルの設計値及び変位量を示す表である。
図7】第1変形例のクッション200を示す水平断面図である。
図8】第1変形例のクッション200を示す垂直断面図である。
図9】第2変形例のクッション300を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0018】
〔クッションの構造〕
図1は、一実施形態のオージオメータ用の耳載せ形イヤホンのクッション(イヤーパッド)100を示す斜視図である。このうち、(A)は、イヤホンのスピーカ部に取り付けられることとなるユニット取付部10を上に向けた状態の斜視図であり、(B)は、耳介に接触することとなる耳介接触部20を上に向けた状態の斜視図である。
【0019】
クッション100は、ユニット取付部10と耳介接触部20とが一体的に形成されて略環状をなしており、スピーカ部の一部が嵌め込まれることとなる内部空間を有している。図1に示されるように、ユニット取付部10及び耳介接触部20はいずれも略環状をなしているが、ユニット取付部10の内径は耳介接触部20の内径より大きく、クッション100はユニット取付部10側がより大きく開口している。また、この開口から、耳介接触部20の表面に略環状の溝が複数設けられているのを視認できる。耳介接触部20に設けられた溝の詳細については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0020】
クッション100は、ユニット取付部10と耳介接触部20とで材質(硬度、弾性率)の異なるゴムや発泡ウレタン等の弾性材を用いて、両者をコンプレッション成型により一体成型されている。ユニット取付部10には、クッション100のイヤホンからの着脱を容易としながらも、イヤホンに対しクッション100を安定して固定させることができる程度の硬めの弾性材が用いられる。また、耳介接触部20には、検査時に被検者の不快感が少なく且つ安定して装用ができる程度の硬さを有した、ユニット取付部10よりも柔らかい弾性材が用いられる。
【0021】
具体的には、例えば、シリコンコンパウンドに添加剤を加えて柔らかさを調整した硬度の異なるシリコンゴムが用いられ、耳介接触部20がゴム硬度20度のシリコンゴムでコンプレッション成型された後に、ユニット取付部10がゴム硬度60度のシリコンゴムでコンプレッション成型されると同時に耳介接触部20との加硫接着がなされることで、ユニット取付部10と耳介接触部20とが一体成型される。
【0022】
このように、本実施形態においては、クッション100がコンプレッション成型により製造されるため、スポンジゴムに薄皮のゴムを被せる従来のクッションの構造と比較して、製造工程がシンプルで容易に製造することができ、したがって歩留まりを改善することができる。
【0023】
なお、説明の便宜のため、以下の図面においては、クッション100について、ユニット取付部10が配置されている側を上側、耳介接触部20が配置されている側を下側として図示する。
【0024】
図2は、クッション100を取り付ける前後のスピーカ部2を示す図である。
図2中(A):スピーカ部2を示す斜視図である。スピーカ部2は、電気信号を音に変換する不図示のトランスデューサユニット(音響変換ユニット)がハウジング3に収容されてなる。なお、図2においては、電気信号を入力するリード線の図示を省略している。ハウジング3は、トランスデューサユニットを収容する収容部3aと、収容部3aの端部から外方に張り出した係合部3bとを有している。
図2中(B):イヤホン1を示す斜視図である。クッション100は、ユニット取付部10をハウジングの係合部3bに係合させるようにしてスピーカ部2に取り付けられる。
【0025】
図3は、クッション100の平面図及び側面図である。
クッション100の外径は、例えば70mmであり、ユニット取付部10の内径は、例えば42.5mmであり、耳介接触部20の内径は、例えば19mmである。ユニット取付部10の開口から3本の環状溝21,22,23を視認できるが、本実施形態においては、環状溝が4本設けられており、図3に図示されていないもう1本の環状溝は、ユニット取付部10に遮蔽された位置に設けられている。
【0026】
図4は、クッション100の水平断面図(図3中のIV-IV線に沿う断面図)である。
ユニット取付部10の最外周寄りの位置で切断すると、耳介接触部20に設けられた4本の環状溝21,22,23,24を視認できる。これらの環状溝はいずれも、耳介接触部20の上端面の仮想の略中心C(以下、「中心C」と略称する。)を同心とした径の異なる略環状の溝であり、耳介接触部20の内周側から外周側に向かって順に、第1環状溝21、第2環状溝22、第3環状溝23、第4環状溝24が略等間隔で配置されている。
【0027】
図5は、クッション100の垂直断面図(図3中のV-V線に沿う断面図)である。
クッション100は、ユニット取付部10の下端面と耳介接触部20の上端面とが加硫接着されて形成されており、ユニット取付部10と耳介接触部20とに区画された内部空間11を有している。ユニット取付部10は、その下端面から徐々に幅を狭めながら起立した起立壁12と、起立壁12の端部から内方に突出した係合部13とを有している。イヤホン1の組立時には、この係合部13がハウジングの係合部3b(図2)に係合し、ハウジング3(スピーカ部2)の一部が内部空間11に嵌め込まれる。
【0028】
耳介接触部20は、内周側から外周側に向かうにつれて高さ(厚さ)が大きくなっており、なだらかに傾斜した傾斜面25を有している。耳介接触部20を傾斜面25の側から見ると、耳介接触部20は、中央部の孔を除けば全体としてすり鉢状の形状をなしている。また、耳介接触部20は、その上端面側の部位、すなわちクッション100において内部空間11の底を区画する表面をなす内側の部位(以下、「内側部位」と称する。)に、規則的に形成された4本の環状溝21~24を有している。各環状溝の幅Wは、略同一(例えば1.5mm)である。各環状溝の深さDは、中心Cに近いほど(内周縁に近いほど)浅く、中心Cから離れるほど(外周縁に近いほど)深くなり、かつ、各環状溝の底部の厚さTが略一定の大きさ(例えば2mm)となるように設計されている。
【0029】
例えば、第1環状溝21は、中心Cから約12mmの位置に設けられていて、その深さDが2.5mmであり、第2環状溝22は、中心Cから約15mmの位置に設けられていて、その深さDが3.5mmであり、第3環状溝23は、中心Cから約18mmの位置に設けられていて、その深さはDが4.5mmであり、第4環状溝24は、中心Cから約21mmの位置に設けられていて、その深さDが5.5mmである。
【0030】
イヤホン1の完成状態において、耳介接触部20の内側部位は、スピーカ部2に対向する。また、耳介接触部の傾斜面25は、イヤホン1のユーザ、すなわち聴覚検査の被検者の耳介に接触する。
【0031】
オージオメータ用の耳載せ形イヤホンのクッションは、柔らかすぎると、検査中に被検者の頭の動き等によりイヤホンのずれが生じ、正しい検査を行えなくなる場合がある一方で、硬すぎると、検査中に痛み等が生じて被検者の負担が大きくなる場合がある。
【0032】
このような課題に対し、本実施形態においては、耳介接触部20が柔らかくも安定して装用ができる程度の適度な硬さを有する材料で形成されている上に、内側部位に複数の環状溝が設けられていることで柔軟性のさらなる調整が可能であり、各環状溝の底部の厚さが略一定の大きさとなるような深さで各環状溝が形成されているため、検査中にイヤホンを安定して装用することができ、検査を正しく行うことができる。また、各環状溝の底部の厚さが略一定であることにより、耳介に接触した部分の柔軟性が略均一となるため、耳介への当たりを改善し、被検者の不快感や負担を軽減することができる。
【0033】
一般的に、イヤホンのクッションの柔軟性は、その原料に添加剤を加えることで得られる。しかしながら、原料に加えることが可能な添加剤の量には限度があるため、材質により得られる柔軟性にも限界がある。これに対し、本実施形態においては、クッションの材質に加えて、環状溝の本数と各環状溝の深さとを好適に組み合わせることにより、材質により得られる柔軟性の限界を超えたさらなる柔軟性を得ることができる。
【0034】
また、耳介接触部20は、クッション100の中心軸から軸対称な形状に形成されているため、等方的な柔軟性を持たせることができる。これにより、材質(添加剤の量)のみで柔軟性を調整する従来のクッションよりも自由度の高いクッションを製造することができる。
【0035】
〔オージオメータ用イヤホンの校正〕
ところで、上述したように、オージオメータ用のイヤホンの校正には規格(IEC60318-1)に適合した校正装置が用いられる。具体的には、校正装置のテスト音発信部にクッションを取り付けたイヤホンを被せた状態で、イヤホン全体に対して一定の力(4.5N)で加圧し、校正装置にイヤホン押し付けて校正を実施する。このとき、環状溝が設けられた本実施形態のクッション100は、校正装置に安定して密に装着され、音響負荷と機械負荷が一定になる。したがって、測定値のばらつきが小さい安定した校正結果を得ることができる。
【0036】
〔変位量の評価〕
図6は、試作した複数のサンプルの設計値及び変位量を示す表である。ここでは比較のために、実際に試作されたサンプルのうち2つを例示するとともに、参考値としてスポンジゴムを用いた従来のクッションの一例を併せて示している。従来のクッションには溝が設けられていないため、各溝の深さがいずれも0mmと示されている。
【0037】
発明者らは、クッションの開発過程において様々なサンプルを試作し、その評価試験を実施した。評価試験においては、各サンプルを耳介接触部の側を上に向けて土台に固定させた上で、耳介接触部の傾斜面に対して上から治具で押さえ付け、この状態で、イヤホンの校正時に加えられるのと同じ大きさの力(4.5N)を加えたときと加えないときとの治具の沈み込み量の違いを変位量として測定した。変位量は柔軟性の指標となる。
【0038】
発明者らは、サンプルを試作し、その変位量を評価して結果を設計にフィードバックする、という作業を繰り返して、効果を確認することにより、スポンジゴムを用いた従来のクッションと同等な変位量を有するクッションの設計を導き出した。なお、設計に際しては、スポンジゴムを用いた従来のクッションの変位量が0.6~1.0mmであることから、この変位量を目標として設計の調整を重ねていった。
【0039】
評価試験において基準として用いたスポンジゴムのクッションの変位量は0.8であることから、許容値を0.8±0.2とした。
【0040】
サンプルXは、3本の環状溝が設けられ、第1環状溝の深さを2mmとし、第2環状溝の深さを3mmとし、第3環状溝の深さを4mmとしたサンプルである。第4環状溝は設けられていないため、表中では第4環状溝の深さが0mmと示されている。また、サンプルXにおいては、各環状溝の底部の厚さは一定とされていない。サンプルXの評価試験で測定された変位量は0.5mmであり、ある程度の変位量は得られているものの、上記の許容値に僅かに届いていない。
【0041】
サンプルDは、上述した実施形態のクッション100のベースとなったサンプルであり、4本の環状溝が設けられ、第1環状溝の深さを3mmとし、第2環状溝の深さを4mmとし、第3環状溝の深さを5mmとし、第4環状溝の深さを6mmとして、各環状溝の底部の厚さを一定の大きさ(約2mm)としている。サンプルDの評価試験で測定された変位量は0.9mmであり、上記の許容値に達している。
【0042】
このように、上述した実施形態のクッション100によれば、スポンジゴムを用いた従来のクッションと同等の変位量(柔軟性)を得ることができる。なお、環状溝の本数、幅、位置、間隔、深さ、溝の底部の厚み等に関する設計は、上記の例に限定されない。スポンジゴムを用いた従来のクッションと同等の変位量を得られる場合には、これらの要素は適宜変更が可能である。例えば、環状溝の本数は、何本でもよく、所望の変位量を得るための設計を本数以外の要素で実現可能であれば1本でもよい。
【0043】
また、本実施形態においては、耳介接触部20の内側部位に環状溝を設けることで材質による限界を超えたさらなる柔軟性を実現しているが、これに代えて、異なる形状の溝を設けてさらなる柔軟性を実現することも可能である。
【0044】
〔クッションの変形例〕
以下、図7図9を参照しながら、変形例のクッション200,300について説明する。なお、上述した実施形態と共通する点についての説明は省略する。
【0045】
図7は、第1変形例のクッション200の水平断面図である。なお、この断面図を得るための切断線の図示を省略しているが、第1変形例のクッション200は上述した実施形態のクッション100と略同一の側面形状を有しており、図7に示した断面図は、クッション200を図3中のIV-IV線と略同一の位置で切断して得られたものである。
【0046】
クッション200においては、耳介接触部120の上端面の仮想の略中心O(以下、「中心O」と略称する。)から放射状に描かれる仮想線に沿う内側部位の位置に、略直線状の断面形状を有する24本のリブ122が周方向に略等間隔で設けられており、これらのリブにより区画されることで、略同一の形状を有した24個の略扇状の溝124が形成されている。見方を変えると、クッション200においては、24個の扇状溝124が内側部位の周方向に整列して配置されている。なお、図7においては、図面の視認性を確保するために、一部のリブ122及び一部の扇状溝124に対してのみ符号を付している。
【0047】
図8は、第1変形例のクッション200の垂直断面図である。このうち、(A)は、図7中のVIII-VIII線(中心Oに対して2回対称の位置にある2つの扇状溝124を通る直線)に沿う断面図、すなわち扇状溝が設けられた位置における垂直断面図である。また、(B)は、図7中のVIII-VIII線(中心Oに対して2回対称の位置にある2つのリブ122を通る直線)に沿う断面図、すなわち扇状溝が設けられていない位置における垂直断面図である。
【0048】
図8中(A)に示されるように、扇状溝124は、その底部の厚さが内周縁側から外周縁側まで一定の大きさとなるように形成されている。また、図8中(B)に示されるように、リブ122は、下端面126から起立して上端面127の高さまで延びている。
【0049】
クッション200のような構造によっても、所望の変位量を得ることができる。なお、リブ122の本数及び扇状溝124の個数は上記の例に限定されず、適宜変更が可能である。
【0050】
図9は、第2変形例のクッション300の水平断面図である。第2変形例のクッション300は、上述した第1変形例のクッション200をさらに変形させ、リブ222の断面形状を略直線状から略扇状にしたものである。なお、その他の点は第1変形例と同様であるため、説明を適宜省略する。
【0051】
クッション300においては、耳介接触部220の上端面の仮想の略中心P(以下、「中心P」と略称する。)を通り略同一の角度(図示の例では30度)をなして交差し合う複数の仮想線に沿う輪郭を有した略扇状のリブ222が6個設けられており、これらのリブにより区画されることで、略同一の形状を有した6個の扇状溝224が形成されている。なお、図9においては、図面の視認性を確保するために、一部のリブ222及び一部の扇状溝224に対してのみ符号を付している。
【0052】
図9中のA-A線に沿う断面図、すなわち扇状溝224が設けられた位置における垂直断面図は、図8中(A)に示したクッション200における扇状溝124が設けられた位置における垂直断面図と概ね同様のものとなる。また、図9中のB-B線に沿う断面図、すなわちリブ222が設けられた位置における垂直断面図は、図8中(B)に示したクッション200におけるリブ122が設けられた位置における垂直断面図と概ね同様のものとなる。
【0053】
クッション300のような構造によっても、所望の変位量を得ることができる。なお、リブ222及び扇状溝224の各個数は上記の例に限定されず、適宜変更が可能である。また、図9においては、各リブ222の輪郭をなす2本の仮想線のなす角度(以下、「リブ角度」と称する。)と各扇状溝224の輪郭をなす2本の仮想線のなす角度(以下、「溝角度」と称する。)とが略同一(30度)であるが、リブ角度と溝角度とを異なる角度とすることも可能である。例えば、リブ角度を20度としつつ溝角度を40度とする、というように、溝角度をリブ角度より大きくすることで、扇状溝224の広がり度合いをリブ222の広がり度合いより大きくしてもよいし、その逆にしてもよい。
【0054】
〔本発明の優位性〕
以上のように、上述した実施形態のクッション100及び変形例のクッション200,300によれば、以下のような効果が得られる。
【0055】
(1)クッションにおける耳介接触部の内側部位に複数の溝が設けられているため、材質により得られる柔軟性の限界を超えたさらなる柔軟性を得ることができる。
【0056】
(2)耳介接触部の内側部位に複数の溝が設けられることで、クッションが良好な柔軟性を有している上に対象物に安定させ易いため、イヤホンの校正時に、クッションが校正装置に安定して密に接触し、結果として音響負荷と機械負荷が一定となることで、測定値のばらつきが小さい安定した校正結果を得ることができる。このように、聴力検査を行う際にも、被検者がイヤホンを安定して装用することができ、検査を正しく行うことができる。
【0057】
(3)クッションが材質により得られる柔軟性の限界を超えたさらなる柔軟性を有しており、さらに各環状溝の底部の厚さが略一定であるため、耳への当たりを改善することができ、被検者の不快感や負担を軽減することができる。
【0058】
(4)スポンジゴムに薄皮のゴムを被せる従来のクッションの構造と比較して、製造工程がシンプルであるため、クッションを容易に製造することができ、歩留まりを改善することができる。
【0059】
(5)耳介接触部がクッションの中心軸から軸対称な形状に形成されているため、等方的な柔軟性を持たせることができ、材質のみで柔軟性を調整する従来のクッションよりも自由度の高いクッションを製造することができる。
【0060】
本発明は、上述した実施形態及び変形例に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0061】
上述した実施形態及び変形例のクッションは、オージオメータ用の耳載せ形イヤホンの構成部品として用いられているが、オージオメータ用でない耳載せ形イヤホン、例えば、音響機器向けの耳載せ形イヤホンの構成部品として用いられてもよい。
【0062】
上述した実施形態及び変形例のクッションは、環状の形状をなしており、水平断面図における外周及び内周の形状が略正円であるが、スピーカ部の形状等に応じて、略正円以外の形状(例えば楕円等)とすることも可能である。
【0063】
その他、イヤホン1及びクッション100,200,300に関する説明の過程で挙げた構成や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1 イヤホン
2 スピーカ部
3 ハウジング
10 ユニット取付部
11 内部空間
20 耳介接触部
21 第1環状溝
22 第2環状溝
23 第3環状溝
24 第4環状溝
100 クッション(イヤーパッド)
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9