(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046283
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】歯科診断方法及び歯科診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20240327BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61B5/00 101R
A61C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151586
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】任 書晃
(72)【発明者】
【氏名】安部 力
(72)【発明者】
【氏名】堀井 和広
(72)【発明者】
【氏名】崔 森悦
【テーマコード(参考)】
4C052
4C117
【Fターム(参考)】
4C052NN15
4C117XB01
4C117XB02
4C117XD08
4C117XE30
4C117XE33
(57)【要約】
【課題】レーザー干渉計を用いて検出された歯の共鳴振動数に基づいて歯の診断を的確且つ容易に行うことができる歯科診断方法及び歯科診断装置を提供する。
【解決手段】歯科診断方法は、ナノレベルの振幅の振動を患者の歯12に対して与えるとともに、歯12に与えられた振動に伴って歯12が振動するときの共鳴振動数を、レーザー干渉計15を用いて検出し、当該検出した共鳴振動数に基づいて歯12の診断を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノレベルの振幅の振動を患者の歯に対して与えるとともに、前記歯に与えられた前記振動に伴って前記歯が振動するときの共鳴振動数を、レーザー干渉計を用いて検出し、当該検出した前記共鳴振動数に基づいて前記歯の診断を行うことを特徴とする歯科診断方法。
【請求項2】
前記歯について定期的に前記共鳴振動数を検出し、当該検出した前記共鳴振動数の変化態様に基づいて前記歯の診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の歯科診断方法。
【請求項3】
患者の歯に対してナノレベルの振幅の振動を与える振動付与部と、
レーザー干渉計を有し、前記振動付与部によって前記歯に与えられた前記振動に伴って前記歯が振動するときの共鳴振動数を検出する検出部と、
を備えることを特徴とする歯科診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科診断方法及び歯科診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、患者の歯における目視できない部分を診断する場合、当該歯をX線で撮像した後、撮像した歯の画像を見て診断を行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようなX線を用いた歯の診断では、X線による被ばくの問題がある。このため、患者の歯における目視できない部分を他の方法により容易に診断することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための歯科診断方法及び歯科診断装置の各態様を記載する。
[態様1]ナノレベルの振幅の振動を患者の歯に対して与えるとともに、前記歯に与えられた前記振動に伴って前記歯が振動するときの共鳴振動数を、レーザー干渉計を用いて検出し、当該検出した前記共鳴振動数に基づいて前記歯の診断を行うことを特徴とする歯科診断方法。
【0006】
本願発明者は、以下の現象を見出した。すなわち、ナノレベルの振幅の振動を歯に対して与えると、当該振動に伴って歯がナノレベルの振幅で振動する。このときの歯の共鳴振動数の分布は、所定の振動数領域においてピークを有する。歯と補綴物との間にう蝕(虫歯)等に起因する隙間が生じると、こうした隙間のない場合に比べて、歯の共鳴振動数の分布のピークが低い振動数領域にシフトする。また、歯周病が進行すると、歯を支える骨(歯槽骨)が脆弱化する。このため、歯周病が進行していない場合に比べて、歯の共鳴振動数の分布のピークが低い振動数領域にシフトする。
【0007】
これらのことから、上記方法によれば、レーザー干渉計を用いて検出された歯の共鳴振動数に基づいて歯の診断を的確且つ容易に行うことができる。
[態様2]前記歯について定期的に前記共鳴振動数を検出し、当該検出した前記共鳴振動数の変化態様に基づいて前記歯の診断を行うことを特徴とする[態様1]に記載の歯科診断方法。
【0008】
検出した共鳴振動数は、患者毎に個人差があるため、歯の診断のための共通の閾値を設定することが困難である。この点、上記方法によれば、治療後の特定の歯について定期的に共鳴振動数を検出することで、今回検出した共鳴振動数と今回よりも前に検出した共鳴振動数とを比較したときの共鳴振動数の変化態様に基づいて歯の診断を行うことができる。したがって、共鳴振動数の閾値を設けなくても、的確に歯の診断を行うことができる。
【0009】
[態様3]患者の歯に対してナノレベルの振幅の振動を与える振動付与部と、レーザー干渉計を有し、前記振動付与部によって前記歯に与えられた前記振動に伴って前記歯が振動するときの共鳴振動数を検出する検出部と、を備えることを特徴とする歯科診断装置。
【0010】
上記構成によれば、上記方法と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、レーザー干渉計を用いて検出された歯の共鳴振動数に基づいて歯の診断を的確且つ容易に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態における歯科診断装置の使用時の模式図である。
【
図2】(A)~(C)の共鳴振動数と振幅との関係を示すグラフである。
【
図3】(D)及び(E)の共鳴振動数と振幅との関係を示すグラフである。
【
図4】変更例において、人の歯を振動させたときの共鳴振動数と振幅との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、歯科診断装置の一実施形態を図面に従って説明する。
<歯科診断装置11>
図1に示すように、歯科診断装置11は、患者の歯12に対してナノレベルの振幅の振動を与える振動付与部13と、振動付与部13によって歯12に与えられた振動に伴って歯12が振動するときの共鳴振動数を検出する検出部14とを備えている。検出部14は、レーザー干渉計15を有している。
【0014】
振動付与部13は、有底円筒状の把持部16と、把持部16の先端部に設けられたL字針状をなす接触部17とを有している。振動付与部13は、把持部16内に、振動子(図示略)と当該振動子に対してナノレベルの振幅の振動を与える圧電素子(図示略)とを有している。振動子は、その振動が接触部17に伝達されるように配置されている。
【0015】
すなわち、接触部17は、振動子と一緒に振動するように構成されている。振動付与部13は、圧電素子に所定の電圧を印加することで、振動子がナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動する。振動付与部13は、振動子と一緒に接触部17をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数(本例では、5kHz~20kHz)で振動させた状態で歯12に接触部17の先端を接触させることで、歯12をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させる。
【0016】
レーザー干渉計15は、歯12にレーザーLを照射することで、振動付与部13によって振動された歯12の振動の振幅を時間経過とともに計測する。検出部14は、レーザー干渉計15の計測結果に基づいて、振動付与部13によって歯12に付与した振動の振動数のみに着目して歯12の振幅を抽出することで、歯12が振動するときの共鳴振動数を検出する。
【0017】
<歯12の状態と歯12が振動するときの共鳴振動数との関係>
図1に示すように、振動付与部13によってナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させたときの次の(A)~(C)の共鳴振動数と振幅との関係を求めた。(A)は、参考として正常な歯12のみとした。(B)は、補綴物18が装着された状態の正常な歯12とした。(C)は、補綴物18が装着された状態の正常な歯12と補綴物18との間にう蝕(模擬)に起因する隙間を人工的に形成することによって補綴物18を脱離し易い状態にした歯12とした。(C)においては、補綴物18の底面の一部が切削されている。(A)~(C)のそれぞれにおける共鳴振動数と振幅との関係を、縦軸を振幅とするとともに横軸を共鳴振動数とした
図2のグラフで示す。
【0018】
図2における破線のグラフは(A)を示す。
図2における二点鎖線のグラフは(B)を示す。
図2における実線のグラフは(C)を示す。
図2における(A)のグラフと(B)のグラフとを比較すると、共鳴振動数の分布のピークの位置に差がほとんどないことが分かる。
【0019】
図2における(B)のグラフと(C)のグラフとを比較すると、(B)のグラフにおける共鳴振動数の分布のピークよりも(C)のグラフにおける共鳴振動数の分布のピークの方が、低い振動数領域にあることが分かる。すなわち、補綴物18が装着された状態の正常な歯12において補綴物18の内側にう蝕(虫歯)等に起因する隙間が形成されると、共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域へシフトすることが分かる。
【0020】
したがって、共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域へシフトすると、補綴物18が装着された状態の正常な歯12において補綴物18の内側にう蝕(虫歯)等に起因する隙間が形成されたものと予測診断できる。
【0021】
<歯槽骨の硬さと歯12が振動するときの共鳴振動数との関係>
図1に示すように、振動付与部13によってナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させたときの次の(D)及び(E)の共鳴振動数と振幅との関係を求めた。(D)は、地球上の重力(1G)下で飼育しているマウスの歯とした。(E)は、地球上の重力(1G)の2倍の重力(2G)下で4週間飼育した上記マウスの歯とした。(D)及び(E)のそれぞれにおける共鳴振動数と振幅との関係を、縦軸を振幅とするとともに横軸を共鳴振動数とした
図3のグラフで示す。
【0022】
図3における実線のグラフは(D)を示す。
図3における二点鎖線のグラフは(E)を示す。
図3における(D)のグラフと(E)のグラフとを比較すると、(D)のグラフにおける共鳴振動数の分布のピークよりも(E)のグラフにおける共鳴振動数の分布のピークの方が、高い振動数領域にあることが分かる。これにより、(E)は、(D)に比べて、歯槽骨(歯12を支える骨)が硬くなったので、共鳴振動数の分布のピークが高い振動数領域にシフトしたものと考えられる。
【0023】
このことから、歯周病により歯槽骨が脆弱化する(軟らかくなる)と、歯12が振動するときの共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域へシフトすることが分かる。したがって、共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域へシフトすると、歯周病が進行しているものと予測診断できる。
【0024】
<歯科診断装置11の作用>
図1に示すように、歯科診断装置11による歯12の診断は、次のようにして行われる。まず、振動付与部13の接触部17をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させた状態で診断対象となる歯12に対して接触させる。すると、接触部17から歯12に対して振動が与えられるので、当該与えられた振動に伴って歯12がナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動する。
【0025】
そして、この歯12が振動するときの共鳴振動数を、検出部14によりレーザー干渉計15を用いて検出する。その後、検出した共鳴振動数に基づいて歯12の診断が行われる。具体的には、検出した共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域にシフトしたか否かを確認することで、歯12と補綴物18との間にう蝕等に起因する隙間が生じているか否か、及び歯周病の進行に伴って歯槽骨が脆弱化しているか否かが分かる。
【0026】
歯科診断装置11を用いた上述の診断は、特定の患者の治療後の正常な特定の歯12について、定期的(例えば、1ヶ月毎や3ヶ月毎など)に行われる。すなわち、特定の患者の特定の歯12についての診断は、定期的に上述のようにして共鳴振動数を検出して、当該検出した共鳴振動数の変化態様に基づいて行われる。
【0027】
そして、特定の患者の特定の歯12について、定期的に共鳴振動数の分布のピークを検出して、当該検出した共鳴振動数の分布のピークがより低い振動数領域へシフトした場合には、次のような状態であると予測診断できる。すなわち、歯12と補綴物18との間にう蝕等に起因する隙間が生じている状態か、または歯周病の進行に伴って歯槽骨が脆弱化している状態であると予測診断できる。
【0028】
<実施形態の効果>
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)歯科診断方法は、ナノレベルの振幅の振動を歯12に対して与えるとともに、歯12に与えられた振動に伴って歯12が振動するときの共鳴振動数を、レーザー干渉計15を用いて検出し、当該検出した共鳴振動数に基づいて歯12の診断を行う。
【0029】
本願発明者は、以下の現象を見出した。すなわち、ナノレベルの振幅の振動を所定の振動数で歯12に対して与えると、当該振動に伴って歯12がナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動する。このときの歯12の共鳴振動数の分布は、所定の振動数領域においてピークを有する。歯12と補綴物18との間にう蝕(虫歯)等に起因する隙間が生じると、こうした隙間のない場合に比べて、歯12の共鳴振動数の分布のピークが低い振動数領域にシフトする。また、歯周病が進行すると、歯槽骨(歯12を支える骨)が脆弱化する。このため、歯周病が進行していない場合に比べて、歯12の共鳴振動数の分布のピークが低い振動数領域にシフトする。
【0030】
これらのことから、上記方法によれば、レーザー干渉計15を用いて検出された歯12の共鳴振動数に基づいて歯12の診断を的確且つ容易に行うことができる。
(2)歯科診断方法において、特定の患者の特定の歯12について定期的に共鳴振動数を検出し、当該検出した共鳴振動数の変化態様に基づいて歯12の診断を行う。
【0031】
検出した共鳴振動数は、患者毎に個人差があるため、歯12の診断のための共通の閾値を設定することが困難である。この点、上記方法によれば、治療後の特定の歯12について定期的に共鳴振動数を検出することで、今回検出した共鳴振動数と今回よりも前に検出した共鳴振動数とを比較したときの共鳴振動数の変化態様に基づいて歯12の診断を行うことができる。したがって、共鳴振動数の閾値を設けなくても、的確に歯12の診断を行うことができる。
【0032】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0033】
・
図4は、一つのモデルとして、人の下顎骨を使って人の歯をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させたときの共鳴振動数と振幅との関係を示すグラフである。
図4のグラフにおいて、人の歯をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させたときには、共鳴振動数の分布が200~2000Hz程度の範囲であることが分かる。したがって、共鳴振動数の測定範囲は、上記実施形態における
図2のグラフの場合の5~20kHzだけでなく、例えば
図4のグラフの場合の200~2000Hzを含むようにしてもよい。つまり、人の歯をナノレベルの振幅で且つ所定の振動数で振動させたときの共鳴振動数の分布は、個人差が大きいため、共鳴振動数の測定範囲をより広くして特定の範囲に絞りすぎないようにすることが好ましい。
【0034】
・上記診断方法において、特定の患者の特定の歯12について必ずしも定期的に共鳴振動数を検出する必要はない。すなわち、特定の患者の特定の歯12について不定期に共鳴振動数を検出するようにしてもよい。
【0035】
・振動付与部13の形状は、適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0036】
11…歯科診断装置
12…歯
13…振動付与部
14…検出部
15…レーザー干渉計
16…把持部
17…接触部
18…補綴物
L…レーザー