(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046409
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】受圧板、及び地盤の補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240327BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
E02D17/20 103E
E02D17/20 106
E02D5/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151782
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
【テーマコード(参考)】
2D041
2D044
【Fターム(参考)】
2D041GC12
2D044DB23
2D044EA01
(57)【要約】
【課題】設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる受圧板を提供する。
【解決手段】本発明に係る受圧板は、受圧板本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受圧板本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、
前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、受圧板。
【請求項2】
前記難水溶性塩が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄である、請求項1に記載の受圧板。
【請求項3】
前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載の受圧板。
【請求項4】
前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載の受圧板。
【請求項5】
前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、請求項1又は2に記載の受圧板。
【請求項6】
前記受圧板本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む、請求項1又は2に記載の受圧板。
【請求項7】
グラウンドアンカーと、請求項1又は2に記載の受圧板とを用いて、地盤を補強する、地盤の補強方法。
【請求項8】
前記受圧板本体が、セメントミルクの硬化物又はモルタルの硬化物を含む、請求項7に記載の地盤の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に用いることができる受圧板に関する。また、本発明は、上記受圧板を用いた地盤の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地山の斜面崩壊や地滑りの発生を防止するために、地盤を補強する方法として、グラウンドアンカー工法が知られている。グラウンドアンカー工法とは、安定地盤に定着させたグラウンドアンカーに緊張力を与え、この緊張力を斜面上に設置した受圧板(アンカーパネル)に伝達させることにより、斜面の安定化を図る工法である。
【0003】
受圧板として、受圧面積を大きくするために、接地面の形状が四角形である受圧板が知られている。
【0004】
下記の特許文献1には、法面に立設されているアンカー部材に対して装着され、法面に圧設される受圧体が開示されている。該受圧体は、熱硬化性樹脂によって構成される本体層と、繊維構造体を含む補強層とを有する。該受圧体では、熱硬化性樹脂を含浸した繊維構造体に対して上記熱硬化性樹脂又は別の熱硬化性樹脂の粉体を積層し、繊維構造体と熱硬化性樹脂の粉体とを加熱状態で圧縮することにより、上記本体層と上記補強層とが一体化されている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、以下の工程を備える受圧構造体(受圧板)を用いた法枠の施工方法が開示されている。法面上にその勾配方向及び横方向に沿って中空部を有する受圧構造体を、複数個所定間隔おきに設置する工程。各受圧構造体を法面にグランドアンカーによって固定し、かつグランドアンカーにテンションを導入することにより各受圧構造体に法面を押圧するようなプレストレスを導入する工程。各受圧構造体間に現場打ちコンクリート、又はプレキャストコンクリートによって、法枠を上記受圧構造体と一体的に構築する工程。
【0006】
また、下記の特許文献3には、法面に接地自在な接地底板部と、アンカー部材挿通用として上記接地底板部に形成されたアンカー挿通部と、アンカー部材を係止するために上記アンカー挿通部に形成されたアンカー係止部と、上記接地底板部の周縁部に沿って立設された周縁竪補強板部とを備えるアンカー工法用受圧板が開示されている。該アンカー工法用受圧板では、上記接地底板部と上記周縁竪補強板部とで囲まれる凹部に対して外部と連通させる連通路を形成する水抜き孔を上記接地底板部に有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-328730号公報
【特許文献2】特開平03-161615号公報
【特許文献3】特開2002-348866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地盤を補強するために、従来の受圧板を用いた場合には、地盤を押圧することができ、地山の斜面崩壊や地滑りの発生をある程度防止することができる。
【0009】
しかしながら、従来の受圧板では、地震等の外部応力や、雨水及び地下水等の環境条件の変化等により、受圧板を設置した地盤にひび割れや空隙が発生すると、地盤を十分に押圧することができず、再度の補強が必要となる。
【0010】
また、特許文献3に記載されたアンカー工法用受圧板では、上記水抜き孔を設けることにより草木の植栽機能を高めることで、地山の景観を良くするだけでなく、植栽により地盤を強化する効果も期待されるが、その効果は植物に依存するため不安定である。
【0011】
従来、地盤を長期間にわたり自己治癒的に修復又は強化することができる受圧板は知られていない。
【0012】
本発明の目的は、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる受圧板を提供することである。また、本発明の目的は、上記受圧板を用いた地盤の補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書において、以下の受圧板及び地盤の補強方法を開示する。
【0014】
項1.受圧板本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、受圧板。
【0015】
項2.前記難水溶性塩が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄である、項1に記載の受圧板。
【0016】
項3.前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1又は2に記載の受圧板。
【0017】
項4.前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1~3のいずれか1項に記載の受圧板。
【0018】
項5.前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、項1~4のいずれか1項に記載の受圧板。
【0019】
項6.前記受圧板本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む、項1~5のいずれか1項に記載の受圧板。
【0020】
項7.グラウンドアンカーと、項1~6のいずれか1項に記載の受圧板とを用いて、地盤を補強する、地盤の補強方法。
【0021】
項8.前記受圧板本体が、セメントミルクの硬化物又はモルタルの硬化物を含む、項7に記載の地盤の補強方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る受圧板は、受圧板本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る受圧板では、上記の構成が備えられているので、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、本発明の第3の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0025】
(受圧板)
本発明に係る受圧板は、受圧板本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(以下、「イオン放出性化合物」と記載することがある)とを含む。本発明に係る受圧板では、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【0026】
なお、本明細書において、「難水溶性塩」とは、難水溶性塩1gを水100g中に入れ、20℃で10分間保持したときに、水に溶ける難水溶性塩の重量が0.1g以下である塩を意味する。
【0027】
本発明に係る受圧板では、上記の構成が備えられているので、設置した箇所及びその周囲の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。より具体的には、本発明に係る受圧板を設置した箇所及びその周囲において、上記受圧板中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。これにより、上記受圧板を設置した箇所及びその周囲が緻密化され、地盤を長期的に補強することができる。本発明は、地盤の予防保全に寄与する。
【0028】
本発明に係る受圧板では、上記受圧板を設置した箇所において、上記受圧板が、地盤等に付着した水分等と接触した場合には、上記受圧板中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、水分等と受圧板との接触面において、難水溶性塩を生成可能である。すなわち、本発明に係る受圧板は、上記受圧板の表面に、難水溶性塩の層を生成可能である。生成した難水溶性塩により、設置した箇所及びその周囲の強度はさらに高められる。なお、上記難水溶性塩は、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。また、生成した難水溶性塩により、受圧板と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、受圧板の劣化及び地盤の浸食を効果的に抑えることができる。
【0029】
また、本発明に係る受圧板は、設置する箇所が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。さらに、本発明に係る受圧板は、設置する箇所から水が流出している場合であっても、用いることができる。
【0030】
上記受圧板は、地盤を補強するために好適に用いられる。上記受圧板は、特に、斜面(法面)を補強するために好適に用いられる。上記受圧板は、斜面(法面)を補強する斜面(法面)用の受圧板であることが好ましい。
【0031】
上記受圧板を用いることができる斜面の傾斜角は、特に限定されない。上記斜面の傾斜角は、0°を超えていてもよく、30°以上であってもよく、45°以上であってもよく、90°以下であってもよく、75°以下であってもよく、60°以下であってもよい。
【0032】
上記受圧板の形状は、特に限定されない。上記受圧材の形状としては、クロスタイプ、セミスクエアタイプ、又はスクエアタイプ等が挙げられる。接地面の地盤の緻密性を良好にする観点からは、上記受圧材の形状は、スクエアタイプであることが好ましい。
【0033】
図1(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【0034】
図1(a)及び(b)に示す受圧板は、クロスタイプの受圧板である。
図1における寸法A、B、L、C、H及びH
1は、受圧板に求められる大きさ及び規格に従って、適宜設定することができる。
【0035】
図2(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【0036】
図2(a)及び(b)に示す受圧板は、セミスクエアタイプの受圧板である。
図2における寸法A、B、L、C、H、H
1及びH
2は、受圧板に求められる大きさ及び規格に従って、適宜設定することができる。
【0037】
図3(a)及び(b)は、本発明の第3の実施形態に係る受圧板を示す平面図及び正面図である。
【0038】
図3(a)及び(b)に示す受圧板は、スクエアタイプの受圧板である。
図3における寸法A、B、L、C、H、H
1及びH
2は、受圧板に求められる大きさ及び規格に従って、適宜設定することができる。
【0039】
施工性と反力を良好にする観点からは、上記受圧板の1部材重量は、好ましくは0.1t以上、より好ましくは0.2t以上、さらに好ましくは0.5t以上であり、好ましくは2t以下、より好ましくは1.5t以下、さらに好ましくは1t以下である。
【0040】
施工性(単位面積あたりの施工数を少なくする)を良好にする観点からは、上記受圧板の受圧面積は、好ましくは1m2以上、より好ましくは2m2以上、さらに好ましくは3m2以上であり、好ましくは10m2以下、より好ましくは8m2以下、さらに好ましくは6m2以下である。
【0041】
上記受圧板は、グラウンドアンカーと併用され固定される。上記受圧板は、打設したグラウンドアンカーにより定着されることが好ましい。上記受圧板は、グラウンドアンカーの緊張力により地盤を押圧保持するために好適に用いられる。上記グラウンドアンカーは、特に限定されない。上記グラウンドアンカーとしては、公知のグラウンドアンカーを用いることができる。
【0042】
以下、本発明に係る受圧板の詳細などを説明する。
【0043】
<受圧板本体>
上記受圧板本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含むことが好ましく、セメントミルクの硬化物又はモルタルの硬化物を含むことがより好ましい。上記受圧板本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体を含んでいてもよく、繊維強化プラスチックを含んでいてもよく、セメントミルクの硬化物を含んでいてもよく、モルタルの硬化物を含んでいてもよく、コンクリートの硬化物を含んでいてもよい。上記受圧板本体の材料は、長繊維、ポリオール化合物、及びイソシアネート化合物を含んでいてもよく、繊維、及びプラスチック(樹脂)を含んでいてもよく、セメントミルクを含んでいてもよく、モルタルを含んでいてもよく、コンクリートを含んでいてもよい。また、コンクリート硬化物は鉄筋や鉄繊維を含んでいてもよい。
【0044】
[長繊維を含むウレタン樹脂体]
上記受圧板本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体(以下、「ウレタン樹脂体」と記載することがある)を含むことが好ましい。上記受圧板本体の材料は、長繊維と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物とを含むことが好ましい。上記受圧板本体が長繊維を含むウレタン樹脂体を含む場合、すなわち、上記受圧板本体の材料が長繊維と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物とを含む場合には、屋外使用時の耐腐食性と受圧板を製造する際の加工性(組み立て)を良好にすることができる。
【0045】
上記ウレタン樹脂体は、上記受圧板本体の材料を成形することにより得ることができる。受圧板の剛性及び強度を良好にする観点からは、上記ウレタン樹脂体は、ウレタン発泡樹脂体(長繊維を含むウレタン発泡樹脂体)であることが好ましい。施工性(重量を軽減)を良好にする観点からは、上記ウレタン樹脂体は、ウレタン樹脂の発泡体であることが好ましい。
【0046】
上記長繊維としては、炭素長繊維、ガラス長繊維、アラミド長繊維、及び長尺強化繊維等が挙げられる。上記長繊維は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
上記長繊維は、強化長繊維であることが好ましい。強化長繊維は、強化繊維であり、長繊維である。強化繊維は、一定の強度を有する繊維状物である。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維等が知られている。上記強化長繊維は、強化長繊維シートであってもよい。
【0048】
受圧板の曲げ弾性率を高める観点からは、上記強化長繊維は、ガラス長繊維であることが好ましい。上記ガラス長繊維とは、ガラスを融解、牽引して繊維状にした繊維状物である。
【0049】
強度をより一層高める観点からは、上記長繊維の繊維長は、50mm以上であることが好ましく、70mm以上であることがより好ましい。なお、長繊維は、引抜成形後に所望の大きさで裁断することができ、裁断する長さによって長繊維の繊維長を適宜変えることができる。このため、長繊維の繊維長の上限は特に限定されない。寸法精度を高める観点からは、上記長繊維の繊維長は、10m以下であってもよい。また、長繊維の繊維長が長くても、長繊維に、長繊維以外の成分を含む組成物を含浸させることにより、長繊維が切断されたり、絡み合ったりしにくくすることができる。また、引抜成形することにより、長繊維の配合割合を多くしても成形可能である。
【0050】
上記長繊維は、モノフィラメントを引き揃えてロービングした繊維であることが好ましい。上記モノフィラメントの繊維径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0051】
上記ウレタン樹脂体100体積%中、上記長繊維の含有量(体積含有率)は、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、好ましくは80体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。上記長繊維の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、受圧板の曲げ弾性率を高めることができる。
【0052】
上記長繊維の体積含有率は、JIS K7052に記載の焼成法に準拠して求めることができる。
【0053】
上記長繊維は、上記ウレタン樹脂体中に均等に分散していることが好ましい。
【0054】
上記受圧板本体(ウレタン樹脂体)の材料のうち長繊維を除く組成物を、長繊維間に含浸した後、硬化させることで、長繊維を含むウレタン樹脂体を得ることができる。
【0055】
上記受圧板本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体を含む場合に、上記受圧板の製造方法は、特に限定されない。上記受圧板の製造方法は、(1)ポリオール化合物と、イソシアネート化合物と、上記イオン放出性化合物とを混合して含浸液を得る工程と、(2)上記含浸液を長繊維間に含浸させる工程と、(3)上記含浸液中の上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とを硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0056】
上記受圧板本体100重量%中、上記長繊維の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、更に好ましくは60重量%以下である。上記長繊維の含有量が上記下限以上であると、受圧板の曲げ弾性率がより一層高くなる。また、上記長繊維の含有量が上記上限以下であると、上記受圧板本体の材料のうち長繊維を除く組成物において、長繊維に含浸されていない部分が生じ難くなり、受圧板の破損の原因となる欠陥が生じ難くなる。
【0057】
上記ポリオール化合物としては、ポリラクトンポリオール、芳香族ポリオール、脂環族ポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリエーテルポリオール等が挙げられる。上記ポリオール化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
受圧板形状の成形性を良好にする観点から、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましく、ポリエーテルポリオールであることがより好ましい。
【0059】
上記ポリオール化合物の23℃での粘度は、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s以上であり、好ましくは1500mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以下である。上記ポリオール化合物の23℃での粘度が、上記下限以上及び上限以下であると、受圧板の曲げ弾性率を高めることができる。
【0060】
上記ポリオール化合物の23℃での粘度は、例えば、ブルックフィールド型粘度計を用いて測定することができる。
【0061】
上記イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物であることが好ましい。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、及び脂肪族ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
上記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。
【0063】
上記脂環式ポリイソシアネート化合物としては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0064】
上記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
入手が容易であり、利便性に優れることから、上記イソシアネート化合物は、ジフェニルメタンジイソシアネートであることが好ましい。
【0066】
上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とは、ウレタン結合を効率的に形成するように、適宜の配合量で用いることができる。
【0067】
上記イソシアネート化合物が有する全イソシアネート基の数の、上記ポリオール化合物が有する全活性水酸基の数に対する割合(イソシアネート化合物が有する全イソシアネート基の数×100/ポリオール化合物が有する全活性水酸基の数)を、イソシアネートインデックスとする。上記イソシアネートインデックスは、好ましくは120以上、より好ましくは200以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下である。上記イソシアネートインデックスが上記下限以上であると、高い難燃性を示す骨格であるイソシアヌレート環がより一層効果的に形成されることから、受圧板の難燃性を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記上限以下であると、イソシアヌレート環の形成を効果的に停止させることができることから、受圧板の曲げ弾性率を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記下限以上及び上記上限以下であると、上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物との反応効率を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記下限以上であると、未反応のポリオール化合物又は未反応のイソシアネート化合物が少なくなり、良好な曲げ弾性率を有する受圧板が形成されやすい。
【0068】
上記受圧板本体の材料は、触媒を含むことが好ましい。上記触媒としては、ウレタン化触媒、及び三量化触媒等が挙げられる。上記触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0069】
上記受圧板本体の材料は、ウレタン化触媒を含むことが好ましい。上記ウレタン化触媒は、上記ポリオール化合物の水酸基と、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基との反応を促進させ、ウレタン結合の形成を促進する。
【0070】
上記ウレタン化触媒としては、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジウラレート及びジブチルビス(オレオイルオキシ)スタンナン等の有機錫化合物、トリエチルアミン、N-メチルモルホリンビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、及びN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン等の第3級アミン化合物、N,N,N’-トリメチルアミノエチル-エタノールアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチル,N’-ジメチルアミノエチルピペラジン、並びにイミダゾール環中の第2級アミン官能基がシアノエチル基で置換されたイミダゾール化合物等が挙げられる。上記ウレタン化触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
上記ウレタン化触媒は、上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とが良好に反応するように、適宜の含有量で用いることができる。上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記ウレタン化触媒の含有量は、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.02重量部以上、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.8重量部以下である。上記ウレタン化触媒の含有量が上記下限以上であると、ウレタン化反応が効果的に進行する。上記ウレタン化触媒の含有量が上記上限以下であると、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基の三量化が阻害されにくくなる。
【0072】
上記三量化触媒は、イソシアネート化合物のイソシアネート基の三量化反応を促進させ、イソシアヌレート環の形成を促進する。さらに、上記三量化触媒は、ウレタン樹脂体の燃焼時の膨張を抑制する。
【0073】
上記三量化触媒としては、芳香族化合物、カルボン酸のアルカリ金属塩、カルボン酸の4級アンモニウム塩、及び4級アンモニウム塩/エチレングリコール混合物等が挙げられる。上記芳香族化合物としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、及び2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等が挙げられる。上記カルボン酸のアルカリ金属塩としては、酢酸カリウム、及び2-エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。上記三量化触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0074】
上記三量化触媒は、三量化反応が良好に促進されるように、適宜の含有量で用いることができる。上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記三量化触媒の含有量は好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.8重量部以下である。上記三量化触媒の含有量が上記下限以上であると、ウレタン樹脂体の形成時にウレタン樹脂体の膨張を抑制しやすい。上記三量化触媒の含有量が上記上限以下であると、ウレタン結合の生成が阻害されにくくなる。
【0075】
ウレタン発泡樹脂体を得る観点から、上記受圧板本体の材料は、発泡剤を含むことが好ましい。発泡剤により上記受圧板本体の材料を発泡させることで、ウレタン発泡樹脂体を得ることができる。結果として、施工性(重量を軽減)を良好にすることができる。
【0076】
上記発泡剤としては、水、及び有機ハロゲン化合物等が挙げられる。入手が容易であり、利便性に優れることから、上記発泡剤は水であることが好ましい。水はイソシアネート化合物と反応してCO2を発生させることにより発泡剤として作用する。上記発泡剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0077】
上記有機ハロゲン化合物としては、有機塩素化合物、有機フッ素化合物、有機臭素化合物、及び有機ヨウ素化合物等が挙げられる。上記有機ハロゲン化合物は、水素原子の全てがハロゲン原子で置換された有機ハロゲン化合物であってもよく、水素原子の一部がハロゲン原子で置換された有機ハロゲン化合物であってもよい。発泡性を良好にし、受圧板の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機ハロゲン化合物は、有機塩素化合物、又は有機フッ素化合物であることが好ましい。
【0078】
上記有機塩素化合物としては、飽和有機塩素化合物、及び不飽和有機塩素化合物等が挙げられる。上記飽和有機塩素化合物としては、ジクロロエタン、プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、ブチルクロライド、イソブチルクロライド、ペンチルクロライド、及びイソペンチルクロライド等が挙げられる。発泡性を良好にし、受圧板の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機塩素化合物は、飽和有機塩素化合物であることが好ましく、炭素数が2~5の飽和有機塩素化合物であることがより好ましい。
【0079】
上記有機フッ素化合物としては、飽和有機フッ素化合物、及び不飽和有機フッ素化合物等が挙げられる。
【0080】
発泡性を良好にし、受圧板の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機ハロゲン化合物は、ヒドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、又はハイドロフルオロオレフィンであることが好ましい。
【0081】
発泡倍率は、好ましくは1.5以上であり、好ましくは3.0未満である。上記発泡倍率が上記下限以上であると、ウレタン発泡樹脂体の重量が小さくなり、ウレタン発泡樹脂体の取り扱いが容易になる。上記発泡倍率が上記上限未満であると、ウレタン発泡樹脂体の強度の低下が抑えられる。
【0082】
なお、上記受圧板本体の材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、整泡剤等を含んでいてもよい。上記整泡剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0083】
上記整泡剤とは、気泡の粗大化、不均一化を防ぎ、気泡を安定かつ良好に形成させることができる物質である。
【0084】
上記整泡剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン整泡剤、及びオルガノポリシロキサン等のシリコーン整泡剤等が挙げられる。
【0085】
上記整泡剤は、気泡を安定かつ良好に形成するように、適宜の含有量で用いることができる。気泡を安定かつ良好に形成する観点からは、上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記整泡剤の含有量は、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0086】
[繊維強化プラスチック(FRP)]
上記受圧板本体は、繊維強化プラスチック(FRP)を含むことが好ましい。上記繊維強化プラスチックでは、繊維中に樹脂が含浸されている。上記受圧板本体が繊維強化プラスチックを含む場合には、剛性、強度、及び耐腐食性を良好にすることができる。
【0087】
施工性を良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックは、一体の受圧板形状であることが好ましい。
【0088】
上記繊維強化プラスチックとしては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)、及び天然繊維強化プラスチック(NFRP)等が挙げられる。
【0089】
コストを良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチックであることが好ましい。面強度を良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックでは、ガラス繊維基材に樹脂が含浸されていることが好ましい。
【0090】
上記繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、及び天然繊維等が挙げられる。
【0091】
コストを良好にする観点からは、上記繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。受圧板の強度を高める観点からは、上記ガラス繊維は、ガラスロービングクロス、又はガラスロービングマットであることが好ましい。上記受圧板本体は、ガラスロービングクロス、又はガラスロービングマットを含むことが好ましい。
【0092】
製造コストを抑える観点からは、上記繊維は、繊維束であることが好ましい。上記繊維束は、複数の繊維の束である。上記繊維束は、例えば、強化繊維束である。繊維束の弾性率、特に強化繊維束の弾性率は比較的高い。上記繊維束の形態は特に限定されない。上記繊維束は、ステッチ等により形成された繊維シートであってもよい。
【0093】
上記繊維束における繊維の本数は特に限定されない。受圧板の強度を高める観点からは、ガラス繊維の場合上記繊維束における繊維の本数は、好ましくは100本以上、より好ましくは200本以上であり、好ましくは1000本以下、より好ましくは500本以下である。炭素繊維の場合は1000本以上50000本以下が好ましい。
【0094】
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよい。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0095】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0096】
上記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ系樹脂、及びフェノール系樹脂等が挙げられる。
【0097】
上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。受圧板の強度を高める観点からは、上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されることが好ましい。
【0098】
受圧板の強度を高める観点からは、上記樹脂は、熱硬化性樹脂の硬化物であることが好ましい。受圧板の強度を高める観点からは、上記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ系樹脂、又はフェノール系樹脂であることがより好ましく、不飽和ポリエステル樹脂、又はエポキシ樹脂であることがさらに好ましく、不飽和ポリエステル樹脂であることが特に好ましい。
【0099】
上記受圧板本体が、繊維強化プラスチックを含む場合に、上記受圧板の製造方法は、特に限定されない。上記受圧板の製造方法は、(1)上記樹脂と、上記イオン放出性化合物とを混合して含浸液を得る工程と、(2)上記含浸液を繊維基材中の繊維に含浸させる工程と、(3)上記含浸液中の上記樹脂を硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0100】
剛性、及び強度を良好にする観点からは、上記受圧板本体100体積%中、上記繊維の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であり、好ましくは65体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。
【0101】
[セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、及びコンクリートの硬化物]
上記受圧板本体は、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含むことが好ましい。上記受圧板本体の材料は、セメントミルク、モルタル、又はコンクリートを含むことが好ましい。
【0102】
上記受圧板本体がセメントミルクの硬化物を含む場合、すなわち、上記受圧板本体の材料がセメントミルクを含む場合には、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。上記受圧板本体がモルタルの硬化物又はコンクリートの硬化物を含む場合、すなわち、上記受圧板本体の材料がモルタル又はコンクリートを含む場合には、セメントの硬化に伴う収縮(自己収縮)及び硬化後の乾燥に伴う収縮(乾燥収縮)を抑制することができる。
【0103】
なお、本明細書において、「セメントミルク」とは、セメントと水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメントミルク」は、細骨材及び粗骨材を含まない。本明細書において、「モルタル」とは、セメントと細骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「モルタル」は、粗骨材を含まない。本明細書において、「コンクリート」とは、セメントと細骨材と粗骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメント」とは、石灰石、粘土、珪石、及び酸化鉄原料等を主原料とし、水との化学反応で硬化可能な粉体を意味する。
【0104】
上記セメントミルク、上記モルタル、及び上記コンクリートに含まれるセメントは、特に限定されない。上記セメントミルク、上記モルタル、及び上記コンクリートに含まれるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメント等が挙げられる。上記セメントは、繊維強化セメントであってもよい。上記ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントであってもよく、特殊ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント)であってもよい。
【0105】
上記粗骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂利、及び砕石等が挙げられる。上記砂利としては、川砂利、山砂利、海砂利、及び火山砂利等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記粗骨材は、砂利であることが好ましい。
【0106】
上記粗骨材の平均粒子径は、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上であり、好ましくは2000mm以下、より好ましくは100mm以下である。上記粗骨材の平均粒子径が上記下限以上であると、受圧板の強度を高めることができる。上記粗骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記粗骨材が沈下することを抑制し、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。
【0107】
上記細骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記細骨材は、砂であることが好ましい。
【0108】
上記細骨材の平均粒子径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下である。上記細骨材の平均粒子径が上記下限以上であると、受圧板の強度を高めることができる。上記細骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記細骨材が沈下することを抑制し、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。
【0109】
上記受圧板本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記受圧板の製造方法は、特に限定されない。上記受圧板の製造方法は、(1)セメントミルク、モルタル、又はコンクリートと、上記イオン放出性化合物とを混合して混合物を得る工程と、(2)上記セメントミルク、上記モルタル、又は上記コンクリートを硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0110】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルク100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0111】
上記セメントミルクにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上であり、好ましくは125重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは66重量部以下である。上記水(混錬用水)の含有量が上記下限以上であると、上記セメントと水(混錬用水)とを良好に反応させることができ、受圧板の強度を高めることができる。上記水(混錬用水)の含有量が上記上限以下であると、上記セメントと水(混錬用水)とを均一に混合することができ、受圧板の強度を高めることができる。
【0112】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0113】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。
【0114】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは900重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは250重量部以下である。
【0115】
上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは60重量部以下である。上記水(混錬用水)の含有量が上記下限以上であると、上記セメントと水(混錬用水)とを良好に反応させることができ、受圧板の強度を高めることができる。上記水(混錬用水)の含有量が上記上限以下であると、上記セメントと水(混錬用水)とを均一に混合することができ、受圧板の強度を高めることができる。
【0116】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリート100重量%中、粗骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0117】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリート100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0118】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、粗骨材の含有量は、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは300重量部以下である。
【0119】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは300重量部以下である。
【0120】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは75重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは125重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは180重量部以下、さらに好ましくは160重量部以下である。
【0121】
上記受圧板の材料100重量%中、上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0122】
上記受圧板本体の材料100重量%中、上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは93重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0123】
<イオン放出性化合物>
上記受圧板は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(イオン放出性化合物)を含む。上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能である。
【0124】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陰イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物とを含んでいてもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0125】
上記イオン放出性化合物は、地盤等に付着した水分等との接触により、難水溶性塩を生成することが好ましい。上記受圧板を設置した箇所に至った水又は湿気により、上記イオン放出性化合物より陽イオン又は陰イオンが放出されることが好ましい。具体的には、上記イオン放出性化合物が陽イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと、水分等に溶解した陰イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陰イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陰イオンと、水分等に溶解した陽イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物、又は陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが、水分等を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が形成されることが好ましい。
【0126】
上記イオン放出性化合物は、無機塩であってもよく、イオン交換樹脂であってもよく、イオン錯体であってもよい。
【0127】
上記イオン放出性化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記イオン放出性化合物は、これらのイオン放出性化合物であることが好ましい。これらのイオン放出性化合物は、難水溶性塩をより一層効果的に生成可能である。
【0128】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0129】
上記陽イオンを放出可能な化合物は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。上記陽イオンを放出可能な化合物が上記の好ましい化合物であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は乳酸バリウムであることがより好ましく、乳酸カルシウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましく、有機酸カルシウム塩であることがより好ましい。上記有機酸カルシウム塩としては、酢酸カルシウム、及び乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0130】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0131】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましく、炭酸水素ナトリウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0132】
上記陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0133】
難水溶性塩をより一層良好に生成する観点からは、上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であることが好ましく、カルシウムイオンを放出可能な化合物と炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物との混合物であることがより好ましい。
【0134】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0135】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄であることが好ましく、炭酸カルシウムであることがより好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄を生成可能であることが好ましく、炭酸カルシウムを生成可能であることがより好ましい。
【0136】
上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0137】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、受圧板中での分散性を高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、上記イオン放出性化合物が後述するコーティング剤により良好に被覆され、受圧板中での分散性を高めることができる。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記上限以下であると、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。
【0138】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、平均粒子径であることが好ましい。上記平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0139】
上記受圧板では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていてもよい。上記イオン放出性化合物は、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記受圧板では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていることが好ましい。特に、上記受圧板本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記受圧板では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記受圧板は、上記イオン放出性化合物を内包物として含有するマイクロカプセルを含むことが好ましい。上記イオン放出性化合物の表面がコーティング剤により被覆されているか、又は、上記イオン放出性化合物がマイクロカプセルの内包物であると、上記イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0140】
上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、水又は湿気等の水分が受圧板と接触し、該水分が上記コーティング剤の内部に拡散浸入したときに、陽イオン又は陰イオンを放出可能であることが好ましい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤中の空隙より陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤の内部に拡散し、陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。これらの場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0141】
上記マイクロカプセルは、上記イオン放出性化合物を放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水又は湿気等の水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0142】
上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、上記イオン放出性化合物の種類により適宜選択することができる。上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、カップリング剤又は樹脂を含むことが好ましい。この場合には、受圧板中での上記イオン放出性化合物の分散性を高め、陽イオン又は陰イオンを放出する時期及び量を良好に制御することができる。また、マイクロカプセルを構成する膜の厚みを均一にすることができ、上記イオン放出性化合物の表面をコーティング剤により均一に被覆することができる。
【0143】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤等が挙げられる。
【0144】
上記樹脂としては、水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、及び硬化性樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記受圧板の材料が樹脂を含む場合には、上記受圧板の材料に含まれる樹脂と、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0145】
上記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸樹脂(PLA樹脂)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、及びメチルセルロース等が挙げられる。
【0146】
上記熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0147】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPDM)、イソブチレン-イソプレン共重合体、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0148】
上記硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、及び湿気硬化性樹脂等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0149】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、及びポリウレア樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。
【0150】
上記光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。上記光硬化性樹脂は、光重合開始剤と併用されてもよい。
【0151】
上記湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化性ウレタン樹脂、及び加水分解性シリル基含有樹脂等が挙げられる。
【0152】
イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことがさらに好ましい。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体であることが特に好ましい。
【0153】
上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、特に限定されない。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤の被覆層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0154】
上記受圧板及び上記受圧板の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは45重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。
【0155】
上記受圧板本体及び上記受圧板本体の材料100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、特に好ましくは20重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは70重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。
【0156】
上記受圧板及び上記受圧板の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が上記上限以下であると、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。
【0157】
上記受圧板本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記受圧板本体の材料における上記セメントミルク、上記モルタル、又は上記コンクリート中のセメントの含有量100重量部に対する、上記イオン放出性化合物の含有量を、イオン放出性化合物の含有量(A)とする。上記イオン放出性化合物の含有量(A)は、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは40重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量(A)が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。上記イオン放出性化合物の含有量(A)が上記上限以下であると、受圧板の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、受圧板の材料の注入性を高めることができる。
【0158】
<他の成分>
上記受圧板は、必要に応じて、上記受圧板本体、上記イオン放出性化合物、及び上記コーティング剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記受圧板の材料は、必要に応じて、上記受圧板本体の材料、上記イオン放出性化合物、及び上記コーティング剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0159】
(地盤の補強方法)
本発明に係る受圧板を用いて、地盤を補強することができる。本発明に係る地盤の補強方法は、グラウンドアンカーと、上述した受圧板とを用いて、地盤を補強する地盤の補強方法である。地盤を補強する際に、受圧板が形成されてもよい。グラウンドアンカーと地盤とを定着させる際に、受圧板が形成されてもよい。これらの場合にも、地盤を補強する地盤の補強方法において、受圧板を用いていると解釈する。
【0160】
本発明に係る地盤の補強方法では、上記の構成が備えられているので、地盤を補強し、長期に安定した状態に保持することができる。上記地盤の補強方法は、特に、斜面(法面)の補強に好適に用いられる。
【0161】
上記地盤の補強方法では、PUC受圧板工法、GET受圧板工法、ざぶとん裏込め工法、又はセットパイプ工法により施工されてもよい。上記地盤の補強方法は、例えば、以下の工程を備えていてもよい。(1)地盤を削孔する工程。(2)グラウンドアンカーを打設する工程。(3)セットパイプを設置する工程。(4)ざぶとん材を設置する工程。(5)受圧板を配置する工程。(6)ざぶとん材にセメントミルクを注入する工程。(7)アンカーキャップ及び受圧板キャップを取り付ける工程。
【0162】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0163】
以下の材料を用意した。
【0164】
(受圧板本体)
セメントミルクの硬化物、又はコンクリートの硬化物:
セメント(太平洋セメント社製「普通ポルトランドセメント」)
細骨材(塚田陶管社製「コンクリート用粉砂A 7号」、平均粒子径3mm)
粗骨材(塚田陶管社製「コンクリート用砕石2005A 4号」、平均粒子径25mm)
混錬用水
混和剤(竹本油脂社製「チューポールNV-G5」)
【0165】
繊維強化プラスチック:
ガラス繊維基材(日東紡社製「チョップドストランドマット MC600A」、目付600g/m2、幅104cm)
不飽和ポリエステル樹脂(日本ユピカ社製「ユピカ#2120」)
PETフィルム(東レ社製「セラピール」)
硬化助剤(オクチル酸コバルト、コバルト濃度5モル%)
触媒(日油社製「パーメックN」)
【0166】
長繊維を含むウレタン樹脂体:
ガラス長繊維(繊維径23μmのモノフィラメントを多数引き揃えてロービングしたガラス長繊維)
ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン社製「9158」、23℃での粘度500mPa・s)
ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー社製「ポリメリックMDI」、23℃での粘度200mPa・s)
ウレタン化触媒1(ジブチル錫ジマレート)
ウレタン化触媒2(3級アミン化合物、東ソー社製「TOYOCAT-DB30」)
発泡剤(水)
整泡剤(シリコンオイル、東レダウシリコン社製「SZ-1729」)
【0167】
(イオン放出性化合物)
炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径100μm)
酢酸カルシウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径10μm)
塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径107μm)
【0168】
(コーティング剤)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製「EVAウルトラセン#636」)
【0169】
(実施例1)
コンクリート(受圧板本体の材料)の作製:
セメント35kgと、細骨材76.7kgと、粗骨材112.7kgと、混錬用水15.7kgと、混和剤0.4kgとを混錬して、コンクリート240.5kgを得た。
【0170】
試験体Aの作製:
炭酸水素ナトリウム(平均粒子径107μm)と、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した後に冷凍粉砕、分級することにより、炭酸水素ナトリウムの表面の一部以上がエチレン-酢酸ビニル共重合体により被覆された平均粒子径50μmの粉体を得た。上記粉体100重量%中、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、80重量%であった。コンクリート100kgに、得られた粉体10kgを混合して、木型(幅50cm×奥行50cm×高さ10cm)の容器に充填し、23℃及び60%RHの条件で28日間静置して湿潤硬化させた後、容器から取り出して、試験体Aを得た。
【0171】
(実施例2)
繊維強化プラスチック(受圧板本体の材料)及び試験体Bの作製:
PETフィルムを6枚用意し、各PETフィルム上で不飽和ポリエステル樹脂1kgと、硬化助剤5gと、触媒10gとを混合し、炭酸ナトリウム250gと、酢酸カルシウム250gとを添加し、混合して含浸溶液を調製した。また、ガラス繊維基材を長さ1mで6枚カットした。各ガラス繊維基材の表面上に、含浸溶液を振りかけ、その上面を各PETフィルムで覆い、含浸ローラーを用いてガラス繊維基材中のガラス繊維に含浸させた。その後、各PETフィルムを剥がし、6枚を積層し、その上下をPETフィルムで挟み込み、押圧及び脱泡した後、2時間硬化させて、試験体Bを得た。
【0172】
(実施例3)
長繊維を含むウレタン樹脂体の材料(受圧板本体の材料)の作製:
ポリエーテルポリオール100重量部と、ジブチル錫ジマレート0.1重量部と、3級アミン化合物0.3重量部と、発泡剤(水)0.12重量部と、整泡剤0.3重量部と、塩化カルシウム10重量部と、炭酸水素ナトリウム(平均粒子径5mm品を粉砕し、100μm以下の粒子を分級した粉砕物)10重量部とを混合して、第1の組成物を得た。また、第2の組成物としてジフェニルメタンジイソシアネート140重量部を用意した。また、凹部を有する金属型(凹部:幅10cm×奥行50cm×高さ10cm)と、凸部を有する金属体(凸部:幅10cm×奥行50cm×高さ1cm)とを各5個用意し、ガラス長繊維を金属型の凹部の奥行方向に平行に配置した。
【0173】
試験体Cの作製:
得られた第1の組成物に、第2の組成物を添加して、30秒間撹拌し、各金属型のガラス長繊維に含浸させ、金属体を、各金属体の凸部と各金属型の凹部とが対向するように配置して23℃で5分間静置し、長繊維を含むウレタン発泡樹脂体を5個得た。得られた5個のウレタン発泡樹脂体を、接着剤(常温硬化型エポキシ樹脂、スリーボンド社製「TB2088E」)を用いて並列に接着して、試験体C(幅50cm×奥行50cm×高さ9cm)を得た。
【0174】
(実施例4)
セメントミルク(受圧板本体の材料)の作製:
セメント20kgと、混錬用水10kgとを混錬して、セメントミルク30kgを得た。
【0175】
試験体Dの作製:
炭酸ナトリウムと、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した後に冷凍粉砕、分級することにより、炭酸ナトリウムの表面の一部以上がエチレン-酢酸ビニル共重合体により被覆された平均粒子径50μmの粉体を得た。同様に、酢酸カルシウムと、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した後に冷凍粉砕、分級することにより、酢酸カルシウムの表面の一部以上がエチレン-酢酸ビニル共重合体により被覆された平均粒子径50μmの粉体を得た。上記各粉体100重量%中、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、50重量%であった。セメントミルク100kgに、得られた各粉体5kgずつを混合して、受圧板の材料Dを得た。
【0176】
円筒(直径10cm×高さ50cm)の容器にガラスビーズを充填し、容器の中央にステンレスメッシュ製の円筒(直径2cm×高さ50cm、線径0.052mm、網目の大きさ200メッシュ)を挿入し、ステンレスメッシュ製の円筒の内部のガラスビーズを取り除いて模擬注入坑を形成した。該模擬注入坑に、得られた受圧板の材料Dを注入し、23℃及び60%RHの条件で28日間静置して硬化させ、試験体Dを得た。
【0177】
(比較例1)
イオン放出性化合物及びコーティング剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、試験体Eを得た。
【0178】
(比較例2)
イオン放出性化合物を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして、試験体Fを得た。
【0179】
(比較例3)
イオン放出性化合物を用いなかったこと以外は、実施例3と同様にして、試験体Gを得た。
【0180】
(比較例4)
イオン放出性化合物及びコーティング剤を用いなかったこと以外は、実施例4と同様にして、試験体Hを得た。
【0181】
(評価)
(1)難水溶性塩の生成
実施例1~3及び比較例1~3で得られた試験体を、湿潤した珪砂の表面上に配置して、1ヵ月静置した。その後、各試験体の下面と、各試験体の周囲の珪砂の表面とに、粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。
【0182】
また、実施例4及び比較例4の容器内に水を高さ30cmまで注入して、1ヵ月静置した。その後、各円筒の表面と、各円筒の周囲のガラスビーズの表面とに、粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。
【0183】
実施例1~3では、試験体の表面と、試験体の周囲の珪砂の表面との双方において、粒子が析出していた。また、実施例4では、円筒の表面と、円筒の周囲のガラスビーズの表面との双方において、粒子が析出していた。一方、比較例1~3では、試験体の表面と、試験体の周囲の珪砂の表面との双方において、粒子が析出していなかった。また比較例4では、円筒の表面と、円筒の周囲のガラスビーズの表面との双方において、粒子が析出していなかった。表面に粒子が析出している試験体では、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、緻密な結晶構造をもつ粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が観察された。
【0184】
すなわち、実施例1~4では、難水溶性塩の生成が確認され、比較例1~4では、難水溶性塩の生成が確認されなかった。