(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046455
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240327BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20240327BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/363 E
B23K35/363 C
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151856
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙太
(57)【要約】
【課題】印刷性を向上できるフラックス組成物を提供すること。
【解決手段】(A)樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、(D)滑剤、および(E)溶剤を含有し、前記(D)成分が、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有する、フラックス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、(D)滑剤、および(E)溶剤を含有し、
前記(D)成分が、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有する、
フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(D1)成分が、2-エチルヘキサン酸と、アルコールとのエステルである、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(D1)成分が、2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、および、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリトリトールからなる群から選択される少なくとも1つである、
フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物と、(F)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、はんだ組成物、および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。このはんだ組成物では、印刷性、はんだ付性、および粘度安定性などが求められる。また、近年、さらに電子機器の小型化が進行するため、実装の高密度化が要求されている。そして、はんだ組成物には、微細開口部の印刷性といった高度の印刷性が要求されている。
一方で、印刷性の向上のために、チクソ剤やフッ素系添加剤を配合することが検討されている。しかしながら、チクソ剤やフッ素系添加剤の配合では、ある程度の印刷性向上の効果は認められるが、微細開口部の印刷性(転写不良の防止)について、顧客要求を満足させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、印刷性を向上できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下に示すフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板が提供される。
[1] (A)樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、(D)滑剤、および(E)溶剤を含有し、
前記(D)成分が、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有する、
フラックス組成物。
[2] [1]に記載のフラックス組成物において、
前記(D1)成分が、2-エチルヘキサン酸と、アルコールとのエステルである、
フラックス組成物。
[3] [1]または[2]に記載のフラックス組成物において、
前記(D1)成分が、2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、および、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリトリトールからなる群から選択される少なくとも1つである、
フラックス組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のフラックス組成物と、(F)はんだ粉末とを含有する、
はんだ組成物。
[5] [4]に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、印刷性を向上できるフラックス組成物、はんだ組成物、並びに、電子基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に係るフラックス組成物について説明する。本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、(D)滑剤、および(E)溶剤を含有するものである。また、(D)成分が、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有する。
【0008】
本実施形態に係るフラックス組成物が、印刷性を向上できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、微細開口部の印刷性(転写不良の防止)が悪化するメカニズムは、次のとおりと推察する。つまり、印刷時には、まず、はんだ組成物メタルマスクの開口部に充填される。そして、このはんだ組成物が、版離れ時に、マスク開口壁面に付着することで、転写不良を発生させるものと推察する。
これに対し、本実施形態に係るフラックス組成物は、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有することで、マスク開口壁面とはんだ組成物との滑りを良好にできる。これにより、版離れ時に、はんだ組成物がマスク開口壁面に付着することを抑制でき、転写不良を防止できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0009】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)樹脂としては、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、粘度安定性などの観点から、ロジン系樹脂、またはアクリル樹脂が好ましい。
ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのロジン系樹脂の中でも、完全水添ロジンおよび水添酸変性ロジンを用いることが好ましく、完全水添ロジンと、水添酸変性ロジンとを併用することがより好ましい。
アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、および酢酸ビニルなどの少なくとも1種のモノマーを重合してなるものである。寒暖の差が激しく冷熱衝撃の大きい環境下であってもフラックス残さの亀裂発生を防止できるという点で、アクリル樹脂が有用である。このアクリル樹脂の中でも、メタクリル酸と炭素数2から6のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂、更にはメタクリル酸と炭素数2のアルキル基を有するモノマーとを含むモノマー類を重合したアクリル樹脂が好ましい。このようなアクリル樹脂は、形成されるフラックス残さ(フラックス固化物)のべたつきを抑え、かつ良好な亀裂抑制効果を奏する点で好ましい。
【0010】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、25質量%以上75質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0011】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤としては、有機酸、非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤(ハロゲン系活性剤)、およびアミン系活性剤などが挙げられる。これらの活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
有機酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、グリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸などが挙げられる。
【0012】
非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤としては、ハロゲン原子が共有結合により結合した非塩系の有機化合物が挙げられる。このハロゲン化化合物としては、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよいが、塩素、臭素およびフッ素の任意の2つまたは全部のそれぞれの共有結合を有する化合物でもよい。これらの化合物は、水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールやハロゲン化カルボキシルのように水酸基やカルボキシル基などの極性基を有することが好ましい。ハロゲン化アルコールとしては、例えば2,3-ジブロモプロパノール、2,3-ジブロモブタンジオール、トランス-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、トリブロモネオペンチルアルコールなどの臭素化アルコール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-ジクロロ-2-ブタノールなどの塩素化アルコール、3-フルオロカテコールなどのフッ素化アルコール、その他これらに類する化合物が挙げられる。ハロゲン化カルボキシルとしては、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、2-ヨードプロピオン酸、5-ヨードサリチル酸、5-ヨードアントラニル酸などのヨウ化カルボキシル、2-クロロ安息香酸、3-クロロプロピオン酸などの塩化カルボキシル、2,3-ジブロモプロピオン酸、2,3-ジブロモコハク酸、2-ブロモ安息香酸などの臭素化カルボキシル、その他これらに類する化合物が挙げられる。
【0013】
アミン系活性剤としては、アミン類(エチレンジアミンなどのポリアミンなど)、アミン塩類(トリメチロールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミンやアミノアルコールなどの有機酸塩や無機酸塩(塩酸、硫酸、臭化水素酸など))、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)、アミド系化合物などが挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩(塩酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩など)、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、これらのアミンの臭化水素酸塩などが挙げられる。
【0014】
(B)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上13質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0015】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤としては、公知のチクソ剤を適宜使用できる。この(C)成分により、印刷時や加熱時のダレを抑制できる。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらの中でも、ダレの抑制の観点から、(C1)アミド類が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、(C)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(C1)成分以外に、その他のチクソ剤(以下(C2)成分とも称する)をさらに含有してもよい。
【0016】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限以上であれば、十分なチクソ性が得られ、ダレを抑制できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることなく、印刷不良となりにくい傾向にある。
【0017】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)滑剤は、(D1)エチルヘキシル基を有するエステル化合物を含有することが必要である。この(D1)成分により、微細開口部の印刷性を向上できる。なお、滑剤とは、素材の粒子同士の摩擦を軽減させる目的で使用される添加剤である。
(D1)成分は、2-エチルヘキサン酸と、アルコールとのエステルであることが好ましい。ここで、アルコールとしては、1価アルコール、ジオール、トリオール、およびテトラオールなどが挙げられる。これらの中でも、微細開口部の印刷性の観点から、1価アルコールまたはトリオールが好ましく、1価アルコールが特に好ましい。
1価アルコールとしては、2-ヘキシル-1-デカノール、エタノール、プロパノール、およびヘキサノールなどが挙げられる。これらの中でも、2-ヘキシル-1-デカノールが好ましい。
ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびジエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールが好ましい。
トリオールとしては、グリセリンなどが挙げられる。
テトラオールとしては、ペンタエリトリトールなどが挙げられる。
【0018】
(D1)成分としては、2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジ2-エチルヘキサン酸プロピレングリコール、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ジ2-エチルヘキサン酸グリセリル、モノ2-エチルヘキサン酸グリセリル、および、テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリトリトールなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
(D1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上4質量%以下であることが特に好ましい。(D1)成分の配合量が前記下限以上であれば、微細開口部の印刷性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物を含有したはんだ組成物の連続使用時の粘度安定性を維持できる傾向にある。
【0020】
また、ダレ性と、微細開口部の印刷性とをより高いレベルで両立するという観点から、(D1)成分と(C1)成分との質量比((D1)/(C1))は、1/10以上2以下であることが好ましく、1/8以上1以下であることがより好ましく、1/6以上2/3以下であることが特に好ましい。
【0021】
(D)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(D1)成分以外に、その他の滑剤(以下(D2)成分とも称する)をさらに含有してもよい。(D2)成分としては、(D1)成分以外のエステル系滑剤(ステアリン酸モノグリセリドなど)、および炭化水素系滑剤などが挙げられる。ただし、(D)成分は、(D1)成分のみを使用することが好ましい。また、(D1)成分の配合量は、(D)成分100質量%に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0022】
(D)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.2質量%以上12質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記下限以上であれば、微細開口部の印刷性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物を含有したはんだ組成物の連続使用時の粘度安定性を維持できる傾向にある。
【0023】
[(E)成分]
本実施形態に用いる(E)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの中でも、印刷性の観点から、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールが好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
(E)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0025】
[酸化防止剤]
本実施形態に係るフラックス組成物は、はんだ溶融性などの観点から、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。ここで用いる酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。酸化防止剤としては、硫黄化合物、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0026】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンなどが挙げられる。
【0027】
酸化防止剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。酸化防止剤の配合量が前記下限以上であれば、はんだ溶融性を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0028】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、および酸化防止剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0029】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態に係るはんだ組成物について説明する。本実施形態に係るはんだ組成物は、前述の本実施形態に係るフラックス組成物と、以下説明する(F)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0030】
[(F)成分]
本実施形態に用いる(F)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0031】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、およびSn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0032】
(F)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0033】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(F)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0034】
[電子基板]
次に、本実施形態に係る電子基板について説明する。本実施形態に係る電子基板は、前述の本実施形態に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本実施形態に係る電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0035】
リフロー工程においては、はんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、電子部品をプリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係るフラックス組成物、はんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0037】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:アクリル酸変性水添ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:水添ロジングリセリンエステル、商品名「ハリタックF85」、ハリマ化成社製
アクリル樹脂:下記調製例1で得られたアクリル樹脂
((B)成分)
有機酸A:マロン酸
有機酸B:コハク酸
有機酸C:グルタル酸
有機酸D:スベリン酸
有機酸E:ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、Arizona Chemical社製
ハロゲン系活性剤:ジブロモブテンジオール
((C1)成分)
チクソ剤A:高級脂肪酸ポリアマイド、商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
チクソ剤B:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、商品名「スリパックスH」、日本化成社製
チクソ剤C:ラウリン酸アマイド、商品名「ダイヤミッドY」、日本化成社製
((C2)成分)
チクソ剤D:商品名「ヒマコウ」、ケイエフ・トレーディング社製
((D1)成分)
滑剤A:2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、高級アルコール工業社製
滑剤B:トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、高級アルコール工業社製
滑剤C:テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリトリトール、富士フイルムワコーケミカル社製
((E)成分)
溶剤A:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、日本乳化剤社製
溶剤B:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG))、日本乳化剤社製
溶剤C:2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、安藤パラケミー社製
(他の成分)
添加剤:ポリブタジエン、商品名「BI-2000」、日本曹達社製
酸化防止剤A:ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルベンゼンプロパン酸)エチレンビス(オキシエチレン)、商品名「イルガノックス245」、BASF社製
酸化防止剤B:ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、商品名「ANOX20」、白石カルシウム社製
((F)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は20~38μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ4に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0038】
[調製例1]
撹拌機、還流管、および窒素導入管を備えた500mLの4つ口フラスコにジエチレングリコールモノヘキシルエーテル200gを仕込み、これを110℃に加熱した。また、メタクリル酸10質量%、2-エチルヘキシルメタクリレート51質量%、およびラウリルアクリレート39質量%を混合したもの300gにアゾ系ラジカル開始剤としてジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(製品名:V-601、富士フイルム和光純薬社製)を0.2質量%から5質量%を加えてこれを溶解させ、溶液を作製した。
次いで、この溶液を4つ口フラスコに1.5時間かけて滴下したものを110℃で1時間撹拌した後に反応を終了させ、アクリル樹脂を得た。なお、このアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は7,800であり、酸価は40mgKOH/gであり、ガラス転移温度は-47℃であった。
【0039】
[実施例1]
ロジン系樹脂A7質量%、ロジン系樹脂B5質量%、アクリル樹脂55質量%、滑剤A3質量%、有機酸A1質量%、有機酸B0.5質量%、有機酸C1質量%、有機酸D1質量%、ハロゲン系活性剤0.5質量%、溶剤A11質量%、溶剤C7質量%、チクソ剤A4質量%、チクソ剤C1.5質量%、およびチクソ剤D2.5質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、およびはんだ粉末89質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0040】
[実施例2~4]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~2]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0041】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(印刷性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)印刷性(転写率)
直径0.3mm、厚み150μmの開口を有するBGA部品パターンを有するメタルマスク(部品パターン100個)を用いて基板にはんだペーストを印刷した。印刷1枚目から7枚目まで基板上に転写されたはんだ組成物の体積をSPI(はんだ印刷検査装置)により測定し、転写率を算出した。
なお、メタルマスクの開口体積(設計値)に対する実測体積の割合を百分率で示した値を、転写率として算出した。
転写率をヒストグラム化し、最小値、平均値、最大値、および標準偏差を、それぞれ算出した。転写率の最小値が大きいほど、また、転写率の標準偏差が小さいほど、印刷性が良好と判断できる。
【0042】
【0043】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~4)は、印刷性が良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、印刷性を向上できることが確認された。