(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046312
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】負極板製造方法、負極板、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1393 20100101AFI20240327BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240327BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/62 Z
H01M4/133
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151624
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】工藤 尚範
(72)【発明者】
【氏名】谷本 真望
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA03
5H050DA14
5H050DA18
5H050EA27
5H050FA05
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電池性能を向上できる負極板製造方法、負極板、及び二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池1の負極板は、負極活物質と負極添加物とを混練して負極合材ペーストを形成し、この負極合材ペーストを負極集電体に塗布して乾燥させることにより、形成される。このとき、負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下とする。また、負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s
-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質と負極添加物とを混練して負極合材ペーストを形成し、前記負極合材ペーストを負極集電体に塗布して乾燥させることにより、二次電池の負極板を製造する負極板製造方法であって、
前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した、負極板製造方法。
【請求項2】
前記負極添加物は、前記負極増粘材、及び負極溶媒を少なくとも含み、
前記材料の黒色度は、前記負極活物質、前記負極増粘材、及び前記負極溶媒を混練して生成した一次混練物の黒色度である、請求項1に記載の負極板製造方法。
【請求項3】
前記一次混練物の固練り固形分を、58%以上61%以下に設定した、請求項2に記載の負極板製造方法。
【請求項4】
二次電池の負極の基材となる負極集電体と、負極活物質と負極添加物とを混練した負極合材ペーストを前記負極集電体に塗布して乾燥することにより形成された負極合材と、を備えた負極板であって、
前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した、負極板。
【請求項5】
負極に用いる負極板と、正極に用いる正極板と、前記負極板及び前記正極板の間に配置されたセパレータと、を備えた二次電池であって、
前記負極板は、前記負極の基材となる負極集電体と、負極活物質と負極添加物とを混練した負極合材ペーストを前記負極集電体に塗布して乾燥することにより形成された負極合材と、を有し、
前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極板製造方法、負極板、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、リチウム二次電池において、負極ペーストの良否を、負極ペーストを調製する過程で得られる一次混練物の黒色度によって判定する検査方法が周知である。一次混練物の黒色度が所定の基準黒色度範囲内の値をとっていれば、その一次混練物の検査結果を「良」として、負極ペーストを製造する際の材料として使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば抵抗特性や寿命特性などの電池性能の良否は、黒色度のみから決まる訳ではなく、他の指標も関係する。しかし、特許文献1では、黒色度の観点からのみ電池性能の良否を判定することしか開示されておらず、複数の指標を観点とした電池性能の良否について検討されていない。よって、電池材料の最適化の更なる検討が必要であった。
【0005】
本発明の目的は、電池性能を向上できる負極板製造方法、負極板、及び二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する負極板製造方法は、負極活物質と負極添加物とを混練して負極合材ペーストを形成し、前記負極合材ペーストを負極集電体に塗布して乾燥させることにより、二次電池の負極板を製造する方法であって、前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した。
【0007】
前記課題を解決する負極板は、二次電池の負極の基材となる負極集電体と、負極活物質と負極添加物とを混練した負極合材ペーストを前記負極集電体に塗布して乾燥することにより形成された負極合材と、を備えた構成であって、前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した。
【0008】
前記課題を解決する二次電池は、負極に用いる負極板と、正極に用いる正極板と、前記負極板及び前記正極板の間に配置されたセパレータと、を備えた構成であって、前記負極板は、前記負極の基材となる負極集電体と、負極活物質と負極添加物とを混練した負極合材ペーストを前記負極集電体に塗布して乾燥することにより形成された負極合材と、を有し、前記負極活物質及び前記負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、前記負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、二次電池の電池性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】比較例及び実施例の各指標値をまとめた表である。
【
図5】剪断速度変化に対する負極合材ペーストの剪断粘度の変化特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、負極板製造方法、負極板、及び二次電池の一実施形態を説明する。
(二次電池1)
図1に示すように、二次電池1のセル2は、開口3が蓋4によって閉じられる直方体形状の電池ケース5を備える。電池ケース5は、例えば、アルミニウム合金等の金属によって形成される。電池ケース5の内部は、密閉された電槽を構成する。電池ケース5は、正負電極が積層された電極体6が内蔵されている。電池ケース5の内部には、非水電解液7が充填されている。セル2の蓋4は、電極体6に電気接続された正極外部端子8及び負極外部端子9を有する。二次電池1は、例えば、正負極間を移動するイオンにリチウムイオンを使用するリチウムイオン型である。
【0012】
(電極体6)
図2に示すように、電極体6は、負極板12、正極板13、及びセパレータ14を備える。負極板12、正極板13、及びセパレータ14は、電極体6の厚み方向(
図2のZ軸方向)に積層されている。具体的には、負極板12及び正極板13が交互に配置されるとともに、これら層群において負極板12及び正極板13の間にセパレータ14が配置されている。電極体6は、電極体6の長さ方向(
図2のX軸方向)に捲回されている。電極体6は、長さ方向に対して直交する方向(
図2のY軸方向)から見た場合に、扁平形状に形成されている。
【0013】
(負極板12)
負極板12は、負極集電体16及び負極合材17を備える。負極集電体16は、負極の電極基材である。負極集電体16は、例えば、銅(銅箔)から構成されている。負極合材17は、例えば、負極集電体16の両面に設けられている。負極合材17は、例えば、負極活物質と負極添加物とを有する。負極合材17は、負極活物質と負極添加物とを混練し、その後、混練した負極合材ペーストを負極集電体16に塗布して乾燥させることにより、負極集電体16上に形成される。
【0014】
負極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。負極活物質としては、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料が使用される。負極添加物は、例えば、負極溶媒、負極結着材、及び負極増粘材を含む。負極溶媒としては、例えば水等が使用される。なお、負極添加物は、例えば負極導電材等を更に含んでもよい。
【0015】
負極結着材は、例えば、水に分散するポリマー材料が使用される。ポリマー材料は、例えば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が使用される。ポリマー材料は、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が使用される。なお、ポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
負極増粘材は、例えば、有機溶剤に対して不溶性であって、水に溶解して粘性を発揮するポリマー系が使用される。ポリマー系は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体が使用される。
【0017】
負極集電体16は、負極外部端子9に接続される負極接続部18を有する。負極接続部18は、例えば、負極集電体16の両面において負極合材17が設けられていない部位であって、正極板13及びセパレータ14から露出するように構成されている。
【0018】
(正極板13)
正極板13は、正極集電体20及び正極合材21を備える。正極集電体20は、正極の電極基材である。正極集電体20は、例えば、アルミニウム(アルミニウム箔、アルミニウム合金箔)から構成されている。正極合材21は、例えば、正極活物質と正極添加物とを有する。正極合材21は、正極活物質と正極添加物とを混練し、その後、混練した正極合材ペーストを正極集電体20に塗布して乾燥させることにより、正極集電体20上に形成される。
【0019】
正極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。正極活物質としては、例えば、ニッケル、マンガン及びコバルトを含有する三元系(NMC)リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LINICOMNO2)が使用される。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)のいずれか一つを用いてもよい。正極活物質としては、例えば、ニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。
【0020】
正極添加物は、例えば、正極溶媒、正極導電材、及び正極結着材(バインダー)を含む。正極溶媒としては、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液等、非水溶媒が使用される。正極導電材としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)等の炭素繊維等を用いることができるが、黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を用いてもよい。正極結着材としては、例えば負極結着材と同様のものを使用してもよい。正極添加物は、例えば正極増粘材等を更に含んでもよい。
【0021】
正極集電体20は、正極外部端子8に接続される正極接続部22を有する。正極接続部22は、例えば、正極集電体20の両面において正極合材21が設けられていない部位であって、負極板12及びセパレータ14から露出するように構成されている。
【0022】
(セパレータ14)
セパレータ14は、例えば、多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ14としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせたものが使用される。電極体6が非水電解液7に浸漬されると、セパレータ14に非水電解液7が浸透する。
【0023】
(非水電解液7)
非水電解液7は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)が使用される。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。
【0024】
また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等が使用される。また、これらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を使用してもよい。このように、非水電解液7は、リチウム化合物を含む。
【0025】
(負極合材ペーストの作製手順)
図3に示すように、負極合材ペーストを作製するとき、まずは、負極活物質と負極増粘材とを所定の配合比で混合することにより、混合粉体を調製する。そして、この混合粉体に水系溶媒を投入して混練することにより、一次混練物24を作製する。なお、一次混練物24を作製するとき、負極活物質及び負極増粘材を均一かつ十分に水系溶媒に分散させるために、水系溶媒を数回に分けて投入・混練するようにしてもよい。
【0026】
続いて、この一次混練物24に負極結着材を加え、そして、この材料を更に混練することにより、負極合成ペーストを調製する。そして、負極合成ペーストは、負極集電体16の表面に塗布される。なお、混練装置は、既知の種々の装置(例えば、攪拌装置等)を適宜使用可能である。混練装置としては、例えば、回転羽根を有する攪拌機、フィルミキサー、媒体攪拌ミル、プラネタリミキサー等が挙げられる。
【0027】
(負極合材ペーストの黒色度)
負極合材ペーストは、種々の材料を所定の配合比で混練して調製されることから、調製の具合によって、各々異なる特性を取り得る。負極合材ペーストの特性の変動は、負極(負極板12)の質的な変動に繋がるため、二次電池1の電池性能に大きな影響を与える。よって、負極合材ペーストの特性の最適化が二次電池1の性能向上の重要事項の1つとなる。
【0028】
負極合材ペーストの出来栄えは、例えば、一次混練物24の黒色度と相関性があることが知見として分かっている。黒色度は、例えば、負極活物質の割れ、剥がれ、欠け等の性状を示す指標である。黒色度は、例えば、負極増粘材の量、一次混練物24の性状によって変化する。一次混練物24の性状は、例えば、一次混練物24の作製時における材料のシェアのことを言い、具体的には、負極活物質と負極増粘材とが均一かつ十分に一次混練物24に分散しているか否かの指標に相当する。一次混練物24の性状は、例えば、材料の配合比や混練の仕方などに応じて変化する。
【0029】
ちなみに、混練のシェアを上げた場合、一次混練物24(負極合材ペースト)の粘度は相対的に下がる。これは、混練により負極増粘材が微細化されるため、負極活物質と負極増粘材とが均一かつ十分に混ざるようになるからである。一方、混練のシェアが不十分の場合、一次混練物24(負極合材ペースト)の粘度は相対的に上がる。このように、一次混練物24(負極合材ペースト)の粘度は、混練のシェアに応じた状態をとる。
【0030】
(負極合材17の材料のパラメータ設定)
図4に、比較例及び実施例の各指標値をまとめた表を図示する。
図4の表には、例えば、黒色度、固練り固形分[%]、負極合材ペースト粘度[mPa・s](剪断速度:2[s
-1])、塗工性、負極増粘材粘度[mPa・s](剪断速度:0.01[s
-1])、抵抗特性、寿命特性の各指標欄がある。そして、比較例1をサンプル比較の基準としつつ、「実施例1」~「実施例10」の10パターンのサンプルについて測定を実施した。なお、各指標の意味は、以下の通りである。
・黒色度…一次混練物24の黒色度
・固練り固形分[%]…一次混練物24(負極活物質、負極増粘材、水系溶媒)における混合粉末(負極活物質及び負極増粘材)の割合
・負極合材ペースト粘度[mPa・s]…負極合材ペーストの粘度
・塗工性…塗工設備からの負極合材ペーストの吐出可否
・負極増粘材粘度[mPa・s]…負極増粘材の粘度
・抵抗特性…比較例1を基準とした電池の抵抗値の変化量
・寿命特性…比較例1を基準とした電池寿命の変化量
なお、負極増粘材粘度は、回転数を任意に変更可能なレオメータによる測定値である。レオメータは、例えば、測定物に正弦波応力を加えたときの応力とひずみの位相差から粘度を計測する。また、寿命特性は、値が大きい方がよい。抵抗特性は、値が小さい方がよい。
【0031】
一次混練物24の黒色度が高くなっていくと、二次電池1の寿命特性が向上することが分かる。しかし、逆に黒色度が高くなりすぎると、寿命特性向上の現象が生じない。このため、黒色度には、最適な範囲があることが分かる。これを踏まえ、本例の場合、負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料(本例は、一次混練物24)の黒色度は、4以上16以下の値に設定されている。
【0032】
また、
図4に示す通り、二次電池1の抵抗特性は、負極増粘材の粘度と相関性があることが分かる。具体的には、負極増粘材の粘度が高くなりすぎると、抵抗特性が悪化することが分かる。これを踏まえ、本例の場合、負極合材17に使用される負極増粘材の粘度は、剪断速度を0.01s
-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下の値に設定されている。
【0033】
更に、本例の場合、一次混練物24の固練り固形分は、58%以上61%以下に設定されている。固練り固形分は、数値が低くなるに連れて柔らかい状態となり、逆に、数値が高くなるに連れて固い状態となる。固練り固形分を適宜変更することにより、負極合材ペーストにかかるシェアの調整が可能となる。
【0034】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態の負極板製造方法(二次電池1、負極板12)の作用について説明する。
【0035】
図4に示す通り、一定条件下では、例えば、一次混練物24の固練り固形分を狙い値とすることにより、一次混練物24の黒色度が調整される。例えば、負極増粘材の粘度が同じとなったサンプルの組を見た場合、固練り固形分の値を変化させると、一次混練物24の黒色度が変化することが分かる。一例としては、「比較例1」及び「実施例1」から「実施例3」の4つのサンプル(負極増粘材の粘度が全て「13000mPa・s」で同じ)において、固練り固形分を高くしていくと、黒色度も高くなっていくことが分かる。
【0036】
ここで、一次混練物24の黒色度が低すぎる場合(例えば、「実施例1」参照)、電池の寿命特性が大きく延びない。ところで、黒色度が低い場合は、混練のシェアが不十分であるため、負極増粘材が負極活物質の表面を十分に覆わない。従って、負極の活性点で非水電解液7が分解するため、電池寿命が悪化する。よって、黒色度が低すぎるのはよくないと言える。
【0037】
一方、一次混練物24の黒色度が高すぎる場合(例えば、「実施例6」、「実施例10」参照)、電池の寿命特性に変化がない、或いは低下してしまう。黒色度が高い場合、混練のシェアが高くなって負極増粘材の被覆は十分となるものの、負極活物質の微粉の増加に伴って、負極の活性点で非水電解液7が分解する現象が生じ易くなってしまう。このように、局所的な反応が増大すると、電池寿命の悪化に繋がってしまう。よって、黒色度が高すぎるのもよくないと言える。
【0038】
黒色度を調整する場合、電池の抵抗特性は、負極増粘材の粘度に影響を受けた値をとる。具体的には、「実施例1」~「実施例5」に示すように、負極増粘材の粘度を「13000mPa・s以上21000mPa・s以下」とした条件下で黒色度を調整した場合には、抵抗特性は悪化しない。一方、「実施例7」~「実施例10」に示すように、負極増粘材の粘度を「21000」よりも高くした条件下で黒色度を調整した場合には、抵抗特性が悪化してしまう。よって、電池の抵抗特性に負極増粘材の粘度が大きく関係することが分かる。
【0039】
負極増粘材の粘度が高い場合、負極増粘材の分子量が大きいため、負極活物質において負極増粘材に覆われない部分が多くなってしまう。これが電池の抵抗値の増大、すなわち、抵抗特性の悪化に繋がると考えられる。よって、抵抗特性を確保する観点から見ると、負極増粘材の粘度が高いのはよくないことが分かる。
【0040】
図5に、負極合材ペーストの剪断速度と剪断粘度との関係を対数グラフで示した剪断粘度変化特性を図示する。
図5の場合、負極増粘材の粘度が「13000mPa・s」の「実施例2」の剪断粘度波形S1と、負極増粘材の粘度が「96000mPa・s」の「実施例8」の剪断粘度波形S2と、を図示する。剪断速度を高く変えていくとき、「実施例2」及び「実施例8」の両方とも、剪断粘度が所定のピーク値を取った後、剪断粘度が徐々に下がっていく右肩下がりの波形をとる。
【0041】
ここで、
図6に示すように、「実施例8」は、剪断速度が「10000s
-1」を過ぎたとき、右肩下がりで低下する剪断粘度が瞬間的に上昇する状態、いわゆる、ダイラタンシー性が発現してしまう(
図6の一点鎖線Aの箇所)。ダイラタンシー性を発現すると、塗工設備からの負極合材ペーストの吐出が困難になるため、作製に適した材料とは言えない。この点からも、粘度が高い負極増粘材を用いるのは好ましくないと言える。
【0042】
図4に示す通り、「実施例1」~「実施例10」のサンプルの各指標を比較した結果、負極増粘材の粘度は、「13000mPa・s以上21000mPa・s以下」の範囲内の値が好ましいことが分かる。しかし、実施例1や実施例6から分かる通り、負極増粘材の粘度を「13000mPa・s以上21000mPa・s以下」の値に設定しても、仮に黒色度が低すぎたり或いは高すぎたりすると、抵抗特性及び寿命特性の少なくとも一方が最適値をとらない。
【0043】
以上を踏まえ、本例の場合、黒色度と負極増粘材粘度との最適な組み合わせ範囲を設定した。具体的には、負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料(本例は、一次混練物24)の黒色度の範囲を「4以上16以下」に設定するとともに、負極増粘材粘度の範囲を「13000mPa・s以上21000mPa・s以下」に設定することとした。これにより、抵抗特性及び寿命特性の両方に優れた二次電池1を製造可能となる。また、負極増粘材の粘度を低めの値に設定するようにしたので、塗工工程時におけるダイラタンシー性の発現の対策にもなる。
【0044】
(実施形態の効果)
上記実施形態の負極板製造方法(二次電池1、負極板12)によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
(1)本例の負極板製造方法においては、負極活物質と負極添加物とを混練して負極合材ペーストを形成し、負極合材ペーストを負極集電体16に塗布して乾燥させることにより、二次電池1の負極板12を製造する。そして、負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料の黒色度を、4以上16以下に設定し、負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度を、剪断速度を0.01s-1としたときの13000mPa・s以上21000mPa・s以下に設定した。
【0046】
本構成によれば、負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料の黒色度について最適な範囲を設定したので、負極増粘材が負極活物質を十分に覆わない状態や、逆に、負極増粘材の微粉が増加してしまう状態が生じ難い。よって、負極の活性点で非水電解液7が分解してしまう状況が生じ難くなるため、電池寿命を延ばすことが可能となる。また、負極増粘材の粘度について最適な範囲を設定したので、負極増粘材による負極活物質の被覆量が増加せずに済む。よって、電池抵抗を低く抑えることが可能となる。以上により、二次電池1の電池性能を向上できる。
【0047】
(2)負極添加物は、負極増粘材、及び負極溶媒を少なくとも含む。負極活物質及び負極添加物を混ぜた材料の黒色度は、負極活物質、負極増粘材、及び負極溶媒を混練して生成した一次混練物24の黒色度である。この構成によれば、一次混練物24の黒色度を最適化して、二次電池1の電池性能の向上に繋げることができる。
【0048】
(3)本例の負極板製造方法においては、一次混練物24の固練り固形分を、58%以上61%以下に設定した。この構成によれば、一次混練物24の固練り固形分の範囲も最適化したので、二次電池1の電池性能の向上に一層寄与する。
【0049】
(他の実施形態)
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0050】
・黒色度は、一次混練物24の黒色度に限定されず、例えば、一次混練物24に負極結着材を混ぜた材料(負極合材ペースト)の黒色度としてもよい。
・負極増粘材の粘度は、剪断速度を0.01s-1としたときの範囲で指定することに限定されず、他の剪断速度を条件としたときの範囲に適宜変更できる。
【0051】
・負極結着材としては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)等を使用してもよい。
・負極及び正極ともに、活物質、導電材、溶媒、及び結着材は、任意の種類を使用できる。
【0052】
・二次電池1は、リチウムイオン型に限定されず、他の種類に変更してもよい。
・二次電池1は、薄板状に限定されず、例えば、円柱形などの他の形状に変更してもよい。
【0053】
・二次電池1は、車載用に限定されず、例えば、船舶用、航空機用、定置用など、他の用途に用いてもよい。
・負極添加物に含まれる負極増粘材の粘度の範囲は、剪断速度に応じた範囲に適宜変更可能である。すなわち、剪断速度に応じて、取り得る剪断粘度値が変わるため、剪断速度に応じた範囲に、負極増粘材の粘度を適宜変更してもよい。
【0054】
・本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0055】
1…二次電池
2…セル
3…開口
4…蓋
5…電池ケース
6…電極体
7…非水電解液
8…正極外部端子
9…負極外部端子
12…負極板
13…正極板
14…セパレータ
16…負極集電体
17…負極合材
18…負極接続部
20…正極集電体
21…正極合材
22…正極接続部
24…一次混練物
S1…剪断粘度波形
S2…剪断粘度波形