(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046399
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】改質材の製造方法、構造物の補修又は補強方法、及び地盤の改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240327BHJP
E02D 1/02 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151770
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AA04
2D040AA06
2D040AA08
2D040AB05
2D040CA10
2D043BA09
(57)【要約】
【課題】難水溶性塩を効果的に生成させることができる改質材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る改質材の製造方法は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む改質材の製造方法であって、改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程と、前記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程と、前記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む改質材の製造方法であって、
改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程と、
前記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程と、
前記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程とを備える、改質材の製造方法。
【請求項2】
前記調査工程において、水のイオン濃度を特定する、請求項1に記載の改質材の製造方法。
【請求項3】
前記調査工程において、水のpHを特定する、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項4】
前記決定工程において、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を決定する、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項5】
前記改質材が、前記イオン放出性化合物として、陰イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを含む、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項6】
前記改質材が、前記イオン放出性化合物として、陽イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陽イオンを放出可能な化合物が、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム又は酢酸カルシウムマグネシウムを含む、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項7】
前記改質材中の前記イオン放出性化合物が、20℃での水に対する溶解度が1g/L以上であるイオン放出性化合物を含む、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項8】
前記改質材が、構造物を補修又は補強するために用いられる改質材である、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項9】
前記改質材が、地盤を改良するために用いられる改質材である、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【請求項10】
構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所に改質材を配置する工程を備え、
前記改質材が、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法により得られる改質材である、構造物の補修又は補強方法。
【請求項11】
地盤の改良対象箇所に改質材を配置する工程を備え、
前記改質材が、請求項1又は2に記載の改質材の製造方法により得られる改質材である、地盤の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質材の製造方法に関する。また、本発明は、上記製造方法により得られる改質材を用いた構造物の補修又は補強方法に関する。さらに、本発明は、上記製造方法により得られる改質材を用いた地盤の改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地上、地下及び海中には多数の構造物が存在している。上記構造物としては、橋梁、地下トンネル、海底トンネル、産業廃棄物の地下処分場及び放射性廃棄物の地下処分場等が挙げられる。これらの構造物のうち、地上構造物は雨水等の水に晒され、地下構造物及び海中構造物はそれぞれ地下水及び海水に晒される。
【0003】
ところで、上記構造物は、時間の経過に伴い、劣化する。例えば、上記構造物は、建築されてから長期間経過すると、ひび割れ等の空隙が生じることがある。ひび割れ等の空隙部分に水が浸入すると、構造物がより劣化しやすくなる。また、ひび割れた部分から漏水することがある。
【0004】
また、地盤改良工事では、岩盤から地下水が湧き出したり、地下水により地盤が軟弱化したりすることがある。また、廃棄物処理施設付近における地盤改良工事では、地下水の浸入によって汚染物質が流出するリスクがある。
【0005】
上記構造物の劣化を抑えたり、地下水を止水したりする方法として、下記の特許文献1には、難水溶性塩を形成可能な陽イオン又は陰イオンを含むシール用組成物を用いて、構造物の空隙又は亀裂を閉塞する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の方法では、上記シール用組成物により補修した箇所に水が接触すると、難水溶性塩(例えば炭酸カルシウム)が生成され、コンクリーションが形成される。そのため、上記特許文献1に記載の方法では、シール用組成物が配置された箇所の強度をある程度高めることができる。
【0008】
しかしながら、シール用組成物と接触し得る水の水質は、シール用組成物が配置される場所等によって異なる。そのため、特許文献1に記載の方法では、難水溶性塩を効果的に生成させることができないことがあり、結果として、シール用組成物が配置された箇所の強度を十分に高めることができないことがある。
【0009】
本発明の目的は、難水溶性塩を効果的に生成させることができる改質材の製造方法を提供することである。また、本発明は、上記製造方法により得られる改質材を用いた構造物の補修又は補強方法を提供することも目的とする。さらに、本発明は、上記製造方法により得られる改質材を用いた地盤の改良方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願明細書において、以下の改質材の製造方法、構造物の補修又は補強方法、及び地盤の改良方法を開示する。
【0011】
項1.陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む改質材の製造方法であって、改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程と、前記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程と、前記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程とを備える、改質材の製造方法。
【0012】
項2.前記調査工程において、水のイオン濃度を特定する、項1に記載の改質材の製造方法。
【0013】
項3.前記調査工程において、水のpHを特定する、項1又は2に記載の改質材の製造方法。
【0014】
項4.前記決定工程において、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を決定する、項1~3のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0015】
項5.前記改質材が、前記イオン放出性化合物として、陰イオンを放出可能な化合物を含み、前記陰イオンを放出可能な化合物が、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを含む、項1~4のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0016】
項6.前記改質材が、前記イオン放出性化合物として、陽イオンを放出可能な化合物を含み、前記陽イオンを放出可能な化合物が、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム又は酢酸カルシウムマグネシウムを含む、項1~5のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0017】
項7.前記改質材中の前記イオン放出性化合物が、20℃での水に対する溶解度が1g/L以上であるイオン放出性化合物を含む、項1~6のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0018】
項8.前記改質材が、構造物を補修又は補強するために用いられる改質材である、項1~7のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0019】
項9.前記改質材が、地盤を改良するために用いられる改質材である、項1~7のいずれか1項に記載の改質材の製造方法。
【0020】
項10.構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所に改質材を配置する工程を備え、前記改質材が、項1~8のいずれか1項に記載の改質材の製造方法により得られる改質材である、構造物の補修又は補強方法。
【0021】
項11.地盤の改良対象箇所に改質材を配置する工程を備え、前記改質材が、項1~7及び9のいずれか1項に記載の改質材の製造方法により得られる改質材である、地盤の改良方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る改質材の製造方法は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む改質材の製造方法である。本発明に係る改質材の製造方法は、改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程と、上記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程と、上記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程とを備える。本発明に係る改質材の製造方法では、上記の構成が備えられているので、難水溶性塩を効果的に生成させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(改質材の製造方法)
本発明に係る改質材の製造方法は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む改質材の製造方法である。
【0025】
本発明に係る改質材の製造方法は、改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程と、上記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程と、上記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程とを備える。
【0026】
本発明に係る改質材の製造方法では、上記の構成が備えられているので、難水溶性塩を効果的に生成させることができる。そのため、本発明に係る改質材の製造方法では、改質材が配置された箇所の強度を高めることができる。本発明に係る改質材の製造方法では、改質材が配置された箇所の強度を長期に亘って高く維持することができる。
【0027】
イオン放出性化合物を含む改質材と水とが接触した場合、上記イオン放出性化合物からイオンが放出され、改質材が配置された箇所において、難水溶性塩が生成される。
【0028】
難水溶性塩とは、水に全く溶解しない又はほとんど溶解しない塩である。上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び炭酸鉄(II)等の炭酸塩;炭酸カルシウムマグネシウム等の複塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;水酸化鉄等の水酸化物が挙げられる。炭酸カルシウムの溶解度は、結晶構造などにも依存するが、20℃で約0.0015[g/100g水]であり、炭酸マグネシウムの溶解度は20℃で0.039[g/100g水]であり、炭酸鉄(II)の溶解度は20℃で0.00006554[g/100g水]であり、硫酸カルシウムの溶解度は20℃で0.24[g/100g水]である。
【0029】
難水溶性塩の生成は、陽イオンと陰イオンとのイオン積が溶解度積よりも大きくなったときに開始され、イオン積と溶解度積とが等しくなるまで持続する。したがって、難水溶性塩の生成量は、イオン放出性化合物が放出する陽イオン又は陰イオンの量と、上記水に含まれる陽イオン又は陰イオンの量とによって定まる。特許文献1に記載のような従来の方法では、上記水に含まれる陽イオン又は陰イオンについては、考慮されていない。
【0030】
これに対して、本発明では、上記調査工程にて調査した水質に基づいて改質材に含ませるイオン放出性化合物を選択するため、難水溶性塩を効果的に生成させることができる。例えば、本発明では、上記イオン放出性化合物から放出される陽イオン量及び上記水に含まれる陽イオン量の和と、上記イオン放出性化合物から放出される陰イオン量及び上記水に含まれる陰イオン量の和との積(イオン積)が効果的に大きくなるように、改質材を設計することができるため、難水溶性塩を効果的に生成させることができる。そのため、本発明で得られる改質材を用いて構造物を補修又は補強したり、地盤を改良したりしたときに、改質材が配置された箇所の強度を高めることができ、かつ、改質材が配置された箇所の強度を長期に亘って高く維持することができる。
【0031】
<改質材>
上記改質材とは、配置された箇所の性質を変化させるものである。上記改質材が配置された箇所には、水との接触により難水溶性塩を生成する性能が付与される。
【0032】
そのため、上記改質材を用いることにより、改質材が配置された箇所の構造が緻密化して、強度が高められたり、止水性能が高められたりする。また、上記改質材では、該改質材と接触した水が拡散することによって、水が到達した箇所においても難水溶性塩が生成し得る。
【0033】
また、上記改質材を用いることにより、上記改質材が配置された周辺において、pHを変化させたり、イオン濃度を変化させたり、水拡散速度を変化させたり、圧力を変化させたり、温度を変化させたりすることができる。
【0034】
上記改質材としては、補修又は補強材(補修材又は補強材)、止水材等が挙げられる。上記改質材は、構造物を補修又は補強するために用いられる改質材であってもよく、地盤を改良するために用いられる改質材であってもよい。構造物を補修又は補強するために用いられる改質材は、止水材であってもよい。地盤を改良するために用いられる改質材は、止水材であってもよい。地盤を改良するために上記改質材を用いることにより、例えば、岩盤から湧き出した地下水を止水したり、地下水により地盤が軟弱化することを防いだりすることができる。また、廃棄物処理施設付近における地盤改良によって、汚染物質が流出するリスクを低減することができる。
【0035】
上記構造物は、水と接触し得る構造物である限り、特に限定されない。上記構造物は、地上構造物であってもよく、地下構造物であってもよく、海中構造物であってもよい。上記地上構造物は、屋内構造物であってもよく、屋外構造物であってもよい。上記地上構造物は、空気中の水分及び雨水と接触し得る。上記地下構造物は、周囲の地層及び岩盤等に湧出している地下水と接触し得る。上記海中構造物は、海水と接触し得る。
【0036】
本発明の効果を効果的に発揮させることができるので、上記構造物は、コンクリート構造物であることが好ましい。
【0037】
また、上記改質材は、岩盤等に用いられてもよい。岩盤は、地下水と接触し得る。
【0038】
上記改質材の詳細については、後述する。
【0039】
<調査工程>
上記改質材の製造方法は、改質材が配置される箇所と接触し得る水の水質を調査する調査工程を備える。上記改質材が配置される箇所としては、構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所、及び地盤の改良対象箇所等が挙げられる。
【0040】
上記改質材が構造物を補修又は補強するために用いられる場合、上記調査工程では、構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所と接触し得る水の水質を調査することが好ましい。上記調査工程では、構造物と接触している水の水質を調査することがより好ましく、構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所と接触している水の水質を調査することが更に好ましい。上記構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所としては、ひび割れ部分及びジャンカ部分等が挙げられる。また、上記構造物の補強対象箇所としては、上記構造物の外壁等が挙げられる。
【0041】
上記改質材が地盤を改良するために用いられる場合、上記調査工程では、地盤の改良対象箇所と接触し得る水の水質を調査することが好ましい。上記調査工程では、地盤の改良対象箇所に存在する岩盤と接触している水(地下水)の水質を調査することがより好ましい。
【0042】
上記調査工程における水質の調査項目としては、水に含まれるイオンの種類;水のイオン濃度;水のpH;難水溶性塩の生成に影響を及ぼす物質の有無及びその濃度;水の流速等が挙げられる。
【0043】
上記調査工程では、水に含まれるイオンの種類、水のイオン濃度、水のpH、難水溶性塩の生成に影響を及ぼす物質の有無、又は水の流速を特定することが好ましい。上記調査工程では、水に含まれるイオンの種類、水のイオン濃度、又は水のpHを特定することがより好ましく、水のイオン濃度、又は水のpHを特定することがより一層好ましい。上記調査工程では、水のイオン濃度及び水のpHを特定することが更に好ましく、水に含まれるイオンの種類、水のイオン濃度及び水のpHを特定することが更に一層好ましい。
【0044】
水に含まれるイオンの種類及び水のイオン濃度は、水の由来に応じて様々である。水に含まれるイオンの種類及び水のイオン濃度は、地盤中の岩盤からの成分の溶出、海水からの成分の供給、コンクリートからの成分の溶出によって変化する。水に含まれるイオンの種類としては、カルシウムイオン(Ca2+)、ナトリウムイオン(Na+)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、塩化物イオン(Cl-)、及び硫化物イオン(S2-)等が挙げられる。例えば、海水には、ナトリウムイオン及び塩化物イオンが豊富に含まれている。また、地下深くから採取した地下水には、地表付近から採取した地下水と比べて、高い濃度の炭酸イオンが含まれている。
【0045】
また、水のpHも水の由来に応じて様々である。例えば、コンクリート構造物に接している水は、コンクリートからの溶出物の影響により、アルカリ性となりやすい。
【0046】
上記調査工程では、水に含まれるイオンの種類を特定することが好ましく、水に含まれる陽イオンの種類及び陰イオンの種類を特定することがより好ましい。水に含まれるイオンの種類を特定することで、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び組み合わせを最適化することができる。
【0047】
上記調査工程では、水のイオン濃度を特定することが好ましい。水のイオン濃度を特定することで、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を最適化することができる。この場合に、水の陽イオン濃度を特定してもよく、水の陰イオン濃度を特定してもよく、水の陽イオン濃度と陰イオン濃度とを特定してもよい。陽イオン濃度及び陰イオン濃度は難水溶性塩の生成量と関連するため、上記調査工程では、水の陽イオン濃度と陰イオン濃度とを特定することが好ましい。
【0048】
上記調査工程では、水のpHを特定することが好ましい。難水溶性塩の生成効率及び生成量はpHに依存することがある。例えば、難水溶性塩である炭酸カルシウムは、アルカリ性の環境下において効率的に生成され、また、生成量も多くなる。したがって、水のpHを特定することで、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を最適化することができる。
【0049】
上記調査工程では、難水溶性塩の生成に影響を及ぼす物質の有無を特定することが好ましい。また、難水溶性塩の生成に影響を及ぼす物質が水に含まれる場合には、該物質の濃度を特定することが好ましい。これにより、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を最適化することができる。
【0050】
上記調査工程では、水の流速を特定することが好ましい。上記改質材が地下又は海中に配置される場合には、改質材と接触し得る水(地下水又は海水)は流速を有する。水の流速によっては、イオン放出性化合物から放出される陽イオン又は陰イオンが流出する可能性がある。したがって、水の流速を特定することで、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を最適化することができる。
【0051】
上記調査工程における水質の調査方法としては、イオン吸光度測定による方法、ICP吸光度測定による方法、イオン電極を用いてイオン濃度を測定する方法、及びpH計を用いてpHを測定する方法等が挙げられる。上記イオン電極を用いる方法及び上記pH計を用いる方法は、簡便に、かつ、ある程度精度よく水質を調査できるため、水質の調査方法として好ましい手法である。なお、上記調査工程において、水のイオン濃度を測定する場合、該イオン濃度を誤差1ppm程度の精度で特定できれば十分である。
【0052】
<決定工程>
上記改質材の製造方法は、上記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類を決定する決定工程を備える。上記決定工程では、上記調査工程にて調査した水質に応じて、改質材に含ませるイオン放出性化合物の種類及び含有量を決定することが好ましい。
【0053】
上記決定工程では、改質材に含ませるイオン放出性化合物として、陽イオンを放出可能な化合物の種類を決定してもよく、陰イオンを放出可能な化合物の種類を決定してもよく、陽イオンを放出可能な化合物の種類と陰イオンを放出可能な化合物の種類とを決定してもよい。また、上記決定工程では、陽イオンを放出可能な化合物の種類及び含有量を決定してもよく、陰イオンを放出可能な化合物の種類及び含有量を決定してもよく、陽イオンを放出可能な化合物の種類及び含有量と陰イオンを放出可能な化合物の種類及び含有量とを決定してもよい。
【0054】
例えば、上記調査工程での調査の結果、改質材と接触し得る水が陰イオン(例えば炭酸イオン)を比較的多量に含むことが判明した場合、改質材に含ませるイオン放出性化合物として、比較的多量の陽イオン(例えばカルシウムイオン)を放出可能な化合物を選択することが好ましい。なお、この場合に、上記陽イオンを放出可能な化合物に加えて、陰イオンを放出可能な化合物を選択してもよい。
【0055】
それとは反対に、上記調査工程での調査の結果、改質材と接触し得る水が陽イオン(例えばカルシウムイオン)を比較的多量に含むことが判明した場合、改質材に含ませるイオン放出性化合物として、比較的多量の陰イオン(例えば炭酸イオン)を放出可能な化合物を選択することが好ましい。なお、この場合に、上記陰イオンを放出可能な化合物に加えて、陽イオンを放出可能な化合物を選択してもよい。
【0056】
上記決定工程では、改質材と接触し得る水との接触により、難水溶性塩を生成可能なイオン放出性化合物の種類を決定することが好ましい。上記難水溶性塩の20℃での水100gに対する溶解度は、好ましくは0.3g以下、より好ましくは0.1g以下、更に好ましくは0.04g以下、特に好ましくは0.002g以下である。上記難水溶性塩は、炭酸カルシウムであることが好ましい。難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させることが好ましくない環境下では、炭酸カルシウム以外の難水溶性塩であることも好ましい。
【0057】
一例として、改質材を配置する対象が地下コンクリート構造物である場合について、述べる。コンクリートの強度は、ケイ酸三カルシウムを含むセメント材料が、水和反応により硬化することにより発現する。上記水和反応では、水酸化カルシウムが生成するため、地下コンクリート構造物周辺の水はアルカリ性であり、カルシウムイオンを比較的多量に含むことが一般的である。上記調査工程において水の水質を調査した結果、水がアルカリ性を有し、かつ、カルシウムイオンを含むことが判明したとする。このとき、上記決定工程において、カルシウムイオンと反応して難水溶性塩を生成可能なイオン放出性化合物を選択する。例えば、難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させることを想定する場合、イオン放出性化合物として、炭酸イオンを放出可能な化合物を選択する。
【0058】
一方で、炭酸イオンを放出可能な化合物のみを過度に改質材に含ませた場合には、コンクリート構造物の中性化を招く可能性がある。その場合、炭酸イオンを放出可能な化合物だけでなく、必要に応じて、陽イオンを放出可能な化合物も改質材に含ませることが好ましい。また、コンクリート構造物の補修又は補強において、上記イオン放出性化合物として、ナトリウムイオン又はカリウムイオンを放出可能な化合物を用いた場合、アルカリの骨材の種類によっては、アルカリ骨材反応(ASR)が進行する恐れがある。また、コンクリート構造物の補修又は補強において、上記イオン放出性化合物として、塩化物イオンを放出可能な化合物を用いた場合、コンクリート構造物の中性化を招いたり、鉄筋の腐食を招いたりする恐れがある。このため、コンクリート構造物の種類によっては、上記イオン放出性化合物の種類に注意する必要がある。
【0059】
なお、炭酸カルシウムの生成量は、カルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO3
2-)とのイオン積によって定まる。そのため、炭酸イオンの存在量が同じである場合でも、アルカリ性の環境下の方が炭酸カルシウムの生成量が多くなる。そのため、アルカリ性の環境下に調製可能である化合物であって、陰イオンを放出可能な化合物を選択することが好ましい。なお、上記陰イオンを放出可能な化合物だけでは、アルカリ性の環境下に調製し難い場合には、改質材にpH調整剤を含ませてもよい。陰イオンの放出速度とpHとを制御可能な改質材を作製してもよい。
【0060】
<改質材を得る工程>
上記改質材の製造方法は、上記決定工程にて決定した種類のイオン放出性化合物を含む改質材を得る工程を備える。上記改質材を得る工程では、上記決定工程にて決定した種類及び含有量のイオン放出性化合物を含む改質材を得ることが好ましい。
【0061】
上記改質材は、硬化可能な改質材であってもよく、硬化された改質材であってもよい。上記改質材は、硬化前の改質材であってもよく、硬化後の改質材であってもよい。
【0062】
以下、改質材に配合可能な成分などについて更に説明する。
【0063】
イオン放出性化合物:
イオン放出性化合物は、陽イオン又は陰イオンを放出可能な化合物である。上記改質材中の上記イオン放出性化合物の種類は、上記調査工程にて調査した水質に応じて、適宜選択される(決定工程)。上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能であることが好ましい。
【0064】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陰イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物を含んでいてもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物とを含んでいてもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0065】
上記イオン放出性化合物は、無機塩であってもよく、イオン交換樹脂であってもよく、イオン錯体であってもよい。上記イオン交換樹脂は、イオンを放出する機構を有していれば特に限定されない。
【0066】
上記イオン放出性化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウムマグネシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記イオン放出性化合物は、これらのイオン放出性化合物であることが好ましい。これらのイオン放出性化合物は、難水溶性塩をより一層効果的に生成可能である。
【0067】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸水素カルシウム及び酢酸カルシウムマグネシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム又は酢酸カルシウムマグネシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム又は酢酸カルシウムマグネシウムを含むことがより好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0069】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましく、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを含むことが更に好ましく、炭酸水素ナトリウムであることが特に好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0071】
難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させる場合、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましく、炭酸イオンを放出可能な化合物であることがより好ましい。特に、難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させる場合に上記陰イオンを放出可能な化合物として炭酸イオンを放出可能な化合物を用いることで、炭酸カルシウムの生成時における水及び二酸化炭素の発生を抑えることができ、従って、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
【0072】
上記陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0073】
上記イオン放出性化合物は、20℃での水に対する溶解度が1g/L以上であるイオン放出性化合物を含むことが好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0074】
上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0075】
粒子状である上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、更に好ましくは10μm以上、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0076】
粒子状である上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、イオン放出性化合物の粒子径の平均値を算出することにより求められる。
【0077】
粒子状である上記イオン放出性化合物の表面は、コーティング剤により被覆されていてもよい。
【0078】
上記イオン放出性化合物は、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記マイクロカプセルは、上記イオン放出性化合物を放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水又は湿気等の水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0079】
上記改質材中の上記イオン放出性化合物の含有量は、上記調査工程にて調査した水質に応じて、適宜選択される(決定工程)。上記改質材100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよく、20重量%以上であってもよい。また、上記改質材100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、70重量%以下であってもよく、50重量%以下であってもよく、45重量%以下であってもよく、40重量%以下であってもよい。
【0080】
硬化性成分:
上記改質材が硬化可能な改質材である場合、上記改質材は、硬化性成分を含むことが好ましい。上記改質材が硬化された改質材である場合、上記改質材は、硬化性成分の硬化物を含むことが好ましい。上記改質材は、硬化性成分を含んでいてもよく、硬化性成分の硬化物を含んでいてもよい。上記改質材を得る工程では、上記イオン放出性化合物と硬化性成分とを含む改質材を得てもよい。上記改質材を得る工程では、上記イオン放出性化合物と硬化性成分とを含む混合材料を得た後、該混合材料を硬化させて改質材を得てもよい。
【0081】
上記硬化性成分は、硬化可能な成分である。上記硬化性成分は、20℃で液状であってもよく、20℃でペースト状であってもよく、20℃で半固形状であってもよい。上記硬化性成分としては、硬化性化合物、硬化剤、及び光重合開始剤等が挙げられる。
【0082】
上記改質材は、硬化性化合物を含むことが好ましい。上記硬化性成分は、硬化性化合物を含むことが好ましい。上記硬化性化合物としては、硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物、加熱により硬化可能な熱硬化性化合物、光の照射により硬化可能な光硬化性化合物等が挙げられる。上記改質材を所定の箇所に配置してから硬化させる観点及び保存安定性の観点から、上記硬化性化合物は、上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物であることが好ましい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、熱硬化性化合物であってもよく、熱硬化性化合物でなくてもよい。上記硬化剤との混合により硬化可能な硬化性化合物は、例えば、硬化剤との混合により、0℃以下で硬化可能な硬化性化合物であってもよい。上記硬化性化合物及び上記硬化剤はそれぞれ、1種のみが用いられていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0083】
上記硬化性化合物としては、エポキシ化合物、ポリオール化合物、シリコーン化合物、フェノール化合物、ビニルエステル化合物、及びナフトキサジン化合物等が挙げられる。改質材が配置された箇所の強度をより一層効果的に高める観点から、上記硬化性化合物は、エポキシ化合物であることが好ましい。
【0084】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、水添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ダイマー酸型エポキシ化合物、トリエポキシプロピルイソシアヌレート(トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒダントインエポキシ化合物、脂肪族系エポキシ化合物、ジシクロ環型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、及びグリシジルアミン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0085】
上記エポキシ化合物の硬化剤(エポキシ硬化剤)としては、アミン化合物、イミダゾール化合物、アミド化合物、シアノ化合物、及び酸無水物等が挙げられる。上記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記アミド化合物としては、ポリアミド等が挙げられる。上記シアノ化合物としては、ジシアンジアミド等が挙げられる。上記酸無水物としては、無水マレイン酸及びその化合物、無水フタル酸及びその化合物等が挙げられる。
【0086】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤とを反応させることにより、エポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【0087】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、又はビスフェノールF型エポキシ化合物であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ硬化剤は、アミン系硬化剤(アミン化合物)、又は酸系硬化剤であることが好ましい。
【0088】
上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記エポキシ化合物と上記エポキシ硬化剤との配合比は、例えば、エポキシ当量(活性水素当量)を基準にして、設定することができる。上記エポキシ化合物100重量部に対して、上記エポキシ硬化剤の含有量は、好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
【0089】
上記ポリオール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール、イソホロンジオール、ジシクロヘキシルメタンジオール、ジメチルジシクロヘキシルメタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、及びε-カプロラクトン又はα-メチル-ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0090】
上記ポリオール化合物の硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。上記芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。上記脂環族ポリイソシアネートとしては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0091】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物とを硬化反応させることにより、ウレタン樹脂を得ることができる。
【0092】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物の硬化剤(ポリイソシアネート化合物)は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネートであることが好ましい。
【0093】
上記ポリオール化合物と上記ポリイソシアネート化合物との配合比は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記ポリイソシアネート化合物の配合量は、上記ポリオール化合物の水酸基量と、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO量)とが等量となる量であることが好ましい。
【0094】
上記シリコーン化合物としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノポリシロキサンの主鎖は、ジオルガノシロキサンの重合体が一般的であるが、一部枝分かれした構造又は環状の構造を有していてもよい。上記オルガノポリシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、ペテニル基、へキセニル基、オクテニル基、及びシクロへキセニル基等が挙げられる。
【0095】
上記シリコーン化合物の硬化剤(架橋剤)としては、SiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0096】
上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール、及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0097】
上記フェノール化合物の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、及びパラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0098】
上記ビニルエステル化合物としては、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物等が挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、並びに1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族系グリシジルエーテル類等が挙げられる。上記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。上記エポキシ化合物と、上記アクリル酸及び上記メタクリル酸との反応物としては、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0099】
上記ビニルエステル化合物の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0100】
上記硬化性成分が上記ビニルエステル化合物を含む場合に、該硬化性成分は、ラジカル重合性不飽和単量体を含んでいてもよい。上記ラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸アニリド等のビニル化合物;シトラコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;N-フェニルマレイミド等のモノマレイミド化合物;N-(メタ)アクリロイルフタルイミドなどが挙げられる。
【0101】
硬化可能な上記改質材(硬化前の改質材)100重量%中、上記硬化性化合物の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。上記硬化性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、改質材が配置された箇所の強度をより一層効果的に高めることができる。
【0102】
硬化された上記改質材(硬化後の改質材)100重量%中、上記硬化性成分の硬化物の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。上記硬化性成分の硬化物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、改質材が配置された箇所の強度をより一層効果的に高めることができる。
【0103】
他の成分:
上記改質材は、上記イオン放出性化合物及び上記硬化性成分の双方とは異なる他の成分を含んでいてもよい。上記改質材を得る工程では、上記イオン放出性化合物と上記硬化性成分と上記他の成分とを含む改質材を得てもよい。上記他の成分としては、pH調整剤、イオン放出性化合物とは異なる塩(例えば塩化ナトリウム)、シリカ粒子、アルミナ粒子、砂、構造物周囲の岩盤を破砕して得られる粒子、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、整泡剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。例えば、イオン放出性化合物とは異なる塩を含む改質材では、改質材中の塩の体積分率を増加させることができるので、改質材内部の塩の分散状態が連続的になり、難水溶性塩の生成が促進される。また、例えば、シリカ粒子等の粒子を含む改質材では、改質材内部の空隙構造が変化するので、難水溶性塩の生成が促進又は遅延される。
【0104】
難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させる場合、上記改質材は、pH調整剤を含むことが好ましい。上述したように、炭酸カルシウムは、アルカリ性の環境下において効率的に生成され、また、生成量も多くなるため、改質材にpH調整剤を含ませることにより、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0105】
(改質材の他の詳細)
本発明に係る改質材の製造方法で得られる改質材は、構造物を補修又は補強するために用いられる改質材(補修又は補強材)であることが好ましい。本発明に係る改質材の製造方法で得られる改質材は、地盤を改良するために用いられる改質材(地盤改良材)であることが好ましい。上記改質材は、止水材であってもよい。上記補修又は補強材は、止水材であってもよい。上記地盤改良材は、止水材であってもよい。
【0106】
本発明に係る改質材の製造方法で得られる改質材は、硬化可能な改質材(硬化性改質材)であることが好ましい。
【0107】
上記改質材の形状は特に限定されない。上記改質材は、シート状であってもよく、液状であってもよく、ペレット状であってもよく、パウダー状であってもよく、ネット状であってもよい。液状である上記改質材は、ペースト状であってもよい。
【0108】
作製直後の上記改質材の23℃での粘度は、200mPa・s以上であってもよく、500mPa・s以上であってもよく、200000mPa・s以下であってもよく、100000mPa・s以下であってもよい。上記粘度は、作業性を考慮して適宜調整される。なお、上記粘度は、配合成分の種類及び配合量により適宜調整することができる。
【0109】
上記粘度は、例えば、B型粘度計(例えば、FUNGILAB社製「VISCOSTAR」)を用いて、23℃及び20rpmの条件で測定することができる。
【0110】
(構造物の補修又は補強方法)
本発明に係る構造物の補修又は補強方法は、構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所に改質材を配置する工程を備える。本発明に係る構造物の補修又は補強方法では、上記改質材が、上述した改質材の製造方法により得られる改質材である。
【0111】
本発明に係る構造物の補修又は補強方法は、構造物の補修対象箇所に配置された上記改質材を硬化させる工程を備えていてもよい。
【0112】
<構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所に改質材を配置する工程>
構造物の補修対象箇所としては、構造物のひび割れ部分及びジャンカ部分等が挙げられる。構造物の補強対象箇所としては、構造物の外壁等が挙げられる。
【0113】
構造物の補修対象箇所又は補強対象箇所に上記改質材を配置する方法は特に限定されない。上記改質材を配置する方法としては、上記補修対象箇所又は補強対象箇所に上記改質材を充填する方法、上記補修対象箇所又は補強対象箇所に上記改質材を塗布する方法、及び上記補修対象箇所又は補強対象箇所に上記改質材を貼り付ける方法等が挙げられる。
【0114】
<改質材を硬化させる工程>
上記改質材を硬化させる方法は、改質材に含まれる硬化性成分の種類等により適宜変更可能である。
【0115】
(地盤の改良方法)
本発明に係る地盤の改良方法は、地盤の改良対象箇所に改質材を配置する工程を備える。本発明に係る地盤の改良方法では、上記改質材が、上述した改質材の製造方法により得られる改質材である。
【0116】
本発明に係る地盤の改良方法は、地盤の改良対象箇所に配置された上記改質材を硬化させる工程を備えていてもよい。
【0117】
<地盤の改良対象箇所に改質材を配置する工程>
地盤の改良対象箇所としては、岩盤の間隙等が挙げられる。
【0118】
地盤の改良対象箇所に上記改質材を配置する方法は特に限定されない。上記改質材を配置する方法としては、上記地盤の改良対象箇所に上記改質材を充填する方法、上記地盤の改良対象箇所に上記改質材を塗布する方法、上記改質材をセメント材料と混合したあと、混合物を地中に配置する方法、及び改質材を含む樹脂成形体を地中に配置する方法等が挙げられる。
【0119】
<改質材を硬化させる工程>
上記改質材を硬化させる方法は、改質材に含まれる硬化性成分の種類等により適宜変更可能である。
【0120】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0121】
以下の材料を用意した。
【0122】
硬化性成分(積水化学工業社製「インフラガードCRJ」、エポキシ系2液硬化型接着剤)
カルシウムイオンを放出可能な化合物:塩化カルシウム
炭酸イオンを放出可能な化合物:炭酸水素ナトリウム
【0123】
(実施例1~3及び比較例1~4)
地下水及び海水を採水した。採水してから3日後の地下水のイオン濃度を測定した。なお、イオン濃度の測定は、HORIBA社製のナトリウムイオンメーターNa-11、カルシウムイオン電極6583S-10C、カリウムイオン電極6582S-10C、アンモニウムイオン電極5002S-10C、及び笠原理化学工業社製の塩素イオン電極Cl-10Zを用いた。海水のイオン濃度も上記と同様にして測定した。測定した地下水及び海水のCa2+濃度及びHCO3
-濃度を下記の表1に示す。
【0124】
【0125】
表1の結果より、海水のCa2+濃度と類似する以下の試験溶液A、地下水のHCO3
-濃度と類似する以下の試験溶液B、及びイオン交換水である試験溶液Cを用意した。これらの試験溶液は、Ca2+濃度、HCO3
-濃度の違いにより試験結果が達成されたことを示す評価系とするために作製されたものである。なお、試験溶液A~CにおけるCa2+濃度及びHCO3
-濃度は表2,3に示した。
【0126】
試験溶液A:イオン交換水とCaCl2との混合液
試験溶液B:イオン交換水とNaHCO3との混合液
試験溶液C:イオン交換水
【0127】
次いで、硬化性成分(積水化学工業社製「インフラガードCRJ」)50重量部と、下記の表に示すイオン放出性化合物50重量部とを混合し、硬化前の改質材を得た。得られた硬化前の改質材を、直径20mm×10cmのシリコン製の型に流し込み、7日間静置することにより、硬化後の改質材を得た。得られた硬化後の改質材を、長さ10mmのサイズにカットし、タブレット状の試験体(直径20mm×長さ10mm)を得た。得られた試験体を、23℃の試験溶液(表2,3に示す試験溶液A~C)に30日間浸漬した。
【0128】
試験溶液に30日間浸漬した後の試験体を目視にて観察した。
【0129】
試験溶液の水質の調査項目及びその結果、硬化前の改質材の組成、並びに目視による観察結果を下記の表2,3に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
実施例1~3では、試験溶液に30日間浸漬した後の試験体に白色の不溶物が析出していることが確認された。また、この白色の不溶物を採取し、該不溶物に1mol/Lの塩酸を滴下したところ、発泡しながら溶解した。一方、比較例1~4では、試験溶液に30日間浸漬した後の試験体は、浸漬前の試験体と比べて、外観に変化は生じていなかった。