(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046434
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】口腔内菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/21 20060101AFI20240327BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240327BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240327BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
A61K8/21
A61Q11/00
A61K8/19
C12N1/20 A ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151827
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒 百合絵
(72)【発明者】
【氏名】田力 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】藤井 明彦
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA06X
4B065AA49X
4B065BB02
4B065BB12
4B065CA44
4C083AB081
4C083AB082
4C083AB471
4C083AB472
4C083AC132
4C083AC182
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC472
4C083AC692
4C083AC782
4C083AD392
4C083EE33
(57)【要約】
【課題】口腔内菌叢中における非病原性細菌を選択的かつ効果的に生育促進して、口腔内菌叢の改善を有効に図ることのできる口腔内菌叢改善剤に関する。
【解決手段】硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内菌叢改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内菌叢改善剤。
【請求項2】
硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内菌叢改善作用持続剤。
【請求項3】
硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内環境改善剤。
【請求項4】
硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、歯周組織保護剤。
【請求項5】
硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内ナイセリア属菌の生育促進剤。
【請求項6】
口腔内病原性細菌の生育抑制作用を有する請求項5に記載の口腔内ナイセリア属菌の生育促進剤。
【請求項7】
口腔内病原性細菌が、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、又はストレプトコッカス・ミュータンスである請求項6に記載の口腔内ナイセリア属菌の生育促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内菌叢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内には、疾患の有無にかかわらず多種多様の細菌が数多く生息しており、歯面や歯肉、歯肉縁、口蓋や頬粘膜、舌表面や舌背部等の種々の部位には、これらの細菌が群集を構築してなる口腔内菌叢が存在する。かかる口腔内菌叢には、う蝕や歯周病等の口腔内疾患に関与する病原性細菌だけでなく、非病原性細菌も常在菌として混在している。これら非病原性細菌と病原性細菌とのバランスを整えること、すなわち、非病原性細菌の存在割合を増大させて、非病原性細菌を口腔内菌叢のなかで優勢な状態にすることは、健常な口腔内環境の維持を可能とする。したがって、非病原性細菌が適切な割合で存在する口腔細菌叢の恒常性を維持することは、口腔疾患の発症や予防、又は進行の抑制において有用性が高いことである。
【0003】
このような状況のなか、例えば、特許文献1には、ラクトフェリン等を有効成分として含む口腔内細菌叢改善剤が開示されており、主として常在菌のスプレプトコッカス・ミチスの占める割合の増加を図っている。また、特許文献2では、ケンフェライドとベチュレトールとを特定の比率で含有することにより、口腔内菌叢における悪玉菌と善玉菌の比率を増加させ得る口腔内細菌叢改善剤が開示されている。さらに、特許文献3には、特定の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物を含有する剤が開示されており、口腔内常在菌の生育を選択的に促進してその存在割合を高めることで口腔細菌構成比を改善する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-16553号公報
【特許文献2】特開2022-8045号公報
【特許文献3】特開2021-20869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記いずれの特許文献に記載の技術であっても、非病原性細菌を選択的かつ効果的に生育促進する点においては、依然として検討の余地がある。
【0006】
したがって、本発明は、口腔内菌叢中における非病原性細菌を選択的かつ効果的に生育促進して、口腔内菌叢の改善を有効に図ることのできる口腔内菌叢改善剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすることにより、口腔内菌叢中における非病原性細菌を選択的かつ効果的に生育促進することのできる剤を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする、口腔内菌叢改善剤、口腔内菌叢改善作用持続剤、口腔内環境改善剤、歯周組織保護剤、及び口腔内ナイセリア属菌の生育促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、口腔内におけるナイセリア属菌の生育を選択的に促進し、また病原性細菌の生育を選択的に抑制して、口腔内菌叢の改善を有効に図ることができ、さらにその口腔内菌叢の改善作用を持続させることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明において、「口腔内菌叢」とは、口腔内に生息する多種多様の細菌により形成されてなる群集を意味する。かかる「口腔内菌叢」は、「口腔内(口内又は口腔)フローラ」又は「口腔内(口内又は口腔)マイクロバイオータ」とも称される。
したがって、本発明の口腔内菌叢改善剤は、口腔内(口内又は口腔)フローラ改善剤、口腔内(口内又は口腔)マイクロバイオータ改善剤とも同義である。
【0011】
また、本発明において、口腔内菌叢を「改善」するとは、口腔内菌叢の細菌構成を変化させて、非病原性細菌が占める割合を増大させることにより、或いは病原性細菌が占める割合を低減させることにより、口腔内菌叢の状態を健常な口腔内環境をもたらす状態へ転じさせることを意味する。具体的には、口腔内において、ナイセリア属菌の代謝を活性化等させて、その生育を選択的に促進させることにより、口腔内菌叢中におけるナイセリア属菌が占める割合を増大させることを意味し、また病原性細菌の生育を選択的に抑制させることにより、口腔内菌叢中におけるナイセリア属菌が占める割合を増大させることをも意味する。
ここで、本発明において、「病原性細菌」とは、具体的には、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis(P.g.))、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum(F.n.))、又はストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans(S.mutans))を意味する。
【0012】
ここで、ナイセリア属菌とは、ナイセリア(Neisseria)科ナイセリア属に属する非病原性細菌を意味する。かかるナイセリア属菌としては、具体的には、ナイセリア・ムコサ(Neisseria mucosa)、ナイセリア・シッカ(Neisseria sicca)、ナイセリア・フラバ(Neisseria flava)、ナイセリア・サブフラバ(Neisseria subflava)、ナイセリア・フラべセンス(Neisseria flavescens)、ナイセリア・エロンガータ(Neisseria elongata)等が挙げられる。
【0013】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする。本発明の口腔内菌叢改善剤によれば、非病原性細菌であるナイセリア属菌が占める割合を増大させ、或いは病原性細菌が占める割合を低減させて、口腔内菌叢の細菌構成に変化を与えることができる。本発明の口腔内菌叢改善剤によりナイセリア属菌が占める割合が増大すれば、口腔内環境を健康な状態へと導くことが可能となる。
【0014】
本発明の口腔内菌叢改善剤において、一方の有効成分である硝酸イオン供給化合物は、水と接触したときに硝酸(NO3)イオンを放出することのできる化合物である。そして、他方の有効成分である含フッ素化合物は、分子構造中にフッ素原子を含む化合物である。
本発明の口腔内菌叢改善剤により奏される口腔内菌叢の改善効果についての詳細なメカニズムは定かではないが、口腔内において常在菌であるナイセリア属菌が、一方の有効成分である硝酸イオン供給化合物を利用して一酸化窒素を産生する際、他方の有効成分である含フッ素化合物が何らかの相乗効果をもたらすものと考えられる。その結果、これらの有効成分がナイセリア属菌の生育促進に大いに寄与することとなり、口腔内菌叢におけるナイセリア属菌が占める割合を迅速に、かつ持続的に増大させることができるものと推定される。
【0015】
本発明の口腔内菌叢改善剤において、一方の有効成分である硝酸イオン供給化合物としては、具体的には、硝酸アルカリ金属塩、及び硝酸アルカリ土類金属塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらは、天然物由来のものも存在するが、不純物の混在等により口腔内菌叢の改善効果が減退することを有効に回避する観点から、化学合成により得たものを用いるのが好ましい。
かかる硝酸イオン供給化合物としては、より具体的には、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸カルシウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、硝酸カリウムが好ましい。
【0016】
本発明の口腔内菌叢改善剤において、他方の有効成分である含フッ素化合物としては、具体的には、フッ化物イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0017】
フッ化物イオン供給化合物は、モノフルオロリン酸イオンを供給する化合物以外の含フッ素化合物である。かかるフッ化物イオン供給化合物としては、フッ化ナトリウム、フッ化第一スズ、フッ化カリウム、フッ化亜鉛、フッ化ベタイン、フッ化第一スズアラニン、フルオロケイ酸ナトリウム、フッ化ヘキシルアミン等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、フッ化ナトリウム、又はフッ化第一スズが好ましい。
【0018】
モノフルオロリン酸イオン供給化合物としては、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸マグネシウム、モノフルオロリン酸カルシウム等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、モノフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0019】
なかでも含フッ素化合物としては、ナイセリア属菌の生育促進への寄与を増強させる観点から、フッ化物イオン供給化合物であるのが好ましい。
【0020】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、硝酸イオン供給化合物の硝酸(NO3)換算量と含フッ素化合物のフッ素原子換算量との質量比(NO3/F)は、口腔菌叢改善効果を増大させる観点から、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは4以上であり、よりさらに好ましくは8以上であり、またさらに好ましくは12以上であり、よりさらに好ましくは14以上であり、好ましくは50以下であり、より好ましくは48以下であり、さらに好ましくは46以下であり、よりさらに好ましくは44以下であり、またさらに好ましくは42以下であり、よりさらに好ましくは38以下である。そして、本発明の口腔内菌叢改善剤中における、硝酸イオン供給化合物の硝酸(NO3)換算量と含フッ素化合物のフッ素原子換算量との質量比(NO3/F)は、好ましくは0.5~50であり、より好ましくは2~48であり、さらに好ましくは4~46あり、よりさらに好ましくは8~44であり、またさらに好ましくは12~42であり、よりさらに好ましくは14~38である。
【0021】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、硝酸イオン供給化合物の含有量は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上であり、よりさらに好ましくは3質量%以上であり、またさらに好ましくは4質量%以上であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、よりさらに好ましくは8質量%以下であり、またさらに好ましくは6質量%以下である。そして、本発明の口腔内菌叢改善剤中における、硝酸イオン供給化合物の含有量は、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1~12質量%であり、さらに好ましくは2~10質量%であり、よりさらに好ましくは3~8質量%であり、またさらに好ましくは4~6質量%である。
【0022】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、含フッ素化合物の含有量は、フッ素原子換算量で、好ましくは850ppm以上であり、より好ましくは900ppm以上であり、さらに好ましくは950ppm以上であり、好ましくは5000ppm以下であり、より好ましくは2000ppm以下であり、さらに好ましくは1400ppm以下である。そして、本発明の口腔内菌叢改善剤中における、含フッ素化合物の含有量は、フッ素原子換算量で、好ましくは850~5000ppmであり、より好ましくは900~2000ppmであり、さらに好ましくは950~1400ppmである。
【0023】
また、含フッ素化合物がフッ化物イオン供給化合物である場合、かかるフッ化物イオン供給化合物の含有量は、ナイセリア属菌生育促進作用及び病原性細菌育成抑制作用の観点から、本発明の口腔内菌叢改善剤中に、好ましくは0.1~1.5質量%であり、より好ましくは0.5~1.4質量%であり、さらに好ましくは0.7~1.3質量%である。
また、含フッ素化合物がフッ化物イオン供給化合物である場合、かかるフッ化物イオン供給化合物の含有量は、歯周病原性細菌割合の観点から、本発明の口腔内菌叢改善剤中に、好ましくは0.1~1.5質量%であり、より好ましくは0.15~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.18~0.25質量%である。
さらに、含フッ素化合物がモルオロリン酸イオン供給化合物である場合、かかるモノフルオロリン酸イオン供給化合物の含有量は、本発明の口腔内菌叢改善剤中に、好ましくは0.2~4質量%であり、より好ましくは0.4~2質量%であり、さらに好ましくは0.6~1.5質量%である。
【0024】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、口腔内菌叢改善効果を高める観点から、さらに糖アルコールを含有することができる。かかる糖アルコールとしては、エリスリトール、キシリトール及びマンニトールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、ナイセリア属菌の生育を促進させて、口腔内菌叢におけるナイセリア属菌が占める割合を効果的に増大させる観点から、エリスリトールが好ましい。
【0025】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、糖アルコールの含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上であり、よりさらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。そして、本発明の口腔内菌叢改善剤中における、糖アルコールの含有量は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは20~50質量%であり、さらに好ましくは25~45質量%であり、よりさらに好ましくは30~40質量%である。
【0026】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに界面活性剤を含有することができる。かかる界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0027】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸塩やポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩等の、硫酸エステル塩以外のアニオン界面活性剤が好ましい。具体的には、例えば、オレイン酸塩、ラウリン酸塩等の脂肪酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩等のアルキルスルホン酸塩;アルキルリン酸塩等のアルキルリン酸塩;高級脂肪酸スルホン化モノグリセリド塩、イセチオン酸の脂肪酸エステル塩;ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸塩;N-アシルアミノ酸、N-アシルタウリン、及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸エステル塩、N-アシルアミノ酸、N-アシルタウリン、及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、N-アシルアミノ酸又はその塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0028】
ノニオン界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ショ糖脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;モノステアリン酸グリセリド等のグリセリン脂肪酸エステル;アルキルグルコシド;ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンモノアルキル(又はアルケニル)エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド;ポリエチレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
なかでも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノアルキル(又はアルケニル)エーテル、及びアルキルグルコシドから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
とりわけ、ナイセリア属菌生育促進作用の視点からは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートから選ばれる1種又は2種が好ましく、歯周病原性細菌割合の視点からは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びアルキルグルコシドから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0029】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、口腔内菌叢改善効果を有効に高める観点から、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。そして、本発明の口腔内菌叢改善剤中における、界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%であり、さらに好ましくは0.2~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.4~1質量%である。
なかでも、本発明の口腔内菌叢改善剤が含有する界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤を含むことが好ましい。
かかるノニオン界面活性剤の含有量は、本発明の口腔内菌叢改善剤中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0030】
なお、本発明の口腔内菌叢改善剤において、高い口腔内菌叢改善効果を確保する観点から、アニオン界面活性剤である硫酸エステル塩の含有を制限することが好ましい。かかる硫酸エステル塩としては、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、及びポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0031】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、硫酸エステル塩の含有量は、口腔内菌叢改善効果を有効に高める観点から、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、或いは本発明の口腔内菌叢改善剤は、硫酸エステル塩を含有しないのが好ましい。
【0032】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、ナイセリア属菌の生育を促進する効果が減退するのを回避して、高い口腔内菌叢改善効果を確保する観点から、殺菌剤の含有を制限することが好ましい。
【0033】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、殺菌剤の含有量は、口腔内菌叢改善効果を有効に高める観点から、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、或いは本発明の口腔内菌叢改善剤は、殺菌剤を含有しないのが好ましい。
【0034】
さらに、殺菌剤のなかでも、カチオン性殺菌剤の含有を制限することが好ましい。
カチオン性殺菌剤としては、具体的には、例えば、第四級アンモニウム化合物、及びビグアニド化合物から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。第四級アンモニウム化合物に属するカチオン性殺菌剤としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、及び塩化メチルベンゼトニウム等から選ばれる1種又は2週以上が挙げられる。また、ビグアニド化合物に属するカチオン性殺菌剤としては、グルコン酸クロルヘキシジンや塩酸クロルヘキシジン等のクロルヘキシジン及びその塩から選ばれる1種又は2週以上が挙げられる。
【0035】
本発明の口腔内菌叢改善剤中における、カチオン性殺菌剤の含有量は、口腔内菌叢改善効果を有効に高める観点から、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、或いは本発明の口腔内菌叢改善剤は、カチオン性殺菌剤を含有しないのが好ましい。
【0036】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記成分のほか、水やエタノール等の溶剤;pH調整剤;粘結剤;グリセリン、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコール等の湿潤剤;研磨剤;甘味剤;発泡剤や発泡助剤;保存料;色素;香料等を適宜含有させることができる。
【0037】
本発明の口腔内菌叢改善剤は、高い口腔内菌叢改善効果を持続的に発揮することができるため、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とする口腔内菌叢改善作用持続剤としても活用することができる。
すなわち、本発明の口腔内菌叢改善作用持続剤を所望の部位に適用した後、例えば実施例における試験例2にも示すように、一定期間にわたり口腔内菌叢改善効果を得ることができる。
【0038】
また、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、ナイセリア属菌の生育を促進させて、口腔内菌叢におけるナイセリア属菌が占める割合を効果的に増大させる効果を発揮することができるため、口腔内ナイセリア属菌の生育促進剤としても活用することができる。
そして、また硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、口腔内における病原性細菌である、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、又はストレプトコッカス・ミュータンスの生育抑制作用をも有し、これら病原性細菌の生育を選択的に抑制して口腔内菌叢における病原性細菌が占める割合を低減させることができる。
また、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、これらポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、又はストレプトコッカス・ミュータンスの生育抑制作用を有効に発揮することから、ポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、又はストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗菌剤としても活用することができる。
【0039】
このように、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、非病原性細菌であるナイセリア属菌が占める割合を増大させ、或いはポルフィロモナス・ジンジバリス、フゾバクテリウム・ヌクレアタム、又はストレプトコッカス・ミュータンスなる病原性細菌が占める割合を低減させて、口腔内菌叢の細菌構成に変化を与えることができるため、口腔内環境を健康な状態へと導くことが可能であることから、口腔内環境改善剤としても活用することができる。
【0040】
さらに、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、歯周病原性細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスやフゾバクテリウム・ヌクレアタム、及びう蝕の原因菌でもあるストレプトコッカス・ミュータンスの生育抑制作用をもたらすため、これらの歯肉細胞への感染を抑制し、歯肉に炎症が惹起されたり、かかる炎症の悪化により歯肉の腫れや出血、又は歯周ポケットの深化により歯周炎が引き起こされたりするのを抑止することができる。また、歯垢の形成を抑制して歯周病の罹患を未然に防止することができる。さらに、かかる歯周炎がさらに進行して、歯肉の退縮や歯根を支える歯槽骨の吸収や歯の脱落を抑止することができる。このように、硝酸イオン供給化合物と含フッ素化合物を有効成分とすれば、歯肉や歯根、歯槽骨等の歯周組織を有効に保護することが可能となることから、歯周組織保護剤としても活用することができる。
【0041】
本発明の、これら口腔内菌叢改善剤等の剤についての具体的な形態としては、口腔内に所定期間滞留し得るものである限り特に限定されないが、例えば、液体歯磨剤、練歯磨剤、潤製歯磨剤、粉歯磨剤、洗口剤(マウスウォッシュ)、マウスリンス、含嗽剤、口中清涼剤(マウススプレー等)等の非可食性の製剤形態;トローチ、可食性フィルム、チューインガム、キャンディ、グミキャンディ、タブレット、顆粒、細粒、粉末、カプセル等の可食性の口腔用製剤形態が挙げられる。なかでも、本発明の作用効果の発現の点から、洗口剤、マウスウォッシュ、練歯磨剤、粉歯磨剤、水歯磨剤が好ましい。
【実施例0042】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
(1)細菌の準備
下記表1に示すように、American Type Culture Collection(ATCC)、Japan Collection of Microorganisms(JCM)、NITE Biological Resource Center(NBRC)より入手した各菌種を用いた。
【0044】
【0045】
(2)菌の前培養
ナイセリア・ムコサ(N.m.)、アクチノマイセス・ビスコーサス(A.v.)、及びストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)は、Brain Heart Infusion(BHI)寒天培地(日本BD社製)に播種し、37℃、5%CO2環境下で1日間培養したのち、Brain Heart Infusion(BHI)液体培地(日本BD社製)に継代し、37℃、5%CO2環境下で1日間培養した。
フゾバクテリア・ヌクレアータム(F.n.)、及びポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g.)は、アネロコロンビア血液寒天培地(日本BD社製)に播種し、温度37℃、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学社製)を使用した嫌気条件下にて3日間培養したのち、BHI液体培地に5ug/mLヘミン(サーモフィッシャーサイエンス社製)、1ug/mLビタミンK1(富士フィルム和光純薬社製)を添加した培地に2回継代し、上記と同一条件下で各々1~2日間培養した。
【0046】
(3)バイオフィルムモデルの作製
上記(2)の前培養後の菌液を遠心処理(N.m.、A.v.、及びS.mutansは、2000gを室温にて10分間;F.n.、及びP.g.は、4500gを室温にて10分間)した後、培養上清を除いた菌体を、5ug/mLのヘミン及び1ug/mLのビタミンK1含有BHI液体培地に再懸濁して洗浄した。
次いで、再度遠心処理した後、培養上清を除いて5ug/mLのヘミン及び1ug/mLのビタミンK1含有BHI培地に再懸濁し、分光光度計(エッペンドルフ社製)を用いて600nmでの吸光度(OD600)を測定した。
なお、N.m.、A.v.、及びS.mutansは、OD600=0.132に調製し、F.n.、P.g.は、OD600=0.396に調製して、各試験に用いた。
【0047】
以下の各試験1~3で用いる表4~7に示す処方の剤を、各々BHI液体培地に溶解し、これらをBHI液体培地で6倍希釈した液を評価サンプルとした。Poly-L-Lysine Coat 24Well Microplate(AGCテクノグラス社製)に、評価サンプル又はBHI培地を100μL、及び調製済みの菌液を各50μLずつ(計250μL)添加し、さらにBHI培地650μLを添加して、温度37℃、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学)を使用した嫌気条件下にて24時間培養し、バイオフィルムを作製した。
【0048】
(4)バイオフィルムからのゲノムDNAの抽出
プレートの底面に付着したバイオフィルムを、培養上清とピペッティングにより充分撹拌した後、そのうちの100μLを1.5mLチューブに回収した。次いで、遠心処理(14000rpmで室温にて10分間)し、培養上清を除いた沈殿物に20mg/mLのリゾチーム(富士フィルム和光純薬社製)溶液(20mMTris-HCl(pH8.0)、2mMEDTA、1.2%TritonX-100含有)を200μL添加し、振盪(200rpm)しながら温度37℃でインキュベートした。ゲノムDNAの抽出は、Dneasy Blood & Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、キットの標準プロトコールにしたがって行った。最終的に300μLの溶出液で溶出し、ゲノムDNAサンプルを調製した。
【0049】
(5)ゲノムDNAサンプルにおける菌の定量
菌の定量は、Taqmanプローブを用いたリアルタイムPCR法により行った。
また、表2に示すように、各菌のrRNA16S遺伝子を特異的に検出するTaqmanプローブとプライマーを作製した。またフゾバクテリア・ヌクレアータムのrRNA16S遺伝子を検出するTaqmanプローブとプライマーは、既報(「Unculturable and culturable periodontal-related bacteria are associated with periodontal inflammation during pregnancy and with preterm low birth weight delivery」、Changchang Ye 外、Scientific reports 10、2020、15807)に記載の配列で作製した。
なお、リアルタイムPCRの反応溶液組成と反応条件を表3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
各菌の存在割合(%)については、まずコピー数が明らかなPCR産物を標品として検量線を作成した後、各菌のrRNA16S遺伝子のコピー数を算出し、以下の計算式により求めた。
各菌の存在割合(%)=(各菌のコピー数)/(5菌種のコピー数の総和)×100
【0053】
[試験1:実施例1~21、比較例1~4]
表4~5に示す処方にしたがい、残部をBHI培地として全量100質量%とする剤を調製し、上記(1)~(5)にしたがって菌の定量を行った。
なお、各実施例における硝酸カリウムの含有量に応じて、同量の硝酸カリウムのみを含有する比較例を対照例として選択し、以下の評価1~3の評価の基準として用いた。具体的には、例えば、実施例2~4の対照例としては比較例2を選択し、実施例5~11の対照例としては比較例3を選択した。
次いで、下記方法にしたがって菌叢改善効果についての各評価1~3を行った。
結果を表4~5に示す。
【0054】
《評価1:ナイセリア・ムコサ(N.m.)生育促進作用》
各剤において求めた菌の定量値をもとに、下記式を用いてN.m.生育促進作用(%)の値を算出した。
N.m.生育促進作用(%)=
(N.m.の存在割合)-(対照例として選択した比較例におけるN.m.の存在割合)
次いで、得られたN.m.生育促進作用(%)の値を下記ランクに当てはめ、評価結果とした。
A:40%以上
B:20%以上40%未満
C:10%以上20%未満
D:1%以上10%未満
E:1%未満
【0055】
《評価2:病原性細菌生育抑制作用》
各剤について求めた菌の定量値をもとに、下記式を用いて病原性細菌の生育抑制作用(%)の値を算出した。
病原性細菌生育抑制作用(%)=
(S.mutans、F.n.、及びP.g.の存在割合の和)-
(対照例として選択した比較例におけるS.mutans、F.n.、及びP.g.の存在割合の和)
次いで、得られた病原性細菌の生育抑制作用(%)の値を下記ランクに当てはめ、評価結果とした。
A:-40%未満
B:-40%以上-20%未満
C:-20%以上-10%未満
D:-10%以上-1%未満
E:-1%以上
【0056】
《評価3:歯周病原性細菌割合》
F.n.及びP.g.の存在割合の和の値(%)を下記ランクに当てはめ、評価結果とした。
歯周病原性細菌割合(%)=
(F.n.、及びP.g.の存在割合の和)-(対照例として選択した比較例におけるF.n.、及びP.g.の存在割合の和)
A:0.5%未満
B:0.5%以上1%未満
C:1%以上2%未満
D:2%以上4%未満
E:4%以上
【0057】
【0058】
【0059】
[試験2:実施例22~27、比較例5~6]
実施例21~24及び比較例5については、培養時間を12時間とし、実施例25~27及び比較例6については、培養時間を48時間とし、試験1と同様にして菌叢改善効果の持続性評価を行った。
培養時間が24時間であった実施例5~6、10及び比較例3も含め、結果を表6に示す。
【0060】
【0061】
[試験3:実施例28~31、比較例7~10]
表7に示す処方にしたがい、残部をBHI培地として全量100質量%とする剤を調製し、また剤を添加しなかったものを対照例1とした。
次いで、得られた各剤について、N.m.の菌増加数、及びS.mutansの菌減少数を測定し、各々対照例との差分を求めた結果を下記ランクに当てはめ、評価結果とした。
なお、対照例1でのN.m.の菌数は1.64×105copies、S.mutansの菌数は2.49×107copiesであった。
結果を表7に示す。
【0062】
・N.m.の菌増加数(対照例1との差分)
A:1×107copies以上
B:1×106copies以上1×107copies未満
C:1×106copies未満
・S.mutansの菌減少数(対照例1との差分)
A:-1×107copies以上
B:-1×106copies以上1×107copies未満
C:-1×106copies未満
【0063】