IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-酔い防止装置 図1
  • 特開-酔い防止装置 図2
  • 特開-酔い防止装置 図3
  • 特開-酔い防止装置 図4
  • 特開-酔い防止装置 図5
  • 特開-酔い防止装置 図6
  • 特開-酔い防止装置 図7
  • 特開-酔い防止装置 図8
  • 特開-酔い防止装置 図9
  • 特開-酔い防止装置 図10
  • 特開-酔い防止装置 図11
  • 特開-酔い防止装置 図12
  • 特開-酔い防止装置 図13
  • 特開-酔い防止装置 図14
  • 特開-酔い防止装置 図15
  • 特開-酔い防止装置 図16
  • 特開-酔い防止装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046376
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】酔い防止装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20240327BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C7/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151719
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓弥
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084JC00
3B084JC01
3B084JD00
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】移動体の乗員の陸酔いを軽減する。
【解決手段】移動体に備えられ、移動体の乗員の酔いを防止する酔い防止装置は、移動体の座席の表層に設けられ、それぞれ乗員の身体に移動体の振動を伝達可能な第1の状態と、移動体の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能な複数の振動調節部と、複数の振動調節部の駆動を制御する制御装置と、を備え、複数の振動調節部の乗員に当接する面の大きさが、座席に対して接触する乗員の身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に備えられ、前記移動体の乗員の酔いを防止する酔い防止装置において、
前記移動体の座席の表層に設けられ、それぞれ前記乗員の身体に前記移動体の振動を伝達可能な第1の状態と、前記移動体の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能な複数の振動調節部と、
前記複数の振動調節部の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記複数の振動調節部の前記乗員に当接する面の大きさが、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい、
酔い防止装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
所定の第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続しているときに、一つ又は複数の前記振動調節部を前記第2の状態とすることにより、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成する、
請求項1に記載の酔い防止装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
一つ又は複数の隣り合う前記振動調節部により形成される前記振動減衰領域の大きさを、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅とし、かつ、前記振動減衰領域の位置を、前記所定の第1時間よりも短い所定の第2時間ごとに変化させる、
請求項2に記載の酔い防止装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
所定の第1周波数域よりも低い所定の第2周波数域の振動が、前記所定の第1時間よりも長い所定の第3時間以上継続しているときに、前記振動減衰領域の大きさを、少なくとも前記二点弁別閾の距離よりも大きい幅に拡大する、
請求項3に記載の酔い防止装置。
【請求項5】
前記酔い防止装置は、
前記乗員の身体に伝達される前記移動体の振動を増大又は増幅させる一つ又は複数の加振部をさらに備え、
前記制御装置は、
前記所定の第1周波数域よりも低い所定の第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続したときに、前記加振部を駆動して前記移動体の振動よりも振幅の大きい振動を前記乗員の身体に対して伝達する、
請求項3に記載の酔い防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の乗員の陸酔いを軽減する酔い防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や船舶等の移動体に乗っている間に生じる乗り物酔いを防止あるいは軽減する技術が種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-029210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、自動車や船舶等の移動体から降りた際に、依然として移動体に乗っているかのような感覚が残る陸酔いという現象が知られている。具体的に、陸酔いとは、自動車や船舶等に乗っている間に一定時間以上同じような振動の刺激を人の感覚器が受け続けることで、感覚器がその刺激に順応して刺激を感じにくくなり、この状態で自動車や船舶から降りたときに刺激を急に感じなくなることで生じる違和感を言う。
【0005】
振動の刺激を感じる皮膚には、4つの受容器が存在し、それぞれ刺激に順応するまでのスピードが異なる。特に、メルケル細胞及びルフィニ小体は刺激に順応するスピードが遅く、順応するまでに時間がかかることから、陸酔いの原因になりやすいと考えられている。また、メルケル細胞やルフィニ小体は、約15Hz以下の振動や変形を感知していることから、振動に起因する人の不快感に大きく影響する。
【0006】
上述のように、移動体に乗っている間に生じる乗り物酔いを軽減する技術は提案されているものの、移動体から降りた後に生じる陸酔いを軽減するための技術はこれまで提案されていない。
【0007】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、移動体の乗員の陸酔いを軽減可能な酔い防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、
移動体に備えられ、前記移動体の乗員の酔いを防止する酔い防止装置において、
前記移動体の座席の表層に設けられ、それぞれ前記乗員の身体に前記移動体の振動を伝達可能な第1の状態と、前記移動体の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能な複数の振動調節部と、
前記複数の振動調節部の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記複数の振動調節部の前記乗員に当接する面の大きさが、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい、酔い防止装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本開示によれば、移動体の乗員の陸酔いを軽減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る酔い防止装置の構成例を示す説明図である。
図2】同実施形態に係る酔い防止装置を適用した座席の構成例を示す説明図である。
図3】同実施形態に係る振動調節装置の構成例を示す説明図である。
図4】同実施形態に係る振動調節部の第1の状態及び第2の状態を示す説明図である。
図5】同実施形態に係る振動調節装置により形成される振動減衰領域を示す説明図である。
図6】同実施形態に係る酔い防止装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図7】同実施形態に係る振動調節装置の振動減衰領域の位置を変化させた例を示す説明図である。
図8】同実施形態に係る酔い防止装置の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図9】同実施形態に係る振動減衰領域の位置を変更する処理を示すフローチャートである。
図10】本開示の第2の実施の形態に係る酔い防止装置の構成例を示す説明図である。
図11】同実施形態に係る酔い防止装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図12】同実施形態に係る酔い防止装置の制御装置の処理動作を示すフローチャートである。
図13】本開示の第3の実施の形態に係る振動減衰領域拡大処理を示すフローチャートである。
図14】本開示の第4の実施の形態に係る振動調節装置の構成例を示す説明図である。
図15】同実施形態に係る酔い防止装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図16】同実施形態に係る加振処理を示すフローチャートである。
図17】同実施形態に係る加振処理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<<1.本開示の実施の形態の特徴>>
(1-1)本開示の実施の形態は、移動体に備えられ、前記移動体の乗員の酔いを防止する酔い防止装置において、
前記移動体の座席の表層に設けられ、それぞれ前記乗員の身体に前記移動体の振動を伝達可能な第1の状態と、前記移動体の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能な複数の振動調節部と、
前記複数の振動調節部の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記複数の振動調節部の前記乗員に当接する面の大きさが、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい、構成を有している。
【0012】
なお、本開示の実施の形態は、移動体に搭載されて乗員の陸酔いを軽減する制御(以下、「陸酔い軽減処理」ともいう)を実行する制御装置、プロセッサに陸酔い軽減処理を実行させるコンピュータプログラム、及び、当該コンピュータプログラムを記録した記録媒体としても実現可能である。
【0013】
この構成により、本開示の酔い防止装置は、移動体の乗員に感じさせることなく、乗員の身体のそれぞれの部分に対して振動の刺激が伝達される第1の状態と、振動の刺激が遮断又は減衰される第2の状態とを切り替えることができる。したがって、乗員に気付かれないようにして、身体の各部位の感覚器がそれぞれ一定時間以上同程度の振動の刺激を受け続けることを防ぐ処理を実行することができる。このため、メルケル細胞やルフィニ小体等の感覚器が刺激に順応することがなくなり、乗員が移動体を降りた後で生じる陸酔いを軽減することができる。
【0014】
なお、「移動体」は、下記実施の形態における車両に相当するが、移動体は車両に限定されるものではない。乗員が陸酔いを生じ得る移動体であれば、例えば船舶や航空機等に本開示の技術が適用されてもよい。「座席の表層に設けられ」とは、座席の表面に露出する形態で設けられる態様だけでなく、座席の表面の生地に覆われた状態で設けられる態様も含む。
【0015】
また、「移動体の振動を遮断又は減衰させる第2の状態」とは、移動体の振動が伝達される第1の状態と比較して、当該振動が遮断あるいは減衰される状態をいう。
【0016】
また、「身体の部位に応じた二点弁別閾の距離」とは、例えば背中や腕、脚、掌等の身体の部位ごとに異なることが知られている、二つの異なるポイントでの刺激の強さや性質を二つと区別し感じうる刺激差の最小の精度をいう。例えば背中の二点弁別閾(の距離)は65mm、腹部、胸部、腕及び脚の二点弁別閾は30~45mm、掌及び足裏の二点弁別閾は15~20mm、手指の二点弁別閾は2~6mmであるとも言われている。本実施形態は、二点弁別閾の具体的な数値を限定するものではなく、身体の部位に応じて任意の数値を採用して構成されてよい。
【0017】
(1-2)また、本開示の実施の形態において、
前記制御装置は、
所定の第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続しているときに、一つ又は複数の前記振動調節部を前記第2の状態とすることにより、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成してもよい。
【0018】
この構成により、乗員が車両を降りた後に陸酔いを発生する可能性が高い状況となったときに酔い軽減処理が実行され、制御装置の負荷や電力消費を低減することができる。
【0019】
なお、「振動減衰領域」とは、第2の状態とされた一つ又は隣り合う複数の振動調節部により形成され、上記の第1の状態で振動の刺激を受けている周囲と比較して振動の刺激が小さくされている領域をいう。
【0020】
また、「所定の第1周波数域の振動」とは、陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る振動の周波数域の振動をいい、例えば5~15ヘルツ程度の周波数域の振動をいう。また、「所定の第1時間」は、第1周波数域の振動が継続して、乗員が車両を降りた後に陸酔いを発生する可能性が高い状況となる時間をいい、例えば180~300秒程度の時間をいう。
【0021】
(1-3)また、本開示の実施の形態において、
前記制御装置は、
一つ又は複数の隣り合う前記振動調節部により形成される前記振動減衰領域の大きさを、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅とし、かつ、前記振動減衰領域の位置を、前記所定の第1時間よりも短い所定の第2時間ごとに変化させてもよい。
【0022】
この構成により、実際に乗員の身体のどの部分が座席に接触しているか否かにかかわらず、身体の各部位の感覚器がそれぞれ一定時間以上同程度の振動の刺激を受け続けることを防ぐことができる。したがって、乗員が移動体を降りた後での陸酔いの発生を抑制することができる。
【0023】
なお、「所定の第2時間」は、継続して振動が伝達されることによる感覚器の順応を防ぐために設定される時間であり、第1時間以下の任意の時間に設定されてよい。ただし、第2時間が著しく短すぎると、振動が遮断あるいは減衰された感覚が残らず、振動減衰領域を形成する効果が低くなるおそれがあるため、第2時間を少なくとも60秒以上とすることが好ましい。
【0024】
(1-4)また、本開示の実施の形態において、
前記制御装置は、
前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位を特定し、前記振動減衰領域の大きさを、特定された前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅としてもよい。
【0025】
この構成により、実際に座席に接触している乗員の身体の部位の二点弁別閾に応じて振動減衰領域の大きさが調節され、乗員に感じさせることなく、身体の各部位の感覚器がそれぞれ一定時間以上同程度の振動の刺激を受け続けることを防ぐことができる。特に、コンピュータによる自動運転化が進み、座席上での乗員の姿勢の自由度が高まった場合であっても、振動減衰領域の大きさを、座席に接触している身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい幅とすることができる。
【0026】
(1-5)また、本開示の実施の形態において、
前記制御装置は、
所定の第1周波数域よりも低い所定の第2周波数域の振動が、前記所定の第1時間よりも長い所定の第3時間以上継続しているときに、前記振動減衰領域の大きさを、少なくとも前記二点弁別閾の距離よりも大きい幅に拡大してもよい。
【0027】
この構成により、比較的周波数が低く、乗員に感知されやすい振動が継続する場合には、乗員に振動の変化を感じ取られるとしても、優先的に乗員に伝達される振動を低減して、陸酔いや乗り物酔いを軽減することができる。
【0028】
なお、「所定の第2周波数域の振動」とは、陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る振動の周波数域の振動をいい、例えば未舗装の道路を走行する際に発生する1~8ヘルツ程度の周波数域の振動をいう。また、「所定の第3時間」とは、特に陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る第2周波数域の振動により感覚器が順応することを防ぐために設定される時間であり、第1時間以上の任意の時間に設定されてよい。ただし、第3時間が著しく長すぎると、第2周波数域の振動による感覚器の順応を防ぐ効果が得られないおそれがあるため、第3時間を少なくとも300秒以下とすることが好ましい。
【0029】
(1-6)また、本開示の実施の形態において、
前記酔い防止装置は、
前記乗員の身体に伝達される前記移動体の振動を増大又は増幅させる一つ又は複数の加振部をさらに備え、
前記制御装置は、
前記所定の第1周波数域よりも低い所定の第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続したときに、前記加振部を駆動して前記移動体の振動よりも振幅の大きい振動を前記乗員の身体に対して伝達してもよい。
【0030】
この構成により、例えば5ヘルツ以下の低周波の振動が継続する場合に、当該低周波の振動を打ち消すことが可能な振動を発生させ、乗員が酔い軽減処理に慣れることを抑制し、乗り物酔いを軽減することができる。
【0031】
なお、「所定の第3周波数域の振動」は、例えば路面の勾配のアップダウンが続く道路を走行する際に生じる1ヘルツ以下の振動を含み得る5ヘルツ以下の範囲に設定される。また、「所定の第4時間」は、第3周波数域の振動により乗員が乗り物酔いを発生することを防ぐために設定される時間であり、例えば60~300秒の範囲の値に設定されてよい。
【0032】
(1-7)また、本開示の実施の形態において、
前記加振部は、
前記振動調節部に対して振動を伝達可能に構成され、
前記制御装置は、
前記振動調節部を前記第1の状態にするとともに前記加振部を駆動し、前記振動調節部を介して前記振幅の大きい振動を前記乗員の身体に対して伝達してもよい。
【0033】
この構成により、振動調節部と加振部とが一体の構成とされ、座席へ振動調節部及び加振部を配置することが容易になる。また、加振部により発生させた振動を伝達させる乗員の身体の部位を調節することが可能になる。
【0034】
(1-8)また、本開示の実施の形態において、
前記酔い防止装置は、それぞれ複数の前記振動調節部を含む振動調節装置を複数備え、
前記制御装置は、
それぞれの前記振動調節装置を構成する前記複数の振動調節部のうち、前記第2の状態とする前記振動調節部の数及び位置を変化させることにより、前記振動減衰領域の大きさ又は前記位置の少なくとも一方を変化させてもよい。
【0035】
この構成により、複数の振動調節部を含んでユニット化された振動調節装置を用いて酔い防止装置が構成され、座席に対して振動調節部を配置する作業が容易になるとともに、座席の形状や大きさにかかわらず振動調節部を配置する領域を容易に設定することができる。
【0036】
<<2.本開示の実施形態の詳細>>
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本開示の技術の理解を容易にするために、各図に示された構成要素の相対的な大きさや形状は適宜変更されており、本開示の技術は図示した構成に限定されるものではない。
【0037】
<2-1.第1の実施の形態>
本開示の第1の実施の形態に係る酔い防止装置は、車両の座席の表層に設けられ、それぞれ乗員の身体に車両の振動を伝達可能な第1の状態と、車両の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能な複数の振動調節部と、複数の振動調節部の駆動を制御する制御装置と、を備え、複数の振動調節部の乗員に当接する面の大きさが、座席に対して接触する乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さく構成されている。そして、本実施形態では、制御装置が、所定の第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続しているときに、一つ又は複数の前記振動調節部を前記第2の状態とすることにより、前記座席に対して接触する前記乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成するように構成されている。
【0038】
図1は、移動体としての車両1に搭載された酔い防止装置10の全体構成を示す説明図である。図2は、車両1の座席5を正面から見た図である。酔い防止装置10は、振動センサ13、振動調節ユニット30及び制御装置20を備えている。
【0039】
(2-1-1.振動センサ)
振動センサ13は、車体の振動を検出する一つ又は複数のセンサからなる。振動センサ13は、車体(例えばフロアパネル)に取り付けられてもよく、座席5に取り付けられてもよい。振動センサ13は、検出される振動に応じた信号を生成し、センサ信号を制御装置20へ送信する。振動に応じたセンサ信号を出力可能なセンサであれば、その種類は特に限定されない。
【0040】
(2-1-2.振動調節ユニット)
振動調節ユニット30は、乗員Hが座る座席5に設置され、制御装置20により駆動が制御されることで、乗員Hへの車両1の振動の伝達度合いを調節する。図1及び図2に示した振動調節ユニット30は、座席の背もたれ部5a及び座部5bに設置されているが、振動調節ユニット30の設置位置はこの例に限定されない。例えばヘッドレストや図示しない肘掛けに振動調節ユニット30が設置されていてもよい。なお、図1では、乗員Hとしてドライバが示されているが、乗員Hは、運転席以外の座席に座る乗員であってもよい。
【0041】
図2に示すように、振動調節ユニット30は、背もたれ部5aのうちの乗員Hの背中が接する面5aaと、座部5bのうちの乗員Hが座る座面5ba及び乗員Hの下肢が接し得る前面5bbとに設置されている。振動調節ユニット30は、複数の振動調節装置31を備えて構成される。振動調節装置31は、背もたれ部5aの面5aaの表層に、全体に亘って等間隔で配置されている。同様に、振動調節装置31は、座部5bの面5ba及び面5bbの表層に、全体に亘って等間隔で配置されている。
【0042】
なお、振動調節装置31は、それぞれの面5aa,5ba,5bbの全体に亘って配置されていなくてもよく、例えば乗員Hの身体が触れる頻度が低い位置に配置されていなくてもよい。また、振動調節装置31は、等間隔で配置されていなくてもよいが、振動調節装置31が等間隔で配置されていることにより、乗員Hに伝達される振動を調節する領域を比較的自由に設定することができる。
【0043】
図3は、振動調節装置31の構成例を具体的に示す説明図である。図3は、振動調節装置31を乗員Hに当接する側から見た平面図及びI-I断面図を示す。
それぞれの振動調節装置31は、複数の振動調節部33a~33h(以下、特に区別を要しない限り振動調節部33と称する)を有する。それぞれの振動調節部33は、それぞれ乗員Hの身体に車両1の振動を伝達可能な第1の状態と、車両1の振動を遮断又は減衰させる第2の状態と、に切り替え可能に構成されている。
【0044】
図3に示した例では、振動調節装置31の平面形状は、全体として円形状を成し、当該円を円周方向に八等分したそれぞれの構成部分が振動調節部33として構成されている。例えばそれぞれの振動調節部33は、直接あるいは表面の生地を介して乗員Hに接するピストン34(34b、34fのみ図示)と、ピストン34を進退動する駆動部35(35b、35fのみ図示)とを備える。
【0045】
ピストン34は、乗員Hに接した状態で車両1の振動を乗員Hに伝達可能である限り、構成材料は限定されない。例えば硬質ゴムや樹脂、軽金属等、種々の材料を用いて構成されてよい。それぞれのピストン34は、それぞれシリンダ内を摺動可能に設けられている。駆動部35は、例えば制御装置20により通電制御され、ピストン34を乗員H側に向けて進退動させる。図3には、振動調節部33fのピストン34fが乗員H側に位置する一方、振動調節部33bのピストン34bが乗員H側とは反対側へ後退している状態が示されている。駆動部35は、例えば印加電圧に応じて伸縮する電歪式の圧電素子であってもよいが、特に限定されるものではない。
【0046】
図4は、振動調節部33の第1の状態及び第2の状態を示す説明図である。図4は、座席5の背もたれ部5aに設置された振動調節部33b,33fを示している。
振動調節部33fのピストン34fは乗員H側に前進し、ピストン34fが乗員Hの背中に当接する状態となっている。この状態が第1の状態を示す。また、振動調節部33bのピストン34bは乗員H側から後退し、ピストン34bが乗員Hの背中に当接しない状態となっている。この状態が第2の状態を示す。第1の状態では、振動調節部33fのピストン34fは、背もたれ部5aを介して伝達される車両1の振動を乗員Hの背中に伝達する。一方、第2の状態では、振動調節部33bのピストン34bは乗員Hの背中から離間しており、ピストン34bを介して伝達される車両1の振動は減衰あるいは遮断される。
【0047】
振動調節装置31の平面形状の直径は、座席5への接触を想定する身体の部位に合わせて設計される。例えば乗員Hが、普通の姿勢で座席5に座ることを考えた場合、主として座席5の背もたれ部5a及び座部5bに接触する部位は、背中、臀部、脚及び腕と想定される。上述のとおり、例えば背中の二点弁別閾(の距離)は65mmであり、腕及び脚の二点弁別閾は30~45mmであるとすると、それぞれの振動調節部33の最大の幅が30mm未満となっていれば、それぞれの身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい大きさの振動減衰領域を形成することができる。なお、それぞれの振動調節部33の乗員Hに当接し得る面の大きさは、人の皮膚の感覚器のサイズ(例えばメルケル細胞のサイズ=20~30μm)よりも大きくする必要がある。
【0048】
図5は、身体の部位に応じて一つ又は複数の振動調節部33を後退させて形成される振動減衰領域を示す説明図である。
図5に示した振動調節装置31の平面形状の直径を60mmとした場合、いずれか隣り合う3つの振動調節部33a~33cを後退させることで、背中の二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域39aを形成することができる。また、いずれか一つの振動調節部33aを後退させることで、脚及び腕の二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域39bを形成することができる。
【0049】
なお、背中が接触すると想定される部分においても、いずれか一つの振動調節部33aを後退させて振動減衰領域を形成してもよいが、陸酔いの原因となる振動を軽減するには、できるだけ大きい振動減衰領域とすることが好ましいため、隣り合う3つの振動調節部33a~33cを後退させるとよい。
【0050】
また、図5に示すように、例えば手指や足裏等の二点弁別閾の距離がより短い部位が接触することを想定する場合には、より細かく区分して振動調節部33の数を増やすことで、二点弁別閾の距離よりも小さい大きさの振動減衰領域を形成することができる。あるいは、振動調節装置31の平面形状の直径をより小さくしてもよい。
【0051】
このように構成された振動調節装置31であれば、共通の振動調節装置31を用いて、座席5に対して接触する乗員Hの身体のそれぞれの部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい大きさの振動減衰領域を形成することができる。したがって、後退させる振動調節部33の数を調節することで、異なる身体の部位の二点弁別閾の大きさにそれぞれ対応可能な振動減衰領域を形成することができる。
【0052】
なお、一つの振動調節装置31を構成する振動調節部33の数は八つに限られない。ただし、一つの振動調節装置31を構成する振動調節部33の数が多すぎると、部品点数が増えるとともに駆動部35も増えて、駆動回路及び制御処理が複雑になるおそれがある。また、一つの振動調節装置31を構成する振動調節部33の数が少なすぎると、一つ又は複数の振動調節部33のピストン34を後退させて形成される振動減衰領域の大きさの下限に限界が生じ、振動減衰領域の幅を二点弁別閾の距離よりも小さくすることが困難になるおそれがある。これらを考慮して、個々の振動調節装置31及び振動調節部33の大きさや数が適切に設計される。
【0053】
(2-1-3.制御装置)
制御装置20は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで振動調節部33を駆動し、乗員Hの陸酔いを軽減する装置として機能する。当該コンピュータプログラムは、制御装置20が実行すべき後述する動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、制御装置20に備えられた記憶部(メモリ)として機能する記録媒体に記録されていてもよく、制御装置20に内蔵された記録媒体又は制御装置20に外付け可能な任意の記録媒体に記録されていてもよい。
【0054】
コンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶素子、並びにUSB(Universal Serial Bus)メモリ及びSSD(Solid State Drive)等のフラッシュメモリ、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0055】
図6は、制御装置20の構成の一例を示すブロック図である。
制御装置20は、処理部21、振動検出処理部27及び記憶部29を備えている。
処理部21は、一つ又は複数のCPU等のプロセッサを備えて構成される。処理部21の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。記憶部29は、RAM又はROM等の一つ又は複数のメモリにより構成される。
【0056】
記憶部29は、処理部21と通信可能に接続される。ただし、記憶部29の数や種類は特に限定されない。記憶部29は、処理部21により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメタ、検出データ、演算結果等の情報を記憶する。
【0057】
振動検出処理部27は、振動センサ13から出力されるセンサ信号に基づいて、車体に発生した振動を検出する処理を実行する。例えば振動検出処理部27は、増幅器やバンドパスフィルタ、A/Dコンバータ等を含む信号処理回路として構成されるとともに、高速フーリエ変換(FFT)等を利用して、振動センサ13の出力波形からそれぞれ所定の周波数及び振幅を有する一つ又は複数の振動を抽出する。抽出された振動のデータは、制御装置20に出力される。
【0058】
図6に示したように、制御装置20の処理部21は、酔い軽減処理部25を備えている。酔い軽減処理部25は、CPU等のプロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。ただし、酔い軽減処理部25の一部又は全部がアナログ回路を含んで構成されてもよい。
【0059】
酔い軽減処理部25は、所定の第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに一つ又は複数の振動調節部33を第2の状態とし、座席5に対して接触する乗員Hの身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成する。また、酔い軽減処理部25は、第2の状態とする振動調節部33を切り替えることにより、振動減衰領域の位置を所定の第2時間ごとに変化させる。つまり、本実施形態では、酔い軽減処理部25は、所定の第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに、それぞれの振動調節装置31に対して実際に乗員Hの身体の所定の部位が当接しているか否かにかかわらず、振動減衰領域を形成するとともに所定の第2時間ごとに振動減衰領域の位置を変化させる。
【0060】
第1周波数域の振動は、陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る振動であり、第1周波数域の範囲は、実験結果等に基づいて任意の値に設定されてよい。第1周波数域は、例えば未舗装の道路を走行する際に発生する5~15ヘルツ程度の周波数域のであってよい。振動減衰領域を形成するか否かを判定する所定の第1時間は、第1周波数域の振動が継続して、乗員が車両を降りた後に陸酔いを発生する可能性が高い状況となったか否かを判定するために、例えば60~300秒程度の時間に設定される。振動減衰領域を変化させる所定の第2時間は、継続して振動が伝達されることによる感覚器の順応を防ぐために設定される時間であり、第1時間以下の任意の時間に設定されてよい。
【0061】
本実施形態では、酔い軽減処理部25は、複数の振動調節部33を含む振動調節装置31ごとに、座席5に対して接触することが想定される身体の部位に応じて一つ又は複数の振動調節部33を後退させ、想定した部位の二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成する(図5を参照)。また、酔い軽減処理部25は、後退させる振動調節部33を所定の第2時間ごとに切り替え、振動減衰領域の位置を変化させる。
【0062】
図7は、乗員Hの背中が接触すると想定される部分に設置された振動調節装置31の振動減衰領域の位置を変化させた例を示す説明図である。
酔い軽減処理部25は、振動減衰領域39aを形成する3つの振動調節部33を、ある時刻では3つの振動調節部33a,33b,33cとし、次のタイミングでは反時計回りに一つ隣に移動させた3つの振動調節部33h,33a,33bとし、さらに次のタイミングでは反時計回りに一つ隣に移動させた3つの振動調節部33g,33h,33aとする。酔い軽減処理部25は、所定の第2時間ごとに、後退させる振動調節部33を一つずつずらすようにする。つまり、振動調節部33の変更を8回繰り返すことで、振動減衰領域は元の位置に戻ることになる。
【0063】
これにより、それぞれの振動調節部33が当接する乗員Hの身体の部位の感覚器が、陸酔いの原因となり得る振動の刺激に順応する前に当該感覚器に伝達される振動の刺激を低下させることができる。したがって、車両1から降りた乗員Hの陸酔いを軽減することができる。
【0064】
(2-1-3.酔い軽減処理の動作)
続いて、処理部21による具体的な処理動作を説明する。
【0065】
図8は、処理部21による処理動作を示すフローチャートを示す。
酔い軽減処理部25は、酔い防止装置10を含むシステムの起動を検出すると(ステップS11)、酔い軽減処理部25は、振動検出処理部27から出力される振動データに基づいて振動の判定を開始する(ステップS13)。システムの起動は、車両1の起動スイッチがオンになることで検出されてもよく、乗員Hにより酔い防止装置10の機能を作動させるためのスイッチがオンにされることで検出されてもよい。次いで、酔い軽減処理部25は、第1周波数域の振動が発生しているか否かを判定する(ステップS15)。
【0066】
第1周波数域の振動が発生していない場合(S15/No)、処理部21は、ステップS23に進み、システムが停止していると判定されない限りステップS15に戻って車体に第1周波数域の振動が発生しているか否かの判定を繰り返す。一方、第1周波数域の振動が発生している場合(S15/Yes)、酔い軽減処理部25は、第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS17)。具体的に、酔い軽減処理部25は、第1周波数域の振動の発生開始時にタイマカウンタの計測を開始し、ステップS15の判定が肯定判定となるごとに、タイマカウンタの計測値が所定の第1時間に到達しているか否かを判定する。
【0067】
第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続していない場合(S17/No)、処理部21は、ステップS23に進み、システムが停止していると判定されない限りステップS15に戻って車体に第1周波数域の振動が第1時間以上継続しているか否かの判定を繰り返す。一方、第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続している場合(S17/Yes)、酔い軽減処理部25は、それぞれの振動調節装置31が設置されている位置ごとに、あらかじめ想定された身体の部位に応じて設定された振動減衰領域に対応するピストン34を後退させる(ステップS19)。振動減衰領域の大きさは、あらかじめ想定された身体の部位に応じて二点弁別閾の距離よりも小さい幅となるように設定されている。それぞれの振動調節装置31ごとに、開始時に後退させるピストン34が決められていてよい。これにより、振動調節装置31が設置されている位置に応じて、一部の振動調節部33が第2の状態にされ、身体の部位の二点弁別閾に応じた振動減衰領域が形成される。
【0068】
次いで、酔い軽減処理部25は、振動減衰領域の位置を変更する処理を実行する(ステップS21)。図9は、振動減衰領域を変更する処理のルーチンを示すフローチャートである。酔い軽減処理部25は、現在の振動減衰領域を形成しているピストン34を後退させてから所定の第2時間が経過したか否かを判定する(ステップS31)。第2時間が経過していない場合(S31/No)、酔い軽減処理部25は、ステップS31の判定を繰り返す。一方、第2時間が経過した場合(S31/Yes)、酔い軽減処理部25は、図7に例示されるように、それぞれの振動調節装置31について、振動減衰領域の大きさを変えずに振動減衰領域の位置を変更し、振動減衰領域に対応するピストン34を後退させる(ステップS33)。つまり、第2の状態とするピストン34を変更する。酔い軽減処理部25は、振動減衰領域を形成している間、ステップS31~ステップS33のルーチンを繰り返し実行する。
【0069】
図8に戻り、次いで、酔い軽減処理部25は、システムが停止したか否かを判定し(ステップS23)、システムが停止していない場合(S23/No)、ステップS21に戻って、上述した各ステップの処理を繰り返す。一方、システムが停止した場合(S23/Yes)、処理部21は、一連の酔い軽減処理を終了する。
【0070】
このように、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10は、座席5の表層に全体的に配置され、複数の振動調節部33を含んで構成された振動調節装置31を備えている。それぞれの振動調節装置31の振動調節部33は、それぞれの振動調節装置31が設置された位置に接触すると想定される乗員Hの身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さいサイズに構成されている。したがって、乗員Hに気付かれることなく、乗員Hの皮膚の感覚器に対して振動の刺激が伝達されないようにすることができ、乗員Hに違和感を与えることなく感覚器が振動の刺激に順応することを防ぐことができる。
【0071】
また、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10は、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに、振動調節装置31の配置位置に応じて接触すると想定される身体の部位の二点弁別閾に応じた大きさの振動減衰領域を形成する。したがって、乗員Hが車両を降りた後に陸酔いを発生する可能性が高い状況となったときに酔い軽減処理が実行され、制御装置20の負荷や電力消費を低減することができる。振動調節装置31により形成される振動減衰領域の位置は、所定の第2時間おきに変更される。したがって、乗員Hが振動の刺激に順応するおそれを効果的に低減することができる。これにより、乗員Hが車両1から降りたときの陸酔いを軽減することができる。
【0072】
<2-1-4.変形例>
上述した第1の実施の形態では、酔い防止装置10は、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに振動減衰領域を形成していた。これに対して、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動が第1時間以上継続したか否かにかかわらず、振動調節装置31の配置位置に応じて接触すると想定される身体の部位の二点弁別閾に応じた大きさの振動減衰領域を形成するようにしてもよい。図8のフローチャートにおけるステップS15及びステップS17の処理を備えていなくてもよい。これにより、酔い防止装置10が、振動センサ13や振動検出処理部27を備えていなくてもよいため、酔い防止装置10の構成を簡略化することができる。
【0073】
<2-2.第2の実施の形態>
本開示の第2の実施の形態に係る酔い防止装置は、座席に対して接触する乗員の身体の部位を特定し、振動減衰領域の大きさを、特定された乗員の身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅とするように構成されている。
【0074】
図10は、本実施形態に係る酔い防止装置110の全体構成を示す説明図である。酔い防止装置110は、カメラ11、振動センサ13、感圧センサユニット15、振動調節ユニット30及び制御装置120を備えている。このうち、振動センサ13及び振動調節ユニット30は、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10の振動調節ユニット30と同様に構成される。また、制御装置120は、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10の制御装置20と同様に、一つ又は複数のプロセッサにより構成される処理部と記憶部とを備えて構成される。
【0075】
(2-2-1.カメラ)
カメラ11は、車室内を撮影し、画像データを生成する一つ又は複数のカメラからなる。カメラ11は、CCD(Charged-Coupled Devices)又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)等の撮像素子を備え、生成した画像データを制御装置120へ送信する。カメラ11は、少なくとも一人の乗員Hの身体のうち、座席5に接触する部位を検出するために用いられる。カメラ11は、車内に取り付けられたものであってもよく、スマートホン等の携帯機器に備えられたものであってもよい。
【0076】
(2-2-2.感圧センサユニット)
感圧センサユニット15は、座席5の表層に設けられ、乗員Hが座席5に接触していることを検知する。感圧センサユニット15は、座席5の表面に付加される押圧力に応じた信号を生成し、センサ信号を制御装置120へ送信する複数のセンサ素子を備えて構成される。感圧センサユニット15の複数のセンサ素子は、振動調節ユニット30の振動調節装置31の設置範囲に設けられる。つまり、感圧センサユニット15は、振動調節装置31が設置された範囲に乗員Hの身体が接触したことを検知するために用いられる。
【0077】
(2-2-3.制御装置)
図11は、制御装置120の構成の一例を示すブロック図である。
制御装置120は、振動検出処理部127、処理部121及び記憶部129を備えている。振動検出処理部127及び記憶部129は、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10の制御装置20に備えられた振動検出処理部27及び記憶部29と同様に構成される。処理部121は、接触部位判定部123及び酔い軽減処理部125を備えている。接触部位判定部123及び酔い軽減処理部125は、CPU等のプロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。ただし、接触部位判定部123及び酔い軽減処理部125の一部又は全部がアナログ回路を含んで構成されてもよい。
【0078】
(接触部位判定部)
接触部位判定部123は、座席5に対して接触する乗員Hの身体の部位を特定する接触部位判定処理を実行する。具体的に、接触部位判定部123は、感圧センサユニット15から送信されるセンサ信号に基づいて、座席5のどの位置に対して圧力が付加されているかを判定する。感圧センサユニット15の複数のセンサ素子は、振動調節装置31の設置範囲に設けられており、接触部位判定部123は、例えばセンサ信号として出力される電圧値が増大している位置を特定することで、座席5に対して圧力が付加されている位置を判定することができる。
【0079】
また、接触部位判定部123は、カメラ11から送信される画像データに基づいて、座席5に対して圧力が付加されている位置に対して身体のどの部位が接触しているかを判定する。例えば接触部位判定部123は、画像データに対してエッジ検出処理及びパターンマッチング処理等の画像処理を実行し、座席5の背もたれ部5a及び座部5bのうち圧力が付加されている位置を特定するとともに、当該位置に接触している身体の部位を特定する。
【0080】
(酔い軽減処理部)
酔い軽減処理部125は、第1の実施の形態の酔い軽減処理部25と同様に、所定の第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに一つ又は複数の振動調節部33を第2の状態とし、座席5に対して接触する乗員Hの身体の部位に応じた二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成する。また、酔い軽減処理部25は、第2の状態とする振動調節部33を切り替えることにより、振動減衰領域の位置を所定の第2時間ごとに変化させる。本実施形態では、酔い軽減処理部125は、振動減衰領域を形成する位置及び振動減衰領域の大きさを、座席5に対して接触している身体の部位に応じて決定する。
【0081】
(2-2-5.酔い軽減処理の動作)
続いて、処理部121による具体的な処理動作を説明する。
【0082】
図12は、処理部121による処理動作を示すフローチャートを示す。
本実施形態の処理部121による処理動作は、図8に示した第1の実施の形態の処理部21による処理動作のうちのステップS19がステップS41及びステップS43に置き換えられる点で、第1の実施の形態の処理部21による処理動作と異なっている。
【0083】
本実施形態では、第1周波数域の振動が所定の第1時間以上継続している場合(S17/Yes)、接触部位判定部123は、座席5に接触している身体の部位を特定する(ステップS41)。具体的に、接触部位判定部123は、感圧センサユニット15から送信されるセンサ信号に基づいて、座席5のどの位置に対して圧力が付加されているかを判定する。また、接触部位判定部123は、カメラ11から送信される画像データに基づいて、座席5に対して圧力が付加されている位置に対して身体のどの部位が接触しているかを判定する。これにより、乗員Hの身体のどの部位が、座席5のどの位置に接触しているかを特定することができる。
【0084】
次いで、酔い軽減処理部125は、身体が接触している位置の振動調節装置31を駆動し、接触している身体の部位の二点弁別閾に応じた振動減衰領域を形成する(ステップS43)。具体的に、酔い軽減処理部125は、座席5に対して圧力が付加されている位置に設置された一つ又は複数の振動調節装置31を構成する一つ又は複数の振動調節部33を第2の状態とし、当該位置に接触している身体の部位の二点弁別閾の距離よりも小さい幅の振動減衰領域を形成する。振動減衰領域は、座席5に対して圧力が付加されているそれぞれの位置に対して、対応する身体の部位に応じた大きさに形成される。
【0085】
以降、第1の実施の形態の処理部21による処理動作と同様に、酔い軽減処理部25は、図9に示した振動減衰領域を変更する処理を実行する。
【0086】
このように、第2の実施の形態に係る酔い防止装置110は、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動が第1時間以上継続したときに、座席5に接触している身体の部位を特定し、当該身体の部位の二点弁別閾に応じた大きさの振動減衰領域を形成する。したがって、乗員Hの身体が接触している位置に配置された振動調節装置31のみが駆動されるため、制御装置20の負荷や電力消費を低減することができる。特に、自動運転車両において、乗員Hが座席5の上で様々な姿勢をとる場合であっても、座席5に接触している身体の部位の二点弁別閾に応じて、適切なサイズの振動減衰領域を形成することができる。
【0087】
なお、第2の実施の形態に係る酔い防止装置110においても、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動が第1時間以上継続したか否かにかかわらず、座席5に接触する身体の部位の二点弁別閾に応じた大きさの振動減衰領域を形成するようにしてもよい。これにより、酔い防止装置110が、振動センサ13や振動検出処理部127を備えていなくてもよいため、酔い防止装置110の構成を簡略化することができる。
【0088】
<2-3.第3の実施の形態>
本開示の第3の実施の形態に係る酔い防止装置は、上記第1周波数域よりも低い所定の第2周波数域の振動が、上記第1時間よりも長い所定の第3時間以上継続しているときに、振動減衰領域の大きさを、少なくとも二点弁別閾の距離よりも大きい幅に拡大するように構成されている。
【0089】
本実施形態に係る酔い防止装置は、上記第1の実施の形態又は第2の実施の形態に係る酔い防止装置と組み合わせて構成される。酔い防止装置の構成要素は上記第1の実施の形態又は第2の実施の形態に係る酔い防止装置と同様に構成されており、本実施形態では、制御装置の処理部による処理動作に対して、振動減衰領域拡大処理の機能が追加される。以下、上記第2の実施の形態に係る制御装置120の構成に、振動減衰領域拡大処理の機能を追加した例を説明する。
【0090】
本実施形態において、制御装置120の処理部121は、基本的には図12に示したフローチャートに沿って酔い軽減処理を実行する。その間、処理部121は、所定の第2周波数域の振動が所定の第3時間以上継続していると判定したときに、図12に示す処理動作に介入し、振動減衰領域拡大処理を実行する。
【0091】
図13は、振動減衰領域拡大処理の動作を示すフローチャートである。図13に示すフローチャートは、例えば図12のフローチャートのステップS15が肯定判定となっている間に実行されてよいが、その他の期間も含めて実行されてもよい。
【0092】
酔い軽減処理部125は、第2周波数域の振動が発生しているか否かを判定する(ステップS51)。第2周波数域の振動は、陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る振動のうちの比較的低周波の領域の振動であり、乗員Hがより振動を感知しやすい振動である。第2周波数域の振動は、例えば未舗装の道路を走行する際に発生する5~8ヘルツ程度の周波数域であってよい。
【0093】
第2周波数域の振動が発生していない場合(S51/No)、酔い軽減処理部125は、第2周波数域の振動が発生していると判定されるまでステップS51の判定を繰り返す。一方、第2周波数域の振動が発生している場合(S51/Yes)、酔い軽減処理部125は、第2周波数域の振動が所定の第3時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS53)。具体的に、酔い軽減処理部125は、ステップS51において、第2周波数域の振動が発生したと最初に肯定判定された時にタイマカウンタの計測を開始し、ステップS51の判定が肯定判定となるごとに、タイマカウンタの計測値が所定の第3時間に到達しているか否かを判定する。第3時間は、特に陸酔いや乗り物酔いの原因となり得る第2周波数域の振動により感覚器が順応することを防ぐために設定される時間であり、第1時間以上の任意の時間に設定されてよい。
【0094】
第2周波数域の振動が所定の第3時間以上継続していない場合(S53/No)、酔い軽減処理部125は、ステップS51に戻って車体に第2周波数域の振動が第3時間以上継続しているか否かの判定を繰り返す。一方、第2周波数域の振動が所定の第3時間以上継続している場合(S51/Yes)、酔い軽減処理部125は、すべての振動調節部33を第2の状態とし、振動減衰領域のサイズを、身体の各部位の二点弁別閾の幅よりも大きいサイズに拡大する(ステップS55)。具体的に、酔い軽減処理部125は、すべての振動調節装置31を構成するすべての振動調節部33を第2の状態とする。
【0095】
これにより、それぞれの振動調節装置31のすべての振動調節部33を囲む領域が振動減衰領域となり、身体のすべての部位の二点弁別閾の幅よりも大きい振動減衰領域が形成される。その結果、乗員Hは、身体が接触している座席5の表面の一部から振動が伝達されないか、あるいは振動が周囲に比べて小さい領域があることを感知するものの、陸酔いの原因となり得る振動が乗員Hに伝達されることを防ぐことができる。
【0096】
次いで、酔い軽減処理部125は、振動減衰領域を拡大してから所定時間(第5時間)が経過したか否かを判定する(ステップS57)。第5時間は、振動減衰領域を拡大したことにより乗員Hが違和感を感じている時間が長くなりすぎないように任意の時間(例えば5~10分)に設定されてよい。
【0097】
振動減衰領域を拡大してから所定時間(第5時間)が経過していない場合(S57/No)、酔い軽減処理部125は、振動減衰領域を拡大してから所定時間(第5時間)が経過するまでステップS57の判定を繰り返す。一方、振動減衰領域を拡大してから所定時間(第5時間)が経過した場合(S57/Yes)、酔い軽減処理部125は、振動減衰領域のサイズを、拡大前のサイズに戻す(ステップS59)。つまり、座席5に接触している身体の部位の二点弁別閾に応じて振動減衰領域を形成していた振動調節装置31については、拡大前に第2の状態としていた振動調節部33を、再び第2の状態に戻す。また、拡大前に振動減衰領域を形成していなかった振動調節装置31については、すべての振動調節部33を第1の状態に戻す。処理部121は、図13に示すフローチャートを、システムが起動している間、繰り返し実行する。
【0098】
このように、第3の実施の形態に係る酔い防止装置は、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動のうち、特に乗員Hが振動を感知しやすい第2周波数域の振動が第3時間以上継続したときに、振動減衰領域を二点弁別閾の距離よりも大きい幅に形成する。これにより、乗員に振動の変化を感じ取られるとしても、優先的に乗員に伝達される振動を低減して、陸酔いや乗り物酔いを軽減することができる。
【0099】
<2-4.第4の実施の形態>
本開示の第4の実施の形態に係る酔い防止装置は、上記第1~第3の実施の形態に係る酔い防止装置に対して、乗員の身体に伝達される車両の振動を増大又は増幅させる一つ又は複数の加振部がさらに備えられ、制御装置は、上記第1周波数域よりも低い所定の第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続したときに、加振部を駆動して車両の振動よりも振幅の大きい振動を乗員の身体に対して伝達するように構成されている。
【0100】
本実施形態に係る酔い防止装置は、上記第1~第3の実施の形態に係る酔い防止装置と組み合わせて構成される。酔い防止装置の基本的な構成要素は上記第1~第3の実施の形態に係る酔い防止装置と同様に構成されており、本実施形態では、振動調節部に加振部が追加されるとともに、制御装置の処理部による処理動作に対して、加振処理の機能が追加される。以下、上記第2の実施の形態に係る制御装置120の構成に、加振処理の機能を追加した例を説明する。
【0101】
図14は、本実施形態の酔い防止装置に用いられる振動調節装置31Aの構成例を具体的に示す説明図であり、振動調節装置31Aを乗員Hに当接する側から見た平面図及びII-II断面図を示す。
【0102】
振動調節装置31Aは、加振部36を備えている。加振部36は、それぞれ振動調節部33を進退動する駆動部35のさらに下方側(座席5表面側とは反対側)に設けられ、駆動部35に対して振動を与える。加振部36は、振動を発生可能なアクチュエータを備えていれば特に限定されるものではなく、例えば偏心モータを用いて構成されてもよく、その他の電磁式又は電歪式のアクチュエータを用いて構成されてもよい。
【0103】
図15は、制御装置140の構成の一例を示すブロック図である。
制御装置140は、振動検出処理部147、処理部141及び記憶部149を備えている。振動検出処理部147及び記憶部149は、第1の実施の形態に係る酔い防止装置10の制御装置20に備えられた振動検出処理部27及び記憶部29と同様に構成される。処理部141は、接触部位判定部143及び酔い軽減処理部145を備えている。制御装置140は、振動調節ユニット30に備えられたそれぞれの振動調節装置31Aの駆動部35及び加振部36に対して駆動信号を出力可能に構成されている。
【0104】
本実施形態において、制御装置140の処理部141は、基本的には図12に示したフローチャートに沿って酔い軽減処理を実行する。その間、処理部141は、所定の第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続していると判定したときに、図12に示す処理動作に介入し、加振処理を実行する。
【0105】
図16は、加振処理の動作を示すフローチャートである。図16に示すフローチャートは、例えば図12のフローチャートのステップS15が肯定判定となっている間に実行されてよいが、その他の期間も含めて実行されてもよい。
【0106】
酔い軽減処理部145は、第3周波数域の振動が発生しているか否かを判定する(ステップS61)。第3周波数域の振動は、第2周波数域よりもさらに低周波の領域の振動である。第3周波数域は、例えば路面の勾配のアップダウンが続く道路を走行する際に発生する1ヘルツ以下の周波数域の振動を含むように、例えば0~5ヘルツの正の値の周波数域に設定されてよい。
【0107】
第3周波数域の振動が発生していない場合(S61/No)、酔い軽減処理部145は、第3周波数域の振動が発生していると判定されるまでステップS61の判定を繰り返す。一方、第3周波数域の振動が発生している場合(S61/Yes)、酔い軽減処理部145は、第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS63)。具体的に、酔い軽減処理部145は、ステップS61において、第3周波数域の振動が発生したと最初に肯定判定された時にタイマカウンタの計測を開始し、ステップS61の判定が肯定判定となるごとに、タイマカウンタの計測値が所定の第4時間に到達しているか否かを判定する。第4時間は、第3周波数域の振動により感覚器が順応することを防ぐために設定される時間であり、例えば30~60分の範囲内の比較的長い時間に設定されてよい。
【0108】
第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続していない場合(S63/No)、酔い軽減処理部145は、ステップS61に戻って車体に第3周波数域の振動が第4時間以上継続しているか否かの判定を繰り返す。一方、第3周波数域の振動が所定の第4時間以上継続している場合(S61/Yes)、酔い軽減処理部145は、加振領域を変えながらそれぞれの振動調節装置31に備えられた加振部36を駆動し、第3周波数域の振動よりも振幅が大きい振動を発生させる(ステップS65)。具体的に、酔い軽減処理部145は、加振部36の駆動を開始する際のすべての振動調節装置31を構成するすべての振動調節部33の状態(第1の状態又は第2の状態)を保持し、複数の領域に分けた振動調節装置31の群を交互に加振する。
【0109】
図17は、加振部36を用いた加振処理を示す説明図である。図17において、破線で示した振動調節装置31は加振されない振動調節装置31を示し、実線で示した振動調節装置31が加振される振動調節装置31を示す。
【0110】
図17に示した例では、座席5の背もたれ部5a及び座部5bにそれぞれ配置された振動調節ユニット30を構成する振動調節装置31を、それぞれ隣り合う所定数の振動調節装置31ごとに群とする。そして、酔い軽減処理部145は、縦横それぞれ1つおきに選択される振動調節装置31の群をそれぞれ第1加振領域及び第2加振領域として、第1加振領域及び第2加振領域の振動調節装置31の振動調節部33を交互に加振する。第1加振領域及び第2加振領域を交互に加振する間隔は、例えば1~30秒間隔に設定される。
【0111】
これにより、乗員Hに対して低周波の振動が継続的に伝達される場合に当該低周波の振動を打ち消す振動を乗員Hに伝達することができ、陸酔いの原因となり得る振動が乗員Hに伝達されることを防ぐことができる。
【0112】
次いで、酔い軽減処理部145は、振動減衰領域を拡大してから所定時間(第6時間)が経過したか否かを判定する(ステップS67)。第6時間は、振動減衰領域を拡大したことにより乗員Hが違和感を感じている時間が長くなりすぎないように任意の時間(例えば5~10分)に設定されてよい。
【0113】
加振処理を開始してから所定時間(第6時間)が経過していない場合(S67/No)、酔い軽減処理部145は、加振処理を開始してから所定時間(第6時間)が経過するまでステップS67の判定を繰り返す。一方、加振処理を開始してから所定時間(第6時間)が経過した場合(S67/Yes)、酔い軽減処理部145は、すべての加振部36の駆動を停止し、振動調節部33の状態(第1の状態又は第2の状態)を加振処理開始前の状態に戻す(ステップS69)。処理部141は、図15に示すフローチャートを、システムが起動している間、繰り返し実行する。
【0114】
このように、第4の実施の形態に係る酔い防止装置は、陸酔いの原因となり得る第1周波数域の振動のうち、特に陸酔いを生じやすい第3周波数域の振動が第4時間以上継続したときに、第3周波数域の振動よりも振幅の大きい振動を乗員に伝達する。これにより、乗員に振動の変化を感じ取られるとしても、乗員が酔い軽減処理に慣れることを抑制し、陸酔いや乗り物酔いを軽減することができる。
【0115】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0116】
例えば上記各実施形態では、複数の振動調節部を含む振動調節装置を座席に設け、それぞれの振動調節部を駆動する構成としていたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。振動調節装置の構成はあくまでも一例にすぎず、種々の変形が可能である。また、複数の振動調節部を含む振動調節装置を構成せずに、複数の振動調節部がそれぞれ個別に座席に配置されていてもよい。
【0117】
また、上記実施形態では、移動体として車両に対して本開示の技術を適用した例を説明したが、移動体は車両に限られるものではなく、船舶や航空機等の任意の移動体であってよい。
【符号の説明】
【0118】
1:車両、5:座席、5a:背もたれ部、10:酔い防止装置、11:カメラ、13:振動センサ、15:感圧センサユニット、20:制御装置、21:処理部、25:酔い軽減処理部、27:振動検出処理部、29:記憶部、30:振動調節ユニット、31:振動調節装置、33:振動調節部、34:ピストン、35:駆動部、36:加振部、39a・39b:振動減衰領域、110:酔い防止装置、120:制御装置、121:処理部、123:接触部位判定部、125:酔い軽減処理部、127:振動検出処理部、129:記憶部、140:制御装置、141:処理部、143:接触部位判定部、145:軽減処理部、147:振動検出処理部、149:記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17