(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046282
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】産業用ロボットのサポートシステム及び産業用ロボットのサポートプログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151584
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】殿谷 重樹
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS05
3C707BS12
3C707HS27
3C707KS03
3C707KS08
3C707KS21
3C707KS23
3C707KS27
3C707KT01
3C707KT05
3C707KV01
3C707KX10
3C707LV01
3C707LV15
3C707LW03
3C707MS21
3C707MT08
(57)【要約】
【課題】監視対象の選定をサポートすること。
【解決手段】ロボットシステム10の制御装置51には、ユーザにより設定された動作制御プログラムに従ってワークの箱詰め作業をロボット本体21に繰り返し実行させる駆動制御部52と、ロボット本体12に生じる動作異常の兆候を検知可能な監視部53とが設けられている。箱詰め作業については、対象となるワークの種類等によってロボット12の動きが異なり、監視部53のサポート部55では、ロボットシステム10の運用が開始されてからロボット本体21によって箱詰め作業が繰り返されている間に、ロボット本体21の動きを構成している動作パート毎に実行回数をカウントする。実行回数を示すデータは監視部53の監視AI54に評価結果として送信され、監視AI54では当該評価結果に基づいて監視対象とする動作パートが選定される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業を繰り返すロボット本体を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボットに適用され、前記監視対象の選定をサポートするサポートシステムであって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価部と、
前記評価部による評価結果を報知する報知部と
を備えている産業用ロボットのサポートシステム。
【請求項2】
前記選定用の評価指標として、前記動作パートの実行回数に対応した指標を含み、
前記評価部は、前記ロボット本体が前記所定の作業を繰り返し行った場合に同じ動作態様となる前記動作パートの実行回数を示す情報を取得し、当該取得した情報に基づいてそれら動作パートを評価する請求項1に記載の産業用ロボットのサポートシステム。
【請求項3】
前記産業用ロボットは、複数の関節部を有する多関節型ロボットであり、
前記選定用の評価指標として、前記複数の関節部のうち回動する関節部及びその数の少なくとも何れかに対応した指標を含み、
前記評価部は、各前記動作パートにおいて前記関節部の何れが回動するかを示す情報を取得し、当該取得した情報に基づいてそれら動作パートを評価する請求項1又は請求項2に記載の産業用ロボットのサポートシステム。
【請求項4】
前記制御プログラムには、前記ロボット本体の動きを規定する複数の動作指示コマンドが含まれており、
前記評価部は、前記制御プログラムにおける前記動作指示コマンドを参照して、前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の前記動作パートに区分する請求項1又は請求項2に記載の産業用ロボットのサポートシステム。
【請求項5】
ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業を繰り返すロボット本体を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボットに適用され、前記監視対象の選定をサポートするためのサポートプログラムであって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記監視の対象を選定する装置に、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価処理と、
前記評価処理による評価結果をユーザに報知する報知処理と
を実行させる産業用ロボットのサポートプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットのサポートシステム及び産業用ロボットのサポートプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場等で用いられる産業用ロボットには、ユーザが使用目的に応じて動作制御プログラムを作成することにより、ワークの搬送、加工、組付け等の様々な作業に従事させることができるように構成されているものがある。近年では、状況に応じて異なる動きが要求されるような複雑な作業についても産業用ロボットを適用可能とし(例えば、特許文献1参照)、生産性の更なる向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工場における設備については、耐久試験データや、長年使用した実機の劣化状態等に基づいて耐久期間を設定し、この耐久期間を経過した場合に、修理や交換等の保全を行うことにより、大きな損傷が発生しないように配慮されることがある(所謂予防保全)。しかしながら、使用環境等の影響によって劣化のスピード等が大きくばらつくこともあるため、安全率を見込んで寿命よりも短い期間を設定しても、その期間よりも早期に故障が発生する可能性を否定できない。このように予防保全が上手く機能しなかった場合には、他の部品の損傷を誘発する等して損害が大きくなり得る。これに対して、設備の状態を逐次監視して、故障が生じる前に表れる動作異常の兆候を検知すれば(所謂予知保全)、上述した不都合が生じにくくなると想定される。
【0005】
ここで、比較的単純で定常的な動作を繰り返す機械、すなわち状況等に応じた動きの変化が生じない機械においては、都度の動き(例えば振動を示す波形等)を監視対象とすることにより動作異常の兆候を速やかに且つ精度よく検知することができる。一方、状況に応じて異なる動きが要求されるような複雑な作業に従事している産業用ロボットについては、必ずしも都度の動きが完全に一致するとは限らない。この種の産業用ロボットについてその動きの全体を監視対象とした場合には、異なる動作パターンが混在することで例えば上述した波形が様々となり、当該波形から動作異常の兆候を速やかに且つ精度良く検知することが難しくなり得る。このような事情に鑑みて、本件の発明者は、監視対象を一連の動きの一部に絞る構成(選定する構成)を考案した。しかしながら、監視対象を絞る場合には、どの動きが選定されるかによって兆候検知の精度等が大きく左右され得る。このように、産業用ロボットの予知保全においては監視対象の選定に係る構成に未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記例示した課題等に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるように、監視対象の選定をサポートすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段について記載する。
【0008】
第1の手段.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返すロボット本体(ロボット本体21)を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボット(ロボット12)に適用され、前記監視対象の選定をサポートするサポートシステム(サポート部55)であって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価部(サポート部55の評価機能)と、
前記評価部による評価結果を報知する報知部(サポート部55の報知機能)と
を備えている産業用ロボットのサポートシステム。
【0009】
手段1に示すように、所定の作業に従事している産業用ロボット(ロボット本体)の動きが状況に応じて変わる構成を前提とすると、ロボット本体が当該所定の作業を繰り返し行う場合に一連の動きが全て一致するとは限らない。特に、従事する作業が複雑になって分岐が多く発生する場合には、全ての動きが一致する機会の方が少なくなると想定される。ここで、比較的単純で状況に関係なく定常的な動作を繰り返す機械であれば、都度の動き全体を監視することで動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できる。このような手法を上記産業用ロボットに適用すれば、同じく動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できるように見えるが、実際には当該効果は上手く発揮されない。なぜならば、所定の作業における産業用ロボットの動き全体をまとめて監視する場合には、動きが一致する部分と一致しない部分とが混在し不一致となる部分がある種のノイズとなって動作異常の兆候を見極めることが難しくなると想定されるからである。
【0010】
この点、本特徴に示すサポートシステムでは、ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価し、その評価結果をユーザや監視装置に報知する。例えば、監視対象を手動で選定する構成を想定した場合には、ユーザは報知された評価結果を選定の目安にすることができ、当該評価結果は適切な選定の一助となり得る。また、監視対象を自動で選定する構成を想定した場合には、当該評価結果を根拠とすることで、監視対象の選定の妥当性を高めることができる。以上の通り、監視対象の選定をサポートすることは、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるようにする上で好ましい。
【0011】
なお、一部の動きに監視対象を絞ることは、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくする上で好ましい。また、監視対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば兆候を判定する基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。
【0012】
第2の手段.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返すロボット本体(ロボット本体21)を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボット(ロボット12)に適用され、前記監視対象の選定をサポートするためのサポートプログラムであって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記監視の対象を選定する装置(制御装置51の監視部53)に、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価処理と、
前記評価部による評価結果をユーザに報知する報知処理と
を実行させる産業用ロボットのサポートプログラム。
【0013】
本特徴に示すサポートプログラムによれば、ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価し、その評価結果をユーザや監視装置に報知することができる。例えば、監視対象を手動で選定する構成を想定した場合には、ユーザは報知された評価結果を選定の目安にすることができ、当該評価結果は適切な選定の一助となり得る。また、監視対象を自動で選定する構成を想定した場合には、当該評価結果を根拠とすることで、監視対象の選定の妥当性を高めることができる。以上の通り、監視対象の選定をサポートすることは、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるようにする上で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態におけるロボットシステムを示す概略図。
【
図3】ロボットシステムの電気的構成を示すブロック図。
【
図7】動作パターン別のサンプリングデータを示す概略図。
【
図9】監視部にて実行される動作パート評価用処理を示すフローチャート。
【
図10】評価結果と選定された動作パートとを例示した概略図。
【
図11】第2の実施形態における作業ルーティンと監視対象との関係を示す概略図。
【
図12】第3の実施形態におけるロボットの動きと各軸との関係を示す概略図。
【
図13】第4の実施形態におけるロボットの動きと総回動量との関係を示す概略図。
【
図14】第5の実施形態におけるロボットの動きと回動範囲との関係を示す概略図。
【
図15】(a)第6の実施形態における動作パート評価用処理を示すフローチャート、(b)制御プログラムを示す概略図。
【
図16】各移動系コマンドの分析結果を例示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
以下、工場などで用いられるロボットシステムに具現化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に示すように、工場の一画には、前工程にて成型されたワークWを搬送するコンベア11が設けられている。コンベア11によって受渡位置SPへ配置されたワークWは当該コンベア11に併設された垂直多関節型の産業用ロボット(ロボット12という)によってケースCに収容される。ワークWはケースCに収容された状態で後工程(例えば加工工程や組付工程)に搬送されることとなる。
【0017】
図2に示すように、ロボット12の本体部(ロボット本体21)は、台座等に固定されるベース部22と、当該ベース部22により支持されているショルダ部23と、ショルダ部23により支持されている下アーム部24と、下アーム部24により支持されている第1上アーム部25と、第1上アーム部25により支持されている第2上アーム部26と、第2上アーム部26により支持されている手首部27と、手首部27により支持されているフランジ部28とを有している。
【0018】
ベース部22及びショルダ部23には、それらベース部22及びショルダ部23を連結する第1関節部が形成されており、ショルダ部23は第1関節部の連結軸(第1軸AX1)を中心として水平方向に回動可能となっている。ショルダ部23及び下アーム部24には、それらショルダ部23及び下アーム部24を連結する第2関節部が形成されており、下アーム部24は第2関節部の連結軸(第2軸AX2)を中心として上下方向に回動可能となっている。下アーム部24及び第1上アーム部25には、それら下アーム部24及び第1上アーム部25を連結する第3関節部が形成されており、第1上アーム部25は第3関節部の連結軸(第3軸AX3)を中心として上下方向に回動可能となっている。第1上アーム部25及び第2上アーム部26には、それら第1上アーム部25及び第2上アーム部26を連結する第4関節部が形成されており、第2上アーム部26は第4関節部の連結軸(第4軸AX4)を中心として捻り方向に回動可能となっている。第2上アーム部26及び手首部27には、それら第2上アーム部26及び手首部27を連結する第5関節部が形成されており、手首部27は第5関節部の連結軸(第5軸AX5)を中心として上下方向に回動可能となっている。手首部27及びフランジ部28には、それら手首部27及びフランジ部28を連結する第6関節部が形成されており、フランジ部28は第6関節部の連結軸(第6軸AX6)を中心として捻り方向に回動可能となっている。
【0019】
ショルダ部23、下アーム部24、第1上アーム部25、第2上アーム部26、手首部27、フランジ部28は、一連となるように配列されることでロボット本体21におけるアームを構成しており、当該アームの先端部であるフランジ部28にはエンドエフェクタであるハンド41が取り付けられている。
【0020】
ここで、
図3を参照して、ロボットシステム10の電気的構成について補足説明する。ロボットシステム10は、コントローラ60(例えばティーチングペンダントやPC)と、ロボット本体21に付属の制御装置51とを有している。制御装置51の駆動制御部52は、コントローラ60からの動作指示を受けてプログラム記憶部から当該動作指示に対応した動作制御プログラムを読み込み且つ読み込んだ動作制御プログラムから動作目標位置を特定する。その後は、特定した動作目標位置とロボット本体21のアーム(詳しくは各関節部)の現在の位置とを滑らかに繋ぐ目標軌道を生成し、当該目標軌道を細分化した位置である補間位置をロボット本体21に内蔵されたサーボアンプに順次送信する。各関節部には、関節部を回動させるアクチュエータとしての駆動モータ35と、駆動モータ35に発生する動力を伝達する伝達機構(減速機やベアリングを含む)と、各駆動モータ35に付属のロータリエンコーダ36とが配設されている。駆動モータ35はサーボアンプに接続されており、当該サーボアンプは制御装置51から受信した指令と、駆動モータ35の回転角度(回転位置)を示すエンコーダ値とに基づいて駆動モータ35の駆動制御を行う。
【0021】
また、各関節部には、それら関節部に生じる振動を電気信号に変換する振動センサ37が配設されており、それら振動センサ37からの信号は制御装置51に入力される。各関節部においては、伝達機構等の駆動部品が摩耗等により劣化することで関節部に生じる振動が大きくなることがある。そして、このような状態を放置されて摩耗が更に大きくなると、関節部が正常に動かなくなる場合がある。制御装置51の監視部53(詳しくは監視AI54)においては、振動センサ37からの信号に基づいて異常発生の兆候を監視し、必要に応じて部品交換等の対応をユーザに促すことで、ロボット12が劣化等によって大きく損傷することを抑制している(予知保全)。
【0022】
上記コントローラ60には、箱詰め作業用の動作制御プログラムが記憶されている。当該動作制御プログラムに基づいて駆動モータ35等を駆動させることにより、搬送されたワークWがロボット12によってケースCに順次箱詰めされる。なお、ロボット本体21の先端部にはカメラ45が搭載されており、このカメラ45についても制御装置51に接続されている。制御装置51は、カメラ45により撮影された画像をコントローラ60に送信し、コントローラ60では、当該画像からワークWの種類や詳細な位置を特定する。そして、特定した種類や位置等の情報に基づいてロボット12の動きが決定されることとなる。
【0023】
次に、
図4及び
図5を参照して、ロボット12による箱詰め作業の流れ(作業ルーティン)について説明する。作業ルーティンは、コンベア11に連動するようにして、すなわちワークWの搬送に合わせて実行される。具体的には、コンベア11が動作してワークWが受渡位置SPへ配置された場合には、ワークWが受渡位置SPへ配置されたことを示す信号がコンベア11に付属の位置検知センサからロボットシステム10へ出力される。ロボットシステム10は、この信号に基づいて作業ルーティンを開始する。
【0024】
図4に示すように、作業ルーティンにおいては先ず、ステップS1にて、ロボット12の手先が待機位置である原位置Paからコンベア11の上方となる中継位置Pbへ移動する(移動A)。これにより、カメラ45の撮影範囲に上記受渡位置SPの全域が入ることとなる。中継位置Pbは、受渡位置SPに位置しているワークWを撮影するための撮影位置又はワークWの確認位置であるとも言える。
【0025】
中継位置Pbへの移動後は、ステップS2にて、受渡位置SPに位置しているワークWの種類及び位置を特定する。本作業ルーティンは、ステップS2にて特定したワークWの種類によって分岐する。つまり、ロボット本体21の動きの概要(ワークWのピックアンドプレース)は同様であるものの、動きそのものはワークWの種類によって異なる。具体的には、本実施形態ではワークWとして、小型で軽いワークWAと大型で重いワークWBとが設けられており、ワークWAが受渡位置SPに配置された場合には、ワークWAの箱詰め用のステップ(ステップS3~S11)を実行し、ワークWBが受渡位置SPに配置された場合には、ワークWBの箱詰め用のステップ(ステップS12~S20)を実行する。
【0026】
上記受渡位置SPについては、コンベア11の幅方向に延びる線状をなしており、ワークWAが配置される部分とワークWBが配置される部分とに二分されている。また、ワークWA用のコンテナCAの配置箇所と、ワークWB用のコンテナCBの配置箇所とが個別に設けられている。つまり、ワークWAをコンテナCAに収容する際の動きと、ワークWBをコンテナCBに収容する際の動きとでは、ロボット12の手先が通過する軌道が異なり、動作中のロボット本体21の姿勢についても異なる。例えば、ロボット12の手先を所定の方向に所定の距離だけ所定の速度で移動するとしても、ロボット12の姿勢が異なれば、振動センサ37により検知される振動の波形についても差が生じることになる。なお、ワークWAの箱詰めにおいては、ロボット12の動作スピードが主として「HI」となり、ワークWBの箱詰めにおいては、ロボット12の動作スピードが主として「LOW」となる。このような動作スピードの違いについては振動の波形に影響する。
【0027】
以下、ワークWAの箱詰めの流れについて補足説明する。ステップS3では、ステップS2で特定したワークWAの直上である直上位置PcXへ移動する(移動B)。その後は、ステップS4にてロボット12の手先が降下して、ワークWAを把持する把持位置PdXへと移動する(移動C)。そして、ステップS5にてワークWAを把持した後は、ステップS6に進み、ワークWAを直上位置PcXへ持ち上げる(移動D)。
【0028】
ここで、上記受渡位置SPにおいてワークWAが配置される位置についてはコンベア11の幅方向にて多少のばらつきが発生する。本実施形態においては、受渡位置SPを上記幅方向にて複数に区分し、ワークWAが配置されている区分に応じて当該ワークWAへアプローチする位置を調整する構成としている。
【0029】
具体的には、把持位置PdXとして第1把持位置Pd1~第5把持位置Pd5が設けられている。第1把持位置Pd1~第5把持位置Pd5は、上記幅方向に並んでおり、上記区分に1対1で対応している。ワークWAの位置に応じて第1把持位置Pd1~第5把持位置Pd5の何れかが目標位置として設定される。これにより、ワークWAの掴み損ねを抑制している。
【0030】
また、直上位置PcXについても、第1把持位置Pd1の直上となる第1直上位置Pc1、第2把持位置Pd2の直上となる第2直上位置Pc2、第3把持位置Pd3の直上となる第3直上位置Pc3、第4把持位置Pd4の直上となる第4直上位置Pc4、第5把持位置Pd5の直上となる第5直上位置Pc5が設けられている。つまり、中継位置Pb→第1直上位置Pc1→第1把持位置Pd1→第1直上位置Pc1の順に移動する場合と、中継位置Pb→第2直上位置Pc2→第2把持位置Pd2→第2直上位置Pc2の順に移動する場合と、中継位置Pb→第3直上位置Pc3→第3把持位置Pd3→第3直上位置Pc3の順に移動する場合と、中継位置Pb→第4直上位置Pc4→第4把持位置Pd4→第4直上位置Pc4の順に移動する場合と、中継位置Pb→第5直上位置Pc5→第5把持位置Pd5→第5直上位置Pc5の順に移動する場合とがある(
図5(a)参照)。これらの動きは、ロボット12の手先が通過する軌道が異なり、動作中のロボット本体21の姿勢についても異なる。つまり、振動センサ37により検知される振動の波形についても差が生じることになる。
【0031】
続くステップS7では、ワークWA用のコンテナCAの上方位置PeMへ移動する(移動E)。そして、ステップS8にてロボット12の手先が降下して、コンテナCAにおけるワークWAの収容位置PfMへと移動する(移動F)。その後は、ステップS9にてワークWAを離して当該ワークWAを収容した後、ステップS10にて上方位置PeMへ上昇する(移動G)。
【0032】
収容位置PfMとして第1収容位置Pf1~第10収容位置Pf10が設けられており、上方位置PeMとして第1上方位置Pe1~第10上方位置Pe10の10が設けられている。第1上方位置Pe1は第1収容位置Pf1に、第2上方位置Pe2は第2収容位置Pf2に、第3上方位置Pe3は第3収容位置Pf3に、・・・、第10上方位置Pe10は第10収容位置Pf10に対応付けられている。各ステップS7,S8,S10における動きについても各々複数の態様に分かれることとなる(
図5(a)参照)。
【0033】
その後は、ステップS11にて、ロボット12の手先が上方位置PeMから原位置Paへ復帰する(移動H)。これらの動きについても、原位置Paに復帰する点では同様であるものの、移動開始時の位置の違い(第1上方位置Pe1~第10上方位置Pe10)によって、態様が異なることとなる。
【0034】
ワークWBの箱詰めの流れについては、基本的な流れがワークWAの箱詰めの流れと同様である。具体的には、ステップS12では、ステップS2で特定したワークWBの直上である直上位置PgXへ移動する(移動I)。その後は、ステップS13にてロボット12の手先が降下して、ワークWBを把持する把持位置PhXへと移動する(移動J)。そして、ステップS14にてワークWBを把持した後は、ステップS15に進み、ワークWBを直上位置PgXへ持ち上げる(移動K)。続くステップS16では、ワークWB用のコンテナCBの上方位置PiNへ移動する(移動L)。そして、ステップS17にてロボット12の手先が降下して、ワークWBを収容する収容位置PjNへと移動する(移動M)。その後は、ステップS18にてワークWBを離して当該ワークWBを収容した後、ステップS19にて上方位置PiNへ上昇する(移動N)。その後は、ステップS20にて、ロボット12の手先が上方位置PiNから原位置Paへ復帰する(移動O)。これらの動きについても、原位置Paに復帰する点では同様であるものの、移動開始時の位置の違い(第1上方位置Pi1~第5上方位置Pi5)によって、態様が異なることとなる。
【0035】
なお、ワークWAの把持位置PhXとして第1把持位置Ph1~第5把持位置Ph5が設けられ且つ直上位置PgXとして第1直上位置Pg1~第5直上位置Pg5が設けられ、ワークWBが配置されている区分に応じて当該ワークWBへアプローチする位置を調整する構成としている。また、収容位置PjNとして第1収容位置Pj1~第5収容位置Pj5が設けられ且つ上方位置PiNとして第1上方位置Pi1~第5上方位置Pi5が設けられており、各ステップS16,S17,S19における動きについても各々複数の態様に分かれている。ワークWBの箱詰め作業の概要についてはワークWAの箱詰め作業と同様であるものの、ロボット12の手先が通過する軌道については、ワークWAの箱詰め作業にて当該手先が通過する軌道とは異なる(
図5(b)参照)。
【0036】
工場における設備については、耐久試験データや、長年使用した実機の劣化状態等に基づいて耐久期間を設定し、この耐久期間を経過した場合に、修理や交換等の保全を行うことにより、大きな損傷が発生しないように配慮されることがある(所謂予防保全)。しかしながら、上記耐久期間については個体差が生じるため、安全率を見込んで寿命よりも短い期間を設定しても、その耐久期間の経過よりも前に故障が発生する可能性を否定できない。このように予防保全が上手く機能しなかった場合には、他の部品の損傷を誘発する等して、損害が大きくなり得る。これに対して、設備の状態を監視して、故障が生じる前に現れる異常兆候を検知すれば(所謂予知保全)、上述した不都合が生じにくくなると想定される。
【0037】
ここで、比較的単純で定常的な動作を繰り返す機械、すなわち状況等によって動きが変化しない機械においては、都度の動きを監視することにより異常兆候を精度よく検知することができる。例えば
図6に示すように、サンプリングした複数のサイクルのデータ(振動を示す波形)から、監視の比較基準とするモデルを形成し、以降の監視においては比較基準モデルと新たに取得したデータとを比較する。両者に異常兆候と想定される違いが生じた場合に、その旨をユーザに通知することで、設備の故障を未然に防ぐことができる。
【0038】
一方、本実施形態に示したように、様々な条件によって動きを変えるロボット12においては、各サイクルにてロボット12の動きが一致するとは限らない。
図7に示す例では、1のサイクルが複数の動作パート1~4の組合せにより構成されているが、これらの動作パート1~4におけるロボットの動きについてはサイクル間で不一致となっている。具体的には、パターン1は、動作パート1、動作パート2.1、動作パート3.1、動作パート4で構成されているのに対して、パターン2では動作パート1、動作パート2.2、動作パート3.2、動作パート4で構成されている。つまり、各パターンで動作パート1及び動作パート4については同じ動きとなっているのに対して、それ以外についてはサイクル間で異なる動きとなっている。各動作パートにおけるロボットの動きが全て一致する場合にのみ監視を行う構成とすれば、振動を示す波形は定常的となるが、その反面、監視の機会が不十分となって異常兆候の検知が遅れる可能性が高くなる。これに対して、多少の動きの違いに目をつぶって異常兆候を検知しようとすれば、波形を比較する基準となる比較基準モデルに含まれる誤差が大きくなり、波形の小さな違いから異常兆候を見抜くことは困難になると懸念される。総じて、波形に現われる異常の兆候を波形の小さな変化から精度良く且つ速やかに検知することは困難になり得る。
【0039】
本実施形態では、これらの事情に配慮して、ロボット12の異常兆候を適切に検知可能とするための工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図8を参照して、当該工夫について説明する。
【0040】
予知保全については、ロボットシステム10の運用が開始されてから所定期間が経過するまで滞在することになる準備フェーズと、当該所定期間が経過した場合に移行する監視フェーズとを含む。準備フェーズは上述した比較基準モデルを作成するためのフェーズである。準備フェーズにおいては先ず、監視部53のサポート部55にて、駆動制御部52にて実行される駆動制御プログラム(例えば移動系コマンド)からロボット12(ロボット本体21)の動きの概要を確認し、ロボット12の一連の動きを移動系コマンドに応じて複数の動作パートに区分する(ST1)。本実施形態においては、1の移動系コマンドによる動作が開始してから終了するまでをロボット12の動きの一部を構成する「動作パート」とし、当該移動系コマンドに基づく動きが複数のパターンに分かれる場合には、それらパターンごとに動作パートを分ける。例えば、同じ移動系コマンドであっても、動作の始点及び終点の何れかが異なる場合には別の動作パートとして把握する。
【0041】
次に、各動作パートについて、監視対象を選定するための監視対象選定用データ(評価用データ)を取得する(ST2)。監視対象選定用データを取得した後は、当該監視対象選定用データを参照して各動作パートを評価し、その評価結果をコントローラ60と監視AI54とに通知する(ST3)。コントローラ60では、受信した評価結果を表示画面に表示する。これにより、ユーザは、どのような評価結果に基づいて動作パートが選定されるかを把握できる。なお、本実施形態においてはサポート部55及びコントローラ60により「サポートシステム」が構成されている。
【0042】
監視AI54では、受信した評価結果に基づいて監視対象とする動作パートを選定する(ST4)。詳細については後述するが、本実施形態では監視対象を選定するための評価の指標が各動作パートの実行回数となっており、実行回数が最多となる動作パートが監視対象として選定される構成となっている。なお、本実施形態においては監視AI54を有する制御装置51が「選定する装置」に相当する。
【0043】
その後は、選定された動作パートについて比較基準モデルを作成するためのデータを取得する(ST5)。具体的には、第1軸AX1~第6軸AX6の各々について振動センサ37から振動を示す信号(波形のデータ)を複数回取得する。そして、第1軸AX1~第6軸AX6毎に、比較の基準となるモデル(基準波形)を作成して、監視部53のメモリに記憶する(ST6)。比較基準モデルを作成した後は、準備フェーズから監視フェーズに移行する。
【0044】
監視フェーズにおいては、選定した動きが実行される場合にその動きに伴って発生している振動を示す信号(波形のデータ)を取得する(ST7)。そして、今回新たに取得した波形のデータと比較基準モデルとを比較することにより、異常の兆候が発生しているかを診断する(ST8)。
【0045】
監視AI54は同型のロボット12の過去の運用実績等を機械学習させることにより、異常兆候を診断するための診断基準を独自に設定可能となっている。この診断によって異常兆候が発生しているとの診断結果となった場合には、その旨がユーザに報知される。この報知に基づいてロボット12の保全作業が実施されることで、ロボット12の故障等に起因した損害を抑えることができる。
【0046】
ここで、
図9のフローチャートを参照して、監視部53のサポート部55にて実行される動作パート評価用処理について説明する。動作パート評価用処理は、サポート部55にて定期処理の一環として実行される処理であり、本実施形態においては上記準備フェーズにおける工程ST2、工程ST3にて実行される。
【0047】
動作パート評価用処理においては先ず、ステップS101にて監視部53のメモリに評価完了フラグがセットされているかを判定する。評価完了フラグがセットされている場合にはそのまま本動作パート評価用処理を終了する。評価完了フラグがセットされていない場合には、ステップS101にて否定判定をしてステップS102に進む。ステップS102では、ロボット12により上述した作業ルーティンが実行されている最中(運転中)であるか否かを判定する。運転中でない場合には、ステップS102にて否定判定をして本動作パート評価用処理を終了する。運転中である場合には、ステップS102にて肯定判定をしてステップS103に進み、サイクルの終了タイミングであるか否かを判定する。サイクルの終了タイミングでない場合には、ステップS103にて否定判定をしてステップS104に進む。ステップS104では、何れかの動作パートの開始タイミングであるか否かを判定する。動作パートの開始タイミングでない場合には、本動作パート評価用処理を終了する。動作パートの開始タイミングである場合には、実行中の動作パートがロボット12の姿勢変化に対応する動作パートであるかを判定する。具体的には、ロボット12の手先が移動する動作パートであるかを判定する。ステップS105にて否定判定をした場合には、本動作パート評価用処理を終了する。ステップS105にて肯定判定をした場合には、ステップS106にて評価用カウンタ更新処理を実行した後、本動作パート評価用処理を終了する。
【0048】
上述の如く作業ルーティンについては複数の動作パートが組み合わされてなり、それら動作パートを構成しているロボット12の動きの中から一部の動きを監視対象として選定すべく、各々の動きが実行された回数を監視対象選定用データとして取得する。すなわち、本実施形態における評価の指標は、動作パート(同じ動作態様となっている動作パート)の「実行回数」となっている。
【0049】
具体的には、監視部53のメモリには評価用カウンタが多数設けられており、サポート部55では区分した動作パートと評価用カウンタとの対応付けを行う。これにより、各動作パートの実行回数を個別にカウント可能となる。それら評価用カウンタによってカウントされた実行回数が上記監視対象選定用データである。例えば、今回のロボット12の動きが上記移動Aである場合には移動Aに対応する評価用カウンタが更新(「1」加算)される。一方、上記移動Bのようにロボット12の動きが複数パターンに分かれるものについては、パターン毎に設けられた評価用カウンタのうち今回の動きに対応する評価用カウンタが更新(「1」加算)される。なお、評価用カウンタの値については、評価が完了した際に0クリアされる。
【0050】
ステップS103の説明に戻り、サイクル終了タイミングである場合には、当該ステップS103にて肯定判定をして、ステップS107に進む。ステップS107では、監視部53のメモリに設けられたサイクルカウンタ更新処理(1減算)を実行する。サイクルカウンタは、上記準備フェーズにて実行された作業ルーティンの実行回数をカウントするものであり、準備フェーズの開始当初は当該サイクルカウンタの値が「100」となっている。つまり、作業ルーティンが100回繰り返されるまで準備フェーズが継続される構成となっている。
【0051】
続くステップS108では、更新したサイクルカウンタの値が「0」になっているかを判定する。「0」になっていない場合には、そのまま本動作パート評価用処理を終了する。サイクルカウンタの値が「0」になっている場合には、ステップS108にて肯定判定をして、ステップS109に進む。ステップS109では、選定候補となっている各動作パートを評価し、その評価結果を通知する。具体的には、作業ルーティンが100回繰り返された時点で、上記評価用カウンタの値から実行回数を比較可能なデータ(評価結果)を作成し、当該データを監視AI54及びコントローラ60に通知する。監視AI54では、このデータに基づいて、実行回数が最も多い動作パートを監視対象として選定する。言い換えれば、ロボット12の動きのうち実行回数が他の動きと比べて少ないものについては監視対象外となる。なお、監視AI54にてどの動作パートを監視対象として選定したかについてもコントローラ60の表示画面に表示される。
【0052】
その後、ステップS110にて監視部53のメモリに上記評価完了フラグをセットして、本動作パート評価用処理を終了する。評価完了フラグがセットされることで、以降は、本動作パート評価用処理がスキップされることとなる。
【0053】
ここで、
図10を参照して、監視対象の選定について補足説明する。
図10には、監視対象選定用データである上記評価結果、すなわち準備フェーズにて作業ルーティンが100回繰り返された時点での各動作パートの実行回数を例示している。なお、
図10に示す例では、ロボット12(ロボット本体21)の動きが、移動AのパターンA、移動BのパターンB1~B5、移動CのパターンC1~C5、移動DのパターンD1~D5、移動EのパターンE1~E50、移動Fのパターン、移動GのパターンG1~G10、移動HのパターンH1~H10、移動IのパターンI1~I5、移動JのパターンJ1~J5、移動KのパターンK1~K5、移動LのパターンL1~L25、移動MのパターンM1~M5、移動NのパターンN1~N5、移動OのパターンO1~O5の各動作パートが監視対象の選定候補となっている。
【0054】
図10に示す監視対象選定用データにおいては、原位置Pa→中継位置Pbへ移動する移動Aの実行回数=100回となっている。つまり、移動Aについては全作業ルーティンにて実行対象となっている。中継位置Pb→直上位置PcXへ移動する移動Bの実行回数=80回となっており、その内分けについては、中継位置Pb→第1直上位置Pc1へ移動するパターンB1の実行回数=65回、中継位置Pb→第2直上位置Pc2へ移動するパターンB2の実行回数=5回、中継位置Pb→第3直上位置Pc3へ移動するパターンB3の実行回数=5回、中継位置Pb→第4直上位置Pc4へ移動するパターンB4の実行回数=3回、中継位置Pb→第5直上位置Pc5へ移動するパターンB5の実行回数=2回となっている。
【0055】
直上位置PcX→把持位置PdXへ移動する移動Cの実行回数=80回となっており、その内分けについては、第1直上位置Pc1→第1把持位置Pd1へ移動するパターンC1の実行回数=65回、第2直上位置Pc2→第2把持位置Pd2へ移動するパターンC2の実行回数=5回、第3直上位置Pc3→第3把持位置Pd3へ移動するパターンC3の実行回数=5回、第4直上位置Pc4→第4把持位置Pd4へ移動するパターンC4の実行回数=3回、第5直上位置Pc5→第5把持位置Pd5へ移動するパターンC5の実行回数=2回となっている。
【0056】
把持位置PdX→直上位置PcXへ移動する移動Dの実行回数=80回となっており、その内分けについては、第1把持位置Pd1→第1直上位置Pc1へ移動するパターンD1の実行回数=65回、第2把持位置Pd2→第2直上位置Pc2へ移動するパターンD2の実行回数=5回、第3把持位置Pd3→第3直上位置Pc3へ移動するパターンD3の実行回数=5回、第4把持位置Pd4→第4直上位置Pc4へ移動するパターンD4の実行回数=3回、第5把持位置Pd5→第5直上位置Pc5へ移動するパターンD5の実行回数=2回となっている。
【0057】
直上位置PcX→上方位置PeMへ移動する移動Eの実行回数=80回となっており、その内分けについては、第1直上位置Pc1→第1上方位置Pe1へ移動するパターンE1の実行回数=6回、第2直上位置Pc2→第1上方位置Pe1へ移動するパターンE2の実行回数=1回、第3直上位置Pc3→第1上方位置Pe1へ移動するパターンE3の実行回数=1回、第4直上位置Pc4→第1上方位置Pe1へ移動するパターンE4の実行回数=0回、第5直上位置Pc5→第1上方位置Pe1へ移動するパターンE5の実行回数=0回となっている。その他、第1直上位置Pc1~第5直上位置Pc5から第2上方位置Pe2~第10上方位置Pe10に移動する各パターンE6~E50については、何れも実行回数が10回以下となっている。
【0058】
上方位置PeM→収容位置PfMへ移動する移動Fの実行回数=80回となっており、第1上方位置Pe1~第10上方位置Pe10から第1収容位置Pf1~第10収容位置Pf10へ移動するパターンF1~F10の実行回数は何れも8回となっている。
【0059】
収容位置PfM→上方位置PeMへ移動する移動Gの実行回数=80回となっており、第1収容位置Pf1~第10収容位置Pf10から第1上方位置Pe1~第10上方位置Pe10へ移動するパターンG1~G10の実行回数は何れも8回となっている。
【0060】
上方位置PeM→原位置Paへ移動する移動Hの実行回数=80回となっており、第1上方位置Pe1~第10上方位置Pe10から原位置Paへ移動するパターンH1~H10の実行回数は何れも8回となっている。
【0061】
中継位置Pb→直上位置PgXへ移動する移動Iの実行回数=20回となっており、その内分けについては、中継位置Pb→第1直上位置Pg1へ移動するパターンI1の実行回数=12回、中継位置Pb→第2直上位置Pg2へ移動するパターンI2の実行回数=3回、中継位置Pb→第3直上位置Pg3へ移動するパターンI3の実行回数=3回、中継位置Pb→第4直上位置Pg4へ移動するパターンI4の実行回数=2回、中継位置Pb→第5直上位置Pg5へ移動するパターンI5の実行回数=0回となっている。
【0062】
直上位置PgX→把持位置PhXへ移動する移動Jの実行回数=20回となっており、その内分けについては、第1直上位置Pg1→第1把持位置Ph1へ移動するパターンJ1の実行回数=12回、第2直上位置Pg2→第2把持位置Ph2へ移動するパターンJ2の実行回数=3回、第3直上位置Pg3→第3把持位置Ph3へ移動するパターンJ3の実行回数=3回、第4直上位置Pg4→第4把持位置Ph4へ移動するパターンJ4の実行回数=2回、第5直上位置Pg5→第5把持位置Ph5へ移動するパターンJ5の実行回数=0回となっている。
【0063】
把持位置PhX→直上位置PgXへ移動する移動Kの実行回数=20回となっており、その内分けについては、第1把持位置Ph1→第1直上位置Pg1へ移動するパターンK1の実行回数=12回、第2把持位置Ph2→第2直上位置Pg2へ移動するパターンK2の実行回数=3回、第3把持位置Ph3→第3直上位置Pg3へ移動するパターンK3の実行回数=3回、第4把持位置Ph4→第4直上位置Pg4へ移動するパターンK4の実行回数=2回、第5把持位置Ph5→第5直上位置Pg5へ移動するパターンK5の実行回数=0回となっている。
【0064】
直上位置PgX→上方位置PiNへ移動する移動Lの実行回数=20回となっており、その内分けについては、第1直上位置Pg1→第1上方位置Pi1へ移動するパターンL1の実行回数=3回、第2直上位置Pg2→第1上方位置Pi1へ移動するパターンL2の実行回数=1回、第3直上位置Pg3→第1上方位置Pi1へ移動するパターンL3の実行回数=0回、第4直上位置Pg4→第1上方位置Pi1へ移動するパターンL4の実行回数=0回、第5直上位置Pg5→第1上方位置Pi1へ移動するパターンL5の実行回数=0回となっている。その他、第1直上位置Pg1~第5直上位置Pg5から第2上方位置Pi2~第5上方位置Pi10に移動するパターンL6~L25については何れも実行回数は4回以下となっている。
【0065】
上方位置PiN→収容位置PjNへ移動する移動Mの実行回数=20回となっており、第1上方位置Pi1~第5上方位置Pi5から第1収容位置Pj1~第5収容位置Pj5へ移動するパターンM1~M5の実行回数は何れも4回となっている。
【0066】
収容位置PjN→上方位置PiNへ移動する移動Nの実行回数=20回となっており、第1収容位置Pj1~第5収容位置Pj5から第1上方位置Pi1~第5上方位置Pi5へ移動するパターンN1~N5の実行回数は何れも4回となっている。
【0067】
上方位置PiN→原位置Paへ移動する移動Oの実行回数=20回となっており、第1上方位置Pi1~第5上方位置Pi5から原位置Paへ移動するパターンO1~O5の実行回数は何れも4回となっている。
【0068】
以上の通り、移動A>移動BのパターンB1、移動CのパターンC1、移動DのパターンD1>移動IのパターンI1・・・の順に実行回数が多くなっている。本監視対象選定用データにおいては移動Aの実行回数が最多となっている結果を踏まえて、当該移動Aが監視対象として選定されている。なお、本実施形態に示す移動A~移動Oについては何れも、第1軸AX1~第6軸AX6が全て可動する。つまり、移動Aを監視することで、第1軸AX1~第6軸AX6に異常兆候が発生していないかを検知可能となっている。
【0069】
複数の動作パートにおける産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定するための選定用情報として各々の動きの実行回数をカウントし、当該実行回数に基づいて選定した動きから動作異常の兆候が表れているかを判定する。一部の動きに監視の対象を絞ることにより、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくすることができる。これは、監視の機会をなるべく多く確保する上で好ましい。また、監視の対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば判定基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。以上の理由から、本実施形態に示した構成によれば、ロボット12に生じる動作異常の兆候を適切に検知することができる。
【0070】
上述の如くロボット12の動きの一部に限定して監視を行う場合には、当該動きが発生する機会が多くなることで兆候を確認する機会も多くなる。これは、兆候の見落としを抑制する上で好ましい。また、実行頻度の高ければ摩耗等が進みやすくなるため、このような動きを監視の対象として選定することには技術的意義がある。
【0071】
本実施形態に示したサポート部55では、ロボット本体21の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価し、その評価結果を監視AI54に通知する。監視対象を自動で選定する際に、当該評価結果を根拠とすることで、監視対象の選定の妥当性を高めることができる。以上の通り、監視対象の選定をサポートすることは、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるようにする上で好ましい。
【0072】
<第2の実施形態>
上記第1の実施形態においては、作業ルーティンを構成している1の動作パート(移動A)を異常兆候を検知するための監視対象として選定する構成とした。ここで、異常兆候を速やかに検知する上では、ロボット12の手先の移動距離、すなわち各関節部の回動量をある程度確保することが好ましい。なぜならば異常兆候は必ずしも各関節部の動作範囲(回動範囲)の全域で確認できるとは限らず、特に発生初期は回動範囲の一部にて当該異常兆候が表れる可能性があるからである。本実施形態では、このような事情に配慮した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図11を参照して、当該工夫について説明する。なお、本実施形態ではロボットシステム10の基本構成が第1の実施形態と共通となっている。これら共通の構成については説明を省略する。
【0073】
図11に示す作業ルーティンでは、ロボット12が移動V1→移動V2の順に動作した後、移動V3→移動V4の順に動作するパターンと、移動V5→移動V6の順に動作するパターンとに分岐が生じる構成となっている。言い換えれば、移動V1~移動V6のうち移動V1の実行回数と移動V2の実行回数とが最大となっている。移動V1及び移動V2は、ともに実行回数=最大であり、それら2つの動き(動作パート)が連続している。
【0074】
本実施形態においては、移動V1及び移動V2を1つのグループとみなし、それら移動V1及び移動V2を監視対象として選定している。より詳細には、移動V1及び移動V2について個別に比較基準モデルを形成するのではなく、移動V1及び移動V2を1つの動き(動作パート)として取り扱うことで、1の比較基準モデルを形成している。このような構成とすることにより、移動V1及び移動V2の一方だけでは確認が難しい異常兆候についても見逃しを抑制し、当該異常兆候を早期に検知可能となる。
【0075】
なお、比較基準モデルを形成するためのデータ(波形)については、移動V1の開始に合わせて取得を開始し、移動V2の終了に合わせて取得を終了する。これにより、移動V1~移動V2の境界部分についてもシームレスにデータが取得されることとなる。これは、移動V1の終了時や移動V2の開始時に何らかの異常兆候が発生する場合に、当該異常兆候が二分されることでノイズ等に紛れてしまうことを抑制する上で好ましい。
【0076】
<第3の実施形態>
上記第1の実施形態では、移動A~移動Oについては何れも第1軸AX1~第6軸AX6(第1関節部~第6関節部)の全てが回動する構成を前提としたが、ユーザに動作制御プログラムの作成が委ねられている場合には、各動作パートにおける動きが必ずしも第1軸AX1~第6軸AX6の全てが回動する動きになるとは限らない。そして、第1軸AX1~第6軸AX6の一部が回動する動作パートを監視対象として選定した場合には、一部の関節部については予知保全が上手く機能しない可能性が生じる。本実施形態では、このような事情に配慮した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図12を参照して、当該工夫について説明する。なお、本実施形態ではロボットシステム10の基本構成が第1の実施形態と共通となっている。これら共通の構成については説明を省略する。
【0077】
図12に示すように、本実施形態に示す作業ルーティンには、移動W1~移動W9が含まれている。移動W1については実行回数が100回であり全ての動作パートの中で最多となっている。他にも移動W8及び移動W9については実行回数が100回となっているものの、回動する軸の数が移動W1では4つとなっているのに対して、移動W8,W9では3つとなっている。そこで、先ず監視対象として移動W1が選定されている。但し、移動W1単独では、第1軸AX1~第6軸AX6のうち第2軸AX2及び第3軸AX3については回動対象外となり、これら第2軸AX2及び第3軸AX3について異常兆候を適切に検知することは困難になる。そこで、第2の監視対象を選定している。
【0078】
具体的には、移動W8については第3軸AX3~第5軸AX5が回動する一方、第1軸AX1、第2軸AX2、第6軸AX6については回動しない。これに対して、移動W9については第2軸AX2、第3軸AX3、第5軸AX5が回動する一方、第1軸AX1、第4軸AX4、第6軸AX6については回動しない。つまり、移動W9を監視対象として選定することにより、移動W1では検知が困難な第2軸AX2、第3軸AX3に係る異常兆候を適切に検知可能となる。
【0079】
つまり、本実施形態では、実行回数が最大となる1の動作パートを監視対象として設定した場合に、監視が困難となる軸については他の動作パートによって補完する構成となっている。上記例では、2つの動作パートを選定したが、2つの動作パートを選定しても補完が困難な場合には、3つ以上の動作パートを選定する構成とすることも可能である。因みに、実行回数が最大となる動きによって補完が困難な場合には、補完が可能な動作パートのうち実行回数が最も多い動作パートを選定するとよい。
【0080】
<第4の実施形態>
上記第1の実施形態においては、作業ルーティンを構成している複数の動作パートの実行回数に基づいて監視対象を選定する構成とした。ここで、ロボット12の手先の移動量(各関節部の回動量)が多くなって摩耗が進むことで異常兆候が発生しやすくなる点に着目した場合、手先が大きく移動する動作パートを監視対象として選定することにより、異常兆候を適切に検知できる。本実施形態では、このような事情に着目した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図13を参照して、当該工夫について説明する。なお、本実施形態ではロボットシステム10の基本構成が第1の実施形態と共通となっている。これら共通の構成については説明を省略する。
【0081】
図13に示すように、本実施形態に示す作業ルーティンには、移動X1~移動X9が含まれている。移動X1、移動X8、移動X9については実行回数が何れも100回であり全ての動作パートの中で最多となっている。また、移動X1、移動X8、移動X9については、何れも第1軸AX1~第6軸AX6のうち4つが回動する点でも同様である。但し、移動X1では、手先の移動距離、すなわち各関節部の総回動量が300°となっているのに対して、移動X8では総回動量が260°、移動X9では総回動量が150°と何れも移動X1を下回っている。本実施形態では、実行回数が最大となる動作パートの中で回動する軸の数及び手先の移動距離が最大となる動作パートを、監視対象として設定している。これにより、異常兆候を適切に検知することが可能となる。
【0082】
<第5の実施形態>
ロボット12においては構造上の理由等から、関節部毎に耐久性に差が生じる可能性がある。このような傾向がある場合には、比較的耐久性が高い関節部よりも、比較的耐久性が低い関節部を優先的に監視することがロボット12の故障を抑制する上で有利となり得る。本実施形態においては、このような事情を踏まえて監視対象とする動作パートを選定していることを特徴の1つとしている。以下、
図14を参照して、当該特徴に係る構成について説明する。なお、本実施形態ではロボットシステム10の基本構成が第1の実施形態と共通となっているため、これら共通の構成については説明を省略する。
【0083】
図14(a)に示すように、本実施形態に示す作業ルーティンには、移動Y1~移動Y9が含まれている。移動Y1、移動Y8、移動Y9については実行回数が何れも100回であり全ての動作パートの中で最多となっている。また、移動Y1、移動Y8、移動Y9については、何れも第1軸AX1が可動する点でも共通となっている。但し、移動Y1が第1軸AX1~第6軸AX6のうち4つが可動するのに対して、移動Y8,Y9では第1軸AX1~第6軸AX6のうち3つが可動する。つまり、移動Y1は、可動する軸の数が移動Y8,Y9よりも多くなっている。本実施形態では、先ず移動Y1を監視対象として選定している。
【0084】
ここで、本実施形態に示すロボット12については、第1軸AX1が第2軸AX2~第6軸AX6よりも耐久性が低い傾向がある。
図14(b)に示すように、移動Y1については第1軸AX1の回動範囲が当該第1軸AX1に係る最大回動範囲の一部に限定されている。つまり、移動Y1単独では第1軸AX1に係る最大回動範囲の全域を監視下に置くことが困難となっている。そして、移動Y9の回動範囲についてはその全体が移動Y1の回動範囲と重なっているのに対して、移動Y8の回動範囲については移動Y1の回動範囲におけるブランク部分を埋めるように設定されている。そこで、本実施形態では、移動Y1に加えて移動Y8を監視対象に選定することにより、耐久性に懸念のある第1軸AX1の監視を強化している。これにより、予知保全によってロボット12の故障を未然に抑える効果を一層好適に発揮させることができる。
【0085】
<第6の実施形態>
上記第1の実施形態では、ロボットシステム10を実際に運用する過程で監視対象となる動作パートを選定する構成とした。故障についてはある程度の期間に亘ってロボットシステム10が使用されることで発生することが多いため、第1の実施形態に示したように運用開始後は準備フェーズを経て監視フェーズに移行する構成とすることで予知保全を好適に実施できる。但し、ロボット12については可動部が多数組み合わされた複雑な構造であるため、個体差によっては想定よりも早く故障する可能性を否定できない。つまり、運用開始後は速やかに監視フェーズに移行する構成とすれば、早期の異常兆候についても適切に検知することができる。
【0086】
本実施形態においては、そのような事情に鑑みて、ロボットシステム10の運用開始後は速やかに監視フェーズに移行し得る構成を実現していることを特徴の1つとしている。具体的には、ユーザが作成した動作制御プログラムを解析することにより、ロボットシステム10の運用を開始する前の段階で監視対象を選定しており、第1の実施形態とは監視対象の選定するための構成が相違している。以下、
図15(a)を参照して、第1の実施形態との相違点を中心に本実施形態における特徴的な構成、具体的には監視部53のサポート部55にて実行される動作パート評価用処理について説明する。なお、第1の実施形態と共通の構成については説明を省略する。
【0087】
本実施形態においては、ユーザが動作制御プログラムを作成→実行(例えばコンパイル)したタイミングで当該動作制御プログラムが監視部53に送信され、監視部53では動作制御プログラムを受信したことに基づいて動作パート評価用処理を実行する。
【0088】
動作パート評価用処理においては、ステップS201にて移動系コマンドの特定し、動作パートを大まかに区分する。具体的には、先ずユーザが作成した動作制御プログラムからロボット12の手先の移動を指示するコマンド(移動系コマンド)を特定する。
図15(b)には制御プログラムの一例を示しているが、この制御プログラムにおいては「move」コマンドが移動系コマンドに該当する。制御プログラム(ソースコード)には、移動系コマンド以外にも様々なコマンドが含まれたり、制御プログラムを解説するためのコメントが記載されたりする。ステップS201の処理では、予め登録されている移動系コマンドと動作制御プログラムとを参照して、どの行に移動系コマンドが記載されているかを特定する。
【0089】
図15(a)の説明に戻り、ステップS201の処理を実行した後は、ステップS202にて各コマンドを実行した場合に振動センサ37から入力される信号の定常性(安定性)について判定する。具体的には、1の移動系コマンドを実行する場合であっても、移動の始点及び終点の少なくとも一方が異なれば、入力される信号は一義的には定まらない。すなわち、異なる波形が混在して信号は非定常(不安定)となる。そこで、移動系コマンドを実行する場合の始点及び終点を確認し、信号が定常/非定常のいずれとなるかを判定する。この判定においては、始点及び終点の各候補が何れも1つとなる場合には「定常」と判定し、始点及び終点の何れかの候補が複数となる場合には「非定常」と判定する。つまり、定常の場合には動作パートが1つとなり、非定常の場合にはパターン毎に動作パートが分かれることとなる。
【0090】
続くステップS203では、動作制御プログラムを繰り返した場合に移動系コマンドが実行される頻度を判定する。具体的には、「if」コマンド等の分岐コマンドが用いられている場合には、分岐が発生しない部分と比較して実行頻度は低くなる。そこで、「if」コマンドの影響下にあるものについては、実行頻度=「低」と判定し、「if」コマンドの影響下にないものについては、実行頻度=「高」と判定する。言い換えれば、制御プログラムをループさせた場合に毎度実行される移動系コマンドについては実行頻度=「高」と判定し、制御プログラムをループさせた場合に実行されないことがある移動系コマンドについては実行頻度=「低」と判定する。つまり、分岐が発生しないものについては動作パートが1つとなり、分岐が発生する場合にはパターン毎に動作パートが分かれることとなる。
【0091】
ステップS203にて各移動系コマンドの実行頻度を判定した後は、ステップS204に進み、選定候補の絞り込みを行う。具体的には、信号が「定常」且つ実行頻度が「高」となる移動系コマンドを選定候補とする。続くステップS205では、ステップS205にて絞り込んだ移動系コマンドについて追加確認を行う。具体的には、回動する軸数や手先の移動量を特定する。なお、ステップS204にて絞り込んだ移動系コマンドに限定して、ステップS205の追加確認を行う構成とすることは、監視部53の制御負荷を軽減させる上で好ましい。
【0092】
その後は、ステップS205にて追加確認した事項に基づいて、監視対象とする動きを選定する。
【0093】
例えば
図16に示す動作制御プログラムにおいては、2行目に「move P1」の移動系コマンドが記載されている。このコマンドはロボット12の手先を点p0から点p1へ移動させるものであり、信号=「定常」且つ実行頻度=「高」と判定されている。また、動作制御プログラムの4行目には「move P2」の移動系コマンドが記載されている。このコマンドはロボット12の手先を点p1から点p2へ移動させるものであり、信号=「定常」且つ実行頻度=「高」と判定されている。動作制御プログラムの6行目には「if(IO1=1、move P3、JUMP8)」の移動系コマンドが記載されている。このコマンドは外部機器からの入力IO1がONになっている場合に、ロボット12の手先を点p2から点p3へ移動させるものであり、移動後は動作制御プログラムの8行目に進むように規定されている。そして「move P3」の移動系コマンドは、信号=「定常」且つ実行頻度=「低」と判定されている。動作制御プログラムの7行目には「else(move P4)」の移動系コマンドが記載されている。このコマンドは7行目に記載の条件に合致しなかった場合に、ロボット12の手先を点p2から点p4へ移動させるものであり、信号=「定常」且つ実行頻度=「低」と判定されている。つまり、「if(IO1=1、move P3、JUMP8)」及び「else(move P4)」の移動系コマンドは、並列となる2つ動作パートに分かれていると解析される。
動作制御プログラムの9行目には「move P0」の移動系コマンドが記載されている。このコマンドはロボット12の手先を点p0へ移動させるものであるが、始点がp3及びp4の2通りとなる。つまり、6行目の移動系コマンドを経ている場合にはロボット12の手先を点p3から点p0へ移動させる一方、7行目の移動系コマンドを経ている場合にはロボット12の手先を点p4から点p0へ移動させるように規定されている。これを踏まえて、「move P0」の移動系コマンドは、信号=「非定常」且つ実行頻度=「高」と判定されている。つまり、「move P0」の移動系コマンドは、並列となる2つ動作パートに分かれていると解析される。
【0094】
以上を踏まえて、選定候補は信号=「定常」且つ頻度=「高」となる2つの移動系コマンド、「move P1」、「move P2」に絞り込まれている。そして、「move P2」については「move P1」よりも回動する軸数が多いため、
図16に示す例では、「move P2」の動作パートが監視対象として選定されている。
【0095】
<その他の実施形態>
なお、上述した各実施形態の記載内容に限定されず例えば次のように実施してもよい。ちなみに、以下の各構成を個別に上記各実施形態に対して適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて上記各実施形態に対して適用してもよい。また、上記各実施形態に示した各種構成の全て又は一部を任意に組み合わせることも可能である。この場合、組み合わせの対象となる各構成の技術的意義(発揮される効果)が担保されることが好ましい。実施形態の組み合わせからなる新たな構成に対して以下の各構成を個別に適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて適用することも可能である。
【0096】
・上記第1~第5の各実施形態等では、ロボット12の運用を開始し、ロボット12の動作状況を踏まえて監視対象とする動きを選定する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、ロボット12を停止させた状態で動作制御プログラムを擬似的に実行するシミュレーションによって動作確認(テスト)を行う構成においては、このシミュレーションにおける動きを踏まえて監視対象とする動作パートを選定する構成としてもよい。例えば、シミュレーション中に各動作パートが実行された回数をカウントし、それらの回数に基づいて監視対象とする動作パートを選定する構成とするとよい。
【0097】
・上記第1~第5の実施形態では、準備フェーズ中に実行された作業ルーティンの回数(サイクル数)が基準回数となった場合に評価完了→監視対象を選定する構成としたが、これに限定されるものではない。準備フェーズ開始から所定の時間(例えば1週間)が経過した時点で評価完了→監視対象を選定する構成とすることも可能である。
【0098】
・上記各実施形態では、監視部53にて監視対象とする動作パートを選定する構成としたが、これを以下のように変更してもよい。監視部53(監視AI54)が監視対象を自動で選定するよりも、現場の肌感覚でユーザ自身が監視対象を選定した方が、より適切に異常兆候を検知できる可能性もあるため、監視部53は評価結果をユーザに提示(報知)する構成とした上で、ユーザにより監視対象とする動作パートが選定される構成としてもよい。なお、ユーザに評価結果を提示(報知)する方法については任意である。例えば、コントローラ60の表示画面等に、動きと回数との関係を表示したり、ロボット12の動きをフローや軌道等によって示した上でどの動きがどの程度の実行回数になるかを絵で示す構成としたりするとよい。
【0099】
因みに、監視対象とする動作パートを監視部53(監視AI54)にて自動で選定する構成に加えて、ユーザが選定結果を変更可能な構成としてもよい。
【0100】
・上記各実施形態では、ロボット12の手先が移動する動作パートを監視対象(選定候補)としたが、これに加えてロボット12の手先が移動することなく当該ロボット12の姿勢が変化する動作パートを監視対象(選定候補)とすることを否定するものではない。
【0101】
・上記各実施形態では、監視対象を選定するための評価の指標(例えば実行回数を優先)を予め設定し、設定されている基準に従って監視対象を選定する構成としたが、これに限定されるものではない。(1)実行回数、(2)回動する軸数、(3)移動距離等を評価の指標とすることも可能である。このような構成においては、選定時の優先順を例えば(1)>(2)>(3)とすることで、選定を速やかに実施できる。但し、選定に際しては、以下のような事例が発生し得る。例えば、実行回数の差が僅かである一方、動きによって回動する軸数に大きな差があるといった事例や、実行回数の差が僅かである一方、移動距離に大きな差があるといった事例である。前者の事例では、選定時の優先順を(2)>(1),(3)とすることにより異常兆候を検知しやすくなる可能性がある。後者の事例では、選定時の優先順を(3)>(1),(2)とすることにより異常兆候を検知しやすくなる可能性がある。このように、多様な選定条件を総合的に判断して各動作パートを評価する上では、評価についてもAIを利用することに技術的意義がある。例えば、監視部53のサポート部55に評価AIを設け、同型の他の産業用ロボットの過去の実績や自身の実績(例えば、軸毎の回動回数や回動量、異常兆候の発生パターン等)を当該評価AIに入力して評価モデルを機械学習により構築し、この評価モデルに基づいて各動作パートを評価する構成としてもよい。
【0102】
・ロボット12の手先の動きについては場面によって速度の違いが発生し得る。速度が大きく設定されている場合には加減速の度合いについても大きくなり、ロボット12の関節部等に生じる負荷が大きくなると想定される。つまり、速度によって振動の波形が異なることとなる。動作パートを分ける場合には、速度が相違する動きについては別の動作パートとして取り扱うことが好ましい。
【0103】
また、ロボット12がワーク等を把持している場合には把持していない場合と比べてロボット12の負担が大きくなる。つまり、ワークWの有無によって振動の波形が異なることとなる。動作パートを分ける場合には、ワークWの把持している場合とワークWを把持していない場合とは別の動作パートとして取り扱うことが好ましい。
【0104】
・動作パートを評価する指標については、実行回数と手先の移動距離とを個別の指標とするのではなく、両者を1つの指標にまとめてもよい。例えば、実行回数と移動距離との積を指標とすることも可能である。同様に、実行回数と回動する軸数とを個別に用いるのではなく、両者を1つの指標にまとめてもよい。例えば、実行回数と回動する軸数との積を指標とすることも可能である。なお、実行回数と移動距離と回動する軸数との積を指標とすることも可能である。
【0105】
・第1軸AX1~第6軸AX6の全てについて比較基準モデルを形成する構成としたが、回動する軸については比較基準モデルを形成する一方、回動しない軸については比較基準モデルを形成しない構成とすることも可能である。特に、複数の動作パートを監視対象として選定する場合には、比較基準モデルを形成する対象、すなわち診断の対象を限定することにより、制御負荷が過度に大きくなることを抑制できる。
【0106】
・動作制御プログラムからロボット12の動きの遷移を示すフロー(例えば
図11参照)を作成して、当該フローをユーザに示した上で、監視対象とする動作パートをユーザに選定させる構成とすることも可能である。
【0107】
・上記各実施形態では、監視部53にて動作パートの評価、選定、比較基準モデルの形成、異常兆候の診断を行う構成としたが、これらの機能の一部又は全部を上位制御装置であるコントローラ60が担う構成を否定するものではない。なお、監視部53に相当する構成を制御装置51やコントローラ60とは別に設けてもよい。
【0108】
・上記各実施形態では、振動センサ37からの信号(波形)に基づいて比較基準モデルの形成及び異常兆候の診断を行ったが、異常兆候を特定可能な情報を取得できるのであれば足り、情報取得に係る具体的構成については任意である。例えば、各関節部にトルクセンサを配設してトルクセンサからの信号(波形)に基づいて比較基準モデルの形成及び異常兆候の診断を行ってもよいし、ロータリエンコーダ36からのエンコーダ値に基づいて比較基準モデルの形成及び異常兆候の診断を行ってもよい。
【0109】
・ロボットシステム10を運用している最中にラインの改修等によって制御プログラムを変更する場合がある。制御プログラム(特に移動系コマンドや制御点)が変更された場合には、比較基準モデルが不適切になり得る。そこで、制御プログラムが変更された場合には、監視フェーズから準備フェーズへ戻り、最新の制御プログラムに応じて監視対象の再選定→比較基準モデルの再形成を行う構成とするとよい。なお、制御プログラムが変更された場合には、準備フェーズへ戻るか否かをユーザに確認する構成とすることも可能である。
【0110】
・上記各実施形態では、工場の箱詰め工程に適用されたロボット12について予知保全を行う構成について例示したが、例えば製品の組立工程、検査工程、梱包工程に適用されたロボット12について予知保全を行う構成とすることも可能である。また、工場以外で使用される産業用ロボット以外のロボット(例えば飲食店や病院で使用されるロボット)に上記予知保全に係る構成を適用してもよい。
【0111】
<上記各実施形態から抽出される発明群について>
以下、上記各実施形態から抽出される発明群の特徴について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、上記各実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0112】
特徴1.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返すロボット本体(ロボット本体21)を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボット(ロボット12)に適用され、前記監視対象の選定をサポートするサポートシステム(サポート部55)であって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価部(サポート部55の評価機能)と、
前記評価部による評価結果を報知する報知部(サポート部55の報知機能)と
を備えている産業用ロボットのサポートシステム。
【0113】
本特徴に示すように、所定の作業に従事している産業用ロボット(ロボット本体)の動きが状況に応じて変わる構成を前提とすると、ロボット本体が当該所定の作業を繰り返し行う場合に一連の動きが全て一致するとは限らない。特に、従事する作業が複雑になって分岐が多く発生する場合には、全ての動きが一致する機会の方が少なくなると想定される。ここで、比較的単純で状況に関係なく定常的な動作を繰り返す機械であれば、都度の動き全体を監視することで動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できる。このような手法を上記産業用ロボットに適用すれば、同じく動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できるように見えるが、実際には当該効果は上手く発揮されない。なぜならば、所定の作業における産業用ロボットの動き全体をまとめて監視する場合には、動きが一致する部分と一致しない部分とが混在し不一致となる部分がある種のノイズとなって動作異常の兆候を見極めることが難しくなると想定されるからである。
【0114】
この点、本特徴に示すサポートシステムでは、ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価し、その評価結果をユーザや監視装置に報知する。例えば、監視対象を手動で選定する場合には、ユーザは報知された評価結果を選定の目安にすることができ、当該評価結果は適切な選定の一助となり得る。また、監視対象を自動で選定する場合には、当該評価結果を根拠とすることで、監視対象の選定の妥当性を高めることができる。以上の通り、監視対象の選定をサポートすることは、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるようにする上で好ましい。
【0115】
なお、一部の動きに監視対象を絞ることは、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくする上で好ましい。また、監視対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば兆候を判定する基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。
【0116】
特徴2.前記選定用の評価指標として、前記動作パートの実行頻度(個々の動きの実行頻度)に対応した指標を含み、
前記評価部は、前記ロボット本体が前記所定の作業を繰り返し行った場合に同じ動作態様となる前記動作パートの実行頻度を示す情報を取得し、当該取得した情報に基づいてそれら動作パートを評価する特徴1に記載のサポートシステム。
【0117】
特徴1に示したように、産業用ロボット(ロボット本体)の動きの一部(一部の動作パート)に限定して監視を行う場合には、当該動作パートが発生する機会が多くなることで兆候を確認する機会も多くなる。これは、兆候の見落としを抑制する上で好ましい。また、実行頻度の高ければ摩耗等が進みやすくなるため、このような動作パートを監視の対象として選定することには技術的意義がある。ここで、本特徴に示すように、実行頻度に相関のある情報を選定用情報として取得すれば、当該選定用情報を実行頻度が高い動作パートを監視の対象として選定する目安にすることができる。これにより、実用上好ましい構成が実現できる。
【0118】
特徴3.前記選定用の評価指標として、前記動作パートの実行回数に対応した指標を含み、
前記評価部は、前記ロボット本体が前記所定の作業を繰り返し行った場合に同じ動作態様となる前記動作パートの実行回数を示す情報を取得し、当該取得した情報に基づいてそれら動作パートを評価する特徴1又は特徴2に記載のサポートシステム。
【0119】
本特徴に示すように、実際に所定の作業を繰り返し行って個々の動作パートの実行回数を示す情報(選定用情報)を取得すれば、各々の動作パートがどの程度の頻度で実行されるかを適切に把握することができる。これにより、監視の対象の適切な選定に寄与できる。
【0120】
特徴4.前記報知部は、前記実行回数が相対的に多い前記動作パートが相対的に少ない動作パートよりも優先的に前記監視対象として選定されるように促す特徴2又は特徴3に記載のサポートシステム。
【0121】
本特徴に示すように、実行回数が相対的に多い動作パートを相対的に少ない動作パートよりも優先的に監視の対象として選ばれるように促す(推奨する)ことにより、特徴2等に示した効果を好適に発揮させることができる。
【0122】
特徴5.前記報知部は、前記実行回数が最も多い動作パートが前記監視対象として選定されるように促す特徴2又は特徴3に記載のサポートシステム。
【0123】
本特徴に示すように、実行回数が最も多い動作パートが監視対象として選定されるように促す(推奨する)ことにより、特徴2等に示した効果を好適に発揮させることができる。
【0124】
特徴6.前記産業用ロボットは、複数の関節部を有する多関節型ロボットであり、
前記選定用の評価指標として、前記複数の関節部のうち回動する関節部及びその数の少なくとも何れかに対応した指標を含み、
前記評価部は、各前記動作パートにおいて前記関節部の何れが回動するかを示す情報を取得し、当該取得した情報に基づいてそれら動作パートを評価する特徴1乃至特徴5のいずれか1つに記載のサポートシステム。
【0125】
産業用ロボットの動きから動作異常の兆候を検知する場合には、動きのない関節部については動作異常の兆候が表れないため兆候の発見が難しくなる。このような事情に鑑みれば、選定する動きについては極力多くの関節部が回動する動きであることが好ましい。そこで、本特徴に示すように選定用情報として何れの関節部が回動するかを示す情報を取得する構成とすれば、極力多くの関節部が回動するものを選ぶ際の目安とすることができる。これにより、監視の対象の適切な選定に寄与できる。
【0126】
特徴7.前記制御プログラムには、前記ロボット本体の動きを規定する複数の動作指示コマンドが含まれており、
前記評価部は、前記制御プログラムにおける前記動作指示コマンドを参照して、前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の前記動作パートに区分する特徴1乃至特徴6のいずれか1つに記載のサポートシステム。
【0127】
本特徴に示すように、制御プログラムに記載された動作指示コマンドを参照してロボット本体の動きを複数の動作パートに区分する構成とすれば、動作パートの区分の基準が様々となって、繰り返し実行される動作パートが存在するにも関わらず、当該動作パートが見逃されるといった不都合を生じにくくすることができる。
【0128】
特徴8.前記評価部は、前記動作指示コマンドを実行した場合の始点及び終点を前記制御プログラムから把握し、それら把握した始点及び終点を踏まえて前記ロボット本体の動きを複数の前記動作パートに区分する特徴7に記載のサポートシステム。
【0129】
本特徴に示すように、制御プログラムから始点及び終点を把握する構成とすることにより、動作指示コマンドを参照して区分する場合の動作パートの混同を抑制することができる。
【0130】
特徴9.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返すロボット本体(ロボット本体21)を有し、前記ロボット本体の動きの一部を監視対象とすることにより当該ロボット本体に生じる動作異常の兆候を検知可能な産業用ロボット(ロボット12)に適用され、前記監視対象の選定をサポートするためのサポートプログラムであって、
前記制御プログラムは、前記所定の作業における前記ロボット本体の動きが状況に応じて異なる動きとなるように設定可能となっており、
前記監視の対象を選定する装置(制御装置51の監視部53)に、
前記制御プログラムに従って前記所定の作業を行う場合の前記ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを前記監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価する評価処理と、
前記評価処理による評価結果をユーザに報知する報知処理と
を実行させる産業用ロボットのサポートプログラム。
【0131】
本特徴に示すサポートプログラムによれば、ロボット本体の動きを複数の動作パートに区分し、それら複数の動作パートを監視対象の選定用の評価指標に基づいて評価し、その評価結果をユーザや監視装置に報知する。例えば、監視対象を手動で選定する場合には、ユーザは報知された評価結果を監視対象を選定する目安にすることができ、当該評価結果は適切な選定の一助となり得る。また、監視対象を自動で選定する場合には、当該評価結果を根拠とすることで、監視対象の選定の妥当性を高めることができる。以上の通り、監視対象の選定をサポートすることは、産業用ロボットの予知保全が適切に行われるようにする上で好ましい。
【0132】
なお、一部の動きに監視対象を絞ることは、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくする上で好ましい。また、監視対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば兆候を判定する基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。
【0133】
特徴10.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返し行う産業用ロボット(ロボット12)に適用され、当該産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を検知する兆候検知装置であって、
前記所定の作業は、状況に応じて前記産業用ロボットの動きが異なるパートを含んだ複数のパートで構成されており、
前記複数のパートにおける前記産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定するための選定用情報(例えば実行回数)を取得する情報取得部(監視部53にて選定用カウンタを更新する機能)と、
前記選定用情報に基づいて選定された動きから前記兆候が表れているかを判定する判定部(監視部53における診断機能)と
を備えている兆候検知装置。
【0134】
本特徴に示すように、所定の作業を構成しているパートの一部の動きが状況に応じて変わる構成を前提とすると、産業用ロボットが当該所定の作業を繰り返し行う場合に一連の動きが全て一致するとは限らない。特に、従事する作業が複雑になって分岐が多く発生する場合には、全ての動きが一致する機会の方が少なくなると想定される。ここで、比較的単純で状況に関係なく定常的な動作を繰り返す機械であれば、都度の動き全体を監視することで動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できる。このような手法を上記産業用ロボットに適用すれば、同じく動作異常の兆候の見逃しを好適に抑制できるように見えるが、実際には当該効果は上手く発揮されない。なぜならば、所定の作業における産業用ロボットの動き全体をまとめて監視する場合には、動きが一致する部分と一致しない部分とが混在し不一致となる部分がある種のノイズとなって動作異常の兆候を見極めることが難しくなると想定されるからである。
【0135】
この点、本特徴に示す構成では、複数のパートにおける産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定するための選定用情報を取得し、当該選定用情報に基づいて選定された動き(所定の動き)から動作異常の兆候が表れているかが判定される。所定の動きに監視の対象を絞ることにより、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくすることができる。これは、監視の機会をなるべく多く確保する上で好ましい。また、監視の対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば判定基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。以上の理由から、本特徴に示す構成によれば、産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を適切に検知することができる。
【0136】
特徴11.前記パートは、状況によって前記産業用ロボットの動きが異なる可変パートと、状況によらず同じ動きとなる固定パートとを含み、
前記情報取得部は、前記複数のパートにおける前記産業用ロボットの個々の動きが前記可変パート及び前記固定パートの何れに対応しているかを識別可能な情報を前記選定用情報として取得し、
前記情報取得部により取得された前記選定用情報に基づいて、前記個々の動きのうち前記固定パートにおける前記産業用ロボットの動きの少なくとも何れかを前記監視の対象として選定する選定部(監視部53における選定機能)を備えている特徴10に記載の兆候検知装置。
【0137】
本特徴に示すように所定の作業が可変パートと固定パートとで構成されている場合には、固定パートにおける産業用ロボットの動きの少なくとも何れかを監視の対象として選定することにより、特徴1に示した効果を好適に発揮させることができる。
【0138】
特徴12.前記固定パートが連続している場合には、それら固定パートにおける前記産業用ロボットの動きを1つの動きとして前記監視の対象に選定する特徴11に記載の兆候検知装置。
【0139】
本特徴に示すように、定常的な動きが連続する場合にはそれらを1つの動きとして監視の対象に選定することで、幅広いサンプリングが可能となる。これは、動作異常の兆候を見逃しにくくする上で有利である。また、摩耗等によって産業用ロボットの劣化が進むと、産業用ロボットの動きが大きく変化し得る部分、すなわち先の動きと後の動きとの繋ぎ部分で影響が顕著になる可能性がある。この点、本特徴に示すように、定常的な動きが連続する場合にはそれらを1つの動きとして監視の対象に選定すれば、前後の動きの繋ぎ部分についても兆候を検知しやすくなる。これにより、兆候の早期発見に寄与できる。
【0140】
特徴13.前記産業用ロボットは、複数の関節部を有する多関節型ロボットであり、
前記情報取得部により取得された前記選定用情報に基づいて、前記個々の動きのうち一部の動きを選定する選定部を備え、
前記選定部は、前記一部の動きとして、前記複数の関節部のうち回動対象となる関節部が異なる複数の動きを選定可能となっている特徴12に記載の兆候検知装置。
【0141】
産業用ロボットの動きから動作異常の兆候を検知する場合には、動きのない関節部については動作異常の兆候が表れないため兆候の発見が難しくなる。このような事情に鑑みれば、選定する動きについては極力多くの関節部が回動する動きであることが好ましい。そこで、本特徴に示すように選定用情報として何れの関節部が回動するかを示す情報を取得する構成とすれば、当該選定用情報を極力多くの関節部が回動するものを選ぶ際の指標とすることができる。これにより、監視の対象の適切な選定に寄与できる。
【0142】
ロボットを所定の作業に従事させる場合には、個々の動きが全ての関節部を回動させる動きになるとは限らない。つまり、1の動きを監視の対象とする場合には、監視が困難な関節部が発生し得る。一方、全ての関節部が回動することを前提とした動きを選定しようとした場合には候補となる動きが限られてしまう。そこで、本特徴に示すように、回動対象となる関節部が異なる複数の動きを選定可能とすれば、上記懸念を好適に払しょくできる。
【0143】
特徴14.前記選定された動きにより発生する振動を検出する振動検出部(振動センサ37)と、
前記振動検出部により検出された振動に基づいて比較の基準となる基準情報を設定する設定部(監視部53において比較基準モデルを作成する機能)と
を備え、
前記判定部は、前記設定部により設定された前記基準情報と前記振動検出部により検出された振動を示す振動情報とを比較することにより、前記兆候が表れているかを判定する特徴10乃至特徴13のいずれか1つに記載の兆候検知装置。
【0144】
産業用ロボットに摩耗等の劣化が進むことで、当該産業用ロボットが動いた際に発生する振動が大きくなるといった変化が生じ得る。故に、基準情報と振動情報とを比較することで兆候が表れているかを判定する構成とすれば動作異常の兆候を検知できる。このような構成においては、状況によって産業用ロボットの動きが変わることで、比較を適切に行うことが難しくなる。そこで、特徴1等に示した技術的思想を適用して、判定が適切に行われるようにすることには技術的意義がある。
【0145】
特徴15.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返し行う産業用ロボット(ロボット12)に適用され、当該産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を検知する兆候検知装置であって、
前記所定の作業は、状況に応じて前記産業用ロボットの動きが異なるパートを含んだ複数のパートで構成されており、
記所定の作業が繰り返される場合に、各前記パートにおける個々の動きが実行される頻度に相関のある相関情報(個々の動きの実行回数)を取得する情報取得部(監視部53にて選定用カウンタを更新する機能)と、
前記情報取得部により取得された前記相関情報に基づいて、前記複数のパートにおける前記産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定する選定部(監視部53における選定機能)と、
前記選定部により選定された動きから前記兆候が表れているかを判定する判定部(監視部53における診断機能)と
を備えている兆候検知装置。
【0146】
本特徴に示す構成では、複数のパートにおける産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定し、選定した動き(所定の動き)から動作異常の兆候が表れているかが判定される。所定の動きに監視の対象を絞ることにより、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくすることができる。これは、監視の機会をなるべく多く確保する上で好ましい。また、監視の対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば判定基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。以上の理由から、本特徴に示す構成によれば、産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を適切に検知することができる。
【0147】
特徴16.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返し行う産業用ロボット(ロボット12)に適用され、当該産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を検知する兆候検知装置であって、
前記所定の作業は、状況に応じて前記産業用ロボットの動きが異なるパートを含んだ複数のパートで構成されており、
記所定の作業が繰り返される場合に、各前記パートにおける個々の動きが実行される頻度に相関のある相関情報(個々の動きの実行回数)を取得する情報取得部(監視部53にて選定用カウンタを更新する機能)と、
前記個々の動きの何れを監視の対象とするかがユーザにより選定される場合に、前記情報取得部により取得された前記相関情報をユーザに教示する教示部と、
ユーザにより選定された動きから前記兆候が表れているかを判定する判定部(監視部53における診断機能)と
を備えている兆候検知装置。
【0148】
本特徴に示す構成では、教示された相関情報に基づいて産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかをユーザが選定可能となっており、ユーザにより選定された動き(所定の動き)から動作異常の兆候が表れているかが判定される。所定の動きに監視の対象を絞ることにより、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくすることができる。これは、監視の機会をなるべく多く確保する上で好ましい。また、監視の対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば判定基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。以上の理由から、本特徴に示す構成によれば、産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を適切に検知することができる。
【0149】
特徴17.ユーザにより設定された制御プログラムに従って所定の作業(例えばワークWの箱詰め)を繰り返し行う産業用ロボット(ロボット12)に適用され、当該産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を検知する兆候検知方法であって、
前記所定の作業は、状況に応じて前記産業用ロボットの動きが異なるパートを含んだ複数のパートで構成されており、
前記複数のパートにおける前記産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定するための選定用情報(例えば実行回数)を取得する情報取得工程と、
前記情報取得工程にて取得した前記選定用情報に基づいて、前記複数のパートにおける前記産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定する選定工程と、
前記選定工程にて選定された動きから前記兆候が表れているかを判定する判定工程と
を備えている兆候検知方法。
【0150】
本特徴に示す方法では、複数のパートにおける産業用ロボットの個々の動きの何れを監視の対象とするかを選定するための選定用情報を取得し、当該選定用情報に基づいて選定された動き(所定の動き)から動作異常の兆候が表れているかを判定する。所定の動きに監視の対象を絞ることにより、状況に応じて他の動きが変わる場合であっても、その影響を受けにくくすることができる。これは、監視の機会をなるべく多く確保する上で好ましい。また、監視の対象を選定することにより、状況に応じた動きの変化を許容するような対策(例えば判定基準を緩く設定するといった対策)が不要となる。これは、動作異常の兆候の検知精度を向上させる上で有利である。以上の理由から、本特徴に示す方法によれば、産業用ロボットに生じる動作異常の兆候を適切に検知することができる。
【符号の説明】
【0151】
10…ロボットシステム、12…ロボット、35…駆動モータ、37…振動センサ、51…制御装置、52…駆動制御部、53…監視部、54…監視AI、55…サポート部、60…コントローラ。