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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046411
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】シールド掘削用土留め壁
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20240327BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
E02D5/20 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151787
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
【テーマコード(参考)】
2D049
2D054
【Fターム(参考)】
2D049GC01
2D054AC01
2D054EA07
(57)【要約】
【課題】設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地下構造物を長期に安定した状態に保持することができるシールド掘削用土留め壁を提供する。
【解決手段】本発明に係るシールド掘削用土留め壁は、シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁であり、前記シールド掘削用土留め壁が、土留め壁本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁であり、
前記シールド掘削用土留め壁が、土留め壁本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、
前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、シールド掘削用土留め壁。
【請求項2】
前記難水溶性塩が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄である、請求項1に記載のシールド掘削用土留め壁。
【請求項3】
前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【請求項4】
前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、
前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、請求項1又は2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【請求項5】
前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、請求項1又は2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【請求項6】
前記土留め壁本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む、請求項1又は2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地下鉄や道路、共同溝、及び下水道等の地下構造物を建設するためのトンネル工事として、シールド掘削機を利用したシールド工法が広く採用されている。
【0003】
シールド工法では、開切工法によって、出発地点と目的地点とに縦穴(立坑)が形成される。シールド工法では、出発地点の立坑(発進立坑)から地下にシールド掘削機を運び込み、発進立坑の掘削側面をシールド掘削機で掘削して、横方向に発進し、目的地点の立坑(到達立坑)までトンネルを掘削する。
【0004】
ここで、開切工法によって形成された発進立坑及び到達立坑等の立坑では、土圧又は水圧により掘削壁面が崩壊したり、掘削壁面から地下水が流出したりすることがある。したがって、作業時の安全性を確保するために、掘削壁面が補強されることが好ましい。掘削壁面を補強する方法として、土留め壁を形成する方法や、周辺地盤を改良する方法等が挙げられる。
【0005】
下記の特許文献1には、鋼矢板と、上記鋼矢板に連結された易切削部材の矢板とを備える土留め用矢板が開示されている。
【0006】
下記の特許文献2には、複数の剛性部材と、シールド掘削機の発信到達部とを有するシールド掘削用地中連続壁が開示されている。上記シールド掘削用地中連続壁では、上記シールド掘削機の発信到達部は、隣接する上記剛性部材の間に設けられており、ポリウレタン発泡樹脂成形体(FFU)の積層体により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-251354号公報
【特許文献2】特開平09-013875公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の土留め壁(シールド掘削用土留め壁)を用いた場合には、掘削壁面を補強することができ、作業時の安全性をある程度高めることができる。
【0009】
しかしながら、従来の土留め壁を形成する方法では、シールド掘削機により掘削する際に、周辺地盤にひび割れが生じたり、土留め壁と地盤との間に空隙が生じたりすることがある。また、地震等の外部応力や、雨水及び地下水等の環境条件の変化等により、土留め壁や土留め壁を設置した地盤に、ひび割れや空隙が生じることがある。土留め壁、地盤、又は土留め壁と地盤との間にひび割れや空隙があると、地下構造物の安全性の観点から、再度の補強が必要となる。
【0010】
従来、土留め壁を長期間にわたり自己治癒的に修復又は強化することができるシールド掘削用土留め壁は知られていない。
【0011】
本発明の目的は、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地下構造物を長期に安定した状態に保持することができるシールド掘削用土留め壁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書において、以下のシールド掘削用土留め壁を開示する。
【0013】
項1.シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁であり、前記シールド掘削用土留め壁が、土留め壁本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、シールド掘削用土留め壁。
【0014】
項2.前記難水溶性塩が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄である、項1に記載のシールド掘削用土留め壁。
【0015】
項3.前記イオン放出性化合物が、陽イオンを放出可能な化合物を含み、前記陽イオンを放出可能な化合物が、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1又は2に記載のシールド掘削用土留め壁。
【0016】
項4.前記イオン放出性化合物が、陰イオンを放出可能な化合物を含み、前記陰イオンを放出可能な化合物が、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムである、項1~3のいずれか1項に記載のシールド掘削用土留め壁。
【0017】
項5.前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、項1~4のいずれか1項に記載のシールド掘削用土留め壁。
【0018】
項6.前記土留め壁本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む、項1~5のいずれか1項に記載のシールド掘削用土留め壁。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るシールド掘削用土留め壁は、シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁であり、上記シールド掘削用土留め壁が、土留め壁本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係るシールド掘削用土留め壁では、上記の構成が備えられているので、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地下構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
(シールド掘削用土留め壁)
本発明に係るシールド掘削用土留め壁(以下、「土留め壁」と記載することがある)は、シールド工法により掘削するときに用いられるシールド掘削用土留め壁である。本発明に係るシールド掘削用土留め壁は、土留め壁本体と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(以下、「イオン放出性化合物」と記載することがある)とを含む。本発明に係る土留め壁では、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【0022】
なお、本明細書において、「難水溶性塩」とは、難水溶性塩1gを水100g中に入れ、20℃で10分間保持したときに、水に溶ける難水溶性塩の重量が0.1g以下である塩を意味する。
【0023】
本発明に係る土留め壁では、上記の構成が備えられているので、設置した箇所及びその周囲の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。より具体的には、本発明に係る土留め壁を設置した箇所及びその周囲において、上記土留め壁中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。これにより、設置した箇所及びその周囲が緻密化され、漏水を効果的に防ぐ(防水性を高める)ことができ、地下構造物を長期に安定した状態に保持する(耐久性を高める)ことができる。本発明は、地盤及び地下構造物の予防保全に寄与する。
【0024】
本発明に係る土留め壁では、上記土留め壁を設置した箇所において、上記土留め壁が、地盤等に付着した水分等と接触した場合には、上記土留め壁中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、水分等と土留め壁との接触面において、難水溶性塩を生成可能である。すなわち、本発明に係る土留め壁は、上記土留め壁の表面に、難水溶性塩の層を生成可能である。生成した難水溶性塩により、上記土留め壁を設置した箇所及びその周囲の強度はさらに高められる。なお、上記難水溶性塩は、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。また、生成した難水溶性塩により、土留め壁と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、土留め壁の劣化を効果的に抑えることができる。
【0025】
本発明に係る土留め壁は、シールド掘削機による掘削前及び掘削後のいずれの場合にも、上記土留め壁の表面に、難水溶性塩の層を生成可能である。
【0026】
また、本発明に係る土留め壁は、設置する箇所が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。さらに、本発明に係る土留め壁は、設置する箇所から水が流出している場合であっても、用いることができる。
【0027】
土留め壁の厚みは、地盤の性状、立坑の深度、立坑の径及び横坑の径により適宜設計される。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記土留め壁の厚みは、好ましくは5cm以上、より好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上であり、好ましくは100cm以下、より好ましくは80cm以下、さらに好ましくは50cm以下である。
【0028】
また、本発明の効果をより一層効果的にする観点からは、地下水がアルカリ性であることが好ましい。
【0029】
以下、本発明に係る土留め壁の詳細などを説明する。
【0030】
<土留め壁本体>
上記土留め壁本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体、繊維強化プラスチック、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含むことが好ましい。上記土留め壁本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体を含んでいてもよく、繊維強化プラスチックを含んでいてもよく、セメントミルクの硬化物を含んでいてもよく、モルタルの硬化物を含んでいてもよく、コンクリートの硬化物を含んでいてもよい。上記土留め壁本体の材料は、長繊維、ポリオール化合物、及びイソシアネート化合物を含んでいてもよく、繊維、及びプラスチック(樹脂)を含んでいてもよく、セメントミルクを含んでいてもよく、モルタルを含んでいてもよく、コンクリートを含んでいてもよい。
【0031】
[長繊維を含むウレタン樹脂体]
上記土留め壁本体は、長繊維を含むウレタン樹脂体(以下、「ウレタン樹脂体」と記載することがある)を含むことが好ましい。上記土留め壁本体の材料は、長繊維と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物とを含むことが好ましい。上記土留め壁本体が長繊維を含むウレタン樹脂体を含む場合、すなわち、上記土留め壁本体の材料が長繊維と、ポリオール化合物と、イソシアネート化合物とを含む場合には、トンネル開削時のシールドマシン先端の切削性を良好にすることができる。
【0032】
上記ウレタン樹脂体は、上記土留め壁本体の材料を硬化させることにより得ることができる。壁の剛性及び強度(土圧に対する耐力)を良好にする観点からは、上記ウレタン樹脂体は、ウレタン発泡樹脂体(長繊維を含むウレタン発泡樹脂体)であることが好ましい。施工性(重量)及び切削性(加工性)を良好にする観点からは、上記ウレタン樹脂体は、ウレタン樹脂の発泡体であることが好ましい。
【0033】
上記長繊維としては、炭素長繊維、ガラス長繊維、アラミド長繊維、及び長尺強化繊維等が挙げられる。上記長繊維は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記長繊維は、強化長繊維であることが好ましい。強化長繊維は、強化繊維であり、長繊維である。強化繊維は、一定の強度を有する繊維状物である。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維等が知られている。上記強化長繊維は、強化長繊維シートであってもよい。
【0035】
土留め壁の曲げ弾性率を高める観点からは、上記強化長繊維は、ガラス長繊維であることが好ましい。上記ガラス長繊維とは、ガラスを融解、牽引して繊維状にした繊維状物である。
【0036】
強度(土圧に対する耐力)をより一層高める観点からは、上記長繊維の繊維長は、50mm以上であることが好ましく、70mm以上であることがより好ましい。なお、長繊維は、引抜成形後に所望の大きさで裁断することができ、裁断する長さによって長繊維の繊維長を適宜変えることができる。このため、長繊維の繊維長の上限は特に限定されない。寸法精度を高める観点からは、上記長繊維の繊維長は、10m以下であってもよい。また、長繊維の繊維長が長くても、長繊維に、長繊維以外の成分を含む組成物を含浸させることにより、長繊維が切断されたり、絡み合ったりしにくくすることができる。また、引抜成形することにより、長繊維の配合割合を多くしても成形可能である。
【0037】
上記長繊維は、モノフィラメントを引き揃えてロービングした繊維であることが好ましい。上記モノフィラメントの繊維径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0038】
上記ウレタン樹脂体100体積%中、上記長繊維の含有量(体積含有率)は、好ましくは3体積%以上、より好ましくは5体積%以上、好ましくは80体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。上記長繊維の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、土留め壁の曲げ弾性率を高めることができる。
【0039】
上記長繊維の体積含有率は、JIS K7052に記載の焼成法に準拠して求めることができる。
【0040】
上記長繊維は、上記ウレタン樹脂体中に均等に分散していることが好ましい。
【0041】
上記土留め壁本体(ウレタン樹脂体)の材料のうち長繊維を除く組成物を、長繊維間に含浸した後、硬化させることで、長繊維を含むウレタン樹脂体を得ることができる。
【0042】
上記土留め壁本体が、長繊維を含むウレタン樹脂体を含む場合に、上記土留め壁の製造方法は、特に限定されない。上記土留め壁の製造方法は、(1)ポリオール化合物と、イソシアネート化合物と、上記イオン放出性化合物とを混合して含浸液を得る工程と、(2)上記含浸液を長繊維間に含浸させる工程と、(3)上記含浸液中の上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とを硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0043】
上記土留め壁本体100重量%中、上記長繊維の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。上記長繊維の含有量が上記下限以上であると、土留め壁の曲げ弾性率がより一層高くなる。また、上記長繊維の含有量が上記上限以下であると、上記土留め壁本体の材料のうち長繊維を除く組成物において、長繊維に含浸されていない部分が生じ難くなり、土留め壁の破損の原因となる欠陥が生じ難くなる。
【0044】
上記ポリオール化合物としては、ポリラクトンポリオール、芳香族ポリオール、脂環族ポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリエーテルポリオール等が挙げられる。上記ポリオール化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
樹脂成形体の成形性を良好にする観点から、上記ポリオール化合物は、ポリエステルポリオール、又はポリエーテルポリオールであることが好ましく、ポリエーテルポリオールであることがより好ましい。
【0046】
上記ポリオール化合物の23℃での粘度は、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは200mPa・s以上であり、好ましくは1500mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以下である。上記ポリオール化合物の23℃での粘度が、上記下限以上及び上限以下であると、土留め壁の曲げ弾性率を高めることができる。
【0047】
上記ポリオール化合物の23℃での粘度は、例えば、ブルックフィールド型粘度計を用いて測定することができる。
【0048】
上記イソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物であることが好ましい。上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、及び脂肪族ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
上記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
上記脂環式ポリイソシアネート化合物としては、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
上記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0052】
入手が容易であり、利便性に優れることから、上記イソシアネート化合物は、ジフェニルメタンジイソシアネートであることが好ましい。
【0053】
上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とは、ウレタン結合を効率的に形成するように、適宜の配合量で用いることができる。
【0054】
上記イソシアネート化合物が有する全イソシアネート基の数の、上記ポリオール化合物が有する全活性水酸基の数に対する割合(イソシアネート化合物が有する全イソシアネート基の数×100/ポリオール化合物が有する全活性水酸基の数)を、イソシアネートインデックスとする。上記イソシアネートインデックスは、好ましくは120以上、より好ましくは200以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下である。上記イソシアネートインデックスが上記下限以上であると、高い難燃性を示す骨格であるイソシアヌレート環がより一層効果的に形成されることから、土留め壁の難燃性を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記上限以下であると、イソシアヌレート環の形成を効果的に停止させることができることから、土留め壁の曲げ弾性率を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記下限以上及び上記上限以下であると、上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物との反応効率を高めることができる。また、上記イソシアネートインデックスが上記下限以上であると、未反応のポリオール化合物又は未反応のイソシアネート化合物が少なくなり、良好な曲げ弾性率を有する土留め壁が形成されやすい。
【0055】
上記土留め壁本体の材料は、触媒を含むことが好ましい。上記触媒としては、ウレタン化触媒、及び三量化触媒等が挙げられる。上記触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0056】
上記土留め壁本体の材料は、ウレタン化触媒を含むことが好ましい。上記ウレタン化触媒は、上記ポリオール化合物の水酸基と、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基との反応を促進させ、ウレタン結合の形成を促進する。
【0057】
上記ウレタン化触媒としては、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジウラレート及びジブチルビス(オレオイルオキシ)スタンナン等の有機錫化合物、トリエチルアミン、N-メチルモルホリンビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、及びN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン等の第3級アミン化合物、N,N,N’-トリメチルアミノエチル-エタノールアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N-メチル,N’-ジメチルアミノエチルピペラジン、並びにイミダゾール環中の第2級アミン官能基がシアノエチル基で置換されたイミダゾール化合物等が挙げられる。上記ウレタン化触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
上記ウレタン化触媒は、上記ポリオール化合物と上記イソシアネート化合物とが良好に反応するように、適宜の含有量で用いることができる。上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記ウレタン化触媒の含有量は、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.02重量部以上、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.8重量部以下である。上記ウレタン化触媒の含有量が上記下限以上であると、ウレタン化反応が効果的に進行する。上記ウレタン化触媒の含有量が上記上限以下であると、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基の三量化が阻害されにくくなる。
【0059】
上記三量化触媒は、イソシアネート化合物のイソシアネート基の三量化反応を促進させ、イソシアヌレート環の形成を促進する。さらに、上記三量化触媒は、ウレタン樹脂体の燃焼時の膨張を抑制する。
【0060】
上記三量化触媒としては、芳香族化合物、カルボン酸のアルカリ金属塩、カルボン酸の4級アンモニウム塩、及び4級アンモニウム塩/エチレングリコール混合物等が挙げられる。上記芳香族化合物としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、及び2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等が挙げられる。上記カルボン酸のアルカリ金属塩としては、酢酸カリウム、及び2-エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。上記三量化触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0061】
上記三量化触媒は、三量化反応が良好に促進されるように、適宜の含有量で用いることができる。上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記三量化触媒の含有量は好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.8重量部以下である。上記三量化触媒の含有量が上記下限以上であると、ウレタン樹脂体の形成時にウレタン樹脂体の膨張を抑制しやすい。上記三量化触媒の含有量が上記上限以下であると、ウレタン結合の生成が阻害されにくくなる。
【0062】
ウレタン発泡樹脂体を得る観点から、上記土留め壁本体の材料は、発泡剤を含むことが好ましい。発泡剤により上記土留め壁本体の材料を発泡させることで、ウレタン発泡樹脂体を得ることができる。結果として、施工性(重量)、及び切削性(加工性)を良好にすることができる。
【0063】
上記発泡剤としては、水、及び有機ハロゲン化合物等が挙げられる。入手が容易であり、利便性に優れることから、上記発泡剤は水であることが好ましい。水はイソシアネート化合物と反応してCOを発生させることにより発泡剤として作用する。上記発泡剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
上記有機ハロゲン化合物としては、有機塩素化合物、有機フッ素化合物、有機臭素化合物、及び有機ヨウ素化合物等が挙げられる。上記有機ハロゲン化合物は、水素原子の全てがハロゲン原子で置換された有機ハロゲン化合物であってもよく、水素原子の一部がハロゲン原子で置換された有機ハロゲン化合物であってもよい。発泡性を良好にし、土留め壁の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機ハロゲン化合物は、有機塩素化合物、又は有機フッ素化合物であることが好ましい。
【0065】
上記有機塩素化合物としては、飽和有機塩素化合物、及び不飽和有機塩素化合物等が挙げられる。上記飽和有機塩素化合物としては、ジクロロエタン、プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、ブチルクロライド、イソブチルクロライド、ペンチルクロライド、及びイソペンチルクロライド等が挙げられる。発泡性を良好にし、土留め壁の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機塩素化合物は、飽和有機塩素化合物であることが好ましく、炭素数が2~5の飽和有機塩素化合物であることがより好ましい。
【0066】
上記有機フッ素化合物としては、飽和有機フッ素化合物、及び不飽和有機フッ素化合物等が挙げられる。
【0067】
発泡性を良好にし、土留め壁の熱伝導率を長期にわたり低く維持する観点からは、上記有機ハロゲン化合物は、ヒドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、又はハイドロフルオロオレフィンであることが好ましい。
【0068】
発泡倍率は、好ましくは1.5以上であり、好ましくは3.0未満である。上記発泡倍率が上記下限以上であると、ウレタン発泡樹脂体の重量が小さくなり、ウレタン発泡樹脂体の取り扱いが容易になる。上記発泡倍率が上記上限未満であると、ウレタン発泡樹脂体の強度の低下が抑えられる。
【0069】
なお、上記土留め壁本体の材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で、整泡剤等を含んでいてもよい。上記整泡剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記整泡剤とは、気泡の粗大化、不均一化を防ぎ、気泡を安定かつ良好に形成させることができる物質である。
【0071】
上記整泡剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン整泡剤、及びオルガノポリシロキサン等のシリコーン整泡剤等が挙げられる。
【0072】
上記整泡剤は、気泡を安定かつ良好に形成するように、適宜の含有量で用いることができる。気泡を安定かつ良好に形成する観点からは、上記ポリオール化合物100重量部に対して、上記整泡剤の含有量は、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0073】
[繊維強化プラスチック(FRP)]
上記土留め壁本体は、繊維強化プラスチック(FRP)を含むことが好ましい。上記繊維強化プラスチックでは、繊維中に樹脂が含浸されている。上記土留め壁本体が繊維強化プラスチックを含む場合には、剛性、強度、及び切削性を良好にすることができる。
【0074】
施工性を良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックは、シート状、又は矩形状であることが好ましい。
【0075】
上記繊維強化プラスチックとしては、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)、及び天然繊維強化プラスチック(NFRP)等が挙げられる。
【0076】
コストを良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチックであることが好ましい。面強度を良好にする観点からは、上記繊維強化プラスチックでは、ガラス繊維基材に樹脂が含浸されていることが好ましい。
【0077】
上記繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、及び天然繊維等が挙げられる。
【0078】
コストを良好にする観点からは、上記繊維は、ガラス繊維であることが好ましい。土留め壁の強度を高める観点からは、上記ガラス繊維は、ガラスロービングクロス、又はガラスロービングマットであることが好ましい。上記土留め壁本体は、ガラスロービングクロス、又はガラスロービングマットを含むことが好ましい。
【0079】
製造コストを抑える観点からは、上記繊維は、繊維束であることが好ましい。上記繊維束は、複数の繊維の束である。上記繊維束は、例えば、強化繊維束である。繊維束の弾性率、特に強化繊維束の弾性率は比較的高い。上記繊維束の形態は特に限定されない。上記繊維束は、ステッチ等により形成された繊維シートであってもよい。
【0080】
上記繊維束における繊維の本数は特に限定されない。土留め壁の強度を高める観点からは、ガラス繊維の場合上記繊維束における繊維の本数は、好ましくは100本以上、より好ましくは200本以上であり、好ましくは1000本以下、より好ましくは500本以下である。炭素繊維の場合は1000本以上50000本以下が好ましい。
【0081】
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂の硬化物であってもよい。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0082】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0083】
上記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ系樹脂、及びフェノール系樹脂等が挙げられる。
【0084】
上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。土留め壁の強度を高める観点からは、上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されることが好ましい。
【0085】
土留め壁の強度を高める観点からは、上記樹脂は、熱硬化性樹脂の硬化物であることが好ましい。土留め壁の強度を高める観点からは、上記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ系樹脂、又はフェノール系樹脂であることがより好ましく、不飽和ポリエステル樹脂、又はエポキシ樹脂であることがさらに好ましく、不飽和ポリエステル樹脂であることが特に好ましい。
【0086】
上記土留め壁本体が、繊維強化プラスチックを含む場合に、上記土留め壁の製造方法は、特に限定されない。上記土留め壁の製造方法は、(1)上記樹脂と、上記イオン放出性化合物とを混合して含浸液を得る工程と、(2)上記含浸液を繊維基材中の繊維に含浸させる工程と、(3)上記含浸液中の上記樹脂を硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0087】
剛性、及び強度を良好にする観点からは、上記土留め壁本体100体積%中、上記繊維の含有量は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上であり、好ましくは65体積%以下、より好ましくは60体積%以下である。
【0088】
[セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、及びコンクリートの硬化物]
上記土留め壁本体は、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含むことが好ましい。上記土留め壁本体の材料は、セメントミルク、モルタル、又はコンクリートを含むことが好ましい。
【0089】
上記土留め壁本体がセメントミルクの硬化物を含む場合、すなわち、上記土留め壁本体の材料がセメントミルクを含む場合には、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。上記土留め壁本体がモルタルの硬化物又はコンクリートの硬化物を含む場合、すなわち、上記土留め壁本体の材料がモルタル又はコンクリートを含む場合には、セメントの硬化に伴う収縮(自己収縮)及び硬化後の乾燥に伴う収縮(乾燥収縮)を抑制することができる。
【0090】
なお、本明細書において、「セメントミルク」とは、セメントと水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメントミルク」は、細骨材及び粗骨材を含まない。本明細書において、「モルタル」とは、セメントと細骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「モルタル」は、粗骨材を含まない。本明細書において、「コンクリート」とは、セメントと細骨材と粗骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメント」とは、石灰石、粘土、珪石、及び酸化鉄原料等を主原料とし、水との化学反応で硬化可能な粉体を意味する。
【0091】
上記セメントミルク、上記モルタル、及び上記コンクリートに含まれるセメントは、特に限定されない。上記セメントミルク、上記モルタル、及び上記コンクリートに含まれるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメント等が挙げられる。上記セメントは、繊維強化セメントであってもよい。上記ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントであってもよく、特殊ポルトランドセメント(早強ポルトランドセメント)であってもよい。
【0092】
上記粗骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂利、及び砕石等が挙げられる。上記砂利としては、川砂利、山砂利、海砂利、及び火山砂利等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記粗骨材は、砂利であることが好ましい。
【0093】
上記粗骨材の平均粒子径は、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上であり、好ましくは2000mm以下、より好ましくは100mm以下である。上記粗骨材の平均粒子径が上記下限以上であると、土留め壁の強度を高めることができる。上記粗骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記粗骨材が沈下することを抑制し、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。上記粗骨材の平均粒子径は、数平均粒子径であることが好ましい。
【0094】
上記細骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記細骨材は、砂であることが好ましい。
【0095】
上記細骨材の平均粒子径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下である。上記細骨材の平均粒子径が上記下限以上であると、土留め壁の強度を高めることができる。上記細骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記細骨材が沈下することを抑制し、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。上記細骨材の平均粒子径は、数平均粒子径であることが好ましい。
【0096】
上記土留め壁本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記土留め壁の製造方法は、特に限定されない。上記土留め壁の製造方法は、(1)セメントミルク、モルタル、又はコンクリートと、上記イオン放出性化合物とを混合して混合物を得る工程と、(2)上記セメントミルク、上記モルタル、又は上記コンクリートを硬化させる工程とを備えていてもよい。
【0097】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルク100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0098】
上記セメントミルクにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上であり、好ましくは125重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは66重量部以下である。上記水(混錬用水)の含有量が上記下限以上であると、上記セメントと水(混錬用水)とを良好に反応させることができ、土留め壁の強度を高めることができる。上記水(混錬用水)の含有量が上記上限以下であると、上記セメントと水(混錬用水)とを均一に混合することができ、土留め壁の強度を高めることができる。
【0099】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0100】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。
【0101】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは900重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは250重量部以下である。
【0102】
上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは60重量部以下である。上記水(混錬用水)の含有量が上記下限以上であると、上記セメントと水(混錬用水)とを良好に反応させることができ、土留め壁の強度を高めることができる。上記水(混錬用水)の含有量が上記上限以下であると、上記セメントと水(混錬用水)とを均一に混合することができ、土留め壁の強度を高めることができる。
【0103】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリート100重量%中、粗骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0104】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリート100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0105】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、粗骨材の含有量は、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは300重量部以下である。
【0106】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは200重量部以上であり、好ましくは500重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは300重量部以下である。
【0107】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記コンクリートにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは75重量部以上、より好ましくは100重量部以上、さらに好ましくは125重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは180重量部以下、さらに好ましくは160重量部以下である。
【0108】
上記土留め壁の材料100重量%中、上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0109】
上記土留め壁本体の材料100重量%中、上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは93重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。上記セメントミルク、上記モルタル又は上記コンクリートの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0110】
<イオン放出性化合物>
上記土留め壁は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(イオン放出性化合物)を含む。上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能である。
【0111】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陰イオンを放出可能な化合物を含んでいてもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物とを含んでいてもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0112】
上記イオン放出性化合物は、地盤等に付着した水分等との接触により、難水溶性塩を生成することが好ましい。上記土留め壁を設置した箇所に至った水又は湿気により、上記イオン放出性化合物より陽イオン又は陰イオンが放出されることが好ましい。具体的には、上記イオン放出性化合物が陽イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと、水分等に溶解した陰イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陰イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陰イオンと、水分等に溶解した陽イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物、又は陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが、水分等を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が形成されることが好ましい。
【0113】
上記イオン放出性化合物は、無機塩であってもよく、イオン交換樹脂であってもよく、イオン錯体であってもよい。
【0114】
上記イオン放出性化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記イオン放出性化合物は、これらのイオン放出性化合物であることが好ましい。これらのイオン放出性化合物は、難水溶性塩をより一層効果的に生成可能である。
【0115】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0116】
上記陽イオンを放出可能な化合物は、ケイ酸カルシウム、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。上記陽イオンを放出可能な化合物が上記の好ましい化合物であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は乳酸バリウムであることがより好ましく、乳酸カルシウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましく、有機酸カルシウム塩であることがより好ましい。上記有機酸カルシウム塩としては、酢酸カルシウム、及び乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0117】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0118】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、リン酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであることがより好ましく、炭酸水素ナトリウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン(重炭酸イオン)又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0119】
上記陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0120】
難水溶性塩をより一層良好に生成する観点からは、上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であることが好ましく、カルシウムイオンを放出可能な化合物と炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物との混合物であることがより好ましい。
【0121】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0122】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄であることが好ましく、炭酸カルシウムであることがより好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、又は水酸化鉄を生成可能であることが好ましく、炭酸カルシウムを生成可能であることがより好ましい。
【0123】
上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0124】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、土留め壁中での分散性を高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、上記イオン放出性化合物が後述するコーティング剤により良好に被覆され、土留め壁中での分散性を高めることができる。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記上限以下であると、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。
【0125】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、平均粒子径であることが好ましい。上記平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0126】
上記土留め壁では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていてもよい。上記イオン放出性化合物は、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記土留め壁では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていることが好ましい。特に、上記土留め壁本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記土留め壁では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が無機塩である場合に、上記土留め壁は、上記イオン放出性化合物を内包物として含有するマイクロカプセルを含むことが好ましい。上記イオン放出性化合物の表面がコーティング剤により被覆されているか、又は、上記イオン放出性化合物がマイクロカプセルの内包物であると、上記イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0127】
上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、水又は湿気等の水分が土留め壁と接触し、該水分が上記コーティング剤の内部に拡散浸入したときに、陽イオン又は陰イオンを放出可能であることが好ましい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤中の空隙より陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤の内部に拡散し、陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。これらの場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0128】
上記マイクロカプセルは、上記イオン放出性化合物を放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水又は湿気等の水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0129】
上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、上記イオン放出性化合物の種類により適宜選択することができる。上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、カップリング剤又は樹脂を含むことが好ましい。この場合には、土留め壁中での上記イオン放出性化合物の分散性を高め、陽イオン又は陰イオンを放出する時期及び量を良好に制御することができる。また、マイクロカプセルを構成する膜の厚みを均一にすることができ、上記イオン放出性化合物の表面をコーティング剤により均一に被覆することができる。
【0130】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤等が挙げられる。
【0131】
上記樹脂としては、水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、及び硬化性樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記土留め壁の材料が樹脂を含む場合には、上記土留め壁の材料に含まれる樹脂と、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0132】
上記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸樹脂(PLA樹脂)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、及びメチルセルロース等が挙げられる。
【0133】
上記熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0134】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPDM)、イソブチレン-イソプレン共重合体、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0135】
上記硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、及び湿気硬化性樹脂等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0136】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、及びポリウレア樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。
【0137】
上記光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。上記光硬化性樹脂は、光重合開始剤と併用されてもよい。
【0138】
上記湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化性ウレタン樹脂、及び加水分解性シリル基含有樹脂等が挙げられる。
【0139】
イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことがさらに好ましい。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記コーティング剤の材料に含まれる樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体であることが特に好ましい。
【0140】
上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、特に限定されない。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤の被覆層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0141】
上記土留め壁及び上記土留め壁の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは45重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。
【0142】
上記土留め壁本体及び上記土留め壁本体の材料100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、さらに好ましくは10重量部以上、特に好ましくは20重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは70重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。
【0143】
上記土留め壁及び上記土留め壁の材料100重量%中、上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が上記上限以下であると、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。
【0144】
上記土留め壁本体が、セメントミルクの硬化物、モルタルの硬化物、又はコンクリートの硬化物を含む場合に、上記土留め壁本体の材料における上記セメントミルク、上記モルタル、又は上記コンクリート中のセメントの含有量100重量部に対する、上記イオン放出性化合物の含有量を、イオン放出性化合物の含有量(A)とする。上記イオン放出性化合物の含有量(A)は、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは40重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量(A)が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、設置した箇所及びその周囲を緻密化し、地盤を長期的に補強することができる。上記イオン放出性化合物の含有量(A)が上記上限以下であると、土留め壁の材料を設置対象部(枠内)に充填する際の粘度を良好にし、土留め壁の材料の注入性を高めることができる。
【0145】
<他の成分>
上記土留め壁は、必要に応じて、上記土留め壁本体、上記イオン放出性化合物、及び上記コーティング剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記土留め壁の材料は、必要に応じて、上記土留め壁本体の材料、上記イオン放出性化合物、及び上記コーティング剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0146】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0147】
以下の材料を用意した。
【0148】
(土留め壁本体)
モルタルの硬化物:
セメント(太平洋セメント社製「高炉B種セメント」)
細骨材(塚田陶管社製「コンクリート用粉砂A」、平均粒子径0.05mm)
混錬用水
【0149】
繊維強化プラスチック:
ガラス繊維基材(日東紡社製「チョップドストランドマット MC600A」、目付600g/m、幅104cm)
不飽和ポリエステル樹脂(日本ユピカ社製「ユピカ#2120」)
PETフィルム(東レ社製「セラピール」)
硬化助剤(オクチル酸コバルト、コバルト濃度5モル%)
触媒(日油社製「パーメックN」)
【0150】
長繊維を含むウレタン樹脂体:
ガラス長繊維(繊維径6μm~20μmのモノフィラメントを多数引き揃えてロービングしたガラス長繊維)
ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン社製「9158」、23℃での粘度500mPa・s)
ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー社製「ポリメリックMDI」、23℃での粘度200mPa・s)
ウレタン化触媒1(ジブチル錫ジマレート)
ウレタン化触媒2(3級アミン化合物、東ソー社製「TOYOCAT-DB30」)
発泡剤(水)
整泡剤(シリコンオイル、東レダウシリコン社製「SZ-1729」)
【0151】
(イオン放出性化合物)
炭酸水素ナトリウムA(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径107μm)
炭酸水素ナトリウムB(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径5mm品を粉砕し、100μm以下の粒子を分級した粉砕物)
炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径100μm)
酢酸カルシウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径10μm)
塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬社製、平均粒子径107μm)
【0152】
(コーティング剤)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製「EVAウルトラセン#636」)
【0153】
(実施例1)
モルタル(土留め壁本体の材料)の作製:
セメント20kgと、細骨材20kgと、混錬用水20kgとを混錬して、モルタル60kgを得た。
【0154】
試験体Aの作製:
炭酸水素ナトリウムAと、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した後に冷凍粉砕、分級することにより、炭酸水素ナトリウムの表面の一部以上がエチレン-酢酸ビニル共重合体により被覆された平均粒子径50μmの粉体を得た。上記粉体100重量%中、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、80重量%であった。モルタル100kgに、得られた粉体10kgを混合して、木型(幅5cm×奥行5cm×高さ20cm)の容器に充填し、23℃及び60%RHの条件で28日間静置して湿潤硬化させた後、容器から取り出して、試験体Aを得た。
【0155】
(実施例2)
繊維強化プラスチック(土留め壁本体の材料)及び試験体Bの作製:
PETフィルム上で不飽和ポリエステル樹脂1kgと、硬化助剤5gと、触媒10gとを混合し、炭酸ナトリウム250gと、酢酸カルシウム250gとを添加し、混合して含浸溶液を調製した。また、ガラス繊維基材を長さ1mでカットした。ガラス繊維基材の表面上に、含浸溶液を振りかけ、その上面を各PETフィルムで覆い、含浸ローラーを用いてガラス繊維基材中のガラス繊維に含浸させた。その後、2時間硬化させて、試験体Bを得た。
【0156】
(実施例3)
長繊維を含むウレタン樹脂体の材料(土留め壁本体の材料)の作製:
ポリエーテルポリオール100重量部と、ジブチル錫ジマレート0.1重量部と、3級アミン化合物0.3重量部と、発泡剤(水)0.12重量部と、整泡剤0.3重量部と、塩化カルシウム10重量部と、炭酸水素ナトリウムB10重量部とを混合して、第1の組成物を得た。また、第2の組成物としてジフェニルメタンジイソシアネート140重量部を用意した。また、凹部を有する金属型(凹部:幅10cm×奥行50cm×高さ10cm)と、凸部を有する金属体(凸部:幅10cm×奥行50cm×高さ1cm)とを用意し、ガラス長繊維を金属型の凹部の奥行方向に平行に配置した。
【0157】
試験体Cの作製:
得られた第1の組成物に、第2の組成物を添加して、30秒間撹拌し、各金属型のガラス長繊維に含浸させ、金属体を、金属体の凸部と金属型の凹部とが対向するように配置して23℃で5分間静置し、試験体C(長繊維を含むウレタン発泡樹脂体)を得た。
【0158】
(比較例1)
イオン放出性化合物及びコーティング剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、試験体Dを得た。
【0159】
(比較例2)
イオン放出性化合物を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして、試験体Eを得た。
【0160】
(比較例3)
イオン放出性化合物を用いなかったこと以外は、実施例3と同様にして、試験体Fを得た。
【0161】
(評価)
(1)難水溶性塩の生成
実施例1~3及び比較例1~3で得られた試験体を、湿潤した珪砂の表面上に配置して、1ヵ月静置した。その後、各試験体の表面と、各試験体の周囲の珪砂の表面とに、粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。
【0162】
実施例1~3では、試験体の表面と、試験体の周囲の珪砂の表面との双方において、粒子が析出していた。一方、比較例1~3では、試験体の表面と、試験体の周囲の珪砂の表面との双方において、粒子が析出していなかった。表面に粒子が析出している試験体では、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、緻密な結晶構造をもつ粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が観察された。
【0163】
すなわち、実施例1~3では、難水溶性塩の生成が確認され、比較例1~3では、難水溶性塩の生成が確認されなかった。