(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046426
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/02 20060101AFI20240327BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240327BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240327BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01G9/02
H01G9/00 290E
H01G9/145
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151814
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000103220
【氏名又は名称】エルナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
(57)【要約】
【課題】 セパレータの酸性化を抑制した高信頼性の電解コンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 電解コンデンサは、導電性高分子層を保持するセパレータを介し、陽極箔及び陰極箔が巻き回されたコンデンサ素子を有し、前記セパレータは、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体とすることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子層を保持するセパレータを介し、陽極箔及び陰極箔が巻き回されたコンデンサ素子を有し、
前記セパレータは、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体とすることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記ガラス繊維の空隙率は、85~90(%)であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記セパレータは、電解液を保持し、
前記ガラス繊維の繊維径の平均値は、0.5~1(μm)であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記ガラス繊維は、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、及び高シリカガラスの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記セパレータは、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、及びセルロース繊維の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記セパレータは、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、及びアクリル樹脂の少なくとも1つをバインダとして含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記コンデンサ素子に、エチレングリコール、γ‐ブチロラクトン、及びスルホランの少なくとも1つを含む前記電解液を含浸したことを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
セパレータを介して陽極箔及び陰極箔を巻き回してコンデンサ素子を生成する工程と、
前記コンデンサ素子を導電性高分子の分散液または溶液に浸漬する工程と、
前記コンデンサ素子を乾燥させる工程とを有し、
前記セパレータは、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体とすることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記ガラス繊維の空隙率は、85~90(%)であることを特徴とする請求項8に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記コンデンサ素子を電解液に浸漬する工程を、さらに有し、
前記ガラス繊維の繊維径の平均値は、0.5~1(μm)であることを特徴とする請求項8または9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記ガラス繊維は、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、及び高シリカガラスの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記セパレータは、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、及びセルロース繊維の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
前記セパレータは、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、及びアクリル樹脂の少なくとも1つをバインダとして含むことを特徴とする請求項8または9に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記コンデンサ素子に、エチレングリコール、γ‐ブチロラクトン、及びスルホランの少なくとも1つを含む前記電解液を含浸したことを特徴とする請求項10に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を用いた電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、例えばアルミニウム箔の陽極箔及び陰極箔を、セパレータを介して巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸し、封口体とともに外装ケース内に組み込んだ構造を有する。導電性高分子を用いるアルミ電解コンデンサとしては、コンデンサ素子内に導電性高分子を保持する固体電解コンデンサ、及びコンデンサ素子内に導電性高分子及び電解液を保持するハイブリッド電解コンデンサが挙げられる(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-59471号公報
【特許文献2】国際公開第2017/090241号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、導電性高分子を用いるアルミ電解コンデンサに従来から用いられるセルロース繊維などのセパレータは耐酸性が低いため、強酸性のポリマーにより分解される。この種のセパレータを用いて固体電解コンデンサを製造する場合、例えばモノマーを酸化剤により化学重合して導電性高分子層を生成する工程において、セパレータの繊維が化学重合の影響で急速に劣化するおそれがある。
【0005】
また、これとは異なり、導電性高分子の分散液にコンデンサ素子を浸漬して乾燥させることで導電性高分子層を生成した場合であっても、製造後の導電性高分子の溶出によりセパレータが急速に劣化する。例えば上記の分散液を用いて導電性高分子層を形成したハイブリッド電解コンデンサの場合、セパレータに含まれる電解液等に導電性高分子が溶出しやすい。電解液が蒸散するほど、導電性高分子層から電解液内に溶出する導電性高分子により電解液の酸性度が高くなるため、セパレータの劣化が速くなり分解が促進される。
【0006】
このようにセパレータが酸性化することにより分解が進むにつれ、例えば導電性高分子の保持量の低下が進んでESRが増加するおそれがある。さらには、電解液の保持量も低下して漏れ電流も増加するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、セパレータの酸性化を抑制した高信頼性の電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解コンデンサは、導電性高分子層を保持するセパレータを介し、陽極箔及び陰極箔が巻き回されたコンデンサ素子を有し、前記セパレータは、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体とすることを特徴とする。
【0009】
上記の電解コンデンサにおいて前記ガラス繊維の空隙率は、85~90(%)であってもよい。
【0010】
上記の電解コンデンサにおいて、前記セパレータは、電解液を保持し、前記ガラス繊維の繊維径の平均値は、0.5~1(μm)であってもよい。
【0011】
上記の電解コンデンサにおいて、前記ガラス繊維は、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、及び高シリカガラスの少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
上記の電解コンデンサにおいて、前記セパレータは、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、及びセルロース繊維の少なくとも1つを含んでもよい。
【0013】
上記の電解コンデンサにおいて、前記セパレータは、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、及びアクリル樹脂の少なくとも1つをバインダとして含んでもよい。
【0014】
上記の電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子に、エチレングリコール、γ‐ブチロラクトン、及びスルホランの少なくとも1つを含む前記電解液を含浸してもよい。
【0015】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、セパレータを介して陽極箔及び陰極箔を巻き回してコンデンサ素子を生成する工程と、前記コンデンサ素子を導電性高分子の分散液または溶液に浸漬する工程と、前記コンデンサ素子を乾燥させる工程とを有し、前記セパレータは、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体とすることを特徴とする。
【0016】
上記の製造方法において、前記ガラス繊維の空隙率は、85~90(%)であってもよい。
【0017】
上記の製造方法において、前記コンデンサ素子を電解液に浸漬する工程を、さらに有し、前記ガラス繊維の繊維径の平均値は、0.5~1(μm)であってもよい。
【0018】
上記の製造方法において、前記ガラス繊維は、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、及び高シリカガラスの少なくとも1つを含んでもよい。
【0019】
上記の製造方法において、前記セパレータは、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、及びセルロース繊維の少なくとも1つを含んでもよい。
【0020】
上記の製造方法において、前記セパレータは、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、及びアクリル樹脂の少なくとも1つをバインダとして含んでもよい。
【0021】
上記の製造方法において前記コンデンサ素子に、エチレングリコール、γ‐ブチロラクトン、及びスルホランの少なくとも1つを含む前記電解液を含浸してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、セパレータの酸性化を抑制し、信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】アルミ電解コンデンサの一例を示す側面図である
【
図3】アルミ電解コンデンサの製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施形態]
(アルミ電解コンデンサの構成)
図1は、アルミ電解コンデンサ1の一例を示す側面図である。
図1の紙面において、アルミ電解コンデンサ1の中心線Lを挟んだ右半分には、その内部の断面が示されている。
【0025】
アルミ電解コンデンサ1は、導電性高分子固体電解アルミコンデンサ(以下、固体電解コンデンサと表記)、または導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(以下、ハイブリッド電解コンデンサと表記)である。アルミ電解コンデンサ1は、電子回路基板に実装され、例えばカップリング、デカップリング、及び平滑化などに用いられる。
【0026】
アルミ電解コンデンサ1は、コンデンサ素子10、ケース11、封口体12、座板13、一対の丸棒部111、及び一対のリード部110を有する。丸棒部111及びリード部110はコンデンサ素子10の引き出し電極であり、リード部110は丸棒部111の先端から延びている。なお、
図1には一方の丸棒部111のみが示されているが、中心線Lを挟んだ対称な位置に他方の丸棒部111が設けられている。
【0027】
ケース11は、アルミニウムにより形成され、上部の開口が塞がった円筒形状を有する。ケース11は、コンデンサ素子10及び封口体12を覆い、アルミ電解コンデンサ1の外装として機能する。なお、ケース11の形状は円筒形状に限定されず、角筒形状であってもよい。
【0028】
封口体12は、例えばブチルゴムなどの弾性部材により形成された略円形状の部材である。封口体12は、コンデンサ素子10に隣接し、ケース11下部の開口を封口する。
【0029】
コンデンサ素子10は、後述するように、陽極箔、陰極箔、及びセパレータ(電解紙)を重ねて巻き回した構成を有する。コンデンサ素子10の底部からは一対の丸棒部111が延びている。
【0030】
丸棒部111及びリード部110はアルミニウムなどから形成された棒状部材である。一対の丸棒部111は、陽極箔及び陰極箔に対し、かしめなどの接合手段によりそれぞれ接合されており、アルミ電解コンデンサ1の陽極端子及び陰極端子として機能する。各丸棒部111は、封口体12に形成された一対の貫通孔120にそれぞれ挿通されている。なお、
図1には一方の貫通孔120のみが示されているが、中心線Lを挟んだ対称な位置に他方の貫通孔120が設けられている。
【0031】
リード部110は平板形状を有し、L字形状に屈曲し、その先端側の部分は座板13の板面に沿って延びている。リード部110の丸棒部111側の部分は座板13の貫通孔130に挿通されている。リード部110は、電子回路基板のリフロー工程において、電子回路基板上のパッドにはんだ付けされる。
【0032】
座板13は、樹脂などにより形成された板状部材であり、ケース11及び封口体12の下部に設けられている。座板13は、実装対象の電子回路基板に対してケース11及び封口体12を支持する。座板13には、リード部110の貫通孔130、及びリード部110の屈曲した先端部分を収容する溝部131が設けられている。溝部131は座板13の底面に沿って中央近傍から外側へ延びている。座板13の底面は、電子回路基板に対するアルミ電解コンデンサ1の実装面となるため、板状のリード部110を電子回路基板上のパッドにはんだ付けすることが可能となる。なお、本実施形態では表面実装タイプのアルミ電解コンデンサ1を挙げるが、後述する実施例は、座板13がないリードタイプにも適用することができる。
【0033】
(コンデンサ素子の構成)
図2は、コンデンサ素子10の一例を示す斜視図である。
図2において、
図1と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。コンデンサ素子10は、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ(電解紙)103を巻き回した巻回体100と、陽極箔101及び陰極箔102に接続された一対の引き出し電極19とを有する。
【0034】
一対の引き出し電極19は巻回体100の下方に延びる。各引き出し電極19の丸棒部111は陽極箔101及び陰極箔102にそれぞれ接続されている。なお、
図2では、リード部110を屈曲させて平板状にプレス加工する前の状態が示されている。
【0035】
陽極箔101及び陰極箔102は、例えばアルミニウム、タンタル、チタン、及びニオブ等の弁金属およびその合金箔並びに蒸着箔等により形成されている。陽極箔101の表面には、電極面積が増加するようにエッチング処理が施されている。これにより、コンデンサ素子10は所定の静電容量を確保する。さらに陽極箔101の表面には極薄の酸化被膜が形成されている。このため、陽極箔101は、他の部材から絶縁されている。酸化被膜が誘電体として機能することで、コンデンサ素子10がコンデンサとして機能する。
【0036】
一方、陰極箔102の表面には、エッチング処理が施されているが、酸化被膜は形成されていない。なお、陰極箔102の表面には、酸化被膜が形成されてもよいし、無機層またはカーボン層が形成されていてもよい。
【0037】
セパレータ103は陽極箔101及び陰極箔102の間に挟まれた状態で巻き回される。セパレータ103は、固体電解コンデンサの場合、導電性高分子を保持し、ハイブリッド電解コンデンサの場合、導電性高分子及び電解液を保持する。セパレータ103は、空隙率が75~90(%)であるガラス繊維を主体として形成され、ガラス繊維以外にも他の有機繊維及びバインダなどを含んでもよい。このようにセパレータ103はガラス繊維を主体とするため、例えばセルロース繊維を主体として用いる場合より酸性化しにくい。
【0038】
ガラス繊維の空隙率は75~90(%)である。ここで空隙率とは、繊維全体の体積に対する空隙の体積の比である。空隙率が75(%)未満である場合、ガラス繊維は十分な量の導電性高分子及び電解液を保持することができないため、ESRが上昇する。また、空隙率が90(%)を上回る場合、ガラス繊維は十分な量の導電性高分子及び電解液を保持することができるため、ESRは十分に低減されるが、その一方でセパレータ103の巻回時に必要な強度を保てなくなるため、適切ではない。
【0039】
したがって、ガラス繊維の空隙率が75~90(%)であるとき、導電性高分子及び電解液の保持量が増加してESRが適切に低減される。好ましくは、ガラス繊維の空隙率を85~90(%)とすると、より多くの導電性高分子を保持できるため、さらにESRが低減される。これによりアルミ電解コンデンサ1の信頼性が高められる。
【0040】
また、ガラス繊維の繊維径の平均値は0.5~1(μm)である。繊維径が1(μm)を超える場合、電解液の蒸散速度が過剰に高くなり、導電性高分子層から電解液内に溶出する導電性高分子の密度が高くなるため、セパレータの酸性化が進行する。一方、繊維径が0.5(μm)未満である場合、導電性高分子の保持性が悪化するため、適切ではない。したがって、ガラス繊維の繊維径の平均値を0.5~1(μm)とすることにより、電解液の蒸散が適切に抑制されて酸性化が抑制される。
【0041】
また、セパレータ103の厚さは40(μm)である。セパレータ103の厚さが40(μm)未満である場合、過剰に薄いため、耐電圧が低くなる。
【0042】
ガラス繊維は、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、及び高シリカガラスの少なくとも1つを含む。これらの材料をセパレータ103の主体として用いることにより、耐酸性が向上するという利点が得られる。
【0043】
また、セパレータ103は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、及びセルロース繊維の少なくとも1つを含んでもよい。これらの材料をセパレータ103に含有させることにより、耐溶剤性に優れ、引張強度等の機械的強度が向上するという利点が得られる。
【0044】
また、セパレータ103は、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、及びアクリル樹脂の少なくとも1つをバインダとして含んでもよい。これらのバインダをセパレータ103に含有させることにより、耐溶剤性に優れ、引張強度等の機械的強度が向上するという利点が得られる。
【0045】
また、アルミ電解コンデンサ1が固体電解コンデンサである場合、セパレータ103には電解液が含浸されている。電解液の溶媒は、エチレングリコール、γ‐ブチロラクトン、及びスルホランの少なくとも1つを含んでもよい。これらの溶媒とする電解液をセパレータ103に含浸させることにより、従来よりも低蒸散性になるという利点が得られる。
【0046】
(電解コンデンサの製造工程)
図3は、アルミ電解コンデンサ1の製造工程の一例を示す図である。アルミ電解コンデンサ1の製造工程は電解コンデンサの製造方法の一例である。なお、本例ではハイブリッド電解コンデンサの製造工程を挙げるが、固体電解コンデンサの製造方法では以下のステップSt6が省かれる。
【0047】
まず、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103を準備する(ステップSt1)。陽極箔101の表面はエッチング処理されており、さらに酸化被膜が誘電体層として形成されている。また、セパレータ103は、空隙率が75~90(%)であり、ガラス繊維を主体とする。ここで空隙率は85~90(%)であると好ましい。また、ガラス繊維の繊維径の平均値は0.5~1(μm)であると、電解液の蒸散速度が良好であり、導電性高分子の含侵性との観点から好ましい。また、セパレータ103の厚さは40(μm)である。
【0048】
次に、セパレータ103、陽極箔101、陰極箔102、及びセパレータ103をこの順に積層して巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体100を作製する(ステップSt2)。巻回中、陽極箔101及び陰極箔102の適切な位置にそれぞれ引き出し電極19を接続する。接続手段としては、かしめが挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
次に減圧雰囲気中で、水と有機溶媒を含む導電性高分子の分散液に巻回体100を20分間浸漬し、その後、導電性高分子分散液から巻回体100を引き上げる(ステップSt3)。このようにすることで、巻回体100に導電性高分子を含浸させることができる。なお、本工程では導電性高分子の分散液に代えて導電性高分子の溶液を用いてもよい。
【0050】
次に巻回体100を、例えば150度の乾燥炉に入れて60分間乾燥させる(ステップSt4)。これにより、セパレータ103内の導電性高分子同士を固着させて導電性高分子層を生成することで導電性パスが形成される。
【0051】
次に減圧雰囲気中で、所定量の電解液を巻回体100に含浸させる(ステップSt5)。なお、電解液は、導電性高分子分散液内に、溶質を混合させたものであってもよい。すなわち、導電性高分子分散液を電解液として使用することができる。その場合、電解液の含浸は、導電性高分子の含浸と同時に行うこととなる。
【0052】
次に巻回体100をケース11に収容して封口体12によって封口する(ステップSt6)。このとき、巻回体100から延びる引き出し電極19は封口体12の貫通孔120に挿通される。その後、コンデンサ素子10に定格電圧を印加しながらエージング処理を行なってもよい。このようにしてアルミ電解コンデンサ1の製造工程は行われる。
【実施例0053】
次にアルミ電解コンデンサ1の実施例を説明する。上記の製造方法に従ってアルミ電解コンデンサ1のサンプルNo.1~8を作製した。また、比較のため、セパレータ103の主体をガラス繊維に代えて特殊レーヨン繊維(セルロース繊維を細分化したもの)及びセルロース繊維とするアルミ電解コンデンサのサンプルNo.9及び10をそれぞれ作製した。サンプルNo.1~10の定格電圧及び定格静電容量がそれぞれ、63(V)及び56(μF)である。また、ケース11の直径は10(mm)であり、ケース11の高さは10(mm)とした。以下にアルミ電解コンデンサ1の具体的な製造方法について説明する。
【0054】
(巻回体の作製)
エッチング処理が施され、酸化被膜が形成済みの陽極箔に陽極の引き出し電極を接続した。端面に導体層を有し塗れ性改善の下処理を行った陰極箔に陰極の引き出し電極を接続した。その後、セパレータ、陰極箔、セパレータ、および陽極箔をこの順に積層し、各引き出し電極を巻き込みながら巻回し、外側表面を巻止めテープで固定することで巻回体を作製した。セパレータの厚み、セパレータの主体となる繊維の繊維径及び空隙率はサンプルごとに異ならせた。
【0055】
作製した巻回体を、リン酸アンモニウム水溶液に浸漬させ、陽極箔に対して、所定の電圧を印加しながら、85℃で再度化成処理を行うことにより、主に陽極箔の端面に誘電体層を形成した。
【0056】
(導電性高分子の含浸)
減圧雰囲気(-93kPa)中で、所定容器に収容された導電性高分子の分散液に巻回体を浸漬し、その後、分散液から巻回体を引き上げた。次に、導電性高分子を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で60分間乾燥させ各層の導電性高分子同士を固着して導電性パスを形成した。これにより、固体電解コンデンサとして機能するコンデンサ素子を作製した。
【0057】
(電解液の含浸)
さらに上記のコンデンサ素子に減圧雰囲気中で所定量の電解液(テイカ株式会社製ESE2)を含浸させた。これにより、ハイブリッドアルミ電解コンデンサとして機能するコンデンサ素子を作製した。
【0058】
(コンデンサ素子の封口)
電解液を含浸させたコンデンサ素子を封口して、電解コンデンサを完成させた。その後、定格電圧)を印加しながら所定温度で所定時間のエージング処理を行った。
【0059】
(評価)
サンプルNo.1~10を固体電解コンデンサ及びハイブリッド電解コンデンサとして評価した。4端子測定用のLCRメータを用いて、20℃の環境下で電解コンデンサの周波数が100kHzであるときのESR(mΩ)を固体電解コンデンサ及びハイブリッド電解コンデンサの各々について測定した。また、固体電解コンデンサの評価としてポリマー(導電性高分子)の保持量(g)と測定し、ハイブリッド電解コンデンサの評価として150℃における電解液の蒸散の速度(g/h)を測定した。表1に固体電解コンデンサ、表2にハイブリッド電解コンデンサの測定結果を示す。
【0060】
【0061】
表1は、サンプルNo.1~10の固体電解コンデンサとしての評価結果を示す。サンプルNo.1~8のセパレータの主体はガラス繊維とし、サンプルNo.9及び10のセパレータの主体は、それぞれ、特殊レーヨン繊維及びセルロース繊維とした。また、セパレータ全体の重量に対する主体の繊維の重量の比(表1中の重量比参照)は、サンプルNo.9及び10が100(%)であり、サンプルNo.4が65(%)であり、その他は75(%)とした。
【0062】
繊維径は、セパレータの主体の繊維の径の平均値であり、走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)を用いて5000倍でセパレータを平面計測することにより計測した。サンプルNo.1~4,6,8の繊維径は0.5(μm)とし、サンプルNo.5の繊維径は1.2(μm)とし、サンプルNo.7の繊維径は1.0(μm)とした。サンプルNo.9の繊維径は2.0(μm)とし、サンプルNo.10の繊維径は5.0(μm)とした。また、サンプルNo.6のセパレータの厚みは30(μm)とし、他のサンプルのセパレータの厚みは40(μm)とした。
【0063】
セパレータの空隙率はサンプルごとに異ならせた。サンプルNo.1~4,8について、セパレータの空隙率が高いほど、ポリマー保持量は高くなり、ESRは低くなる傾向を示した。ただし、サンプルNo.5及び7は、サンプルNo.4より空隙率が低いが、繊維径が大きく、ポリマーの含浸性が向上するため、ポリマー保持量が多くなり、ESRが低くなった。また、サンプルNo.6は、サンプルNo.4より空隙率が低いが、厚みが薄く、導電経路が短くなるため、ESRが低くなった。
【0064】
比較例であるサンプルNo.9及び10のESRを基準として、実施例のサンプルNo.1~8のESRの良否(OK/NG)を判定した(表中の判定結果参照)。サンプルNo.1~7のESRは、サンプルNo.9及び10のESRより低いため、OKと判定した。また、サンプルNo.8は、サンプルNo.9と厚みが同一であり、サンプルNo.9より空隙率が高いにも関わらず、ESRが高いため、NGと判定した。さらに、空隙率が90(%)のサンプルNo.1及び、空隙率が85(%)のサンプルNo.2はポリマーの保持量が多いため、さらにESRが好適に低減された。
【0065】
したがって、空隙率が75~90(%)のサンプルNo.1~7のESRが好適に低減された。さらに、空隙率が85~90(%)のサンプルNo.1及び2のESRが好適に低減された。
【0066】
また、サンプルNo.6の厚みは他のサンプルNo.1~5,7,8より薄い。このため、サンプルNo.6の耐電圧は、比較例のサンプルNo.9の耐電圧より低くなった。一方、サンプルNo.1~5,7,8の耐電圧は、比較例のサンプルNo.9の耐電圧以上となった。したがって、セパレータの厚みは40(μm)であると好ましい。
【0067】
【0068】
表2は、サンプルNo.1~10のハイブリッド電解コンデンサとしての評価結果を示す。表2の記載内容は、電解液の保持量、ESR、電解液の蒸散速度、及び判定結果を除いて同一である。
【0069】
固体電解コンデンサの場合と同様に、サンプルNo.1~4,8について、セパレータの空隙率が高いほど、電解液の保持量は多くなり、ESRは低くなる傾向を示した。ただし、サンプルNo.5及び7は、サンプルNo.4より空隙率が低いが、繊維径が大きく、ポリマーの含浸性が向上するため、電解液保持量が多くなり、ESRが低くなった。また、サンプルNo.6は、サンプルNo.4より空隙率が低いが、厚みが薄く、導電経路が短くなるため、ESRが低くなった。
【0070】
比較例であるサンプルNo.9及び10のESRを基準として、実施例のサンプルNo.1~8のESRの良否(OK/NG)を判定した(表中の判定結果参照)。サンプルNo.1~7のESRは、サンプルNo.9及び10のESRより低いため、OKと判定した。また、サンプルNo.8は、サンプルNo.9と厚みが同一であり、サンプルNo.9より空隙率が高いにも関わらず、ESRが高いため、NGと判定した。
【0071】
したがって、空隙率が75~90(%)のサンプルNo.1~7のESRが好適に低減された。さらに、85~90(%)のサンプルNo.1及び2はポリマーの保持量が多いため、さらにESRが好適に低減された。
【0072】
また、電解液の蒸散速度は、繊維径が大きいほど速くなる。これは、繊維径が大きくなると電解液との接触面積が小さくなることにより電解液の保持性が低下するためである。電解液の蒸散が進むほど、導電性高分子層から電解液内に溶出する導電性高分子の密度により酸性度が高くなるため、セパレータの酸性化が進行する。
【0073】
比較例であるサンプルNo.9及び10の電解液の蒸散速度を基準とすると、サンプルNo.1~8のうち、最大の繊維径のサンプルNo.5の電解液の蒸散速度はサンプルNo.9及び10の電解液の蒸散速度より高くなった。これは、サンプルNo.5の繊維径が他のサンプルNo.1~4,6~8より大きいためである。一方、他のサンプルNo.1~4,6~8の電解液の蒸散速度はサンプルNo.9及び10の電解液の蒸散速度より低くなった。したがって、ガラス繊維の繊維径の平均値を0.6~1(μm)とすることにより、電解液の蒸散が適切に抑制されて酸性化が抑制された。ここで、繊維径の平均値が0.5(μm)未満である場合については、ポリマーの含浸性が低下するため、適切ではない。
【0074】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。