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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046306
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
   B63H 5/125 20060101AFI20240327BHJP
   B63H 20/08 20060101ALI20240327BHJP
   B63H 20/12 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B63H5/125
B63H20/08 100
B63H20/12 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151616
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 公隆
(72)【発明者】
【氏名】萩 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】若水 侑
(57)【要約】
【課題】船外機の大型化を抑えながら、大きな舵角を得る。
【解決手段】船外機は、第1ハウジングと、第2ハウジングと、プロペラ軸と、ステアリング機構とを備える。ステアリング機構は、第2ハウジングを転舵軸回りに転舵する。ステアリング機構は、第1ピニオンギアと、第2ピニオンギアと、第1ラックと、第2ラックとを含む。第1ピニオンギアは、第1ハウジング、又は、第2ハウジングに接続される。第2ピニオンギアは、第1ピニオンギアに接続される。第1ラックは、複数の第1の歯を含む。複数の第1の歯は、第1ピニオンギアと噛み合い、第1方向に並んで配置される。第1ラックは、第1方向に移動可能である。第2ラックは、複数の第2の歯を含む。複数の第2の歯は、第2ピニオンギアと噛み合い、第2方向に並んで配置される。複数の第2の歯は、複数の第1の歯よりも小さなモジュールを有する。第2ラックは、第2方向に移動可能である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ハウジングと、
前記第1ハウジングに対して転舵軸回りに転舵可能に支持される第2ハウジングと、
前記第2ハウジング内に配置され、前後方向に延びるプロペラ軸と、
前記第2ハウジングを前記転舵軸回りに転舵するステアリング機構と、
を備え、
前記ステアリング機構は、
前記第1ハウジング、又は、前記第2ハウジングに接続される第1ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアに接続される第2ピニオンギアと、
前記第1ピニオンギアと噛み合い第1方向に並んで配置される複数の第1の歯を含み、前記第1方向に移動可能な第1ラックと、
前記第2ピニオンギアと噛み合い、第2方向に並んで配置され、前記複数の第1の歯よりも小さなモジュールを有する複数の第2の歯を含み、前記第2方向に移動可能な第2ラックと、
を含む、
船外機。
【請求項2】
前記第2ラックの前記第2方向における長さは、前記第1ラックの前記第1方向における長さよりも小さい、
請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記第2ハウジングの舵角が第1範囲内である場合には、前記第1ラックが前記第1方向に移動することで、前記第1ピニオンギアを回転させて前記第2ハウジングを転舵し、
前記第2ハウジングの舵角が前記第1範囲よりも大きい第2範囲内である場合には、前記第2ラックが前記第2方向に移動することで、前記第2ピニオンギアを回転させて前記第2ハウジングを転舵する、
請求項1に記載の船外機。
【請求項4】
前記第1ラックは、前記第2ハウジングの舵角が前記第2範囲内である場合に、前記第1ピニオンギアと向かい合い前記第1ピニオンギアを前記第1ラックに対して空転させる第1逃げ部を含む、
請求項3に記載の船外機。
【請求項5】
前記第1ラックを前記第1方向に移動させる第1油圧アクチュエータをさらに備える、
請求項1に記載の船外機。
【請求項6】
前記第2ラックを前記第2方向に移動させる第2油圧アクチュエータをさらに備える、
請求項1に記載の船外機。
【請求項7】
前記第2ハウジングの舵角が第1範囲内である場合には、前記第1ラックが前記第1方向に移動することで、前記第1ピニオンギアを回転させて前記第2ハウジングを転舵し、
前記第2ハウジングの舵角が前記第1範囲よりも大きい第2範囲内である場合には、前記第2ラックが前記第2方向に移動することで、前記第2ピニオンギアを回転させて前記第2ハウジングを転舵し、
前記第2油圧アクチュエータは、前記第2ハウジングの舵角が前記第1範囲内である場合には、前記第2ラックへの油圧を逃がして、前記第2ラックを前記第2方向に移動自在とする、
請求項6に記載の船外機。
【請求項8】
前記第1方向は、前記船外機の前後方向である、
請求項1に記載の船外機。
【請求項9】
前記第2方向は、前記船外機の前後方向である、
請求項1に記載の船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機には、ハウジングを転舵軸回りに転舵するステアリング機構を備えるものがある。例えば、特許文献1の船外機は、ロアギアケースと、ロアギアケースを転舵するステアリング機構とを備えている。ステアリング機構は、ラックアンドピニオンによって、ロアギアケースを転舵する。詳細には、ステアリング機構は、ピストンと、ステアリングコラムと、ステアリングアクチュエータとを有する。ピストンは、複数の歯を有する。ステアリングコラムは、ロアギアケースに接続されており、複数の歯を有する。ステアリングコラムの複数の歯は、ピストンの複数の歯と噛み合う。ステアリングアクチュエータは、ピストンを直線移動させる。それにより、ステアリングコラムが回転して、ロアギアケースが転舵される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10800502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなラックアンドピニオンによるステアリング機構では、ハウジングの舵角は、ラックの移動距離に応じて大きくなる。そのため、大きな舵角を得るためには、ラックの移動距離が大きくなり、船外機が大型化してしまう。本発明の目的は、船外機の大型化を抑えながら、大きな舵角を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る船外機は、第1ハウジングと、第2ハウジングと、プロペラ軸と、ステアリング機構とを備える。第2ハウジングは、第1ハウジングに対して転舵軸回りに転舵可能に支持される。プロペラ軸は、第2ハウジング内に配置され、前後方向に延びる。ステアリング機構は、第2ハウジングを転舵軸回りに転舵する。ステアリング機構は、第1ピニオンギアと、第2ピニオンギアと、第1ラックと、第2ラックとを含む。第1ピニオンギアは、第1ハウジング、又は、第2ハウジングに接続される。第2ピニオンギアは、第1ピニオンギアに接続される。第1ラックは、複数の第1の歯を含む。複数の第1の歯は、第1ピニオンギアと噛み合い、第1方向に並んで配置される。第1ラックは、第1方向に移動可能である。第2ラックは、複数の第2の歯を含む。複数の第2の歯は、第2ピニオンギアと噛み合い、第2方向に並んで配置される。複数の第2の歯は、複数の第1の歯よりも小さなモジュールを有する。第2ラックは、第2方向に移動可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第1の歯が第1ピニオンギアに噛み合いながら第1ラックが第1方向に移動することで、第1ピニオンギアが回転して、第2ハウジングが転舵される。また、第2の歯が第2ピニオンギアに噛み合いながら第2ラックが第2方向に移動することで、第2ピニオンギアが回転して、第2ハウジングが転舵される。第2の歯は、第1の歯よりも小さなモジュールを有する。そのため、第2ラックが小型化される。それにより、船外機の大型化を抑えながら、大きな舵角を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る船外機の側面図である。
図2】船外機の一部の断面図である。
図3】船外機の上面図である。
図4】ステアリング機構の動作を示す上面図である。
図5】ステアリング機構の動作を示す上面図である。
図6】ステアリング機構の動作を示す上面図である。
図7】ステアリング機構の動作を示す上面図である。
図8】ステアリング機構の動作を示す上面図である。
図9】変形例に係るステアリング機構の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る船外機1の側面図である。船外機1は、ブラケット10を介して、船100の船尾に取り付けられる。船外機1は、船100を推進させるスラストを発生させる。船外機1は、カウル2と、第1ハウジング3と、第2ハウジング4と、駆動源5と、ドライブ軸6と、プロペラ軸7と、シフト機構8と、ステアリング機構9とを含む。
【0009】
駆動源5は、船100を推進させるスラストを発生させる。駆動源5は、例えば、内燃エンジンである。或いは、駆動源5は、電気モータを含んでもよい。駆動源5は、カウル2内に配置されている。第1ハウジング3は、カウル2の下方に配置されている。第2ハウジング4は、第1ハウジング3の下方に配置されている。第2ハウジング4は、第1ハウジング3に対して転舵軸A1回りに転舵可能に支持される。
【0010】
駆動源5は、クランク軸11を含む。クランク軸11は、船外機1の上下方向に延びている。ドライブ軸6は、クランク軸11に接続されている。ドライブ軸6は、船外機1の上下方向に延びている。ドライブ軸6は、第1ハウジング3と第2ハウジング4内に配置されている。プロペラ軸7は、船外機1の前後方向に延びている。プロペラ軸7は、第2ハウジング4内に配置されている。プロペラ軸7は、シフト機構8を介して、ドライブ軸6に接続されている。プロペラ軸7にはプロペラ12が取り付けられる。シフト機構8は、ドライブ軸6からプロペラ軸7への回転の伝達方向を、前進方向と後進方向とに切り替える。シフト機構8は、例えばギアとクラッチとを含む。
【0011】
図2は、船外機1の一部を示す側面断面図である。図3は、船外機1の上面図である。図4から図8は、ステアリング機構9の動作を示す模式的な上面図である。図3に示すように、ステアリング機構9は、ステアリングホイール或いはジョイスティックなどのステアリング操作部材の操作に応じて、第1ハウジング3に対して第2ハウジング4を転舵軸A1回りに回動させる。転舵軸A1は、船外機1の上下方向に延びている。転舵軸A1は、ドライブ軸6と同心に配置されている。
【0012】
図2に示すように、ステアリング機構9は、ステアリング軸21と、第1ピニオンギア22Aと、第2ピニオンギア22Bと、第1シリンダ23と、第2シリンダ24と、第1油圧アクチュエータ25と、第2油圧アクチュエータ26とを含む。ステアリング軸21は、第1ハウジング3内に配置されている。ステアリング軸21は、船外機1の上下方向に延びている。ステアリング軸21は、ドライブ軸6と同心に配置されている。ステアリング軸21は、中空の管状の形状を有している。ドライブ軸6は、ステアリング軸21内を通って延びている。ステアリング軸21は、ドライブ軸6に対して回転可能である。ステアリング軸21は、軸受27,28を介して、第1ハウジング3に対して回転可能に支持されている。ステアリング軸21は、第2ハウジング4に固定されている。
【0013】
第1ピニオンギア22Aは、ステアリング軸21に固定されている。第1ピニオンギア22Aは、ステアリング軸21に対して回転不能に接続されている。第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aと上下方向に並んで配置される。第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aよりも小さなモジュールを有する。第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aよりも小さな外径を有する。第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aに接続されている。第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aと共に回転する。
【0014】
ステアリング軸21は、第1ピニオンギア22A及び第2ピニオンギア22Bと共に回転する。第1ピニオンギア22A及び第2ピニオンギア22Bは、ステアリング軸21を介して、第2ハウジング4に接続されている。従って、第2ハウジング4は、第1ピニオンギア22A及び第2ピニオンギア22Bの回転に応じて、転舵軸A1回りに回動する。
【0015】
第1シリンダ23と第2シリンダ24とは、油圧シリンダである。第1シリンダ23は、第1ピニオンギア22Aと向かい合って配置される。第1シリンダ23は、第1ピニオンギア22Aを回転させる。第2シリンダ24は、第2ピニオンギア22Bと向かい合って配置される。第2シリンダ24は、第2ピニオンギア22Bを回転させる。第1シリンダ23と第2シリンダ24とは、船外機1の前後方向に延びている。第1シリンダ23と第2シリンダ24とは、船外機1の左右方向に互いに離れて配置されている。
【0016】
第1油圧アクチュエータ25は、油圧ポンプである。第1油圧アクチュエータ25は、電動モータによって駆動されることで、第1シリンダ23に作動油を供給する。電動モータは、駆動源5によって発電された電気で駆動されてもよい。或いは、第1油圧アクチュエータ25は、駆動源5によって駆動されてもよい。第1油圧アクチュエータ25は、第1制御弁16に接続されている。第1制御弁16は、第1油圧アクチュエータ25からの作動油を制御する。第1シリンダ23は、第1油圧アクチュエータ25からの作動油によって駆動されることで、第1ピニオンギア22Aを回転させる。
【0017】
第2油圧アクチュエータ26は、油圧ポンプである。第2油圧アクチュエータ26は、電動モータによって駆動されることで、第2シリンダ24に作動油を供給する。電動モータは、駆動源5によって発電された電気で駆動されてもよい。或いは、第2油圧アクチュエータ26は、駆動源5によって駆動されてもよい。第2油圧アクチュエータ26は、第2制御弁17に接続されている。第2制御弁17は、第2油圧アクチュエータ26からの作動油を制御する。第2シリンダ24は、第2油圧アクチュエータ26からの作動油によって駆動されることで、第1ピニオンギア22Aを回転させる。
【0018】
図4に示すように、第1シリンダ23は、第1ラック31と、第1シリンダチューブ32と、第2シリンダチューブ33とを含む。第1ラック31は、前後方向に延びている。第1ラック31は、前後方向に移動可能である。第1ラック31は、第1端部34と第2端部35とを含む。第1端部34は、第1シリンダチューブ32内に配置される。第2端部35は、第2シリンダチューブ33内に配置される。第1シリンダチューブ32と第2シリンダチューブ33とは前後方向に互いに離れて配置されている。第1ピニオンギア22Aは、前後方向において、第1シリンダチューブ32と第2シリンダチューブ33との間に配置されている。
【0019】
第1ラック31は、第1油圧アクチュエータ25からの油圧によって、前後方向に直線的に移動する。詳細には、第1シリンダチューブ32は、第1チャンバー320を含む。第2シリンダチューブ33は、第2チャンバー330を含む。第1油圧アクチュエータ25からの作動油が第1チャンバー320に供給されることで、第1ラック31は、第1チャンバー320内の油圧によって、後方へ移動する。第1油圧アクチュエータ25からの作動油が第2チャンバー330に供給されることで、第1ラック31は、第2チャンバー330内の油圧によって、前方へ移動する。
【0020】
第1ラック31は、第1凹部36と、複数の第1の歯37と、第1逃げ部38と、第2逃げ部40とを含む。第1凹部36は、第1ラック31の内側面に設けられている。第1凹部36は、前後方向に延びている。第1凹部36は、第1端部34と第2端部35との間に位置する。第1凹部36は、第1ピニオンギア22Aと向かい合って配置されている。複数の第1の歯37は、第1凹部36に設けられている。複数の第1の歯37は、前後方向に並んで配置される。複数の第1の歯37が第1ピニオンギア22Aと噛み合った状態で第1ラック31が前後に移動することで、第1ピニオンギア22Aが回転する。
【0021】
第1逃げ部38と第2逃げ部40とは、第1凹部36において第1の歯37が設けられていない部分である。第1逃げ部38は、複数の第1の歯37の前方に配置されている。第2逃げ部40は、複数の第1の歯37の後方に配置されている。第1逃げ部38と第2逃げ部40とは、第1ピニオンギア22Aと接触しないように、第1ピニオンギア22Aを避けた形状を有する。
【0022】
第1ピニオンギア22Aが第1逃げ部38内に配置された状態で、第1逃げ部38は、第1ピニオンギア22Aと接触しない。第1ピニオンギア22Aが第1逃げ部38内に配置された状態で、複数の第1の歯37は、第1ピニオンギア22Aと噛み合わない。従って、第1ピニオンギア22Aが第1逃げ部38内に配置された状態では、第1ラック31は移動せずに、第1ピニオンギア22Aが第1ラック31に対して空転可能となる。
【0023】
第1ピニオンギア22Aが第2逃げ部40内に配置された状態で、第2逃げ部40は、第1ピニオンギア22Aと接触しない。第1ピニオンギア22Aが第2逃げ部40内に配置された状態で、複数の第1の歯37は、第1ピニオンギア22Aと噛み合わない。従って、第1ピニオンギア22Aが第2逃げ部40内に配置された状態では、第1ラック31は移動せずに、第1ピニオンギア22Aが第1ラック31に対して空転可能となる。
【0024】
第2シリンダ24は、第1シリンダ23と概ね左右対称な構造を有する。第2シリンダ24は、第2ラック41と、第3シリンダチューブ42と、第4シリンダチューブ43とを含む。第2ラック41は、前後方向に延びている。第2ラック41は、前後方向に移動可能である。第2ラック41は、第3端部44と第4端部45とを含む。第3端部44は、第3シリンダチューブ42内に配置される。第4端部45は、第4シリンダチューブ43内に配置される。第3シリンダチューブ42と第4シリンダチューブ43とは前後方向に互いに離れて配置されている。第2ピニオンギア22Bは、前後方向において、第3シリンダチューブ42と第4シリンダチューブ43との間に配置されている。
【0025】
第2ラック41は、第2油圧アクチュエータ26からの油圧によって、前後方向に直線的に移動する。詳細には、第3シリンダチューブ42は、第3チャンバー420を含む。第4シリンダチューブ43は、第4チャンバー430を含む。第2油圧アクチュエータ26からの作動油が第3チャンバー420に供給されることで、第2ラック41は、第3チャンバー420内の油圧によって、後方へ移動する。第2油圧アクチュエータ26からの作動油が第4チャンバー430に供給されることで、第2ラック41は、第4チャンバー430内の油圧によって、前方へ移動する。
【0026】
第2ラック41の前後方向における長さは、第1ラック31の前後方向における長さよりも小さい。図2に示すように、第2ラック41は、第1ラック31よりも小さな軸断面を有する。第2ラック41は、複数の第2の歯47を含む。複数の第2の歯47は、前後方向に並んで配置される。複数の第2の歯47は、複数の第1の歯37よりも小さなモジュールを有する。複数の第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合った状態で第2ラック41が前後に移動することで、第2ピニオンギア22Bが回転する。
【0027】
第1ラック31は、第1検出部39を含む。第1検出部39は、第1ラック31の外側面に設けられている。第1検出部39は、複数の歯を含む。第2ラック41は、第2検出部49を含む。第2検出部49は、第2ラック41の外側面に設けられている。第2検出部49は、複数の歯を含む。
【0028】
図2に示すように、船外機1は、第1ラックセンサ14と第2ラックセンサ15とを含む。第1ラックセンサ14は、第1ラック31の第1検出部39の複数の歯と噛み合う。第1ラックセンサ14は、第1ラック31の位置を検出する。第2ラックセンサ15は、第2ラック41の第2検出部49の複数の歯と噛み合う。第2ラックセンサ15は、第2ラック41の位置を検出する。
【0029】
図4は、中立状態のステアリング機構9を示している。ステアリング機構9が中立状態では、第2ハウジング4の転舵角は0度である。すなわち、中立状態で、第2ハウジング4は、プロペラ軸7と共に、船外機1の前後方向と平行に配置されている。なお、図3から図8において一点鎖線A2は、第2ハウジング4の向き、すなわちプロペラ軸7の向きを示している。ステアリング機構9が中立状態では、第1ピニオンギア22Aは、第1の歯37と噛み合っており、第2ピニオンギア22Bは、第2の歯47と噛み合っている。
【0030】
図5は、第1右転舵状態のステアリング機構9を示している。図4に示す中立状態から、第1ラック31が後方へ移動することで、ステアリング機構9は、図5に示す第1右転舵状態となる。第2ハウジングの右方への舵角が第1範囲内である場合には、ステアリング機構9は、第1右転舵状態となる。第1範囲は、舵角が0度より大きく、所定の角度閾値以下の範囲である。
【0031】
ステアリング機構9が第1右転舵状態では、第1の歯37が第1ピニオンギア22Aと噛み合い、且つ、第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合っている。ステアリング機構9が第1右転舵状態では、第2油圧アクチュエータは、第2ラック41への油圧を逃がして、第2ラック41を前後方向に移動自在とする。例えば、第2制御弁17によって、第2油圧アクチュエータ26から第2シリンダ24への油圧回路が切り替えられることで、第2ラック41への油圧が逃がされる。
【0032】
第1右転舵状態では、第1の歯37が第1ピニオンギア22Aと噛み合いながら第1ラック31が後方へ移動する。第1ピニオンギア22Aは、第1ラック31の移動に応じて回転する。それにより、図3において破線矢印R1で示すように、第2ハウジング4が右方へ転舵される。なお、第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aの回転に応じて回転し、それにより、第2ラック41は、前方へ移動する。しかし、第2ラック41への油圧が逃がされて、第2ラック41が前後方向に移動自在となっていることで、第2ラック41による負荷は小さい。
【0033】
第2ハウジングの右方への舵角が第2範囲内である場合には、ステアリング機構9は、第2右転舵状態となる。第2範囲における第2ハウジングの舵角は、第1範囲における第2ハウジングの舵角よりも大きい。第2範囲は、上述した角度閾値より大きい範囲である。図6は、第2右転舵状態のステアリング機構9を示している。
【0034】
ステアリング機構9が第2右転舵状態では、第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合い、且つ、第1逃げ部38が第1ピニオンギア22Aと向かい合って配置される。第2ラック41は、第2油圧アクチュエータ26からの作動油によって前方へ移動する。そのため、第2右転舵状態では、複数の第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合いながら第2ラック41が前方に移動すると共に、第1ピニオンギア22Aは、第1逃げ部38と向かい合い、第1ラック31に対して空転する。そのため、第1ラック31は移動せずに、第1ピニオンギア22Aと第2ピニオンギア22Bとは、第2ラック41の移動に応じて回転する。それにより、第2ハウジング4が、さらに右方へ転舵される。
【0035】
図7は、第1左転舵状態のステアリング機構9を示している。図4に示す中立状態から、第1ラック31が前方へ移動することで、ステアリング機構9は、図7に示す第1左転舵状態となる。第2ハウジング4の左方への舵角が第1範囲内である場合には、ステアリング機構9は、第1左転舵状態となる。
【0036】
ステアリング機構9が第1左転舵状態では、第1の歯37が第1ピニオンギア22Aと噛み合い、且つ、第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合う。ステアリング機構9が第1左転舵状態では、第2油圧アクチュエータ26は、第2ラック41への油圧を逃がして、第2ラック41を前後方向に移動自在とする。
【0037】
第1左転舵状態では、第1の歯37が第1ピニオンギア22Aと噛み合いながら第1ラック31が前方へ移動する。第1ピニオンギア22Aは、第1ラック31の移動に応じて回転する。それにより、図3において破線矢印L1で示すように、第2ハウジング4が左方へ転舵される。なお、第2ピニオンギア22Bは、第1ピニオンギア22Aの回転に応じて回転し、それにより、第2ラック41は、後方へ移動する。しかし、第2ラック41への油圧が逃がされて、第2ラック41が前後方向に移動自在となっていることで、第2ラック41による負荷は小さい。
【0038】
第2ハウジング4の左方への舵角が第2範囲内である場合には、ステアリング機構9は、第2左転舵状態となる。図8は、第2左転舵状態のステアリング機構9を示している。ステアリング機構9が第2左転舵状態では、第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合い、且つ、第2逃げ部40が第1ピニオンギア22Aと向かい合って配置される。第2ラック41は、第2油圧アクチュエータ26からの作動油によって後方へ移動する。そのため、第2左転舵状態では、複数の第2の歯47が第2ピニオンギア22Bと噛み合いながら第2ラック41が後方に移動すると共に、第1ピニオンギア22Aは、第2逃げ部40と向かい合い、第1ラック31に対して空転する。そのため、第1ラック31は移動せずに、第1ピニオンギア22Aと第2ピニオンギア22Bとは、第2ラック41の移動に応じて回転する。それにより、第2ハウジング4が、さらに左方へ転舵される。
【0039】
以上説明した本実施形態に係る船外機1では、第1の歯37が第1ピニオンギア22Aに噛み合いながら第1ラック31が移動することで、第1ピニオンギア22Aが回転して、第2ハウジング4が転舵される。また、第2の歯47が第2ピニオンギア22Bに噛み合いながら第2ラック41が移動することで、第2ピニオンギア22Bが回転して、第2ハウジング4が転舵される。第2の歯47は、第1の歯37よりも小さなモジュールを有する。そのため、第2ラック41が小型化される。それにより、船外機1の大型化を抑えながら、大きな舵角を得ることができる。
【0040】
ステアリング機構9が、第2右転舵状態、或いは第2左転舵状態である場合には、第1逃げ部38内、或いは第2逃げ部40内で、第1ピニオンギア22Aが第1ラック31に対して空転する。そのため、第1ラック31を移動させずに、第1ピニオンギア22Aと第2ピニオンギア22Bとが第2ラック41の移動に応じて回転することで、第2ハウジング4が転舵される。従って、第1ラック31の長さが短くても、大きな舵角が得られる。それにより、船外機1の大型化を抑えながら、大きな舵角を得ることができる。
【0041】
舵角が小さい場合には、船100が高速で走行することが多く、その際、ステアリング機構9には大きなトルクがかかる。従って、ステアリング機構9に大きなトルクがかかる舵角が小さい第1範囲では、大きなモジュールを有する第1ラック31によって第2ハウジング4が転舵される。一方、舵角が大きい場合には、船100は低速で走行することが多く、その際、ステアリング機構9には小さなトルクがかかる。従って、ステアリング機構9に小さなトルクがかかる舵角が大きい第2範囲では、小さなモジュールを有する第2ラック41によって第2ハウジング4が転舵される。それにより、船外機1の大型化を抑えながら、ステアリング機構9にかかるトルクの大きさに応じて、第2ハウジング4の転舵を適切に行うことができる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0043】
第1シリンダ23及び第2シリンダ24の構造は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。第1ピニオンギア22Aと第2ピニオンギア22Bとは、第2ハウジング4ではなく、第1ハウジング3に接続されてもよい。その場合、第1シリンダ23と第2シリンダ24とは、第2ハウジング4に支持されてもよい。第1ラック31と第2ラック41とは、油圧モータによって駆動されてもよい。或いは、第1ラック31と第2ラック41とは、電動モータなどの電動アクチュエータによって駆動されてもよい。
【0044】
第1ラック31、及び/又は、第2ラック41は、船外機1の前後方向に限らず、他の方向に延びていてもよい。すなわち、第1ラック31の移動方向である第1方向は、船外機1の前後方向に限らず、左右方向などの他の方向であってもよい。第2ラック41の移動方向である第2方向は、船外機1の前後方向に限らず、左右方向などの他の方向であってもよい。上記の実施形態では、第1ピニオンギア22Aと第2ピニオンギア22Bを回転させるラックの数は2つである。しかし、ラックの数は、2つより多くてもよい。
【0045】
第2ラック41の配置は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、図9は、変形例に係るステアリング機構9の一部の断面図である。図9に示すように、第2ラック41は、第1ラック31と上下方向に並んで配置されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、船外機の大型化を抑えながら、大きな舵角が得られる。
【符号の説明】
【0047】
3:第1ハウジング、 4:第2ハウジング、 7:プロペラ軸、 9:ステアリング機構、 22A:第1ピニオンギア、 22B:第2ピニオンギア、 25:第1油圧アクチュエータ、 26:第2油圧アクチュエータ、 31:第1ラック、 37:第1の歯、 38:第1逃げ部、 40:第2逃げ部、 41:第2ラック41、 47:第2の歯
図1
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図8
図9