(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046471
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】複合藻類の培養方法及び生産方法、並びに複合藻類組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151888
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】520385537
【氏名又は名称】株式会社ノベルジェン
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 淳
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065BC05
4B065BC48
(57)【要約】
【課題】 藻類の効率的な培養方法及び生産方法、並びに藻類組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、を備える藻類の培養方法である。第一の藻類及び前記第二の藻類に関し、第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、藻類の培養方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、藻類の培養方法。
【請求項2】
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、前記第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、藻類の培養方法。
【請求項3】
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始初期では前記第一の藻類の細胞数が前記第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では前記第一の藻類の前記細胞数が前記第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、藻類の培養方法。
【請求項4】
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第一の藻類における静止期の細胞数が、前記第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ない、藻類の培養方法。
【請求項5】
前記同一条件が、培養直前の藻類が対数増殖期であることを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項6】
前記同一条件が、さらに、初期細胞数、培地組成、培養温度、通気量及び光量が略同一であることを含む、請求項5に記載の培養方法。
【請求項7】
前記第一の藻類が、前記第二の藻類の増殖に必要な物質を分泌する、請求項1~4のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の培養方法を含む、藻類の生産方法。
【請求項9】
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、藻類組成物。
【請求項10】
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、前記第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、藻類組成物。
【請求項11】
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始初期では前記第一の藻類の細胞数が前記第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では前記第一の藻類の前記細胞数が前記第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、藻類組成物。
【請求項12】
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第一の藻類における静止期の細胞数が、前記第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ない、藻類組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の培養方法及び藻類の生産方法、並びに複合藻類組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油等の枯渇性資源の代替として、バイオ燃料が注目されている。バイオ燃料として、例えば、サトウキビ、トウモロコシ等の原料植物をアルコール発酵させて得られるバイオエタノールや、菜種油、大豆油等の植物油を加工して得られるバイオディーゼルが挙げられる。しかしながら、これらバイオ燃料の原料は、食糧としても用いられるため、原料確保に課題があった。
【0003】
そこで、食糧と競合しないバイオマス資源の1つとして、藻類が注目されている。また、藻類はバイオ燃料として使用できるだけでなく、水中のマイクロプラスチックの除去(特許文献1)や、二酸化炭素固定(特許文献2)等にも寄与する。藻類の培養技術として、例えば、特許文献3には、藻類の大規模生産に使用可能な攪拌システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7099766号公報
【特許文献2】特開2022-061957号公報
【特許文献3】特開2022-511195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の藻類の培養方法は、藻類の増殖が遅く、かつ環境変化等に対して脆弱であるという問題があった。本発明は、藻類の効率的な培養方法及び生産方法、並びに藻類組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の藻類を組み合わせることにより、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、藻類の培養方法が提供される。
【0008】
本発明の第二の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、前記第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、藻類の培養方法が提供される。
【0009】
本発明の第三の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始初期では前記第一の藻類の細胞数が前記第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では前記第一の藻類の前記細胞数が前記第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、藻類の培養方法が提供される。
【0010】
本発明の第四の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、
前記培養液中で前記第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、
を備え、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第一の藻類における静止期の細胞数が、前記第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ない、藻類の培養方法が提供される。
【0011】
前記第一の態様、第二の態様、第三の態様及び第四の態様において、前記同一条件は、培養直前の藻類が対数増殖期であることを含んでもよい。
【0012】
前記第一の態様、第二の態様、第三の態様及び第四の態様において、前記同一条件は、初期細胞数、培地組成、培養温度、通気量及び光量が略同一であることを含んでもよい。
【0013】
前記第一の態様、第二の態様、第三の態様及び第四の態様において、前記第一の藻類は、前記第二の藻類の増殖に必要な物質を分泌してもよい。
【0014】
前記第一の態様、第二の態様、第三の態様及び第四の態様において、前記培養方法は、藻類の生産方法に含まれてもよい。
【0015】
本発明の第五の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の前記第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、藻類組成物が提供される。
【0016】
本発明の第六の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、前記第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、藻類組成物が提供される。
【0017】
本発明の第七の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、培養開始初期では前記第一の藻類の細胞数が前記第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では前記第一の藻類の前記細胞数が前記第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、藻類組成物が提供される。
【0018】
本発明の第八の態様によれば、
第一の藻類及び第二の藻類を含み、
前記第一の藻類及び前記第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、前記第一の藻類における静止期の細胞数が、前記第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ない、藻類組成物が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、藻類の効率的な培養方法及び生産方法、並びに藻類組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】合成培地を用いて各藻類を培養したときの、所定経過時間ごとの細胞密度を示す図である。
【
図2】低栄養培地を用いて各藻類を培養したときの、所定経過時間ごとの細胞密度を示す図である。
【
図3】カルキ抜き水道水を用いて各藻類を培養したときの、所定経過時間ごとの細胞密度を示す図である。
【
図4】培養環境の変化がある条件において各藻類を培養したときの、所定経過時間ごとの細胞密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
以下、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(例えば25℃)として実施されたものとする。
【0022】
以下、本実施形態に係る藻類について説明し、次いで、本実施形態に係る藻類の培養方法について説明する。
【0023】
(藻類)
本実施形態における藻類は、特に限定されないが、典型的には微細藻類である。なお、本明細書において、藻類には細胞同士が接着して群体性を示す藻類を含む。本実施形態における藻類の種類としては、例えば、珪藻、緑藻、黄緑藻、紅藻、褐藻、渦鞭毛藻、ラフィド藻、ユーグレナ藻、灰色藻、真正眼点藻、ピングイオ藻、クロララクニオン藻、ハプト藻及びクリプト藻等が挙げられる。
【0024】
本実施形態における藻類のサイズは、特に限定されない。藻類のサイズは、典型的には、0.1μm以上1000μm以下である。なお、本明細書における「藻類のサイズ」は、藻類細胞の最大径部分(例えば、棒状の藻類である場合には、長径部分)を指し、具体的には、ランダムに取得した100細胞の最大径平均値を指す。
【0025】
本実施形態における藻類は、有用な物質を生産できることが好ましい。具体的には、本実施形態における藻類は、エタノール、炭化水素、脂質又は粘着性物質(粘着性多糖)を生産できることが好ましい。エタノール、炭化水素及び脂質は、例えば、バイオ燃料として利用することができる。粘着性物質は、例えば、水中のマイクロプラスチックを除去することができる。粘着物質を生産可能な藻類として、例えば、ストラメノパイルに属する珪藻、アーケプラスチダに属する緑藻、紅藻及び接合藻、アルベオラータに属する渦鞭毛藻、エクスカバータに属するユーグレナ藻、リザリアに属するクロララクニオン藻等が挙げられる。
【0026】
本実施形態において、第一の藻類及び第二の藻類を含む、複数種類の藻類を培養する複合培養が好ましい。第一の藻類及び第二の藻類について、第一の藻類及び第二の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、(1)培養開始時を基準とした6時間経過時の第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、(2)第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、(3)培養開始初期では第一の藻類の細胞数が第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では第一の藻類の前記細胞数が第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、及び(4)第一の藻類における静止期の細胞数が、第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ない、のうち、いずれか1つ、好適には2つ以上、さらに好適には3つ以上、特に好適には全てに該当することが好ましい。
【0027】
本実施形態における「第一の藻類及び第二の藻類を増殖可能な同一条件」とは、対象とする藻類が増殖可能であれば、従来公知の任意の条件を設定できる。
【0028】
本実施形態における「同一条件」には、好適には、培養直前の藻類が対数増殖期であることを含む。本明細書における「対数増殖期」とは、誘導期(遅滞期)、静止期(定常期)及び死滅期を除いた、細胞が増殖している期間を指し、厳密に対数増殖していなくてもよい。具体的には、例えば、下記の数1を満たす場合に、藻類が対数増殖期であると判断できる。数1において、Nxは経過時間txにおける総細胞数を表し、t2>t1とする。また、AはA>0の任意の定数である。
【0029】
【0030】
また、対数増殖期の藻類は、凍結融解後又は継代後の藻類を藻類が増殖可能な条件で一定期間培養することにより取得できる。具体的には、例えば、藻類を凍結融解後又は継代後1日以上培養することにより取得できる。このとき、藻類が培養液中に飽和していない状態が好ましい。具体的には、例えば、藻類が培養液中に1010細胞/mL以下の状態であることが好ましい。
【0031】
本実施形態における「同一条件」には、好適には、初期細胞数が略同一であることを含む。また、本実施形態における「同一条件」には、さらに好適には、初期細胞数が同一であることを含む。なお、「初期細胞数が略同一」とは、培養開始時の(播種)細胞数が±10%の誤差を含むことを指す。
【0032】
本実施形態における「同一条件」には、好適には、培地組成が略同一であることを含む。また、本実施形態における「同一条件」には、さらに好適には、培地組成が同一であることを含む。なお、「培地組成が略同一」とは、各培地成分の含有量が±10%の誤差を含むことを指す。本実施形態における培地は、例えば、精製水や、AF-6培地、BN培地、C培地、HUT培地、MA培地及びVT培地等の合成培地、ES培地、PES培地、PESI培地、ESS培地及びf/2培地等の強化培地、及びこれらの改変培地であってもよく、自然界で藻類が生息している海水、淡水、汽水等であってもよい。
【0033】
本実施形態における、「同一条件」には、好適には、培養温度、通気量又は光量が略同一であることを含む。また、本実施形態における、「同一条件」には、より好適には、培養温度、通気量及び光量が略同一であることを含み、さらに好適には、培養温度、通気量及び光量が同一であることを含む。なお、「培養温度、通気量又は光量が略同一」とは、全培養期間における各パラメータの値が±10%の誤差を含むことを指す。
【0034】
本実施形態において、第一の藻類は、第二の藻類に比べて、培養初期の増殖速度が大きいことが好ましい。具体的には、培養開始時を基準とした6時間経過時の第一の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の第二の藻類の細胞増加率より20%以上高いことが好ましい。このような藻類を用いて複合培養すると、第二の藻類が増殖する際、第一の藻類の増殖時に分泌した物質等を効率的に利用できる。
【0035】
本実施形態において、第二の藻類は、第一の藻類に比べて、誘導期(遅滞期)が長いことが好ましい。具体的には、第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、第一の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上であることが好ましい。このような藻類を用いて複合培養すると、第二の藻類が増殖する際、第一の藻類の増殖時に分泌した物質等を効率的に利用できる。
【0036】
本実施形態において、第二の藻類は、第一の藻類に比べて、対数増殖期における増殖速度が大きいことが好ましい。具体的には、培養開始初期では第一の藻類の細胞数が第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では第一の藻類の前記細胞数が第二の藻類の前記細胞数よりも少ないことが好ましい。このような藻類を用いて複合培養すると、藻類を効率的に培養できる。
【0037】
本実施形態において、第一の藻類における静止期の細胞数が、第二の藻類における静止期の細胞数よりも少ないことが好ましい。なお、本明細書における「静止期」とは、細胞が増加した後、細胞増殖がほとんど停止した状態を指す。このような藻類を用いて複合培養すると、藻類を効率的に培養できる。
【0038】
本実施形態において、第一の藻類は第二の藻類の増殖に必要な物質を分泌することが好ましい。藻類の増殖に必要な物質として、チアミン等のビタミン、Fe、Mn、Co等のミネラル、及びインドール酢酸、ジベレリン、アブシシン酸等の植物ホルモン等を挙げることができる。このような藻類を複合培養することで、第二の藻類を効率的に培養できる。また、本実施形態に係る第一の藻類は独立栄養性が高く、第二の藻類は従属栄養性が高いことが好ましい。
【0039】
本実施形態において、第一の藻類及び第二の藻類に加えて、さらに別の藻類(第三の藻類)を含み得る。本実施形態のある態様は、第三の藻類が、上述した第一の藻類と同様の性質を有することが好ましい。具体的には、第二の藻類及び第三の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、(1)培養開始時を基準とした6時間経過時の第三の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の第二の藻類の細胞増加率より20%以上高い、(2)第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、第三の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、(3)培養開始初期では第三の藻類の細胞数が第二の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では第三の藻類の前記細胞数が第二の藻類の前記細胞数よりも少ない、及び(4)第三の藻類における静止期の細胞数が、第二の藻類における静止期の細胞数が少ない、(5)第三の藻類が、第二の藻類の増殖に必要な物質を分泌する、のうち、いずれか1つ、好適には2つ以上、より好適には3つ以上、さらに好適には4つ以上、特に好適には全てに該当することが好ましい。このような藻類を用いて複合培養すると、第二の藻類が増殖する際、第一の藻類及び第三の藻類の増殖時に分泌した物質等を効率的に利用でき、かつ藻類を効率的に培養できる。
【0040】
また、本実施形態の別の態様は、第三の藻類が、上述した第二の藻類を第一の藻類としたときの、第二の藻類と同様の性質を有することが好ましい。具体的には、第二の藻類及び第三の藻類を増殖可能な同一条件で、それぞれ単独に培養した場合に、(1)培養開始時を基準とした6時間経過時の第二の藻類の細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時の第三の藻類の細胞増加率より20%以上高い、(2)第三の藻類の細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間における、第二の藻類の細胞数が培養開始時を基準として200%以上である、(3)培養開始初期では第二の藻類の細胞数が第三の藻類の細胞数よりも多く、かつ所定時間経過後では第二の藻類の前記細胞数が第三の藻類の前記細胞数よりも少ない、及び(4)第二の藻類における静止期の細胞数が、第三の藻類における静止期の細胞数が少ない、(5)第二の藻類が、第三の藻類の増殖に必要な物質を分泌する、のうち、いずれか1つ、好適には2つ以上、より好適には3つ以上、さらに好適には4つ以上、特に好適には全てに該当することが好ましい。このような藻類を用いて複合培養すると、第三の藻類が増殖する際、第一の藻類及び第二の藻類の増殖時に分泌した物質等を効率的に利用でき、かつ藻類を効率的に培養できる。
【0041】
本実施形態における、藻類の種類の数は、2以上であれば特に限定されない。本実施形態における藻類の種類の数がn(n≧3)のとき、そのうち任意の2種類の藻類が、上記(1)~(5)のうち、いずれか1つ、好適には2つ以上、より好適には3つ以上、さらに好適には4つ以上、特に好適には全てに該当することが好ましい。
【0042】
本実施形態のある態様において、光合成細菌は第一の藻類又は第二の藻類になり得る。光合成細菌としては、例えば、シアノバクテリア(藍藻)、紅色細菌及び緑色細菌等が挙げられる。光合成細菌は、増殖の際に、藻類の増殖に必要な、ビタミン、ミネラル、植物ホルモン等の物質を分泌し得る。このような光合成細菌と藻類とを複合培養することで、藻類を効率的に培養できる。
【0043】
本実施形態に係る第一の藻類及び第二の藻類の組み合わせの具体例として、例えば、第一の藻類としてクロレラ又はクラミドモナス及び第二の藻類としてミクロシスティス又はアナベナが挙げられる。また、本実施形態に係る第一の藻類及び第二の藻類の組み合わせの具体例として、例えば、第一の藻類としてロドバクテリア及び第二の藻類としてスケレトネマ又はキートセロス等が挙げられる。
【0044】
(藻類の培養方法)
本実施形態における藻類の培養方法は、第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備する準備工程と、培養液中で第一の藻類及び第二の藻類を培養する複合培養工程と、を備えることが好ましい。
【0045】
本実施形態における準備工程では、第一の藻類及び第二の藻類を含む培養液を準備することが好ましい。準備工程前の第一の藻類及び第二の藻類は、それぞれ独立に又は混合して凍結保存又は乾燥保存(熱風乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等の藻類が生存可能な乾燥手法による)等された状態であっても、別培養槽でそれぞれ培養中のものであっても、混合して培養中のものであってもよい。また、第一の藻類と第二の藻類がそれぞれ独立に保存又は培養されている場合、第一の藻類を含む培養液に第二の藻類を添加してもよく、反対に、第二の藻類を含む培養液に第一の藻類を添加してもよく、別培養槽に第一の藻類及び第二の藻類を略同時に添加してもよい。後述する複合培養工程直前の第一の藻類及び第二の藻類は、休眠状態、誘導期又は静止期等であってもよいが、対数増殖期であることが好ましい。このような藻類を用いると、培養開始後、速やかに藻類を増殖させることができる。
【0046】
本実施形態における培地は、藻類が増殖可能であれば特に限定されない。培地は、例えば、精製水や、AF-6培地、BN培地、C培地、HUT培地、MA培地及びVT培地等の合成培地、ES培地、PES培地、PESI培地、ESS培地及びf/2培地等の強化培地、及びこれらの改変培地であってもよく、自然界で藻類が生息している海水、淡水、汽水等であってもよい。また、藻類が増殖可能であれば、工業用水、工業廃水、下水処理水、生活排水、農業排水等であってもよく、具体的な例としては、ごみ処理場の廃水及び発電所の廃水が挙げられる。
【0047】
本実施形態における複合培養工程では、培養液中で第一の藻類及び第二の藻類が培養されることが好ましい。上述のような関係を有する複数種類の藻類を共に培養(複合培養、共培養ともいう)することで、藻類を効率的に培養することができる。
【0048】
本実施形態における複合培養工程では、典型的には、培養槽が用いられる。本実施形態に係る培養槽は、開放系(例えば、屋外の水田、ため池、湖沼、海洋養殖場等)であっても、閉鎖系であってもよい。人工的な藻類の培養は閉鎖系で行われることが多いが、本実施形態に係る培養方法は、培養環境の変化に対して頑健性(ロバスト性)が高いため、培養槽が開放系であってもよく、用途に応じて適宜選択できる。
【0049】
本実施形態における複合培養工程における培養条件は、特に限定されない。具体的には、藻類が培養可能であれば、培養温度、通気量及び光量は任意に設定され得る。なお、「藻類が培養可能」とは、藻類が生存可能であることを指し、藻類が完全に死滅しなければ、一時的に細胞数が減少する場合を含む。
【0050】
本実施形態に係る培養方法は、培養環境の変化に対して頑健性が高い。「培養環境の変化」とは、例えば、温度異常、通気量異常、光量異常、コンタミネーション等により、系内の藻類の細胞数が減少し得る環境変化を指す。環境変化の具体例として、天候不順や、下水処理水や工業廃水等の水質が悪化した水が培養槽内に導入される場合が挙げられる。このような環境変化があると、本実施形態において系内の藻類の細胞数が一時的に減少し得るが、単一藻類の場合に比べて死滅しにくい。その後、第一の藻類が速やかに増殖することにより第二の藻類の増殖が促進され、系内の藻類の細胞数が速やかに回復する。すなわち、本実施形態に係る培養方法は、従来の単一藻類の培養に比べて、このような培養環境の変化に対する頑健性が高い。
【0051】
本実施形態に係る複合培養工程は、バッチ培養でもよく、連続培養(シリアル培養ともいう)でもよい。本実施形態に係る培養方法は、培養環境の変化に対して頑健性が高いため、連続培養のような長期間の培養にも適用できる。連続培養の際には、培養槽中の一部の藻類及び一部の培養液と、新たに準備した藻類及び新規な培地とを、連続的又は間欠的に交換(回収及び追加)することが好ましい。
【0052】
本実施形態に係る複合培養工程の期間は特に限定されない。本実施形態に係る複合培養工程の期間は、例えば、3日以上、1週間以上、1か月以上、1年以上等である。上述の連続培養の場合、半永久的に藻類を培養することが可能である。
【0053】
(藻類の利用方法)
本実施形態に係る藻類の培養方法は、藻類の生産方法に含まれ得る。
【0054】
本実施形態に係る方法によれば、藻類を効率的に培養することができるため、大気中及び水中の窒素固定、硝化、炭素固定等に利用できる。なお、本実施形態に係るある態様において、単独での培養時には硝化能力の低い藻類であっても、所定の藻類(例えば、イカダモ)と複合培養することで高い硝化作用を示し得る。この場合、所定の藻類を第一の藻類、硝化能力の低い藻類を第二の藻類とすることが好ましい。したがって、本実施形態に係る方法は、水処理施設、養殖施設等で利用できる。また、生産した藻類を回収して、木質材料等と共に炭化処理することにより、炭化ペレット又はバイオ炭として利用することもできる。さらに、生産した藻類、又は生産後に炭化若しくは乾燥等の加工を施した藻類は、肥料又は飼料として利用することもできる。
【0055】
本実施形態に係る藻類が、有用な物質を生産する場合、本実施形態に係る方法によれば、有用な物質を効率的に生産できる。特に、第二の藻類が有用な物質を生産する場合、単一の藻類で培養する場合に比べて、効率的に有用な物質を生産することができる。本実施形態に係る藻類がエタノール、炭化水素及び脂質からなる群より選ばれる1種以上を生産できる場合、これらを回収してバイオ燃料として利用できる。また、本実施形態に係る藻類が粘着性物質を生産できる場合、培養液中のマイクロプラスチックを除去することができる。したがって、本実施形態に係る方法は、水処理施設、養殖施設等で利用できる。さらに、当該粘着性物質が多糖類の場合、バイオプラスチックの原料として利用することもできる。
【0056】
(藻類組成物)
本実施形態に係る藻類組成物は、複数種類の藻類を含む組成物である。具体的には、少なくとも第一の藻類及び第二の藻類を任意の割合で含む組成物である。このような組成物を入手することで、上述の準備工程が容易となる。第一の藻類と第二の藻類の細胞数比率は、1:0.01~100が好ましく、1:0.1~10がより好ましく、1:0.5~2がさらに好ましい。このような細胞数比率の組成物であると、効率的に藻類を培養できる。
【0057】
本実施形態に係る藻類組成物における、藻類が含まれる液体は任意である。本実施形態に係る液体は、従来公知の培地又は凍結保存溶液等であってもよい。本実施形態に係る藻類組成物は、藻類が生存可能であれば、液状であっても、凍結状態であってもよい。本実施形態に係る藻類組成物が液状である場合、融解が不要で即時利用できる。一方、本実施形態に係る藻類組成物が凍結状態である場合、保存性に優れる。
【0058】
本実施形態に係る藻類組成物は、さらに任意の添加剤を含み得る。本実施形態に係る添加剤として、例えば、チアミン等のビタミン、Fe、Mn、Co等のミネラルが挙げられる。
【0059】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0060】
本実施形態のある態様は、藻類の用途に応じて、藻類の種類及び細胞数比率を選定し、複数種類の藻類をそれぞれ独立に又は藻類組成物として、藻類を培養するユーザに提供してもよい。このような態様も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0061】
1.複合藻類の培養
緑藻(クラミドモナス)及び藍藻(ミクロシスティス)を、それぞれ、500mL細胞培養フラスコを用いて前培養した。培地としてBN培地(組成は表1に記載)を用い、200mLの当該培地に、培養開始時の藻類細胞が7000細胞/mLになるように、それぞれ播種した。これらを20℃に設定された人工気象器(日本医化器械製作所製、LPH-241)に入れ、14日間静置培養して前培養フラスコとした。前培養終了時におけるクラミドモナス及びミクロシスティスの細胞密度は、それぞれ、1.2×106細胞/mL及び1.7×106細胞/mLであった。
【0062】
【0063】
次に、1L細胞培養フラスコ4本に、それぞれBN培地250mLを用意した。前培養液を、表2に記載した、各所定の藻類濃度になるように添加し、これらを人工気象器に入れ、以下の条件にて培養した。
<培養条件>
温度:20℃
光量:LED、5000Lx
通気量:0.8L/分
【0064】
所定経過時間ごとに、培養液を少量採取し、紫外可視光分光光度計(島津製作所社製、BioSpec-Mini)を用いて波長680nmにおける吸光度を測定した。この結果から、各藻類についてあらかじめ用意した細胞密度-吸光度の検量線(複数の藻類については、細胞数が等量の標準液を用いて作成した)から細胞密度を算出した。所定経過時間ごとの細胞密度を表2及び
図1に、培養開始時を基準としたときの細胞数の割合及び細胞増加率を表3に、それぞれ示す。
【0065】
【0066】
【0067】
比較例1(クラミドモナスを単独で培養した場合)及び比較例2(ミクロシスティスを単独で培養した場合)について、表3に示すように、培養開始時を基準とした6時間経過時のクラミドモナスの細胞増加率が、培養開始時を基準とした6時間経過時のミクロシスティスの細胞増加率より20%以上高かった((1)の条件)。また、
図1及び表3に示すように、ミクロシスティスの細胞数が培養開始時を基準として150%となる経過時間(12~24時間の間)における、クラミドモナスの細胞数が培養開始時を基準として200%以上であった((2)の条件)。さらに、
図1に示すように、培養開始初期ではクラミドモナスの細胞数がミクロシスティスの細胞数よりも多く、かつ所定経過時間(約55時間)以後ではクラミドモナスの細胞数がミクロシスティスの細胞数よりも少なかった((3)の条件)。加えて、表2に示すように、クラミドモナスにおける静止期(細胞増殖がほとんど停止した、およそ48時間経過時)における細胞数が、ミクロシスティスにおける静止期(細胞増殖がほとんど停止した、およそ120時間経過時)の細胞数よりも少ないことが分かった((4)の条件)。
【0068】
また、実施例1及び実施例2について、表3に示すように、複数の藻類を複合培養することで、それぞれの藻類を単独で培養した場合(比較例1及び比較例2)に比べて、最終的な細胞増加率が高いことが分かった。また、実施例2について、表2に示すように、複数種類の藻類を複合培養することで、それぞれの藻類を単独で培養した場合(比較例1及び比較例2)に比べて、最終的に多くの藻類細胞を生産できることが分かった。
【0069】
2.低栄養培地を用いた培養
1.と同様の条件で前培養を行った。BN培地に含まれる(NH2)2COを110mg/Lとした低栄養培地、及びカルキ抜き水道水を、1L細胞培養フラスコにそれぞれ用意して、前培養液を、所定の藻類濃度になるように添加し、これらを1.と同様の条件にて培養した。
【0070】
所定経過時間ごとに、培養液を少量採取し、紫外可視光分光光度計を用いて波長680nmにおける吸光度を測定した。この結果から、細胞密度を算出した。所定経過時間ごとの細胞密度を表4、
図2(低栄養)及び
図3(カルキ抜き水道水)に、培養開始時を基準としたときの細胞数の割合及び細胞増加率を表5に、それぞれ示す。
【0071】
【0072】
【0073】
比較例3及び比較例4、並びに比較例5及び比較例6において、表4、表5、
図2及び
図3に示すように、上記(1)~(4)の条件を満たすことが分かった。また、低栄養培地及びカルキ抜き水道水を用いた場合でも、複数種類の藻類を複合培養することで、それぞれの藻類を単独で培養した場合に比べて、藻類を効率的に培養(生産)できることが分かった。
【0074】
3.環境変動による影響
1.と同様の条件で前培養を行った。1.と同様に、前培養液を、所定の藻類濃度になるように添加した。培養開始時から6時間経過時まで、LEDをオフ、かつ通気をせずに培養した以外は、1.と同様の条件にて培養した。
【0075】
所定経過時間ごとに、培養液を少量採取し、紫外可視光分光光度計を用いて波長680nmにおける吸光度を測定した。この結果から、細胞密度を算出した。所定経過時間ごとの細胞密度を表6及び
図4に示す。
【0076】
【0077】
表6及び
図4に示すように、複数種類の藻類を複合培養することで、それぞれの藻類を単独で培養した場合に比べて、培養環境の変化があった場合にも、藻類の細胞数が速やかに回復して、藻類を効率的に培養(生産)できることが分かった。