(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046405
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び構造物の保護又は補修方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/71 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
C04B41/71
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151778
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
【テーマコード(参考)】
4G028
【Fターム(参考)】
4G028FA03
(57)【要約】
【課題】構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層体の製造方法は、構造物を保護又は補修するための積層体の製造方法であって、第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、前記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備え、前記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を保護又は補修するための積層体の製造方法であって、
第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、
前記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備え、
前記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第2の層形成工程が、
前記第1の層の前記第1の表面上に、前記第2の層の材料を塗布する工程と、
前記第2の層の材料を乾燥させる工程とを備える、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の層の材料が、23℃で液状である、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記構造物が、コンクリート構造物である、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
構造物の表面上に、第1の層の材料を配置する配置工程と、
前記第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、
前記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備え、
前記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む、構造物の保護又は補修方法。
【請求項9】
前記第2の層形成工程が、
前記第1の層の前記第1の表面上に、前記第2の層の材料を塗布する工程と、
前記第2の層の材料を乾燥させる工程とを備える、請求項8に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項10】
前記第2の層の材料が、23℃で液状である、請求項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項11】
前記配置工程において、ケレン処理された構造物の表面上に、前記第1の層の材料を配置する、請求項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項12】
前記配置工程が、構造物の表面上に、前記第1の層の材料を塗布する工程である、請求項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項13】
前記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含む、請求項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【請求項14】
前記構造物が、コンクリート構造物である、請求項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を保護又は補修するために用いられる積層体の製造方法に関する。また、本発明は、構造物の保護又は補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁及びトンネル等の構造物では、建築されてから長期間経過すると、ひび割れが生じることがある。ひび割れが生じた構造物では、構造物の強度が低下する。また、ひび割れが生じた箇所に雨水等の水分が浸入すると、構造物が劣化しやすくなる。構造物の多くは、交通及び輸送等の社会基盤インフラを担っているため、建替えや取り壊しを安易に行うことができない。また、インフラ機能を停止させての大規模な補修又は補強は困難である。
【0003】
このため、構造物の補修方法として、ひび割れ部分に補修剤を塗布する方法が行われている。下記の特許文献1には、コンクリート基材に対し、水溶性カルシウム塩を含む補強材を塗布した後、コンクリート表面強化剤を塗布するコンクリート基材の補強方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、水溶性カルシウム塩を含む補強材が、コンクリート構造物に浸透されている。また、特許文献1では、表面強化剤がコンクリート構造物内部に浸透されて硬化し、硬化体を形成することにより、劣化部分を補強するとともに表面強度を高める。特許文献1では、表面強化剤が浸透された部分が有効に補強される一方で、浸透されていない部分は補強されず、表層の補強が限定的である。特に浸透方向が重力により不利になる方向の部分、例えば天井部などでは、表面強化剤を深く浸透させるのは容易ではない。
【0006】
ひび割れ箇所に補修剤を塗布する従来の方法では、構造物を良好に補修することができ、補修後の構造物の強度を高めることができる。しかしながら、従来の補修剤は、ひび割れが既に発生している箇所に対して適用されるものであり、ひび割れを予防するために用いられるものではない。
【0007】
本発明の目的は、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる積層体の製造方法を提供することである。また、本発明は、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる構造物の保護又は補修方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願明細書において、以下の積層体の製造方法及び構造物の保護又は補修方法を開示する。
【0009】
項1.構造物を保護又は補修するための積層体の製造方法であって、第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、前記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備え、前記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む、積層体の製造方法。
【0010】
項2.前記第2の層形成工程が、前記第1の層の前記第1の表面上に、前記第2の層の材料を塗布する工程と、前記第2の層の材料を乾燥させる工程とを備える、項1に記載の積層体の製造方法。
【0011】
項3.前記第2の層の材料が、23℃で液状である、項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【0012】
項4.前記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含む、項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【0013】
項5.前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【0014】
項6.前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【0015】
項7.前記構造物が、コンクリート構造物である、項1~6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【0016】
項8.構造物の表面上に、第1の層の材料を配置する配置工程と、前記第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、前記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備え、前記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む、構造物の保護又は補修方法。
【0017】
項9.前記第2の層形成工程が、前記第1の層の前記第1の表面上に、前記第2の層の材料を塗布する工程と、前記第2の層の材料を乾燥させる工程とを備える、項8に記載の構造物の保護又は補修方法。
【0018】
項10.前記第2の層の材料が、23℃で液状である、項8又は9に記載の構造物の保護又は補修方法。
【0019】
項11.前記配置工程において、ケレン処理された構造物の表面上に、前記第1の層の材料を配置する、項8~10のいずれか1項に記載の構造物の保護又は補修方法。
【0020】
項12.前記配置工程が、構造物の表面上に、前記第1の層の材料を塗布する工程である、項8~11のいずれか1項に記載の構造物の保護又は補修方法。
【0021】
項13.前記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含む、項8~12のいずれか1項に記載の構造物の保護又は補修方法。
【0022】
項14.前記構造物が、コンクリート構造物である、項8~13のいずれか1項に記載の構造物の保護又は補修方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る積層体の製造方法は、構造物を保護又は補修するための積層体の製造方法である。本発明に係る積層体の製造方法は、第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、上記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備える。本発明に係る積層体の製造方法では、上記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。本発明に係る積層体の製造方法では、上記の構成が備えられているので、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる。
【0024】
本発明に係る構造物の保護又は補修方法は、構造物の表面上に、第1の層の材料を配置する配置工程と、上記第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、上記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備える。本発明に係る構造物の保護又は補修方法では、上記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。本発明に係る構造物の保護又は補修方法では、上記の構成が備えられているので、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により得られる積層体を用いた構造物を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
(積層体)
本発明に係る積層体の製造方法は、構造物を保護又は補修するための積層体の製造方法である。本発明に係る積層体の製造方法は、第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、上記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備える。得られる積層体は、第1の層と、上記第1の層の第1の表面側に配置された第2の層とを備える。本発明に係る積層体の製造方法では、上記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(以下、「イオン放出性化合物」と記載することがある)とを含む。
【0028】
本発明に係る積層体の製造方法では、上記の構成が備えられているので、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる。より具体的には、構造物に積層体が配置された状態で、上記積層体(特に、上記第1の層)中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。これにより、上記積層体が配置された箇所及びその周囲が緻密化され、構造物のひび割れを予防することができ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができ、構造物を長期に安定した状態に保持する(耐久性を高める)ことができる。本発明は、構造物の予防保全に寄与する。本発明は、新設の構造物及び既設の構造物の双方の予防保全に寄与する。また、本発明では、上記イオン放出性化合物を用いて上記第1の層を先に形成した後に、上記第2の層を形成している。それによって、構造物のひび割れを効果的に予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを効果的に補修することができる。
【0029】
本発明に係る積層体の製造方法では、積層体が配置された箇所において、上記積層体が、地盤又は構造物に付着した水分等と接触した場合には、上記積層体(特に、上記第1の層)中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、水分等と積層体との接触面において、難水溶性塩を生成可能である。すなわち、本発明に係る積層体の製造方法では、得られる積層体の表面に、難水溶性塩の層を生成可能である。生成した難水溶性塩により、上記積層体が配置された箇所及びその周囲の強度はさらに高められる。なお、上記難水溶性塩は、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。また、生成した難水溶性塩により、積層体と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、積層体の劣化及び構造物の劣化を効果的に抑えることができる。
【0030】
上記構造物は、特に限定されない。上記構造物としては、コンクリート構造物等が挙げられる。上記コンクリート構造物としては、建築物、トンネル、及び配管等の外表面上に配置された絶縁体(グラウト部)等が挙げられる。上記トンネルとしては、地下トンネル、海底トンネル、及び山岳トンネル等が挙げられる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記構造物は、コンクリート構造物であることが好ましい。上記構造物は、地下構造物であってもよい。
【0031】
本発明に係る積層体の製造方法により得られる積層体は、構造物における空隙(間隙)に好適に用いられる。上記積層体は、構造物におけるひび割れ又は亀裂に好適に用いられる。上記積層体は、構造物における部材間の接合部の間隙(目地)に好適に用いられる。また、上記積層体は、構造物と該構造物の背面の地盤との境界部に好適に用いられる。さらに、上記積層体は、シース材に好適に用いられる。具体的には、上記積層体は、アンカー、ケーブル、及び配管等の外表面上に配置された絶縁体(グラウト部)のシース材に好適に用いられる。上記積層体は、アンカー、ケーブル、及び配管等の外表面上に配置された絶縁体の外表面の保護に好適に用いられる。
【0032】
また、廃棄物の最終処分場では、コンクリート構造物と地盤との境界部に防水シートが設置されることがある。さらに、トンネルを開削する工法の一つであるNATM工法では、トンネル(覆工コンクリート)とトンネルの背面の地盤との境界部に防水シートが設置されることがある。本発明に係る積層体の製造方法により得られる積層体は、上記防水シートの材料に好適に用いられる。
【0033】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点から、上記積層体は、コンクリートを含む構造物を保護又は補修するための積層体であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点から、上記積層体は、コンクリートを含む構造物の表面上に配置されて用いられることが好ましい。上記積層体は、地盤及びコンクリートを含む構造物を保護又は補修するための積層体であってもよい。上記積層体は、地盤及びコンクリートを含む構造物の表面上に配置されて用いられてもよい。
【0034】
上記積層体の厚みは、好ましくは0.06mm以上、より好ましくは0.12mm以上、さらに好ましくは0.25mm以上であり、好ましくは27mm以下、より好ましくは21mm以下、さらに好ましくは15.5mm以下である。上記積層体の厚みが上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0035】
上記第1の層の厚みは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上であり、好ましくは25mm以下、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは15mm以下である。上記第1の層の厚みが上記下限以上及び上記上限以下であると、保護及び補修効果をより一層高めることができる。
【0036】
上記第2の層の厚みは、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.02mm以上、さらに好ましくは0.05mm以上であり、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。上記第2の層の厚みが上記下限以上及び上記上限以下であると、構造物側へのイオン放出性をより一層効率的に発揮することができる。
【0037】
上記積層体では、通常、上記第1の層が、構造物の表面上に配置される層である。上記積層体では、上記第1の層が、構造物の表面上に配置されることが好ましい。上記積層体は、上記第1の層側から構造物の表面に配置されることが好ましい。上記積層体は、上記第1の層の上記第1の表面とは反対の表面(第2の表面)側において、構造物上に配置されることが好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。また、この場合には、上記第2の層により上記第1の層が必要以上に水分と接触することが抑制されるため、積層体(具体的には、上記第1の層におけるイオン放出性化合物)からイオンが必要以上に溶出することを抑制することができる。結果として、イオン放出性化合物が構造物側に効率的にイオンを放出することができるので、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【0038】
以下、本発明に係る積層体の製造方法に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0039】
[第1の層]
上記積層体は、第1の層を備える。上記第1の層の材料は、硬化性成分と、イオン放出性化合物とを含む。上記第1の層は、硬化性成分の硬化物と、イオン放出性化合物とを含むことが好ましい。上記硬化性成分の硬化物は、上記硬化性成分の半硬化物であってもよい。
【0040】
<硬化性成分>
上記硬化性成分は、硬化可能な成分である。上記硬化性成分は、23℃で液状であってもよく、23℃でペースト状であってもよく、23℃で半固形状であってもよい。上記硬化性成分としては、硬化性樹脂、硬化剤、及び光重合開始剤等が挙げられる。上記硬化性成分は、上記硬化性樹脂と、上記硬化剤とを含むことが好ましい。上記硬化性成分は、上記硬化性樹脂と上記硬化剤との混合物であることが好ましい。上記硬化性樹脂、上記硬化剤、及び上記光重合開始剤はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
上記硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、及びナフトキサジン樹脂等が挙げられる。上記シリコーン樹脂は、変成シリコーン樹脂であってもよい。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記硬化性樹脂は、1液硬化型の硬化性樹脂であってもよく、2液硬化型の硬化性樹脂であってもよい。上記1液硬化型の硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、及び湿気硬化性樹脂等が挙げられる。現場での作業性を高める観点からは、上記硬化性樹脂は、湿気硬化性樹脂を含むことが好ましく、湿気硬化性樹脂であることが好ましい。上記硬化性樹脂は、硬化剤と併用されてもよく、硬化剤と併用されなくてもよい。上記2液硬化型の硬化性樹脂は、硬化剤と併用されることが好ましい。
【0043】
硬化物の強度及び構造物との接着性を良好にする観点からは、上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0044】
現場での作業性を高める観点からは、上記硬化性樹脂は、シリコーン樹脂を含むことが好ましく、変成シリコーン樹脂を含むことがより好ましい。現場での作業性を高める観点からは、上記シリコーン樹脂は、湿気硬化性変成シリコーン樹脂であることが好ましい。湿気硬化性変成シリコーン樹脂は、加水分解性ケイ素基を有する。上記加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー又はアクリル系ポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)として有する。したがって、上記主鎖の材料となるモノマーとしては、アルキレンオキサイド系モノマー、オレフィン系モノマー、及びアクリル系モノマー等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、重合体であってもよい。上記重合体は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。上記重合体が共重合体である場合、用いられるモノマーとしては、アルキレンオキサイド系モノマー、オレフィン系モノマー、アクリル系モノマー、及びビニル系モノマー等が挙げられる。上記変成シリコーン樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
上記アルキレンオキサイド系モノマーとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びブチレンオキサイド等が挙げられる。硬化後の伸び及び粘性的な取扱性を良好にする観点から、上記アルキレンオキサイド系モノマーは、ポリプロピレンオキサイドであることが好ましい。上記ポリプロピレンオキサイドは、プロピレンオキサイドを重合することにより得られる。
【0046】
上記オレフィン系モノマーとしては、イソブチレン等が挙げられる。
【0047】
上記アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、及び2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシプロピルフタル酸等が挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたポリマーである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0048】
耐候性を高める観点からは、上記変成シリコーン樹脂における上記主鎖は、アクリル系モノマーに由来する構造単位を有することが好ましい。上記変成シリコーン樹脂は、アクリル変成シリコーン樹脂であってもよい。
【0049】
耐候性を高める観点からは、上記変成シリコーン樹脂における上記主鎖100重量%中、アクリル系モノマーに由来する構造単位の含有率は、好ましくは5重量%以上、好ましくは20重量%以下である。
【0050】
上記加水分解性ケイ素基としては、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、及びアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0051】
上記加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は、好ましくは1以上であり、好ましくは3以下である。1個のケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、2種以上であってもよい。上記加水分解性基と非加水分解性基とが1個のケイ素原子に結合していてもよい。安定性に優れ、取扱いが容易であることから、上記加水分解性ケイ素基は、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、又はトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0052】
上記硬化性樹脂が上記変成シリコーン樹脂を含む場合に、上記硬化性樹脂は、シラノール縮合触媒を含むことが好ましい。上記硬化性樹脂は、上記変成シリコーン樹脂と、シラノール縮合触媒とを含むことが好ましい。上記シラノール縮合触媒を用いることにより、変成シリコーン樹脂を短時間で硬化させることができる。上記シラノール縮合触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
上記シラノール縮合触媒としては、モノアルキル錫エステル及びジアルキル錫エステル等の錫触媒;ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート樹脂;有機チタネート等が挙げられる。
【0054】
上記モノアルキル錫エステルとしては、ブチル錫トリス(2-エチルヘキサノエート)等が挙げられる。上記ジアルキル錫エステルとしては、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、及びオクタン酸第一錫等が挙げられる。
【0055】
上記有機チタネートとしては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、及びテトラ(2-エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネート等のチタンアルコキシド類;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、及びオクチレングリコレート等のチタンキレート類等が挙げられる。
【0056】
上記変成シリコーン樹脂100重量部に対して、上記シラノール縮合触媒の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。上記シラノール縮合触媒の含有量が上記下限以上であると、変成シリコーン樹脂を含む樹脂層の材料を短時間で硬化させることができ、樹脂層を短時間で良好に得ることができる。上記シラノール縮合触媒の含有量が上記上限以下であると、樹脂層の接着強度を高めることができる。
【0057】
上記シリコーン樹脂としては、ケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノポリシロキサンの主鎖は、ジオルガノシロキサンの重合体が一般的であるが、一部枝分かれした構造又は環状の構造を有していてもよい。上記オルガノポリシロキサンが有するアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、ペテニル基、へキセニル基、オクテニル基、及びシクロへキセニル基等が挙げられる。
【0058】
上記シリコーン樹脂の硬化剤(架橋剤)としては、SiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、及び両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン-ジメチルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0059】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びこれらの水添化物等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂等のエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びこれらの水添化物等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等のトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、及びヒダントイン型エポキシ樹脂等の含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂等の縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエン及びアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム骨格を有するゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0060】
上記硬化性樹脂が上記エポキシ樹脂を含む場合に、上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤(エポキシ硬化剤)を含むことが好ましい。すなわち、上記硬化性成分は、上記エポキシ樹脂と、エポキシ硬化剤とを含むことが好ましい。
【0061】
上記エポキシ樹脂の硬化剤(エポキシ硬化剤)としては、アミン化合物、イミダゾール化合物、アミド化合物、及びシアノ化合物等が挙げられる。上記アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、それらのアミンアダクト、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。上記イミダゾール化合物としては、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、エチルイミダゾール、イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ウンデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、及び2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。上記アミド化合物としては、ポリアミド等が挙げられる。上記シアノ化合物としては、ジシアンジアミド等が挙げられる。
【0062】
上記エポキシ樹脂は、活性アミンがブロックされており、水分などの所定の条件下で活性化するケチミンなどの潜在型硬化剤であってもよい。例えばケチミンは、水分がない状態では安定して存在するが、水分の存在によって一般に一級アミンとなり、エポキシ樹脂と反応する。上記潜在型硬化剤としては、2,5,8-トリアザ-1,8-ノナジエン、2,10-ジメチル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、2,10-ジフェニル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、3,11-ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11-ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19-トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、及び2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14-テトラアザ-4,14-オクタデカジエン等が挙げられる。
【0063】
上記エポキシ樹脂と上記エポキシ硬化剤とを反応させることにより、エポキシ樹脂の硬化物を得ることができる。
【0064】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ樹脂は、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0065】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記エポキシ硬化剤は、アミン系硬化剤(アミン化合物)であることが好ましい。
【0066】
ポリオール化合物と、イソシアネート化合物とを硬化反応させることにより、ウレタン樹脂を得ることができる。上記ポリオール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール、イソホロンジオール、ジシクロヘキシルメタンジオール、ジメチルジシクロヘキシルメタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、及びε-カプロラクトン又はα-メチル-ε-カプロラクトンなどのラクトンを開環重合して得られる重合体等が挙げられる。
【0067】
上記イソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。上記芳香族ポリイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。上記脂環族ポリイソシアネートとしては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0068】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、又はアクリルポリオールであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記ポリオール化合物の硬化剤(イソシアネート化合物)は、ジフェニルメタンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネートであることが好ましい。
【0069】
上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物との配合比は、ポリオール化合物とイソシアネート化合物との種類の組み合わせによって適宜変更可能である。上記イソシアネート化合物の配合量は、上記ポリオール化合物の水酸基量と、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO量)とが等量となる量であることが好ましい。
【0070】
上記フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール、及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0071】
上記フェノール樹脂の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、及びパラホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0072】
上記ビニルエステル樹脂としては、エポキシ樹脂と不飽和一塩基酸との反応物等が挙げられる。上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、ノボラック型ポリグリシジルエーテル及びその高分子量同族体、並びに1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族系グリシジルエーテル類等が挙げられる。上記不飽和一塩基酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。上記エポキシ樹脂と、上記アクリル酸及び上記メタクリル酸との反応物としては、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
上記ビニルエステル樹脂の硬化剤としては、有機過酸化物等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーベンゾエート、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0074】
上記硬化性樹脂が上記ビニルエステル樹脂を含む場合に、該硬化性成分は、ラジカル重合性不飽和単量体を含んでいてもよい。上記ラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、及びクロロプレン等のジエン類;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド及び(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリル酸アニリド等のビニル樹脂;シトラコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;N-フェニルマレイミド等のモノマレイミド樹脂;N-(メタ)アクリロイルフタルイミドなどが挙げられる。
【0075】
上記第1の層の材料100重量%中、上記硬化性成分の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。上記硬化性成分の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0076】
上記第1の層の材料100重量%中、上記硬化性樹脂の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。上記硬化性樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0077】
上記第1の層100重量%中、上記硬化性成分の硬化物の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。上記硬化性成分の硬化物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0078】
<イオン放出性化合物>
上記第1の層の材料は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(イオン放出性化合物)を含む。
【0079】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陰イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物とを含んでいてもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0080】
上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能であることが好ましい。上記イオン放出性化合物は、地盤又は構造物に付着した水分等との接触により、難水溶性塩を生成することが好ましい。上記積層体(特に、上記第1の層)を配置した箇所に至った水又は湿気により、上記イオン放出性化合物より陽イオン又は陰イオンが放出されることが好ましい。具体的には、上記イオン放出性化合物が陽イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと、水分等に溶解した陰イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陰イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陰イオンと、水分等に溶解した陽イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物、又は陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが、水分等を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が形成されることが好ましい。
【0081】
上記イオン放出性化合物は、無機塩であってもよく、イオン交換樹脂であってもよく、イオン錯体であってもよい。
【0082】
上記イオン放出性化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記イオン放出性化合物は、これらのイオン放出性化合物であることが好ましい。これらのイオン放出性化合物は、難水溶性塩をより一層効果的に生成可能である。
【0083】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0084】
上記陽イオンを放出可能な化合物は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。上記陽イオンを放出可能な化合物が上記の好ましい化合物であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は乳酸バリウムであることがより好ましく、乳酸カルシウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましく、有機酸カルシウム塩であることがより好ましい。上記有機酸カルシウム塩としては、酢酸カルシウム、及び乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0085】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0086】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましく、炭酸水素ナトリウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0087】
上記陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0088】
難水溶性塩をより一層良好に生成する観点からは、上記第1の層の材料は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物を含むことが好ましく、カルシウムイオンを放出可能な化合物と炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物との混合物を含むことがより好ましい。難水溶性塩をより一層を良好に生成する観点からは、上記第1の層の材料は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物とを含むことが好ましく、カルシウムイオンを放出可能な化合物と炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物とを含むことがより好ましい。
【0089】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0090】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄を生成可能であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウムを生成可能であることが好ましい。
【0091】
上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0092】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、上記イオン放出性化合物が後述するコーティング剤により良好に被覆され、第1の層中での上記イオン放出性化合物の分散性を高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、第1の層の材料の粘度を良好にし、第1の層の材料の配置性を高めることができる。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記上限以下であると、第1の層中での上記イオン放出性化合物の分散性を高めることができる。
【0093】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、平均粒子径であることが好ましい。上記平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0094】
上記積層体では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていてもよい。上記イオン放出性化合物は、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記積層体では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていることが好ましい。上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記積層体は、上記イオン放出性化合物を内包物として含有するマイクロカプセルを含むことが好ましい。上記イオン放出性化合物の表面がコーティング剤により被覆されているか、又は、上記イオン放出性化合物がマイクロカプセルの内包物であると、上記イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0095】
上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、水又は湿気等の水分が積層体(特に、第1の層)と接触し、該水分が上記コーティング剤の内部に拡散浸入したときに、陽イオン又は陰イオンを放出可能であることが好ましい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤中の空隙より陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤の内部に拡散し、陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。これらの場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0096】
上記マイクロカプセルは、上記イオン放出性化合物を放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水又は湿気等の水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0097】
上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、上記イオン放出性化合物の種類により適宜選択することができる。上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料としては、エチルセルロース、タンパク質、アルギン酸、デンプン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタラート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0098】
上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、特に限定されない。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0099】
上記第1の層の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは45重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、シーリングした箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。
【0100】
上記第1の層の材料において、上記硬化性成分100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、特に好ましくは20重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは70重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、上記積層体を配置した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。
【0101】
上記第1の層の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、上記積層体を配置した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が上記上限以下であると、上記第1の層を構造物に配置する際の粘度を良好にし、上記第1の層の配置性を高めることができる。
【0102】
上記第1の層100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは45重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、シーリングした箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。
【0103】
上記第1の層において、上記硬化性成分の硬化物100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、特に好ましくは20重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは70重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、上記積層体を配置した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物の含有量が上記上限以下であると、上記第1の層を構造物に配置する際の粘度を良好にし、上記第1の層の配置性を高めることができる。
【0104】
[第2の層]
上記積層体は、第2の層を備える。上記積層体では、上記第2の層は、上記第1の層の第1の表面側に配置されている。
【0105】
塗布性をより一層高める観点、及び構造物の保護又は補修効果をより一層高める観点からは、上記第2の層の材料は、23℃で液状であることが好ましい。
【0106】
上記第2の層の材料は、樹脂を含むことが好ましい。上記第2の層の材料は、樹脂材料であることが好ましい。
【0107】
上記樹脂としては、熱可塑性樹脂、及び硬化性樹脂等が挙げられる。第2の層を良好に形成する観点からは、上記樹脂は、硬化性樹脂を含むことが好ましい。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記樹脂が硬化性樹脂を含む場合に、上記第2の層は、上記硬化性樹脂の硬化物を含むことが好ましい。
【0108】
上記熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0109】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPDM)、イソブチレン-イソプレン共重合体、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0110】
上記硬化性樹脂としては、上述した硬化性樹脂等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0111】
耐候性をより一層高める観点からは、上記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含むことが好ましく、アクリル樹脂、又はウレタン樹脂を含むことがより好ましい。塗布性をより一層高める観点からは、上記第2の層の材料が、アクリル樹脂を含む樹脂材料、又はウレタン樹脂を含む樹脂材料であることが好ましい。
【0112】
上記第1の層の材料における硬化性成分と、上記第2の層の材料における樹脂とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0113】
上記第2の層の材料は、水性であってもよく、油性であってもよい。上記第2の層の材料は、液体であることが好ましい。
【0114】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記第2の層は、水に不溶であることが好ましい。
【0115】
上記第2の層の材料100重量%中、上記樹脂の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上であり、好ましくは99.5重量%以下、より好ましくは99重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。上記樹脂の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0116】
上記第2の層の材料100重量%中、上記硬化性樹脂の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上であり、好ましくは99.5重量%以下、より好ましくは99重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下、特に好ましくは90重量%以下である。上記硬化性樹脂の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0117】
<他の成分>
上記第1の層は、必要に応じて、上記硬化性成分の硬化物、上記イオン放出性化合物、及び上記コーティング剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記第2の層は、必要に応じて、上記樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、希釈剤、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、整泡剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0118】
(積層体作製キット)
本発明に係る積層体の製造方法では、積層体作製キットを用いてもよい。上記積層体作製キットは、上記積層体を作製するための積層体作製キットである。上記積層体作製キットは、第1の層の材料と、第2の層の材料とを備える。上記積層体作製キットでは、上記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。
【0119】
上記積層体作製キットにおいて、上記第1の層の材料は、容器(第1の容器)中に収容されていてもよい。上記積層体作製キットにおいて、上記第2の層の材料は、容器(第2の容器)中に収容されていてもよい。上記第1の容器と上記第2の容器とは、別の容器であってもよく、1つの一体化された容器であってもよい。1つの一体化された容器は、上記第1の層の材料と上記第2の層の材料とを接触させないための仕切り部を有していてもよい。
【0120】
上記第1の層の材料及び上記第2の層の材料の粘度は、特に限定されない。上記第1の層の材料及び上記第2の層の材料の粘度は、好ましくは0.1Pa・s以上、より好ましくは0.2Pa・s以上、さらに好ましくは0.5Pa・s以上であり、好ましくは2000Pa・s以下、より好ましくは1000Pa・s以下、さらに好ましくは500Pa・s以下である。上記第1の層の材料及び上記第2の層の材料の粘度が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記第1の層の材料及び上記第2の層の材料を塗工又は吹き付けにより良好に配置することができる。
【0121】
(積層体付き構造物)
本発明に係る積層体の製造方法により得られる積層体を用いて、積層体付き構造物を得ることができる。上記積層体付き構造物は、構造物と、上記積層体とを備える。上記積層体付き構造物では、上記構造物の表面上に上記積層体が配置されており、上記積層体の上記第1の層と上記構造物とが接触している。
【0122】
上記積層体付き構造物では、上記の構成が備えられているので、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる。
【0123】
また、上記積層体付き構造物では、上記第2の層により上記第1の層が必要以上に水分と接触することが抑制されるため、積層体(具体的には、上記第1の層におけるイオン放出性化合物)からイオンが必要以上に溶出することを抑制することができる。結果として、イオン放出性化合物が構造物側に効率的にイオンを放出することができるので、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【0124】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により得られる積層体を用いた構造物を模式的に示す断面図である。なお、
図1では、積層体に加えて、構造物も図示している。
【0125】
図1に示す積層体付き構造物11は、構造物10と、積層体5とを備える。積層体付き構造物11では、構造物10の表面上に積層体5が配置されている。積層体5は、第1の層1と、第2の層2とを備える。第1の層1の材料は、硬化性成分と、イオン放出性化合物とを含む。第1の層1は、硬化性成分の硬化物とイオン放出性化合物とを含む。第1の層1は、第1の表面1aと第2の表面1bとを有する。第1の表面1aと第2の表面1bとは、第1の層1において、互いに対向する表面である。
【0126】
積層体5では、第2の層2は、第1の層1の第1の表面1a上に配置(積層)されている。積層体5では、第1の層1と第2の層2とが接触しており、平面同士で面接触している。積層体5では、第1の層1の第1の表面1aと第2の層2とが接触している。
【0127】
積層体付き構造物11では、第1の層1は、構造物10の表面上に配置(積層)されている。第1の層1は、構造物10の外側に配置されている。積層体付き構造物11では、積層体5の第1の層1と構造物10とが接触している。積層体付き構造物11では、第1の層1の第2の表面1bと構造物10とが接触している。第2の層2は、構造物10の外側に配置されている。積層体付き構造物11では、構造物10と、第1の層1と、第2の層2とがこの順で並んで配置されている。
【0128】
構造物10の表面に施工時に存在する又は施工後に生じたひびや亀裂によって構造物10の背面側から構造物10の表面に水分が浸み出して、第1の層1の表面が水分と接触した場合、これらの水分に含まれるイオンと、第1の層1に含まれるイオン放出性化合物から放出されたイオンとが化学反応する。または、構造物10の表面に施工時に存在する又は施工後に生じたひびや亀裂によって構造物10の背面側から構造物10の表面に水分が浸み出して、第1の層1の表面が水分と接触した場合、第1の層1に含まれるイオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが化学反応し、構造物10のひびや亀裂に、難水溶性塩が生成する。すなわち、第1の層1と接する、構造物10に存在するひびや亀裂の空間を、生成した難水溶性塩が塞ぐ。生成した難水溶性塩が、構造物10の表面に存在するひびや亀裂の空間を塞ぐことで水が背面側から浸透しなくなるため、水によってもたらされるコンクリートの劣化が抑制される。
【0129】
第1の層の一部が、構造物の内部に配置されていてもよい。第1の層の全体が、構造物の外側に配置されていてもよい。第1の層100体積%中、構造物の外側に配置されている第1の層は、50体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよく、80体積%以上であってもよく、95体積%以上であってもよく、100体積%以下であってもよい。
【0130】
(構造物の保護又は補修方法)
本発明に係る構造物の保護又は補修方法は、構造物の表面上に、第1の層の材料を配置する配置工程と、上記第1の層の材料を硬化させて、第1の層を形成する第1の層形成工程と、上記第1の層の第1の表面上に、第2の層を形成する第2の層形成工程とを備える。上記構造物の保護又は補修方法では、上記第1の層の材料が、硬化性成分と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。
【0131】
本発明に係る構造物の保護又は補修方法では、上記の構成が備えられているので、構造物のひび割れを予防することができ、かつ、構造物にひび割れが発生した場合でも、発生したひび割れを補修することができる。
【0132】
また、上記構造物の保護又は補修方法では、上記第2の層により上記第1の層が必要以上に水分と接触することが抑制されるため、積層体(具体的には、上記第1の層におけるイオン放出性化合物)からイオンが必要以上に溶出することを抑制することができる。結果として、イオン放出性化合物が構造物側に効率的にイオンを放出することができるので、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【0133】
上記第1の層の材料としては、上記積層体の製造方法の第1の層の材料等が挙げられる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記第1の層の材料は、上記積層体の製造方法の第1の層の材料であることが好ましい。
【0134】
上記第2の層の材料としては、上記積層体の製造方法の第2の層の材料等が挙げられる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記第2の層の材料は、上記積層体の製造方法の第2の層の材料であることが好ましい。塗布性をより一層高める観点、及び構造物の保護又は補修効果をより一層高める観点からは、上記第2の層の材料は、23℃で液状であることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記第2の層の材料が、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、又はシリコーン樹脂を含むことが好ましい。
【0135】
上記構造物としては、特に限定されない。上記構造物としては、コンクリート構造物等が挙げられる。上記コンクリート構造物としては、建築物、地下トンネル、海底トンネル、山岳トンネル、及び配管等の外表面上に配置された絶縁体(グラウト部)等が挙げられる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記構造物は、コンクリート構造物であることが好ましい。上記構造物は、地下構造物であってもよい。
【0136】
第1の層の材料が配置される構造物の表面は、ケレン処理されていてもよく、ケレン処理されていなくてもよい。構造物との接着性を良好にする観点からは、第1の層の材料が配置される構造物の表面は、ケレン処理されていることが好ましい。構造物との接着性を良好にする観点からは、上記配置工程において、ケレン処理された構造物の表面上に、上記第1の層の材料を配置することが好ましい。
【0137】
構造物の保護又は補修効果をより一層高める観点からは、上記配置工程が、構造物の表面上に、上記第1の層の材料を塗布する工程であることが好ましい。構造物の保護又は補修効果をより一層高める観点からは、上記配置工程において、上記第1の層の材料は、構造物の表面上に、塗布により配置されることが好ましい。塗布は、吹付による塗布であってもよい。
【0138】
構造物側に効率的にイオンをより一層効率的に放出する観点からは、上記第2の層形成工程が、上記第1の層の上記第1の表面上に、上記第2の層の材料を塗布する工程と、上記第2の層の材料を乾燥させる工程とを備えることが好ましい。構造物側により一層効率的にイオンを放出する観点からは、上記第2の層形成工程において、上記第2の層の材料は、上記第1の層の上記第1の表面上に、塗布により配置されることが好ましい。塗布は、吹付による塗布であってもよい。
【0139】
上記第2の層の材料を乾燥させる方法は、特に限定されない。上記第2の層の材料を乾燥させる方法としては、送風する方法、及び加熱する方法等が挙げられる。
【0140】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0141】
以下の材料を用意した。
【0142】
<第1の層の材料>
(硬化性成分)
硬化性成分A(積水化学工業社製「インフラガードCRJ」、主剤(エポキシ樹脂)50重量%:硬化剤50重量%)
硬化性成分B(主剤(三菱ケミカル社製「jER828」)57重量%:硬化剤(メルカプタン化合物、三菱ケミカル社製「QX40」)43重量%)
【0143】
(イオン放出性化合物)
陽イオンを放出可能な化合物:
酢酸カルシウム(ナカライテスク社製「酢酸カルシウム一水和物 JIS試薬特級」)
陰イオンを放出可能な化合物:
炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径100μm)
【0144】
(反応促進剤)
3級アミン化合物(ナカライテスク社製「ルベアックDMP-30」)
【0145】
<第2の層の材料>
ウレタン系材料(表中「ウレタン系」、ウレタン樹脂を含む樹脂材料、サンデーペイント社製「水性FRP・プラスチック用塗料(とうめい)」)
アクリル系材料(表中「アクリル系」、アクリル樹脂を含む樹脂材料、アサヒペン社製「防水塗料」)
【0146】
(実施例1)
第1の層の形成:
硬化性成分A100重量部と、炭酸ナトリウム50重量部と、酢酸カルシウム50重量部とを混合して、第1の層の材料を得た。得られた第1の層の材料を、型枠(幅12.7mm×奥行12.7mm×厚み25.4mm)に流し込み、23℃及び50%RHの条件で7日間養生して硬化性成分Aを硬化させ、型枠から外して、第1の層を形成した。
【0147】
積層体の作製:
得られた第1の層の表面(6面)上に、第2の層の材料として、ウレタン樹脂を含む樹脂材料を刷毛で塗布した後、23℃及び50%RHの条件で2時間静置し、乾燥硬化させて、積層体を得た。得られた積層体は、第1の層と、第1の層の表面上に配置された第2の層とを備える。
【0148】
(実施例2~4)
第1の層の材料、及び第2の層の材料を表1のように設定したこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0149】
(比較例1~4)
第1の層の材料を表2のように設定したこと、並びに第2の層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、単層体を得た。
【0150】
(評価)
(1)保護及び補修効果
実施例1~4で得られた積層体の第2の層側の表面(25.4mm×12.7mm)を、80番のサンドペーパーで研磨して第2の層を除去し、第1の層を露出させて、試験体を得た。深さが20mm以上であるPP製容器の底面に、厚み3mmのSUS板2枚を15mm離して平行に設置した。SUS板2枚に跨るように、上記で第1の層を露出させた積層体を、露出させた面を下向きに配置した。深さが20mm以上であるPP製容器の底面に、厚み3mmのSUS板2枚を15mm離して平行に設置した。
【0151】
また、比較例1~4については、実施例1~4と同様に、SUS板2枚に跨るように、比較例1~4の単層体(試験体)を設置した。
【0152】
実施例1,3及び比較例1,3では、イオン交換水を、深さ4mm以上10mm以下になるように容器に入れ、試験体の下面を1カ月浸漬した。
【0153】
実施例2,4及び比較例2,4では、1000ppmの塩化カルシウム溶液を、深さ4mm以上10mm以下になるように容器に入れ、試験体の下面を1カ月浸漬した。
【0154】
浸漬後、浸漬させた下面の表面に粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。
表面に粒子が析出している試験体については、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、緻密な結晶構造を有する粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が観察された。難水溶性塩(炭酸カルシウム)の生成を、以下の基準で判定した。
【0155】
[保護及び補修効果の判定基準]
○:難水溶性塩が生成している
×:難水溶性塩が生成していない
【0156】
(2)イオン溶出量
得られた積層体又は単層体を300mLのイオン交換水に浸漬し、23℃で5日間静置した後、静置後のイオン交換水のナトリウムイオン及びカルシウムイオンの濃度を、下記の条件で測定した。
【0157】
[ナトリウムイオンの濃度の測定条件]
測定機器:堀場製作所製「LAQUAtwin Na-11」
温度:23℃
静置後のイオン交換水1mLを、9mLのイオン交換水で希釈して溶液Aを得た。得られた溶液Aを電極部に滴下して、表示された濃度に希釈倍率を掛け合わせ、ナトリウムイオンの濃度とした。
【0158】
[カルシウムイオンの濃度の測定条件]
測定機器:堀場製作所製「F-2000PC」(電極:6583S-10C)
温度:23℃
静置後のイオン交換水1mLを、4mLのイオン交換水で希釈して溶液Bを得た。得られた溶液Bに、カルシウムイオン選択性電極用イオン強度調整剤(堀場製作所製「500-CA-ISA」)0.1mLを添加して、撹拌した後に一分間静置した。その後電極部に滴下して、表示された濃度に希釈倍率を掛け合わせ、カルシウムイオンの濃度とした。
【0159】
積層体又は単層体の構成及び結果を下記の表1,2に示す。
【0160】
【0161】
【0162】
第1の層の表面上に第2の層が備えられている実施例1~4では、第2の層が備えられていない比較例1,3に比べて、ナトリウムイオン又はカルシウムイオンのイオン溶出量を抑制することができていた。すなわち、実施例1~4の積層体では、比較例1,3の単層体に比べて、イオンが必要以上に溶出することを抑制することができ、結果として、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【符号の説明】
【0163】
1…第1の層
1a…第1の表面
1b…第2の表面
2…第2の層
5…積層体
10…構造物
11…積層体付き構造物