(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046396
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/53 20060101AFI20240327BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20240327BHJP
A61F 13/532 20060101ALI20240327BHJP
A61F 13/539 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61F13/53 100
A61F13/511 300
A61F13/53 300
A61F13/532 200
A61F13/539
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151764
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 由美子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英聡
(72)【発明者】
【氏名】金田 悠太郎
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA03
3B200BA11
3B200BB01
3B200BB17
3B200DB05
3B200DB19
3B200DC01
(57)【要約】
【課題】繰り返し流入する混濁尿の吸収性に優れ、着用感に優れた吸収性物品を提供する。
【解決手段】吸収体の肌面側に配置され、幅方向の伸張率が160%以上のトップシートを備え、吸収体は、短繊維と、高吸収性重合体であるSAPの粒子と、を有する複数の吸収マットを含む吸収コアと、吸収コアを包み、少なくとも吸収コアの肌面側と重畳する部分がパルプ繊維シートで構成されたコアラップシートと、を、備え、吸収コアの肌面側には、長手方向に延在し、着用状態において着用者の尿道口と対応する尿道口対応領域を含む位置に形成された溝部を有し、溝部の深さは、196Nの加重がかかった状態で3mm以上であり、溝部の幅は、肌面側において10mm以上であり、コアラップシートは、溝部の肌面側を覆い、かつ、液体を透過する前の状態では、溝部の内側に落ち込んでいない、吸収性物品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿った長さと、前記長手方向に直交する幅方向に沿った長さを有し、着用者の腹部に対向する前身頃領域と、着用者の背部に対向する後身頃領域と、前記前身頃領域及び前記後身頃領域の間に位置し、吸収体が配置される股下領域が連接された吸収性物品であって、
前記吸収体の肌面側に配置され、前記幅方向の伸張率が160%以上のトップシートを備え、
前記吸収体は、
短繊維と、高吸収性重合体であるSAPの粒子と、を有する複数の吸収マットを含む吸収コアと、
前記吸収コアを包み、少なくとも前記吸収コアの肌面側と重畳する部分がパルプ繊維シートで構成されたコアラップシートと、
を、備え、
前記吸収コアの肌面側には、前記長手方向に延在し、着用状態において着用者の尿道口と対応する尿道口対応領域を含む位置に形成された溝部を有し、
前記溝部の深さは、196Nの加重がかかった状態で3mm以上であり、
前記溝部の幅は、肌面側において10mm以上であり、
前記コアラップシートは、前記溝部の肌面側を覆い、かつ、液体を透過する前の状態では、前記溝部の内側に落ち込んでいない、
吸収性物品。
【請求項2】
前記コアラップシートの、前記吸収コアの肌面側と重畳する部分は、
液体が一度も透過していない乾燥状態において、前記溝部の深さの2倍の幅で広がるように前記幅方向に力を加えた際には破断せず、
一度液体が透過した液体透過済状態では、同様の力を加えた場合には破断する、
請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記コアラップシートの前記吸収コアの肌面側と重畳する部分の前記乾燥状態の前記幅方向への引張強度は、10N/mm以上であり、
前記コアラップシートの前記吸収コアの肌面側と重畳する部分の前記液体透過済状態の前記幅方向への引張強度は、4N/mm以下である、
請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記コアラップシートの前記吸収コアの肌面側と重畳する部分は、
紙力増強剤を含まない、
請求項1~3のうちいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記トップシートは、前記乾燥状態と前記液体透過済状態のいずれの状態においても、前記コアラップシートよりも高い前記幅方向への引張強度を有し、前記液体透過済状態において前記コアラップシートが破断する条件下において破断しない、
請求項2に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記トップシートの厚み方向における開口率は、10%以上25%以下であり、
前記トップシートを通過する所定液体の通過速度は、1回目が120秒未満、2回目が150秒未満である、
請求項5に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、吸収性パッド、生理用品等の吸収性物品が開発されている。また、このような吸収性物品に関し、例えば特許文献1では固形成分を含む尿が吸収性物品から漏出することを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸収性物品において、吸収コアよりも着用者の肌面側に複数の繊維層を有する積層シートが配置される場合がある。着用者から固形成分を含む混濁尿や水様便が排出される場合、固形成分が積層シートを形成する繊維の隙間に詰まることで、積層シートの液透過性が低下することがある。積層シートの液透過性が低下した状態で再度排出液が放出されると、排出液が肌面と吸収性物品との間に長く留まり、着用感が低下する。一方、固形成分が繊維の隙間に詰まらないように積層シートの開口率を広げると、今度は吸収コアに含まれる固い砂粒状の高吸収性重合体が肌面側に漏出し、着用感が低下することがある。
【0005】
本発明は、繰り返し流入する混濁尿の吸収性に優れ、着用感にも優れた吸収性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る吸収性物品は、長手方向に沿った長さと、前記長手方向に直交する幅方向に沿った長さを有し、着用者の腹部に対向する前身頃領域と、着用者の背部に対向する後身頃領域と、前記前身頃領域及び前記後身頃領域の間に位置し、吸収体が配置される股下領域が連接された吸収性物品であって、前記吸収体の肌面側に配置され、前記幅方向の伸張率が160%以上のトップシートを備え、前記吸収体は、短繊維と、高吸収性重合体であるSAPの粒子と、を有する複数の吸収マットを含む吸収コアと、前記吸収コアを包み、少なくとも前記吸収コアの肌面側と重畳する部分がパルプ繊維シートで構成されたコアラップシートと、を、備え、前記吸収コアの肌面側には、前記長手方向に延在し、着用状態において着用者の尿道口と対応する尿道口対応領域を含む位置に形成された溝部を有し、前記溝部の深さは、196Nの加重がかかった状態で3mm以上であり、前記溝部の幅は、肌面側において10mm以上であり、前記コアラップシートは、前記溝部の肌面側を覆い、かつ、液体を透過する前の状態では、前記溝部の内側に落ち込んでいない、吸収性物品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、繰り返し流入する混濁尿の吸収性に優れ、着用感にも優れた吸収性物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る吸収性パッドの外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る吸収性パッドの平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る吸収性パッドの断面図である。
【
図4】
図4は、混濁尿の吸収速度および逆戻りを計測する実験の手順を示す流れ図である。
【
図5】
図5は、注入用金属板がトップシートに置かれた状態を示す図である。
【
図6】
図6は、上記のような吸収性パッド1の吸収性能実験の結果を示す表である。
【
図7】
図7は、最適な溝部の構成についての実験結果を示す表である。
【
図8】
図8は、最適なコアラップシートの強度についての実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る吸収性物品について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0010】
<実施形態>
本実施形態では、使い捨ての吸収性パッド(本願でいう「吸収性物品」の一例である)について、着用者の腹部に対向して配置される前身頃と背部に対向して配置される後身頃とを結ぶ方向を長手方向とする。これらの前身頃(長手方向の一側)と後身頃(長手方向の他側)との間(長手方向の中央)には、着用者の股下に配置(股間に対向して配置)される股下部が連接して位置している。また、吸収性パッドが着用者に着用された状態(以下、「着用状態」と略称する)において、着用者の肌に向かう側(着用状態で内側)を肌面側とし、肌面側の反対側(着用状態で外側)を非肌面側とする。さらに、肌面側と非肌面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向の何れにも直交する方向を幅方向とする。そのほか、厚み方向から視ることを平面視とする。
【0011】
図1は、実施形態に係る吸収性パッドの外観斜視図である。吸収性パッド1は、尿等の液体を吸収して保持するために用いられ、下衣肌着の肌面側に配置することで単独でも使用することができるし、使い捨ておむつの内側に重ねて使用することもできる。吸収性パッド1は、着用状態において着用者の陰部を覆う股下に対応する股下領域1Bと、股下領域1Bの前側に位置し、着用者の前身頃に対応する部位である前身頃領域1Fと、股下領域1Bの後ろ側に位置し、着用者の後身頃に対応する部位である後身頃領域1Rとを有する。本実施形態に係る吸収性パッド1は、平面視において、股下領域1Bよりも前身頃領域1F、後身頃領域1R側の方が幅広な、平面視において、股下領域1Bがくびれた瓢箪形状を有している。また、前身頃領域1Fと後身頃領域1Rの横幅を比較すると、後身頃領域1R側の方が幅広である。この外形により、吸収性パッド1は、着用状態で、着用者の腹部と臀部に沿いやすくなる。なお、吸収性パッドの外形は略瓢箪型に限られず、例えば略長方形であってよい。
【0012】
図2は、実施形態に係る吸収性パッドの平面図である。吸収性パッド1は、着用状態における肌面側に配置されたトップシート8を備える。トップシート8は、吸収性パッド1の着用状態において着用者の肌に接する部分(肌対向面)であり、尿等の液体を透過する液透過性の材料で形成されている。トップシート8には、織布、不織布、多孔性フィルム等が用いられる。なお、不織布には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂の繊維を親水化処理したものを用いてもよいし、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布等を用いてもよい。
【0013】
吸収性パッド1は、尿等の液体を吸収する吸収体6を備える。吸収体6は、着用者の排出した液体を吸収するために股下領域1Bを含んで配置されている。本実施形態において
吸収体6は、吸収マットとして、トップシート8側に配置された上層吸収マット6aと、非肌面側に配置された下層吸収マット6bとを有する。上層吸収マット6aは、平面視において、吸収性パッド1と同様に、瓢箪形状を有している。下層吸収マット6bは、トップシート8側から見て上層吸収マット6aの下方に配置されており、平面視において、吸収性パッド1の長手方向が長辺となる矩形状(長方形状)を有する。上層吸収マット6aと下層吸収マット6bは、各々の幅方向の中心が略一致するように厚み方向に積層されている。また、平面視において、上層吸収マット6aは、下層吸収マット6bよりも大きく形成されている。なお、吸収体6の長手方向は、上層吸収マット6a及び下層吸収マット6bの長手方向及び吸収性パッド1の長手方向と一致している。
【0014】
吸収体6の肌面側幅方向中央部には、吸収性パッド1の長手方向に延在する溝部6Hが設けられている。溝部6Hは、人体の正中線と対応している。排出された尿等の排出液は溝部6Hに流入し、溝部6Hを長手方向に移動して、吸収体6の長手方向広範囲で迅速に吸収される。溝部6Hは吸収体6の長手方向端部には配置されていないため、排出液は吸収体6の長手方向端部を越えて外部に漏出しにくくなっている。このように、本実施形態に係る吸収性パッド1は、溝部6Hを備えることにより排出液を迅速に拡散させることができる。
【0015】
吸収体6の非肌面側には、吸収体6と略同一形状のバックシート5が設けられている。バックシート5は、吸収体6に流入した排出液の漏れを抑制するためにポリエチレンフィルム等の熱可塑性の液不透過性の樹脂を材料として形成されたシートである。バックシート5は、着用状態での蒸れを抑えるため、透湿性を併せもつ材料で構成されていてもよい。
【0016】
バックシート5の更に非肌面側には、カバーシート4が設けられている。カバーシート4は、吸収性パッド1の外装面を形成し、併用されるおむつや肌着等との摩擦に耐え得る剛性を有している。カバーシート4には、一般的にポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維で構成された不織布が用いられる。カバーシート4は、液透過性であってもよく、液体不透過性を有していてもよい。バックシート5が透湿性を有している場合、カバーシート4も透湿性を有することが望ましい。
【0017】
カバーシート4の更に非肌面側の一部には、止着テープが設けられていてよい。止着テープは弱い粘着性を有するテープであり、着用者が動き回るなどしておむつや下衣肌着等と吸収性パッド1とがずれて、吸収性パッド1の機能が損なわれるのを防ぐ。なお、止着テープを設けずに、カバーシート4として、非肌面側の摩擦係数が大きい部材を採用し、おむつ等とのずれを抑制して良い。また、カバーシート4の非肌面側にホットメルト等の接着剤を塗布するなどして滑り止め加工を施してもよい。
【0018】
また、吸収性パッド1は、吸収性パッド1の幅方向の両側の肌面側に配置され、長手方向に沿って延在する一対のサイドシート9L,9Rを備える。サイドシート9L,9Rは、長手方向の端部がトップシート8の長手方向の端部と合うように配置されている。サイドシート9L,9Rは、幅方向外側に配置された固定端部9LA,9RAを有する。固定端部9LA,9RAは、その非肌面側(下層)に配置された部材であるトップシート8、カバーシート4と、ホットメルト等の接着剤によって接着されている。また、上層吸収マット6aは、トップシート8よりも幅広な寸法で形成されており、上層吸収マット6aの幅方向の端部は、トップシート8に重ならず、サイドシート9L,9Rの固定端部9LA,9RAと重なって固定端部9LA,9RAに接着されている。本実施形態では、吸収体6の上層吸収マット6a上に配置される固定端部9LA,9RAの非肌面側の全面が上層吸収マット6aと、ホットメルト等の接着剤によって接着されている。
【0019】
また、サイドシート9L,9Rは、吸収性パッド1の幅方向の内側に配置された自由端部9LB,9RBと、吸収性パッド1の長手方向に伸張状態で自由端部9LB,9RBに配置された糸ゴム3BL,3BRを有する。自由端部9LB,9RBは吸収性パッド1のいずれの部位にも接合されておらず、糸ゴム3BL,3BRが収縮することによって自由端部9LB、9RBが肌面側に起立して立体ギャザー3L,3Rが形成される。立体ギャザー3L,3Rは、液体の横漏れを抑制する。
【0020】
また平面視において自由端部9LB,9RBよりも幅方向の外側(立体ギャザー3L,3Rの起立線の幅方向の外側)に延在する領域が耳部10L、10Rである。本実施形態では、耳部10L,10Rは、前身頃領域1Fから後身頃領域1Rに亘って形成されており、股下領域1Bよりも前身頃領域1F及び後身頃領域1Rの方が幅広に形成されている。また、上層吸収マット6aは、自由端部9LB,9RBの幅方向の外側を含んで配置されており、下層吸収マット6bは、自由端部9LB,9RBの幅方向の内側に配置されている。吸収性パッド1は、耳部10L、10Rにおけるクッション性を高めつつ、上層吸収マット6aを大きく形成することで液体の吸収量を大きくすることができる。なお、耳部10L,10Rは、前身頃領域1F又は後身頃領域1Rのいずれか一方に形成されていてもよい。
【0021】
サイドシート9L,9Rの固定端部9LA,9RAの非肌面側の一部分には、吸収体6が延在している。このため、サイドシート9L,9Rと、吸収体6は、立体ギャザー3L,3Rのみならず、固定端部9LA,9RAにおいても重畳しており、当該重畳部分において吸収体6が吸水することがある。サイドシート9L,9Rは、非透水性を有してはいるものの、その耐水性はバックシート5ほど高くない。サイドシート9L,9Rとの重畳部分において吸収体6が吸水している状態で当該部分に体圧がかかると、吸収体6に一旦吸収された液体がサイドシート9L,9Rの表面から染み出すことがある。立体ギャザー3L,3Rの幅方向外側において液体が染み出した場合、吸収性物品の側面部分からの液漏れに繋がる。このような液漏れを防ぐために、耳部10L,10Rの肌面側に疎水性のシート部材を更に積層することも考えられるが、吸収性物品の部品(部材)点数が多くなり、製造コストが上昇する。また、疎水性のシート部材によって、着用者に違和感を与える虞もある。
【0022】
そこで、本実施形態に係る吸収性パッド1では、固定端部9LA,9RAの非肌面側の全面が、吸収体6と、ホットメルト等の非透水性の接着剤によって接着されている。接着剤を塗布することによって固定端部9LA,9RAを吸収体6に対して固定しつつ、固定端部9LA,9RAの耐水性を強化することができる。これにより、本実施形態に係る吸収性パッド1は、立体ギャザー3L,3R(自由端部9LB,9RB)の幅方向の外側から一旦吸収体6に吸収された液体が肌面側に漏れ出すのを抑制できるため、別途漏れ防止部材を設け、着用感を低下させることなく、耳部10L,10Rからの液体の漏れを抑制できる。
【0023】
また、立体ギャザー3L,3Rの幅方向の外側に疎水性のシート部材を別途積層する場合、当該シート部材が立体ギャザー形成用のサイドシート9L,9Rに接合し難い場合もある。また、当該シート部材が着用者に与える肌トラブル等の影響を考慮して吸収性物品を設計する必要もある。これに対し、本実施形態に係る吸収性パッド1では、立体ギャザー3L,3Rの幅方向の外側に、疎水性のシート部材を別途積層する必要がないため、問題は生じない。
【0024】
また本実施形態に係る吸収性パッド1は、吸収体6上に配置される固定端部9LA,9RAの非肌面側の全面が吸収体6の上層吸収マット6aと接着剤によって接着されているため、サイドシート9L,9Rの固定端部9LA,9RAと上層吸収マット6aが強固に
接着するので、上層吸収マット6aを割れ難くすることができる。また、固定端部9LA,9RAの幅方向の端部と非肌面側シートとは、接着剤によって接着されている。吸収性パッド1は、サイドシート9L,9Rと、吸収体6よりも非肌面側に配置されたシート部材が接着することで吸収体6の位置を固定できるため、吸収体6の型崩れを抑制できる。
【0025】
また、上層吸収マット6aは、自由端部9LB,9RBの幅方向の外側を含んで配置されており、下層吸収マット6bは、自由端部9LB,9RBの幅方向の内側に配置されている。この構成によれば、吸収性パッド1は、上層吸収マット6a内の液体を下層吸収マット6bによって吸収して保持できる。下層吸収マット6bの幅方向端部は立体ギャザー3L,3Rの内側(範囲内)にあるため、下層吸収マット6bから尿等の排出液が絞り出されたとしてもその肌面側には上層吸収マット6aが配置され、さらにその幅方向の外側には立体ギャザー3L,3Rも配置されているため、吸収性パッド1と着用者の肌との間に形成される空間からの液体の漏れを抑制可能である。また、この構成によれば、固定端部9LA,9RAおよび耳部10L,10Rに液体が到達し難い。下層吸収マット6bの幅方向端部から液体が絞り出されたとしても当該端部の周囲にある上層吸収マット6aで液体を吸収し保持できる。更に、サイドシート9L,9Rの固定端部9LA,9RAの非肌面側の全面が吸収体6とホットメルト等の接着剤によって接着されているため、自由端部9LB,9RBの幅方向外側からの液体の漏れを抑制できる。
【0026】
図3は、吸収性パッド中央部を幅方向に沿って切断した場合の断面図である。
図3では、吸収性パッド1の内部構造を分かりやすくするため、各構造の厚みを強調しているが、実際には吸収性パッド1は非常に薄いものである。吸収体6は、吸収コア6cと、当該吸収コア6cを覆うコアラップシート7とを有している。吸収コア6cは、パルプ繊維、レーヨン繊維、またはコットン繊維のようなセルロース系繊維の短繊維や、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエチレンテレフタレート等の合成繊維に親水化処理を施した短繊維の隙間に、水を吸収し保持することのできる架橋構造を持つ親水性ポリマーであるSAP(高吸収性重合体:Super Absorbent Polymer)等の粒状の吸収性樹脂(高分子吸水材)を保持させた構造を有している。
【0027】
本実施形態のSAP粒子とは、SAPを含む樹脂組成物を粒状としたものを指す。ここで言う「SAPを含む樹脂組成物」とは、SAPのみからなる組成物、SAPを主成分とし、これに吸水性に悪影響を及ぼさない程度に他の物質が含まれた組成物、の双方を包含する概念である。「他の物質」としては、添加剤(粒子表面を疎水化する目的で添加される表面改質剤等)、SAPの合成時に残存した未反応のモノマー等を挙げることができる。SAP粒子は、自重の10~100倍程度(本実施形態では、60倍)の液体を吸収することができる。SAP粒子には、例えば、液体吸収前の状態において0.1~0.5mm程度の直径を有する粒状のものが用いられてよい。
【0028】
SAP粒子はゲル化して液体を保持できる反面、液体の吸収には一定の時間がかかる。このため、吸収コア6cにおいては、SAP粒子が排出液を吸収するまでの間、短繊維が排出液を減速させながら吸収コア6c内部で拡散させ、広範囲のSAP粒子に排出液を吸収させることで排出液を保持し、逆戻りを抑制する。
【0029】
本実施形態では、吸収コア6cは、上層吸収マット6aと、下層吸収マット6bの2層構造を有している。上層吸収マット6aは、全延在領域において、下層吸収マット6bよりも幅広であり、肌面側から観察した場合、下層吸収マット6bは、上層吸収マット6aの幅方向内側に収まる。上層吸収マット6aは略瓢箪型の外形を有しており、前身頃領域1F,後身頃領域1Rでは、起立線3LL,3LRの幅方向外側にまで延在している。このため、前身頃領域1F,後身頃領域1Rでは、上層吸収マット6aは立体ギャザー3L,3Rの幅方向外側にまで延在する。一方、股下領域1Bでは、上層吸収マット6aは幅
方向に括れており、その端部は立体ギャザー3L,3Rの起立線3LL,3LRの内側に収まっている。
【0030】
SAP粒子は、上層吸収マット6aまたは下層吸収マット6bのうちのいずれかに偏って配置されていてよい。一例としては、SAP粒子は上層吸収マット6aのみに配置されており、下層吸収マット6bには配置しないことができる。この場合、下層吸収マット6bは、短繊維のみからなり、流入した排出液が上層吸収マット6aに含まれるSAP粒子によって吸収されるまでの間、排出液を保持し、拡散させ、逆戻りを抑制する役割を果たす。なお、上層吸収マット6aと下層吸収マット6bの間にSAP粒子からなる層を配置して、層間SAP層を形成してもよい。層間SAP層を設ける場合、当該層間SAP層は、吸収性パッド1の着用状態において、着用者の尿道口に対応する尿道口対応領域の近傍などの、排出液が比較的多く吸収される可能性が高い位置に配置されてよい。層間SAP層を構成するSAP粒子は、上層吸収マット6aまたは下層吸収マット6bに、ホットメルト等の接着剤により仮接着されていてもよい。
【0031】
上層吸収マット6aには、溝部6Hが設けられている。
図3に示す形態では、溝部6Hは上層吸収マット6aを貫通する貫通溝となっている。なお、幅方向中央部において、上層吸収マット6aを圧搾して肉薄にすることで溝部6Hを形成してもよい。
【0032】
平面視において、溝部6Hは、前後の両端が円弧状に形成された長方形状を有する。溝部6Hの前側の端部は、前身頃領域1Fの中程に位置し、溝部6Hの後側の端部は、後身頃領域1Rの前部に位置している。また、溝部6Hは、一定の幅を有している。例えば、当該幅は、20mm以上35mm以下である。また、溝部6Hの長さは、245mm以上355mm以下である。このサイズの溝部6Hを備えた吸収性パッド1は、成人用に適している。なお、溝部6Hは、平面視において、長方形状ではなく、その他の多角形状や楕円形状に形成されていてもよい。溝部6Hは、加重がかかっていない状態では7mm以上の深さを有しており、平均的な体格の高齢者が仰臥位を取った場合に吸収性パッド1にかかる荷重(およそ20kg)を想定した196Nの荷重がかかった場合でも、3mm以上の深さを維持できるように構成されている。
【0033】
また、吸収性パッド1における溝部6Hの延在範囲には、着用者の尿道口に対応する尿道口対応領域が存在する。尿道口対応領域は、着用者の尿道口に対応し、排尿がなされる位置に対応する位置である。溝部6Hは、着用者から発生した尿が流入しやすいように、尿道口に対応する部位を含んで形成されている。吸収性パッド1を平面視した場合、尿道口対応領域は、上層吸収マット6aの後側端部から前方に上層吸収マット6aの長手方向の長さの60%の位置に規定される。例えば、上層吸収マット6aの長手方向の長さが500mmである場合、上層吸収マット6aの後側端部から前方に300mmの位置が尿道口対応領域に規定される。
【0034】
着用者から発生した尿等の液体は、溝部6Hを流れて拡散する。また、上層吸収マット6a上に排泄された尿等の液体を、溝部6Hを介して下層吸収マット6bに導くことができる。このように、本実施形態に係る吸収性パッド1は、上層吸収マット6a及び下層吸収マット6bを有する吸収体6によって、液体を効果的に吸収することができる。また、溝部6Hの延在範囲が尿道口対応領域を含んでいることで、排出液が発生した際にも、着用者の尿道口近傍の湿潤状態は速やかに解消される。このため、着用者は不快感を覚えにくい。
【0035】
本実施形態に係る吸収体6は、コアラップシート7を備えている。コアラップシート7は、吸収体6の外側面を覆う透水性のシートであって、より具体的には、吸収体6の肌面側、非肌面側、側面側を覆っている。コアラップシート7は、薄手のパルプ繊維からなる
シートであり、一例としては、ティッシュペーパーを用いることができる。コアラップシート7は、排出液に触れていない状態で、複数の吸収マットから構成される吸収コア6cの形状を保護して型崩れを防止し、吸収マットに含まれるSAP粒子の逸脱を防止する機能を有している。SAP粒子は吸収性パッド1がその機能を適切に発揮できるように配置されており、配置位置から逸脱すると吸収性パッド1がその機能を適切に発揮できなくなる。また、水分を吸収していない状態のSAP粒子は硬い砂粒状であり、逸脱した水分を吸収していない状態のSAP粒子が着用者の肌面に直接触れると、着用者に対して違和感を与える虞がある。このため、吸収コア6cをコアラップシート7で包み込み、吸収コア6cの型崩れを防止し、SAP粒子の逸脱を防止することができる。本実施形態では、コアラップシート7は、吸収コア6cの肌面側を覆う上層コアラップシート7aと、吸収コア6cの非肌面側および側面部を覆い、肌面側の幅方向端部にまで達している下層コアラップシート7bの2枚のシートを有している。
【0036】
前述の通り、吸収コア6cは、その肌面側に、溝部6Hを備えている。そして、トップシート8は、溝部6Hの内側に落ち込まないように構成されている。また、コアラップシート7も、その肌面側において、溝部6Hの内部に落ち込まないように構成されている。
【0037】
従来の吸収性パットにおいて、混濁尿に含まれる固形物は、例えトップシートを通過できたとしても、コアラップシートの表面において繊維の隙間に挟まって、コアラップシートに目詰まりを起こすことがある。コアラップシートが目詰まりを起こしていると、新たに発生した排出液はコアラップシートを通過できなくなり、吸収コアが排出液を迅速に吸収できなくなる。このため、排出液はいつまでも着用者の肌面に留まり、漏れの原因となったり、着用感を低下させたりすることがある。
【0038】
既存のコアラップシート7に用いられることがあるティッシュペーパーには、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリビニルアミン等の紙力増強剤が含まれている。ティッシュペーパーを構成する繊維は、トイレットペーパーを構成する繊維よりも長く、比較的ほどけにくいため、乾燥状態において一定の強度を有している。また、紙力増強剤により繊維同士の係合が維持されるため、吸水した場合にも強度が低下しにくくなっている。
【0039】
これに対して、本実施形態に係るコアラップシート7の少なくとも肌面側には、一例として、紙力増強剤を含まないティッシュペーパーを用いることができる。紙力増強剤を含まないティッシュペーパーは、吸水していない乾燥状態では、紙力増強剤を含むティッシュペーパーと大きく変わらない強度を有している。このため、当該素材をコアラップシート7として用い、吸収コア6cを適切に包み込んで保護することができる。一方、紙力増強剤を含まないティッシュペーパーは、液体に触れると繊維がほぐれやすくなり、破断しやすくなる。勿論、コアラップシート7は紙力増強剤を含む既知のティッシュペーパーとするものの、肌面側において目付量を抑えることにより、濡れた状態で容易に破断するように構成してもよい。
【0040】
コアラップシート7の肌面側を一度液体が透過した状態、すなわち液体透過済状態では、溝部6H近傍において繊維がほぐれて破断しやすくなる。液体透過済状態のコアラップシート7の肌面側が破断した状態で更に発生した排出液は、直接吸収コア6cに流入する。このため、コアラップシート7の繊維間に混濁尿に含まれる固定物が既に挟まっている液体透過済状態でも、コアラップシート7は溝部6H近傍において破断しているため、吸収コア6cへの排出液の流入はコアラップシート7によって阻害されない。コアラップシート7は、吸収コア6cの型崩れを防止し、SAP粒子の位置を保って散逸を防止し、肌面側への漏出を抑制する機能を有している。しかし、吸水した状態の吸収コア6cは重くなっており、容易に型崩れをしない。更に、吸水したSAP粒子は膨張してゲル化する。
液体透過済状態においてコアラップシート7の肌面側が破断することにより、SAP粒子は、トップシート8を通過して肌面側に移動しやすくなるものの、吸水済みのSAP粒子は膨張しているため、トップシート8を通過することができず、肌面側への移動は抑制される。また、万が一吸水したSAP粒子がトップシート8を通過して肌面側に移動し、着用者の肌面に触れたとしても、SAP粒子はゲル化しているため、着用者が大きな違和感を覚えることはない。このように、液体透過済状態においてコアラップシート7の肌面側が破断する構成でも、吸収性パッド1はその機能を維持可能であり、繰り返して流入する混濁尿を含む排出液を都度吸収することができる。
【0041】
本実施形態では、コアラップシート7は、上層コアラップシート7aと、下層コアラップシート7bとを有している。コアラップシート7を、ティッシュペーパー等の2枚のパルプ繊維シートから形成する場合、下層コアラップシート7bには紙力増強剤を添加し、吸収コア6cの肌面側と重畳する上層コアラップシート7aには紙力増強剤を添加しない構成としてもよい。この構成では、下層コアラップシート7bは、吸収性パッド1が排出液を吸収した状態でも吸収コア6cの非肌面側と側面を覆い、吸収コア6cの型崩れを防止する。一方、排出液を透過して湿潤状態となった上層コアラップシート7aは、繊維がほぐれて強度が低下する。一度排出液を透過して湿潤状態となった上層コアラップシート7aは、着用者の動きや再流入した排出液の刺激によって破断する。このため、混濁尿は、上層コアラップシート7aの目詰まりによる影響を受けることなく吸収性パッド1の肌面側を繰り返し通過して、吸収コア6cにより吸収される。上層コアラップシート7aと下層コアラップシート7bの素材を変え、上層コアラップシート7aは湿潤状態となることで容易に破断するパルプ繊維シートとし、下層コアラップシート7bは濡れても強度変化が少ない樹脂製不織布製とすることもできる。なお、コアラップシート7全体を、同一素材からなる1枚のシートで形成してもよい。
【0042】
<吸収性パッド1の吸収性能実験>
次に、吸収性パッド1の吸収性能実験の概要を例示する。吸収性能実験では、吸収性パッド1の上層吸収マット6aよりも肌面側で積層されたトップシート8、上層コアラップシート7aについて、トップシート8、上層コアラップシート7aの繊維径、目付量、厚み等を変化させることで、積層された状態での開口率および厚みが夫々異なる肌面側積層シートを複数用意した。そして、肌面側積層シートを構成する各シートの個別の測定値の合計でなく、全シートが重なった状態の測定値を用いて、肌面側積層シートの親水性を測定した。また、肌面側積層シートを通過し吸収コア6cに吸収される混濁尿の吸収速度、および吸収コア6cに吸収された混濁尿のトップシート8上への逆戻りを測定した。また、上層吸収マット6aおよび下層吸収マット6bに含まれるSAP粒子が吸収性パッド1から漏出するか否かについて測定した。また、これらの測定は、同条件で10回実施した。
【0043】
吸収性能試験に使用した吸収性パッド1の吸収コア6cは、混濁尿を排尿しやすい高齢者が使用する大判の吸収性パッドを想定した仕様とした。具体的には、上層吸収マット6aには、例えばパルプおよびSAPが含まれており、パルプの目付は280g/m2とし、SAPの目付は180g/m2とした。また、下層吸収マット6bには、例えばパルプおよびSAPが含まれ、パルプの目付は120g/m2とし、SAPの目付は90g/m2とした。また、吸収コア6cの厚みは2cmであった。
【0044】
<人工混濁尿>
混濁尿のモデルとして、表1に例示する組成の人工混濁尿を用いた。そして、人工混濁尿の一回当たりの注入量は、高齢者の一回尿量をモデルとした150mlとした。なお、人工混濁尿は、本開示の「所定液体」の一例である。
【表1】
【0045】
または、人工混濁尿には、上記の成分に加えてMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム結石)が含まれていてもよい。または、人工混濁尿には、尿中の塩類の結晶が含まれていてもよい。塩類とは、例えばリン酸やシュウ酸等に基づく成分である。または、人工混濁尿には、尿が濁る原因物質である尿中の細胞成分、結晶成分、又は脂肪成分が含まれていてもよい。細胞成分とは、例えば白血球や細菌等である。結晶成分とは、例えば尿酸、リン酸カルシウム、又はシュウ酸カルシウム等である。脂肪成分とは、例えば腎臓付近のリンパ管が閉塞することで生じる脂肪の球を含むリンパ液である。なお、水分をあまり接種せずに尿が濁った場合の該混濁尿に含まれる成分が人工混濁尿に含まれてもよい。
【0046】
また、表1に示されるベントナイトは、例えば和光純薬工業株式会社製のベントナイトである。このようなベントナイトの乾燥時の粒子径は例えば2μm程度である。なお、ベントナイトは、粘土鉱物であるモンモリロナイトを主成分とする岩石であり、不純物として石英や長石等の鉱物を含む。ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトは、水を吸収すると元の体積の何倍にも膨らむ膨潤性を有する。モンモリロナイトの単位結晶は、厚みが例えば約1nm、幅が100nm~1000nmの薄い板状(平板状)の結晶である。そして、実際には、この薄い板状の単位結晶が数枚積み重なり1つの鉱物粒子を形成する。
【0047】
<肌面側積層シートの開口率および厚みの測定>
肌面側積層シートを湿潤させ、湿潤した状態での厚み方向から見た肌面側積層シート全体の開口率を測定した。
【0048】
なお、開口率とは、織物、不織布等の布を平面的に捉えた際の、単位面積に占める繊維以外の面積比率を意味し、例えば、織物をデジタルマイクロスコープで観察し、デジタル処理によって算出した繊維以外の面積から測定することができる。
【0049】
また、肌面側積層シートの厚みは、肌面側積層シートが湿潤した状態で、尾崎製作所(PEACOCK)社製のペーパーゲージPG-10を使用して測定された。
【0050】
<肌面側積層シートの親水性の測定>
肌面側積層シートを幅25mm、長さ180mmの大きさに切断した断片を作成し、長手方向の一方の先端から10mm程度浸水させる。そして、肌面側積層シートが5分間で吸水する高さを測定した。
【0051】
<混濁尿の吸収速度および逆戻りの測定>
図4は、混濁尿の吸収速度および逆戻りを計測する実験の手順を示す流れ図である。
図5は、注入用金属板がトップシートに置かれた状態を示す図である。
【0052】
(S1)
ステップS1では、測定対象の吸収性パッド1が平らになるように展開する。
【0053】
(S2)
ステップS2では、ステップS1において平らに展開された吸収性パッド1のトップシート8の、幅方向中央かつ長手方向中央に印Mを付ける。
図5では、印Mを十字で例示しているが、印Mはこの形態に限られない。
【0054】
(S3)
ステップS3では、ステップS2においてトップシート8に付けられた印Mが中心になるように、注入用金属板20がトップシート8の上に置かれる。注入用金属板20は、中心部に注入孔を設けた金属板であって、縦横150mmの正方形の外観を有しており、その厚みは8mmである。注入用金属板20の中央部には、直径55mmの円形の孔が設けられ、当該円形の孔は、次の工程で人工混濁尿を注入するための注入孔となる。注入用金属板20の重量は1254gであった。
【0055】
(S4)
ステップS4では、上述の人工混濁尿が、ステップS3においてトップシート8に重ねられた注入用金属板20の中央部に設けられた孔に注がれる。この際、人工混濁尿は、孔から溢れない限界の状態を維持するように注がれる。注入される人工混濁尿の量は150mlであり、これは混濁尿を排出することがある高齢者の一回尿量をモデルとして設定したものである。なお、人工混濁尿は、本開示における「所定液体」の一例である。
【0056】
(S5)
ステップS5では、ステップS4において孔に注がれた人工混濁尿がトップシート8に吸収され始めた瞬間から吸収が終わった瞬間までの時間を計測する。そして、この時間を人工混濁尿の吸収速度とする。そして、人工混濁尿の吸収が終了した後、注入用金属板20はトップシート8から取り外される。
【0057】
(S6)
ステップS6では、ステップS5において注入用金属板20がトップシート8から取り除かれた状態のまま、吸収性パッド1は10分間放置される。その後、ステップS2においてトップシート8に付けられた印Mが中心となるように濾紙(例えばADVANTEC製、精密濾過用濾紙No.1640)がトップシート8の上に載置される。濾紙は、一辺の長さが10cmの正方形であり、その質量は170g/m2である。その後、20kgの錘が濾紙の上に置かれる。このように錘が配置されることで、人工混濁尿を吸収した吸収性パッド1は厚み方向に加圧される。当該錘は、着用者の臀部から吸収性パッド1に加わる体重を模したものである。
【0058】
(S7)
ステップS7では、ステップS6において錘が濾紙の上に置かれた状態のまま、吸収性パッド1を5分間放置する。その後、錘を取り除いて、濾紙の重量を測定する。そして、濾紙の重量と、ステップS6における濾紙の重量との差分を、人工混濁尿の逆戻り量とする。
【0059】
また、吸収性パッド1が人工混濁尿を繰り返し吸収する場合の吸収速度を求めるため、ステップS5において注入用金属板20がトップシート8から取り除かれた状態のまま、吸収性パッド1を10分間放置する。その後、ステップS3からステップS7を再度実行し、2度目の人工混濁尿注入を行う。そして、2度目の注入を行う際に、人工混濁尿を再吸収する吸収速度を計測する。
【0060】
<SAP漏出測定>
混濁尿等の固形分を含む排出液を吸収しやすい吸収性パッド1を提供するためには、肌面側積層シートを構成する繊維間の隙間を固形分が閉塞しないよう、できる限り目が粗いシートを用いることが有効であると考えられる。一方、吸収コア6cは、SAP粒子を含んでおり、目が粗い肌面側積層シートを用いると、当該肌面側積層シートの繊維間の隙間からSAP粒子が漏出し、吸収性パッド1の表面に露出してしまうことが考えられる。液体を吸収していないSAP粒子は硬い砂粒状であるため、SAP粒子が吸収性パッド1の表面に露出して着用者の肌面と当接すると、着用者が違和感を覚える虞がある。このため、肌面側積層シートは、混濁尿を容易に通過させる一方、SAP粒子の通過を抑制可能な適切な隙間を有していることが望ましい。
【0061】
SAPの漏出量を測定するため、吸収性パッド1は、トップシート8が地面と対面するように、上下逆さに平面状に広げられた。地面には落下したSAP粒子を受け止めるための、十分な大きさの受け皿が用意された。その後、吸収性パッド1の股下部側において、幅方向の両端を保持して、20回の拡縮操作行った。そして、拡縮操作によって肌面側積層シートを通過して受け皿に落下したSAPの個数を測定した。本測定では、落下したSAPの量が5個以下であれば優秀(◎)、15個未満であれば合格(〇)とし、15個以上であれば不適(×)と評価した。なお、10回の実験中、1回でも15個以上のSAP粒子の漏出があった場合には、不適(×)と評価した。
【0062】
図6は、上記のような吸収性パッド1の吸収性能実験の結果を示す表である。
図6に示されるように、湿潤時開口率が30%となるトップシート8を用いた場合に、トップシート8の表面からSAPが漏出することが判明した。また、湿潤時開口率が25%以下の場合、肌面側積層シートの厚みが10mm以上の場合に吸収性能が低下することが判明した。また、肌面側積層シートの湿潤時厚みが8mmであって、トップシート8の親水性が100mm以下の場合には、吸収性能が低下することが判明した。また、どのような条件の場合でも親水性が100mm以下の場合には、吸収性能が低下した。また、湿潤時開口率が20%の場合、湿潤時厚みが8mmでは親水性が140mm以上でないと吸収性能が低下することが判明した。また、湿潤時開口率が20%の場合、湿潤時厚みが6mmでは親水性が120mm以上でないと吸収性能が低下することが判明した。また、湿潤時開口率が15%の場合、湿潤時厚みが8mmでは、吸収性能が低下した。また、湿潤時開口率が15%の場合、湿潤時厚みが6mmでは親水性が120mm以上でないと吸収性能が低下した。開口率10%の場合、湿潤時厚みが6mmでは親水性が120mm以上でないと吸収性能が低下することが判明した。また、湿潤時開口率が5%の場合には、開口率不足により吸収性能が得られなかった。
【0063】
なお、吸収速度(1回目)の欄の◎は75秒未満の場合であり、〇は75秒以上120秒未満の場合であり、×は120秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも200秒を超える場合には×とした。
【0064】
また、吸収速度(2回目)の欄の◎は120秒未満の場合であり、〇は120秒以上150秒未満の場合であり、×は150秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも300秒を超える場合には×とした。
【0065】
また、逆戻り(1回目)の欄の◎は4g未満の場合であり、〇は4g以上10g未満の場合であり、×は10g以上の場合である。但し、×には、例えば吸収速度が遅すぎて混濁尿を規定量吸収しなかった場合等の測定不能な場合も含まれる。
【0066】
また、逆戻り(2回目)の欄の◎は23g未満の場合であり、〇は23g以上27g未満の場合であり、×は27g以上の場合である。但し、×には、例えば吸収速度が遅すぎて混濁尿を規定量吸収しなかった場合等の測定不能な場合も含まれる。
【0067】
また、合否の欄の〇は、吸収速度および逆戻りの評価に×が一つも無い場合とした。合否の欄の×は、吸収速度および逆戻りの評価に一つでも×がある場合とした。
【0068】
図6に示される吸収性パッド1の吸収性能実験の結果より、肌面側積層シートの開口率が10~25%の場合に吸収性能が良好であることが判明した。また、ステップS5において算出される肌面側積層シートを通過する人工混濁尿の通過速度が好ましくは、1回目の吸収速度が120秒未満、2回目の吸収速度が150秒未満、より好ましくは、1回目の吸収速度が75秒未満、2回目の吸収速度が120秒未満である場合に吸収性能が良好であることが判った。また、
図6に示される実験結果において、SAP粒子の吸収性パッド1からの漏出が抑制される良好な試験結果を得た条件において、肌面側積層シートを肌面側から見た場合の開口の外接円の直径の最大値を測定したところ、350μm程度であった。よって、開口部の大きさが530μm以下であれば、肌面側へのSAP粒子の漏出を防ぐことができることが判明した。
【0069】
<溝部の構成>
図7は、最適な溝部の構成についての実験結果を示す表である。着用時に溝部がどのような状態になっていれば、適切な吸収速度が得られるかについて実験を行った。様々な深さと幅の溝部Hができるように製造した吸収体6を有する吸収性パッド1に対して、人工混濁尿を注入し、混濁尿の吸収速度を計測した。実験方法は、上述の混濁尿の吸収速度測定のステップS1~S5と同様とするが、人工混濁尿注入の際、吸収性パッド1に対して、196Nの荷重を与えた。当該196Nは、仰臥位状態の高齢者から吸収性パッド1にかかる荷重を想定したものであり、
図7に示した溝部Hの深さと幅は、吸収性パッド1に当該荷重を与えた際に吸収体6が維持可能な深さと幅である。荷重を与えた際に吸収体6が維持可能な溝の深さは1mm以上、幅は5mm以上から実験を行った。なお、あまり深く幅広の溝を設けるとかえって違和感に繋がりかねないので、溝の深さは7mm以下、溝の幅は30mm以下とした。計測は、各深さと幅を有する吸収性パッド1に対して10回行った。
【0070】
人工混濁尿がトップシート8に吸収され始めた瞬間から吸収が終わった瞬間までの時間を吸収速度とする。吸収速度(1回目)の欄の◎は、吸収速度が75秒未満の場合であり、〇は75秒以上120秒未満の場合であり、×は120秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも200秒を超えた場合には×とした。
【0071】
人工混濁尿の注入は、1回目の吸収が終わってから10分の間隔を空けて2回実施した。吸収速度(2回目)の欄の◎は、吸収速度が120秒未満の場合であり、〇は120秒以上150秒未満の場合であり、×は150秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも300秒を超える場合には×とした。1回目と2回目の人工混濁尿の注入のうちのどちらかで結果が×となった場合には最終的な合否を×とし、1回目と2回目の結果が共に〇か◎である場合に、最終的な合否を〇とした。
【0072】
実験の結果、溝部Hの深さが1~2mmの場合には、人工混濁尿の拡散が十分でなく、幅によらず2回目の吸収性能が大きく低下した。また、幅が5mm以下の場合にも、人工
混濁尿の拡散が十分でなく、2回目の吸収性能が大きく低下した。溝の深さが3mm以上で、幅が10mm以上の場合には、概ね良好な吸収性能を得ることができた。また、溝部Hの深さが4mm以上であり、幅が15mm以上の場合には、吸収性能は非常に良好であった。本実験の結果から、吸収性パッド1の吸収体6は、196Nの荷重がかかった状態で少なくとも3mm以上の深さを維持することができ、同条件において肌面側において少なくとも10mm以上の幅を有する溝部Hを有していれば、複数回の人工混濁尿注入に対して吸収性能を維持できることが判明した。また、溝部Hの深さが4mm以上であり、幅が15mm以上の場合には、非常に良好な吸収性能を維持できることも判明した。
【0073】
<コアラップシートの構成>
以下、コアラップシート7が、吸収コア6cの肌面側を覆う上層コアラップシート7aと、吸収コア6cの非肌面側を覆う下層コアラップシート7bとを有しており、うち、上層コアラップシート7aが紙製、より具体的にはティッシュペーパーで構成されていることを前提として上述の効果を発揮するための最適な構成について説明を行う。なお、上層コアラップシート7aとして、下層コアラップシート7bよりも紙力増強剤の含有量が少ない、または紙力増強剤を含まないティッシュペーパーを用いることもできる。更に、紙力増強剤の含有量が少ない、または紙力増強剤を含まない1枚のティッシュペーパーからなるコアラップシートで吸収コア6cを覆う構成を採用してもよい点は上述の通りである。
【0074】
上層コアラップシート7aを構成するシートは、乾燥時の吸収性物品の状態において横方向に3mm引っ張った際にも、破断しない強度を有している。このため、トップシート8と重畳して肌面側積層シートを構成し、SAP漏出測定を行った際には破断しない。この状態では、吸収コア6cが含有するSAP粒子が肌面側に漏出して、着用者に違和感を与えることはない。なお、当該3mmは、吸収コア6cに着用状態の高齢者を想定する196Nの荷重がかかった状態において維持される溝部6Hの深さである。
【0075】
一方、上層コアラップシート7aを構成するシートは、人工混濁尿を透過した場合、即ち一旦濡れた状態では、繊維がほぐれて同条件で破断するようになる。つまり、一旦混濁尿が通過済みの場合には、上層コアラップシート7aを構成するシートは、着用者の動き、または新たな排出液流入などの刺激により容易に破断する。
【0076】
上層コアラップシート7aを混濁尿が通過することにより、上層コアラップシート7aの繊維間には、混濁尿に含まれる固形成分が残存する。このため、上層コアラップシート7aを混濁尿が繰り返し通過すると、上層コアラップシート7aの目が詰まることにより、肌面側積層シートの液体透過性能が低下し、吸収コア6cに混濁尿が到達しにくくなる。この結果、排出液は着用者の肌面と肌面側積層シートとの間に長時間滞留し、着用感が低下する。また、肌面と肌面側積層シートとの間に排出液が滞留することは、吸収性パッド1端部からの排出液漏れの原因ともなる。本実施形態に係る吸収性パッド1では、一旦混濁尿が通過済みの場合には、上層コアラップシート7aは着用者の動きや新たな排出液流入などの刺激によって容易に破断する。このため、目詰まりを起こした上層コアラップシート7aが再度流入する排出液の吸収コア6cへの到達を阻害することはなく、吸収性パッド1は、繰り返し流入する排出液に対してその吸収機能を保つことができる。
【0077】
一方、一旦排出液が吸収コア6c内部に到達すると、吸収コア6cに含まれるSAP粒子は膨張し、肌面側積層シートの繊維間を通過できなくなる。よって、一旦排出液が通過した状態において、吸収性パッド1からSAP粒子が漏出する可能性は非常に低いと言える。また、吸水したSAP粒子はゲル化して柔らかくなる。このため、万が一肌面側積層シートから漏出したとしても、着用者に対して与える違和感は極めて軽微なものとなる。
【0078】
以上から、上層コアラップシート7aとして、一般的な使用状態において、乾いた状態では容易に破断せず、かつ、一旦濡れた状態では容易に破断する素材を用いることが好適であるといえる。例え、上層コアラップシート7aの繊維間に混濁尿に含まれる固形成分が挟まることにより液体透過性能が低下していたとしても、再度の排出液通過までに、または再度の排出液通過によって上層コアラップシート7aが破断すれば、肌面側積層シートが全体として薄くなることにより、肌面側積層シートの液体透過性能を維持できる。また、一旦排出液が流入した状態では吸収コア6cは吸水し、SAP粒子がゲル化して膨張しているため、着用者の肌面へのSAP粒子漏出の問題を低減可能である。
【0079】
図8は、最適なコアラップシートの強度についての実験結果を示す表である。乾燥状態と液体透過済の状態において、吸収体6の肌面側に配置されたコアラップシート7がどの程度の強度であれば、人工混濁尿の通過性能が妨げられないかについて計測を行った。計測は、様々な強度特性を有するコアラップシート7について、各10回行った。実験方法は、上述の混濁尿の吸収速度測定のステップS1~S5と同様とした。
【0080】
人工混濁尿がトップシート8に吸収され始めた瞬間から吸収が終わった瞬間までの時間を吸収速度とする。吸収速度(1回目)の欄の◎は、吸収速度が75秒未満の場合であり、〇は75秒以上120秒未満の場合であり、×は120秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも200秒を超えた場合には×とした。
【0081】
人工混濁尿の注入は、1回目の吸収が終わってから10分の間隔を空けて2回実施した。吸収速度(2回目)の欄の◎は、吸収速度が120秒未満の場合であり、〇は120秒以上150秒未満の場合であり、×は150秒以上の場合である。但し、10回実験されたうちの1回でも300秒を超えた場合には×とした。
【0082】
更に、各特性を有するコアラップシート7が肌面側に配置された吸収性パッド1について、別途SAP漏出測定も行った。液体透過前の乾燥状態では、トップシート8とコアラップシート7が重畳して肌面側積層シートを形成することで、SAP粒子の肌面側への漏出を防いでいるが、液体透過前の乾燥状態でSAP粒子を容易に通過させるコアラップシート7を用いた場合、通過したSAP粒子が更にトップシート8を通過して肌面に露出し、着用感の低下をもたらす可能性があるためである。
【0083】
SAPの漏出量を測定するため、各特性を有するコアラップシート7が肌面側に配置された肌面側積層シートを有する吸収性パッド1は、トップシート8が地面と対面するように、上下逆さに平面状に広げられた。吸収性パッド1は、液体を吸収していない乾燥状態であった。地面には、落下したSAP粒子を受け止めるための、十分な大きさの受け皿が用意された。その後、吸収性パッド1の股下部側において、幅方向の両端を保持して、20回の拡縮操作行った。そして、拡縮操作によって肌面側積層シートを通過して受け皿に落下したSAPの個数を測定した。本測定では、落下したSAPの量が5個以下であれば優秀(◎)、15個未満であれば合格(〇)とし、15個以上であれば不適(×)と評価した。なお、10回の実験中、1回でも15個以上のSAP粒子の漏出があった場合には、不適(×)と評価した。
【0084】
各吸収速度試験、またSAP漏出測定の結果がいずれも〇以上である場合、最終的な合否を〇とした。各吸収速度試験、SAP漏出測定のうちいずれかに×がある場合、最終的な合否を×とした。
【0085】
実験の結果、乾燥状態の幅方向引張強度が5N/mm以上であり、かつ液体透過済状態での幅方向引張強度が5N/mm以上となるコアラップシート7を用いた場合、2回目の人工混濁尿注入時に吸収性能が著しく低下した。これは、コアラップシート7の繊維間に
混濁尿に含まれる固形成分が挟まって液体透過性能が低下し、更にコアラップシート7が破断しなかったため人工混濁尿が吸収コア6cに適切に到達しなかったためと考えられる。また、乾燥状態の幅方向引張強度が4N/mm以下のコアラップシート7を用いた場合、SAP漏れが発生した。乾燥状態において強度が低いコアラップシート7は開口度が高すぎて、SAP粒子を容易に通過させてしまうことが考えられる。または、乾燥状態においてもコアラップシート7に破断が発生し、破断箇所からトップシート8にSAP粒子が漏出してトップシート8がSAP粒子を通過させてしまったことも考えられる。
【0086】
乾燥時のコアラップシート7の幅方向引張強度が6N/mm以上であり、液体透過済みの状態での幅方向引張強度が4N/mm以下である場合、全ての試験結果が〇または◎となり、最終的な合否が〇となった。乾燥時のコアラップシート7の幅方向引張強度が7N/mm以上である場合、SAP漏出測定の結果は優秀(◎)であった。
【0087】
製造時や流通時、また装着動作を行う際、吸収性パッド1の取扱を容易にするためには、乾燥時の幅方向引張強度は高い方が望ましいといえる。また、乾燥時の幅方向引張強度が10N/mmのコアラップシートの吸収速度試験の結果は、液体透過済状態の幅方向引張強度が4N/mm以下である場合に良好である。本実験の結果から、肌面側のコアラップシート7の乾燥時の横方向引張強度は10N/mm以上であることが特に望ましいと言える。また、肌面側のコアラップシート7の液体透過済状態における横方向引張強度が4N/mm以下であれば、液体透過済状態において肌面側のコアラップシート7に破断が発生して肌面側積層シートの液体透過性能は維持される。このため、混濁尿が繰り返し流入するような条件下でも、吸収性パッド1は液体吸収性能を維持可能となる。
【0088】
一方、トップシート8は、乾燥状態においても湿潤状態においても、上層コアラップシート7aよりも大きな横方向引張強度を有している。このため、トップシート8は、上層コアラップシート7aが破断する条件下でも破断することはない。より具体的には、トップシート8の幅方向の伸張率として、160%以上のものを用いる。上層コアラップシート7aが破断した場合には、トップシート8は単一の肌面側積層シートとなる。このため、トップシート8には、排出液の逆戻りを抑制し、かつ、排出液が繰り返し発生した後も着用者の肌面が乾燥した状態を保つ役割を果たす必要が生じるためである。このような特徴を有するトップシート8としては、例えば、
図6において最終的な合否が〇となっている構成を用いることが好適であり、湿潤時開口率の観点から見た場合には、10~25%であることが好適である。
【0089】
このように、複数回の排出液の透過に耐えるトップシート8と、一度排出液を透過した後は破断する上層コアラップシート7aを有する吸収性パッド1は、吸収性能を低下させることなく混濁尿を複数回に渡って吸収可能であり、かつ、着用者に対しては違和感を与えることがない。このため、特に高齢者用の吸収性パッドとして好適である。
【0090】
以上、本実施形態について説明したが、本発明の内容は上記実施の形態に限られるものではない。例えば、本実施形態では、溝部6Hは、上層吸収マット6aを貫通するように設けられているが、下層吸収マット6bにおいても、上層吸収マット6aの溝部6Hに対応する部分の全部または一部に、溝部6H2を設けてもよい。この場合、上層吸収マット6aを貫通する溝部6Hを通過して下層吸収マット6bに流入した排出液は、下層吸収マット6bに設けられた溝部6H2を流れて、吸収コア6c全体に迅速に分散する。なお、溝部6H、溝部6H2が吸収コア6c全体を貫通する貫通溝となるように形成してもよい。また、溝は長手方向に平行に複数設けられてよい。
【0091】
吸収コア6cに多数の溝部6H、6H2を設けたり、溝のサイズを拡張したりすれば、排出液は吸収コア6c内部を流れて広範囲に広がりやすくなるため、吸収体6の吸収性能
は向上する。その一方、吸収コア6cに設ける溝が広すぎると、溝を流れる排出液を十分に減速することができず、排出液が溝部6H、6H2から勢いよく外部に流出することがある。また、吸収コア6cに多くの溝を設け過ぎると、特に、排出液を吸収していない状態では吸収体6の剛性は低下する。剛性が低下した吸収体6は過度に屈曲することがあり、吸収体6が過度に屈曲した状態で着用すると、着用者は違和感を覚えることがある。このため、流入した排出液を適正に吸収可能であり、かつ、排出液を吸収していない状態で過度に屈曲しない溝部6Hを選択することが好適である。
【0092】
トップシート8と吸収体6の肌面側を覆う上層コアラップシート7aとの間には、別途中間シート(セカンドシート)を設けてよい。中間シートとしては、トップシート8と同様の素材を用いることができる。また、液透過性と親水性を有するパルプ繊維や不織布などの素材を用いてもよい。トップシート8と吸収体6との間に中間シートを設けることで、排出液の逆戻りをより効果的に抑制することができる。
【0093】
以上で開示した各実施形態やその変形例に含まれる特徴は、それぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0094】
1・・吸収性パッド
1F・・前身頃領域
1B・・股下領域
1R・・後身頃領域
3BL,3BR・・糸ゴム
3LL,3RL・・起立線
3L,3R・・立体ギャザー
6・・吸収体
6c・・吸収コア
6a・・上層吸収マット
6b・・下層吸収マット
6s・・SAP層
6H・・溝部
7・・コアラップシート
7a・・上層コアラップシート
7b・・下層コアラップシート
8・・トップシート
9L,9R・・サイドシート
9LB,9RB・・自由端部
10L,10R・・耳部
20・・注入用金属板