(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046377
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】カムクラッチユニット
(51)【国際特許分類】
F16D 41/07 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
F16D41/07 D
F16D41/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151721
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】森田 彰
(72)【発明者】
【氏名】経田 宏和
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
(57)【要約】
【課題】 単品状態においても構成部品の浮きや脱落が防止されて取扱い性に優れ、しかも、カムクラッチ製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに薄幅化が可能なカムクラッチユニットを提供すること。
【解決手段】 本発明のカムクラッチユニットは、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカムと、前記カムの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、前記カムを付勢する環状のスプリングと、を備えたカムクラッチユニットであって、前記カムは、軸方向の一方の端面に前記スプリングと係合可能な係合段部を有し、前記ケージリングは、前記環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有し、前記フック部は、前記スプリングによって前記カムを軸方向の他方の端面側に押圧可能な押圧部を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカムと、前記カムの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、前記カムを付勢する環状のスプリングと、を備えたカムクラッチユニットであって、
前記カムは、軸方向の一方の端面に前記スプリングと係合可能な係合段部を有し、
前記ケージリングは、前記環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有し、
前記フック部は、前記スプリングによって前記カムを軸方向の他方の端面側に押圧可能な押圧部を有することを特徴とするカムクラッチユニット。
【請求項2】
前記フック部は、外周側から内周側にかけて前記カム側に傾斜するテーパ面が形成され、内周側が前記押圧部を構成することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチユニット。
【請求項3】
前記フック部は、内周側にカム側に突出する階段部が設けられ、前記階段部が前記押圧部を構成することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチユニット。
【請求項4】
前記カムは、前記係合段部と反対側の端面に規制段部を有し、
前記ケージリングのポケット部は、軸方向で前記カムの規制段部と隣接する面に前記カムの傾きを規制する規制凸部を有することを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチユニット。
【請求項5】
前記内輪及び外輪の間には複数のローラが配置され、
前記ローラは、軸方向寸法が前記カムの係合段部を除いた軸方向寸法以下であることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間でトルクの伝達及び遮断を行うカムクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
カムクラッチユニットとして、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪と外輪の間に配置される複数のカムおよび複数のローラと、カムおよびローラの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、カムを付勢する環状のスプリングを備えたものが公知である。
カム及びローラを備えたカムクラッチユニット500は、例えば
図17乃至
図21に示すように、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に複数のカム530及び複数のローラ540が周方向に配置されるように、カム530及びローラ540がケージリング550のポケット部551に収容され、カム530及びローラ540の周方向の相対的な移動が規制されている。
また、カム530及びローラ540には、それぞれ周方向の溝部535、545を有しており、溝部535、545内に環状のスプリング560が収容されてカム530及びローラ540を内輪側に付勢するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
公知のカムクラッチユニットでは、摩耗や衝撃に強い材料が要求されるカム530及びローラ540の中央に環状のスプリング560が収容される周方向の溝部535、545を有していることから、カム530及びローラ540の製造時の加工工数が大きく難度が高く、加工上、幅寸法に制限があり薄幅化できないという問題があった。
例えば、特許文献1に示すように、カム及びローラの軸方向の両端側にスプリングによる付勢部を設けたものも公知であるが、カムにはスプリングの軸方向の抜け落ちを防止するための係止構造が必要であり、カム及びローラの加工の難度は多少軽減するものの、加工工数は減らすことはできない。
【0005】
上記のような問題に対し、例えば
図22(a)に示すように、カム630の軸方向の一方の端面に環状のスプリング660と係合可能な係合段部を形成してカム630をスプリング660によって径方向内方に付勢するとともに、ケージリング650の外周側にスプリング660の軸方向への移動を規制するフック部653を形成することが考えられる。
しかしながら、このようなカムクラッチユニット600においては、
図22(b)に示すように、カム630を径方向内方(
図22の下方)に向かって加圧することになるため、カム630にモーメントがかかってカム630が傾いた状態で外周側に浮き、その結果、カムクラッチユニット600の組み付け前、カムクラッチユニット600の単品状態において運搬時などにカム630がケージリング650から脱落してしまい、カムクラッチユニット600の組み付け時の取扱い性が極めて悪いという新たな問題が生じるおそれがある。
ケージリングにおけるスプリングの係合段部の位置を調整し、カムを軸方向に強制的に加圧すればカムクラッチユニットの単品状態でもカムの脱落を防止することができるが、スプリングの組み付け自体が困難となることや、このようなカムクラッチユニットを組み付け後のカムクラッチにおける本来の動作時にカムとの摺動抵抗が大きくなるために摩耗耐久性に劣り、またドラッグトルクが悪化するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決することを目的とするものであり、カムクラッチユニットの単品状態においても構成部品の浮きや脱落が防止されて取扱い性に優れ、しかも、カムクラッチ製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに薄幅化が可能なカムクラッチユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカムと、前記カムの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、前記カムを付勢する環状のスプリングと、を備えたカムクラッチユニットであって、
前記カムは、軸方向の一方の端面に前記スプリングと係合可能な係合段部を有し、
前記ケージリングは、前記環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有し、
前記フック部は、前記スプリングによって前記カムを軸方向の他方の端面側に押圧可能な押圧部を有することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカムクラッチユニットによれば、フック部がスプリングによってカムを軸方向の他方の端面側に押圧可能な押圧部を有することによって、スプリングによってカムが軸方向の他方の端面側に押圧されてケージリングに押し当てられるので、カムクラッチユニットの単品状態におけるカム等の構成部品の浮きや脱落が防止され、カムクラッチユニットの単品状態において優れた取扱い性が得られる。
また、カムが軸方向の一方の端面にスプリングと係合可能な係合段部を有することで、簡単な構造で製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに、薄幅化が可能となる。さらに、ケージリングが環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有することにより、カムの端面の係合段部をスプリングの軸方向の移動を規制する形状に加工する必要がなく、さらに加工工数が少なく難度が低くなる。
【0009】
また、本発明においては、フック部にカム側に傾斜するテーパ面が形成されていることにより、カムクラッチユニットの単品状態においては、内輪およびカムの揺動回転を阻害する部材が存在しないためにカムが径方向内方側に変位することによって、スプリングがフック部のテーパ面とカムとの間に形成されるテーパ溝空間の軸方向の幅の狭い底部に自動的に移動する結果、カムが軸方向の他方の端面側に押圧されることになり、結局、確実にカム等の構成部品の浮きや脱落を防止することができる。
その一方で、カムクラッチユニットの単品状態と組み付け時とにおけるカムの落ち込み量の差を利用することで、カムクラッチユニットを組み付けた後のカムクラッチにおいては、カムが本来的な径方向外方側の位置に変位するため、スプリングが自動的にテーパ溝空間の上部に移動されるので、スプリングの軸方向の他方の端面側への押圧力がなくなり、その結果、スプリングとケージリングとは非接触とされるとともに、カムの軸方向の一方の端面とスプリングとの摺動抵抗およびカムの軸方向の他方の端面とケージリングとの摺動抵抗の発生を抑止することができるため、優れた摩耗耐久性が得られ、またドラッグトルクの悪化を防止することができる。
また、テーパ溝空間の径方向および軸方向の幅が可変であるので、テーパ溝空間におけるカムとケージリングとの最大距離をスプリング径以上となるように設計すれば、ケージリングとポケット部に配置されたカムとの間にスプリングを挿入する際に十分な挿入幅を確保することができるので、カムクラッチユニットの組み立てを簡単に行うことができる。
さらに、各部品の寸法精度がある程度低い場合にもスプリングによるカムへの押圧力が安定的に得られるので、カムクラッチユニットの歩留まりが高く、優れた生産性が得られる。
【0010】
また、本発明においては、フック部にカム側に突出する階段部が設けられることにより、カムクラッチユニットの単品状態においては、内輪およびカムの揺動回転を阻害する部材が存在しないためにカムが径方向内方側に変位する(落ち込む)ことによって、スプリングがフック部の階段部とカムとの間に形成される段付き溝空間の底側の軸方向の幅の狭い段に自動的に嵌まり込む結果、カムが軸方向の他方の端面側に押圧されることになり、結局、確実にカム等の構成部品の浮きや脱落を防止することができる。
その一方で、カムクラッチユニットの単品状態と組み付け時とにおけるカムの落ち込み量の差を利用することで、カムクラッチユニットを組み付けた後のカムクラッチにおいては、カムが本来的な径方向外方側の位置に変位するため、スプリングが自動的に段付き溝空間の幅広の上部側の段に移動されるので、スプリングの軸方向の他方の端面側への押圧力がなくなり、その結果、スプリングとケージリングとは非接触とされるとともに、カムの軸方向の一方の端面とスプリングとの摺動抵抗およびカムの軸方向の他方の端面とケージリングとの摺動抵抗の発生を抑止することができるため、優れた摩耗耐久性が得られ、またドラッグトルクの悪化を防止することができる。
また、段付き溝空間の径方向および軸方向の幅が可変であるので、段付き溝空間におけるカムとケージリングとの最大距離をスプリング径以上となるように設計すれば、ケージリングとポケット部に配置されたカムとの間にスプリングを挿入する際に十分な挿入幅を確保することができるので、カムクラッチユニットの組み立てを簡単に行うことができる。
さらに、各部品の寸法精度がある程度低い場合にもスプリングによるカムへの押圧力が安定的に得られるので、カムクラッチユニットの歩留まりが高く、優れた生産性が得られる。
【0011】
本発明においては、カムが係合段部と反対側の端面に規制段部を有し、ケージリングのポケット部が規制凸部を有することにより、カムの規制段部がケージリングの規制凸部に係止されることにより、スプリングによりカムが軸方向に押圧されてもカムが軸方向で傾くことが規制されるので、カムクラッチユニットの単品状態において確実にカム等の構成部品の浮きや脱落を防止することができる。
また、スプリングによる軸方向への押圧力のみでカムの浮きや脱落を抑止する場合と比較して、カムクラッチユニットの単品状態におけるスプリングによる押圧力を小さく構成することが可能となる結果、組み付け時にスプリングがカムを押圧しにくくなるため、カムの軸方向の一方の端面とスプリングとの摺動抵抗およびカムの軸方向の他方の端面とケージリングとの摺動抵抗の発生を確実に抑止することができる。
また、カムの軸方向の他方の端面とケージリングとのクリアランスを小さくすることにより規制段部の軸方向の突出高さを低くすることができるので、カムの軸方向の全幅をケージリングのポケット部の軸方向の幅よりも小さくなるように設計すれば、カムクラッチユニットの組み立て性をさらに向上させることができる。
【0012】
本発明においては、ローラが内輪及び外輪の間に配置され、ローラの軸方向寸法がカムの係合段部を除いた軸方向寸法以下であることにより、ローラは軸方向の拘束のみされて自由に回転することができ、スプリングとの間にほとんど摩擦摺動が生じることがないので、ローラによる回転抵抗を低減化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のカムクラッチユニットの斜視図。
【
図2】
図1に示すカムクラッチユニットの回転軸方向に見た正面図。
【
図3】
図1に示すカムクラッチユニットの回転軸と水平な平面で切断した断面図。
【
図4】
図1に示すカムクラッチユニットのカムの(a)正面図および(b)側面図。
【
図5】
図1に示すカムクラッチユニットのローラの(a)正面図および(b)側面図。
【
図6】
図1に示すカムクラッチユニットのケージリングの斜視図。
【
図7】
図1に示すカムクラッチユニットの回転軸と水平な平面で切断した断面図。
【
図8】
図1に示すカムクラッチユニットの、(a)カムクラッチユニットの単品状態の一部断面図および(b)カムクラッチへの組み付け時の一部断面図。
【
図9】
図1に示すカムクラッチユニットの回転軸方向に見た一部正面図であって、(a)カムクラッチユニットの単品状態の一部正面図および(b)カムクラッチへの組み付け時の一部正面図。
【
図10】本発明の他の実施形態のカムクラッチユニットの一部断面図。
【
図11】
図10に示すカムクラッチユニットのカムの軸方向の他方の端面を示す底面図。
【
図12】本発明のさらに他の実施形態のカムクラッチユニットの一部断面図。
【
図13】
図12に示すカムクラッチユニットのケージリングの斜視図。
【
図14】本発明のさらに他の実施形態のカムクラッチユニットの一部断面図。
【
図15】
図14に示すカムクラッチユニットのケージリングの斜視図。
【
図16】本発明のさらに他の実施形態のカムクラッチユニットに係るケージリングの斜視図。
【
図18】
図17に示すカムクラッチユニットの回転軸方向に見た側面図。
【
図19】
図17に示すカムクラッチユニットのカムの側面図及び正面図。
【
図20】
図17に示すカムクラッチユニットのローラの側面図及び正面図。
【
図21】
図17に示すカムクラッチユニットの一部側面図及び断面図。
【
図22】カムクラッチユニットのある一例における概略一部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカムクラッチユニットは、同軸上に相対回転可能に設けられている内輪及び外輪の間に配置される複数のカムと、カムの周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部を有するケージリングと、カムを付勢する環状のスプリングとを備え、カムが軸方向の一方の端面にスプリングと係合可能な係合段部を有し、ケージリングが環状のスプリングの軸方向への移動を規制する複数のフック部を有し、フック部が、スプリングによってカムを軸方向の他方の端面側に押圧可能な押圧部を有することにより、基本的に簡単な構造で製造時の加工工数が少なく難度が低くなるとともに薄幅化が可能となり、カムの端面の係合段部をスプリングの軸方向の移動を規制する形状に加工する必要がなくてさらに加工工数が少なく難度が低くなり、しかも、カムクラッチユニットの単品状態におけるカム等の構成部品の脱落が防止され、カムクラッチユニットの単品状態において優れた取扱い性が得られるカムクラッチユニットを提供するものであれば、その具体的な構成はいかなるものであってもよい。
【実施例0015】
本発明の第1の実施形態に係るカムクラッチユニット100は、
図1乃至
図9に示すように、同一軸上に相対回転可能に設けられた内輪の軌道面と外輪の軌道面との間の環状空間において内輪と外輪との間でトルクの伝達及び遮断を行う係合子としての複数のカム130と、内輪と外輪を自由に回転させる複数のローラ140と、カム130及びローラ140の周方向の相対的な移動を規制する複数のポケット部151、152を有するケージリング150と、複数のカム130の各々を内輪及び外輪に対する噛み合い方向に付勢する環状のスプリング160を備えている。
【0016】
複数のカム130の各々は、
図4に示すように、軸方向の一方の端面に環状のスプリング160と係合可能な係合段部131を有している。
本実施形態においては、係合段部131はカム130がフリーとなる状態で図示左側が外周側に位置する傾斜形状となっており、スプリング160が係合段部131の左側を押圧することで、カム130が内輪側に付勢されるとともに、カム130が作動する方向に揺動するよう付勢される。
複数のローラ140は、
図5に示すように、溝や段部を有さず、本実施形態においては、ローラ140の軸方向寸法rwはカム130の係合段部131を除いた軸方向寸法cw以下である。
本実施形態においては、ローラ140の両端面の外周縁部は面取りされており、スプリング160との引っ掛かりを防止している。
【0017】
ケージリング150は、
図6に示すように、カム130を収容し周方向の相対的な移動を規制するポケット部151及びローラ140を収容し周方向の相対的な移動を規制するポケット部152と、環状のスプリング160の軸方向の一方側への移動を規制する複数のフック部153を有している。具体的には、ケージリング150は、複数のポケット部151,152を連結するとともにカム130およびローラ140の軸方向の他方側への移動を規制する環状の支持台157を有している。
本実施形態においては、ケージリング150のカム130を収容するポケット部151とローラ140を収容するポケット部152とは、2つの隣接したカム130に係るポケット部151と1つのローラ140に係るポケット部152が周方向に交互に配置されている。すなわち、ローラ140に係るポケット部152が2つおきに規則的に配置されている。
各ポケット部151、152においては、軸方向の他方側の面でカム130及びローラ140の軸方向の他方側への移動が規制され、軸方向の一方側への移動はスプリング160によって規制される。
また、本実施形態においては、
図7に示すように、ローラ140を収容するポケット部152のローラ140に隣接する面152A(後述する区画壁158のローラ140に対向する面)は、ローラ140の外形形状に沿った形状を有し、ローラ140の外輪側及び内輪側への移動を規制する形状に形成されている。これにより、カムクラッチの製造過程においてローラ140の外周側への脱落が防止される。
なお、本明細書において、「軸方向の一方側」とは、カムクラッチユニットにおけるカムの係合段部が設けられた一方の端面側をいい、「軸方向の他方側」とは、その反対側をいう。
【0018】
そして、本実施形態においては、ケージリング150は、環状のスプリング160の軸方向の一方側への移動を規制する複数のフック部153を有している。ケージリング150は、カム130またはローラ140を収容するポケット部151,152の周方向に隣接する2つを区画する区画壁158を有しており、その軸方向の一方側端において外周側に突出する状態に形成されている。
フック部153には、径方向の外周側から内周側にかけて、かつ、軸方向の一方側から他方側に向かうに従ってカム130側に近接するように傾斜するテーパ面156が形成されており、カム130に対向するテーパ面156がスプリング160によってカム130を軸方向の他方側に押圧可能な押圧部として機能する。
具体的に説明すると、
図8に示すように、軸方向に沿った断面について、仮想的にフック部153のテーパ面156と、カム130とを重ねると、これらの間に、軸方向の一方側(
図8の左側)から他方側(
図8の右側)に向かうに従って軸方向の幅が縮小するテーパ溝空間S1が形成される。そして、
図8(a)および
図9(a)に示すように、カムクラッチユニット100の単品状態においては、内輪およびカム130の揺動回転を阻害する部材が存在しないためにカム130が径方向内方側に変位する(落ち込む)ことによって、スプリング160がテーパ溝空間S1の軸方向の幅の狭い底部S1aに自動的に移動する。これに伴ってカム130が軸方向の他方側(
図8において右側)に押圧され、これにより、カム130の軸方向の他方の端面がケージリング150の支持台157に押し当てられる。一方、カムクラッチユニット100の組み付けた後のカムクラッチにおいては、カムクラッチユニット100の単品状態と組み付け時とにおけるカム130の落ち込み量の差(
図8の符号d参照。)を利用することで、
図8(b)および
図9(b)に示すように、カム130が本来的な径方向外方側の位置に変位するため、スプリング160が自動的にテーパ溝空間S1の上部S1bに移動する。これに伴ってスプリング160の軸方向の他方側(
図8の右側)への押圧力がなくなり、その結果、スプリング160とケージリング150とは非接触とされるとともに、カム130の軸方向の一方の端面における係合段部131のない非突出面132とスプリング160との摺動抵抗、および、カム130の軸方向の他方の端面とケージリング150との摺動抵抗の発生が抑止される。
【0019】
なお、本実施形態においては、カム130がローラ140の2倍の数であってローラ140がカム130の2つ置きに配置されているが、カム130とローラ140のそれぞれの数、配置はいかなるものであってもよい。
また、カム130の形状もいかなるものであってもよく、例えばスプラグ形状のものであってもよい。
また、フック部153の配置もカム130とローラ140のそれぞれの数、配置に応じてどのような配置としてもよく、各フック部153の径方向の高さは一様であってもよく、周方向の位置によって高さが異なるものであってもよい。
また、テーパ面156は、周方向に複数設けられたフック部153のうちの少なくとも1つに形成されていればよい。
カム130とローラ140のそれぞれの数、配置に応じてフック部153の配置や高さ、並びにテーパ面156の有無を適宜設定することで、上記実施形態と同様に各カム130が均等に精度の高い動作を行うことができる。
【0020】
上記の実施形態に係るカムクラッチユニット100においては、
図10に示すように、カム130の係合段部131と反対側の端面に軸方向に突出する規制段部133を有する構成とすることもできる。具体的には、ケージリング150のポケット部151に、軸方向でカム130の規制段部133と隣接する面すなわち支持台157の径方向内方面にカム130の傾きを規制する規制凸部155を有している。これにより、スプリング160によって軸方向の他方側とともに径方向内方側に押圧されてもカム130の規制段部133がケージリング150の規制凸部155に係止されることになるので、カム130のケージリング150からの浮きや脱落が確実に防止される。
カム130における規制段部133は、
図11の斜線部に示すように、カム130の空転時および噛み合い時にケージリング150と干渉しない位置および形状であれば、特に限定されずに、種々の形状とすることができる。すなわち、規制段部133の形成位置は、ケージリング150の形状およびカム130の使用範囲(転がり量)によって異なる。