(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046408
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収剤及び二酸化炭素分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240327BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240327BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240327BHJP
C07F 9/54 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C07F9/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151781
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉矢 正
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4H050
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA01
4D002CA06
4D002DA18
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4D002DA70
4D002EA06
4D002EA08
4D002FA01
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4D002GB11
4D002GB20
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA17
4D020BA19
4D020BA30
4D020BB03
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4D020CB01
4D020CB25
4D020DA03
4D020DB06
4D020DB07
4D020DB20
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素放出が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体と、少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体と、からなることを特徴とする二酸化炭素吸収剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体と、少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体と、からなることを特徴とする二酸化炭素吸収剤。
【請求項2】
前記カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体が、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。A1
n-はアニオンを表す。)
で表されるホスホニウム系イオン性液体であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるA1n-が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、メタノールアミンリン酸イオン、エタノールアミンリン酸イオン、プロパノールアミンリン酸イオン、ブタノールアミンリン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、又はベンゾトリアゾレートイオンであることを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項4】
前記カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体の含有量が1.0質量%以上50.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項5】
前記カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体が、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表す。A2
-はアニオンを表す。)
で表されるイオン性液体であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項6】
前記一般式(2)におけるR4、R5及びR6が同一のアルキル基であり、R7が異なるアルキル基であることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項7】
前記一般式(2)におけるA2-が、ジメチルホスフェートイオン、ジエチルホスフェートイオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドイオン又はビス(フルオロスルホニル)イミドイオンであることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、再生された該二酸化炭素吸収剤を得ると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体からなる二酸化炭素吸収剤及び二酸化炭素分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業活動による石油、石炭などの化石燃料の消費増大や森林の伐採により、大気中の二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの濃度が増加し続けており、地球規模で気温が上昇する地球温暖化が進行している。このまま温暖化が進行すると、地表の砂漠化や海面の上昇、生態系の変化など、様々な面で深刻な影響が現れると考えられている。
【0003】
このような中、地球温暖化を防ぐために、温室効果ガス削減を目的として二酸化炭素排出を抑制すると共に、二酸化炭素を回収する技術が注目されている。二酸化炭素を回収する技術としては、化学吸収法、物理吸収法、固体吸収法、膜分離法等があるが、幅広い濃度に対応できる方法として、主に化学吸収法が使用されている。この化学吸収法は、二酸化炭素を化学反応によって液体に吸収させ、その吸収液を加熱することにより二酸化炭素を放出させて回収するものである。
【0004】
二酸化炭素を吸収させる際に使用する液体として一般的に使用されているのはアミン系水溶液であるが、二酸化炭素を吸収させた液体を加熱して二酸化炭素を脱離させる際、アミンが大気中に放散するため環境への影響が懸念されている。このため、アミン系水溶液に代わる液体として、実質的に蒸気圧の無いイオン性液体にアミンを導入した二酸化炭素吸収剤の研究が行われている。例えば、特許文献1には、アルキルイミダゾリウムカチオンやアルキルホスホニウムカチオン等の1種又は2種以上のカチオンからなり、該カチオン中に少なくとも1個以上の一級アミン基(-NH2)が存在するイオン液体を使用することが記載されている。また、特許文献2では、二酸化炭素吸収剤として有機アミン及び官能化イオン液体の混合水溶液を提案しており、該官能化イオン液体は、アミノ基を含むイオン液体であることを開示している。さらに特許文献3では、カチオンに1以上の1級又は2級アミノ基、及びエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有するアミニウム有するイオン液体を二酸化炭素吸収剤として開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-36950号公報
【特許文献2】特表2015-507526号公報
【特許文献3】特開2016-10760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の二酸化炭素吸収剤は、イオン性液体を使用しているため、吸収剤再生時の二酸化炭素放出に要するエネルギーを低減できるが、二酸化炭素の吸収性能には改善の余地がある。また、アミノ基を有するイオン性液体とアミン系化合物の混合体を二酸化炭素吸収剤として使用している特許文献2及び特許文献3は、イオン性液体とは別にアミン系化合物を含有しているため、吸収剤再生時の加熱によりアミン系化合物が放散してしまい、二酸化炭素吸収剤のロスが生じる他、環境への悪影響も懸念される。このように、イオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤に関連する技術は、未だ開発途上であり、研究すべき課題が残されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素の脱離が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること、及び本発明の二酸化炭素吸収剤を使用した二酸化炭素分離回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ホスホニウム系のイオン性液体において、化学的に二酸化炭素を吸収できるイオン性液体と、物理的に二酸化炭素を吸収できるイオン性液体とを混合することにより、従来よりも二酸化炭素吸収能が高くなり、且つ、再生の際に二酸化炭素を容易に脱離させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明(1)は、少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体と、少なくとも1種のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体と、からなることを特徴とする二酸化炭素吸収剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、本発明(1)の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、再生された該二酸化炭素吸収剤を得ると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素の脱離が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること、及び本発明の二酸化炭素吸収剤を使用した二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、2種以上のイオン性液体からなり、少なくとも1種の「カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体(I)」と、少なくとも1種の「カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体(I)以外のイオン性液体(II)」と、からなる。つまり、本発明の二酸化炭素吸収剤は、1種又は2種以上のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体(I)と、1種又は2種以上のカチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体(II)と、からなる。以下、カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体(I)を単に「ホスホニウム系イオン性液体(I)」とも記載し、また、カチオンにアミノ基を有するホスホニウム系イオン性液体以外のイオン性液体(II)を単に「イオン性液体(II)」とも記載する。
【0013】
ホスホニウム系イオン性液体(I)は、カチオンと、アニオンと、で構成されている。ホスホニウム系イオン性液体(I)を構成するカチオンは、P原子に結合している基を4つ有し且つ該P原子に結合している基のうちの少なくとも1つがアミノ基を有する基であるホスホニウムカチオンである。また、ホスホニウム系イオン性液体(I)を構成するアニオンは、ホスホニウム系イオン性液体(I)のホスホニウムカチオンと対になってイオン性液体を形成するものであれば、特に制限されないが、例えば、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等のハロゲン化物イオン、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)、メタノールアミンリン酸イオン(NH2CH2OPO3
2-)、エタノールアミンリン酸イオン(NH2C2H4OPO3
2-)、プロパノールアミンリン酸イオン(NH2C3H6OPO3
2-)、ブタノールアミンリン酸イオン(NH2C4H8OPO3
2-)、ジエチルジチオリン酸イオン((C2H5)2O2PS2
-)、ジメチルリン酸イオン((CH3)2PO4
-)、ジエチルリン酸イオン((C2H5)2PO4
-)等のリン酸基含有アニオン、メチルスルホン酸(CH3SO3
-)、フルオロメチルスルホン酸(CF3SO3
-)、ベンゼンスルホン酸(C6H5SO3
-)等のスルホン酸基含有アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)等のイミド基含有アニオン、イミダゾレートイオン((C3H3N2)-)、ベンゾイミダゾレートイオン((C7H5N2)-)、ベンゾトリアゾレートイオン((C6H4N3)-)等の窒素複素環含有アニオン、酢酸イオン(CH3COO-)、ギ酸イオン(HCOO-)、プロピオン酸イオン(C2H5COO-)、シュウ酸イオン((COO)2
2-)、マレイン酸イオン(C2H2(COO)2
2-)、マロン酸イオン(CH2(COO)2
2-)等のカルボン酸基含有アニオン、グリシンイオン((NH2)CH2COO-)、アラニンイオン(((NH2)C2H4COO-)等のアミノ酸系アニオン等、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)等が挙げられる。これらの中、合成の容易性の観点から、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)、メタノールアミンリン酸イオン(NH2CH2OPO3
2-)、エタノールアミンリン酸イオン(NH2C2H4OPO3
2-)、プロパノールアミンリン酸イオン(NH2C3H6OPO3
2-)、ブタノールアミンリン酸イオン(NH2C4H8OPO3
2-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ベンゾトリアゾレートイオン((C6H4N3)-)であることが好ましい。
【0014】
ホスホニウム系イオン性液体(I)としては、下記一般式(1):
【0015】
【0016】
で表されるホスホニウム系イオン性液体(I)が好ましい。一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下、好ましくは2以上8以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。R1、R2及びR3は、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。A1n-はアニオンを表す。
【0017】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の環状アルキル基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、2-メチルシクロヘプチル基、3-メチルシクロヘプチル基、4-メチルシクロヘプチル基、5-メチルシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0020】
一般式(1)中、リン原子に結合するR1、R2及びR3以外の置換基、すなわち、アミノ基を有する基は、炭素数1以上10以下、好ましくは1以上8以下のアルキルアミノ基である。該アルキルアミノ基としては、具体的には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0021】
一般式(1)中のA1n-はアニオンを示し、A1n-としては、一般式(1)のホスホニウムカチオンと対になってイオン性液体を形成するものであれば、特に制限されないが、具体的には、F-、Cl-、Br-、I-、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)、メタノールアミンリン酸イオン(NH2CH2OPO3
2-)、エタノールアミンリン酸イオン(NH2C2H4OPO3
2-)、プロパノールアミンリン酸イオン(NH2C3H6OPO3
2-)、ブタノールアミンリン酸イオン(NH2C4H8OPO3
2-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ベンゾトリアゾレートイオン((C6H4N3)-)であることが好ましい。
【0022】
ホスホニウム系イオン性液体(I)の25℃粘度は、好ましくは10~300cP、特に好ましくは15~200cPである。ホスホニウム系イオン性液体(I)の25℃粘度が上記範囲にあることにより、イオン性液体(II)と首尾よく混合でき、本発明の二酸化炭素吸収剤の粘度を低く抑えることができるので、二酸化炭素の吸収時の撹拌効率が高くなり、その結果、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0023】
イオン性液体(II)は、カチオンと、アニオンと、で構成されている。イオン性液体(II)を構成するカチオンは、P原子に結合している基を4つ有し且つ該P原子に結合している基のいずれもアミノ基を有さない基であるホスホニウムカチオンが挙げられる。また、イオン性液体(II)を構成するアニオンは、イオン性液体(II)のホスホニウムカチオンと対になってイオン性液体を形成するものであれば、特に制限されないが、例えば、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、ジメチルホスフェート((CH3O)2POO-)、ジエチルホスフェート((C2H5O)2POO-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(N(SO2CF3)2
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SO2F)2
-)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3
-)、メタンスルホネート(SO3CH3
-)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((C2H5)3PF3
-)、トリフルオロ酢酸(CF3COO-)、アミノ酸、ビスオキサラトボレート(B(C2O4)2
-)、p-トルエンスルホネート(SO3C6H4CH3
-)、チオシアネート(SCN-)、ジシアナミド(N(CN)2
-)、ハロゲン化物イオン等が挙げられる。
【0024】
イオン性液体(II)としては、下記一般式(2):
【0025】
【0026】
で表されるイオン性液体(II)が好ましい。
【0027】
一般式(2)中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下、好ましくは2以上8以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表す。R4、R5、R6及びR7は、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよいが、合成のし易さの観点から、R4、R5及びR6が同一のアルキル基であり、R7が異なるアルキル基であることが好ましい。A2-はアニオンを表す。
【0028】
一般式(2)中のR4、R5、R6及びR7で表される炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(2)中のR4、R5、R6及びR7で表される炭素数1以上10以下の分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
一般式(2)中のR4、R5、R6及びR7で表される炭素数1以上10以下の環状アルキル基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、2-メチルシクロヘプチル基、3-メチルシクロヘプチル基、4-メチルシクロヘプチル基、5-メチルシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0031】
一般式(2)中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよいが、合成のし易さの観点から、R4、R5及びR6は、炭素数1以上4以下、特に炭素数1以上3以下の直鎖状アルキル基であることが好ましく、R7は、炭素数2以上8以下、特に炭素数2以上6以下の直鎖状アルキル基であることが好ましい。
【0032】
一般式(2)中のA2-はアニオンを示し、一般式(2)のホスホニウムカチオンと対になってイオン性液体を形成するものであれば、特に限定されない。このようなアニオンとして、例えば、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、ジメチルホスフェート((CH3O)2POO-)、ジエチルホスフェート((C2H5O)2POO-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(N(SO2CF3)2
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(N(SO2F)2
-)、トリフルオロメタンスルホネート(SO3CF3
-)、メタンスルホネート(SO3CH3
-)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート((C2H5)3PF3
-)、トリフルオロ酢酸(CF3COO-)、アミノ酸イオン、ビスオキサラトボレート(B(C2O4)2
-)、p-トルエンスルホネート(SO3C6H4CH3
-)、チオシアネート(SCN-)、ジシアナミド(N(CN)2
-)、ハロゲン化物イオン等が挙げられ、これらの中では常温で液状となる点から、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミドが好ましい。
【0033】
イオン性液体(II)の25℃粘度は、好ましくは10~300cP、特に好ましくは15~200cPである。イオン性液体(II)の25℃粘度が上記範囲にあることにより、ホスホニウム系イオン性液体(I)を混合しても、本発明の二酸化炭素吸収剤の粘度を低く抑えることができるので、二酸化炭素の吸収時の撹拌効率が高くなり、その結果、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0034】
本発明の二酸化炭素吸収剤において、全イオン液体中のホスホニウム系イオン性液体(I)の含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。全イオン液体中のホスホニウム系イオン性液体(I)の含有量が、上記範囲にあることにより、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0035】
また、本発明の二酸化炭素吸収剤において、全イオン性液体中のホスホニウム系イオン性液体(I)の含有量は、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは50.0質量%以下である。本発明の二酸化炭素吸収剤中のホスホニウム系イオン性液体(I)の含有量が、上記範囲にあることにより、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0036】
なお、本発明の二酸化炭素吸収剤が、2種以上のホスホニウム系イオン性液体(I)を含有する場合、上記ホスホニウム系イオン性液体(I)の含有量は、2種以上のホスホニウム系イオン性液体(I)の合計含有量を指す。
【0037】
本発明の二酸化炭素吸収剤において、全イオン性液体中のイオン性液体(II)の含有量は、好ましくは99.0質量%以下、より好ましくは97.0質量%以下、より好ましくは95.0質量%以下である。全イオン液体中のイオン性液体(II)の含有量が、上記範囲にあることにより、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0038】
また、本発明の二酸化炭素吸収剤において、全イオン性液体中のイオン性液体(II)の含有量は、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは40.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上である。全イオン液体中のイオン性液体(II)の含有量が、上記範囲にあることにより、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0039】
なお、本発明の二酸化炭素吸収剤が、2種以上のイオン性液体(II)を含有する場合、上記イオン性液体(II)の含有量は、2種以上のイオン性液体(II)の合計含有量を指す。
【0040】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体(I)と、一般式(2)で表されるイオン性液体(II)との組み合わせであることが、常温で液体であり、粘度が低い観点から特に好ましい。
【0041】
本発明の二酸化炭素吸収剤において、ホスホニウム系イオン性液体(I)と、イオン性液体(II)の混合割合(ホスホニウム系イオン性液体(I)/イオン性液体(II))は、質量比で、好ましくは1.0/99.0~50.0/50.0、特に好ましくは5.0/95.0~45.0/55.0である。本発明の二酸化炭素吸収剤中のホスホニウム系イオン性液体(I)と、イオン性液体(II)との混合割合がこの範囲にあると、混合ガスからの二酸化炭素分離時における二酸化炭素吸収量が多くなり、二酸化炭素分離回収時の二酸化炭素放出に要するエネルギーを低減することができる。
【0042】
本発明の二酸化炭素吸収剤の25℃粘度(二酸化炭素を吸収する前の粘度)は、二酸化炭素を効率的に吸収又は脱離させることができる観点から、800cP以下であることが好ましく、500cP以下であることが特に好ましい。本発明においては、例えば、ホスホニウム系イオン性液体(I)のカチオン及び/又はアニオンの種類を選択すること、イオン性液体(II)のカチオン及び/又はアニオンの種類を選択すること、ホスホニウム系イオン性液体(I)とイオン性液体(II)の混合割合を選択することにより、本発明の二酸化炭素吸収剤の25℃粘度を調整することができる。
【0043】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、実質的にイオン性液体からのみ構成されるものであるが、二酸化炭素吸収能を損なわない範囲で、水分を含んでいてもよい。このような水分含有量の範囲としては、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0044】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素を含む混合ガスから、二酸化炭素ガスを分離回収することができる。前記混合ガスは、二酸化炭素を含むガスであれば、その他の成分は特に限定されない。前記その他の成分としては、例えば、酸素、窒素、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素、一酸化硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、水等が挙げられる。
【0045】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、化学的吸着が可能なホスホニウム系イオン性液体(I)と、物理的吸着が可能なイオン性液体(II)を組み合わせているため、化学的吸着と物理的吸着の両方が可能である。そのため、本発明の二酸化炭素吸収剤は、0℃から40℃未満程度の低温且つ常圧(絶対圧:1.013MPa)程度の条件で二酸化炭素吸収率が高く、且つ、比較的低い加熱温度でも短時間で二酸化炭素の脱離が可能であるため、二酸化炭素吸収剤の再生が容易である。
【0046】
更に、本発明の二酸化炭素吸収剤は、ホスホニウム系イオン性液体(I)に、イオン性液体(II)を混合することにより、二酸化炭素吸収剤の粘度を調節することができるので、二酸化炭素吸収時の粘度を低く抑えることができるため、撹拌効率が高くなり、その結果、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0047】
次いで、本発明の二酸化炭素吸収剤を用いた二酸化炭素分離回収方法について説明する。
【0048】
本発明の二酸化炭素分離回収方法は、本発明の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、再生された該二酸化炭素吸収剤を得ると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法である。
【0049】
二酸化炭素分離工程では、本発明の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させることにより、二酸化炭素吸収剤に混合ガス中の二酸化炭素を吸収させる。
【0050】
二酸化炭素分離工程における二酸化炭素吸収剤の温度は、二酸化炭素吸収剤が液相状態を保てれば特に制限されないが、0℃以上40℃未満、特に5℃以上35℃以下であることが、効率的に二酸化炭素を吸収できる観点から好ましい。また、二酸化炭素分離工程における圧力(絶対圧)は、特に制限されず、大気圧下で行うことができる。
【0051】
二酸化炭素分離工程における混合ガスと二酸化炭素吸収剤の接触方法は、混合ガス中の二酸化炭素が二酸化炭素吸収剤と接触することができれば、特に制限されないが、例えば、二酸化炭素吸収剤に混合ガスをバブリングする方法、二酸化炭素吸収剤を混合ガスにスプレーする方法などを挙げることができる。
【0052】
二酸化炭素分離工程では、二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスが接触することで、本発明の二酸化炭素吸収剤に、混合ガス中の二酸化炭素が吸収され、混合ガスから二酸化炭素を分離することができる。また、二酸化炭素分離工程では、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤が得られる。
【0053】
二酸化炭素回収工程では、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を加熱することにより、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から、二酸化炭素を脱離させる。
【0054】
二酸化炭素回収工程における二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤の加熱温度は、40℃以上150℃以下、好ましくは45℃以上120℃以下である。一般的には加熱温度が高ければ高いほど、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素が脱離し易くなるが、本発明の二酸化炭素吸収剤は、40℃以上150℃以下、好ましくは45℃以上120℃以下で、且つ、二酸化炭素分離工程の温度よりも若干高い温度で、二酸化炭素の脱離が可能である。また、二酸化炭素回収工程における圧力(絶対圧)は、特に制限されず、大気圧下で行うことができる。
【0055】
二酸化炭素回収工程では、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下、好ましくは45℃以上120℃以下で加熱して、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、再生された二酸化炭素吸収剤を得ると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する。
【0056】
本発明の二酸化炭素分離回収方法によれば、化学的吸収及び物理的吸収に優れた本発明の二酸化炭素吸収剤を用いるため、混合ガス中の二酸化炭素の除去効率を高めることができる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
〔合成例1〕
還流管、温度計、撹拌機を備えた1L四口フラスコを窒素置換して、トリブチルホスフィン80.9g(0.4モル)を仕込み、2-ブタノール500mlに懸濁させた3-ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩のスラリー87.6g(0.4モル)を窒素気流中で添加した。これを、2-ブタノールの還流温度近傍である温度97~108℃ほどまで加熱して、8時間反応させて反応液を得た。室温まで冷却後、二硫化炭素による発色試験により、トリブチルホスフィンが残留していないことを確認した。
この反応液に、20%ナトリウムエチラート136.1g(0.4モル)を加え、ハイフロスーパーセル(富士フイルム和光純薬株式会社製)でセライト濾過することにより、析出した臭化ナトリウムを濾別した。得られた黄色の濾液をエバポレーターで濃縮した後、純水300ml及びジクロロメタン200mlを加えて抽出洗浄した。その後、水相を分離し、エバポレーターで濃縮後、エタノール300mlを加えてエタノール溶液とし、無水硫酸マグネシウムを加えて一昼夜脱水処理した。脱水処理後、ハイフロスーパーセルでセライト濾過したエタノール溶液をエバポレーターで濃縮することにより、無色透明液体125.9g(粗収率92.5%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.10ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,9H,-CH3),1.51~1.62ppm(m,12H,-CH2-CH2-),1.78~1.92(m,2H,-CH2-),2.37~2.52ppm(m,6H,P-CH2-),2.58~2.65(m,2H,P-CH2-),2.92~2.95ppm(m,2H,-CH2-NH2),4.73ppm(s,2H,-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドであることが確認された。
【0059】
〔合成例2〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液と、カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド31.9g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。ここにジクロロメタン200mlを加えて撹拌し、純水を加えてジクロロメタン相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明液体46.4g(粗収率85.9%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.33ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,9H,-CH3),1.46~1.58ppm(m,12H,-CH2-CH2-),1.64~1.76(m,2H,-CH2-),2.08~2.26ppm(m,8H,P-CH2-),2.53ppm(s,2H,-NH2),2.82ppm(m,2H,-CH2-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0060】
〔合成例3〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液と、リチウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド18.7g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。ここにジクロロメタン200mlを加えて撹拌し、純水を加えてジクロロメタン相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明液体37.3g(粗収率84.6%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.34ppm
1H-NMR;0.99ppm(t,9H,-CH3),1.48~1.56ppm(m,12H,-CH2-CH2-),1.64~1.72(m,2H,-CH2-),2.09~2.16ppm(m,6H,P-CH2-),2.17~2.24(m,2H,P-CH2-),2.36ppm(m,2H,-NH2),2.83ppm(t,2H,-CH2-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドであることが確認された。
【0061】
〔合成例4〕
還流管、撹拌機、温度計を備えた1L四つ口フラスコに、合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水200mlに溶解した水溶液を用意した。ここに、1,2,3-ベンゾトリアゾール11.9g(0.1モル)及び水酸化ナトリウム4.8g(0.12モル)を純水200mlに溶解した水溶液を常温で添加した。50~55℃で3時間加熱し、冷却後、1-ブタノール300mlを加えて撹拌し、さらに純水300mlを2回加えて1-ブタノール相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮して1-ブタノールを留去させることで、黄色粘性液体33.2g(粗収率87.6%)を得た。得られた黄色粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;33.75ppm
1H-NMR;0.86ppm(t,9H,-CH3),1.15~1.21ppm(m,12H,-CH2-CH2-),1.22~1.39(m,2H,-CH2-),1.68~1.75ppm(m,6H,P-CH2-),1.76~1.85(m,2H,P-CH2-),2.64ppm(t,2H,-CH2-NH2),4.00(s,2H,-NH2),7.08~7.12ppm(m,2H,aromatic),7.84~7.87ppm(m,2H,aromatic)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレートであることが確認された。
【0062】
〔合成例5〕
合成例1において、3-ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩に代えて、2-ブロモエチルアミン臭化水素酸塩82.0g(0.4モル)を反応させたこと以外は、合成例1と同じ操作を行うことにより、無色透明の粘性液体109.9g(粗収率84.2%)を得た。得られた無色透明の粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
31P-NMR;32.94ppm
1H-NMR;0.99ppm(t,9H,-CH3),1.50~1.64ppm(m,12H,-CH2-CH2-),2.37~2.45ppm(m,6H,P-CH2-),2.93~3.30ppm(m,4H,P-CH2-CH2-NH2),4.73ppm(s,2H,-NH2)
この結果、トリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ブロマイドであることが確認された。
【0063】
〔合成例6〕
合成例5で得られたトリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ブロマイド32.6g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液と、カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド31.9g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。ここにジクロロメタン200mlを加えて撹拌し、純水を加えてジクロロメタン相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮することで、微黄色透明液体46.3g(粗収率88.0%)を得た。得られた微黄色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;32.78ppm
1H-NMR;0.96ppm(t,9H,-CH3),1.45~1.54ppm(m,12H,-CH2-CH2-),2.07~2.17ppm(m,6H,P-CH2-),2.35~2.42ppm(m,2H,P-CH2-),3.02~3.11ppm(m,2H,-CH2-NH2),3.66ppm(s,2H,-NH2)
この結果、トリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0064】
〔合成例7〕
イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIRA400(OH)HG)を直径5cmのガラスカラムに400ml充填し、純水200mlをSV=1.0の速度で上方からチューブポンプを用いて流した。
次いで、合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水400mlに溶解した水溶液を、カラムの上方からSV=1.0の速度で流し、さらに純水300mlを流して、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液680mlを得た。
得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液600mlと、エタノールアミンリン酸6.0g(0.042モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明粘性液体26.3g(粗収率95.0%)を得た。得られた無色透明粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;4.20ppm(s,PO4),34.13ppm(s,P+)
1H-NMR;0.97ppm(t,18H,-CH3),1.49~1.57ppm(m,24H,-CH2-CH2-),1.82~1.90ppm(m,4H,-CH2-),2.31~2.40(m,12H,P-CH2-),2.50~2.59ppm(m,4H,P-CH2-),3.00~3.12ppm(m,4H,-CH2-NH2),3.37ppm(m,10H,-O-CH2-CH2-,-NH2)
この結果、ビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸であることが確認された。
【0065】
〔合成例8〕
合成例7で使用したトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシド水溶液500ml(0.071モル)と、85%リン酸2.77g(0.024モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、無色透明液体20.3g(粗収率96.4%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;3.18ppm(s,PO4),34.18ppm(s,P+)
1H-NMR;0.97ppm(t,27H,-CH3),1.49~1.58ppm(m,36H,-CH2-CH2-),1.82~1.85ppm(m,6H,-CH2-),2.31~2.38(m,18H,P-CH2-),2.57~2.62ppm(m,6H,P-CH2-),2.57~2.62ppm(m,6H,-CH2-NH2),3.38ppm(t,6H,-NH2)
この結果、トリス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・リン酸であることが確認された。
【0066】
〔実施例1~5〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0067】
〔実施例6〕
合成例2で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0068】
〔実施例7〕
合成例2で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-25TFSI)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0069】
〔実施例8〕
合成例3で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミドと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0070】
〔実施例9〕
合成例4で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレートと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0071】
〔実施例10〕
合成例5で得られたトリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ブロマイドと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0072】
〔実施例11〕
合成例6で得られたトリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0073】
〔実施例12〕
合成例7で得られたビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸と、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0074】
〔実施例13〕
合成例8で得られたトリス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・リン酸と、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0075】
〔比較例1〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドを二酸化炭素吸収剤として使用し、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0076】
〔比較例2〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドと、エチレングリコール(林純薬工業株式会社製)を、表1の割合で混合して、二酸化炭素吸収剤を得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0077】
〔比較例3〕
トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)を二酸化炭素吸収剤として使用し、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0078】
〔比較例4〕
トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-25TFSI)を二酸化炭素吸収剤として使用し、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0079】
〔比較例5〕
エチレングリコール(林純薬工業株式会社製)を二酸化炭素吸収剤として使用し、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0080】
〔比較例6〕
合成例2で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを二酸化炭素吸収剤として使用し、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0081】
〔評価〕
(二酸化炭素吸収試験)
実施例及び比較例の二酸化炭素吸収剤10gを35ml三角フラスコに仕込み、撹拌子で撹拌しながら、二酸化炭素吸収剤に、室温下(25℃)、純度99.9%の二酸化炭素ガスを200ml/分の速度で60分間通気させた。通気終了後、二酸化炭素を吸収した後の二酸化炭素吸収剤の重量を計測し、二酸化炭素吸収による増加重量Aを求めた。吸収量を二酸化炭素吸収剤の重量変化値から算出し、以下の式に基づいて、二酸化炭素モル吸収量(吸収剤1モル当たりの二酸化炭素吸収モル数)を求めた。結果を表2に示す。
二酸化炭素モル吸収量(mol/mol)=((増加重量A(g)/44)/(吸収剤モル数))
【0082】
(二酸化炭素脱離試験)
二酸化炭素吸収試験後の二酸化炭素吸収剤を、撹拌子で撹拌しながら、温度100℃で1時間加熱した。冷却後、二酸化炭素吸収剤の重量を計測し、二酸化炭素脱離による減少重量Bを求めた。以下の式に基づいて、二酸化炭素脱離率を求めた。結果を表2に示す。
二酸化炭素脱離率(%)=(減少重量B(g)/増加重量A(g))×100
【0083】
(粘度測定)
回転粘度計(ブルックフィールド社製、DV-II+Pro)に、ローターディスクCPE-42をセットし、回転数0.5rpm、25℃の条件で測定した。結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
合成例1:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド
合成例2:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
合成例3:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド
合成例4:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレート
合成例5:トリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ブロマイド
合成例6:トリブチル(2-アミノエチル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
合成例7:ビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・エタノールアミンリン酸
合成例8:トリス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・リン酸
PX-4MP:トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、イオン性液体
PX-25TFSI:トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、イオン性液体
EG:エチレングリコール
【0086】
【0087】
表1に示した結果から、実施例1~13の二酸化炭素吸収剤は二酸化炭素吸収に優れていることが判る。一方、比較例1~6の二酸化炭素吸収剤は、各実施例と比べて二酸化炭素吸収性能が劣っていることが判る。
特に、同じ合成例1のイオン性液体を同量使用している実施例2と比較例2を比べてみると、比較例2は、危険物であるエチレングリコールを使用しており、引火点が111℃であることから、使用環境が制限されるが、実施例2はイオン性液体のみを使用しており、非危険物でありながらも、二酸化炭素吸収能に優れていることが判る。
また、実施例1~13の二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素脱離性能も優れていることが判る。